電波吸収体用磁性粉体および製造法並びに電波吸収体
【課題】76GHz付近の電波を吸収するための電波吸収体において、マグネトプランバイト型六方晶フェライトを用いて0.5mm以下のシート厚で実用的な性能を発揮する電波吸収体を実現する。
【解決手段】 組成式AFe(12-x)AlxO19、ただしAはSr、Ba、CaおよびPbの1種以上、x:1.0〜2.2、で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体において、レーザー回折散乱粒度分布のピーク粒径が10μm以上である電波吸収体用磁性粉体を使用して厚さ0.5mm以下の電波吸収体を構築する。このような磁性粉体は、BaCl2等の金属塩化物を配合した原料を焼成し、その焼成体の粉砕をピーク粒径が10μm以上に維持されるように軽度に行うことによって製造できる。
【解決手段】 組成式AFe(12-x)AlxO19、ただしAはSr、Ba、CaおよびPbの1種以上、x:1.0〜2.2、で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体において、レーザー回折散乱粒度分布のピーク粒径が10μm以上である電波吸収体用磁性粉体を使用して厚さ0.5mm以下の電波吸収体を構築する。このような磁性粉体は、BaCl2等の金属塩化物を配合した原料を焼成し、その焼成体の粉砕をピーク粒径が10μm以上に維持されるように軽度に行うことによって製造できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、76GHz付近での電波吸収性能を改善したマグネトプランバイト型六方晶フェライトからなる磁性粉体、及びその製造法、並びに前記磁性粉体を用いた電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信技術の高度化に伴い、GHz帯域の電波が種々の用途で使用されるようになってきた。例えば、携帯電話、無線LAN、衛星放送、高度道路交通システム、ノンストップ自動料金徴収システム(ETC)、自動車走行支援道路システム(AHS)などが挙げられる。このように高周波域での電波利用形態が多様化すると、電子部品同士の干渉による故障、誤動作、機能不全などが懸念され、その対策が重要となってくる。その1つとして、電波吸収体を用いて不要な電波を吸収し、電波の反射および侵入を防ぐ方法が有効である。
【0003】
特に昨今では、自動車の運転支援システムの研究が盛んになり、76GHz帯域のミリ波を利用して車間距離等の情報を検知する車載レーダーの開発が進められている。これに伴い、76GHz付近で優れた電波吸収性能を発揮する素材の出現が待たれている。
【0004】
特許文献1にはBaFe(12-x)AlxO19、x=0.6のマグネトプランバイト型六方晶フェライトを用いた電波吸収体において、53GHz付近で吸収ピークをもつものが示されている。また同文献には、BaFe(12-x)AlxO19系のマグネトプランバイト型六方晶フェライトを使用すると強磁性共鳴周波数を50〜100GHz程度にすることができると記載されている。しかし、76GHz付近で優れた電波吸収性能を呈する電波吸収体を実現した例は示されていない。
【0005】
特許文献2には炭化ケイ素粉末をマトリクス樹脂中に分散させた電波吸収体において、76GHz付近で吸収ピークをもつものが示されている。しかし、炭化ケイ素粉末は炭化ケイ素繊維に比べると安価ではあるが、電波吸収体用の素材としては高価である。また、導電性を有するため電子機器内部(回路付近)において接して使用する時などは、絶縁処置を施す必要がある。
【0006】
【特許文献1】特開平11−354972号公報
【特許文献2】特開2005−57093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
76GHz付近で使用する電波吸収体用のフィラー素材として、上記のようにFeの一部をAlで置換した構造のマグネトプランバイト型六方晶フェライトが有望視される。この場合、吸収ピークを示す周波数は、Alの配合比と電波吸収体のシート厚さによって大きく変動するため、目的とする周波数帯域に整合する吸収ピークを実現するには、マグネトプランバイト型六方晶フェライトの組成と電波吸収体シートの厚さとを、最適に組み合わせる必要がある。一方、電子機器の小型軽量化に対応するためには、電波吸収体はできるだけ肉厚の薄いものが要求され、例えば0.5mm以下の薄いシート厚において、減衰量が10dB以上あるいはさらに15dB以上となる優れた電波吸収性能を安定して発揮する電波吸収体の出現が待たれている。
【0008】
しかしながら、マグネトプランバイト型六方晶フェライトにおいてAlの配合比を種々変えた粉体を用意しても、0.5mm以下のシート厚において76GHz付近での優れた電波吸収性能を発揮する電波吸収体を得ることは難しい。特許文献2の炭化ケイ素を用いた76GHz帯域用の電波吸収体においても、0.5mm以下といった薄いシート厚で10dB以上の減衰量を示すものはSiCの充填量を高くした一部のものを除き得られておらず、低コストで薄肉化を実現することは困難である。
【0009】
本発明はこのような現状に鑑み、76GHz付近の電波を吸収するための電波吸収体において、マグネトプランバイト型六方晶フェライトを用いて0.5mm以下のシート厚で実用的な性能を発揮する電波吸収体を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは種々検討の結果、マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体において、従来よりも粒径の大きいものを使用したとき、シート厚を薄くしても76GHz付近で優れた減衰量が実現できることを確認した。
【0011】
すなわち本発明では、組成式AFe(12-x)AlxO19、ただしAはSr、Ba、CaおよびPbの1種以上、x:1.0〜2.2、で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体において、レーザー回折散乱粒度分布のピーク粒径が10μm以上である電波吸収体用磁性粉体が提供される。
【0012】
本発明で対象とする組成式AFe(12-x)AlxO19で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体は、X線回折によって当該組成のマグネトプランバイト型六方晶フェライトの構造を有することが確認できる粉体である。質量分析等によって上記A成分、Fe、Al、O以外の不純物元素の存在が認められるものや、ミクロ的な観察手段によってマグネトプランバイト型六方晶フェライト相以外の不純物相の存在が認められるものも、本発明の対象として許容される。
【0013】
「ピーク粒径」は、横軸に粒径、縦軸に頻度(粒子個数)をとった粒度分布曲線において、頻度が最大になるときの粒径であり、いわゆる「モード径」に相当するものである。
【0014】
このような、ピーク粒径の大きいマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を得るには、次の2つの手段が極めて有効である。
[1]成分調整された原料の混合・造粒物を焼成してマグネトプランバイト型六方晶フェライトを生成させるに際し、原料に金属塩化物を配合する。
[2]焼成されたマグネトプランバイト型六方晶フェライトの焼成体を粉砕して粉体を得るに際し、その粉砕をピーク粒径が10μm以上に維持されるように軽度に行う。
これら[1]および[2]を組み合わせると、より効果的である。
【0015】
金属塩化物としてはBaCl2、SrCl2が挙げられ、これらを1種以上添加することができる。例えばBaCl2を使用する場合、当該BaCl2を除く配合原料100質量部に対し、BaCl2の配合量を1〜10質量部とするとよい。
【0016】
また前記の軽度の粉砕を実現するには、粉砕工程をハンマーミルによる衝撃粉砕と湿式粉砕とによって行うことが望ましい。ただし、金属塩化物を添加した原料を使用する場合は、ハンマーミルによる衝撃粉砕と乾式粉砕とによって行うこともできる。
【0017】
ここで、「成分調整された原料」とは、上記組成式のマグネトプランバイト型六方晶フェライトが合成されるように原料物質を配合して、A成分、FeおよびAlのモル比が調整されているものを意味する。ハンマーミルは、脆性材料にハンマーによる衝撃を加えることにより当該脆性材料を破砕するタイプの粉砕機である。湿式粉砕は、被粉砕材料を液体中に懸濁させ、スラリーの状態で機械的に粉砕する手法である。乾式粉砕としてはボールミルを用いた粉砕方法が代表的に挙げられる。
【0018】
このようにして得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉体を高分子基材中に分散配合することにより、76GHz±10GHz帯域において10dB以上の減衰量を呈する厚さ1.2mm以下、あるいは特に厚さ0.5mm以下のシート状電波吸収体を得ることができる。また、この磁性粉体が分散配合されている塗膜からなる厚さ0.5mm以下の電波吸収層を表面にもつ電波吸収体を構築することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、粒径を大きく調整したマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を製造可能にしたことによって、厚さ0.5mm以下という薄肉のシートにおいて、76GHz付近で10dB以上あるいはさらに15dB以上の減衰量を安定して呈する電波吸収体が提供できるようになった。マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、炭化ケイ素粉体に比べ安価であり、また導電性を有しないため、小型軽量化が進む電子機器への適用が容易であり、実用的価値が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
〔組成〕
本発明では、組成式AFe(12-x)AlxO19、ただしAはSr、Ba、CaおよびPbの1種以上、x:1.0〜2.2、で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトを採用する。下記ピーク粒径の規定を満たす粉体である限り、この組成範囲において、シート厚さを0.5mm以下とした場合の吸収ピークを76GHz±10GHzの範囲にコントロールすることができる。
【0021】
〔ピーク粒径〕
発明者らは詳細な検討の結果、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を構成する粒子のサイズを大きくすることによって、76GHz付近で使用する電波吸収体の薄肉化が図れることを見出した。具体的には、レーザー回折散乱粒度分布のピーク粒径が10μm以上になるように粒度調整されたマグネトプランバイト型六方晶フェライトを使用することが重要である。ピーク粒径を10μm以上にすると、0.5mm以下の薄肉シートにおける76GHz付近での減衰量を急激に向上させることができるのである。ピーク粒径を12μm以上とすることが一層好ましい。なお、単なる平均粒径D50によって粒径を規定することは必ずしも適切ではない。平均粒径D50は、シートの薄肉化にあまり寄与しない粒径の小さい粒子(微粉粒子)の量に大きく左右されるからである。
【0022】
ただし、このようなピーク粒径の大きなマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を得ることは必ずしも容易ではなく、以下に示すように、製造法を工夫することが必要である。
ピーク粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて粒度分布曲線を測定することによって求めることができる。
【0023】
〔製造法〕
本発明のマグネトプランバイト型六方晶フェライトからなる粉体は、焼成過程までは従来一般的なソフトフェライトの製造法に準じて行うことができる。すなわち、A成分、Fe、Alが所定の割合で含まれるように金属酸化物や金属塩(例えば炭酸塩)などの原料を配合し、混合、造粒したのち、これを焼成することにより前記組成のマグネトプランバイト型六方晶フェライトを合成することができる。焼成温度は概ね1200〜1300℃、焼成雰囲気は大気、焼成時間は1〜8h程度とすればよい。
【0024】
その原料として、金属塩化物を配合することが極めて有効である。発明者らの研究によれば、金属塩化物はフラックス成分として働くとともに、焼成過程において六方晶構造の結晶が成長する際、粒成長を活発化させる作用を呈する。この作用により、焼成段階で従来より粒径の大きい結晶粒が得られるものと考えられる。このような粒径の大きい結晶粒からなる焼成体の構造は、粉砕後の粒子径に反映され、結果的に粒径サイズの大きい粉体が得られるものと考えられる。
【0025】
金属塩化物としては例えばBaCl2、SrCl2を挙げることができる。これらは単独で配合することもできるし、複合で配合することもできる。金属塩化物としてBaCl2を単独で配合する場合、その配合量は、当該BaCl2を除く配合原料全体に対する質量比で概ね1〜10質量%の範囲で調整することが好ましい。5質量%以下とすることもでき、3質量%以下でも効果がある。A成分にBaを含む組成のマグネトプランバイト型六方晶フェライトを作る場合は、このBaCl2以外の主原料でA成分のBaを賄うように秤量すればよい。
【0026】
通常のソフトフェライトの製造においては、焼成後に、焼成体を粉砕して所定の粒度を有する粉体を製造する。本発明の磁性粉体を得る場合も、焼成体を粉砕することが必要である。ただし、粉砕において粒子にあまり大きな負荷を与えると、ピーク粒径が低下することがわかった。したがって、本発明の磁性粉体を得るためには、過度な粉砕を行わないようにすることが有効である。具体的には、焼成体をハンマーミルによる衝撃粉砕と湿式粉砕(アトライター、遊星ボールミル等)に供することによりピーク粒径を10μm以上に調整する手法が好適に採用できる。ハンマーミルによる衝撃粉砕のみによって粒度調整することも可能である。上述のように原料に金属塩化物を配合して得た焼成体は相対的に粒径の大きい結晶粒をもつ構造を有しているため、粉砕手段を選択する自由度が拡がる。すなわち、ハンマーミルによる衝撃粉砕のみの粉砕工程、あるいはハンマーミルによる衝撃粉砕と湿式粉砕に供する粉砕工程の他に、ハンマーミルによる衝撃粉砕と乾式粉砕(例えばボールミル)に供する粉砕工程に供することによっても、ピーク粒径を10μm以上に調整することが可能である。ただし、特に後段の乾式粉砕では過度の粉砕を行わないように注意することが重要である。
【0027】
〔電波吸収体〕
得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体は、高分子基材とともに混練することにより電波吸収体素材(混練物)が得られる。混練物中におけるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の配合量は60質量%以上とすることが好ましい。ただし95質量%を超えると高分子基材との混練が難しくなる。マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の混合割合は80〜95質量%とすることがより好ましく、85〜95質量%が一層好ましい。
【0028】
高分子基材としては、使用環境に応じて、耐熱性、難燃性、耐久性、機械的強度、電気的特性を満足する各種のものが使用できる。例えば、樹脂(ナイロン等)、ゲル(シリコーンゲル等)、熱可塑性エラストマー、ゴムなどから適切なものを選択すれば良い。また2種以上の高分子化合物をブレンドして基材としてもよい。
【0029】
高分子基材との相溶性や分散性を改善するために、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体には予め表面処理剤(シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等)による表面処理を施すことができる。また、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体と高分子基材との混合に際し、可塑剤、補強剤、耐熱向上剤、熱伝導性充填剤、粘着剤などの各種添加剤を添加することができる。
【0030】
上記電波吸収体素材(混練物)を圧延により所定のシート厚に成形することで電波吸収体が得られる。また、圧延の替わりに混練物を射出成形することにより所望の電波吸収体形状に成形することもできる。
【0031】
また、本発明のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を塗料中に混合し、これを基体の表面に塗布することによっても、76GHz付近で優れた電波吸収性能を呈する電波吸収体を構築することができる。この場合、塗膜厚さは0.5mm以下とすることができる。
【実施例】
【0032】
各実施例および比較例において、下記の工程A、Bのいずれかによりマグネトプランバイト型六方晶フェライトの磁性粉末を製造した。
[工程A]秤量→混合→造粒→乾燥→焼成→粗粉砕(ハンマーミル)→湿式粉砕
[工程B]秤量→混合→造粒→乾燥→焼成→粗粉砕(ハンマーミル)→乾式粉砕
【0033】
原料としてSrCO3、Al2O3、α−Fe2O3と、一部の例を除き更にフラックス機能を有するBaCl2を用い、BaCl2を除く上記原料を表1に示す組成(実施例1ではモル比で、SrFe(12-x)AlxO19においてx=1.44、すなわちSr:Fe:Al=1:10.56:1.44)に対応する量比で秤量した。BaCl2の配合量(原料全体に占める質量割合)は表1に示すとおりとした(実施例1では2.7質量%)。秤量された原料粉を用いて表1に示す工程AまたはBにより粉体を作製した。具体的には、原料粉をハイスピードミキサーで混合したのち、更に振動ミルにより乾式法で混合強化する方法で混合した。得られた混合粉をペレット状に造粒成形し、この成形体をローラーハース型電気炉に装入し、大気中で表1に示す焼成温度で2h保持することにより焼成した。得られた焼成品をハンマーミルで粗粉砕した。その後、工程Aの場合はアトライター(溶媒:水)で5min湿式粉砕することにより、また工程Bの場合はボールミル(3L−VM)で8min乾式粉砕することにより、それぞれ磁性粉体を得た。
【0034】
X線回折の結果、これら磁性粉体はマグネトプランバイト型六方晶フェライトであることが確認された(各実施例、比較例において同様)。ここで、X線回折の測定条件は、管球:コバルト管球、Goniometer:Ultima+水平ゴニオメータI型、Attachment:ASC−43(縦型)、Monochrometer:全自動モノクロメータ、ScanningMode:2θ/θ、ScanningType:CONTINUOUS、X−Ray:40kV/30mA、発散スリット:1/2deg.、散乱スリット:1/2deg.、受光スリット:0.15mm、測定範囲:30°〜70°である。
【0035】
これら粉体について、レーザー回折式粒度分布測定装置(日本電子株式会社製、HELOS & RODOS)を用いて、粒度分布を測定し、個数平均粒径D50およびピーク粒径を求めた。
また、流動法BET一点法比表面積測定装置(ユアサ アイオニクス株式会社製、MONOSORB)を用いてBET法による比表面積(SSA)を測定した。結果を表1に示す。また各例の粒度分布曲線を図1に例示する。
【0036】
次に、上記粉砕後の磁性粉体(マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体)の含有量が表1に示す割合となるように、当該粉体と高分子基材を混練して電波吸収体素材(混練物)を作製した。高分子基材としては合成ゴム(JSR(日本合成ゴム)製、N215SL)を使用した。この電波吸収体素材を圧延ロールにより厚さ0.33〜0.40mmに圧延し、電波吸収体シートを得た。一部の粉体については同様にして厚さ1.1mm前後の電波吸収体シートも作製した。
【0037】
各電波吸収体シートについて、自由空間法により電波吸収特性を調べた。HVSテクノロジーズ社(HVS Technologies,Inc.)製のフリー・スペース・マイクロ波測定システム(HVS Free Space Microwave Measurement System)を利用してVバンド(50〜75GHz)およびWバンド(75〜110GHz)の電波を試料に入射させ、その反射減衰量を測定した。各例における周波数と減衰量の関係を、シート厚0.33〜0.40mmのものについて図2〜図7に、シート厚1.1mm前後のものについて図8〜図11に例示する。表1には各例で吸収ピークを示す周波数での減衰量を示してある。
【0038】
【表1】
【0039】
表1からわかるように、金属塩化物を原料に添加するか、あるいは粗粉砕と湿式粉砕による軽度の粉砕(工程A)によって粒度調整した各実施例では、ピーク粒径が10μm以上の大きな粒径の粒子を主体とするマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を得ることができた。これを用いた電波吸収体では、76GHz±10GHz域においてシート厚0.4mm以下で減衰量15dB以上(値として−15dB以下)の優れた電波吸収特性を実現することができ、76GHz帯域で使用される電子機器の小型軽量化に貢献できる。シート厚を1.1mm程度と厚くしてもこの周波数域で減衰量15dB以上が維持される電波吸収体が得られており、用途に応じて種々のシート厚を有する76GHz帯域用の電波吸収体を提供することもできる。
【0040】
これに対し、比較例1では金属塩化物を原料に添加せず、かつ粉体粒子に付与される負荷が比較的大きい乾式粉砕(工程B)で仕上げたので、ピーク粒径が10μm以下の一般的な粒径を有するマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体が得られた。これを用いた電波吸収体は、76GHz±10GHz域においてシート厚0.4mmでは減衰量4.6dB(値として−4.6dB)程度の吸収性能しか得られなかった。15dB以上の減衰量を実現するにはシート厚を増大する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例および比較例で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の粒度分布曲線を示したグラフ。
【図2】実施例1で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた0.33mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図3】実施例2で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた0.36mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図4】実施例3で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた0.40mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図5】実施例4で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた0.37mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図6】実施例5で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた0.36mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図7】比較例1で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた0.40mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図8】実施例3で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた1.03mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図9】実施例4で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた1.11mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図10】実施例5で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた1.10mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図11】比較例1で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた1.10mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、76GHz付近での電波吸収性能を改善したマグネトプランバイト型六方晶フェライトからなる磁性粉体、及びその製造法、並びに前記磁性粉体を用いた電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信技術の高度化に伴い、GHz帯域の電波が種々の用途で使用されるようになってきた。例えば、携帯電話、無線LAN、衛星放送、高度道路交通システム、ノンストップ自動料金徴収システム(ETC)、自動車走行支援道路システム(AHS)などが挙げられる。このように高周波域での電波利用形態が多様化すると、電子部品同士の干渉による故障、誤動作、機能不全などが懸念され、その対策が重要となってくる。その1つとして、電波吸収体を用いて不要な電波を吸収し、電波の反射および侵入を防ぐ方法が有効である。
【0003】
特に昨今では、自動車の運転支援システムの研究が盛んになり、76GHz帯域のミリ波を利用して車間距離等の情報を検知する車載レーダーの開発が進められている。これに伴い、76GHz付近で優れた電波吸収性能を発揮する素材の出現が待たれている。
【0004】
特許文献1にはBaFe(12-x)AlxO19、x=0.6のマグネトプランバイト型六方晶フェライトを用いた電波吸収体において、53GHz付近で吸収ピークをもつものが示されている。また同文献には、BaFe(12-x)AlxO19系のマグネトプランバイト型六方晶フェライトを使用すると強磁性共鳴周波数を50〜100GHz程度にすることができると記載されている。しかし、76GHz付近で優れた電波吸収性能を呈する電波吸収体を実現した例は示されていない。
【0005】
特許文献2には炭化ケイ素粉末をマトリクス樹脂中に分散させた電波吸収体において、76GHz付近で吸収ピークをもつものが示されている。しかし、炭化ケイ素粉末は炭化ケイ素繊維に比べると安価ではあるが、電波吸収体用の素材としては高価である。また、導電性を有するため電子機器内部(回路付近)において接して使用する時などは、絶縁処置を施す必要がある。
【0006】
【特許文献1】特開平11−354972号公報
【特許文献2】特開2005−57093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
76GHz付近で使用する電波吸収体用のフィラー素材として、上記のようにFeの一部をAlで置換した構造のマグネトプランバイト型六方晶フェライトが有望視される。この場合、吸収ピークを示す周波数は、Alの配合比と電波吸収体のシート厚さによって大きく変動するため、目的とする周波数帯域に整合する吸収ピークを実現するには、マグネトプランバイト型六方晶フェライトの組成と電波吸収体シートの厚さとを、最適に組み合わせる必要がある。一方、電子機器の小型軽量化に対応するためには、電波吸収体はできるだけ肉厚の薄いものが要求され、例えば0.5mm以下の薄いシート厚において、減衰量が10dB以上あるいはさらに15dB以上となる優れた電波吸収性能を安定して発揮する電波吸収体の出現が待たれている。
【0008】
しかしながら、マグネトプランバイト型六方晶フェライトにおいてAlの配合比を種々変えた粉体を用意しても、0.5mm以下のシート厚において76GHz付近での優れた電波吸収性能を発揮する電波吸収体を得ることは難しい。特許文献2の炭化ケイ素を用いた76GHz帯域用の電波吸収体においても、0.5mm以下といった薄いシート厚で10dB以上の減衰量を示すものはSiCの充填量を高くした一部のものを除き得られておらず、低コストで薄肉化を実現することは困難である。
【0009】
本発明はこのような現状に鑑み、76GHz付近の電波を吸収するための電波吸収体において、マグネトプランバイト型六方晶フェライトを用いて0.5mm以下のシート厚で実用的な性能を発揮する電波吸収体を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは種々検討の結果、マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体において、従来よりも粒径の大きいものを使用したとき、シート厚を薄くしても76GHz付近で優れた減衰量が実現できることを確認した。
【0011】
すなわち本発明では、組成式AFe(12-x)AlxO19、ただしAはSr、Ba、CaおよびPbの1種以上、x:1.0〜2.2、で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体において、レーザー回折散乱粒度分布のピーク粒径が10μm以上である電波吸収体用磁性粉体が提供される。
【0012】
本発明で対象とする組成式AFe(12-x)AlxO19で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体は、X線回折によって当該組成のマグネトプランバイト型六方晶フェライトの構造を有することが確認できる粉体である。質量分析等によって上記A成分、Fe、Al、O以外の不純物元素の存在が認められるものや、ミクロ的な観察手段によってマグネトプランバイト型六方晶フェライト相以外の不純物相の存在が認められるものも、本発明の対象として許容される。
【0013】
「ピーク粒径」は、横軸に粒径、縦軸に頻度(粒子個数)をとった粒度分布曲線において、頻度が最大になるときの粒径であり、いわゆる「モード径」に相当するものである。
【0014】
このような、ピーク粒径の大きいマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を得るには、次の2つの手段が極めて有効である。
[1]成分調整された原料の混合・造粒物を焼成してマグネトプランバイト型六方晶フェライトを生成させるに際し、原料に金属塩化物を配合する。
[2]焼成されたマグネトプランバイト型六方晶フェライトの焼成体を粉砕して粉体を得るに際し、その粉砕をピーク粒径が10μm以上に維持されるように軽度に行う。
これら[1]および[2]を組み合わせると、より効果的である。
【0015】
金属塩化物としてはBaCl2、SrCl2が挙げられ、これらを1種以上添加することができる。例えばBaCl2を使用する場合、当該BaCl2を除く配合原料100質量部に対し、BaCl2の配合量を1〜10質量部とするとよい。
【0016】
また前記の軽度の粉砕を実現するには、粉砕工程をハンマーミルによる衝撃粉砕と湿式粉砕とによって行うことが望ましい。ただし、金属塩化物を添加した原料を使用する場合は、ハンマーミルによる衝撃粉砕と乾式粉砕とによって行うこともできる。
【0017】
ここで、「成分調整された原料」とは、上記組成式のマグネトプランバイト型六方晶フェライトが合成されるように原料物質を配合して、A成分、FeおよびAlのモル比が調整されているものを意味する。ハンマーミルは、脆性材料にハンマーによる衝撃を加えることにより当該脆性材料を破砕するタイプの粉砕機である。湿式粉砕は、被粉砕材料を液体中に懸濁させ、スラリーの状態で機械的に粉砕する手法である。乾式粉砕としてはボールミルを用いた粉砕方法が代表的に挙げられる。
【0018】
このようにして得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉体を高分子基材中に分散配合することにより、76GHz±10GHz帯域において10dB以上の減衰量を呈する厚さ1.2mm以下、あるいは特に厚さ0.5mm以下のシート状電波吸収体を得ることができる。また、この磁性粉体が分散配合されている塗膜からなる厚さ0.5mm以下の電波吸収層を表面にもつ電波吸収体を構築することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、粒径を大きく調整したマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を製造可能にしたことによって、厚さ0.5mm以下という薄肉のシートにおいて、76GHz付近で10dB以上あるいはさらに15dB以上の減衰量を安定して呈する電波吸収体が提供できるようになった。マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、炭化ケイ素粉体に比べ安価であり、また導電性を有しないため、小型軽量化が進む電子機器への適用が容易であり、実用的価値が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
〔組成〕
本発明では、組成式AFe(12-x)AlxO19、ただしAはSr、Ba、CaおよびPbの1種以上、x:1.0〜2.2、で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトを採用する。下記ピーク粒径の規定を満たす粉体である限り、この組成範囲において、シート厚さを0.5mm以下とした場合の吸収ピークを76GHz±10GHzの範囲にコントロールすることができる。
【0021】
〔ピーク粒径〕
発明者らは詳細な検討の結果、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を構成する粒子のサイズを大きくすることによって、76GHz付近で使用する電波吸収体の薄肉化が図れることを見出した。具体的には、レーザー回折散乱粒度分布のピーク粒径が10μm以上になるように粒度調整されたマグネトプランバイト型六方晶フェライトを使用することが重要である。ピーク粒径を10μm以上にすると、0.5mm以下の薄肉シートにおける76GHz付近での減衰量を急激に向上させることができるのである。ピーク粒径を12μm以上とすることが一層好ましい。なお、単なる平均粒径D50によって粒径を規定することは必ずしも適切ではない。平均粒径D50は、シートの薄肉化にあまり寄与しない粒径の小さい粒子(微粉粒子)の量に大きく左右されるからである。
【0022】
ただし、このようなピーク粒径の大きなマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を得ることは必ずしも容易ではなく、以下に示すように、製造法を工夫することが必要である。
ピーク粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて粒度分布曲線を測定することによって求めることができる。
【0023】
〔製造法〕
本発明のマグネトプランバイト型六方晶フェライトからなる粉体は、焼成過程までは従来一般的なソフトフェライトの製造法に準じて行うことができる。すなわち、A成分、Fe、Alが所定の割合で含まれるように金属酸化物や金属塩(例えば炭酸塩)などの原料を配合し、混合、造粒したのち、これを焼成することにより前記組成のマグネトプランバイト型六方晶フェライトを合成することができる。焼成温度は概ね1200〜1300℃、焼成雰囲気は大気、焼成時間は1〜8h程度とすればよい。
【0024】
その原料として、金属塩化物を配合することが極めて有効である。発明者らの研究によれば、金属塩化物はフラックス成分として働くとともに、焼成過程において六方晶構造の結晶が成長する際、粒成長を活発化させる作用を呈する。この作用により、焼成段階で従来より粒径の大きい結晶粒が得られるものと考えられる。このような粒径の大きい結晶粒からなる焼成体の構造は、粉砕後の粒子径に反映され、結果的に粒径サイズの大きい粉体が得られるものと考えられる。
【0025】
金属塩化物としては例えばBaCl2、SrCl2を挙げることができる。これらは単独で配合することもできるし、複合で配合することもできる。金属塩化物としてBaCl2を単独で配合する場合、その配合量は、当該BaCl2を除く配合原料全体に対する質量比で概ね1〜10質量%の範囲で調整することが好ましい。5質量%以下とすることもでき、3質量%以下でも効果がある。A成分にBaを含む組成のマグネトプランバイト型六方晶フェライトを作る場合は、このBaCl2以外の主原料でA成分のBaを賄うように秤量すればよい。
【0026】
通常のソフトフェライトの製造においては、焼成後に、焼成体を粉砕して所定の粒度を有する粉体を製造する。本発明の磁性粉体を得る場合も、焼成体を粉砕することが必要である。ただし、粉砕において粒子にあまり大きな負荷を与えると、ピーク粒径が低下することがわかった。したがって、本発明の磁性粉体を得るためには、過度な粉砕を行わないようにすることが有効である。具体的には、焼成体をハンマーミルによる衝撃粉砕と湿式粉砕(アトライター、遊星ボールミル等)に供することによりピーク粒径を10μm以上に調整する手法が好適に採用できる。ハンマーミルによる衝撃粉砕のみによって粒度調整することも可能である。上述のように原料に金属塩化物を配合して得た焼成体は相対的に粒径の大きい結晶粒をもつ構造を有しているため、粉砕手段を選択する自由度が拡がる。すなわち、ハンマーミルによる衝撃粉砕のみの粉砕工程、あるいはハンマーミルによる衝撃粉砕と湿式粉砕に供する粉砕工程の他に、ハンマーミルによる衝撃粉砕と乾式粉砕(例えばボールミル)に供する粉砕工程に供することによっても、ピーク粒径を10μm以上に調整することが可能である。ただし、特に後段の乾式粉砕では過度の粉砕を行わないように注意することが重要である。
【0027】
〔電波吸収体〕
得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体は、高分子基材とともに混練することにより電波吸収体素材(混練物)が得られる。混練物中におけるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の配合量は60質量%以上とすることが好ましい。ただし95質量%を超えると高分子基材との混練が難しくなる。マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の混合割合は80〜95質量%とすることがより好ましく、85〜95質量%が一層好ましい。
【0028】
高分子基材としては、使用環境に応じて、耐熱性、難燃性、耐久性、機械的強度、電気的特性を満足する各種のものが使用できる。例えば、樹脂(ナイロン等)、ゲル(シリコーンゲル等)、熱可塑性エラストマー、ゴムなどから適切なものを選択すれば良い。また2種以上の高分子化合物をブレンドして基材としてもよい。
【0029】
高分子基材との相溶性や分散性を改善するために、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体には予め表面処理剤(シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等)による表面処理を施すことができる。また、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体と高分子基材との混合に際し、可塑剤、補強剤、耐熱向上剤、熱伝導性充填剤、粘着剤などの各種添加剤を添加することができる。
【0030】
上記電波吸収体素材(混練物)を圧延により所定のシート厚に成形することで電波吸収体が得られる。また、圧延の替わりに混練物を射出成形することにより所望の電波吸収体形状に成形することもできる。
【0031】
また、本発明のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を塗料中に混合し、これを基体の表面に塗布することによっても、76GHz付近で優れた電波吸収性能を呈する電波吸収体を構築することができる。この場合、塗膜厚さは0.5mm以下とすることができる。
【実施例】
【0032】
各実施例および比較例において、下記の工程A、Bのいずれかによりマグネトプランバイト型六方晶フェライトの磁性粉末を製造した。
[工程A]秤量→混合→造粒→乾燥→焼成→粗粉砕(ハンマーミル)→湿式粉砕
[工程B]秤量→混合→造粒→乾燥→焼成→粗粉砕(ハンマーミル)→乾式粉砕
【0033】
原料としてSrCO3、Al2O3、α−Fe2O3と、一部の例を除き更にフラックス機能を有するBaCl2を用い、BaCl2を除く上記原料を表1に示す組成(実施例1ではモル比で、SrFe(12-x)AlxO19においてx=1.44、すなわちSr:Fe:Al=1:10.56:1.44)に対応する量比で秤量した。BaCl2の配合量(原料全体に占める質量割合)は表1に示すとおりとした(実施例1では2.7質量%)。秤量された原料粉を用いて表1に示す工程AまたはBにより粉体を作製した。具体的には、原料粉をハイスピードミキサーで混合したのち、更に振動ミルにより乾式法で混合強化する方法で混合した。得られた混合粉をペレット状に造粒成形し、この成形体をローラーハース型電気炉に装入し、大気中で表1に示す焼成温度で2h保持することにより焼成した。得られた焼成品をハンマーミルで粗粉砕した。その後、工程Aの場合はアトライター(溶媒:水)で5min湿式粉砕することにより、また工程Bの場合はボールミル(3L−VM)で8min乾式粉砕することにより、それぞれ磁性粉体を得た。
【0034】
X線回折の結果、これら磁性粉体はマグネトプランバイト型六方晶フェライトであることが確認された(各実施例、比較例において同様)。ここで、X線回折の測定条件は、管球:コバルト管球、Goniometer:Ultima+水平ゴニオメータI型、Attachment:ASC−43(縦型)、Monochrometer:全自動モノクロメータ、ScanningMode:2θ/θ、ScanningType:CONTINUOUS、X−Ray:40kV/30mA、発散スリット:1/2deg.、散乱スリット:1/2deg.、受光スリット:0.15mm、測定範囲:30°〜70°である。
【0035】
これら粉体について、レーザー回折式粒度分布測定装置(日本電子株式会社製、HELOS & RODOS)を用いて、粒度分布を測定し、個数平均粒径D50およびピーク粒径を求めた。
また、流動法BET一点法比表面積測定装置(ユアサ アイオニクス株式会社製、MONOSORB)を用いてBET法による比表面積(SSA)を測定した。結果を表1に示す。また各例の粒度分布曲線を図1に例示する。
【0036】
次に、上記粉砕後の磁性粉体(マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体)の含有量が表1に示す割合となるように、当該粉体と高分子基材を混練して電波吸収体素材(混練物)を作製した。高分子基材としては合成ゴム(JSR(日本合成ゴム)製、N215SL)を使用した。この電波吸収体素材を圧延ロールにより厚さ0.33〜0.40mmに圧延し、電波吸収体シートを得た。一部の粉体については同様にして厚さ1.1mm前後の電波吸収体シートも作製した。
【0037】
各電波吸収体シートについて、自由空間法により電波吸収特性を調べた。HVSテクノロジーズ社(HVS Technologies,Inc.)製のフリー・スペース・マイクロ波測定システム(HVS Free Space Microwave Measurement System)を利用してVバンド(50〜75GHz)およびWバンド(75〜110GHz)の電波を試料に入射させ、その反射減衰量を測定した。各例における周波数と減衰量の関係を、シート厚0.33〜0.40mmのものについて図2〜図7に、シート厚1.1mm前後のものについて図8〜図11に例示する。表1には各例で吸収ピークを示す周波数での減衰量を示してある。
【0038】
【表1】
【0039】
表1からわかるように、金属塩化物を原料に添加するか、あるいは粗粉砕と湿式粉砕による軽度の粉砕(工程A)によって粒度調整した各実施例では、ピーク粒径が10μm以上の大きな粒径の粒子を主体とするマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を得ることができた。これを用いた電波吸収体では、76GHz±10GHz域においてシート厚0.4mm以下で減衰量15dB以上(値として−15dB以下)の優れた電波吸収特性を実現することができ、76GHz帯域で使用される電子機器の小型軽量化に貢献できる。シート厚を1.1mm程度と厚くしてもこの周波数域で減衰量15dB以上が維持される電波吸収体が得られており、用途に応じて種々のシート厚を有する76GHz帯域用の電波吸収体を提供することもできる。
【0040】
これに対し、比較例1では金属塩化物を原料に添加せず、かつ粉体粒子に付与される負荷が比較的大きい乾式粉砕(工程B)で仕上げたので、ピーク粒径が10μm以下の一般的な粒径を有するマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体が得られた。これを用いた電波吸収体は、76GHz±10GHz域においてシート厚0.4mmでは減衰量4.6dB(値として−4.6dB)程度の吸収性能しか得られなかった。15dB以上の減衰量を実現するにはシート厚を増大する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例および比較例で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の粒度分布曲線を示したグラフ。
【図2】実施例1で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた0.33mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図3】実施例2で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた0.36mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図4】実施例3で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた0.40mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図5】実施例4で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた0.37mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図6】実施例5で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた0.36mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図7】比較例1で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた0.40mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図8】実施例3で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた1.03mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図9】実施例4で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた1.11mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図10】実施例5で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた1.10mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【図11】比較例1で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた1.10mm厚さの電波吸収体における自由空間法による周波数と減衰量の関係を示したグラフ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式AFe(12-x)AlxO19、ただしAはSr、Ba、CaおよびPbの1種以上、x:1.0〜2.2、で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体において、レーザー回折散乱粒度分布のピーク粒径が10μm以上である電波吸収体用磁性粉体。
【請求項2】
成分調整された原料の混合・造粒物を焼成してマグネトプランバイト型六方晶フェライトを生成させるに際し、原料に金属塩化物を配合することを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体用磁性粉体の製造法。
【請求項3】
成分調整された原料の混合・造粒物を焼成してマグネトプランバイト型六方晶フェライトを生成させ、その焼成体を粉砕して粉体を得るに際し、焼成体の粉砕をピーク粒径が10μm以上に維持されるように軽度に行うことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体用磁性粉体の製造法。
【請求項4】
成分調整された原料の混合・造粒物を焼成してマグネトプランバイト型六方晶フェライトを生成させ、その焼成体を粉砕して粉体を得るに際し、原料に金属塩化物を配合すること、および焼成体の粉砕をピーク粒径が10μm以上に維持されるように軽度に行うことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体用磁性粉体の製造法。
【請求項5】
前記粉砕をハンマーミルによる衝撃粉砕と湿式粉砕とによって行う請求項3または4に記載の電波吸収体用磁性粉体の製造法。
【請求項6】
前記粉砕をハンマーミルによる衝撃粉砕と乾式粉砕とによって行う請求項4に記載の電波吸収体用磁性粉体の製造法。
【請求項7】
前記金属塩化物はBaCl2、SrCl2の1種以上である請求項2、4、5、6のいずれかに記載の電波吸収体用磁性粉体の製造法。
【請求項8】
前記金属塩化物はBaCl2であり、当該BaCl2を除く配合原料100質量部に対し、BaCl2の配合量を1〜10質量部とする請求項2、4、5、6のいずれかに記載の電波吸収体用磁性粉体の製造法。
【請求項9】
請求項1に記載の磁性粉体が高分子基材中に分散配合されており、76GHz±10GHz帯域に電波吸収ピークをもつ厚さ0.5mm以下の電波吸収体。
【請求項10】
請求項1に記載の磁性粉体が分散配合されている塗膜からなる厚さ0.5mm以下の電波吸収層を表面にもつ電波吸収体。
【請求項1】
組成式AFe(12-x)AlxO19、ただしAはSr、Ba、CaおよびPbの1種以上、x:1.0〜2.2、で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体において、レーザー回折散乱粒度分布のピーク粒径が10μm以上である電波吸収体用磁性粉体。
【請求項2】
成分調整された原料の混合・造粒物を焼成してマグネトプランバイト型六方晶フェライトを生成させるに際し、原料に金属塩化物を配合することを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体用磁性粉体の製造法。
【請求項3】
成分調整された原料の混合・造粒物を焼成してマグネトプランバイト型六方晶フェライトを生成させ、その焼成体を粉砕して粉体を得るに際し、焼成体の粉砕をピーク粒径が10μm以上に維持されるように軽度に行うことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体用磁性粉体の製造法。
【請求項4】
成分調整された原料の混合・造粒物を焼成してマグネトプランバイト型六方晶フェライトを生成させ、その焼成体を粉砕して粉体を得るに際し、原料に金属塩化物を配合すること、および焼成体の粉砕をピーク粒径が10μm以上に維持されるように軽度に行うことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体用磁性粉体の製造法。
【請求項5】
前記粉砕をハンマーミルによる衝撃粉砕と湿式粉砕とによって行う請求項3または4に記載の電波吸収体用磁性粉体の製造法。
【請求項6】
前記粉砕をハンマーミルによる衝撃粉砕と乾式粉砕とによって行う請求項4に記載の電波吸収体用磁性粉体の製造法。
【請求項7】
前記金属塩化物はBaCl2、SrCl2の1種以上である請求項2、4、5、6のいずれかに記載の電波吸収体用磁性粉体の製造法。
【請求項8】
前記金属塩化物はBaCl2であり、当該BaCl2を除く配合原料100質量部に対し、BaCl2の配合量を1〜10質量部とする請求項2、4、5、6のいずれかに記載の電波吸収体用磁性粉体の製造法。
【請求項9】
請求項1に記載の磁性粉体が高分子基材中に分散配合されており、76GHz±10GHz帯域に電波吸収ピークをもつ厚さ0.5mm以下の電波吸収体。
【請求項10】
請求項1に記載の磁性粉体が分散配合されている塗膜からなる厚さ0.5mm以下の電波吸収層を表面にもつ電波吸収体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−250823(P2007−250823A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72230(P2006−72230)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【出願人】(595156333)DOWAエフテック株式会社 (17)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【出願人】(595156333)DOWAエフテック株式会社 (17)
【Fターム(参考)】
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