説明

電池用金属部品及び電池

【課題】機器側接触端子との電気的接続性が良好であり、外観性、生産性及びコスト性にも優れた電池に用いるのに好適な電池用金属部品を提供すること。
【解決手段】本発明の電池用金属部品21は、端子部24を有する形状にプレス加工してなる。この電池用金属部品21は、鉄を含有する母材25と、母材25の外側表面25a上に形成され、硫黄及び硫黄化合物を実質的に含有しない第1ニッケルめっき層26と、第1ニッケルめっき層26上に形成され、硫黄及び硫黄化合物を含有する第2ニッケルめっき層27とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工により形成される電池用金属部品及びこの部品を用いてなる電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばデジタル・スチル・カメラなどのように、大電流を必要とする電池利用機器が多くなってきており、これに対応して例えばニッケル電池(ZR型)のように、重負荷(大電流放電)用の高容量アルカリ電池の需要が増えつつある。
【0003】
一般的に電池は、負荷である機器に備えられた電池ホルダ(電池ケース)に装填され、この状態で当該ホルダの接触端子を介して機器に動作電流を供給する。例えばLR型などの乾電池の起電圧は1.5V程度と低いが、このような低電圧電池から大電流を効率良く取り出すためには、電池と機器との間における電気的接続性を長期間にわたって良好な状態に維持する必要がある。
【0004】
アルカリ電池などの電池の場合、発電要素を密閉封止状態で収容するために金属製の電池缶が使用されている。このような電池缶は、電池用金属部品の一種であって、正極または負極の端子部を兼ねている。例えばLR型のアルカリ電池では、有底円筒状の金属製電池缶に筒状または環状の正極合剤を圧入状態で装填し、この正極合剤の内側に筒状セパレータ及びゲル状負極合剤を装填することにより、発電要素が形成される。この場合、電池缶は正極端子及び正極集電体を兼ねたものとなる。
【0005】
ところで、一般的なアルカリ電池の金属製電池缶は電池缶用めっき鋼鈑の深絞りプレス加工により製造されるが、錆の発生を防ぐことを目的として、NPS(Nickel Plated Steel)と呼ばれるニッケルを主体としためっき鋼板が最近ではよく用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
その例として、外観性を向上させて商品価値を高めるために、例えば母材である鋼板としてブライト材を用い、その表面に光沢ニッケルめっき層を形成して、表面を鏡面状に仕上げた電池缶用めっき鋼鈑が従来提案されている。しかし、この構成であると、端子部表面が平滑な鏡面であるため、機器側の接触端子に対して端子部表面全体が接触することで、接触圧が分散されて小さくなってしまう。よって、低電圧にて接触圧が十分に確保されていないと、接触不良が生じやすい。これを回避するためには、機器側にて十分な接触圧を付与できるような対策を講じる必要があり、それゆえ機器側の負担が大きくなる。
【0007】
これとは別の例として、機器との接触抵抗を低減して実用性を高めるために、例えば母材である鋼板としてダル材を用い、その表面に無光沢ニッケルめっき層を形成することで、表面を粗面状に仕上げた電池缶用めっき鋼鈑が近年提案されている。この種のものでは、電池缶表面に微細な凹凸が形成されるため、その凹凸の凸部分への接触圧集中により、低電圧でも安定した電気的接続状態が確実に得られるものと考えられている。
【特許文献1】特開平6−314563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、ダル材である鋼板の表面に無光沢ニッケルめっき層を形成した上記従来の電池缶は、低電圧でも安定した電気的接続状態が確実に得られるという利点がある反面、以下に示すような欠点があり好ましくない。
【0009】
即ち、無光沢ニッケルめっき層と光沢ニッケルめっき層とでは硫黄及び硫黄化合物の含有量が異なっており、硫黄及び硫黄化合物を殆ど含まない無光沢ニッケルめっき層のほうが軟らかい。それゆえ、金型を用いたプレス加工を繰り返し行うと、軟らかい無光沢ニッケルめっき層が剥れて金型内面(成形面)に残ってしまう。その結果、摩擦抵抗が増大して金型の潤滑性が悪くなり、金型の磨耗が著しく促進され、金型の寿命が短くなってしまう。これは生産性低下やコスト高の要因となる。またこの場合には、めっきの付着によって凹凸の生じた金型内面との擦れにより、電池缶側の無光沢ニッケルめっき層が剥れて母材の鉄が露出し、電池缶外面に錆が起こりやすくなる。これは接触抵抗の増大や商品の外観性低下などの要因となる。
【0010】
これとは別に、仮に相対的に硬質の光沢ニッケルめっき層を電池缶の最表層に設けたとすると、無光沢ニッケルめっき層のような剥れが起こりにくくなり、摩擦抵抗の増大をある程度回避できるものと予想される。しかし、光沢ニッケルめっき層は硫黄及び硫黄化合物を含んでいるため、その硫黄分によって酸化しやすくなり、最表層に酸化被膜が形成されやすくなる。従ってこの場合には、接触抵抗を十分に小さくすることができず、大電流を得ることが難しくなる。また、光沢ニッケルめっき層はそもそも硬いので、接触抵抗の低減という観点からすると、不利である。
【0011】
ここで、機器に対する端子部の接触抵抗を低減するための手段としては、端子部表面に導電性及び化学的安定性に優れた金属層(例えば金めっき層など)を形成する方法もあるが、この構成では生産性低下やコスト高につながってしまう。
【0012】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、機器側接触端子との電気的接続性が良好であり、外観性、生産性及びコスト性にも優れた電池、及びそのための電池用金属部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、端子部を有する形状にプレス加工してなる電池用金属部品であって、鉄を含有する母材と、前記母材の外側表面上に形成され、硫黄及び硫黄化合物を実質的に含有しない第1ニッケルめっき層と、前記第1ニッケルめっき層上に形成され、硫黄及び硫黄化合物を含有する第2ニッケルめっき層とを備えたことを特徴とする電池用金属部品をその要旨とする。
【0014】
第1ニッケルめっき層及び第2ニッケルめっき層を比較すると、前者は硫黄及び硫黄化合物を実質的に含有しないため、相対的に光沢の程度が小さくて軟質である。一方、後者は硫黄及び硫黄化合物を含有するため、相対的に光沢の程度が大きくて硬質である。本発明では、第1ニッケルめっき層上に第2ニッケルめっき層を設けたことにより、プレス加工時における金型内面との摩擦抵抗が小さくなり、金型内面の潤滑性を維持することができる。よって、金型の磨耗が抑制され、金型の寿命を延長することが可能となる。また、表層のニッケルめっき層がプレス加工時に剥がれにくくなる結果、鉄の露出が回避され、耐錆性が向上する。また、表層の第2ニッケルめっき層は硬質であるものの、下地層である第1ニッケルめっき層は軟質であるため、めっき層全体としてみるとある程度軟らかい性質を保持しており、このことが接触抵抗の増大防止に寄与している。さらに、第1ニッケルめっき層に比べて光沢のある第2ニッケルめっき層を最表層に配置しているので、外観性に優れたものとすることができる。
【0015】
従って、本発明の電池用金属部品を用いて電池を構成した場合には、機器側接触端子との電気的接続性が良好であり、外観性に優れた電池を実現することができる。しかも、ニッケルめっき層以外の金属(例えば金、銀、銅など)のめっきを伴わないので、生産性及びコスト性にも優れた電池を実現することができる。
【0016】
ここで、鉄を含有する母材の外側表面及び内側表面の仕上げ状態は、いわゆるダル仕上げ面(粗面)及びブライト仕上げ面(平滑面)のどちらでもよいが、母材の外側表面をダル仕上げ面とし、母材の内側表面をブライト仕上げ面とすることが好適である。このようにすると、機器側接触端子との電気的接続性が向上されやすくなるとともに、母材の内側表面における鉄露出が回避されることでガス発生が抑制されやすくなる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記第1ニッケルめっき層は硫黄及び硫黄化合物を実質的に含有しない無光沢ニッケルめっき層であり、前記第2ニッケルめっき層は硫黄及び硫黄化合物の含有量が0.02重量%以上0.10重量%以下の光沢ニッケルめっき層であることをその要旨とする。
【0018】
従って、請求項2に記載の発明によると、硫黄及び硫黄化合物の含有量が一般的な光沢ニッケルめっき層に比べて少ないニッケルめっき層を第2ニッケルめっき層として最表層に設けたことにより、若干の光沢を有しているにもかかわらず、酸化被膜の形成が回避される。よって、外観性を向上しつつ機器との接触抵抗を低減することができる。なお、第2ニッケルめっき層の硫黄及び硫黄化合物の含有量が0.02重量%未満であると、外観性の向上につながるような光沢を付与できなくなる。逆に、当該含有量が0.10重量%を越えると、より硬質のニッケルめっき層となるため、光沢の付与及び剥がれの防止という観点からは望ましい反面、酸化被膜が形成されやすくなり、接触抵抗の低減を達成しにくくなる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2において、前記第2ニッケルめっき層は前記第1ニッケルめっき層よりも薄いことその要旨とする。
【0020】
ここで、第2ニッケルめっき層が第1ニッケルめっき層よりも厚いと、めっき層全体として硬質なものとなり、接触抵抗の低減が達成しにくくなる。その点、請求項3に記載の発明では、第2ニッケルめっき層が前記第1ニッケルめっき層よりも薄いため、めっき層全体として軟らかい性質を保持することができ、接触抵抗の低減が達成しやすくなる。
【0021】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記第1ニッケルめっき層の厚さは0.9μm以上2.0μm以下、前記第2ニッケルめっき層の厚さは0.1μm以上1.0μm以下、前記第1ニッケルめっき層及び前記第2ニッケルめっき層の厚さの総和は1.0μm以上であることをその要旨とする。
【0022】
従って、請求項4に記載の発明によると、第1ニッケルめっき層の厚さ、第2ニッケルめっき層の厚さ及び両者の厚さの総和がそれぞれ好適範囲となるため、耐錆性の向上、金型内面の潤滑性維持、所望とする光沢の付与、接触抵抗の低減、電池の長寿命化を図ることができる。
【0023】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項において、前記電池用金属部品は、金型を用いた深絞りプレス加工により作製された有底筒状のアルカリ電池用正極缶であることをその要旨とする。
【0024】
ここで、深絞りプレス加工によって有底筒状のアルカリ電池用正極缶を作製する場合、所望の形状とするために鋼板を大幅に引き伸ばすようにして塑性変形させる必要があり、特に大きく引き伸ばされる缶外周面と金型内面との摩擦抵抗の増大が顕著となる。従って、何ら対策を講じないと缶外周面における錆の発生が顕著になるが、本発明を適用することで錆の発生を未然に抑えることができる。
【0025】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電池用金属部品を使用した電池をその要旨とする。
【発明の効果】
【0026】
以上詳述したように、請求項1〜5に記載の発明によると、機器側接触端子との電気的接続性が良好であり、外観性、生産性及びコスト性にも優れた電池に用いるのに好適な構造の電池用金属部品を提供することができる。また、請求項6に記載の発明によると、機器側接触端子との電気的接続性が良好であり、外観性、生産性及びコスト性にも優れた電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を具体化した一実施の形態のアルカリ電池を図面に基づき詳細に説明する。
【0028】
図1には、本実施形態におけるLR6型(単3型)のアルカリ電池11が示されている。アルカリ電池11を構成する正極缶21は、正極集電体を兼ねる有底円筒状の電池用金属部品である。正極缶21の内部空間には、発電要素30(正極合剤31、セパレータ41及び負極合剤51)が収納可能となっている。正極缶21の底部中央には突起状の正極端子24(端子部)が形成されている。このような正極缶21の筒部外周面には、絶縁性の付与及び意匠性の向上等のために外装ラベル23が巻き付けられている。
【0029】
正極缶21の内部には、中空円筒状に成形された3個の正極合剤31が縦積みかつ同心状に収納されている。発電要素30の一部をなす正極合剤31は、二酸化マンガン及び黒鉛をおよそ15:1の比率で混合し、それにバインダーを添加した材料を成形して得た部材である。これら正極合剤31の内側には、ビニロン繊維やレーヨン繊維を基材とした混抄紙からなる有底円筒状のセパレータ41が挿入されている。セパレータ41及び正極合剤31中には、強いアルカリ性を示す電解液が浸潤されている。セパレータ41の中空部には、亜鉛粉、ゲル化剤、アルカリ電解液などを混合してなるゲル状の負極合剤51が充填されている。ゲル化剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸及びその塩類などが好適である。アルカリ電解液としては、例えば、水酸化カリウム水溶液などが好適である。
【0030】
正極缶21の開口部22の内面側には、複数の部品を組み付けてなる負極集電体60が装着されかつカシメ付けられ、その結果として正極缶21が気密に封口されている。この負極集電体60は、負極端子板61と、負極集電子71と、封口ガスケット81とによって構成されている。
【0031】
封口ガスケット81は、例えばポリプロピレン樹脂などといったポリオレフィン系のような合成樹脂材料からなる射出成形部品である。ポリプロピレン樹脂の代わりにポリアミド樹脂等のようなアミド系樹脂を用いてもよい。この封口ガスケット81は中央部にボス部82を備えており、そのボス部82を貫通するボス孔82a内には負極集電子71が挿通可能となっている。
【0032】
負極端子板61は、正極缶21とともにアルカリ電池11の外郭を構成する電池用金属部品であって、略円盤状に形成されている。この負極端子板61は、外側面に平坦な端子面が形成された中央平板部62(端子部)を備えている。中央平板部62の内側面には、封口ガスケット81が具備されている。
【0033】
負極集電子71は導電性金属からなる断面円形状の棒材であって、その先端部73は負極合剤51中に挿入配置されるようになっている。一方、負極集電子71の基端部72は、ボス部82のボス孔82aに挿通されるとともに、負極端子板61の中央平板部62の中央部に対してスポット溶接等により固着されている。その結果、負極端子板61の中央平板部62に対して垂直な方向に負極集電子71が延設されている。
【0034】
以上のように構成された負極集電体60は、正極缶21の開口部22の内面側に装着されるとともに、開口部22側の端部がガスケット外周部分とともに径方向中心に向けて直角に折曲されている。その結果、負極集電体60が正極缶21の開口部22に強固にかつ気密的に取り付けられている。
【0035】
ところで、本実施形態の正極缶21は、鉄を含有する母材25の表面にニッケルめっきを施した、いわゆるニッケルめっき鋼板を材料とし、金型を用いてこれを深絞りプレス加工することで作製されたものである。図1中の円領域A1に示すように、本実施形態における母材25の外側表面25aの上には、下地層として無光沢ニッケルめっき層26(第1ニッケルめっき層)が形成されている。その無光沢ニッケルめっき層26上には、光沢ニッケルめっき層27(第2ニッケルめっき層)が形成されている。無光沢ニッケルめっき層26は露出していないのに対し、光沢ニッケルめっき層27は最表部に位置しているため全体的に露出している。なお、母材25の内側表面25bに存在する無光沢ニッケルめっき層26上には、導電性の向上のためにカーボン等からなる導電膜(図示略)がさらに形成されていてもよい。
【0036】
本実施形態の無光沢ニッケルめっき層26は、硫黄及び硫黄化合物の含有量が0.001重量%未満(検出限界以下)であり、硫黄及び硫黄化合物を実質的に含有しないものとなっている。これに対して、本実施形態の光沢ニッケルめっき層27は、硫黄及び硫黄化合物の含有量が0.02重量%以上0.10重量%以下となっている。ここで、硫黄及び硫黄化合物は光沢付与剤の一種であるため、光沢ニッケルめっき層27は若干光沢を有したものとなる。
【0037】
光沢ニッケルめっき層27の厚さT2は、無光沢ニッケルめっき層26の厚さT1よりも薄くなっている。この場合において具体的には、無光沢ニッケルめっき層26の厚さT1が0.9μm以上2.0μm以下の範囲内で設定され、光沢ニッケルめっき層27の厚さT2が0.1μm以上1.0μm以下の範囲内で設定される。また、無光沢ニッケルめっき層26及び光沢ニッケルめっき層27の厚さの総和T3は1.0μm以上となっている。
【0038】
この母材25における缶外側に位置する面25a及び缶外側に位置する面25bは、いずれも微細な凹凸を有するダル仕上げ面となっていて、具体的にはその表面粗さRaが0.6μm以上(本実施形態では1.9μm前後)となっている。そして、このような母材25に形成された無光沢ニッケルめっき層26及び光沢ニッケルめっき層27の表面状態は、母材25の表面状態を反映している。従って、無光沢ニッケルめっき層26及び光沢ニッケルめっき層27の表面もダル仕上げ面となっていて、その表面粗さRaも母材25と同程度である。ここで「表面粗さRa」とは、JIS B060 1976に規定された中心線平均粗さのことを指している。
【0039】
さらに、本実施形態の負極端子板61は、正極缶形成用のニッケルめっき鋼板と共通のニッケルめっき鋼板を材料とし、金型を用いてこれをプレス加工することで作製されたものである。従って、図1中の円領域A2に示すように、この負極端子板61も正極缶21と同じ層構造を有している。当該ニッケルめっき鋼板は、煮沸洗浄→電解脱脂→活性処理→無光沢ニッケルめっき→光沢ニッケルめっきという製造工程を経て作製されたものであって、無光沢ニッケルめっきには実質的に硫黄及び硫黄化合物が含まれない。
[実施例1]
【0040】
本実施例では、LR6型(単3型)のアルカリ電池11の試験用サンプルを14種類作製し、これらを対象として下記の特性に関する試験を行った。
【0041】
ここでは、下地層である無光沢ニッケルめっき層26(第1ニッケルめっき層)の厚さT1、及び、最表層である光沢ニッケルめっき層27(第2ニッケルめっき層)の厚さT2を0μm〜2μmの範囲で変更した。なお、サンプル2,3,4,5,7,8,9,10を、本発明の技術的思想の範囲内のサンプルとして位置づけた。
【0042】
試験項目としては、素材ニッケルめっき鋼板の耐食性、寿命加工数、DSC枚数及び発錆数の4つとした。
素材ニッケルめっき鋼板の耐食性:塩水噴霧試験(SST)での顕著な点錆が発生するまでの時間を、A(120分超)、B(60分〜120分)、C(60分以内)の3段階で評価した。
【0043】
寿命加工数:旭精機製社製のシングルプレス機を用いて正極缶21の深絞りプレス加工を行い、磨耗等により加工不能になったときのショット回数(250000回、500000回または1000000回)を調査した。
【0044】
DSC枚数:LR6型(単3型)のアルカリ電池11の試験用サンプルをデジタル・スチル・カメラに実装して撮影可能枚数を計測した。試験用サンプルとしては、室温で20日保存したものを使用した。デジタル・スチル・カメラとしては、SONY社製「DSC−H1」を使用した。試験条件及び試験方法については、CIPA規格「電池寿命測定法」(CIPA DC−002−2003)に準拠し、21℃にて撮影枚数を計測した。撮影時の明るさは約750ルクスとした。撮影は、起動(手順1)→所要時間を5分間とし、ズーム、フラッシュ撮影、ズーム、無フラッシュ撮影を5回繰り返す(手順2)→10分間の休止期間をおく(手順3)という方法で行った。そして、上記手順2,3を繰り返し行い、撮影できた枚数を計測した。
【0045】
発錆数:LR6型(単3型)のアルカリ電池11の試験用サンプルを各々10個用意し、これらを60℃かつ湿度90%で7日保存した後、目視検査を行って錆の発生の有無を確認した。そして、10個の試験用サンプルのうち、錆が発生しているものの数をカウントした。
【0046】
以上の3つの項目について得られた試験結果を表1に示す。また、それら試験結果を総合して判定した良否についても、併せて表1に示す。表中、○は良好、×は不良を意味している。
【表1】

【0047】
表1に示されるように、素材ニッケルめっき鋼板の耐食性は、めっき層26が薄くなるほど低下し、点錆が発生しやすくなる傾向があった。寿命加工数は、光沢ニッケルめっき層27が厚くなるほど増加する傾向があった。即ち、光沢ニッケルめっき層27の厚さ増大は、プレス用金型内面の潤滑性の維持に寄与し、これにより金型の磨耗が抑制されやすくなることがわかった。DSC枚数は、光沢ニッケルめっき層27が薄くなるほど増加する傾向があった。従って、光沢ニッケルめっき層27の厚さ増大が電気抵抗の増大をもたらしていると推測された。発錆数は、無光沢ニッケルめっき層26及び光沢ニッケルめっき層27の厚さの総和T3がある程度大きければ、0に抑えられることがわかった。これに対し、前記総和T3が1.0μm未満になると、錆が発生するという結果が得られた。そして、これらの結果を考慮して評価を行ったところ、サンプル2,3,4,7,8,9が良好と言いうるものであった。
[実施例2]
【0048】
本実施例では、LR6型(単3型)のアルカリ電池11の試験用サンプルを6種類作製し(サンプル15〜20)、これらを対象として下記の特性に関する試験を行った。
【0049】
ここでは、最表層である光沢ニッケルめっき層27(第2ニッケルめっき層)における硫黄及び硫黄化合物の含有量を0重量%〜0.15重量%の範囲で変更した。具体的には、前記含有量をサンプル15では0重量%、サンプル16では0.01重量%、サンプル17では0.02重量%、サンプル18では0.05重量%、サンプル19では0.10重量%、サンプル20では0.15重量%にそれぞれ設定した。
【0050】
試験項目としては、DSC枚数及び光沢の有無の2つとした。DSC枚数の測定方法は実施例1と同様とした。光沢の有無については目視により判定した。これら試験の結果を表2に示す。2つの試験結果を総合して判定した良否も併せて表2に示す。表中、○は良好、×は不良を意味している。
【表2】

【0051】
表2に示されるように、DSC枚数は、硫黄及び硫黄化合物の含有量が増加するほど減少する傾向があり、特にサンプル20では減少が顕著であった。これは、硫黄及び硫黄化合物の含有量増加により最表層に酸化被膜が形成され、この酸化被膜が接触抵抗の増大をもたらしているからであると考えられた。そして、以上の結果を考慮して評価を行ったところ、サンプル17,18,19が良好と言いうるものであった。
[結論]
【0052】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0053】
(1)上述したとおり本実施形態では、母材25上に無光沢ニッケルめっき層26を設け、さらにその上に光沢ニッケルめっき層27を設けた正極缶21及び負極端子板61の構造を採用している。それゆえ、深絞りプレス加工時における金型内面との摩擦抵抗が小さくなり、金型内面の潤滑性を維持することができる。よって、金型の磨耗が抑制され、金型の寿命を延長することが可能となる。また、最表層である光沢ニッケルめっき層27が深絞りプレス加工時に剥がれにくくなる結果、鉄の露出が回避され、耐錆性が向上する。また、最表層の光沢ニッケルめっき層27は硬質であるものの、下地層である無光沢ニッケルめっき層26は軟質であるため、めっき層全体としてみるとある程度軟らかい性質を保持しており、このことが接触抵抗の増大防止に寄与している。さらに、光沢ニッケルめっき層27を最表層に配置しているので、外観性に優れたものとすることができる。
【0054】
従って、このような正極缶21及び負極端子板61を用いてアルカリ電池11を構成した場合には、機器側接触端子との電気的接続性が良好であり、外観性に優れたアルカリ電池11を実現することができる。
【0055】
(2)また本実施形態では、ニッケルめっき層以外の金属(例えば金、銀、銅など)のめっきを伴わないめっき鋼板を用いて、正極缶21及び負極端子板61を作製している。そのため、生産性及びコスト性にも優れたアルカリ電池11を実現することができる。
【0056】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0057】
・上記実施形態では、本発明をLR6型(単3型)の円筒形アルカリ電池に具体化したが、他のタイプの円筒形アルカリ電池、例えば、LR20型(単1型)、LR14型(単2型)、LR1型(単5型)、LR03型(単4型)などに具体化してもよい。あるいは、本発明をニッケル乾電池(ZR型)、ニッケル水素電池、ニカド電池、リチウム電池、キャパシタ等に具体化してもよい。また、電池の形状も筒状に限定されず、例えば扁平なボタン状などであってもよい。
【0058】
・上記実施形態では、母材25の外側表面25a及び内側表面25bの両方をダル仕上げ面としたが、どちらか一方をブライト仕上げ面とした場合や、両面をブライト仕上げ面とした場合でも、効果は得られる。例えば、図2に示す別の実施形態では、母材25の外側表面25aがダル仕上げ面とされている一方、内側表面25bがブライト仕上げ面とされている。この場合、下地の鉄の露出によるガス発生を抑制して耐漏液性を十分に確保するために、ブライト仕上げ面の表面粗さRaを0.4μm以下に設定しておくことが有効である。
【0059】
・上記実施形態では、母材25の内側表面25bに無光沢ニッケルめっき層26を設けた正極缶21等を例示した。この他、例えば、図3に示す別の実施形態のように、内側表面25bにおいて無光沢ニッケルめっき層26及び光沢ニッケルめっき層27を付加した構成としてもよい。
【0060】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0061】
(1)請求項1乃至6のいずれか1項において、前記母材の外側表面はダル仕上げ面であること。
【0062】
(2)請求項1乃至6のいずれか1項において、前記母材の外側表面はダル仕上げ面であり、内側表面はブライト仕上げ面であること。
【0063】
(3)請求項1乃至6のいずれか1項において、前記母材の缶外側に位置する面の表面粗さRaは0.6μm以上、缶内側に位置する面の表面粗さRaは0.4μm以下であること。
【0064】
(4)請求項1乃至6のいずれか1項において、前記母材の内側表面上には、前記第1ニッケルめっき層のみが形成される一方で前記第2ニッケルめっき層が形成されていないこと。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明を具体化した一実施形態のアルカリ電池を示す概略断面図。
【図2】別の実施形態のアルカリ電池における正極缶の部分拡大断面図。
【図3】別の実施形態のアルカリ電池における正極缶の部分拡大断面図。
【符号の説明】
【0066】
11…電池としてのアルカリ電池
21…電池用金属部品としてのアルカリ電池用正極缶
24…端子部としての正極端子
25…母材
25a…母材の外側表面
26…第1ニッケルめっき層
27…第2ニッケルめっき層
61…電池用金属部品としての中央平板部
62…端子部としての負極端子部
T1…第1ニッケルめっき層の厚さ
T2…第2ニッケルめっき層の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子部を有する形状にプレス加工してなる電池用金属部品であって、
鉄を含有する母材と、前記母材の外側表面上に形成され、硫黄及び硫黄化合物を実質的に含有しない第1ニッケルめっき層と、前記第1ニッケルめっき層上に形成され、硫黄及び硫黄化合物を含有する第2ニッケルめっき層とを備えたことを特徴とする電池用金属部品。
【請求項2】
前記第1ニッケルめっき層は硫黄及び硫黄化合物を実質的に含有しない無光沢ニッケルめっき層であり、前記第2ニッケルめっき層は硫黄及び硫黄化合物の含有量が0.02重量%以上0.10重量%以下の光沢ニッケルめっき層であることを特徴とする請求項1に記載の電池用金属部品。
【請求項3】
前記第2ニッケルめっき層は前記第1ニッケルめっき層よりも薄いことを特徴とする請求項1または2に記載の電池用金属部品。
【請求項4】
前記第1ニッケルめっき層の厚さは0.9μm以上2.0μm以下、前記第2ニッケルめっき層の厚さは0.1μm以上1.0μm以下、前記第1ニッケルめっき層及び前記第2ニッケルめっき層の厚さの総和は1.0μm以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電池用金属部品。
【請求項5】
前記電池用金属部品は、金型を用いた深絞りプレス加工により作製された有底筒状のアルカリ電池用正極缶であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電池用金属部品。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電池用金属部品を使用した電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−226795(P2008−226795A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67672(P2007−67672)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(503025395)FDKエナジー株式会社 (142)
【出願人】(390025689)片山特殊工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】