説明

電気浸透脱水装置

【課題】コンベヤベルトの上面側の被処理物に対し電極板を上面から押し当てて電気浸透脱水処理するようにした電気浸透脱水装置において、コンベヤベルトの幅方向に被処理物が不均等に供給された場合でも、電極板を被処理物の上面の全体に密着させ、効率良く電気浸透脱水処理することができる電気浸透脱水装置を提供する。
【解決手段】コンベヤベルト1の搬送方向に陽極ユニット21〜25が配列されており、陽極ユニット21〜25の盤体32の下面に陽極板33が固着されている。盤体32はスプリング35に吊支され、エアシリンダ34によって押し下げられる。エアシリンダ34のピストンロッド34bの下端は盤体32の下面に当接しており、盤体32は傾動可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水の生物処理汚泥、上水汚泥などの含水物を脱水するための電気浸透脱水装置に関するものであり、特にコンベヤベルト上の被処理含水物を上方の電極板によって押圧するように構成した電気浸透脱水装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
排水の生物処理過程で発生する汚泥などの含水物を脱水処理する方法として、電気浸透脱水が周知である(特許文献1〜3)。この電気浸透脱水処理では、被処理含水物に通電して、マイナスに荷電した汚泥を陽極側に引き寄せ、一方、汚泥の間隙水を陰極側に移動させて分離させながら加圧力をかけて脱水するため、機械的脱水処理の場合に比べて、脱水効率が高く、汚泥の含水率を更に低減することが可能である。
【0003】
特許文献1の電気浸透脱水装置は、無端回動する下側濾布ベルト(陰極)と無端回動する上側濾布ベルトとの間で汚泥を挟み、これらの濾布ベルトを電極で上下から挟圧し、電気浸透脱水処理するように構成したものである。
【0004】
特許文献2の電気浸透脱水装置は、上側プレスベルトとは別個に陽極としての電極ドラムを配置し、この電極ドラムによって上下のベルトを挟圧するように構成している。
【0005】
特許文献3の電気浸透脱水装置は、無端回動するコンベヤベルトの上に汚泥を供給し、コンベヤベルトの下側の陰極板とコンベヤベルトの上方の陽極ユニットとの間で含水物を挟圧すると共に電流を通電して電気浸透脱水するように構成したものである。陽極ユニットはコンベヤ移動方向に複数個配設されている。各陽極ユニットの底面部には水平な陽極板が設置されている。この陽極板はエアシリンダによって押し下げ可能とされると共に、スプリングによって引き上げ可能とされている。コンベヤは、陽極板を上昇させた状態で、1スパン(陽極ユニットの設置間隔)分だけ含水物を移動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平4−13003
【特許文献2】特開平6−154797
【特許文献3】WO2007/143840
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献3の電気浸透脱水装置では、そのFIG.5の通り、陽極板が絶縁板の下面に固着され、この絶縁板が上面板(金属板)に対しスプリングによって吊支されている。この上面板と絶縁板との間にエアシリンダが配置されており、エアシリンダを伸長させることにより絶縁板が下方に押し下げられる。
【0008】
この特許文献3では、陽極板は水平状態を保ったまま上下動するよう構成されている。そのため、後述の第4図(a)のようにコンベヤベルトの幅方向に汚泥Sが不均等に供給された場合、陽極板の一部が汚泥Sに接触しない事態が生じうる。陽極板が接触しない部分では、汚泥の電気浸透脱水処理効率が低いものとなる。
【0009】
本発明は、コンベヤベルトの上面側の被処理物に対し電極板を上面から押し当てて電気浸透脱水処理するようにした電気浸透脱水装置において、コンベヤベルトの幅方向に被処理物が不均等に供給された場合でも、電極板を被処理物の上面の全体に密着させ、効率良く電気浸透脱水処理することができる電気浸透脱水装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)の電気浸透脱水装置は、対向配置された電極と、対向する電極間に通電する通電手段と、対向する電極同士の間に配置された濾材と、該濾材同士の間又は濾材と一方の電極との間で被処理含水物を挟圧するための挟圧手段とを有する電気浸透脱水装置において、該濾材の少なくとも一部は上向きに配置され、少なくとも一部の電極は、この上向きの濾材上の被処理含水物を上方から押圧するように配置され、且つ傾動可能となっていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2の電気浸透脱水装置は、請求項1において、前記濾材は濾布よりなるコンベヤベルトであり、無端回動可能に配置されており、該コンベヤベルトの下側に陰極が配置され、該コンベヤベルトの上方に陽極が配置されており、該陽極は、該コンベヤベルトの長手方向に複数個配列されており、前記挟圧手段は、その下端で該陽極を下方に押圧するものであり、該挟圧手段の下端は、該陽極の上面に対し当接するか又は傾動可能に連結されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電気浸透脱水装置では、コンベヤベルト上の被処理物に対し上方から重なる電極板が傾動可能となっている。そのため、コンベヤベルトの幅方向に被処理物が不均等に供給された場合でも、電極板が傾動し、電極板が汚泥の上面の全体に密着し、万遍なく被処理物を電気浸透脱水処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態に係る電気浸透脱水装置の概略的な縦断面図である。
【図2】実施の形態に係る電気浸透脱水装置の概略的な縦断面図である。
【図3】図1のIII−III線断面の詳細図である。
【図4】陽極ユニットによる汚泥のプレス状況を示す断面図である。
【図5】(a)図は別の実施の形態に係る電気浸透脱水装置のエアシリンダ配置部分の構成図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。第1図及び第2図は実施の形態に係る電気浸透脱水装置の長手方向(ベルト移動方向)に沿う縦断面図であり、第3図は第1図(a)のIII−III線に沿う断面図、第4図は陽極の傾動状況を示す模式的な断面図(長手方向と直交方向の断面図)である。なお、第1図は脱水工程の様子を示しており、第2図は、この電気浸透脱水装置のベルト送り工程の様子を示している。
【0015】
濾布よりなるコンベヤベルト1がローラ2,3間にエンドレスに架け渡されており、無端回動可能とされている。
【0016】
このコンベヤベルト1の上面側が搬送側となっており、下面側が戻り側となっている。コンベヤベルト1の搬送側の下面に板状の陰極4が配置されている。この陰極4は金属などの導電材よりなる板状部材であり、上下方向に貫通する多数の孔を有している。陰極4はローラ2の直近からローラ3の直近まで延在している。
【0017】
陰極4は、第3図の通り、マシンフレーム30の下側レールアングル38から突設されたブラケット39に支持固定されている。コンベヤベルト1の搬送側は、陰極4の上面を摺動する。下側レールアングル38はコンベヤベルト1の搬送方向に延設されている。
【0018】
このコンベヤベルト1の上面(搬送部)の搬送方向上流部に被処理含水物(この実施の形態では汚泥S)を供給するようにホッパー5が設けられている。
【0019】
陰極4の下側に、陰極4の前記孔を通って落下してくる濾液を受けとめるトレー6が設けられている。
【0020】
トレー6で集められた濾液は、配管7を介して水処理設備へ送られるが、一部の濾液をホッパー5内の汚泥に添加してもよい。
【0021】
コンベヤベルト1の搬送部の上方に陽極ユニット21,22,23,24,25が設置されている。なお、第3図の通り、コンベヤベルト1の搬送部の両サイドに側壁板20が立設されており、コンベヤベルト1上の汚泥が側方へはみ出ないように構成されている。陽極ユニット21〜25は側壁板20,20間に配置されている。側壁板20はブラケット39に支持固定されている。
【0022】
各陽極ユニット21〜25の上側には梁31が水平に設置されている。梁31はマシンフレーム30の一部を構成しており、コンベヤベルト1の幅方向に延在している。
【0023】
この実施の形態では陽極ユニット21〜25がコンベヤベルト搬送方向に5個配置されているが、これに限定されない。陽極ユニットは、コンベヤベルト搬送方向に通常は2〜5個程度配置されていればよい。
【0024】
各陽極ユニット21〜25は、第3図に示す通り、電気絶縁性の盤体32及び該盤体32の下面に固着された陽極板33と、梁31と盤体32との間に介在されたエアシリンダ34及び引張コイルバネ35等を有している。エアシリンダ34のシリンダ部34aの上端が梁31に固着され、ピストンロッド34bの下端が盤体32の上面に当接している。ピストンロッド34bの下端は盤体32の上面に単に当接しているだけであり、盤体32に対し連結されていない。図3においては、ピストンロッド34bの下端は平面となっているが、半球状とすれば、より盤体32および陽極板33が傾動しやすくなり、好ましい。なお、エアシリンダ34の数は1個でも複数個でもよい。
【0025】
エアシリンダ34内にエアを供給すると、ピストンロッド34bが下方に移動し、盤体32及び陽極板33が押されて下方に移動する。エアシリンダ34からエアを排出すると、コイルバネ35の引張力によって盤体32及び陽極板33が引き上げられて、上昇する。
【0026】
陽極板33の周縁はそれぞれ盤体32の周縁よりも0.5〜5mm特に1〜3mm程度盤体32の中央側に後退していることが好ましい。これは、盤体32が傾動しても陽極板33が側壁板20や、隣接する陽極ユニットの陽極板33に接触しないようにし、迷走電流や漏電を防止するためである。なお、このように陽極板33の端縁を後退させることにより、陽極板33と側壁板20との間及び陽極33同士の間の隙間から水蒸気が放散され易くなる。
【0027】
各陽極ユニット21〜25の陽極板33に対しては、盤体32に設けられた端子(図示略)を介して直流電源装置(図示略)から直流電流が通電される。
【0028】
このように構成された電気浸透脱水装置によって汚泥の脱水処理を行うには、ホッパー5内に供給された汚泥Sをコンベヤベルト1上に送り出し、各陽極ユニット21〜25に直流電流を通電すると共に、各陽極ユニット21〜25のエアシリンダにエアを供給し、この汚泥を陽極ユニット21〜25の陽極板33で上方から押圧する。
【0029】
電圧は、陽極ユニット21〜25が正、陰極板4が負となるように印加される。各陽極ユニット21〜25に対し同一の電圧を印加するのが装置の運転管理を容易とする点からして好適であるが、搬送方向下流側ほど電圧を高くしたり、逆に低くしたりしてもよい。また、各陽極ユニットの電流値が同一となるように通電制御してもよい。
【0030】
各陽極ユニット21〜25のエアシリンダに対し同一の圧力のエアを供給してもよく、下流側の陽極ユニットほど供給エア圧を大きく又は小さくするようにしてもよい。
【0031】
このように陽極ユニット21〜25と陰極板4との間に通電すると共に陽極ユニット21〜25の陽極板33で汚泥をプレスすることにより、汚泥が電気浸透脱水される。そして、脱水濾液がコンベヤベルト1を透過し、陰極板4の孔を通過してトレー6上に落下する。なお、この濾液の一部をホッパー5内に供給するようにした場合には、被処理汚泥の電気伝導率が高くなり、陽極ユニット21〜25と陰極板4との間の汚泥の電気伝導率が高くなり、脱水性が向上する。これにより、得られる脱水汚泥の含水率が低いものとなる。
【0032】
第1図のように各陽極ユニット21〜25に通電すると共に、陽極ユニット21〜25によって汚泥をプレスするときには、コンベヤベルト1は停止している。陽極ユニット21〜25によって所定時間プレス及び通電を行った後、各陽極ユニット21〜25のエアシリンダからエアを排出し、スプリング35の引張力によって陽極板33を上昇させる。そして、コンベヤベルト1を陽極ユニット21〜25の配列ピッチの1ピッチ分だけ移動させる。これにより、陽極ユニット25の下側に位置していた汚泥は、脱水汚泥として送り出され、各陽極ユニット21〜24の下側に位置していた汚泥はそれぞれ1段だけ下流側の陽極ユニット22〜25の下側に移動する。また、ホッパー5から未脱水処理汚泥が陽極ユニット21の下側に導入される。次いで、各陽極ユニット21〜25の陽極板33を押し下げると共に各陽極ユニット21〜25と陰極4との間に通電し、汚泥の電気浸透脱水処理を行う。以下、この工程を繰り返すことにより、汚泥を電気浸透脱水処理する。
【0033】
この実施の形態では、陽極板33が固着された盤体32がスプリング35によって吊支され、ピストンロッド34bの下端が盤体32を単に上方から押圧する構成となっている。このため、盤体32及び陽極板33は傾動可能である。この結果、コンベヤベルト1上に汚泥が幅方向に不均一に供給された場合、例えば、第4図(a)のように左側に多量に汚泥が供給され、右側にはそれよりも汚泥Sが少量供給された場合、第4図(b)のように盤体32が矢印θ方向に傾動し、陽極板33が汚泥Sの上面の全体に密着し、汚泥Sの全体が万遍なく電気浸透脱水処理される。
【0034】
なお、従来のように陽極板が傾動不能である場合には、第4図(a)の右側において陽極板33が汚泥Sに接触しないことになり、コンベヤベルト1の右側部分において汚泥Sの電気浸透脱水効率が低くなる。
【0035】
上記実施の形態では、ピストンロッド34bの下端を盤体32に対し非連結とし、ピストンロッド34bで盤体32を下方に押し下げる構成としているが、第5図(a),(b)のようにピストンロッド34bの下端を盤体32に対し盤体32が傾動可能となるように連結してもよい。
【0036】
第5図では、盤体32の上面に1対のブラケット41が固設され、ピストンロッド34bの下端が連結軸棒42によってブラケット41に回動可能に連結されている。エアシリンダ34のシリンダ部34aは、梁31の下面に固設された1対のブラケット45に対し連結軸棒46によって回動可能に連結されている。各連結軸棒42,46の軸心線方向はコンベヤベルト1の長手方向である。
【0037】
このように、エアシリンダ34は連結軸棒46を支点として揺動可能であり、盤体32はピストンロッド34bに対し回動可能である。そのため、盤体32は前記第4図(a)のように汚泥Sの供給量がコンベヤベルト1の幅方向で不均等になったときには、第4図(b)のように傾動可能である。従って、この実施の形態によっても陽極板33が汚泥Sの上面の全体に密着し、汚泥Sを効率よく電気浸透脱水処理することができる。
【0038】
第5図では、連結軸棒の軸心線方向をコンベヤベルト長手方向としているが、軸心線方向がコンベヤベルト幅方向の連結軸棒をさらに追加し、盤体32が全方向に傾動しうるよう構成してもよい。軸棒による連結の代わりにボールジョイント等の自在継手を用いてもよい。
【0039】
なお、第5図の場合、エアシリンダを往復動型とし、盤体32をエアシリンダの引上力によって上昇させるようにしてもよい。このようにすれば、スプリング35を省略することが可能となる。ただし、この場合でもスプリング35を設置し、盤体32の上昇をスプリング35で助勢するようにしてもよい。
【0040】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記以外の態様とされてもよい。例えば、エアシリンダ以外の昇降装置を用いてもよい。また、エアシリンダ等の昇降装置と盤体との連結機構は図示のものに限定されない。陰極板は陽極ユニット毎に分割されていてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 コンベヤベルト
2,3 ローラ
4 陰極
5 ホッパー
6 トレー
8 貯槽
9 ポンプ
20 側壁板
21〜25 陽極ユニット
32 盤体
33 陽極板
34 エアシリンダ
35 引張コイルバネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された電極と、
対向する電極間に通電する通電手段と、
対向する電極同士の間に配置された濾材と、
該濾材同士の間又は濾材と一方の電極との間で被処理含水物を挟圧するための挟圧手段と
を有する電気浸透脱水装置において、
該濾材の少なくとも一部は上向きに配置され、
少なくとも一部の電極は、この上向きの濾材上の被処理含水物を上方から押圧するように配置され、且つ傾動可能となっていることを特徴とする電気浸透脱水装置。
【請求項2】
請求項1において、前記濾材は濾布よりなるコンベヤベルトであり、無端回動可能に配置されており、
該コンベヤベルトの下側に陰極が配置され、該コンベヤベルトの上方に陽極が配置されており、
該陽極は、該コンベヤベルトの長手方向に複数個配列されており、
前記挟圧手段は、その下端で該陽極を下方に押圧するものであり、
該挟圧手段の下端は、該陽極の上面に対し当接するか又は傾動可能に連結されていることを特徴とする電気浸透脱水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−72863(P2011−72863A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224645(P2009−224645)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】