説明

電池の製造方法

【課題】品質のよい電極を備えた電池を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】
活物質及びバインダを含む原料に溶媒を添加し混練して固練り状の混練物を得る固練り工程(S10)と、その混練物を溶媒で希釈して活物質層形成用スラリーを得る希釈工程(S20)と、該スラリーを集電体に塗工して電極を得る塗工工程(S30)とを包含する電池製造方法が提供される。固練り工程(S10)では、まず、原料に溶媒を添加しつつ混練を行い、このときの混練物温度を測定することにより、溶媒の添加量Vに対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)の推移を把握する。そして、原料の全固形分の5質量%以上の溶媒が添加された後であって、上記変化率が予め定められた閾値以下に低下し且つ0℃/mlに低下する前に溶媒の添加を停止し、引き続き固練り工程の終了まで混練を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の製造方法と該電池の製造方法に用いられる混練システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池、ニッケル水素電池その他の二次電池は、車両搭載用電源、或いはパソコンおよび携帯端末の電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウム二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられるものとして期待されている。この種の二次電池の一つの典型的な構成では、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出し得る材料(電極活物質)が導電性部材(電極集電体)に保持された構成の電極を備える。例えば、正極に用いられる電極活物質(正極活物質)の代表例としては、リチウムと一種または二種以上の遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(以下、「リチウム遷移金属酸化物」ともいう。)が挙げられる。また、正極に用いられる電極集電体(正極集電体)の代表例としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金を主体とするシート状または箔状の部材が挙げられる。
【0003】
かかる構成を有する電極は、活物質とバインダ(結着剤)とを適当な溶媒に分散させてスラリー状の塗工組成物(活物質層形成用スラリー)を調製し、これを集電体に塗工して活物質層を形成することにより作製される。一般に、活物質層形成用ペーストは、活物質やバインダの粉体を適当な溶媒に分散させて形成される。ここで用いられる活物質やバインダの粉体は、分子間力等によって凝集塊を形成している場合が多い。活物質やバインダの粉体が凝集塊を形成すると、塗布乾燥後の活物質層の厚みが不均一になったり表面平滑性が損なわれたりするため好ましくない。
【0004】
そこで、従来、このような凝集塊を解してバインダを溶媒中に均一に溶解することが試みられている。例えば、第1の工程として活物質とバインダを少量の溶媒で固練りし、次いで、第2の工程としてそれを希釈するという2段階の混練方法が検討されている(例えば特許文献1)。この混練方法によると、固練り工程においては、粘度が比較的高い状態にあるので、原料の粉体に強いせん断力がかかり、粉体の凝集塊が短時間で分散されて均一な状態のスラリーを作製できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−303572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、固練り工程においては、原料の粉体に最も強いせん断力がかかるように、上記固練りをするに際しての混練条件、中でも固練り工程に投入される溶媒量を適切に調整することが重要である。しかしながら、最も強いせん断力がかかる最適な溶媒量は、使用される活物質やバインダの仕様(品種、配合比、ロット等)が変わればそれに応じて変化するものであるため、活物質やバインダの仕様が変更された場合には、最適な溶媒量を得るために試行錯誤(試作、予備検討)を繰り返さねばならず、無駄が多かった。特に少量多品種生産や受注生産において、毎回、予備検討や試作を行うことは大変煩わしく、また、予備検討も含めた製造期間が増大するため、コスト上昇を招く要因にもなっていた。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、固練り時の最適な溶媒量を迅速に決定して、品質のよい電極を備えた電池を効率よく製造することができる電池製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電池の製造方法は、活物質及びバインダを含む原料に溶媒を添加し混練することにより固練り状の混練物を得る固練り工程と、上記固練り工程で得られた混練物を溶媒で希釈して該混練物から活物質層形成用スラリーを得る希釈工程と、上記希釈工程で得られた活物質層形成用スラリーを集電体に塗工して該集電体上に活物質層が形成された電極を得る塗工工程と、上記得られた電極を用いて電池を構築する工程とを包含する。
ここで上記固練り工程では、
まず、上記原料に上記溶媒を添加しつつ(連続的に添加してもよく、間隔を置いて添加してもよい。)混練を行い、このときの混練物温度を測定する(連続的に測定してもよく、間隔を置いて測定してもよい。)ことにより、上記溶媒の添加量Vに対する上記混練物温度Tの変化率(dT/dV)の推移を把握し、
上記原料の全固形分の5質量%以上の上記溶媒が添加された後であって、上記変化率(dT/dV)が予め定められた閾値以下に低下し且つ0℃/mlに低下する前に上記溶媒の添加を停止し、
次いで、その停止したときの溶媒量にて引き続き固練り工程の終了まで混練を行う。
【0009】
なお、本明細書において「原料」とは、活物質層形成成分の一部または全部を含む組成物であって、少なくとも活物質及びバインダを含むものをいう。従って、上記原料には、活物質及びバインダの他に、必要に応じて使用される他の活物質層形成成分(例えば導電剤等)も含まれ得る。また「固練り工程」とは、最終的な活物質層形成用スラリーよりも固形分率が高い状態で混練を行うことをいう。
【0010】
本発明の製造方法によれば、固練り工程において、まず、原料に溶媒を添加しつつ混練を行い、このときの混練物温度を測定することにより、溶媒の添加量Vに対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)の推移を把握し、原料の全固形分の5質量%以上の溶媒が添加された後であって、変化率(dT/dV)が予め定められた閾値以下に低下し且つ0℃/mlに低下する前に溶媒の添加を停止し、次いで、その停止したときの溶媒量にて引き続き固練り工程の終了まで混練を行うので、混練しながらでも、スラリー内の凝集塊を少なくするための最適な溶媒量を決定することができる。そのため、活物質やバインダの仕様(品種、配合比、ロット等)が変更された場合でも、最適な溶媒量を把握するための試行錯誤を行う必要がなく、試作や予備検討も含めた製造期間を大幅に短縮でき、製造コストを安価にすることができる。
【0011】
上記閾値の設定され得る範囲としては特に限定されないが、概ね0.01℃/ml以下(例えば0℃/mlより大きく且つ0.01℃/ml以下)が適当であり、好ましくは0.0075℃/ml以下(例えば0℃/mlより大きく且つ0.0075℃/ml)であり、特に好ましくは0.005℃/ml以下(例えば0℃/mlより大きく且つ0.005℃/ml以下)である。このような閾値の範囲内であると、固練り時の最適な溶媒量を的確に把握することができる。
【0012】
ここに開示される電池製造方法の好ましい一態様では、上記固練り工程において、上記原料に添加される溶媒の1回あたりの添加量が、上記原料の全固形分の0.5質量%〜10質量%に相当する量である。1回あたりの溶媒の添加量が少なすぎると、少しずつ時間をかけて溶媒量を調節する必要があるため、該スラリーを用いて製造される電極ならびに該電極を備えた電池の生産性が低下することがある。一方、1回あたりの溶媒の添加量が多すぎると、表面は濡れているが内部は乾いている状態をもつ表面の溶媒量が多い凝集体が一時的に形成されるため、粘度が下がり、混練時のせん断力が低下する。その結果、凝集体内部まで溶媒が馴染むのに時間がかかり、生産性が悪化したり凝集体が残りがちになったりする場合があり得る。
【0013】
また、本発明によると、ここに開示される何れかの電池製造方法を実施するために好ましく用いることができる混練システムが提供される。この混練システムは、活物質とバインダと溶媒との混練を行う混練槽を有する混練装置と、上記混練槽に溶媒を添加する溶媒添加部と、上記混練槽内において上記活物質と上記バインダと上記溶媒とを混練しているときの混練物温度を測定する温度センサと、上記温度センサで測定した混練物温度に基づいて、上記溶媒添加部の上記混練槽への溶媒の添加を停止させる制御部と、を備える。この混練システムによれば、ここに開示される何れかの電池製造方法において、原料投入後、活物質形成用スラリーを得るまでの動作を自動化できる。
【0014】
本発明の混練システムは、電池用電極の製造を行うために好ましく用いることができる。即ち、本発明は、電池用電極の構成成分(例えば、活物質、ポリマー(バインダ、増粘剤等)と溶媒とを混練して活物質層形成用スラリー(ペーストともいう。)を形成する混練システムとして本発明の混練システムを使用することを特徴とする電池(電池用電極)の製造方法を提供する。本発明によると、スラリー内に凝集塊が生じることを防止して、該スラリーを集電体に塗工して活物質層を形成した際にスジが入るなどの不都合を解消したり、活物質層の平滑性や厚みを均一に形成したりすることができる。したがって、品質の良い電池用電極ならびに該電極を備える電池(典型的にはリチウム二次電池等の二次電池)を製造することができる。上記のようにして製造された電池(例えばリチウム二次電池)は、品質の良い電極を用いて構築されていることから、優れた電池性能を示すものである。例えば、サイクル耐久性が高い、出力特性に優れる、生産安定性がよい、のうちの少なくとも一つ(好ましくは全部)を満たすものであり得る。
【0015】
このような電池は、例えば自動車等の車両に搭載される電池として好適である。したがって本発明によると、ここに開示されるいずれかの電池(複数の電池が接続された組電池の形態であり得る。)を備える車両が提供される。特に、軽量で高出力が得られることから、上記電池がリチウム二次電池(典型的にはリチウム二次電池)であって、該リチウム二次電池を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の動力源)として備える車両(例えば自動車)が好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る電極の製造フローを示す図である。
【図2】混練物温度と溶媒の添加量との関係を示すグラフである。
【図3】変化率(dT/dV)と溶媒の添加量との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施形態に係る混練システムを模式的に示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る混練システムの制御フローを示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る電池を模式的に示す図である。
【図7】混練物温度と溶媒の添加量との関係を示すグラフである。
【図8】変化率(dT/dV)と溶媒の添加量との関係を示すグラフである。
【図9】各例の凝集塊の個数を示すグラフである。
【図10】混練物温度と溶媒の添加量との関係を示すグラフである。
【図11】変化率(dT/dV)と溶媒の添加量との関係を示すグラフである。
【図12】各例の凝集塊の個数を示すグラフである。
【図13】本発明の一実施形態に係る電池を搭載した車両を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態を説明する。以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、電極活物質の製造方法、セパレータや電解質の構成および製法、電池その他の電池の構築に係る一般的技術等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。
【0018】
本発明の一実施形態に係る電極ならびに該電極を備えた電池製造方法について、図1を参照しつつ説明する。図1は電極の製造工程の全体の流れを示すフロー図である。ここに開示される電極製造方法は、固練り工程と希釈工程と塗工工程とを包含する。固練り工程(ステップS10)には、活物質及びバインダを含む原料に溶媒を添加し混練することにより固練り状の混練物を得ることが含まれる。希釈工程(ステップS20)には、固練り工程で得られた混練物を溶媒で希釈して該混練物から活物質層形成用スラリーを得ることが含まれる。塗工工程(ステップS30)には、希釈工程で得られた活物質層形成用スラリーを集電体に塗工して該集電体上に活物質層が形成された電極を得ることが含まれる。
特に限定することを意図したものではないが、以下では主としてアルミニウム製の箔状正極集電体(Al箔)を有するリチウム二次電池用の正極(正極シート)を例として、各工程をより詳細に説明する。
【0019】
ステップS10の固練り工程では、正極活物質とバインダと溶媒とを混練して固練り状の混練物を形成する。この実施形態では、まず、正極活物質(典型的には粉体)と、バインダ(典型的には粉体または該粉体を少量の溶媒で分散した液状のバインダ溶液であり得る。)と、を所定の配合量で混合し、適当な混練装置で混練することにより原料混練物を形成する。次いで、原料混練物に少量の溶媒を投入し混練することにより固練り状の混練物を形成する。
【0020】
上記固練り工程に投入される正極活物質としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。ここに開示される技術の好ましい適用対象として、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMn)等の、リチウムと一種または二種以上の遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)を主成分とする正極活物質が挙げられる。好ましくは、上記リチウム遷移金属複合酸化物は、ニッケル、コバルトおよびマンガンの少なくとも一種の金属元素を含有する。中でも、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3)を主成分とする正極活物質(典型的には、実質的にリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質)への適用が好ましい。
【0021】
ここで、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物とは、Li,Ni,Co及びMnを構成金属元素とする酸化物のほか、Li,Ni,Co及びMn以外に他の少なくとも一種の金属元素(すなわち、Li,Ni,Co及びMn以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を含む酸化物をも包含する意味である。かかる金属元素は、例えば、Al,Cr,Fe,V,Mg,Ti,Zr,Nb,Mo,W,Cu,Zn,Ga,In,Sn,LaおよびCeからなる群から選択される一種または二種以上の元素であり得る。リチウムニッケル酸化物、リチウムコバルト酸化物、及びリチウムマンガン酸化物についても同様である。
【0022】
このようなリチウム遷移金属酸化物(典型的には粒子状)としては、例えば、従来公知の方法で調製されるリチウム遷移金属酸化物粉末をそのまま使用することができる。例えば、レーザー回折・散乱法に基づく平均粒径が凡そ1μm〜25μm(好ましくは1μm〜10μm、より好ましくは4μm〜6μm)の範囲にある二次粒子によって実質的に構成されたリチウム遷移金属酸化物粉末を正極活物質として好ましく用いることができる。
【0023】
上記固練り工程に投入されるバインダは、上記正極活物質を結合するためのものであり、該バインダを構成する材料自体は、従来公知のリチウム二次電池用正極に用いられるものと同様の材料であり得る。例えば、後述する正極活物質層形成用スラリーが有機溶剤系の組成物(バインダの分散媒が主として有機溶媒である組成物)である場合には、溶剤系の溶媒に分散または溶解するポリマーを用いることができる。有機溶媒に分散または溶解するポリマーとしては、例えばポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物が挙げられる。ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましく用いられる。さらに、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体も好ましく用いられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体としては、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンおよび三塩化フッ化エチレン等が例示される。あるいは、有機溶媒に分散または溶解するポリマーとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、等も好ましく用いられる。また、正極活物質層形成用スラリーが水系の組成物(バインダの分散媒として水または水を主成分とする混合溶媒を用いた組成物)である場合には、上記バインダとして、水に分散または溶解するポリマーを好ましく採用し得る。水に分散または溶解するポリマーとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)、ポリアクリル酸(PAA)、等が例示される。
【0024】
上記固練り工程に投入される溶媒としては、N‐メチルピロリドン(NMP)、ピロリドン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクサヘキサノン、トルエン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、等の有機溶剤またはこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。あるいは、水または水を主体とする混合溶媒であってもよい。かかる混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。
【0025】
上記固練り工程において、正極活物質とバインダと溶媒とを混練する操作は、例えば、公知の適当な混練装置を用いて行うことができる。例えば、プラネタリーミキサー、ホモディスパー等のうちのいずれの混練装置を用いても構わない。特にプラネタリーミキサー(好ましくは2軸プラネタリーミキサー)を用いて混練することが好ましい。この実施形態では、まず、混練装置に正極活物質及びバインダを含む原料を投入し、混練することで、正極活物質とバインダとが混ざり合った原料混練物(典型的には、溶媒を含まない固体のみの混合物)を形成する。次いで、混練装置に少量の溶媒を投入し、原料混練物と溶媒とを混練することで固練り状の混練物を形成する。この固練り工程においては、混練物の粘度が比較的高い状態にあるので、正極活物質及びバインダの粉体同士が強いせん断力で擦り合わされる。そのため、各粉体の凝集塊(ダマ)を解いて均一に分散させることができる。
【0026】
次に、上記固練り工程における原料への溶媒の添加量の決定方法を説明する。上記固練り工程においては、混練時に原料に最も強いせん断力がかかるように、固練りをするに際しての混練条件、中でも固練り工程に投入される溶媒量を最適に調節することが重要である。本実施形態の固練り工程では、まず、原料に溶媒を添加しつつ混練を行い、このときの混練物温度を測定することにより、溶媒の添加量Vに対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)の推移を把握する。そして、原料の全固形分の5質量%以上の溶媒が添加された後であって、上記変化率(dT/dV)が予め定められた閾値以下に低下し且つ0℃/mlに低下する前に溶媒の添加を停止する。次いで、その停止したときの溶媒量にて、引き続き固練り工程の終了まで混練を行う。
【0027】
本発明者は、原料に溶媒を添加しつつ混練を行い、このときの混練物温度を測定した。その結果、混練物温度を縦軸に、溶媒の添加量を横軸にとると図2のように表現できることを発見した。図2は、原料に溶媒を添加しつつ混練を行い、このときの混練物温度を溶媒の添加量(ml)に対してプロットしたグラフである。ここでは一定の周期で所定量ずつ溶媒を添加したときの混練物温度の推移を示している。図2に示すように、原料粉体のみを混練したときの混練物温度は比較的低いものの、そこから溶媒の添加を開始すると、混練物温度が急速に上昇し始める。この温度上昇は、主として、混練物内において発生する摩擦熱に起因するものと推察される。そして、溶媒の添加量V=aの時点で混練物温度が最大となり、さらに溶媒を加えると混練物温度が次第に下降する。本発明者は、種々の検討を行った結果、この混練物温度が最大となる時点で溶媒の添加を停止し、その停止したときの溶媒量にて引き続き固練り工程の終了まで混練を行うと、その混練物を溶媒で希釈して得られるスラリー内の凝集塊が極めて少なくなることを見出した。
【0028】
かかる溶媒添加の停止は、例えば、溶媒の添加量Vに対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)の推移を把握することにより行うことができる。例えば、図2の結果から、上記変化率(dT/dV)の推移を整理すると、図3に示す関係が得られる。ここで上記変化率(dT/dV)は、一定の周期で溶媒を添加するごとに混練物温度を計測し、その計測された混練物温度T1と、1つ前の周期の混練物温度T2と、一回あたりの溶媒の添加量ΔVとから、(T1−T2)/ΔVによって算出するものとする(図2参照)。図3に示すように、溶媒の添加を開始すると、混練物温度が上昇し始め、それに伴い、変化率(dT/dV)の値がいったん上昇する。そして、ピークPを越えてから下降し(すなわち、溶媒添加量Vに対する温度上昇が次第に緩やかになり)、0℃/mlに達する。この0℃/mlに達した時点が、混練物温度が最大となる溶媒の添加量に相当する。従って、原料に溶媒を添加しつつ混練を行い、このときの混練物温度を測定することにより、溶媒の添加量Vに対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)の推移を把握し、その変化率(dT/dV)がいったん上昇して、ピークPを越えてから0℃/mlまで低下した時点で溶媒の添加を停止するとよい。これにより、固練り工程における最適な溶媒量に調整することができる。実際には、タイムラグやノイズを考慮して、溶媒の添加を停止するための閾値Lを、0℃/mlよりも少し高めに設定しておくことが望ましい。
【0029】
以上のような知見から、本実施形態の固練り工程では、まず、原料に溶媒を添加しつつ混練を行い、このときの混練物温度を測定することにより、溶媒の添加量Vに対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)の推移を把握する。そして、原料の全固形分の5質量%以上の溶媒が添加された後であって、上記変化率(dT/dV)が予め定められた閾値L以下に低下し且つ0℃/mlに低下する前に溶媒の添加を停止する。その後、その停止したときの溶媒量にて引き続き固練り工程の終了まで混練を行う。上記閾値Lの設定され得る範囲としては特に限定されないが、なるべく0℃/mlに近い値であることが望ましい。例えば、概ね0.01℃/ml以下(例えば0℃/mlより大きく且つ0.01℃/ml以下)が適当であり、好ましくは0.0075℃/ml以下(例えば0℃/mlより大きく且つ0.0075℃/ml以下)であり、特に好ましくは0.005℃/ml以下(例えば0℃/mlより大きく且つ0.005℃/ml以下)である。このような閾値Lの範囲内であると、予備実験等を行わなくても、且つ溶媒の添加し過ぎを防いで(換言すれば、混練物温度が最大となる溶媒量を超えて溶媒を添加してしまうことによるせん断力が低下(すなわち固練り効率が低下)する事態を防いで)、固練り時の最適な溶媒量を的確に把握することができる。
あるいは、上記変化率(dT/dV)におけるdVを、上記原料の全固形分に対する割合として閾値Lを設定することも可能である。例えば、上記dVを上記原料の全固形分の0.5質量%〜10質量%(例えば5質量%)に相当する特定の溶媒量とし、当該溶媒量の添加による混練物温度Tの変化量dTが例えば概ね0.01℃以下(例えば0℃より大きく且つ0.01℃以下)となるようにしてもよい。
【0030】
上記原料に溶媒を添加するときの溶媒の1回あたりの添加量としては特に制限されないが、通常は、上記原料の全固形分に対して0.5質量%〜10質量%に相当する量であることが望ましい。1回あたりの溶媒の添加量が少なすぎると、少しずつ時間をかけて溶媒の添加量を調節する必要があるため、該スラリーを用いて製造される電極ならびに該電極を備えた電池の生産性が低下することがある。一方、1回あたりの溶媒の添加量が多すぎると、表面は濡れているが内部は乾いている状態をもつ表面の溶媒量が多い凝集体が一時的に形成されるため、粘度が下がり、混練時のせん断力が低下する。その結果、凝集体内部まで溶媒が馴染むのに時間がかかり、生産性が悪化したり凝集体が残りがちになったりする場合がある。
【0031】
上記溶媒を添加する間隔(周期)は特に制限されないが、概ね10秒〜60秒とすることが適当であり、好ましくは20秒〜50秒程度であり、特に好ましくは30秒〜40秒程度である。溶媒を添加する間隔が長すぎると、時間をかけて溶媒の添加量を調節する必要があるため、該スラリーを用いて製造される電極ならびに該電極を備えた電池の生産性が低下することがある。一方、溶媒を添加する間隔が短すぎると、次の周期までに混練物温度が安定せず、溶媒量の正確な調整を行えないことがある。なお、溶媒は間隔を置いて(間欠で)添加するだけでなく、連続で添加してもよい。ただし、上述した実施形態の如く間隔を置いて溶媒を添加する方が、溶媒量の調整を精度よく行える観点からは望ましい。
【0032】
このように、本実施形態の固練り工程では、まず、原料に溶媒を添加しつつ混練を行い、このときの混練物温度を測定することにより、溶媒の添加量Vに対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)の推移を把握し、原料の全固形分の5質量%以上の溶媒が添加された後であって、変化率(dT/dV)が予め定められた閾値以下に低下し且つ0℃/mlに低下する前に溶媒の添加を停止し、次いで、その停止したときの溶媒量にて引き続き固練り工程の終了まで混練を行うので、混練しながらでも、スラリー内の凝集塊を少なくするための最適な溶媒量を決定することができる。そのため、活物質やバインダの仕様(品種、配合比、ロット等)が変更された場合でも、最適な溶媒量を把握するための試行錯誤を行う必要がなく、試作や予備検討も含めた製造期間を大幅に短縮でき、製造コストを安価にすることができる。
【0033】
なお、ここで開示される技術では、変化率(dT/dV)が閾値L以下に低下したことを認識したうえで溶媒の添加を停止するタイミングを決定する。かかる概念には、変化率(dT/dV)が閾値L以下に低下したことを認識した時点(例えば、変化率(dT/dV)が閾値Lまで低下したことを認識した時点)で直ちに溶媒の添加を停止する態様を含むほか、変化率(dT/dV)が閾値L以下に低下したことを認識した時点から一定時間が経過した後、溶媒の添加を停止する概念も含まれ得る。例えば、変化率(dT/dV)が閾値L以下に低下したことを認識した後も一定量の溶媒の添加を継続し、さらに固形分率が下がったところを溶媒の添加を停止するタイミングとしてもよい。
また、技術常識や、同一または類似の組成による活物質層形成用スラリーの製造実績等の知見に基づいて、凝集物を減らすために好適な固練り条件が実現される溶媒量がある程度の幅をもった範囲(範囲G)内に含まれることが予想できる場合には、上記溶媒の添加を開始してから該溶媒の添加を停止するまでの過程の一部を簡略化してもよい。このことによって、電極および電池の生産性を向上させることができる。例えば、凝集物の少ないスラリーが得られる固練り条件に対して明らかに少なすぎる溶媒量の範囲(範囲NG)を予想できる場合には、上記範囲Gにおいては上述した好ましい条件(添加量、添加間隔等)で溶媒を添加する一方、上記範囲NGの間は、1回当たりの溶媒の添加量をより多くする、溶媒の添加間隔を短くする(溶媒を連続的に投入する場合には、その添加レートを大きくする)、等の態様を採用し得る。また、上記範囲NGの間は、混練物温度Tの測定を省略するか、測定頻度を少なくしてもよい。
【0034】
このようにして原料に溶媒を添加しつつ混練を行い、固練りに最適な溶媒量を決定したら、その決定したときの溶媒量(すなわち溶媒添加の開始から停止までに投入されたトータルの溶媒量)にて引き続き固練り工程の終了まで混練を行う。この実施形態では、適当な混練装置を用いて上記固練りに最適な溶媒量を決定した後、混練装置による混練を継続することで引き続き固練り工程の終了まで混練を行う。このときの混練条件は上記溶媒を添加しつつ混練したときの混練条件と同じであってもよく異なっていてもよい。好ましくは、上記溶媒を添加しつつ混練したときの混練条件よりも混練装置の練り速度(例えばミキサー回転数)を大きくして混練するとよい。例えば、上記溶媒を添加しつつ混練を練り速度3rpm〜10rpm(例えば5rpm程度)で行った後、練り速度を20rpm〜40rpm(例えば30rpm程度)に大きくして、引き続き固練り工程の終了まで混練を行うとよい。溶媒の添加を停止した後の固練り工程における好ましい混練時間は、活物質及びバインダの粉体同士が十分に擦り合わされて均一に分散するまでの時間とすればよく、概ね20〜40分が適当であり、例えば30分程度が好ましい。この固練り工程においては、原料に最も強いせん断力がかかるように溶媒量が最適に調整されている。そのため、各粉体の凝集塊(ダマ)を解いて均一に分散させることができる。このようにして、固練り状の混練物を得ることができる。
【0035】
次のステップS20の希釈工程は、上記固練り工程で得られた混練物を溶媒で希釈分散して該混練物から活物質層形成用スラリーを得る工程である。この実施形態では、適当な混練装置で上記固練り工程を行った後、混練装置による混練を継続したまま溶媒を追加投入することで希釈工程が行われる。このときの混練条件としては上記固練り工程のときの混練条件と同じであってもよく異なっていてもよい。好ましくは、上記固練り工程を行ったときよりも練り速度(例えばミキサー回転数)を小さくして混練を行うとよい。例えば、上記固練り工程を練り速度20rpm〜40rpm(例えば30rpm程度)で行った後、練り速度を10rpm〜20rpm(例えば15rpm程度)に小さくして希釈工程を行うとよい。希釈工程における好ましい混練時間は、固練り状の混練物が溶媒で十分に希釈されて混練物が均一に分散するまでの時間とすればよく、概ね20〜40分が適当であり、例えば30分程度が好ましい。特に限定されるものではないが、上記活物質層形成用スラリー中の溶媒の総量に対して、上記固練り工程で投入される溶媒が占める割合は概ね20質量%〜60質量%であり、好ましくは30質量%〜55質量%である。このような固練り工程で投入される溶媒の割合であると、原料の凝集塊を短時間で効率よく解くことができる。
【0036】
次のステップS30の塗工工程は、上記希釈工程で得られた活物質層形成用スラリーを正極集電体に塗工して正極集電体上に正極活物質層が形成された正極を得る工程である。
【0037】
正極活物質層形成用スラリーを正極集電体に塗布する操作は、従来の一般的なリチウム二次電池用正極を作製する場合と同様にして行うことができる。例えば、適当な塗工装置(ダイコーター、スリットコーター、コンマコーター等)を使用して、上記正極集電体に所定量の上記正極活物質層形成用スラリーを均一な厚さに塗布することにより行われる。塗布後、適当な乾燥手段で塗布物を乾燥(典型的には70℃〜200℃に加熱して乾燥)して正極活物質層形成用スラリーから溶媒を除去することによって、正極活物質を含む正極活物質層が形成される。
【0038】
このようにして、正極集電体上に正極活物質層が形成された正極(正極シート)を得ることができる。なお、乾燥後、必要に応じて適当なプレス処理(例えばロールプレス処理)を施すことによって、正極活物質層の厚みや密度を適宜調整することができる。
【0039】
なお、ここで開示される正極活物質層は、上述した正極活物質及びバインダの他に、一般的なリチウム二次電池において正極活物質層の構成成分として使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、導電剤が挙げられる。該導電剤としてはカーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料が好ましく用いられる。あるいは、ニッケル粉末等の導電性金属粉末等を用いてもよい。特に好ましい例として、例えばレーザー回折・散乱法に基づく平均粒径が1μm〜3μmのケッチェンブラック粉末が挙げられる。かかる導電剤は、希釈工程後に活物質層形成用スラリーに添加してもよいが、固練り工程において正極活物質及びバインダとともに投入されることが好ましい。これにより、正極活物質とバインダと導電剤とが均一に分散したスラリーを形成することができる。
【0040】
その他、正極活物質層の成分として使用され得る材料としては、活物質層形成用スラリーの増粘剤として機能し得る各種のポリマー材料(例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC))が挙げられる。かかる増粘剤は、希釈工程後に活物質層形成用スラリーに添加してもよいが、固練り工程において正極活物質及びバインダとともに投入されることが好ましい。これにより、正極活物質とバインダと増粘剤とが均一に分散したスラリーを形成することができる。
【0041】
図4は、上述した電池製造方法の一部を具現化した混練システム10の一例を示す装置構成図である。この混練システム10は、図4に示すように、活物質とバインダと溶媒とを混練するための混練槽14を有する混練装置12と、混練槽14に溶媒を添加する溶媒添加部13と、混練槽14内に設置された温度センサ16と、制御部18と、記憶部19とを備えている。
【0042】
混練システム10に搭載される混練装置12は、活物質とバインダと溶媒とを混練するために使用されるものであり、この実施形態では2軸プラネタリーミキサー12である。2軸プラネタリーミキサー12は、2本のブレード15a、15bを有しており、該2本のブレード15a、15bを混練槽14内で遊星運動させることで、混練槽14内に投入された活物質とバインダと溶媒とを混練するようになっている。この実施形態では、まず、混練槽14内に活物質とバインダとが投入され、次いで、溶媒添加部13から混練槽14内に溶媒が所定量ずつ投入される。
【0043】
温度センサ16は、混練槽14内において活物質とバインダと溶媒とを混練しているときの混練物温度を検知する。温度センサ16については特に限定されず、一般的な温度センサとして常套的に採用されているものを任意に使用することができる。この実施形態では、温度センサは熱電対センサである。熱電対センサに代えて、白金測温抵抗体、サーミスタ等を使用してもよい。温度センサ16の検知信号は制御部18に入力するようになっている。制御部(例えばCPU)18は、温度センサ16で測定した混練物温度に基づいて、溶媒添加部13の混練槽14への溶媒の添加を停止させるように構成されている。記憶部(例えばHDD)19には、かかる制御部18の制御を行うためのプログラムが記憶されている。また、記憶部19には、上記溶媒の添加を停止させるトリガーとなる閾値Lが記憶されている。
【0044】
溶媒添加部13は、混練槽14の外面に設けられ、混練槽14に溶媒を所定量ずつ添加するものである。この実施形態では、溶媒添加部13は、制御部18に電気的に接続されており、制御部18から溶媒添加開始指令が発せられると、一定の周期(例えば30秒)ごとに混練槽14内に所定量ΔV(例えば20ml)ずつ溶媒を添加するようになっている。また、制御部18から溶媒添加停止指令が発せられると、混練槽14への溶媒の添加を停止させるようになっている。
【0045】
次に、図5を加えて、この混練システム10の作動につき説明する。図5は、混練システム10の制御フローを示す図である。
【0046】
混練システム10を作動する際には、まず、原料(活物質およびバインダ)を混練槽14内に投入する(ステップS110)。そして、2本のブレード15a、15bを混練槽14内で遊星運動させることにより、原料を所定の練り速度(例えば60rpm)で混練して原料混練物を形成する。
【0047】
次いで、ステップS120において、制御部18に溶媒添加開始指令が入力されると、制御部18が溶媒添加部13を作動し、一定の周期(例えば30秒)ごとに混練槽14内に所定量ΔV(例えば20ml)ずつ溶媒を添加する。また、制御部18は、ステップS130において、一定の周期(例えば30秒)ごとに温度センサ16の検出信号を読み取り、温度センサ16が検出した温度検出信号T1と、1つ前の周期の温度検出信号T2とから、溶媒の添加量Vに対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)を、(T1−T2)/ΔVによって演算する。そして、ステップS140において、演算した変化率(dT/dV)の推移をモニタリングし、記憶部19に格納された閾値L以下に低下したか否かを判定する。
【0048】
演算した変化率(dT/dV)が閾値Lまで達しない場合(Noの場合)は、ステップS120に戻って、制御部18が溶媒添加部13を作動し、一定の周期ごとに混練槽14内に所定量ずつ溶媒を添加する操作を続行する。一方、演算した変化率(dT/dV)が閾値L以下まで低下した場合(Yesの場合)は、ステップS150に進み、溶媒添加部13に溶媒添加停止指令を発し、溶媒添加部13からの混練槽14への溶媒の添加を停止する。そして、ステップS160に進み、その停止したときの溶媒量にて引き続き固練り工程の終了まで混練を行う。
【0049】
その後、ステップS170において、混練槽14内での混練を継続しつつ混練槽14内に溶媒を追加投入し、最終的なスラリーの溶媒量となるように混練物を所定の練り速度で混練して希釈分散させる。このことによって、活物質層形成用スラリーを形成することができる。なお、制御部18は、例えばCPUにより構成するとよい。また、記憶部19は、例えばコンピュータで読み出し可能な記録媒体、例えば、HDD、光記録媒体、磁気記録媒体、光磁気記録媒体、フラッシュメモリなどにより構成することができる。
【0050】
このようにして得られた活物質層形成用スラリーは、該スラリー内に凝集塊が生じることが防止され、活物質とバインダとが均一に分散したものとなる。そのため、その後の製造工程において活物質層の厚みが均一でスジ等が入らない品質の良い電極ならびに該電極を備える電池(典型的にはリチウム二次電池等の二次電池)を製造し得る最適な活物質層形成用スラリーとなり得る。さらに、本実施形態によれば、実際に製品を製造する過程としての混練を行いながらでもスラリー内の凝集物が少なくなる最適な溶媒量を決定することができるので、従来実施されていた材料ごとの事前検討(最適な溶媒量の条件出し)が不要になる。そのため、予備検討も含めた製造期間を短縮でき、製造コストを安価にすることができる。
【0051】
このようにして得られた活物質層形成用スラリーは、次の塗工工程に供される。塗工工程では、前述したように、活物質層形成用スラリーを集電体に塗工(典型的には塗布乾燥)して当該集電体上に活物質層が形成された電極を得る。このようにして得られた電極は、活物質層の厚みが均一で品質の良いことから、種々の形態の電池の構成要素または該電池に内蔵される電極体の構成要素(例えば正極)として好ましく利用され得る。
【0052】
例えば、ここに開示されるいずれかの方法により得られた正極と、負極(本発明を適用して製造された負極であり得る。)と、該正負極間に配置される電解質と、典型的には正負極間を離隔するセパレータ(固体状またはゲル状の電解質を用いた電池では省略され得る。)と、を備えるリチウム二次電池の構成要素として好ましく使用され得る。かかる電池を構成する外容器の構造(例えば金属製の筐体やラミネートフィルム構造物)やサイズ、あるいは正負極集電体を主構成要素とする電極体の構造(例えば捲回構造や積層構造)等について特に制限はない。
【0053】
以下、図6に示す模式図を参照しつつ、上述した方法を適用して製造された正極(正極シート)20を用いて構築されるリチウム二次電池の一実施形態につき説明する。このリチウム二次電池100は、正極(正極シート)20として、上述した混練物温度に基づいて固練り時の溶媒量が調整された活物質層形成用スラリーを用いて製造された正極(正極シート)20が用いられている。
【0054】
図示するように、本実施形態に係るリチウム二次電池100は、金属製(樹脂製又はラミネートフィルム製も好適である。)のケース82を備える。このケース(外容器)82は、上端が開放された扁平な直方体状のケース本体84と、その開口部を塞ぐ蓋体86とを備える。ケース82の上面(すなわち蓋体86)には、電極体80の正極20と電気的に接続する正極端子74および該電極体の負極30と電気的に接続する負極端子72が設けられている。ケース82の内部には、例えば長尺シート状の正極(正極シート)20および長尺シート状の負極(負極シート)30を計二枚の長尺シート状セパレータ(セパレータシート)40とともに積層して捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって作製される扁平形状の捲回電極体80が収容される。
【0055】
正極シート20は、長尺シート状の正極集電体の両面に正極活物質を主成分とする正極活物質層が設けられた構成を有する。正極集電体にはアルミニウム箔その他の正極に適する金属箔が好適に使用される。また、負極シート30も正極シートと同様に、長尺シート状の負極集電体の両面に負極活物質を主成分とする負極活物質層が設けられた構成を有する。なお、ここに開示される製造方法は、正極および負極のいずれの製造にも適用することができる。負極シート30も正極シート20と同様に、上述した混練物温度に基づいて固練り時の溶媒量が調整された活物質層形成用スラリーを用いて製造された負極シート30であってもよい。これらの電極シート20、30の幅方向の一端には、いずれの面にも上記電極活物質層が設けられていない電極活物質層非形成部分が形成されている。
【0056】
上記積層の際には、正極シート20の正極活物質層非形成部分と負極シート30の負極活物質層非形成部分とがセパレータシート40の幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、正極シート20と負極シート30とを幅方向にややずらして重ね合わせる。その結果、捲回電極体80の捲回方向に対する横方向において、正極シート20および負極シート30の電極活物質層非形成部分がそれぞれ捲回コア部分(すなわち正極シート20の正極活物質層形成部分と負極シート30の負極活物質層形成部分と二枚のセパレータシート40とが密に捲回された部分)から外方にはみ出ている。かかる正極側はみ出し部分(すなわち正極合材層の非形成部分)20Aおよび負極側はみ出し部分(すなわち負極活物質層の非形成部分)30Aには、正極リード端子79および負極リード端子78がそれぞれ付設されており、上述の正極端子74および負極端子72とそれぞれ電気的に接続される。
【0057】
なお、捲回電極体80を構成する構成要素は、従来のリチウム二次電池の電極体と同様でよく、特に制限はない。例えば、負極シート30は、長尺状の負極集電体の上にリチウム二次電池用負極活物質を主成分とする負極活物質層が付与されて形成され得る。負極集電体には銅箔その他の負極に適する金属箔が好適に使用される。負極活物質は従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等の炭素系材料、リチウム遷移金属複合酸化物(リチウムチタン複合酸化物等)、リチウム遷移金属複合窒化物等が例示される。
【0058】
また、正負極シート20、30間に使用されるセパレータシート40の好適例としては、多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成されたものが挙げられる。
【0059】
そして、ケース本体84の上端開口部から該本体84内に捲回電極体80を収容するとともに適当な電解質を含む電解液をケース本体84内に配置(注液)する。電解質は例えばLiPF等のリチウム塩である。例えば、適当量(例えば濃度1M)のLiPF等のリチウム塩をジエチルカーボネートとエチレンカーボネートとの混合溶媒(例えば質量比1:1)に溶解してなる非水電解液を使用することができる。
【0060】
その後、上記開口部を蓋体86との溶接等により封止し、本実施形態に係るリチウム二次電池100の組み立てが完成する。ケース82の封止プロセスや電解質の配置(注液)プロセスは、従来のリチウム二次電池の製造で行われている手法と同様でよく、本発明を特徴付けるものではない。このようにして本実施形態に係るリチウム二次電池100の構築が完成する。
【0061】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0062】
正極活物質層形成用スラリーの作製を目的として、その原料であるLiCoO(正極活物質)とアセチレンブラック(導電剤)とポリフッ化ビニリデン(バインダ)とを固形分組成比が80:10:10となり且つ固形分の全質量が約200gとなるように秤量し、これを市販の2軸プラネタリーミキサーに投入し、回転数5rpmで混練した。次いで、溶媒としてのN‐メチルピロリドン(NMP)を約30秒ごとに5mlずつ添加しつつ回転数5rpmで混練を行い、このときの混練物温度を熱電対センサで測定した。また、原料固形分の全質量を約400gに変更して同様の試験を行った。結果を図7および図8に示す。図7は、混練物温度と溶媒の添加量との関係を示すグラフであり、図8は、図7の結果から、溶媒の添加量Vに対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)の推移を示すグラフである。
【0063】
さらに、図8のグラフにおいて、溶媒の添加量Vに対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)がそれぞれ異なるタイミングで溶媒の添加を停止することで、固練り時の溶媒量を互いに異ならせて正極活物質層形成用スラリーを調製した。そして、該スラリーを用いて正極シートを作製し、該正極シートの単位面積あたりに含まれるバインダの凝集塊の個数を調べた。
【0064】
<例1−1>
本例では、上述した条件と同様にして原料(活物質、バインダおよび導電剤)に溶媒(NMP)を添加しつつ混練を行い、このときの混練物温度を測定することにより、溶媒の添加量V(ml)に対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)の推移を把握した。そして、原料の全固形分の5質量%以上の上記溶媒が添加された後であって、上記変化率(dT/dV)が0.01℃/ml以下に低下した最も早い時点(図8のB)で溶媒の添加を停止した。この点Bは、また、変化率(dT/dV)が0.01℃/ml以下に低下し且つ0℃/mlまで低下する前の時点に該当する。そして、その停止したときの溶媒量にて引き続き固練り工程の終了まで回転数30rpmで30分間混練を行った。その後、NMPを最終的なスラリーの固形分率が50質量%となるように追加投入して希釈し、回転数15rpmで30分間混練を行った。このようにして目的の正極活物質層形成用スラリーを作製した。
【0065】
<例1−2>
本例では、上記変化率(dT/dV)が図8のBまで低下する時点よりも固形分率が2質量%高い時点(図8のA)で溶媒の添加を停止したこと以外は例1−1と同様にして正極活物質層形成用スラリーを作製した。
【0066】
<例1−3>
本例では、上記変化率(dT/dV)が図8のBまで低下した時点から固形分率が2質量%下がる時点(図8のC)で溶媒の添加を停止したこと以外は例1−1と同様にして正極活物質層形成用スラリーを作製した。
【0067】
上記得られた各例の正極活物質層形成用スラリーをアルミニウム箔(正極集電体)の片面に帯状に塗布して乾燥し、正極集電体の片面に正極活物質層が設けられた正極シートを作製した。正極活物質層形成用スラリーの塗布量(片面)は、約10mg/cm(固形分基準)となるように調節した。そして、正極シート25cmあたりに含まれる凝集サイズ0.5mm以上の凝集塊の個数を目視で確認した。結果を図9に示す。
【0068】
図9に示すように、原料の全固形分の5質量%以上の上記溶媒が添加された後であって溶媒の添加量Vに対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)が0.01℃/ml以下に低下した最初の時点で溶媒の添加を停止した例1−1に係る正極シートは、他の例に比べて、凝集塊の個数が極めて少なかった。この結果から、溶媒の添加量V(ml)に対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)の推移を把握し、原料の全固形分の5質量%以上の溶媒が添加された後であって、上記変化率(dT/dV)が予め定められた閾値(ここでは0.01℃/ml)以下に低下し且つ0℃/mlに低下する前に上記溶媒の添加を停止することにより、正極活物質層形成用スラリー内の凝集塊を少なくするための最適な溶媒量が得られることが確認できた。
【0069】
さらに、負極シートについても同様の試験を行った。すなわち、負極活物質層形成用スラリーの作製を目的として、その原料である天然黒鉛粉末(負極活物質)とカルボキシルセルロース(増粘剤)とスチレンブタジエンゴム(バインダ)とを固形分組成比が98:1:1となり且つ固形分の全質量が200gとなるように秤量し、これを市販の2軸プラネタリーミキサーに投入し、回転数5rpmで混練した。次いで、溶媒としての水を30秒ごとに5mlずつ添加しつつ回転数5rpmで混練を行い、このときの混練物温度を熱電対センサで測定した。また、原料固形分の全質量を約400gに変更して同様の試験を行った。結果を図10および図11に示す。図10は混練物温度と溶媒の添加量との関係を示すグラフであり、図11は、図10の結果から、溶媒の添加量Vに対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)の推移を示すグラフである。
【0070】
さらに、図11のグラフにおいて、溶媒の添加量Vに対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)がそれぞれ異なるタイミングで溶媒の添加を停止することで、固練り時の溶媒量を互いに異ならせて負極活物質層形成用スラリーを調製した。そして、該スラリーを用いて負極シートを作製し、該負極シートの単位面積あたりに含まれるバインダの凝集塊の個数を調べた。
【0071】
<例2−1>
本例では、上述した条件と同様にして原料(活物質、バインダおよび増粘剤)に溶媒(水)を添加しつつ混練を行い、このときの混練物温度を測定することにより、溶媒の添加量V(ml)に対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)の推移を把握した。そして、原料の全固形分の5質量%以上の上記溶媒が添加された後であって、上記変化率(dT/dV)が0.01℃/ml以下に低下した最も早い時点(図11のB)で溶媒の添加を停止した。この点Bは、また、変化率(dT/dV)が0.01℃/ml以下に低下し且つ0℃/mlまで低下する前の時点に該当する。そして、その停止したときの溶媒量にて引き続き固練り工程の終了まで回転数30rpmで30分間混練を行った。その後、水を最終的なスラリーの固形分率が50質量%となるように追加投入して希釈し、回転数15rpmで30分間混練を行った。このようにして目的の負極活物質層形成用スラリーを作製した。
【0072】
<例2−2>
本例では、上記変化率(dT/dV)が図11のBまで低下する時点よりも固形分率が2質量%高い時点(図11のA)で溶媒の添加を停止したこと以外は例2−1と同様にして負極活物質層形成用スラリーを作製した。
【0073】
<例2−3>
本例では、上記変化率(dT/dV)が図11のBまで低下した時点から固形分率が2質量%下がる時点(図11のC)で溶媒の添加を停止したこと以外は例2−1と同様にして負極活物質層形成用スラリーを作製した。
【0074】
上記得られた各例の負極活物質層形成用スラリーを銅箔(負極集電体)の片面に帯状に塗布して乾燥し、負極集電体の片面に負極活物質層が設けられた負極シートを作製した。負極活物質層形成用スラリーの塗布量(片面)は、約5mg/cm(固形分基準)となるように調節した。そして、負極シート25cmあたりに含まれる凝集塊の個数を目視で確認した。結果を図12に示す。
【0075】
図12に示すように、負極についても正極と同様の傾向が得られた。即ち、原料の全固形分の5質量%以上の上記溶媒が添加された後であって溶媒の添加量Vに対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)が0.01℃/ml以下に低下した最初の時点で溶媒の添加を停止した例2−1に係る負極シートは、他の例に比べて、凝集塊の個数が極めて少なかった。この結果から、溶媒の添加量V(ml)に対する混練物温度Tの変化率(dT/dV)の推移を把握し、原料の全固形分の5質量%以上の溶媒が添加された後であって、上記変化率(dT/dV)が予め定められた閾値(ここでは0.01℃/ml)以下に低下し且つ0℃/mlに低下する前に上記溶媒の添加を停止することにより、負極活物質層形成用スラリー内の凝集塊を少なくするための最適な溶媒量が得られることが確認できた。
【0076】
以上、本発明を好適な実施形態及び実施例により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。例えば、電池の種類は上述したリチウム二次電池に限られず、電極体構成材料や電解質が異なる種々の内容の電池、例えば、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池であってもよい。
【0077】
なお、ここに開示されるいずれかの電池100は、車両に搭載される電池として適した性能を備えたものであり得る。したがって本発明によると、図13に示すように、ここに開示されるいずれかの電池100を備えた車両1が提供される。特に、該電池100を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の動力源)として備える車両(例えば自動車)が提供される。
【符号の説明】
【0078】
1 車両
10 混練システム
12 混練装置
13 溶媒添加部
14 混練槽
15a、15b ブレード
16 温度センサ
18 制御部
19 記憶部
20 正極シート
30 負極シート
40 セパレータシート
72 負極端子
74 正極端子
78 負極リード端子
79 正極リード端子
80 電極体
80 捲回電極体
82 電池ケース
84 ケース本体
86 蓋体
100 リチウム二次電池


【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質及びバインダを含む原料に溶媒を添加し混練することにより固練り状の混練物を得る固練り工程と、
前記固練り工程で得られた混練物を溶媒で希釈して該混練物から活物質層形成用スラリーを得る希釈工程と、
前記希釈工程で得られた活物質層形成用スラリーを集電体に塗工して該集電体上に活物質層が形成された電極を得る塗工工程と、
前記得られた電極を用いて電池を構築する工程と
を包含し、
ここで前記固練り工程では、
まず、前記原料に前記溶媒を添加しつつ混練を行い、このときの混練物温度を測定することにより、前記溶媒の添加量Vに対する前記混練物温度Tの変化率(dT/dV)の推移を把握し、
前記原料の全固形分の5質量%以上の前記溶媒が添加された後であって、前記変化率(dT/dV)が予め定められた閾値以下に低下し且つ0℃/mlに低下する前に前記溶媒の添加を停止し、
次いで、その停止したときの溶媒量にて引き続き固練り工程の終了まで混練を行う、電池の製造方法。
【請求項2】
前記閾値が、0.01℃/ml以下に設定されている、請求項1に記載の電池の製造方法。
【請求項3】
前記固練り工程において、前記原料に添加される溶媒の1回あたりの添加量が、前記原料の全固形分の0.5質量%〜10質量%に相当する量である、請求項1または2に記載の電池の製造方法。
【請求項4】
活物質とバインダと溶媒との混練を行う混練槽を有する混練装置と、
前記混練槽に溶媒を添加する溶媒添加部と、
前記混練槽内において前記活物質と前記バインダと前記溶媒とを混練しているときの混練物温度を測定する温度センサと、
前記温度センサで測定した混練物温度に基づいて、前記溶媒添加部の前記混練槽への溶媒の添加を停止させる制御部と
を備えた、混練システム。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−243470(P2012−243470A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110714(P2011−110714)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】