説明

電源システム状態判定装置

【課題】従来よりも退避走行可能な領域を広げ、運転者の負担軽減につなげる。
【解決手段】電源システム状態判定装置10は、一次側電圧と二次側電圧との電圧変換を行い、一次側に電源が接続された電圧変換器18に接続可能であって、電圧変換器18の一次側電圧に応じて変動する第1測定電圧及び第2測定電圧を測定する第1の電圧センサS1及び第2の電圧センサS2と、電圧変換器18の二次側電圧に応じて変動する第3測定電圧を測定する第3の電圧センサS3と、第1測定電圧、第2測定電圧及び第3測定電圧と、電圧変換器18における一次側電圧と二次側電圧との電圧変換比を取得可能な制御部12と、を備える。制御部12は、第1測定電圧が異常であることを示す第1閾値を超過すると共に、第2測定電圧が異常であることを示す第2閾値を超過した場合、第1測定電圧と第3測定電圧の比と電圧変換比との差が異常であることを示す第3閾値を超過したか否かを判定し、超過している場合に第1の電圧センサS1が異常であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電源システム状態判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、負荷に電力を供給する電源システムが正常状態であるか異常状態であるかを判定する電源システム状態判定装置が知られている。このような状態判定装置において、電源システムの異常を判定する指標として電源電圧値を利用する技術が知られている。
【0003】
通常、電源の過放電を防止するために放電電圧値には下限値が設定されている。また、電源が二次電池等の充放電可能な電源であるときには電源の過充電を防止するために充電電圧値に上限値が設定されている。電源システムが正常に作動していれば、電源電圧がこれらの制限値を超過した場合に速やかに制限値内に復帰するように電源システムの各機器が制御される。このことから、電源電圧が制限値を大幅に超過して復帰しない場合は電源システムのいずれかの機器に異常があったものと推定できる。そこで従来から電源に電圧センサを接続するとともに、上限値よりも高い値及び下限値よりも低い値に閾値を設定し、電源電圧が閾値を超過したことに基づいて電源システムが異常であるか否かを判定している。
【0004】
ここで、電源電圧は電圧センサによって把握することができるものの、その電圧センサが故障すると実際の電圧値とは異なる測定値を出力するおそれがあり、そうなると電源システムの異常を正確に判定することが困難となる。そこで、例えば特許文献1においては電源システムの異常判定フローの中に電圧センサの異常判定フローを組み込み、電圧センサが正常であるかまたは故障等の異常状態であるかを判定することによって電圧センサによる測定値の真偽を判定している。
【0005】
特許文献1では、電源システムに回転電機が接続されており、電源システム及び回転電機は当該回転電機を駆動源とする車両に搭載されている。図5に示すように、電源システム状態判定装置100は、電源110に接続された第1の電圧センサS100と、電源110に対して第1の電圧センサS100と並列に接続された第2の電圧センサS200を備えている。このような構成において、第1の電圧センサS100と第2の電圧センサS200の測定電圧値がともに予め定めた電圧閾値を超過している場合は、電圧センサS100は正常であると判定される。一方、両者の測定結果に食い違いがある場合、つまり第1の電圧センサS100の測定電圧値が電圧閾値を超過している一方で第2の電圧センサS200の測定電圧値は電圧閾値を超過していない場合は、第1の電圧センサS100が異常状態(故障状態)であると判定される。
【0006】
電源システム状態判定装置100の制御部116は、前者(2つの電圧センサの測定電圧値がともに電圧閾値を超過する)の場合には第1の電圧センサS100は正常であると判定する。この場合は電源システム内の機器、たとえばメインDC/DCコンバータ112やインバータ114などの異常が疑われることから、制御部116は、車両を直ちに停止させるとともに電力供給をストップさせる。
【0007】
一方、後者(2つの電圧センサの測定電圧値に食い違いがある場合)においては電圧閾値を超過したという情報そのものが誤情報であって電源システムに異常がある訳ではないと考えられることから、制御部116は、車両をその場で停止させる代わりに、第1の電圧センサS100の修理を促す警告を運転者に通知するとともに、車両の運転状態を回転電機の出力を大幅に落としたいわゆる退避走行状態に設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−227078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、従来技術においては第1の電圧センサと第2の電圧センサの測定電圧値がともに閾値を超過しているときには、第1の電圧センサ及び第2の電圧センサがともに正常であると判定しているが、実際にはそれ以外のケースも考えられる。例えば第1の電圧センサ及び第2の電圧センサがともに故障しているケースが考えられる。第1の電圧センサ及び第2の電圧センサがともに正常であれば電源システム内の機器の異常が疑われることから車両を停止させて電力供給を遮断する必要があるものの、第1の電圧センサ及び第2の電圧センサがともに故障しているのであれば電圧閾値を超過したとの情報が誤情報であって電源システムに異常がある訳ではないと考えられることから退避走行に設定すれば足りる場合がある。すなわち、従来の電源状態装置においては、本来退避走行とすればよいケースについても車両を停止させていた。車両停止となった場合には停止車両を待避位置まで移動させる必要があり、退避走行と比べて運転者に掛かる負担が大きくなる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は電源システム状態判定装置に関する。当該装置は、一次側電圧と二次側電圧との電圧変換を行い、一次側に電源が接続された電圧変換器に接続可能であって、前記電圧変換器の一次側電圧に応じて変動する第1測定電圧及び第2測定電圧を測定する第1及び第2の電圧センサと、前記電圧変換器の二次側電圧に応じて変動する第3測定電圧を測定する第3の電圧センサと、前記第1測定電圧、第2測定電圧及び第3測定電圧と、前記電圧変換器における一次側電圧と二次側電圧との電圧変換比を取得可能な制御部と、を備えている。さらに前記制御部は、前記第1測定電圧が異常であることを示す第1閾値を超過すると共に、前記第2測定電圧が異常であることを示す第2閾値を超過した場合、前記第1測定電圧と前記第3測定電圧の比と前記電圧変換比との差が異常であることを示す第3閾値を超過したか否かを判定し、超過している場合に前記第1の電圧センサが異常であると判定する。
【0011】
また、上記発明において、前記第1の電圧センサが異常であると判定された場合に、前記制御部は前記一次側と二次側との間で供給される電力量について設定された上限値を引き下げることが好適である。
【0012】
また、上記発明において、前記第1の電圧センサが異常ではないと判定された場合に、前記制御部は前記一次側と二次側との電力供給を遮断することが好適である。
【0013】
また、本発明は電源システム状態判定装置に関する。当該装置は、一次側電圧と二次側電圧との電圧変換を行い、一次側に電源が接続された電圧変換器に接続可能であって、前記電圧変換器の一次側電圧に応じて変動する第1測定電圧を測定する一次側電圧センサと、前記電圧変換器の二次側電圧に応じて変動する第2測定電圧を測定する二次側電圧センサと、前記第1測定電圧及び第2測定電圧と、前記電圧変換器における一次側電圧と二次側電圧との電圧変換比を取得可能な制御部と、を備える。さらに前記制御部は、前記第1測定電圧が異常であることを示す第1閾値を超過した場合、前記第1測定電圧と前記第2測定電圧の比と前記電圧変換比との差が異常であることを示す第2閾値を超過したか否かを判定し、超過している場合に前記一次側電圧センサが異常であると判定する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来よりも退避走行可能な領域が広がり、運転者の負担軽減につながる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る電源状態判定装置を例示する図である。
【図2】電源システム異常判定フローを説明する図である。
【図3】第2の電圧センサS2の異常判定フローを説明する図である。
【図4】メインDC/DCコンバータの異常判定フローを説明する図である。
【図5】従来の電源状態判定装置を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、本実施形態に係る電源システム状態判定装置10を示す。電源システム状態判定装置10は、第1の電圧センサS1と、第2の電圧センサS2と、第3の電圧センサS3と、制御部12とを含んで構成されている。また、電源システム状態判定装置10は電源システム22に電気的に接続されている。電源システム22は、二次電池14と、回転電機16と、メインDC/DCコンバータ18と、インバータ19と、サブDC/DCコンバータ20を含んで構成されている。また、電源システム22及び電源システム状態判定装置10は回転電機16を駆動源とする車両に搭載され、例えばハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)等の車両に搭載される。
【0017】
二次電池14は電源システム22の電源として機能する。二次電池14は充放電可能な化学電池であればよく、例えばニッケル水素蓄電池やリチウムイオン蓄電池から構成される。また、回転電機16は二次電池14からの電力を受けて駆動する力行状態と、二次電池14に電力を供給する回生状態とに切り替え可能な電気機器であればよく、例えば三相の永久磁石モータから構成される。
【0018】
メインDC/DCコンバータ18は、二次電池14とインバータ19との間に接続されている。メインDC/DCコンバータ18は二次電池14から印加された電圧を昇圧するとともに回転電機16から印加された電圧を降圧する電圧変換器として機能する。メインDC/DCコンバータ18は電圧変換回路を含む電子機器であればよく、例えばIGBTやMOSFET等のスイッチング素子を有する昇降圧チョッパ回路または二象限チョッパ回路を含んで構成される。なお、以下ではメインDC/DCコンバータ18から二次電池14側を一次側と呼び、メインDC/DCコンバータ18からインバータ19側を二次側と呼ぶ。
【0019】
インバータ19はメインDC/DCコンバータ18と回転電機16との間に接続されている。インバータ19はメインDC/DCコンバータ18により昇圧された直流電力を交流電力に変換するとともに、回転電機16から供給された交流電力を直流電力に変換する交直変換器として機能する。インバータ19は交直変換回路を含む電子機器であればよく、例えばIGBTやMOSFET等のスイッチング素子を有する三相電圧型インバータから構成される。
【0020】
サブDC/DCコンバータ20は二次電池14に対してメインDC/DCコンバータ18と並列に接続されている。さらにサブDC/DCコンバータ20は車両のオーディオ機器等の補機類24や制御部12と接続しており、二次電池14の電圧を降圧して補機類24や制御部12に電力を供給する降圧コンバータとして機能する。サブDC/DCコンバータ20は降圧回路を含む電子機器であればよく、例えばIGBTやMOSFET等のスイッチング素子を有するフォワードコンバータ、プッシュプルコンバータ、ハーフブリッジコンバータ、フルブリッジコンバータ等の絶縁型の降圧コンバータから構成される。
【0021】
第1の電圧センサS1は一次側電圧の変動に応じて変動する電圧値を測定可能となっている。具体的には第1の電圧センサS1は二次電池14の正極側端子及び負極側端子に接続され、二次電池14の端子電圧を測定可能となっている。また、二次電池14の端子電圧を直接測定する代わりに、二次電池14と第1の電圧センサS1との間に抵抗を挟んで電圧降下させた上で二次電池14の分圧を測定してもよい。このようにすることで耐電圧の低い電圧センサを使用することができる。第1の電圧センサS1によって測定された測定電圧値VL1はメインDC/DCコンバータ18の昇圧率を設定する際や後述する電源システム22の異常判定に利用される。
【0022】
第2の電圧センサS2は第1の電圧センサS1と同様に、一次側電圧の変動に応じて変動する電圧値を測定可能となっている。具体的には第2の電圧センサS2は、二次電池14に対して第1の電圧センサS1と並列に接続されるとともにサブDC/DCコンバータ20に接続されている。第1の電圧センサS1と第2の電圧センサS2は、両者が正常時であるときに測定電圧値VL1及び測定電圧値VL2が等しくなるように接続されていてもよいし、それぞれの測定電圧値が異なるように、例えばそれぞれ抵抗値の異なる抵抗を介して二次電池14に接続されていてもよい。第2の電圧センサS2によって測定された測定電圧値VL2はサブDC/DCコンバータ20の降圧率を設定する際や電源システム22の異常判定に利用される。
【0023】
また、第3の電圧センサS3は二次側電圧の変動に応じて変動する電圧値を測定可能となっている。具体的には第3の電圧センサS3はメインDC/DCコンバータ18とインバータ19との間に接続されており、メインDC/DCコンバータ18によって昇圧された電圧や回生時に回転電機16から印加された電圧を測定する。また、耐電圧の低い電圧センサを使用できるように、メインDC/DCコンバータ18と第3の電圧センサS3との間に抵抗を挟んでもよい。第3の電圧センサS3によって測定された測定電圧値VHはメインDC/DCコンバータ18の降圧率を設定する際や電源システム22の異常判定に利用される。
【0024】
また、二次電池14とメインDC/DCコンバータ18との間には、フィルタコンデンサ26が接続されている。さらに、メインDC/DCコンバータ18とインバータ19との間には平滑コンデンサ28及び放電抵抗30が接続されている。
【0025】
制御部12は情報を演算するための演算処理部や情報を記憶するための記憶部を備えている。演算処理部は周辺機器から送られる情報を受け入れて演算処理し得るともに周辺機器に対して指令信号を送信し得る機器であればよく、例えばマイクロコンピュータを含んで構成される。このマイクロコンピュータは例えばハイブリッド車に搭載される電子制御ユニット(ECU)から構成することが可能である。また、記憶部は後述する電源システム22の異常判定プログラムや各電圧センサの電圧値、回転電機16の回転数等の情報を記憶可能な機器であればよく、例えばROMやRAM、EPROM、ハードディスク装置等の1つまたは複数の組み合わせから構成することができる。
【0026】
制御部12は、第1の電圧センサS1による測定電圧値VL1、第2の電圧センサS2による測定電圧値VL2、第3の電圧センサS3による測定電圧値VH、回転電機16に設置された回転センサ(図示せず)による回転数rpm等を受信可能となっている。また、制御部12は、メインDC/DCコンバータ18に対する制御信号SW1、サブDC/DCコンバータ20に対する制御信号SW2、インバータ19に対する制御信号SW3を送信可能となっている。
【0027】
制御部12からメインDC/DCコンバータ18に送られる制御信号SW1は二次電池14から印加される電圧を昇圧させる昇圧率または回転電機16から印加される電圧を降圧させる降圧率に基づいて設定される。昇圧率または降圧率はまとめてデューティとも呼ばれる。昇圧率をb、メインDC/DCコンバータ18のスイッチング素子のオン時間Tonをとし、オフ時間をToffとすると、これらの関係はb=Ton+Toff/Toff=T/Toffのように表すことができる。なお、Tはスイッチング周期の1周期分の時間を表しており、T=Ton+Toffである。また、降圧率をdとすると、降圧率とスイッチング素子のオン時間、オフ時間との関係はd=Ton/Ton+Toff=Ton/Tのように表すことができる。
【0028】
昇圧率bは回転電機16に印加すべき要求電圧値Vdmdと二次電池14の端子電圧値Vbatとの比Vdmd/Vbat=bから求められる。また、降圧率dは二次電池14に設定された目標電圧値VsetとメインDC/DCコンバータ18の二次側端子電圧値VDC2との比Vset/VDC2=dから求められる。
【0029】
制御部12は第1の電圧センサS1の測定電圧値VL1に基づいて二次電池14の端子電圧値Vbatを取得する。第1の電圧センサS1が二次電池14の端子に直接接続されている場合は測定電圧値VL1をそのまま二次電池14の端子電圧値Vbatとして取り扱う。一方、二次電池14と第1の電圧センサS1との間に抵抗が挟まれており、第1の電圧センサS1が二次電池14の端子電圧値Vbatの分圧を測定している場合は、測定電圧値VL1に抵抗による電圧降下分を加えて二次電池14の端子電圧値Vbatを算出する。さらに制御部12は図示しない車両のアクセルポジションセンサから取得したアクセル開度や回転センサから取得した回転電機16の回転数rpm等を基にして要求電圧値Vdmdを算出する。
【0030】
また、制御部12は第3の電圧センサS3からメインDC/DCコンバータ18の二次側端子電圧値VDC2を取得する。第3の電圧センサS3がメインDC/DCコンバータ18の二次側端子に直接接続されている場合は測定電圧値VHをそのままメインDC/DCコンバータ18の端子電圧値VDC2として取り扱う。一方、メインDC/DCコンバータ18と第3の電圧センサS3との間に抵抗が挟まれており、第3の電圧センサS3がメインDC/DCコンバータ18の二次側端子電圧値VDC2の分圧を測定している場合は、測定電圧値VHに抵抗による電圧降下分を加えて二次側端子電圧値VDC2を算出する。また、設定電圧値Vsetは制御部12の図示しない記憶部に記憶されており、降圧率dの算出の際に適宜記憶部から呼び出される。
【0031】
なお、制御部12からメインDC/DCコンバータ18に対して昇圧率bに基づく制御信号を送信するか、降圧率dに基づく制御信号を送信するか、つまりメインDC/DCコンバータ18を昇圧コンバータとして機能させるか、または降圧コンバータとして機能させるかといった機能の切換えは回転電機16の運転状態に応じて決定する。すなわち、回転電機16が力行状態であるときはメインDC/DCコンバータ18を昇圧コンバータとして機能させ、回転電機16が回生状態であるときはメインDC/DCコンバータ18を降圧コンバータとして機能させる。回転電機16の運転状態は上述した回転センサや電源システム22内に設けられた図示しない電流センサによって判定することができる。
【0032】
また、制御部12からサブDC/DCコンバータ20に送られる制御信号SW2は、第2の電圧センサS2による電圧値VL2から求めた二次電池14の端子電圧値Vbatと補機類24に対する定格電圧をもとに算出された降圧率dに基づいて設定される。また、インバータ19への制御信号SW3は、力行時においては回転電機16の要求回転速度をもとに設定されるとともに、回生時においては回転電機16の回転速度をもとに設定される。
【0033】
また、制御部12は二次電池14の放電時において二次電池14の端子電圧値Vbatが予め定めた下限値を超過しないか(割り込まないか)否かを判定する。下限値は二次電池14の過放電を防止するために設定されており、制御部12の記憶部に記憶されている。二次電池14の端子電圧値Vbatが下限値を超過した場合は端子電圧値Vbatを下限値以上に復帰させるため、回転電機16に送る電力を絞るように制御信号SW1を修正する放電制限制御を実行する。
【0034】
同様にして、二次電池14の充電時において、制御部12は第1の電圧センサS1から二次電池14の端子電圧値Vbatを取得し、端子電圧値Vbatが予め定めた上限値を超過しないか否かを判定する。上限値は二次電池14の過充電を防止するために設定されており、制御部12の記憶部に記憶されている。上限値を超過した場合は端子電圧値Vbatを上限値以下に復帰させるため、回転電機16からの回生電力を絞るように制御信号SW1を修正する充電制限制御を実行する。なお、第1の電圧センサS1が二次電池14の分圧を測定している場合には、二次電池14の端子電圧値Vbatに上限値や下限値を設定する代わりに第1の電圧センサS1の測定電圧値VL1に上限値及び下限値を設けるようにしてもよい。
【0035】
さらに、制御部12は二次電池14の端子電圧値Vbatまたは第1の電圧センサS1の測定電圧値VL1が予め定めた閾値VLrefを超過したか否かを判定し、この判定結果に基づいて電源システム22の異常判定を行う。閾値VLrefは上限値よりも高い値及び下限値よりも低い値にそれぞれ設定されるとともに、電源システム22の耐電圧を考慮した値、例えばインバータ19の耐電圧未満となるような値が設定される。この閾値VLrefは制御部12の記憶部に記憶される。
【0036】
電源システム22は二次電池14の端子電圧値Vbatまたは第1の電圧センサS1の測定電圧値VL1が上限値と下限値の間の値となるように電圧制御されていることから、端子電圧値Vbatまたは測定電圧値VL1が閾値VLrefを超過した場合は電源システム22の異常が疑われる。その一方で、端子電圧値Vbatまたは測定電圧値VL1が閾値VLrefを超過したとの情報が第1の電圧センサS1の異常(故障)に基づく誤情報である可能性もある。そこで制御部12は端子電圧値Vbatまたは測定電圧値VL1が閾値VLrefを超過したとの情報を第1の電圧センサS1から得た場合に、第1の電圧センサS1が正常状態であるか異常(故障)状態であるかを判定して第1の電圧センサS1による測定結果の真偽を判定するとともに、この判定結果に応じて車両の運転状態を通常の走行状態から退避走行または車両停止に切り替える。この判定フロー(以下、電源システム異常判定フローと呼ぶ)について以下に説明する。なお、以下の説明においては、第1の電圧センサS1及び第2の電圧センサS2は抵抗等を介さずに二次電池14の端子電圧を直接測定するもの(VL1=VL2=Vbat)とし、第3の電圧センサS3も抵抗等を介さずにメインDC/DCコンバータ18の端子電圧を直接測定するもの(VH=VDC2)とする。
【0037】
電源システム異常判定フローを図2に例示する。制御部12は、まず第1の電圧センサS1の電圧値VL1を取得する(S10)。さらに制御部12は、測定電圧値VL1が閾値VLrefを超過したか否かを判定する(S11)。
【0038】
測定電圧値VL1が閾値VLref以下である場合は二次電池14への印加電圧は正常範囲内にあるものと判定する。一方、測定電圧値VL1が閾値VLrefを超過した場合は、電源システム22の機器に異常が生じているおそれがあるため、異常状態と仮判定する(S12)。さらに制御部12は第1の電圧センサS1が故障等の異常状態であるか正常状態であるかを判定して測定電圧値VL1の真偽を確かめる種々の判定処理を実行する。
【0039】
まず制御部12は仮異常判定に伴い二次電池14の電力供給を一旦停止するためにインバータ19及びメインDC/DCコンバータ18を停止させる(S13)。さらに制御部12は第2の電圧センサS2の電圧値VL2を取得する(S14)。ここで、電圧値VL2の取得に当たっては制御部12や周辺機器の信号処理遅れを考慮した待機期間Tref1を設定するとともに、測定電圧値VL1と閾値VLrefとの比較を行ったステップS11から待機期間Tref1経過後に第2の電圧センサS2の電圧値VL2を取得する(S15)ことが好適である。
【0040】
さらに制御部12は測定電圧値VL2が閾値VLrefを超過したか否かを判定する(S16)。このとき、測定電圧値VL2が閾値VLref以下である場合、つまり第1の電圧センサS1の判定結果と第2の電圧センサS2の判定結果に食い違いがある場合、第1の電圧センサS1と第2の電圧センサS2の少なくとも一方が異常状態であると推定できる。そこで、制御部12は第1の電圧センサS1が異常であるか否かを判定する。
【0041】
制御部12は第3の電圧センサS3の測定電圧値VHに対する第1の電圧センサS1の測定電圧値VL1の比VL1/VHを算出する。この比を測定上の降圧率と呼ぶ。なお、ステップS13においてメインDC/DCコンバータ18及びインバータ19が停止されているので、ここでは停止前における第3の電圧センサS3の測定電圧値VHを用いる。
【0042】
次に制御部12はメインDC/DCコンバータ18の停止前にメインDC/DCコンバータ18に送信した制御信号SW1におけるデューティdを参照する。このデューティdを指令上の降圧率と呼ぶ。さらに制御部12は測定上の降圧率と指令上の降圧率との差異を求め、両者が一致するか否かを判定する(S17)。ここで、一致とは完全に一致する場合に限られず、両者が所定の誤差範囲内に収まる場合も含まれる。本実施形態においては、測定上の降圧率と指令上の降圧率との差が所定の一致判定用の閾値を超過したか否かを判定し、超過した場合は両者が不一致であると判定し、超過しない場合は一致したものと判定する。
【0043】
指令上の降圧率と測定上の降圧率とが一致しない場合、制御部12は第1の電圧センサS1が異常(故障状態)であると判定する(S18)。この場合、二次電池14の端子電圧値が閾値を超過したとの判定は第1の電圧センサS1の故障に由来する誤判定と考えることができるので、制御部12は第1の電圧センサS1の修理を促す警告を音声や車両のフロント部に設けられたディスプレイに表示することにより運転者に通知するとともに、メインDC/DCコンバータ18及びインバータ19を停止状態から復帰させて(S19)車両を待避運転モードに切換える(S20)。
【0044】
ここで待避運転とは、路肩走行し得る最低限の走行能力で車両を運転することを指しており、例えば退避運転モードに切換える前の通常運転モードと比較して二次電池14から回転電機16に供給される電力を制限する(絞る)運転モードを指している。例えば、退避運転モードにおいては二次電池14の出力電力の上限値を通常運転モードにおける上限値の30〜50%に制限する。
【0045】
退避運転モードに切換えられた後は、制御部12は二次電池14の出力が待避運転に要する出力を超過しないようにメインDC/DCコンバータ18及びインバータ19の動作を制御する。なお、待避運転時においてはメインDC/DCコンバータ18の降圧率dを求める際に、故障した第1の電圧センサS1の測定電圧値VL1に代わり、第2の電圧センサS2の測定電圧値VL2を用いることが好適である。
【0046】
一方、ステップS17において指令上の降圧率と測定上の降圧率とが一致した場合、制御部12は第1の電圧センサS1は正常であると判定する。この場合、ステップS11において第1の電圧センサS1の測定電圧値VL1が閾値VLrefを超過したことがわかっていることから、制御部12は二次電池14の端子電圧が閾値VLrefを超過している、つまり電源システム22の機器に異常が生じているとの判定を確定する(S21)。この場合、制御部12は一次側と二次側との電力供給を遮断する。例えばメインDC/DCコンバータ18やインバータ19に加えてサブDC/DCコンバータ20の動作も停止させるとともに(S22)、車両を停止させる(S23)。
【0047】
ステップS16に戻り、測定電圧値VL2が閾値VLrefを超過した場合、つまり見かけ上第1の電圧センサS1と第2の電圧センサS2との測定値が一致している場合は、更に第1の電圧センサS1の測定電圧値が正常であるか否かを更に確認するステップに進む。制御部12はステップS17と同様に、測定上の降圧率VL1/VHを算出するとともに指令上の降圧率dを取得する。さらに制御部12は測定上の降圧率と指令上の降圧率との差異を求め、両者が一致する(または所定の誤差範囲内である)か否かを判定する(S24)。
【0048】
指令上の降圧率と測定上の降圧率とが一致しない場合、制御部12は第1の電圧センサS1が異常(故障状態)であると判定する(S25)。この場合、二次電池14の端子電圧値が閾値を超過したとの判定は第1の電圧センサS1の故障に由来する誤判定と考えることができるので、制御部12は第1の電圧センサS1の修理を促す警告を音声や車両のフロント部に設けられたディスプレイに表示することにより運転者に通知するとともに、メインDC/DCコンバータ18及びインバータ19を停止状態から復帰させて(S26)車両を待避運転モードに切換える(S27)。
【0049】
一方、指令上の降圧率と測定上の降圧率とが一致した場合、制御部12は第1の電圧センサS1は正常であると判定する。この場合、ステップS11において第1の電圧センサS1の測定電圧値VL1が閾値VLrefを超過したであることがわかっていることから、制御部12は二次電池14の端子電圧が閾値VLrefを超過している、つまり電源システム22の機器に異常が生じているとの判定を確定する(S28)。この場合、制御部12は一次側と二次側との電力供給を遮断する。例えばメインDC/DCコンバータ18やインバータ19に加えてサブDC/DCコンバータ20の動作も停止させるとともに(S29)、車両を停止させる(S30)。
【0050】
なお、上述のステップS17、24において指令上の降圧率と測定上の降圧率とが一致しない原因としては、第1の電圧センサS1が異常である他にも、第3の電圧センサS3が異常である場合と、メインDC/DCコンバータ18のスイッチング素子が異常である場合も考えることができる。そこで、ステップS16とステップS17との間、及び、ステップS16とステップS24との間に、第3の電圧センサS3の異常を判定するフローとメインDC/DCコンバータ18のスイッチング素子の異常を判定するフローを追加してもよい。
【0051】
第3の電圧センサS3の異常判定フローについて図3を用いて説明する。ステップS12において仮異常判定がなされた後にステップS13においてメインDC/DCコンバータ18及びインバータ19が停止される。このとき、平滑コンデンサ28に溜まっていた電荷が放電抵抗30に流れる。第3の電圧センサS3の測定電圧値VHは放電抵抗30の抵抗値と平滑コンデンサ28の容量とで決まる時定数に従って次第に低下する。制御部12はこの時定数に応じて設定された待機期間Tref2が経過した後(S31)に第3の電圧センサS3の測定電圧値VHを取得するとともに、測定電圧値VHが予め定めた閾値VHrefを下回っている(VH<VHref)か否かを判定する(S32)。下回っている場合は第3の電圧センサS3は正常であると判定される(S33)。この場合は続けてメインDC/DCコンバータ18のスイッチング素子の異常を判定するフローS35〜S37に移る。
【0052】
一方、測定電圧値VHが予め定めた閾値VHref以上である場合、例えば測定電圧値VHがメインDC/DCコンバータ18停止直後の電圧値のまま維持して(貼り付いて)下がらない場合などには、第3の電圧センサS3が異常であると判定する(S34)。この場合においてはステップS17、24において測定上の降圧率と指令上の降圧率が不一致である場合に、その原因が第1の電圧センサS1にあるのか第3の電圧センサS3にあるのか判別できない。したがってこの場合にはステップS17またはS24を行うことなく電源システム22の異常判定を確定させるステップS21(S16がNoのとき)またはS28(S16がYesのとき)に進む。
【0053】
また、ステップS33において第3の電圧センサS3が正常であると判定された場合、制御部12は図4に示すようなメインDC/DCコンバータ18のスイッチング素子の異常判定するフローを実行する。制御部12はメインDC/DCコンバータ18のスイッチング素子のゲート電圧波形を取得してスイッチング周期Tに対するスイッチング素子のオン時間Tonの比を求める。この比をスイッチング素子による降圧率と呼ぶ。さらにスイッチング素子による降圧率が制御信号の指令上の降圧率dと一致するか否か、または所定の誤差範囲内に収まっているか否かを判定する(S35)。スイッチング素子による降圧率と指令上の降圧率とが一致、または誤差範囲内に収まっている場合、制御部12はスイッチング素子は正常であると判定する(S36)。一方、スイッチング素子による降圧率と指令上の降圧率とが一致していない、または誤差範囲外に逸脱している場合、制御部12はメインDC/DCコンバータ18は異常であると判定する(S37)。
【0054】
メインDC/DCコンバータ18が正常であると判定されたときには指令上の降圧率と測定上の降圧率とを比較するステップS17(S16がNoのとき)またはS24(S16がYesのとき)に進む。一方、メインDC/DCコンバータ18が異常であると判定されたときには電源システム22の異常判定を確定させるステップS21(S16がNoのとき)またはS28(S16がYesのとき)に進み、車両を停止させる。
【0055】
なお、以上説明した電源システム異常判定フローにおいては、第1の電圧センサS1の測定電圧値VL1と第2の電圧センサS2の測定電圧値VL2とが等しく、さらにそれぞれの閾値を同一値としていたが、この形態に限られない。例えば第1の電圧センサS1及び第2の電圧センサS2がそれぞれ抵抗値の異なる抵抗を挟んで二次電池14の分圧を測定している場合など、測定電圧値VL1と測定電圧値VL2とが異なる値を測定する場合、それぞれの測定電圧値VL1及びVL2に対して異なる閾値(第1の閾値及び第2の閾値)を設定してもよい。
【0056】
また、上記電源システム異常判定フローにおいては、第1の電圧センサS1と第2の電圧センサS2の測定電圧値がともに閾値VLrefを超過したことを判定した後に指令上の降圧率と測定上の降圧率とを比較していたが、この実施形態に限られない。すなわち、第1の電圧センサS1の測定電圧値が閾値VLrefを越えてメインDC/DCコンバータ18及びインバータ19を停止させた後(S13)、S14からS16までのステップを省略してそのまま指令上の降圧率と測定上の降圧率とを比較するステップS17に進んでもよい。このようにすることで異常判定フローの一部を省略して電源システム異常判定フローを簡素化できる等の利点がある。
【0057】
また、上述した実施形態においては指令上の降圧率と測定上の降圧率とを比較することで電源システム22の異常判定を行っていたが、この形態に限られない。例えば昇圧率をもとに電源システム22の異常判定を行ってもよい。この場合、図2のステップS11において第1の電圧センサS1の測定電圧値VL1が放電時における電圧閾値VLrefを下方に超過する(VL1<VLref)か否かを判定する。またステップS16においては第2の電圧センサS2の測定電圧値VL2が電圧閾値VLrefを下方に超過する(VL1<VLref)か否かを判定する。さらにステップS17及びS24では制御部12の制御信号SW1に応じた昇圧率bを指令上の昇圧率とするとともに第3の電圧センサVHに対する第1の電圧センサVL1の比VH/VL1を測定上の昇圧率として両者の差異を比較する。こうすることで二次電池14の端子電圧値が電圧閾値を超過する(下回る)、つまり電源システム22に異常が生じているか否かを判定することが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
10 電源システム状態判定装置、12 制御部、14 二次電池、16 回転電機、18 メインDC/DCコンバータ、19 インバータ、20 サブDC/DCコンバータ、22 電源システム、24 補機類、26 フィルタコンデンサ、28 平滑コンデンサ、30 放電抵抗、S1 第1の電圧センサ、S2 第2の電圧センサ、S3 第3の電圧センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次側電圧と二次側電圧との電圧変換を行い、一次側に電源が接続された電圧変換器に接続可能な電源システム状態判定装置であって、
前記電圧変換器の一次側電圧に応じて変動する第1測定電圧及び第2測定電圧を測定する第1及び第2の電圧センサと、
前記電圧変換器の二次側電圧に応じて変動する第3測定電圧を測定する第3の電圧センサと、
前記第1測定電圧、第2測定電圧及び第3測定電圧と、前記電圧変換器における一次側電圧と二次側電圧との電圧変換比を取得可能な制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記第1測定電圧が異常であることを示す第1閾値を超過すると共に、前記第2測定電圧が異常であることを示す第2閾値を超過した場合、前記第1測定電圧と前記第3測定電圧の比と前記電圧変換比との差が異常であることを示す第3閾値を超過したか否かを判定し、超過している場合に前記第1の電圧センサが異常であると判定することを特徴とする、電源システム状態判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電源システム状態判定装置であって、
前記第1の電圧センサが異常であると判定された場合に、前記制御部は前記一次側と二次側との間で供給される電力量について設定された上限値を引き下げることを特徴とする電源システム状態判定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電源システム状態判定装置であって、
前記第1の電圧センサが異常ではないと判定された場合に、前記制御部は前記一次側と二次側との電力供給を遮断することを特徴とする電源システム状態判定装置。
【請求項4】
一次側電圧と二次側電圧との電圧変換を行い、一次側に電源が接続された電圧変換器に接続可能な電源システム状態判定装置であって、
前記電圧変換器の一次側電圧に応じて変動する第1測定電圧を測定する一次側電圧センサと、
前記電圧変換器の二次側電圧に応じて変動する第2測定電圧を測定する二次側電圧センサと、
前記第1測定電圧及び第2測定電圧と、前記電圧変換器における一次側電圧と二次側電圧との電圧変換比を取得可能な制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記第1測定電圧が異常であることを示す第1閾値を超過した場合、前記第1測定電圧と前記第2測定電圧の比と前記電圧変換比との差が異常であることを示す第2閾値を超過したか否かを判定し、超過している場合に前記一次側電圧センサが異常であると判定することを特徴とする、電源システム状態判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−249440(P2012−249440A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119587(P2011−119587)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】