説明

電気磁気効果を有するセラミックス材料

【課題】電気磁気効果は電気的性質と磁気的性質が互いに関係しながら同時に発現する効果であるので、メモリーやセンサーなどの電子デバイスへの応用が期待される。しかし、電気磁気効果を有する材料は少なく、また、アモルファスや薄膜でしか実現されていなかった。実際の応用には簡単な製法で得られるセラミックス材料が望まれていた。
【解決手段】一般式がRFe0.56Ti0.44で表わされるセラミックス材料においてRをLu若しくはYbにすることで、室温でも電気磁気効果を得た。本発明の材料は通常の固相反応法を用いた粉末で得ることができるので、製造や取扱が容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気磁気効果、つまり、外部から印加された磁場により電気分極が誘起されるセラミックス材料に関する。
【背景技術】
【0002】
電気磁気効果は、外部から印加された磁場により電気分極が誘起される、また逆に外部からの電場により磁場が誘起される現象をいう。電気的性質と磁気的性質を交互に制御できることから、各種メモリーやセンサー等の電子デバイスへの応用が注目されている。このような特性を有する物質はマルチフェロイック物質とも呼ばれている。
【0003】
しかしながら、このような磁気誘電効果を示す物質はほとんど存在せず、存在しても室温より低い温度においてのみである。現在のところ、Cr単結晶の307Kが電気磁気効果を示す物質の最高温度となっている(非特許文献1、2参照)。さらに、単結晶であることから、製造プロセスが複雑であり実用化が困難である。
【0004】
一方、最近xBi−yFe−zC−wD−aO系酸化物のアモルファスにおいて250K〜700Kにおいて電気磁気効果を有することが報告されている(特許文献1)。しかしながら、アモルファスであることから結晶として磁性および強誘電性を有しておらず、直接的に誘電分極と磁性が交差したものではない。そこで、高性能の電子デバイスを簡単に作製するためには、本質的に磁性と誘電性が交差したセラミックス材料が求められている。
【0005】
六方晶マンガン酸化物YMnOは約900Kで強誘電相転移をするとともに、約70Kで反強磁性相転移を起こすことから、低温において強誘電相と反強磁性相が共存するマルチフェロイック物質として知られている(非特許文献3)。また、YMnOのMnの一部をTiで置換したYMn1−xTiにおいてx=0.175近傍で磁気誘電効果が増大することが報告されており、本物質系は磁性と誘電性という異なる2つの秩序の相関現象の存在が確認されている(非特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平04−059621号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Experimental and Theoretical Physics 11 (1960) 798
【非特許文献2】Physical Review Letter 6 (1961) 607
【非特許文献3】T. Katsufuji et al., Phys. Rev. B. 64, 104419 (2001)
【非特許文献4】Y. Aikawa et al., Phys. Rev. B. 71, 184418 (2005)
【非特許文献5】花村榮一 他 固体物理. 38 (5), 345 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マンガン酸化物と同様に、六方晶構造を持つRFeO(R:希土類元素)は、マルチ
フェロイック物質として期待されているが、薄膜試料のみにおいて合成可能であり、バルク材においては未だ合成されていない。そこで本発明は電気磁気効果を有するセラミックス材料として、RFeO(R:希土類元素)のバルク材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
RFeO(R:希土類元素)をバルク材料として得るのは容易ではない。そこで本発明では、六方晶鉄酸化物LuFeOのFeサイトをTiで置換することで、LuFe1−xTixO多結晶の合成を従来の固相反応法により合成することで、マルチフェロイック物質であるバルク材料を得ることができた。
【発明の効果】
【0010】
本発明で得ることができたマルチフェロイック材料は、バルク状のセラミックス材料であるので、各種メモリー、センサーなどの電子デバイスへ応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】室温におけるLuFe0.56Ti0.44の電子回折パターン(a)乃至(c)と逆格子(d)を示す図である。
【図2】室温におけるLuFe0.56Ti0.44の粉末X線回折プロファイルを示す図である。
【図3】室温におけるLuFe0.56Ti0.44の暗視野象を示す写真である。
【図4】(a)LuFe0.56Ti0.44および(b)YbFe0.56Ti0.44の誘電率の温度変化を示すグラフである。
【図5】(a)LuFe0.56Ti0.44および(b)YbFe0.56Ti0.44の磁化の温度変化を示すグラフである。
【図6】YbFe0.56Ti0.44における誘電率の(a)実部および(b)虚部の磁場による変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は以下の実施例によるものである。
【実施例】
【0013】
本発明で得ることのできたセラミックス材料は、一般式がRFe0.56Ti0.44で表わされるセラミックス材料である。ここでRは希土類元素であり、特にLuとYbである。製造方法は極めて簡単であり、RとFe、Tiの酸化物を出発材料として、通常の固層反応法によって作製することができる。
【0014】
より具体的には、Lu(若しくはYb)、Fe、TiOを出発材料として、それぞれの材料を化学量論比で秤量および混合を行い、空気中1300℃で48時間仮焼成を行った。その後、空気中1500℃で24時間の本焼成を行った。
【0015】
得られた試料の結晶構造評価は、電子回折法および粉末X線回折法により行った。さらに、結晶構造パラメータの精密化を行うために、粉末X線回折プロファイルを用いてリートベルト解析を行った。磁気・誘電特性は、誘電率の温度変化測定、磁化の温度変化測定、M−H曲線測定により調べた。
【0016】
本研究において、LuFe0.56Ti0.44単相試料の合成に成功した。そこで、LuFe0.56Ti0.44における結晶構造について電子回折法および粉末X線回折法を用いて調べた。
【0017】
図1(a)−(c)には、本発明のセラミックス材料の室温での電子回折パターンを示す。電子線の入射方向はそれぞれ、[001]、[100]、[−101]方向である。
なお、標記制限の関係でミラー指数がマイナスの場合を「−1」と標記する。これは通常「1」の上に横棒を表示したものと同義であるとする。ここで、電子回折パターン中の回折スポットの指数付けは、YMnOの強誘電相の六方晶構造(空間群P6cm)に基づいて行った。
【0018】
図1に示すように、LuFe0.56Ti0.44の電子回折パターンは、六方晶構造(空間群P6cm)で指数付けすることができた。また、これらの結果をもとにして得られた室温におけるLuFe0.56Ti0.44の逆格子を図1(d)に示す。室温での消滅則を調べた結果、0−hh:l=2n、00l:l=2n、hkl:l=2nであることがわかった。なお、「0−hh」の「−h」は「マイナスh」の意味である。
【0019】
図2に、室温でのLuFe0.56Ti0.44の粉末X線回折プロファイルを示す。粉末X線回折プロファイルについても空間群P6cmに基づいて指数付けを行った結果、すべての回折ピークを説明することできた。これらの結果から、LuFe0.56Ti0.44の室温での結晶構造は空間群P6cmで特徴づけられることがわかった。
【0020】
また、空間群P6cmが極性を持つ点群6mmに属することから、本物質が室温で自発分極を持つ強誘電体であると推定される。そこで、本物質における極性を持った分域構造について明らかにするために、(012)反射の回折スポットを用いた暗視野像の観察を行った。ここで、(012)反射は極性を持たない常誘電相の空間群であるP6/mncでは存在しないので、暗視野像が観測できれば極性を有することがわかる。
【0021】
図3には、(012)反射の回折スポットを用いた暗視野像を示す。暗視野像では、約10nm〜20nmの大きさからなる明暗のコントラストが観察された。このことから、極性を持つ分域が約10nm〜20nmの大きさで存在することが示唆された。
【0022】
図4には、LuFe0.56Ti0.44(図4(a))とYbFe0.56Ti0.44(図4(b))の温度と誘電率の関係を示す。横軸は温度(K)で、縦軸は誘電率ε´である。Lu系(図4(a))では約580Kに、Yb系(図4(b))では約550Kにブロードなピークが見られ、強誘電性の存在が確認された。
【0023】
一方、図5には、同じくLuFe0.56Ti0.44(図5(a))とYbFe0.56Ti0.44(図5(b))の温度と磁化の関係を示す。Lu系(図5(a))では約13Kに、Yb系(図4(b))では約10Kで磁気転移が生じ、室温(約300K)においても磁化が存在していることが確認された。
【0024】
さらに、図6には、YbFe0.56Ti0.44について、印加磁界に対する誘電率の関係を示す。図6(a)は印加磁界と誘電率の実部(e’)の関係を示し、図6(b)は印加磁界と誘電率の虚部(e’’)の関係を示す。誘電率の実部および虚部ともに印加磁界によって変化しており、YbFe0.56Ti0.44は磁場によって電気分極が誘起される電気磁気効果が存在することを確認した。また、Lu系においても同様に電気磁気効果を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は各種メモリーやセンサーなどの電子デバイスに有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式がRFe0.56Ti0.44(RはLu若しくはYb)で表わされるセラミックス材料。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−275127(P2010−275127A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126671(P2009−126671)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】