説明

電磁シールド扉

【課題】扉を閉じる際の圧力を少なくすることで、容易に扉を閉じることを可能とし、また、導電性ガスケットの磨耗や疲労破壊を起こり難くすることで、メンテナンス頻度を低減する。
【解決手段】導電性の扉枠2と、扉枠2に配置された導電性の扉1と、扉1が閉じられた際に対向する当該扉1と扉枠2の各対向面のうち一方に所定の間隔で設けられた導体板3と、各導体板3に設けられ、扉1が閉じられた際に弾性変形して当該導体板3を介して当該扉1及び扉枠2を電気的に接続する導電性ガスケット4とを備え、各導体板3は、扉1が閉じられた際に、当該扉1と扉枠2の隙間に所定の遮断周波数を有する導波路5が形成される間隔で配置された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シールドルームの出入り口などにおいて、電磁波の漏洩と侵入を防止するために用いられる電磁シールド扉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電磁シールド扉の構成例を図17,18に示す。図17は従来の電磁シールド扉を示す正面図であり、図18は図17の一点鎖線X6−X6’を通るXY断面図である。電磁シールド扉は、図17,18に示すように、扉101、扉枠102、導電性ガスケット103、ヒンジ機構104及び開閉ハンドル105から構成されている。
【0003】
扉101及び扉枠102は導電性を有している。また、扉101は、扉枠102にヒンジ機構104を介して保持され、開閉ハンドル105を操作することで開閉可能に構成されている。
導電性ガスケット103は、導電性かつ弾性を有し、扉101が閉じられた際に対向する扉101と扉枠102の各対向面のうち、少なくともどちらか一方に設けられている。なお、図18に示す例では、導電性ガスケット103は扉枠102に設けられている。また、扉101と扉枠102の良好な電気的接触を得るために、扉101のガスケット接触部には凸部101aが形成されている。
【0004】
次に、上記のように構成された電磁シールド扉の動作について説明する。
扉101が閉じられると、図18に示すように、扉101の凸部101aに圧迫されて導電性ガスケット103が扉101との隙間を埋めるように変形する。このように、導電性ガスケット103によって扉101との隙間を埋めて、扉101と扉枠102を電気的に密に接続することで、扉101と扉枠102の隙間における電磁波の漏洩と侵入を防ぎ、電磁シールド特性を得ることができる。
なお、高性能な電磁シールド特性を実現するための構成として、特許文献1には、導電性クッション材を用いた扉と扉枠間の接続構造について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−094886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来の電磁シールド扉では、導電性の扉と導電性の扉枠の少なくともどちらか一方に導電性ガスケットを配置することで、扉が閉じられた際に導電性ガスケットを変形させて扉と扉枠を電気的に密に接続し、電磁シールド特性を実現していた。
しかしながら、扉を閉じる際に、扉と扉枠を電気的に密に接続するように導電性ガスケットを変形させるためには、扉に対して高い圧力を加える必要があり、その低減方法が課題となっていた。また、導電性ガスケットの磨耗や疲労破壊によって電磁シールド特性が劣化するため、良好な電磁シールド特性を保持するために定期的なメンテナンスが不可避であるという課題があった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、従来の電磁シールド扉よりも扉を閉じる際の圧力を少なくすることで、容易に扉を閉じることが可能となり、また、導電性ガスケットの磨耗や疲労破壊を起こり難くすることで、メンテナンス頻度を低減することが可能となる電磁シールド扉を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る電磁シールド扉は、導電性の扉枠と、扉枠に配置された導電性の扉と、扉が閉じられた際に対向する当該扉と扉枠の各対向面のうち一方に所定の間隔で設けられた導体板と、各導体板に設けられ、扉が閉じられた際に弾性変形して当該導体板を介して当該扉及び扉枠を電気的に接続する導電性ガスケットとを備え、各導体板は、扉が閉じられた際に、当該扉と扉枠の隙間に所定の遮断周波数を有する導波路が形成される間隔で配置されたものである。
【0009】
また、この発明に係る電磁シールド扉は、導電性の扉枠と、扉枠に配置された導電性の扉と、扉が閉じられた際に対向する当該扉と扉枠の各対向面のうち一方に設けられた凹凸形状の導体板と、導体板の凸部に設けられ、扉が閉じられた際に弾性変形して当該導体板を介して当該扉及び扉枠を電気的に接続する導電性ガスケットとを備え、導体板は、扉が閉じられた際に、当該扉と扉枠の隙間に所定の遮断周波数を有する導波路を形成する形状に構成されたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、上記のように構成したので、従来の電磁シールド扉よりも扉を閉じる際の圧力を少なくできるため、容易に扉を閉じることが可能となり、また、導電性ガスケットの磨耗や疲労破壊が起こり難くなるため、メンテナンス頻度を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1に係る電磁シールド扉の構成を示す正面図であり、扉が閉じられた状態を示す図である。
【図2】図1の一点鎖線X1部分の拡大図である。
【図3】この発明の実施の形態1における導波路の構成を示す模式図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る電磁シールド扉の構成を示す正面図であり、扉が閉じられた状態を示す図である。
【図5】図4の一点鎖線X2−X2’を通るXY断面図である。
【図6】この発明の実施の形態2における導波路の構成を示す模式図である。
【図7】この発明の実施の形態3に係る電磁シールド扉の構成を示す正面図であり、扉が閉じられた状態を示す図である。
【図8】図7の一点鎖線X3部分の扉を除いた拡大図である。
【図9】この発明の実施の形態3における導波路の構成を示す模式図である。
【図10】この発明の実施の形態4に係る電磁シールド扉の構成を示す正面図であり、扉が閉じられた状態を示す図である。
【図11】図10の一点鎖線X4部分の拡大図である。
【図12】この発明の実施の形態4における導波路の構成を示す模式図である。
【図13】この発明の実施の形態5に係る電磁シールド扉の構成を示す正面図であり、扉が閉じられた状態を示す図である。
【図14】図13の一点鎖線X5部分の拡大図である。
【図15】この発明の実施の形態5における導波路の構成を示す模式図である。
【図16】この発明の実施の形態1−3における導電性ガスケットの別例を示す図である。
【図17】従来の電磁シールド扉の構成を示す正面図であり、扉が閉じられた状態を示す図である。
【図18】図17の一点鎖線X6−X6’を通るXY断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る電磁シールド扉の構成を示す正面図であり、扉1が閉じられた状態を示す図である。また、図2は図1の一点鎖線X1部分の拡大図である。
電磁シールド扉は、図1,2に示すように、扉1、扉枠2、導体板3、導電性ガスケット4、導波路5、ヒンジ機構6及び開閉ハンドル7から構成されている。
【0013】
扉1は、導電性素材で構成され、扉枠2に配置された板部材である。
扉枠2は、導電性素材で構成され、扉1が閉じられた際に扉1を収める枠である。この扉枠2の内寸は扉1の外寸に対して大きく、扉1が閉じられた際に扉枠2の内周面が扉1の外周面と対向するように構成されている。
【0014】
導体板3は、導電性素材で構成され、扉枠2と対向する扉1の外周面上に所定間隔で、外周面の各辺に対して平行に複数配置された板部材である。また、導体板3の全長は、扉1と扉枠2の間隙寸法より短くなるように構成されている。
導電性ガスケット4は、導電性かつ弾性を有し、導体板3の先端に設けられたガスケットである。そして、扉1が閉じられた際に扉枠2と導体板3の間で隙間を埋めるように変形することで、導体板3を介して扉1及び扉枠2を電気的に接続する。
【0015】
導波路5は、扉1が閉じられた際に、XZ平面において、扉1、扉枠2、導体板3及び導電性ガスケット4を壁面として形成される略直方体形状の空間であり、電磁波の伝搬経路である。この導波路5は、所定の遮断周波数を有し、この遮断周波数以下の周波数の電磁波を減衰させる特性を有する。
ヒンジ機構6は、扉枠2が扉1を保持するための機構である。
開閉ハンドル7は、扉1を開閉するために操作される機構である。
【0016】
次に、扉1が閉じられた際に形成される導波路5について、図2,3を参照しながら説明する。
導波路5は、図2,3に示すように、XZ平面において、四方を導体壁(扉1、扉枠2、導体板3及び導電性ガスケット4)で囲まれた略直方体形状の空間である。なお、導波路5の扉幅方向(X方向)の長辺をaとし、扉高さ方向(Z方向)の短辺をbとし、扉厚み方向(Y方向)の線路長をLとする。
そして、導波路5のA面に入射した電磁波は、扉厚み方向に進んでB面へと伝搬し、B面から空間中に放射される。同様に、B面に入射した電磁波は、扉厚み方向に進んでA面へと伝搬し、A面から空間中に放射される。
【0017】
ここで、図3に示す導波路5に対して、周波数fの電磁波がA面又はB面に入射して導波路5内を扉厚み方向に伝播し、反対の面から空間に放射される場合を考える。一般に、長辺a、短辺b、線路長Lの導波路5は、遮断周波数f[Hz]以下の周波数帯域において下式(1)で表される減衰特性a[dB]を有する。また、遮断周波数fは下式(2)で表される。

なお、cは光速である。
【0018】
よって、図3に示す導波路5は、遮断周波数f以下の電磁波が入射された場合に、この電磁波を減衰させて他方の面に伝搬することができる。つまり、実施の形態1では、扉1と扉枠2の隙間に、上式(1)に示した減衰特性を有する導波路5が複数存在し、扉1と扉枠2の隙間を伝搬する電磁波は必ず導波路5を通るため、この電磁波を減衰させることが可能となる。
【0019】
以上のように、この実施の形態1によれば、導電性ガスケット4を有する導体板3を、扉枠2と対向する扉1の外周面上に所定間隔で複数設け、扉1と扉枠2の隙間に遮断周波数以下の周波数の電磁波を減衰させる導波路5を形成するように構成したので、良好な電磁シールド特性を得ることができ、また、従来の電磁シールド扉のように密な接触が不要であるため、扉1を閉じる際の圧力が従来の電磁シールド扉よりも低減し、容易に扉1を開閉できる。さらに、従来の電磁シールド扉よりも低い圧力で扉1を閉じられるため、導電性ガスケット4の磨耗や疲労破壊が起こり難くなり、メンテナンス頻度を低減することができる。
【0020】
なお、実施の形態1では、導体板3を、扉枠2と対向する扉1の外周面上に設けたが、これに限るものではなく、扉1が閉じられた際に扉1と扉枠2の隙間に所定の減衰特性を有する複数の導波路5が形成できればよく、扉1と対向する扉枠2の内周面上に設けてもよい。
また、実施の形態1では、図1,2に示すように、導体板3を扉1の外周面上に均等に配置したが、これに限るものではなく、扉1が閉じられた際に扉1と扉枠2の隙間に所定の減衰特性を有する複数の導波路5が形成できればよく、不均等に配置してもよい。また、実施の形態1では、所定間隔で複数の導体板3を設けたが、これに限るものではなく、例えば、凹凸形状の導体板3を設け、その凸部に導電性ガスケット4を設けるようにしてもよい。
【0021】
また、実施の形態1では、導電性ガスケット4として、導電性かつ弾性を有し、図2に示すような構造を有する導電性クッション材を用いたが、これに限るものではなく、扉1が閉じられた際に、導体板3を介して扉1と扉枠2を電気的に接続し、扉1と扉枠2の隙間に複数の導波路5が形成できる構成であればよい。例えば、図16に示すような導電性かつ弾性を有する折り曲げた金属(フィンガー)11を用いてもよい。
【0022】
実施の形態2.
図4はこの発明の実施の形態2に係る電磁シールド扉の構成を示す正面図であり、扉1が閉じられた状態を示す図である。また、図5は図4の一点鎖線X2−X2’を通るXY断面図である。
図4,5に示す実施の形態2に係る電磁シールド扉は、図1,2に示す実施の形態1に係る電磁シールド扉の扉枠2、導体板3、導電性ガスケット4及び導波路5を扉枠2b、導体板3b、導電性ガスケット4b及び導波路5bに変更したものである。その他の構成は同様であり、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0023】
扉枠2bは、導電性素材で構成され、扉1が閉じられた際に扉1を収める枠である。この扉枠2bの内寸は扉1の外寸に対して小さく、扉1が閉じられた際に扉枠2bの側面の一部が扉1の側面の一部と対向するように構成されている。
導体板3bは、導電性素材で構成され、扉1と対向する扉枠2bの側面上に所定間隔で、側面の各辺に対して平行に複数配置された板部材である。また、導体板3bの全長は、扉1と扉枠2bの間隙寸法より短くなるように構成されている。
【0024】
導電性ガスケット4bは、導電性かつ弾性を有し、導体板3bの先端に設けられたガスケットである。そして、扉1が閉じられた際に扉1と導体板3bの間で隙間を埋めるように変形することで、導体板3bを介して扉1及び扉枠2bを電気的に接続する。
導波路5bは、扉1が閉じられた際に、XY平面において、扉1、扉枠2b、導体板3b及び導電性ガスケット4bを壁面として形成される略直方体形状の空間であり、電磁波の伝搬経路である。この導波路5bは、所定の遮断周波数を有し、この遮断周波数以下の周波数の電磁波を減衰させる特性を有する。
【0025】
次に、扉1が閉じられた際に形成される導波路5bについて、図5,6を参照しながら説明する。
導波路5bは、図5,6に示すように、XY面において、四方を導体壁(扉1、扉枠2b、導体板3b及び導電性ガスケット4b)で囲まれた略直方体形状の空間である。なお、導波路5bの扉幅方向(X方向)の長辺をa、扉厚み方向(Y方向)の短辺をb、扉高さ方向(Z方向)の線路長をLとする。
そして、A面又はB面に入射して導波路5b内を扉高さ方向に伝搬する電磁波は、実施の形態1と同様に、導波路5bの特性により遮断周波数以下の帯域において減衰し、他方の面から空間中に放射される。
【0026】
つまり、実施の形態2では、扉1と扉枠2bの隙間に、上式(1)に示した減衰特性を有する導波路5bが複数存在し、扉1と扉枠2bの隙間を伝搬する電磁波は必ず導波路5bを通るため、この電磁波を減衰させることが可能となる。
【0027】
以上のように、この実施の形態2によれば、導電性ガスケット4bを有する導体板3bを、扉1と対向する扉枠2bの側面上に所定間隔で複数設け、扉1と扉枠2bの隙間に遮断周波数以下の周波数の電磁波を減衰させる導波路5bを形成するように構成しても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態2の構成では、導波路5bの線路長Lを扉1と扉枠2bの間隙寸法に関係なく決めることができるため、この間隙寸法に依らずに要求される電磁波の減衰特性を容易に得られる。
【0028】
なお、実施の形態2では、導体板3bを、扉1と対向する扉枠2bの側面上に設けたが、これに限るものではなく、扉1が閉じられた際に扉1と扉枠2bの隙間に所定の減衰特性を有する複数の導波路5bが形成できればよく、扉枠2bと対向する扉1の側面上に設けてもよい。
また、実施の形態2では、図4,5に示すように、導体板3bを扉枠2bの側面上に均等に配置したが、これに限るものではなく、扉1が閉じられた際に扉1と扉枠2bの隙間に所定の減衰特性を有する複数の導波路5bが形成できればよく、不均等に配置してもよい。また、実施の形態2では、所定間隔で複数の導体板3bを設けたが、これに限るものではなく、例えば、凹凸形状の導体板3bを設け、その凸部に導電性ガスケット4bを設けるようにしてもよい。
【0029】
また、実施の形態2では、導電性ガスケット4bとして、導電性かつ弾性を有し、図5に示すような構造を有する導電性クッション材を用いたが、これに限るものではなく、扉1が閉じられた際に、導体板3bを介して扉1と扉枠2bを電気的に接続し、扉1と扉枠2bの隙間に複数の導波路5bが形成できる構成であればよい。例えば、図16に示すような導電性かつ弾性を有する折り曲げた金属(フィンガー)11を用いてもよい。
【0030】
実施の形態3.
図7はこの発明の実施の形態3に係る電磁シールド扉の構成を示す正面図であり、扉1が閉じられた状態を示す図である。また、図8は図7の一点鎖線X3部分の扉1を除いた拡大図である。
図7,8に示す実施の形態3に係る電磁シールド扉は、図4,5に示す実施の形態2に係る電磁シールド扉の導体板3b及び導波路5bを導体板3c及び導波路5cに変更したものである。その他の構成は同様であり、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0031】
導体板3cは、導電性素材で構成され、扉1と対向する扉枠2bの側面上に所定間隔で、側面(設置面)の各辺に対して斜めに複数配置された板部材である。また、導体板3cの全長は、扉1と扉枠2bの間隙寸法より短くなるように構成されている。
導波路5cは、扉1が閉じられた際に、XY平面において、扉1、扉枠2b、導体板3c及び導電性ガスケット4bを壁面として形成される略斜角柱形状の空間であり、電磁波の伝搬経路である。この導波路5cは、所定の遮断周波数を有し、この遮断周波数以下の周波数の電磁波を減衰させる特性を有する。
【0032】
次に、扉1が閉じられた際に形成される導波路5cについて、図8,9を参照しながら説明する。
導波路5cは、図8,9に示すように、XY面において、四方を導体壁(扉1、扉枠2b、導体板3c及び導電性ガスケット4b)で囲まれた略斜角柱形状の空間である。なお、導波路5cの扉厚み方向(Y方向)の長辺をa、扉幅方向(X方向)の短辺をb、扉高さ方向(Z方向)の線路長をLとする。
そして、A面又はB面に入射して導波路5c内を扉高さ方向に伝搬する電磁波は、実施の形態1と同様に、導波路5cの特性により遮断周波数以下の帯域において減衰し、他方の面から空間中に放射される。この際、導体板3cを扉枠2bの側面の各辺に対して斜めに配置することで、直角に配置した場合よりも導波路5cの線路長Lを長くすることができ、電磁波の減衰量をより多く得ることができる。
【0033】
つまり、実施の形態3では、扉1と扉枠2bの隙間に、上式(1)に示した減衰特性を有する導波路5cが複数存在し、扉1と扉枠2bの隙間を伝搬する電磁波は必ず導波路5cを通るため、この電磁波を減衰させることが可能となる。
【0034】
以上のように、この実施の形態3によれば、導電性ガスケット4bを有する導体板3cを、扉1と対向する扉枠2bの側面上に所定間隔で、側面の各辺に対して斜めに複数配置し、扉1と扉枠2bの隙間に遮断周波数以下の周波数の電磁波を減衰させる導波路5cを形成するように構成しても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態3の構成では、導体板3cを扉枠2bの側面の各辺に対して斜めに配置することで、直角に配置した場合よりも導波路5cの線路長Lを延ばすことができ、電磁波の減衰量をより多く得ることができる。
なお、実施の形態3では、実施の形態2に係る電磁シールド扉に対して、導体板3cを斜めに配置する場合について示したが、実施の形態1に係る電磁シールド扉にも同様に適用可能である。
【0035】
また、実施の形態3では、導体板3cを、扉1と対向する扉枠2bの側面上に設けたが、これに限るものではなく、扉1が閉じられた際に扉1と扉枠2bの隙間に所定の減衰特性を有する複数の導波路5cが形成できればよく、扉枠2bと対向する扉1の側面上に設けてもよい。
また、実施の形態3では、図8,9に示すように、導体板3cを扉枠2bの側面上に均等に配置したが、これに限るものではなく、扉1が閉じられた際に扉1と扉枠2bの隙間に所定の減衰特性を有する複数の導波路5cが形成できればよく、不均等に配置してもよい。また、実施の形態3では、所定間隔で複数の導体板3cを設けたが、これに限るものではなく、例えば、凹凸形状の導体板3cを設け、その凸部に導電性ガスケット4bを設けるようにしてもよい。
【0036】
また、実施の形態3では、導電性ガスケット4bとして、導電性かつ弾性を有し、図8に示すような構造を有する導電性クッション材を用いたが、これに限るものではなく、扉1が閉じられた際に、導体板3cを介して扉1と扉枠2bを電気的に接続し、扉1と扉枠2bの隙間に複数の導波路5cが形成できる構成であればよい。例えば、図16に示すような導電性かつ弾性を有する折り曲げた金属(フィンガー)11を用いてもよい。
【0037】
実施の形態4.
図10はこの発明の実施の形態4に係る電磁シールド扉の構成を示す正面図であり、扉1が閉じられた状態を示す図である。また、図11は図10の一点鎖線X4部分の拡大図である。なお図10では、電磁石9の図示を省略している。
図10,11に示す実施の形態4に係る電磁シールド扉は、図1,2に示す実施の形態1に係る電磁シールド扉の導電性ガスケット4を可動式接触子8及び電磁石9に変更したものである。その他の構成は同様であり、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0038】
可動式接触子8は、導電性素材で構成され、導体板3の先端に電磁石9を介して設けられたものである。そして、扉1が閉じられた後に電磁石9により扉枠2側へ移動されることで扉枠2と接触し、扉1、扉枠2及び導体板3を電気的に接続する。
電磁石9は、導体板3の先端に設けられ、扉1が閉じられた後に可動式接触子8を扉枠2に接触させるように移動させるための機構である。
【0039】
次に、扉1が閉じられた際に形成される導波路5について、図11,12を参照しながら説明する。
導波路5は、図11,12に示すように、XZ面において、四方を導体壁(扉1、扉枠2、導体板3及び導電性ガスケット4)で囲まれた略直方体形状の空間である。なお、導波路5の扉幅方向(X方向)の長辺をa、扉高さ方向(Z方向)の短辺をb、扉厚み方向(Y方向)の線路長をLとする。
そして、A面又はB面に入射して導波路5内を扉厚み方向に伝搬する電磁波は、実施の形態1と同様に、導波路5の特性により遮断周波数以下の帯域において減衰し、他方の面から空間中に放射される。
【0040】
つまり、実施の形態4では、扉1と扉枠2の隙間に、上式(1)に示した減衰特性を有する導波路5が複数存在し、扉1と扉枠2の隙間を伝搬する電磁波は必ず導波路5を通るため、この電磁波を減衰させることが可能となる。
【0041】
以上のように、この実施の形態4によれば、導電性ガスケット4に代えて、導電性素材からなる可動式接触子8と、扉1が閉じられた後に可動式接触子8を扉枠2に接触させる電磁石9とを設けて構成しても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態4では、導波路5の線路長Lを扉1と扉枠2の間隙寸法に関係なく決めることができるため、この間隙寸法に依らずに要求される電磁波の減衰特性を容易に得られる。さらに、実施の形態4では、扉1と扉枠2の隙間に導波路5を形成するため、扉1が閉じられた後に電磁石9により可動式接触子8を移動させて扉枠2に接触させ、扉1、扉枠2及び導体板3を電気的に接続している。したがって、扉1が閉じられるまでは接触部分が存在しないため、従来の電磁シールド扉よりも扉を閉める際の圧力が低減され、容易に扉を開閉できる。
なお、実施の形態4では、実施の形態1に係る電磁シールド扉に対して、可動式接触子8及び電磁石9を適用した場合について示したが、実施の形態2,3に係る電磁シールド扉にも同様に適用可能である。
【0042】
また、実施の形態4では、導体板3を、扉枠2と対向する扉1の外周面上に設けたが、これに限るものではなく、扉1が閉じられた際に扉1と扉枠2の隙間に所定の減衰特性を有する複数の導波路5が形成できればよく、扉1と対向する扉枠2の内周面上に設けてもよい。
また、実施の形態4では、図10,11に示すように、導体板3を扉1の外周面上に均等に配置したが、これに限るものではなく、扉1が閉じられた際に扉1と扉枠2の隙間に所定の減衰特性を有する複数の導波路5が形成できればよく、不均等に配置してもよい。また、実施の形態4では、所定間隔で複数の導体板3を設けたが、これに限るものではなく、例えば、凹凸形状の導体板3を設け、その凸部に可動式接触子8及び電磁石9を設けるようにしてもよい。
【0043】
また、実施の形態4では、可動式接触子8は導電性素材で構成され、図11に示すような構造を有しているが、これに限るものではなく、扉1が閉じられた状態において、導体板3を介して扉1と扉枠2を電気的に接続し、扉1と扉枠2の隙間に複数の導波路5が形成できる構成であればよい。
【0044】
実施の形態5.
図13はこの発明の実施の形態5に係る電磁シールド扉の構成を示す正面図であり、扉1が閉じられた状態を示す図である。また、図14は図13の一点鎖線X5部分の拡大図である。
図13,14に示す実施の形態5に係る電磁シールド扉は、図1,2に示す実施の形態1に係る電磁シールド扉の導電路5が形成される空間に電磁波吸収体10を設けたものである。その他の構成は同様であり、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0045】
電磁波吸収体10は、使用される材料により決まる特定の周波数帯域において、電気的損失、誘電損失又は磁気損失により電磁波を吸収する特性を有するものである。この電磁波吸収体10は、XZ平面において、扉1、扉枠2、導体板3及び導電性ガスケット4を壁面とする空間に配置されている。
【0046】
次に、扉1が閉じられた際に形成される導波路5について、図14,15を参照しながら説明する。
導波路5は、図14,15に示すように、XZ面において、四方を導体壁(扉1、扉枠2、導体板3及び導電性ガスケット4)で囲まれた略直方体形状の空間である。なお、導波路5の扉幅方向(X方向)の長辺をa、扉高さ方向(Z方向)の短辺をb、扉厚み方向(Z方向)の線路長をLとする。
そして、A面又はB面に入射して導波路5内を扉厚み方向に伝搬する電磁波は、実施の形態1と同様に、導波路5の特性により遮断周波数以下の帯域において減衰し、他方の面から空間中に放射される。また、電磁波吸収体10の材料により決まる特定の周波数帯域において、電磁波は電磁波吸収体10に吸収され、その結果、その特定の周波数帯域における電磁波は減衰する。
【0047】
以上のように、この実施の形態5によれば、導波路5が形成される空間に電磁波吸収体10を配置するように構成したので、実施の形態1と同様の効果を得ることができるとともに、電磁波吸収体10が有する電磁シールド性能を併せ持った電磁シールド扉を実現できる。
なお、実施の形態5では、実施の形態1に係る電磁シールド扉に対して、電磁波吸収体10を設けた場合について示したが、実施の形態2−4に係る電磁シールド扉にも同様に適用可能である。
【0048】
また、実施の形態5では、図13,14に示すように、電磁波吸収体10を導波路5の内部に満たすようにしているが、これに限るものではなく、導波路5を伝搬する電磁波を吸収することができる構造であればよい。例えば、導波路5内部の壁面に薄い電磁波吸収体を貼り付けるようにしてもよい。
【0049】
また、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 扉、2,2b 扉枠、3,3b,3c 導体板、4,4b 導電性ガスケット、5,5b,5c 導波路、6 ヒンジ機構、7 開閉ハンドル、8 可動式接触子、9 電磁石、10 電磁波吸収体、11 フィンガー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の扉枠と、
前記扉枠に配置された導電性の扉と、
前記扉が閉じられた際に対向する当該扉と前記扉枠の各対向面のうち一方に所定の間隔で設けられた導体板と、
前記各導体板に設けられ、前記扉が閉じられた際に弾性変形して当該導体板を介して当該扉及び前記扉枠を電気的に接続する導電性ガスケットとを備え、
前記各導体板は、前記扉が閉じられた際に、当該扉と前記扉枠の隙間に所定の遮断周波数を有する導波路が形成される間隔で配置された
ことを特徴とする電磁シールド扉。
【請求項2】
導電性の扉枠と、
前記扉枠に配置された導電性の扉と、
前記扉が閉じられた際に対向する当該扉と前記扉枠の各対向面のうち一方に設けられた凹凸形状の導体板と、
前記導体板の凸部に設けられ、前記扉が閉じられた際に弾性変形して当該導体板を介して当該扉及び前記扉枠を電気的に接続する導電性ガスケットとを備え、
前記導体板は、前記扉が閉じられた際に、当該扉と前記扉枠の隙間に所定の遮断周波数を有する導波路を形成する形状に構成された
ことを特徴とする電磁シールド扉。
【請求項3】
前記扉枠の内寸は前記扉の外寸より大きく構成され、
前記導体板は、前記扉枠の内周面又は前記扉の外周面に設けられた
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の電磁シールド扉。
【請求項4】
前記扉枠の内寸は前記扉の外寸より小さく構成され、
前記導体板は、前記扉枠の側面又は前記扉の側面に設けられた
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の電磁シールド扉。
【請求項5】
前記導体板は、設置面の各辺に対して斜めに配置された
ことを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項記載の電磁シールド扉。
【請求項6】
前記導電性ガスケットに代えて、
前記導体板に設けられた導電性の可動式接触子と、
前記扉が閉じられた後に前記可動式接触子を対向面に接触させることで、前記導体板を介して当該扉及び前記扉枠を電気的に接続させる電磁石とを備えた
ことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の電磁シールド扉。
【請求項7】
前記導波路に電磁波吸収体が設けられた
ことを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1項記載の電磁シールド扉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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