説明

電源装置,電子機器,および画像形成装置

【課題】 低コストの蓄電手段(キャパシタ等)を利用し、電源ラインの最大供給可能電力を越えない範囲で複数の機能を効率的に実現できるようにする。
【解決手段】 電源装置の第1,第2の補助電源手段を構成する制御部20,キャパシタコンバータ45a,45b等が、蓄電手段であるキャパシタ44を電力源とし、それぞれ設定されている下限値が異なる動作可能蓄電電圧範囲に基づいて、キャパシタ44の蓄電電圧の蓄電エネルギーからそれぞれ異なる所定電圧+24V,+5Vの電源を生成して+24V系負荷47d,+5V系負荷47bに供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電源装置、およびそれを備えたデジタル複写機やデジタル複合機,ファクシミリ装置等の画像形成装置を含む電子機器に関し、特に省エネルギー(以下「省エネ」という)技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真プロセスを利用した複写機、プリンタ、ファクシミリ、およびこれらの機能を組み合わせた複合機は多機能化しており、これに伴って構造も複雑化して最大消費電力が増大する傾向となっている。また、電子写真プロセスでは、転写プロセスによって用紙上に転写されたトナー画像を定着プロセスによって定着するが、その定着のための定着装置の立ち上がりまでの待ち時間、およびプリント(画像形成)動作やコピー動作中における定着温度低下による動作の一時中断など、画像形成装置自体の要因や操作者の待ち時間を少なくするため、定着ヒータへの供給電力を増大する傾向となっている。
【0003】
これに対して、通常の電源ラインから供給可能な電力には制限があるので、これが機器を設計する上での大きな制約となっている。
そこで、電源ラインの最大供給可能電力を越えないようにするため、例えば特許文献1に見られるように、キャパシタ(蓄電装置)を使用するシステムが提案されている。また、特許文献2には、画像形成動作中の各部に損傷を与えたりしないようにするため、給電が停電等により遮断されたときには、補助電源装置から作像部に給電を行うように制御して、作像途中のジョブがあっても、そのジョブの作像動作を継続させる構成について開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような、蓄電電力の低下に応じて電圧が低下するキャパシタを使用するシステムでは、一定の電力をシステムに供給しようとした場合、電流が大きくなり、回路負荷が大きくなってしまうため、これを抑えるために所定電圧以下での使用を避けている。そのため、停電対応といった他の機能で蓄電電力を併用活用しようとした場合に、追加した機能動作を満足できるだけのキャパシタ容量を追加する必要があり、コストが大幅に増加するという問題があった。
また、特許文献2に記載のものでも、機能の追加による補助電源装置の容量の追加が必要となり、やはりコストが増加するという問題がある。
【0005】
この発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、低コストの蓄電手段(キャパシタ等)を利用し、電源ラインの最大供給可能電力を越えない範囲で複数の機能を効率的に実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記の目的を達成するため、以下の電源装置、電子機器、および画像形成装置を提供する。
この発明による電源装置は、電源を供給する電源装置であって、蓄電する蓄電手段と、その蓄電手段を電力源とし、それぞれ設定されている下限値が異なる動作可能蓄電電圧範囲に基づいて、上記蓄電手段の蓄電電圧の蓄電エネルギーからそれぞれ異なる所定電圧の電源を生成して供給する複数の補助電源手段とを設けたものである。
上記複数の補助電源手段を、第1の補助電源手段と第2の補助電源手段とによって構成するとよい。
【0007】
上記第1の補助電源手段に対して設定されている第1の動作可能蓄電電圧範囲(例えば起動時間短縮対応機能を実現する定着装置内の補助発熱体の動作可能蓄電電圧範囲)の下限値未満に、上記第2の補助電源手段に対して第2の動作可能蓄電電圧範囲(例えば停電対応機能を実現する演算制御手段の動作可能蓄電電圧範囲)の下限値が設定されているのが望ましい。
上記第1の動作可能蓄電電圧範囲の下限値は上記第1の補助電源手段に流れる電流により、上記第2の動作可能蓄電電圧範囲の下限値は上記第2の補助電源手段に流れる電流によりそれぞれ設定されているとよい。
【0008】
この発明による電子機器は、上記いずれかの電源装置と、その電源装置内の上記第1の補助電源手段からの電源供給によって駆動する第1の負荷手段と、上記第2の補助電源手段からの電源供給によって駆動する第2の負荷手段とを備えたものである。
また、上記電源装置内の上記第1の補助電源手段からの電源供給によって駆動する第1の負荷手段と、上記第2の補助電源手段からの電源供給によって駆動する第2の負荷手段とを備え、上記第1の動作可能蓄電電圧範囲の下限値と上記第2の動作可能蓄電電圧範囲の下限値との間に、停電に対応できる停電対応機能を実現する上記第2の負荷手段の動作が可能となる蓄電電圧が上記第2の補助電源手段に対して設定されている電子機器であってもよい。
【0009】
あるいは、上記電源装置内の上記第1の補助電源手段からの電源供給によって駆動する第1の負荷手段と、上記第2の補助電源手段からの電源供給によって駆動する第2の負荷手段とを備え、上記第1の動作可能蓄電電圧範囲以内に、停電に対応できる停電対応機能を実現する上記第2の負荷手段の動作が可能となる蓄電電圧が上記第2の補助電源手段に対して設定されている電子機器であってもよい。
これらの電子機器において、上記第2の負荷手段には、停電を検出する停電検出手段と、その停電検出手段によって停電が検出された場合に、上記停電対応機能を実現する上記第2の負荷手段の動作であるシャットダウン処理を行う演算制御手段とが含まれているとよい。
【0010】
上記電子機器において、上記演算制御手段が、上記蓄電手段の蓄電電圧が上記シャットダウン処理が可能となる蓄電電圧に満たない場合には、自身の制御に制限を与えるのが望ましい。
上記電子機器において、上記第1の動作可能蓄電電圧範囲の上限値が、起動時間短縮に対応できる起動時間短縮対応機能を実現する上記第1の負荷手段の動作が可能となる蓄電電圧が上記第1の補助電源手段に対して設定されているとよい。
上記電子機器が、画像形成装置であり、上記第1の負荷手段には、シート上に転写されたトナー画像を定着するための定着装置内の補助発熱体が含まれており、上記第1の補助電源手段が、当該画像形成装置の立ち上げ動作の際に上記補助発熱体に電源を供給するものであってもよい。
【0011】
その画像形成装置において、上記蓄電手段を充電する充電手段を備え、上記演算制御手段が、上記蓄電手段の蓄電電圧が、上記立ち上げ動作時に上記シャットダウン処理が可能となる蓄電電圧に満たなくなった場合、あるいは上記立ち上げ動作が終了した後の通常動作モード時又は待機モード時に上記停電検出手段によって停電が検出された後、その停電検出手段によって停電が検出されなくなった場合に、上記シャットダウン処理が可能となる蓄電電圧に達するまで上記充電手段に充電を行わせ、上記待機モードからオフモードに移行した場合には、上記第1の動作可能蓄電電圧範囲の上限値に達するまで上記充電手段に充電を行わせることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、電源装置の複数の補助電源手段が、蓄電手段を電力源とし、それぞれ設定されている下限値が異なる動作可能蓄電電圧範囲に基づいて、蓄電手段の蓄電電圧の蓄電エネルギーからそれぞれ異なる所定電圧の電源を生成して供給することにより、この電源装置を搭載する電子機器では、低電圧で動作可能な負荷手段(停電対応機能を実現する演算制御手段等)やその動作電圧よりも高い電圧で動作可能な負荷手段(起動時間短縮対応機能を実現する定着装置内の補助発熱体等)のような、それぞれ異なる電圧で動作可能な複数の負荷手段を、容量の少ない蓄電手段(キャパシタ等)を利用し、電源ラインの最大供給可能電力を越えない範囲で効率的に動作させることができる。つまり、低コストの蓄電手段を利用し、電源ラインの最大供給可能電力を越えない範囲で複数の機能を効率的に実現させることができる。また、蓄電手段の利用率を高めることができる。
上記の電源装置を備えた電子機器および画像形成装置によれば、低コストで複数の機能を効率的に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明による電源装置を搭載した電子機器の一実施形態である画像形成装置の主要部および電源装置からの電源供給先の構成例を示すブロック図である。
【図2】図1のキャパシタ44の電圧遷移と動作モードとの関係の第1例を示すタイミング図である。
【図3】同じくキャパシタ44の電圧遷移と動作モードとの関係の第2例を示すタイミング図である。
【図4】図1に示した画像形成装置における充電処理の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明を実施するための形態を図面に基づいて具体的に説明する。
以下の実施形態は、起動時間短縮対応機能を実現する第1の負荷手段(定着装置内の補助発熱体)にキャパシタ等の蓄電手段から給電し(電力を供給し)、システムの起動時間短縮を図ったシステムにおいて、以下の特徴を有する。
すなわち、第1の負荷手段に給電する第1の補助電源手段(キャパシタコンバータ)の動作可能蓄電電圧の下限値と、停電対応機能を実現する第2の負荷手段(CPU等)に給電する第2の補助電源手段(キャパシタコンバータ)の動作可能蓄電電圧の下限値とを個別に設定し、第2の補助電源手段の動作可能蓄電電圧の下限値を、第1の補助電源手段の動作可能蓄電電圧の下限値より低い電圧に設定することが特徴になっている。
【0015】
まず、この発明による電源装置を搭載した電子機器の一実施形態である画像形成装置の主要部の構成およびその基本動作について説明する。
図1は、その主要部および電源装置からの電源供給先(負荷)の構成例を示すブロック図である。
この画像形成装置(以下単に「装置」ともいう)において、AC(交流)ライン41から主電源スイッチ(以下「スイッチ」を「SW」という)40を介して供給されるAC電源を主電源42に含まれるAC/DCコンバータ42aによりDC(直流)電源に変換し、一部は直接+5V、+24V系の各負荷47a,47cの電源として供給する。また、AC電源は充電手段であるキャパシタ充電器43にも入力され、キャパシタ44の充電に使用することが可能となっている。
【0016】
蓄電手段(補助電源)としてのキャパシタ44は、電気二重層コンデンサ等の大容量のキャパシタによって構成する。なお、電気二重層コンデンサ以外にもいろいろと選択可能であるが、この実施形態では、短時間での充放電が可能で、且つ長寿命である電気二重層コンデンサを用いている。
キャパシタ44は、電気二重層コンデンサの特徴として放電するに従い、端子電圧が低くなってしまうため、キャパシタコンバータ45a,45bをキャパシタ44の後に配置することにより、出力電圧が一定になるようにしている。
【0017】
キャパシタコンバータ45a,45bは、キャパシタ44の充電電圧(蓄電電圧)および使用下限電圧の仕様に応じて、昇圧コンバータ、降圧コンバータ、昇降圧コンバータのいずれかを使用する。この各キャパシタコンバータ45a,45bは、いずれもキャパシタ44を電力源とし、それぞれ設定されている下限値が異なる動作可能蓄電電圧範囲に基づいて、キャパシタ44の蓄電電圧の蓄電エネルギーからそれぞれ異なる所定電圧の電源(電力)を生成して供給する第1,第2の補助電源手段としての機能を、後述する制御部20および切換回路46a,46bと共に果す。
【0018】
切換回路46aは、ACライン41から供給されるAC電源を元にAC/DCコンバータ42aにより作られた+24V電源(駆動部用電源)と、キャパシタ44に蓄電(蓄積)されたエネルギーからキャパシタコンバータ45aを通して作られた+24V電源とを、制御部20による制御に従って切り換えて第1の負荷手段に相当する+24V系負荷47dに供給する働きをする。
切換回路46bは、ACライン41から供給されるAC電源を元にAC/DCコンバータ42aにより作られた+5V電源(制御部用電源)と、キャパシタ44に蓄積されたエネルギーからキャパシタコンバータ45bを通して作られた+5V電源とを、制御部20による制御に従って切り換えて第2の負荷手段に相当する+5V系負荷47bに供給する働きをする。
【0019】
ここで、+24V系負荷47dには、起動時間短縮に対応できる起動時間短縮対応機能を実現する負荷手段として、用紙等のシート上に転写されたトナー画像を定着するための定着手段である定着加熱装置(以下「定着装置」という)48内の後述する補助ヒータが含まれている。+5V系負荷47bには、停電に対応できる停電対応機能を実現する負荷手段として、演算制御手段であるCPU(中央処理装置)を含む制御部20が含まれている。+5V系負荷47bにはまた、主電源42、キャパシタ充電器43、キャパシタコンバータ45a,45b、切換回路46a,46b、および電圧検出回路49,50の各回路も含まれている。
【0020】
制御部20は、CPU,ROM,RAMを含むマイクロコンピュータを用いており、CPUがROM内のプログラムをRAM上に展開して実行することにより、装置(例えばデジタル複写機等)全体の制御を行い、各動作モードに応じてシーケンシャルに各負荷47a〜47dを動作させることができる。なお、この制御部20は+5V系負荷47bの一部であるが、図示しない電池からも+5V電源の供給が可能であり、常時動作可能にしている。
【0021】
制御部20はまた、キャパシタ44への充放電の制御も行っており、装置の立ち上げ動作時、および立ち上げ動作後所定の時間までの期間で、電圧検出回路49によって検出したキャパシタ44の蓄電電圧が所定電圧以上のときには、キャパシタ44に蓄電されたエネルギー(蓄電エネルギー)からキャパシタコンバータ45aにより作られた+24V電源を+24V系負荷47dに供給するように切換回路46aを切り換えて動作させる。このとき、ACライン41からの供給電力に対して生じる余裕分は、定着ヒータ駆動回路42bを制御し、主発熱体である主ヒータと補助発熱体である補助ヒータとを内蔵した定着ローラ、あるいはそれらのヒータを内蔵した加熱ローラを含む複数のローラによって張架されて回動する定着ベルトを備えた定着装置48への供給電力量を増大させる。
【0022】
制御部20は更に、停電検出手段に相当する電圧検出回路50により停電状態(実際には停電時の電圧)を検出したときに、電圧検出回路49で検出したキャパシタ44の蓄電電圧が所定電圧以上であった場合には、キャパシタ44に蓄積されたエネルギーからキャパシタコンバータ45bにより作られた+5V電源を+5V系負荷47bに供給するように切換回路46bを切り換えて制御動作を継続させる。
【0023】
ここで、図2によって後で説明するが、上記所定電圧は、装置の立ち上げ動作時と停電時とで異なる電圧値に設定している。
また、この実施形態では、装置立ち上げ動作時のキャパシタ44の電力供給先を+24V系負荷47cとし、ACライン41からの供給電力に対して生じる余裕分だけ定着装置48への供給電力量を増大させる構成としたが、キャパシタ44の電力を定着装置48へ直接供給するシステム構成でも、この発明は適用できる。
【0024】
次に、図1のキャパシタ44の電圧遷移と装置の状態(動作モード)との関係について説明する。
図2は、図1のキャパシタ44の電圧遷移と動作モードとの関係の第1例を示すタイミングチャートである。
このタイミングチャートは、動作モードに応じたキャパシタ44の蓄電遷移をグラフ化したものであり、横軸に時間、縦軸にキャパシタ44の蓄電電圧をそれぞれ示す。
図1の制御部20は、図示しない操作部上での操作者の操作による動作指示があると(タイミングA)、復帰モードに入り、装置の立ち上げ動作(復帰動作)を開始する。
【0025】
このとき、定着装置48の立ち上げ時間の短縮のため、キャパシタ44の蓄電電力を使用する。それによって、キャパシタ44の電圧は、起動時間短縮対応機能を実現する定着装置内の補助ヒータ(以下単に「起動時間短縮対応機能」ともいう)の動作可能蓄電電圧範囲の下限まで下降する。この電圧下降期間を放電期間T1として示している。またこのとき(タイミングB)、キャパシタ44から供給される電力量は数100Wと大きく、補助電力供給期間内において一定の電力をシステムに供給する場合、キャパシタ44は放電するに従って端子電圧が低くなってしまうため、時間とともにキャパシタ44の出力電流が大きくなる。キャパシタコンバータ45a,45b等の構成回路には、導通電流に制限があるため、所定電圧以下では使用しないように、その下限値が設定されている。つまり、動作可能蓄電電圧範囲で狙いの起動時間を満足できる補助電源容量を確保するようにキャパシタ44の容量を設定している。
【0026】
そして、オフモード以降後は、起動時間短縮のために補助電力が必要なタイミングFにて満充電状態(キャパシタ44の蓄電電圧が予め設定された第1の充電電圧Va)となるようにキャパシタ充電器43に充電を行わせる充電動作を実施する。その動作期間を、充電期間T4として示している。「オフモード」とは、待機モードのまま一定時間が経過した後に自動オフ機能によって主電源42から各負荷への給電をオフにする動作モードのことである。
【0027】
ここで、オフモード移行タイミングCと起動時間短縮のために補助電力が必要なタイミングFに差があるのは、定着装置48は補助ヒータによる蓄熱によりオフモード移行後しばらくの間は、補助電力の必要なしに狙いの立ち上げ時間で立ち上がることが可能なためである。また、キャパシタ44は自己放電作用があり、蓄電電圧が低いときの方が消費電力が小さくなるため、必要時のみ電力を蓄積させておくようにすると、省エネ効果を高めることができるためである。
【0028】
次に、図1に示した画像形成装置における停電時の動作例について説明する。
この例では、復帰動作完了後の画像形成装置のプリント(画像形成)動作を行う通常動作モード中又は待機モード中に、電圧検出回路50によって停電を検出すると(タイミングD)、制御部20は、次回の起動に備えた処理および各種データの保護処理といったシャットダウン処理を実行する。このとき、先述したように、キャパシタ44の蓄電電力を使用して制御部20が動作するため、キャパシタ44の蓄電電圧は、起動時間短縮対応機能の動作可能蓄電電圧範囲の下限よりも更に低い電圧に設定された停電対応機能を実現する制御部20(以下単に「停電対応機能」ともいう)の動作可能蓄電電圧範囲の下限近くまで下降する。この電圧下降期間を放電期間T2として示している。また、この例では、D−E間を停電期間T0としている。
【0029】
ここで、シャットダウン処理で消費される電力は、数10W以下と小さく、起動時間短縮対応機能の動作可能蓄電電圧範囲の下限よりも更に低い電圧でキャパシタ44の蓄電電力を使用しても回路に負荷を与えることがないため、起動時間短縮対応機能の動作可能蓄電電圧範囲とは別に停電対応機能の動作可能蓄電電圧範囲を設定している。
そして、電圧検出回路50によって停電状態が検出されなくなると、つまり停電が解消される(停電から復帰される)と、次の停電発生に備え、充電動作を実施する。その動作期間を、充電期間T3として示している。
【0030】
充電期間T4の充電動作で説明したように、オフモード移行後しばらくの間は、補助電力の必要なしに狙いの立ち上げ時間で立ち上がることが可能なため、充電期間T3の充電動作では、シャットダウン処理に必要な電力のみ蓄電されるように、起動時間短縮対応機能の動作可能蓄電電圧範囲の下限値よりも低い(但し停電対応機能の動作可能蓄電電圧範囲の下限値より高い)第2の充電電圧(設定電圧)Vbに達するまで充電するようにしている。
【0031】
次に、第2の充電電圧Vbの決め方(計算例)について詳述する。
例えば、シャットダウン処理に必要な電力を10W(制御電圧5V×消費電流2A)とし、キャパシタ44の放電回路の導通電流(つまりキャパシタコンバータ45bに流れる電流)の制限値を5Aとすると、シャットダウン処理で使用できるキャパシタ44の蓄電電圧の下限値は2Vと決定され、キャパシタ44の容量を75F(600Fのキャパシタを8個直列接続)とすると、このときに残エネルギーは、150Jとなる。
【0032】
また、シャットダウン処理に必要な時間を120秒とすると、シャットダウン処理で消費される電力量は、5V×2A×120s=1200Jとなり、前述したエネルギー(150J)を加えた1350Jのエネルギーが蓄えられていることになるキャパシタ電圧は6Vである。これは、1/2×C(キャパシタ容量)×V(キャパシタ電圧)=W(蓄電エネルギー)の式から算出される。このキャパシタ電圧(6V)以上の電圧をキャパシタ44が維持している場合のみ、正常にシャットダウン処理を実施することが可能になり、この電圧を第2の充電電圧Vbとして予め設定する。
【0033】
この例では、シャットダウン処理で消費される電力、および処理時間のばらつき、蓄電電圧の検出ばらつき、キャパシタ44の自己放電作用による電圧低下等を考慮せずに、第2の充電電圧Vbを設定したが、それらも考慮して設定すると、より安定した停電対応機能とすることができる。
【0034】
以上、起動時間短縮対応機能の動作可能蓄電電圧範囲の下限電圧(下限値)より、第2の充電電圧Vbの方が低く設定された場合の動作について図により説明したが、起動時間短縮対応機能の動作可能蓄電電圧範囲の下限電圧より、第2の充電電圧Vbの方が高く設定された場合の動作について、図3を用いて説明する。なお、通常のシャットダウン処理不可期間Gの動作以外については、図2の動作と同一のため、説明を割愛する。
図3は、図1のキャパシタ44の電圧遷移と動作モードとの関係の第2例を示すタイミングチャートである。
【0035】
この例では、図2と同様、タイミングAから復帰動作を開始すると、キャパシタ44の蓄電電圧は起動時間短縮対応機能の動作可能蓄電電圧範囲の下限まで下降する。このとき(タイミングB)、第2の充電電圧Vbよりも低い電圧となるため、続けて充電動作を実施する。その動作期間を、充電期間T5として示している。
この第2の充電電圧Vbよりも低い電圧となる区間に停電が発生した場合には、当然、通常のシャットダウン処理が不可能となるため、この区間においては、制御部20によるメイン制御に制限を与え、例えば図示しないHDD(ハードディスク)等の記憶装置へのアクセスを止め、停電時にもデータ破壊等が発生しない制御としている。
【0036】
この例では、データ破壊を防ぎ、次立ち上げ動作に備え、正常にシャットダウン処理を行えるように、上記区間内での制御部20によるメイン制御に制限を与える制御構成としたが、データ破壊のみは防ぐといった停電時シャットダウン処理自体に優先順位をおいた(割り切り)制御構成としてもよい。
以上、復帰動作完了後のプリント動作又は待機モード中に停電が発生した場合の2つの異なる動作について図2,図3によって説明したが、復帰モードおよびオフモード中に停電が発生した場合には、停電制御開始時(タイミングD)のキャパシタ44の蓄積電圧が高い位置になるだけで、基本動作については同一である。停電対応制御は、図4で詳述する。
【0037】
次に、図1に示した画像形成装置における充電処理について説明する。
図4は、その充電処理の一例を示すフローチャートである。
図1の制御部20は、いつ要求されるかわからない復帰動作および停電に備え、常時充電処理を実施する。具体的には、以下に示す通りである。
まず、ステップS1でプリント動作中か否かを判断し、プリント動作中でない場合にのみステップS2へ進む。
【0038】
ここで、復帰動作中又はプリント動作中、ACライン(AC商用電源)の容量を最大限に使用しているシステムでは、充電動作によりACラインの容量を超過させてしまうため、充電動作は実施しない。この実施形態の画像形成装置は、ACライン41の容量を最大限に使用しているため、ステップS1でプリント動作中(復帰動作中を含むものとする)と判断すると、ステップS2以降へ進まず、キャパシタ充電器43に充電を行わせる充電動作を実施することはできない。
また、先述したが、定着装置48は、蓄熱によりオフモード移行後しばらくの間は、補助電力の必要なしに狙いの立ち上げ時間で立ち上がることが可能なため、復帰時間短縮のために必要な補助電力は、必要時に充電すればよい。
【0039】
そこで、制御部20は、ステップS2において、復帰時間短縮のためには補助電力(復帰用補助電源)が必要であるか否かを判断し、必要ならステップS3へ、必要なければステップS5へそれぞれ移行する。
ここで、復帰時間短縮のために必要な補助電力の必要タイミングは、定着装置48の温度、あるいは定着装置48の温度の下降遷移を考慮したオフモード移行後の時間で判断する構成としている。定着装置48の温度、例えば定着ヒータを内蔵している定着ローラの表面温度は、その定着ローラに対向して配置されている図示しない温度センサによって検出することができる。
【0040】
そして、ステップS2にて復帰時間短縮のために補助電力が必要であると判断した場合には、ステップS3へ進み、補助電源であるキャパシタ44の蓄電電圧を確認し、その蓄電電圧が予め設定された第1の充電電圧Va未満であった場合にのみ、ステップS4で充電動作を開始する。それによって、キャパシタ44の蓄電電圧が第1の充電電圧Vaに達するまでキャパシタ充電器43が充電(満充電)を行う。
ここで、第1の充電電圧Vaは、起動時間短縮対応機能の動作可能蓄電電圧範囲の下限値(動作可能蓄電電圧下限値)から、予め予測された起動時間短縮のために定着装置48の補助ヒータに必要な電力量を加算した電圧値以上に設定している。
【0041】
一方、ステップS2にて復帰時間短縮のために補助電力が不要であると判断した場合には、ステップS5へ進み、補助電源であるキャパシタ44の蓄電電圧を確認し、その蓄電電圧が予め設定された第2の充電電圧Vb未満であった場合にのみ、ステップS6で充電動作を開始する。それによって、キャパシタ44の蓄電電圧が第2の充電電圧Vbに達するまでキャパシタ充電器43が充電を行う。
ここで、第2の充電電圧Vbは、図2の例では、起動時間短縮対応機能の動作可能蓄電電圧範囲の下限値に、予め予測されたシャットダウン処理を実施するのに必要な電力量を加算した電圧値以上に設定している。
【0042】
ステップ5でのスレッシュ電圧(閾値)とステップ6での充電電圧を第2の充電電圧Vbとして同じ電圧に設定したが、自己放電を考慮にいれ、充電電圧をスレッシュ電圧より高めに設定しておくと、短時間での充電動作の繰り返しがなくなり、制御を簡素化できるとともに、充電制御自体の無駄な消費電力を低減できる。なお、ステップ3でのスレッシュ電圧とステップ4での充電電圧の設定についても同様である。
そして、キャパシタ44は自己放電作用により時間と共に蓄積電力量が低下していくため、充電動作完了後もステップ1に戻り、繰り返し充電処理(蓄電電圧監視処理)を実施する。
【0043】
このように、この実施形態の画像形成装置では、電源装置の第1,第2の補助電源手段を構成する制御部20,キャパシタコンバータ45a,45b等が、蓄電手段であるキャパシタ44を電力源とし、それぞれ設定されている下限値が異なる動作可能蓄電電圧範囲に基づいて、キャパシタ44の蓄電電圧の蓄電エネルギーからそれぞれ異なる所定電圧+24V,+5Vの電源を生成して+24V系負荷47d(第1の負荷手段),+5V系負荷47b(第2の負荷手段)に供給することにより、低電圧で動作可能な+5V系負荷47b(停電対応機能を実現する制御部20等)やその動作電圧よりも高い電圧で動作可能な+24V系負荷47d(起動時間短縮対応機能を実現する定着装置48内の補助ヒータ等)のような、それぞれ異なる電圧で動作可能な複数の負荷手段を、容量の少ないキャパシタ44を利用し、電源ラインであるACライン41の最大供給可能電力を越えない範囲で効率的に動作させることができる。
つまり、低コストのキャパシタ44を利用し、ACライン41の最大供給可能電力を越えない範囲で複数の機能を効率的に実現させることができる。また、キャパシタ44の利用率を高めることができる。
【0044】
なお、電源装置の3つ以上の補助電源手段が、キャパシタ等の蓄電手段を電力源とし、それぞれ設定されている下限値が異なる動作可能蓄電電圧範囲に基づいて、蓄電手段の蓄電電圧の蓄電エネルギーからそれぞれ異なる所定電圧の電源を生成して供給するようにすることもできる。
【0045】
以上、この発明を電源装置およびそれを備えた画像形成装置に適用した実施形態について説明したが、この発明はこれに限らず、電源装置を備えた他の電子機器にも適用可能である。
なお、この発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが対象となることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上の説明から明らかなように、この発明によれば、電源装置が、低コストの蓄電手段を利用し、電源ラインの最大供給可能電力を越えない範囲で複数の機能を効率的に実現させることができる。したがって、低コストで複数の機能を効率的に実現させることが可能な電源装置および電子機器を提供することができる。
【符号の説明】
【0047】
20:制御部 41:ACライン 42:主電源 42a:AC/DCコンバータ
42b:定着ヒータ駆動回路 43:キャパシタ充電器
44:キャパシタ 45a,45b:キャパシタコンバータ
46a,46b:切換回路 47a,47b:+5V系負荷
47c,47d:+24V系負荷 48:定着装置 49,50:電圧検出回路
【先行技術文献】
【特許文献】
【0048】
【特許文献1】特開2007−236159号公報
【特許文献2】特開2005−148581号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源を供給する電源装置であって、
蓄電する蓄電手段と、
該蓄電手段を電力源とし、それぞれ設定されている下限値が異なる動作可能蓄電電圧範囲に基づいて、前記蓄電手段の蓄電電圧の蓄電エネルギーからそれぞれ異なる所定電圧の電源を生成して供給する複数の補助電源手段とを設けたことを特徴とする電源装置。
【請求項2】
前記複数の補助電源手段は、第1の補助電源手段と第2の補助電源手段とからなることを特徴とする請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記第1の補助電源手段に対して設定されている第1の動作可能蓄電電圧範囲の下限値未満に、前記第2の補助電源手段に対して第2の動作可能蓄電電圧範囲の下限値が設定されていることを特徴とする請求項2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記第1の動作可能蓄電電圧範囲の下限値は、前記第1の補助電源手段に流れる電流により、前記第2の動作可能蓄電電圧範囲の下限値は、前記第2の補助電源手段に流れる電流によりそれぞれ設定されていることを特徴とする請求項3に記載の電源装置。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか一項に記載の電源装置と、該電源装置内の前記第1の補助電源手段からの電源供給によって駆動する第1の負荷手段と、前記第2の補助電源手段からの電源供給によって駆動する第2の負荷手段とを備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の電源装置と、該電源装置内の前記第1の補助電源手段からの電源供給によって駆動する第1の負荷手段と、前記第2の補助電源手段からの電源供給によって駆動する第2の負荷手段とを備え、
前記第1の動作可能蓄電電圧範囲の下限値と前記第2の動作可能蓄電電圧範囲の下限値との間に、停電に対応できる停電対応機能を実現する前記第2の負荷手段の動作が可能となる蓄電電圧が前記第2の補助電源手段に対して設定されていることを特徴とする電子機器。
【請求項7】
請求項3又は4に記載の電源装置と、該電源装置内の前記第1の補助電源手段からの電源供給によって駆動する第1の負荷手段と、前記第2の補助電源手段からの電源供給によって駆動する第2の負荷手段とを備え、
前記第1の動作可能蓄電電圧範囲以内に、停電に対応できる停電対応機能を実現する前記第2の負荷手段の動作が可能となる蓄電電圧が前記第2の補助電源手段に対して設定されていることを特徴とする電子機器。
【請求項8】
前記第2の負荷手段には、停電を検出する停電検出手段と、該停電検出手段によって停電が検出された場合に、前記停電対応機能を実現する前記第2の負荷手段の動作であるシャットダウン処理を行う演算制御手段とが含まれていることを特徴とする請求項6又は7に記載の電子機器。
【請求項9】
前記演算制御手段は、前記蓄電手段の蓄電電圧が前記シャットダウン処理が可能となる蓄電電圧に満たない場合には、自身の制御に制限を与えることを特徴とする請求項8に記載の電子機器。
【請求項10】
請求項9に記載の電子機器において、
前記第1の動作可能蓄電電圧範囲の上限値が、起動時間短縮に対応できる起動時間短縮対応機能を実現する前記第1の負荷手段の動作が可能となる蓄電電圧が前記第1の補助電源手段に対して設定されていることを特徴とする電子機器。
【請求項11】
請求項10に記載の電子機器は、画像形成装置であり、
前記第1の負荷手段には、シート上に転写されたトナー画像を定着するための定着装置内の補助発熱体が含まれており、
前記第1の補助電源手段は、当該画像形成装置の立ち上げ動作の際に前記補助発熱体に電源を供給することを特徴とする画像形成装置。
【請求項12】
請求項11に記載の画像形成装置において、
前記蓄電手段を充電する充電手段を備え、
前記演算制御手段は、前記蓄電手段の蓄電電圧が、前記立ち上げ動作時に前記シャットダウン処理が可能となる蓄電電圧に満たなくなった場合、あるいは前記立ち上げ動作が終了した後の通常動作モード時又は待機モード時に前記停電検出手段によって停電が検出された後、該停電検出手段によって停電が検出されなくなった場合に、前記シャットダウン処理が可能となる蓄電電圧に達するまで前記充電手段に充電を行わせ、前記待機モードからオフモードに移行した場合には、前記第1の動作可能蓄電電圧範囲の上限値に達するまで前記充電手段に充電を行わせることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−198315(P2012−198315A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61137(P2011−61137)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】