説明

電池システム、電池システム搭載車両及び二次電池の加熱方法

【課題】二次電池を容易かつ効率よく加熱できる電池システム等を提供すること。
【解決手段】電池システム200は、レドックスシャトル剤を添加した電解液117を有する二次電池100と、これを充電する充電手段240と、この充電を制御する充電制御手段220とを備える。このうち、充電制御手段220は、充電手段240により、二次電池100の電池電圧Vaを、満充電時の通常使用上限電圧Vbを越え、かつ、レドックスシャトル剤に酸化還元反応が生じる酸化還元電圧Vc以上の値に維持することで、酸化還元反応に伴う発熱を起こさせて、二次電池100を直接加熱する直接加熱手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池と、この二次電池を充電する充電手段と、この充電手段による二次電池の充電を制御する充電制御手段とを備える電池システムに関する。また、この電池システムを搭載した電池システム搭載車両に関する。また、上記二次電池の加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの二次電池は、例えば−30〜−10℃といった低温環境下では、出力特性が大きく低下することが知られている。このため、二次電池を搭載した電気自動車やプラグインハイブリッド自動車等の電池システム搭載車両は、冬季の低温環境下、特に始動時やその直後などに、十分な走行性能を発揮できない場合があり得る。
【0003】
このような問題に対し、例えば下記の特許文献1〜3では、二次電池の外部または内部に加熱装置等を別途設け、この加熱装置等により二次電池を加熱することが提案されている。具体的には、特許文献1には、二次電池に空気を通気する通気ファン、この空気を加温する空気加温手段等を備える二次電池温度調整装置を二次電池の外部に設け、二次電池の温度が低い場合に、空気加温手段により空気を加温して、この空気により二次電池を加熱することが開示されている(特許文献1の特許請求の範囲等を参照)。
【0004】
また、特許文献2には、凝固点以下になっても液体状態を保つ過冷却の状態にし得る物質を、二次電池の周囲に配置し、この物質が過冷却状態の液体から固体に相転移する際の凝固潜熱を利用して、二次電池を加熱することが開示されている。
また、特許文献3には、過冷却にし得る物質を収容した容器を、二次電池の内部に配置し、この物質が過冷却状態の液体から固体に相転移する際の凝固潜熱を利用して、二次電池の内部から二次電池を加熱することが開示されている。
【0005】
一方、電解液にレドックスシャトル剤を添加した二次電池も知られている(特許文献4〜6を参照)。これらでは、レドックスシャトル剤は、過充電の防止を目的として添加されている。即ち、過充電時にレドックスシャトル剤に酸化還元反応を生じさせて、過充電状態で入力される電池エネルギを化学的に消費して熱エネルギーに変換する。この熱は電池外部に放出されるので、二次電池の過充電を防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−323810号公報
【特許文献2】特開2005−141929号公報
【特許文献3】特開2008−198390号公報
【特許文献4】特開2000−277147号公報
【特許文献5】特開平9−17447号公報
【特許文献6】特開2000−156243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1,2のように、二次電池の外部に加熱装置等を別途設けると、二次電池を加熱するための熱エネルギの一部が電池外の機材や電池のうちの外装材の昇温に用いられるため、電池加熱の効率が悪い。また、加熱装置等を別途設けるために、電池システムが大型化すると共にコスト高を招く。また、特許文献3のように、二次電池
の内部に加熱装置等を別途設けた場合でも、二次電池自身及び電池システムが大型化すると共にこれらのコスト高を招く。
なお、特許文献4〜6に記載の、電解液にレドックスシャトル剤を添加した二次電池
は、低温時の電池加熱のために用いられるものではない。
【0008】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、二次電池を容易かつ効率よく加熱できる電池システム、及び、この電池システムを搭載した電池システム搭載車両を提供することを目的とする。また、二次電池を容易かつ効率よく加熱できる二次電池の加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、レドックスシャトル剤を添加した電解液を有する二次電池と、前記二次電池を充電する充電手段と、前記充電手段による前記二次電池の充電を制御する充電制御手段と、を備える電池システムであって、前記充電制御手段は、前記充電手段により、前記二次電池の電池電圧Vaを、満充電時の電池電圧である通常使用上限電圧Vbを越え、かつ、前記レドックスシャトル剤に酸化還元反応が生じる電池電圧である酸化還元電圧Vc(但し、Vc>Vb)以上の値に維持することにより、前記酸化還元反応に伴う発熱を起こさせて、前記二次電池を直接加熱する直接加熱手段を有する電池システムである。
【0010】
この電池システムの充電制御手段は、充電手段により、二次電池の電池電圧Vaを、通常使用上限電圧Vbを越え、酸化還元電圧Vc以上の値に維持する(Va≧Vc>Vb)ことにより、レドックスシャトル剤の酸化還元反応に伴う発熱を起こさせて、電解液、従って二次電池を直接加熱する直接加熱手段を有する。このため、二次電池を容易かつ効率よく加熱できる。
【0011】
なお、「レドックスシャトル剤」は、電解液に添加し得る物質であって、通常使用上限電圧Vbを超える酸化還元電圧Vcにおいて、正極で酸化反応、負極で還元反応を生じることにより、過充電状態で二次電池に入力される電気エネルギを熱エネルギに変換できる特性を有する物質である。「レドックスシャトル剤」は、1種類の物質のみを用いることもできるし、複数種の物質を混合して用いることもできる。
「レドックスシャトル剤」としては、例えば、上述の特性を有する、芳香族化合物、ラジカル化合物、複素環錯体、メタロセン錯体、Ce化合物などを用いることができる。芳香族化合物、ラジカル化合物、メタロセン錯体及びCe化合物からなるレドックスシャトル剤は、その酸化還元電圧Vcの大きさから、通常使用上限電圧Vbが4.0〜4.5V程度の二次電池に、複素環錯体からなるレドックスシャトル剤は、通常使用上限電圧Vbが3.0V程度の二次電池に用いるのが特に好ましい。
【0012】
芳香族化合物からなるレドックスシャトル剤としては、例えば、1,4−ジメトキシ−2−フルオロベンゼン、1,3−ジメトキシ−5−クロロベンゼン、3,5−ジメトキシ−1−フルオロベンゼン、1,2−ジメトキシ−4−フルオロベンゼン1,2−ジメトキシ−4−ブロモベンゼン、1,3−ジメトキシ−4−ブロモベンゼン、2,5−ジメトキシ−1−ブロモベンゼンなどが挙げられる。
【0013】
また、ラジカル化合物からなるレドックスシャトル剤としては、例えば、トリス(4−フルオロフェニル)アミン、トリス(4−トリフルオロメチルフェニル)アミン、トリス(2,4,6−トリフルオロフェニル)アミン、トリス(4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロフェニル)アミン、トリス(2,3,5,6−テトラフルオロフェニル)アミン、トリス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)アミン、トリス(4−トリフルオロメチル−2,3,5,6−テトラフルオロフェニル)アミン、トリス(2,6−ジフルオロ−4−ブロモフェニル)アミン、トリス(2,4,6−トリブロモフェニル)アミン、トリス(2,4,6−トリクロロフェニル)アミン等のトリフェニルアミン化合物などが挙げられる。
【0014】
また、複素環錯体からなるレドックスシャトル剤としては、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニロキシ,フリーラジカル)、4−ヒドロキシ−TEMPO、4−アミノ−TEMPO、4−シアノ−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、4−(2−ブロモアセタミド)−TEMPO、4−(2−ヨードアセタミド)−TEMPO、3−ヒドロキシ−TEMPO、3−アミノ−TEMPO、3−シアノ−TEMPO、3−(2−ブロモアセタミド)−TEMPO、3−(2−ヨードアセタミド)−TEMPO、プロキシル、β−ヒドロキシ−プロキシル、β−(2−ブロモアセタミド)−プロキシル、β−(2−ヨードアセタミド)−プロキシル等のN−オキシル化合物などが挙げられる。
【0015】
また、メタロセン錯体からなるレドックスシャトル剤としては、Fe(5−Cl−1,10−phenanthroline)32 、Ru(phenanthroline)32 (但し、式中の「X」はアニオン性分子を示す)等の金属錯体が挙げられる。
また、Ce化合物からなるレドックスシャトル剤としては、Ce(NH42(NO35 等のセリウム塩などが挙げられる。
【0016】
更に、上記の電池システムであって、前記二次電池の電池温度Taを検知する温度検知手段を更に備え、前記充電制御手段は、前記電池温度Taが第1所定温度Tbよりも低い場合に、前記電池温度Taが第2所定温度Tc(但し、Tc≧Tb)となるまで、前記直接加熱手段に前記二次電池の加熱を行わせる温度管理手段を更に有する電池システムとすると良い。
【0017】
この電池システムでは、二次電池の電池温度Taが第1所定温度Tbよりも低くなった場合に、温度検知手段及び温度管理手段により、二次電池の電池温度Taを第2所定温度Tcまで、自動的に昇温させることができる。
【0018】
更に、上記の電池システムであって、前記二次電池に蓄えられた電気エネルギを用いて駆動される被駆動装置を更に備え、前記充電制御手段は、前記電池温度Taが前記第1所定温度Tbよりも低い場合に、前記被駆動装置の駆動を開始する駆動開始予定時刻Ha、及び、前記電池温度Taに基づいて、前記直接加熱手段による前記二次電池の加熱開始のタイミングを調整するタイミング調整手段を更に有する電池システムとすると良い。
【0019】
この電池システムは、被駆動装置を更に備え、充電制御手段がタイミング調整手段を更に有するので、駆動開始予定時刻Ha及び電池温度Taに基づいて、二次電池の加熱開始のタイミングを適切に調整できる。
「加熱開始のタイミング」としては、例えば、直接加熱手段による加熱で駆動開始予定時刻Haにおける電池温度Taがちょうど第2所定温度Tcとなるタイミング(例えば駆動開始予定時刻Haの45分前)の他、駆動開始予定時刻Haの少し前に(例えば5分前に)電池温度Taが第2所定温度Tcとなるタイミングが挙げられる。このように駆動開始予定時刻Haの時点あるいはその少し前に、電池温度Taが第2所定温度Tcとなるようにすれば、二次電池を暖めておく必要がない期間まで二次電池を昇温させておかなくても済むので、無駄なエネルギ消費を抑えることができる。
【0020】
なお、駆動開始予定時刻Haの到来後、実際に被駆動装置が駆動を開始するまでの間、電池温度Taを第2所定温度Tcに保つ保温手段を備えるのが好ましい。
【0021】
更に、上記のいずれかに記載の電池システムであって、前記充電制御手段は、前記直接加熱手段により前記二次電池を加熱する直前に、前記二次電池が満充電となるパターンで前記二次電池を充電する直前満充電手段を更に有する電池システムとすると良い。
【0022】
リチウムイオン二次電池など、満充電の状態で放置すると劣化が進行し易い二次電池がある。これに対し、この電池システムでは、直前満充電手段により、二次電池を加熱する直前に二次電池が満充電となるように二次電池を充電できる。従って、満充電状態の期間が長くなることに伴う二次電池の劣化を抑制できる。
【0023】
また、他の態様は、上記のいずれかに記載の電池システムを搭載した電池システム搭載車両である。
【0024】
前述の電池システムは、二次電池を容易かつ効率よく加熱できるので、これを搭載した電池システム搭載車両の電費を良くすることができる。
なお、「電池システム搭載車両」としては、例えば、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド鉄道車両、フォークリフト、電気車いす、電動アシスト自転車、電動スクータなどが挙げられる。
【0025】
なお、この電池システム搭載車両において、前述の被駆動装置に対応するのは、この電池システム搭載車両を駆動し走行させるモータである。また、前述の充電手段に対応するのは、この電池システム搭載車両外の外部電源からの電気エネルギを二次電池に充電する外部電源充電装置である。
【0026】
また、他の態様は、レドックスシャトル剤を添加した電解液を有する二次電池を加熱する二次電池の加熱方法であって、前記二次電池の電池電圧Vaを、満充電時の電池電圧である通常使用上限電圧Vbを越え、かつ、前記レドックスシャトル剤に酸化還元反応が生じる電池電圧である酸化還元電圧Vc(但し、Vc>Vb)以上の値に維持することにより、前記酸化還元反応に伴う発熱を起こさせて、前記二次電池を直接加熱する直接加熱ステップを備える二次電池の加熱方法である。
【0027】
この二次電池の加熱方法では、二次電池の電池電圧Vaを、通常使用上限電圧Vbを越え、酸化還元電圧Vc以上の値に維持する(Va≧Vc>Vb)ことにより、レドックスシャトル剤の酸化還元反応に伴う発熱を起こさせて、電解液、従って二次電池を直接加熱する。このため、二次電池を容易かつ効率よく加熱できる。
【0028】
更に、上記の二次電池の加熱方法であって、前記二次電池の電池温度Taを検知する温度検知ステップと、前記電池温度Taが第1所定温度Tbよりも低い場合に、前記電池温度Taが第2所定温度Tc(但し、Tc≧Tb)となるまで、前記直接加熱ステップで前記二次電池の加熱を行わせる温度管理ステップと、を更に備える二次電池の加熱方法とすると良い。
【0029】
この二次電池の加熱方法では、二次電池の電池温度Taを検知し、この電池温度Taが第1所定温度Tbよりも低い場合に、電池温度Taが第2所定温度Tcとなるまで、二次電池を加熱する。従って、電池温度Taが第1所定温度Tbよりも低くなった場合に、電池温度Taを第2所定温度Tcまで自動的に昇温させることができる。
【0030】
更に、上記の二次電池の加熱方法であって、前記電池温度Taが前記第1所定温度Tbよりも低い場合に、前記二次電池に蓄えられた電気エネルギを用いて駆動される被駆動装置の駆動を開始する駆動開始予定時刻Ha、及び、前記電池温度Taに基づいて、前記直接加熱ステップによる前記二次電池の加熱開始のタイミングを調整するタイミング調整ステップを更に備える二次電池の加熱方法とすると良い。
【0031】
この二次電池の加熱方法では、タイミング調整ステップにより、駆動開始予定時刻Ha及び電池温度Taに基づいて、二次電池の加熱開始のタイミングを適切に調整できる。
【0032】
更に、上記のいずれかに記載の二次電池の加熱方法であって、前記直接加熱ステップを行う直前に、前記二次電池が満充電となるパターンで前記二次電池を充電する直前満充電ステップを更に備える二次電池の加熱方法とすると良い。
【0033】
リチウムイオン二次電池など、満充電の状態で放置すると劣化が進行し易い二次電池がある。これに対し、この二次電池の加熱方法では、直接加熱ステップを行う直前に二次電池が満充電となるように二次電池を充電するので、満充電状態の期間が長くなることに伴う二次電池の劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施形態1に係り、電池システムを搭載したプラグインハイブリッド自動車の概略を示す説明図である。
【図2】実施形態1に係り、リチウムイオン二次電池の縦断面図である。
【図3】実施形態1に係り、捲回型電極体を示す斜視図である。
【図4】実施例1及び比較例1について、入力電気量と電池電圧Vaとの関係を示すグラフである。
【図5】実施例2及び比較例2について、加熱時間と電池温度Taとの関係と示すグラフである。
【図6】実施例3及び比較例3〜5について、電池出力及び電池温度Taを示すグラフである。
【図7】実施形態1に係り、電池システムによる充電制御を示すフローチャートである。
【図8】実施形態1に係り、電池システムによる充電制御のうち、充電・加熱処理について示すフローチャートである。
【図9】実施形態2に係り、電池システムによる充電制御を示すフローチャートである。
【図10】実施形態2に係り、電池システムによる充電制御のうち、加熱処理について示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(実施形態1)
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。図1に、本実施形態1に係る電池システム200を搭載したプラグインハイブリッド自動車(電池システム搭載車両)300を示す。このプラグインハイブリッド自動車300は、その車体310に、エンジン320と、フロントモータ330及びリアモータ340(被駆動装置)と、電池システム200とを搭載する。
【0036】
このうち、電池システム200は、組電池210と、ECU220と、インバータ230と、AC−DCコンバータ(充電手段)240と、これらを接続するケーブル250と、外部電源XVとの接続に用いるプラグ付きケーブル260とを有する。このうち、組電池210は、複数のリチウムイオン二次電池(二次電池)100,100,…と、リチウムイオン二次電池100の電池温度Taを検知する温度センサ(温度検知手段)190とを有する。
【0037】
本実施形態1では、この電池システム200により、外部電源XVから組電池210(リチウムイオン二次電池100)へ充電でき、また、組電池210(リチウムイオン二次電池100)に蓄えたれた電気エネルギを用いて、フロントモータ330及びリアモータ340を駆動できる。なお、ECU220が、AC−DCコンバータ240によるリチウムイオン二次電池100の充電を制御する「充電制御手段」に相当する。
【0038】
次に、組電池210を構成するリチウムイオン二次電池100について説明する。このリチウムイオン二次電池100は、正極板121の理論容量より推測される電池容量が14Ahであり、満充電(SOC100%)時の電池電圧である通常使用上限電圧Vbが4.1Vである。
このリチウムイオン二次電池100は、角型電池であり、角型の電池ケース110、この電池ケース110内に収容された捲回型電極体120、電池ケース110に支持された正極電極端子部材150及び負極電極端子部材160等から構成されている(図2及び図3参照)。また、電池ケース110内には、電解液117が注入されている。
【0039】
このうち、電解液117は、レドックスシャトル剤を添加したものである。具体的には、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを1:1の割合(体積比)で混合し、LiPF6を1Mとなるように溶解させた電解液に、レドックスシャトル剤として1,2−ジ(メトキシ)−4−(フッ化)ベンゼンを0.01Mとなるようにように溶解させたものである。このレドックスシャトル剤の酸化還元電圧Vcは4.2Vである。
【0040】
また、捲回型電極体120は、帯状の正極板121と帯状の負極板131とを通気性を有する帯状のセパレータ141を介して互いに重ねて軸線AX周りに捲回し、扁平状に圧縮したものである。
このうち、正極板121は、芯材として、帯状のアルミニウム箔からなる集電板122を有する。この集電板122の両主面のうち、幅方向の一部でかつ長手方向に延びる領域上には、それぞれ正極活物質層が長手方向に帯状に設けられている。この正極活物質層は、正極活物質、導電助剤及び結着剤から構成されている。本実施形態1では、正極活物質としてLiFePO4 、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いている。
【0041】
また、負極板131は、芯材として、帯状の銅箔からなる集電板132を有する。この集電板132の両主面のうち、幅方向の一部でかつ長手方向に延びる領域上には、それぞれ負極活物質層が長手方向に帯状に設けられている。この負極活物質層は、負極活物質、結着剤及び増粘剤から構成されている。本実施形態1では、負極活物質として天然黒鉛系の炭素材料、結着剤としてスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いている。
セパレータ141は、樹脂、具体的にはポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)からなる多孔質膜であり、帯状をなす。
【0042】
ここで、このリチウムイオン二次電池100について行った種々の試験結果について説明する。まず、実施例1として、このリチウムイオン二次電池100を充電して、入力電気量と電池電圧(端子間電圧)Vaとの関係を調べた。また、比較例1として、電解液にレドックスシャトル剤を添加しないで、それ以外は上記実施形態1と同様にしたリチウムイオン二次電池を用意し、これについても同様に、入力電気量と電池電圧Vaとの関係を調べた。その結果を図4に示す。
【0043】
図4のグラフより、比較例1に係るリチウムイオン二次電池は、充電が進み、満充電となった電池電圧Va=Vb(4.1V)を越えると、入力電気量の増加に対し電池電圧Vaが急激に上昇する。
一方、実施例1に係るリチウムイオン二次電池100では、満充電である電池電圧Va=Vbを越え、更に電池電圧Va=Vc(4.2V)に達するまで、入力電気量と電池電圧Vaとの関係は、比較例1に係るリチウムイオン二次電池と同じである。しかし、電池電圧Va=Vcに達すると、もはや入力電気量の増加に対し電池電圧Vaは増加せず、電池電圧Vaはこの値Vcを維持する。この電圧値Vcは、電解液117中のレドックスシャトル剤に酸化還元反応が生じる酸化還元電圧である。レドックスシャトル剤は、この酸化還元電圧Vcにおいて、正極板121で酸化反応、負極板131で還元反応を生じることにより、過充電状態で入力される電気エネルギを熱エネルギに変換している。この熱は、電池ケース110等を通じて電池外部に放出される。
【0044】
次に、実施例2として、上記実施形態1に係るリチウムイオン二次電池100を直接加熱して、加熱時間と電池温度Taとの関係を調べた。具体的には、25℃の恒温槽内で、定電流−定電圧方式(上限電圧4.1V、電流値(1/80)Cが充電終了条件)により、リチウムイオン二次電池100を満充電となるまで充電した。その後、この満充電とされたリチウムイオン二次電池100を、−20℃の恒温槽内に置いた。
その後、このリチウムイオン二次電池100に1Cの定電流で通電することにより、レドックスシャトル剤の酸化還元反応に伴う発熱を起こさせて、リチウムイオン二次電池100をその内部から直接加熱した。この実施例2では、電池温度Taが−20℃から25℃となるまでに20分間要した。
【0045】
一方、比較例2として、容器に30mlの液体(具体的には水)とこれを加熱可能なヒータ(180Wのニクロム線)とを収容し、この液体中に上記比較例1に係るリチウムイオン二次電池を浸漬したものを用意した。そして、予めリチウムイオン二次電池100を25℃の環境温度下で上記のように満充電にしておき、容器中の液体及びリチウムイオン二次電池100の温度を−20℃とした。
その後、実施例1に係るリチウムイオン二次電池100と消費電力が同じになるようにヒータに通電して、液体を加熱することにより、リチウムイオン二次電池100を間接的に加熱した。この比較例2では、電池温度Taが−20℃から25℃となるまでに35分間要した。その結果を図5に示す。
【0046】
図5のグラフから判るように、実施例2に係るリチウムイオン二次電池100も比較例2に係るリチウムイオン二次電池も、加熱時間の経過に伴って、電池温度Taが直線的に上昇する。但し、比較例2に比して実施例2の方が、上昇のスピードが速い。即ち、実施例2に係るリチウムイオン二次電池100は、25℃に到達するのに20分間で済んだのに対し、比較例2に係るリチウムイオン二次電池は、25℃に到達するのに35分間も掛かった。
このことから、リチウムイオン二次電池の外部に加熱装置を別途設置して、これによりリチウムイオン二次電池を加熱する(比較例2)よりも、リチウムイオン二次電池100を内部から直接加熱する(実施例2)方が、効率よく加熱できることが判る。
【0047】
次に、実施例3として、上記実施例2と同様に、上記実施形態1に係るリチウムイオン二次電池100を満充電とし、−20℃とした後に20分間加熱して、電池温度Taと電池出力を測定した。電池出力は、加熱終了後、1分間経過した時点で測定した。
なお、電池出力は、次のようにして算出した。即ち、上記リチウムイオン二次電池100を、定電流方式により1Cで30秒間放電させた。放電前の電池電圧(開放電圧)をV0、放電開始から20秒後の電池電圧をV1とし、(V1−V0)/Iをこのリチウムイオン二次電池100の内部抵抗Rとした。更にシステムの下限電圧V2(本実施形態ではV2=3.0V)から(V2×V2)/Rを求め、更にこれを正極活物質の重量で割って、この値を電池出力(W/g)とした。
【0048】
また、比較例3として、前述の比較例1に係るリチウムイオン二次電池(電解液にレドックスシャトル剤を含まない)を用意し、満充電とし、−20℃とした後に、実施例3のような加熱のための「通電を行うことなく」、電池温度Taを測定し、更に電池出力を測定した。
また、比較例4として、前述の比較例1に係るリチウムイオン二次電池(電解液にレドックスシャトル剤を含まない)を用意し、満充電とし、−20℃とした後に、更に実施例3と同様な「通電を行って」、電池温度Taと電池出力を測定した。
また、比較例5として、前述の実施例3に係るリチウムイオン二次電池100(電解液にレドックスシャトル剤を含む)を用意し、満充電とし、−20℃とした後に、実施例3のような加熱のための「通電を行うことなく」、電池温度Taと電池出力を測定した。
その結果を図6に示す。なお、電池出力は、比較例3を基準(基準値「1」)とし、実施例3,比較例4,5は、比較例3に対する相対値で示してある。
【0049】
図6より、比較例3,5では、上記の試験後も、電池温度Taは環境温度(−20℃)と変わらず、電池出力は基準値「1」であった。また、比較例4では、電池温度Taが環境温度(−20℃)から僅かに上昇(電池温度Ta=−15℃)し、また、電池出力も比較例3に比べて僅かに上昇(電池出力=1.3)した。これらに対し、実施例3では、電池温度Taが環境温度(−20℃)から大幅に上昇(電池温度Ta=25℃)し、また、電池出力も大幅に上昇(電池出力=5.0)した。
【0050】
このことから、満充電後に加熱のための通電を別途行わないと(比較例3,5)、電解液にレドックスシャトル剤が添加されているか否かに拘わらず、電池温度Taに変化がなく、従って電池出力も上昇しないことが判る。また、満充電後に加熱のために通電(過充電)を行っても、電解液にレドックスシャトル剤が添加されていないリチウムイオン二次電池では(比較例4)、電池温度Taが僅かしか上昇せず、電池出力も僅かしか上昇しないことが判る。一方、電解液にレドックスシャトル剤が添加されたリチウムイオン二次電池100を用いて、満充電後に加熱のための通電を行えば(実施例3)、電池温度Taが大幅に上昇し、電池出力も大幅に上昇させ得ることが判る。
【0051】
次いで、前述のプラグインハイブリッド自動車300における、電池システム200による組電池210(リチウムイオン二次電池100)の充電制御について説明する。このプラグインハイブリッド自動車300は、例えば−30〜−10℃といった低温環境下で、組電池210(リチウムイオン二次電池100)の出力が大きく低下するため、十分な走行性能を発揮できないおそれがある。この問題を解決するために、このプラグインハイブリッド自動車300では、電池システム200において図7及び図8のフローチャートを示す充電制御を行って、低温状態にあるリチウムイオン二次電池100(組電池210)を加熱する。
【0052】
ユーザは、プラグインハイブリッド自動車300を外部電源XVに接続し、プラグインハイブリッド自動車300の運転を開始する運転開始予定時刻(駆動開始予定時刻)Haを入力する。この運転開始予定時刻Haは、ECU220に記憶される。
まず、ステップS1において、運転開始予定時刻(駆動開始予定時刻)Haが設定されているか否かを判断する。ここで、YES、即ち、運転開始予定時刻Haが設定されている場合は、ステップS2に進む。一方、NO、即ち、運転開始予定時刻Haが設定されていない場合は、ステップS10の充電処理に進む。
【0053】
ステップS2に進むと、リチウムイオン二次電池100の充電状態(SOC)を検知する。本実施形態1では、リチウムイオン二次電池100の電池電圧Vaを測定し、この値から充電状態を検知している。
次に、ステップS3に進み、温度センサ190によりリチウムイオン二次電池100の電池温度Taを測定する。このステップS3が前述の「温度検知ステップ」に相当する。
【0054】
次に、ステップS4において、ステップS3で得られた電池温度Taが、第1所定温度Tb(本実施形態1では5℃)よりも低いか否かを判断する。ここで、YES、即ち、電池温度Taが第1所定温度Tbよりも低い場合には、ステップS5に進む。リチウムイオン二次電池100が低温状態にあり、加熱を必要とする場合である。一方、NO、即ち、電池温度Taが第1所定温度Tb以上の場合には、ステップS8に進む。リチウムイオン二次電池100を加熱する必要がない場合である。
【0055】
ステップS5に進むと、ユーザが設定した運転開始予定時刻Ha、ステップS2で得られた充電状態、及び、後述する第2所定温度TcとステップS3で得られた電池温度Taとの温度差ΔTに基づいて、後述する充電・加熱処理を開始する時刻である充電・加熱開始時刻Hbを決定する。具体的には、充電状態から、リチウムイオン二次電池100を満充電まで充電するのに必要な充電時間Jaを求めると共に、温度差ΔTから、リチウムイオン二次電池100を第2所定温度Tcまで加熱するのに必要な加熱時間Jbを求める。そして、運転開始予定時刻Haにおいてリチウムイオン二次電池100が暖められた状態となるように(電池温度Taが第2所定温度Tcとなっているように)、運転開始予定時刻Haから充電時間Ja及び加熱時間Jbを差し引いて、充電・加熱開始時刻Hbとする。
【0056】
次に、ステップS6に進み、現在の時刻が充電・加熱開始時刻Hbになったか否かを判断する。ここで、YES、即ち、充電・加熱開始時刻Hbになっている場合には、ステップS7に進み、充電・加熱処理を行う。一方、NO、即ち、まだ充電・加熱開始時刻Hbになっていない場合には、充電・加熱開始時刻Hbになるまで待機する。なお、ステップS5,S6が、前述の「タイミング調整ステップ」に相当し、また、ステップS5,S6を実行しているECU220が前述の「タイミング調整手段」に相当する。
【0057】
次に、ステップS7に進み、図8に示す充電・加熱処理のサブルーチンを行う。このサブルーチンでは、リチウムイオン二次電池100の充電に続いてリチウムイオン二次電池100の加熱も行う。電池温度Taが低すぎるからである(電池温度Ta<第1所定温度Tb)。
まず、ステップS71において、リチウムイオン二次電池100の充電を開始する。本実施形態1では、定電流方式により0.5〜2C(本実施形態1では0.5C)で充電を行う。
【0058】
次に、ステップS72に進み、リチウムイオン二次電池100の電池電圧Vaを測定する。その後、ステップS73において、ステップS72で得られた電池電圧Vaが、酸化還元電圧Vc以上となったか否かを判断する。ここで、YES、即ち、電池電圧Vaが酸化還元電圧Vc以上である場合には、ステップS74に進む。一方、NO、即ち、電池電圧Vaが酸化還元電圧Vcよりも小さい場合には、ステップS72に戻り、充電を続ける。
ステップS74に進むと、リチウムイオン二次電池100の充電を終了する。この時点でリチウムイオン二次電池100は、満充電の状態を過ぎ、若干過充電の状態となっている。なお、ステップS71〜S74が前述の「直前満充電ステップ」に相当し、また、これらのステップS71〜S74を実行しているECU220が前述の「直前満充電手段」に相当する。
【0059】
次に、ステップS75において、リチウムイオン二次電池100の加熱を開始する。即ち、電池電圧Vaを、満充電時の通常使用上限電圧Vbを越え、かつ、レドックスシャトル剤の酸化還元電圧Vc以上の値に維持して通電することにより、レドックスシャトル剤の酸化還元反応に伴う発熱を起こさせて、電解液117、従ってリチウムイオン二次電池100を直接加熱する。具体的には、定電流方式により0.1〜0.2C(本実施形態1では0.1C)の通電を行うことにより、リチウムイオン二次電池100を内部から直接加熱する。なお、このステップS75が前述の「直接加熱ステップ」に相当し、また、このステップS75を実行しているECU220が前述の「直接加熱手段」に相当する。
【0060】
次に、ステップS76に進み、電池温度Taを測定する。このステップS76も前述の温度検知ステップに相当する。
その後、ステップS77において、ステップS76で得られた電池温度Taが第2所定温度Tc(但し、Tc≧Tb、本実施形態1では5℃)以上であるか否かを判断する。ここで、YES、即ち、電池温度Taが第2所定温度Tc以上である場合には、ステップS78に進む。一方、NO、即ち、電池温度Taが第2所定温度Tcよりも小さい場合には、ステップS79に進む。
【0061】
ステップS78では、リチウムイオン二次電池100の通電及びこれによる加熱を終了する。なお、前述のステップS4とステップS77とステップS78とが、「温度管理ステップ」に相当する。また、ステップS3,S4,S76〜S78を実行しているECU220が前述の「温度管理手段」に相当する。
その後、図7のメインルーチンに戻り、この充電制御を終了する。この終了時点で、時刻はちょうど運転開始予定時刻Ha或いはその前後の時刻となっており、また、リチウムイオン二次電池100は満充電の状態で、かつ、第2所定温度Tcまで昇温している。従って、ユーザがプラグインハイブリッド自動車300の運転を開始する運転開始予定時刻Haの時点から、組電池210(リチウムイオン二次電池100)の出力が十分に得られ、十分な走行性能を発揮できる。
【0062】
一方、ステップS79に進むと、電池電圧Vaを測定する。その後、ステップS80において、ステップS79で得られた電池電圧Vaが、電池加熱時の上限電圧である加熱上限電圧Vd以上であるか否かを判断する。ここで、YES、即ち、電池電圧Vaが加熱上限電圧Vd以上である場合には、ステップS78に進んで加熱を終了する。これにより、電池電圧Vaが異常に上昇した状態で加熱されるのを防止できる。その後、図7のメインルーチンに戻り、この充電制御を終了する。一方、NO、即ち、電池電圧Vaが加熱上限電圧Vdよりも小さい場合には、ステップS76まで戻り、リチウムイオン二次電池100の加熱を続ける。
【0063】
次に、図7のメインルーチンのステップS4において、NOと判断され、ステップS8に進んだ場合には、ユーザが設定した運転開始予定時刻Haと、ステップS2で得られた充電状態とに基づいて、後述する充電処理を開始する時刻である充電開始時刻Hcを決定する。具体的には、充電状態から、リチウムイオン二次電池100を満充電まで充電するのに必要な前述の充電時間Jaを求め、運転開始予定時刻Haにリチウムイオン二次電池100が満充電となるように、運転開始予定時刻Haから充電時間Jaを差し引いて、充電開始時刻Hcとする。
【0064】
次に、ステップS9に進み、現在の時刻が充電開始時刻Hcになったか否かを判断する。ここで、YES、即ち、充電開始時刻Hcになっている場合には、ステップS10に進み、充電処理を行う。一方、NO、即ち、まだ充電開始時刻Hcになっていない場合には、充電開始時刻Hcになるまで待機する。
【0065】
ステップS10では、リチウムイオン二次電池100の充電のみを行い、加熱は行わない。電池温度Taが加熱を要するほど低くないからである(電池温度Ta≧第1所定温度Tb)。具体的には、定電流−定電圧方式(上限電圧4.1V、電流値(1/80)Cが充電終了条件)により、リチウムイオン二次電池100を満充電となるまで充電する。この充電が終了した時点で、時刻は運転開始予定時刻Haとなっている。
【0066】
以上で説明したように、本実施形態1に電池システム200では、ECU220によって制御されたAC−DCコンバータ240により、リチウムイオン二次電池100の電池電圧Vaを、通常使用上限電圧Vbを越え、酸化還元電圧Vc以上の値に維持する(Va≧Vc>Vb)通電を行う。これにより、レドックスシャトル剤の酸化還元反応に伴う発熱を起こさせて、リチウムイオン二次電池100を内部から直接加熱する。このため、従来技術として説明したような、電池外部または電池内部に電池を暖めるための加熱装置等を別途設ける必要がないので、電池システム200を小型化でき、また、安価にすることができる。
【0067】
また、電池外部に加熱装置等を設けると、加熱時の熱エネルギの一部が電池外の機材やリチウムイオン二次電池100のうちの電池ケース110等の昇温に用いられるため、電池加熱の効率が悪い。これに対し、この電池システム200では、リチウムイオン二次電池100をその内部から直接加熱できるので、加熱のためのエネルギが少なくて済む。このように、この電池システム200では、リチウムイオン二次電池100を容易かつ効率よく加熱できる。
【0068】
更に、この電池システム200では、リチウムイオン二次電池100の電池温度Taを検知し、この電池温度Taが第1所定温度Tbよりも低い場合に、電池温度Taが第2所定温度Tcとなるまで、リチウムイオン二次電池100を加熱する。従って、電池温度Taが第1所定温度Tbよりも低くなった場合に、電池温度Taを第2所定温度Tcまで自動的に昇温させることができる。
【0069】
また、この電池システム200では、電池温度Taが第1所定温度Tbよりも低い場合に、運転開始予定時刻Haに電池温度Taが第2所定温度Tcなるように、運転開始予定時刻Ha、及び、電池温度Taに基づいて、リチウムイオン二次電池100の加熱開始のタイミングを調整している。従って、運転開始予定時刻Haにおける電池温度Taを、ちょうど第2所定温度Tcに、或いはそれに近い温度にすることができる。また、リチウムイオン二次電池100を暖めておく必要がない期間までリチウムイオン二次電池100を加熱しなくても済むので、無駄なエネルギを使わなくて済ますことができる。
【0070】
また、リチウムイオン二次電池100は、満充電の状態で放置すると劣化が進行し易いが、この電池システム200では、リチウムイオン二次電池100を加熱する直前にリチウムイオン二次電池100が満充電となるように、リチウムイオン二次電池100を充電できる。従って、満充電状態の期間が長くなることに伴うリチウムイオン二次電池100の劣化を抑制できる。
【0071】
また、このような電池システム200を搭載することにより、プラグインハイブリッド自動車300の電費を良くすることができる。また、プラグインハイブリッド自動車300は、電池システム200を搭載するためのスペースを小さくでき、また、車両を安価にすることできる。
【0072】
(実施形態2)
次いで、第2の実施の形態について説明する。本実施形態2に係る電池システム202及びこれを搭載したプラグインハイブリッド自動車302は、充電制御が開始されると直ちにリチウムイオン二次電池100を満充電まで充電する点が、運転開始予定時刻Haに基づいて充電を開始する上記実施形態1に係る電池システム200及びプラグインハイブリッド自動車300と異なる。
【0073】
本実施形態2の充電制御を、図9及び図10のフローチャートを参照しつつ説明する。ユーザがプラグインハイブリッド自動車300を外部電源XVに接続し、運転開始予定時刻Haを入力すると、上記実施形態1と同様に運転開始予定時刻HaがECU220に記憶される。
まず、ステップS21において、充電処理を行う。この充電処理は、上記実施形態1の充電処置(ステップS10)と同じである(図7参照)。このステップS21を終えた時点で、リチウムイオン二次電池100は満充電の状態になっている。
【0074】
次に、ステップS22に進み、運転開始予定時刻Haが設定されているか否かを判断する。ここで、YES、即ち、運転開始予定時刻Haが設定されている場合は、ステップS23進む。一方、NO、即ち、運転開始予定時刻Haが設定されていない場合は、この充電制御を終了する。
【0075】
次に、ステップS23に進み、温度センサ190により電池温度Taを測定する。このステップS23が前述の「温度検知ステップ」に相当する。
その後、ステップS24において、ステップS23で得た電池温度Taが、第1所定温度Tb(本実施形態2では5℃)よりも低いか否かを判断する。ここで、YES、即ち、電池温度Taが第1所定温度Tbよりも低い場合には、ステップS25に進む。リチウムイオン二次電池100が低温状態にあり、加熱を必要とする場合である。一方、NO、即ち、電池温度Taが第1所定温度Tb以上の場合には、この充電制御を終了する。リチウムイオン二次電池100を加熱する必要がないからである。
【0076】
次に、ステップS25に進むと、運転開始予定時刻Haと、後述する第2所定温度TcとステップS23で得られた電池温度Taとの温度差ΔTに基づいて、後述する加熱処理を開始する時刻である加熱開始時刻Hdを決定する。具体的には、温度差ΔTから、リチウムイオン二次電池100を第2所定温度Tcまで加熱するのに必要な加熱時間Jbを求める。そして、運転開始予定時刻Haにおいて電池温度Taが第2所定温度Tcとなるように、運転開始予定時刻Haから加熱時間Jbを差し引いて、加熱開始時刻Hdとする。
【0077】
次に、ステップS26に進み、現在の時刻が加熱開始時刻Hdになったか否かを判断する。ここで、YES、即ち、加熱開始時刻Hdになっている場合には、ステップS27に進み、加熱処理を行う。一方、NO、即ち、まだ加熱開始時刻Hdになっていない場合には、加熱開始時刻Hdになるまで待機する。なお、ステップS25,S26が、前述の「タイミング調整ステップ」に相当し、また、ステップS25,S26を実行しているECU222が前述の「タイミング調整手段」に相当する。
【0078】
ステップS27に進むと、図10に示す加熱処理のサブルーチンに進む。
まず、ステップS271において、リチウムイオン二次電池100の加熱を開始する。この加熱は、上記実施形態1の加熱(ステップS75)と同じである(図7及び図8参照)。即ち、電池電圧Vaを、満充電時の通常使用上限電圧Vbを越え、かつ、レドックスシャトル剤の酸化還元電圧Vc以上の値に維持して通電することにより、レドックスシャトル剤の酸化還元反応に伴う発熱を起こさせて、電解液117、従ってリチウムイオン二次電池100を直接加熱する。具体的には、定電流方式により0.1〜0.2C(本実施形態2では0.1C)の通電を行うことにより、リチウムイオン二次電池100を内部から直接加熱する。なお、このステップS271が前述の「直接加熱ステップ」に相当し、また、このステップS271を実行しているECU222が前述の「直接加熱手段」に相当する。
【0079】
次に、ステップS272に進み、電池温度Taを測定する。このステップS272も前述の「温度検知ステップ」に相当する。
その後、ステップS273において、ステップS272で得られた電池温度Taが第2所定温度Tc(本実施形態2では5℃)以上であるか否かを判断する。ここで、YES、即ち、電池温度Taが第2所定温度Tc以上である場合には、ステップS274に進む。一方、NO、即ち、電池温度Taが第2所定温度Tcよりも小さい場合には、ステップS275に進む。
【0080】
ステップS274では、リチウムイオン二次電池100の通電及びこれによる加熱を終了する。なお、前述のステップS24とステップS273とステップS274とが、前述の「温度管理ステップ」に相当する。また、ステップS23,S24,S272〜S274を実行しているECU222が前述の「温度管理手段」に相当する。
その後、図9のメインルーチンに戻り、この充電制御を終了する。この終了時点で、上記実施形態1と同様に、時刻はちょうど運転開始予定時刻Ha或いはその前後の時刻となっており、また、リチウムイオン二次電池100は満充電の状態で、かつ、第2所定温度Tcまで昇温している。従って、ユーザがプラグインハイブリッド自動車300の運転を開始する運転開始予定時刻Haの時点から、組電池210(リチウムイオン二次電池100)の出力が十分に得られ、十分な走行性能を発揮できる。
【0081】
一方、ステップS275では、電池電圧Vaを測定する。その後、ステップS276において、ステップS275で得られた電池電圧Vaが加熱上限電圧Vd以上であるか否かを判断する。ここで、YES、即ち、電池電圧Vaが加熱上限電圧Vd以上である場合には、ステップS274に進んで加熱を終了する。その後、図9のメインルーチンに戻り、この充電制御を終了する。一方、NO、即ち、電池電圧Vaが加熱上限電圧Vdよりも小さい場合には、ステップS272まで戻り、リチウムイオン二次電池100の電池の加熱を続ける。
【0082】
以上で説明したように、本実施形態2に電池システム202も、ECU222によって制御されたAC−DCコンバータ240により、リチウムイオン二次電池100の電池電圧Vaを、通常使用上限電圧Vbを越え、酸化還元電圧Vc以上の値に維持する(Va≧Vc>Vb)通電を行う。これにより、レドックスシャトル剤の酸化還元反応に伴う発熱を起こさせて、リチウムイオン二次電池100を直接加熱する。このため、電池外部または電池内部に電池を暖めるための加熱装置等を別途設ける必要がないので、電池システム202を小型化でき、また、安価にすることができる。また、この電池システム202も、リチウムイオン二次電池100をその内部から直接加熱できるので、容易かつ効率よく加熱できる。
【0083】
また、この電池システム202も、電池温度Taが第1所定温度Tbよりも低い場合に、運転開始予定時刻Haに電池温度Taが第2所定温度Tcなるように、運転開始予定時刻Ha及び電池温度Taに基づいて、リチウムイオン二次電池100の加熱開始のタイミングを調整している。従って、運転開始予定時刻Haにおける電池温度Taを、ちょうど第2所定温度Tcに、或いはそれに近い温度にすることができる。また、リチウムイオン二次電池100を暖めておく必要がない期間までリチウムイオン二次電池100を加熱しなくても済むので、無駄なエネルギを使わなくて済ますことができる。その他、上記実施形態1と同様な部分は、上記実施形態1と同様な作用効果を奏する。
【0084】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上述の実施形態1,2に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、上記実施形態1,2では、ステップS5(実施形態1)またはステップS25(実施形態2)で、運転開始予定時刻Haにおける電池温度Taが第2所定温度Tcとなるように、充電・加熱開始時刻Hb(実施形態1)または加熱開始時刻Hd(実施形態2)を決定しているが、加熱開始のタイミングは適宜調整できる。例えば、ステップS5またはステップS25において、運転開始予定時刻Haの少し前に(例えば5分前に)電池温度Taが第2所定温度Tcとなるように、充電・加熱開始時刻Hbや加熱開始時刻Hdを決定してもよい。
【0085】
また、上記実施形態1,2では、電池温度Taが第2所定温度Tcまで加熱されるとその時点で加熱を終了しているが、その後更に、実際にユーザが運転を開始するまでの間、連続して或いは間欠的に、リチウムイオン二次電池100に通電して直接加熱を行い、電池温度Taを第2所定温度Tcに保つようにしてもよい。
また、ユーザの指示によって、満充電状態のリチウムイオン二次電池100について、直接加熱のための通電を行ったり、或いは、リチウムイオン二次電池100を満充電にすると共に、これに続けて直接加熱のための通電を行うようにしてもよい。
【0086】
また、上記実施形態1,2では、ステップS5(実施形態1)またはステップS25(実施形態2)において、充電・加熱開始時刻Hb(実施形態1)または加熱開始時刻Hd(実施形態2)を決定した後は、これらを変更することはない。しかし、外気温の変化に伴うその後の電池温度Taの変化に適応すべく、充電・加熱開始時刻Hb(実施形態1)や加熱開始時刻Hd(実施形態2)を繰り返し設定するようにしてもよい。
【0087】
また、上記実施形態1,2では、ステップS7(実施形態1)またはステップS27(実施形態2)における電池加熱のための通電を定電流で行っているが、これに限られない。例えば、その時点での電池温度Taと運転開始予定時刻Haまでの時間に応じて、電池温度Taが運転開始予定時刻Haにちょうど第2所定温度Tcとなるように、途中で電流値を増加或いは減少させてもよい。
【符号の説明】
【0088】
100 リチウムイオン二次電池(二次電池)
117 電解液
190 温度センサ(温度検知手段)
200 電池システム
210 組電池
220,222 ECU(充放電制御手段)
240 AC−DCコンバータ(充電手段)
300,302 プラグインバイブリッド自動車(電池システム搭載車両)
330 フロントモータ(被駆動装置)
340 リアモータ(被駆動装置)
Ha 駆動開始予定時刻(運転開始予定時刻)
Ta 電池温度
Tb 第1所定温度
Tc 第2所定温度
ΔT 温度差
Va 電池電圧
Vb 通常使用上限電圧
Vc 酸化還元電圧
XV 外部電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レドックスシャトル剤を添加した電解液を有する二次電池と、
前記二次電池を充電する充電手段と、
前記充電手段による前記二次電池の充電を制御する充電制御手段と、を備える
電池システムであって、
前記充電制御手段は、
前記充電手段により、前記二次電池の電池電圧Vaを、満充電時の電池電圧である通常使用上限電圧Vbを越え、かつ、前記レドックスシャトル剤に酸化還元反応が生じる電池電圧である酸化還元電圧Vc以上の値に維持することにより、前記酸化還元反応に伴う発熱を起こさせて、前記二次電池を直接加熱する直接加熱手段を有する
電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電池システムであって、
前記二次電池の電池温度Taを検知する温度検知手段を更に備え、
前記充電制御手段は、
前記電池温度Taが第1所定温度Tbよりも低い場合に、前記電池温度Taが第2所定温度Tc(但し、Tc≧Tb)となるまで、前記直接加熱手段に前記二次電池の加熱を行わせる温度管理手段を更に有する
電池システム。
【請求項3】
請求項2に記載の電池システムであって、
前記二次電池に蓄えられた電気エネルギを用いて駆動される被駆動装置を更に備え、
前記充電制御手段は、
前記電池温度Taが前記第1所定温度Tbよりも低い場合に、前記被駆動装置の駆動を開始する駆動開始予定時刻Ha、及び、前記電池温度Taに基づいて、前記直接加熱手段による前記二次電池の加熱開始のタイミングを調整するタイミング調整手段を更に有する
電池システム。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の電池システムであって、
前記充電制御手段は、
前記直接加熱手段により前記二次電池を加熱する直前に、前記二次電池が満充電となるパターンで前記二次電池を充電する直前満充電手段を更に有する
電池システム。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の電池システムを搭載した電池システム搭載車両。
【請求項6】
レドックスシャトル剤を添加した電解液を有する二次電池を加熱する
二次電池の加熱方法であって、
前記二次電池の電池電圧Vaを、満充電時の電池電圧である通常使用上限電圧Vbを越え、かつ、前記レドックスシャトル剤に酸化還元反応が生じる電池電圧である酸化還元電圧Vc以上の値に維持することにより、前記酸化還元反応に伴う発熱を起こさせて、前記二次電池を直接加熱する直接加熱ステップを備える
二次電池の加熱方法。
【請求項7】
請求項6に記載の二次電池の加熱方法であって、
前記二次電池の電池温度Taを検知する温度検知ステップと、
前記電池温度Taが第1所定温度Tbよりも低い場合に、前記電池温度Taが第2所定温度Tc(但し、Tc≧Tb)となるまで、前記直接加熱ステップで前記二次電池の加熱を行わせる温度管理ステップと、を更に備える
二次電池の加熱方法。
【請求項8】
請求項7に記載の二次電池の加熱方法であって、
前記電池温度Taが前記第1所定温度Tbよりも低い場合に、前記二次電池に蓄えられた電気エネルギを用いて駆動される被駆動装置の駆動を開始する駆動開始予定時刻Ha、及び、前記電池温度Taに基づいて、前記直接加熱ステップによる前記二次電池の加熱開始のタイミングを調整するタイミング調整ステップを更に備える
二次電池の加熱方法。
【請求項9】
請求項6〜請求項8のいずれか一項に記載の二次電池の加熱方法であって、
前記直接加熱ステップを行う直前に、前記二次電池が満充電となるパターンで前記二次電池を充電する直前満充電ステップを更に備える
二次電池の加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−109045(P2012−109045A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254975(P2010−254975)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】