説明

電気集じん機

【課題】空気中の浮遊粒子状物質を除去する電気集じん機において、浮遊粒子状物質を帯電させる帯電部はコロナ放電を発生させる必要があるが同時に火花放電が発生する。
【解決手段】空気中の浮遊粒子状物質を帯電させる帯電部1と、前記浮遊粒子状物質を捕集する集じん部2と、前記帯電部1と前記集じん部2内に前記浮遊粒子状物質を流入させる送風手段3と、前記帯電部1と前記集じん部2に高電圧を供給する高圧発生手段4とを備え、前記帯電部1は高電圧を印加する導電性物質の放電電極21とアースに接続された導電性物質の接地極板22とから構成され、前記接地極板22を体積抵抗率が1010〜1013[Ω・cm]のフィルムで被覆したものであり、空気中の浮遊粒子状物質を帯電させるためにコロナ放電を発生させることができると共に、火花放電の発生を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気清浄に使用する電気集じん機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電気集じん機として、例えば特許文献1のようなものが知られている。以下、その電気集じん機について図7および図8を参照しながら説明する。
【0003】
図7に示すように、電気集じん機は帯電部71と集じん部72と送風ファン73と電子コントロールボックス74からなり、電子コントロールボックス74内に図示しない高電圧発生装置と電気集じん機を制御する図示しない制御部を備えている。帯電部71と集じん部72は図8に示すように、帯電部71は高電圧電源に接続された放電極81と接地された金属板82が交互にお互いが接触せずに平行に一定の間隔を保って配置されている。また同じように集じん部72は高電圧電源に接続された金属板83と接地された金属板84が交互にお互いが接触せずに平行に一定の間隔を保って配置されている。高電圧電源から高電圧を印加することで、帯電部71では高電圧電源に接続された放電極81と接地された金属板82との間でコロナ放電を発生させ微粒子を帯電させ、集じん部72では高電圧電源に接続された金属板83と接地された金属板84との間で発生している電界により帯電した微粒子が捕集されることにより、空気中の微粒子を除去することができ空気を清浄化することが出来る。
【0004】
高電圧を印加した帯電部71の高電圧電源に接続された放電極81または集じん部72の高電圧電源に接続された金属板83とそれぞれと対向する接地された金属板82,84との間で火花放電が発生する。この時特許文献1では、電子コントロールボックス74内に備えた図示しない火花発生回数検出部により火花放電発生回数を検出し、また火花持続時間検出部により火花の持続時間を検出し、これら発生回数と持続時間を条件部として電気集じん機への高電圧を調整し出力することにより、火花放電が持続しないようにしている。
【0005】
また、特許文献2のように電気集じん機の集じん部72の高電圧電源に接続された金属板83を絶縁フィルムで覆ったものが知られている。これにより集じん部において火花放電の発生を抑えることが出来る。
【特許文献1】特開平02−114286号公報
【特許文献2】実開昭62−024950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の電気集じん機では火花放電が発生しており、電気集じん機に可燃性物質が捕集されていると火花放電により温度が上昇したり、捕集したものが火花放電により再飛散することがあった。これを抑えるために、火花放電が発生してから出力電圧を調整し火花放電の発生を抑えていた。そのために出力電圧を調整する出力制御部が必要となり、コストアップとなっていた。
【0007】
また、電気集じん機の帯電部は、コロナ放電を発生させ空気中の微粒子を帯電させる必要があり、金属板を絶縁フィルムで覆うとコロナ放電が発生しなくなるため、帯電部に関しては絶縁フィルムで覆うことができず、火花放電の発生を抑えることが出来ていなかった。
【0008】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、電気集じん機の帯電部においてコロナ放電を発生させかつ火花放電の発生を防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電気集じん機は上記目的を達成するために、空気中の浮遊粒子状物質を帯電させる帯電部と、帯電された前記浮遊粒子状物質を捕集する集じん部を備えた電気集じん機と前記電気集じん機内に送風する送風手段と前記帯電部と前記集じん部に高電圧を供給する高圧発生手段と前記送風手段と前記高電圧発生手段を制御する制御器を備え、前記帯電部は高電圧を印加する導電性物質の荷電電極とアースに接続された導電性物質の接地極板とから構成され、前記接地極板を体積抵抗率が1010〜1013[Ω・cm]のフィルムで被覆したものである。
【0010】
この手段により帯電部においてコロナ放電を発生させ空気中の微粒子を帯電させることができると共に、火花放電に関しては防止することができる。
【0011】
また他の手段は、フィルムの厚みを50[μm]〜400[μm]としたものである。
【0012】
これによりコロナ放電を発生させながら火花放電を防止することができる。
【0013】
また他の手段は、帯電部の接地極板の端部も覆われるようにフィルムで被覆したものである。
【0014】
これにより接地極板の端部から発生する火花放電を防止することができる。
【0015】
また他の手段は、フィルムを接着剤を介して被覆したものである。
【0016】
これにより、フィルムを接地極板にしっかりと固定することができる。
【0017】
また他の手段は、帯電部の接地極板をフィルムで両側から覆い、接地極板の周囲を熱によってフィルム同士を溶かして接着させたものである。
【0018】
これにより接着剤を使用せずにフィルムを固定することができる。
【0019】
また他の手段は、帯電部の接地極板として、金属板の表面に穴の開いた金属板を使用したものである。
【0020】
これにより接地極板の周囲のみを熱溶着するのに比べ表面の穴を通してフィルム同士が熱溶着するためより接着力を上げることができる。
【0021】
また他の手段は、帯電部の接地極板に、体積抵抗率が1010〜1013[Ω・cm]の樹脂をコーティングしたものである。
【0022】
これによりコロナ放電を発生させながら火花放電を防止することができる。
【0023】
また他の手段は、集じん部において高電圧を印加する導電性物質の荷電極板とアースに接続された導電性物質の接地極板から構成され、集じん部の荷電極板を体積抵抗率が109[Ω・cm]以上のフィルムで被覆したものである。
【0024】
これにより集じん部において火花放電の発生を防止することができる。
【0025】
また他の手段は、フィルムの厚みを30[μm]〜400[μm]としたものである。
【0026】
これにより集じん部に関しても火花放電の発生を防止することができる。
【0027】
また他の手段は、集じん部の荷電極板の端部も覆われるようにフィルムで被覆したものである。
【0028】
これにより荷電極板の端部から発生する火花放電を防止することができる。
【0029】
また他の手段は、集じん部荷電極板のフィルムを接着剤を介して被覆したものである。
【0030】
これによりフィルムをしっかりと固定することができる。
【0031】
また他の手段は、集じん部の荷電極板をフィルムで両側から覆い、前記荷電極板の周囲を熱によってフィルム同士を溶かして接着させたものである。
【0032】
これにより接着剤を使用せずにフィルムを固定することができる。
【0033】
また他の手段は、集じん部の荷電極板として、金属板の表面に穴の開いた金属板を使用したものである。
【0034】
これにより、荷電極板の周囲のみを熱溶着するのに比べ表面の穴を通してフィルム同士が熱溶着するためより接着力を上げることができる。
【0035】
また他の手段は、集じん部の荷電極板に、体積抵抗率が109[Ω・cm]以上の樹脂をコーティングしたものである。
【0036】
これにより集じん部において火花放電の発生を防止することができる。
【0037】
また他の手段は、コーティングの厚みを100[μm]〜400[μm]としたものである。
【0038】
これによりコロナ放電を発生させながら火花放電を防止することができる。
【0039】
また他の手段は、帯電部または集じん部内にて火花放電が発生した際に高電圧の印加を停止させる制御を備えたものである。
【0040】
これにより、万が一火花放電が発生した場合に高電圧の印加を停止することでそれ以上の火花放電の発生を防止することができる。
【0041】
また他の手段は、火花放電の発生により高電圧の印加が停止した後、制御器より警報信号が出力されるようにしたものである。
【0042】
これにより、外部へ異常が発生したことを知らせることができる。
【0043】
また他の手段は、帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、樹脂材料の厚み方向に流れる電流に対する単位面積当りの抵抗を108〜1010[Ω・cm2]としたものである。
【0044】
これにより、帯電部においてコロナ放電を発生させ空気中の浮遊粒子状物質を帯電させることができると共に、火花放電を防止することができる。
【0045】
また他の手段は、帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、樹脂材料は基材にイオン性導電剤を混ぜ込むことによって電気抵抗を調整したものである。
【0046】
これにより、電気抵抗を調整した時でも、樹脂材料の絶縁破壊電圧を高く維持することができ、火花放電を確実に防止することができる。
【0047】
また他の手段は、帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、樹脂材料の基材としてポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いたものである。
【0048】
これにより、樹脂材料の耐熱性、耐オゾン性、耐薬品性を高め、帯電部の耐久性を確保することができる。
【0049】
また他の手段は、帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、樹脂材料の厚み方向に流れる電流に対する単位面積当りの抵抗Rs[Ω・cm2]と、樹脂材料の厚み方向に流れる単位面積当りの電流Is[A/cm2]とから算出される樹脂材料の厚み方向に流れる単位面積当りのエネルギー密度Ws[W/cm2](Ws=Is2×Rs)が2×10-3[W/cm2]以下になるように、高圧発生手段から供給される帯電部への印加電圧Vを制御したものである。
【0050】
これにより、樹脂材料に連続的に通電される電気エネルギーによる劣化を抑え、樹脂材料の耐久性を確保することができる。
【0051】
また他の手段は、帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、樹脂材料の厚み方向に流れる電流に対する単位面積当りの抵抗Rs[Ω・cm2]に対し、樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]が、Vmax≧4(logRs)−28を満たす範囲に設定されたものである。
【0052】
これにより、樹脂材料の絶縁破壊電圧が高いため、火花放電を確実に防止することができる。
【0053】
また他の手段は、帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]と、高圧発生手段から供給される帯電部への印加電圧V[kV]との関係が、常にVmax>Vを満たすように印加電圧V[kV]が設定されたものである。
【0054】
これにより、樹脂材料の絶縁破壊電圧が高いため、火花放電を確実に防止することができる。
【0055】
また他の手段は、帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、帯電部の放電電極と接地極板との間にコロナ放電として流れる電流が一定となるように高圧発生手段から供給される帯電部への印加電圧Vが制御されたものである。
【0056】
これにより、帯電部においてコロナ放電を発生させ空気中の微粒子を帯電させるために必要な電流を適正化し、不要に高い印加電圧をかけることがないため、火花放電を確実に防止することができる。
【0057】
また他の手段は、帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、帯電部の放電電極と接地極板との間にコロナ放電として流れる電流を一定にするために設定された帯電部への印加電圧V[kV]と、樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]との差K=Vmax−Vが所定値以下になった場合、制御器より警報信号が出力されるようにしたものである。
【0058】
これにより、樹脂材料の抵抗が経年的に変化した場合、その状況を知らしめることで樹脂材料の交換メンテナンス時期を的確に把握することができる。
【0059】
また他の手段は、帯電部の放電電極は、接地極板に平行に配置された平面形状の金属板で、金属板の端面に複数の突起を設けたものである。
【0060】
これにより、コロナ放電の効率が向上し、帯電部で同じコロナ放電量を得る場合でも、帯電部への印加電圧を下げることができ、火花放電を確実に防止することができる。
【0061】
また他の手段は、帯電部に平行配置された接地極板と放電電極との距離D[mm]が、放電電極の複数の隣り合う突起の間隔H[mm]に対し、H/D=1.0〜1.5の範囲に設定されたものである。
【0062】
これにより、コロナ放電の効率がさらに向上し、帯電部で同じコロナ放電量を得る場合でも、帯電部への印加電圧を下げることができ、火花放電を確実に防止することができる。
【0063】
また他の手段は、運転中に送風手段が停止した場合、高圧発生手段から帯電部および集じん部へ供給される高電圧の印加を停止させるものである。
【0064】
これにより、火花放電をより確実に防止することができる。
【0065】
また他の手段は、帯電部または集じん部に空気の流れを検知する風速センサを設け、運転中に風速センサが検知する風速が所定値以下になった場合、高圧発生手段から帯電部および集じん部へ供給される高電圧の印加を停止させるものである。
【0066】
これにより、火花放電をより確実に防止することができる。
【0067】
また他の手段は、集じん部の荷電極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]と、高圧発生手段から供給される集じん部への印加電圧V[kV]との関係が、常にVmax>Vを満たすように印加電圧V[kV]が設定されたものである。
【0068】
これにより、集じん部における火花放電も確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0069】
本発明によれば帯電部において火花放電の発生を防止することができる電気集じん機を提供できる。
【0070】
また、集じん部においても火花放電の発生を防止することができ、帯電部・集じん部ともに完全に火花放電を防止することができる電気集じん機を提供することができる。
【0071】
また、被覆するフィルムをより強力に密着させることができる電気集じん機を提供することができる。
【0072】
また、火花放電が発生した際にすぐに外部へ知らせることができる電気集じん機を提供することができる。
【0073】
また、樹脂材料の耐熱性、耐オゾン性、耐薬品性を高め、電気エネルギーよる劣化を抑え、帯電部の耐久性を確保できるという効果も奏する。
【0074】
また、樹脂材料の抵抗が経年的に変化した場合、その状況を知らしめることで樹脂材料の交換メンテナンス時期を的確に把握できるという効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0075】
本発明の請求項1記載の発明は、空気中の浮遊粒子状物質を帯電させる帯電部と、帯電された前記浮遊粒子状物質を捕集する集じん部を備えた電気集じん機と前記電気集じん機内に送風する送風手段と前記帯電部と前記集じん部に高電圧を供給する高圧発生手段と前記送風手段と前記高電圧発生手段を制御する制御器を備え、前記帯電部は高電圧を印加する導電性物質の放電電極とアースに接続された導電性物質の接地極板とから構成され、前記接地極板を体積抵抗率が1010〜1013[Ω・cm]のフィルムで被覆したものであり、フィルムを通して電流を流すことが出来るためコロナ放電が発生し、空気中の浮遊粒子状物質を帯電させることができると共に、体積抵抗率が高いために大きな電流は流れず、火花放電の発生を防止することができる。
【0076】
また、フィルムの厚みを50[μm]〜400[μm]とすることで、コロナ放電を発生させることができると共に、火花放電の発生を防止することができる。
【0077】
また、帯電部の接地極板の端部も覆われるようにフィルムで被覆することで、接地極板の端部から発生する火花放電を防止することができる。
【0078】
また、フィルムを接着剤を介して被覆することで、フィルムを接地極板にしっかりと固定することができる。
【0079】
また帯電部の接地極板をフィルムで両側から覆い、接地極板の周囲を熱によってフィルム同士を溶かして接着させることで、接着剤を使用せずにフィルムを固定することができる。
【0080】
また帯電部の接地極板として、金属板の表面に穴の開いた金属板を使用することで、接地極板の周囲のみを熱溶着するのに比べ表面の穴を通してフィルム同士が熱溶着するためより接着力を上げることができる。
【0081】
また帯電部の接地極板に、体積抵抗率が1010〜1013[Ω・cm]の樹脂をコーティングすることで、コロナ放電を発生させながら火花放電を防止することができる。
【0082】
また集じん部において高電圧を印加する導電性物質の荷電極板とアースに接続された導電性物質の接地極板から構成され、集じん部の荷電極板を体積抵抗率が109[Ω・cm]以上のフィルムで被覆することで、集じん部において火花放電の発生を防止することができる。
【0083】
またフィルムの厚みを30[μm]〜400[μm]とすることで、集じん部に関しても火花放電の発生を防止することができる。
【0084】
また集じん部の荷電極板の端部も覆われるようにフィルムで被覆することで、荷電極板の端部から発生する火花放電を防止することができる。
【0085】
また集じん部荷電極板のフィルムを接着剤を介して被覆することで、フィルムをしっかりと固定することができる。
【0086】
また集じん部の荷電極板をフィルムで両側から覆い、前記荷電極板の周囲を熱によってフィルム同士を溶かして接着させることで、接着剤を使用せずにフィルムを固定することができる。
【0087】
また集じん部の荷電極板として、金属板の表面に穴の開いた金属板を使用することで、荷電極板の周囲のみを熱溶着するのに比べ表面の穴を通してフィルム同士が熱溶着するためより接着力を上げることができる。
【0088】
また集じん部の荷電極板に、体積抵抗率が109[Ω・cm]以上の樹脂をコーティングすることで、集じん部において火花放電の発生を防止することができる。
【0089】
またコーティングの厚みを100[μm]〜400[μm]とすることで、コロナ放電を発生させながら火花放電を防止することができる。
【0090】
また帯電部または集じん部内にて火花放電が発生した際に高電圧の印加を停止させる制御を備えることにより、万が一火花放電が発生した場合に高電圧の印加を停止することでそれ以上の火花放電の発生を防止することができる。
【0091】
また火花放電の発生により高電圧の印加が停止した後、制御器より警報信号が出力されるようにすることにより、外部へ異常が発生したことを知らせることができる。
【0092】
また、帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、樹脂材料の厚み方向に流れる電流に対する単位面積当りの抵抗を108〜1010[Ω・cm2]とすることによって、帯電部においてコロナ放電を発生させ空気中の浮遊粒子状物質を帯電させることができると共に、火花放電を防止することができる。
【0093】
また、帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、樹脂材料は基材にイオン性導電剤を混ぜ込むことによって、電気抵抗を調整した時でも、樹脂材料の絶縁破壊電圧を高く維持することができ、火花放電を確実に防止することができる。
【0094】
また、帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、樹脂材料の基材としてポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いることにより、樹脂材料の耐熱性、耐オゾン性、耐薬品性を高め、帯電部の耐久性を確保することができる。
【0095】
また、帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、樹脂材料の厚み方向に流れる電流に対する単位面積当りの抵抗Rs[Ω・cm2]と、樹脂材料の厚み方向に流れる単位面積当りの電流Is[A/cm2]とから算出される樹脂材料の厚み方向に流れる単位面積当りのエネルギー密度Ws[W/cm2](Ws=Is2×Rs)が2×10-3[W/cm2]以下になるように、高圧発生手段から供給される帯電部への印加電圧Vを制御することにより、樹脂材料に連続的に通電される電気エネルギーによる劣化を抑え、樹脂材料の耐久性を確保することができる。
【0096】
また、帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、樹脂材料の厚み方向に流れる電流に対する単位面積当りの抵抗Rs[Ω・cm2]に対し、樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]を、Vmax≧4(logRs)−28を満たす範囲に設定することにより、火花放電を確実に防止することができる。
【0097】
また、帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]と、高圧発生手段から供給される帯電部への印加電圧V[kV]との関係が、常にVmax>Vを満たすように印加電圧V[kV]を設定することにより、火花放電を確実に防止することができる。
【0098】
また、帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、帯電部の放電電極と接地極板との間にコロナ放電として流れる電流が一定となるように高圧発生手段から供給される帯電部への印加電圧Vを制御することにより、帯電部においてコロナ放電を発生させ空気中の微粒子を帯電させるために必要な電流を適正化し、不要に高い印加電圧をかけることがないため、火花放電を確実に防止することができる。
【0099】
また、帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、帯電部の放電電極と接地極板との間にコロナ放電として流れる電流を一定にするために設定された帯電部への印加電圧V[kV]と、樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]との差K=Vmax−Vが所定値以下になった場合、制御器より警報信号を出力することにより、樹脂材料の抵抗が経年的に変化した場合、その状況を知らしめることで樹脂材料の交換メンテナンス時期を的確に把握することができる。
【0100】
また、帯電部の放電電極は、接地極板に平行に配置された平面形状の金属板で、金属板の端面に複数の突起を設けることにより、コロナ放電の効率が向上し、帯電部で同じコロナ放電量を得る場合でも、帯電部への印加電圧を下げることができ、火花放電を確実に防止することができる。
【0101】
また、帯電部に平行配置された接地極板と放電電極との距離D[mm]が、放電電極の複数の隣り合う突起の間隔H[mm]に対し、H/D=1.0〜1.5の範囲に設定されることにより、コロナ放電の効率がさらに向上し、帯電部で同じコロナ放電量を得る場合でも、帯電部への印加電圧を下げることができ、火花放電を確実に防止することができる。
【0102】
また、運転中に送風手段が停止した場合、高圧発生手段から帯電部および集じん部へ供給される高電圧の印加を停止させることにより、火花放電をより確実に防止することができる。
【0103】
また、帯電部または集じん部に空気の流れを検知する風速センサを設け、運転中に風速センサが検知する風速が所定値以下になった場合、高圧発生手段から帯電部および集じん部へ供給される高電圧の印加を停止させることにより、火花放電をより確実に防止することができる。
【0104】
また他の手段は、集じん部の荷電極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]と、高圧発生手段から供給される集じん部への印加電圧V[kV]との関係が、常にVmax>Vを満たすように印加電圧V[kV]を設定することにより、集じん部における火花放電も確実に防止することができる。
【0105】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0106】
(実施の形態1)
図1に示すように、空気中の浮遊粒子状物質を帯電させる帯電部1と、帯電された前記浮遊粒子状物質を捕集する集じん部2を備え、電気集じん機内に送風する送風手段3である送風ファンと帯電部1と集じん部2に高電圧を供給する高圧発生手段4である高電圧電源を備え、また送風手段3と高電圧電源4を制御する制御器5を備えている。
【0107】
図2は帯電部1と集じん部2の斜視図であり、帯電部1は高電圧を印加する導電性物質(例えばステンレス)の放電電極21とアースに接続された導電性物質(例えばステンレス)の接地極板22が交互に配置されており、集じん部2は高電圧を印加する導電性物質(例えばステンレス)の荷電極板23とアースに接続された導電性物質(例えばステンレス)の接地極板24が交互に配置されている。導電性物質はここではステンレスとしたがアルミニウムや導電性塗料などでもよい。
【0108】
帯電部1においてコロナ放電が発生し、浮遊粒子状物質が帯電され、集じん部において帯電された浮遊粒子状物質がクーロン力により捕集される。
【0109】
図3は金属板31の表と裏をフィルム32で被覆(ラミネート)した時の断面図である。フィルム32の材質は例えばEMAAである。帯電部1の接地極板22を図3のように体積抵抗率が1010〜1013[Ω・cm]のフィルム32を接着剤33例えばウレタン系の接着剤を使用して被覆することで、帯電部1においてコロナ放電を発生させつつ火花放電を防止することができる。より好ましくは1011〜1012[Ω・cm]である。体積抵抗率が1013[Ω・cm]より大きいフィルム32を使用するとコロナ放電発生時に流れる放電電流は抑制され、コロナ放電の発生量が非常に少なくなり、浮遊粒子状物質を帯電させることができず、捕集することができなくなる。また体積抵抗率が1011[Ω・cm]未満のフィルムを使用するとコロナ放電は良好に発生し放電電流は流れるが、放電電流が流れすぎてしまい、コロナ放電が火花放電へと移行してしまう時がある。体積抵抗率が1010〜1013[Ω・cm]の範囲内であればコロナ放電を発生させつつ火花放電を発生させないことができる。またこの時のフィルムの厚みを、50[μm]〜400[μm]とすることで、コロナ放電を発生させつつ火花放電を発生させないことができる。より好ましくは100[μm]〜300[μm]である。厚みが50[μm]未満であると、薄くなる分、放電電流が流れやすくなり、放電電流が火花放電へ移行してしまうからである。また厚みが400[μm]より大きいと、厚みが増す分放電電流が減少してしまうため、浮遊粒子状物質を帯電させる能力が小さくなってしまう。
【0110】
また図3に示すように、帯電部1の接地極板22の端部もフィルムで覆うことで、端部からの火花放電の発生を防ぐことができる。
【0111】
なお、本実施例では帯電部1の接地極板22にフィルムを被覆しているが、放電電極21に被覆をしてもよい。
【0112】
集じん部2については、荷電極板23は体積抵抗率が109[Ω・cm]以上のフィルム32で接着剤33を介して被覆されており、帯電部1と同様に火花放電の発生を防止することができる。体積抵抗率が109[Ω・cm]未満であると、火花放電が発生してしまう。そして、集じん部2にはコロナ放電の発生は必要なく荷電極板23と接地極板24の間に電界が発生していればよいので、体積抵抗率の上限は必要ない。この時のフィルムの厚みは30[μm]〜400[μm]、より好ましくは50〜200[μm]が望ましい。厚みを30[μm]未満にすると、フィルム32にピンホールが存在する可能性が高くなり、ピンホールが1つでも存在するとそこから火花放電が発生してしまうからである。また厚みを400[μm]より大きくすると、集じん部2は荷電極板23と接地極板24との間隔が狭いため、空気の流れる空間が狭くなり、従って通過風速が早くなり捕集効率が低下する。また、荷電極板23の端部から火花放電が発生しないように端部もフィルム32で覆われている。
【0113】
万が一フィルム32に穴が開き火花放電が発生することがあると、制御器5によりすぐに高電圧電源からの印加を停止するようになっている。そして、外部へ連絡できるよう制御器から警報信号が出力されるようになっている。
【0114】
(実施の形態2)
実施の形態1と同一部分は同一番号を付し、詳細な説明は省略する。
【0115】
本発明の実施の形態2では、図4に示したように金属板41の表と裏をフィルム42が覆い、金属板41端部の外側に出ているフィルム42同士を熱によって溶かして接着させたものである。帯電部1の接地極板22と集じん部2の荷電極板23にフィルムを覆う方法としてこのように行うことにより、接着剤33を使用する必要がないのでコストを抑えることができる。
【0116】
(実施の形態3)
実施の形態1、2と同一部分は同一番号を付し、詳細な説明は省略する。本発明の実施の形態3では、図5に示したように多数の小孔51(例えば、穴径2mm、穴ピッチ6mm)がある金属板52を使用してその表と裏をフィルム53で覆い、金属板52端部の外側に出ているフィルム53同士だけではなく、小孔51部分のフィルム53同士も熱で溶かして接着させたものである。帯電部1の接地極板22と集じん部2の荷電極板23にフィルム53を覆う方法としてこのように行うことにより、金属板52端部の外側に出ているフィルム52同士だけを接着させた場合に比べさらに強力に接着させることができる。
【0117】
(実施の形態4)
実施の形態1乃至3と同一部分は同一番号を付し、詳細な説明は省略する。本実施の形態では、図6に示したように金属板61の周囲を樹脂62でコーティングしたものである。帯電部1の接地極板22と集じん部2の荷電極板23の形状がいびつな場合、フィルムをその形状に合わせてカットすることになるが、大量にカットするには金型を使用するとよいが、金型の形状が複雑となりコストがかかってしまう。しかしコーティングの場合は形状に関係なく金属板に樹脂62を付着させることができるため、容易にしかもコストを抑えて生産する事ができる。
【0118】
この時帯電部1の接地極板22にコーティングする場合は、火花放電を防ぐだけでなくコロナ放電を発生させなければならないため、コーティングの樹脂62の体積抵抗率をフィルムの場合と同じ1010〜1013[Ω・cm]とする必要がある。集じん部2の荷電極板23にコーティングする場合は、コロナ放電の発生は必要なく電界が存在していればよいので、フィルムの場合と同じく体積抵抗率が109[Ω・cm]以上である必要がある。厚みに関しては、コーティングの場合100[μm]〜400[μm]とする必要がある。厚みの最低値がフィルムに比べ厚くなっているのは、100[μm]未満ではピンホールが存在しやすくなるからである。
【0119】
(実施の形態5)
図9は本発明の実施の形態5を示す電気集じん機の構成図、図10は本発明の実施の形態5を示す帯電部と集じん部の斜視図、図11は本発明の実施の形態5を示す帯電部の放電電極詳細図である。
【0120】
図9に示すように、ダクト90内に、空気中の浮遊粒子状物質を帯電させる帯電部91と、帯電された浮遊粒子状物質を捕集する集じん部92とを備え、集じん部92の下流には、ダクト90内に浮遊粒子状物質を含んだ空気を引き込むための電動機93aを有する送風手段93(一例として軸流ファン)を備えている。94は、帯電部91と集じん部92に高電圧を供給する高圧発生手段(一例として直流高圧電源)で、制御器95に電気的に接続されている。96は、集じん部92近傍に取り付けられた風速センサで、電動機93aとともに制御器95に電気的に接続されている。
【0121】
図10は帯電部91と集じん部92の斜視図であり、帯電部91は高電圧を印加する導電性物質(一例としてステンレス)の放電電極101とアースに接続された導電性物質(一例としてステンレス)の接地極板102が交互に配置されており、集じん部92は高電圧を印加する導電性物質(一例としてステンレス)の荷電極板103とアースに接続された導電性物質(一例としてステンレス)の接地極板104が交互に配置されている。導電性物質はここではステンレスとしたがアルミニウムや導電性塗料や導電性フィルムなどでもよい。図10においては、帯電部91の放電電極101と接地電極102との隙間、および集じん部92の荷電電極103と接地電極104との隙間を矢印の如く空気が流れ、帯電部91において放電電極101と接地電極102との間に発生したコロナ放電によって空気中の浮遊粒子状物質が正電位に帯電され、集じん部92において荷電極板103と接地極板104との間に発生した電界によって、正電位に帯電した浮遊粒子状物質がクーロン力により接地極板104(負極)に付着、捕集される。
【0122】
図11は帯電部91の放電電極詳細図であり、(a)A方向矢視平面図は図10においてA方向から放電電極101を見た平面図、(b)B方向矢視側面図は図10においてB方向から放電電極101と接地極板102を見た側面図である。A方向矢視平面図にあるように、放電電極101は金属板の端面に突起101aを長手方向に複数個並べたもので、本実施の形態5では、金属板の両端部はもちろん中央の開口部101bも利用して、突起101aを合計3列配置している。
【0123】
つぎに、本実施の形態5において、火花放電を防止する作用について説明する。帯電部91の接地極板102表面には、実施の形態1〜3と同様の手段で、接地極板102を被覆する樹脂フィルム(図示せず)が貼り付けられている。あるいは、樹脂フィルムに代わって、実施の形態4と同様の手段で、樹脂材料がコーティングされていてもよい。通常、接地極板102が金属板の生地のままであると、コロナ放電中に空気の絶縁破壊が起きた時に、その箇所の空気の電気抵抗が限りなくゼロに近づき、集中して電流が流れ火花放電が発生する。一方、接地極板102の表面に樹脂材料をフィルム被覆またはコーティングした場合は、もし、コロナ放電中に空気の絶縁破壊が起き、その箇所の空気の電気抵抗が限りなくゼロに近づいた時でも、樹脂材料の抵抗が直列にあるため、他の箇所の抵抗(空気抵抗+樹脂抵抗)と比べて抵抗値の差が少なく、電流を分散させ一箇所に集中して電流が流れずに火花放電の発生を防止することができる。この時、樹脂材料の電気抵抗は、大きすぎるとコロナ放電を十分行うことができず、また、小さすぎると前述の電流を分散させ火花放電を防止する効果がなくなる。
【0124】
樹脂材料の物性としては、電気抵抗を表す体積抵抗率(単位体積当りを流れる電気の抵抗、[Ω・cm])が一般的であり、火花放電を防止する効果と相関があるが、樹脂材料の厚さにも関係がある。すなわち、本質を言えば、フィルムなどの樹脂材料の厚み方向に流れる電流に対する単位面積当りの抵抗(つまり、体積抵抗率に厚さをかけた値。以降、面積抵抗率Rs[Ω・cm2]と呼ぶ)を適正範囲に設定することが肝要である。本発明者らは、この面積抵抗率Rsの値を、108〜1010[Ω・cm2]とすることが最適であるということを見出した。この範囲は、例えば厚さ50[μm]のフィルムでは、体積抵抗率が2×1010〜2×1012[Ω・cm2]に、また、厚さ400[μm]のフィルムでは、体積抵抗率が2.5×109〜2.5×1011[Ω・cm2]に相当する。これにより、帯電部91においてコロナ放電を発生させ空気中の浮遊粒子状物質を帯電させることができると共に、火花放電を防止することができるものである。
【0125】
樹脂材料としては、耐熱性、耐オゾン性、耐薬品性が高く、耐久性を十分確保することができるフッ素系材料が望ましく、とりわけ、ポリフッ化ビニリデン系樹脂(以降、PVDFと呼ぶ)は最も優れた材料である。ただし、PVDFは絶縁性が高く、前述の面積抵抗率Rsを108〜1010[Ω・cm2]にするには、添加剤を入れて電気導電度を確保する必要がある。一般に電気導電度を確保する手段としては、カーボンなどの導電性フィラーを混ぜ込む方式があるが、この方式は樹脂材料に高電圧をかけた時にカーボン粒子の部分で絶縁破壊を起こしやすく、絶縁破壊電圧が低いといった欠点があった。そこで、これを解決する手段として本実施の形態5では、カーボンなどの導電性フィラーに代わってイオン性導電剤を混ぜ込む方式を用いている。これにより、電気抵抗を調整した時でも、樹脂材料の絶縁破壊電圧を高く維持することができ、火花放電を確実に防止することができる。
【0126】
もし、樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]が低く、高圧発生手段94から供給される帯電部91への印加電圧V[kV]より低い場合は、前述のようにコロナ放電中に空気の絶縁破壊が起きた時に、その箇所の空気の電気抵抗が限りなくゼロに近づき、樹脂材料へ直接印加電圧V[kV]と同等の電圧がかかることになり、樹脂材料が絶縁破壊を起こして穴があき、結局は樹脂材料がない場合と同じ状況となり、火花放電を防止することができない。したがって、本実施の形態5では、樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]と、高圧発生手段94から供給される帯電部91への印加電圧V[kV]との関係が、常にVmax>Vを満たすように、高い絶縁破壊電圧Vmax[kV]の樹脂材料を選定するとともに、印加電圧V[kV]が絶縁破壊電圧Vmax[kV]を超えないような制御を制御器95によって行っている。これにより、樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]が高いため、火花放電を確実に防止することができる。
【0127】
樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]を向上させるには、ある程度樹脂材料の電気抵抗を上げる必要があるが、前述のように、面積抵抗率には制約がある。各種樹脂材料を検討した結果、面積抵抗率Rs[Ω・cm2]に対し、樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]が、Vmax≧4(logRs)−28を満たす範囲に設定すれば、樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]は十分高く、火花放電を確実に防止することが可能である。一例として、面積抵抗率Rs=109[Ω・cm2]の場合は、絶縁破壊電圧Vmax>8[kV]となり、印加電圧をV<8[kV]に制御すれば、火花放電は発生しない。
【0128】
一方、樹脂材料としてのイオン性導電剤入PVDFの連続通電に関する耐久性は、樹脂材料の厚み方向に流れる単位面積当りの電流(以降、電流密度Is[A/cm2]と呼ぶ)に相関はあるが、直接支配される因子は、樹脂材料の厚み方向に流れる単位面積当りのエネルギー(以降、エネルギー密度Ws[W/cm2]と呼ぶ)である。その理由は、イオン性導電剤入PVDFに流す電流を上げた場合、イオン性導電剤入PVDFの温度が上昇しいずれ破壊に至る、という破壊メカニズムであるため、ジュール熱に起因するエネルギー密度を使用限界以下とすることが肝要である。本発明者らは、エネルギー密度Ws[W/cm2](Ws=Is2×Rs)が2×10-3[W/cm2]を超えた場合、イオン性導電剤入PVDFが単時間で絶縁破壊を起こし、エネルギー密度Ws[W/cm2]が2×10-3[W/cm2]以下になった場合は、イオン性導電剤入PVDFの連続通電に対する耐久性が飛躍的に延びる屈曲点を見出した。従って、本実施の形態5では、エネルギー密度Ws[W/cm2](Ws=Is2×Rs)が少なくとも2×10-3[W/cm2]以下になるように、高圧発生手段94から供給される帯電部91への印加電圧Vを制御している。これにより、樹脂材料に連続的に通電される電気エネルギーによる劣化を抑え、樹脂材料の耐久性を確保することができる。
【0129】
これら一連の印加電圧Vの制御は、制御器95によって行われているが、その他にも以下の制御を行う。帯電部91の放電電極101と接地極板102との間にコロナ放電として流れる電流Iが一定となるように高圧発生手段94から供給される帯電部91への印加電圧Vを制御している。これにより、帯電部91においてコロナ放電を発生させ空気中の浮遊粒子状物質を帯電させるために必要な電流Iを適正化する。すなわち、樹脂材料の抵抗が経年的に減少した場合は、電流Iが一定となるように印加電圧Vを減少させるため、不要に高い印加電圧Vをかけず、火花放電防止にさらに効果がある。一方、樹脂材料の抵抗が経年的に増加した場合は、電流Iが一定となるように印加電圧Vを増加させるが、この時でも樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]と印加電圧V[kV]との関係が、常にVmax>Vを満たすように制御される。具体的には、印加電圧V[kV]と樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]との差K=Vmax−Vが所定値(一例として1kV)以下になった場合、電流I一定制御ではなく、印加電圧V[kV]はそれ以上上昇させないようにする。ただし、この状態は、十分なコロナ放電量が得られていないため、集じん効率が低下するおそれがある。そこで、印加電圧V[kV]と樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]との差K=Vmax−Vが所定値以下になった場合、制御器より警報信号が出力されるようにしている。これにより、樹脂材料の抵抗が経年的に変化した場合、その状況を知らしめることで樹脂材料の交換メンテナンス時期を的確に把握することができる。
【0130】
図11に示すように、帯電部91の放電電極101は、接地極板102に平行に配置された金属板の端面に突起101aを長手方向に複数個並べたもので、これにより、コロナ放電の効率が向上し、帯電部91で同じコロナ放電量を得る場合でも、帯電部91への印加電圧V[kV]を下げることができ、火花放電を確実に防止することができる。本実施の形態5では、接地極板102と放電電極101との距離D[mm]が、放電電極101の複数の隣り合う突起101aの間隔H[mm]に対し、H/D=1.0〜1.5の範囲に設定されている。このH/Dの値は、大きすぎるとコロナ放電の単位面積当りの密度が低くなり効率が低下し、小さすぎても隣り合う突起101a同士のコロナ放電が干渉してかえって効率が低下する。本発明者らは、H/D=1.0〜1.5の範囲がコロナ放電の効率が良好であることを見出し、より好ましくはH/D=1.2〜1.3が最適である。これにより、コロナ放電の効率がさらに向上し、帯電部91で同じコロナ放電量を得る場合でも、帯電部91への印加電圧V[kV]をさらに下げることができ、火花放電をさらに確実に防止することができる。
【0131】
帯電部91および集じん部92における火花放電は、一定の空気の流れがある場合は起きにくく、空気の流れがない場合は起きやすい傾向にある。これは、空気の流れがない場合はコロナ放電が常に一定の経路で発生し、電子なだれ現象から火花放電に成長しやすいためである。そこで、本実施の形態5では、帯電部91および集じん部92に空気を流した場合のみ帯電部91および集じん部92への高圧発生手段94からの高電圧印加を行い、帯電部91および集じん部92に空気の流れがない場合は帯電部91および集じん部92への高圧発生手段94からの高電圧印加を停止させている。具体的には、運転時に集じん部92近傍に取り付けられた風速センサ96が所定風速(一例として1m/s)を超える風速を検知した時に、帯電部91および集じん部92への高圧発生手段94からの高電圧印加を行い、運転中に送風手段93の故障やダクト90内の異物による閉塞などが発生し、風速センサ96が所定風速(一例として1m/s)以下を検知した時は、帯電部91および集じん部92への高圧発生手段94からの高電圧印加を停止させる。これにより、火花放電をより確実に防止することができるものである。なお、空気の流れの有無を検出する手段としては、ダクト90内の異物による閉塞などが考えにくい場合は、送風手段93の停止もしくは回転数低下のみを検知すればよいので、風速センサ96を使用せず、送風手段93の電動機93aの回転数を検知して判断してもよい。この場合は、コストを安価にすることができる。
【0132】
つぎに、本実施の形態5において、集じん部92の火花放電を防止する手段について説明する。集じん部92の荷電極板103表面には、実施の形態1〜3と同様の手段で、荷電極板103を被覆する樹脂フィルム(図示せず)が貼り付けられている。あるいは、樹脂フィルムに代わって、実施の形態4と同様の手段で、樹脂材料がコーティングされていてもよい。通常、荷電極板103が金属板の生地のままであると、空気の絶縁破壊が起きた時に、その箇所の空気の電気抵抗が限りなくゼロに近づき、集中して電流が流れ火花放電が発生する。一方、荷電極板103の表面に樹脂材料をフィルム被覆またはコーティングした場合は、もし、空気の絶縁破壊が起き、その箇所の空気の電気抵抗が限りなくゼロに近づいた時でも、樹脂材料の抵抗が直列にあるため、他の箇所の抵抗(空気抵抗+樹脂抵抗)と比べて抵抗値の差が少なく、電流を分散させ一箇所に集中して電流が流れずに火花放電の発生を防止することができる。集じん部92の役割は、荷電極板103と接地極板104との間に発生した電界によって、正電位に帯電した浮遊粒子状物質がクーロン力により接地電極104(負極)に付着、捕集させるもので、帯電部91と違いコロナ放電を行う必要がないため、前述の樹脂材料の電気抵抗は所定値(一例として面積抵抗率Rs=3×106[Ω・cm2])以上であれば火花放電を防止する効果を奏する。
【0133】
もし、樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]が低く、高圧発生手段94から供給される集じん部92への印加電圧V[kV]より低い場合は、前述のように空気の絶縁破壊が起きた時に、その箇所の空気の電気抵抗が限りなくゼロに近づき、樹脂材料へ直接印加電圧V[kV]と同等の電圧がかかることになり、樹脂材料が絶縁破壊を起こして穴があき、結局は樹脂材料がない場合と同じ状況となり、火花放電を防止することができない。したがって、本実施の形態5では、樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]と、高圧発生手段94から供給される集じん部92への印加電圧V[kV]との関係が、常にVmax>Vを満たすように、高い絶縁破壊電圧Vmax[kV]の樹脂材料を選定するとともに、印加電圧V[kV]が絶縁破壊電圧Vmax[kV]を超えないような制御を制御器95によって行っている。これにより、樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]が高いため、火花放電を確実に防止することができる。
【0134】
以上のことから、本実施の形態5における一例としての設計最適値を以下に示す。
[帯電部の接地極板]
樹脂フィルムの体積抵抗率ρ=5×1010[Ω・cm]
樹脂フィルムの厚さt=200[μm]
樹脂フィルムの面積抵抗率Rs=109[Ω・cm2
樹脂フィルムの絶縁破壊電圧Vmax=10[kV]
樹脂フィルムに流れる電気のエネルギー密度Ws=5×10-4[W/cm2
[帯電部の放電電極]
隣り合う突起の間隔H=10[mm]
接地極板と放電電極との距離D=8[mm]
帯電部への印加電圧V=7[kV]
[集じん部の荷電極板]
樹脂フィルムの体積抵抗率ρ=1012[Ω・cm]
樹脂フィルムの厚さt=100[μm]
樹脂フィルムの面積抵抗率Rs=1010[Ω・cm2
樹脂フィルムの絶縁破壊電圧Vmax=15[kV]
接地極板と荷電極板との距離D=6[mm]
集じん部への印加電圧V=6[kV]
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明は、空気中の浮遊粒子状物質に可燃性物質が含まれている場合に有効であり、火花放電が発生させずに、安全に捕集することができる電気集じん機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の実施の形態1の電気集じん機を示す構成図
【図2】同帯電部と集じん部の詳細図
【図3】同フィルム被覆方法の断面図
【図4】本発明の実施の形態2のフィルム被覆方法の断面図
【図5】本発明の実施の形態3のフィルム被覆方法の断面図
【図6】本発明の実施の形態4の樹脂被覆の断面図
【図7】従来の電気集じん機の一例を示す図
【図8】電気集じん機の原理を示す図
【図9】本発明の実施の形態5の電気集じん機を示す構成図
【図10】同帯電部と集じん部の斜視図
【図11】同帯電部の放電電極詳細図((a)同図10のA方向矢視平面図、(b)同図10のB方向矢視側面図)
【符号の説明】
【0137】
1 帯電部
2 集じん部
3 送風手段
4 高圧発生手段
5 制御器
21 放電電極
22 接地極板
23 荷電極板
24 接地極板
31 金属板
32 フィルム
33 接着剤
41 金属板
42 フィルム
51 小孔
52 金属板
53 フィルム
61 金属板
62 樹脂
71 帯電部
72 集じん部
73 送風ファン
74 電子コントロールボックス
81 高電圧電源に接続された放電極
82 接地された金属板
83 高電圧電源に接続された金属板
84 接地された金属板
91 帯電部
92 集じん部
93 送風手段
94 高圧発生手段
95 制御器
96 風速センサ
101 放電電極
101a 突起
102 接地極板
103 荷電極板
104 接地極板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中の浮遊粒子状物質を帯電させる帯電部と、前記帯電部の下流側に配置され帯電された前記浮遊粒子状物質を捕集する集じん部と、前記帯電部と前記集じん部内に前記浮遊粒子状物質を流入させる送風手段と、前記浮遊粒子状物質を捕集するために前記帯電部と前記集じん部に高電圧を供給する高圧発生手段とを備え、前記帯電部は高電圧を印加する導電性物質の放電電極とアースに接続された導電性物質の接地極板とから構成され、前記接地極板を体積抵抗率が1010〜1013[Ω・cm]のフィルムで被覆した電気集じん機。
【請求項2】
フィルムの厚みを50[μm]〜400[μm]とした請求項1記載の電気集じん機。
【請求項3】
帯電部の接地極板の端部も覆われるようにフィルムで被覆した請求項1または2記載の電気集じん機。
【請求項4】
フィルムを接着剤を介して被覆した請求項1〜3いずれか記載の電気集じん機。
【請求項5】
帯電部の接地極板をフィルムで両側から覆い、前記接地極板の周囲を熱によってフィルム同士を溶かして接着させた請求項1〜4いずれか記載の電気集じん機。
【請求項6】
帯電部の接地極板として、金属板の表面に穴の開いた金属板を使用した請求項5記載の電気集じん機。
【請求項7】
帯電部の接地極板に、体積抵抗率が1010〜1013[Ω・cm]の樹脂をコーティングした請求項1記載の電気集じん機。
【請求項8】
集じん部は高電圧を印加する導電性物質の荷電極板とアースに接続された導電性物質の接地極板から構成され、集じん部の荷電極板を体積抵抗率が109[Ω・cm]以上のフィルムで被覆した請求項1〜7いずれか記載の電気集じん機。
【請求項9】
フィルムの厚みを30[μm]〜400[μm]とした請求項8記載の電気集じん機。
【請求項10】
荷電極板の端部も覆われるようにフィルムで被覆した請求項8または9いずれか記載の電気集じん機。
【請求項11】
フィルムを接着剤を介して被覆した請求項8〜10いずれか記載の電気集じん機。
【請求項12】
集じん部の荷電極板をフィルムで両側から覆い、前記荷電極板の周囲を熱によってフィルム同士を溶かして接着させた請求項8〜10いずれか記載の電気集じん機。
【請求項13】
集じん部の荷電極板として、金属板の表面に穴の開いた金属板を使用した請求項12記載の電気集じん機。
【請求項14】
集じん部の荷電極板に、体積抵抗率が109[Ω・cm]以上の樹脂をコーティングした請求項項8記載の電気集じん機。
【請求項15】
コーティングの厚みを100[μm]〜400[μm]とした請求項7または14記載の電気集じん機。
【請求項16】
帯電部または集じん部内にて火花放電が発生した際に高電圧の印加を停止させる制御を備えた請求項1〜15いずれか記載の電気集じん機。
【請求項17】
高電圧の印加を停止後、制御器より警報信号が出力されるようにした請求項16記載の電気集じん機。
【請求項18】
帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、前記樹脂材料の厚み方向に流れる電流に対する単位面積当りの抵抗を108〜1010[Ω・cm2]とした請求項1〜17いずれか記載の電気集じん機。
【請求項19】
帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、前記樹脂材料は基材にイオン性導電剤を混ぜ込むことによって電気抵抗を調整した請求項18記載の電気集じん機。
【請求項20】
帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、前記樹脂材料の基材としてポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いた請求項18または19記載の電気集じん機。
【請求項21】
帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、前記樹脂材料の厚み方向に流れる電流に対する単位面積当りの抵抗Rs[Ω・cm2]と、前記樹脂材料の厚み方向に流れる単位面積当りの電流Is[A/cm2]とから算出される前記樹脂材料の厚み方向に流れる単位面積当りのエネルギー密度Ws[W/cm2](Ws=Is2×Rs)が2×10-3[W/cm2]以下になるように、高圧発生手段から供給される前記帯電部への印加電圧Vを制御した請求項20記載の電気集じん機。
【請求項22】
帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、前記樹脂材料の厚み方向に流れる電流に対する単位面積当りの抵抗Rs[Ω・cm2]に対し、前記樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]が、Vmax≧4(logRs)−28を満たす範囲に設定された請求項20または21記載の電気集じん機。
【請求項23】
帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、前記樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]と、高圧発生手段から供給される前記帯電部への印加電圧V[kV]との関係が、常にVmax>Vを満たすように前記印加電圧V[kV]が設定された請求項22記載の電気集じん機。
【請求項24】
帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、前記帯電部の放電電極と前記接地極板との間にコロナ放電として流れる電流が一定となるように高圧発生手段から供給される前記帯電部への印加電圧Vが制御された請求項23記載の電気集じん機。
【請求項25】
帯電部の接地極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、前記帯電部の放電電極と前記接地極板との間にコロナ放電として流れる電流を一定にするために設定された前記帯電部への印加電圧V[kV]と、前記樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]との差K=Vmax−Vが所定値以下になった場合、制御器より警報信号が出力されるようにした請求項24記載の電気集じん機。
【請求項26】
帯電部の放電電極は、接地極板に平行に配置された平面形状の金属板で、前記金属板の端面に複数の突起を設けた請求項18〜25いずれか記載の電気集じん機。
【請求項27】
帯電部に平行配置された接地極板と放電電極との距離D[mm]が、前記放電電極の複数の隣り合う突起の間隔H[mm]に対し、H/D=1.0〜1.5の範囲に設定された請求項26記載の電気集じん機。
【請求項28】
運転中に送風手段が停止した場合、高圧発生手段から帯電部および集じん部へ供給される高電圧の印加を停止させる請求項18〜27いずれか記載の電気集じん機。
【請求項29】
帯電部または集じん部に空気の流れを検知する風速センサを設け、運転中に前記風速センサが検知する風速が所定値以下になった場合、高圧発生手段から帯電部および集じん部へ供給される高電圧の印加を停止させる請求項18〜27いずれか記載の電気集じん機。
【請求項30】
集じん部の荷電極板を被覆するフィルムまたはコーティングする材料は樹脂材料であって、前記樹脂材料の絶縁破壊電圧Vmax[kV]と、高圧発生手段から供給される前記集じん部への印加電圧V[kV]との関係が、常にVmax>Vを満たすように前記印加電圧V[kV]が設定された請求項8〜29いずれか記載の電気集じん機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−207168(P2008−207168A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205287(P2007−205287)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】