説明

電磁ノイズ対策部材及びこれを用いた電磁ノイズ対策方法

【課題】磁場抑制効果及び伝送損失効果のいずれが要求されてもその性能を十分に発揮し得る態様で使用可能な電磁ノイズ対策部材及びこれを用いた電磁ノイズ対策方法を提供する。
【解決手段】電磁ノイズ抑制シート1は、磁性層2と、粘着層3と、導電層4と、がこの順に積層され、粘着層3の少なくとも一部は、磁性層2及び導電層4の外周よりも外側に形成する。この電磁ノイズ抑制シート1は、磁性層2が電磁ノイズ発生源に接するように、或いは、導電層4が電磁ノイズ発生源に接するように、設置(接着)可能であるため、対象物に応じた所望の効果(磁場抑制効果及び伝送損失効果)を十分に発揮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁ノイズ抑制シート等の電磁ノイズ対策部材、及び、伝送線路や電子部品に対する電磁ノイズ対策方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器において伝送される信号の電磁ノイズを抑制するために、回路の近傍や伝送線路の周囲等に、電磁ノイズ対策部材(電磁ノイズ抑制シート、複合磁性シート等)を配置する手法が広く用いられている。かかる電磁ノイズ対策部材は、対象となる電磁ノイズを主として磁性粒子等の透磁率に基づいて制御することによって、例えばMHz帯域における電磁ノイズを抑制吸収する。
【0003】
このような電磁ノイズ対策部材を携帯電話の内部等に用いた場合、電磁場閉じ込め効果により、機器内の信号ラインや集積回路(IC)から発生する高周波磁界成分による対向ライン等への誘導結合が抑制される(磁場抑制効果)。また、IC等から延出する信号線に電磁ノイズ対策部材を適用することにより、信号線へのインピーダンス付加効果による高周波成分が抑制される(フィルタ効果)。さらに、高速回路を接続するフレキシブルケーブル等に電磁ノイズ対策部材を用いることにより、ケーブルに重畳するコモンモード電流成分が抑制される(伝送損失効果)。
【0004】
近年、電子回路設計は、ますます多様化してきており、電子部品や伝送信号の複合化に応じて抑制すべき電磁ノイズの周波数も多様化且つ広帯域(例えば、場合によっては、MHz〜GHzオーダーまで非常に幅広い周波数範囲)化している。
【0005】
そのため、電磁ノイズ対策部材にも広帯域化が求められている。これに対応すべく、例えば、特許文献1には、粘着層、導電層及び磁性層がこの順に積層された通信改善用シート体が提案されている。また、特許文献2には、粘着層、磁性層及び導電層がこの順に積層された複合磁性部材が提案されている。これら従来の電磁ノイズ対策部材は、主として磁性粒子等の透磁率及び誘電率を制御することによって、広帯域を有する電磁ノイズの抑制吸収を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−143132号公報
【特許文献2】特開2008−124197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献1及び2に記載された電磁ノイズ対策部材をそれぞれ用いて、高周波帯域の電磁ノイズの効果を評価したところ、これらは、謂わば磁場抑制効果及び伝送損失効果の一方のみに最適化した構成を採用しており、他方の効果(磁場抑制効果或いは伝送損失効果)に対する寛容度(選択性)が乏しいことが判明した。
【0008】
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、磁場抑制効果及び伝送損失効果のいずれが要求されてもその性能を十分に発揮し得る態様で使用可能な電磁ノイズ対策部材及びこれを用いた電磁ノイズ対策方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明による電磁ノイズ対策部材は、磁性層と、粘着層と、導電層と、がこの順に積層され、粘着層の少なくとも一部は、磁性層及び導電層の外周よりも外側に形成されている。
【0010】
このような構成を有する電磁ノイズ対策部材は、磁性層と導電層とが粘着層を介して積層され、且つ、粘着層の少なくとも一部が磁性層及び導電層の外周から突出するように形成されているので、磁性層側を当接面として、或いは、導電層側を当接面として、電磁ノイズ発生源(対象物、被接着体)へ設置(接着)可能である。ここで、本発明者らの知見によれば、電磁ノイズに対する磁場抑制効果及び伝送損失効果は、磁性層と導電層の積層順序に強く相関することが見出された。すなわち、GHz帯域の電磁ノイズ対する磁場強度を十分に抑制するためには、電磁ノイズ発生源に磁性層が当接する電磁ノイズ抑制シートの方が、電磁ノイズ発生源に導電層が当接する電磁ノイズ抑制シートに比して有用であることが確認されている。一方、GHz帯域の電磁ノイズに対する伝送損失効果を十分に高めるためには、電磁ノイズ発生源に導電層が当接する電磁ノイズ抑制シートの方が、電磁ノイズ発生源に磁性層が当接する電磁ノイズ抑制シートに比して、有用であることが確認されている。そのため、磁場抑制効果が要求される用途においては本発明の電磁ノイズ対策部材の磁性層が電磁ノイズ発生源に当接するように設置することにより、また、伝送損失効果が要求される用途においては本発明の電磁ノイズ対策部材の導電層が電磁ノイズ発生源に当接するように設置することにより、その性能を十分に発揮させることができる。しかも、本発明の電磁ノイズ対策部材は、磁性層と導電層とが粘着層を介して積層した構成を採用しているので、複数の粘着層が必須とされない。したがって、上記特許文献1及び2に記載の電磁ノイズ対策部材の最外層に追加の粘着層を設けて両面接着可能な態様にしたものに比して、本発明の電磁ノイズ対策部材は、構成が簡易であり、生産性及び経済性が高められる。
【0011】
また、上記構成において、粘着層は、平面略中央に孔部を有することが好ましい。このように構成すると、コストの低廉化を図ることができる。
【0012】
さらに、磁性層及び導電層のそれぞれは、複数の小片からなることが好ましい。このように構成すると、設置時の対象物に応じて、電磁ノイズ対策部材を小片単位で加工することができるので、設置時の加工性が向上し得る。
【0013】
また、本発明の電磁ノイズ対策方法は、上記本発明の電磁ノイズ対策部材を有効に利用可能なものであって、磁性層と、粘着層と、導電層と、がこの順に積層され、粘着層の少なくとも一部は、磁性層及び導電層の外周よりも外側に形成されている電磁ノイズ対策部材を、電磁ノイズ発生源上に設置する工程を含むものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、磁場抑制効果及び伝送損失効果のいずれが要求されてもその性能を十分に発揮し得る態様で使用可能な、汎用性に優れる電磁ノイズ対策部材が実現され、しかも、電磁ノイズの効果、生産性及び経済性をも高められ得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態の電磁ノイズ抑制シートを概略的に示す模式斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う模式断面図である。
【図3】磁場強度の測定を行なっている状態を概略的に示す斜視図である。
【図4】磁性層又は導電層を当接面とした電磁ノイズ抑制シートにおいて、入力信号の周波数に対する磁場抑制効果を測定した結果を示すグラフである。
【図5】伝送損失効果の測定を行っている状態を概略的に示す斜視図である。
【図6】磁性層又は導電層を当接面とした電磁ノイズ抑制シートにおいて、入力信号の周波数に対する伝送損失効果を測定した結果を示すグラフである。
【図7】第2実施形態の電磁ノイズ抑制シートを概略的に示す模式斜視図である。
【図8】第3実施形態の電磁ノイズ抑制シートを概略的に示す模式平面図である。
【図9】図8のIX−IX線に沿う模式断面図である。
【図10】第4実施形態の電磁ノイズ抑制シートを概略的に示す模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。さらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0017】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の電磁ノイズ抑制シート1を概略的に示す模式斜視図であり、図2は、図1のII−II線に沿う模式断面図である。
【0018】
本実施形態の電磁ノイズ抑制シート1は、磁性層2と、粘着層3と、導電層4とがこの順に積層されたものであり、1層の粘着層3が、磁性層2と導電層4との間に位置する構成を有する。本実施形態において、磁性層2及び導電層4は、平面視において重なるように外形略同一に形成されている。また、粘着層3は、磁性層2及び導電層4よりも幅広に形成され、これにより、粘着層3の一部が、磁性層2及び導電層4の外周から外方へ突出した構成となっている。
【0019】
磁性層2は、バインダ20と磁性材料21とを少なくとも含有する。磁性層2は、バインダ20中に磁性材料21を分散させたものであり、本実施形態においては、平面視で略矩形状(正方形状)に成形されている。
【0020】
バインダ20は、磁性材料21を分散可能なものであれば公知のものを適宜使用することができ、特に限定されない。バインダ20の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂,ポリエステル系樹脂,ポリエチレン系樹脂,ポリスチレン系樹脂,塩化ビニル系樹脂,塩素化ポリエチレン系樹脂,ポリ酢酸ビニル系樹脂,ポリアミド系樹脂,及びポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂や、フェノール系樹脂,エポキシ系樹脂,シリコーン系樹脂,及びメラミン系樹脂等の熱硬化性樹脂等の各種樹脂、天然ゴム,クロロプレン系ゴム,ブタジエン系ゴム,スチレンブタジエン系ゴム,イソプレン系ゴム,シリコーン系ゴム,エチレンプロピレン系ゴム,クロルスルホン化ゴム,ニトリル系ゴム,アクリロニトリルブタジエンゴム,(メタ)アクリル系ゴム,及びポリウレタン系ゴム等を含む各種ゴム、オレフィン系エラストマー,スチレン系エラストマー,スチレンブタジエン系エラストマー,ポリアミド系エラストマー,及びポリエステル系エラストマー等の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0021】
磁性材料21は、磁性を有する材料であれば公知のものを適宜使用することができ、特に限定されないが、高周波帯域における電磁ノイズの減衰及び難燃性の観点から、軟磁性粉末であることが好ましい。磁性材料21の具体例としては、例えば、Fe,Fe−Si合金,Fe−Si−Al合金,Fe−Si−Al−Ni合金,Fe−Si−Cr合金,Fe−Si−Cr−Ni合金,及びFe−Ni合金などのFe基結晶粉末や、アモルファス粉末、並びに、Mn−Znフェライト,Cu−Znフェライト,Mg−Znフェライト等の各種フェライト等が挙げられる。これらのなかでも、高透磁率を確保する観点からFe−Si−Al合金が好ましく、所謂センダスト組成のものがより好ましい。センダスト組成のFe−Si−Al合金粉としては、例えば、特開2009−262960号公報に記載されているものが例示される。なお、磁性材料21の寸法形状は、特に制限されないが、透磁率を高める観点から、扁平形状であることが好ましい。
【0022】
磁性層2の厚さは、特に制限されず、適宜設定可能である。具体的には、磁性層2の厚さは、通常、10〜1000μm程度であることが好ましく、より好ましくは100〜300μm程度である。
【0023】
粘着層3は、基材31と粘着性を有する粘着材30,32とを備え、積層方向における基材31の両面に粘着材30,32からなる粘着面を有している。粘着層3の上面側の粘着面には、磁性層2が粘着し、下面側の粘着面には、導電層4が粘着している。本実施形態においては、粘着層3は、平面視で磁性層2及び導電層4よりも大きな略矩形状(正方形状)に成形されている。
【0024】
基材31は、粘着材30,32を支持可能なものであれば公知のものを適宜使用することができ、特に限定されない。基材31の具体例としては、例えば、紙、プラスチック、不織布等が挙げられる。柔軟性又は可撓性を備える観点から、基材31は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタート、ポリイミドなどのプラスチックフィルムが好ましく、フィルム表面の加工性や熱収縮性の観点から、ポリエチレンテレフタートがより好ましい。
【0025】
粘着材30,32は、磁性層2及び導電層4に粘着可能なものであれば公知のものを適宜使用することができ特に限定されない。粘着材30,32の具体例としては、例えば、ユリア系,メラミン系,フェノール系,エポキシ系,ポリウレタン系,及びポリエステル系等の熱硬化性樹脂、酢酸ビニル系,ポリビニルアルコール系,塩化ビニル系,(メタ)アクリル系,及びポリエチレン系等の熱可塑性樹脂、クロロプレン系ゴム,及びシリコーン系ゴム等のエラストマーの他、これらの混合物、例えば、エポキシ系樹脂及びフェノール系樹脂の混合物,フェノール系樹脂及びクロロプレン系エラストマーの混合物,エポキシ系樹脂及びポリアミド系樹脂の混合物,エポキシ系樹脂及びナイロン系樹脂の混合物等が挙げられる。
【0026】
なお、粘着層3は、磁性層2に含まれる磁性材料21,後述する導電層4に含まれる導電材料41,又は熱伝導性を高める粉末等を含んでいてもよい。また、粘着層3は、上記基材31を用いずに、粘着材30,32のみで形成(成形)したものであってもよい。
【0027】
粘着層3の厚さは、特に制限されず、適宜設定可能である。具体的には、粘着層3の厚さは、通常、5〜1000μm程度であることが好ましく、より好ましくは、10〜100μm程度である。
【0028】
導電層4は、バインダ40と導電材料41とを少なくとも含有する。導電層4は、バインダ40中に導電材料41を分散させたものであり、本実施形態においては、平面視で磁性層2と略同形状の略矩形状(正方形状)に成形されている。
【0029】
バインダ40は、導電材料41を分散可能なものであれば公知のものを適宜使用することができ、特に限定されない。バインダ40の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂,ポリエステル系樹脂,ポリエチレン系樹脂,ポリスチレン系樹脂,塩化ビニル系樹脂,塩素化ポリエチレン系樹脂,ポリ酢酸ビニル系樹脂,ポリアミド系樹脂,及びポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂や、フェノール系樹脂,エポキシ系樹脂,シリコーン系樹脂,及びメラミン系樹脂等の熱硬化性樹脂等の各種樹脂、天然ゴム,クロロプレン系ゴム,ブタジエン系ゴム,スチレンブタジエン系ゴム,イソプレン系ゴム,シリコーン系ゴム,エチレンプロピレン系ゴム,クロルスルホン化ゴム,ニトリル系ゴム,アクリロニトリルブタジエンゴム,(メタ)アクリル系ゴム,及びポリウレタン系ゴム等を含む各種ゴム、オレフィン系エラストマー,スチレン系エラストマー,スチレンブタジエン系エラストマー,ポリアミド系エラストマー,及びポリエステル系エラストマー等の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0030】
導電材料41は、導電性を有する材料であれば公知のものを適宜使用することができ、特に限定されない。導電材料41の具体例としては、例えば、Fe,Al,Cu,Ag,Au等の金属、又はこれらの合金、金属窒化物或いは金属酸化物からなる金属系粉末や、カーボンナノチューブ,カーボンブラック,フラーレン,グラフェン,炭素繊維,黒鉛,及びカーボンコイルなどの炭素系材料等が挙げられる。これらのなかでも、不要幅射の防止、及び熱の拡散促進の観点から、導電材料41として、カーボンナノチューブ,カーボンブラック,フラーレン,グラフェン,炭素繊維,黒鉛,及びカーボンコイル等の炭素系材料を用いることが好ましい。
【0031】
導電層4の厚さは、特に制限されず、適宜設定可能である。具体的には、導電層4の厚さは、通常、10〜1000μm程度であることが好ましく、より好ましくは100〜300μm程度である。
【0032】
本実施形態の電磁ノイズ抑制シート1においては、磁性層2側を当接面として或いは導電層側3を当接面として、電磁ノイズ発生源へ粘着可能とするために、粘着層3の少なくとも一部が、磁性層2及び導電層4の外周から外方へ突出した構成となっていることが必要とされる。本実施形態では、磁性層2及び導電層4は長さ20mm×幅20mm×厚み0.2mmの正方形状に形成され、粘着層3は長さ25mm×幅25mm×厚み0.05mmの正方形状に形成されている。粘着層3が突出した部分の長さが長いほど、及び粘着層3が突出した面積が広いほど、電磁ノイズ発生源へ粘着性が高められる傾向にある。そのため、粘着層3の突出している部分の長さは、磁性層2及び導電層4の厚みよりも長いことが必要である。粘着層3の長さ及び幅の少なくとも一方は、磁性層2及び導電層4の長さ及び幅に対して、110%以上であることが好ましく、より好ましくは120%以上、さらに好ましくは125%以上である。
【0033】
なお、電磁ノイズ抑制シート1の表面抵抗率は、磁性層2では106〜1012Ω/□であることが好ましく、より好ましくは108〜1011Ω/□であり、導電層4では10-1〜103Ω/□であることが好ましく、より好ましくは100〜102Ω/□である。また、電磁ノイズ抑制シート1の熱伝導率は、1〜500W/m・Kであることが好ましく、より好ましくは10〜300W/m・Kである。
【0034】
ここで、上記の電磁ノイズ抑制シート1を用いて、発明者らが電磁ノイズの効果に関して周波数特性を評価したところ、電磁ノイズ発生源に対し、磁性層2又は導電層4を当接面とした場合に、高周波帯域の電磁ノイズに対し有効に発揮される効果が異なることが判明した。以下、詳細に説明する。
【0035】
(1)第1周波数特性試験
図3は、磁場強度ΔHの測定を行なっている状態を概略的に示す斜視図である。同図において、ベースシートB上には、マイクロストリップライン(MSL;例えば、特性インピーダンス50Ω;幅30mm×長さ140mm)が形成されており、その一方端Tは50Ωで終端されており、他方端Sには、ネットワークアナライザNに接続された入力信号ラインLsが接続されている。また、マイクロストリップライン(MSL)の延在方向の中央部は、本発明による電磁ノイズ対策部材である電磁ノイズ抑制シート1(幅50mm×長さ25mm)で覆われており、その電磁ノイズ抑制シート1の1mm上方に、磁界プローブMFPが設置されている。
【0036】
この磁界プローブMFPは、測定信号ラインLmを介してネットワークアナライザNに接続されている。ネットワークアナライザNは、例えば、シグナルジェネレータとスペクトルアナライザを兼ねており、図3に示す状態において、ネットワークアナライザNから0dBの入力信号がマイクロストリップライン(MSL)の他方端Sへ入力され、そのときの磁界プローブMFPの出力電圧VsをネットワークアナライザNで測定する。次に、電磁ノイズ抑制シート1を用いない、つまり、マイクロストリップラインMSLを電磁ノイズ抑制シート11で覆わないこと以外は、上記と同様にして、磁界プローブMFPの出力電圧V0をネットワークアナライザNで測定する。
【0037】
磁場強度の測定方法では、マイクロストリップラインMSL上の磁場強度ΔHに対して、電磁ノイズ抑制シート1を用いることにより、どの程度の抑制が可能かを磁界プローブMFPで評価する。磁場強度ΔHが小さいほど、磁場抑制効果が高いことを示す。
【0038】
磁場強度ΔHは、下記式(1)より算出される。
ΔH=20×log(HNSS/H0) …(1)
式中、HNSSは、磁場強度の測定方法において、電磁ノイズ対策部材を用いた場合の磁場強度を示し、H0は、同測定方法において、電磁ノイズ対策部材を用いない場合の磁場強度を示す。
【0039】
そして、上記式(1)は、下記式(2)で表されるとおり展開することができ、磁界プローブMFPのアンテナ係数AFが未知であっても、磁界プローブMFPの出力電圧Vs,V0から、ΔHを算出することができる。
ΔH=20×log(HNSS/H0)=20×log{(AF・Vs)/(AF・V0)} …(2)
【0040】
図4は、磁性層2又は導電層4を当接面とした電磁ノイズ抑制シート1において、入力信号の周波数に対する磁場抑制効果を測定した結果を示すグラフである。丸(○)印のプロットは、導体層4を当接面とした電磁ノイズ抑制シート1を用いて磁場抑制効果を測定した結果である。四角(□)印のプロットは、磁性層2を当接面とした電磁ノイズ抑制シート1を用いて磁場抑制効果を測定した結果である。
【0041】
図4に示すように、磁性層2及び導電層4のどちらを当接面とするかによって、磁場強度ΔHの抑制効果が異なることが判明した。より具体的には、磁性層2を当接面とした電磁ノイズ抑制シート1の方が、導電層4を当接面とした電磁ノイズ抑制シート1に比して、1GHzから6GHzといった高周波帯域の電磁ノイズに対する磁場強度ΔHが抑制されたことが確認された。この結果、磁性層2を当接面とした電磁ノイズ抑制シート1の方が、導電層4を当接面とした電磁ノイズ抑制シート1に比して、より高い磁場抑制効果を得られることが判明した。
【0042】
(2)第2周波数特性試験
図5は、伝送損失効果の測定を行っている状態を概略的に示す斜視図である。同図において、同軸管Cが配置されており、その一方端Vには、ネットワークアナライザNに接続された入力信号ラインLiが接続されており、他方端Wには、ネットワークアナライザNに接続された出力信号ラインLoが接続されている。また、同軸管Cは、同軸管C内の延在方向に沿って中心導体(直径16.9mm,長さ200mm)Ccが形成されており、かかる中心導体Ccの延在方向の中央部は、本発明による電磁ノイズ対策部材である電磁ノイズ抑制シート1(幅100mm×長さ60mm)で覆われている。
【0043】
ネットワークアナライザNは、図5に示す状態において、ネットワークアナライザNからの入力信号が同軸管の他方端Vへ入力され、同軸管Cの一方端Wから出力される出力信号をネットワークアナライザNで測定する。
【0044】
伝送損失効果の測定方法では、入力信号が同軸管Cに入力されると、同軸管Cの空間内に発生する電界と磁界の変化に基づいて、電磁ノイズ抑制シート1の反射電力(反射量)と透過電力(透過量)とが変化する。ネットワークアナライザNは、反射電力と透過電力との変化に基づいて、電磁ノイズ抑制シート1の伝送損失効果(電力損失)P(loss)/P(in)を測定する。伝送損失効果P(loss)/P(in)が大きいほど、入力信号を吸収する効果が高いことを示す。
【0045】
伝送損失効果P(loss)/P(in)は、下記式(3)より算出される。
P(loss)/P(in)=1−P11/P(in)−P21/P(in) …(3)
式中、P(in)は、伝送損失効果の測定方法において、入力電力を示し、P11は、同測定方法において、電磁ノイズ抑制シート1の反射電力を示し、P21は、同測定方法において、電磁ノイズ抑制シート1の透過電力を示す。また同測定方法は、P(in)を1とした場合の、電磁ノイズ抑制シート1の伝送損失効果を測定する。
【0046】
図6は、磁性層2又は導電層4を当接面とした電磁ノイズ抑制シート1において、入力信号の周波数に対する伝送損失効果を測定した結果を示すグラフである。実線は、磁性層2を当接面とした電磁ノイズ抑制シート1を用いて磁場抑制効果を測定した結果である。一点鎖線は、導電層4を当接面とした電磁ノイズ抑制シート1を用いて磁場抑制効果を測定した結果である。
【0047】
図6に示すように、磁性層2及び導電層4のどちらを当接面とするかによって、伝送損失効果P(loss)/P(in)の効果が異なることが判明した。より具体的には、導電層4を当接面とした電磁ノイズ抑制シート1の方が、磁性層2を当接面とした電磁ノイズ抑制シート1に比して、1GHzから4GHzといった高周波帯域の電磁ノイズに対する伝送損失効果が大きいことが確認された。この結果、導電層4を当接面とした電磁ノイズ抑制シート1の方が、磁性層2を当接面とした電磁ノイズ抑制シート1に比して、より高い伝送損失効果を得られることが判明した。
【0048】
このように、本発明者らは、電磁ノイズに対し所望の効果を高めるためには、積層方向における磁性層2及び導電層4の位置関係が深く関連していることが推察され、磁性層2及び導電層4の位置関係を調整することが極めて有用であることを見出した。そして、本実施形態の電磁ノイズ抑制シート1のように、積層方向における導電層4と磁性層2との間に粘着層3が介在し、しかも、粘着層3は、平面視における粘着層3の外周が、磁性層2及び導電層4の外周よりも外側に形成したものを用いると、設置時に磁性層2側又は導電層4側のいずれを当接面として電磁ノイズ発生源へ設置(接着)するか選択することができる。したがって、本実施形態の電磁ノイズ抑制シート1においては、該電磁ノイズ抑制シート1を設置する対象物に応じて、磁性層2及び導電層4のいずれの層を下層に配置するかを選択することにより、かかる対象物が必要とする電磁ノイズ抑制シート1の効果(磁場抑制効果及び伝送損失効果)を切り替えて取得することができ、設置時に柔軟な対応が可能となる。これにより、本実施形態の電磁ノイズ抑制シート1を用いることで、所望の効果を十分に発揮することが可能となる。
【0049】
また、本実施形態の電磁ノイズ抑制シート1においては、粘着層3は単一層なので、積層方向における電磁ノイズ抑制シート1の上下層に粘着層3を有する従来の構成に比して薄く、コストの低廉化を図ることができる。
【0050】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態の電磁ノイズ抑制シート15を概略的に示す模式斜視図である。本実施形態における電磁ノイズ抑制シート15は、粘着層5の平面形状を略長方体状に変更し、その長辺が磁性層2及び導電層4よりも長く、その短辺が磁性層2及び導電層4よりも短いものとしたこと以外は、上記の第1実施形態の電磁ノイズ抑制シート1と同様に構成されたものである。
【0051】
このように、本実施形態の電磁ノイズ抑制シート15においては、積層方向において、磁性層2と導電層4とを粘着する粘着層5を備え、しかも、粘着層5は、平面視における粘着層5の少なくとも一部の外周が、磁性層2及び導電層4の外周よりも外側に形成されているので、設置時に磁性層2又は導電層4のいずれを当接面として電磁ノイズ発生源へ設置(接着)するか選択することができる。したがって、本実施形態の電磁ノイズ抑制シート15においても、上記第1実施形態における電磁ノイズ抑制シート1と同様の効果を奏することができる。
【0052】
また、本実施形態の電磁ノイズ抑制シート15においては、上記第1実施形態における電磁ノイズ抑制シート1に比して、粘着層5の面積を小さく形成することができるので、より小さな対象物に対しても使用することができ、且つ、コストの低廉化を一層図ることができる。
【0053】
(第3実施形態)
図8は、第3実施形態の電磁ノイズ抑制シート16を概略的に示す模式平面図であり、図9は、図8のIX−IX線に沿う断面図である。本実施形態における電磁ノイズ抑制シート16は、粘着層6の平面略中央に孔部63が形成され、平面視において該孔部63を閉塞するように磁性層2及び導電層4が積層されていること以外は、上記の第1実施形態の電磁ノイズ抑制シート1と同様に構成されたものである。なお、粘着層6は、基材61と粘着材60,62とから構成され、これらは、第1実施形態の粘着層3、基材31と粘着材30,32に相当するものであるため、重複する説明は省略する。
【0054】
このように、本実施形態の電磁ノイズ抑制シート16においては、積層方向において、磁性層2と導電層4とを粘着する粘着層5を備え、しかも、平面視における粘着層6の外周が、磁性層2及び導電層4の外周よりも外側に形成されているので、設置時に磁性層2又は導電層4のいずれを当接面として電磁ノイズ発生源へ設置(接着)するか選択することができる。したがって、本実施形態の電磁ノイズ抑制シート16においても、上記第1実施形態における電磁ノイズ抑制シート1と同様の効果を奏することができる。
【0055】
また、本実施形態の電磁ノイズ抑制シート16においては、粘着層6の一部には孔部63が形成されているので、上記第1実施形態における電磁ノイズ抑制シート1に比して、粘着層6の面積を削減することができ、磁性層2と導電層4との間の抵抗成分を抑制することができる。さらに、コストの低廉化を一層図ることができる。
【0056】
(第4実施形態)
図10は、第3実施形態の電磁ノイズ抑制シート17を概略的に示す模式斜視図である。本実施形態における電磁ノイズ抑制シート17は、複数の小片からなる磁性層8及び複数の小片からなる導電層9のそれぞれが粘着層7の上下面に粘着され、且つ、粘着層7の外周部に粘着されている小片の一辺が、粘着層7の外周に一致していること以外は、上記の第1実施形態の電磁ノイズ抑制シート1と同様に構成されたものである。
【0057】
このように、本実施形態の電磁ノイズ抑制シート17においては、積層方向において、小片からなる磁性層8と導電層9とを粘着する粘着層7を備え、しかも、平面視における粘着層7の少なくとも一部が、磁性層8及び導電層9の外周よりも外側に形成されているので、設置時に磁性層8又は導電層9のいずれを当接面として電磁ノイズ発生源へ設置(接着)するか選択することができる。したがって、本実施形態の電磁ノイズ抑制シート17においても、上記第1実施形態における電磁ノイズ抑制シート1と同様の効果を奏することができる。
【0058】
また、本実施形態の電磁ノイズ抑制シート17においては、磁性層8及び導電層9が小片からなるので、上記第1実施形態における電磁ノイズ抑制シート1に比して、設置時に小片単位で加工することができるので、電磁ノイズ抑制シートの加工性が向上する。また、コストの低廉化を一層図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したとおり、本発明の電磁ノイズ抑制シートは、電磁ノイズ発生源への当接面を選択でき、謂わば要求性能に対して最大限に発揮できる効果(磁場抑制効果及び伝送損失効果)を柔軟に切り替えることができるので、各種電子・電気デバイス及びそれらを備える各種機器、設備、システム等に広く且つ有効に利用可能であり、とりわけ、高速差動伝送ライン、信号ラインや映像信号ラインにおける電磁ノイズ対策として広く且つ有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1,15,16,17…電磁ノイズ抑制シート(電磁ノイズ対策部材)、2,8…磁性層、20…バインダ、21…磁性材料、3,5,6,7…粘着層、30,32,60,62…粘着材、31,61…基材、4,9…導電層、40…バインダ、41…導体材料、63…孔部、B…ベースシート、N…ネットワークアナライザ、MFP…磁界プローブ、MSL…マイクロストリップライン、Ls,Li…入力信号ライン、Lm…測定信号ライン、T…マイクロストリップラインの一方端、S…マイクロストリップラインの他方端、C…同軸管、Cc…中心導体、V…同軸管の一方端、W…同軸管の他方端、Lo…出力信号ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性層と、粘着層と、導電層と、がこの順に積層され、
前記粘着層の少なくとも一部は、前記磁性層及び前記導電層の外周よりも外側に形成されている、
電磁ノイズ対策部材。
【請求項2】
前記粘着層は、平面略中央に孔部を有する、請求項1記載の電磁ノイズ対策部材。
【請求項3】
前記磁性層及び前記導電層のそれぞれは、複数の小片からなる、請求項1又は2記載の電磁ノイズ対策部材。
【請求項4】
磁性層と、粘着層と、導電層と、がこの順に積層され、前記粘着層の少なくとも一部が、前記磁性層及び前記導電層の外周よりも外側に形成されている電磁ノイズ対策部材を、電磁ノイズ発生源上に設置する工程を含む、
電磁ノイズ対策方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−151242(P2012−151242A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8127(P2011−8127)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】