説明

電流発生装置

【課題】大電流・高電圧の負荷がかかる場合であっても破損を防止すること。
【解決手段】電源装置2から供給される電力を用いて、耐雷試験を行う供試体9に対して、雷が発生した場合に流れる電流を疑似した電流を供給する電流発生装置1であって、電源装置2から供給される電力を蓄積し、放出する電気二重層コンデンサと、供試体9に対し、電気二重層コンデンサに蓄積された電力の供給可否を切り替える半導体スイッチ3と、半導体スイッチ3と供試体9との間に接続され、半導体スイッチ3に所定以上の電流が流れる場合に、半導体スイッチ3と供試体9との接続を切断する保護部4とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、航空機等が雷撃によって受ける影響を試験するために、雷撃時の雷サージを疑似する電流分布を発生させる電流発生装置が提供されている。従来、耐雷試験に用いられる電流発生装置においては、二次電池を利用して電荷を蓄積し、蓄積された二次電池の電荷により電流を発生させるものが知られているが、耐雷試験を繰り返し実施し、充放電が繰り返されることにより、比較的早い段階で二次電池の寿命が尽きてしまうことが知られている。こうしたことから、二次電池は頻繁な交換が必要となるため、電流発生装置としてのメンテナンス性が悪く、また、二次電池は充電に時間を要するので、試験を終了してから次回試験を行うまでの試験間隔が長くなることが問題になっていた。
上述の問題に対する対策として、二次電池よりも寿命が長く、短時間でエネルギーが貯蔵できるメンテナンス性のよい蓄電装置として二次電池の代わりに電気二重層コンデンサを用いて高電流を発生させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3756850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、雷を疑似するような大電流・高電圧等による急激な充電を電気二重層コンデンサに対して行うと、発火や破損が発生する危険があるという問題があった。また、他の試験装置と同時に試験を行った場合に、供試体等を介して逆流する大電流等がある場合には、供試体に対する電流供給のオンオフを切り替えるスイッチが破損するという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、大電流・高電圧の負荷がかかる場合であっても破損を防止することのできる電流発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、電源装置から供給される電力を用いて、耐雷試験を行う供試体に対して、雷が発生した場合に流れる電流を疑似した電流を供給する電流発生装置であって、電源装置から供給される電力を蓄積し、放出する電気二重層コンデンサと、前記供試体に対し、前記電気二重層コンデンサに蓄積された電力の供給可否を切り替える半導体スイッチと、前記半導体スイッチと前記供試体との間に接続され、該半導体スイッチに所定値以上の電流が流れる場合に、前記半導体スイッチと前記供試体との接続を切断する保護手段とを具備する電流発生装置を提供する。
【0007】
このような構成によれば、電気二重層コンデンサは、電源装置から供給される電力を蓄積し、半導体スイッチが切り替えられることにより蓄積された電力が供試体に供給される。また、半導体スイッチと供試体との間に設けられた保護手段によって、半導体スイッチに所定値以上の電流が流れる場合に、半導体スイッチと供試体との接続が切断される。
このように、電気二重層コンデンサを用いるので、二次電池を用いる場合と比較して、充放電をさせる装置としての劣化速度を低減させることができる。これにより、二次電池を用いる場合と比較して、作業者による充放電の装置の交換作業が低減するので、電流発生装置のメンテナンス性が向上する。
【0008】
また、電気二重層コンデンサに蓄積された電力の供試体への供給可否の切り替えは、半導体スイッチによって行われるので、例えば、1ミリ秒単位での比較的短時間での印加時間を設定する、或いは、長い印加時間を設定する等の印加時間の調整(および微調整)ができる。さらに、半導体スイッチに所定値以上の電流が流れる場合に、供試体との接続が切断されるので、例えば、雷発生状況を疑似するような供試体側に複数の異なる回路を接続し、大電圧かつ大電流によって試験を行う場合に、供試体側から大きな電流が逆流してきたとしても、保護手段により切り離され、半導体スイッチを保護することができる。
【0009】
上記電流発生装置の前記保護手段は、第1アレスタおよびヒューズのうち、少なくともどちらか1つを備えることが好ましい。
第1アレスタおよびヒューズのうち、少なくともどちらか1つが設けられることにより、例えば、供試体側から大電流が逆流することがあったとしても、確実に半導体スイッチと供試体との接続を切断することができる。
【0010】
上記電流発生装置の前記保護回路手段と前記半導体スイッチとの間に、第2アレスタを具備することとしてもよい。
保護回路手段と半導体スイッチとの間に第2アレスタを設けるので、保護回路手段と半導体スイッチとの接続を切断することができる。例えば、保護回路手段が正しく動作せず、半導体スイッチに所定以上の電流が流れるにも関わらず、供試体との切断ができない場合が生じたとしても、第2アレスタを設けることで、確実に供試体側と半導体スイッチとを切断することができる。
【0011】
本発明は、前記供試体が、航空機の構造部材である上記いずれかに記載の電流発生装置を備える航空機用試験装置を提供する。
【0012】
本発明は、前記供試体が、風力発電装置の構造部材である上記いずれかに記載の電流発生装置を備える風力発電装置用試験装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、大電流・高電圧の負荷がかかる場合であっても破損を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る電流発生装置を示す回路図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る電流発生装置の充放電部を示した回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る電流発生装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図1及び図2を用いて説明する。
本実施形態における電流発生装置は、航空機の構造材(例えば、FRP等の複合材)を供試体とし、雷が発生した場合に流れる電流を疑似した電流を供試体に供給する場合を例に挙げて説明するが、供試体はこれに限定されない。
【0017】
図1に示されるように、電流発生装置1は、発生器20、断路器7、保護部(保護手段)4、および制御部(図示略)により構成されており、発生器20は、断路器7を介して保護部4と接続されている。
断路器7は、図示しない制御部によって制御されることにより、発生器20と保護部4とを接続または切断させる。例えば、発生器20が、保護部4を介して供試体9に電流供給可能とされており、交換作業者によって供試体を交換する場合等には、安全性の確保のため、断路器7をオフ(切断)状態にして発生器20と保護部4とを切断する。
【0018】
発生器20は、電源装置2、充放電部21、半導体スイッチ3、スナバ回路5、ダイオード6、および接地回路8を備えている。
電源装置2は、定電流で充電できる定電圧定電流電源である。また、電源装置2は、例えば、電気二重層コンデンサCが直列に接続される個数に応じた最大充電電圧(例えば、電気二重層コンデンサCが40個直列に接続された場合には、540V)を供給できる電源である。
【0019】
図2は、充放電部21を示した回路図である。図2に示されるように、充放電部21は、電気二重層コンデンサC1,C2,C3,C4、第1電磁接触器B1a,b〜B4a,b、および第2電磁接触器A1〜A5を備えている。以下、特に明記しない場合には、第1電磁接触器は第1電磁接触器B、第2電磁接触器は第2電磁接触器A、電気二重層コンデンサは、電気二重層コンデンサCと記述する。
電気二重層コンデンサCは、電源装置から供給される電力を蓄積し、放出する。本実施形態においては、10個のコンデンサを直列に接続したものを1組とし、4組備えられている。また、電気二重層コンデンサCは、無荷電状態で保管可能な大容量の静電容量を有する電気二重層コンデンサを使用することとして説明する。また、本実施形態においては、4組の電気二重層コンデンサCを充電する場合には、電源装置2に対して並列に接続(換言すると、コンデンサを10直列4並列に接続)し、放電する場合には、4組の電気二重層コンデンサCを直列に接続(換言すると、コンデンサを40直列に接続)する。
【0020】
第1電磁接触器Bは、電気二重層コンデンサCを充電する場合にオン状態にされ、放電する場合にオフ状態にされる。また、複数の電気二重層コンデンサCの上流側同士、および下流側同士を接続可能にさせるべく第1電磁接触器Bが接続されている。例えば、図2に示されるように、第1電磁接触器B1a、電気二重層コンデンサC1、および第1電磁接触器B1bが直列に接続されており、第1電磁接触器B2a、電気二重層コンデンサC2、および第1電磁接触器B2bが直列に接続されており、第1電磁接触器B3a、電気二重層コンデンサC3、および第1電磁接触器B3bが直列に接続されており、第1電磁接触器B4a、電気二重層コンデンサC4、および第1電磁接触器B4bが直列に接続され、上流側および下流側の端子が電源装置2と接続されている。
【0021】
第2電磁接触器Aは、電気二重層コンデンサCを放電する場合にオン状態にされ、充電する場合にオフ状態にされる。第2電磁接触器Aがオン状態にされると、複数の電気二重層コンデンサCが半導体スイッチ3と直列に接続される。また、異なる電気二重層コンデンサCの上流側と下流側とを接続可能にさせるべく第2電磁接触器Aが接続されている。例えば、図2に示されるように、電気二重層コンデンサC1の上流側と電気二重層コンデンサC2の下流側との間に第2電磁接触器A2が接続され、電気二重層コンデンサC2の上流側と電気二重層コンデンサC3の下流側との間に第2電磁接触器A3が接続され、電気二重層コンデンサC3の上流側と電気二重層コンデンサC4の下流側との間に第2電磁接触器A4が接続され、電気二重層コンデンサC4の上流側と半導体スイッチ3上流側とが接続され、電気二重層コンデンサC1の下流側と半導体スイッチ3の下流側との間に第2電磁接触器A1が接続されている。
【0022】
図1に戻り、半導体スイッチ3は、電気二重層コンデンサCに蓄積された電荷の供試体9への供給可否をオンオフによって切り替える。また、半導体スイッチ3は、他の機器から進入するノイズを低減するべくスナバ回路5およびダイオード6が並列に接続されている。半導体スイッチ3は、放電スイッチとして用いられ、オンオフ時間が1ミリ秒単位で制御される。
接地回路8は、電気二重層コンデンサCに蓄積された電荷を放出させる回路である。例えば、夜間等、電流発生装置1による試験を終了する場合に、接地回路8の各接続点P1〜P8を、各電気二重層コンデンサC1,C2,C3,C4の有する接続点P1〜P8とそれぞれ接続させる。これにより、電気二重層コンデンサCに蓄積された電荷を接地回路8を介して放出させることができる。
【0023】
保護部4は、発生器20と供試体9との間に接続され、発生器20に設けられる半導体スイッチ3(詳細は後述する)に所定以上の電流が流れる場合に、発生器20と供試体9との接続を切断する。具体的には、保護部4は、アレスタ(第1アレスタ)41a、ヒューズ42、およびインダクタンス43を備えている。また、保護部4は、保護部4を介して出力される電流を、供試体9に供給するための接続点H,Lを備えている。保護部4は、断路器7を介して発生器21と着脱可能とされており、例えば、保護部4の各部(例えば、アレスタ41a)に破損等が生じた場合であっても、保護部4の一部または全体を簡便に交換できるようになっている。
【0024】
保護部4において、断路器7と接続点Hとの間には、インダクタンス43と、ヒューズ42とが直列に接続されている。また、インダクタンス43の上流側において、接続点H側と接続点L側との線間、接続点H側と接地との間、および接続点L側と接地との間にMOV(metal−oxide varistors:金属酸化物バリスタ)を設け、アレスタ41aを構成している。
【0025】
インダクタンス43は、例えば、3.5mHのコイルを用いる。
ヒューズ42は、半導体スイッチ3が所定量の電流を流せる最大時間よりも短い時間で発生器20側と切断する。また、ヒューズ42は、予備試験を実施することで種類および本数等を決定する。例えば、ヒューズ42は、45ミリ秒間の試験では1並列、500ミリ秒間の試験では同じヒューズ42を2並列接続する。
【0026】
次に、本実施形態に係る電流発生装置1の動作について図1及び図2を用いて説明する。ここでは、供試体9を航空機とし、供試体9側には他の試験装置が接続され、他の試験装置とともに同時に試験が行われる場合を想定して説明する。また、他の試験装置とは、SAE ARP(AEROSPACE RECOMMENDED PRACTICE)5412−REV.A「Aircraft Lightning Environment and Related Test Waveforms(航空機試験における標準雷撃波形を定める規定)」に示されている標準雷撃波形を生成する装置であり、Comp.A,CompB等の波形を形成する装置であることとして説明する。
【0027】
制御部によって第1電磁接触器Bがオン状態にされ、第2電磁接触器Aがオフ状態にされることにより、4組の電気二重層コンデンサCが電源装置2と並列に接続され、充電される。所定量の電荷が電気二重層コンデンサCに蓄積されると、制御部によって第1電磁接触器Bがオフ状態にされ、第2電磁接触器Aがオン状態にされる。これにより、充放電部21が電源装置2から切断され、直列に接続された4組の電気二重層コンデンサCが半導体スイッチ3と接続される。また、保護部4は、接続点H,Lを介して供試体9と接続されており、制御部によって断路器7がオン状態にされることにより、発生器20と保護部4とが接続される。さらに、半導体スイッチ3がオン状態にされると、充放電部21から放電された電流(例えば、400〜500〔A〕)が半導体スイッチ3に流れる。これにより、電流発生装置1において生成された電流(ARP 5412−Aに規定されているCompC/Cの波形電流)が、供試体9側に供給される。
【0028】
供試体9側において、Comp.AおよびComp.B等の電流を供給する他の試験装置が接続されて同時に供試体試験を実施しており、他の試験装置から供試体9に供給されたComp.AまたはComp.B等の大電流が、保護部4の接続点H,Lを介して電流発生装置1に逆流し、所定時間(半導体スイッチ3が所定量の電流を流せる最大時間より短い時間)経過した場合には、ヒューズ42およびアレスタ41aが作動することにより、保護部4は、半導体スイッチ3を有する発生器20側と電気的に切断される。このように、半導体スイッチ3に、他の試験装置から流入された大電流が流れることを防止することができ、特に雷試験のような高電圧、大電流が流通する試験であっても、電流発生装置1を安全に運用することができる。
【0029】
以上説明してきたように、本実施形態に係る電流発生装置1によれば、電気二重層コンデンサCは、電源装置2から供給される電力を蓄積し、半導体スイッチ3が切り替えられることにより蓄積された電力が供試体9に供給される。また、半導体スイッチ3と供試体9との間に設けられた保護部4によって、半導体スイッチ3に所定値以上の電流が流れる場合に、半導体スイッチ3と供試体9との接続が切断される。このように、電気二重層コンデンサCを用いるので、二次電池を用いる場合と比較して、充放電をさせる装置としての劣化速度を低減させることができる。これにより、二次電池を用いる場合と比較して、作業者による充放電の装置の交換作業が低減するので、電流発生装置1のメンテナンス性が向上する。
【0030】
また、電気二重層コンデンサCに蓄積された電力の供試体9への供給可否の切り替えは、半導体スイッチ3によって行われるので、例えば、1ミリ秒単位での比較的短時間での印加時間を設定する、或いは、長い印加時間を設定する等の印加時間の調整(および微調整)ができる。さらに、半導体スイッチ3に所定値以上の電流が流れる場合に、供試体9との接続が切断されるので、例えば、雷発生状況を疑似するような供試体9側に複数の異なる回路を接続し、大電圧かつ大電流によって試験を行う場合であり、供試体9側から大きな電流が逆流してきた場合であっても、保護部4により切り離され、半導体スイッチ3を保護することができる。
【0031】
なお、本実施形態において、保護部4は、第1アレスタ41aとヒューズ42とを備えることとして説明していたが、これに限定されない。例えば、第1アレスタ41aとヒューズ42とのうち、どちらか一方を設けることとしてもよい。
また、上記構成に加えて、半導体スイッチ3と供試体9との間に、アレスタ(第2アレスタ)41bを設けることとしてもよい。これにより、例えば、雷サージ等の所定値以上の電圧がかかっているにも関わらず、保護部4が発生器20と切断させる動作が正常に行われなかった場合であっても、供試体9側と半導体スイッチ3とを確実に切り離すことができ、電流発生装置1をより安全に運用できる。
【符号の説明】
【0032】
1 電流発生装置
2 電源装置
3 半導体スイッチ
4 保護部
41a,41b 第1,第2アレスタ
42 ヒューズ
C1〜C4 電気二重層コンデンサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源装置から供給される電力を用いて、耐雷試験を行う供試体に対して、雷が発生した場合に流れる電流を疑似した電流を供給する電流発生装置であって、
電源装置から供給される電力を蓄積し、放出する電気二重層コンデンサと、
前記供試体に対し、前記電気二重層コンデンサに蓄積された電力の供給可否を切り替える半導体スイッチと、
前記半導体スイッチと前記供試体との間に接続され、該半導体スイッチに所定値以上の電流が流れる場合に、前記半導体スイッチと前記供試体との接続を切断する保護手段と
を具備する電流発生装置。
【請求項2】
前記保護手段は、第1アレスタおよびヒューズのうち、少なくともどちらか1つを備える請求項1に記載の電流発生装置。
【請求項3】
前記回路手段と前記半導体スイッチとの間に、第2アレスタを具備する請求項1または請求項2に記載の電流発生装置。
【請求項4】
前記供試体が、航空機の構造部材である請求項1から請求項3のいずれかに記載の電流発生装置を備える航空機用試験装置。
【請求項5】
前記供試体が、風力発電装置の構造部材である請求項1から請求項3のいずれかに記載の電流発生装置を備える風力発電装置用試験装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−244639(P2011−244639A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116197(P2010−116197)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000123354)音羽電機工業株式会社 (61)
【Fターム(参考)】