説明

電池触媒の活性表面積算出方法

【課題】電極活性表面積のより正確な計測手法を提供する。
【解決手段】電解質膜に電極触媒と電解質を含む触媒層を積層して膜−電極接合体とした燃料電池用電極の電池触媒の活性表面積算出方法において、電位をステップ状に変化させて電極活性表面積の算出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学計測器を使った電極触媒の活性表面積の算出方法に関し、詳しくはLSV(Linear Sweep Voltammetory)やCV(Cyclic Voltammetory)を利用した電極触媒の活性表面積の算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電極反応による生成物が水であるため、地球環境への悪影響がほとんどないクリーンな発電システムとして注目され、実用化が進んでいる。
このような燃料電池は、電解質によっていくつかのタイプのものが知られており、これらのうち固体高分子形燃料電池は、自動車等の移動体用動力源として、あるいは定置用電源としての利用が試みられている。
【0003】
このような固体高分子形燃料電池に使用される電極については、撥水性ポリマーを含浸させたカーボンクロスやカーボンペーパーのような高いガス拡散性を有する電極支持体の上に、触媒成分である貴金属微粒子を担持させたカーボンブラック、プロトン伝導性を有するポリマー、撥水性を有するポリマー等で構成されるシート状の触媒層を有するものであり、このような電極の触媒層側を固体高分子電解質膜と対向させて、ホットプレスにより接合し、膜‐電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を作製するようにしている。
【0004】
図2(a)はアッセンブルされた燃料電池の電極活性表面積の計測のための装置構成例を示す。図2(a)において、ポテンシオスタット1は、参照電極4に対する作用極5の電位を制御すると共に、作用極5、対極6間に流れる電流を計測する。対極6は作用極5が参照電極4に対して、電位差を持つことにより起こる電気化学反応の電子およびイオンの消費あるいは生成の役割を担う。
図2(a)では、電解質膜3を湿潤させることでイオン伝導性と電気絶縁性を持たせている。印加した電圧及び発生する電流はレコーダ2により記録する。
【0005】
そして、参照電極4に対する作用極5の電位を一定速度で変化させながら、ポテンシオスタット1で電流を測定し、指定した電位間を往復することで、図1(b)に示すような、作用極5の電圧電流特性(ボルタモグラム)を得ることができる。
【0006】
作用極5の電極活性表面積計算においては、図1(b)に示すLSV曲線のうち、0.05〜0.4Vの範囲の電流量と電圧の変化速度から電気量を計算し、さらに、電気二重層の充電のための電気量を差し引き、触媒の単位面積当たりの電気量(例えば、210μC/cm2)で除することで、表面積を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−220786号公報
【特許文献2】特開2002−050380号公報
【特許文献3】特開2009−002813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図2(c)は、図2(a)の測定装置において、ポテンシオスタット1により参照電極4に対する作用極5の電位をステップ状に変化させたときの電流値の時間変化を表したものである。作用極5の電位が変わることにより、電流が一時的に流れるが、その後電位は変化しないので電流値は収束しやがて0になる。
【0009】
この間に流れる電流には、電極反応と電気二重層の充電(ステップが卑方向の場合)が含まれている。現在のデジタル化された電気化学計測器において、電位を連続的に変化させることはなされておらず、細かい電位ステップの繰り返しを行っており、図2(c)の電位ステップ時の電流の時間変化で示す波形の重ね合わせとなっている。
【0010】
また、図2(b)の拡大図である図2(d)に示すように電流(Q)の測定も、次の電位ステップに移行する直前(イで示す点)の電流値をQ=1×Δtの演算式により計測している。ここから計算される電気量Qは測定するべきものとは異なっている。Δtを小さくしていくと、前の波形ピークが自分と重なる点(イで示す点)、I-t波形のピーク到達前に次のステップが始まる点と真値よりも大きな面積を求めてしまう。
【0011】
Δtが大きくなると、それぞれ固有のピークを抽出することができるが、電流値がピーク値に対して小さくなるため、算出される面積は、真値よりも小さくなってしまうという課題がある。
従って本発明は、電極活性表面積のより正確な計測手法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を達成するために、本発明は次の通りの構成になっている。
(1)電解質膜に電極触媒と電解質を含む触媒層を積層して膜−電極接合体とした燃料電池用電極の電池触媒の活性表面積算出方法において、
電位をステップ状に変化させて電池触媒の活性表面積算出を行うことを特徴とする。
【0013】
(2)(1)に記載の電池触媒の活性表面積算出方法において、
電位ステップを変化させてから次のステップに移行するまでの全ての時間で電流計測を行うことを特徴とする。
【0014】
(3)(1)又は(2)に記載の電池触媒の活性表面積算出方法において、
電位ステップの移行時間は、最大電流が発生する電位での電流緩和時間を用いることを特徴とする。
【0015】
(4)(1)乃至(3)のいずれかに記載の電池触媒の活性表面積算出方法において、
電極活性表面積の算出は電気二重層の充電あるいは、放電が起こる電位での電流−電圧波形を積算することにより、電気二重層の充電容量の減算を行うことを特徴とする。
【0016】
(5)(1)乃至(3)のいずれかに記載の電池触媒の活性表面積算出方法において、
電位ステップ単位ごとに電流量を積分して電荷量を算出するとともに、予め電気二重層の容量を測定しておき、前記電荷量から前記電気二重層の容量減算を行うことを特徴とする。
【0017】
(6)(1)乃至(5)のいずれかに記載の電池触媒の活性表面積算出方法において、
作用極の単位面積当たりの電荷量が分かっている場合には、さらにその単位電荷量で除算して表面積を算出することを特徴とする。
【0018】
(7)(2)に記載の電池触媒の活性表面積算出方法において、
電位ステップの移行のタイミングは、電流下限値を下回ったかどうかで判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、次のような効果を期待することができる。
(1)電位をステップ状に変化させてから次のステップに移行するまでの全ての時間で電流計測を行い、電位ステップの移行時間は、最大電流が発生する電位での電流緩和時間を用いるので、波形を積分することにより、正しいΔVに対する正しい電気量を算出できる。
【0020】
(2)電極活性表面積の算出は電気二重層の充電あるいは、放電が起こる電位での電流−電圧波形を積算することにより、電気二重層の充電容量の減算を行い電位ステップ単位ごとに電流量を積分して電荷量を算出するとともに、予め電気二重層の容量を測定しておき、前記電荷量から前記電気二重層の容量減算の単位面積当たりの電荷量が分かっている場合には、さらに電荷量で除算して表面積を算出し、電位ステップの移行のタイミングは、電流下限値を下回ったかどうかで判定するようにしたので、正しい電気量を算出できる。
【0021】
電位変化による反応電流と電気二重層の充電(電位ステップ方向が卑の場合)が含まれている。このため、計測対象の反応が起きない電位における電流電圧波形から、電気二重層の充電量を算出し減算するので、正しい電気量を算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明で用いる電圧−時間波形(v−t波形)(a)、 本発明により得られる電流−時間波形(I−t波形)(b)である。
【図2】アッセンブルされた燃料電池の電極活性表面積の計測のための装置構成例を示す図(a)、 作用極の電圧電流特性図(ボルタモグラム)(b)、 電位ステップ時の電流の時間変化を示す図(c)、 図2(b)の拡大図(d)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。なお、本発明に用いる測定装置の構成は図2(a)に示す従来例の装置と同様なので、ここでの説明は省略する。
図1(a)は、本発明で実施する電圧−時間波形(v−t波形)であり、Δt時間ごとに電位EをE0からΔvずつステップ状に印加する。
その場合、Δtは電位ステップ幅Δvによって発生する電流が十分緩和する値に設定する。
【0024】
図1(b)は図1(a)に示す電圧をステップ状に印加した場合の電流−時間波形であり、最大電流が発生する電位での電流緩和時間で計測した波形を示すものである。
ここで、図1(b)の波形は各電位ステップΔVによる電流のみが抽出されている。
従って、この波形を積分することにより、正しいΔVに対する正しい電気量を算出することができる。
【0025】
従来例で説明したように、この図1(b)の波形には、電位変化による反応電流と電気二重層の充電(電位ステップ方向が卑の場合)が含まれている。このため、計測対象の反応が起きない電位における電流電圧波形から、電気二重層の充電量を算出し減算する(図2(a)に示したような電極においては、0.4〜0.5Vの領域に相当する)ことにより正しい電気量を算出することができる。
【0026】
なお、積分器と組み合わせて、最初から電荷量-電位波形を出力することも可能であり、さらに単位面積当たりの電荷量(例えば210μC/cm2)との割り算を実施した後出力することも可能である。
このような構成によれば、リアルタイムに電荷量が確認することができ、各電位における活性表面積変化も確認することができる。また、あらかじめ、電気二重層の電荷量を測定しておき、減算してもよい。
【0027】
また、Δtではなく、電流下限値を基準に次の電位ステップの移行を行えば、電位によって電流のピークは異なるため、Δtを長く設定する必要があり、計測時間が長くなってしまうが、適正時間での正確な計測を実現することができる。
【0028】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0029】
1 ポテンシオスタット
2 レコーダ
3 電解質膜
4 参照電極
5 作用極
6 対極
7 アノード極
8 カソード極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜に電極触媒と電解質を含む触媒層を積層して膜−電極接合体とした燃料電池用電極の電池触媒の活性表面積算出方法において、電位をステップ状に変化させて電極活性表面積の算出を行うことを特徴とする電池触媒の活性表面積算出方法。
【請求項2】
電位ステップを変化させてから次のステップに移行するまでの全ての時間で電流計測を行うことを特徴とする請求項1に記載の電池触媒の活性表面積算出方法。
【請求項3】
電位ステップの移行時間は、最大電流が発生する電位での電流緩和時間を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の電池触媒の活性表面積算出方法。
【請求項4】
電極活性表面積の算出は電気二重層の充電あるいは、放電が起こる電位での電流−電圧波形を積算することにより、電気二重層の充電容量の減算を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電池触媒の活性表面積算出方法。
【請求項5】
電位ステップ単位ごとに電流量を積分して電荷量を算出するとともに、予め電気二重層の容量を測定しておき、前記電荷量から前記電気二重層の容量減算ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電池触媒の活性表面積算出方法。
【請求項6】
作用極の単位面積当たりの電荷量が分かっている場合には、さらにその電荷量で除算して表面積を算出することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の電池触媒の活性表面積算出方法。
【請求項7】
電位ステップの移行のタイミングは、電流下限値を下回ったかどうかで判定することを特徴とする請求項2に記載の電池触媒の活性表面積算出方法。

【図1】
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【図2】
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