説明

電波吸収体およびその製造方法

【課題】誘電体の厚み精度や電波の入射角度に影響されず、目的の周波数に吸収効果を得ることができる電波吸収体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 λ/4型電波吸収体100は、入射される電波を反射する反射体10と、反射体10に隣接して配置され、所定の誘電率を有する第1の誘電体21と、第1の誘電体21に隣接して配置され、第1の誘電体と異なる誘電率を有する第2の誘電体22と、抵抗膜30とを積層して構成され、第2の誘電体は、第1の誘電体より小さい誘電率を有し、また、第1の誘電体21と第2の誘電体22との界面に凹凸形状が形成されている。この凹凸形状は、ドーム形状にすることで、誘電体レンズの効果により斜入射した電波を曲げるため、入射角の影響を受けにくくなる。そのため、電波の入射角度が変化しても吸収周波数の変化が少ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射体と、誘電体と、抵抗膜とを積層して構成されるλ/4型電波吸収体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポケットベル、PHS、携帯電話などの無線通信機器が非常な発展を遂げ、従来の有線電話に代わって情報通信の主流になろうとしている。例えば企業内無線LANのように、電波を局所的な相互情報通信手段として使用するシステムもある。さらには、自動車レーダーのように、電波を使って外部情報を自動車の自動制御に使うシステムも開発が進んでいる。
【0003】
電波(電磁波)機器を利用する場合に発生する不要電波は他の機器に対して電波障害等の問題を生じさせる。電波を積極的に利用している前記無線通信機器やレーダーの電波はもちろん、あらゆる電子機器から放射される電磁ノイズも、他の機器に影響を与え、時には重大な事故の原因となる。
【0004】
これまでは電磁波シールド材料により、電波の侵入・漏洩を防止する方法がその対策とされていたが、近年無線LANなどの無線通信が普及する中で、自身の無線信号(電磁波)が室内で反射し、送信した無線信号と同じ波長の不要電波が浮遊することによる受信障害が問題となっており、反射減衰させる電磁波吸収材料が求められていた。
【0005】
電波吸収材としては従来より各種提案されているが、反射体と、誘電体と、抵抗膜とを積層して構成されるλ/4型電波吸収体は、構造が簡単でしかも設計等が容易にできることから、その利用が期待されている。
【0006】
図12は、従来のλ/4型電波吸収体の構成を示す図である。図12に示すように、λ/4型電波吸収体は、反射体1と、誘電体2と、抵抗膜3とを積層して構成され、特定周波数の電波のみを選択的に吸収する電波吸収体である(特許文献1参照)。
【0007】
このλ/4型電波吸収体による電波吸収の原理を、図13を参照しながら説明する。一般に、電波Wがある媒体A(誘電体2)中から他の媒体B(反射体1)へ入射する場合、A/B界面での電波の反射係数SABは、下記式(1)で表される。
AB=(Z−Z)/(Z+Z) (1)
(式中、Zは媒体Aの電波特性インピーダンスであり、Zは媒体Bの電波特性インピーダンスである。)
【0008】
ここで、媒体Bは反射体1、すなわち導体(Z ≒0)であるので、SAB≒−1となり、電波はA/B界面で完全に反射され、媒体A中に大きな定在波が立つ。この時、媒体A中での負荷インピーダンスZの値は、下記式(2)で表されるようにA/B界面(X=0)で0であり、A/B界面からX=λ/4(λは電波の波長)の所で無限大∞になる。
Z=jZtan2βX (2)
(式中、jは素数単位であり、βは伝搬定数の虚数部(位相定数)であり、XはA/B界面からの距離である。)
【0009】
このX=λ/4の位置にインピーダンスRの抵抗膜3を置くと、この位置での負荷インピーダンスは、Rと∞との並列合成であるのでほぼRとなり、この位置での反射係数Sλ/4は、下記式(3)で表される値になる。
λ/4=(R−Z)/(R+Z) (3)
すなわち、抵抗膜3のインピーダンスRが、媒質A(誘電体2)の電波特性インピーダンスZに完全に等しければ反射係数Sλ/4は0となる。
【0010】
このようなλ/4型電波吸収体は、誘電体の誘電率、厚みにより吸収周波数が調整でき、周波数選択性にも優れる。
【0011】
【特許文献1】特開平5−335832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、図12に示すようなλ/4型電波吸収体は、厚み精度の影響や、電磁波の入射角度が変わると、誘電体中を通る電磁波の距離が変化する。特に、誘電体の誘電率(ε)が高い場合、誘電体中を伝播する電磁波の波長λは、空気中を伝播するときの波長λに比べ短くなる (λ=λ/√ε)ため、λ/4となる周波数が大きく変化し目的の周波数に吸収効果を得られなくなる問題点があった。
【0013】
λ/4型の電波吸収体の実用設計においては、目的の吸収ピーク周波数で高い精度で有効な吸収を得ようとすると±0.01mm単位の厚み精度が必要であり、量産においての品質管理に困難を要する。また電波吸収体が柔軟性材料で構成される場合は厚み精度の確保が更に困難を極めることとなる。
【0014】
例えば、誘電体の厚み2.5mm、誘電率100の場合、電波が垂直入射時、吸収ピーク周波数は3GHzであるが、厚みが2.6mmになった場合、電波が垂直入射時、吸収ピーク周波数は2.8GHzになる。また、入射角45度になった場合、吸収ピーク周波数は2.1GHzになる。
【0015】
このように誘電体の厚み精度や電磁波の入射角度の変化は吸収ピーク周波数に大きな影響を及ぼすため、従来のλ/4型電波吸収体は実用において目的の周波数で吸収効果が低下するという問題があった。
【0016】
そこで、本発明は、形状保形性を有する任意の硬さの誘電体で構成でき、誘電体の厚み精度や電磁波の入射角度の影響を極力最小限に抑えつつ、目的の周波数に吸収効果を得ることができるλ/4型の電波吸収体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明に係る電波吸収体は、λ/4型(λは誘電体内での電波の波長を表す)の電波吸収体において、入射される電波を反射する反射体と、前記反射体に隣接して配置され、所定の誘電率を有する第1の誘電体と、前記第1の誘電体に隣接して配置され、前記第1の誘電体と異なる誘電率を有する第2の誘電体と、前記第2の誘電体の外表面に配置される抵抗膜とを積層して構成され、前記第1の誘電体と前記第2の誘電体との界面に凹凸形状が形成されることを特徴とするものである。
【0018】
例えば、前記第1の誘電体と前記第2の誘電体との界面に形成された凹凸形状の凸部は、錐形状またはドーム形状である。また、前記第2の誘電体は、前記第1の誘電体より小さい誘電率を有する。
【0019】
また例えば、前記第1の誘電体と前記第2の誘電体の双方またはいずれか一方が粘弾性材料である。
【0020】
前記第1の誘電体と前記第2の誘電体の積層体との界面に形成された凹凸形状の凸部の頂点部分が、前記第2の誘電体の外表面に配置される抵抗膜と接するように積層されている。
【0021】
上記課題を解決するため、本発明に係る電波吸収体の製造方法は、λ/4型(λは誘電体内での電波の波長を表す)の電波吸収体において、入射される電波を反射する反射体と、前記反射体に隣接して配置され、所定の誘電率を有する第1の誘電体に凸形状を設ける工程と、前記第1の誘電体の凹部分に前記第1の誘電体と異なる誘電率を有する第2の誘電体を積層する工程と、第1の誘電体の凸部の頂点と前記第2の誘電体の外表面に配置される抵抗膜と接するように積層する工程とを備えることを特徴とする。
【0022】
例えば、前記第1の誘電体と前記第2の誘電体は、少なくとも一方が自己粘着性を有するものが用いられ、前記第1の誘電体と前記第2の誘電体とは、前記自己粘着性にて積層されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、第1の誘電体と第2の誘電体とは異なる誘電率を有し、かつ第1の誘電体と第2の誘電体との界面に凹凸形状が形成されることで、第1誘電体の厚みが前記凹凸形状を反映した厚みに分布を持たせることができ、吸収する波長を広帯域化させることができる。
【0024】
また、第1の誘電体と前記第2の誘電体との界面の凹凸を錐形状にすることで、頂点からの角度調整により厚みの変化率を容易に変えられるため、吸収周波数の広帯域化を図ることができ、また、入射角の変化にも誘電体層内の電磁波の透過長の変化を抑えることが可能である。また、ドーム形状にすることで、誘電体レンズの効果が発現し、この誘電体レンズの効果により斜入射した電磁波を曲げるため、入射角の影響を受けにくくなる。そのため、電磁波の入射角度が変化しても吸収周波数の変化が少ない。また、誘電体の厚みを簡単に設定でき、吸収周波数のシフトを小さく抑えることができる。
【0025】
また、第2の誘電体の誘電率は、第1の誘電体の誘電率より小さい構成とすることにより、第1の誘電体と第2の誘電体の界面における電磁波の屈折および誘電体レンズ効果を効率よく発現させることができ、入射角の変化に対して電磁波の透過長の変化を抑えることが可能である。
【0026】
また、誘電体として粘弾性を有するエラストマーやゲル等の柔軟素材をベースとすることで目的の周波数で良好な吸収性能を有すると共に、電波吸収体を貼り付ける部位の表面形状(特に曲面)に追従できるので、適用場所や取り付け方の自由度が広がる。
【0027】
また、前記第1の誘電体と前記第2の誘電体の積層体との界面に形成された凹凸形状の凸部の頂点部分が、前記第2の誘電体の外表面に配置される抵抗膜と接するように積層して電波吸収体とすることで、第1の誘電体が成形スペーサー代わりとなり、成形後の電波吸収体の平滑かつ厚みを精度良くできる。
【0028】
また、第1の誘電体を先に形成したのち、第2の誘電体を第1の誘電体の凹凸部に充填し、抵抗膜が前記凸部頂点に接触するように積層することにより、第1の誘電体が成形スペーサー代わりとなり、成形後の電波吸収体の平滑かつ厚みを精度良く製造でき、量産での品質の安定や成形治具の低減ならびに工程の簡略化によるコスト削減が可能となる。
【0029】
また、前記第1の誘電体と前記第2の誘電体として自己粘着性を有する材料を適用することにより電波吸収体の作製工程において接着剤等の接着層を形成する必要がなくなる。接着層の形成にあたっては厚みに不均一を生じやすいので接着層を不要とすることで電波吸収体の厚み精度の確保と共にコスト削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明に係る電波吸収体を実施するための最良の形態を、図を参照して説明する。図1は、実施の形態の電波吸収体100の構成を示す図である。図2は、凹凸形状の構成を示す図である。
【0031】
図1に示すように、電波吸収体100は、λ/4型(ここでλは誘電体内での電波の波長を表す)の電波吸収体であり、入射される電波を反射する反射体10と、反射体10に隣接して配置され、所定の誘電率を有する第1の誘電体21と、第1の誘電体21に隣接して配置され、第1の誘電体と異なる誘電率を有する第2の誘電体22と、抵抗膜30とを積層して構成される。
【0032】
反射体10は、導電性を有し、金属製または樹脂基材に導電材料をコーティングした素材からなる箔、フィルム、板、不織布、織布、メッシュ等から適宜選択して適用できる。例えばアルミ箔、銅箔等から形成される。この例において、反射体10の第1の誘電体21が配置される面は平面である。この面により電波を反射する。必要に応じて第1の誘電体21が積層される反対の面に被着体(壁、筐体等)に固定するための粘着層または接着層を設けてもよい。
【0033】
誘電体部20は、第1の誘電体21と第2の誘電体22とから構成される。第2の誘電体22の誘電率ε2は、第1の誘電体21の誘電率ε1より小さい。特に、ε1−ε2≧2の関係を満たす組合せが好ましく、これより小さいと誘電体レンズ効果による本発明の効果が小さくなる。
【0034】
また、第1の誘電体21と第2の誘電体22との界面に凹凸形状が形成されている。凹凸形状の凸部21aは、錐形状またはドーム形状である。凹凸形状の凸部21aは、第1の誘電体21と第2の誘電体22のどちらに設けてもよい。
【0035】
図2は、凹凸形状の凸部の構成を示す図である。図2において、(a)は円錐形状であり、(b)は三角錐形状であり、(c)は四角錐形状であり、(d)は断面が円形のドーム形状であり、(e)は断面が四角形のドーム形状である。
【0036】
図2に示すように、凸部21aは、先の尖った錐形状、例えば図2(a)の円錐、図2(b)の三角錐、図2(c)の四角錐等が考えられる。
【0037】
この場合、頂点からの角度調整により厚みの変化率を容易に変えられるため、吸収周波数の広帯域化ができる。また、入射角の変化にも第1の誘電体21と第2の誘電体22の界面での電磁波の屈折により、誘電体2の内部における電磁波の透過長の変化を抑えることが可能である。
【0038】
また、図2に示すように、凸部21aは、抵抗膜30の表面を基準として水平断面形状が、円、四角、六角形、八角形等のドーム形状が考えられる。図2(d)、(e)には円形状の断面および四角形状の断面を有するドーム形状を示している。なお、凸部21aの水平断面形状が他の形状から構成されてもよい。
【0039】
この例において、第1の誘電体21と第2の誘電体22との界面に形成された凹凸形状の凸部21aは、ドーム形状とされる。この場合、誘電体レンズの効果により、入射角の影響を受けにくく、周波数の変化が少ない。また、凸部21aを先に成型することで、凸部21aが第2の誘電体22の凹み部の成型時にスペーサー代わりとなる。
【0040】
図3は、誘電体部20の構成を示す断面図である。図3(a)は、均一構造の誘電体部20を示している。この場合、電磁波が第1の誘電体21および第2の誘電体22を必ず通る。
【0041】
図3(b)〜(d)は、不均一構造の誘電体部20を示している。図3(b)の場合、周波数の設計は均一構造とほぼ同じである。ドーム形状の場合、凸部21aがスペーサーの変わりとなるため、第2の誘電体22成型時にスペーサー等の使用が不要となる。図3(c)の場合、誘電率ε1および誘電率ε2により一枚の誘電体で入射角度依存性や厚み精度依存性を小さく抑えつつ、2つの吸収ピーク周波数とすることができる。また、ドーム形状の場合、凸部21aがスペーサーの代わりとなるため、第2の誘電体22成型時にスペーサー等の使用が不要となる。図3(d)の場合、誘電率ε1および誘電率ε2により一枚の誘電体で入射角度依存性や厚み精度依存性を小さく抑えつつ2つの吸収ピーク周波数とすることができる。また、第1の誘電体21および第2の誘電体22成型時にスペーサーが不要となり、製造設備が簡素化できる。
【0042】
図4は、吸収周波数安定化の原理説明図である。図4に示すように、誘電体表面に凹凸をつけることで、一枚のシート内で厚みに分布を持たせることで、吸収する波長を広帯域化させる。また、凹凸に特定の形状、例えばドーム形状を使用することで、誘電体レンズの効果が発現し、電磁波の入射角度が変化しても吸収周波数の変化が少ない。
【0043】
即ち、誘電体レンズの効果により斜入射した電磁波を曲げるため、電磁波の透過長の変化を抑えられ入射角の影響を受けにくい。厚みt2の間で 吸収周波数が広帯域化できる。
【0044】
また、第1の誘電体21と第2の誘電体22の双方またはいずれか一方が粘弾性材料(例えば、ゲル)を用いることができる。この場合、少なくとも一方が自己粘着性を有し、第1の誘電体21と第2の誘電体22とは、自己粘着性にて積層され、固着される。
【0045】
なお、誘電体材料について、第1の誘電体21は、大きな波長短縮を得るために誘電率を高くすることのできる材料を選択して使用する。設計に応じてベース樹脂にフィラーを添加したものを使用する。
【0046】
ベース樹脂としては、シリコーン、アクリル、エポキシ、ポリイミド、PP、PE、テフロン(登録商標)、ウレタン等の樹脂または発泡体を用いることができる。なお、ゲル強度またはゴム強度を有する材料を用いることもできる。ゲル強度の材料は、粘着性があるので、より適する。
【0047】
添加フィラーとしては、次の1から3のものを単独または組み合わせて添加することができる。
1、誘電体材料:例えば、チタン酸バリウム、アルミナ、水酸化アルミ、水酸化マグネシウム、金属酸化物等を用いることができる。
2、導電材料:例えば、金属粉(アルミ、銅等)、カーボン(カーボンブラック、グラファイトカーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンマイクロコイル等)、金属酸化物等を用いることができる。
3、複合品:誘電体材料と導電材料の複合品、導電材料と中空フィラーの複合品、誘電体材料と導電材料の複合品と中空フィラーの複合品を用いることができる。
【0048】
第2の誘電体22は、波長短縮をできるだけ少なくするために、第1の誘電体よりも誘電率の小さな材料を使用する。ベース樹脂単体または設計に応じてフィラーを添加してもよい。
【0049】
ベース樹脂としては、第1の誘電体21よりも小さい誘電率を有する組合せとなれば、上述した第1の誘電体21に用いる材料を用いることができる。
【0050】
添加フィラーとしては、第1の誘電体21よりも誘電率が小さいフィラーを用いることができる。例えば、中空フィラー(例えば商品名:エクスパンセル(登録商標)等)を用いることができる。
【0051】
抵抗膜は金属や炭素化合物、金属酸化物などの導電性材料をメッキ、スパッタ、蒸着、塗布等により誘電体に直接形成する方法や樹脂薄膜(フィルム)表面に前記材料を公知の方法で導電層を形成した複合膜を用いるなど、表面抵抗377Ωとする構成、製法を適宜選択できる。
【0052】
以下、電波吸収体100の具体的な実施例および電波吸収効果を説明する。ここで、第1の誘電体21の凸部21aはドーム形状に形成されるドーム型を用いる(図1参照)。なお、対比例として、シート型(凹凸部なし)を用いる(図12参照)。
【0053】
対比例の電波吸収体の成形方法は、まず、シリコーン樹脂:アルミナ=3:7の割合で混ぜた樹脂を十分に撹拌後、真空中で脱泡した。次に、鉄板上にプライマーを塗布した銅箔(t=35μm)を敷き、その上に混合した樹脂を流し込み、さらにその上からカーボンナノファイバー塗料を塗布したPETフィルムを乗せ、各サンプルに指定した厚みのスペーサーを置き、ヒートプレスにより測定サンプルを成型した。
【0054】
電波吸収体100の成形方法は、まず、シリコーン樹脂:アルミナ=3:7の割合で混ぜた樹脂を十分に撹拌後、真空中で脱泡した。これを型に流し込み、上からプライマーを塗布した銅箔(t=35μm)を乗せ、ヒートプレスにより第1の誘電体21を成型した。図5は、第1の誘電体21の平面図である。図5に示すように、凸部21a(ドーム)の半径をr(r=1.5〜2.5mm)とし、各凸部21aの間隔は1mmとされる。
【0055】
次に、成型した第1の誘電体21の凹凸面を上にして鉄板上に置き、シリコーン樹脂を流しこみ、上からカーボンナノファイバー塗料を塗布したPETフィルムを乗せ、ヒートプレスにより第2の誘電体22を成型し、測定サンプルとした。
【0056】
ここで、ヒートプレス条件は、120℃/30min、2kgf/cmである。また、カーボンナノファイバー塗布PETフィルムは、VGCF(昭和電工製)5%を添加した塗料をPETフィルム表面に表面抵抗377Ωになる厚み(10μm)に塗布したものである。
【0057】
上記の方法で、対比例の電波吸収体サンプル3つ(No.1−1,1−2,1−3)を作成した。また、実施例の電波吸収体サンプル3つ(No.2−1,2−2,2−3)を作成した。図6は、電波吸収体サンプルの材料および寸法を示す図である。
【0058】
誘電率の測定は、以下の測定条件で行った。
測定機器(材料定数測定システム)として、ネットワークアナライザー:8703A(HP製)、測定治具:同軸管(関東電子製)が用いられた。
測定方法:同軸管法により0.13GHz〜10GHzの範囲で透過波および反射波を測定し、複素比誘電率を算出した。
試料形状:外径7mm×内径3mm×厚み2mmのドーナツ型円盤
【0059】
電波吸収体サンプルに対して、以下の測定方法を用いて測定を行った。図7は、測定状態の概略図である。図7に示すように、電波吸収体サンプルの測定はホーンアンテナ201,202を有するネットワークアナライザー200を用いて、測定周波数を1GHz〜18GHzとし、入射角をθ(垂直入射時θ=0°,傾斜入射時θ=22.5°、35°)として、λ/4型電波吸収体100に電磁波を照射し、その反射量を測定した。
【0060】
測定結果を図8〜図11に示している。図8は、垂直入射時、比較例の電波吸収体の厚み変化による吸収特性の測定結果を示している。図9は、実施例の電波吸収体の厚み変化による吸収特性の測定結果を示している。図10は、比較例の電波吸収体(No.1−1)の入射角の変化による吸収特性の測定結果を示している。図11は、実施例の電波吸収体の(No.2−1)の入射角の変化による吸収特性の測定結果を示している。
【0061】
図8〜図11に示すように、ドーム形状の凸部21aを設けることで、厚みおよび入射角の変化による吸収周波数の変化は小さくなることが確認された。
【0062】
図8に示すように、従来のシート型の場合は、厚み変化により吸収ピーク周波数が大きく変わる。また、反射量(例えば、No.1−3の場合)も大きく変わる。これに対して、図9に示すように、本発明のドーム型の場合は、厚み変化により吸収ピーク周波数の変化が小さく、また反射量の変化も従来のシート型より小さいことが分かる。
【0063】
また、図10に示すように、従来のシート型の場合は、入射角の変化により吸収ピーク周波数が大きく変わる。これに対して、図11に示すように、本発明のドーム型の場合は、入射角の変化により吸収ピーク周波数の変化が小さいことが分かる。
【0064】
このように本実施の形態においては、λ/4型電波吸収体100は、入射される電波を反射する反射体10と、反射体10に隣接して配置され、所定の誘電率を有する第1の誘電体21と、第1の誘電体21に隣接して配置され、第1の誘電体と異なる誘電率を有する第2の誘電体22と、抵抗膜30とを積層して構成され、第2の誘電体は、第1の誘電体より小さい誘電率を有し、また、第1の誘電体21と第2の誘電体22との界面に凹凸形状が形成されている。この凹凸形状の凸部21aは、錐形状またはドーム形状である。
【0065】
これにより、誘電体の厚み精度や電磁波の入射角度に影響されず、目的の周波数に吸収効果を得ることができる。
【0066】
なお、上述実施の形態においては、第1の誘電体21と第2の誘電体22との界面に凹凸形状が形成されるものについて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、反射体10の誘電体20が配置される面にも凹凸形状が形成されるようにしてもよい。この場合、入射角の影響をより受けにくくなる。
また、上述実施の形態においては、第2の誘電体22は、第1の誘電体21より小さい誘電率を有するものについて説明したが、これに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
この発明は、電波機器を利用する場合、他の機器に対する直接的な電波障害の抑制、電子機器から放射される電磁ノイズの影響を削減できるλ/4型の電波吸収体として利用でき、特に無線LANなどの特定の周波数を利用して送受信する環境において、入射角度の影響を小さくしたことで送受信の精度を向上させることに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施の形態の電波吸収体100の構成を示す図である。
【図2】凹凸形状の凸部の構成を示す図である。
【図3】誘電体部20の構成を示す断面図である。
【図4】吸収周波数安定化の原理説明図である。
【図5】第1の誘電体21の平面図である。
【図6】電波吸収体サンプルの材料および寸法を示す図である。
【図7】測定状態の概略図である。
【図8】垂直入射時、比較例の電波吸収体の厚み変化による吸収特性の測定結果を示している。
【図9】実施例の電波吸収体の厚み変化による吸収特性の測定結果を示している。
【図10】比較例の電波吸収体(No.1−1)の入射角の変化による吸収特性の測定結果を示している。
【図11】実施例の電波吸収体の(No.2−1)の入射角の変化による吸収特性の測定結果を示している。
【図12】従来のλ/4型電波吸収体の構成を示す図である。
【図13】媒体とインピーダンスとの関係を説明するための概念図である。
【符号の説明】
【0069】
1,10 反射体
2 誘電体
3,30 抵抗膜
20 誘電体部
21 第1の誘電体
21a 凸部
22 第2の誘電体
100 電波吸収体
200 ネットワークアナライザー
201,202 ホーンアンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
λ/4型(λは誘電体内での電波の波長を表す)の電波吸収体において、
入射される電波を反射する反射体と、
前記反射体に隣接して配置され、所定の誘電率を有する第1の誘電体と、
前記第1の誘電体に隣接して配置され、前記第1の誘電体と異なる誘電率を有する第2の誘電体と、
前記第2の誘電体の外表面に配置される抵抗膜とを積層して構成され、
前記第1の誘電体と前記第2の誘電体との界面に凹凸形状が形成されることを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
前記第1の誘電体と前記第2の誘電体との界面に形成された凹凸形状の凸部は、錐形状またはドーム形状であることを特徴とする請求項1記載の電波吸収体。
【請求項3】
前記第2の誘電体は、前記第1の誘電体より小さい誘電率を有することを特徴とする請求項1または2記載の電波吸収体。
【請求項4】
前記第1の誘電体と前記第2の誘電体の双方またはいずれか一方が粘弾性材料であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項5】
前記第1の誘電体と前記第2の誘電体の積層体との界面に形成された凹凸形状の凸部の頂点部分が、前記第2の誘電体の外表面に配置される抵抗膜と接するように積層されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項6】
λ/4型(λは誘電体内での電波の波長を表す)の電波吸収体において、
入射される電波を反射する反射体と、前記反射体に隣接して配置され、所定の誘電率を有する第1の誘電体に凸形状を設ける工程と、
前記第1の誘電体の凹部分に前記第1の誘電体と異なる誘電率を有する第2の誘電体を積層する工程と、
第1の誘電体の凸部の頂点と前記第2の誘電体の外表面に配置される抵抗膜と接するように積層する工程とを備えることを特徴とする電波吸収体の製造方法。
【請求項7】
前記第1の誘電体と前記第2の誘電体は、少なくとも一方が自己粘着性を有するものが用いられ、
前記第1の誘電体と前記第2の誘電体とは、前記自己粘着性にて積層されることを特徴とする請求項6記載の電波吸収体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−135485(P2008−135485A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319395(P2006−319395)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(306026980)株式会社タイカ (62)
【Fターム(参考)】