説明

電着塗膜形成方法

【課題】 高つきまわり性のカチオン電着塗料組成物を用いた電着塗膜形成方法を提供すること。
【解決手段】 無鉛性カチオン電着塗料組成物を被塗物に電着塗装する工程を包含する、付きまわり性が向上された電着塗膜形成方法であって、この無鉛性カチオン電着塗料組成物は;塗装電圧0〜100Vの範囲におけるクーロン効率が1.0mg/C以上であって、塗装電圧0〜100Vの範囲における単位析出膜重量当たりの膜抵抗値が5KΩ/mg以下である、アミン変性エポキシ樹脂(A);および塗装電圧0〜100Vの範囲におけるクーロン効率が1.0mg/C以上であって、塗装電圧0〜100Vの範囲における単位析出膜重量当たりの膜抵抗値が20KΩ/mg以上である、アミン変性エポキシ樹脂(B);を含む無鉛性カチオン電着塗料組成物である、電着塗膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付きまわり性に優れた電着塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体等の大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行われる。
【0003】
カチオン電着塗装の過程における塗膜の析出は電気化学的な反応によるものであり、電圧の印加により、被塗物表面に塗膜が析出する。析出した塗膜は絶縁性を有するので、塗装過程において、塗膜の析出が進行して析出膜が増加するのに従い、塗膜の電気抵抗は大きくなる。その結果、塗膜が析出した部位での塗料の析出は低下し、代わって、未析出部位への塗膜の析出が始まる。このようにして、順次被塗物に塗料固形分が析出して塗装を完成させる。本明細書中、被塗物の未着部位に塗膜が順次形成される性質を付きまわり性という。
【0004】
電着塗装において、付きまわりを確保するために単に塗膜の電気抵抗値を上げたりすると、電着塗装時の印加電圧が高くなり、それに伴って、電着時に発生した水素ガスが原因と見られる「ガスピンホール」(ガスピンと略称することもある。)が発生し塗膜外観の悪化が生じる恐れが高くなるため、好ましくない。電着塗装においては、ガスピンホール発生などによる塗膜外観の低下を伴うことなく、付きまわり性を高める手法の開発が望まれている。
【0005】
特開2002−356647号公報(特許文献1)には、本出願人らの提案による無鉛性カチオン電着塗料組成物が記載されている。この提案によって高つきまわり性の電着塗料組成物を得ることができるが、高つきまわり性などに対するさらなる要求により、バインダー樹脂の構成成分についてさらに検討する余地もでてきた。
【0006】
特開2004−225095号公報(特許文献2)には、エポキシ樹脂(a1)に、多価ポリオール(a2)と多価ポリオールのエポキシ化合物(a3)と環状エステル化合物(a4)の中から選ばれる少なくとも1種類の変性剤、ポリフェノール化合物(a5)及びアミノ基含有化合物(a6)を反応させてなる基体樹脂に、芳香族ポリイソシアネート化合物、又は脂環式ポリイソシアネート化合物の中から選ばれる少なくとも1種類のポリイソシアネート化合物(b1)に、ブロック剤として、オキシム系化合物、脂肪族アルコール類、芳香族アルキルアルコール類、エーテルアルコール類の中から選ばれる少なくとも1種類のブロック剤(b2)を反応させてなる硬化剤に用いたカチオン電着塗料を用いた塗膜形成方法が記載されている。この方法は、短時間での電着塗装で、付きまわり性、防錆鋼板の電着適性(g材塗装性)、及び防食性に優れるカチオン電着塗料を用いた塗膜形成方法であると記載されている。この発明は、エポキシ樹脂に、多価ポリオール、多価ポリオールのエポキシ化合物、環状エステル化合物といった変性剤を用いて変性させる点において、本発明とは異なるものである。
【0007】
【特許文献1】特開2002−356647号公報
【特許文献2】特開2004−225095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。より特定すれば、本発明は、ガスピン性能を低下させることなく、付きまわり性を向上させることができる、カチオン電着塗料組成物を用いた電着塗膜形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、無鉛性カチオン電着塗料組成物を被塗物に電着塗装する工程を包含する、付きまわり性が向上された電着塗膜形成方法であって、
この無鉛性カチオン電着塗料組成物は、
塗装電圧0〜100Vの範囲におけるクーロン効率が1.0mg/C以上であって、塗装電圧0〜100Vの範囲における単位析出膜重量当たりの膜抵抗値が5KΩ/mg以下である、アミン変性エポキシ樹脂(A)、および
塗装電圧0〜100Vの範囲におけるクーロン効率が1.0mg/C以上であって、塗装電圧0〜100Vの範囲における単位析出膜重量当たりの膜抵抗値が20KΩ/mg以上である、アミン変性エポキシ樹脂(B)、
を含む、無鉛性カチオン電着塗料組成物である、電着塗膜形成方法、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0010】
上記アミン変性エポキシ樹脂(A)は、1級アミノ基または3級アミノ基を有するアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂および4級オニウム基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂の少なくとも1種を含む樹脂であるのが好ましい。
【0011】
また上記アミン変性エポキシ樹脂(B)は、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂であり、および
この樹脂(B)は、1級アミノ基および3級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する樹脂であるのが好ましい。
【0012】
上記無鉛性電着塗料組成物中に含まれる、アミン変性エポキシ樹脂(A)と上記アミン変性エポキシ樹脂(B)との固形分重量比(A):(B)が1:99〜50:50であるのが好ましい。
【0013】
なお本明細書でいう「無鉛性」とは、実質上鉛を含まないことをいい、環境に悪影響を与えるような量で鉛を含まないことを意味する。具体的には、電着浴中の鉛化合物濃度が50ppm、好ましくは20ppmを超える量で鉛を含まないことをいう。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電着塗膜形成方法は、付きまわり性に優れており、かつ被塗物に外観不良を生じ難い。さらに本発明の電着塗膜形成方法は、ガスピン欠陥を抑制する性能(以下、ガスピン性能と略することもある。)に優れ、かつ低い印加電圧での電着塗装が可能であるため、電着塗膜の厚膜化が可能であるという利点も有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
電着塗料組成物
本発明に用いられる無鉛性カチオン電着塗料組成物は、水性媒体、水性媒体中に分散するか又は溶解したバインダー樹脂エマルション、中和酸、有機溶媒を含有する。本発明のカチオン電着塗料組成物はさらに顔料を含んでもよい。バインダー樹脂エマルションに含有されるバインダー樹脂は、アミン変性エポキシ樹脂およびブロックイソシアネート硬化剤からなる樹脂成分である。
【0016】
そして本発明に用いられる無鉛性カチオン電着塗料組成物に含まれるバインダー樹脂エマルションに含有されるバインダー樹脂には、
塗装電圧0〜100Vの範囲におけるクーロン効率が1.0mg/C以上であって、塗装電圧0〜100Vの範囲における単位析出膜重量当たりの膜抵抗値が5KΩ/mg以下である、アミン変性エポキシ樹脂(A)、および
塗装電圧0〜100Vの範囲におけるクーロン効率が1.0mg/C以上であって、塗装電圧0〜100Vの範囲における単位析出膜重量当たりの膜抵抗値が20KΩ/mg以上である、アミン変性エポキシ樹脂(B)、
が含まれる。
【0017】
本明細書における「クーロン効率」は、電流を流すことによって消費された単位電荷量(クーロン)当たりの、析出した塗料の量(mg)である。このクーロン効率の測定は、測定するアミン変性エポキシ樹脂(A)またはアミン変性エポキシ樹脂(B)に一定量の硬化剤および水を加えて調製した測定用資料を、一定の電圧(10〜100V)で電着塗装し、得られた電着塗膜を焼き付けして硬化させた硬化電着塗膜の重量を測定することによって、得られた硬化電着塗膜の量を測定することにより求めることができる。また、単位析出膜重量当たりの膜抵抗値も、同様の操作を行い、そして得られた硬化電着塗膜の量とその塗膜の膜抵抗値を測定することにより求めることができる。
【0018】
本発明で用いられる電着塗料組成物は、付きまわり性に優れている。特に、短時間での電着塗装においても付きまわり性に優れ、そして塗膜外観に優れた電着塗膜を得ることができる。電着塗装は、被塗物の未着部位に塗膜が順次形成される、付きまわり性に優れた塗装方法である。しかしながら、被塗物が例えば自動車の車体鋼板であるなどの複雑な形態を有する場合は、被塗物の部分毎によって表面電位が異なる場合が多い。被塗物のうち、対極である陽極に近い部分や陽極に面した部分(一般に「外板面」と言われる。)は、電圧の印加によってすぐに表面電位が高くなり、これに伴って電着塗膜の析出が生じる。一方、被塗物のうち、対極から離れ、かつ奥まった部分(一般に「内板面」と言われる。)は、電圧を印加してもなかなか表面電圧は上昇せず、そして長時間電圧を印加することによって徐々に表面電圧が上昇することとなる。このような内板面の電着塗膜の膜厚を向上させるためには、低い表面電圧領域における電着塗膜の析出性を高める必要がある。
【0019】
電着塗膜の析出性を高める方法としては、一般に、中和酸量を低減させるなどの方法が用いられる。しかしながらこれらの方法を用いると、低い表面電圧領域における電着塗膜の析出性が向上するのみならず、高い表面電位領域における電着塗膜の析出性も向上してしまう。その結果、表面電位が高い部分、すなわち被塗物の外板面など、の電着塗膜の膜厚が過剰に増すこととなる。これは経済的に不利である。
【0020】
本発明によって、このような不利を伴うことなく、付きまわり性を向上させる手段が提供される。本発明の方法においては、膜抵抗値が異なるアミン変性エポキシ樹脂(A)および(B)を併せて用いることにより、低い表面電圧領域、すなわち被塗物の内板面など、における電着塗膜の析出性を選択的に高めることが可能となった。
【0021】
本発明に用いられる無鉛性カチオン電着塗料組成物は、塗装電圧0〜100Vの範囲における単位析出膜重量当たりの膜抵抗値が5KΩ/mg以下という、塗装電圧が低い条件において膜抵抗値が低いアミン変性エポキシ樹脂(A)が含まれる。本発明において、塗装電圧が低い条件において膜抵抗値が低い、アミン変性エポキシ樹脂(A)が含まれることによって、低電圧領域、すなわち被塗物の内板面など、における電着塗膜の十分な膜厚が確保できることとなる。
【0022】
また本発明に用いられる無鉛性カチオン電着塗料組成物は、塗装電圧0〜100Vの範囲における単位析出膜重量当たりの膜抵抗値が20KΩ/mg以上という、塗装電圧が低い条件において膜抵抗値が高いアミン変性エポキシ樹脂(B)が含まれる。本発明において、塗装電圧が低い条件において膜抵抗値が高い、アミン変性エポキシ樹脂(B)が含まれることによって、表面電位が高い部分(被塗物の外板面など)における膜厚が抑制され、付きまわり性が確保できることとなる。
【0023】
アミン変性エポキシ樹脂(A)およびアミン変性エポキシ樹脂(B)
本発明におけるアミン変性エポキシ樹脂(A)は、アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂およびアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂の少なくとも1種が含まれるのが好ましい。また、アミン変性エポキシ樹脂(B)は、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂であるのが好ましい。
【0024】
アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂
本発明において、アミン変性エポキシ樹脂(A)はアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂を含んでもよい。アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂は、典型的にはノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ環をアミンで開環して製造される。ノボラック型エポキシ樹脂としては、式
【0025】
【化1】

【0026】
[式中R、R'およびR''はそれぞれ独立して水素又は、炭素数1〜5の直鎖または分枝鎖アルキレン基である。また繰り返し単位nは、0〜25である。]
で表わされるものを使用できる。
【0027】
ノボラック型エポキシ樹脂の典型例は、フェノールノボラック樹脂またはクレゾールノボラック樹脂である。前者の市販品としては、YDPN−638(東都化成社製)、後者の市販品としては、YDCN−701(同)、YDCN−704(同)などがある。
【0028】
ノボラック型エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応させるアミンには、2級アミン、3級アミンおよび、1級アミノ基および2級アミノ基など、複数のアミノ基を有する化合物などが含まれる。かかるアミンの中でも2級アミンを用いる場合が特に好ましい。エポキシ樹脂と2級アミンを反応させると3級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。これらのアミンおよび化合物の具体例および導入方法は、以下に記載する、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂の場合と同様であり、同様の方法により導入することができる。
【0029】
また、ノボラック型エポキシ樹脂に複数存在するエポキシ環には、酢酸などのカルボン酸類、アリルアルコールなどのアルコール類、ノニルフェノールのようなフェノール類を一部付加させてもよい。
【0030】
アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂は、中和酸により中和され用いることができる。中和酸の量は特に限定されない。中和酸は、水性媒体中で安定に分散できる最低量以上が必要であるが、付加させるアミンの種類および中和酸の種類により異なる。
【0031】
このアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂は、クーロン効率および膜抵抗値が低いため、低電圧印加条件での付きまわり性に優れる。本発明においてこのアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂を、アミン変性エポキシ樹脂(A)に含めることによって、被塗物の内板面などの膜厚が十分確保される、付きまわり性が優れた電着塗料組成物を得ることができる。
【0032】
アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂
アミン変性エポキシ樹脂(A)は、上記アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂および/または4級オニウム基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂が含まれ得る。また、アミン変性エポキシ樹脂(B)は、4級オニウム基を有さないアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂が含まれ得る。以下、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂について記載する。
【0033】
本発明で用いるアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂は、アミンで変性されたビスフェノール型エポキシ樹脂である。アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部を、アミンで開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をアミンで開環して製造される。
【0034】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807、(同、エポキシ当量170)などがある。
【0035】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0036】
【化2】

【0037】
[式中、Rはビスフェノール化合物から水酸基の水素を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0038】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックイソシアネート硬化剤とポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0039】
特に好ましいエポキシ樹脂はオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂である。耐熱性及び耐食性に優れ、更に耐衝撃性にも優れた塗膜が得られるからである。
【0040】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されており、公知である。
【0041】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0042】
これらのエポキシ樹脂は、開環後0.3〜4.0meq/gのアミン当量となるように、より好ましくはそのうちの5〜50%を1級アミノ基が占めるように活性水素化合物で開環するのが望ましい。
【0043】
ビスフェノール型エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応させるアミンとしては、1級アミン、2級アミンおよび3級アミンが含まれる。ビスフェノール型エポキシ樹脂と3級アミンとを反応させると、4級オニウム基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂が得られる。ビスフェノール型エポキシ樹脂と2級アミンとを反応させると、3級アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂が得られる。また、ビスフェノール型エポキシ樹脂と1級アミンとを反応させると、2級アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂が得られる。さらに、1級アミノ基および2級アミノ基などの複数のアミノ基を有する化合物などを用いることにより、1級アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を調製することができる。このような化合物を用いるアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂の調製は、エポキシ樹脂と反応させる前に、1級アミノ基をケトンでブロック化してケチミンにしておいて、これをエポキシ樹脂に導入した後に脱ブロック化することによって調製することができる。
【0044】
1級アミン、2級アミンおよびケチミンの具体例としては、例えば、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミンなどがある。さらに、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの、ブロックされた1級アミンを有する2級アミン、がある。これらのアミン類等は2種以上を併用して用いてもよい。
【0045】
また3級アミンの具体例としては、ジメチルエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジエチルベンジルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジフェネチルメチルアミン、ジメチルアニリン、N−メチルモルホリン等が挙げられる。これらのアミン類等は2種以上を併用して用いてもよい。
【0046】
アミン変性エポキシ樹脂(A)にアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂が含まれる場合、このアミン変性エポキシ樹脂(A)に含まれるアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂は、4級オニウム基を有するのが好ましい。これらの基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂は、膜抵抗値が低く、低電圧印加条件での膜析出性に優れるからである。これは上記の通り、ビスフェノール型エポキシ樹脂と3級アミンとを反応させることにより得ることができる。
【0047】
アミン変性エポキシ樹脂(B)に含まれるアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂は、1級アミノ基および3級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する樹脂であるのが好ましい。そしてアミン変性エポキシ樹脂(B)に含まれるアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂は、4級オニウム基を含まない。このように4級オニウム基を含まないことによって、膜抵抗値が高いものとなる。
【0048】
本発明の方法により用いられる電着塗料組成物に含まれる、アミン変性エポキシ樹脂(A)とアミン変性エポキシ樹脂(B)との固形分重量比(A):(B)は、1:99〜50:50であるのが好ましい。この固形分重量比(A):(B)は、1:99〜20:80であるのがより好ましい。アミン変性エポキシ樹脂(A)およびアミン変性エポキシ樹脂(B)を上記範囲で用いることによって、電着塗装を短時間で行う場合であっても、優れた付きまわり性を確保することができる。
【0049】
ブロックイソシアネート硬化剤
本発明のブロックイソシアネート硬化剤で使用するポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれであってもよい。
【0050】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0051】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤に使用してよい。
【0052】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0053】
ブロック剤としては、通常使用されるε−カプロラクタムやブチルセロソルブ等を用いることができる。
【0054】
顔料
本発明の電着塗料組成物には通常用いられる顔料を含有させてもよい。使用し得る顔料の例としては、通常使用される顔料、例えば、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料等、が挙げられる。
【0055】
上記顔料が電着塗料組成物中に含まれる場合の含有量は、電着塗料組成物の塗料固形分に対して30重量%以下の範囲で含まれるのが好ましい。顔料は、電着塗料組成物の塗料固形分に対して1〜25重量%の範囲で含まれるのがより好ましい。顔料濃度が30重量%を超える場合は、得られる電着塗膜の水平外観が低下する恐れがある。
【0056】
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状(顔料分散ペースト)にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0057】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂ワニスと共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。
【0058】
一般に、顔料分散樹脂は、顔料100重量部に対して固形分比20〜100重量部の量で用いる。顔料分散樹脂ワニスと顔料とを混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得る。
【0059】
本発明の電着塗料組成物は、上記成分の他に、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドなどの有機錫化合物、N−メチルモルホリンなどのアミン類、ストロンチウム、コバルト、銅などの金属塩を触媒として含んでもよい。これらは、硬化剤のブロック剤解離のための触媒として作用し得る。触媒の濃度は、電着塗料組成物中のバインダー樹脂100固形分重量部に対して0.1〜6重量部であるのが好ましい。
【0060】
無鉛性カチオン電着塗料組成物の調製
本発明に用いられる無鉛性カチオン電着塗料組成物は、上に述べたアミン変性エポキシ樹脂(A)および(B)、ブロックイソシアネート硬化剤、顔料分散ペーストおよび触媒を、水性媒体中に分散させることによって調製することができる。また、通常、水性媒体にはカチオン性エポキシ樹脂を中和して分散性を向上させるために中和酸を含有させる。中和酸は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸、スルファミン酸、アセチルグリシン等の無機酸または有機酸である。本明細書中における水性媒体とは、水か、水と有機溶媒との混合物である。水としてイオン交換水を用いるのが好ましい。使用しうる有機溶媒の例としては炭化水素類(例えば、キシレンまたはトルエン)、アルコール類(例えば、メチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール)、エーテル類(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ケトン類(例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセチルアセトン)、エステル類(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)またはそれらの混合物が挙げられる。
【0061】
ブロックイソシアネート硬化剤の量は、硬化時にカチオン性エポキシ樹脂中の1級、2級アミノ基、水酸基、等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にカチオン性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤との固形分重量比(エポキシ樹脂/硬化剤)で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。中和酸の量はカチオン性エポキシ樹脂のカチオン性基の少なくとも20%、好ましくは30〜60%を中和するのに足りる量である。
【0062】
有機溶媒はカチオン性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、樹脂微粒子等の樹脂成分を調製する際に溶媒として必ず必要であり、完全に除去するには煩雑な操作を必要とする。また、バインダー樹脂に有機溶媒が含まれていると造膜時の塗膜の流動性が改良され、塗膜の平滑性が向上する。
【0063】
塗料組成物に通常含まれる有機溶媒としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等が挙げられる。
【0064】
無鉛性カチオン電着塗料組成物は、上記成分のほかに、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤など、通常使用される塗料用添加剤を含むことができる。
【0065】
カチオン電着組成物の塗装方法
上記無鉛性カチオン電着塗料組成物は被塗物に電着塗装され、電着塗膜を形成する。被塗物としては導電性のあるものであれば特に限定されず、例えば、鉄板、鋼板、アルミニウム板及びこれらを表面処理したもの、これらの成型物等を挙げることができる。
【0066】
無鉛性カチオン電着塗料組成物の電着塗装は、被塗物を陰極として陽極との間に、通常、50〜450Vの電圧を印加して行う。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となる。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、通常10〜45℃に調節される。
【0067】
電着過程は、無鉛性カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する過程、及び、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる過程、から構成される。また、電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜4分とすることができる。電着過程の終了後、そのまま又は水洗した後、120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間焼き付けることにより硬化塗膜が得られる。得られる膜厚は硬化塗膜で5〜80μm、特に15〜25μmの範囲内にあることが好ましい。
【実施例】
【0068】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、特に断らない限り、「部」は重量部を表わす。
【0069】
製造例1 アミン変性エポキシ樹脂 A−1の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計を装備したフラスコにMIBK204部を仕込み100℃まで昇温させる。そこにクレゾールノボラック樹脂YD−CN703(東都化成製、エポキシ当量204)204部を少しずつ加え溶解し、エポキシ樹脂の50%溶液を得た。続いて、攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備した先のフラスコとは別のフラスコに、N−メチルエタノールアミン75.1部およびMIBK32.2部を仕込み120℃まで昇温した。先に得られたエポキシ樹脂の50%溶液408部を3時間かけて滴下した。その後、120℃で2時間保持した。のち、80℃まで冷却した。さらに、88%ギ酸24.8部をイオン交換水15.9部で希釈した水溶液を加えて30分間80℃で混合した。引き続いて、脱イオン水489.4部を加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が34%のアミン変性エポキシ樹脂 A−1を得た。このアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂についてGPCによる分子量測定を行った結果、数平均分子量は1800であった。
【0070】
製造例2 アミン変性エポキシ樹脂 A−2の製造
撹拌機、冷却器、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備した反応容器に、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(重量比=8/2)870重量部とメチルイソブチルケトン49.5重量部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ50℃に昇温した。ここに2−エチルヘキサノール667.3重量部を1時間かけて滴下した後、さらに50℃で1時間加熱した。その後、メチルイソブチルケトン31.6重量部を加えて、固形分95重量%のハーフブロック化イソシアネートを得た。
【0071】
このハーフブロック化イソシアネート515重量部を、140℃に加熱したオキサゾリドン環を有するエポキシ当量1000のビスフェノール型エポキシ樹脂のメチルイソブチルケトン溶液(樹脂固形分90重量%)1485重量部に30分かけて加え、さらに130〜140℃で30分撹拌した。
【0072】
次に、ここにNBP−15(三洋化成工業社製、末端に1級OHを有するプロピレングリコールモノブチルエーテル、オキシプロピレン基の繰り返し数:1.5、末端の1級OH率70%)2156.8重量部を溶媒として加え、90℃まで冷却した。
【0073】
さらに、先にジメチルエタノールアミン89.0重量部、50%乳酸187.3重量部および脱イオン水22.0重量部をそれぞれ順に仕込み、65℃で30分撹拌して調製しておいた4級化剤298.3重量部を加え、70〜75℃で酸価が1以下になるまで撹拌を継続した。その後、脱イオン水2227.8重量部を加えて、4級化を終了し、樹脂固形分30重量%のアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂 A−2を得た。
【0074】
製造例3 ブロックイソシアネート硬化剤の製造
ジフェニルメタンジイソシアネート1250部およびメチルイソブチルケトン(以下「MIBK」という。)266.4部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ジブチルスズジラウレート2.5部を加えた。ここに、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK336.1部を加えてブロックイソシアネート硬化剤を得た。
【0075】
製造例4 アミン変性エポキシ樹脂 B−1の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(重量比=8/2)87部、MIBK85部およびジブチルスズジラウレート0.1部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール32部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0076】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂550部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量330になるまで130℃で反応させた。
【0077】
続いて、ビスフェノールA100部及びオクチル酸36部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1030となった。その後MIBK107部を加え反応混合物を冷却し、ジエタノールアミン79部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、3級アミノ塩基を有するエポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。
【0078】
得られた樹脂に製造例3で得られたブロックイソシアネート硬化剤と固形分比で70/30で均一になるように混合した。その後、樹脂固形分100g当たり酸のミリ当量数が25になるよう蟻酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のブロックイソシアネート含有のアミン変性エポキシ樹脂 B−1を得た。
【0079】
製造例5 アミン変性エポキシ樹脂 B−2の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコにビスフェノールAとエピクロルヒドリンから合成したエポキシ当量475のエポキシ樹脂285.0部とエポキシ当量950のエポキシ樹脂380部、p−ノニルフェノール77.0部およびメチルイソブチルケトン82.4部をそれぞれ秤取し、昇温し、均一に溶解したあとベンジルジメチルアミン3.0部を加え、反応温度150℃で反応させエポキシ当量1140になるまで反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%になるまで希釈し、3級アミノ塩基を有するエポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。
【0080】
得られた樹脂に製造例3で得られたブロックイソシアネート硬化剤と固形分比で70/30で均一になるように混合した。その後、樹脂固形分100g当たり酸のミリ当量数が25になるよう蟻酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のブロックイソシアネート含有のアミン変性エポキシ樹脂 B−2を得た。
【0081】
製造例6 顔料分散樹脂の製造
まず、攪拌装置、冷却管、窒素導入管、温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)222.0部を入れ、MIBK39.1部で希釈した後、ここへジブチルスズジラウリート0.2部を加えた。その後、これを50℃に昇温した後、2−エチルヘキサノール131.5部を攪拌下、乾燥窒素雰囲気中で2時間かけて滴下した。適宜、冷却することにより、反応温度を50℃に維持した。その結果、2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(樹脂固形分90.0%)が得られた。
【0082】
次いで適当な反応容器に、ジメチルエタノール87.2部、75%乳酸水溶液117.6部およびエチレングリコールモノブチルエーテル39.2部を順に加え、65℃で約半時間攪拌して、4級化剤を調製した。
【0083】
次に、エポン(EPON)829(シェル・ケミカル・カンパニー社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量193〜203)710.0部とビスフェノールA289.6部とを適当な反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、150〜160℃に加熱したところ初期発熱反応が生じた。反応混合物を150〜160℃で約1時間反応させて、次いで、120℃に冷却した後、先に調整した2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)498.8部を加えた。
【0084】
反応混合物を110〜120℃に約1時間保ち、次いで、エチレングリコールモノブチルエーテル463.4部を加え、混合物を85〜95℃に冷却し、均一化した後、先に調製した4級化剤196.7部を添加した。酸価が1となるまで反応混合物を85〜95℃に保持した後、脱イオン水964部を加えて、エポキシ−ビスフェノールA樹脂において4級化を終了させ、4級アンモニウム塩部分を有する顔料分散用樹脂を得た(樹脂固形分50%)。
【0085】
製造例7 顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに製造例6で得た顔料分散樹脂を120部、カーボンブラック2.0部、カオリン100.0部、二酸化チタン80.0部、リンモリブデン酸アルミニウム18.0部およびイオン交換水221.7部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料ペーストを得た。(固形分48%)
【0086】
上記製造例により得られた各アミン変性エポキシ樹脂(A)および(B)の、クーロン効率と膜抵抗の測定は、以下の方法により行った。
【0087】
製造例1で得られた、エマルション形態のアミン変性エポキシ樹脂A−1へ、ジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて固形分が20%であるカチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料を塗装電圧10Vで電着塗装(60秒/30℃)し、水洗後、170℃で25分間焼付けし、その時のクーロン効率と膜抵抗、析出重量を測定した。塗装電圧が20V〜100Vの場合についても同様な方法で測定を行った。得られた結果を表1に示す。
【0088】
製造例2で得られた、エマルション形態のアミン変性エポキシ樹脂A−2へ、ジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて固形分が20%であるカチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料を塗装電圧10Vで電着塗装(60秒/30℃)し、水洗後、170℃で25分間焼付けし、その時のクーロン効率と膜抵抗、析出重量を測定した。塗装電圧が20V〜100Vの場合についても同様な方法で測定を行った。得られた結果を表1に示す。
【0089】
製造例4で得られた、エマルション形態のアミン変性エポキシ樹脂B−1へ、ジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて固形分が20%であるカチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料を塗装電圧10Vで電着塗装(60秒/30℃)し、水洗後、170℃で25分間焼付けし、その時のクーロン効率と膜抵抗、析出重量を測定した。塗装電圧が20V〜100Vの場合についても同様な方法で測定を行った。得られた結果を表1に示す。
【0090】
製造例5で得られた、エマルション形態のアミン変性エポキシ樹脂B−2へ、ジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて固形分が20%であるカチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料を塗装電圧10Vで電着塗装(60秒/30℃)し、水洗後、170℃で25分間焼付けし、その時のクーロン効率と膜抵抗、析出重量を測定した。塗装電圧が20V〜100Vの場合についても同様な方法で測定を行った。得られた結果を表1に示す。
【0091】
【表1】

*CE:クーロン効率(mg/C)
FR/wt:単位析出重量当たりの膜抵抗(kΩ/mg)
【0092】
表1の結果を図3および図4にグラフで表す。
【0093】
実施例1
製造例1で得られたアミン変性エポキシ樹脂A−1と製造例4で得られたアミン変性エポキシ樹脂B−1とを、固形分比で10/90で混合した。この混合物に、顔料分と塗料樹脂分の固形分比率が1/7となるように、製造例7の顔料分散樹脂ペーストを添加した。そこへジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて固形分が20%である実施例1のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0094】
こうして得られたカチオン電着塗料組成物について、以下の方法により評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0095】
付きまわり性
付きまわり性は、いわゆる4枚ボックス法により評価した。すなわち、図1にしめすように、4枚のリン酸亜鉛処理鋼鈑(JIS G3141 SPCC−SDのサーフダインSD−5000(日本ペイント社製)処理)11〜14を、立てた状態で間隔20mmで平行に配置し、両側面下部および底面を布粘着テープ等の絶縁体で密閉したボックス10を調製した。なお、鋼鈑14以外の鋼鈑11〜13には下部に8mmφの貫通穴15が設けられている。
【0096】
カチオン電着塗料4リットルを塩ビ製容器に移して第1の電着浴とした。図2に示すように、上記ボックス10を、被塗装物として電着塗料21を入れた電着塗料容器20内に浸漬した。この場合、各貫通穴15からのみ塗料21がボックス10内に侵入する。
【0097】
マグネチックスターラー(非表示)で塗料21を攪拌した。そして、各鋼鈑11〜14を電気的に接続し、最も近い鋼鈑11との距離が150mmとなるように対極22を配置した。各鋼鈑11〜14を陰極、対極22を陽極として電圧を印加して、鋼鈑にカチオン電着塗装を行った。塗装は、印加開始から5秒間で鋼鈑11のA面に形成される塗膜の膜厚が15μmに達する電圧まで昇圧し、その後通常電着では175秒間、短時間電着では115秒間その電圧を維持することにより行った。
【0098】
塗装後の各鋼鈑は、水洗した後、170℃で25分間焼き付けし、空冷後、対極22から最も近い鋼鈑11のA面に形成された塗膜の膜厚と、対極22から最も遠い鋼鈑14のG面に形成された塗膜の膜厚とを測定し、膜厚(G面)/膜厚(A面)の比(G/A値)により付きまわり性を評価した。この値が大きいほど、付きまわり性が良好であると判断できる。また、G/A値比を%表示で表2に示す。
【0099】
亜鉛鋼板適性
化成処理を行った合金化溶融亜鉛めっき鋼板に、それぞれ200V、220V、240V、260Vまたは280Vまで5秒間で昇圧させ、175秒間電着塗装を行った。得られた塗装物を水洗し、170℃で25分間焼付けした。こうして得られた硬化電着塗膜の塗膜外観を観察し、クレーターの発生の有無を調べた。クレーターの発生が確認された最低電圧を、表2に記載する。クレーターの発生した電圧が高いほど、亜鉛鋼板適性が良い、つまりガスピン性能に優れる、と評価できる。
【0100】
実施例2
製造例1で得られたアミン変性エポキシ樹脂A−1と製造例4で得られたアミン変性エポキシ樹脂B−1とを、固形分比で20/80で混合した。この混合物に、顔料分と塗料樹脂分の固形分比率が1/7となるように、製造例7の顔料分散樹脂ペーストを添加した。そこへジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて固形分が20%である実施例2のカチオン電着塗料組成物を得た。こうして得られたカチオン電着塗料組成物について、実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0101】
実施例3
製造例2で得られたアミン変性エポキシ樹脂A−2と製造例4で得られたアミン変性エポキシ樹脂B−1を固形分比で10/90で混合した。この混合物に、顔料分と塗料樹脂分の固形分比率が1/7となるように、製造例7の顔料分散樹脂ペーストを添加した。そこへジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて固形分が20%である実施例3のカチオン電着塗料組成物を得た。こうして得られたカチオン電着塗料組成物について、実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0102】
実施例4
製造例2で得られたアミン変性エポキシ樹脂A−2と製造例5で得られたアミン変性エポキシ樹脂B−2を固形分比で10/90で混合した。この混合物に、顔料分と塗料樹脂分の固形分比率が1/7となるように、製造例7の顔料分散樹脂ペーストを添加した。そこへジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて固形分が20%である実施例4のカチオン電着塗料組成物を得た。こうして得られたカチオン電着塗料組成物について、実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0103】
比較例1
製造例1で得られたアミン変性エポキシ樹脂A−1と製造例7の顔料分散ペーストとを、顔料分と塗料樹脂分の固形分比率で1/7となるように混合した。そこへジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて固形分が20%である比較例1のカチオン電着塗料組成物を得た。こうして得られたカチオン電着塗料組成物について、実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0104】
比較例2
製造例4で得られたアミン変性エポキシ樹脂B−1と製造例7の顔料分散ペーストとを、顔料分と塗料樹脂分の固形分比率で1/7となるように混合した。そこへジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて固形分が20%である比較例2のカチオン電着塗料組成物を得た。こうして得られたカチオン電着塗料組成物について、実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0105】
比較例3
製造例5で得られたアミン変性エポキシ樹脂B−2と製造例7の顔料分散ペーストとを、顔料分と塗料樹脂分の固形分比率で1/7となるように混合した。そこへジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて固形分が20%である比較例3のカチオン電着塗料組成物を得た。こうして得られたカチオン電着塗料組成物について、実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0106】
【表2】

【0107】
表2に示されるように、実施例の方法においてはいずれも、付きまわり性に優れるものであった。一方、比較例の方法においてはいずれも、実施例のものと比べて付きまわり性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の電着塗膜形成方法は、付きまわり性に優れており、かつ被塗物に外観不良を生じ難い。さらに本発明の電着塗膜形成方法は、ガスピン性能に優れ、かつ低い印加電圧での電着塗装が可能である。本発明の方法を用いることによって、低電力で優れた外観を有する電着塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】付きまわり性を評価する際に用いるボックスの一例を示す斜視図である。
【図2】付きまわり性の評価方法を模式的に示す断面図である。
【図3】アミン変性エポキシ樹脂(A)および(B)の、塗装電圧とクーロン効率との関係を表すグラフである。「A−1」および「A−2」がアミン変性エポキシ樹脂(A)であり、「B−1」および「B−2」がアミン変性エポキシ樹脂(B)である。
【図4】アミン変性エポキシ樹脂(A)および(B)の、塗装電圧と膜抵抗との関係を表すグラフである。「A−1」および「A−2」がアミン変性エポキシ樹脂(A)であり、「B−1」および「B−2」がアミン変性エポキシ樹脂(B)である。
【符号の説明】
【0110】
10:ボックス、
11〜14:リン酸亜鉛処理鋼板、
15:貫通穴、
20:電着塗装容器、
21:電着塗料、
22:対極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無鉛性カチオン電着塗料組成物を被塗物に電着塗装する工程を包含する、付きまわり性が向上された電着塗膜形成方法であって、
該無鉛性カチオン電着塗料組成物は、
塗装電圧0〜100Vの範囲におけるクーロン効率が1.0mg/C以上であって、塗装電圧0〜100Vの範囲における単位析出膜重量当たりの膜抵抗値が5KΩ/mg以下である、アミン変性エポキシ樹脂(A)、および
塗装電圧0〜100Vの範囲におけるクーロン効率が1.0mg/C以上であって、塗装電圧0〜100Vの範囲における単位析出膜重量当たりの膜抵抗値が20KΩ/mg以上である、アミン変性エポキシ樹脂(B)、
を含む、無鉛性カチオン電着塗料組成物である、電着塗膜形成方法。
【請求項2】
前記アミン変性エポキシ樹脂(A)は、1級アミノ基または3級アミノ基を有するアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂および4級オニウム基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂の少なくとも1種を含む、
請求項1記載の電着塗膜形成方法。
【請求項3】
前記アミン変性エポキシ樹脂(B)は、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂であり、および
該樹脂(B)は、1級アミノ基および3級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する樹脂である、
請求項1または2記載の電着塗膜形成方法。
【請求項4】
前記無鉛性電着塗料組成物中に含まれる、アミン変性エポキシ樹脂(A)と前記アミン変性エポキシ樹脂(B)との固形分重量比(A):(B)が1:99〜50:50である、請求項1〜3いずれかに記載の電着塗膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−348316(P2006−348316A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172413(P2005−172413)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】