説明

電池の製造方法および溶接装置および溶接用治具

【課題】 少ない工程で注液孔の封止を好適に行うことのできる電池の製造方法および溶接装置および溶接用治具を提供すること。
【解決手段】 レーザ溶接装置1000は,レーザ発振装置1100と溶接用治具1200とを有している。溶接用治具1200は,下側部材1300と上側部材1400とを有している。下側部材1300は,空気室1300aを有している。また,貫通孔1302が形成されている。上側部材1400は,ガラス板1410,1420と,空気室1400aとを有する。また,貫通孔1402,1412が形成されている。レーザ溶接に際して,貫通孔1302からエアを吸引する。これにより,空気室1300aと電池容器110の内部を減圧する。蓋体170を封口板130の注液部141にレーザ溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,電池の製造方法および溶接装置および溶接用治具に関する。さらに詳細には,注液孔の封止を好適に行う溶接方法を用いた電池の製造方法および溶接装置および溶接用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電池は,携帯電話やパーソナルコンピュータ等の電子機器,ハイブリッド車両や電気自動車等の車両など,多岐にわたる分野で利用されている。これらのうち,車両や大型電子機器類には,単電池を直列または並列につないだ組電池が搭載されることが一般的である。
【0003】
このような電池には,非水電解液を用いる非水電解質電池がある。非水系の溶媒中では,電極反応等によりガスが発生することがある。このガスの発生により,電池容器の内圧は高いものとなる。そして,電池容器の内圧が高いと,電池容器が膨張するおそれがある。これら膨張した電池のうち膨張の度合いの大きい電池を電池搭載機器に搭載することは困難である。収容スペースに収まらないからである。なお,このガスの発生は,電極体を電解液に浸漬した後に生じやすい。
【0004】
そのため,電極体を電池容器に収容して電解液を注入した後に,ガスを抜く技術が開発されてきている。例えば,特許文献1には,注入孔から電解液を注入し,注入孔を封止して初期充電を行い,初期充電により発生したガスを排出孔から排出し,排出孔を封止する電池の製造方法が開示されている(特許文献1の段落[0021]−[0027]参照)。これにより,電池容器内にほとんどガスの溜まっていない電池が製造されるとしている(特許文献1の段落[0027]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−324586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし,特許文献1に記載の電池の製造方法では,注液孔と排出孔の2箇所を封止する必要がある(特許文献1の段落[0021]−[0027]参照)。すなわち,注液孔封止工程と排出孔封止工程の両方が必要である。また,ガス抜き工程も必要である。このように工程が多いため,サイクルタイムは長い。
【0007】
本発明は,前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,少ない工程で注液孔の封止を好適に行うことのできる電池の製造方法および溶接装置および溶接用治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の一態様における電池の製造方法は,電極体を作成する電極体作成工程と,電極体を電池容器本体に収容するとともに注液孔の形成された封口板を電池容器本体に接合して電池を作成する電池組立工程とを有する方法である。そして,電池組立工程は,注液孔から電池容器の内部に電解液を注入する電解液注入工程と,電池容器を減圧室に入れないで注液孔からエアを吸引することにより電池容器の内部を第1の圧力に減圧するとともに,電池容器の内部を第1の圧力としたまま注液孔用蓋体を封口板にレーザ溶接する減圧封止工程とを有する。かかる電池の製造方法では,電池容器の内部を減圧した電池を製造することができる。また,2度の封止工程を行う必要がない。また,電池容器を減圧室に入れることなく,電池容器の内部を減圧することができる。したがって,減圧室の全体を減圧する必要がない。すなわち,サイクルタイムは短い。
【0009】
上記に記載の電池の製造方法において,第1の空気室と第1の吸引口とを備える下側部材と,注液孔用蓋体を保持する蓋体保持部を備える上側部材とを有する溶接用治具を用いるとよい。そして,減圧封止工程は,電池容器と第1の空気室とを連通させるとともに,第1の吸引口から電池容器の内部のエアを吸引する減圧工程と,蓋体保持部により注液孔を塞ぐ位置に注液孔用蓋体を載置する蓋体載置工程と,注液孔用蓋体を封口板にシーム溶接するレーザ溶接工程とを有する。この溶接用治具を用いることにより,第1の空気室および電池容器の体積を減圧するだけで,電池容器の内部を減圧することができるからである。
【0010】
上記に記載の電池の製造方法において,溶接用治具として,上側部材に第2の空気室と第2の吸引口とが設けられているとともに,蓋体保持部が貫通孔の形成されたガラス板であり,第2の吸引口から第2の空気室のエアを吸引することにより,蓋体保持部が注液孔用蓋体を保持するものを用いるとよい。そして,蓋体載置工程では,第2の吸引口からエアを供給して第2の空気室を第1の圧力よりも高い第2の圧力とすることにより,注液孔用蓋体を封口板に載置する。第2の空気室からエアを吸引することで,注液孔用蓋体を保持することができるからである。そして,第2の空気室にエアを供給することで,注液孔用蓋体の保持を解除するとともに注液孔用蓋体を封口板に載置することができる。
【0011】
上記に記載の電池の製造方法において,溶接用治具として,上側部材に第2の空気室と第2の吸引口とが設けられているとともに,蓋体保持部が貫通孔の形成されたガラス板であり,第2の吸引口から第2の空気室のエアを吸引することにより,蓋体保持部が注液孔用蓋体を保持するとともに,上側部材が下側部材の載置面に対して交差する方向にスライド可能なものを用いるとよい。そして,蓋体載置工程では,上側部材をスライドすることにより,注液孔用蓋体を封口板に載置する。第2の空気室からエアを吸引することで,注液孔用蓋体を保持することができるからである。そして,上側部材がスライドすることで,注液孔用蓋体を封口板の上に載置することができる。そして,第2の空気室にエアを供給することで,注液孔用蓋体の保持を解除することができる。
【0012】
上記に記載の電池の製造方法において,溶接用治具として,挟持部で挟むことにより,蓋体保持部が注液孔用蓋体を保持するとともに,上側部材が下側部材の載置面に対して交差する方向にスライド可能なものを用いるとよい。そして,蓋体載置工程では,上側部材をスライドすることにより,注液孔用蓋体を封口板に載置する。挟持部が注液孔用蓋体を挟むことで,注液孔用蓋体を保持することができるからである。そして,上側部材がスライドすることで,注液孔用蓋体を封口板の上に載置することができる。
【0013】
また,本発明の別の態様における溶接装置は,第1の空気室と,第1の空気室と少なくとも一部が連通している第2の空気室と,第1の空気室と第2の空気室との間に位置するとともに,被溶接体に載置する蓋体を保持する蓋体保持部とを有する溶接用治具と,蓋体を被溶接体に溶接するレーザを照射するレーザ発振装置とを有するものである。また,第1の空気室は,一部が開口している開口部と,外部と連通している第1の貫通孔とを有するとともに,そして,第2の空気室は,レーザを透過する透過部材と,外部と連通している第2の貫通孔とを有するものであり,そして,第1の貫通孔からエアを吸引する第1の吸引装置と,第2の貫通孔からエアを吸引する第2の吸引装置とを有するものである。かかる溶接装置を用いることで,電池容器の内部を減圧した状態で注液孔用蓋体を封口板にレーザ溶接することができる。また,電池容器を減圧室に入れる必要はない。つまり,減圧室の全体を減圧する必要がない。すなわち,サイクルタイムは短い。
【0014】
上記に記載の溶接装置において,蓋体保持部は,貫通孔の形成されたガラス板であるとよい。第2の空気室を減圧することで,注液孔用蓋体を保持することができるからである。
【0015】
上記に記載の溶接装置において,蓋体保持部は,蓋体を挟持する挟持部であるとよい。注液孔用蓋体を保持することができることに変わりないからである。
【0016】
上記に記載の溶接装置において,第2の空気室は,溶接用治具の載置面に対して交差する方向にスライド可能なものであるとよい。第2の空気室をスライドすることで,注液孔を塞ぐ位置に注液孔用蓋体を載置することができるからである。
【0017】
また,本発明のさらに別の態様における溶接用治具は,第1の空気室と,第1の空気室と少なくとも一部が連通している第2の空気室と,第1の空気室と第2の空気室との間に位置するとともに被溶接体に載置する蓋体を保持する蓋体保持部とを有するものである。また,第1の空気室は,一部が開口している開口部と,外部と連通している第1の貫通孔とを有するとともに,そして,第2の空気室は,レーザを透過する透過部材と,外部と連通している第2の貫通孔とを有するものである。かかる溶接用治具を用いることで,電池容器の内部を減圧した状態で注液孔用蓋体を封口板にレーザ溶接することができる。また,電池容器を減圧室に入れる必要はない。つまり,減圧室の全体を減圧する必要がない。すなわち,サイクルタイムは短い。
【0018】
上記に記載の溶接用治具において,蓋体保持部は,貫通孔の形成されたガラス板であるとよい。第2の空気室を減圧することで,注液孔用蓋体を保持することができるからである。
【0019】
上記に記載の溶接用治具において,蓋体保持部は,蓋体を挟持する挟持部であるとよい。注液孔用蓋体を保持することができることに変わりないからである。
【0020】
上記に記載の溶接用治具において,第2の空気室は,被溶接体の載置面に対して交差する方向にスライド可能なものであるとよい。第2の空気室をスライドすることで,注液孔を塞ぐ位置に注液孔用蓋体を載置することができるからである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば,少ない工程で注液孔の封止を好適に行うことのできる電池の製造方法および溶接装置および溶接用治具が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態に係るバッテリパックの概略構成を説明するための斜視図である。
【図2】実施形態に係るバッテリの概略構成を説明するための断面図である。
【図3】実施形態に係るバッテリの捲回電極体を説明するための斜視図である。
【図4】実施形態に係るバッテリの捲回電極体の捲回構造を説明するための展開図である。
【図5】実施形態に係るバッテリの正極板(負極板)の断面構造を説明するための斜視断面図である。
【図6】実施形態に係る溶接装置の構成を説明するための概略構成図である。
【図7】実施形態に係る溶接用治具の構成を説明するための概略構成図である。
【図8】実施形態に係る各工程と電池容器の内圧との関係を示すグラフである。
【図9】第1の実施形態に係る電池の製造方法における減圧封止工程を説明するための概念図(その1)である。
【図10】第1の実施形態に係る電池の製造方法における減圧封止工程を説明するための概念図(その2)である。
【図11】第1の実施形態に係る電池の製造方法における減圧封止工程を説明するための概念図(その3)である。
【図12】第1の実施形態に係る電池の製造方法における減圧封止工程を説明するための概念図(その4)である。
【図13】実施形態に係る電解液注入工程を説明するための概念図である。
【図14】実施形態に係る減圧封止工程を説明するための概念図である。
【図15】実施形態に係る初期充電工程を説明するための概念図である。
【図16】実施形態に係る初期充電工程後のバッテリを説明するための概念図である。
【図17】実施形態に係る製品出荷時におけるバッテリを説明するための概念図である。
【図18】第2の実施形態に係る電池の製造方法における減圧封止工程を説明するための概念図(その1)である。
【図19】第2の実施形態に係る電池の製造方法における減圧封止工程を説明するための概念図(その2)である。
【図20】第2の実施形態に係る電池の製造方法における減圧封止工程を説明するための概念図(その3)である。
【図21】第2の実施形態に係る電池の製造方法における減圧封止工程を説明するための概念図(その4)である。
【図22】第3の実施形態に係る電池の製造方法における減圧封止工程を説明するための概念図(その1)である。
【図23】第3の実施形態に係る電池の製造方法における減圧封止工程を説明するための概念図(その2)である。
【図24】第3の実施形態に係る電池の製造方法における減圧封止工程を説明するための概念図(その3)である。
【図25】第3の実施形態に係る電池の製造方法における減圧封止工程を説明するための概念図(その4)である。
【図26】第3の実施形態に係る電池の製造方法における減圧封止工程を説明するための概念図(その5)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン二次電池の注液孔に蓋体を溶接することにより,注液孔を封止するのに好適な溶接装置および溶接用治具とそれらを用いた電池の製造方法について,本発明を具体化したものである。
【0024】
(第1の実施形態)
1.電池の構造
1−1.バッテリパック
本形態のバッテリパックBPは,図1に示すように,バッテリ100を直列に接続した組電池である。バッテリ100は,角型の単電池である。バッテリパックBPでは,図1に示すように,バッテリ100の正極端子と,そのバッテリ100に隣り合うバッテリ100の負極端子とが,バスバー190を介して締結されている。この締結は,ボルトとナットによりなされている。
【0025】
1−2.バッテリセル
バッテリ100の概略構成を図2の断面図に示す。図2は,図1に示したバッテリパックBPからバッテリ100を取り出して描いたものである。バッテリ100は,電池容器110の内部に図3に示す扁平形状の捲回電極体10を有するものである。電池容器110は,図2に示すように,電池容器本体120と,封口板130とを備えるものである。電池容器110の内部には,捲回電極体10が配置されている。この捲回電極体10は,実際に発電に寄与する発電要素である。封口板130は,電池容器本体120の開口部を塞ぐためのものである。そのため,電池容器本体120に接合されている。
【0026】
電池容器110の内部には,電解液が注入されている。この電解液は,有機溶媒に電解質を溶解させたものである。有機溶媒として例えば,プロピレンカーボネート(PC),エチレンカーボネート(EC),ジメチルカーボネート(DMC),ジエチルカーボネート(DEC),エチルメチルカーボネート(EMC),1,2−ジメトキシエタン,1,2−ジエトキシエタン,テトラヒドロフラン,2−メチルテトラヒドロフラン,ジオキサン,1,3−ジオキソラン,エチレングリコールジメチルエーテル,ジエチレングリコールジメチルエーテル,アセトニトリル,プロピオニトリル,ニトロメタン,N,N−ジメチルホルムアミド,ジメチルスルホキシド,スルホラン,γ−ブチロラクトン等の非水系溶媒またはこれらを組み合わせた溶媒を用いることができる。
【0027】
また,電解質である塩として,過塩素酸リチウム(LiClO)やホウフッ化リチウム(LiBF),六フッ化リン酸リチウム(LiPF),六フッ化砒酸リチウム(LiAsF),LiCFSO,LiCSO,LiN(CFSO,LiC(CFSO,LiIなどのリチウム塩を用いることができる。
【0028】
図2に示すように,バッテリ100は,正極端子50と,負極端子60と,絶縁部材150と,絶縁部材160とを有している。絶縁部材150は,正極端子50と封口板130とを絶縁するための部材である。絶縁部材160は,負極端子60と封口板130とを絶縁するための部材である。
【0029】
図2に示すように,封口板130には注液孔140が設けられている。注液孔140は,封口板130を貫通する貫通孔である。後述する電解液注入工程では,この注液孔140から電解液を電池容器110の内部に注入する。また,注液孔140の内壁の内側には,何も充填されていない。すなわち,空洞である。注液孔140の内壁の内側には,一旦注液孔を封止する仮封止部材は設けられていない。後述するように,本形態における電池の製造方法では,仮封止をする必要がないからである。蓋体170は,封口板130の注液孔140を塞ぐための注液孔用蓋体である。したがって,蓋体170は,注液孔140の開口部分を覆っている。蓋体170は,封口板130の外側から封口板130にシーム溶接されている。
【0030】
1−3.捲回電極体の構造
図3は,捲回電極体10を示す斜視図である。図3に示すように,捲回電極体10は扁平形状をしている。捲回電極体10の一方の端部には,正極端部30が突出している。正極端部30は,後述するように,正極板の正極芯材が突出している箇所である。捲回電極体10の他方の端部には,負極端部40が突出している。負極端部40は,後述するように,負極板の負極芯材が突出している箇所である。
【0031】
図4は,捲回電極体10の捲回構造を示す展開図である。捲回電極体10は,図4に示すように,内側から正極板P,セパレータS,負極板N,セパレータTの順に積み重ねた状態で捲回されたものである。すなわち,捲回電極体10は,正極板Pと負極板Nとをこれらの間にセパレータS,Tを介在させて交互に配置したものである。
【0032】
正極板Pは,正極芯材であるアルミ箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を含む合材を塗布したものである。正極活物質として,ニッケル酸リチウム(LiNiO),マンガン酸リチウム(LiMnO),コバルト酸リチウム(LiCoO)等のリチウム複合酸化物などが用いられる。負極板Nは,負極芯材である銅箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質を含む合材を塗布したものである。負極活物質として,非晶質炭素,難黒鉛化炭素,易黒鉛化炭素,黒鉛等の炭素系物質が用いられる。
【0033】
図4に示すように正極板Pには,正極塗工部P1と,正極非塗工部P2とがある。正極塗工部P1は,正極芯材に正極活物質等を含む正極合材層を形成した箇所である。正極非塗工部P2は,正極芯材に正極合材層を形成していない箇所である。負極板Nには,負極塗工部N1と,負極非塗工部N2とがある。負極塗工部N1は,負極芯材に負極活物質等を含む負極合材層を形成した箇所である。負極非塗工部N2は,負極芯材に負極合材層を形成していない箇所である。
【0034】
図4中の矢印Aは,正極板P,負極板N,セパレータS,Tの幅方向(図3でいえば横方向)を示している。図4中の矢印Bは,正極板P,負極板N,セパレータS,Tの長手方向(図3の捲回電極体10の周方向)を示している。
【0035】
セパレータS,Tは,ポリエチレンやポリプロピレン等の多孔性フィルムである。セパレータS,Tの厚みは,10〜50μm程度である。ここで,セパレータSとセパレータTとは同じ材質のものである。上記の捲回順の理解のために符号をS,Tとして区別しただけである。
【0036】
図5は,正極板P(もしくは負極板N)の斜視断面図である。図5中の括弧外の各符号は,正極の場合の各部を,括弧内の各符号は,負極の場合の各部を示している。図5中の矢印Aが示す方向は,図4中の矢印Aが示す方向と同じである。すなわち,正極板P(もしくは負極板N)の幅方向である。図5中の矢印Bが示す方向は,図4中の矢印Bが示す方向と同じである。すなわち,正極板P(もしくは負極板N)の長手方向である。
【0037】
図5に示すように,正極板Pは,帯状の正極芯材PBの両面の一部に正極合材層PAが形成されたものである。図5中左側には,正極板Pの正極非塗工部P2が幅方向に突出している。正極非塗工部P2は,帯状に形成されている。正極非塗工部P2は,正極芯材PBの両面ともに正極活物質が塗布されていない領域である。したがって正極非塗工部P2では,正極芯材PBがむき出したままの状態にある。一方,図5中右側には,正極非塗工部P2に対応するような突出部はない。正極塗工部P1では,正極芯材PBの両面に一様の厚みで正極合材層PAが形成されている。
【0038】
正極合材層PAは,正極芯材PBであるアルミ箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質の他に,導電材,結着材,増粘材を含む合材を塗布して形成された層である。正極活物質として,ニッケル酸リチウム(LiNiO),マンガン酸リチウム(LiMnO),コバルト酸リチウム(LiCoO)等のリチウム複合酸化物などが用いられる。
【0039】
正極用の導電材として,カーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料を用いることができる。例えば,アセチレンブラック,ファーネスブラック,ケッチェンブラック等のカーボンブラック,グラファイト粉末,などのカーボン粉末である。
【0040】
正極用の結着材は,電解液に不溶性(または難溶性)であって,正極用ペーストに用いる溶媒に分散するポリマーであるとよい。例えば,ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP),エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂,酢酸ビニル共重合体,スチレンブタジエンゴム(SBR),アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス),アラビアゴム等のゴムを用いることができる。または,これらの組み合わせを用いてもよい。結着材は,必ずしも上記のポリマーに限定されない。
【0041】
正極用の増粘材として,カルボキシメチルセルロース(CMC),メチルセルロース(MC),酢酸フタル酸セルロース(CAP),ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC),ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)等のセルロースが用いられる。ただし,必ずしも上記したようなセルロースに限らず用いることができる。
【0042】
溶媒として,水が挙げられる。その他に,N−メチル−2−ピロリドン(NMP,以下NMPという)を用いてもよい。また,その他の低級アルコールや低級ケトンを用いることもできる。
【0043】
図5の括弧内の符号で示すように,負極板Nは,帯状の負極芯材NBの両面の一部に負極合材層NAが形成されたものである。図5中左側には,負極板Nの負極非塗工部N2が幅方向に突出している。負極非塗工部N2は,帯状に形成されている。負極非塗工部N2は,負極芯材NBの両面ともに負極活物質が塗布されていない領域である。したがって負極非塗工部N2では,負極芯材NBがむき出したままの状態にある。一方,図5中右側には,負極非塗工部N2に対応するような突出部はない。負極塗工部N1では,負極芯材NBの両面に一様の厚みで負極合材層NAが形成されている。ただし,図4に示したように,捲回時には,正極非塗工部P2と負極非塗工部N2とは,反対側に突出した状態で捲回されることとなる。
【0044】
負極合材層NAは,負極芯材NBである銅箔に負極活物質,結着材,増粘材を含む合材を塗布して乾燥させた層である。負極活物質は,リチウムイオンを吸蔵・放出可能な物質である。負極活物質として,少なくとも一部にグラファイト構造を含む炭素系物質が用いられる。例えば,非晶質炭素,難黒鉛化炭素(ハードカーボン),易黒鉛化炭素(ソフトカーボン),黒鉛(グラファイト),またはこれらを組み合わせた構造を有する炭素材料を用いることができる。
【0045】
負極用の結着材は,電解液に不溶性(または難溶性)であって,負極用ペーストに用いる溶媒に分散するポリマーであるとよい。例えば,ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP),エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂,酢酸ビニル共重合体,スチレンブタジエンゴム(SBR),アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス),アラビアゴム等のゴムを用いることができる。または,これらの組み合わせを用いてもよい。結着材は,必ずしも上記のポリマーに限定されない。
【0046】
負極用の増粘材として,カルボキシメチルセルロース(CMC),メチルセルロース(MC),酢酸フタル酸セルロース(CAP),ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC),ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)等のセルロースが用いられる。ただし,必ずしも上記したようなセルロースに限らず用いることができる。
【0047】
溶媒として,水が挙げられる。NMPを用いてもよい。また,その他の低級アルコールや低級ケトンを用いることもできる。
【0048】
2.電池の製造方法の概要
ここで,本実施の形態に係る電池の製造方法の概要について説明する。本形態の電池の製造方法は,以下に示す工程を有する。
(A)電極板作成工程
(B)電極体作成工程
(C)電池組立工程
(C−1)電極体収容工程
(C−2)電解液注入工程
(C−3)減圧封止工程
(C−3−1)蓋体保持工程
(C−3−2)減圧工程
(C−3−3)蓋体載置工程
(C−3−4)レーザ溶接工程
(C−4)初期充電工程
【0049】
本実施の形態に係る電池の製造方法は,電極板作成工程と,電極体作成工程と,電池組立工程とを有する方法である。そして,電池組立工程は,電極体収容工程と,電解液注入工程と,減圧封止工程と,初期充電工程とを有する方法である。ここで,本形態における電池の製造方法は,減圧封止工程に特徴のあるものである。つまり,減圧封止工程において,後述する溶接装置1000を用いるのである。そして,減圧封止工程は,蓋体保持工程と,減圧工程と,蓋体載置工程と,レーザ溶接工程とを有する方法である。
【0050】
ここで,本形態における電池の製造方法は,特許文献1に示すような2回の封止工程を行う必要がない。また,ガス抜き工程もない。なお,本形態の電池の製造方法については,後に詳しく説明する。
【0051】
3.溶接装置
電池の製造方法の詳細について説明する前に,本形態の特徴点である減圧封止工程に用いられる溶接装置1000について説明する。溶接装置1000は,図6に示すように,レーザ発振装置1100と,溶接用治具1200と,真空ポンプ1700,1800とを有するものである。
【0052】
3−1.レーザ発振装置
レーザ発振装置1100は,レーザを発振させるレーザ発振部と,その他の光学部品とを有するものである。このレーザは,後述するように,蓋体170を封口板130に溶接するために用いられるものである。ここでその他の光学部品とは,プリズムやミラーやコリメータレンズ等のことをいう。これらの光学部品を適宜組み合わせることによりレーザを適宜回折等させることで,後述する溶接箇所にレーザを走査することができるようになっている。
【0053】
3−2.溶接用治具
溶接用治具1200を図7の断面図に示す。溶接用治具1200は,下側部材1300と,上側部材1400とを有している。
【0054】
下側部材1300は,下側部材本体1301と,開口部1303と,Oリング1310とを有している。下側部材本体1301は,筒型に近い形状をしている。開口部1303は,下側部材本体1301の下側に位置している。下側部材本体1301には,貫通孔1302が形成されている。貫通孔1302は,エアを吸引するための第1の吸引口である。そのため,溶接用治具1200の外部と連通している。また,下側部材本体1301の下端には,Oリング1310を嵌めるための溝1311が形成されている。
【0055】
上側部材1400は,上側部材本体1401と,ガラス板1410と,ガラス板1420とを有している。上側部材本体1401は,筒型に近い形状をしている。そして,上側部材本体1401には,貫通孔1402が形成されている。貫通孔1402は,エアを吸引するための第2の吸引口である。そのため,溶接用治具1200の外部と連通している。
【0056】
ガラス板1410は,上側部材本体1401の下方に配置されている。そして,ガラス板1410には,貫通孔1412が形成されている。ガラス板1420は,上側部材本体1401の上方に配置されている。なお,ガラス板1410,1420は,レーザを透過する透過部材である。
【0057】
上側部材1400と下側部材1300との間には,Oリング1210が設けられている。そして,上側部材本体1401の側面には,Oリング1210を配置するための凹部1430が形成されている。そして,Oリング1210は,図7中の矢印Cの向きに移動することができる。つまり,上側部材1400と下側部材1300とは,互いに上下に移動する。すなわち,上側部材1400は,下側部材1300の載置面に対して交差する方向にスライド可能である。
【0058】
なお,図7では,被溶接体を二点鎖線で描いている。図7に示すように,下側部材1300は,空気室1300aを有している。空気室1300aは,第1の空気室である。Oリング1310が被溶接体である封口板130に接触しているときには,空気室1300aは,電池容器110と連通している。このとき図6に示す真空ポンプ1700は,空気室1300aからエアを吸引するとともに,空気室1300aと連通している電池容器110からもエアを吸引することができる。
【0059】
また,図7に示すように,上側部材1400は,空気室1400aを有している。空気室1400aは,第2の空気室である。ガラス板1410は,空気室1300aと空気室1400aとの間に位置している。そして,空気室1300aと空気室1400aとは,ガラス板1410の貫通孔1412により連通している。後述するように,空気室1400aのエアを吸引することで,ガラス板1410は,蓋体170を保持することができる。つまり,ガラス板1410は,蓋体170を保持する蓋体保持部でもある。ただし,ガラス板1410が蓋体170を保持している間には,貫通孔1412は塞がった状態にある。
【0060】
3−3.真空ポンプ
真空ポンプ1700は,貫通孔1302から空気室1300aの内部のエアを吸引するための第1の吸引装置である。真空ポンプ1800は,貫通孔1402から空気室1400aの内部のエアを吸引するための第2の吸引装置である。これらの真空ポンプ1700,1800は,それぞれ,空気室1300a,1400aを減圧するためのものである。したがって,空気室1300a,1400aを減圧することのできるものであれば,真空ポンプに限らずその他のものを用いてもよい。
【0061】
4.(C−3)減圧封止工程
ここで,本形態の特徴点である溶接装置1000を用いた溶接方法について説明する。すなわち,減圧封止工程について詳細に説明する。本形態では,封口板130の注液孔140を塞いで,電池容器110を密閉する。そのために,封口板130と蓋体170とを溶接する。なお,この減圧封止工程は,電池容器110を減圧室に入れないで行う工程である。また,図8に,各工程における電池容器110の内圧を示す。図8に示すように,減圧封止工程において減圧された後の電池容器100の内圧はP7である。
【0062】
4−1.(C−3−1)蓋体保持工程
まず,貫通孔1402からエアを吸引する。これにより,空気室1400aからエアが吸引される。そして,上側部材1400のガラス板1410により蓋体170を保持する(図9参照)。このとき,空気室1300aの内圧は,ほぼ大気圧に等しい。この蓋体170を保持する力は,空気室1400aの内圧と大気圧との差によって生じる。
【0063】
4−2.(C−3−2)減圧工程
次に,貫通孔1302からエアを吸引する。ここで,空気室1300aおよび電池容器110の内部は連通している。そのため,空気室1300aおよび電池容器110の内部の圧力が下がる。つまり,貫通孔1302からエアを吸引することで,注液孔140からもエアを吸引するのである。そして,図8に示したように,電池容器110の内圧をP7まで下げる。ここで圧力P7は,大気圧よりも低い第1の圧力である。第1の圧力は,例えば,25〜90kPaである。図9では,減圧されている領域に,ドットのハッチングを施してある。図10〜図12においても同様である。
【0064】
4−3.(C−3−3)蓋体載置工程
続いて,図10に示すように,上側部材1400を図10中の矢印Dの向きに下方に移動させる。矢印Dの向きは,下側部材1300の載置面と交差する向きである。その移動の際に,電池容器110の内圧は,P7からほとんど変わらない。上側部材1400が下降することにより,蓋体170は,注液孔140の形成されている注液部141の上に載置される。蓋体170が載置される位置は,注液孔140を塞ぐような位置である。
【0065】
4−4.(C−3−4)レーザ溶接工程
次に,空気室1400aを大気開放する。そして,図11に示すように,蓋体170を封口板130にレーザ溶接する。その際に,注液孔140を密閉するように,シーム溶接する。なお,レーザはガラス板1410,1420を透過するため,溶接用治具1200が溶接の障害となることはない。そして,図12に示すように,溶接用治具1200を電池容器110から退避させる。なお,空気室1400aの大気開放とレーザ溶接の順序は,逆であってもよい。
【0066】
5.電池の製造方法の詳細
5−1.(A)電極板作成工程
まず,正極芯材PBであるアルミニウム箔に正極用塗工液を塗工して正極用ペースト層とする。この正極用塗工液は,溶媒に上記の正極活物質等を混練したものである。次に,正極用ペースト層の形成された正極芯材PBを乾燥炉の内部に搬送しつつその正極用ペースト層を乾燥させる。これにより,正極芯材PBに正極合材層PAが形成される。正極合材層PAは,正極活物質を含む層である。なお,正極芯材PBの両面に正極合材層PAを形成することが好ましい。これにより,正極板Pが作成される。負極板Nについても同様である。
【0067】
5−2.(B)電極体作成工程
続いて,捲回電極体10を作成する。その際に,図4に示したように,正極板Pおよび負極板Nに,これらの間にセパレータS,Tを介在させて捲回する。これにより,円筒形状の捲回電極体が作成される。この円筒形状の捲回電極体を円筒側面方向から圧縮することにより,図3に示したような扁平形状の捲回電極体10が作成される。
【0068】
5−3.(C)電池組立工程
5−3−1.(C−1)電極体収容工程
捲回電極体10の正極端部30に正極端子50を溶接する。また,捲回電極体10の負極端部40に負極端子60を溶接する。そして,捲回電極体10を電池容器本体120に収容する。また,封口板130を電池容器本体120に接合する。この接合にレーザ溶接を用いるとよい。もちろん,その他の接合方法を用いてもよい。これにより,電池容器110を密閉する。ただしこの段階では,注液孔140は空いたままである。
【0069】
5−3−2.(C−2)電解液注入工程
続いて,図13に示すように,注液孔140から,電池容器110の内部に電解液を注入する。このときの電池容器110の内圧は,図13に示すように,P3である。なお,P3は大気圧である。また,電解液の注入後,電解液は捲回電極体10の正極合材層PAおよび負極合材層NAに徐々に含浸していく。なお,図13〜図17では,電解液をドットのハッチングで表している。また,これらの図中の括弧内の表示(P3等)は,電池容器110の内圧を示している。
【0070】
5−3−3.(C−3)減圧封止工程
続いて,電池容器110の内部を減圧する。これにより,電池容器110の内圧は,図14に示すように,P7となる。図14では,やや容器が内側に凹んでいる。そして,電池容器110の内部を減圧した状態のままで,注液孔140に蓋体170を用いて密閉する。具体的には,前述の溶接装置1000を用いて,注液孔140の周囲をシーム溶接する。この減圧封止工程が,蓋体保持工程と,減圧工程と,蓋体載置工程と,レーザ溶接工程とを有することは前述のとおりである。これにより,蓋体170は封口板130に溶接される。
【0071】
5−3−4.(C−4)初期充電工程
次に,組み立てられたバッテリ100に初期充電を施す。これにより,図15に示すように,電池容器110の内部でガスが発生する。そのため,電池容器110の内圧は,P6となる。この初期充電工程の最中にも,電池容器110の内部の圧力は変化する。つまり,圧力P6は,この変化する圧力のうちの一つを選び出したものである。そして,初期充電後には,図16に示すように,電池容器110の内圧はP5となる。その他,高温エージング工程等を施してもよい。また,その他の各種の検査工程を行ってもよい。以上の工程を経ることにより,本形態のバッテリ100が製造される。なお,初期充電後にもガスが発生することがあるため,製品出荷時には,図17に示すように,電池容器110の内圧はP4となる。
【0072】
なお,注液工程以降の製造工程における各工程と,電池容器110の内圧との関係を図8のグラフに示す。図8に示すように,電池容器110の内圧には,次式に示すような関係が成り立つ。
P3 > P4 > P5 > P6 > P7
【0073】
5−4.溶接後のバッテリ
本形態における電池の製造方法により製造されたバッテリ100の内圧は,25〜90kPaの範囲内である。また,注液孔140の内部は空洞である。バッテリ100には,注液孔140を一旦封止する仮封止部材は設けられていない。
【0074】
6.変形例
6−1.電極体の形状
本形態では,扁平形状の捲回電極体10を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法について説明した。しかし,扁平形状の捲回電極体10を有する電池に限らない。円筒形状の電極体を有する円筒型電池にも適用することができる。また,捲回しないで正極板と負極板とを平積みした電極体を用いる電池にも適用することができる。平積みした電極体を用いる場合には,電極板等を捲回する工程や,捲回した円筒形状の電極体を扁平形状にするプレス工程等も必須ではない。
【0075】
6−2.電池の種類
また,リチウムイオン二次電池に限らない。ニッケル水素電池やその他の二次電池にも適用することができる。その場合には,電極体の構成はもちろん,リチウムイオン二次電池の電極体の構成と異なっている。そのため,電極板作成工程は必ずしも必要ではない場合がある。しかし,これらの電池であっても,発電要素である電極体は必要である。
【0076】
7.まとめ
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る電池の製造方法では,溶接装置1000を用いて注液孔140の周辺を溶接することにより,バッテリ100を封止することとしている。溶接装置1000を用いることにより,電池容器110の内部を減圧した状態のまま,蓋体170を封口板130に溶接することができる。また,2度の封止工程は必要ない。ガス抜き工程を設ける必要もない。これにより,少ない工程で好適に注液孔140を封止することのできる溶接用治具および溶接装置および電池の製造方法が実現されている。
【0077】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,電池であれば,二次電池に限らず,一次電池にも適用することができる。
【0078】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。本形態は,溶接用治具とそれを用いた減圧封止工程とが第1の実施形態と異なっている。したがって,その異なる溶接用治具と減圧封止工程のみについて説明する。
【0079】
1.溶接用治具
本形態の溶接用治具2200を図18に示す。溶接用治具2200は,第1の実施形態の溶接用治具1200とほぼ同じである。異なる点は,下側部材1300と上側部材2400とが互いに移動しないことである。すなわち,下側部材1300と上側部材2400とが固定されているのである。本形態の溶接装置は,図6に示した溶接装置1000において溶接用治具1200の代わりに溶接用治具2200を用いるものである。
【0080】
2.(C−3)減圧封止工程
ここで,本形態の溶接装置を用いた溶接方法について説明する。本形態では,バッテリ100の注液孔140を塞ぐように,蓋体170を封口板130に溶接する。製造されるバッテリ100は,第1の実施形態のものと変わりない。
【0081】
2−1.(C−3−1)蓋体保持工程
まず,吸引口1402からエアを吸引する。これにより,空気室1400aからエアが吸引される。そして,図18に示すように,上側部材2400のガラス板1410により蓋体170を保持する。このとき,空気室1300aの内圧は,ほぼ大気圧に等しい。この蓋体170を保持する力は,空気室1400aの内圧と大気圧との差によって生じる。なお,図18では,減圧されている領域に,ドットのハッチングを施してある。図19〜図21も同様である。
【0082】
2−2.(C−3−2)減圧工程
次に,貫通孔1302からエアを吸引する。ここで,図19に示すように,空気室1300aおよび電池容器110の内部は連通している。したがって,空気室1300aおよび電池容器110の内部の圧力が下がる。そして,図8に示したように,電池容器110の内圧をP7まで下げる。
【0083】
2−3.(C−3−3)蓋体載置工程
続いて,図20に示すように,空気室1400aを大気開放する。これにより,ガラス板1410は,蓋体170を保持できなくなる。空気室1400aの内圧は,空気室1300aの内圧よりも高いからである。そのため蓋体170は,注液孔140の形成されている注液部141の上に載置される。その際に,電池容器110の内圧は,P7からほとんど変わらない。蓋体170が載置される位置は,注液孔140を塞ぐような位置である。なお,図20に示すように,蓋体170を注液部141の上に載置した後にも,ガラス板1410と蓋体170との間にはわずかに隙間がある。
【0084】
2−4.(C−3−4)レーザ溶接工程
次に,図21に示すように,蓋体170と封口板130の注液部141とをレーザ溶接する。その際に,注液孔140を密閉するように,シーム溶接する。なお,レーザはガラス板1410,1420を透過するため,溶接用治具1200が溶接の障害となることはない。なお,図21に示すように,レーザ溶接を行う際にも,ガラス板1410と蓋体170との間にはわずかに隙間がある。
【0085】
3.変形例
3−1.下側部材と上側部材との一体化
本形態では,溶接用治具2200は,下側部材1300と上側部材2400とを有することとした。しかし,これらは,一体化されていてもよい。この場合であっても,同様の効果を奏するからである。
【0086】
3−2.蓋体の載置
本形態では,蓋体170を載置する場合に,空気室1400aを大気開放することとした。しかし,空気室1400aの内圧を,電池容器110の内圧P7よりも高い圧力とすることとしてもよい。このようにしても,蓋体170を載置することができることに変わりないからである。
【0087】
4.まとめ
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る電池の製造方法では,溶接用治具2200を用いて注液孔140の周辺を溶接することにより,バッテリ100を封止することとしている。溶接用治具2200を用いることにより,電池容器110の内部を減圧した状態のまま,蓋体170を封口板130に溶接することができる。また,2度の封止工程は必要ない。ガス抜き工程を設ける必要もない。これにより,少ない工程で好適に注液孔140を封止することのできる溶接用治具および溶接装置および電池の製造方法が実現されている。
【0088】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,電池であれば,二次電池に限らず,一次電池にも適用することができる。
【0089】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。本形態は,溶接用治具とそれを用いた減圧封止工程とが第1の実施形態と異なっている。したがって,その異なる溶接用治具と減圧封止工程のみについて説明する。
【0090】
1.溶接用治具
本形態の溶接用治具3200は,第1の実施形態の溶接用治具1200とほぼ同じである。異なる点は,図22に示すように,第1の実施形態の溶接用治具1200における貫通孔1412の設けられたガラス板1410の代わりに,蓋体挟持部3410が設けられている点である。蓋体挟持部3410は,蓋体170を挟持するためのものである。つまり,蓋体170を保持するとともに,注液孔140を塞ぐ位置に蓋体170を載置するための蓋体保持部である。
【0091】
2.(C−3)減圧封止工程
ここで,本形態の溶接装置を用いた溶接方法について説明する。本形態では,バッテリ100の注液孔140を塞ぐように,蓋体170を封口板130に溶接する。製造されるバッテリ100は,第1の実施形態のものと変わりない。
【0092】
2−1.(C−3−1)蓋体保持工程
まず,図22に示すように,蓋体挟持部3410が蓋体170を保持する。そのため,蓋体挟持部3410は,蓋体170を容易には離さないようになっている。蓋体挟持部3410は,ある程度弾力性のあるものであるとよい。
【0093】
2−2.(C−3−2)減圧工程
次に,図23に示すように,貫通孔1302からエアを吸引する。ここで,空気室1300aおよび電池容器110の内部は連通している。したがって,空気室1300aおよび電池容器110の内部の圧力が下がる。そして,図8に示したように,電池容器110の内圧をP7まで下げる。図23では,減圧されている領域に,ドットのハッチングを施してある。図24〜図26も同様である。
【0094】
2−3.(C−3−3)蓋体載置工程
続いて,図24に示すように,上側部材3400を下方に移動させる。その際に,電池容器110の内圧は,P7からほとんど変わらない。上側部材3400が下降することにより,蓋体170は,注液孔140の形成されている注液部141の上に載置される。
【0095】
2−4.(C−3−4)レーザ溶接工程
次に,図25に示すように,蓋体170と封口板130の注液部141とをレーザ溶接する。その際に,注液孔140を密閉するように,シーム溶接する。なお,レーザはガラス板1420を透過するため,溶接用治具3200が溶接の障害となることはない。そして,溶接終了後に,図26に示すように,溶接用治具3200を退避させる。このとき溶接が完了しているため,蓋体挟持部3410は,蓋体170からはずれる。
【0096】
3.まとめ
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る電池の製造方法では,溶接用治具3200を用いて注液孔140の周辺を溶接することにより,バッテリ100を封止することとしている。溶接用治具3200を用いることにより,電池容器110の内部を減圧した状態のまま,蓋体170を封口板130に溶接することができる。また,2度の封止工程は必要ない。ガス抜き工程を設ける必要もない。これにより,少ない工程で好適に注液孔140を封止することのできる溶接用治具および溶接装置および電池の製造方法が実現されている。
【0097】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,電池であれば,二次電池に限らず,一次電池にも適用することができる。
【符号の説明】
【0098】
10…捲回電極体
30…正極端部
40…負極端部
50…正極端子
60…負極端子
100…バッテリ
110…電池容器
120…電池容器本体
130…封口板
140…注液孔
141…注液部
150…絶縁部材
160…絶縁部材
170…蓋体
1000…溶接装置
1100…レーザ発振装置
1200,2200,3200…溶接用治具
1300…下側部材
1300a,1400a…空気室
1302,1402,1412…貫通孔
1400,2400,3400…上側部材
1410,1420…ガラス板
3410…蓋体挟持部
BP…バッテリパック
P…正極板
P1…正極塗工部
P2…正極非塗工部
N…負極板
N1…負極塗工部
N2…負極非塗工部
S,T…セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極体を作成する電極体作成工程と,
前記電極体を電池容器本体に収容するとともに注液孔の形成された封口板を前記電池容器本体に接合して電池を作成する電池組立工程とを有する電池の製造方法であって,
前記電池組立工程は,
前記注液孔から電池容器の内部に電解液を注入する電解液注入工程と,
前記電池容器を減圧室に入れないで前記注液孔からエアを吸引することにより前記電池容器の内部を第1の圧力に減圧するとともに,前記電池容器の内部を前記第1の圧力としたまま注液孔用蓋体を前記封口板にレーザ溶接する減圧封止工程とを有することを特徴とする電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電池の製造方法であって,
第1の空気室と第1の吸引口とを備える下側部材と,
前記注液孔用蓋体を保持する蓋体保持部を備える上側部材とを有する溶接用治具を用い,
前記減圧封止工程は,
前記電池容器と前記第1の空気室とを連通させるとともに,前記第1の吸引口から前記電池容器の内部のエアを吸引する減圧工程と,
前記蓋体保持部により前記注液孔を塞ぐ位置に前記注液孔用蓋体を載置する蓋体載置工程と,
前記注液孔用蓋体を前記封口板にシーム溶接するレーザ溶接工程とを有することを特徴とする電池の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の電池の製造方法であって,
前記溶接用治具として,
前記上側部材に第2の空気室と第2の吸引口とが設けられているとともに,
前記蓋体保持部が貫通孔の形成されたガラス板であり,
前記第2の吸引口から前記第2の空気室のエアを吸引することにより,前記蓋体保持部が注液孔用蓋体を保持するものを用い,
前記蓋体載置工程では,
前記第2の吸引口からエアを供給して前記第2の空気室を前記第1の圧力よりも高い第2の圧力とすることにより,前記注液孔用蓋体を前記封口板に載置することを特徴とする電池の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の電池の製造方法であって,
前記溶接用治具として,
前記上側部材に第2の空気室と第2の吸引口とが設けられているとともに,
前記蓋体保持部が貫通孔の形成されたガラス板であり,
前記第2の吸引口から前記第2の空気室のエアを吸引することにより,前記蓋体保持部が注液孔用蓋体を保持するとともに,
前記上側部材が前記下側部材の載置面に対して交差する方向にスライド可能なものを用い,
前記蓋体載置工程では,
前記上側部材をスライドすることにより,前記注液孔用蓋体を前記封口板に載置することを特徴とする電池の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の電池の製造方法であって,
前記溶接用治具として,
挟持部で挟むことにより,前記蓋体保持部が注液孔用蓋体を保持するとともに,
前記上側部材が前記下側部材の載置面に対して交差する方向にスライド可能なものを用い,
前記蓋体載置工程では,
前記上側部材をスライドすることにより,前記注液孔用蓋体を前記封口板に載置することを特徴とする電池の製造方法。
【請求項6】
第1の空気室と,前記第1の空気室と少なくとも一部が連通している第2の空気室と,前記第1の空気室と前記第2の空気室との間に位置するとともに,被溶接体に載置する蓋体を保持する蓋体保持部とを有する溶接用治具と,
前記蓋体を前記被溶接体に溶接するレーザを照射するレーザ発振装置とを有する溶接装置であって,
前記第1の空気室は,
一部が開口している開口部と,
外部と連通している第1の貫通孔とを有し,
前記第2の空気室は,
レーザを透過する透過部材と,
外部と連通している第2の貫通孔とを有するものであるとともに,
前記第1の貫通孔からエアを吸引する第1の吸引装置と,
前記第2の貫通孔からエアを吸引する第2の吸引装置とを有することを特徴とする溶接装置。
【請求項7】
請求項6に記載の溶接装置であって,
前記蓋体保持部は,
貫通孔の形成されたガラス板であることを特徴とする溶接装置。
【請求項8】
請求項6に記載の溶接装置であって,
前記蓋体保持部は,
前記蓋体を挟持する挟持部であることを特徴とする溶接装置。
【請求項9】
請求項6から請求項8までのいずれかに記載の溶接装置であって,
前記第2の空気室は,
前記溶接用治具の載置面に対して交差する方向にスライド可能なものであることを特徴とする溶接装置。
【請求項10】
第1の空気室と,
前記第1の空気室と少なくとも一部が連通している第2の空気室と,
前記第1の空気室と前記第2の空気室との間に位置するとともに被溶接体に載置する蓋体を保持する蓋体保持部とを有する溶接用治具であって,
前記第1の空気室は,
一部が開口している開口部と,
外部と連通している第1の貫通孔とを有するとともに,
前記第2の空気室は,
レーザを透過する透過部材と,
外部と連通している第2の貫通孔とを有するものであることを特徴とする溶接用治具。
【請求項11】
請求項10に記載の溶接用治具であって,
前記蓋体保持部は,
貫通孔の形成されたガラス板であることを特徴とする溶接用治具。
【請求項12】
請求項10に記載の溶接用治具であって,
前記蓋体保持部は,
前記蓋体を挟持する挟持部であることを特徴とする溶接用治具。
【請求項13】
請求項10から請求項12までのいずれかに記載の溶接用治具であって,
前記第2の空気室は,
被溶接体の載置面に対して交差する方向にスライド可能なものであることを特徴とする溶接用治具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate


【公開番号】特開2012−181991(P2012−181991A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43634(P2011−43634)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】