説明

電気音響変換器用振動板およびその製造方法

【課題】 比重の増加を防いで、高剛性を実現する電気音響変換器用振動板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 水酸化アルミニウム1Aをパルプ繊維に添加して形成したスラリーを抄き上げた湿紙1を、加熱、加圧、乾燥して形成した電気音響変換器用振動板であって、湿紙1を加熱、加圧、乾燥する過程で、水酸化アルミニウム1Aの結晶水の解離反応で分離した結晶水による水発泡により、パルプ繊維内部に気泡1Bを発生して形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響機器の一種であるスピーカやマイクロホン等の電気音響変換器用振動板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカ等の電気音響変換器用振動板に要求される物性としては、比弾性率や比曲げ剛性率が大きいことなどがある。また、振動板素材としては、合成樹脂や紙などを主体としたものがある。特に、紙製の振動板には、質量が軽く、設計の自由度も高く、コスト面でも有利となるなどのメリットがあるため、広く用いられている。また、振動板の制動の向上、曲げ剛性の向上、難燃性の向上などのために、合成樹脂や紙に無機物や有機物を混入させて、いわゆるフィラー材とする手法もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、振動板の高剛性のために次の方法がある。つまり、振動板を製造する際の抄紙工程で、発泡剤であるエクスパンセル(登録商標)の顆粒粒子を、パルプ繊維を含むスラリーに混ぜ、このスラリーの抄紙により得た湿紙を加熱して、発泡剤をガス化する技術がある。これにより、COが発生し、COの気泡がパルプ繊維間に発生してパルプ繊維が膨張する。しかし、この場合、発泡剤のために紙の比重が大きくなり、振動板には不適当であるという課題がある。
【0004】
本発明は、前記の課題を解決し、比重の増加を防いで、高剛性を実現する電気音響変換器用振動板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、請求項1の発明は、結晶水を含む化合物をパルプ繊維に添加して形成したスラリーを抄き上げた湿紙を、加熱、加圧、乾燥して形成した電気音響変換器用振動板であって、前記湿紙を加熱、加圧、乾燥する過程で、前記化合物の結晶水の解離反応で分離した結晶水による水発泡により、前記パルプ繊維内部に気泡を発生して形成したことを特徴とする電気音響変換器用振動板である。
請求項2の発明は、請求項1に記載の電気音響変換器用振動板において、前記結晶水を含む化合物が水酸化アルミニウムであることを特徴とする。
請求項3の発明は、結晶水を含む化合物をパルプ繊維に添加してスラリーを形成し、前記スラリーを抄き上げた湿紙を、加熱、加圧、乾燥する過程で、前記化合物の結晶水の解離反応で分離した結晶水による水発泡により、前記パルプ繊維内部に気泡を発生することを特徴とする電気音響変換器用振動板の製造方法である。
請求項4の発明は、請求項3に記載の電気音響変換器用振動板の製造方法において、前記結晶水を含む化合物が水酸化アルミニウムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、水酸化アルミニウムなどの結晶水を含む化合物をパルプ繊維に添加し、この化合物の結晶水による水発泡により、パルプ繊維内部に気泡を発生するので、電気音響変換器用振動板の胴体部の質量を変えずに、この胴体部の厚みを大きくすることができるので、高剛性な振動板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
つぎに、本発明の実施形態について詳しく説明する。本実施形態では、電気音響変換器用振動板としてスピーカの振動板を例として説明する。本実施形態による振動板の製造において、パルプ繊維を含むスラリーに水酸化アルミニウム(Al(OH))を添加する。水酸化アルミニウムは、白色粉末の結晶であり、約200[℃]までは安定している。それ以上の温度になると、結晶水の解離反応が起こり、66[%]のAlと、34[%]の結晶水とに分かれる。
【0008】
本実施形態による振動板は、パルプ繊維とともに水酸化アルミニウムを含むスラリーから、湿式抄造法により製造される。つまり、図1(a)に示すように、水酸化アルミニウム1Aと混抄して得た湿紙1を、210[℃]に加熱された下部型11と上部型12との間に入れ、下部型11と上部型12とにより加熱、加圧、および乾燥する。このとき、湿紙1の中の水分が水蒸気となり、水素結合が進むとともに、一度、下部型11および上部型12の温度が低下する。この時点では、図1(b)に示すように、湿紙1から水分が除かれた原紙2中の水酸化アルミニウム1Aは反応しない。この後、下部型11および上部型12の温度が210[℃]に上昇した時点で、水酸化アルミニウム1Aの結晶水の解離反応が始まり、発泡現象が生じる。つまり、図1(c)に示すように、分離された結晶水による水発泡で、パルプ繊維中に気泡1Bが発生する。この様子を図2の電子顕微鏡写真に示す。図2では、「水酸化AL発泡」と記述された写真が、発泡現象が発生したパルプ繊維を示し、「ノーマル」と記述された写真が、発泡現象の無い従来のパルプ繊維を示す。つまり、本実施形態においては、水発泡による気泡で、パルプ繊維による質量を変えずに、振動板の厚みを大きくすることができる。パルプ繊維固形分に対して、水酸化アルミニウム1Aを10〜20[%]添加することにより、厚みを1.3〜1.4倍にすることができる。こうした原紙2から振動板が製造される。
【0009】
本実施形態による振動板を用いたスピーカと、水発泡の無い従来の振動板を用いたスピーカとの比較を、次の表1に示す。なお、表1では、「ノーマル」と記載された4種類の試料が発泡現象の無い、従来のパルプ繊維を用いたスピーカの特性を示し、「AL仕様」と記載された4種類の試料が本実施形態による振動板を用いたスピーカの特性を示す。
【0010】
【表1】

【0011】
表1に示すように、本実施形態による振動板は、次の通りである。
抄紙…水酸化アルミニウム20[%]添加
胴体仕様
材質…BKP(Bleached Kraft Pulp)
含浸剤…フッ素系
充填剤…なし
胴体完成重量…4.6[g]
胴体厚み…0.51[mm]
【0012】
また、表1の結果から、本実施形態による振動板と、水発泡の無い従来の振動板との比較は次のとおりである。なお、比較結果は、括弧内の値で示してある。
物性
密度…0.487[g/cm] (20.6[%]ダウン)
ヤング率…2.632[Gpa] (24.8[%]ダウン)
音速…2322.8[m/s] (2.7[%]ほぼ同じ)
比曲げ剛性…4.77 (22.3[%]アップ)
内部損失(tanδ)…0.0279 (5.3[%]アップ)
【0013】
本実施形態による振動板を用いたスピーカの周波数特性を図3に示し、従来の振動板の周波数特性を図4に示す。これらの周波数特性から明らかなように、本実施形態による振動板によれば、従来に比べて、特に周波数10[kHz]以上の高域での特性が大幅に改善されている。
【0014】
このように、本実施形態による振動板を用いたスピーカは、従来のプレスコーン紙を用いたスピーカでは得ることができない諸特性を持ち、前記の特性に加えて、例えば高音がクリアである。本実施形態による振動板を用いたスピーカは、プレスコーン紙を用いたスピーカとノンプレスコーン紙を用いたスピーカとの中間に位置する音質などの特性を持つ。
【0015】
以上、本発明の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成は本実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、本発明に含まれる。本実施形態では、結晶水を含む化合物として水酸化アルミニウムを用いたが、特にこれに限定されることはない。たとえば、
MgCl・6HO 塩化マグネシウム
BaCl・2HO 塩化バリウム
Al・3HO 水酸化アルミニウム
AlK(SO・12HO カリミョウバン
CaSO・2HO 二水せっこう
MgCl・KCl・6HO カーナリット
などを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態による振動板の製造を説明する説明図である。
【図2】パルプ繊維中に気泡の発生する様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】本実施形態による振動板を用いたスピーカの周波数特性を示す図である。
【図4】従来の振動板を用いたスピーカの周波数特性を示す図である。
【符号の説明】
【0017】
1 湿紙
1A 水酸化アルミニウム
1B 気泡
2 原紙
11 下部型
12 上部型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶水を含む化合物をパルプ繊維に添加して形成したスラリーを抄き上げた湿紙(1)を、加熱、加圧、乾燥して形成した電気音響変換器用振動板であって、
前記湿紙(1)を加熱、加圧、乾燥する過程で、前記化合物の結晶水の解離反応で分離した結晶水による水発泡により、前記パルプ繊維内部に気泡(1B)を発生して形成したことを特徴とする電気音響変換器用振動板。
【請求項2】
前記結晶水を含む化合物が水酸化アルミニウム(1A)であることを特徴とする請求項1に記載の電気音響変換器用振動板。
【請求項3】
結晶水を含む化合物をパルプ繊維に添加してスラリーを形成し、
前記スラリーを抄き上げた湿紙(1)を、加熱、加圧、乾燥する過程で、前記化合物の結晶水の解離反応で分離した結晶水による水発泡により、前記パルプ繊維内部に気泡(1B)を発生する、
ことを特徴とする電気音響変換器用振動板の製造方法。
【請求項4】
前記結晶水を含む化合物が水酸化アルミニウム(1A)であることを特徴とする請求項3に記載の電気音響変換器用振動板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−54572(P2006−54572A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233371(P2004−233371)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000112565)フオスター電機株式会社 (113)
【Fターム(参考)】