説明

電着可能な組成物

本開示内容は、陽極電着プロセスにより導電性基材に塗布できるコーティング組成物、コーティング組成物でコートされた基材、および基材へのコーティング塗布方法に関する。コーティング組成物は、α−オレフィンと不飽和カルボン酸とを含む少なくとも部分的に中和されたコポリマーの水性分散液を含む。コーティング層の基材への塗布後、加熱すると、コーティングが硬化して、架橋網を形成し、耐久性のある耐チップ性および耐食性の仕上げを与えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2007年10月6日出願の米国仮特許出願第60/997,822号明細書の優先権を主張する。
【0002】
本開示内容は、導電性基材に電着できるα−オレフィンと不飽和カルボン酸との少なくとも部分的に中和されたコポリマーの水性分散液を含む組成物に関する。塗布したコーティング組成物を高温で硬化して、架橋したコーティングを形成すると、基材の耐食を助け、非常に耐久性のある耐チップ性のコーティングを与えることができる。
【背景技術】
【0003】
電着プロセスによる導電性基材のコーティングは、電気コーティングプロセスとも呼ばれ、周知されており、重要な工業プロセスである。金属自動車基材へのプライマーの電着は、自動車業界において広く用いられている。このプロセスにおいて、導電性物品、例えば、自動車車体または自動車部品を、成膜ポリマーの水性乳剤の浴に浸漬する。物品は、電着プロセスにおいて電極として作用する。電流が、物品と対電極間を通って、コーティングが物品に堆積するまで、コーティング組成物と電気的に接触する。陰極電気コーティングプロセスにおいて、コートされる物品は陰極であり、対電極は陽極である。陽極電気コーティングプロセスにおいて、コートされる物品は陽極であり、対電極は陰極である。
【0004】
典型的な陰極電着プロセスの浴で用いる成膜樹脂組成物も当該技術分野において周知であり、1970年代から用いられてきた。これらの樹脂は、典型的に、アミン化合物により鎖伸張されたポリエポキシド樹脂から作製される。エポキシアミン付加物を酸化合物で中和して、水溶性または水分散性樹脂を形成する。これらの樹脂を、架橋剤、通常、ポリイソシアネートとブレンドし、水に分散して、主乳剤と通常呼ばれる水乳剤を形成する。
【0005】
主乳剤は、顔料ペースト、凝集溶剤、水およびその他添加剤、例えば、成膜添加剤、ピンホール添加剤およびクレーター防止剤と混合して、電気コーティング浴を形成する。電気コーティング浴は、陽極を含む絶縁タンクに配置される。コートされる物品は陰極であり、電着浴を含むタンクを通過する。電気コートされている物品に堆積するコーティングの厚さは、浴特性、タンクの電気操作特性、浸漬時間等に応じて決まる。
【0006】
陽極電気コート組成物は、公知であるものの、電気コーティング業界の僅かな割合を占めるに過ぎない。最初の自動車電気コートシステムは陽極であったが、不適切な耐食性、硬化した膜の汚れおよび基材に対する感受性に問題があった。陽極電気コート組成物は、1970年代半ばに陰極電気コーティングに大部分取って変わられた。
【0007】
陰極電着に比べ、公知の陽極電着組成物でコートした物品は、典型的に、低い耐食性、低い耐チップ性および低い可撓性を有する。陰極コーティングは、陽極電着コーティングよりも広く用いられているが、陰極電着コーティングは、UV安定性が限定されている、変形に対する抵抗性が低い、耐チップ性が低い、すなわち、少なくとも1つの電着コーティングの層でコートされた基材と接触する石またはその他材料から受ける衝撃に対する抵抗性が低いといった問題が未だある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
改善された耐UV性、変形に対する良好な抵抗性および改善された耐チップ性を有する電着コーティングが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示内容は、
i)α−オレフィンと不飽和カルボン酸とのコポリマーと、中和剤との反応生成物である、α−オレフィンと不飽和カルボン酸との少なくとも部分的に中和されたコポリマーと、
ii)成膜添加剤と、
iii)硬化剤と
を含む水性分散液である電着可能な組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示内容には、電着可能なコーティング組成物、コーティング組成物の層を含む物品および前記物品を製造する方法が記載されている。電着可能な組成物は、α−オレフィンおよび不飽和カルボン酸の少なくとも部分的に中和されたコポリマー水分散液、成膜添加剤および硬化剤を含む水性分散液を含む。α−オレフィンと不飽和カルボン酸とのコポリマーは、α−オレフィン、例えば、エチレンと、α,β−不飽和カルボン酸モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸との両方を含むモノマー混合物から重合されたコポリマーである。コポリマーは、無機塩基、有機塩基またはこれらの組み合わせで中和して、α−オレフィンと不飽和カルボン酸との少なくとも部分的に中和されたコポリマーを形成することができる。電着可能な組成物は、導電性基材上に乾燥および硬化した膜層を形成するのに特に有用である。
【0011】
本明細書で用いる「(メタ)アクリル」という用語は、アクリル部分またはメタクリル部分のうち1つまたは両方を示すのに用いられる。例えば、(メタ)アクリル酸という用語は、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
【0012】
「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリレート部分またはメタクリレート部分のうち1つまたは両方を意味する。例えば、メチル(メタ)アクリレートという用語は、メチルアクリレートおよび/またはメチルメタクリレートを意味する。
【0013】
本明細書で用いる「水性分散液」という用語は、固体粒子が水中に分散された液体系を意味する。開示されたコーティング組成物用の分散剤は水であるが、少量の揮発性有機溶剤が存在していてもよい。
【0014】
「α−オレフィンと不飽和カルボン酸とのコポリマー」、「酸コポリマー」および「α−オレフィンと不飽和カルボン酸とを含むコポリマー」という表現は、同じ意味で用いられ、少なくとも1つのα−オレフィンモノマー、例えば、エチレンと、少なくとも1つの不飽和カルボン酸モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸とを含むモノマー混合物から、公知の共重合方法に従って、重合されるコポリマーを意味する。
【0015】
本発明において、「少なくとも部分的に中和された」コポリマーという表現には、酸中和組成物の連続範囲が含まれ、カルボン酸官能基を含むコポリマーの少なくとも30パーセントの酸基が、無機塩基、有機塩基またはこれらの組み合わせから選択される塩基と反応して、酸コポリマーの塩を形成する。この表現はまた、本発明においては、過剰の塩基を用いて、酸コポリマーのカルボン酸基の全てまたは実質的に全てを中和する例も含むと考えるものとする。
【0016】
本明細書で用いるメルトインデックスは、ASTM D1238に従って、190℃、2.16kgで求められ、記録された値は、グラム/10分の単位である。
【0017】
本開示内容の特徴および利点は、以下の詳細な説明を読むと、当業者であれば容易に理解されるであろう。別個の実施形態で上述および後述する明確にするための特定の実施形態は、単一の実施形態の組み合わせで与えられてよいものと考えられる。反対に、簡潔にするために単一の実施形態で記載された様々な特徴も別個に、または任意の下位の組み合わせで与えられてもよい。
【0018】
また、「1つ」とは、本明細書に記載した要素および構成成分を説明するのに用いられる。これは、簡便にし、開示内容の範囲の一般的な意味を与えるためにすぎない。これには、1つ、または少なくとも1つが含まれるものとし、別記しない限り、単数には複数も含まれる。
【0019】
本出願で指定された様々な範囲での数値は、別記しない限り、近似値であり、指定された範囲内の最小値および最大値にはその前に「約」という言葉が付くものとする。このように、指定した範囲上下に僅かな変動があっても、その範囲内の値と実質的に同じ結果が得られる。また、これらの範囲の開示は、最小値と最大値間の各値を含む連続した範囲を対象とする。
【0020】
上記の説明において、概念を特定の実施形態を参照して記載してきたが、当業者であれば、特許請求の範囲に規定された開示内容の範囲から逸脱することなく、様々な修正および変更を行えることが分かるであろう。従って、明細書は、限定的な意味でなく、例示とみなされ、このような修正は全て、開示内容の範囲に含まれるものとする。
【0021】
電着可能な組成物
一実施形態において、電着可能な組成物は、i)α−オレフィンと不飽和カルボン酸との少なくとも部分的に中和されたコポリマーと、ii)成膜添加剤と、iii)硬化剤とを含む水性分散液である。
【0022】
他の実施形態において、電着可能な組成物は、i)α−オレフィンと不飽和カルボン酸との少なくとも部分的に中和されたコポリマーと、ii)成膜添加剤と、iii)硬化剤と、iv)界面活性剤とを含む水性分散液である。
【0023】
他の実施形態において、電着可能な組成物は、i)α−オレフィンおよび不飽和カルボン酸の少なくとも部分的に中和されたコポリマーと、ii)成膜添加剤と、iii)硬化剤とから本質的になる水性分散液である。
【0024】
さらに他の実施形態において、電着可能な組成物は、i)α−オレフィンと不飽和カルボン酸との少なくとも部分的に中和されたコポリマーと、ii)成膜添加剤と、iii)硬化剤と、iv)界面活性剤とから本質的になる水性分散液である。
【0025】
上記の実施形態において、α−オレフィンと不飽和カルボン酸との少なくとも部分的に中和されたコポリマーは、中和剤と、α−オレフィンと不飽和カルボン酸のコポリマーとの反応生成物である。
【0026】
エチレンおよび(メタ)アクリル酸を含むコポリマー
本発明の酸コポリマーは、α−オレフィンモノマーと不飽和カルボン酸モノマーとを含むモノマー混合物から重合することができる。好適なα−オレフィンは、式R(R1)C=CH2で表され、式中、RおよびR1は、水素または1〜8個の炭素原子を有するアルキル基からそれぞれ独立して選択される。ある実施形態において、α−オレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−メチル−1−ヘキセンおよびこれらの組み合わせから選択することができる。
【0027】
不飽和カルボン酸モノマーは、3〜8個の炭素原子を有するα,β−エチレン性不飽和カルボン酸を含むことができる。好適な不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸およびマレイン酸モノ−エステル(当該技術分野においては、マレイン酸の「ハーフ−エステル」とも呼ばれる)が挙げられる。その他好適なカルボン酸モノマーとしては、例えば、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、ハロアクリル酸、例えば、クロロアクリル酸、シトラコン酸、ビニル酢酸、ペンテン酸、アルキル(メタ)アクリル酸、アルキルクロトン酸、アルケン酸およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0028】
一実施形態において、アクリル酸は、α−オレフィンと不飽和カルボン酸とを含むコポリマーを重合するのに用いるカルボン酸モノマーである。他の実施形態において、メタクリル酸は、α−オレフィンと不飽和カルボン酸とを含むコポリマーを形成するのに用いる不飽和カルボン酸モノマーである。第3の実施形態において、アクリル酸とメタクリル酸との組み合わせは、α−オレフィンと不飽和カルボン酸とを含むコポリマーを重合するのに用いる不飽和カルボン酸モノマーである。
【0029】
α−オレフィンと不飽和カルボン酸とを含むコポリマーは、エチレンと、アクリル酸および/またはメタクリル酸とから形成されたランダムコポリマーとすることができ、任意選択的に、1つ以上の追加のモノマーを含むことができる。追加のモノマーとしては、例えば、アルキル基が約1〜約8個の炭素原子を有するアルキル(メタ)アクリレート、スチレンまたは置換スチレン、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、ビニルエーテルおよびこれらの組み合わせの1つ以上が挙げられる。追加のモノマーは、α−オレフィンと不飽和カルボン酸とを含むコポリマーにおけるモノマーの総重量を基準として、0〜40重量パーセントの範囲で用いることができる。
【0030】
用いるのに好適なコポリマーとしては、例えば、エチレン/(メタ)アクリル酸/n−ブチル(メタ)アクリレート、エチレン/(メタ)アクリル酸/イソ−ブチル(メタ)アクリレート、エチレン/(メタ)アクリル酸/メチル(メタ)アクリレート、エチレン/(メタ)アクリル酸/エチル(メタ)アクリレートおよびこれらの組み合わせ等のコポリマーが例示される。
【0031】
本発明を実施するのに有用な好適なコポリマーは、直鎖、分岐またはグラフトコポリマーとすることができる。これらのポリマーを生成するプロセスは、当該技術分野において周知であり、本明細書では説明しない。α−オレフィンおよび不飽和カルボン酸のコポリマーの好適な例は、市販されており、例えば、DuPont(Wilmington,Delaware)より入手可能なNUCREL(登録商標)酸コポリマー樹脂が挙げられる。
【0032】
ある実施形態において、α−オレフィンと不飽和カルボン酸とのコポリマーは、コポリマーを形成するモノマーの総重量を基準として、5〜25重量パーセントの範囲のモノマー含量を有するカルボン酸を含む。α−オレフィンと不飽和カルボン酸とのコポリマーのメルトインデックスは、10〜1000の範囲である。
【0033】
他の実施形態において、α−オレフィンと不飽和カルボン酸とのコポリマーのメルトインデックスは、50〜800の範囲、他の実施形態においては、メルトインデックスは、100〜500の範囲、さらなる実施形態においては、メルトインデックスは、200〜450の範囲である。一実施形態において、α−オレフィンと不飽和カルボン酸とのコポリマーは、メルトインデックスが約300、約20パーセントの(メタ)アクリル酸モノマー含量を有するNUCREL(登録商標)酸コポリマー樹脂である。他の実施形態において、α−オレフィンと不飽和カルボン酸とのコポリマーは、メルトインデックスが約400、約19パーセントの(メタ)アクリル酸モノマー含量を有するNUCREL(登録商標)酸コポリマー樹脂である。
【0034】
酸コポリマーは、電着可能な組成物中に、総固体含量を基準にして55〜90重量パーセントの範囲で含まれる。本明細書において、「総固体含量」という用語は、存在するであろう水およびその他少量の揮発性有機溶剤を除いた、電着組成物中に存在する全成分の総重量を意味する。
【0035】
ある実施形態において、酸コポリマーは、総固体含量を基準として、55〜85重量パーセントの範囲で電着可能な組成物中に存在し得る。
【0036】
さらなる実施形態において、α−オレフィンと不飽和カルボン酸とのコポリマーは、総固体含量を基準として、60〜80重量パーセントの範囲で、電着可能な組成物中に存在し得る。
【0037】
中和剤
中和剤(すなわち、塩基)を添加して、α−オレフィンと不飽和カルボン酸とのコポリマーのカルボン酸基の少なくとも一部を中和する。中和剤は、酸コポリマーと反応して、酸の塩を形成することのできる任意の塩基とすることができる。塩基は、有機塩基、無機塩基およびこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。無機塩基としては、例えば、金属水酸化物、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムが挙げられる。有機塩基としては、アンモニア、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、ヒドラジン、モノ−、ジ−、トリ−またはテトラ−アルキルヒドラジンが挙げられる。上記した中和剤のいずれかの組み合わせが好適である。酸−塩基の化学は、当業者に周知であるため、本明細書に具体的に挙げないその他塩基の使用は、新規とは考えられず、本発明の意図する範囲外とは考えられないものとする。
【0038】
ある実施形態において、中和剤は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムまたはこれらの組み合わせである。他の実施形態において、中和剤は、式N(R23のアミンとすることができ、式中、各R2は、H、CH3、CH2CH3、CH2CH2CH3、CH(CH32、CH2OH、CH2CH2OH、CH2CH2CH2OH、CH2CH(OH)CH3、CH(CH3)CH2OHおよびCH(OH)CH2CH3からなる群から独立に選択される。ある実施形態において、中和剤は、エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0039】
成膜添加剤
本明細書で用いる「成膜添加剤」という用語は、12ミクロン〜50ミクロンの範囲の厚さを有する電着組成物層を与えるのに必要な添加剤である。
【0040】
成膜添加剤は、長鎖アルキルアミンとすることができる。長鎖アルキルアミンは、一般式N(R3)(R4)(R5)で表わされ、式中、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素、または−CH3、−CH2CH3、−CH2CH2CH3、−CH(CH32またはC3−C20直鎖、分岐または環状アルキル基から選択されるアルキル基であるか、または式中、R3およびR4は一緒になって、少なくとも4個の炭素原子を有する環を形成してもよく、式中、R5はC4−C20直鎖、分岐または環状アルキル基である。
【0041】
好適な長鎖アルキルアミンとしては、例えば、ドデシルアミン、N−メチルドデシルアミン、N−エチルドデシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジエチルドデシルアミン、オクタデシルアミン、N−メチルオクタデシルアミン、N−エチルオクタデシルアミン、N,N−ジメチルオクタデシルアミン、N,N−ジエチルオクタデシルアミン、シクロヘキシルアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン、N−エチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジエチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジデシルアミン、N,N−ジデシルエチルアミン、N,N−ジデシルメチルアミンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0042】
成膜添加剤は、アミン官能性化合物であるため、α−オレフィンと不飽和カルボン酸とのコポリマー中のカルボン酸基を中和することができる。本開示内容のある実施形態において、中和剤と成膜添加剤の組み合わせは、α−オレフィンと不飽和カルボン酸とのコポリマーのカルボン酸基の30パーセント以上を理論的に中和できる量で存在し得る。他の実施形態において、中和剤と成膜添加剤の組み合わせは、α−オレフィンと不飽和カルボン酸とのコポリマーのカルボン酸基の30〜150パーセントの範囲で理論的に中和できる量で存在し得る。
【0043】
中和剤対成膜添加剤の比は、1:99〜99:1の範囲とすることができる。ある実施形態において、中和剤対成膜添加剤の比は、10:90〜90:10の範囲とすることができる。他の実施形態において、中和剤対成膜添加剤の比は、20:80〜80:20の範囲とすることができる。さらなる実施形態において、中和剤対成膜添加剤の比は、30:70〜70:30の範囲とすることができる。比は全て、中和剤対成膜添加剤の重量比である。
【0044】
硬化剤
過酸化物硬化剤を、電着可能な組成物に添加すると、硬化の際に架橋コーティングが与えられる。好適な過酸化物としては、有機および無機過酸化物化合物が挙げられる。一実施形態において、硬化剤は、金属過酸化物、例えば、過酸化亜鉛とすることができる。他の実施形態において、好適な金属過酸化物は、過酸化マグネシウム、過酸化バリウム、過酸化ストロンチウム、過酸化カドミウム、過酸化チタンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0045】
ある実施形態において、硬化剤は、総固体を基準として、5〜30重量パーセントの範囲で電着可能な組成物に存在し得る。他の実施形態において、硬化剤は、総固体を基準として、5.5〜20重量パーセントの範囲で電着可能な組成物に存在し得る。さらに他の実施形態において、硬化剤は、総固体を基準として、6〜10重量パーセントの範囲で電着可能な組成物に存在し得る。
【0046】
添加剤
その他添加剤は任意選択であり、必要であれば、添加剤の効果に応じて、電着可能な組成物と混合することができる。任意選択の添加剤としては、例えば、界面活性剤、顔料、光安定剤、クレーター防止剤、流動助剤、分散安定剤およびフィラーを挙げることができる。
【0047】
界面活性剤としては、アルコキシ化スチレン化フェノール、例えば、Milliken Chemical Company(Spartanburg,South Carolina)より入手可能なSYNFAC(登録商標)8334、Huntsman(Woodlands,Texas)より入手可能なアルキルイミダゾリン界面活性剤、および例えば、Air Products(Allentown,Pennsylvania)より入手可能なSURFYNOL(登録商標)が例示される。これらの組み合わせを用いることもできる。
【0048】
顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化鉄、赤酸化鉄、透明赤酸化鉄、黒色酸化鉄、褐色酸化鉄、酸化クロムグリーン、カーボンブラック、ケイ酸アルミニウム、沈降硫酸バリウムおよびこれらの組み合わせが例示される。一実施形態において、電着可能なコーティングは顔料を含有する。他の実施形態において、電着可能な組成物は顔料を含有しない。
【0049】
光安定剤、例えば、ヒンダードアミン光安定剤を、電着可能な組成物に添加することができる。代表的な市販のヒンダードアミン光安定剤は、例えば、Ciba−Geigy Corporationより販売されているTINUVIN(登録商標)770、292および440である。
【0050】
流動添加剤としては、例えば、ノニルフェノールまたはビスフェノールのエチレンおよび/またはプロピレン付加物が挙げられる。
【0051】
電着可能な組成物の形成
一実施形態において、電着可能な組成物は、水、本明細書に記載した酸コポリマー、中和剤および成膜添加剤を混合して、混合物を形成し、コポリマーが分散するまで、これを攪拌および(任意選択的に)加熱することにより形成される。分散コポリマーを得るために混合物を加熱する場合、周囲温度まで冷やし、硬化剤を任意の添加剤と共に添加することができる。混合物をさらに攪拌および/またはミリングすると、硬化剤および任意の添加剤が分散される。一実施形態において、電着可能な組成物を水でさらに希釈すると、10〜25重量パーセントの範囲の総固体含量が得られる。
【0052】
このようにして形成された電着可能な組成物の粒径は、30〜170ナノメートルの範囲、pHは7〜11の範囲である。
【0053】
基材をコーティングするプロセス
一実施形態において、基材は、
A)i)α−オレフィンと不飽和カルボン酸との少なくとも部分的に中和されたコポリマーと、ii)成膜添加剤と、iii)硬化剤とを含む水性分散液を含む陽極電着可能な組成物の浴を提供し、
B)基材を前記陽極電着可能な組成物に浸漬し、
C)陰極と、陽極として機能する前記基材との間に電圧を印加し、
D)基材を浴から取り出し、
E)電着可能な組成物の塗布された層を加熱すること
を含むプロセスによりコートされる。
【0054】
任意選択的に、このプロセスには、E)の前に基材を濯ぎ、電着可能な組成物の塗布された層を加熱することがさらに含まれる。濯ぎが含まれる場合には、典型的に、水または脱イオン水を用いて行われる。
【0055】
一実施形態において、このプロセスには、基材を電着可能な組成物に少なくとも部分的に浸漬することが含まれる。第2の実施形態においては、基材全体が電着可能な組成物に浸漬される。
【0056】
ある実施形態において、電着可能な組成物は、25℃〜約40℃の範囲の浴温度で塗布され、印加電圧は100〜400ボルトの範囲であり、電流は1秒〜5分間の範囲で印加される。他の実施形態において、電流は、約20秒〜約5分の範囲で印加される。
【0057】
電着組成物の塗布層は、150℃〜250℃の範囲の温度で加熱して、電着組成物の塗布層を乾燥および硬化して、膜の乾燥および架橋層を生成することができる。一実施形態において、乾燥および架橋電着可能な組成物の層の厚さは、12ミクロン〜50ミクロンの範囲である。他の実施形態において、乾燥および架橋電着可能な組成物の厚さは、15〜45ミクロンの範囲である。
【0058】
基材は、任意選択的に、クリーニングして、電着可能な組成物の層でコーティングする前に、グリース、汚れまたはその他異物を除去することができる。これは、典型的に、従来のクリーニング手順および材料を用いて行われる。好適なクリーニング材料としては、例えば、有機溶剤、例えば、ケトン、エーテル、アセテートおよびこれらの組み合わせ、弱または強アルカリクリーナー、例えば、市販のもの、および金属処理プロセスにおいて従来から用いられているものが挙げられる。アルカリクリーナーとしては、Henkel(Dusseldorf,Germany)より入手可能なクリーナーのP3(登録商標)ラインが例示される。かかるクリーニング工程は、概して、水による濯ぎの後および/または前である。任意選択的に、クリーニング後および後の電着可能な組成物との接触前に、金属表面を、1つ以上の水性酸溶液で濯ぐ、またはこれに浸漬してもよい。濯ぎ溶液としては、弱酸および強酸クリーナー、例えば、市販のもの、および金属処理プロセスにおいて従来用いられている希釈硝酸溶液が例示される。
【0059】
基材および使用
電着可能な組成物でコートすることのできる有用な基材としては、導電性基材、例えば、金属材料、例えば、鉄、鋼およびその合金等の鉄金属、アルミニウム、亜鉛、マグネシウムおよびその合金等の非鉄金属ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。ある実施形態において、基材は、冷延鋼、亜鉛コート鋼、アルミニウムまたはマグネシウムである。導電性または導電性コーティングの追加等により導電性とした熱可塑性および熱硬化性物品もまた、開示された電着可能な組成物でコートすることができる。
【0060】
コートした基材は、自動車車両、自動車車体、製造および塗装されるあらゆる品目、例えば、フレームレール、商用トラックおよびトラック車体、以下のものに限られるものではないが、飲料容器、ユーティリティ設備(utility body)、生コンクリート運搬車両の車体、廃棄物運搬車両の車体および消防および緊急車両の車体、およびこのようなトラック車体、バス、農機具および建築機器への可能な取付け具または構成部品、トラックキャップおよびカバー、商用トレーラー、一般用トレーラー、レクリエーション車両、例えば、以下のものに限られるものではないが、モーターホーム、キャンパー、コンバージョンバン、バン、娯楽用車両、プレジャークラフトスノーモービル、全地形型車両、水上バイク、モーターサイクル、ボートおよび飛行機を作製するための構成部品として用いることができる。基材としてはさらに、工業および商業用の新規な構造およびその保守、オフィスビルや家等の商業および居住用構造壁、アミューズメントパーク施設、船舶の表面(marine surface)、橋やタワー等の屋外構造、コイルコーティング、鉄道車両、機械類、OEMツール、標識、スポーツ用品およびスポーツ用具が挙げられる。基材は、任意の形状、例えば、自動車車体構成部品、例えば、自動車車両の本体(フレーム)、フード、ドア、フェンダー、バンパーおよび/またはトリムの形態とすることができる。
【0061】
電着可能な組成物の乾燥および硬化層でコートされた基材は、そのまま用いるか、またはコーティング組成物の追加の層を塗布することができる。自動車およびその他消費財の製造において、塗布されたコーティングは、市販のプライマー、プライマーサーフェーサ、シーラー、ベースコート組成物、クリアコート組成物、光沢のあるトップコート組成物およびこれらの任意の組み合わせの1つ以上でさらにコートすることができる。
【実施例】
【0062】
別記しない限り、成分は全て、Aldrich Chemical Company(Milwaukee,Wisconsin)より入手可能である。
【0063】
NUCREL(登録商標)酸コポリマー樹脂は、DuPont(Wilmington,Delaware)より入手可能である。
【0064】
SYNFAC(登録商標)8334は、Milliken Chemical Company(Spartanburg,South Carolina)より入手可能である。
【0065】
SURFYNOL(登録商標)104BCは、Air Products(Allentown,Pennsylvania)より入手可能である。
【0066】
試験手順
耐メチルエチルケトン溶剤性を試験するために、各板上の乾燥および硬化した組成物層を、メチルエチルケトンに浸した布で、100回擦り、過剰のメチルエチルケトンを拭き取った。板を目視により1〜10で格付けした。格付け10は、コーティングに目視される損傷がないことを意味し、9は1〜3個の明らかな傷を意味し、8は4〜6個の明らかな傷を意味し、7は7〜10個の明らかな傷を意味し、6は僅かな穴または僅かな色落ちのある10〜15個の明らかな傷を意味し、5は僅かから中程度の穴または中程度の色落ちのある15〜20個の明らかな傷を意味し、4は互いに融合し始めた傷を意味し、3は融合した傷間に僅かな未損傷領域があることを意味し、2は未損傷塗装の目視される兆候がないことを意味し、1は完全な破損、すなわち、ベアスポットが示されていることを意味する。
【0067】
膜の平滑度を、施行専門家が目視により格付けする。
【0068】
ASTM B117に従って、10日塩水噴霧を試験した。粒径を、Microtrac(Montgomeryville,Pennsylvania)より入手可能なNANOTRAC(登録商標)動的光散乱粒径分析器を用いて測定した。
【0069】
分散液1〜6の調製
以下の実施例および表に挙げた成分は全て重量部で表わしてある。
【0070】
表1の部分1の成分を、好適な混合容器に、攪拌および窒素雰囲気下で加えた。混合物を88℃まで加熱し、NUCREL(登録商標)のペレット形態が水によく分散されるまで、攪拌した。混合物を約32℃まで冷やし、表1の部分2の成分を混合容器に加えて、混合物を6〜8時間ローラーミルでミリングした。混合物を表1の部分3で希釈した。
【0071】
【表1】

【0072】
分散液A〜Iの調製(比較例)
以下の例では、硬化剤のない分散液を示す。
【0073】
表2の部分1の成分を、好適な混合容器に、攪拌および窒素雰囲気下で加えた。混合物を88℃まで加熱し、NUCREL(登録商標)のペレット形態が水によく分散するまで攪拌した。混合物を約32℃まで冷やし、混合物を表2の部分2で希釈した。
【0074】
【表2】

【0075】
冷延鋼板の作製
冷延鋼板を、メチルイソブチルケトンで拭きとることにより清浄にした。板を0.125%の水性硝酸溶液に、27℃で4分間浸漬してから、0.25%の硝酸ジルコニル溶液に27℃で4分間浸漬した。板を、オーブン中、100℃で5分間強制乾燥した。板を室温まで冷やし、そのまま用いた。
【0076】
電着手順
処理した冷延鋼板に、分散液1〜6および比較例の分散液A〜I中、32℃の浴温で2分間、240ボルトで陽極コートした。コートした各板を脱イオン水で洗って、約198℃で10分間焼成した。板の膜厚、耐メチルエチルケトン溶剤性を調べ、ASTM B117に従って10日間塩水噴霧耐食試験を行った。試験の結果を表3に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
結果から、成膜剤の存在(実施例1〜6および比較例B、C、DおよびI)によって、成膜添加剤のない例A、EおよびFに比べて、電着組成物の膜厚が厚くなることが分かる。硬化剤の存在によって、実施例1〜6に示すとおり、耐メチルエチルケトン溶剤性が大幅に向上する。
【0079】
分散液1および2の硬化コーティングを、GM9540P加速腐食試験およびGM9508P方法B耐チップ性試験に従ってさらに試験した。耐チップ性試験については、メーカーの説明書に従って、1組の電着板を、DuPont溶剤性プライマー、ベースコートおよびクリアコートでコートし、もう1組の電着コート板を水性プライマー、ベースコートおよびクリアコートでコートした。試験の結果を表4に示す。
【0080】
【表4】

【0081】
これらの試験結果によれば、後に市販のコーティング組成物でコートされる上述した電着可能な組成物の乾燥架橋層を有する基材は、優れた耐食性および耐チップ性を有していることが分かる。これらの試験については、6mm以下の加速腐食スコアだと試験に合格と考えられ、7以上の耐チップ性だと合格したものと考える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)α−オレフィンと不飽和カルボン酸とのコポリマーと、中和剤との反応生成物である、α−オレフィンと不飽和カルボン酸との少なくとも部分的に中和されたコポリマーと、
ii)成膜添加剤と、
iii)硬化剤と
を含む水性分散液である電着可能な組成物。
【請求項2】
前記コポリマーが、無機塩基、有機塩基およびこれらの組み合わせからなる群から選択される中和剤で中和されている請求項1に記載の電着可能な組成物。
【請求項3】
前記中和剤が、N(R23であり、式中、各R2は、H、CH3、CH2CH3、CH2CH2CH3、CH(CH32、CH2OH、CH2CH2OH、CH2CH2CH2OH、CH2CH(OH)CH3、CH(CH3)CH2OHおよびCH(OH)CH2CH3からなる群から独立して選択され、前記成膜添加剤は、N(R3)(R4)(R5)であり、式中、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素、あるいは−CH3、−CH2CH3、−CH2CH2CH3、−CH(CH32またはC3−C20直鎖、分岐または環状アルキル基からなる群から選択されるアルキル基であるか、または式中、R3およびR4は一緒になって、少なくとも4個の炭素原子を有する環を形成してもよく、式中、R5はC4−C20直鎖、分岐または環状アルキル基である請求項1に記載の電着可能な組成物。
【請求項4】
前記硬化剤が、過酸化物である請求項1に記載の電着可能な組成物。
【請求項5】
前記硬化剤が、金属過酸化物である請求項4に記載の電着可能な組成物。
【請求項6】
前記硬化剤が、過酸化亜鉛である請求項5に記載の電着可能な組成物。
【請求項7】
(a)5〜25重量パーセントのコポリマーが、重量不飽和カルボン酸モノマーから誘導されるように、不飽和カルボン酸モノマーが前記コポリマーに組み込まれ、(b)前記コポリマーの中和前のメルトインデックスが、10〜1000である請求項1に記載の電着可能な組成物。
【請求項8】
前記中和剤および前記成膜添加剤が、α−オレフィンおよび不飽和カルボン酸を含む前記コポリマーのカルボン酸基の30〜150パーセントの範囲で理論的に中和可能な量で存在する請求項1に記載の電着可能な組成物。
【請求項9】
前記中和剤が、前記中和剤および成膜添加剤の総重量を基準にして、1〜99重量パーセントの量で存在する請求項8に記載の電着可能な組成物。
【請求項10】
i)α−オレフィンおよび不飽和カルボン酸を含む少なくとも部分的に中和されたコポリマーと、
ii)N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルオクタデシルアミン、N,N−ジデシルメチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される成膜添加剤と、
iii)過酸化亜鉛と
を含む電着可能な水性分散液。

【公表番号】特表2010−540758(P2010−540758A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528155(P2010−528155)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【国際出願番号】PCT/US2008/078705
【国際公開番号】WO2009/046270
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】