説明

電界印加磁気記録方式および記録再生装置

【課題】 高密度で、高保磁力の記録媒体に対して、金属探針を用いた電界、かつ印加磁界により書き込みを安定に行う手法、およびそれを用いた情報記憶装置を提供する。
【解決手段】 基板上に、第1の強磁性層と、第1の強磁性層上に形成された非磁性層と、非磁性層上に形成された第2の強磁性層とを有し、第2の強磁性層の保磁力Hcが第1の強磁性層の保磁力Hcよりも大きい磁気記録媒体に、磁極により磁界Hを印加して、第1の強磁性層の磁化方向を印加磁場方向に変化させ、金属探針と磁気記録媒体との間に正又は負の何れか一方の電圧Vを印加して、第1の強磁性層と第2の強磁性層との間の量子井戸準位のエネルギーを変化させて交換磁場Hを誘起し、交換磁場Hと磁界Hとにより、第2の強磁性層の磁化方向を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁化情報の書き込みおよび読み取りを行う方法、およびその記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のハードディスクドライブ装置(HDD)における磁化情報の書き込みには、コイルから発生する磁界を用いた磁気ヘッドによる書き込み手法が用いられている。
【0003】
HDDはさらなる高密度記録を求められており、高密度化による記録ドメインの微細化に対応して、磁気ヘッド先端部も微細化されていかなければならない。しかし、磁気ヘッド先端部に生じる反磁界成分の影響により、ヘッド先端部の微細化とともに、ヘッドからの発生可能磁界強度が減少していくことが予想されている。
【0004】
一方、記録ドメインの磁化が安定に保持されるためには、KuV/kBT>50程度は必要とされている。ここでKuは磁気異方性定数、Vは磁化の体積、kBはボルツマン定数、Tは温度である。高密度化とともにVが微小になると、書き込まれた磁化方向の熱的不安定性を克服するために、Kuが大きい保磁力の高い材料が必要となる。この保磁力の高い材料に磁化を書き込むためには、従来より大きな書き込み磁場が必要となる。
【0005】
従って、高密度記録における磁化書き込み手法において、従来の磁気ヘッドだけを用いた書き込み手法には限界が予想され、それにかわる新しい書き込み手法が求められている。
【0006】
例えば、1Tb/inch2を越える高密度になると、10KOeを越える保磁力が記録媒体には必要と考えられている。
【0007】
そこで、いわゆる熱アシスト方式による書き込み手法が提案されている。これは、レーザー光により記録媒体を局所的に加熱することにより、書き込みたい領域の保磁力のみを下げ、磁気ヘッドからの発生可能磁界により書き込めるようにする手法である。これは、書き込み磁界を低減できるため高密度記録における磁化書き込み手法として有望な技術であるが、レーザー光が絞れる領域が加熱領域となるため、その微少化が課題である。
【0008】
磁界を全く用いない書き込み手法として、例えば非特許文献1により、スピン注入磁化反転を用いた書き込み手法が提案されている。これはスピン偏極電子を磁性体に注入することにより磁化反転を行ない書き込みを行なう手法であるが、書き込み電流しきい値が106A/cm2程度と大きく、媒体に接触しなければ十分な電流を流せないため配線が必要となり、HDDのような無配線の超高密度記録用の媒体の書き込み手法としてはあまり適していない。
【0009】
さらに別の書き込み手法として、電界を用いた磁化制御手法が提案されている。例えば、非特許文献2には、強磁性体金属/半導体/強磁性体金属の積層構造において、半導体層中のキャリア濃度を電界により制御することにより、強磁性体間に生じる交換相互作用を制御しようとするものである。
【0010】
また、例えば非特許文献3は、強磁性体金属/非磁性金属/絶縁体層/強磁性体金属のように強磁性体金属/非磁性金属/強磁性体金属の三層構造の内部に、絶縁体層を設け、強磁性金属層間に電圧を印加することにより強磁性体間に生じる交換相互作用を制御しようとするものである。
【0011】
また、例えば、特許文献1には、強磁性体金属/非磁性金属/強磁性体金属の三層構造の外部に半導体層を設け、強磁性金属層と半導体界面に生じるショットキー障壁の幅や高さを電界で制御することにより強磁性体間に生じる交換相互作用を制御しようとするものである。
【0012】
また、特許文献2には、強磁性体金属/非磁性金属/強磁性体金属の三層構造からなる記録媒体に金属探針により局所電界を印加し、磁化を制御する方法および装置が開示されている
また、特許文献3には、強磁性体金属/非磁性金属/強磁性体金属の三層構造からなる記録媒体に金属探針により局所電界を印加し、且つアシスト磁場を用いて磁化を制御する方法および装置が開示されている。引用文献3では、金属探針に印加する電圧を、正V0から負-V、又は負-Vから正V0に変化させ、かつ書き込み磁化方向にアシスト磁場を印加することで磁化反転を行っている。すなわち、電圧も磁場も反転させている。
【0013】
これらの電界による磁化制御技術は、高密度化が可能であり、かつ消費電力の低い技術として有望である。
【0014】
【特許文献1】特開2001−196661号公報
【特許文献2】特開2004−342183号公報
【特許文献3】特開2006−65927号公報
【非特許文献1】J. Slonczewski, J. Mag. Mag. Mater. 159, L1(1996)
【非特許文献2】Mattsonet et al, Phys. Rev. Lett. 71, 185 (1993)
【非特許文献3】Chun-Yoel Youi et al., J. Appl. Phys., 87, 5215 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、引用文献3に開示される方法では、磁場のみならず電圧も反転させているので、反転表面の仕事関数の変動や、探針浮上量の変化により制御が不安定になるという虞がある。
【0016】
また、強磁性層/非磁性層/強磁性層の三層構造の内部に半導体層もしくは絶縁層をもうけ、電圧による磁化制御が可能であるためには、その厚さが2nm程度以下と極めて薄くなければならないこと、また、三層構造の外部に半導体層を設ける場合でも、原子層レベルで急峻な磁性層/半導体界面が形成されることが必要であり、これらを作製することは極めて困難である。
【0017】
また、媒体としてMRAMのようなHDDに比べて低密度な配線型のメモリが想定されており、HDDのような無配線の超高密度記録媒体において電圧を印加するのは困難である。強磁性金属層/非磁性金属層/強磁性金属層の三層構造に金属探針により電界を印加する方法は上記の困難を回避しているが、媒体表面の状態や、媒体表面と金属探針との距離の変動により、磁化反転に必要な印加電界の大きさに正負を含めたばらつきが不可避である。
【0018】
本発明は、これら従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、例えば1Tb/inch2を越える程に高密度で、例えば10KOeを越える保磁力が必要とされる記録媒体に対して、金属探針を用いた電界、かつ印加磁界により書き込みを安定に行う手法、およびそれを用いた情報記憶装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために本発明では、まず高保磁力の強磁性層/非磁性層/低保磁力の強磁性層の少なくとも3層薄膜構造を形成する。この3層薄膜構造の外側に保護膜があってもよい。
【0020】
高保磁力の強磁性層および低保磁力の強磁性層はそれぞれHc、Hcの保磁力を持つものとし、外部印加磁場Hとは、Hc<H<Hcの関係があるものとする。印加磁界Hのみでは、低保磁力の強磁性層の磁化は書き換えられ、高保磁力の強磁性層の磁化は書き換えられない。
【0021】
そこで、この3層薄膜構造もしくは保護膜を含めた多層膜に、金属探針を近付ける。金属探針をこの多層膜に1〜5nmオーダに近付け、さらに正又は負の何れか一方の電界を印加すると、多層膜表面のイメージポテンシャルを変調することが可能である。このイメージポテンシャルは、電子を多層膜中に閉じ込めており、このポテンシャルが変調されると、電子の閉じ込め条件が変化する。その結果、多層膜中に形成されている量子準位のエネルギーが変化するため、強磁性層間に働く磁気的交換相互作用が変化する。
【0022】
この金属探針による印加電界により二つの強磁性層間に誘起された交換磁場の大きさをHとする。ただし、電界非印加時の強磁性層間に働く磁気的交換相互作用はほぼ0とする。
【0023】
Hc<H−H、Hc<H+Hを満たす3層薄膜構造を有する記録媒体に対し、外部磁場Hおよび金属探針による電界Hを印加することで、高保磁力の強磁性層に磁化を書きこむことが可能である。
【0024】
高保磁力の強磁性層の磁化の書き換えすなわち磁化反転をするためには、外部磁場の印加方向を逆にし、同極の電界を印加することにより可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、正又は負の何れか一方の電圧を印加すればよく、印加電界の正負を変化させる必要がない(印加電圧−V0の正負を変化させる必要はない)ので、記録媒体表面の状態や、金属探針と表面との距離に依存する電界が変動しても、誘起交換磁場Hの変動幅は小さいため、安定に磁化を書き換えることが可能となる。
【実施例1】
【0026】
実施例1を図1から図3を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1を示し、磁気記録媒体70とこれに対面して設けられる金属探針5および磁極10の構成を示す概念図である。磁気記録媒体70は基板100上に順次積層して形成された第1の強磁性層(低保磁力の強磁性層1)、非磁性層2、第2の強磁性層(高保磁力の強磁性層3)、保護膜4よりなる多層膜41より構成されている。
【0027】
ここで、高保磁力の強磁性層および低保磁力の強磁性層はそれぞれHc、Hcの保磁力を持つものとし、磁極10から発生する外部印加磁場Hとは、Hc<H<Hcの関係があるものとする。
【0028】
この多層膜41の保護膜4の面に対向して、1nmオーダーの極めて近い距離に金属探針5が配置される。金属探針5は、ハードディスク装置におけるスライダ機構と同様に保持される。
【0029】
保護膜4と金属探針5との距離を制御するために、別途トンネル電流をフィードバック信号として用いても良く、また、原子間力顕微鏡における光てこ方式を用いてフィードバック信号を生成してもよい。また、距離制御用の探針を以下に述べる電界制御用金属探針5とは別に設けても良い。
【0030】
多層膜41を構成する高保磁力の強磁性層3としては、例えば3〜20nm程度の直径を持つ柱状結晶からなるFePt、CoPt,CoPd、CoCrPt、FePd、TbFeCoなどの合金膜が使用できる。
【0031】
低保磁力の強磁性層1としては、例えばFe,Co,Ni,等の強磁性単体金属またはCoFe、NiFe、CoNiなどの合金膜、FePt、CoPt,CoPd、CoCrPt、FePdなどの連続膜が使用できる。
【0032】
なお、強磁性層に同じ材料を用いた場合であっても、例えば高保磁力の場合は3〜20nm程度の直径を持つ柱状結晶とし、低保磁力の場合は連続膜とし、このように構造が異なると、保磁力も異なる。
【0033】
また、低保磁力の強磁性層1と高保磁力の強磁性層3とは、軟磁性体と硬磁性体とであってもよく、ともにいわゆる軟磁性体、もしくはともに硬磁性体であってもよい。
【0034】
非磁性層2としては、例えばAu,Ag,Cu,Pt、Pd,Ru等の金属が使用できる。保護膜4は例えばAuのような非磁性貴金属や導電性Cを用いる。ちなみに本実施例では高保磁力の強磁性層3として垂直磁化膜であるFePt、非磁性層2としてAu、低保磁力の強磁性層1としてFe、保護膜4としてAuを用いた。
【0035】
金属探針5の近傍に設置されている磁極10から書き込みたい方向の磁場Hを印加する。高保磁力の強磁性層3の保磁力Hcと、低保磁力の強磁性層1の保磁力Hcと、磁極10から発生する印加磁場Hとは、Hc<H<Hcの関係がある。このため、印加磁場Hのみ印加された場合、低保磁力の強磁性層1の磁化方向は印加磁場方向にそろうが、高保磁力の強磁性層3の磁化方向を書き換えるには至らない。
【0036】
ここで、低保磁力の強磁性層1としてFeを用いているため、磁場が印加されていない時、低保磁力の強磁性層1の磁化方向は印加磁場と直交する薄膜面内方向を向いている。
【0037】
なお、高保磁力磁性層の磁化成分と、磁界が印加されていない時の低保磁力の強磁性層の磁化方向とは、互いに直交する磁化成分を持ってもよい。このように直交していると、磁化垂直成分の読み取り時に高保磁力記録層からの寄与のみとなり、低保磁力強磁性層からのノイズを低減することができる。
【0038】
また、高保磁力磁性層の磁化成分と、磁界非印加時の低保磁力の強磁性層の磁化方向とが、互いに平行もしくは反平行な磁化成分を持ってもよい。このように平行もしくは反平行の場合、磁化構造が異なり、読み取り時のノイズ等も異なる。
【0039】
次に、図1に示す垂直な印加磁場Hにより、低保磁力の強磁性層1の磁化は、磁場が印加されている領域8において、印加磁場方向に向く。
【0040】
多層膜41中のフェルミ準位近傍の電子は、多層膜中に閉じ込められており、図2に示すように、量子井戸状態14〜17を形成する。強磁性層1および3の磁化の方向が平行な場合は、その磁化と反平行な電子スピンを持つ電子の状態は16のように非磁性層2中にほぼ閉じ込められるのに対し、磁化と平行な電子スピンを持つ電子の状態は17のように多層膜41中の全体に閉じ込められる。
【0041】
一方、強磁性層1および3の磁化の方向が反平行な場合は、電子の状態はそのスピンの向きに依存して14ないしは15のようにお互いに異なる膜中に閉じ込められる。
【0042】
これらの量子井戸を形成する電子の状態は、強磁性層1および3の磁化の方向に依存するだけでなく、保護膜4の表面の状態に敏感に依存する。保護膜4の表面に金属探針5を近付けると、保護膜4と金属探針5のイメージポテンシャルが重なりあい、量子井戸電子を閉じ込めている実効的なポテンシャルが変形する。
【0043】
一方、図1に示すように、保護膜4の表面と金属探針5との距離を所定値に維持した状態で、多層膜41と金属探針5との間に電圧−V0を印加できるようにしている。すなわち、スイッチ12をオンすることにより電圧−V0を印加すると、保護膜4の表面における閉じ込めポテンシャルが変化する。
【0044】
その結果、量子井戸電子を閉じ込める境界条件が変化するため、量子井戸電子のエネルギー準位が変化する。この量子井戸準位のエネルギー(磁気的相互作用)が変化することにより、高保磁力の強磁性層3および低保磁力の強磁性層1との間の磁気的交換相互作用が変化し、図3で後述するように、交換磁場9(H)が誘起される。ただし、電界非印加時の強磁性層間に働く磁気的交換相互作用はほぼ0となるように非磁性層2の膜厚を設定する。
【0045】
高保磁力の強磁性層3に磁化情報を書きこむステップを、具体的に説明する。まず、多層膜41に対し、磁極10から磁場Hを印加する。このとき、低保磁力の強磁性層1の磁化方向は、印加磁場Hにより、印加磁場方向にそろう。これは、低保磁力の強磁性層1の保磁力Hcが、印加磁場Hより小さいからである。一方、高保磁力の強磁性層3の磁化方向は、印加磁場Hのみでは、印加磁場方向にそろわない。これは、高保磁力の強磁性層3の保磁力Hcが、印加磁場Hより大きいからである。
【0046】
次に、スイッチ12をオンすることにより、正又は負の何れか一方の電圧を印加する。ここでは、電圧−V0を印加する。このとき、低保磁力の強磁性層1と高保磁力の強磁性層3の磁化が平行になるように、交換磁場9(H)が誘起される。その結果、高保磁力の強磁性層3に、高保磁力の強磁性層3の保磁力Hcよりも大きな磁場H+Hが印加されるので、高保磁力の強磁性層3の磁化方向が書き換えられる。
【0047】
つまり、高保磁力の強磁性層3の磁化の書き換えすなわち磁化反転をするためには、外部磁場の印加方向を逆にし、同極の電圧−V0を印加することにより可能となる。
【0048】
このようにして、外部磁場Hおよび金属探針による電圧−V0を印加することにより、Hc<H+Hを満たす高保磁力の強磁性層3に対し、外部磁場Hのみでは書き込めない高保磁力の強磁性層3の磁化を書きこむことが可能である。
【0049】
なお、高保磁力の強磁性層3には磁気異方性による保磁力があるため、金属探針5や外部磁場10を除いても、書き込まれた磁化方向は保持される。
【0050】
また、磁化情報を読み出すステップを具体的に説明する。まず、多層膜41に書き込まれた磁化情報は、スイッチ11をオンにし、電圧V(│V│≪│V0│)を印加し、かつ磁場Hを印加しながら、金属探針5と多層膜41との間に流れるトンネル電流13を用いて読み出すことができる。
【0051】
これは、強磁性層1および3の磁化が平行か反平行かで、多層膜41中に形成される量子井戸電子のエネルギー準位が変化するため、一定電圧Vのもとで測定されるトンネル電流が、磁化方向に依存して変化するからである。
【0052】
ここで磁場を印加するのは、低保磁力の強磁性層1の磁化方向を面に垂直で同じ方向にそろえるためであり、書き込み時の印加磁場Hよりも小さくてもよい。
【0053】
図3は、高保磁力の強磁性層3としてFePt 13 ML(:monolayer単原子層)、非磁性層2としてAu 5 ML、低保磁力の強磁性層1として30 MLの Fe層、保護膜4として6 MLのAuとした場合の、多層膜表面におけるポテンシャル障壁の高さV(横軸)を金属探針により変化させた時の、強磁性層1と3との間に働く磁気的交換相互作用エネルギーJの大きさ(縦軸)を計算したものである。
【0054】
ここで、Vは、金属探針電界により変調された表面の仕事関数(WF)に相当する。探針電圧をVとして、V〜WF-Vと近似的には考えてよい。探針電圧が負の時にVは大きくなり、探針電圧が正の時にVは小さくなる。とはいえ、Vの大きさは、探針と表面との間の距離すなわち電界にも、依存する。
【0055】
Jが正の場合は、強磁性層1および3の相対的な磁化の方向は反平行状態が安定であり、Jが負の場合は、平行状態が安定である。金属探針により保護膜4の表面におけるポテンシャルを変形させることにより、強磁性層1と3との間に働く磁気的交換相互作用Jを正にも負にもすることが可能である。これは、金属探針により強磁性層1および3の相対的な磁化の方向を書き換えることができることを示している。
【0056】
ここで、電界により誘起される交換磁場Hと磁気的交換相互作用J との間には、tをFePtの膜厚、MsをFePtの飽和磁化として、H=- J/( t・Ms)の関係がある。例えばJ=-2mJ/m2, t=3nm, Ms=1000emu/cm3の時、H=6.7KOeとなる。
【0057】
図3のAu6ML/FePt 13ML/Au5ML/Feにおいてポテンシャル障壁高さが4.6eV付近で、強磁性層1と3との間に働く磁気的交換相互作用エネルギーJがほぼ0となっている。
【0058】
この系の場合、Auの仕事関数は〜5.5eVであるので、最表面にCsやBaなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属を塗布し仕事関数を下げ、ポテンシャル障壁高さを4.6eVに設定することにより、Jの大きさが0となるようにすることができる。Jの大きさが0であるこの状態では、強磁性層1と3との間には磁気的な相互作用は生じない。
【0059】
この時、金属探針5を多層膜表面に近づけ、さらに金属探針5と多層膜41との間に電圧−V0<0を印加すると、ポテンシャル障壁の高さを大きくさせることができるため、強磁性層1と3との間に働く磁気的交換相互作用Jを負に、すなわち強磁性層1および3の相対的な磁化の方向を平行状態が安定になるように変えることができる。すなわち、金属探針に電圧−V0を印加することにより、強磁性層1および3の相対的な磁化が平行になるように、誘起交換磁場Hを印加することができる。
【0060】
さて、金属探針による電界非印加時のポテンシャル障壁高さVは、多層膜表面の仕事関数であるが、表面の吸着物や形状などによりこの値は若干変動する。また、金属探針の印加電圧−V0は一定でも、探針と表面の距離が変動すると探針―表面間の電界が変動し、Vも変動する。
【0061】
本実施例の構成とすれば、金属探針に負の電圧−V0を印加した場合、図3からわかるように、JはVの広い領域(V>4.6eV)で負とすることができる。すなわち、表面の状態や探針―表面距離が多少変動しても、十分大きな印加電圧│V0│を印加することにより、所定のJすなわちHを誘起することが可能となる。
【0062】
本実施例の構成によれば、印加電圧−V0の正負を変化させる必要はなく、また記録媒体表面の状態や、金属探針と表面との距離に依存する電界が変動しても、誘起交換磁場Hの変動幅は小さいため、安定に磁化を書き換えることが可能となる。
【0063】
なお、前述したように、磁化反転には磁極10からの印可磁場6を反転させることにより行うため、印加電圧は一定でよい。3<V<4.6 eVの領域でも、正の電圧V0を印加することで、磁化方向を書き換えることは可能である。本発明は常に負の電圧-V0を印加するだけで、印加磁場方向を逆にすることで磁化方向を書き換えられる。
【0064】
図3によれば、正の電圧を金属探針に印加することによりVを小さくし、3<V<4.6 eVの領域で、強磁性層1および3の相対的な磁化の方向を反平行状態が安定になるように書き込むことが可能である。しかし、表面の状態(WF)や探針―表面距離によりVが変動するため、書き込み時に常に3<V<4.6 eVとなるように安定に制御することは難しい。
【0065】
なお、磁化記録領域は、複数の空間的に分割された領域を有していてもよい。即ち、いわゆる連続膜からなる磁気記録媒体ではなく、パターン化されたパターン媒体であってもよい。
【0066】
また、磁化情報の読み取りであるが、強磁性金属探針と磁化領域との間に働く磁気的反発力により強磁性層の磁化方向を読み取る方式を用いてもよい。探針が磁化していると、媒体の磁化方向により、磁気的な力が働く(NとNなら反発する等)。これにより媒体の磁化方向のイメージングが可能となる。
【0067】
また、金属探針がもしくは金属電極がスライダ中にうめこまれていてもよい。スライダ中に埋め込まれていると、金属探針の浮上制御が容易になる。
【実施例2】
【0068】
図4に示すように、基板100上に、軟磁性層18、低保磁力の強磁性層1、非磁性層2、高保磁力の強磁性層3、保護膜4が形成されており、金属探針5と多層膜41との間は電圧−V0を印加できるようになっている。
【0069】
ここで保護膜4は例えばAuのような非磁性貴金属である。ここで、実施例1の低保磁力の強磁性層1の磁化方向が、磁場非印加時に膜面に平行だったのに対し、ここでは膜面に垂直になっている。例えば、低保磁力の強磁性層1として、FePt、CoPt,CoPd、CoCrPt、FePdなど連続膜の場合は、磁化方向が膜面に垂直方向である低保磁力の強磁性層となる。
【0070】
実施例1と同様に、多層膜41中のフェルミ準位近傍の電子は、多層膜中に閉じ込められており、量子井戸状態14〜17を形成する。保護膜4の表面に金属探針5を近付けると、保護膜4と金属探針5のイメージポテンシャルが重なりあい、量子井戸電子を閉じ込めている実効的なポテンシャルが変形する。
【0071】
この時、磁極10、コイル19により書き込み磁化方向に印加磁場6(H)を印加し、さらに、電圧−V0により多層膜41と金属探針5との間に電圧を印加する。この時、低保磁力の強磁性層1と高保磁力の強磁性層3の磁化が平行になるように交換磁場9(H)が誘起され、高保磁力の強磁性層3には実効的にH+Hの磁場が印加されるため、印加磁場Hだけでは書き込みができない高保磁力の強磁性層3の磁化方向を書き換えることができる。
【0072】
図5は、書き込み用の金属探針5とは別に、トンネル電流による読み取り用の金属探針20をスライダ30に具備した例を示す。この場合、金属探針5は書き込みだけを行えばよく、トンネル電流検出用の電位Vは金属探針20に印加し、実施例1で述べたようにそのトンネル電流変化から磁化方向を読み取ることができる。
【実施例3】
【0073】
図6に示すように、磁気記録媒体70には、基板100上に、反強磁性層25、強磁性層26、非磁性層27、低保磁力の強磁性層1、非磁性層2、高保磁力の強磁性層3、保護膜4が形成されている。金属探針5と多層膜41との間は電圧−V0を印加できるようになっている。
【0074】
ここで保護膜4は例えばAuのような非磁性物質である。反強磁性層25により、強磁性層26の磁化方向は一方向に固定されている。また、強磁性層26と低保磁力の強磁性層1との間には交換相互作用が働き、低保磁力の強磁性層1の磁化は、強磁性層26の磁化と平行もしくは反平行の一方向に固定されている。次に、保護膜4の表面に金属探針5を近付け、磁極10から印加磁場6、および多層膜41と金属探針5との間に電圧−V0を印加する。
【0075】
ここで、印加磁場6は、強磁性層26と低保磁力の強磁性層1との間の交換相互作用より十分大きく、磁場6を印加することにより、低保磁力の強磁性層1の磁化は、膜面に垂直で磁場方向に向く。
【0076】
この時、実施例1と同様に、多層膜41中のフェルミ準位近傍の電子は、多層膜中に閉じ込められ、量子井戸状態を形成する。保護膜4の表面に金属探針5を近付け、スイッチ12をオンすることにより電圧−V0を印加すると、保護膜4と金属探針5のイメージポテンシャルが重なりあい、量子井戸電子を閉じ込めている実効的なポテンシャルが変形する。
【0077】
保護膜4の表面におけるとじ込めポテンシャルが変化すると、量子井戸電子を閉じ込める境界条件が変化するため、量子井戸電子のエネルギー準位が変化する。この量子井戸準位のエネルギーが変化することにより、高保磁力の強磁性層3および低保磁力の強磁性層1との間の磁気的交換相互作用が変化し、交換磁場9(H)が誘起される。
【0078】
ただし、電界非印加時の強磁性層間に働く磁気的交換相互作用はほぼ0となるように非磁性層2の膜厚を設定している。
【0079】
外部磁場Hおよび金属探針による電圧−V0を印加することにより、Hc<H+Hを満たす高保磁力の強磁性層3に対し、外部磁場Hのみでは書き込めない高保磁力の強磁性層の磁化を書きこむことが可能である。
【0080】
高保磁力の強磁性層3には磁気異方性による保磁力があるため、金属探針5や外部磁場6を除いても、書き込まれた磁化方向は保持される。
【0081】
高保磁力の強磁性層の磁化の書き換えすなわち磁化反転をするためには、外部磁場の印加方向を逆にし、同極の電圧−V0を印加することにより可能となる。印加磁場Hにより、低保磁力の強磁性層1の磁化方向は印加磁場方向にそろうものの、高保磁力の強磁性層3の磁化方向をさせるには至らない。
【0082】
スイッチ12をオンすることにより電圧−V0を印加すると、低保磁力の強磁性層1と高保磁力の強磁性層3の磁化が平行になるように交換磁場9が誘起され、高保磁力の強磁性層3にはH+Hの磁場が印加されるため、磁化方向を書き換えることができる。
【0083】
図7は、トンネル電流による検出手法に代わり、GMRないしはTMR等による磁気抵抗変化を用いた素子31を磁化検出素子としてスライダ30に具備した例を示す。この場合も、金属探針5は書き込みだけを行えばよく、磁化方向は磁気抵抗素子31の抵抗変化から読み出される。
【0084】
図8は、磁性探針32を磁化読み取り手段としてスライダ30に具備した例である。磁性探針32はカンチレバー33の先端に具備されている。磁気力顕微鏡(MFM:Magnetic Force Microscopy)としてよく知られているように、媒体の磁化方向に応じて磁性探針に働く力が異なるため、カンチレバー33の先端の磁性探針32の変位が媒体の磁化方向に応じて変化する。
【0085】
磁性探針32の変位を光てこ方式により、半導体レーザー34から出射し、カンチレバー33背面で反射したレーザー光35を光検出器36により読み取ることで、その検出強度変化から媒体の磁化方向を読み取ることが可能である。
【0086】
本実施例では、強磁性固定層26を備えているので、磁極10からの磁場6が印加されていないときにおいて、低保磁力の強磁性層1の磁化が強磁性層26の磁化と平行もしくは反平行の一方向にしっかりと固定されている。それゆえ、高保磁力の強磁性層3の磁化を読み取るときに、低保磁力の強磁性層1の磁化の影響による読み取りノイズを低減することが可能である。
【実施例4】
【0087】
図9に示すように、磁気記録媒体70は、基板100上に、反強磁性層50、強磁性層51、非磁性層52、低保磁力の強磁性層1、非磁性層2、高保磁力の強磁性層3、保護膜4が形成されている。また、金属探針5と多層膜41との間は電圧−V0を印加できるようになっている。
【0088】
ここで保護膜4は例えばAuのような非磁性物質である。反強磁性層50により、強磁性層51の磁化方向は膜面垂直方向の一方向に固定されている。
【0089】
また、強磁性層51と低保磁力の強磁性層1との間には交換相互作用が働き、低保磁力の強磁性層1の磁化は、強磁性層51の磁化と平行もしくは反平行の面垂直方向に固定されている。
【0090】
ここで、強磁性層51、非磁性層52を省き、低保磁力の強磁性層1に直接接して反強磁性層50を設け、交換相互作用により低保磁力の強磁性層1の磁化方向を一方向に固定してもよい。
【0091】
次に、保護膜4の表面に金属探針5を近付け、磁極10から印加磁場6、および多層膜41と金属探針5との間に電圧−V0を印加する。
【0092】
ここで、印加磁場6は、交換相互作用よる低保磁力の強磁性層1の保磁力よりも十分大きく、磁場6の印加により低保磁力の強磁性層1の磁化は膜面に垂直で磁場方向に向く。
【0093】
この時、実施例1と同様に、多層膜41中のフェルミ準位近傍の電子は、多層膜中に閉じ込められ、量子井戸状態を形成する。保護膜4の表面に金属探針5を近付け、スイッチ12をオンすることにより電圧−V0を印加すると、保護膜4と金属探針5のイメージポテンシャルが重なりあい、量子井戸電子を閉じ込めている実効的なポテンシャルが変形する。
【0094】
保護膜4の表面におけるとじ込めポテンシャルが変化すると、量子井戸電子を閉じ込める境界条件が変化するため、量子井戸電子のエネルギー準位が変化する。この量子井戸準位のエネルギーが変化することにより、高保磁力の強磁性層3および低保磁力の強磁性層1との間の磁気的交換相互作用が変化し、交換磁場(H)が誘起される。
【0095】
ただし、電界非印加時の強磁性層間に働く磁気的交換相互作用はほぼ0となるように非磁性層2の膜厚を設定している。外部磁場Hおよび金属探針による電圧−V0を印加することにより、Hc<H+Hを満たす高保磁力の強磁性層3に対し、外部磁場Hのみでは書き込めない高保磁力の強磁性層3の磁化を書きこむことが可能である。
【0096】
高保磁力の強磁性層3には磁気異方性による保磁力があるため、金属探針5や外部磁場6を除いても、書き込まれた磁化方向は保持される。
【0097】
高保磁力の強磁性層の磁化の書き換えすなわち磁化反転をするためには、外部磁場の印加方向を逆にし、同極の電圧−V0を印加することにより可能となる。印加磁場Hにより、低保磁力の強磁性層1の磁化方向は印加磁場方向にそろうものの、高保磁力の強磁性層3の磁化方向をさせるには至らない。
【0098】
スイッチ12をオンすることにより電圧−V0を印加すると、低保磁力の強磁性層1と高保磁力の強磁性層3の磁化が平行になるように交換磁場が誘起され、高保磁力の強磁性層3にはH+Hの磁場が印加されるため、磁化方向を書き換えることができる。
【0099】
本実施例では、強磁性固定層51を備えているので、磁極10からの磁場6が印加されていないときにおいても、低保磁力の強磁性層1の磁化は、強磁性層51の磁化と平行もしくは反平行の一方向にしっかりと固定されている。それゆえ、高保磁力の強磁性層3の磁化を読み取るときに、低保磁力の強磁性層1の磁化の影響による読み取りノイズを低減することが可能である。
【実施例5】
【0100】
図10に示すように、磁気記録媒体70は、基板100上に、低保磁力の強磁性層1、非磁性層2、高保磁力の強磁性層3、保護膜4が形成されている。強磁性層1及び3の磁化方向は、膜面面内方向に平行なものである。そして、金属探針5と多層膜41との間は電圧−V0を印加できるようになっている。
【0101】
ここで保護膜4は例えばAuのような非磁性物質である。ここで、低保磁力の強磁性層1、および高保磁力の強磁性層3の磁化方向は膜面内方向を向いている。次に、保護膜4の表面に金属探針5を近付け、磁極10から印加磁場6、および多層膜41と金属探針5との間に電圧−V0を印加する。
【0102】
この時、実施例1と同様に、多層膜41中のフェルミ準位近傍の電子は、多層膜中に閉じ込められ、量子井戸状態を形成する。保護膜4の表面に金属探針5を近付け、スイッチ12をオンすることにより電圧−V0を印加すると、保護膜4と金属探針5のイメージポテンシャルが重なりあい、量子井戸電子を閉じ込めている実効的なポテンシャルが変形する。
【0103】
保護膜4の表面におけるとじ込めポテンシャルが変化すると、量子井戸電子を閉じ込める境界条件が変化するため、量子井戸電子のエネルギー準位が変化する。この量子井戸準位のエネルギーが変化することにより、高保磁力の強磁性層3および低保磁力の強磁性層1との間の磁気的交換相互作用が変化し、交換磁場(H)が誘起される。
【0104】
ただし、電界非印加時の強磁性層間に働く磁気的交換相互作用はほぼ0となるように非磁性層2の膜厚を設定している。外部磁場Hおよび金属探針による電圧−V0を印加することにより、Hc<H+Hを満たす高保磁力の強磁性層3に対し、外部磁場Hのみでは書き込めない高保磁力の強磁性層の磁化を書きこむことが可能である。
【0105】
高保磁力の強磁性層3には磁気異方性による保磁力があるため、金属探針5や外部磁場6を除いても、書き込まれた磁化方向は保持される。
【0106】
高保磁力の強磁性層の磁化の書き換えすなわち磁化反転をするためには、外部磁場の印加方向を逆にし、同極の電圧−V0を印加することにより可能となる。印加磁場Hにより、低保磁力の強磁性層1の磁化方向は印加磁場方向にそろうものの、高保磁力の強磁性層3の磁化方向をさせるには至らない。
【0107】
スイッチ12をオンすることにより電圧−V0を印加すると、低保磁力の強磁性層1と高保磁力の強磁性層3の磁化が平行になるように交換磁場が誘起され、高保磁力の強磁性層3にはH+Hの磁場が印加されるため、磁化方向を書き換えることができる。
【実施例6】
【0108】
図11に示すように、磁気記録媒体70は、基板100上に、反強磁性層50、低保磁力の強磁性層1、非磁性層2、高保磁力の強磁性層3、保護膜4が形成されている。(強磁性層1及び3の磁化方向は、膜面面内方向に平行なものである。そして、金属探針5と多層膜41との間は電圧−V0を印加できるようになっている。
【0109】
ここで保護膜4は例えばAuのような非磁性物質である。反強磁性層50と低保磁力の強磁性層1との間の交換相互作用により、低保磁力の強磁性層1の磁化は、面内方向に固定されている。
【0110】
ここで、実施例4と同様に、反強磁性層50と低保磁力の強磁性層1との間にさらに強磁性層、非磁性層を設け、交換相互作用により低保磁力の強磁性層1の磁化方向を一方向に固定してもよい。
【0111】
次に、保護膜4の表面に金属探針5を近付け、磁極10から印加磁場6、および電圧−V0により多層膜41と金属探針5との間に電圧を印加する。
【0112】
ここで、印加磁場6は、交換相互作用よる低保磁力の強磁性層1の保磁力よりも十分大きく、磁場6の印加により低保磁力の強磁性層1の磁化は膜面内で磁場方向に向く。
【0113】
この時、実施例1と同様に、多層膜41中のフェルミ準位近傍の電子は、多層膜中に閉じ込められ、量子井戸状態を形成する。保護膜4の表面に金属探針5を近付け、スイッチ12をオンすることにより電圧−V0を印加すると、保護膜4と金属探針5のイメージポテンシャルが重なりあい、量子井戸電子を閉じ込めている実効的なポテンシャルが変形する。
【0114】
保護膜4の表面におけるとじ込めポテンシャルが変化すると、量子井戸電子を閉じ込める境界条件が変化するため、量子井戸電子のエネルギー準位が変化する。この量子井戸準位のエネルギーが変化することにより、高保磁力の強磁性層3および低保磁力の強磁性層1との間の磁気的交換相互作用が変化し、交換磁場(H)が誘起される。
【0115】
ただし、電界非印加時の強磁性層間に働く磁気的交換相互作用はほぼ0となるように非磁性層2の膜厚を設定している。外部磁場Hおよび金属探針による電圧−V0を印加することにより、Hc<H+Hを満たす高保磁力の強磁性層3に対し、外部磁場Hのみでは書き込めない高保磁力の強磁性層の磁化を書きこむことが可能である。
【0116】
高保磁力の強磁性層3には磁気異方性による保磁力があるため、金属探針5や外部磁場6を除いても、書き込まれた磁化方向は保持される。
【0117】
高保磁力の強磁性層の磁化の書き換えすなわち磁化反転をするためには、外部磁場の印加方向を逆にし、同極の電圧−V0を印加することにより可能となる。印加磁場Hにより、低保磁力の強磁性層1の磁化方向は印加磁場方向にそろうものの、高保磁力の強磁性層3の磁化方向をさせるには至らない。
【0118】
スイッチ12をオンすることにより電圧−V0を印加すると、低保磁力の強磁性層1と高保磁力の強磁性層3の磁化が平行になるように交換磁場が誘起され、高保磁力の強磁性層3にはH+Hの磁場が印加されるため、磁化方向を書き換えることができる。
【0119】
本実施例では、反強磁性層50を備えているので、磁極10からの磁場6が印加されていないときにおいても、低保磁力の強磁性層1の磁化は、膜面内の一方向にしっかりと固定されている。それゆえ、高保磁力の強磁性層3の磁化を読み取る場合に、低保磁力の強磁性層1の磁化の影響による読み取りノイズを低減することが可能である。
【実施例7】
【0120】
図12に示すように、磁気記録媒体70は、基板100上に、軟磁性層18、反強磁性層50、低保磁力の強磁性層1、非磁性層2、高保磁力の強磁性層3、保護膜4が形成されている。金属探針5と多層膜41との間は電圧−V0を印加できるようになっている。
【0121】
ここで保護膜4は例えばAuのような非磁性物質である。反強磁性層50により、低保磁力の強磁性層1の磁化方向は一方向に固定されているが、実施例4と同様に、反強磁性層50と低保磁力の強磁性層1との間にさらに強磁性層、非磁性層を設け、交換相互作用により低保磁力の強磁性層1の磁化方向を一方向に固定してもよい。
【0122】
また、磁場非印加時の低保磁力の強磁性層1の磁化方向は面内方向を向いていてもよい。レジストパターニング、イオンミリング、レジスト除去によるリソグラフィーにより、図12に示すように、保護膜4、高保磁力の強磁性層3、非磁性層2はドット状にパターニングされており、柱状のナノピラー60、61が形成されている。
【0123】
ここで、反強磁性層50の層までパターニングしてもよいが、非磁性層2、高保磁力の強磁性層3、反強磁性層50は必ずしもパターニングされていなくても良い。また、ナノピラーはさらに複数個あってもよく、各ピラーが情報の記憶単位となっている。図13にこのナノピラー媒体の一部の鳥瞰図を示す。
【0124】
また図14に、他のナノピラーの形成例を示す。各ピラー間は、アルミナ等の絶縁体もしくはSi等の半導体により間隙が埋められていても良い。
【0125】
次に、例えばナノピラー61の保護膜4の表面に金属探針5を近付け、磁極10から印加磁場6、および多層膜41と金属探針5との間に電圧−V0を印加する。ここで、印加磁場6は、交換相互作用よる低保磁力の強磁性層1の保磁力よりも十分大きく、磁場6の印加により低保磁力の強磁性層1の磁化は磁場方向に向く。
【0126】
この時、実施例1と同様に、多層膜41中のフェルミ準位近傍の電子は、ナノピラー61の多層膜中に閉じ込められ、量子井戸状態を形成する。保護膜4の表面に金属探針5を近付け、スイッチ12をオンすることにより電圧−V0を印加すると、保護膜4と金属探針5のイメージポテンシャルが重なりあい、量子井戸電子を閉じ込めている実効的なポテンシャルが変形する。
【0127】
保護膜4の表面におけるとじ込めポテンシャルが変化すると、量子井戸電子を閉じ込める境界条件が変化するため、量子井戸電子のエネルギー準位が変化する。この量子井戸準位のエネルギーが変化することにより、高保磁力の強磁性層3および低保磁力の強磁性層1との間の磁気的交換相互作用が変化し、交換磁場(H)が誘起される。
【0128】
ただし、電界非印加時の強磁性層間に働く磁気的交換相互作用はほぼ0となるように非磁性層2の膜厚を設定している。外部磁場Hおよび金属探針による電圧−V0を印加することにより、Hc<H+Hを満たす高保磁力の強磁性層3に対し、外部磁場Hのみでは書き込めない高保磁力の強磁性層3の磁化を書きこむことが可能である。
【0129】
高保磁力の強磁性層3には磁気異方性による保磁力があるため、金属探針5や外部磁場6を除いても、書き込まれた磁化方向は保持される。
【0130】
高保磁力の強磁性層3の磁化の書き換えすなわち磁化反転をするためには、外部磁場の印加方向を逆にし、同極の電圧−V0を印加することにより可能となる。印加磁場Hにより、低保磁力の強磁性層1の磁化方向は印加磁場方向にそろうものの、高保磁力の強磁性層3の磁化方向をさせるには至らない。
【0131】
スイッチ12をオンすることにより電圧−V0を印加すると、低保磁力の強磁性層1と高保磁力の強磁性層3の磁化が平行になるように交換磁場が誘起され、高保磁力の強磁性層3にはH+Hの磁場が印加されるため、磁化方向を書き換えることができる。
【0132】
本実施例では、反強磁性層50を備えるので、磁極10からの磁場6が印加されていないときにおいても、低保磁力の強磁性層1の磁化は、膜面内の一方向にしっかりと固定されている。それゆえ、高保磁力の強磁性層3の磁化を読み取る場合に、低保磁力の強磁性層1の磁化の影響による読み取りノイズを低減することが可能である。
【実施例8】
【0133】
図15に示すように、基板100上に、反強磁性層50、低保磁力の強磁性層1、非磁性層2、高保磁力の強磁性層3、保護膜4が形成されており、金属探針5と多層膜41との間は電圧−V0を印加できるようになっている。ここで保護膜4は例えばAuのような非磁性物質である。反強磁性層50により、低保磁力の強磁性層1の磁化方向は一方向に固定されている。
【0134】
実施例4と同様に、反強磁性層50と低保磁力の強磁性層1との間にさらに強磁性層、非磁性層を設け、交換相互作用により低保磁力の強磁性層1の磁化方向を一方向に固定してもよい。なお、実施例7と異なり、高保磁力の強磁性層3の磁化方向は、膜面内方向を向いている。
【0135】
レジストパターニング、イオンミリング、レジスト除去によるリソグラフィーにより、図15に示すように、保護膜4、高保磁力の強磁性層3、非磁性層2はドット状にパターニングされており、柱状のナノピラー60、61が形成されている。
【0136】
ここで、反強磁性層50の層までパターニングしてもよいが、非磁性層2、高保磁力の強磁性層3、反強磁性層50は必ずしもパターニングされていなくても良い。また、ナノピラーはさらに複数個あってもよく、実施例7と同様に、各ピラーが情報の記憶単位となっている。
【0137】
図16に、他のナノピラーの形成例を示す。各ピラー間は、アルミナ等の絶縁体もしくはSi等の半導体により間隙が埋められていても良い。
【0138】
次に、例えばナノピラー61の保護膜4の表面に金属探針5を近付け、磁極10から印加磁場6、および多層膜41と金属探針5との間に電圧−V0を印加する。
【0139】
ここで、印加磁場6は、交換相互作用よる低保磁力の強磁性層1の保磁力よりも十分大きく、磁場6の印加により低保磁力の強磁性層1の磁化は磁場方向に向く。この時、実施例1と同様に、多層膜41中のフェルミ準位近傍の電子は、ナノピラー61の多層膜中に閉じ込められ、量子井戸状態を形成する。保護膜4の表面に金属探針5を近付け、スイッチ12をオンすることにより電圧−V0を印加すると、保護膜4と金属探針5のイメージポテンシャルが重なりあい、量子井戸電子を閉じ込めている実効的なポテンシャルが変形する。
【0140】
保護膜4の表面におけるとじ込めポテンシャルが変化すると、量子井戸電子を閉じ込める境界条件が変化するため、量子井戸電子のエネルギー準位が変化する。この量子井戸準位のエネルギーが変化することにより、高保磁力の強磁性層3および低保磁力の強磁性層1との間の磁気的交換相互作用が変化し、交換磁場(H)が誘起される。
【0141】
ただし、電界非印加時の強磁性層間に働く磁気的交換相互作用はほぼ0となるように非磁性層2の膜厚を設定している。外部磁場Hおよび金属探針による電圧−V0を印加することにより、Hc<H+Hを満たす高保磁力の強磁性層3に対し、外部磁場Hのみでは書き込めない高保磁力の強磁性層の磁化を書きこむことが可能である。
【0142】
高保磁力の強磁性層3には磁気異方性による保磁力があるため、金属探針5や外部磁場6を除いても、書き込まれた磁化方向は保持される。
【0143】
高保磁力の強磁性層3の磁化の書き換えすなわち磁化反転をするためには、外部磁場の印加方向を逆にし、同極の電圧−V0を印加することにより可能となる。印加磁場Hにより、低保磁力の強磁性層1の磁化方向は印加磁場方向にそろうものの、高保磁力の強磁性層3の磁化方向をさせるには至らない。
【0144】
スイッチ12をオンすることにより電圧−V0を印加すると、低保磁力の強磁性層1と高保磁力の強磁性層3の磁化が平行になるように交換磁場が誘起され、高保磁力の強磁性層3にはH+Hの磁場が印加されるため、磁化方向を書き換えることができる。
【0145】
本実施例では、反強磁性層50を備えるので、磁極10からの磁場6が印加されていないときにおいても、低保磁力の強磁性層1の磁化は、膜面内の一方向にしっかりと固定されている。それゆえ、高保磁力の強磁性層3の磁化を読み取る場合に、低保磁力の強磁性層1の磁化の影響による読み取りノイズを低減することが可能である。
【実施例9】
【0146】
図17に、本発明の実施例9に相当する磁気記録装置の構成概要を示す。前述の各実施例で説明した多層膜41、例えば、反強磁性層50、低保磁力の強磁性層1、非磁性層2、高保磁力の強磁性層3および保護膜4から成る多層膜41を、円板状の記録媒体42として形成する。
【0147】
多層膜41に対向して設けられる金属探針5はアーム43の先端部に設けられたスライダー45の下部に取り付けられる。図18に示すように、スライダ45中に埋め込まれていてもよい。
【0148】
ここで、図19は図18のスライダ45の断面200−201における金属探針5および磁極10を示している。ここで、金属探針5は、多層膜41に対向する方向が先鋭化する金属薄膜となっており、これがスライダ45中の絶縁部202中に埋め込まれているものである。
【0149】
図17において、44はアーム43の回転支持軸であり、アーム43はアーム制御用モータ163により位置制御される。円板状の記録媒体42を、スピンドルモータ161により回転軸160を中心に回転させると、通常の磁気ディスク装置と同様、スライダー44は所定の距離だけ浮上する。したがって、金属探針5は多層膜41に対向して、ほぼ一定の距離をもって多層膜41に対向配置される。
【0150】
円板状記録媒体42の基板表面と、金属探針5との間にアーム43を介して電圧および磁場を印加することにより、実施例1から8で説明したと同様に、多層膜41に磁化方向のドメインとして情報を記録させることができる。
【0151】
ここで、多層膜41、回転軸160、および絶縁支持台162上に支持されているスピンドルモータ161は導電性がありかつ電気的に接続されており、スピンドルモータ161もしくは回転軸160と接続された信号電流線170により電圧印加、トンネル電流検出を行うことができる。
【0152】
回転軸160部分から信号電流線170をとる場合は、スピンドルモータ161と回転軸160とは電気的に絶縁されていてもよい。
【0153】
書き込みデータはデータ信号処理装置167から書き込み制御信号175として電圧印加装置164に出され、電圧印加装置164は探針電圧174を探針5と多層膜41との間に印加する。磁化情報の読み出しは、金属探針5と円板状記録媒体42との間に流れるトンネル電流の大小によって読み取ることが可能である。
【0154】
これは、実施例2で述べたように、二つの強磁性層の相対的な磁化方向が平行か、反平行かによって、生じる量子井戸状態が異なるため、その量子準位のエネルギーすなわち記録領域の状態密度が磁化方向の平行、反平行で異なるためである。この状態密度の違いを金属探針5と円板状記録媒体42との間に流れるトンネル電流の変化により読み取ることで、磁化方向を検出することが可能である。
【0155】
トンネル電流を流すための手段およびこれを検出する手段については、例えば、探針5と多層膜41との間に電圧を印加し、これに応じて流れる電流を検出するものとすれば良い。なお、磁化情報の検出には、実施例3で述べたように、GMR素子やTMR素子等による磁気抵抗変化、磁性探針の変位を利用しても良い。
【0156】
信号電流170は、電流増幅検出装置/サーボ信号生成装置165により読み取られる。読み取りデータ信号176は、データ信号処理装置167で信号処理され、必要に応じて入出力される。
【0157】
また、電流増幅検出装置/サーボ信号生成装置165は検出されたサーボパターンからサーボ信号171を生成し、アーム43のトラック位置を制御をすることが可能である。
【0158】
以上述べたように、多層膜41に対して金属探針5の電位を記録すべき信号に対応して制御し、トンネル電流等により書き込まれた磁化方向を検出すれば、一般の磁気ディスク装置と同様の磁気記録装置が実現できる。
【実施例10】
【0159】
図20に、本発明の実施例10に相当する磁気記録装置の構成概要を斜視図で示す。図20に示す円板状記録媒体42は、図14、16に示した記録媒体と同様に、反強磁性層18、低保磁力の強磁性層1、非磁性層2、高保磁力の強磁性層3および保護膜4から成る多数のナノピラー60、61で構成され、これらナノピラーが記録媒体の記憶単位を構成し、その他の構成要素は実施例9と同じである。
【0160】
図20中は、円板状記録媒体42の一部領域46を拡大した領域47にナノピラー48が回転中心49の周りに同心円上に配置されている状態を模式的に示す。
【0161】
アーム43の先端に取り付けられたスライダー45による揚力で金属探針5は円板状記録媒体42と一定の間隔を維持するものであり、金属探針5は所望の位置のナノピラー48に磁化を書き込むことが可能である。
【0162】
一方、金属探針5によりナノピラー48に書き込んだ磁化は、実施例9と同様に、トンネル電流の変化や磁気抵抗素子により読み取ることが可能である。
【0163】
また、図21は、トラック位置153に対してわずかずつずれたサーボ用ナノピラーパターン152におけるサーボ信号強度のトラック位置依存性を示している。
【0164】
サーボ信号は金属探針5とナノピラー152との間に流れるトンネル電流や磁気抵抗素子による抵抗変化を用いることができる。このようなサーボ信号強度のトラック位置依存性を用いて、トラック位置制御をすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】実施例1の磁気記録媒体70とこれに対面して設けられる金属探針5、磁極10の構成を示す図。
【図2】実施例1の、多層膜41中の量子井戸状態を示す図。
【図3】実施例1の、表面ポテンシャル障壁高さの関数としての磁気的交換相互作用エネルギーの計算例を示す図。
【図4】実施例2の、磁気記録媒体70とこれに対面して設けられる金属探針5、磁極10の構成を示す図。
【図5】実施例2の、スライダ30の構成を示す図。
【図6】実施例3の、磁気記録媒体70とこれに対面して設けられる金属探針5、磁極10の構成を示す概念図。
【図7】実施例3の、スライダ30の構成を示す図。
【図8】実施例3の、スライダ30の構成を示す図。
【図9】実施例4の、磁気記録媒体70とこれに対面して設けられる金属探針5、磁極10の構成を示す図。
【図10】実施例5の、磁気記録媒体70とこれに対面して設けられる金属探針5、磁極10の構成を示す図。
【図11】実施例6の、磁気記録媒体70とこれに対面して設けられる金属探針5、磁極10の構成を示す図。
【図12】実施例7の、磁気記録媒体70とこれに対面して設けられる金属探針5、磁極10の構成を示す図。
【図13】実施例7の、磁気記録媒体70をドット状にパターニングした例を示す図。
【図14】実施例7の、磁気記録媒体70をドット状にパターニングした例を示す図。
【図15】実施例8の、磁気記録媒体70とこれに対面して設けられる金属探針5、磁極10の構成を示す図。
【図16】実施例8の、磁気記録媒体70をドット状にパターニングした例を示す図。
【図17】実施例9の、回転記録媒体の構成を示す図。
【図18】実施例9の、スライダの構成を示す図。
【図19】実施例9の、スライダの構成を示す図。
【図20】実施例10の、回転記録媒体の構成を示す図。
【図21】実施例10の、回転記録媒体のサーボパターンを示す図。
【符号の説明】
【0166】
1…低保磁力の強磁性層、2…非磁性層、3…高保磁力の強磁性層、4…保護膜、5…金属探針、6…印加磁場、7…書き込み領域、8…磁場印加領域、9…誘起交換磁場、10…磁極、11…スイッチ、12…スイッチ、13…電流計,14…量子井戸状態、15…量子井戸状態、16…量子井戸状態、17…量子井戸状態、18…軟磁性層、19…コイル、20…検出用金属探針、針、25…反強磁性層、26…強磁性層、27…非磁性層、30…スライダー、31…GMR/TMR素子、32…磁性探針、33…カンチレバー、34…半導体レーザー、35…レーザー光、36…光検出素子、41…多層膜、42…円板状記録媒体、43…アーム、44…アーム回転軸、45…スライダー、46…記憶媒体の一部、47…記憶媒体46の拡大部、48…ナノピラー、49…媒体回転軸、50…反強磁性層、51…強磁性層、52…非磁性層、60、61…ナノピラー、70…磁気記録媒体、100…基板、152…サーボ用ナノピラー、153…トラック位置、160…回転軸、161…スピンドルモータ、162…絶縁支持台、163…アーム制御用モータ、164…電圧印加装置、165…電流増幅検出/サーボ信号生成装置、167…データ信号処理装置、170…信号電流、171…サーボ信号、174…探針電圧、175…書き込み制御信号、176…読み取りデータ信号、200,201…スライダ断面、202…絶縁部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、第1の強磁性層と、前記第1の強磁性層上に形成された非磁性層と、前記非磁性層上に形成された第2の強磁性層とを有し、第2の強磁性層の保磁力Hcが第1の強磁性層の保磁力Hcよりも大きい磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体に磁界Hを印加する磁極と、
金属探針と前記磁気記録媒体との間に、正又は負の何れか一方の電圧Vを印加する手段とを備え、
前記第1の強磁性層と第2の強磁性層との間に形成された非磁性層中には、量子井戸準位が形成されており、
前記磁界Hにより、第1の強磁性層の磁化方向が印加磁場方向に変化し、
前記正又は負の何れか一方の電圧Vが印加されることにより、前記第1の強磁性層と第2の強磁性層との間の量子井戸準位のエネルギーが変化して、交換磁場Hが誘起され、
前記磁界Hと交換磁場Hとにより、前記第2の強磁性層の磁化方向が変化することを特徴とする記録再生装置。
【請求項2】
前記第1の強磁性層の保磁力Hc、第2の強磁性層の保磁力Hc、及び磁界Hとは、Hc<H<Hcの関係を有し、
前記交換磁場Hとは、Hc<H+Hの関係を有することを特徴とする請求項1記載の記録再生装置。
【請求項3】
前記交換磁場Hとは、さらにH−H<Hcの関係を有することを特徴とする請求項2記載の記録再生装置。
【請求項4】
前記第1の強磁性層は反強磁性層の上に形成されており、前記第1の強磁性層の磁化は固定されていることを特徴とする請求項1記載の記録再生装置。
【請求項5】
前記第1の強磁性層及び第2の強磁性層の磁化方向は、面内方向であることを特徴とする請求項1記載の記録再生装置。
【請求項6】
前記第1の強磁性層及び第2の強磁性層の磁化方向は、膜面に垂直方向であることを特徴とする請求項1記載の記録再生装置。
【請求項7】
前記第1の強磁性層と基板との間に、非磁性層を介して形成された第3の強磁性層と、前記基板と第3の強磁性層との間に形成された反強磁性層とを有することを特徴とする請求項1記載の記録再生装置。
【請求項8】
電圧Vの非印加時において、第1の強磁性層と第2の強磁性層と間に働く磁気的交換相互作用は、ほぼ0であることを特徴とする請求項1記載の記録再生装置。
【請求項9】
金属探針と磁化領域表面との間に電圧を印加し、トンネル電流値の変化により、強磁性層の磁化方向を読み取ることを特徴とする請求項1記載の記録再生装置。
【請求項10】
基板上に、第1の強磁性層と、前記第1の強磁性層上に形成された非磁性層と、前記非磁性層上に形成された第2の強磁性層とを有し、第2の強磁性層の保磁力Hcが第1の強磁性層の保磁力Hcよりも大きい磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体に磁界Hを印加する磁極と、
金属探針と前記磁気記録媒体との間に電圧Vを印加する電極とを備え、
前記磁界Hにより、第1の強磁性層の磁化方向を印加磁場方向に変化させ、
正又は負の何れか一方の電圧Vを印加して前記第2の強磁性層の磁化方向を変化させて、磁化情報を第2の強磁性層に記録することを特徴とする記録再生装置。
【請求項11】
前記電圧Vを印加することにより交換磁場Hが誘起され、
前記交換磁場Hと磁界Hとにより、第2の強磁性層の磁化方向を変化させることを特徴とする請求項11記載の記録再生装置。
【請求項12】
前記第1の強磁性層の保磁力Hc、第2の強磁性層の保磁力Hc、及び磁界Hとは、Hc<H<Hcの関係を有し、
前記交換磁場Hとは、Hc<H+Hの関係を有することを特徴とする請求項10記載の記録再生装置。
【請求項13】
前記交換磁場Hとは、さらにH−H<Hcの関係を有することを特徴とする請求項12記載の記録再生装置。
【請求項14】
基板上に、第1の強磁性層と、前記第1の強磁性層上に形成された非磁性層と、前記非磁性層上に形成された第2の強磁性層とを有し、第2の強磁性層の保磁力Hcが第1の強磁性層の保磁力Hcよりも大きい磁気記録媒体に、磁極により磁界Hを印加して、第1の強磁性層の磁化方向を印加磁場方向に変化させ、
金属探針と前記磁気記録媒体との間に正又は負の何れか一方の電圧Vを印加して、前記第1の強磁性層と第2の強磁性層との間の量子井戸準位のエネルギーを変化させて交換磁場Hを誘起し、
前記交換磁場Hと前記磁界Hとにより、前記第2の強磁性層の磁化方向を変化させることを特徴とする電界印加磁気記録方式。
【請求項15】
前記第1の強磁性層の保磁力Hc、第2の強磁性層の保磁力Hc、及び磁界Hとは、Hc<H<Hcの関係を有し、
前記交換磁場Hとは、Hc<H+Hの関係を有することを特徴とする請求項14記載の電界印加磁気記録方式。
【請求項16】
前記交換磁場Hとは、さらにH−H<Hcの関係を有することを特徴とする請求項14記載の電界印加磁気記録方式。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2008−77720(P2008−77720A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253719(P2006−253719)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】