説明

電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物及び高熱伝導性成形体

【課題】電気絶縁性でかつ熱伝導性に優れた無機物含有熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂、単体での熱伝導率が1.5W/m・K以上でかつ体積固有抵抗が0.1Ω・cm以上の高熱伝導性無機化合物、軟化点温度が350℃以下の電気絶縁性低融点無機物、を少なくとも含有させることにより、高熱伝導性無機化合物の界面における熱抵抗が低減され、電気絶縁性を維持したまま高熱伝導性の熱可塑性樹脂組成物、及び成形体が得られる。軟化点温度が350℃以下の電気絶縁性低融点無機物としては、特定組成を有する低融点ガラスが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高熱伝導性と良好な成形加工性とを併せ持つ電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物とその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂組成物をパソコンやディスプレーの筐体、携帯型電子機器の外装材、電子デバイス材料、自動車部品、バッテリー周辺部材、など種々の用途に使用する際、プラスチックは金属材料など無機物と比較して熱伝導性が低いため、発生する熱を逃がしづらいことが問題になることがある。このような課題を解決するため、高熱伝導性無機物を大量に熱可塑性樹脂中に配合することで高熱伝導性樹脂組成物を得ようとする試みが広くなされている。
【0003】
上記のように無機物を配合して高熱伝導性樹脂組成物を得る際には、通常はグラファイト、炭素繊維、金属粉末、低融点金属、等の導電性かつ高熱伝導性物質を添加する方法が用いられるが、このような方法では得られた樹脂組成物が導電性を示してしまうため、電子デバイス材料等の電気絶縁性が要求される用途では利用が制限される。
【0004】
熱伝導性無機フィラーと低融点金属とを併用することにより、低融点金属が熱伝導性無機フィラー同士をつなぐことで熱抵抗を低減させられる技術もある(例えば特許文献1参照)。しかしながら、このような方法では得られた組成物が導電性を示すため、利用範囲が制限されるという課題がある。
【特許文献1】WO2003/029352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記現状に鑑み、熱可塑性樹脂組成物に対して添加される無機化合物の添加量を少なく抑えても熱伝導性に優れた、絶縁性熱可塑性樹脂組成物とその成形体の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、熱可塑性樹脂に対して、軟化点温度が350℃以下の電気絶縁性低融点無機物(C)を添加することにより、フィラー(B)同士の接触面を電気絶縁性低融点無機物(C)が相互に連結させた結果、フィラー(B)同士の接触面における熱抵抗を低減する効果が得られ、熱可塑性樹脂組成物の熱伝導率を大幅に向上させることが可能であること、このような方法にて実現された高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物は電気絶縁性などの優れた特性を併せ持っていること、等を見出し本発明にいたった。
すなわち本発明は、熱可塑性樹脂(A)、単体での熱伝導率が1.5W/m・K以上でかつ体積固有抵抗が0.1Ω・cm以上の高熱伝導性無機化合物(B)、軟化点温度が350℃以下の電気絶縁性低融点無機物(C)、を少なくとも含有し、1.5W/m・K以上の熱伝導率を有することを特徴とする、電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物(請求項1)。
高熱伝導性無機化合物(B)が、金属酸化物微粒子、金属窒化物微粒子、絶縁性炭素微粒子、から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物(請求項2)。
高熱伝導性無機化合物(B)が、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、ダイヤモンド、から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1あるいは2いずれか1項に記載の電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物(請求項3)。
熱可塑性樹脂(A)の一部あるいは全部が、結晶性あるいは液晶性を有する樹脂であることを特徴とする、請求項1〜3いずれか1項に記載の電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物(請求項4)。
軟化点温度が350℃以下の電気絶縁性低融点無機物(C)が、モル比酸化物基準でP:22〜27%、SO:8〜18%、ZnO:25〜40%、Al:0〜2%、B:0〜10%、LiO+NaO+KO:25〜35%(ただし、LiO:5〜15%、NaO:8〜20%、KO:5〜10%)、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、SnO:0〜15%の組成を実質的に有する低融点ガラスであることを特徴とする、請求項1〜4いずれか1項に記載の電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物(請求項5)。
請求項1〜5いずれか1項に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物を、電気絶縁性低融点無機物(C)の軟化点温度以上の樹脂温度にて射出成形し作成された、電気絶縁性高熱伝導性成形体(請求項6)。である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法を用いることにより、熱伝導性と電気絶縁性とを兼ね備えた電気絶縁性高熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
【0008】
このようにして得られた複合材料は、樹脂フィルム、樹脂成形品、樹脂発泡体、塗料やコーティング剤、などさまざまな形態で、電子材料、磁性材料、触媒材料、構造体材料、光学材料、医療材料、自動車材料、建築材料、等の各種の用途に幅広く用いることが可能である。本発明で得られた高分子材料は、現在広く用いられている射出成形機や押出成形機等の一般的なプラスチック用成形機が使用可能であるため、複雑な形状を有する製品への成形も容易である。特に成形加工性、耐衝撃性、耐薬品性、熱伝導性、などの重要な諸特性のバランスに優れていることから、発熱源を内部に有するディスプレーやコンピューターなどの筐体用樹脂、携帯型電子機器用外装部材、などとして非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物で用いられる熱可塑性樹脂(A)としては特に限定されず、各種熱可塑性高分子化合物を用いることができる。熱可塑性樹脂(A)は合成樹脂であっても自然界に存在する樹脂であっても良い。
【0010】
熱可塑性樹脂(A)としては、ポリスチレンなどの芳香族ビニル系樹脂、ポリアクリロニトリルなどのシアン化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニルなどの塩素系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のポリメタアクリル酸エステル系樹脂やポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンや環状ポリオレフィン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及びこれらの誘導体樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂やポリアクリル酸系樹脂及びこれらの金属塩系樹脂、ポリ共役ジエン系樹脂、マレイン酸やフマル酸及びこれらの誘導体を重合して得られるポリマー、マレイミド系化合物を重合して得られるポリマー、非晶性半芳香族ポリエステルや非晶性全芳香族ポリエステルなどの非晶性ポリエステル系樹脂、結晶性半芳香族ポリエステルや結晶性全芳香族ポリエステルなどの結晶性ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリアミドや脂肪族−芳香族ポリアミドや全芳香族ポリアミドなどのポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアルキレンオキシド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、フェノキシ系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、液晶ポリマー、及びこれら例示されたポリマーのランダム・ブロック・グラフト共重合体、などが挙げられる。
【0011】
これら熱可塑性樹脂(A)は、それぞれ単独で、あるいは2種以上の複数を組み合わせて用いることができる。2種以上の樹脂を組み合わせて用いる場合には、必要に応じて相溶化剤などを添加して用いることもできる。これら熱可塑性樹脂(A)は、目的に応じて適宜使い分ければよい。
【0012】
これら熱可塑性樹脂(A)の中でも、樹脂の一部あるいは全部が結晶性あるいは液晶性を有する熱可塑性樹脂(A)であることが、得られた樹脂組成物の熱伝導率が高くなる傾向がある点や、フィラー(B)を樹脂中に含有させることが容易である点から好ましい。これら結晶性あるいは液晶性を有する熱可塑性樹脂は、樹脂全体が結晶性であっても、ブロックあるいはグラフト共重合体樹脂の分子中における特定ブロックのみが結晶性や液晶性であるなど樹脂の一部のみが結晶性あるいは液晶性であっても良い。
【0013】
樹脂の結晶化度には特に制限はない。また熱可塑性樹脂(A)として、非晶性樹脂と結晶性あるいは液晶性樹脂とのポリマーアロイを用いることもできる。樹脂の結晶化度には特に制限はない。
【0014】
樹脂の一部あるいは全部が結晶性あるいは液晶性を有する熱可塑性樹脂(A)の中には、結晶化させることが可能であっても、単独で用いたり特性の成形加工条件で成形したりすることにより場合によっては非晶性を示す樹脂もある。このような樹脂を用いる場合には、フィラー(B)の添加量や添加方法を調整したり、延伸処理や後結晶化処理をするなど成形加工方法を工夫したりすることにより、樹脂の一部あるいは全体を結晶化させることができる場合もある。
【0015】
結晶性あるいは液晶性を有する熱可塑性樹脂の中でも好ましい樹脂として、結晶性ポリエステル系樹脂、結晶性ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、液晶ポリマー、結晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリオレフィン系ブロック共重合体、等を例示することができるが、これらに限らず各種の結晶性樹脂や液晶性樹脂を用いることができる。
【0016】
結晶性ポリエステルの具体例としてはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレートおよびポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレートなどのほか、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレートおよびポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレートなどの結晶性共重合ポリエステル等が挙げられる。
【0017】
これら結晶性ポリエステルの中でも、成形加工性や機械的特性などの観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、等を用いることが好ましい。
【0018】
結晶性ポリアミド系樹脂の具体例としては、例えば環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物、ジカルボン酸とジアミンとの重縮合物などが挙げられ、具体的にはナイロン6、ナイロン4・6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン6・12、ナイロン11、ナイロン12などの脂肪族ポリアミド、ポリ(メタキシレンアジパミド)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド、ポリ(テトラメチレンイソフタルアミド)、ポリ(メチルペンタメチレンテレフタルアミド)などの脂肪族−芳香族ポリアミド、およびこれらの共重合体が挙げられ、共重合体として例えばナイロン6/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン66/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ナイロン6・6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン12/ポリ(ヘキサメチレンテレフタラミド)、ポリ(メチルペンタメチレンテレフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)などを挙げることができる。なお、共重合の形態としてはランダム、ブロックいずれでもよいが、成形加工性の点からランダム共重合体であることが好ましい。
【0019】
結晶性ポリアミド系樹脂の中でも、成形加工性や機械的特性などの観点から、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン12、ナイロン4・6、ポリノナンメチレンテレフタルアミド、ナイロン6/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン66/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ナイロン6・6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン12/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ナイロン6・6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(メチルペンタメチレンテレフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)などのポリアミド、等を用いることが好ましい。
【0020】
液晶ポリマーとは異方性溶融相を形成し得る樹脂であり、エステル結合を有するものが好ましい。具体的には芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位、アルキレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル、あるいは、上記構造単位と芳香族イミノカルボニル単位、芳香族ジイミノ単位、芳香族イミノオキシ単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルアミドなどが挙げられる。
【0021】
具体的には、p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物および/または脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸およびイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボンから生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステルなど、また液晶性ポリエステルアミドとしては、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位、アルキレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位以外にさらにp−アミノフェノールから生成したp−イミノフェノキシ単位を含有した異方性溶融相を形成するポリエステルアミド等があげられる。
【0022】
上記液晶ポリマーのうち、好ましい構造の具体例としては、−O−Ph−CO−構造単位(I)、−O−R−O−構造単位(II)、−O−CHCH−O−構造単位(III)および−CO−R−CO−構造単位(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルが挙げられる。
(ただし式中のR
【0023】
【化1】

【0024】
から選ばれた1種以上の基を示し、R
【0025】
【化2】

【0026】
から選ばれた1種以上の基を示す。ただし式中Xは水素原子または塩素原子を示す。)。
【0027】
上記構造単位(I)はp−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位であり、構造単位(II)は4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルから選ばれた一種以上の芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位を、構造単位(III)はエチレングリコールから生成した構造単位を、構造単位(IV)はテレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸および4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸から選ばれた一種以上の芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位を各々示す。
【0028】
これらのなかでも、p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位、テレフタル酸から生成した構造単位の液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸から生成した構造単位の液晶性ポリエステルを特に好ましく用いることができる。
【0029】
結晶性ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、これら樹脂と各種オレフィン系化合物との共重合体、等が挙げられる。また結晶性ポリオレフィン系樹脂として、結晶性樹脂と非晶性樹脂とのブロックあるいはグラフトコポリマーを用いることもできる。このような樹脂のうち、ブロックコポリマーの具体例としては、SEPS樹脂、SIS樹脂、SEBS樹脂、SIBS樹脂、等が挙げられる。またグラフトコポリマーの具体例としては、特開2003−147032号公報記載の樹脂等が例示される。
【0030】
本発明の電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物に配合する、単体での熱伝導率が1.5W/m・K以上でかつ体積固有抵抗が0.1Ω・cm以上の高熱伝導性無機化合物(B)は、単体での熱伝導率が1.5W/m・K以上のものを用いることができる。1.5W/m・K未満では、組成物の熱伝導率を向上させる効果に劣るため好ましくない。単体での熱伝導率は、好ましくは4W/m・K以上、さらに好ましくは9W/m・K以上、最も好ましくは20W/m・K以上、特に好ましくは30W/m・K以上のものが用いられる。
【0031】
高熱伝導性無機化合物(B)単体での熱伝導率の上限は特に制限されず、高ければ高いほど好ましいが、一般的には3000W/m・K以下、さらには2500W/m・K以下、のものが好ましく用いられる。高熱伝導性無機化合物(B)単体での熱伝導率は、室温にてJIS R1611−1997に準じレーザーフラッシュ法測定装置にて熱拡散率と比熱容量とを測定して熱伝導率=熱拡散率×比熱×密度の式により算出することができる。
【0032】
また高熱伝導性無機化合物(B)としては体積固有抵抗が0.1Ω・cm以上の化合物である。体積固有抵抗は物質に固有の値であるが、例えばJIS K7194−1994に準じて測定することができる。
【0033】
高熱伝導性無機化合物(B)の体積固有抵抗は0.1Ω・cm以上であることが必要であるが、好ましくは体積固有抵抗が1Ω・cm以上、より好ましくは10Ω・cm以上、さらに好ましくは10Ω・cm以上、特に好ましくは10Ω・cm以上であることが好ましい。中でも1010Ω・cm以上、さらには1013Ω・cm以上のものを用いるのが好ましい。体積抵抗率の上限には特に制限は無いが、一般的には1018Ω・cm以下である。
【0034】
高熱伝導性無機化合物(B)としては具体的には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化ベリリウム、酸化銅、亜酸化銅、等の金属酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、等の金属窒化物、炭化ケイ素等の金属炭化物、ダイヤモンド、等の絶縁性炭素材料、を例示することができる。これら無機化合物は天然物であってもよいし、合成されたものであってもよい。天然物の場合、産地等には特に限定はなく、適宜選択することができる。
【0035】
中でも電気絶縁性に優れることから、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化銅、亜酸化銅、等の金属酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、等の金属窒化物、ダイヤモンド、等の絶縁性炭素材料、をより好ましく用いることができる。 特には、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、ダイヤモンド、好ましく用いることができる。
これらは単独あるいは複数種類を組み合わせて用いることができる。
【0036】
高熱伝導性無機化合物(B)の形状については、種々の形状のものを適応可能である。例えば粒子状、微粒子状、ナノ粒子、凝集粒子状、チューブ状、ナノチューブ状、ワイヤ状、ロッド状、針状、板状、不定形、ラグビーボール状、六面体状、大粒子と微小粒子とが複合化した複合粒子状、液体、など種々の形状を例示することができる。
【0037】
これら高熱伝導性無機化合物(B)を添加する際には、樹脂と無機化合物との界面の接着性を高めたり、作業性を容易にしたりするため、シラン処理剤等の各種表面処理剤で表面処理がなされたものであってもよい。表面処理剤としては特に限定されず、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、等従来公知のものを使用することができる。中でもエポキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤、及び、アミノシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤、ポリオキシエチレンシラン、等が樹脂の物性を低下させることが少ないため好ましい。無機化合物の表面処理方法としては特に限定されず、通常の処理方法を利用できる。
【0038】
これら高熱伝導性無機化合物(B)は、1種類のみを単独で用いてもよいし、形状、平均粒子径、種類、表面処理剤等が異なる2種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明の電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物における高熱伝導性無機化合物(B)の使用量は、(A)/(B)体積比が5/95〜75/25となるよう含有することが好ましい。体積比が5/95より高熱伝導性無機化合物(B)の割合が多くなると、得られる成形品の耐衝撃性、表面性、成形加工性が低下するうえ、溶融混練時の樹脂との混練が困難となる傾向がある。体積比が75/25より熱可塑性樹脂(A)の割合が多くなると、熱伝導性改善効果が劣る傾向がある。体積比範囲は、好ましくは10/90〜72/28、より好ましくは15/85〜69/31、17/83〜67/33、最も好ましくは20/80〜65/35である。
【0040】
本発明で用いられる、軟化点温度が350℃以下の電気絶縁性低融点無機物(C)としては、種々の無機物を用いることができる。これらの中でも製造や入手の容易さから、軟化点温度が350℃以下の低融点ガラスを用いることが好ましい。
【0041】
なお軟化点温度とは、DTA熱分析装置を用いて、試料を昇温した際の発熱ピーク及び吸熱ピーク測定において、低温側から二番目の吸熱ピーク温度として測定される温度である。
【0042】
また、電気絶縁性は具体的には、体積固有抵抗が好ましくは10Ω・cm以上、さらに好ましくは10Ω・cm以上、特に好ましくは1010Ω・cm以上、最も好ましくは1013Ω・cm以上であることが好ましい。体積固有抵抗の上限には特に制限は無いが、一般的には1018Ω・cm以下である。
【0043】
低融点ガラスの形状には特に制限は無いが、熱可塑性樹脂(A)及び高熱伝導性無機化合物(B)との混合が容易であることから、体積平均粒径が0.1μm以上50μm以下のパウダー状であることが好ましい。より好ましい体積平均粒径は0.2μm以上30μm以下、最も好ましい体積平均粒径は0.5μm以上10μm以下である。パウダーの平均粒径は、レーザー散乱式粒度測定装置を用いることで測定可能である。上記パウダーの体積平均粒径が、0.1μm未満であったり50μmを越えると、樹脂組成物への均一な混合が困難となることがある。
【0044】
本発明における電気絶縁性低融点無機物(C)の組成は特に限定はされないが、熱可塑性樹脂(A)を分解や劣化させることがない組成であることが好ましい。酸化物基準でZnOおよびSOを含んだ組成であることが好ましい。
本発明における好ましい電気絶縁性低融点無機物(C)の組成としては、モル%表示の酸化物基準で、次の組成を実質的に有し、かつ350℃以下の軟化点温度を有することが好ましい。
【0045】
:22〜27%、SO:8〜18%、ZnO:25〜40%、Al:0〜2%、B:0〜10%、LiO+NaO+KO:25〜35%(ただし、LiO:5〜15%、NaO:8〜20%、KO:5〜10%)、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、SnO:0〜15%。
【0046】
上記の組成にすることにより、電気絶縁性低融点無機物(C)の耐候性や耐水性が良好であり、樹脂組成物を得る際や樹脂組成物を成形する際の熱や圧力に耐えるようにすることができる。
【0047】
また、本発明における効果を損なわない範囲において、上記以外にSr、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Moなどの金属酸化物を含有してもよい。また、MgやCaなどのアルカリ土類金属の金属酸化物を組成の成分として含まなくとも、本発明における効果を損なわずに、低い軟化点温度を有する組成を得ることもできる。
本発明における電気絶縁性低融点無機物(C)は、カップリング剤等の処理剤で表面処理されていてもよい。カップリング剤としては、シラン系カップリング剤またはチタネート系カップリング剤などを使用することができる。
【0048】
また処理剤には、上記のカップリング剤以外に低融点無機物や樹脂組成物の性能を損なわない範囲で、ウレタン樹脂またはエポキシ樹脂、フィルムフォーマー、潤滑剤および帯電防止剤などが含まれていてもよい。
本発明の電気絶縁性低融点無機物(C)は、公知の方法および装置を用いて、所望する組成となるように、原料を混合し溶融させてから固化させて、所定の平均粒径となるように粉砕することにより得ることができる。
【0049】
粉砕時の粉砕方法としては、媒体撹拌ミル、コロイドミル、湿式ボールミルなどの湿式粉砕方法、ジェットミル、乾式ボールミル、ロールクラッシャーなどの乾式粉砕方法などが挙げられ、複数の粉砕方法を組合せて用いてもよい。上記の粉砕方法を用いて、好ましくは体積平均粒径が0.1μm以上50μm以下、より好ましくは0.2μm以上30μm以下、最も好ましい体積平均粒径は0.5μm以上10μm以下の所定の平均粒径を有するパウダーを得ることができる。
【0050】
また、粉砕して得られるパウダーの平均粒径を調整するため分級処理を行ってもよい。分級処理としては特に限定されないが、風力式分級機や篩い分け装置等を用いるのが好ましい。
【0051】
本発明の電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物における電気絶縁性低融点無機物(C)高熱伝導性無機化合物(B)に対して、(B)/(C)体積比が30/70〜99/1となるよう含有することが好ましい。体積比が30/70より電気絶縁性低融点無機物(C)の割合が多くなると、得られる成形品の耐衝撃性、表面性、成形加工性が低下するうえ、溶融混練時の樹脂との混練が困難となる傾向がある。また体積比が99/1より電気絶縁性低融点無機物(C)の割合が少なくなると、熱伝導性改善効果が劣る傾向がある。体積比の範囲は好ましくは35/65〜98/2、より好ましくは40/60〜97/3、さらに好ましくは50/50〜96/4、最も好ましくは55/45〜95/5の範囲である。
【0052】
本発明の電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物には、樹脂組成物の耐熱性や機械的強度をより高めるため、本発明の特徴を損なわない範囲で(B)(C)以外の無機化合物を更に添加することができる。このような無機化合物としては特に限定ない。但しこれら無機化合物を添加すると、熱伝導率や絶縁性に影響をおよぼす場合があるため、添加量などには注意が必要である。
【0053】
これら無機化合物も表面処理がなされていてもよい。これらを使用する場合、その添加量は、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、100重量以下である。添加量が100重量部を超えると、耐衝撃性が低下するうえ、成形加工性が低下する場合もある。好ましくは50重量部以下であり、より好ましくは10重量部以下である。また、これら無機化合物の添加量が増加するとともに、成形品の表面性や寸法安定性が悪化する傾向が見られるため、これらの特性が重視される場合には、無機化合物の添加量をできるだけ少なくすることが好ましい。
【0054】
また、本発明の電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物をより高性能なものにするため、フェノール系安定剤、イオウ系安定剤、リン系安定剤等の熱安定剤等を、単独又は2種類以上を組み合わせて添加することが好ましい。更に必要に応じて、一般に良く知られている、安定剤、滑剤、離型剤、可塑剤、リン系以外の難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料、帯電防止剤、導電性付与剤、分散剤、相溶化剤、抗菌剤等を、単独又は2種類以上を組み合わせて添加してもよい。
【0055】
本発明の電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては特に限定されるものではない。例えば、上述した成分や添加剤等を乾燥させた後、単軸、2軸等の押出機のような溶融混練機にて溶融混練することにより製造することができる。また、配合成分が液体である場合は、液体供給ポンプ等を用いて溶融混練機に途中添加して製造することもできる。
【0056】
本発明の電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物の成形加工法としては特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、例えば、射出成形、ブロー成形、押出成形、真空成形、プレス成形、カレンダー成形等が利用できる。
これらの中でも成形サイクルが短く生産効率に優れることから、射出成形法により射出成形することが好ましい。この際、電気絶縁性低融点無機物(C)の軟化点温度以上の樹脂温度にて射出成形することにより、成形時に低融点無機物(C)が溶融し、高熱伝導性無機化合物(B)同士をつなぐ事によって熱を伝えやすくする効果が得られる。
【0057】
従って、射出成形する際には電気絶縁性低融点無機物(C)の軟化点温度以上の樹脂温度にて射出成形可能であることが好ましく、電気絶縁性低融点無機物(C)の軟化点温度以上の樹脂温度にて射出成形された成形体を用いることが好ましい。射出成形時の樹脂温度を測定することは種々の方法が用いられている。本願では射出成形時には一般に溶融樹脂の温度は成形機の設定温度(最も高い部分の設定温度)より高くなっているのが通常であることから、樹脂温度判別の方法として成形機の設定温度でその樹脂温度を推測する方法を採用した。
【0058】
すなわち、電気絶縁性低融点無機物(C)の軟化点温度以上の樹脂温度にて射出成形するには、射出成形機の設定温度を好ましくは{低融点無機部(C)の軟化温度−10℃}以上に設定しておけば軟化温度以上の樹脂温度で成形することができる。樹脂温度がある程度までは高い方が成形性が容易になるので樹脂温度が高い方が好ましく、軟化温度と同じ温度に設定するのがさらに好ましく、軟化温度より5℃以上高く設定することが特に好ましい。
【0059】
本願発明の組成物、及び本願の組成物を用いて成形される成形品は、実施例でも示すとおり良好な熱伝導性を示し、1.5W/m・K以上、好ましくは1.8W/m・K以上、さらに好ましくは2.0W/m・K以上、最も好ましくは2.5W/m・K以上の成形体を得ることが可能である。
【0060】
本願発明の組成物、及び本願の組成物を用いて成形される成形品の熱伝導率は、例えば射出成形などにより厚み3.2mmの表面が平滑な平板を2枚成形し、室温で京都電子工業製ホットディスク法熱伝導率測定装置にて、成形した平板2枚で4φのセンサーを挟み込むように配置し、センサーに熱をかけたときの温度変化を観察することで測定することができる。
また本発明で得られる樹脂組成物及び成形体は、高熱伝導性でありまた絶縁性も有している。
【0061】
本発明で得られる樹脂組成物及び成形体は電気絶縁性であるが、その電気絶縁性の測定方法は高熱伝導性無機化合物(B)で例示したJIS K7194−1994に準じて測定することができる。
また、電気絶縁性とは具体的には、体積固有抵抗が好ましくは10Ω・cm以上、さらに好ましくは10Ω・cm以上、特に好ましくは1010Ω・cm以上、最も好ましくは1013Ω・cm以上であることが好ましい。体積固有抵抗の上限には特に制限は無いが、一般的には1018Ω・cm以下である。
【0062】
これまでの高熱伝導性材料は導電性を有するので電子材料用途では使用範囲が限定されていたが、本発明ではこのような課題をも同時に解決することに成功した。
【0063】
本発明の高熱伝導性樹脂組成物は、家電、OA機器部品、AV機器部品、自動車内外装部品、等の射出成形品等に好適に使用することができる。特に多くの熱を発する家電製品やOA機器において、外装材料として好適に用いることができる。
【0064】
さらには発熱源を内部に有するがファン等による強制冷却が困難な電子機器において、内部で発生する熱を外部へ放熱するために、これらの機器の外装材として好適に用いられる。これらの中でも好ましい装置として、ノートパソコンなどの携帯型コンピューター、PDA、携帯電話、携帯ゲーム機、携帯型音楽プレーヤー、携帯型TV/ビデオ機器、携帯型ビデオカメラ、等の小型あるいは携帯型電子機器類の筐体、ハウジング、外装材用樹脂として非常に有用である。
【0065】
また絶縁性と熱伝導性とを併せ持った樹脂の特性を生かし、自動車や電車等におけるバッテリー周辺用樹脂、家電機器の携帯バッテリー用樹脂、ブレーカー等の配電部品用樹脂、モーター等の封止用材料、としても非常に有用に用いることができる。
また、本発明の高熱伝導性樹脂組成物は従来の無機物配合組成物に比べて、成形加工性、耐衝撃性、さらには得られる成形体の表面性が良好であり、上記の用途における部品あるいは筐体用として有用な特性を有するものである。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
熱可塑性樹脂(A)としてポリブチレンテレフタレート系樹脂であるノバデュラン5009L(三菱エンジニアリングプラスチック(株)社製)(RES―1)100重量部に対して、安定剤としてアデカスタブAO−80(旭電化製商品名)0.2重量部をスーパーフローターにて混合した(原料1)。
【0068】
別途高熱伝導性無機化合物(B)としてアルミナ粉末(電気化学工業(株)製DAW−03、単体での熱伝導率35W/m・K、体積平均粒子径3μm、電気絶縁性、体積固有抵抗1016Ω・cm)(FIL−1)100重量部、信越化学製エポキシシランであるKBM−303を1重量部、エタノール5重量部、をスーパーフローターにて混合し、5分間撹拌した後、80℃にて4時間乾燥した(原料2)。
【0069】
別途軟化点温度が350℃以下の電気絶縁性低融点無機物(C)として、旭ファイバーグラス製ガラスパウダーZP450(軟化点温度340℃)(GLA−1)を用いた(原料3)。
【0070】
原料1、原料2、原料3、を、テクノベル製KZW15−45同方向噛み合い型二軸押出機のスクリュー根本付近に設けられた第一供給口であるホッパーより投入した。熱可塑性樹脂(A)、高熱伝導性無機化合物(B)、軟化点温度が350℃以下の電気絶縁性低融点無機物(C)体積比で(A)/(B)/(C)=45/50/5となるよう設定した。設定温度は供給口近傍が100℃で、順次設定温度を上昇させ、ニーディングディスク部手前を最高温度の350℃に設定した。ニーディングディスク部からスクリュー先端部まで順次温度を下げていき、スクリュー先端部を250℃に設定した。本条件にて評価用サンプルペレットを得た。
【0071】
(実施例2〜8、比較例1〜5)
使用する樹脂の種類や量、使用する高熱伝導性無機化合物及び電気絶縁性低融点無機物の種類や量、押出時のニーディングディスク部手前設定温度、を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、評価用サンプルペレットを得た。実施例及び比較例に用いた原料は、下記の通りである。
【0072】
熱可塑性樹脂(A)
(RES―1)(ポリブチレンテレフタレート系樹脂):ノバデュラン5009L(三菱エンジニアリングプラスチック(株)社製)
(RES―2)(ナイロン6系樹脂):ユニチカナイロン6 A1020BRL(ユニチカ(株)社製)。
【0073】
高熱伝導性無機化合物(B)
(FIL−1):アルミナ粉末(電気化学工業(株)製DAW−03、単体での熱伝導率が36W/m・K、体積平均粒子径3.0μm、電気絶縁性、体積固有抵抗1016Ω・cm)
(FIL−2):窒化ホウ素粉末(水島合金鉄(株)製HP−40、単体での熱伝導率60W/m・K、体積平均粒子径7.0μm、電気絶縁性、体積固有抵抗1014Ω・cm)。
【0074】
軟化点温度が350℃以下の電気絶縁性低融点無機物(C)
(GLA−1):低融点ガラスパウダー(旭ファイバーグラス(株)製ガラスパウダーZP450、軟化点温度340℃、ガラス転移温度240℃、電気絶縁性、体積固有抵抗1016Ω・cm、体積平均粒子径2.0μm)
(GLA−2):低融点ガラスパウダー(旭ファイバーグラス(株)製ガラスパウダーP、軟化点温度315℃、ガラス転移温度225℃、電気絶縁性、体積固有抵抗1016Ω・cm、体積平均粒子径2.0μm)。
【0075】
[射出成形]
得られた各サンプルペレットを乾燥した後、射出成形機にて120mm×120mm×厚み3.2mmの平板を成形した。 射出成形時の成形温度は、表1中の押出機設定温度と同じ温度に設定した。
【0076】
[熱伝導率]
厚み3.2mm平板にて、京都電子工業製ホットディスク法熱伝導率測定装置で4φのセンサーを用い、熱伝導率を算出した。
【0077】
[電気絶縁性]
厚み3.2mmの平板を用いて、ASTM D−257に従い体積固有抵抗値を測定した。
それぞれの配合および結果を表1に示す。表1より、本特許の範囲外の組成物と比べ、本特許の組成物は電気絶縁性を維持したまま高熱伝導率の樹脂組成物が得られることがわかる。
【0078】
【表1】

【0079】
以上から本発明の熱可塑性樹脂組成物は、電気絶縁性と高熱伝導率とを両立した組成物が得られることが分かる。このような組成物は電気・電子工業分野、自動車分野、などさまざまな状況で熱対策素材として用いることが可能で、工業的に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)、単体での熱伝導率が1.5W/m・K以上でかつ体積固有抵抗が0.1Ω・cm以上の高熱伝導性無機化合物(B)、軟化点温度が350℃以下の電気絶縁性低融点無機物(C)、を少なくとも含有し、1.5W/m・K以上の熱伝導率を有することを特徴とする、電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
高熱伝導性無機化合物(B)が、金属酸化物微粒子、金属窒化物微粒子、絶縁性炭素微粒子、から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
高熱伝導性無機化合物(B)が、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、ダイヤモンド、から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1あるいは2いずれか1項に記載の電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(A)の一部あるいは全部が、結晶性あるいは液晶性を有する樹脂であることを特徴とする、請求項1〜3いずれか1項に記載の電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
軟化点温度が350℃以下の電気絶縁性低融点無機物(C)が、モル比酸化物基準でP:22〜27%、SO:8〜18%、ZnO:25〜40%、Al:0〜2%、B:0〜10%、LiO+NaO+KO:25〜35%(ただし、LiO:5〜15%、NaO:8〜20%、KO:5〜10%)、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、SnO:0〜15%の組成を実質的に有する低融点ガラスであることを特徴とする、請求項1〜4いずれか1項に記載の電気絶縁性高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。

【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物を、電気絶縁性低融点無機物(C)の軟化点温度以上の樹脂温度にて射出成形し作成された、電気絶縁性高熱伝導性成形体。

【公開番号】特開2008−169265(P2008−169265A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2112(P2007−2112)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】