説明

電気音響変換器用振動系部品の製造方法およびこの方法で製造した電気音響変換器用振動系部品

【課題】 製品の寸法と形状の自由度と、使用し得るポリマー溶液の組成上の選択の自由度の高いエレクトロスピニング法を共通に利用して、電気音響変換器用振動系の各種部品を簡便に製造し得る方法を提供する。
【解決手段】 所望部品の製造用ポリマー溶液を収容する容器を、所望部品の所望の表面形状を表面に備える型体の表面に対向させ、ポリマー溶液を高電圧の例えばプラスに帯電させ、型体表面をマイナスに帯電させることにより、ポリマー溶液を出口先端から繊維化または滴化させ、型体に向けて飛散するポリマーを所望表面形状の表面に付着させ、所望の形状と厚さに堆積させて得られる不織布またはフィルム状物質またはそれらの中間体を所望の部品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は振動板を含む電気音響変換器の振動系部品を、エレクトロスピニング法による製膜工程を利用した成形体として製造する方法、およびこの方法により製造した成形体でなる電気音響変換器用振動系部品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な電気音響変換器において振動板の振動に連携する振動系を構成する部品には、振動板以外に、エッジ、ダンパー、制動材、ボイスコイル用のボビンが含まれ、これら部品の製造に当たっては部品に応じて織布、不織布、シート状又はフィルム状の材料から選んだいずれかを加熱或いは非加熱の状態で所望の形状に成形した後、夫々の寸法に切り出す。特に、エッジの場合には所望の含浸剤を含浸した織布シートの加熱成形、未加硫ゴムの加熱成形或いは加熱発泡成形が行われ、ダンパーの場合には含浸織布の加熱成形が行われ、振動板においてはフィルム材の加圧成形が行われ、制動材では通気性のある発泡材が用いられ、ボビンにはシート材料の切り出しと成形が行われる。つまり、同じ振動系であっても部品毎に異なる用途に応じて要求される物性が異なり、それに応じて使用可能な材料の厚さ、密度と材質が変わり、適合する成形等の加工法も変化する。
【0003】
振動系の各部品自体もまた、スピーカーの用途に応じて物性、形状等が変化し、これら変化に応じて同じ種類の部品であっても製造方法は変化するが、この点に対処して、例えば振動板の製造方法において、成形形状の自由度を大きくするために、熱可塑性樹脂繊維を含む不織布を当該繊維の軟化温度より高く、溶融温度より低い温度で、キャビティ厚を変化させた金型により熱プレス成形する振動板製造方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、使用する不織布はシート状であり、厚さ、密度ならびに材質は一定のものであるため、金型のキャビティ厚の大きな部位でシート状不織布が可能とする厚さの増加には限度があり、成形形状の自由度も限定的である。
【0004】
一方、振動板を初めとする電気音響変換器の振動系部品の材料として近時多用される不織布の製造方法に、エレクトロスピニング法があることが知られている(非特許文献1参照)。このエレクトロスピニング法はポリマー溶液に例えばプラスの高電圧を印加し、対向する電極板をマイナスに帯電させると、電圧条件等により溶液は電極に向かって円錐形あるいは球形となり、その先端から繊維化あるいは滴化された溶液が電極板の全面に飛び散り、堆積して不織布あるいはフィルム、またはそれらの中間体を形成するものであり、堆積の厚さは1μmから10cm程度までの幅を持つので、成形形状の自由度は格段に高いと思われる。しかし、電気音響変換器用振動系部品の製造のために、これまでエレクトロスピニング法によって得られたシート状の不織布を用いることはあっても、振動系部品のそれぞれの厚さや形状に応じて振動系部品をエレクトロスピニング法で直接製造する試みは未だなされていない。
【特許文献1】特開平6−133392号公報
【非特許文献1】「エレクトロスピニング最前線−ナノファイバー創製への挑戦−」山下義祐著、株式会社繊維社企画出版、大阪市、2007年11月20日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように電気音響変換器用振動系部品は互いに異なる形状、寸法、物性等を持つためこれら条件に合わせて選ばれる工程ないし方法で製造されており、また、同種の部品であっても変換器の用途の変化と共に部品に要求される条件も変わり、その都度工程ないし方法を変えて製造しなければならないが、少なくとも復数種の部品に共通して採用可能な製造方法は現存しない。原材料についても各種形状、寸法の部品を画一的なシート材或いはフィルム材から切り出しているため、切り屑の発生も多く、時間的、資源的なコストの軽減は困難である。また、画一的なシート或いはフィルム材を使用する場合、成形上の自由度にも限度があり、部品に要求される厚さが大きい場合に対応できない。
【0006】
本発明はこれらの問題を解決するために提案されたもので、本来シート状不織布の製造においてシートの厚さを含む3次元形状の自由度の高い、また各種物性に適合するための原材料と添加物の選択の自由度が高いエレクトロスピニング法を利用して、電気音響変換器用振動系の各種部品を製造する方法と、この方法で製造された各種部品とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明による請求項1の電気音響変換器用振動系部品の製造方法は、電気音響変換器用振動系の所望の部品を製造するためのポリマー溶液を収容しかつ溶液出口を有する容器を用意し、所望部品の所望の表面形状を有する型体をポリマー溶液容器の溶液出口に対向させて配置し、ポリマー溶液にプラスまたはマイナスの高電圧を印加すると共に型体の所望表面形状部分をマイナスまたはプラスに帯電させることにより、溶液出口の先端から繊維化または滴化したポリマーを型体の所望表面形状部分上に所定の厚さまで堆積させる各工程でなり、エレクトロスピニング法により所望の表面形状で所定の厚さに形成した成形体を所望の部品とすることを特徴とする。
本発明による請求項2の電気音響変換器用振動系部品の製造方法は、請求項1において、型体として、平坦な表面を有する平板と、所望部品の所望表面形状を表面に有する金型と、所望部品の所望表面形状ならびに当該部品に連接させる他の部品のインサート部を表面に有する金型とのうちの一つを選択する工程を含むことを特徴とする。
本発明による請求項3の電気音響変換器用振動系部品の製造方法は、請求項1または2において、繊維化または滴化ポリマーを所定の厚さまで堆積させる工程に続いて、別のポリマー溶液を収容した容器を用意し、以下の各工程を反復することにより、製造される成形体を多層構造とすることを特徴とする。
本発明による請求項4の電気音響変換器用振動系部品の製造方法は、請求項1から3のいずれかにおいて、マイナスまたはプラスに帯電させた型体に対して繊維化または滴化した第1のポリマー溶液を所定の厚さに堆積させた後、徐々に組成の異なる第2のポリマー溶液による堆積に切り替えることにより、製造される成形体を傾斜構造とすることを特徴とする。
本発明による請求項5の電気音響変換器用振動系部品の製造方法は、請求項1から3のいずれかにおいて、マイナスまたはプラスに帯電させた型体に対して繊維化または滴化したポリマー溶液を所定の厚さに堆積させた後、徐々に密度の異なる同一のポリマー溶液による堆積に切り替えることにより、製造される成形体に傾斜密度を持たせることを特徴とする。
本発明による請求項6の電気音響変換器用振動系部品の製造方法は、請求項1において、型体の所望表面形状部分をマイナスまたはプラスに帯電させる工程が、当該表面形状部分のうちの特定部分をプラスまたはマイナスに帯電させる工程を含み、マイナスまたはプラス帯電部分への第1のポリマー溶液の繊維化または滴化堆積工程に引続いて、プラスまたはマイナス帯電させた特定部分を改めてマイナスまたはプラスに帯電させて組成の異なる第2のポリマー溶液を繊維化または滴化させ堆積させる工程を含むことを特徴とする。
本発明による請求項7の電気音響変換器用振動系部品の製造方法は、請求項1において、型体の所望表面形状部分をマイナスまたはプラスに帯電させる工程が、当該表面形状部分のうちの特定部分をプラスまたはマイナスに帯電させる工程を含み、マイナスまたはプラス帯電部分への第1の所定厚さまでのポリマー溶液の堆積工程に引続いて、プラスまたはマイナス帯電させた特定部分を改めてマイナスまたはプラスに帯電させ、同一のポリマー溶液による第2の所定厚さまでの堆積を行う工程を含むことを特徴とする。
本発明による請求項8の電気音響変換器用振動系部品の製造方法は、請求項1から7のいずれかにおいて、ポリマー溶液を収容した容器を用意する工程が所望部品の所望の物性を決める無機フィラーを添加する工程を含むことを特徴とする。
また、本発明による請求項9の電気音響変換器用振動系部品は、電気音響変換器用振動系の所望の部品を製造するためのポリマー溶液を収容しかつ溶液出口を有する容器を用意し、所望部品の所望の表面形状を有する型体をポリマー溶液容器の溶液出口に対向させて配置し、ポリマー溶液にプラスまたはマイナスの高電圧を印加すると共に型体の所望表面形状部分をマイナスまたはプラスに帯電させることにより、溶液出口の先端から繊維化または滴化したポリマーを型体の所望表面形状部分上に所定の厚さまで堆積させる各工程を介して、エレクトロスピニング法により所望の表面形状で所定の厚さに形成した成形体でなることを特徴とする。
本発明による請求項10の電気音響変換器用振動系部品は、請求項9において、型体として、平坦な表面を有する平板と、所望部品の所望表面形状を表面に有する金型と、所望部品の所望表面形状ならびに当該部品に連接させる他の部品のインサート部を表面に有する金型とのうちの一つを選択する工程を含んで形成された成形体でなることを特徴とする。
本発明による請求項11の電気音響変換器用振動系部品は、請求項9または10において、繊維化または滴化ポリマーを所定の厚さまで堆積させる工程に続いて、別のポリマー溶液を収容した容器を用意し、以下の各工程を反復することにより、製造される成形体を多層構造としたことを特徴とする。
本発明による請求項12の電気音響変換器用振動系部品は、請求項9から11のいずれかにおいて、マイナスまたはプラスに帯電させた型体に対して繊維化または滴化した第1のポリマー溶液を所定の厚さに堆積させた後、徐々に組成の異なる第2のポリマー溶液による堆積に切り替えることにより、製造される成形体を傾斜構造としたことを特徴とする。
本発明による請求項13の電気音響変換器用振動系部品は、請求項9から11のいずれかにおいて、マイナスまたはプラスに帯電させた型体に対して繊維化または滴化したポリマー溶液を所定の厚さに堆積させた後、徐々に密度の異なる同一のポリマー溶液による堆積に切り替えることにより、製造される成形体に傾斜密度を持たせたことを特徴とする。
本発明による請求項14の電気音響変換器用振動系部品は、請求項9において、型体の所望表面形状部分をマイナスまたはプラスに帯電させる工程が、当該表面形状部分のうちの特定部分をプラスまたはマイナスに帯電させる工程を含み、マイナスまたはプラス帯電部分への第1のポリマー溶液の繊維化または滴化堆積工程に引続いて、プラスまたはマイナス帯電させた特定部分を改めてマイナスまたはプラスに帯電させて組成の異なる第2のポリマー溶液を繊維化または滴化させ堆積させる工程を含んで形成された成形体でなることを特徴とする。
本発明による請求項15の電気音響変換器用振動系部品は、請求項9において、型体の所望表面形状部分をマイナスまたはプラスに帯電させる工程が、当該表面形状部分のうちの特定部分をプラスまたはマイナスに帯電させる工程を含み、マイナスまたはプラス帯電部分への第1の所定厚さまでのポリマー溶液の堆積工程に引続いて、プラスまたはマイナス帯電させた特定部分を改めてマイナスまたはプラスに帯電させ、同一のポリマー溶液による第2の所定厚さまでの堆積を行う工程を含んで形成された成形体でなることを特徴とする。
本発明による請求項16の電気音響変換器用振動系部品は、請求項9から15のいずれかにおいて、ポリマー溶液を収容した容器を用意する工程に所望部品の所望の物性を決める無機フィラーを添加する工程を含んで形成された成形体でなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電気音響変換器用振動系部品は、製品に求められる形状、厚さを含めた寸法ならびに物性の点で自由度の高いエレクトロスピニング法による不織布、フィルム材またはそれらの中間体を含む成形体として形成されるので、振動系に含まれる特定の部品に求められる物性の生成に必要な組成のポリマー溶液を、特定部品の所望の表面形状を持つ型体に対してエレクトロスピニング法により繊維化または滴化させて飛散させ、所望の厚さまで堆積させることによって得られる成形体が同時に特定部品を形成することになる。また、必要に応じて別の組成のポリマー溶液と、別の表面形状をもつ型体とを組合せて用いれば、同じエレクトロスピニング法によって別の振動系部品の製造を行なうことができる。
【0009】
型体として平坦表面や凹凸表面のものに加えて、連結する他の形成済み部品をインサートするインサート部を有するものを用いれば、未形成部品をなす成形体の形成と同時にインサート成形を行なえる。必要に応じて組成の異なるポリマー溶液を用い、本発明の製造方法の各工程を反復して行うことにより、多層構造の成形体でなる部品が得られる。例えば異なるポリマー溶液による2層構造において一方のポリマーの堆積を徐々に他方のポリマーの堆積に切り替えれば傾斜構造とすることができる。同様にして同じポリマー溶液で密度を傾斜させることもできる。また、製造すべき部品の一部を他の部分と異なる組成のポリマー溶液で形成する必要があれば、当該一部に対応する型体の一部を他部分と逆極性に帯電させて当該一部を除く他部分を先ず形成した後、対応一部のみの極性を変えて帯電させ、当該一部を形成することができる。この手法は部分的な厚さの変化に用いることもできる。製造すべき部品の選択は、使用するポリマー溶液を用意する際に、物性生成のための無機フィラーを添加することで容易に行なえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施するための基本的な実施例1〜3を図1〜3について説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は例えば平坦な平板状の振動板を製造する方法を実施する配列を略図的に示す。必要に応じて所定の物性を生成するための無機フィラーを添加して所望の振動板特性を生成し得る組成のポリマー溶液を用意する。このポリマー溶液を収容した容器11は、その底部の溶液出口11aを型体13の平坦な型面14の略中央に向けて配置される。それぞれ導電性の容器11と型体13は、例えば電圧30kVで電流量が1mAまでの高電圧発生器15に接続され、例えば容器11がプラスに、型体13がマイナスにそれぞれ帯電される。エレクトロスピニングが生じる高電圧に達すると、容器11を介してプラスに帯電されたポリマー溶液は容器11の溶液出口11aから出て例えば円錐形の液滴を形成し、その液滴先端12から細流となって流出し、ナノファイバー状態に繊維化されて、飛行線16で示すように、マイナスに帯電された型体13の平坦型面14の全面に向けて飛散し、平坦型面14上に付着し、ポリマー溶液と帯電が続く限り、換言すれば所望の厚さに達するまで、繊維化されたポリマーは堆積して不織布となり、平板状の振動板が形成される。
【0012】
ここで不織布として形成された平板状の振動板は、必要に応じプレス成型あるいは加熱成型を行って密度や形状の調整、部品間結合が図られる。上面から見た形状つまり外形については、平板状振動板には長方形、楕円形、トラック形のものが含まれるが、型体13のマイナスまたはプラス帯電をこれらのうち所望の形状の部分に対してのみ行うか、型体13の外形そのものを所望の形状として全体を帯電させれば、所望の外形を有する振動板を形成することができる。ポリマー溶液の容器11と型体13の帯電極性は互いに逆極性であれば良く、一方をプラスにすれば他方はマイナスとすることは言うまでもない。
【0013】
上記はエレクトロスピニング法の典型として、溶液出口11aにおけるポリマー溶液の円錐形液滴の形成によるポリマー溶液の繊維化飛散と結果的な不織布の形成を記載するものであるが、本発明はこのような不織布形成の態様に限定されない。すなわち、溶液出口における液滴の形状は、ポリマー溶液容器と型体間、つまり電極間の印加電圧や電極間距離、ポリマー溶液に使用した溶剤の乾燥速度等の各種条件が変われば円錐形とはならず、たとえば電圧が所定値より低いとき、電極間距離が近いとき、溶剤乾燥速度が遅いとき等にはほぼ球形の滴状となり、その場合にはポリマー溶液は繊維化せず、滴化されて飛散するため、型体上に形成される成形体もフィルム状物質、あるいは不織布とフィルム状物質の中間体となることが知られている。従って電気音響変換器用振動系の所望部品に適した成形体の種類に応じて、エレクトロスピニング法の施行条件を適切に選択すれば、所望の種類の成形体が得られる。
【0014】
上記実施例1は1種類のポリマー溶液による単層構造の成形体の製造を記載するが、本発明は単層構造のものに限定されない。すなわち、第1の組成のポリマー溶液による所定の厚さまでの堆積を完了した後、第2の組成のポリマー溶液を収容する容器を用意して以後の工程を反復して行えば、組成の異なるポリマーによる2層構造の成形体が得られる。同様にして所望数の異なるポリマー溶液による堆積を繰り返して行えば、多層構造の成形体が得られる。
【0015】
また、例えば2層構造とする時、第1のポリマー溶液の繊維化ないし滴化と堆積を、第2のポリマー溶液の繊維化ないし滴化と堆積に徐々に切り替えることによって、傾斜構造を持った成形体とすることができる。同様にして、第1と第2のポリマー溶液を密度を変えた同一のものとし、これら溶液の堆積を徐々に切り替えれば、傾斜密度を持った成形体が得られる。
【0016】
また、形成する部品の特定部分を他の部分とは異なる組成のポリマー溶液によるものとすることを要する場合には、型体13の特定部分はポリマー溶液と同じ極性に帯電し、他の部分を逆の極性に帯電して第1の組成のポリマー溶液によりエレクトロスピニングを行えば、特定部分の型体には同極性に帯電した繊維化ポリマーは付着しない。したがって他部に対する第1のポリマー溶液によるエレクトロスピニングの終了後、特定部分の帯電をポリマー溶液と逆極性に切り換え、他部の帯電を同極性に切り換えて、第2の組成を有するポリマー溶液によるエレクトロスピニングを行えば良い。この際、型体の特定部分と他部の帯電極性はそのままとし、第2のポリマー溶液の帯電を切り換えてエレクトロスピニングを行うこともできる。
【0017】
さらに、本発明の方法は、同一のポリマー溶液のエレクトロスピニングにより形成する部品の特定部分について他の部分とは厚さを変えることも可能とする。その場合も、型体13の特定部分は先ずポリマー溶液と同極性に帯電させ、ポリマー溶液と逆極性に帯電させた他の部分のみに対して第1の厚さまでの堆積を行い、次いで特定部分の帯電をポリマー溶液と逆極性に切り替えて第2の厚さまでの堆積を同一のポリマー溶液によって行えば良い。その際、他の部分の帯電極性を逆極性のままとしておけば、他の部分上の第1の厚さに第2の厚さの堆積が加算されることになるが、ポリマー溶液と同極性に切り替えれば第1の厚さが保たれる。
【実施例2】
【0018】
図2は本発明の第2の実施例を示す。この実施例2が実施例1と異なるのは、型体23として表面に凹形型面24を有する金型を用いる点のみである。他の部分は実施例1と同じであり、図1に用いた符号に10を加算して示す。図2において、凹形型面24は一例として、中央に円形のドーム部を有し、その周囲に環状の膨出部を持つ円形の振動板の内側の表面形状を備える。エレクトロスピニング法は実施例1の場合と全く同様にして行われる。
【実施例3】
【0019】
図3は本発明の第3の実施例を示し、この実施例3が実施例1と異なるのは、型体33として、例えば実施例2と同じ円形振動板の外側の表面形状でなる凸形型面34を有するとともに、円形振動板の中央ドーム部と環状膨出部との間の円形の接合部分に、結合他部品38の例として予め形成してある円筒形ボイスコイルを挿入する円筒溝でなるインサート部37を有する点であるが、他の部分は実施例1と同じであり、図1に用いた符号に20を加算して示す。この配列において、ボイスコイル上端を凸形型面34とほぼ面一に配置して実施例1と同様にエレクトロスピニング法を行なえば、凸形型面34上に付着する繊維化ポリマーはボイスコイル上端にも同時に付着し、堆積するから、ボイスコイルは振動板の所定位置に対して、振動板の形成と同時に、一体に結合される。
【0020】
上記した各実施例を通じて、電気音響変換器用振動系部品の例として振動板の製造についてのみ記載したが、エッジ、ダンパー、制動材、ボイスコイルボビン等の他の部品についてもそれぞれに必要な表面形状を持つ型体を選択し、夫々が求める物性に応じて組成の異なるポリマー溶液を選択して、記載した工程に沿ってエレクトロスピニング法を行えば所望の振動系部品が容易に得られることは理解されよう。
【0021】
使用するポリマー溶液には、限定はされないが、ケブラー(商標名)、ノーメックス(商標名)、ナイロン(商標名)、ポリフェニレンベンゾイミダゾール(PBI)、PET、PEN、PLA、ポリウレタン、PVA、PAN、PCL、PEO、PMMA、PS、PC、PEI、PI、SBS、熱可塑性エラストマーが含まれる。
【0022】
ポリマー溶液に添加し得る無機フィラーには、限定はされないが、上記ポリマー溶液に分散可能なフィラー、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、カーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、クレー、モンモリロナイトが含まれる。
【0023】
ポリマー溶液作成用の溶媒としては、例えばギ酸、硫酸、クロロフォルム、ヘキサフロロイソプロパノール(HFIP)、ギ酸とクロロフォルムの混合液、クロロフォルムとDMFの混合液、クロロフォルムとアセトンの混合液、ジクロロメタンとトリフルオロ酢酸の混合液等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による電気音響変換器用振動系部品の製造方法の実施例1における配置を略図的に示す図
【図2】本発明による電気音響変換器用振動系部品の製造方法の実施例2における配置を略図的に示す図
【図3】本発明による電気音響変換器用振動系部品の製造方法の実施例3における配置を略図的に示す図
【符号の説明】
【0025】
11、21、31 容器
11a、21a、31a 溶液出口
12、22、32 液滴先端
13、23、33 型体
14 平坦型面
15、25、35 高電圧発生器
16、26、36 繊維化ポリマーの飛行線
24 凹形型面
34 凸形型面
37 インサート部
38 結合他部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気音響変換器用振動系の所望の部品を製造するためのポリマー溶液を収容しかつ溶液出口を有する容器を用意し、所望部品の所望の表面形状を有する型体をポリマー溶液容器の溶液出口に対向させて配置し、ポリマー溶液にプラスまたはマイナスの高電圧を印加すると共に型体の所望表面形状部分をマイナスまたはプラスに帯電させることにより、溶液出口の先端から繊維化または滴化したポリマーを型体の所望表面形状部分上に所定の厚さまで堆積させる各工程でなり、エレクトロスピニング法により所望の表面形状で所定の厚さに形成した成形体を所望の部品とすることを特徴とする、電気音響変換器用振動系部品の製造方法。
【請求項2】
型体として、平坦な表面を有する平板と、所望部品の所望表面形状を表面に有する金型と、所望部品の所望表面形状ならびに当該部品に連接させる他の部品のインサート部を表面に有する金型とのうちの一つを選択する工程を含むことを特徴とする、請求項1記載の電気音響変換器用振動系部品の製造方法。
【請求項3】
繊維化または滴化ポリマーを所定の厚さまで堆積させる工程に続いて、別のポリマー溶液を収容した容器を用意し、以下の各工程を反復することにより、製造される成形体を多層構造とすることを特徴とする、請求項1または2記載の電気音響変換器用振動系部品の製造方法。
【請求項4】
マイナスまたはプラスに帯電させた型体に対して繊維化または滴化した第1のポリマー溶液を所定の厚さに堆積させた後、徐々に組成の異なる第2のポリマー溶液による堆積に切り替えることにより、製造される成形体を傾斜構造とすることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の電気音響変換器用振動系部品の製造方法。
【請求項5】
マイナスまたはプラスに帯電させた型体に対して繊維化または滴化したポリマー溶液を所定の厚さに堆積させた後、徐々に密度の異なる同一のポリマー溶液による堆積に切り替えることにより、製造される成形体に傾斜密度を持たせることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の電気音響変換器用振動系部品の製造方法。
【請求項6】
型体の所望表面形状部分をマイナスまたはプラスに帯電させる工程は、当該表面形状部分のうちの特定部分をプラスまたはマイナスに帯電させる工程を含み、マイナスまたはプラス帯電部分への第1のポリマー溶液の繊維化または滴化堆積工程に引続いて、プラスまたはマイナス帯電させた特定部分を改めてマイナスまたはプラスに帯電させて組成の異なる第2のポリマー溶液を繊維化または滴化させ堆積させる工程を含むことを特徴とする、請求項1記載の電気音響変換器用振動系部品の製造方法。
【請求項7】
型体の所望表面形状部分をマイナスまたはプラスに帯電させる工程は、当該表面形状部分のうちの特定部分をプラスまたはマイナスに帯電させる工程を含み、マイナスまたはプラス帯電部分への第1の所定厚さまでのポリマー溶液の堆積工程に引続いて、プラスまたはマイナス帯電させた特定部分を改めてマイナスまたはプラスに帯電させ、同一のポリマー溶液による第2の所定厚さまでの堆積を行う工程を含むことを特徴とする、請求項1記載の電気音響変換器用振動系部品の製造方法。
【請求項8】
ポリマー溶液を収容した容器を用意する工程は所望部品の所望の物性を決める無機フィラーを添加する工程を含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の電気音響変換器用振動系部品の製造方法。
【請求項9】
電気音響変換器用振動系の所望の部品を製造するためのポリマー溶液を収容しかつ溶液出口を有する容器を用意し、所望部品の所望の表面形状を有する型体をポリマー溶液容器の溶液出口に対向させて配置し、ポリマー溶液にプラスまたはマイナスの高電圧を印加すると共に型体の所望表面形状部分をマイナスまたはプラスに帯電させることにより、溶液出口の先端から繊維化または滴化したポリマーを型体の所望表面形状部分上に所定の厚さまで堆積させる各工程を介して、エレクトロスピニング法により所望の表面形状で所定の厚さに形成した成形体でなることを特徴とする、電気音響変換器用振動系部品。
【請求項10】
型体として、平坦な表面を有する平板と、所望部品の所望表面形状を表面に有する金型と、所望部品の所望表面形状ならびに当該部品に連接させる他の部品のインサート部を表面に有する金型とのうちの一つを選択する工程を含んで形成された成形体でなることを特徴とする、請求項9記載の電気音響変換器用振動系部品。
【請求項11】
繊維化または滴化ポリマーを所定の厚さまで堆積させる工程に続いて、別のポリマー溶液を収容した容器を用意し、以下の各工程を反復することにより、製造される成形体を多層構造としたことを特徴とする、請求項9または10記載の電気音響変換器用振動系部品。
【請求項12】
マイナスまたはプラスに帯電させた型体に対して繊維化または滴化した第1のポリマー溶液を所定の厚さに堆積させた後、徐々に組成の異なる第2のポリマー溶液による堆積に切り替えることにより、製造される成形体を傾斜構造としたことを特徴とする、請求項9から11のいずれかに記載の電気音響変換器用振動系部品。
【請求項13】
マイナスまたはプラスに帯電させた型体に対して繊維化または滴化したポリマー溶液を所定の厚さに堆積させた後、徐々に密度の異なる同一のポリマー溶液による堆積に切り替えることにより、製造される成形体に傾斜密度を持たせたことを特徴とする、請求項9から11のいずれかに記載の電気音響変換器用振動系部品。
【請求項14】
型体の所望表面形状部分をマイナスまたはプラスに帯電させる工程は、当該表面形状部分のうちの特定部分をプラスまたはマイナスに帯電させる工程を含み、マイナスまたはプラス帯電部分への第1のポリマー溶液の繊維化または滴化堆積工程に引続いて、プラスまたはマイナス帯電させた特定部分を改めてマイナスまたはプラスに帯電させて組成の異なる第2のポリマー溶液を繊維化または滴化させ堆積させる工程を含んで形成された成形体でなることを特徴とする、請求項9記載の電気音響変換器用振動系部品。
【請求項15】
型体の所望表面形状部分をマイナスまたはプラスに帯電させる工程は、当該表面形状部分のうちの特定部分をプラスまたはマイナスに帯電させる工程を含み、マイナスまたはプラス帯電部分への第1の所定厚さまでのポリマー溶液の堆積工程に引続いて、プラスまたはマイナス帯電させた特定部分を改めてマイナスまたはプラスに帯電させ、同一のポリマー溶液による第2の所定厚さまでの堆積を行う工程を含んで形成された成形体でなることを特徴とする、請求項9記載の電気音響変換器用振動系部品。
【請求項16】
ポリマー溶液を収容した容器を用意する工程は所望部品の所望の物性を決める無機フィラーを添加する工程を含んで形成された成形体でなることを特徴とする、請求項9から15のいずれかに記載の電気音響変換器用振動系部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−16455(P2010−16455A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172276(P2008−172276)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000112565)フォスター電機株式会社 (113)
【Fターム(参考)】