説明

電流センサ

【課題】より広範囲に亘る検出対象電流を高感度かつ高精度に検出する電流センサを提供する。
【解決手段】導体に沿って互いに同方向へ延在するように配置され、導体を流れる検出対象電流が生ずる誘導磁界に応じて各々の抵抗値が変化を示すGMR素子11〜14と、補償電流が流れることにより、誘導磁界とは逆方向の補償磁界をGMR素子11〜14の各々に付与する補償電流線30とを備える。GMR素子11〜14は、互いに接続されることによりブリッジ回路を形成する。補償電流は、そのブリッジ回路の中点から取り出される電位の差分によって生じる。補償電流線30における帯状部分31〜34は、GMR素子11〜14と同方向へ延在すると共に厚さ方向においてそれらとそれぞれ重なり合い、かつ、GMR素子11〜14の幅W11〜W14よりもそれぞれ小さな幅W31〜34を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体を流れる電流の変化を高感度に検知可能な小型の電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、制御機器等の制御をおこなうための制御電流を測定する方法としては、その制御電流によって発生する電流磁界の勾配を検出することによって間接的に測定する方法がある。具体的には、例えば、巨大磁気抵抗効果(Giant Magneto-Resistive effect)を発現する巨大磁気抵抗効果素子(以下、GMR素子)などの磁気抵抗効果素子を4つ用いてホイートストンブリッジを形成し、上記の電流磁界中に配置して、その勾配を検出する方法である(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このように、ホイートストンブリッジを形成することにより、外部からのノイズ(妨害磁界)や環境温度による影響を比較的低く抑えることができる。特に、4つの磁気抵抗効果素子の特性が均一な場合は、より安定した検出特性を得ることができる。
【0004】
また、補償電流ラインを設けることにより、環境温度や外部からのノイズに起因する出力電圧の変化をさらに低減するようにした例も開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
さらに、近年、より微弱な電流を検出する必要性が高まっていることから、磁気抵抗効果素子として、インピーダンスが大きく、より感度の高いものが求められるようになっている。ところが、このように高インピーダンスであり高感度な磁気抵抗効果素子を用いてホイートストンブリッジを構成すると、大きなオフセット出力が発生したり接続抵抗のばらつき等が大きくなったりしがちであった。このため、ホイートストンブリッジを構成する4つの磁気抵抗効果素子のバランス調整が一般的には困難であった。そこで、本出願人は、先に、零磁界でのオフセット出力の調整をより簡便におこなうことができ、検出対象電流による電流磁界を高感度、かつ、高精度に検出可能な電流センサを提案している(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5621377号明細書
【特許文献2】米国特許第5933003号明細書
【特許文献3】特許第4360998号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願人は、上記特許文献3において、複数の磁気抵抗効果素子における電圧降下の差分に応じた補償電流を利用することにより、検出対象電流の測定をより高精度に行う技術に関しても開示している。
【0008】
しかしながら最近では、この種の電流センサに関し、全体構成のコンパクト化に加え、高性能化がさらに求められている。
【0009】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたもので、その目的は、より広範囲に亘る検出対象電流を高感度、かつ、高精度に検出可能な電流センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の電流センサは、導体に沿って互いに同方向へ延在するように配置され、導体を流れる検出対象電流により生ずる誘導磁界に応じて各々の抵抗値が変化を示す第1から第4の磁気抵抗効果素子と、補償電流が流れることにより、検出対象電流に基づいて前記第1から第4の磁気抵抗効果素子に対して印加される各誘導磁界とは逆方向の補償磁界を第1から第4の磁気抵抗効果素子の各々に付与する補償電流線とを備え、補償電流に基づいて検出対象電流を検出するものである。ここで、第1および第2の磁気抵抗効果素子の一端同士が第1の接続点において接続され、第3および第4の磁気抵抗効果素子の一端同士が第2の接続点において接続され、第1の磁気抵抗効果素子の他端と第4の磁気抵抗効果素子の他端とが第3の接続点において接続され、第2の磁気抵抗効果素子の他端と第3の磁気抵抗効果素子の他端とが第4の接続点において接続されることによりブリッジ回路が形成されており、第1および第3の磁気抵抗効果素子の抵抗値は誘導磁界に応じて互いに同じ向きに変化し、第2および第4の磁気抵抗効果素子の抵抗値はいずれも誘導磁界に応じて第1および第3の磁気抵抗効果素子とは反対向きに変化するようになっている。補償電流は、第3の接続点と第4の接続点との間に電圧が印加されたときの第1の接続点と第2の接続点の間の電位差によって生じるものである。補償電流線は、第1から第4の磁気抵抗効果素子の延在方向と同方向へそれぞれ延在すると共に厚さ方向において第1から第4の磁気抵抗効果素子とそれぞれ重なり合い、かつ、第1から第4の磁気抵抗効果素子よりもそれぞれ小さな幅を有する第1から第4の帯状部分を含んでいる。
【0011】
本発明の第2の電流センサは、導体に沿ってそれぞれ配置され、導体を流れる検出対象電流により生ずる誘導磁界に応じて各々の抵抗値が互いに逆方向の変化を示し、かつ互いに同方向へ延在する第1および第2の磁気抵抗効果素子と、読出電流の供給により第1の磁気抵抗効果素子において生じる電圧降下と第2の磁気抵抗効果素子において生じる電圧降下との差分に応じた補償電流が流れることにより、検出対象電流に基づいて第1および第2の磁気抵抗効果素子に対して印加される各誘導磁界とは逆方向の補償磁界を第1および第2の磁気抵抗効果素子の各々に付与する補償電流線とを備え、補償電流に基づいて検出対象電流を検出するものである。補償電流線は、第1および第2の磁気抵抗効果素子の延在方向と同方向へそれぞれ延在すると共に厚さ方向において第1および第2の磁気抵抗効果素子とそれぞれ重なり合い、かつ、第1および第2の磁気抵抗効果素子よりもそれぞれ小さな幅を有する第1および第2の帯状部分を含む。
【0012】
本発明の第1および第2の電流センサでは、第3の接続点と第4の接続点との間に電圧が印加されたときの第1の接続点と第2の接続点の間の電位差によって生じる補償電流に基づき、あるいは、各磁気抵抗効果素子において生じる電圧降下同士の差分に応じた補償電流に基づき、各誘導磁界とは逆方向の補償磁界を各磁気抵抗効果素子に付与するための補償電流線を設けるようにしたので、磁気抵抗効果素子間の特性のばらつきや接続抵抗のばらつき、あるいは温度分布などに起因した出力電圧の変化がキャンセルされる。また、補償電流線における各帯状部分が、厚さ方向において各磁気抵抗効果素子とそれぞれ重なり合い、かつ、各磁気抵抗効果素子よりもそれぞれ小さな幅を有するようにしたので、補償磁界のうちの各磁気抵抗効果素子に実際に及ぶ有効磁界の最大強度および平均強度が向上するうえ、補償電流の一定の変化量に対する各磁気抵抗効果素子の抵抗変化量が増大する。
【0013】
本発明の第1および第2の電流センサでは、補償磁界の強度は、第1から第4の磁気抵抗効果素子(第1および第2の磁気抵抗効果素子)の各々に含まれるフリー層の磁化を回転させることが可能な閾値以上の大きさであり、かつ、フリー層の飽和磁界未満であることが望ましい。各磁気抵抗効果素子に対し、より効率的に補償磁界を付与することができるからである。
【0014】
本発明の第1および第2の電流センサでは、補償電流線の第1から第4の帯状部分(第1および第2の帯状部分)は、それぞれ、複数設けられていることが望ましい。各磁気抵抗効果素子に対し、幅方向においてより均質な強度の補償磁界を効率的に付与することができるからである。この場合、厚さ方向において第1から第4の磁気抵抗効果素子(第1および第2の磁気抵抗効果素子)をそれぞれ挟むように、一対の第1から第4の帯状部分(一対の第1の帯状部分および一対の第2の帯状部分)が配置されているとよい。特に、一対の各帯状部分は、幅方向において、各々の中心点が各磁気抵抗効果素子における中心点を挟んでその両側に位置するように設けられているとよい。より大きな補償磁界を、均質性を損なうことなく付与することができるからである。
【0015】
また、本発明の第2の電流センサでは、第1および第2の磁気抵抗効果素子のそれぞれに、読出電流として互いに等しい値の定電流を供給する第1および第2の定電流源を備えるようにするとよい。その場合、第1および第2の磁気抵抗効果素子はその一端同士が第1の接続点において接続され、第1および第2の定電流源はその一端同士が第2の接続点において接続され、第1の磁気抵抗効果素子の他端と第1の定電流源の他端とが第3の接続点において接続され、第2の磁気抵抗効果素子の他端と第2の定電流源の他端とが第4の接続点において接続され、第1の接続点と第2の接続点との間に電圧が印加されたときの第3の接続点と第4の接続点との間の電位差に基づいて検出対象電流が検出されるように構成されている。
【0016】
また、本発明の第1および第2の電流センサでは、第1から第4の磁気抵抗効果素子(第1および第2の磁気抵抗効果素子)が、一定方向に固着された磁化方向を有するピンド層と、中間層と、外部磁界に応じて磁化方向が変化するフリー層とを順に含む積層体をそれぞれ有するとよい。その場合、ピンド層の磁化方向は、導体ならびに補償電流線の各帯状部分の延在方向と直交する方向であるとよい。さらに、積層体に対し、ピンド層の磁化方向と直交する方向にバイアス磁界を印加するバイアス印加手段を備えるようにしてもよい。
【0017】
また、本発明の第1および第2の電流センサでは、第1から第4の磁気抵抗効果素子(第1および第2の磁気抵抗効果素子)と離間しつつ、それらの延在方向に沿って設けられたヨークを備えるようにすると、誘導磁界および補償磁界をより効率的に各磁気抵抗効果素子に付与することができるので好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1および第2の電流センサによれば、補償電流線を設けると共に、そのうちの少なくとも各磁気抵抗効果素子と重なり合う各帯状部分の幅を、各磁気抵抗効果素子の幅よりも小さくするようにしたので、必要とされる十分な強度の補償磁界を各磁気抵抗効果素子に付与することができる。したがって、例えば複数の磁気抵抗効果素子同士の特性のばらつきや回路中の接続抵抗のばらつき、あるいは温度分布などに起因した出力電圧の変化をキャンセルすることができる。よって、より高感度かつ、より高精度に誘導磁界を検出することが可能となるので、より正確な検出対象電流を求めることができる。
さらに、検出可能な検出対象電流の範囲が拡大する。すなわち、補償電流を大きくすることなく、より広範囲に亘る検出対象電流を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施の形態としての電流センサの全体構成を表す斜視図である。
【図2】図1に示したセンサユニットの要部構成を表す分解斜視図である。
【図3】図2に示した補償電流線および磁気抵抗効果素子を拡大して表す斜視図である。
【図4】図2に示したセンサユニットにおけるIV-IV切断線に沿った構成を表す断面図である。
【図5】図1に示した電流センサの回路図である。
【図6】図1に示した電流センサにおいて、GMR素子に及ぶ誘導磁界および補償磁界の向きを説明するための模式図である。
【図7】図2に示した磁気抵抗効果素子の詳細な構成を表す分解斜視図である。
【図8】GMR素子が補償電流線の帯状部分から受ける有効磁界の幅方向の分布を表す特性図である。
【図9】補償電流と、補償磁界が印加されるGMR素子の抵抗値との関係を表す概念図である。
【図10】外部磁界と、GMR素子の出力との関係を表す特性図(実測値)である。
【図11】GMR素子に及ぶ有効磁界の平均強度と、幅の比との関係を表す特性図(計算値)である。
【図12】GMR素子と補償電流線との間の破壊電圧と、両者の幅の比との関係を表す特性図(実測値)である。
【図13】本発明の第2の実施の形態としての電流センサにおける要部構成を拡大して表す模式図である。
【図14】本発明の第2の実施の形態としての電流センサにおける要部構成を表す断面図である。
【図15】図14に示した補償電流線のレイアウトを示す概念図である。
【図16】本発明の第1の変形例としての電流センサの回路図である。
【図17】本発明の第2の変形例としての電流センサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
[第1の実施の形態]
最初に、図1〜図4を参照して、本発明における第1の実施の形態としての電流センサの構成について説明する。図1は本実施の形態の電流センサの全体構成を表す斜視図であり、図2は、その要部であるセンサユニット3の構成を表す分解斜視図である。図3は、センサユニット3における補償電流線30の詳細な構成などを表す斜視図である。さらに、図4は、図2に示したIV-IV切断線に対応する断面図である。
【0022】
図1に示したように、この電流センサは、検出対象電流Im(後出)が流れる直線状の導体1と、その導体1の近傍に配置された基板2と、基板2の上に配置されたセンサユニット3とを備える。基板2の上には、導体1の延在方向(ここではY軸方向)に沿ってセンサユニット3を挟むように一対の永久磁石HM1,HM2が載置されている。さらに、導体1およびセンサユニット3を一括して取り囲むように、例えばパーマロイなどの磁性材料からなる筒型のシールド構造4が設けられている。導体1は、例えば銅(Cu)などの高い導電率の金属材料からなり、検出対象電流Imが流れることにより、その周囲に誘導磁界Hm(後出)を発生する。シールド構造4は、センサユニット3に対して不要な外部磁界が及ぶのを妨げるように機能する。
【0023】
図2〜図4に示したように、センサユニット3は、例えば素子基板5(図3では省略)上に、第1から第4の巨大磁気抵抗効果(GMR:Giant Magneto-Resistive effect)素子11〜14(以下、単にGMR素子11〜14という。)を含む検出回路20(後出)が設けられた第1の階層L1と、補償電流線30を含む第2の階層L2と、ヨークY1,Y2を含む第3の階層L3(図3では省略)とが順に積層形成されてなるものである。なお、図4に示したように、GMR素子11〜14(検出回路20)および補償電流線30は、それぞれ、酸化アルミニウム(Al2 3 )などからなる絶縁膜Z1,Z2,Z3によって埋設されており互いに絶縁されている。
【0024】
素子基板5は、例えば、ガラスや酸化硅素(SiO2 )などの硅素(Si)の化合物、またはAl2 3などの絶縁材料によって構成されるものである。
【0025】
補償電流線30は、銅などの高い導電率の金属材料によって構成され、薄膜が積層面内において引き回された一本の薄膜導線である。補償電流線30は、例えば一方の端部30T1から、検出回路20からの補償電流Idが流入するようになっている。補償電流線30は、その一部として、導体1の延在方向(ここではY軸方向)へ直線状に延在すると共に、その延在方向および厚さ方向(積層方向)と直交する幅方向(X軸方向)に並ぶ複数の帯状部分31〜34を含んでいる。これらの帯状部分31〜34は、それぞれ、幅方向において幅W31〜W34の寸法を有している。幅W31〜W34は、互いに等しくてもよいし、互いに異なっていてもよい。なお、補償電流コイル30の形状(レイアウト)は図2および図3に示したものに限定されない。
【0026】
検出回路20は、4つのGMR素子11〜14がブリッジ接続されたブリッジ回路である。各GMR素子11〜14は、それぞれ、導体1に沿って配置された帯状の薄膜パターンであり、導体1を流れる検出対象電流Im(後出)により生ずる誘導磁界Hm(後出)に応じて自らの抵抗値が変化を示すものである。具体的には、GMR素子11,13Aの各抵抗値は、誘導磁界Hmに応じて互いに同じ向きに変化する(増加または減少する)。一方、GMR素子12,14の抵抗値は、いずれも、誘導磁界Hmに応じてGMR素子11,13A(の抵抗値の変化)とは反対向きに変化する(減少または増加する)。すなわち、例えばGMR素子11,13の各抵抗値が増加したときは、GMR素子12,14の各抵抗値は減少するという関係となっている。
【0027】
GMR素子11〜14は、互いに同方向(ここではY軸方向)へ延在している。GMR素子11〜14は、それぞれ、その延在方向および厚さ方向(積層方向)と直交する方向において幅W11〜W14の寸法を有している。幅W11〜W14は、互いに等しくてもよいし、互いに異なっていてもよい。ここで、GMR素子11〜14は、それぞれ、補償電流線30における帯状部分31〜34と1対1の対応関係となっている。すなわち、図3および図4に示したように、積層方向(Z軸方向)において、GMR素子11は帯状部分31と重なり合う位置にあり、GMR素子12は帯状部分32と重なり合う位置にあり、GMR素子13は帯状部分33と重なり合う位置にあり、GMR素子14は帯状部分34と重なり合う位置にある。GMR素子11〜14は、それぞれ、補償電流線30の各帯状部分31〜34と厚さ方向において互いに重なり合う位置関係にあることにより、誘導磁界Hmと共に、帯状部分31〜34からの補償磁界Hd(Hd1〜Hd4)の影響を受けることとなる。ここで、GMR素子11〜14と補償電流線30の各帯状部分31〜34とは、厚さ方向における帯状部分31〜34の射影(正射影)の全てが面内方向にはみ出すことなくGMR素子11〜14に含まれるような位置関係にある。したがって、幅W31〜W34は、それぞれ、幅W11〜W14よりも狭くなっている。GMR素子11〜14の詳細な構成については後述する。
【0028】
ヨークY1,Y2は、主に、導体1の周囲に発生する誘導磁界Hmを、GMR素子11〜14へ向かうようにガイドする機能を有する。ヨークY1,Y2は、パーマロイ(NiFe)、コバルト鉄ニッケル(CoFeNi)合金、鉄硅素合金(FeSi)、センダスト、ニッケル−亜鉛(NiZn)フェライト、マンガン−亜鉛(MnZn)フェライト、などの高い透磁率を有する軟磁性材料によって構成されるとよい。
【0029】
永久磁石HM1,HM2は、GMR素子11〜14の自由層63(後出)に対してバイアス磁界を付与することにより、それらのヒステリシスを低減するように機能する。
【0030】
<電流センサの回路構成>
次に、図3に加えて図5を参照して、この電流センサの回路構成について説明する。
【0031】
図3および図5に示したように、検出回路20は、接続点P1〜P4を有している。接続点P1はGMR素子11およびGMR素子12の一端同士を接続し、接続点P2はGMR素子13およびGMR素子14の一端同士を接続し、接続点P3はGMR素子11の他端とGMR素子14の他端とを接続し、接続点P4はGMR素子12の他端とGMR素子13の他端とを接続している。各接続点P1〜P4は、銅などの高導電率を有する非磁性材料によって構成された薄膜パターンである。また、接続点P1は電源Vccと接続され、接続点P2は接地されている。さらに、接続点P3,P4は、いずれも、差動増幅器AMP(図5)の入力側と接続されている。
【0032】
補償電流線30は、その一方の端部30T1が図示しない配線によって差動増幅器AMPの出力側と接続され、他方の端部30T2が抵抗体RLを介して接地されるようになっている。抵抗体RLにおける差動増幅器AMPの側には、補償電流検出手段Sが端部30T2において接続されている。これにより、補償電流線30には、接続点P1と接続点P2との間に電圧が印加されたときの接続点P3と接続点P4との間の電位差に基づく補償電流Idが供給されることとなる。補償電流線30は、補償電流Idが流れたときに、GMR素子11〜14に対して補償磁界Hdをそれぞれ付与するような経路を有している。ここで、帯状部分31〜34において発生する補償磁界Hdは、導体1を流れる検出対象電流Imによって生じる誘導磁界Hmとは逆方向となっている。すなわち、図5および図6に矢印で示したように、GMR素子11〜14に対して誘導磁界Hmが例えば+X方向へ印加されるとき、補償磁界Hdは−X方向へ印加される。なお、図6は、この電流センサのXZ平面に平行な概略断面図であり、補償電流Idおよび検出対象電流Hmの流れる方向と、GMR素子11〜14に及ぶ補償磁界Hdおよび誘導磁界Hmの向きとの関係を表す模式図である。
【0033】
<GMR素子の構成>
次に、図7(A),7(B)を参照して、GMR素子11〜14の構成について、より詳しく説明する。図7(A),7(B)は、GMR素子11の構成を分解して表す分解斜視図である。なお、磁化J61(後述)の向きを除いてGMR素子11〜14は全て同様の構成を有しているので、ここではGMR素子11を例に挙げて説明する。
【0034】
GMR素子11はスピンバルブ構造を有するものであり、図7(A)に示したように、例えば+X方向に固着された磁化J61を有する固着層61と、特定の磁化を示さない非磁性の中間層62と、誘導磁界Hmおよび補償磁界Hdなどの印加磁界の大きさおよび向きに応じて変化する磁化J63を有する自由層63とが順に積層された構造となっている。自由層63の磁化容易軸AE63はY軸と平行であるとよい。なお、図5に示したように、GMR素子13の磁化J61はGMR素子11の磁化J61と同方向(+X方向)に固着されている。これに対し、GMR素子12,14の磁化J61はいずれもGMR素子11,13の磁化J61と逆方向(−X方向)に固着されている。また、図7(A)は、誘導磁界Hmや補償磁界Hdを印加しない無負荷状態(すなわち、外部磁界が零の状態)を示している。この場合には、自由層63の磁化方向J63は、自らの磁化容易軸AE63と平行をなし、かつ、固着層61の磁化J61とほぼ直交する状態となっている。
【0035】
自由層63は、ニッケル鉄合金(NiFe)などの軟磁性材料により構成されている。中間層62は、銅(Cu)により構成され、上面が固着層61と接すると共に下面が自由層63と接している。中間層62は、銅のほか、金(Au)などの導電率の高い非磁性金属により構成することができる。中間層62は、電流センサの動作時に供給される読出電流I1,I2(後出)の大部分が流れるパスラインとしても機能する。なお、自由層63の下面(中間層62に接する面と反対側の面)は、それぞれ図示しない保護膜によって保護されていてもよい。また、固着層61と自由層63との間には磁化方向J61における交換バイアス磁界Hin(以下、単に「交換バイアス磁界Hin」と記す。)が生じており、中間層62を介して互いに作用し合っている。交換バイアス磁界Hinの強度は、固着層61と自由層63との相互間隔(すなわち中間層62の厚み)に応じて自由層63のスピン方向が回転することにより変化する。したがって、交換バイアス磁界Hinを見かけ上、零とすることもできる。また、図7(A)では、下から自由層63、中間層62、固着層61の順に積層された場合の構成例を示しているが、これに限定されず、反対の順序で構成するようにしてもよい。
【0036】
図7(B)に、固着層61の詳細な構成を示す。固着層61は、例えば中間層62の側から磁化固定膜64と反強磁性膜65と保護膜66とが順に積層された構成となっている。磁化固定膜64はコバルト(Co)やコバルト鉄合金(CoFe)などの強磁性材料によって構成されており、この磁化固定膜64の示す磁化の向きが固着層61全体としての磁化J61の向きとなる。一方、反強磁性膜65は、白金マンガン合金(PtMn)やイリジウムマンガン合金(IrMn)などの反強磁性材料により構成されている。反強磁性膜65は、+X方向のスピン磁気モーメントと、それとは反対方向(−X方向)のスピン磁気モーメントとが完全に打ち消し合った状態にあり、磁化固定膜64の磁化の向き(すなわち、固着層61の磁化J61の向き)を固定するように作用している。保護膜66は、タンタル(Ta)やハフニウム(Hf)などの比較的化学的に安定な非磁性材料からなり、磁化固定膜64や反強磁性膜65などを保護するものである。
【0037】
以上のような構造を有するGMR素子11〜14では、誘導磁界Hmおよび補償磁界Hdの合成磁界の印加により自由層63の磁化J63が回転し、それによって磁化J63と磁化J61との相対角度が変化する。その相対角度は、誘導磁界Hmおよび補償磁界Hdの大きさおよび向きによって決まるものである。ここで、誘導磁界Hmの向きが+X方向であるのに対し補償磁界Hdの向きは−X方向であるが、通常、誘導磁界Hmは補償磁界Hdよりも大きな強度を有するので、それらの合成磁界の向きは+X方向となる。そのため、GMR素子11〜14における自由層63の磁化J63は図7(A)に示した無負荷状態から+X方向へ傾くこととなり、GMR素子11〜14の各抵抗値の増減が生じる。より具体的には、GMR素子11,13では磁化J61が+X方向であるので、誘導磁界Hmおよび補償磁界Hdの合成磁界が付与されると磁化J63は磁化J61と平行な状態に近づくこととなり、その抵抗値は減少する。一方、GMR素子12,14では磁化J61が−X方向であるので、誘導磁界Hmおよび補償磁界Hdの合成磁界が付与されると磁化J63は磁化J61と反平行な状態に近づくこととなり、その抵抗値は増大する。
【0038】
<電流センサによる検出対象電流の検出方法>
次に、本実施の形態の電流センサを使用し、誘導磁界Hmを測定することにより検出対象電流Imを求める方法について説明する。
【0039】
図5において、まず、誘導磁界Hmおよび補償磁界Hdが印加されていない状態を考える。ここで、電源Vccから読出電流I0を流したときのGMR素子11〜14における各々の抵抗値をr1〜r4とする。電源Vccからの読出電流I0は、接続点P1において読出電流I1および読出電流I2の2つに分流される。そののち、GMR素子11およびGMR素子14を通過した読出電流I1と、GMR素子12およびGMR素子13を通過した読出電流I2とが接続点P2において合流する。この場合、接続点P1と接続点P2との間の電位差Vは、
V=I1×r4+I1×r1=I2×r3+I2×r2
=I1(r4+r1)=I2(r3+r2) ……(1)
と表すことができる。
また、第3の接続点P3における電位V1および第4の接続点P4における電位V2は、それぞれ、
V1=V−V4
=V−I1×r4
V2=V−V3
=V−I2×r3
と表せる。よって、第3の接続点P3と第4の接続点P4との間の電位差V0は、
V0=V2−V1
=(V−I2×r3)−(V−I1×r4)
=I1×r4−I2×r3 ……(2)
ここで、(1)式から
V0=r4/(r4+r1)×V−r3/(r3+r2)×V
={r4/(r4+r1)−r3/(r3+r2)}×V ……(3)
となる。このブリッジ回路では、誘導磁界Hmが印加されたときに、上記の式(3)で示された接続点P3と接続点P4との間の電圧V0を測定することにより、抵抗変化量が得られる。ここで、誘導磁界Hmが印加されたときに、抵抗値r1〜r4がそれぞれ変化量ΔR1〜ΔR1だけ増加したとすると、すなわち、誘導磁界Hmを印加したときの抵抗値R1〜R4がそれぞれ、
R1=r1+ΔR1
R2=r2+ΔR2
R3=r3+ΔR3
R4=r4+ΔR4
であるとすると、誘導磁界Hmを印加した際の電位差V0は、式(3)より、
V0={(r4+ΔR4)/(r4+ΔR4+r1+ΔR1)+(r3+ΔR3)/(r3+ΔR3+r2+ΔR2)}×V ……(4)
となる。すでに述べたように、この電流センサでは、GMR素子11,13の抵抗値R1,R3とGMR素子12,14の抵抗値R2,R4とが逆方向に変化するので、変化量ΔR3と変化量ΔR2とが打ち消し合うと共に変化量ΔR4と変化量ΔR1とが打ち消し合うこととなる。このため、誘導磁界Hmの印加前後を比較した場合、式(4)の各項における分母の増加はほとんど無い。一方、各項の分子については、変化量ΔR3と変化量ΔR4とは必ず反対の符号を有するので、打ち消し合うことなく増減が現れることとなる。誘導磁界Hmが印加されることにより、GMR素子12,14では、抵抗値は変化量ΔR2,ΔR4(ΔR2,ΔR4<0)の分だけそれぞれ変化する(実質的に低下する)一方で、GMR素子11,13では、抵抗値は変化量ΔR1,ΔR3(ΔR1,ΔR3>0)の分だけそれぞれ変化する(実質的に増加する)からである。
【0040】
そこで、外部磁場と抵抗変化量との関係が既知であるGMR素子11〜14を用いるようにすれば、誘導磁界Hmの大きさを測定することができ、その誘導磁界Hmを発生する検出対象電流Imの大きさを推定することができる。
【0041】
<電流センサの作用効果>
しかしながら、一般的には、抵抗値r1〜r4および変化量ΔR1〜ΔR4はGMR素子11〜14の個体差により相互に異なっているうえ、回路中の接続抵抗のばらつきや温度分布の偏り、あるいは外部からの妨害磁界などが存在することから、電位差Vは上記要因による誤差成分を含んでいる。そこで、この電流センサでは、補償磁界Hdを利用して電位差Vの誤差成分を除去するようにしている。具体的には、この電流センサでは、接続点P3において検出される電位V1と接続点P4において検出される電位V2とが差動増幅器AMPに供給され、その差分(電位差V0)が零となるような補償電流Idが出力される。差動増幅器AMPからの補償電流Idは、GMR素子11〜14の近傍に配置された帯状部分31〜34を検出対象電流Imとは正反対の方向へ流れることにより、誘導磁界Hmとは逆方向の補償磁界Hdを発生させる。この補償磁界Hdは、回路中の接続抵抗のばらつきやGMR素子11〜14の相互間における特性のばらつき、温度分布の偏り、あるいは外部からの妨害磁界などに起因する誤差成分をキャンセルするように作用する。このため、補償電流Idは、結果として誘導磁界Hmのみに比例した大きさに近づくこととなる。したがって、補償電流検出手段Sにおいて、出力電圧Voutを測定し、既知の抵抗体RLとの関係から補償電流Idを算出することにより、誘導磁界Hmをより正確に求めることができ、ひいては検出対象電流Imの大きさを高精度に推定することができる。また、後出の図10に示すように、GMR素子11〜14は外部磁界に対して非線形性を示すが、このようなフィードバック回路(フルブリッジ回路の出力に基づいて補償磁界Hdを印加する回路)を形成することにより、非線形性を示すことの影響(出力の誤差)をキャンセルすることができ、高精度な測定を可能としている。
【0042】
さらに、本実施の形態の電流センサでは、補償電流線30における各帯状部分31〜34の幅W31〜W34を、それぞれと重なり合う各GMR素子11〜14の幅W11〜W14よりも狭くするように構成している。これにより、各GMR素子11〜14に対して補償磁界Hdを無駄なく効率的に付与することができる。すなわち、補償磁界HdのうちのGMR素子11〜14に対してそれぞれ実際に及ぶ有効磁界の最大強度および平均強度が向上する。
【0043】
図8(A)〜図8(C)は、GMR素子11が補償電流線30の帯状部分31から受ける有効磁界の幅方向の分布を表している。図8(A)〜図8(C)では、横軸が、幅方向(X軸方向)における帯状部分31の中心位置からの距離D(μm)を表し、縦軸が有効磁界Heffの強度(×250/π[A/m])を表す。ここでは、以下の条件に基づく有効磁界Heffの計算値を表す。補償電流Idを100mA、GMR素子11と帯状部分31との厚さ方向(Z軸方向)の間隔を0.3μm、帯状部分31の厚さを5.7μmとした。また、図8(A)〜図8(C)は、それぞれ、帯状部分31の幅W31を4μm,6μmおよび8μmとした場合に相当する。図8(A)〜図8(C)に示したように、有効磁界Heffの強度分布は幅W31が狭いほど急峻なピークを示し、最大強度が上昇することがわかる。
【0044】
したがって、補償電流線30を流れる補償電流Idが一定の大きさであっても、帯状部分31の幅W31が狭いほどより大きな有効磁界がGMR素子11に及ぶので、結果としてGMR素子11の抵抗変化量ΔRが大きくなる。これについて、図9を参照して以下に説明する。図9は、帯状部分31を流れる補償電流Idと、補償磁界Hdが印加されるGMR素子11の抵抗値Rとの関係を表す概念図である。図9では、横軸が補償電流Idを表し、縦軸が抵抗値Rを表す。曲線9Wは、相対的に幅W31が大きい場合(サンプルW)を表し、曲線9Nは、相対的に幅W31が小さい場合(サンプルN)を表す。ここで、例えば補償電流Idが最大値Idmaxまで増加したとすると、サンプルW(曲線9W)ではその抵抗値がRWHまで増加するのに対し、サンプルN(曲線9N)ではその抵抗値がRNH(>RWH)まで増加する。また、補償電流Idが最小値Idminまで減少したとすると、サンプルW(曲線9W)ではその抵抗値がRWLまで減少するのに対し、サンプルN(曲線9N)ではその抵抗値がRNL(<RWL)まで減少する。したがって、補償電流Idが最小値Idminから最大値Idmaxまで変化したとき、サンプルWで得られる抵抗変化量ΔRW(=RWH−RWL)よりも、サンプルNで得られる抵抗変化量ΔRN(=RNH−RNL)のほうが大きくなるのである。
【0045】
このように、帯状部分31〜34の幅W31〜34が狭くなるほど補償磁界Hdが効率的に各GMR素子11〜14に付与されるので、より大きな検出対象電流Im(誘導磁界Hm)の測定を行う場合においても、電位差Vの誤差成分を十分にキャンセルすることができる。すなわち、補償電流Idを増大させることなく、より大きな検出対象電流Im(誘導磁界Hm)の測定を行う場合に必要とされる補償磁界Hd(の有効磁界)を確保することができる。よって、電流センサにおける検出対象電流Im(誘導磁界Hm)の測定可能範囲を拡大することができる。
【0046】
なお、図10に一例を示したように、GMR素子11〜14は、ある一定以上の強度を有する外部磁界を付与されるとその出力(抵抗値)が飽和する。図10では、横軸が外部磁界H(×250/π[A/m])を表し、縦軸が最大値を1として規格化した出力(電圧降下の大きさ)を表す。曲線10Wは、幅W11〜34を10μmとした場合の外部磁界Hと出力との関係を表し、曲線10Nは、幅W11〜34を5μmとした場合の外部磁界Hと出力との関係を表す。ここでは自由層63を、厚さ7nmのNiFe層と厚さ1nmのCoFe層との2層構造とした。したがって、自由層63における磁気モーメントの総量(単位体積あたりの磁気モーメントMsと自由層63の体積との積)は、2.3×106 A/mである。図10に示したように、曲線10Wおよび曲線10Nのいずれの場合においても、50(×250/π[A/m])を超えると出力が飽和している(すなわち、飽和磁界が50×250/π[A/m]である)。したがって、GMR素子11〜14の飽和磁界を超える強度の補償磁界Hd(ここでは50×250/π[A/m]を超える補償磁界Hd)を印加しても、自由層63には、回転を生じる磁化J63はそれ以上存在しないので、無駄が生じる。そこで、補償磁界Hdの強度は、GMR素子11〜14の各々に含まれる自由層63の磁化J63を回転させることが可能な閾値以上の大きさであり、かつ、自由層63の飽和磁界未満であるようにすれば、補償磁界Hdの大きさおよび幅方向の均質性が適切なものとなる。よって、GMR素子11〜14の出力変化(抵抗変化)が適切に生じることとなる。なお、図10では、永久磁石HM1,HM2を用いて所定の大きさのバイアス磁界Hb(=60×250/π[A/m])を付与することにより、曲線10Wおよび曲線10Nにおいて残留磁化がほとんど発生していない状態となっている。
【0047】
図11は、補償磁界HdのうちのGMR素子11〜14に対してそれぞれ及ぶ有効磁界の平均強度と、幅W11〜W14に対する幅W31〜W34の比(以下、幅の比という。)との関係を表す特性図(計算値)である。図11において、横軸が幅の比を表し、縦軸が有効磁界を表している。ここでは、幅の比が1の場合を基準として規格化している。図11に示したように、幅の比が1以上の場合よりも、1未満である場合のほうが高い有効磁界の平均強度が得られることがわかる。これは、帯状部分31〜34の幅W31〜W34がGMR素子11〜14の幅W11〜W14よりも広くなると、各帯状部分31〜34における補償磁界Hdの発生箇所が幅方向に分散してしまううえ、帯状部分31〜34のうち厚さ方向においてGMR素子11〜14と重なり合わない部分が発生する補償磁界Hdの成分は、GMR素子11〜14まで十分に到達しないためと考えられる。
【0048】
また、本実施の形態では、補償電流線30における各帯状部分31〜34の幅W31〜W34を、それぞれと重なり合う各GMR素子11〜14の幅W11〜W14よりも狭くするようにしたので、耐圧性能も向上する。その一例として、図12に、GMR素子11〜14と補償電流線30との間の絶縁破壊が生じる破壊電圧と、幅の比(補償電流線の幅/GMR素子の幅)との関係(実測値)を表す。図12に示したように、幅の比が1を超える場合よりも1未満の場合のほうが、より高い破壊電圧を示した。なお、ここではGMR素子11〜14と補償電流線30との間をアルミナからなる3μm厚の絶縁膜によって隔てるようにした。また、幅W11〜W14はいずれも5μmとし、幅W31〜W34は2.5,0.8,6.0,7.5,10.0μmの5水準とした。
【0049】
このように、本実施の形態では、各GMR素子11〜14に対して補償磁界Hdを無駄なく効率的に付与することができるので、より高感度かつ、より高精度に誘導磁界を検出することが可能となる。すなわち、従来はその構造に起因した補償磁界の損失が比較的多かったため、十分な強度の補償磁界を各磁気抵抗効果素子に付与することができず、出力電圧の誤差成分をキャンセルすることができなかったが、本実施の形態によれば、必要とされる十分な強度の補償磁界HdをGMR素子11〜14に付与することができるので、上記のような問題を解消し、より正確に検出対象電流Imを求めることができる。さらに、補償電流Idを大きくすることなく、より広範囲に亘る検出対象電流Imを検出することができる。そのうえ、帯状部分31〜34とGMR素子11〜14との間隔を増大させることなく、両者間の破壊電圧を向上させ、高い耐圧性能を得ることもできる。
【0050】
[第2の実施の形態]
次に、図13(A)を参照して、本発明における第2の実施の形態としての電流センサについて説明する。図13(A)は、本実施の形態の電流センサの要部(GMR素子周辺)の断面構成を表しており、上記第1の実施の形態の図4(A)の一部に対応するものである。なお、図13(A)では、帯状部分31およびGMR素子11を代表して例示しているが、他の帯状部分32〜34およびGMR素子12〜14についても同様の構成である。この点については、後出の図13(B)および図13(C)についても同様である。
【0051】
図13(A)に示したように、本実施の形態の電流センサでは、補償電流線の帯状部分を、1つのGMR素子に対して複数ずつ設けるようにしている。具体的には、互いに直列接続された帯状部分31Aおよび帯状部分31Bを、双方ともGMR素子11と厚さ方向において重なるように配置している。帯状部分31Aおよび帯状部分31Bは、互いに直列に接続されていることから、いずれにも補償電流Idが供給され、補償磁界HdAおよび補償磁界HdBが各々発生することとなる。このとき、補償磁界HdAと補償磁界HdBとの合成の補償磁界Hdは、幅方向において、図13(A)に示した曲線のような分布となる。このため、幅方向において、より均質化された有効磁界を、その最大強度および平均強度を低下させることなくGMR素子11に対して付与することができる。したがって、検出精度のさらなる向上、および検出対象電流の範囲のさらなる拡張が期待できる。なお、ここでは、帯状部分31Aおよび帯状部分31Bを、同一の高さ位置(Z軸方向の位置)において互いに並ぶように配置したが、互いに異なる高さ位置としてもよい。
【0052】
<第2の実施の形態の変形例>
また、本実施の形態では、図13(B)に示したように、一対の帯状部分31A,31Bを、厚さ方向においてGMR素子11を挟むように配置してもよい。この場合、一対の帯状部分31A,31Bは、幅方向において、各々の中心点がGMR素子11における中心点を挟んでその両側に位置するように設けられているとよい。GMR素子11に対し、幅方向において、より均質化された有効磁界を付与することができるからである。その場合、例えば図13(C)に示したように、一対の帯状部分31A,31Bを、厚さ方向においてGMR素子11から互いに等しい距離に配置しつつ、各々の幅W31A,W31Bを拡大することができる。すなわち、一対の帯状部分31A,31Bを、厚さ方向において互いの一部が重複しあう配置関係とすることができる。この場合には、図13(C)に示したように、合成の補償磁界Hdが幅方向においてより平坦な分布となり、GMR素子11の全体に亘ってより均質化された有効磁界を付与することができ、検出精度の向上に有利となる。
【0053】
図14,図15に、図13(B)の構成に対応した補償電流線30の構成例を示す。図14は、本変形例の電流センサにおけるセンサユニット3の全体構成を表す断面図であり、図15は、その上面図である。図14は、図15に示したXIV−XIV線に沿った矢視方向の断面である。図14および図15に示したように、本変形例では、帯状部分31B,32B,33B,34Bを、素子基板5と第1の階層L1との間に挿入した第4の階層L4に設けるようにしている。帯状部分31B,32B,33B,34Bは、絶縁膜Z4によって覆われているが、ビア30V1〜30V7によって接続された帯状部分31A,32A,33A,34Aと共に一本の薄膜導線である補償電流線30を構成している。
【0054】
なお、図13〜15では、1つのGMR素子に対し、補償電流線の帯状部分2つずつ設けるようにした例を図示したが、1つのGMR素子に対して3以上の帯状部分を設けるようにしてもよい。
【0055】
以上、実施の形態および変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態等では、4つのGMR素子を含む検出回路を用いて検出対象電流の検出を行う場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば図16に示した本発明の第1の変形例のように、GMR素子11,12を定電流源41,42に置き換えるようにした検出回路20Aを用いるようにしてもよい。さらに、図17に示した本発明の第2の変形例のように、GMR素子11,12を抵抗43,44に置き換えるようにした検出回路20Bを用いるようにしてもよい。
【0056】
また、上記実施の形態等では、1つのGMR素子を1つの帯状パターンによって構成するようにしたが、複数の帯状パターンを並列接続することにより1つのGMR素子を構成するようにしてもよい。但し、この場合には、GMR素子の帯状パターンの各々と対応するように補償電流線の帯状部分を配置すると共に、各帯状パターンの幅よりも補償電流線の帯状部分の幅を狭くすることが要求される。こうすることにより、GMR素子に対し、より効果的に補償磁界が及ぶと共に、補償磁界および誘導磁界に対するGMR素子の感度がより向上する。
【符号の説明】
【0057】
1…導体、2…基板、3…センサユニット、4…シールド構造、5…素子基板、20,20A,20B…検出回路、11〜14…磁気抵抗効果素子、30…補償電流線、31〜34…帯状部分、61…固着層、62…中間層、63…自由層、64…磁化固定膜、65…反強磁性膜、Hm…誘導磁界、Hb…バイアス磁界、Hd…補償磁界、Id…補償電流、Im…検出対象電流、L1〜L3…第1〜第3の階層、HM1,HM2…永久磁石、P1〜P4…接続点、Z1〜Z3…絶縁膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体に沿って互いに同方向へ延在するように配置され、前記導体を流れる検出対象電流により生ずる誘導磁界に応じて各々の抵抗値が変化を示す第1から第4の磁気抵抗効果素子と、
補償電流が流れることにより、前記検出対象電流に基づいて前記第1から第4の磁気抵抗効果素子に対して印加される各誘導磁界とは逆方向の補償磁界を前記第1から第4の磁気抵抗効果素子の各々に付与する補償電流線と
を備え、
前記第1および第2の磁気抵抗効果素子の一端同士が第1の接続点において接続され、前記第3および第4の磁気抵抗効果素子の一端同士が第2の接続点において接続され、前記第1の磁気抵抗効果素子の他端と前記第4の磁気抵抗効果素子の他端とが第3の接続点において接続され、前記第2の磁気抵抗効果素子の他端と前記第3の磁気抵抗効果素子の他端とが第4の接続点において接続されることによりブリッジ回路が形成されており、
前記第1および第3の磁気抵抗効果素子の抵抗値は、前記誘導磁界に応じて互いに同じ向きに変化し、
前記第2および第4の磁気抵抗効果素子の抵抗値は、いずれも、前記誘導磁界に応じて前記第1および第3の磁気抵抗効果素子とは反対向きに変化し、
前記補償電流は、前記第3の接続点と前記第4の接続点との間に電圧が印加されたときの前記第1の接続点と前記第2の接続点の間の電位差によって生じるものであり、
前記補償電流線は、前記第1から第4の磁気抵抗効果素子の延在方向と同方向へそれぞれ延在すると共に厚さ方向において前記第1から第4の磁気抵抗効果素子とそれぞれ重なり合い、かつ、前記第1から第4の磁気抵抗効果素子よりもそれぞれ小さな幅を有する第1から第4の帯状部分を含み、
前記補償電流に基づいて前記検出対象電流を検出する
ことを特徴とする電流センサ。
【請求項2】
前記補償磁界の強度は、
前記第1から第4の磁気抵抗効果素子の各々に含まれるフリー層の磁化を回転させることが可能な閾値以上の大きさであり、かつ、前記フリー層の飽和磁界未満である
ことを特徴とする請求項1記載の電流センサ。
【請求項3】
前記補償電流線の第1から第4の帯状部分が、前記第1から第4の磁気抵抗効果素子に対してそれぞれ複数ずつ設けられている
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の電流センサ。
【請求項4】
厚さ方向において前記第1から第4の磁気抵抗効果素子をそれぞれ挟むように、一対の前記第1の帯状部分、一対の前記第2の帯状部分、一対の前記第3の帯状部分、および一対の前記第4の帯状部分が配置されている
ことを特徴とする請求項3記載の電流センサ。
【請求項5】
前記一対の第1の帯状部分は、幅方向において、各々の中心点が前記第1の磁気抵抗効果素子における中心点を挟んでその両側に位置するように設けられており、
前記一対の第2の帯状部分は、幅方向において、各々の中心点が前記第2の磁気抵抗効果素子における中心点を挟んでその両側に位置するように設けられており、
前記一対の第3の帯状部分は、幅方向において、各々の中心点が前記第3の磁気抵抗効果素子における中心点を挟んでその両側に位置するように設けられており、
前記一対の第4の帯状部分は、幅方向において、各々の中心点が前記第4の磁気抵抗効果素子における中心点を挟んでその両側に位置するように設けられている
ことを特徴とする請求項4記載の電流センサ。
【請求項6】
前記第1から第4の磁気抵抗効果素子は、一定方向に固着された磁化方向を有するピンド層と、中間層と、外部磁界に応じて磁化方向が変化する前記フリー層とを順に含む積層体をそれぞれ有する
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項記載の電流センサ。
【請求項7】
前記積層体に対し、前記ピンド層の磁化方向と直交する方向にバイアス磁界を印加するバイアス印加手段を備えた
ことを特徴とする請求項6記載の電流センサ。
【請求項8】
前記ピンド層の磁化方向は、前記導体ならびに前記第1から第4の帯状部分の延在方向と直交する方向である
ことを特徴とする請求項6または請求項7記載の電流センサ。
【請求項9】
前記第1から第4の磁気抵抗効果素子と離間しつつ、それらの延在方向に沿って設けられたヨークを備えた
ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項記載の電流センサ。
【請求項10】
導体に沿って延在し、前記導体を流れる検出対象電流により生ずる誘導磁界に応じて各々の抵抗値が互いに逆方向の変化を示す第1および第2の磁気抵抗効果素子と、
読出電流の供給により前記第1の磁気抵抗効果素子において生じる電圧降下と前記第2の磁気抵抗効果素子において生じる電圧降下との差分に応じた補償電流が流れることにより、前記検出対象電流に基づいて前記第1および第2の磁気抵抗効果素子に対して印加される各誘導磁界とは逆方向の補償磁界を前記第1および第2の磁気抵抗効果素子の各々に付与する補償電流線と
を備え、
前記補償電流線は、前記第1および第2の磁気抵抗効果素子の延在方向と同方向へそれぞれ延在すると共に厚さ方向において前記第1および第2の磁気抵抗効果素子とそれぞれ重なり合い、かつ、前記第1および第2の磁気抵抗効果素子よりもそれぞれ小さな幅を有する第1および第2の帯状部分を含み、
前記補償電流に基づいて前記検出対象電流を検出する
ことを特徴とする電流センサ。
【請求項11】
前記第1および第2の磁気抵抗効果素子のそれぞれに、前記読出電流として互いに等しい値の定電流を供給する第1および第2の定電流源を備えた
ことを特徴とする請求項10記載の電流センサ。
【請求項12】
前記第1および第2の磁気抵抗効果素子は、その一端同士が第1の接続点において接続され、
前記第1および第2の定電流源は、その一端同士が第2の接続点において接続され、
前記第1の磁気抵抗効果素子の他端と前記第1の定電流源の他端とが第3の接続点において接続され、
前記第2の磁気抵抗効果素子の他端と前記第2の定電流源の他端とが第4の接続点において接続され、
前記第1の接続点と前記第2の接続点との間に電圧が印加されたときの前記第3の接続点と前記第4の接続点との間の電位差に基づいて前記検出対象電流が検出されるように構成されている
ことを特徴とする請求項11記載の電流センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−196798(P2011−196798A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63161(P2010−63161)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】