説明

電気絶縁用樹脂組成物及びそれを用いた電気機器絶縁物の製造方法

【課題】 硬化性、空気乾燥性に優れ、熱劣化時の絶縁破壊電圧の保持率や、電線との固着力が良好で、かつ環境対応可能な電気絶縁用樹脂組成物及びこの電気絶縁用樹脂組成物を用いた電気機器電気絶縁物の製造方法を提供する。
【解決手段】 (A)低分子量ポリエステルイミド樹脂と、(B)分子中に1個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物とα,β−不飽和一塩基酸とを反応させて不飽和エポキシエステル樹脂とし、得られた不飽和エポキシエステル樹脂のヒドロキシル基に対して2〜10モル%に相当する不飽和酸無水物を反応させて得られる低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂及び(C)分子内に不飽和基を有する高沸点反応性モノマを必須材料として含む電気絶縁用樹脂組成物。このうち、(A)低分子量ポリエステルイミド樹脂の分子量が、400〜10000の範囲であり、(B)低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂の分子量が200〜10000であると好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的および電子的成分用、並びにシート状絶縁材料の担体材料用に使用される含浸、流延および被覆組成物としての電気絶縁用樹脂組成物及びそれを用いた電気機器絶縁物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学工業の分野においては、より安全な製品、より環境汚染の少ない製品を求めて、各種の環境対応技術が積極的に研究開発されており、その一例として低臭気・無溶剤型樹脂及び水溶性型樹脂がある。
一方、モータ、トランス等の電気機器は、鉄コアの固着又は防錆、コイルの絶縁又は固着等を目的として、電気絶縁用樹脂組成物で処理されている。電気絶縁用樹脂組成物としては、硬化性、空乾性、電気絶縁性、安定性、経済性などのバランスに優れた不飽和ポリエステル樹脂の組成物が広く用いられている。
電気絶縁用樹脂組成物は、液状タイプと粉体状タイプに分かれている。液状タイプは、合成樹脂を希釈剤に溶解して作業し易い粘度に調節しており、これらの希釈剤の種類により、溶剤型、無溶剤型及び水溶性の3種類に分類される。これらの希釈剤は、電気絶縁処理時に、一部もしくは全量が揮発するので、触媒燃焼装置等を用いて、外部への飛散防止処理が行われている。しかし、一部もしくは全量が、大気中に飛散する場合があり、適切な処理をしない場合は環境への影響が懸念される。これらのことから、近年、樹脂組成物中のVOC量の低減が熱望されてきている。
そこで、電気絶縁処理時に発生するVOCを低減させる目的で、これまで以下の電気絶縁用樹脂組成物が用いられてきた。
(1)水溶性の電気絶縁用樹脂組成物を用いて稀釈剤の大部分を水とする、
(2)粉体状の電気絶縁用樹脂組成物を用いて希釈剤を無くす、
(3)樹脂含有率を上げる方法や無機充填材を添加する方法による電気絶縁用樹脂組成物のハイソリッド化、
このうち、(1)の水溶化は、電気絶縁用樹脂組成物中のVOC含有率を低下させようとすると、経日放置によって樹脂組成物が白濁してしまうので、樹脂と相溶性の良い有機溶剤を一部併用する必要がある。その結果、樹脂組成物中のVOC含有率は10重量%が限界である。(文献1、2参照)
(2)の粉体状化は、電気絶縁処理時には、VOCはほとんど発生しないが、電気絶縁用樹脂組成物が粉体状であるため、大気中へ拡散し、粉塵としての諸問題が起こる可能性が有る為、取り扱いが容易ではなかった。更に、組成物の溶融温度が高い場合や溶融時の粘度が高い場合、コイル内部への含浸性の低下が懸念される。
(3)のハイソリッド化は、従来の方法では、電気絶縁用樹脂組成物中のVOC含有率を低下させると、粘度が高くなり電気機器のコイルへの含浸性が低下してしまうことから、電気絶縁用樹脂組成物中のVOC含有率は20%が限界である。
この対応策として、ジシクロペンタジエン(=DCPD)の構造単位を有する不飽和ポリエステル樹脂が、多数の特許の主題となり、活用されている。
文献3によると、ポリエステルの製造に際してジシクロペンタジエン構造を新規導入することにより達成され、貯蔵安定性が良好であり、室温(25℃)でも液体状の組成物、または容易に加工が行える程度に軟化点が低く、非常に長期間にわたり普遍の形状で安定に貯蔵される組成物がビニル性不飽和を有する単量体を含まずに得られる。しかし、この方法では、空気乾燥性や、エナメル線皮膜との固着力が弱く実用できない上、熱劣化後の特性が汎用樹脂組成物と比較し著しく悪い。また、この方法では熱硬化による従来の製造方法では実際には使用できず、UV光と熱とを組み合わせた硬化のみに適している。
また、表面改質剤を使用して固着力を上げた例としては、文献4のように、同様のエポキシ樹脂組成物に、アクリルのポリリン酸エステルであるモダフロー(モンサント社商品名)、アクリル系のディスパロン1970,230,L−1984−50,L−1985−50(楠本化成株式会社商品名)、シリコーン系のTSA720(東芝シリコーン株式会社商品名)、エポキシ樹脂で作製した表面調整剤を添加することにより、エナメル皮膜等の絶縁物に対する濡れ性が向上することができる手法が記載されている。しかしこの方法では、通常のポリエステルイミド等では効果が発生せず、固着力が向上しない不具合が発生する。
また、空気乾燥性向上技術としては、文献5の方法のように、ジシクロペンタジエニルモノマレエートと乾性又は半乾性植物油の脂肪酸、不飽和二塩基酸、飽和酸及びアルコール成分を反応させて得られる不飽和ポリエステルにキシレン−ホルムアルデヒド樹脂と重合開始剤を含有してなる手法が記載されている。
また、文献6では、テトラヒドロフタル酸類由来の構造単位を骨格に含むポリエステル(メタ)アクリレート 25〜50重量%と、エポキシ(メタ)アクリレート 15〜55重量%、さらに一官能の(メタ)アクリレートモノマーおよび二官能の(メタ)アクリレートモノマーを50〜100重量%含む、6.7×10Paでの沸点が90℃以上のモノマー 15〜45重量%を含有する硬化性樹脂組成物を使用する方法が記載されているが、これを使用する方法として、コンクリート、モルタル、鋼板、ガラス、木材等を被覆する材料、特にFRP防水ライニング用のトップコート材のみ明記されており、電気絶縁用樹脂組成物として適用されていない。
また、従来低分子量化によるワニス粘度の低下方法では、得られる特性が従来品以下であることから、滴下含浸方法のみの対応になっている場合が多く、トランス等浸漬方法での対応ができない不具合もあった。
【0003】
【特許文献1】特開2001−243838号公報
【特許文献2】特開2002−235296号公報
【特許文献3】特開平2000−515565号公報
【特許文献4】特開平10−257726号公報
【特許文献5】特開平10−139994号公報
【特許文献6】特開2001−151832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる問題に鑑み、環境にやさしい製品を提供することを目的に、電気絶縁用樹脂組成物及びこれを用いた電気機器の製造法において、樹脂組成物に含まれるVOCを低減すべく、従来の液状タイプの樹脂組成物と同等以上の良好な電気絶縁性などの硬化物特性及び良好な安定性を示し、作業方法の範囲を広げ、且つ、安全性向上、作業環境の観点から、電気機器の電気絶縁処理時に発生するVOCを低減することができる電気絶縁用樹脂組成物を提供するものであり、さらに、本発明は、この電気絶縁用樹脂組成物を用いた電気機器絶縁物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(1) (A)低分子量ポリエステルイミド樹脂と、(B)分子中に1個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物とα,β−不飽和一塩基酸とを反応させて不飽和エポキシエステル樹脂とし、得られた不飽和エポキシエステル樹脂のヒドロキシル基に対して2〜10モル%に相当する不飽和酸無水物を反応させて得られる低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂及び(C)分子内に不飽和基を有する高沸点反応性モノマを必須材料として含む電気絶縁用樹脂組成物に関する。
また、本発明は、(2) (A)低分子量ポリエステルイミド樹脂の分子量が、400〜10000の範囲である上記(1)に記載の電気絶縁用樹脂組成物に関する。
また、本発明は、(3) (B)低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂の分子量が、200〜10000である上記(1)に記載の電気絶縁用樹脂組成物に関する。
また、本発明は、(4) (A)低分子量ポリエステルイミド樹脂100重量部に対して、(B)低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂10〜100重量部を含有する上記(1)ないし上記(3)のいずれかに記載の電気絶縁用樹脂組成物に関する。
また、本発明は、(5) (C)分子内に不飽和基を有する高沸点反応性モノマを(A)低分子量ポリエステルイミド樹脂と(B)低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂の混合物100重量部に対して、5〜40重量部含有する上記(1)ないし上記(4)のいずれかに記載の電気絶縁用樹脂組成物に関する。
また、本発明は、(6) 上記(1)ないし上記(5)のいずれかに記載の電気絶縁用樹脂組成物に、さらに、重合開始剤、安定剤を含有してなる電気絶縁用樹脂組成物に関する。
また、本発明は、(7) 上記(6)に記載の電気絶縁用樹脂組成物を用いて電気機器を被覆し、硬化することを特徴とする電気機器絶縁物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明になる電気絶縁用樹脂組成物は、安全性向上、作業環境の改善などの観点から、電気機器の電気絶縁処理時に発生するVOCを、従来の樹脂組成物よりも大幅に低減することができると共に、含浸作業方法に幅広く対応可能であり、かつ従来の液状タイプの樹脂組成物と同等以上の空気乾燥性、電気絶縁性、固着性などの硬化物特性及び良好な安定性を示し、信頼性の高い電気機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いる(A)低分子量ポリエステルイミド樹脂としては、酸成分の一部として一般式(1)で表されるイミドジカルボン酸を用いるものが好ましい。
【0008】
【化1】


〔式中、Rはトリカルボン酸の残基等の3価の有機基、Rはジアミンの残基等の2価の有機基を表す〕
【0009】
一般式(1)で表されるイミドジカルボン酸としては、例えばジアミン1モルに対してトリカルボン酸無水物2モルを反応させることにより得られるイミドジカルボン酸(特公昭51−40113号公報参照)が挙げられる。
また、あらかじめジアミンとトリカルボン酸無水物とを反応させてイミドジカルボン酸として用いないで、ジアミンとトリカルボン酸無水物をポリエステルイミドの製造時に加えて、イミドジカルボン酸の残基を形成してもよい。
トリカルボン酸無水物としては、トリメリット酸無水物、3,4,4,−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、3,4,4,−ビフェニルトリカルボン酸無水物等があり、トリメリット酸無水物が好ましい。
ジアミンとしては、4,4,−ジアミノジフェニルメタン、4,4,−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン等が用いられる。
イミドジカルボン酸の使用量は、全酸成分の5〜50当量%の範囲とすることが好ましく、20〜45当量%の範囲とすることがより好ましい。イミドジカルボン酸の使用量が少なすぎると耐熱性が劣る傾向にあり、多すぎると可とう性が低下する場合がある。
【0010】
上記のイミドジカルボン酸以外の酸成分としては、テレフタル酸又はその低級のアルキルエステル、例えば、テレフタル酸モノメチル、テレフタル酸の低級アルキルのジエステル等のテレフタル酸ジエステル、例えば、テレフタル酸ジメチルなどが用いられる。また、イソフタル酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸などを用いることもできる。
また、アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等のジオール類、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等のトリオール類などが用いられる。これらの酸成分及びアルコール成分は単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0011】
アルコール成分と酸成分との配合割合は、低/無用剤型でかつ作業性が良好な低分子量を有し、かつ可とう性及び耐熱性の面から、カルボキシル基に対する水酸基の当量比を1.3〜30とすることが好ましく、1.5〜10とすることがより好ましい。カルボキシル基に対する水酸基の当量比が30を超えて大きいと可とう性が低下する傾向があり、1.3より小さいと耐熱性が低下する傾向がある。
【0012】
本発明に用いる(A)低分子量ポリエステルイミド樹脂の合成は、例えば、前記の酸成分とアルコール成分とをエステル化触媒の存在下に160〜250℃、好ましくは170〜250℃の温度で、3〜15時間、好ましくは5〜10時間加熱反応させることにより行われる。この際、用いられるエステル化触媒としては、例えば、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、ジブチルスズラウレート、ナフテン酸亜鉛などが挙げられる。また、反応は、窒素ガス等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。前記のイミドジカルボン酸は、あらかじめ合成したものを用いてもよく、また、ジアミン及び無水トリメリット酸のイミド酸となる成分を他の酸成分、アルコール成分と同時に混合加熱してイミド化及びエステル化を同時に行ってもよい。このときジアミンと無水トリメリット酸の配合量は、前記のイミドジカルボン酸の配合量に対応する量とするのが好ましい。
【0013】
本発明で用いる低分子量ポリエステルイミド樹脂の数平均分子量(ゲルパーミッションクロマトグラフィー法により測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値、以下も同じ)は、400〜10000が好ましい。より好ましくは、500〜3000である。400未満では、樹脂の硬化性および樹脂硬化物特性が極端に劣り、10000を超えると粘度が高すぎ作業性が悪化する。
【0014】
また、本発明で用いる(B)低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂の必須合成原料である1分子中に1個以上のエポキシ基を含有する化合物としては、例えば多価アルコール又は多価フェノールのグリシジルポリエーテル、エポキシ化脂肪酸、エポキシ化乾性油酸、エポキシ化ジオレフィン、エポキシ化ジ不飽和酸のエステル、エポキシ化飽和ポリエステル等が挙げられ、これらを単独で又は併用して用いることができる。市販品の例としては、例えばシェル化学株式会社製のEpon825、Epon828、Epon1001、Epon1002、Epon1004、Epon1007、又はEpon1009、油化シェルエポキシ株式会社製のエピコート815、エピコート827、エピコート828、エピコート834、エピコート1055、エピコート827−X−75、エピコート1001−B−80、エピコート1001−X−70、エピコート1001−X−75、エピコート1001、エピコート1002、エピコート1004、エピコート1007又はエピコート1009、旭化成株式会社製のAER334、AER330、AER331、AER337、AER661、AER664、AER667又はAER669、旭電化工業株式会社製のアデカレジンEP−4200、アデカレジンEP−4300、アデカレジンEP−4100、アデカレジンEP−4340、アデカレジンEP−5100、アデカレジンEP−5200、アデカレジンEP−5400、アデカレジンEP−5700又はアデカレジンEP−5900、住友化学株式会社製のスミエポキシELA−115、スミエポキシELA−127、スミエポキシELA−128、スミエポキシELA−134、スミエポキシESA−011、スミエポキシESA−012、スミエポキシESA−014、スミエポキシESA−017又はスミエポキシESA−019、大日本インキ化学工業株式会社製のエピクロン855、エピクロン840、エピクロン860、エピクロン1050、エピクロン2050、エピクロン4050、エピクロン7050又はエピクロン9050、ダウ・ケミカル日本株式会社製のDER330、DER331、DER661、DER662、DER664、DER667又はDER669、大日本色材工業株式会社製のプリエポーPE−10、プリエポーPE−25、プリエポーPE−70、プリエポーPE−80、プリエポーPE−100、プリエポーPE−120又はプリエポーPE−150、東都化成株式会社のエポトートYD−115、エポトートYD−127、エポトートYD−128、エポトートYD−134、エポトートYD−011、エポトートYD−012、エポトートYD−014、エポトートYD−017又はエポトートYD−019、日本チバガイギー株式会社製のアラルダイトGY−250、アラルダイトGY−261、アラルダイトGY−30、アラルダイト6071、アラルダイト6084、アラルダイト6097又はアラルダイト6099三井化学株式会社製のエポミックR−130、エポミックR−139、エポミックR−140、エポミックR−144、エポミックR−301、エポミックR−302、エポミックR−304、エポミックR−307又はエポミックR−309等が挙げられる。
これらのうち、特に、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、1分子中に1個だけエポキシ基を有する化合物は、0〜10重量%の範囲で使用されることが好ましい。
【0015】
α,β−不飽和一塩基酸としては、メタクリル酸、アクリル酸、クロトン酸、珪皮酸、ソルビン酸等を用いることができ、これらは併用することもできる。一般的に耐食性の観点からメタクリル酸を用いるのが好ましい。α,β−不飽和一塩基酸は、エポキシ基/カルボキシル基の当量比が好ましくは1.6〜0.6となるように、より好ましくは1.2〜0.9となるように配合される。
【0016】
分子中に1個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物とα,β−不飽和一塩基酸とを反応させて不飽和エポキシエステル樹脂とし、得られた不飽和エポキシエステル樹脂のヒドロキシル基に対して2〜10モル%に相当する不飽和酸無水物を反応させるが、ヒドロキシル基と反応させる不飽和酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等を用いることができる。
不飽和酸無水物は、前記不飽和エポキシエステル樹脂のヒドロキシル基に対して2〜10モル%に相当する割合で使用されることが好ましい。不飽和酸無水物の使用量がこの範囲以外では低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂の貯藏安定性が悪く、ゲル化しやすくなる。
不飽和エポキシエステル樹脂と不飽和酸無水物との反応には、付加触媒として、塩化亜鉛、塩化リチウムなどのハロゲン化物、ジメチルサルファイド、メチルフェニルサルファイドなどのサルファイド類、ジメチルスルホキシド、メチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシドなどのスルホキシド類、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン、トリエチルアミン、へキサメチレンジアミンなどの第3級アミン及びその塩酸塩又は臭酸塩、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリメチルドデシルベンジルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸類、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタンなどのメルカプタン類等が用いられる。付加触媒の配合量は、不飽和エポキシエステル樹脂100重量部に対して、0.05〜2重量部が好ましく、0.1〜1.0重量部がさらに好ましい。
低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂の製造方法としては、従来から公知の方法によることができる。
【0017】
本発明で用いる(B)低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂の数平均分子量(ゲルパーミッションクロマトグラフィー法により測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値、以下も同じ)は、200〜10000であることが好ましい。より好ましくは、500〜2000である。200未満では、樹脂の硬化性および樹脂硬化物特性が極端に劣り、10000を超えると粘度が高すぎ作業性が悪化する。
【0018】
本発明に必須成分として用いられる(C)分子内に不飽和基を有する高沸点反応性モノマとしては、沸点が90℃以上のものが上げられ、ビニルトルエン等の芳香族ビニル単量体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルエステル、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどの多価アルコールのメタクリル酸エステル、ジアリルフタレート、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン、アクリル系共重合体等が上げられる。
【0019】
このとき、前記記載の(A)低分子量ポリエステルイミド樹脂と(B)低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂の混合物100重量部に対して、(C)分子内に不飽和基を有する高沸点反応性モノマを5〜40重量部とすることが好ましい。5重量部未満の場合、エナメル線被覆との接着が低く、かつ粘度の低下が見られないため作業性が悪化し、また40重量部を超えて添加剤を加えても、接着力は飽和してしまい、添加量に対する特性向上が見込まれなくなるうえ、VOC発生量が増大し、環境に悪影響を与える不具合が発生する。
なお、上記分子内に不飽和基を有する高沸点反応性モノマは2種以上併用してもよく、また、それぞれの成分を電気絶縁用樹脂組成物に溶解可能な溶剤に分散した場合でも同様の効果を示す。
【0020】
本発明で必要に応じて使用できる、重合禁止剤としては、p−ベンゾキノン、ハイドロキノン、ナフトキノン、p−トルキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5−ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等が挙げられる。その配合量は、電気絶縁用樹脂組成物100重量部に対して0.01〜5.0重量部が好ましく、より好ましくは0.5〜3重量部である。
【0021】
本発明で必要に応じて用いられる重合開始剤(硬化剤)としては、ケトンパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、ハイドロパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、アルキルパーエステル類などが挙げられる。硬化剤の量は、硬化条件や樹脂硬化物の外観、特性等の面に影響があるため、それぞれに応じて決定される。材料の保存性、成形サイクルの面から前記電気絶縁用樹脂組成物総量に対して0.5〜10重量%が好ましく、より好ましくは1〜5重量%である。
【0022】
本発明で必要に応じて用いられる安定剤としては、p−ベンゾキノン、ハイドロキノン、ナフトキノン、p−トルキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等が挙げられる。その配合量は、樹脂組成物の貯蔵安定性、実機処理時の硬化温度及び硬化時間により便宜に決定されるが、その配合量は、通常、電気絶縁用樹脂組成物の総量100重量部に対して0.5重量部以下が好ましく、より好ましくは0.01〜0.1重量部である。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中の「部」は特に断らない限り「重量部」を意味する。
[(A)低分子量ポリエステルイミド樹脂組成物の合成]
温度計、チッ素吹き込み管、精留塔及び撹拌装置を備えた3リットルのフラスコに、2メチル−1,3−プロパンジオ−ル882部、4,4−ジアミノジフェニルエタン138.6部、無水トリメリット酸268.8部、イソフタル酸581部、及びテトラブチルチタネ−ト0.7部を入れ、窒素気流中で室温(25℃)から1時間で175℃に昇温して2時間反応させた。次いで、得られた溶液を5時間で200℃に昇温して3時間反応させ、樹脂酸価22の樹脂を得た。得られた溶液に無水マレイン酸411.6部を加え、再び215℃まで昇温し、6時間反応させたところ、酸価28の(A)低分子量ポリエステルイミド樹脂を得た。低分子量ポリエステルイミド樹脂(A)の粘度は25℃で3.8Pa・sであった。
【0024】
[(B)低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂(B)の合成]
4,4’−イソプロピリデンジフェノールのジグリシジルエーテル(シエル化学株式会社製、Ep−828、エポキシ当量188)376部、メタクリル酸172部、ベンジルジメチルアミン2部、ハイドロキノン0.05部を反応釜に仕込み、ll5℃で反応させた。酸価が5になったとき、無水マレイン酸24部をさらに反応釜の中に追加し、酸価が30になった時に反応を終了した。得られた低分子量変性不飽和エポキシエステル樹脂(B)の粘度は25℃で、3.2Pa・sであった。
【0025】
(実施例1)
(1)電気絶縁用樹脂組成物Aの作製
上記で合成した(A)低分子量ポリエステルイミド樹脂と(B)低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂及び(C)分子内に不飽和基を有する高沸点反応性モノマーとして、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチルをそれぞれ25部/75部/30部で配合し、更に表面乾燥剤として、ナフテン酸マンガン0.3部及び重合開始剤(硬化剤)としてt−ブチルパ−ベンゾエ−ト(日本油脂株式会社製パ−ブチルZ)1部を添加し電気絶縁用樹脂組成物Aを得た。その電気絶縁用樹脂組成物Aを用いて、一般特性をJIS C 2105に準じて測定した。
【0026】
空気乾燥性(空気乾燥時間)の測定
電気絶縁用樹脂組成物Aを90mmx90mmのブリキ板上に、全面が塗れるように3部のせた。このブリキ板を地面と垂直方向にたて、120℃の乾燥機中に放置した。表面の状態を指で確認し、べたつきがなくなった時間を空気乾燥時間とした。
【0027】
VOC発生量の測定方法
電気絶縁用樹脂組成物Aを1.5部シャ−レ上に精秤し、150℃の乾燥機中に静置する。1時間後乾燥機より取り出し、電気絶縁用組成物Aの重量変化率を測定した。
【0028】
固着力の測定
日立マグネットワイヤ株式会社製KMK−22A、直径1.0mmのマグネットワイヤを使用し、ヘリカルコイルを作製した。これに、電気絶縁用樹脂組成物Aを含浸させ、150℃、30分間硬化させ試験片を作製した。この試験片を用い、支点間距離を50mmにし、株式会社島津製作所製オ−トグラフを用いて50mm/minの速さで、試験片の中央部に荷重を加えた。試験片が破壊する荷重をもって固着力とした。
【0029】
(実施例2)
実施例1のうち、(A)低分子量ポリエステルイミド樹脂と(B)低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂及び分子内に不飽和基を有する高沸点反応性モノマとしてメタクリル酸−2−ヒドロキシエチルをそれぞれ25部/75部/5部に配合を変更したほかは実施例1と同様な操作を行い、電気絶縁用樹脂組成物Bを作製し、一般特性、空気乾燥性、固着力を測定した。
【0030】
(実施例3)
実施例1のうち、(A)低分子量ポリエステルイミド樹脂と(B)低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂及び分子内に不飽和基を有する高沸点反応性モノマとしてメタクリル酸−2−ヒドロキシエチルをそれぞれ25部/75部/45部に変更したほかは実施例1と同様な操作を行い、電気絶縁用樹脂組成物Cを作製し、一般特性、空気乾燥性、固着力を測定した。
【0031】
(比較例1)
実施例1のうち(A)低分子量ポリエステルイミド樹脂のみを使用したほかは、実施例1と同様な操作を行い、樹脂組成物Dを作製し、一般特性、空気乾燥性、固着力を測定した。
【0032】
(比較例2)
実施例1のうち(B)低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂のみを使用したほかは、実施例1と同様な操作を行い、樹脂組成物Eを作製し、一般特性、空気乾燥性、固着力を測定した。
【0033】
(比較例3)
実施例1のうち(C)分子内に不飽和基を有する高沸点反応性モノマを除いたほかは、実施例1と同様な操作を行い、樹脂組成物Fを作製し、一般特性、空気乾燥性、固着力を測定した。
実施例1〜3、比較例1〜3で得られた結果を表1に示した。
【0034】
【表1】

注)日立マグネットワイヤ製KMK−22A、直径1.0mmのマグネットワイヤを使用した。
【0035】
(B)低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂を用いない比較例1では、粘度が高く、固着力が低い。また、(A)低分子量ポリエステルイミド樹脂を用いない比較例2では、粘度が高く、空気乾燥性が長く、固着力が低かった。また、(C)分子内に不飽和基を有する高沸点反応性モノマを用いない比較例3では、粘度が高く、空気乾燥性が長く、固着力が低かった。さらに、(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対し、(C)分子内に不飽和基を有する高沸点反応性モノマの好ましい範囲である5〜40重量部を外れた比較例4、5について、ワニス粘度が若干高くなる。また、配合量が少し高い比較例5では、VOC発生量が高く、固着力が低くなる。一方、本発明に、(A)成分、(B)成分、(C)成分を有する電気絶縁用樹脂組成物では、ワニス粘度が低く、空気乾燥性が良好で、エナメル線との適合性も良好で、VOC発生量が低く、さらに、固着力が高く良好な特性を示す。
本発明になる電気絶縁用樹脂組成物は、安全性向上、作業環境の改善などの観点から、電気機器の電気絶縁処理時に発生するVOCを、従来の樹脂組成物よりも大幅に低減することができると共に、含浸作業方法に幅広く対応可能であり、かつ従来の液状タイプの樹脂組成物と同等以上の空気乾燥性、電気絶縁性、固着性などの硬化物特性及び良好な安定性を示し、信頼性の高い電気機器を提供することができる。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)低分子量ポリエステルイミド樹脂と、(B)分子中に1個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物とα,β−不飽和一塩基酸とを反応させて不飽和エポキシエステル樹脂とし、得られた不飽和エポキシエステル樹脂のヒドロキシル基に対して2〜10モル%に相当する不飽和酸無水物を反応させて得られる低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂及び(C)分子内に不飽和基を有する高沸点反応性モノマを必須材料として含む電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項2】
(A)低分子量ポリエステルイミド樹脂の分子量が、400〜10000の範囲である請求項1に記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項3】
(B)低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂の分子量が、200〜10000である請求項1に記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項4】
(A)低分子量ポリエステルイミド樹脂100重量部に対して、(B)低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂10〜100重量部を含有する請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項5】
(C)分子内に不飽和基を有する高沸点反応性モノマを(A)低分子量ポリエステルイミド樹脂と(B)低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂の混合物100重量部に対して、5〜40重量部含有する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の電気絶縁用樹脂組成物に、さらに、重合開始剤、安定剤を含有してなる電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の電気絶縁用樹脂組成物を用いて電気機器を被覆し、硬化することを特徴とする電気機器絶縁物の製造方法。





【公開番号】特開2006−344406(P2006−344406A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166870(P2005−166870)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】