説明

電着塗膜の形成方法

【課題】バインダー樹脂として特定の樹脂を用いることなく、ガスピンの発生が抑制され、そして塗膜外観に優れる電着塗膜の形成方法を提供すること。
【解決手段】カチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬して電着塗装する工程を包含する、ガスピンの発生が抑制された電着塗膜の形成方法であって、このカチオン電着塗料組成物は、酸化亜鉛を含有する顔料を、塗料固形分100重量部に対して10〜30重量部含み、および、この顔料中に含まれる酸化亜鉛の含有量は、顔料100重量部に対して0.25〜5重量部である、電着塗膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスピンの発生が抑制され、塗膜外観に優れる電着塗膜の形成方法、および顔料分散ペーストの貯蔵安定性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体等の大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行なわれる。
【0003】
カチオン電着塗装の過程における塗膜の析出は電気化学的な反応によるものであり、電圧の印加により、被塗物表面に塗膜が析出する。析出した塗膜は絶縁性を有するので、塗装過程において、塗膜の析出が進行して析出膜が増加するのに従い、塗膜の電気抵抗は大きくなる。その結果、塗膜が析出した部位での塗料の析出は低下し、代わって、未析出部位への塗膜の析出が始まる。このようにして、順次被塗物に塗料固形分が析出して塗装を完成させる。本明細書中、被塗物の未着部位に塗膜が順次形成される性質をつきまわり性という。
【0004】
つきまわり性が高い電着塗料組成物は、電極部から遠いところにおいても電着塗膜が形成されるため、未塗装の部分を少なくすることができ好ましい。しかしながら電着塗装において、つきまわりを確保するために単に塗膜の電気抵抗値を上げたりすると、電着塗装時の印加電圧が高くなり、それに伴って、電着時に発生した水素ガスが原因と見られる「ガスピンホール」(ガスピンと略称することもある。)が発生し塗膜外観の悪化が生じる恐れが高くなるため、好ましくない。
【0005】
加えて、近年では、鋼鈑の表面に亜鉛がめっきされた亜鉛めっき鋼鈑に電着塗装を施すことも多くなってきた。亜鉛めっき鋼鈑は通常の鋼鈑と比べて防錆性に優れており、被塗物として用いると、より高い防錆性を実現できるという利点がある。その一方で、亜鉛めっき鋼鈑を被塗物として用いると、得られた電着塗膜にガスピンやクレーターが発生し易く、外観不良が生じやすいという問題がある。その理由は、亜鉛めっき鋼鈑はカチオン電着塗装時の被塗物側で発生する水素ガスの放電電圧が鉄鋼鈑よりも低いため、水素ガス中で火花放電が生じ易くなるためと考えられている。このような亜鉛めっき鋼鈑を電着塗装する場合であってもガスピンの発生が生じ難い電着塗料方法が求められている。
【0006】
特開2006−002003号公報(特許文献1)には、本出願人の提案によるカチオン電着塗料組成物およびガスピンの発生が抑制された電着塗膜の形成方法が記載されている。この特許文献に記載される発明は、バインダー樹脂として特定の樹脂を用いる発明であり、本発明とはその構成が異なる。
【0007】
特開平7−53902号公報(特許文献2)には、シロキサン系無機化合物及び/又はアクリル系有機化合物で表面を被覆せしめてなる亜鉛華を、組成物の樹脂固形分100重量部あたり0.5〜10重量部含有することを特徴とする電着塗料組成物、が記載されている。特開平9−124979号公報(特許文献3)には、りんモリブデン酸塩を含有するカチオン性電着塗料組成物が記載されており、このりんモリブデン酸塩がりんモリブデン酸アルミニウムと酸化亜鉛の複合体であるのが好ましいことが記載されている。また特開2006−137863号公報(特許文献4)には、縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物を含有する無鉛性カチオン電着塗料組成物が記載されている。これらの特許文献2〜4に記載される亜鉛化合物はいずれも防食顔料として用いられており、本発明の作用効果であるガスピン発生の抑制、塗膜外観および顔料分散ペーストの貯蔵安定性の向上といった効果とは、得られる作用効果が異なる。
【0008】
特開2002−294141号公報(特許文献5)には、(1)アミン変性エポキシ樹脂、(2)芳香族ポリイソシアネートを少なくともラクタム系ブロック剤でブロックしたブロックイソシアネート硬化剤、および(3)銅触媒と、亜鉛触媒およびスズ触媒からなるグループから選択される少なくとも1種類とからなる硬化促進剤を含んでなるカチオン電着塗料組成物、が記載されている。ここで亜鉛触媒は、硬化促進剤として作用しており、本発明とはその課題および得られる作用効果が異なる。
【0009】
特開2005−41951号公報(特許文献6)には、ブロックイソシアネートとして芳香族系ブロックイソシアネートを70〜90質量%含み、そのブロック剤はC4〜C10のエチレングリコールエーテル系化合物であり、顔料分散ペーストは吸油量が60〜100ml/100gである体質顔料を全顔料中に40〜50質量%含み、かつ、該顔料分散ペーストの固形分濃度が55〜58質量%であり、塗料組成物中の亜鉛イオン濃度は450〜500ppmであるカチオン電着塗料組成物が記載されている。ここで亜鉛イオンは、タレ・ワキ性を防止する作用を発現しており、本発明とはその課題および得られる作用効果が異なる。
【0010】
【特許文献1】特開2006−002003号公報
【特許文献2】特開平7−53902号公報
【特許文献3】特開平9−124979号公報
【特許文献4】特開2006−137863号公報
【特許文献5】特開2002−294141号公報
【特許文献6】特開2005−41951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、バインダー樹脂として特定の樹脂を用いることなく、ガスピンの発生が抑制され、そして塗膜外観に優れる電着塗膜の形成方法、および顔料分散ペーストの貯蔵安定性を向上させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
カチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬して電着塗装する工程を包含する、ガスピンの発生が抑制された電着塗膜の形成方法であって、
このカチオン電着塗料組成物は、酸化亜鉛を含有する顔料を、塗料固形分100重量部に対して10〜30重量部含み、および
この顔料中に含まれる酸化亜鉛の含有量は、顔料100重量部に対して0.25〜5重量部である、
電着塗膜の形成方法、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0013】
上記カチオン電着塗料組成物は、アミン変性エポキシ樹脂(1)、ブロックイソシアネート硬化剤(2)、および酸化亜鉛を含有する顔料(3)を含むカチオン電着塗料組成物であって、および
このブロックイソシアネート硬化剤(2)を構成するポリイソシアネートとして、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネートおよび脂環式ポリイソシアネートからなる群から選択される少なくとも1種が含まれ、およびこのポリイソシアネートをブロックするブロック剤として、グリコール系ブロック剤、ラクタム系ブロック剤、オキシム系ブロック剤およびグリコールエーテル系ブロック剤からなる群から選択される少なくとも1種が含まれるのが好ましい。
【0014】
また、上記ブロックイソシアネート硬化剤(2)は、芳香族ポリイソシアネートを少なくともラクタム系ブロック剤、グリコールエーテル系ブロック剤またはグリコール系ブロック剤でブロックしたブロックイソシアネート硬化剤であるか、または、脂環式ポリイソシアネートを少なくともオキシム系ブロック剤またはグリコールエーテル系ブロック剤でブロックしたブロックイソシアネート硬化剤であるのが、好ましい。
【0015】
また、上記カチオン電着塗料組成物は、アミン変性エポキシ樹脂(1)およびブロックイソシアネート硬化剤(2)を含むバインダー樹脂エマルションと、酸化亜鉛を含有する顔料(3)を含む顔料分散ペーストとを混合することによって調製されたカチオン電着塗料組成物であるのが好ましい。
【0016】
本発明はまた、上記電着塗膜の形成方法により得られる塗膜も提供する。
【0017】
本発明はさらに、電着塗装工程に用いられるカチオン電着塗料組成物が、酸化亜鉛を含有する顔料を塗料固形分100重量部に対して10〜30重量部含み、およびこの顔料中に含まれる酸化亜鉛の含有量は顔料100重量部に対して0.25〜5重量部であることを特徴とする、電着塗装時におけるガスピン性能、塗膜外観および顔料分散ペーストの貯蔵安定性を改善する方法も提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、電着塗膜の形成において、特定のバインダー樹脂を含む電着塗料組成物を調製することなく、ガスピンの発生を抑制することができる。本発明は、耐食性などの塗膜物性に影響を与えることなくガスピンの発生を抑制することができるという利点を有する。そして本発明の電着塗膜の形成方法はまた、塗膜外観に優れる塗膜が得られるという利点も有する。本発明の電着塗膜の形成方法は、ガスピン欠陥を抑制する性能(本明細書中、ガスピン性能と略することもある。)に優れており、亜鉛めっき鋼鈑の塗装にも良好に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
電着塗料組成物
本発明のカチオン電着塗料組成物は、水性媒体、水性媒体中に分散するバインダー樹脂エマルション、酸化亜鉛を含有する顔料を含む顔料分散ペースト、そして中和酸、有機溶媒を含有する。バインダー樹脂エマルションに含有されるバインダー樹脂は、アミン変性エポキシ樹脂(1)およびブロックイソシアネート硬化剤(2)からなる樹脂成分である。
【0020】
顔料
本発明の電着塗料組成物は顔料を含む。そしてこの顔料は酸化亜鉛を含有する。本発明においては、顔料100重量部に対して0.25〜5重量部の酸化亜鉛を含有する顔料を含む電着塗料組成物を用いることによって、塗膜外観性およびガスピン性能などに優れた電着塗膜を形成することができる。酸化亜鉛の量が顔料100重量部に対して0.25重量部未満である場合は、良好な塗膜外観性およびガスピン性能といった効果が得られない。また酸化亜鉛の量が顔料100重量部に対して5重量部を超える場合は、電着塗料組成物の製造の際に調製される顔料分散ペーストの粘度が高くなってしまうという不具合がある。
【0021】
酸化亜鉛以外の顔料の例としては、通常使用される顔料、例えば、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料等、が挙げられる。
【0022】
電着塗料組成物における顔料の含有量は、電着塗料組成物の塗料固形分100重量部に対して10〜30重量部である。この含有量は、電着塗料組成物の塗料固形分100重量部に対して15〜25重量部であるのがより好ましい。顔料の含有量が30重量部を超える場合は、塗装時の顔料降り積もりの影響を受けて、得られる塗膜の水平外観が低下する恐れがある。また顔料の含有量が10重量部未満である場合は、耐ハジキ性および防錆性が低下するおそれがある。
【0023】
これらの顔料は、予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状(顔料分散ペースト)とし、そしてこの顔料分散ペーストを用いて電着塗料組成物を調製する。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。
【0024】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂と共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。
【0025】
顔料分散樹脂は、顔料100重量部に対して固形分比20〜100重量部の量で用いられる。顔料分散ペーストは、顔料分散樹脂と顔料とを混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させることによって調製される。
【0026】
電着塗装におけるガスピンの発生を抑制する手段としては、一般に、塗料組成物により得られる塗膜の膜抵抗を下げる手法がとられている。これらの手法としては、例えば、バインダー樹脂として軟質樹脂を併用する方法、顔料濃度を下げる方法、高沸点溶剤を添加する方法などが挙げられる。また電着塗膜の塗膜外観を向上させる手法としても、バインダー樹脂として軟質樹脂を併用することによって加熱硬化時の熱フローを高度に生じさせ、これにより塗膜外観を向上させるといった手法などがとられることがある。しかしながら、これらの方法を用いることによって、塗膜の耐食性、機械的強度などの塗膜物性が低下したり、付きまわり性が低下したりするなどといった不具合が生じることがある。
【0027】
これに対して本発明の電着塗膜の形成方法は、上記のようなバインダー樹脂の組成を変更すること、顔料濃度を下げること、または高沸点溶剤を添加することなどといったことは必要とせず、顔料100重量部に対して0.25〜5重量部という特定量の酸化亜鉛を用いることによるのみによって、電着塗膜の形成において塗膜外観を向上させ、かつガスピンの発生を抑制することができるという優れた効果を有している。本発明の方法は、塗膜の耐食性、機械的強度などの塗膜物性の低下または付きまわり性の低下などといった不具合を伴うことなく、塗膜外観向上およびガスピンの発生を抑制することができるという利点を有している。
【0028】
本発明において用いられる電着塗料組成物はさらに、電着塗料組成物の調製に用いられる顔料分散ペーストの経時による増粘および増粒が低減されているという利点も有している。この効果は、顔料100重量部に対して0.25〜5重量部の酸化亜鉛を含む顔料を電着塗料組成物に用いることによって得られる効果である。鉄よりイオン化傾向が大きい亜鉛を含む酸化亜鉛は、耐食性を付与する防錆顔料としての性能を有する一方、電着塗料組成物に用いると増粘してしまうという不具合があった。この増粘の問題については、特開2006−137863号公報(特許文献4)の第0015段落および特開平7−53902号公報(特許文献2)の第0003段落にも記載されている。このような不具合に対して、本発明は、顔料100重量部に対して0.25〜5重量部の酸化亜鉛を含む顔料を電着塗料組成物に用いることによって、顔料分散ペーストの経時増粘を低減することができ、顔料分散ペーストの貯蔵安定性を向上することができるという効果をも見いだした。顔料分散ペーストの貯蔵安定性が向上することによって、電着塗料組成物の調製がより容易となるという産業上の利点がある。
【0029】
アミン変性エポキシ樹脂(1)
本発明で用いるアミン変性エポキシ樹脂(1)は、アミンで変性されたビスフェノール型エポキシ樹脂であるのが好ましい。アミン変性エポキシ樹脂(1)は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部を、アミンで開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をアミンで開環して製造される。
【0030】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807(同、エポキシ当量170)などがある。
【0031】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0032】
【化1】

【0033】
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をアミン変性エポキシ樹脂(1)に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0034】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックイソシアネート硬化剤とポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0035】
特に好ましいエポキシ樹脂はオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂である。耐熱性及び耐食性に優れ、更に耐衝撃性にも優れた塗膜が得られるからである。
【0036】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されており、公知である。
【0037】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0038】
これらのエポキシ樹脂は、開環後0.3〜4.0meq/gのアミン当量となるように、より好ましくはそのうちの5〜50%を1級アミノ基が占めるように活性水素化合物で開環するのが望ましい。
【0039】
エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応させるアミンとしては、1級アミン、2級アミンが含まれる。エポキシ樹脂と2級アミンとを反応させると、3級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。また、エポキシ樹脂と1級アミンとを反応させると、2級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。さらに、1級アミノ基および2級アミノ基を有する樹脂を用いることにより、1級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂を調製することができる。ここで、1級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂の調製は、1級アミノ基および2級アミノ基を有する樹脂をエポキシ樹脂と反応させる前に、1級アミノ基をケトンでブロック化してケチミンにしておいて、これをエポキシ樹脂に導入した後に脱ブロック化することによって調製することができる。
【0040】
1級アミン、2級アミンおよびケチミンの具体例としては、例えば、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミンなどがある。さらに、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの、ブロックされた1級アミンを有する2級アミン、がある。これらのアミン類等は2種以上を併用して用いてもよい。
【0041】
ブロックイソシアネート硬化剤(2)
ブロックイソシアネート硬化剤(2)は、ポリイソシアネートをブロック剤でブロックすることにより調製される。ポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとして、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等が挙げられる。
【0042】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0043】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤に使用してよい。
【0044】
ブロックイソシアネート硬化剤(2)は、上記ポリイソシアネートをブロック剤でブロック化することによって調製される。ここでブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得る化合物である。
【0045】
ブロックイソシアネート硬化剤(2)を構成するポリイソシアネートとして、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネートおよび脂環式ポリイソシアネートからなる群から選択される少なくとも1種が含まれ、そしてこのポリイソシアネートをブロックするブロック剤として、グリコール系ブロック剤、ラクタム系ブロック剤、オキシム系ブロック剤およびグリコールエーテル系ブロック剤からなる群から選択される少なくとも1種が含まれるのが好ましい。
ここでグリコール系ブロック剤としては、例えば、プロピレングリコールおよびブチレングリコールなどを挙げることができる。
ラクタム系ブロック剤としては、例えば、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタムおよびβ−プロピオラクタムなどを挙げることができる。
またオキシム系ブロック剤としては、例えば、ホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサンオキシムなどを挙げることができる。
またグリコールエーテル系ブロック剤としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル系ブロック剤;および、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル系ブロック剤などを挙げることができる。
【0046】
ブロック剤として、上記のグリコール系ブロック剤、ラクタム系ブロック剤、オキシム系ブロック剤またはグリコールエーテル系ブロック剤以外にも、他の活性水素含有ブロック剤(以下、単に「活性水素含有ブロック剤」という)を併用することができる。これらの活性水素含有ブロック剤として、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、クロロフェノールおよびエチルフェノールなどのフェノール系ブロック剤;アセト酢酸エチルおよびアセチルアセトンなどの活性メチレン系ブロック剤;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、ベンジルアルコール、グリコール酸メチル、グリコール酸ブチル、ジアセトンアルコール、乳酸メチルおよび乳酸エチルなどのアルコール系ブロック剤;ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノールなどのメルカプタン系ブロック剤;酢酸アミド、ベンズアミドなどの酸アミド系ブロック剤;コハク酸イミドおよびマレイン酸イミドなどのイミド系ブロック剤;イミダゾール、2−エチルイミダゾールなどのイミダゾール系ブロック剤;ピラゾール系ブロック剤;及びトリアゾール系ブロック剤等を挙げることができる。
【0047】
ブロックポリイソシアネートの調製に使用されるこれらのブロック剤は、一般にポリイソシアネートのイソシアネート基と等当量で使用される。
【0048】
グリコール系ブロック剤、ラクタム系ブロック剤、オキシム系ブロック剤またはグリコールエーテル系ブロック剤と活性水素含有ブロック剤との配合比は、硬化性と貯蔵安定性の観点に基づいて選択される。
【0049】
ブロックイソシアネート硬化剤(2)は、芳香族ポリイソシアネートを少なくともラクタム系ブロック剤、グリコールエーテル系ブロック剤またはグリコール系ブロック剤でブロックしたブロックイソシアネート硬化剤であるか、または、脂環式ポリイソシアネートを少なくともオキシム系ブロック剤またはグリコールエーテル系ブロック剤でブロックしたブロックイソシアネート硬化剤であるのがより好ましい。ここでポリイソシアネートとして、芳香族ポリイソシアネート用いる場合は、電着塗料組成物の付きまわり性が高くなるという効果を得ることができるため、より好ましい。本発明における電着塗料組成物は、酸化亜鉛を顔料100重量部に対して0.25〜5重量部含む塗料組成物である。そしてこの塗料組成物の調製に用いるブロックイソシアネート硬化剤(2)として、このようなブロックイソシアネート硬化剤(2)を用いることによって、極めて良好な低温硬化性を得ることができる。
【0050】
その他の成分
本発明における電着塗料組成物は、上記成分の他に、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドなどの有機錫化合物、N−メチルモルホリンなどのアミン類、およびストロンチウム、コバルト、銅、ビスマスなどの金属および金属塩を触媒として含んでもよい。これらは、硬化剤のブロック剤解離のための触媒として作用し得る。触媒の濃度は、電着塗料組成物中のバインダー樹脂100固形分重量部に対して0.1〜6重量部であるのが好ましい。
【0051】
電着塗料組成物の調製
本発明における電着塗料組成物は、バインダー樹脂エマルション、顔料分散ペーストおよび必要に応じた触媒を水性媒体中に分散することによって調製することができる。バインダー樹脂エマルションは、アミン変性エポキシ樹脂(1)およびブロックイソシアネート硬化剤(2)を含有する。
【0052】
バインダー樹脂エマルションの調製は、任意の方法により調製することができる。好ましい調製方法として、アミン変性エポキシ樹脂(1)、ブロックイソシアネート硬化剤(2)および中和酸を含む水性媒体を混合して、バインダー樹脂を乳化させる方法が挙げられる。中和酸は、アミン変性エポキシ樹脂を中和して、バインダー樹脂エマルションの分散性を向上させるものである。中和酸は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。
【0053】
塗料組成物に含有させる中和酸の量が多くなると、アミン変性エポキシ樹脂の中和率が高くなり、バインダー樹脂エマルションの水性媒体に対する親和性が高くなる。このため、分散安定性が増加する。これは、電着塗装時に被塗物に対してバインダー樹脂が析出し難い特性を意味し、塗料固形分の析出性は低下する。
【0054】
逆に、塗料組成物に含有させる中和酸の量が少ないと、アミン変性エポキシ樹脂の中和率が低くなり、バインダー樹脂エマルションの水性媒体に対する親和性が低くなり、分散安定性が減少する。このことは、塗装時に被塗物に対してバインダー樹脂が析出し易い特性を意味し、塗料固形分の析出性は増大する。
【0055】
バインダー樹脂エマルションの調製に用いられる中和酸の量は、バインダー樹脂エマルションの固形分重量100gに対して10〜30mg当量であるのがより好ましい。ここでバインダー樹脂エマルションの固形分重量は、アミン変性エポキシ樹脂(1)およびブロックイソシアネート硬化剤(2)の固形分重量に相当する。中和酸の量が10mg当量未満であると水への親和性が十分でなく水への分散ができないか、著しく安定性に欠ける状態となる恐れがあり、30mg当量を超えると析出に要する電気量が増加し、塗料固形分の析出性が低下し、つきまわり性が劣る恐れがある。
【0056】
なお、本明細書中において「中和酸の量」とは、乳化の際、アミン変性エポキシ樹脂を中和するのに用いた酸の量であって、塗料組成物に含まれているバインダー樹脂エマルションの固形分重量100gに対するmg当量数で表わし、MEQ(A)と表示する。
【0057】
ブロックイソシアネート硬化剤(2)の量は、硬化時にアミン変性エポキシ樹脂(1)中の1級、2級、3級アミノ基、水酸基、等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にアミン変性エポキシ樹脂と、ブロックイソシアネート硬化剤との固形分重量比(エポキシ樹脂/硬化剤)で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。
【0058】
有機溶媒は、アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、顔料分散樹脂等の樹脂成分を合成する際に溶剤として必要であり、完全に除去するには煩雑な操作を必要とする。従って所定量の有機溶媒が電着塗料組成物中に含まれることとなる。このバインダー樹脂に有機溶媒が含まれていることにより、造膜時の塗膜の流動性が改良され、塗膜の平滑性が向上することとなる。
【0059】
電着塗料組成物に通常含まれる有機溶媒としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等が挙げられる。このような有機溶媒を、カチオン電着塗料組成物の調製に用いられる水性媒体に含めてもよい。
【0060】
塗料組成物は、上記のほかに、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。
【0061】
電着塗装
本発明の電着塗料組成物は被塗物に電着塗装され、電着塗膜を形成する。被塗物としては導電性のあるものであれば特に限定されず、例えば、鉄板、鋼板、アルミニウム板及びこれらを表面処理したもの、これらの成型物等を挙げることができる。
【0062】
電着塗装は、被塗物を陰極として陽極との間に、通常、50〜450Vの電圧を印加して行う。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となる。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、通常10〜45℃に調節される。
【0063】
カチオン電着塗料組成物の電着塗装過程は、カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する過程、及び、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる過程、から構成される。また、電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜4分とすることができる。本発明中の「電着塗膜」とは、上記の、被膜を析出させる工程後であって、焼付け硬化前の、電着塗装後の未硬化の塗膜をいう。
【0064】
電着塗膜の膜厚は、一般に5〜25μmの範囲で形成することができる。膜厚が5μm未満であると、防錆性が不充分となる恐れがある。
【0065】
上述のようにして得られる電着塗膜を、電着過程の終了後、そのまま又は水洗した後、120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間焼き付けることにより硬化し、硬化電着塗膜が得られる。
【実施例】
【0066】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0067】
製造例1 アミン変性エポキシ樹脂(i)の製造
撹拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、液状エポキシ940部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)61.4部およびメタノール24.4部を仕込んだ。反応混合物は撹拌下室温から40℃まで昇温したあと、ジブチル錫ラウレート0.01部およびトリレンジイソシアネート(以下TDIと略す)21.75部を投入した。40〜45℃で30分間反応を継続した。反応はIRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0068】
上記反応物にポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル82.0部、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート 125.0部を添加した。反応は55℃〜60℃で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。続いて昇温し100℃でN,N-ジメチルベンジルアミン2.0部投入し、130℃で保持、分留管を用いメタノールを分留すると共に反応させたところ、エポキシ当量は284となった。
【0069】
その後、MIBKで不揮発分95%となるまで希釈し反応混合物を冷却し、ビスフェノールA268.1部と2-エチルヘキサン酸93.6部を投入した。反応は120℃〜125℃で行いエポキシ当量が1320となったところでMIBKで不揮発分85%となるまで希釈し反応混合物を冷却した。ジエチレントリアミンの1級アミンをMIBKブロックしたもの93.6部、N−メチルエタノールアミン65.2部を加え、120℃で1時間反応させた。その後、カチオン性基を有するオキサゾリドン環含有変性エポキシ樹脂(樹脂固形分85%)を得た。
【0070】
製造例2 ブロックポリイソシアネート硬化剤(A)の製造
クルードMDI 1330部およびMIBK276.1部とジブチル錫ラウレート2部を反応容器に仕込み、これを85〜95℃まで加熱した後、カプロラクタムのエチレングリコールモノブチルエーテル溶液(当量比20/80)1170部を2時間かけて滴下した。滴下終了後100℃に昇温し一時間保温した。IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認しその後MIBK347.6部を投入し、ブロックポリイソシアネート硬化剤を得た。
【0071】
製造例3 顔料分散樹脂の製造
撹拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器にイソホロンジイソシアネート(以下IPDIと略す)2220部MIBK342.1部を仕込み、昇温し50℃でジブチル錫ラウレート2.2部を投入し60℃でメチルエチルケトンオキシム(以下MEKオキシムと略)878.7部を仕込んだ。その後、60℃で1時間保温し、NCO当量が348となっていることを確認し、ジメチルエタノールアミン890部を投入した。60℃で1時間保温しIRでNCOピークが消失していることを確認後60℃を超えないよう冷却しながら50%乳酸1872.6部と脱イオン水495部を投入して4級化剤を得た。ついで異なる反応容器にTDI870部およびMIBK49.5部を仕込み、50℃以上にならないように2−エチルヘキサノール667.2部を2.5時間かけて滴下した。滴下終了後MIBK35.5部を投入し、30分保温した。その後NCO当量が330〜370になっていることを確認しハーフブロックポリイソシアネートを得た。
【0072】
撹拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器に、液状エポキシ940.0部メタノール38.5部で希釈した後、ここへジブチル錫ジラウレート0.1部を加えた。これを50℃に昇温した後、TDI87.1部投入さらに昇温した。100℃でN,N−ジメチルベンジルアミン1.4部を加え130℃で2時間保温した。このとき分留管によりメタノールを分留した。これを115℃まで冷却し、MIBKを固形分濃度90%になるまで仕込み、その後ビスフェノールA270.3部、2−エチルヘキサン酸39.2部を仕込み125℃で2時間加熱攪拌した後、前述のハーフブロックポリイソシアネート516.4部を30分間かけて滴下し、その後30分間加熱攪拌した。ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル1506部を徐々に加え溶解させた。90℃まで冷却後、前述の4級化剤を加え、70〜80℃に保ち酸価2以下を確認して顔料分散樹脂を得た。(樹脂固形分30%)
【0073】
製造例4 顔料分散ペースト(a)の製造
サンドグラインドミルに製造例3で得た顔料分散用樹脂を106.9部、酸化亜鉛0.25部、カーボンブラック1.6部、カオリン39.75部、二酸化チタン55.4部、リンモリブデン酸アルミニウム3部、脱イオン水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分60%)。酸化亜鉛の含有量は、顔料100重量部に対して0.25重量部であった。
【0074】
製造例5 顔料分散ペースト(b)の製造
サンドグラインドミルに製造例3で得た顔料分散用樹脂を106.9部、酸化亜鉛0.5部、カーボンブラック1.6部、カオリン39.5部、二酸化チタン55.4部、リンモリブデン酸アルミニウム3部、脱イオン水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分60%)。酸化亜鉛の含有量は、顔料100重量部に対して0.5重量部であった。
【0075】
製造例6 顔料分散ペースト(c)の製造
サンドグラインドミルに製造例3で得た顔料分散用樹脂を106.9部、酸化亜鉛3部、カーボンブラック1.6部、カオリン37部、二酸化チタン55.4部、リンモリブデン酸アルミニウム3部、脱イオン水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分60%)。酸化亜鉛の含有量は、顔料100重量部に対して3重量部であった。
【0076】
製造例7 顔料分散ペースト(d)の製造
サンドグラインドミルに製造例3で得た顔料分散用樹脂を106.9部、酸化亜鉛5部、カーボンブラック1.6部、カオリン35部、二酸化チタン55.4部、リンモリブデン酸アルミニウム3部、脱イオン水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分60%)。酸化亜鉛の含有量は、顔料100重量部に対して5重量部であった。
【0077】
比較製造例1 顔料分散ペースト(e)の製造
サンドグラインドミルに製造例3で得た顔料分散用樹脂を106.9部、カーボンブラック1.6部、カオリン40部、二酸化チタン55.4部、リンモリブデン酸アルミニウム3部、脱イオン水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分60%)。酸化亜鉛の含有量は、顔料100重量部に対して0重量部であった。
【0078】
比較製造例2 顔料分散ペースト(f)の製造
サンドグラインドミルに製造例3で得た顔料分散用樹脂を106.9部、酸化亜鉛10部、カーボンブラック1.6部、カオリン30部、二酸化チタン55.4部、リンモリブデン酸アルミニウム3部、脱イオン水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分60%)。酸化亜鉛の含有量は、顔料100重量部に対して10重量部であった。
【0079】
比較製造例3 顔料分散ペースト(g)の製造
サンドグラインドミルに製造例3で得た顔料分散用樹脂を106.9部、酸化亜鉛0.125部、カーボンブラック1.6部、カオリン39.875部、二酸化チタン55.4部、リンモリブデン酸アルミニウム3部、脱イオン水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分60%)。酸化亜鉛の含有量は、顔料100重量部に対して0.125重量部であった。
【0080】
比較製造例4 顔料分散ペースト(h)の製造
サンドグラインドミルに製造例3で得た顔料分散用樹脂を106.9部、酸化亜鉛6部、カーボンブラック1.6部、カオリン34部、二酸化チタン55.4部、リンモリブデン酸アルミニウム3部、脱イオン水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分60%)。酸化亜鉛の含有量は、顔料100重量部に対して6重量部であった。
【0081】
比較製造例5 アミン変性エポキシ樹脂(ii)の製造
撹拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、液状エポキシ940部、メチルイソブチルケトン61.4部およびメタノール24.4部を仕込んだ。反応混合物は撹拌下室温から40℃まで昇温したあと、ジブチル錫ラウレート0.01部およびトリレンジイソシアネート(以下TDIと略す)21.75部を投入した。40〜45℃で30分間反応を継続した。反応はIRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0082】
上記反応物にポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル82.0部、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート 125.0部を添加した。反応は55℃〜60℃で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。続いて昇温し100℃でN,N-ジメチルベンジルアミン2.0部投入し、130℃で保持、分留管を用いメタノールを分留すると共に反応させたところ、エポキシ当量は284となった。
【0083】
その後、MIBKで不揮発分95%となるまで希釈し反応混合物を冷却し、2-エチルヘキサン酸432部を投入した。反応は120℃〜125℃で行いエポキシ当量が1320となったところでMIBKで不揮発分85%となるまで希釈し反応混合物を冷却した。ジエチレントリアミンの1級アミンをMIBKブロックしたもの93.6部、N−メチルエタノールアミン65.2部を加え、120℃で1時間反応させた。その後、カチオン性基を有するオキサゾリドン環含有変性エポキシ樹脂(樹脂固形分85%)を得た。
【0084】
実施例1
カチオン電着塗料組成物の製造
製造例1で得られたカチオン基を有するオキサゾリドン環含有変性エポキシ樹脂と製造例2で得られたブロックポリイソシアネート硬化剤Aを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。さらに2−エチルヘキシルグリコールを樹脂固形分に対し3%添加したものに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量が33になるよう氷酢酸で中和し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。
【0085】
このエマルション1730部および製造例4で得られた顔料分散ペースト(a)295部と、イオン交換水1970部と10%酢酸セリウム水溶液20部およびジブチル錫オキサイド10部とを混合して、固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0086】
電着塗装
リン酸亜鉛系化成処理(日本ペイント株式会社製SD−5350)を施した冷延鋼板(JIS G3141規格品、150×70×0.8mm)に、得られたカチオン電着塗料組成物中を、乾燥塗膜の膜厚が25μmになるように電着塗装し、これを160℃で25分間焼き付けて硬化させて塗膜を形成した。
【0087】
実施例2〜4および比較例1〜5
下記表1または2に示される顔料分散ペースト、アミン変性エポキシ樹脂、ブロックポリイソシアネート硬化剤を用いた他は、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。こうして得られたカチオン電着塗料組成物を用いて実施例1と同様に電着塗装を行った。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
上記実施例および比較例について下記の項目について評価を行った。その結果を表3および表4に示す。
【0091】
塗膜のRa値の測定
実施例および比較例によって得られた塗膜のRa値を、JIS−B0601−2001に準拠し、評価型表面粗さ測定機(Mitsutoyo社製、SURFTEST SJ−201P)を用いて測定した。2.5mm幅カットオフ(区画数5)として7回測定し、上下消去平均によりRa値を得た。なお、これらのRa値は、値が小さいほど表面上の凹凸が少なく、塗膜外観が良好であることを示す。
【0092】
ガスピン性能
溶融亜鉛めっき冷延鋼板に、280Vへ5秒で昇圧後、175秒で電着した後、水洗し、170℃で25分間焼き付けた。試験板の塗面状態を観察し、発生したガスピンホールの個数を調べた。
【0093】
つきまわり性
実施例および比較例において調製されたカチオン電着塗料組成物を使用して、図1に示す測定装置によりつきまわり性を測定した。導電性の電着塗装容器201(内径105mm、高さ370mm)に、調製した電着塗料207 3リットルを入れ、スターラー205で撹拌した。評価板203(寸法15mm×400mm、厚さ0.7mm)としてリン酸亜鉛処理鋼板(JIS G 3141 SPCC−SDのサーフダインSD−2500処理)を用いた。電着塗装容器201に、両端開放形状のパイプ202(内径17.5mm、長さ375mm、肉厚1.8mm)を配置し、評価板203をそのパイプの中に、パイプと接触しないように配置した。評価板203とパイプ202について、電着塗料に30cm浸漬した。
【0094】
電着塗装容器201を正極、上記評価板203を陰極として電圧を印加して塗装した。塗装は、印加開始から30秒間かけて200Vの電圧に昇圧し、その後、150秒間所定の電圧を維持することにより行った。この時の浴温は28℃に調節した。塗装後の評価板は、水洗した後、150℃で25分間焼き付けし、評価板の膜厚を測定した。評価板上の膜厚が6μmである位置に記しを付け、その記し位置の、評価板底面部からの距離(cm)を測定した。評価板の塗装塗膜は、一般に、底面部(パイプ入口部分)が厚く、そこから離れるほど薄くなるため、6μmの位置が底面部から離れているほど、つきまわり性が良好であるといえる。
【0095】
評価基準
A:評価板上の膜厚が6μmである位置の、評価板底面部からの距離が18cm以上30cm未満である。
B:評価板上の膜厚が6μmである位置の、評価板底面部からの距離が15cm以上18cm未満である。
C:評価板上の膜厚が6μmである位置の、評価板底面部からの距離が15cm未満である。
【0096】
耐塩水噴霧性試験
実施例および比較例において得られた塗膜を有する塗装試料を用いて、JIS K 5600 7−1に準拠して、耐塩水噴霧性試験を行なった。塗装試料全体にクロスカットを入れて試験を行なった。表3および4に、クロスカット部分から生じた錆または膨れの幅(mm)を示す。この幅(mm)が小さいほど耐食性が優れると評価できる。
【0097】
塗料安定性試験
粒度測定
各実施例および比較例における電着塗料組成物の調製に用いた顔料分散ペーストの粒度をグラインドゲージを用いて測定した。次いで、この顔料分散ペーストを、内面コートした缶に入れ、40℃のフラン器に30日間貯蔵した。貯蔵後、蓋を開け、顔料分散ペーストの粒度を、再度、グラインドゲージを用いて測定した。結果を表3、4に示す。
【0098】
粘度測定
各実施例および比較例における電着塗料組成物の調製に用いた顔料分散ペーストを、内面コートした缶に入れ、40℃のフラン器に30日間貯蔵した。貯蔵後、蓋を開け、粘度計(上島製作所社製、ストーマー粘度計使用、25℃で測定)を用いて、塗料の粒度を測定した。結果を表3、4に示す。
【0099】
【表3】

【0100】
【表4】

【0101】
上記表3および4から明らかであるように、本発明の電着塗膜の形成方法は、ガスピン性能、つきまわり性に優れており、得られた塗膜もまた耐食性、塗膜外観に優れるものであった。さらに、電着塗料組成物の調製に用いられる顔料分散ペーストの貯蔵安定性にも優れていることが確認された。一方、顔料中に酸化亜鉛が含まれない比較例1および酸化亜鉛の量が少ない比較例4は、ガスピン性能および得られた塗膜の塗膜外観が劣るものであった。また顔料中に酸化亜鉛が含まれず、バインダー樹脂中に可塑性分を多く含む比較例2は、ガスピン性能は優れるものの、耐食性が劣るものであった。また比較例1および2に用いられる電着塗料組成物の調製に用いた顔料分散ペーストは、貯蔵によって粒度が上昇しており、貯蔵安定性に劣るものであった。比較例3および5は、酸化亜鉛の量が多く含まれる例であり、この例においては顔料分散ペーストが貯蔵によって増粘するという不具合が生じた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によって、電着塗膜の形成において、特定のバインダー樹脂を含む電着塗料組成物を調製することなく、ガスピンの発生を抑制することができる。そして本発明の電着塗膜の形成方法はまた、塗膜外観に優れる塗膜が得られるという利点も有する。本発明は、特定量の酸化亜鉛を含む顔料を電着塗料組成物に用いることによって、顔料分散ペーストの経時増粘を低減することができ、顔料分散ペーストの貯蔵安定性を向上することができるという利点も有している。顔料分散ペーストの貯蔵安定性が向上することによって、電着塗料組成物の調製がより容易となるという産業上の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】つきまわり性測定装置の概要を示す模式図である。
【符号の説明】
【0104】
201…電着塗装容器、
202…パイプ、
203…評価板、
204…液面、
205…スターラー、
206…電源、
207…電着塗料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬して電着塗装する工程を包含する、ガスピンの発生が抑制された電着塗膜の形成方法であって、
該カチオン電着塗料組成物は、酸化亜鉛を含有する顔料を、塗料固形分100重量部に対して10〜30重量部含み、および
該顔料中に含まれる酸化亜鉛の含有量は、顔料100重量部に対して0.25〜5重量部である、
電着塗膜の形成方法。
【請求項2】
前記カチオン電着塗料組成物は、アミン変性エポキシ樹脂(1)、ブロックイソシアネート硬化剤(2)、および酸化亜鉛を含有する顔料(3)を含むカチオン電着塗料組成物であって、および
該ブロックイソシアネート硬化剤(2)を構成するポリイソシアネートとして、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネートおよび脂環式ポリイソシアネートからなる群から選択される少なくとも1種が含まれ、および該ポリイソシアネートをブロックするブロック剤として、グリコール系ブロック剤、ラクタム系ブロック剤、オキシム系ブロック剤およびグリコールエーテル系ブロック剤からなる群から選択される少なくとも1種が含まれる、
請求項1記載の電着塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記ブロックイソシアネート硬化剤(2)は、芳香族ポリイソシアネートを少なくともラクタム系ブロック剤、グリコールエーテル系ブロック剤またはグリコール系ブロック剤でブロックしたブロックイソシアネート硬化剤であるか、または、脂環式ポリイソシアネートを少なくともオキシム系ブロック剤またはグリコールエーテル系ブロック剤でブロックしたブロックイソシアネート硬化剤である、請求項1記載の電着塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記カチオン電着塗料組成物は、アミン変性エポキシ樹脂(1)およびブロックイソシアネート硬化剤(2)を含むバインダー樹脂エマルションと、酸化亜鉛を含有する顔料(3)を含む顔料分散ペーストとを混合することによって調製されたカチオン電着塗料組成物である、請求項1〜3いずれかに記載の電着塗膜の形成方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の電着塗膜の形成方法により得られる塗膜。
【請求項6】
電着塗装工程に用いられるカチオン電着塗料組成物が、酸化亜鉛を含有する顔料を塗料固形分100重量部に対して10〜30重量部含み、および該顔料中に含まれる酸化亜鉛の含有量は顔料100重量部に対して0.25〜5重量部であることを特徴とする、電着塗装時におけるガスピン性能、塗膜外観および顔料分散ペーストの貯蔵安定性を改善する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−195925(P2008−195925A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1956(P2008−1956)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】