説明

電球および干渉膜

電球は、内部に光源(2)が配置された光透過性のランプ管(1)を有する。前記ランプ管の少なくとも一部には、可視光放射線を透過し、赤外放射線を反射する干渉膜(5)が設置される。前記干渉膜は、SiO2およびTiO2の層が交互に設置された第1の複数層、またはSiO2、TiO2およびTa2O5の層が交互に設置された第2の複数層、のいずれかを有する。前記第1の複数層内のTiO2の層は、比較的薄いSiO2の中間層がTiO2の層に挿入されることにより、最大75nmの幾何学的な厚さを有し、SiO2の中間層は、少なくとも1nmで最大7.5nmの幾何学的な厚さを有する。前記第2の複数層内のTiO2の層は、比較的薄いTa2O5の中間層がTiO2の層に挿入されることにより、最大25nmの幾何学的な厚さを有し、Ta2O5の中間層は、少なくとも1nmで最大5nmの幾何学的な厚さを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に光源が配置された光透過性ランプ管と、可視光放射線を透過し、赤外放射線を反射する干渉膜とを有する電球に関する。干渉膜は、高屈折率材料として、複数の酸化チタンの層を有し、低屈折材料として酸化シリコンの層を有する。
【0002】
また、本発明は、電球に使用される干渉膜に関する。
【背景技術】
【0003】
干渉フィルタとしても知られている、屈折率が異なる2または3以上の材料が交互に設置された層を有する薄膜光干渉コーティングは、従来よりよく知られている。そのような干渉膜またはコーティングは、電磁スペクトルの様々な部分からの光放射線、例えば、紫外、可視光および赤外(IR)の各放射線を、選択的に反射および/または透過させるために使用される。これらの干渉膜は、照明産業の分野において使用されており、反射体をコーティングしたランプおよびランプ外囲器に使用されている。これらの薄膜光コーティングについて、有益に適用できることが確認されている一つの例は、フィラメントまたはアークによって放射される電磁スペクトルの可視光部分は透過した状態のまま、フィラメントまたはアークの後方から、フィラメントまたはアークに向かって放射される赤外(IR)放射線を反射することにより、白熱ランプおよびアークランプの照明効率または効果が改善されることである。これにより、作動温度を維持するため、フィラメントまたはアークに供給すべき電気エネルギーの量が抑制される。IR放射線を透過させることが好ましい、フィルタのような他のランプの用途においては、フィラメントまたはアークによって放射される紫外および可視光の部分のような、スペクトルのより短い波長の部分が反射されるとともに、主に赤外部分が透過され、可視光放射線を全くまたはほとんど含まない熱放射線が提供される。
【0004】
光干渉膜は、光コーティングまたは光学(干渉)フィルタとも呼ばれており、干渉膜が500℃を超える高温に曝されるような用途に使用される。また光干渉膜は、チタニア(二酸化チタン、TiO2、ルチル型TiO2の場合、n=2.3)、ニオビア(五酸化ニオブNb2O5、n=2.35)、ジルコニア(酸化ジルコニウム、n=2.3)、タンタラ(五酸化タンタル、Ta2O5、n=2.2)およびシリカ(酸化珪素、SiO2、n=1.45)のような耐熱金属酸化物の層を交互に設置することにより構成される。なお、シリカは、低屈折率材料であり、チタニア、ニオビア、ジルコニアまたはタンタラは、高屈折率材料である(それぞれの屈折率の値は、波長λ=550nmにおいて得られるものである)。ハロゲンランプの用途では、これらの干渉膜は、光源(フィラメントまたはアーク)を収容する石英ランプ管の外表面に設置される。外表面すなわち干渉膜においては、作動温度が800℃から900℃の範囲に達する場合がある。
【0005】
干渉膜またはコーティングは、蒸着技術または(反応性)スパッタリング技術を用いて設置され、化学気相成膜プロセス(CVD)および低圧化学気相成膜プロセス(LPCVD)によって設置されても良い。これらの成膜技術では、通常、比較的厚い層が形成されるが、この層にはクラックが生じやすいため、フィルタの構造は、著しく制限される。
【0006】
より高温での石英基板に対する高屈折率層材料の相安定性、酸化状態および熱膨張係数のミスマッチは、重要な問題である。これらの変化が生じると、例えば、熱のミスマッチにより、干渉層に剥離が生じたり、好ましくないレベルで、光が干渉層に散乱および/または吸収される現象が生じる。通常、高屈折率材料は、比較的室温に近い温度(通常の場合、250℃未満)で成膜され、アモルファスまたは微細結晶の層として設置される。一般に、ほとんどの高屈折率層は、550℃を超えると結晶化し易くなり、例えば、電球寿命の間(通常の場合、数千時間後)に結晶化が生じる。結晶化には、結晶粒成長が含まれ、この結晶粒成長は、コーティングの光透過性を妨害し、光が散乱するようになる。また、(物理的な)層の成膜処理プロセスの間、および高温での作動の間に、高屈折率層材料が酸素欠乏となって、これにより好ましくない光吸収が生じることに留意しなければならない。
【0007】
現在、酸化チタンおよび酸化珪素を有する光学的マルチレイヤ干渉層は、様々な企業で使用されており、特に、作動温度が約650℃よりも低いコールドミラー反射器および小型の低ワットハロゲンランプに使用されている。これらの干渉膜は、700℃を超えると、曇った状態(散乱性)になりやすい。酸化チタンと酸化珪素をベースとする赤外(IR)反射干渉膜の使用は、コストの面で好ましい。それぞれの層材料の屈折率の差が比較的大きいため、比較的少ない層を用いてフィルタを設計することが可能となり、全体的により薄い膜の積層スタックで、適正なIR反射を生じさせることが可能となり、干渉膜の成膜に必要な時間が短くなるからである。しかしながら、TiO2は、550nmでの屈折率がn=2.3で、低温ハロゲンランプに広く使用されているにも関わらず、高温(例えば、ハロゲン)電球上の、高屈折率TiO2/SiO2のIR反射マルチレイヤ干渉膜は、現在のところ実用化されていない。これは、TiO2/SiO2干渉膜を700℃を超える温度に曝した際に生じる、散乱、吸収および/またはコーティングのクラック/剥離の各現象による前述の問題のためである。この温度範囲近傍またはこの温度を超える領域では、アモルファスから結晶質への内部相変態、および/または異なる結晶相間の相変態が生じ、特に、よく知られているアナターゼ型とルチル型の結晶の変化が生じ、これにより、散乱結晶化が生じ、体積が変化する。また、これらの変態は、マルチレイヤスタックが曝される温度依存型機械的応力に影響を及ぼし、その後、層にクラックが生じ、および/または層が剥離する可能性が高まる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、前述の種類のような、可視光放射線を透過し、IR放射線を反射する干渉膜を有する電球を提供することである。前記干渉膜は、高屈折率材料として酸化チタン層を有し、低屈折率材料として酸化珪素を有し、前記干渉膜は、高い温度で改良された特性を示す。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、前記目的を達成するため、内部に光源が配置された光透過性のランプ管を有する電球であって、
前記ランプ管の少なくとも一部には、可視光放射線を透過し、赤外放射線を反射する干渉膜が設置され、
前記干渉膜は、酸化珪素および酸化チタンの層が交互に設置された第1の複数層、または酸化珪素、酸化チタンおよび酸化タンタルの層が交互に設置された第2の複数層、のいずれかを有し、
前記第1の複数層内の前記酸化チタンの層は、比較的薄い酸化珪素の中間層が前記酸化チタンの層に挿入されることにより、最大75nmの幾何学的な厚さを有し、前記酸化珪素の中間層は、少なくとも1nmで最大7.5nmの幾何学的な厚さを有し、
前記第2の複数層内の前記酸化チタンの層は、比較的薄い酸化タンタルの中間層が前記酸化チタンの層に挿入されることにより、最大25nmの幾何学的な厚さを有し、前記酸化タンタルの中間層は、少なくとも1nmで最大5nmの幾何学的な厚さを有することを特徴とする電球が提供される。
【0010】
酸化珪素の比較的薄い層または酸化タンタルの比較的薄い層を、酸化チタンの層内に導入することにより、温度安定性を有し、高屈折率の酸化チタンの層を得ることができる。この方法では、比較的高温(700℃を超える温度)で作動する光干渉膜中の高屈折率材料として、極めて適したナノ積層体が形成される。高屈折率材料として限定された厚さの酸化チタン層を有し、この酸化チタン層内に挿入された酸化珪素または酸化タンタルの薄い層を有する干渉膜を有する電球は、高温で改良された特性を示す。
【0011】
本発明では、酸化珪素または酸化タンタルの比較的薄い層を酸化チタン層中に導入により、酸化チタンの層中でのルチル型の結晶成長が妨げられる。また、アナターゼとルチルのある混合比では、アナターゼ型からルチル型への相変態が停滞することが本願発明者らによって見出されている。
【0012】
酸化チタンを有する既知の干渉層では、高温において、結晶粒が比較的大きく成長する傾向にある。酸化チタン層の厚さにより、干渉膜内でのこれらの結晶粒の寸法は、制限されることが知られており、通常の場合、層の面側から観察した際に、酸化チタン層の厚さの2または3倍を超えることはない。高屈折率材料として酸化チタンが使用される従来の干渉膜では、結晶粒の寸法は、80nmを超え、光散乱により、干渉膜に劣化が生じていることが観測されている。また、高屈折率材料として酸化チタンを有する従来の干渉膜では、アナターゼ相は、高温(約550℃を超える温度)で、ルチル相に変化し、これにより酸化チタン層の密度が増大する。高温(約700℃を超える温度)での、従来の酸化チタン層中のルチル型結晶の過剰な成長により、干渉膜の規則構造が乱れ、好ましくない光散乱が生じるようになる。
【0013】
酸化珪素の比較的薄い層の間、または酸化タンタルの比較的薄い層の間に、酸化チタン層を取り囲み、さらに酸化チタン層の個々の厚さを制限することにより、優れたおよび所望の高温特性を有する安定な酸化チタン層が得られる。層が交互に設置された第1の複数層を有する干渉膜では、酸化チタン層は、最大75nmの幾何学的な厚さを有し、酸化チタン層には、1nmから約7.5nmの範囲の幾何学的な厚さを有する酸化珪素中間層が挿入される。層が交互に設置された第2の複数層を有する干渉膜では、酸化チタン層は、最大25nmの幾何学的厚さを有し、酸化チタン層には、1nmから約5nmの範囲の幾何学的な厚さを有する酸化タンタル中間層が挿入される。
【0014】
中間層は、比較的薄い厚さであることが好ましい。中間層は、高屈折率材料を有するナノ積層体の有効屈折率に(より小さな)影響を及ぼすからである。このため、本発明による電球の好適実施例では、第1の複数層内の酸化チタン層は、幾何学的厚さが最大50nmであり、酸化珪素中間層は、幾何学的な厚さが約3nmから約5nmの範囲にあるという特徴が得られる。本発明による電球の別の好適実施例では、第2の複数層内の酸化チタン層は、幾何学的厚さが最大15nmであり、酸化タンタル中間層は、幾何学的な厚さが約3nm以下であるという特徴が得られる。酸化チタン層が約15nm以下の層厚を有する場合、層の表面粗さは、著しく抑えられる。また、酸化チタンの結晶粒が中間層を貫通して突出することが抑制される。
【0015】
酸化チタン層中に導入されたこれらの比較的薄い中間層のため、ナノ積層体は、極めて高い「平均」屈折率を維持することができる。実験では、そのような干渉膜は、800℃で70時間保持後にも、同じ光学的外観および屈折率を維持することが示されている。この屈折率は、成膜直後の材料中に存在するアナターゼ種の量に依存して、n=2.3からn=2.7まで変化する(波長550nm)。酸化チタン層中の結晶の粒成長は、高屈折率材料の層内の中間層の存在によって妨害され、これにより、光散乱が抑制される。酸化珪素または酸化タンタルの中間層は、酸化チタン層内で粒成長抑制材として機能する。
【0016】
高温での干渉膜の安定性をさらに改善するため、追加の方法が採用されても良い。本発明による電球の好適実施例では、ランプ管には、ランプ管と干渉膜の間に、幾何学的厚さが少なくとも50nmの、例えば、ボロンおよび/またはリンの酸化物が多量にドープされた酸化珪素のような密着層が設置されるという特徴が得られる。この方法により、干渉膜の(突発的な)クラックの発生および/またはランプ管からの剥離が抑制される。本発明による電球の別の好適実施例では、干渉膜のランプ管と面する遠い方の側には、幾何学的な厚さが少なくとも50nmの酸化珪素の層が設置されるという特徴が得られる。そのようなキャッピング層は、干渉膜の剥離を抑制する。干渉膜の空気側の酸化珪素「キャッピング」層は、干渉膜を保護し、特に高温において、干渉膜を保護する。
【0017】
第2の複数層の場合は、干渉膜のフィルタ構造に、酸化タンタルの比較的薄い中間層が導入される。酸化チタン層内に、中間層として酸化タンタルを導入することにより、結果的に、3つの層材料を有する中間膜が得られる。中間層の材料として使用されることとは別に、酸化タンタル層を使用して、酸化チタンと酸化珪素の中間の屈折率を有する「完全」層を成膜することも可能である。この方法では、「完全」層は、酸化チタンと酸化珪素の中間の屈折率を有する層材料として機能する。3つの異なる屈折率の層を有するそのような干渉膜を使用することにより、干渉膜の設計の際に、構造がより高度になることが抑制されるという利点が得られる。可視光放射線を通過させ、赤外放射線を反射する干渉膜の場合、可視領域(約400nmから約750nmまでの領域)でのピークを妨害せずに、可視領域に十分に広い窓を得るため、より高次のバンドを抑制する必要が生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のこれらのおよび他の態様は、以下の実施例を参照することにより明らかとなり、理解することができる。
【0019】
図面は、単に概略的なものであり、スケールは示されていない。いくつかの寸法は、明確化のため、ある程度誇張して示されている。図において、同様の部品には、できる限り同じ参照符号が付されている。
【0020】
図1において、電球は、光源2としての白熱体を収容する石英ガラス製のランプ管1を有する。ランプ管1からその外部に導出されている電流導体3は、光源2に接続されている。ランプ管1には、ハロゲン、例えば、臭化水素を含むガスが充填されている。ランプ管1の少なくとも一部には、干渉膜5がコーティングされており、この干渉膜は、少なくとも酸化珪素および酸化チタンを含む複数の層を有する。干渉膜5は、可視放射線を透過し、赤外(IR)放射線を反射する。図1の例では、ランプ管1は、外側バルブ4内に取り付けられており、このバルブは、ランプキャップ6によって支持されており、このランプキャップは、電流導体3と電気的に接続されている。図1に示す電球は、60Wのコンセント作動型ランプであり、耐用寿命は、少なくとも2500時間である。
(第1の実施例)
第1の実施例では、石英上のマルチレイヤSiO2/TiO2光スタック構造内に、干渉膜(層が交互に設置された第1の複数層)を設置し、波長領域が400nm<λ<750nmの全ての可視光を完全に透過し、波長範囲が750nm<λ<2000nmの間のIR光をできるだけ反射するように構成した。まず、従来の干渉膜と同等の赤外光反射率を示す、比較的少ない数の層を有する干渉膜を、出発点とした。25層のSiO2/TiO2光干渉膜スタックにおいて得られた結果を、表1Aに示す。
【0021】
【表1】

表1Aの干渉膜は、全スタック厚さが1904nmである。
【0022】
表1AのIR干渉膜の開始構造では、干渉スタックの最初と最後に、2つの追加層が導入されている。第1の層(符号1)は、SiO2層であり、この層は、少なくとも50nmの幾何学的な厚さを有し、ランプ管から遠い側でランプ管と面するように、干渉膜中に導入されている。干渉膜には、少なくとも50nmの幾何学的な厚さを有する二酸化珪素の層が設置される。そのようなキャッピング層は、干渉膜の劣化を抑制する。干渉膜の空気側の酸化珪素「キャッピング」層は、特に高温で、干渉膜を機械的に保護する。表1Aの例では、このキャッピングSiO2層は、80nmよりも厚い。第2の層(符号25)は、ランプ管と干渉膜の間にあるSiO2密着層であり、幾何学的な厚さは、50nmである。このSiO2密着層は、干渉膜の(突発的な)クラックの発生および/またはランプ管からの剥離を防止する。密着層は、ボロン酸化物、リン酸化物から選定された酸化物を有することが好ましい。ボロン酸化物および/またはリン酸化物がドープされた酸化珪素層では、膜中の応力が抑制されることは、よく知られている。ドープによって、二酸化珪素の粘度が抑制される。密着層のドープレベルは、重量比で数%よりも多くする必要はなく、そのため、この層は、比較的高い二酸化珪素含有量を有し、例えば、重量比で95%から98%の含有量である。
【0023】
表1Aの25の層構造から始めて、後続のステップでは、厚い酸化チタン層に、酸化珪素の比較的薄い中間層が導入される。このため、厚さが50nmを超える、表1Aの開始構造中の全てのTiO2層は、少なくとも2つのTiO2層に分離され、これらの2つのTiO2層の間には、比較的薄いSiO2中間層が導入される。表1Aの実施例では、参照符号2、4、6、10、16および22のTiO2層は、その間に設置された厚さが4nmのSiO2中間層により、2つのTiO2層に分離される。得られた構造は、39層のTiO2/SiO2干渉膜を有し、これが従来から知られているコンピュータを用いた最適化によって再計算された結果、表1Bに示すような最適構造が得られる。
【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

表1Bの干渉膜は、全スタック厚さが1915nmであり、これは、表1Aの干渉膜の全厚さとほぼ等しい。
【0026】
表1Bから明らかなように、TiO2/SiO2/TiO2のナノ積層体は、厚さが最大50nmの2層のTiO2層の間に、4nmのSiO2中間層を設置することで構成される(層群2-3-4、6-7-8、10-11-12、18-19-20、26-27-28および34-35-36参照)。酸化チタン層に、酸化珪素の比較的薄い層を導入することにより、温度安定性を有し、高屈折率な酸化チタン層が得られる。これらのナノ積層体は、比較的高温(700℃を超える温度)で作動する光干渉膜の高屈折率材料として、極めて適している。高屈折率材料として、限られた厚さの酸化チタン層を有し、さらに酸化チタン層内に薄い酸化珪素層を有する干渉膜を備える電球は、高温で改善された特性を示す。この方法では、酸化チタン層への酸化珪素の比較的薄い層の導入によって、酸化チタン層内でのルチル型結晶の成長が妨げられる。また、アナターゼ型からルチル型への相変態は、アナターゼとルチルのある混合比で停滞する。
【0027】
図2には、表1A(25層;参照符号25で示されている破線)および1B(39層;参照符号39で示されている実線)に示すIR反射光干渉膜の波長λ(単位nm)の関数としての、算出された反射率R(単位%)を示す。この図から、39層のTiO2/SiO2干渉膜(表1B)の全体的な特性は、25層のTiO2/SiO2干渉膜(表1A)と実質的にほぼ等しいことがわかる。
【0028】
本発明の第1の実施例に従って、ランプ管1の該当部分は、例えば反応性スパッタリング法を用いて、表1Bによる干渉膜5で被覆される(図1参照)。本発明による干渉膜5は、電球の耐用寿命までの期間、無変化のままであり、初期の特性を保持している。
(第2の実施例)
第2の実施例では、SiO2基板上のマルチレイヤSiO2/TiO2光スタック構造内に、干渉膜(層が交互に設置された第2の複数層)を設置し、波長領域が400nm<λ<750nmの全ての可視光を完全に透過し、波長範囲が750nm<λ<2000nmの間のIR光をできるだけ反射するように構成した。出発点は、表1Aに示した干渉膜と同様であった。
【0029】
干渉膜の第2の実施例では、厚い酸化チタン層内に、酸化チタンの薄い層を導入した。これは、第3の材料が利用できることを意味する。酸化タンタルを中間層用材料として使用しなくても、酸化タンタル層は、酸化チタンと酸化珪素の中間の屈折率を有する「完全」層として、成膜することができる。この方法では、「完全」層は、酸化チタンと酸化珪素の中間の屈折率を有する層材料として機能する。3種類の異なる屈折率を有する層を有するそのような干渉膜を使用した場合、開始構造と同等の反射率を有する、より単純なフィルタ構造を得ることができるという利点が得られる。また、中間の屈折率を有する層を使用することで、干渉膜の構造がより高次のものになることを抑制することができる。
【0030】
中間的な屈折率を有する第3の層材料を導入する効果は、一例として表2Aに示されている。
【0031】
【表4】

表2Aの干渉膜は、全体的なスタック厚さが1893nmであり、これは、表1Aの干渉膜の厚さとほぼ等しい。
【0032】
層の数は、25(表1A)から19(表2A)に減少しているが、SiO2とTiO2の中間の屈折率を有するTa2O5層を有するフィルタ構造の反射率は、元々の25層の構造のもの(表1A)と同等である。
【0033】
図3Aには、表1A(25層;参照符号25の破線)および表2A(19層;参照符号19の実線)に示したIR反射光干渉膜の波長λ(単位nm)の関数としての、算出された反射率R(単位%)を示す。この図から、19層のTiO2/Ta2O5/SiO2干渉膜(表2A)の全体的な特性は、25層のTiO2/SiO2干渉膜(表1A)と実質的にほぼ等しいことがわかる。
【0034】
19層のTiO2/Ta2O5/SiO2干渉膜(表2A)から始めて、後続のステップでは、厚い酸化チタン層内に、酸化タンタルの比較的薄い中間層が導入される。このため、表2Aの開始構造内の全てのTiO2層は、少なくとも2つのTiO2層に分離され、これらの2つのTiO2層の間には、比較的薄いTa2O5中間層が導入される。表2Aの例では、参照符号2、4、6、9、13および17で示されるTiO2層は、最大厚さが15nmの2つのTiO2層のいくつかの群に分離され、その間には2nmのTa2O5中間層が設置される。得られた構造は、従来から知られているコンピュータによる最適化法を用いて再計算され、その結果、表2Bに示すような、67層のTiO2/Ta2O5/SiO2干渉膜が得られた。
【0035】
【表5】

【0036】
【表6】

【0037】
【表7】

表2Bの干渉膜は、全体的なスタック厚さが1902nmであり、これは、表1Aおよび表2Aの干渉膜の全体厚さとほぼ等しい。
【0038】
表2Bから明らかなように、TiO2/Ta2O5/SiO2のナノ積層体は、厚さが最大15nmの2層のTiO2層の間に、2nmのTa2O5中間層を設置することにより構成される(表2Bの層群2-10、12-22、24-32、35-49、53-57および61-65参照)。酸化チタン層内に、比較的薄い酸化タンタル層を導入することにより、温度安定性を有し、高屈折率の酸化チタン層が得られる。これらのナノ積層体は、比較的高温(700℃を超える温度)で作動する光干渉膜内の高屈折率材料として、極めて適している。高屈折率材料として厚さが制限された酸化チタン層を有し、酸化チタン層内に薄い酸化タンタル層を有する干渉膜を備える電球は、高温で改善された特性を示す。この方法では、比較的薄い酸化タンタル層を酸化チタン層内に導入することにより、酸化チタン層内でのルチル型の結晶成長が妨げられる。また、アナターゼ型からルチル型への相変態は、アナターゼとルチルのある混合比で停滞する。
【0039】
図3Bには、表2B(67層;参照符号67の実線)に示したIR反射光干渉膜の波長λ(単位nm)の関数としての、算出された反射率R(単位%)を示す。67層のTiO2/Ta2O5/SiO2干渉膜(表2B)は、図3Aに示すように、25層のTiO2/SiO2干渉膜(表1A)および19層のTiO2/Ta2O5/SiO2干渉膜(表2A)を出発点とした場合と実質的に等しい全体特性を有する。
【0040】
本発明の第2の実施例に従って、ランプ管1の該当部分は、例えば、反応性スパッタリング法を用い、表2Bによる干渉膜5で被覆される(図1参照)。本発明による干渉膜5は、電球の耐用寿命までの期間、無変化のままであり、初期の特性を保持している。
【0041】
一例として、図4には、800℃で70時間熱処理した後の、TiO2/Ta2O5層スタックの透過性電子顕微鏡(TEM)像を示す。像の左下コーナー部にある線は、50nmの長さを示している。各TiO2層は、厚さが約10nmであり、Ta2O5中間層は、厚さが約2nmである。層の面内のTiO2/Ta2O5結晶は、粒子寸法が約50nmである。
【0042】
図5には、図4に示したTiO2/Ta2O5スタックの高角度環状暗視野(HAADF)TEM像を示す。この写真において、TiO2領域の境界の白色線は、Ta2O5を示している。Ta2O5境界層は、層の比較的平坦な微小部分にTiO2を拘束し、この層内では、元々の組成が維持されている。Ta2O5境界層に突き出した状態の大きなTiO2結晶は、観測されない。
【0043】
前述の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するものではなく、当業者には、特許請求の範囲から逸脱しないで、多くの別の実施例を設計することができることに留意する必要がある。請求項において、括弧内に記されたいかなる参照符号も、請求項を限定するものと解してはならない。「有する」という動詞およびその変化形の使用は、請求項内に示されたそれらの素子またはステップ以外のものの存在を排斥するものではない。素子の前の「一つの」という前置詞は、そのような素子が複数あることを否定するものではない。本発明は、いくつかの明確な素子を有するハードウェアを用いて実施しても良く、適正にプログラム化されたコンピュータを用いて実施しても良い。いくつかの手段が挙げられた装置の請求項において、これらのいくつかの手段は、同一のハードウェアで具体化しても良い。ある手段が、複数の異なる従属請求項に記載されているという事実のみで、これらの手段を組み合わせて使用することが有意ではないと解してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明による干渉膜が設置された白熱電球の断面図である。
【図2】表1A、1Bに示したIR反射光干渉膜において算出された反射率を示す図である。
【図3A】表1A、2Aに示したIR反射光干渉膜において算出された反射率を示す図である。
【図3B】表2Bに示したIR反射光干渉膜において算出された反射率を示す図である。
【図4】800℃で70時間熱処理した後の、TiO2/Ta2O5層スタックのTEM像である。
【図5】図4に示すTiO2/Ta2O5層スタックの高角度環状暗視野TEM像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に光源が配置された光透過性のランプ管を有する電球であって、
前記ランプ管の少なくとも一部には、可視光放射線を透過し、赤外放射線を反射する干渉膜が設置され、
前記干渉膜は、酸化珪素および酸化チタンの層が交互に設置された第1の複数層、または酸化珪素、酸化チタンおよび酸化タンタルの層が交互に設置された第2の複数層、のいずれかを有し、
前記第1の複数層内の前記酸化チタンの層は、比較的薄い酸化珪素の中間層が前記酸化チタンの層に挿入されることにより、最大75nmの幾何学的な厚さを有し、前記酸化珪素の中間層は、少なくとも1nmで最大7.5nmの幾何学的な厚さを有し、
前記第2の複数層内の前記酸化チタンの層は、比較的薄い酸化タンタルの中間層が前記酸化チタンの層に挿入されることにより、最大25nmの幾何学的な厚さを有し、前記酸化タンタルの中間層は、少なくとも1nmで最大5nmの幾何学的な厚さを有することを特徴とする電球。
【請求項2】
前記第1の複数層内の前記酸化チタンの層は、最大50nmの幾何学的な厚さを有し、前記酸化珪素の中間層は、少なくとも3nmで最大5nmの幾何学的な厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の電球。
【請求項3】
前記第2の複数層内の前記酸化チタンの層は、最大15nmの幾何学的な厚さを有し、前記酸化タンタルの中間層は、最大3nmの幾何学的な厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の電球。
【請求項4】
前記ランプ管には、前記ランプ管と前記干渉膜の間に密着層が設置され、該密着層は、少なくとも50nmの厚さを有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の電球。
【請求項5】
前記密着層は、ボロン酸化物およびリン酸化物から選定される酸化物を有することを特徴とする請求項4に記載の電球。
【請求項6】
前記干渉膜の前記ランプ管と面する遠い方の側には、少なくとも50nmの厚さを有する酸化珪素の層が設置されることを特徴とする請求項1、2または4のいずれか一つに記載の電球。


【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−512702(P2008−512702A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529407(P2007−529407)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【国際出願番号】PCT/IB2005/052852
【国際公開番号】WO2006/027724
【国際公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】