説明

電気装置に用いる電気絶縁流体

ポリトリメチレンエーテルグリコールエステルを含む絶縁流体が提供される。この絶縁流体は電気装置に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリトリメチレンエーテルグリコールエステルおよび少なくとも1つの添加剤を含む電気絶縁流体(誘電性冷却剤とも呼ばれる)に関する。流体を含有する電気装置も提供される。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーを生成し、最終使用者に伝送する部品は当該技術分野において周知されている。電力生成装置は、一般に、非常に高い初期電圧で、電力を生成する。かかる高電圧に対処するには、かなりの電気絶縁が必要とされる。絶縁には、電気エネルギーの伝達から生成される熱の制御とその誘電特性の維持が必要とされる。
【0003】
以降、電気絶縁流体または誘電性冷却剤と呼ぶ、変圧器および流体充填伝送線に用いられる種類の流体の主な目的は、システム内で用いて、要求に応じて、適した温度および誘電性強度を維持しつつ、冷却特性および流体特性を維持することである。変圧器ユニットの熱は、例えば、長期間にわたって、高レベルまで増大する可能性があるため、流体は、特性を損なわずに、熱に耐えられなければならない。さらに、変圧器の操作および様々な周囲温度での放熱のプロセスによって、流体に一定のストレスが加わる。
【0004】
ある流体は、高い電気絶縁性と放熱性を有することが分かっている。これらの流体は、変圧器および流体充填伝送線等の電気部品に用いられる。かかる流体でも、経時および高電圧の電気に長時間晒されると、絶縁および/または放熱特性等の有益な特性が低下する可能性があるという特有の問題がある。
【0005】
業界では、容易に入手でき、費用効率の良い様々な絶縁流体を用いている。変圧器、電力ケーブルおよびコンデンサに用いられる鉱油、シリコーン流体および合成炭化水素油が例示される。かかる流体は特定の特性を有し、この特定の特性によって、電気絶縁、放熱および停電防止をはじめとする機能を満足に果たす。しかしながら、一般的に用いられる流体の中には、安全または汚染の懸念をもたらし、人間および動物にとって害となり得るものがある。かかる流体を保持する多くの電気部品は、漏れや流出によって、水生および海洋生物に深刻な損害を与える可能性のある水や水路近くに位置する。陸上での漏れや流出によって、地下水が脅かされ、土壌が汚染される可能性がある。
【0006】
最も一般的な流体は、石油系であり、再生不可能な出発材料から誘導される。使用されるこの種類の流体の量はかなりのものである。例えば、1つの15MVA変圧器(家庭用および商用を合わせて約2000の顧客に供給する)で、約3,600ガロンの電気絶縁流体が必要とされる。1マイルの流体充填伝送ケーブル(直径6インチ)で、約7,000ガロンが必要とされる。約20,000マイルの高圧流体充填伝送ケーブルが合衆国にあり、大部分は大都市にあり、従って、水または水路の近くにある。
【0007】
漏れや流出を防ぎ、これらの種類の変圧器や伝送ケーブルの漏れや流出をモニターする計画やシステムを設計し、実施するのに、時間と資金の両方の大量の資源が、電力会社により費やされている。かかるコストは、合衆国だけで数百万ドルと推定される。さらに、少なくとも石油系流体に関しては、環境規制および規則のために、たとえささいなものであっても漏れや流出を報告するのに多大の資源が費やされる。漏れや流出の影響は、その対策同様、非常にコストがかかる可能性がある。
【0008】
従って、かかる流体のための新たな源が求められてきた。かかる新たな源に関して、環境問題および源の再生可能性の問題に取り組むことが望ましい。
【0009】
有用かつ効率的な電気絶縁流体に望ましい特性としては、高絶縁破壊電圧、低正接、高比熱、高熱伝導率、低膨張係数、低粘度、粘度の低感温性、低流動点温度、低揮発性、高引火点および低水分がある。本発明の電気絶縁流体は、これら望ましい種々の特性を有する。
【0010】
電気絶縁流体に課される他の要件は、長期使用中に生じる何らかの物理的および化学的変化にも係らず、絶縁特性の点で、ある程度の安定性を維持することである。
【0011】
所有者共通の特許文献1には、電気装置およびその製造方法が記載されており、装置は、絶縁破壊電圧が約30kVを超えるポリトリメチレンホモ−またはコポリエーテルグリコールを含む電気絶縁流体を含有し、ポリトリメチレンホモ−またはコポリエーテルグリコールの繰り返し単位の約50〜100モルパーセントがトリメチレンエーテル単位である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0192185号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、絶縁破壊電圧が約30kV以上のポリトリメチレンエーテルグリコールエステルを含む電気絶縁流体を含む電気装置に関し、ポリトリメチレンエーテルグリコールエステルの繰り返し単位の約50〜100モルパーセントが、トリメチレンエーテル単位であり、50〜100パーセントの鎖末端がエステルである。
【0014】
本発明はまた、(a)絶縁破壊電圧が約30kV以上で、ポリトリメチレンエーテルグリコールエステルの繰り返し単位の約50〜100モルパーセントがトリメチレンエーテル単位であるポリトリメチレンエーテルグリコールエステルを含む少なくとも1つの電気絶縁流体を提供する工程と、(b)電気絶縁流体を、酸化防止剤と、熱安定剤、腐食防止剤および潤滑性促進剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤と化合する工程と、(c)流体を、電気装置に配置する工程とを含む、電気絶縁流体を含有する電気装置を製造する方法にも関する。
【0015】
本発明は、(a)約50〜100モルパーセントの繰り返し単位としてトリメチレンエーテル単位を有するポリトリメチレンエーテルグリコールエステルおよび(b)植物油、鉱油、ポリアルファオレフィン、合成エステルおよびこれらの混合物からなる群から選択されるブレンド成分を含み、絶縁破壊電圧が約30kV以上である電気絶縁流体にさらに係る。
【0016】
本発明の電気装置は、変圧器、コンデンサ、流体充填伝送線および流体充填電力ケーブルからなる群から選択されるのが好ましい。
【0017】
特に好ましい実施形態において、ポリトリメチレンエーテルグリコールエステルは、再生可能生物学的源を用いて発酵プロセスから誘導される1,3−プロパンジオールを含む成分から生成される。
【0018】
好ましくは、電気絶縁流体の引火および燃焼点は約150℃を超え、40℃での動粘度は約100センチストークス(cSt)未満であり、約38℃(100°F)での熱導電率は約0.10〜0.20ワット/m°Kである。
【0019】
好ましくは、電気絶縁流体は、約75質量%〜100質量%のポリトリメチレンエーテルグリコールエステルを含む。電気絶縁流体は、ブレンド成分をさらに含んでいてもよい。好ましくは、ブレンド成分は、植物油、鉱油、ポリアルファオレフィン、合成エステルおよびこれらの混合物からなる群から選択される。
【0020】
好ましい一実施形態において、電気絶縁流体は、電気絶縁流体の質量基準で、(a)約50質量%〜約99質量%のポリトリメチレンエーテルグリコールエステルおよび(b)約1質量%〜約50質量%のブレンド成分を含む。
【0021】
電気絶縁流体は、酸化防止剤、腐食防止剤、金属不活性化剤および熱安定剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含んでいてもよい。好ましくは、酸化防止剤は、ヒンダードフェノール、フェノールエステル、アルキル化ジフェニルアミンおよびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【発明を実施するための形態】
【0022】
別記しない限り、パーセンテージ、部、比等は全て質量による。商標は大文字で示してある。さらに、量、濃度またはその他値やパラメータが、範囲、好ましい範囲または好ましい上限値と好ましい下限値のリストのいずれかで与えられているときは、範囲が個別に開示されているかどうかに係らず、範囲の上限または好ましい値と、範囲の下限または好ましい値の任意の対から形成される全ての範囲を具体的に開示するものと考えられる。本明細書において数値の範囲を挙げた場合は、別記しない限り、範囲には、その終点、その範囲内の全ての整数および分数が含まれるものとする。本発明の範囲は、範囲を定義する際に本明細書に挙げられる特定の値に限定されないものとする。
【0023】
一実施形態において、本発明は、絶縁破壊電圧が約30kV以上のポリトリメチレンエーテルグリコールエステルを含む電気絶縁流体を含む電気装置に係る。
【0024】
本明細書に開示された誘電性流体組成物は、好ましくは、70、80または90質量パーセント以上のポリトリメチレンエーテルグリコールエステル(PO3Gエステル)を含む。これらのエステルは、好ましくは、再生可能源からの1,3−プロパンジオールから誘導される。
【0025】
PO3Gエステルは、式(I)の1つ以上の化合物を含む。
【化1】

【0026】
式中、Qはヒドロキシル基の抽出後のポリトリメチレンエーテルグリコールの残基を表わし、R2はHまたはR3COであり、R1およびR3はそれぞれ独立して、6〜40個の炭素原子、例えば、少なくとも約6、8または10個の炭素原子、約25、30または40個までの炭素原子を含有する置換または非置換芳香族、飽和脂肪族、不飽和脂肪族または脂環式有機基である。
【0027】
PO3Gエステルは、好ましくは、2006年11月7日出願の米国特許出願第11/593,954号明細書「POLYTRIMETHYLENE ETHER GLYCOL ESTERS」に開示されているように、主に、例えば、少なくとも約50%の1,3−プロパンジオールを含むヒドロキシル基含有モノマー(2個以上のヒドロキシル基を含有するモノマー)の重縮合によりPO3Gを形成した後(詳細は後述)、モノカルボン酸(または等価物)によるエステル化により調製される。
【0028】
このようにして調製されたPO3Gエステルは、エステルの総質量を基準にして、好ましくは約50〜100質量%、より好ましくは約75〜100質量%のジエステルと、0〜約50質量%、より好ましくは0〜約25質量%のモノエステルを好ましくは含む組成物である。好ましくは、モノ−およびジエステルは、2−エチレンヘキサン酸のエステルである。
【0029】
ポリトリメチレンエーテルグリコール(PO3G)
本発明で用いるPO3Gは、繰り返し単位の少なくとも50%がトリメチレンエーテル単位であるポリマーエーテルグリコールである。より好ましくは、繰り返し単位の約75%〜100%、さらにより好ましくは約90%〜100%、さらにより好ましくは約99%〜100%がトリメチレンエーテル単位である。
【0030】
PO3Gは、好ましくは酸触媒を存在させて、1,3−プロパンジオールを含むモノマーの重縮合により好ましくは調製され、−(CHCHCHO)−結合(例えば、トリメチレンエーテル繰り返し単位)を含有するポリマーまたはコポリマーが得られる。上述したとおり、繰り返し単位の少なくとも50%がトリメチレンエーテル単位である。
【0031】
トリメチレンエーテル単位に加えて、これより少ない量の他の単位、例えば、他のポリアルキレンエーテル繰り返し単位が存在していてもよい。本開示内容の文脈において、「ポリトリメチレンエーテルグリコール」という用語には、実質的に純粋な1,3−プロパンジオールから生成されたPO3G、例えば、少なくとも約85、好ましくは少なくとも約90、より好ましくは少なくとも約95、さらにより好ましくは少なくとも約99モルパーセントの1,3−プロパンジオール、ならびに、約50質量%までのコモノマーを含有するオリゴマーおよびポリマー(後述するものを含む)が含まれる。
【0032】
PO3Gを調製するのに用いる1,3−プロパンジオールは、様々な周知の化学的経路のいずれかにより、または生化学的変換経路により得られる。調製経路は、例えば、米国特許第5015789号明細書、米国特許第5276201号明細書、米国特許第5284979号明細書、米国特許第5334778号明細書、米国特許第5364984号明細書、米国特許第5364987号明細書、米国特許第5633362号明細書、米国特許第5686276号明細書、米国特許第5821092号明細書、米国特許第5962745号明細書、米国特許第6140543号明細書、米国特許第6232511号明細書、米国特許第6235948号明細書、米国特許第6277289号明細書、米国特許第6297408号明細書、米国特許第6331264号明細書、米国特許第6342646号明細書、米国特許第7038092号明細書、米国特許第7084311号明細書、米国特許第7098368号明細書、米国特許第7009082号明細書および米国特許出願公開第20050069997A1号明細書に記載されている。
【0033】
好ましくは、1,3−プロパンジオールは、再生可能源より生化学的に得られる(「生物学的に誘導された」1,3−プロパンジオール)。
【0034】
1,3−プロパンジオールの特に好ましい源は、再生可能生物学的源を用いた発酵プロセスを介するものである。再生可能源からの出発材料の一例をあげると、1,3−プロパンジオール(PDO)への生化学的経路は、コーン供給源等の生物的および再生可能資源から生成された供給源を利用するものと説明されてきた。例えば、グリセロールを1,3−プロパンジオールへ変換することのできる菌種は、種クレブシエラ(Klebsiella)、シトロバクター(Citrobacter)、クロストリジウム(Clostridium)およびラクトバチルス(Lactobacillus)にある。この技術は、米国特許第5633362号明細書、米国特許第5686276号明細書および米国特許第5821092号明細書をはじめとするいくつかの文献に開示されている。米国特許第5821092号明細書には、特に、組換え体を用いた、グリセロールからの1,3−プロパンジオールの生物学的生成のプロセスが開示されている。このプロセスには、1,2−プロパンジオールに対して特異性のある、異種pduジオールデヒドラターゼ遺伝子により形質転換された大腸菌(E.coil)が組み込まれている。形質転換された大腸菌(E.coil)は、炭素源としてのグリセロールの存在下で増殖し、1,3−プロパンジオールは増殖培地から単離される。バクテリアと酵母の両方が、グルコース(例えば、コーン糖)またはその他炭水化物をグリセロールに変換できるため、引用された文献に開示されたプロセスにより、1,3−プロパンジオールモノマーの迅速で安価かつ環境的に責任のある源が提供され得る。
【0035】
生物学的に誘導された1,3−プロパンジオール、例えば、上述および上で参照したプロセスにより生成されたものは、植物により組み込まれた大気二酸化炭素からの炭素を含有しており、これが、1,3−プロパンジオールの生成用の供給源を構成する。このように、好ましい生物学的に誘導される1,3−プロパンジオールは、再生可能な炭素のみを含有し、化石燃料系または石油系炭素は含有していない。従って、生物学的に誘導される1,3−プロパンジオールを利用するPO3Gおよびそのエステルは、従来の源からのものよりも環境に与える影響が少ない。これら組成物に用いる生物学的に誘導された1,3−プロパンジオールは、減少している化石燃料を枯渇させず、分解時には、植物が再び使えるよう大気に炭素を放出するからである。このように、本明細書に開示された組成物は、石油系グリコールを含む従来の組成物よりも自然で、環境上の影響が少ないという特徴がある。
【0036】
生物学的に誘導された1,3−プロパンジオール、PO3GおよびPO3Gエステルは、石油化学源から、または化石燃料炭素から生成された同様の化合物とは、二重炭素同位体指紋(dual carbon−isotropic finger printing)によって、区別される。この方法は、化学的に同一の材料を区別するのに有用であり、生物圏(植物)成分の増殖の源(および、場合により、年)により、コポリマー中の炭素を配分する。同位体C14とC13は、この問題を補完する情報を与える。核半減期が5,730年の放射性炭素年代測定同位体(C14)によって、化石(「死」)と生物圏(「生」)供給原料間の標本炭素を配分することができる(Currie,L.A.「Source Apportionment of Atmospheric Particles」,Characterization of Environmental Particles,J.Buffle and H.P.van Leeuwen,Edition I,Vol.1,of the IUPAC Environmental Analytical Chemistry Series(Lewis Publishers,Inc)(1992)3−74)。放射性炭素年代測定における前提は、大気中のC14濃度の不変性は、生体中のC14の不変性につながるということである。単離された試料を扱う際、試料の年代は、
t=(−5730/0.693)ln(A/A
という関係式により近似的に推測できる。式中、t=年代であり、5730年が放射性炭素の半減期であり、AおよびAは、試料と最新基準のそれぞれの特定のC14活性である(Hsieh,Y.,Soil Sci.Soc.AmJ.,56,460,(1992))。しかしながら、1950年以来の大気圏核実験および1850年以来の化石燃料の燃焼のために、C14は第2の地球科学的時間特性を獲得している。大気CO中、従って、生体生物圏中のその濃度は、1960年代半ばにおける核実験のピークでほぼ二倍になった。それ以来、約1.2×10−12の定常宇宙論(大気)基準同位体速度(14C/12C)に、7〜10年の近似緩和「半減期」で、徐々に戻っている。(この後者の半減期は、文字通りにはとってはならず、核時代の開始以来の大気および生物圏14Cの変動を追跡するには、詳細な大気核入力/崩壊関数を用いなければならない)。最近の生物圏炭素の年間年代測定を保障するのは後者の生物圏14C時間特性である。14Cは、加速器質量分析(SRM)により測定でき、結果は、「生成と壊変の平衡状態にある炭素の割合」(f)の単位で与えられる。fは、National Institute of Standards and Technology(NIST)Standard Reference Materials(SRM)のそれぞれ、シュウ酸基準HOxlおよびHOxllとして知られている4990Bおよび4990Cにより定義されている。基本的な定義は、14C/12C同位体比HOxlの0.95倍に関する(AD1950参照)。これは、減衰補正された産業革命以前の木材にほぼ等しい。現在の生体生物圏である植物材料については、fは≒1.1である。
【0037】
安定した炭素同位体比(13C/12C)によって、区別と配分を突き止める補助的な経路が提供される。あるバイオ原料中の13C/12C比は、二酸化炭素が固定された時の大気二酸化炭素中の13C/12C比の結果であり、正確な代謝経路も反映している。地域的な変動も生じる。石油、C植物(広葉樹)、C植物(草)および海洋炭酸塩は全て、13C/12Cおよび対応のδ13C値に大きな差を示す。さらに、CおよびC植物の脂質物質は、代謝経路の結果として、同じ植物の炭水化物成分由来の材料とは異なる分析をする。測定の精度内で、13Cは、同位体分別の影響のために、大きな変動を示し、本発明にとって最も重要なのは、光合成機構である。植物中の炭素同位体比の差の主な原因は、植物中の光合成炭素代謝の経路、特に、主たるカルボキシル化中に生じる反応、すなわち、大気COの初期固定における差に密接に関連している。植物を2つに大別すると、「C」(またはカルビン−ベンソン)光合成サイクルを組み込むものと、「C」(ハッチ−少スラック)光合成サイクルを組み込むものがある。広葉樹および針葉樹等のC植物は、温度気候帯において優勢である。C植物において、主なCO固定またはカルボキシル化反応には、酵素リブロース−1,5−ジホスフェートカルボキシラーゼが含まれ、第1の安定な生成物は、3−炭素化合物である。一方、C植物には、暖地型牧草、コーンおよびサトウキビ等の植物が含まれる。C植物において、別の酵素、ホスホエノール−ピルビン酸カルボキシラーゼを含む追加のカルボキシル化反応が、主なカルボキシル化反応である。第1の安定な炭素化合物は、4−炭素酸であり、後に脱カルボキシル化される。このように放出されたCOは、Cサイクルにより再固定される。
【0038】
およびC植物は両方共、ある範囲の13C/12C同位体比を示すが、典型的な値は、約−10〜−14パーミル(C)および−21〜−26パーミル(C)である(Weberら、J.Agric.Food Chem.,45,2942(1997))。石炭および石油は、概して、この後者の範囲に入る。13C測定基準は、元々、pee deeベレムナイト(PDB)石灰石によるゼロ設定により定められた。値は、この材料からの偏位からの千分の一で表わされる。「δ13C」値は、千分の一(パーミル)で、%で短縮され、下式により計算される。
【数1】

【0039】
PDB参照材料(RM)は枯渇したため、一連の代替RMが、IAEA、USGS、NISTおよびその他の選ばれた国際同位体研究所の協力により開発されている。PDBからのパーミル偏位の表記は、δ13Cである。測定は、COで、高精度安定比質量分析(IRMS)により、質量44、45および46の分子イオンでなされる。
【0040】
生物学的に誘導された1,3−プロパンジオールおよび生物学的に誘導された1,3−プロパンジオールを含む組成物は、従って、14C(f)および二重炭素同位体指紋に基づいて、石油化学誘導の対応物からは完全に区別され、物質の新たな組成が示される。これらの生成物を区別する能力は、商業目的で、これらの材料を追跡するのに有利である。例えば、「新」と「古」両方の炭素同位体分析結果を含む生成物は、「古」材料のみでできた生成物から区別される。従って、本材料は、その独特な分析結果に基づいた商業目的に、そして競争を定義し、寿命を判断するため、特に、環境影響を評価するのに利用される。
【0041】
好ましくは、反応物として、または反応物の成分として用いられる1,3−プロパンジオールは、ガスクロマトグラフィー分析により求めると、約99質量%を超える、より好ましくは約99.9質量%を超える純度を有する。特に好ましいのは、米国特許第7038092号明細書、米国特許第7098368号明細書、米国特許第7084311号明細書および米国特許出願公開第20050069997A1号明細書に開示された精製1,3−プロパンジオールおよび米国特許出願公開第20050020805A1号明細書に開示されたとおり、それから生成されたPO3Gである。
【0042】
精製1,3−プロパンジオールは以下の特性を有するのが好ましい。
(1)紫外線吸収が220nmで約0.200未満、250nmで約0.075未満、275nmで約0.075未満、かつ/または、
(2)組成物が、約0.15未満のCIELAB 色相を有する(ASTM D6290)、および270nmで約0.075未満の吸光度を有する、かつ/または、
(3)約10ppm未満の過酸化物組成、かつ/または、
(4)ガスクロマトグラフィーにより測定した合計有機不純物(1,3−プロパンジオール以外の有機化合物)の濃度が、約400ppm未満、より好ましくは約300ppm未満、さらにより好ましくは約150ppm未満である。
【0043】
PO3Gを製造するための出発材料は、所望のPO3G、出発材料、触媒、装置等の利用可能性に応じて異なり、「1,3−プロパンジオールの反応物」を含む。「1,3−プロパンジオール反応物」とは、1,3−プロパンジオール、好ましくは重合度が2〜9の1,3−プロパンジオールのオリゴマーおよびプレポリマー、これらの混合物を意味する。場合によっては、利用可能であれば、10%まで、またはそれ以上の低分子量オリゴマーを用いるのが望ましい。このように、好ましくは、出発材料は、1,3−プロパンジオールとその二量体および三量体とを含む。特に好ましい出発材料は、1,3−プロパンジオール反応物の質量を基準にして、約90質量%以上の1,3−プロパンジオール、より好ましくは99質量%以上の1,3−プロパンジオールを含む。
【0044】
PO3Gは、米国特許第6977291号明細書および米国特許第6720459号明細書に開示されたように、当該技術分野において公知の数多くのプロセスにより生成することができる。上述したとおり、PO3Gは、トリメチレンエーテル単位に加えて、少ない量のその他のポリアルキレンエーテル繰り返し単位を含有していてよい。ポリトリメチレンエーテルグリコールを調製するのに用いるモノマーは、従って、50質量%まで(好ましくは約20質量%以下、より好ましくは約10質量%以下、さらにより好ましくは約2質量%以下)のコモノマーポリオールを、1,3−プロパンジオール反応物に加えて、含有することができる。プロセスに用いるのに好適なコモノマーポリオールとしては、脂肪族ジオール、例えば、エチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロ−1,5−ペンタンジオール、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1,6−ヘキサンジオールおよび3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10−ヘキサデカフルオロ−1,12−ドデカンジオール、脂環式ジオール、例えば、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびイソソルビド、ならびにポリヒドロキシ化合物、例えば、グリセロール、トリメチロールプロパンおよびペンタエリスリトールが挙げられる。コモノマージオールの好ましい群は、エチレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、C〜C10ジオール(1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオールおよび1,10−デカンジオール)およびイソソルビドならびにこれらの混合物からなる群から選択される。1,3−プロパンジオール以外の特に好ましいジオールは、エチレングリコールであり、C〜C10ジオールも特に有用である。
【0045】
コモノマーを含有するある好ましいPO3Gは、米国特許出願公開第20040030095A1号明細書に記載されているようなポリ(トリメチレン−エチレンエーテル)グリコールである。好ましいポリ(トリメチレン−エチレンエーテル)グリコールは、50〜約99モル%(好ましくは約60〜約98モル%、より好ましくは約70〜約98モル%)の1,3−プロパンジオールおよび50まで〜約1モル%(好ましくは約40〜約2モル%、より好ましくは約30〜約2モル%)のエチレングリコールの酸触媒重縮合により調製される。
【0046】
好ましくは、精製後のPO3Gは、酸触媒末端基を実質的に有さず、非常に低レベルの不飽和末端基、主に、アリル末端基を、約0.003〜約0.03meq/gの範囲で含有していてよい。かかるPO3Gは、式(II)および式(III):
HO−((CHO)m−H (II)
HO−((CH−O)mCHCH=CH (III)
を有する化合物を含む(から実質的になる)ものと考えられる。式中、mは、Mn(数平均分子量)が約200〜約10000の範囲内となる範囲であり、式(III)の化合物は、アリル末端基(好ましくは全不飽和末端または末端基)が、約0.003〜約0.03meq/gの範囲で存在するような量で存在している。
【0047】
本発明に用いるのに好ましいPO3GのMn(数平均分子量)は少なくとも約150、より好ましくは少なくとも約500、さらにより好ましくは少なくとも約1000である。Mnは、好ましくは約10000未満、より好ましくは約5000未満、さらにより好ましくは約2500未満である。PO3Gのブレンドも用いることができる。例えば、PO3Gは、高および低分子量PO3Gのブレンドを含むことができ、好ましくは、高分子量PO3Gの数平均分子量は約1000〜約5000、低分子量PO3Gの数平均分子量は約200〜約950である。ブレンドPO3GのMnは、上述した範囲内に尚あるのが好ましい。
【0048】
本明細書で用いるのに好ましいPO3Gは、典型的に多分散で、好ましくは約1.0〜約2.2、より好ましくは約1.2〜約2.2、さらにより好ましくは約1.5〜約2.1の多分散性(すなわち、Mw/Mn)を有する。多分散性は、PO3Gのブレンドを用いることにより調節することができる。
【0049】
本発明で用いるPO3Gは、好ましくは、約100APHA未満、より好ましくは約50APHA未満の色相を有し、好ましくは、40℃で、250cSt未満の粘度を有する。
【0050】
酸および等価物
PO3Gのエステル化は、酸および/または等価物、好ましくはモノカルボン酸および/または等価物との反応により行われる。
【0051】
「モノカルボン酸等価物」とは、関連技術の当業者に一般的に認識されているとおり、ポリマーグリコールおよびジオールとの反応において、実質的にモノカルボン酸のように機能する化合物を意味する。本発明のためのモノカルボン酸等価物としては、例えば、モノカルボン酸のエステル、酸ハロゲン化物(例えば、酸塩化物)および無水物のようなエステル形成誘導体が挙げられる。
【0052】
好ましくは、モノカルボン酸は、式R−COOHを有するものを用い、式中、Rは、6〜40個の炭素原子を含有する置換または非置換芳香族、脂肪族または脂環式有機部分である。
【0053】
異なるモノカルボン酸および/または等価物の混合物も好適である。
【0054】
上述したとおり、モノカルボン酸(または等価物)は、芳香族、脂肪族または脂環式とすることができる。これに関して、「芳香族」モノカルボン酸は、後述するような、カルボキシル基がベンゼン環系の炭素原子に結合したモノカルボン酸である。「脂肪族」モノカルボン酸は、カルボキシル基が完全飽和炭素原子またはオレフィン二重結合の一部である炭素原子に結合したモノカルボン酸である。炭素原子が環の中にある場合には、等価物は「脂環式」である。
【0055】
モノカルボン酸(または等価物)は、置換基またはその組み合わせ(アミド、アミン、カルボニル、ハロゲン化物、ヒドロキシル等の官能基)を、置換基がエステル化反応を阻害せず、得られるエステル生成物の特性に悪影響を及ぼさないのであれば、含有することができる。
【0056】
モノカルボン酸および等価物は、任意の源に由来することができるが、天然源由来、またはバイオ由来であるのが好ましい。
【0057】
以下の酸およびその誘導体が特に好ましい。ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、安息香酸、カプリル酸、エルカ酸、パルミトレイン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、ノナデカン酸、リノール酸、アラキドン酸、オレイン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、2−エチルヘキサン酸およびこれらの混合物。特に好ましい酸またはその誘導体は、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、ステアリン酸、ラウリル酸およびオレイン酸である。
【0058】
エステル化プロセス
エステルの調製のために、PO3Gを、好ましくは例えば窒素またはアルゴン等の不活性ガスを存在させて、モノカルボン酸と、約100℃〜約275℃、好ましくは約125℃〜約250℃の温度で接触させる。プロセスは、大気圧または真空下で行うことができる。接触中、水が形成され、不活性ガスストリーム中または真空下で除去すると、反応を終了させることができる。
【0059】
PO3Gとカルボン酸の反応を促すために、エステル化触媒、好ましくは、鉱酸触媒を通常用いる。鉱酸触媒としては、これらに限られるものではないが、硫酸、塩酸、リン酸、ヨウ化水素酸および異種触媒、例えば、ゼオライト、ヘテロポリ酸、アンバーリストおよびイオン交換樹脂が例示される。好ましいエステル化酸触媒は、硫酸、リン酸、塩酸およびヨウ化水素酸からなる群から選択される。特に好ましい鉱酸触媒は、硫酸である。
【0060】
用いる触媒の量は、反応混合物の約0.01質量%〜約10質量%、好ましくは0.1質量%〜約5質量%、より好ましくは、反応混合物の約0.2質量%〜約2質量%とすることができる。
【0061】
カルボン酸またはその誘導体とグリコールヒドロキシル基は任意の比率で用いることができる。酸対ヒドロキシル基の好ましい比率は、約3:1〜約1:2であり、比率を調節すると、生成物中のモノエステル対ジエステルの比率を変えることができる。通常、ジエステルを優先的に製造するには、1:1をわずかに超える比を用いる。モノエステルを優先的に製造するには、酸対ヒドロキシルの0.5:1以下の比を用いる。
【0062】
エステル化の好ましい方法は、1,3−プロパンジオール反応物を、ポリトリメチレンエーテルグリコールと、鉱酸触媒を用いて、重縮合し、カルボン酸を添加し、PO3Gを単離および精製せずにエステル化を行うことが含まれる。この方法では、米国特許第6977291号明細書および米国特許第6720459号明細書に開示されているとおり、ポリトリメチレンエーテルグリコールを形成するための1,3−プロパンジオール反応物のエーテル化または重縮合を、酸触媒を用いて実施する。エーテル化反応はまた、特開2004−182974A号明細書に記載されたとおり、酸と塩基の両方を含有する重縮合触媒を用いて実施してもよい。所望の分子量に達するまで、重縮合またはエーテル化反応を続けてから、計算量のモノカルボン酸を反応混合物に加える。水副生成物を除去しながら、反応を続ける。この段階で、エステル化とエーテル化反応の両方が同時に起こる。このように、この好ましいエステル化方法においては、ジオールの重縮合に用いる酸触媒を、エステル化にも用いる。必要であれば、追加のエステル化触媒をエステル化段階で添加することができる。
【0063】
この手順において、得られる生成物の粘度(分子量)は、カルボン酸を添加する点により制御される。
【0064】
変形手順において、エステル化反応は、エステル化触媒およびカルボン酸の添加の後、加熱し、水を除去することにより、精製PO3Gで実施することができる。この手順において、得られる生成物の粘度は主に、用いるPO3Gの分子量の関数である。
【0065】
どのエステル化手順に従うかに係らず、エステル化工程および副生成物を除去した後、特に高温で安定なエステル生成物を得るために、重縮合および/またはエステル化から残った触媒残渣を除去する。これは、カルボン酸エステルに大幅に影響を与えることなく、約80℃〜約100℃の水により、触媒から誘導された残渣酸エステルを加水分解するのに十分な時間にわたって処理することによる粗エステル生成物の加水分解によりなされる。必要な時間は、約1〜約8時間まで変えることができる。加水分解を加圧下、高温で行う場合には、これに対応して、短い時間で可能である。この時点で、生成物は、ジエステル、モノエステルまたはジエステルとモノエステルの組み合わせおよび少量の酸触媒、未反応のカルボン酸およびジオールを、反応条件に応じて、含有する。加水分解ポリマーをさらに精製して、水、酸触媒および未反応のカルボン酸を、水洗浄、塩基中和、ろ過および/または蒸留等の公知の従来の技術により除去する。未反応のジオールおよび酸触媒は、例えば、脱イオン水で洗浄することにより除去することもできる。未反応のカルボン酸はまた、例えば、脱イオン水または水性塩基溶液で洗浄する、または真空ストリッピングにより除去することもできる。
【0066】
加水分解に、通常、1回以上の水洗浄工程を続けて、酸触媒を除去し、好ましくは真空下で乾燥して、エステル生成物を得る。水洗浄は、未反応のジオールを除去する役割も果たす。存在する未反応のモノカルボン酸もまた、水洗浄で除去されるが、水性塩基による洗浄または真空ストリッピングによっても除去される。
【0067】
生成物を分画して、低粘度のポリトリメチレンエーテルグリコールを、減圧下での分留によりさらに単離することができる。
【0068】
プロトンNMRおよび波長X線蛍光分光分析法を用いて、ポリマーに存在する残渣触媒(例えば、硫黄)を識別および定量することができる。プロトンNMRでは、例えば、ポリマー鎖に存在する硫酸エステル基を識別することができ、波長x線蛍光法では、ポリマー中に存在する全硫黄(無機および有機硫黄)を求めることができる。上述したプロセスから生成された本発明のエステルは、実質的に硫黄を含まないため、高温用途に有用である。
【0069】
好ましくは、精製後のPO3Gエステルは、酸触媒末端基を実質的に有さないが、非常に低レベルの不飽和末端基、主に、アリル末端基を、約0.003〜約0.03meq/gの範囲で含有していてもよい。かかるPO3Gエステルは、式(IV)および式(V):
−C(O)−O−((CHO)m−R (IV)
−C(O)−O−((CH−O)mCHCH=CH (V)
を有する化合物を含む(から実質的になる)ものと考えられる。式中、RはHまたはRC(O)であり、RおよびRはそれぞれ独立して、6〜40個の炭素原子を含有する置換または非置換芳香族、飽和脂肪族、不飽和脂肪族または脂環式有機基であり、mは、Mnが約200〜約3000の範囲内となる範囲であり、式(III)の化合物は、アリル末端基(好ましくは全不飽和末端または末端基)が、約0.003〜約0.03meq/gの範囲で存在する量で存在している。
【0070】
好ましくは、PO3Gエステルは、PO3G(用いるとき)の粘度より低い粘度を有する。PO3Gエステルの好ましい粘度は、40℃で約5cSt〜約150cSt、より好ましくは約100cSt以下である。
【0071】
PO3Gエステルの他の好ましい特性は、PO3Gについて上述した選択に依存する。例えば、好ましい分子量および多分散性は、エステルのPO3G成分の好ましい分子量および多分散性に基づく。
【0072】
誘電性冷却剤としても知られている電気絶縁流体は、概して、2つの主な機能を果たす。第1に、それらは、装置内に配置することにより用いられる特定の電気装置に存在する高電圧に耐える電気絶縁体として作用する。絶縁流体を用いる電気装置の典型例は、変圧器、コンデンサ、流体充填伝送線または電力ケーブルである。第2に、これらは、装置内で生成される熱を放出する機能を果たす。このように、これらの流体は、良好な電気的特性を維持し、同時に、熱酸化および分解に耐性がなければならない。
【0073】
例えば、本明細書に開示されている電気絶縁流体の、40℃での動粘度は約100センチストークス(cSt)未満であるのが好ましい。絶縁破壊電圧は、60Hzの電力周波数での破壊電圧に抗する流体の能力の尺度であり、流体に沈めた2つの電極間にアーク電流を生じさせるのに必要な最低電圧として測定される。本明細書に開示された電気絶縁流体の絶縁破壊電圧は、鉱油について記録された約30kV以上であることが観察された。絶縁流体の絶縁耐力は、流体中に水が存在すると減少する可能性がある。本発明で用いるエステルは、通常、疎水性で、40ダイン/cm未満の表面張力を有し、接触する空気またはその他材料から水を吸収しない。従って、絶縁耐力の減少が認められるのは、皆無かそれに近い。
【0074】
本明細書に開示された電気絶縁流体の持つその他重要な特性は、好ましくは約0℃未満、より好ましくは−20℃未満、さらにより好ましくは−30℃未満の流動点、好ましくは約150℃を超える引火点および燃焼点である。引火点は、流体の全体の可燃性を評価し、高温での揮発性または可燃性材料の存在を判断するものであり、燃焼点は、流体が燃焼を助ける温度を決定するものである。この特性の組み合わせによって、本発明の流体が、少なくとも約−70℃という低温および少なくとも約200℃という高温で電気絶縁流体として確実に十分に機能できる。
【0075】
好ましい実施形態において、電気絶縁流体は、約75〜100質量%、より好ましくは約85〜約100質量%のポリトリメチレンエーテルグリコールエステルを含む。流体は、植物油、植物油系流体、鉱油、合成エステル、シリコン流体およびポリアルファオレフィン等のその他絶縁流体を含むブレンド成分を、電気絶縁流体の総質量を基準として、約1質量%〜約25質量%、好ましくは約5質量%〜約15質量%さらに含んでいてもよい。植物油および植物油系流体が、非常に好ましいブレンド成分である。植物油としては、これらに限られるものではないが、ヒマワリ油、キャノーラ油、菜種油、コーン油、オリーブ油、大豆油およびヒマシ油が例示される。用いることのできる植物油系流体としては、Envirotemp(登録商標)FR3(商標)流体(Cooper Industries,Inc.)およびBIOTEMP(登録商標)Biodegradable Dielectric Insulating Fluid(ABB)が例示される。用いることのできる高燃焼点炭化水素油としては、R−Temp(登録商標)炭化水素油(Cooper Industries,Inc.)が例示される。合成エステルとしては、ポリオールエステルが例示される。用いることのできる市販の合成エステルとしては、Midel(登録商標)7131(The Micanite and Insulators Co.(Manchester UK))、REOLEC(登録商標)138流体(FMC(Manchester,UK))およびENVIROTEMP200耐火性流体(Cooper Power Fluid Systems)という商品名で販売されているものが挙げられる。
【0076】
電気絶縁流体は、他の有用な添加剤を含有することができる。最も典型的な種類の添加剤としては、酸化防止剤、金属不活性化剤、特に、銅不活性化剤、腐食防止剤、難燃剤および熱安定剤が例示される。これより重要度は下がるが、場合により望ましいものとして、粘度調整剤、流動点降下剤および消泡剤がある。
【0077】
ポリトリメチレンエーテルグリコールエステルの熱および酸化分解速度を減じるのに好適な安定剤としては、2,2−ジ(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、フェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、フェノチアジンカルボン酸エステル、フェノチアジン、例えば、N−エチルフェノチアジン、N−フェニルフェノチアジン等のフェノール化合物、重合トリメチルジヒドロキノリン、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、N,N’−ジオクチルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン、p−イソプロポキシジフェニルアミン、N,N’−ジブチルp−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1,4−ジメチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、p−ヒドロキシジフェニルアミン等のアミン、ジブチルクレゾール、2,6−ジメチル−p−クレゾール、ブチル化2,2−ジ−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、N−ブチル化アミノフェノール等のヒンダードフェノール、2,6−ジブチル−p−ヒドロキシアニソール等のブチル化ヒドロキシアニソール、アントラキノン、ジヒドロキシアントラキノン、ヒドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、2−t−ブチルヒドロキノン、キノリン、p−ヒドロキシジフェニルアミン、フェニルベンゾエート、p−ヒドロキシアニソール、ノルジヒドログアヤレチック酸、ピロカテコール、スチレン化フェノール、ポリアルキルポリフェノール、没食子酸プロピル、亜硝酸ナトリウム等が挙げられる。必要であれば、上述した安定剤の混合物を用いてもよい。約260℃、好ましくは290℃の温度での連続使用500時間後に、少量のワニスおよび/またはスラッジしか含まない流体を与える安定剤が特に望ましい。N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン、没食子酸プロピルおよび3,7−ジオクチルフェノチアジンからなる群から選択される安定剤が、本発明において用いるのに特に好適である。フェノチアジンまたは3,7−ジオクチルフェノチアジンと少なくとも1つのその他の酸化防止剤、好ましくは、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミンの安定剤の組み合わせが好ましい。
【0078】
典型的に、酸化/熱安定剤は、本発明の流体に、流体の質量を基準として、約0.1質量%〜約10質量%の量で、より好ましくは、約0.5質量%〜約5質量%の量で用いられる。安定剤は、25℃で、組成物の少なくとも25g/リットルの溶解度を有するのが望ましい。
【0079】
腐食防止のための添加剤としては、鋼腐食防止剤、例えば、リン酸エステル、ダイマー酸、アルキル無水コハク酸等、および銅腐食防止剤、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾトリアゾール等が挙げられる。ホウ酸塩、クロム酸塩、モリブデン酸塩およびタングステン酸塩もまた有用であることが分かっている。腐食防止添加剤は、電気絶縁流体の質量を基準として、好ましくは約0.05質量%〜約5質量%、より好ましくは約0.05質量%〜約3質量%の量で用いられる。
【0080】
銅は、電気的環境において、ほとんど常に存在しているため、よく用いられる他の種類の添加剤は、銅不活性化剤である。ベンゾトリアゾール誘導体等の銅不活性化剤は市販されている。これらの不活性化剤を、1%未満の少量用いると、電気装置中の銅の触媒活性を減少するのに有利である。
【0081】
上に挙げた添加剤に加えて、本発明の電気絶縁流体は、添加剤が組成物に可溶で、高温で熱的に安定していて、電気的特性に悪影響を及ぼさないのであれば、酸−塩基指示薬および染料等の他の添加剤を含有することができる。
【0082】
電気絶縁流体は、液体充填電力変圧器、配電変圧器、牽引変圧器、リアクタならびに流体充填されたスイッチやタップ切り替え器等の付属設備等の、本明細書に開示された流体の特性を有する電気絶縁流体を必要とする任意の用途に用いるのに好適である。流体とクラフト紙、クラフト板、アラミド紙、コットン紙、アラミド板または複合体(すなわち、ファイバーガラス/エポキシ、ナイロン、ポリエステル)等の固体絶縁体との組み合わせによって、デバイスに電気絶縁性が与えられる。さらに、流体は、伝熱媒体として作用して、電気デバイスの冷却を補助する。
【0083】
本発明を、以下の実施例に例示する。本出願(実施例を含む)において参照される部、パーセンテージ等は全て、別記しない限り、質量基準である。
【実施例】
【0084】
実施例で用いた1,3−プロパンジオールを、生物学的方法により調製したところ、>99.8%の純度を有していた。
【0085】
実施例1
1,3−プロパンジオール(2.39kg、31.45モル)を、攪拌器、凝縮器および窒素用入口を備えた5Lのフラスコに入れた。フラスコ中の液体を乾燥窒素で30分間室温で洗い、120rpmで攪拌しながら、170℃まで加熱した。温度が170℃に達したら、濃縮硫酸を12.1g(0.5質量%)添加した。反応を170℃で3時間進め、温度を180℃まで上げ、180℃に135分間保った。合計で435mLの留出物を集めた。反応混合物を冷却してから、2.19kg(15.2モル)の2−エチルヘキサン酸(99%)を加えた。180rpmで連続的に攪拌しながら、窒素を流して、反応温度を160℃まで上げ、その温度に6時間保った。この間に、さらに275mLの留出水を集めた。加熱および攪拌を停止し、反応混合物を冷却させた。
【0086】
ポリトリメチレンエーテルグリコールエステル生成物2.5kgを、水0.25kgと混合し、得られた混合物を100℃で6時間加熱した。水相をポリマー相から分離し、ポリマー相を3.3質量%のNa2CO3溶液2.0kgと50℃で混合した。水層を分離後除去した。生成物を再び、3.3質量%のNa2CO3溶液2.0kgで、次に、脱イオン水1Lで洗った。得られた生成物を、120℃で3時間、減圧下で乾燥した。
【0087】
得られたエステル生成物を、プロトンNMRを用いて分析した。硫酸エステルおよび未反応2−エチルヘキサン酸に関連するピークは見られなかった。計算された数平均分子量は、500であった。
【0088】
実施例1のように合成した材料の誘電性流体特性を以下の表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
実施例2
1,3−プロパンジオール(2.5kg、32.9モル)を、攪拌器、凝縮器および窒素入口を備えた5Lのフラスコに入れた。フラスコ中の液体を、乾燥窒素で、30分間、室温で洗い、120rpmで攪拌しながら、170℃まで加熱した。温度が170℃に達したら、濃硫酸15.12g(0.5質量%)を添加した。反応を170℃で3時間続けてから、温度を180℃に上げ、180℃に285分間保持した。合計で550mLの蒸留物を集めた。反応混合物を冷却してから、2−エチルヘキサン酸(99%)0.9kg(6.2モル)を添加した。次に、窒素を流しながら、180rpmで連続攪拌しながら、反応温度を160℃に上げ、その温度に6時間維持した。この間に、さらに110mLの蒸留水を集めた。加熱および攪拌を止め、反応混合物を冷却した。
【0091】
2.0kgのポリトリメチレンエーテルグリコールエステル生成物を、2kgの水と混合し、得られた混合物を95℃で6時間加熱した。水性相をポリマー相から分離し、ポリマー相を2.0kgの水で2回洗った。得られた生成物を、120℃、200ミリトルで加熱し、揮発物(255g)を除去した。
【0092】
得られた生成物1.5kgに、14mL中Ca(OH)2を0.14g添加し、70℃で3時間加熱した。生成物を、減圧下、110℃で2時間乾燥した。生成物を濾過した。得られた生成物に、1質量%のNa2CO3を1L添加し、混合物を50℃まで1時間加熱した。生成物を、分液漏斗に移し、分離した。水層を除去し、生成物を1Lの温脱イオン水で洗った。得られた生成物を、90℃で、ロトバップを用い、減圧下で乾燥し、濾過助剤celpure65を用いて濾過した。
【0093】
得られたエステル生成物を、プロトンNMRを用いて分析した。硫酸エステルおよび未反応2−エチルヘキサン酸に関連するピークは見られなかった。計算された数平均分子量は、835であった。
【0094】
実施例2のように合成した材料の誘電性流体特性を以下の表2に示す。
【0095】
【表2】

【0096】
本発明の実施形態の上記の開示内容は、例示および説明の目的で示されており、網羅的なものでも、本発明を開示された厳密な形態に限定しようとするものでもない。本明細書に記載した実施形態の多くの変形および修正は、本開示内容を考慮すると、当業者には明白であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁破壊電圧が約30kV以上、1000Hzで周囲温度で測定したときの誘電正接が約0.01未満であるポリトリメチレンエーテルグリコールエステルを含む電気絶縁流体を含む電気装置。
【請求項2】
ポリトリメチレンエーテルグリコールエステルの数平均分子量が約250〜約5000である請求項1に記載の電気装置。
【請求項3】
電気絶縁流体が、植物油、ポリトリメチレンエーテルグリコール、鉱油、合成エステルおよびポリアルファオレフィンからなる群から選択されるブレンド成分をさらに含む請求項1に記載の電気装置。
【請求項4】
電気絶縁流体が、電気絶縁流体の質量を基準として、約50質量%〜約99質量%のポリトリメチレンエーテルグリコールエステルおよび約1質量%〜約50質量%のブレンド成分を含む請求項3に記載の電気装置。
【請求項5】
電気絶縁流体の引火点および燃焼点が約150℃を超える請求項1に記載の電気装置。
【請求項6】
絶縁流体の40℃での動粘度が約5センチストークス〜100センチストークスであり、流動点が−20℃未満である請求項1に記載の電気装置。
【請求項7】
ポリトリメチレンエーテルグリコールエステルが、再生可能生物学的源を用いて発酵プロセスから誘導される1,3−プロパンジオールを含む成分から生成される請求項1に記載の電気装置。
【請求項8】
電気絶縁流体が、酸化防止剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、難燃剤および潤滑性促進剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含む請求項1に記載の電気装置。
【請求項9】
酸化防止剤が、ヒンダードフェノール、フェノールエステル、アルキル化ジフェニルアミンおよびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む請求項20に記載の電気装置。
【請求項10】
変圧器、コンデンサ、流体充填伝送線および流体充填電力ケーブルからなる群から選択される請求項1に記載の電気装置。
【請求項11】
(a)絶縁破壊電圧が約30kV以上で、ポリトリメチレンエーテルグリコールエステルの繰り返し単位の約50〜100モルパーセントがトリメチレンエーテル単位であるポリトリメチレンエーテルグリコールエステルを含む少なくとも1つの電気絶縁流体を提供する工程と、
(b)前記電気絶縁流体を、酸化防止剤と、熱安定剤、腐食防止剤および潤滑性促進剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤と化合する工程と、
(c)前記流体を、電気装置に配置する工程とを含む、電気絶縁流体を含有する電気装置を製造する方法。
【請求項12】
電気装置が、変圧器、コンデンサ、流体充填伝送線および流体充填電力ケーブルからなる群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
トリメチレンエーテルグリコールエステルが、再生可能生物学的源を用いて発酵プロセスから誘導される1,3−プロパンジオールを含む成分から生成される請求項11に記載の方法。
【請求項14】
電気絶縁流体が、(a)約75質量%〜99質量%のポリトリメチレンエーテルグリコールエステルおよび(b)植物油、ポリトリメチレンエーテルグリコール、鉱油、ポリアルファオレフィン、合成エステルおよびこれらの混合物からなる群から選択される約1〜約25質量%のブレンド成分を含む請求項11に記載の方法。
【請求項15】
電気絶縁流体が、酸化防止剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、難燃剤および潤滑性促進剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含む請求項11に記載の方法。
【請求項16】
変圧器、コンデンサ、流体充填伝送線および流体充填電力ケーブルからなる群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項17】
(a)ポリトリメチレンエーテルグリコールエステルおよび(b)植物油、ポリトリメチレンエーテルグリコール、鉱油、ポリアルファオレフィン、合成エステルおよびこれらの混合物からなる群から選択されるブレンド成分を含み、絶縁破壊電圧が約30kV以上である電気絶縁流体。
【請求項18】
電気絶縁流体の質量基準で、(a)約75質量%〜99質量%のポリトリメチレンエーテルグリコールエステルおよび(b)約1〜約25質量%のブレンド成分を含む請求項17に記載の電気絶縁流体。
【請求項19】
(a)ポリトリメチレンエーテルグリコールエステルおよび(b)植物油、ポリトリメチレンエーテルグリコール、鉱油、ポリアルファオレフィン、合成エステルおよびこれらの混合物からなる群から選択されるブレンド成分を含み、絶縁破壊電圧が約30kV以上である電気絶縁流体を含有するデバイス。
【請求項20】
液体充填電力変圧器、配電変圧器、牽引変圧器、リアクタおよびスイッチやタップ切り替え器等の付属設備からなる群から選択される請求項19に記載のデバイス。

【公表番号】特表2011−503808(P2011−503808A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533332(P2010−533332)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/083078
【国際公開番号】WO2009/064704
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】