説明

電流センサレスモータ制御装置

【課題】電流センサを用いずにモータ制御を良好に果たすことができ、かつ低廉化を図ることができる電流センサレスモータ制御装置を提供する。
【解決手段】モータ2及び負荷10に係る機械定数とモータ角速度wとを含む機械系状態方程式並びにモータ2に係る電気定数とモータ角速度とを含む電気系状態方程式に基いて、モータ角速度wと電圧指令va*との関係について電流成分を含まないで表示する伝達関数を求め、該伝達関数、モータ角速度wと電圧指令とを含む伝達関数演算式を用いて、モータ角速度w*を入力信号として得られる電圧指令va*を求め、電圧指令va*を電圧供給手段3に出力する。このため、モータを制御する上で電流センサ及び推定電流が不要となり、この分、装置の低廉化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流を検出する電流センサを用いずにモータを制御する電流センサレスモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを制御する上で、モータに供給される電流を電流センサで検出し、その電流をフィードバック制御に用いるようにすることが一般的に行われている。
また、電流センサを採用することに伴うコスト削減を図る等のために、オブザーバで構成される電流推定手段を設け、電流推定手段により得られる推定電流を用いてモータへの印加電圧を制御して所望のトルクを得るようにする電流センサレスモータ制御装置も考えられている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−229717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、オブザーバで構成される電流推定手段を用いた従来技術では、電流センサを用いておらず、この分のコスト削減は達成できる。しかし、オブザーバで電流を推定する場合、制御対象が、可観測である必要があり、制御対象が不可観測の場合、オブザーバで電流推定できない欠点がある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、モータ制御において、電流フィードバック制御を用いず、モータのロータの角速度の検出データのみで制御を行なう電流センサレスモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1記載の発明は、電圧指令の入力を受けて該電圧指令に応じた電圧をモータに供給する電圧供給手段と、前記モータのロータの角速度を検出する角速度検出手段の検出データを用いて前記電圧指令を生成して前記電圧供給手段に出力し、前記電圧供給手段を介して前記モータを制御する制御部とを有する電流センサレスモータ制御装置であって、
前記制御部は、前記モータ及び前記ロータに接続されて駆動される負荷に係る機械定数と前記ロータの角速度を含む機械系状態方程式と、前記モータに係る電気定数及び前記ロータの角速度とを含む電気系状態方程式とに基いて、前記ロータの角速度と前記電圧指令との関係について電流成分を含まないで表示する伝達関数を求め、該伝達関数、前記ロータの角速度と前記電圧指令とを含む伝達関数演算式を用いて、前記ロータの角速度を入力信号として得られる電圧指令を求め、該電圧指令を前記電圧供給手段に出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
請求項1記載の発明によれば、モータ及び負荷に係る機械定数とモータ角速度とを含む機械系状態方程式並びにモータに係る電気定数とモータ角速度とを含む電気系状態方程式に基いて、モータ角速度と電圧指令との関係について電流成分を含まないで表示する伝達関数を求め、該伝達関数、モータ角速度と電圧指令とを含む伝達関数演算式を用いて、モータ角速度を入力信号として得られる電圧指令を求め、電圧指令を電圧供給手段に出力する。このため、一般的に行なわれるモータ制御での電流フィードバックが不要となるため、電流センサ及び推定電流が不要となり、この分、装置の低廉化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の一実施の形態に係る電流センサレスモータ制御装置を図1及び図2に基づいて説明する。
図1において、電流センサレスモータ制御装置1は、目標値としての電圧指令va*(目標値であることを符号に「*」を加入して示す。以下、他の情報についても同様に表示する。)の入力を受けて電圧指令va*に応じた電圧vaをモータ2に供給する電圧供給手段3と、モータ2のロータ2aの角速度(以下、適宜、モータ角速度という。)wを検出するエンコーダ4(角速度検出手段)と、目標値としての角速度指令w*の入力を受ける制御部5と、を有している。制御部5は、後述するように、電流成分を用いずに表示される伝達関数、モータ角速度wを含む伝達関数演算式を用いて電圧指令va*を求め、この電圧指令va*を電圧供給手段3に出力し、電流センサを用いることなく、モータ制御を実現している。
【0007】
モータ2のロータ2aには負荷10が接続されており、モータ2(ロータ2a)により駆動されるようになっている。
本実施の形態では、モータ2及び負荷10に係る機械定数とモータ角速度とを含む機械系状態方程式〔数式(1)〕並びにモータ2に係る電気定数とモータ角速度とを含む電気系状態方程式〔数式(2〕は、既知とされている。
【0008】
また、機械系状態方程式、電気系状態方程式及びこれらの状態方程式から求められる伝達関数演算式〔数式(6)〕は、後述するようにして予め求められている。さらに、伝達関数演算式〔数式(6)〕の元となる数式〔数式(5)〕も、機械系状態方程式、電気系状態方程式を合わせて予め求められている。数式(5)は、電流成分を含まないでwの2次遅れ要素で示される。
また、数式(5)から後述するようにして電圧指令算出式〔数式(14)〕が予め求められている。電圧指令算出式〔数式(14)〕は図示しないメモリに予め記憶されている。制御部5は、所望の電圧vaを発生するようにフィードバック制御を行うが、この際、前記メモリに記憶された電圧指令算出式〔数式(14)〕(即ち伝達関数演算式)に基いて、エンコーダ4が検出するモータ角速度w(モータ角速度wにより得られるモータ角加速度w´を含む。)を適用することにより電圧指令va*を生成し、これにより所望の電圧をモータ2に供給し、モータ2の制御を行なっている。
【0009】
前記「モータ角速度w(モータ角速度wにより得られるモータ角加速度w´を含む。)」における「モータ角加速度w´」は、後述の数式(14−2)の「w(k)−w(k−1)」に相当する。このことについて、ここで、数式(14)のブロック図化のための式変形に基いて、説明する。
数式(14)は、数式(14−1)に変更できる。
【0010】
va(k)=〔(1+a1+a2)wref(k+1)+(−a1−a2){wref(k+1)−w(k)}−a2{w(k)−w(k−1)}〕/b0+{−b1va(k−1)}/b0
… (14−1)
【0011】
数式(14)及び数式(14−1)より、数式(14−2)を得る。この数式(14−2)より数式(14)に対応した図3のブロック図を得る。
va(k)=A1×wref(k+1)+A2{wref(k+1)−w(k)}−A3{w(k)−w(k−1)}+B4va(k−1) … (14−2)
但し、 A1=(1+a1+a2)/b0
2=(−a1−a2)/b0
3=a2/b0
4=−b1/b0
【0012】
数式(14−2)の1項目は、フィードフォワード項、2項目は、速度のフィードバック項、3項目は、加速度のフィードバック、即ち前記w´=w(k)−w(k−1)となる。
【0013】
上述したように、本実施の形態では、電圧供給手段3の制御に用いる電圧指令va*の生成を、電流センサを用いずに、かつ電流成分ひいては推定電流を用いずに、モータ制御ができるようにしている。このため、電流センサの検出データを用いてフィードバック制御を行うようにした従来技術に比して、電流センサが不要となる分、構成の簡易化及び装置の低廉化を図ることができる。
また、所望の電流を得る上でフィードバック制御のためにオブザーバ等の電流推定手段を用いる従来技術に比して、電流推定手段が不要となることにより、構成の簡易化及び装置の低廉化を図ることができる。
【0014】
ここで、機械系状態方程式、電気系状態方程式の内容及びこれら状態方程式を用いた伝達関数演算式(伝達関数を含む)並びに電圧指令算出式〔数式(14)〕の算出方法について、制御部5の制御内容を含めて説明する。
制御部5は、電圧指令va*の算出のために機械系状態方程式及び電気系状態方程式を用いている。機械系状態方程式は、モータ2及び負荷10に係る機械定数〔モータ2及び負荷10のイナーシャ(モータ2のイナーシャ及び負荷10のイナーシャの合計)J、モータトルク定数KT〕、モータ2へ供給される電流(モータ電流)ia、モータ角加速度(モータ角速度wの微分)w´、外乱δを含んで、数式(1)のように表示される。
【0015】
Jw´=KTia−δ … (1)
【0016】
数式(1)で、微分を「´」で表示したが、以下の数式中では、適宜、「´」に代えて符号(w、ia)上に「・」を付すことで微分を表示する。
なお、後述する数式では、符号の上に各種記号を記載した表示を行っている。この表示内容を、ここでまとめて説明する。
後述する数式中で、符号(例えばb0、b1)上に記載する波形記号(〜)は、連続時間時における値を示し、同等符号で波形記号(〜)がないものは離散化処理時における値を示している。
また、制御系設計理論では、ia、δ等の物理量に関する信号が推定値であることを示す場合、当該信号を示す符号上にハット記号(^)を付すことが多いが、本明細書(文章中)では、便宜上、ハット記号(^)に代えて「“」を用いる。
【0017】
電気系状態方程式は、モータ2に係る電気定数(モータ巻線抵抗Ra、モータインダクタンスLa、逆起電力定数KE)、モータ電流iaの微分(dia/dt)〔ia´〕、モータ角速度w、電圧供給手段3のモータ2への供給電圧(モータ入力電圧)vaを含んで、式(2)のように表示される。
【0018】
va=Raia+La(dia/dt)+KEw … (2)
【0019】
ここで、仮に、前記数式(1)、(2)からオブザーバを使用して、モータ電流を推定(推定モータ電流ia“を得るように)しようとしても、前記数式(1)、(2)を変形して得られる以下の数式(3)、(4)を用いて示されるように、前記数式(1)、(2)に対応する数式(3)、(4)は、ランク2で、不可観測となりモータ電流iaを推定できない。なお、外乱δも推定できない。
【0020】
【数1】

【0021】
これに対し、本実施の形態は、前記数式(1)、(2)に対して後述するように電流成分を含まない伝達関数、並びにこの伝達関数、モータ角速度w及びモータ入力電圧va等を含む伝達関数演算式を得、この結果、電流センサ、推定電流が不要となる。
【0022】
伝達関数及び伝達関数演算式は次のようにして算出される。
まず、数式(1)を数式(1−1)に示すように変形し、数式(1−1)の両辺を微分して数式(1−2)を得る。
【数2】

【0023】
数式(2)、(1−1)、(1−2)から、次式(5)を得る。数式(5)は、電流項を含まないモータの角速度wの2次遅れ要素で表される。
【数3】

【0024】
数式(5)に微分演算子sを用いることにより、va(t)からw(t)までの伝達関数演算式、数式(6)となる。外乱δは一定値入力外乱のため、積分、外乱キャンセラ等で除去可能とする。よって、数式(5)の外乱δ=0として数式(6)を求めた。
【数4】

【0025】
数式(6)について、現代制御理論を用いて処理して電圧指令算出式〔数式(14)〕を求める。
数式(6)を離散時間化(離散化)することにより数式(7)を得る。
【数5】

【0026】
以下、説明を簡易にするため、b0≠0かつ|b0|>|b1|とする。
モータ2に対する速度制御は以下のように行う。
制御系の目標値w*(k)として、制御量が当該目標値w*(k)に至るまでの望ましい過渡応答をwref(k)とする。なお、図2に示されるように望ましい過渡応答(望ましい出力)wrefはステップ状ではなくなだらかな矩形を示す。
制御系の望ましい閉ループ伝達関数Gopt(z-1)とすると、wref(k)は、数式(8)に示されるようになる。
ref(k)=Gopt(z-1)w*(k) … (8)
【0027】
閉ループ伝達関数を1次遅れ系と考えると、一般的に数式(9)とする。
opt(z-1)=〔z-1Q(z-1)〕/P(z-1) … (9)
なお、この実施例ではP(z-1)及びQ(z-1)について以下とする。
P(z-1)=1+p1-1 … (10a)
Q(z-1)=q0 … (10b)
1、q0は、1次遅れの定数であり、当該定数p1、q0は、wrefの波形から決定される。
【0028】
ref(k)=z-1*(k)とすると、Gopt(z-1)=z-1となり、評価関数J1は、式(10)となり、評価関数J1を小さくする制御系が良いと考える。
1=Σ{w(k)−wref(k)}2 … (10)
【0029】
閉ループ伝達関数を数式(9)とすると、評価関数J2は、式(11)となり、評価関数J2を小さくする制御系が良いと考える。
2=Σ{P(z-1)w(k)−Q(z-1)w*(k−1)}2 … (11)
【0030】
ここで、w(k)→ wref(k)=z-1*(k)とする制御(Gopt(z-1)=z-1評価関数J1を最小化する電圧指令vaの導出)例を示す。
数式(7)より、数式(12)が導かれる。
(1+a1-1+a2-2)w(k)=(b0-1+b1-2)va(k) … (12)
【0031】
数式(12)の両辺を1時刻進め(zを乗じる)て、整理すると数式(13)を得る。
w(k+1)=−a1w(k)−a2w(k−1)+b0va(k)+b1va(k−1)
… (13)
【0032】
ここで、評価関数J1の最小化はw(k+1)=wref(k+1)が成立するときに達成されるので、w(k+1) → wref(k+1)となるva(k)を考えると、数式(13)において、w(k+1)をwref(k+1)に置換えると、数式(14)が得られる。数式(14)により得られるvaを電圧供給手段3への電圧指令として用い、これにより、モータ2電圧を制御し、モータ速度制御を行なっている。
va(k)=〔wref(k+1)+a1w(k)+a2w(k−1)−b1va(k−1)〕/b0 … (14)
【0033】
上述したように構成された電流センサレスモータ制御装置1によれば、モータ2及び負荷10に係る機械定数とモータ角速度wとを含む機械系状態方程式〔数式(1)〕並びにモータ2に係る電気定数とモータ角速度wとを含む電気系状態方程式〔数式(2)〕に基いて、モータ角速度wと電圧指令との関係について電流成分を含まないで表示する伝達関数〔数式(6)参照〕を求め、該伝達関数、モータ角速度wと電圧指令とを含む伝達関数演算式〔数式(6)〕を用いて、前記モータ角速度wを入力信号として得られる電圧指令を求め、該電圧指令を電圧供給手段3に出力する。このため、電流センサ及び推定電流が不要とするモータの制御が実現できる。このように電流センサ及び推定電流が不要とされたことにより、電流センサや推定電流を得るためのオブザーバなどの推定手段を設けなくて済み、この分、装置の低廉化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電流センサレスモータ制御装置を模式的に示す図である。
【図2】図1の電流センサレスモータ制御装置で用いられる目標値w*を望ましい出力wrefの波形と対比して示す図である。
【図3】図1の電流センサレスモータ制御装置で用いられる数式(14)に対応したブロック図である。
【符号の説明】
【0035】
1…電流センサレスモータ制御装置、2…モータ、3…電圧供給手段、4…エンコーダ、5…制御部、10…負荷。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧指令の入力を受けて該電圧指令に応じた電圧をモータに供給する電圧供給手段と、前記モータのロータの角速度を検出する角速度検出手段の検出データを用いて前記電圧指令を生成して前記電圧供給手段に出力し、前記電圧供給手段を介して前記モータを制御する制御部とを有する電流センサレスモータ制御装置であって、
前記制御部は、前記モータ及び前記ロータに接続されて駆動される負荷に係る機械定数と前記ロータの角速度を含む機械系状態方程式と、前記モータに係る電気定数及び前記ロータの角速度とを含む電気系状態方程式とに基いて、前記ロータの角速度と前記電圧指令との関係について電流成分を含まないで表示する伝達関数を求め、該伝達関数、前記ロータの角速度と前記電圧指令とを含む伝達関数演算式を用いて、前記ロータの角速度を入力信号として得られる電圧指令を求め、該電圧指令を前記電圧供給手段に出力することを特徴とする電流センサレスモータ制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−202368(P2007−202368A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20747(P2006−20747)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】