説明

電池用活物質のコーティング装置及びコーティング方法

【課題】電池用活物質のコーティングにおいて、適切なコーティング状態で処理を終了させる方法及びそのためのコーティング装置を提供する。
【解決手段】電池用活物質の粉粒体を気体により浮遊流動させながら該粉粒体にコーティング液を噴霧してコーティング処理を行うための、該粉粒体のコーティング処理を行う処理室110、該コーティング液を噴霧するスプレーノズル120、該気体の導入口130、該気体の排気口140、及び該粉粒体と該気体とを分離するフィルター150を含むコーティング装置100であって、該粉粒体の捕集機構、該捕集した粉粒体を加圧して圧粉体を形成する機構、該圧粉体の電気抵抗率または電気抵抗を測定する抵抗測定機構を含む圧粉抵抗測定部170と、該測定した電気抵抗率または電気抵抗をフィードバックして該粉粒体のコーティング条件を調整する制御装置240とを備えている、コーティング装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用活物質をコーティングするための装置及びコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉粒体のコーティング装置の1つに流動層装置があり、流動層装置は一般に、流動層容器の底部から導入した気体(流動ガス)によって、流動層容器内で粉粒体を浮遊流動させて流動層を形成しつつ、造粒、コーティング、乾燥等を行うものである。この種の流動層装置には、粉粒体の転動、噴流、及び攪拌等を伴うものも含まれ、その代表的なものとして、流動層容器の底部に回転体を配設した転動流動層装置、流動層容器の内部にドラフトチューブ(内塔)を設置したワースター式流動層装置等が挙げられる(特許文献1)。
【0003】
また、正極層及び負極層と、これらの間に配置される電解質とを備えたリチウムイオン二次電池において、電解質として、概して可燃性の電解液に代えて、不燃性の固体電解質を用いることが提案されている。固体電解質は、正極活物質の形成する空隙内部へ浸透し難いために正極活物質と電解質との界面が低減しやすく、また、正極活物質と固体電解質との界面をリチウムイオンが移動する際の抵抗(界面抵抗とも呼ばれる)が増大しやすく、これらは、電池性能に影響するために問題となる。この問題に対処するために、流動層装置を用いて、正極活物質を固体電解質で被覆することが開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−307448号公報
【特許文献2】特開2009−193940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、流動層装置によって、粉粒体の表面に他物質をコーティングする場合、しばしばコーティング量にばらつきが生じやすいといった課題がある。特に、流動層装置を用いて電池用活物質の表面をコーティングする場合に、コーティング不足やコーティング過多が生じると、電池性能にばらつきや性能不足を生じる恐れがあり、好ましくない。
【0006】
流動層装置において、粉粒体の表面へのコーティング品質を一定にするためには、粉粒体の流動状態を一定に保つことが重要であるが、粉粒体の流動状態は、流動ガスの量、温度、及び湿度、コーティング液の噴射量及び温度、並びに粉粒体の粒度分布等の非常に多くの因子の影響を受ける。
【0007】
特に、電池の活物質の粉末は一般に平均粒径が10μm以下であり、流動層装置によってコーティングを行う場合、流動の安定化が非常に難しく、さらに、活物質粉末の製造ロット間のばらつきや保存状態によっても、コーティング品質が大きく影響を受けやすい。
【0008】
しかしながら、既存の流動層装置においては、コーティング処理を時間で管理しているため、電池用活物質粉末の流動状態のばらつきやロット間ばらつき等の影響で、コーティング不足やコーティング過多が生じる場合があり、電池用活物質として使用する上で、問題となっていた。
【0009】
そこで、本発明は、電池用活物質のコーティングにおいて、適切なコーティング状態で処理を終了させる方法及びそのためのコーティング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、活物質粉末の表面が他物質でコーティングされると、活物質粉末の圧粉抵抗が変化することに着目し、コーティング中に、活物質の圧粉抵抗率または圧粉抵抗を自動測定し、測定した圧粉抵抗率または圧粉抵抗をコーティング条件にフィードバックして、適切なコーティング状態でコーティング処理を終了する方法及びそのための装置を見出した。
【0011】
本発明は、電池用活物質の粉粒体を気体により浮遊流動させながら該粉粒体にコーティング液を噴霧してコーティング処理を行うための、該粉粒体のコーティング処理を行う処理室、該コーティング液を噴霧するスプレーノズル、該気体の導入口、該気体の排気口、及び該粉粒体と該気体とを分離するフィルターを含むコーティング装置であって、
該粉粒体の捕集機構、該捕集した粉粒体を加圧して圧粉体を形成する機構、該圧粉体の電気抵抗率または電気抵抗を測定する抵抗測定機構を含む圧粉抵抗測定部と、該測定した電気抵抗率または電気抵抗をフィードバックして該粉粒体のコーティング条件を調整する制御装置とを備えている、
コーティング装置である。
【0012】
本発明はまた、電池用活物質の粉粒体を気体により浮遊流動させながらコーティング液を該粉粒体に噴霧してコーティング処理を行う電池用活物質のコーティング方法であって、
該粉粒体の電気抵抗率または電気抵抗を測定し、該測定した電気抵抗率または電気抵抗をフィードバックして、該粉粒体のコーティング条件を調整するプロセスを含む、コーティング方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電池用活物質をコーティングする方法及びコーティング装置によれば、活物質粉粒体の流動状態や活物質粉粒体の製造ロット間のばらつきの影響を受けずに、電池用活物質のコーティング品質を安定化させて、所望のコーティング厚みを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施態様におけるコーティング装置の断面模式図である。
【図2】本発明の一実施態様における圧粉抵抗測定部の上面模式図である。
【図3】本発明の一実施態様における圧粉抵抗測定部を構成する電極部品の模式図である。
【図4】本発明の一実施態様における圧粉抵抗測定部を構成する圧粉機構を兼ねる電極部品の模式図である。
【図5】本発明の一実施態様における圧粉抵抗測定部を構成するガイド部品の模式図である。
【図6】本発明の他の実施態様における4端子電極を備えた圧粉抵抗測定部の断面模式図である。
【図7】本発明の他の実施態様におけるピエゾ端子を取り付けたガイド部品の模式図である。
【図8】本発明の他の実施態様におけるコーティング装置の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の第一実施形態に係るコーティング装置について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本発明の第一実施形態に係るコーティング装置の断面模式図である。コーティング装置100は、粉粒体をコーティング処理する処理室110、コーティング液を噴霧するスプレーノズル120、粉粒体を浮遊流動させる流動ガス導入口130、流動ガス排気口140、粉粒体とガスを分離するフィルター150、気体分散板160、圧粉抵抗測定部170、並びにフィードバック制御装置240を備えている。波線180は、コーティング装置内における粉粒体の流動経路を模式的に表したものであり、波線180で示すような経路で、処理室110内にて流動を連続して繰り返す。波線190は、流動ガス導入口130からの流動ガスの流動経路を模式的に表したものである。波線200は、流動ガス排気口140への流動ガスの流動経路を模式的に表したものである。さらに所望により、ブレードロータ210及びブレードロータ210を回転させるモーター220を備えることができる。
【0017】
本発明においては、電池用活物質の粉粒体が、流動ガス導入口130から導入する流動ガスで巻き上げられ、スプレーノズル120からコーティング液を噴霧されてコーティング処理が行われる。コーティングされた粉粒体は、点線180のように流動しながら乾燥されて、装置上部から下部に流動していき、再び流動ガスで巻き上げられながらコーティング液を噴霧されてコーティング処理が繰り返し行われ、所望のコーティング厚みが得られるまで、コーティングと乾燥が連続して行われる。処理室110に導入して粉粒体を浮遊流動させたガスは、フィルター150で粉粒体と分離され、流動ガス排気口140からコーティング装置の外部に排気される。
【0018】
気体分散板160は、流動ガス導入口130の近くに配置される。図1では、気体分散板160として、中央部にガス流動経路を設けた金属板を示してあるが、気体分散板160は、金属板に代えて、または加えて、パンチングメタル等の多孔板、またはメッシュ状の金網等で構成することもできる。
【0019】
図2は、本発明の第一実施態様における圧粉抵抗測定部170の上面模式図である。圧粉抵抗測定部170は、電極となる部品171と、圧粉機構を兼ねる電極となる部品172と、ガイドとなる部品173を備えている。
【0020】
図3に示す電極部品171は、図5に示すガイド部品173の溝部174の端面174Aに配置され、図2に示すように、部品171を、電極面171Aが端面174Aの面位置に合うように配置することができる。電極面171Aの外形は、端面174Aの形状と同じとすることができる。あるいは電極面171Aの外形は端面174Aより小さくてもよいが、この場合、電極面171Aの面位置が端面174Aの面位置に合うように配置される。部品172は、部品173に設けられた溝部174内をスライドする構成を有することができる。174Aと向かい合う部品172の端面の外形も任意の形状とすることができるが、本実施形態では174Aと同じ形状である。
【0021】
部品171及び部品172を構成する材料は、粉粒体を加圧することが可能であり、且つ電極として機能することができるものであれば特に限定されないが、例えばSUS304等を使用することができる。
【0022】
部品173を構成する材料は、粉粒体を加圧するためのガイドとして機能し、且つ絶縁体であれば特に限定されないが、例えば、アルミニウムを削りだして、表面をアルマイト処理により絶縁処理したものや、表面をテフロン(登録商標)加工したもの等を使用することができる。
【0023】
圧粉抵抗測定部170は、部品173の溝部174において、部品172を所定量引いて形成された部品171と部品172との間に、粉体捕集部175を備える。
【0024】
図示していないが、電極部品172は、油圧ポンプに接続され、圧粉機構を有する。また、部品172は変位計240へ接続され、圧粉体厚み測定機構を有することもできる。
【0025】
図示していないが、ガイド部品173は、回転機構に接続され、長手軸を中心に回転することができる。
【0026】
図3に示すように部品171は、電圧線及び電流線を接続することができる端子部171Bを備えており、電圧線は電圧計に接続され、電流線は直流電源に接続され、直流電源は定電流源であってもよい。同様に部品172には、電圧線及び電流線を接続することができる端子部172B及び172Cを備えており、電圧線は電圧計に接続され、電流線は直流電源に接続され、直流電源は定電流源であってもよい。
【0027】
コーティング及び乾燥された粉粒体が、コーティング装置の上部から粉体捕集部175に降り積もり捕集される。粉粒体を粉体捕集部に捕集しながら所定時間経過した後または捕集した粉体の質量が所定値に達した後、油圧プレスによって所定圧力で部品172を押し込み、粉粒体を加圧して圧粉体を形成する。
【0028】
圧粉体の形成後、部品171と部品172との電極間に電流を印加して電圧を測定し、同時に部品172に接続された変位計によって圧粉体の厚みを測定する。
【0029】
この場合、本発明において、圧粉体の抵抗率ρは以下の式によって計算される。
ρ=(V1×A1)÷(I1×L1)(Ω・m)
式中、V1は測定電圧、A1は電極面171Aの面積、I1は印加電流値、L1は圧粉体の厚みである。
【0030】
別法では、電極部品171に代えて、図6の電極部品271として示すように、2つの電流端子及び2つの電圧端子からなる4端子を使用し、各端子の先端面を、部品173の溝部174の端面174Aに合わせて固定して配置することもできる。この場合は、圧粉体の厚みを測定する必要が無く、また接触抵抗の影響を考慮する必要も小さいため、より安定した圧粉体の電圧の測定が可能となる。電極部品171または271は、圧粉体試料の抵抗に応じて選択され得る。部品271の材料としては粉粒体を加圧したときに端子が変形することがなく、且つ電極として機能することができるものであれば特に限定されないが、例えばSUS304等を使用することができる。
【0031】
この4端子法を用いる場合、圧粉体の電圧測定は、端面174Aに設置した電圧端子間で測定するため、圧粉体の厚み計測を行わず、圧粉体の抵抗を測定することができる。圧粉体の抵抗は、以下の式によって計算される。
R=V2÷I2(Ω)
式中、V2は測定電圧、I2は印加電流値である。
【0032】
上記の2端子法または4端子法にかかわらず、部品172を押し込んで圧粉体を形成する加圧力は測定電圧値が測定可能範囲に収まれば特に限定されないが、加圧力が低すぎると電圧を安定して測定できなくなる恐れがあり、電圧測定後に圧粉体をコーティング装置のコーティング系内部に戻す場合は加圧力が高すぎると圧粉体が解砕し難くなる恐れがあるため、好ましくは0.5〜30MPaの範囲の加圧力を使用することができる。
【0033】
電圧を測定するための印加電流値は特に限定されないが、測定電圧値が電圧計の測定可能範囲に収まるような範囲で調整可能であり、例えば500μA〜500mAの範囲の電流値を使用することができる。
【0034】
圧粉の電気抵抗率または電気抵抗値を測定し、フィードバック制御装置240に信号が送られ、粉粒体のコーティング時間、流動ガスの温度、流動ガスの流量、コーティング液の量、及びコーティング液の温度のうちの少なくとも1つを調整することができる。
【0035】
粉粒体のコーティング時間については、圧粉の電気抵抗率または電気抵抗値を測定し、規定の値まで上昇または低下していることが確認されると、フィードバック制御装置240に信号が送られ、コーティング処理時間を決定するか、またはすぐにコーティング処理を終了させることができる。
【0036】
流動ガスの温度、流動ガスの流量、コーティング液の量、及びコーティング液の温度については、圧粉の電気抵抗率または電気抵抗値を測定し、規定の値まで上昇または低下していることが確認されると、フィードバック制御装置240に信号が送られ、流動ガスの温度、流動ガスの流量、コーティング液の量、及びコーティング液の温度を増加または減少させることができる。
【0037】
コーティング時間、流動ガスの温度、流動ガスの流量、コーティング液の量、及びコーティング液の温度は、コーティングする粉粒体、コーティング材料、コーティング厚み等に応じて、単独で調整してもよく、または組み合わせても調整してもよい。
【0038】
好ましくは、圧粉の電気抵抗率または電気抵抗値を測定し、規定の値まで上昇または低下していることが確認されると、フィードバック制御装置240に信号が送られ、コーティング処理を終了させることができる。
【0039】
粉粒体を粉体捕集部に捕集する時間は、加圧して圧粉体を形成したときに、少なくとも、部品171の電極面171Aを圧粉体が完全に覆うように、粉粒体が粉体捕集部175に充填されるのに十分な時間とすることができる。捕集した粉体質量を計測する機構を圧粉抵抗測定部170に備えておけば、捕集時間の代わりに捕集する粉体質量を計測することもでき、この場合も同様に、粉体質量は、加圧して圧粉体を形成したときに、少なくとも、部品171の電極面171Aを圧粉体が完全に覆うように、粉粒体が粉体捕集部175に充填されるのに十分な粉体質量とすることができる。
【0040】
部品173はタッピング機構を有することができる。タッピング機構は、部品173を振動させて、粉体捕集部175に捕集される粉粒体の充填密度の一定化を助け、及び/または粉体捕集部からの圧粉体の排出を助けることができる機構であり、例えば図7のようにピエゾ素子230を部品173に取り付けて、部品173を振動させることができる。
【0041】
電圧を測定した後、油圧をリリースして圧粉体を粉体捕集部175から排出する。圧粉体は、コーティング系内に排出されるか、またはコーティング系外に排出し得る。コーティング系内に排出する場合は、粉粒体の利用効率を向上することができる。圧粉体の排出量が少ない場合や、排出後に圧粉体の解砕がし難い場合には、コーティング系外に圧粉体を排出することも有効である。
【0042】
部品173は長手軸を中心に回転する回転機構を有することができ、圧粉抵抗測定部170を回転させて粉体捕集部175を上に向けて落下してくる粉粒体を捕集することができる。電圧測定後に、圧粉抵抗測定部170を回転させて粉体捕集部175を下に向けて圧粉体を落下させて排出することができる。
【0043】
別法では、あるいは加えて、粉体捕集部175の上面及び下面に開閉可能なシャッターを設けておき、粉粒体の捕集口及び圧粉体の排出口とすることができる。上面のシャッターを開くことによって、落下してくる粉粒体を捕集することができる。電圧測定後に、下面のシャッターを開くことによって、圧粉体を落下させて排出することができる。
【0044】
部品173が、回転機構を有する場合、及び/またはシャッター機構を有する場合のいずれの場合でも、タッピング機構を利用して、部品173を振動させて、圧粉体の充填密度を安定化させること及び/または排出性を向上することが可能である。
【0045】
回転機構及び/またはシャッター機構に代えてまたは加えて、粉体捕集部にガスを吹き付けて圧粉体を排出してもよい。
【0046】
図1に示すように、コーティング装置の内部にブレードロータ210を配置してもよい。コーティング系内に電圧を測定した圧粉体を排出する場合に、排出した圧粉体の解砕をブレードロータ210によって促進することができる。ブレードロータは、粉粒体の攪拌を行うことも兼ねることができる。ブレードロータは、任意の位置に配置され得るが、好ましくは圧粉抵抗測定部の下方に設置され、圧粉抵抗測定部170の粉体捕集部175から圧粉体を落下させて排出するときに、落下した圧粉体の解砕をブレードロータで促進することができる。
【0047】
コーティング処理の開始前に、所定量の粉粒体を、導入する流動ガスによって巻き上げられる任意の位置に配置することができ、例えば気体分散板160の上、ブレードロータ210の上等に配置することができる。所望により、投入ノズルを設けて、コーティング処理を行いながら、粉粒体を連続的または断続的に追加投入してもよい。
【0048】
粉粒体の捕集、加圧、電圧測定、及び排出の一連のプロセスを繰り返すことができる。前記一連のプロセスは、自動で行うことができ、任意の時間にあるいは一定時間間隔毎に何回でも行うことができ、目標抵抗率または抵抗値に到達次第、コーティング処理を終了することができる。あるいは、目標抵抗率または抵抗値に到達する前に、測定した電圧から目標抵抗率または抵抗値に到達する時間を見積もって、コーティング処理を終了させることもできる。
【0049】
本発明に使用される電池用活物質は、本発明のコーティング方法及びコーティング装置に使用することができる粉体であれば特に制限されないが、例えばLiCoO2、LiMn24、LiNiO2、LiNi1/3CO1/3Mn1/32、LiFePO4、MnO2、Zn、CuO、Ni(OH)2等を主成分とする1種類以上の活物質を主成分とする粉体を使用することができ、好ましくはリチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能な粉体を使用することができる。
【0050】
本発明に使用されるコーティング材料は、本発明のコーティング方法及びコーティング装置に使用できる噴霧可能な液状物質とすることができるものであれば特に制限されないが、例えば有機溶媒や水溶液等にコーティング材料を溶解させたものを使用することができ、エタノール等にLiOC25、Nb(OC255等の固体電解質を主成分とする材料を溶解させた溶液が挙げられる。
【0051】
流動ガスは、粉粒体を流動することができるガスであれば特に限定されないが、好ましくは水分を含まないガスであり、例えば乾燥空気等を用いることができる。また、導入する流動ガスの温度についても特に限定されないが、好ましくは粉粒体に噴霧して湿潤させたコーティングを粉粒体の流動中に均一に乾燥しやすい温度であり、例えば50〜120℃の温度のガスを使用することができる。
【0052】
フィルター150は、流動ガスと粉粒体とを分離するものであれば特に限定されないが、例えば、バグフィルターと呼ばれる織布フィルターや、プリーツ加工を施した通気性の樹脂シート等を円筒状にしてリテーナに保持させたカートリッジ式フィルター等を使用することができる。また、フィルターは、フィルターに付着した粉粒体を除去するためのシェーキング動作、ジェットエアー噴射、洗浄機構等を備えることができる。
【0053】
図示していないが、本発明のコーティング装置は、粉粒体のコーティングを乾燥するための加熱部及び/または電磁波照射部を備えることもできる。加熱部及び/または電磁波照射部は任意の位置に配置され得るが、処理室110の周りであってスプレーノズルの上部に配置することが好ましく、コーティング液を噴霧した後の粉粒体の乾燥を助けることができる。
【0054】
加熱部は、高周波コイル等のヒーターで構成することができる。高周波コイルを用いる場合、高周波コイルの巻数及び間隔、高周波コイルと処理室110との位置関係、並びに高周波コイルの出力を調整することによって、処理室内の温度や温度勾配を調整することができる。
【0055】
電磁波照射部は、溶媒乾燥を促進することができる電磁波を照射する装置であり、コーティング液の溶媒が吸収しやすい波長を用いることが好ましい。コーティング液の溶媒が水溶液溶媒であればマイクロ波を照射することができる光源を有する装置が好ましく、例えば波長12.3cmのマイクロ波乾燥装置等が挙げられ、コーティング液の溶媒がエタノール溶媒であれば紫外線を照射することができる光源を有する装置が好ましく、例えば波長220nmのエキシマランプ等が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明のコーティング方法及びコーティング装置の具体的な実施例を示す。
【0057】
(実施例1)
1lのエタノールに、それぞれ0.6モルのLiOC25及びNb(OC255を溶解させ、コーティング液を調製した。
【0058】
図1及び図2に示す圧粉抵抗測定部を備えた流動コーティング装置を使用して、次のプロセスi)〜vi)に従って、LiCoO2活物質の粉体に前記コーティング液をスプレーコーティング及び乾燥して、所望の厚みにコーティングした活物質を得た。
【0059】
i)コーティング装置100に0.2m3/分、60℃の乾燥空気を導入して、LiCoO2活物質の粉粒体1kgを流動させながら、調製したコーティング液をスプレーノズル120から5g/分で噴霧して、LiCoO2活物質粉体をコーティング液で湿潤させた。以下のプロセスii)〜vi)の間、プロセスi)を継続した。
【0060】
ii)圧粉抵抗測定部170を回転させて粉体捕集部175を上に向け、部品173に取り付けたピエゾ素子(NECトーキン製のAE0505D16F)を振動させてタッピングさせながら、1分間、粉粒体を捕集した。
【0061】
iii)油圧プレス及びカンチレバー式デジタル変位計(東京測器研究所製CE−5)に接続した部品172を、油圧プレスによりスライドさせ、捕集した粉粒体を5MPaで加圧した。
【0062】
iv)50μAの直流電流を部品171と172の間に印加して電圧を測定し、同時に圧粉体厚みを測定した。そして、171Aの電極面積から抵抗率を算出した。コーティング開始時の抵抗率は3.9×102Ω・cmであった。
【0063】
v)圧粉抵抗測定部170を回転させて粉体捕集部を下に向け、部品173に取り付けたピエゾ素子を振動させてタッピングさせながら、油圧をリリースして圧粉体を粉体捕集部175から排出した。
【0064】
vi)プロセスi)を継続させながら、プロセスii)〜v)を10分に1回繰り返して行い、目標抵抗率の1.8×103Ω・cmに達したときに、コーティング液の噴霧を終了させた。コーティング装置の動作時間は5.5時間であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察によると、このときのコーティング厚みは10nmであり、所望のコーティング厚みを得ることができた。
【0065】
(実施例2)
図6に示す4端子法を有する圧粉抵抗測定部を備えた流動コーティング装置を使用して、次のプロセスi)〜vi)に従って、LiCoO2活物質の粉体に実施例1と同様のコーティング液をスプレーコーティング及び乾燥して、所望の厚みにコーティングした活物質を得た。
【0066】
i)コーティング装置100に0.2m3/分、60℃の乾燥空気を導入して、LiCoO2活物質の粉粒体1kgを流動させながら、調製したコーティング液をスプレーノズル120から5g/分で噴霧して、LiCoO2活物質粉体をコーティング液で湿潤させた。以下のプロセスii)〜vi)の間、プロセスi)を継続した。
【0067】
ii)圧粉抵抗測定部270を回転させて粉体捕集部を上に向け、部品273に取り付けたピエゾ素子(NECトーキン製のAE0505D16F)を振動させてタッピングさせながら、1分間、粉粒体を捕集した。
【0068】
iii)油圧プレスに接続した部品272を、油圧プレスによりスライドさせ、捕集した粉粒体を5MPaで加圧した。
【0069】
iv)50μAの直流電流を部品271の電流端子間に印加して、部品271の電圧端子間の電圧を測定した。抵抗値は1.1kΩであった。
【0070】
v)圧粉抵抗測定部270を回転させて粉体捕集部を下に向け、部品273に取り付けたピエゾ素子を振動させてタッピングさせながら、油圧をリリースして圧粉体を粉体捕集部から排出した。
【0071】
vi)プロセスi)を継続させながら、プロセスii)〜v)を10分に1回繰り返して行い、目標抵抗値の5.1kΩに達したときに、コーティング液の噴霧を終了させた。コーティング装置の動作時間は5.6時間であり、このときのコーティング厚みは10nmであり、所望のコーティング厚みを得ることができた。
【0072】
(実施例3)
図8に示すように、気体分散板160の下部に配置された上部シャッター及び下部シャッターを有する圧粉抵抗測定部を備えたコーティング装置を使用して、コーティング処理を行った。上部シャッターを開けると粉粒体を捕集できるように、気体分散板160の上部シャッターに相当する箇所に開口部を設けた。それ以外の条件は、実施例2と同様にして、次のプロセスi)〜vi)に従って、LiCoO2活物質の粉体にコーティング液をスプレーコーティング及び乾燥して、所望の厚みにコーティングした活物質を得た。
【0073】
i)コーティング装置100に0.2m3/分、60℃の乾燥空気を導入して、LiCoO2活物質の粉粒体1kgを流動させながら、調製したコーティング液をスプレーノズル120から5g/分で噴霧して、LiCoO2活物質粉体をコーティング液で湿潤させた。以下のプロセスii)〜vi)の間、プロセスi)を継続した。
【0074】
ii)圧粉抵抗測定部の上部シャッターを開けて、ピエゾ素子(NECトーキン製のAE0505D16F)を振動させてタッピングさせながら、1分間、粉粒体を捕集した。
【0075】
iii)油圧プレスにより部品272をスライドさせ、捕集した粉粒体を5MPaで加圧した。
【0076】
iv)50μAの直流電流を部品271の電流端子間に印加して、部品271の電圧端子間の電圧を測定した。抵抗値は1.2kΩであった。
【0077】
v)圧粉抵抗測定部の下部シャッターを開けて、ピエゾ素子を振動させてタッピングさせながら、油圧をリリースして圧粉体を粉体捕集部から排出した。
【0078】
vi)プロセスi)を継続させながら、プロセスii)〜v)を10分に1回繰り返して行い、目標抵抗値の5.1kΩに達したときに、コーティング液の噴霧を終了させた。コーティング装置の動作時間は5.4時間であり、このときのコーティング厚みは10nmであり、所望のコーティング厚みを得ることができた。
【符号の説明】
【0079】
100 コーティング装置
110 処理室
120 スプレーノズル
130 流動ガス導入口
140 流動ガス排気口
150 フィルター
160 気体分散板
170 圧粉抵抗測定部
171 圧粉抵抗測定部の電極部品
171A 電極部品171の電極面
171B 電極部品171の電圧・電流端子部
172 圧粉抵抗測定部の圧粉機構を兼ねる電極部品
172B 電極部品172の電圧端子部
172C 電極部品172の電流端子部
173 圧粉抵抗測定部のガイド部品
174 ガイド部品の溝部
174A ガイド部品の溝部の端面
175 粉体捕集部
180 粉粒体の流動経路
190 流動ガス導入口130からの流動ガスの流動経路
200 流動ガス排気口140への流動ガスの流動経路
210 ブレードロータ
220 モーター
230 ピエゾ素子
240 フィードバック制御装置
270 4端子法を備えた圧粉抵抗測定部
271 4端子
272 圧粉抵抗測定部の圧粉機構を兼ねる電極部品
273 圧粉抵抗測定部のガイド部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池用活物質の粉粒体を気体により浮遊流動させながら該粉粒体にコーティング液を噴霧してコーティング処理を行うための、該粉粒体のコーティング処理を行う処理室、該コーティング液を噴霧するスプレーノズル、該気体の導入口、該気体の排気口、及び該粉粒体と該気体とを分離するフィルターを含むコーティング装置であって、
該粉粒体の捕集機構、該捕集した粉粒体を加圧して圧粉体を形成する機構、該圧粉体の電気抵抗率または電気抵抗を測定する抵抗測定機構を含む圧粉抵抗測定部と、該測定した電気抵抗率または電気抵抗をフィードバックして該粉粒体のコーティング条件を調整する制御装置とを備えている、
コーティング装置。
【請求項2】
該コーティング条件を調整することが、該粉粒体のコーティング時間、該気体の温度、該気体の流量、該コーティング液の量、及び該コーティング液の温度のうちの少なくとも1つを調整することを含む、請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項3】
該コーティング条件を調整することが、該粉粒体のコーティング終了時間を決定することを含む、請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項4】
該測定した電気抵抗率または電気抵抗が規定の値まで上昇したときに、コーティング処理を終了させる、請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項5】
該測定した電気抵抗率または電気抵抗が規定の値まで低下したときに、コーティング処理を終了させる、請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項6】
該電池用活物質の粉粒体が、リチウムイオン二次電池用の正極活物質の粉粒体である、請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項7】
該コーティング液が、有機溶媒または水溶液に固体電解質を溶解させた溶液である、請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項8】
該圧粉抵抗測定部がタッピング機構を備えている、請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項9】
該圧粉抵抗測定部が、該圧粉体をコーティング系内に排出する機構を備えている、請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項10】
該圧粉抵抗測定部が、該粉粒体をコーティング系外に排出する機構を備えている、請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項11】
該圧粉抵抗測定部が、該捕集した粉粒体の質量を測定する機構を備えている、請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項12】
該圧粉抵抗測定部の下方に、ブレードロータを備えている、請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項13】
電池用活物質の粉粒体を気体により浮遊流動させながらコーティング液を該粉粒体に噴霧してコーティング処理を行う電池用活物質のコーティング方法であって、
該粉粒体の電気抵抗率または電気抵抗を測定し、該測定した電気抵抗率または電気抵抗をフィードバックして、該粉粒体のコーティング条件を調整するプロセスを含む、コーティング方法。
【請求項14】
該コーティング条件を調整することが、該粉粒体のコーティング時間、該気体の温度、該気体の流量、該コーティング液の量、及び該コーティング液の温度のうちの少なくとも1つを調整することを含む、請求項13に記載のコーティング方法。
【請求項15】
該コーティング条件を調整することが、該粉粒体のコーティング終了時間を決定することを含む、請求項13に記載のコーティング方法。
【請求項16】
該測定した電気抵抗率または電気抵抗が規定の値まで上昇したときに、コーティング処理を終了させる、請求項13に記載のコーティング方法。
【請求項17】
該測定した電気抵抗率または電気抵抗が規定の値まで低下したときに、コーティング処理を終了させる、請求項13に記載のコーティング方法。
【請求項18】
該電池用活物質の粉粒体が、リチウムイオン二次電池用の正極活物質の粉粒体である、請求項13に記載のコーティング方法。
【請求項19】
該コーティング液が、有機溶媒または水溶液に固体電解質を溶解させた溶液である、請求項13に記載のコーティング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−169131(P2012−169131A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28732(P2011−28732)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】