説明

電磁力開閉式の電磁シールド扉システム

【課題】力学的な押圧機構とは無関係に電磁シールド扉を開閉する力と、所要の遮蔽性能を有する電磁シールドを長期に渡り保持する力を作用させることができる電磁力開閉式の電磁シールド扉システムを提供する。
【解決手段】扉枠3aの内周面と電磁シールド扉4aの外周面が当接する部位に、それぞれ電磁石層10、ダストポケット層20及び導電性素材層30を設ける。電磁シールド扉4aの開操作時は、扉枠3aの電磁石層10と電磁シールド扉4aの電磁石層10に印加する電流を同じ方向に流して向き合う電磁石層10の間に反発力を生じさせる。閉操作時は印加する電流を反対方向に流して向き合う電磁石層10の間に吸着力を生じさせ、導電性素材層30同士を密着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁シールドルーム入退出用の、電磁力を利用した電磁シールド扉システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁シールドルームにおける従来の電磁シールド扉の開閉構造は、扉本体と扉枠との当接面に導電性素材を設置して、押圧機構によって互いを密着させることにより所定の電磁シールド性能を確保する構成である。
【0003】
例えば特許文献1に係る電磁シールド扉のシール構造では、モータを用いた自動操作又はハンドルを用いた手動操作により押圧機構を駆動して、扉本体の上下左右それぞれから扉枠に向かってロッド棒を突き出して導電性素材を偏心回動させることにより、梃子の原理で押圧力を生じさせて扉枠に密着させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−101074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の電磁シールド扉は以上のように構成されているので、近年新たな脅威として注目されている電磁波盗聴、電磁波攻撃に対抗するための高い電磁シールド性能が要求される場合には、必然的に押圧力を強める必要がある。すると、扉開閉操作の際の負担増大による使い勝手の低下、及び押圧機構を構成する部品の損耗促進による扉本体と扉枠との当接面の押圧力の減少により、長期に渡る導電性確保が困難となるという課題があった。
【0006】
また、扉本体と扉枠との当接面の導電性素材には鉄粉、帯電した埃等の付着物が誘引されるが、従来は保守時にしか除去しないため、付着物による電磁気的密閉性の低下も導電性確保の観点から無視できない課題であった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、力学的な押圧機構とは無関係に電磁シールド扉を開閉する力と、所要の遮蔽性能を有する電磁シールドを長期に渡り保持する力を作用させることができる電磁力開閉式の電磁シールド扉システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る電磁力開閉式の電磁シールド扉システムは、扉枠の内周面に設置された複数の電磁石からなる電磁石層と、電磁シールド扉の外周面に設置され、開口部の閉鎖時に扉枠の電磁石層に当接する、複数の電磁石からなる電磁石層と、扉枠の電磁石層及び電磁シールド扉の電磁石層のコイル励磁の極性を当該電磁シールド扉の開閉操作に従って変化させる制御部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、扉枠の電磁石層及び電磁シールド扉の電磁石層のコイル励磁の極性を当該電磁シールド扉の開閉操作に従って変化させるようにしたので、電磁石層の電磁力が、電磁シールド扉を開閉する力となって開閉操作の負担を軽減することができると共に、力学的な押圧機構が不要になるので損耗による押圧力減少が起こらず、電磁シールドを長期に渡り保持することができる電磁力開閉式の電磁シールド扉システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1に係る電磁力開閉式の電磁シールド扉システムの構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示す電磁シールド扉構造を拡大した斜視図である。
【図3】閉状態の電磁シールド扉構造を、図2に示すAA線に沿って切断した断面図である。
【図4】図3に示す断面図の一部を拡大した図である。
【図5】電磁シールド扉の扉枠に当接する面の構成を示す平面図である。
【図6】電磁シールド扉の開閉状態を検出する開閉検知構造の一例を示す図である。
【図7】電磁シールド扉の開閉状態を制御するインタロック制御盤6の動作例を示すフローチャートである。
【図8】この発明の実施の形態1に係る電磁力開閉式の電磁シールド扉システムの動作を示すタイムチャートである。
【図9】実施の形態1に係る電磁シールド扉システムの変形例を示し、図2に示すAA線に相当する位置で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1に示す電磁力開閉式の電磁シールド扉システムは、扉、壁面、床面、及び天井面に導電体を施した電磁シールドルーム1と、その入退出口として設けた、扉、壁面、床面、及び天井面に導電体を施した前室2と、電磁シールドルーム1と前室2を連通する開口部及び前室2と外部を連通する開口部に電気的に接合された扉枠3a,3bと、各開口部を物理及び電磁的に閉鎖し密閉する電磁シールド扉4a,4bと、各電磁シールド扉4a,4bの電磁シールド性能を検出するために用いる送受信機5a−1,5a−2,5b−1,5b−2と、各電磁シールド扉4a,4bの開閉を制御するインタロック制御盤6と、各電磁シールド扉4a,4bの電磁シールド性能を制御及び監視する中央管理端末(制御部)7とを備える。また、インタロック制御盤6と各扉枠3a,3b、インタロック制御盤6と中央管理端末7はそれぞれ有線接続されている。また、通常の扉と同様に、電磁シールド扉4a,4bの吊元上部にはドアクローザ8a,8bが取り付けられ、片面には開閉ハンドル9a,9bが取り付けられている。なお、図示例では開閉ハンドル9a,9bを電磁シールド扉4a,4bそれぞれの片面に取り付けているが、表裏両面に取り付けてもよい。
【0012】
図1に示す扉枠3aと電磁シールド扉4aからなる電磁シールド扉構造と、扉枠3bと電磁シールド扉4bからなる電磁シールド扉構造はそれぞれ同一構造のため、以下では図2〜図5を用いて、扉枠3aと電磁シールド扉4aからなる電磁シールド扉構造を例に説明する。図3は、図2に示す扉枠3aと電磁シールド扉4aを閉じた状態でAA線に沿って切断した断面図であり、その一部を拡大して図4に示す。図5に、電磁シールド扉4aの扉枠3aに当接する面を一部拡大した平面図を示す。
【0013】
扉枠3aの内周と電磁シールド扉4aの外周が当接する部位それぞれに、電磁石層10と、ダストポケット層20と、導電性素材層30とを平行に配置する。なお、図示例では扉枠3aの外周側から内周側に向って導電性素材層30、ダストポケット層20、電磁石層10の並び順で配置したが、これ以外の並び順でもよい。
【0014】
本実施の形態1の電磁シールド扉構造では、開閉機構に電磁石を用いる。電磁石は磁性材料の芯材(例えば鉄芯)の周囲に、所定の巻き数のコイルを巻回した構造となっており、コイルへの通電をオン/オフに切り替えることにより、磁力の発生と停止を制御できる。また、コイル通電の向きを変えることにより、向き合う電磁石同士の磁極を同極にしたり反極にしたりすることができる。さらに、電磁石に発生する力は、コイルの巻き数とコイルに流す電流(印加電流値)の大きさに比例し、磁性材料の芯材の透磁率及び断面積が大きいほど強い磁力を発生させることができる。
【0015】
また、本実施の形態1で用いる電磁石には、ラッチング(自己保持)ソレノイドを用いる。汎用電磁石は上述のような特長がある反面、常時通電する必要があるため、コイルの温度が上昇しやすく、かつ、消費電流が多い。これに対して、ラッチングソレノイドは汎用電磁石と同様の特長に加え、コイルを巻回した芯材に加えて永久磁石を内蔵しているため、コイル通電により芯材を可動して永久磁石に吸着させた後は無通電で保持力が得られるという特長がある。従って、汎用電磁石と比較して、コイルの温度上昇が少なく、かつ、電流消費を抑えることが可能である。また、吸引時と離反時で通電極性が異なり、通電の向きを変えることにより永久磁石から芯材を離反させることができる。なお、公知のラッチングソレノイドを用いればよいため、詳細な説明は省略する。
【0016】
扉枠3aの電磁石層10と、電磁シールド扉4aの電磁石層10それぞれに、このラッチングソレノイドタイプの電磁石11を向かい合わせに配置する。例えば開閉ハンドル9aの開閉操作に伴い、扉枠3aと電磁シールド扉4a双方の電磁石11の通過電流の向きを操作することにより吸着面12のコイル励磁の極性を変化させ、電磁石層10に均一に作用する電磁石11の電磁力の吸引力/反発力により、電磁シールド扉4aの開閉を行う。
なお、各電磁石11は、通常使用分の電磁石11と、予備使用分の電磁石11とが交互に配列されているものとする。以下、通常使用分の電磁石を電磁石11と称し、予備使用分の電磁石は予備電磁石11と称す。
【0017】
電磁シールド扉4aの開閉操作又は空調による気圧差等で生じた気流により、導電性素材層30の表面には鉄粉、帯電した埃等の電磁気的密封性を損なう恐れのある付着物が付着する。そこで、扉枠3aのダストポケット層20と、電磁シールド扉4aのダストポケット層20それぞれに、C形断面鋼21を取り付け、この開口部22に可動蓋を取り付けてダストポケットにする。C形断面鋼21の内部には、汎用電磁石(図示せず)を設置して、扉枠3aと電磁シールド扉4aの当接面に誘引された付着物を誘引し、当接面から除去する。ただし、必ずしも扉枠3aと電磁シールド扉4aの双方にダストポケット層20を設ける必要はなく、扉枠3aと電磁シールド扉4aの少なくともいずれか一方に設ければ付着物の除去は可能である。また、ダストポケット層20をC形断面鋼21で構成したが、材質は鋼に限定されるものではなく、硬質プラスチック等、繰り返し開閉による摩擦及び衝撃、並びに外部衝撃(例えば荷のぶつかり)等で容易に損傷しない程度の強度と形状加工性を満たす材質であればよい。
【0018】
なお、汎用電磁石に代えて、C形断面鋼21に真空掃除装置(図示せず)を接続してもよい。汎用電磁石又は真空掃除装置を用いる場合には、開口部22に取り付けた可動蓋を掃引力以外では開かぬよう内開きとし、掃引力で開き、掃引解除後はバネ等の付勢力で閉じるようにして、開口部22内に誘引・除去した付着物が逆流しない構造にする。
あるいは、汎用電磁石に代えて、C形断面鋼21に永久磁石(図示せず)を設置してもよい。この場合には、電磁石層10の電磁力による開閉制御に影響を及ぼさない程度の磁力を有した永久磁石を用いることとし、また、無蓋でよい。
さらに、扉枠3aのC形断面鋼21に永久磁石を設置し、電磁シールド扉4aのC形断面鋼21に汎用電磁石を設置してもよい。この場合にも、導電性素材層30の導電性確保を阻害する付着物を効率的に除去できる。
【0019】
扉枠3aの導電性素材層30と、電磁シールド扉4aの導電性素材層30それぞれに、導電性素材を向かい合わせに配置して、電磁石層10の吸着力により互いに電気的に密着することで電磁シールドラインを生成する。
導電性素材層30を構成する導電性素材には、非導通性の発泡性芯材を導電性素材で被覆した、柔軟性、弾力性及び復元性に富み、曲げ及び圧縮にもフレキシブルに対応できる特徴を有するシールドガスケット、又は導通性素材をバネ形状に加工した、スプリング特性に優れた特徴を有するフィンガーガスケット等を用いる。
【0020】
扉枠3aと電磁シールド扉4aの吊元上部に取り付けたドアクローザ8aは、電磁石層10の極性操作による電磁シールド扉4aの開閉速度が、例えば建設省告示により算出した開閉速度以下となるよう、油圧調整により制御する。また、開閉ハンドル9aは、開位置又は閉位置を検出して、開位置検出信号及び閉位置検出信号をインタロック制御盤6へ出力する。
【0021】
電磁シールド扉4aの表裏面それぞれの同一位置には、送受信機5a−1,5a−2を取り付ける。送受信機5a−1,5a−2には、例えば、特定省電力無線等、電波法に基づく無線局免許を受けることなく運用できる適合表示無線設備(いわゆる技適マークが付された無線設備)を用いればよい。
送受信機5a−1,5a−2には、複数の電磁シールド扉4a,4bがある場合に混信する恐れが無いよう一対毎に固有のチャンネル(周波数)を設定しておき、後述するように、電磁シールド扉4aが閉状態の際には電波を送受し、開状態の際には送受を休止する。なお、送受信機5a−1,5a−2に設定する周波数は、電磁シールドルーム1内で取り扱われる情報機器の設定周波数を参考に決定する。
【0022】
以上の電磁シールド扉構造の構成は、扉枠3b及び電磁シールド扉4bからなる電磁シールド扉構造も同様であるため、説明を省略する。
なお、電磁シールド扉4a,4bの遮蔽性能は、扉枠3a,3bの電磁石層10と電磁シールド扉4a,4bの電磁石層10に配置された各電磁石11の吸着力によって、対面する導電性素材層30同士を所定の圧力で互いに電気的に密着させて生成される電磁シールドラインにより発揮される。遮蔽性能の調整は、各電磁石11の吸着力を調整することにより行うこととし、この吸着力の調整は、電磁石11の設置数、稼動数、コイル巻き数、印加電流値をそれぞれ調整することにより行う。設置数は、扉枠3a,3b及び電磁シールド扉4a,4bの設置時に予め決定されるが、稼動数は予備使用電磁石11を休止状態から復帰させることにより調整可能であり、コイル巻き数は予めコイル途中に電極を複数設けておき、接点電極の位置を選択して電流を印加することにより調整可能である。
【0023】
前室2にはインタロック制御盤6が設置されており、予め設定された制御プログラムに従って電磁シールド扉4a,4bの開閉を制御する。この例では、インタロック制御盤6が、一方の電磁シールド扉が開状態の場合に他方の電磁シールド扉が閉状態になるように操作不可信号を出力することにより、両電磁シールド扉4a,4bを連携制御して、電磁シールド扉4a,4bの開閉に関わらず電磁シールドルーム1の電磁シールド状態を常時保持する。
【0024】
ここで、電磁シールド扉4a,4bの開閉検知構造を説明する。図6は、電磁シールド扉4aの開閉状態を検出する開閉検知構造の一例を示す図である。
開閉ハンドル9aは、上述のように開位置又は閉位置を検出して、開位置検出信号及び閉位置検出信号をインタロック制御盤6へ出力する。また、電磁シールド扉4aと扉枠3aの対向位置にそれぞれ取り付けたマグネットセンサ13aは、電磁シールド扉4aの位置を検出して開閉状態を確認し、開状態検出信号及び閉状態検出信号をインタロック制御盤6へ出力する。このマグネットセンサ13aにより、電磁シールド扉4aが完全に閉じたか否かを確認できる。
【0025】
また、電気錠14aは、作業者の施錠及び開錠の操作により又はインタロック制御盤6の施錠指示に従って、電磁シールド扉4aをロック及びロック解除し、施錠信号及び開錠信号をインタロック制御盤6へ出力する。また、表示盤15aは、電磁シールド扉4aの表裏両側にそれぞれ設置され、電磁シールド扉4aの操作可及び不可の状況を表面の点灯色で表す。なお、この表示盤15aに、指紋認証機能、非接触カードリーダ機能等を追加して、表示盤15aと中央管理端末7とが協働して電磁シールド扉4aを操作可能な人物の認証を実施してもよい。
なお、図示は省略するが電磁シールド扉4bにも同様の機能を有するマグネットセンサ13b、電気錠14b、及び表示盤15bが設置されているものとする。
【0026】
図7に、インタロック制御盤6による電磁シールド扉4a,4bそれぞれの開閉制御のフローチャートを示す。インタロック制御盤6は、電磁シールド扉4a,4bそれぞれについて、開閉ハンドル9a,9bから出力される開位置/閉位置検出信号と、マグネットセンサ13a,13bから出力される開状態/閉状態検出信号と、電気錠14a,14bから出力される開錠/施錠信号とに基づいて、開閉操作の有無を確認する(ステップST1)。
【0027】
電磁シールド扉4aを例に説明すると、インタロック制御盤6は電磁シールド扉4a,4bともに開閉操作がされていない場合に電磁シールド扉4aを操作可と判断して(ステップST1“操作可”)、表示盤15aを緑点灯させる(ステップST2)。表示盤15aは、緑点灯時に作業者から指紋認証又はカード認証の指示を受け付けると、中央管理端末7で照合させる(ステップST3)。続いて、認証されたその作業者が電磁シールド扉4aを開操作すると(ステップST4“YES”)、開閉ハンドル9a、マグネットセンサ13a及び電気錠14aが開位置検出信号、開状態検出信号及び開錠信号を出力するので、インタロック制御盤6がこれらの信号(以下、扉操作中信号と称す)を受け付けて、他方の電磁シールド扉4bへ操作不可信号を出力する(ステップST5)。電磁シールド扉4bが操作不可信号を受け付けると、電気錠14bが施錠し、表示盤15bは橙点灯する(ステップST8に相当する)。なお、認証後の一定時間に開操作がないと(ステップST4“NO”)、インタロック制御盤6は認証を取り消して、状態をリセットする。
【0028】
開操作に続いて電磁シールド扉4aが閉操作されると(ステップST6“YES”)、開閉ハンドル9a、マグネットセンサ13a及び電気錠14aが閉位置検出信号、閉状態検出信号及び施錠信号を出力するので、インタロック制御盤6がこれらの扉操作中信号を受け付けて、電磁シールド扉4aが完全に閉じたことを確認し(ステップST6“YES”)、電磁シールド扉4bへの操作不可信号出力を停止する(ステップST7)。なお、完全に閉まった状態とは、状態電磁シールド扉4aが電気錠14aを備えている場合には、インタロック制御盤6から電気錠14aに施錠を指示する信号が出力されて、電気錠14aによるロックが掛かった状態を指す。電磁シールド扉4aが電気錠14aを備えていない場合には、開閉ハンドル9aの閉操作検出信号(又は電磁石層10への通電から一端無通電状態を経て次回の通電まで)と、マグネットセンサ13aによる閉位置検出信号の両信号をインタロック制御盤6が受け付けた状態を指す。
【0029】
一方、電磁シールド扉4bが開閉操作中で操作不可信号が出力されていれば、インタロック制御盤6は表示盤15aを橙点灯させて、作業者に電磁シールド扉4aが操作不可である旨を報知する(ステップST8)。また、電磁シールド扉4aの開閉状態確認時に故障又は異常が発生していれば、インタロック制御盤6は表示盤15aを赤点灯させて、作業者に故障又は異常発生を報知する(ステップST9)。
【0030】
なお、インタロック制御盤6が電磁シールド扉4a,4bの開閉検知(ステップST4,ST6)のために、開閉ハンドル9a,9b、マグネットセンサ13a,13b及び電気錠14a,14bの出力する各信号を用いる構成を例に説明したが、信号の組み合わせはこれに限定されるものではなく、例えば開閉ハンドル9a,9b及びマグネットセンサ13a,13bの各信号を用いたり、マグネットセンサ13a,13b及び電気錠14a,14bの各信号を用いたりする構成にしてもよい。さらに、表示盤15a,15bは指紋認証又はカード認証の機能を備えず、単に操作可/不可の状況表示のみするようにしてもよい。
【0031】
電磁シールドルーム1には中央管理端末7が設置されており、電磁シールド扉4a,4bそれぞれの表裏面に取り付けた一対の送受信機5a−1,5a−2及び一対の送受信機5b−1,5b−2の信号受信レベルを測定する。中央管理端末7は測定したそれぞれの信号受信レベルと、保守完了時の測定値を基準にして予め設定された閾値とを比較して、扉枠3a,3bと電磁シールド扉4a,4bの電磁シールド性能を監視する。
また、中央管理端末7は、電磁シールド性能の監視結果に基づき、扉枠3a,3b内周の電磁石層10と電磁シールド扉4a,4b外周の電磁石層10への印加電流値の調整、予備使用電磁石11の休止状態からの復帰、各装置の異常信号等の表示、非常時の電磁力一斉解除等の制御を統括する。
【0032】
さらに、中央管理端末7は、インタロック制御盤6を経由して受け付けた電磁シールド扉4a,4bからの扉操作中信号に基づいて、各電磁石層10への電流印加の有無、電流の向き等を制御して電磁力を発生させ、電磁シールド扉4a,4bを開閉させる。また、ダストポケット層20が汎用電磁石又は真空掃除装置から構成されている場合、中央管理端末7は各電磁石層10の電磁力解除時にダストポケット層20を作動させる。
【0033】
次に、図8に示すタイムチャートを用いて、電磁力開閉式の電磁シールド扉システムの動作を説明する。図8(a)は扉枠3a及び電磁シールド扉4aからなる電磁シールド扉構造に関する動作を示し、図8(b)は扉枠3b及び電磁シールド扉4bからなる電磁シールド扉構造に関する動作を示す。
【0034】
電磁シールド扉4aの開操作時は、中央管理端末7がインタロック制御盤6を経由して電磁シールド扉4aから開操作を示す扉操作中信号を受け付けて(ステップST11)、扉枠3aと電磁シールド扉4a双方に設置された各電磁石層10のコイルに印加される電流を同方向に流す(ステップST12)。すると、扉枠3aの電磁石層10と電磁シールド扉4aの電磁石層10のコイル励磁の極性が同じになり、吸着面12同士に反発力が作用して電磁シールド扉4aを開く。
また、インタロック制御盤6は、電磁シールド扉4aから扉操作中信号を受け付けると(ステップST11)、電磁シールド扉4bへ操作不可信号を出力して、電磁シールド扉4bが開かないようにロックする(ステップST13)。
【0035】
中央管理端末7は、電磁シールド扉4aが開いた後、次の閉操作が行われるまでの間、コイルに印加される電流を停止し、電磁力を解除する(ステップST12)。また、中央管理端末7は、電磁シールド扉4aが開いた後、電磁力解除に合わせて、ダストポケット層20内部の汎用電磁石に電磁力を励起するか、又は内部に接続した真空掃除装置を起動するかして導電性素材層30の表面に誘引された付着物を誘引及び除去して、当接面の電磁気的密封性を保持する(ステップST14)。なお、ダストポケット層20内部に永久磁石を設置した場合、この処理は不要である。
【0036】
一方、電磁石11に内蔵の永久磁石の作用で吸着する閉状態の電磁シールド扉4bについて、中央管理端末7は送受信機5b−1,5b−2の信号受信レベルそれぞれを閾値と比較して、信号受信レベルが閾値以下であれば電磁シールド性能は正常であると判断し、一方、信号受信レベルが閾値を越えた場合に電磁シールド性能が低下していると判断する(ステップST15)。電磁シールド性能の低下を検知した場合、中央管理端末7は、電磁シールド扉4bの増し締め分として設置されている予備使用電磁石11へ通電を行って休止状態から復帰させ、吸着力を高めて電磁シールド性能を向上させる。中央管理端末7はこれに加えて、又はこれに代えて、電磁石11のコイル巻き数、印加電流値を増加させ、吸着力を高めて電磁シールド性能を向上させる。
【0037】
電磁シールド扉4aの閉操作時は、中央管理端末7がインタロック制御盤6を経由して電磁シールド扉4aから閉操作を示す扉操作中信号を受け付けて、扉枠3aと電磁シールド扉4a双方に設置された各電磁石層10のコイルに印加される電流を反対方向に流す(ステップST16)。すると、扉枠3aの電磁石層10と電磁シールド扉4aの電磁石層10のコイル励磁の極性が反対になり、吸着面12同士に吸着力が作用して電磁シールド扉4aを閉める。
【0038】
中央管理端末7は、電磁シールド扉4aが完全に閉まった後、コイルに印加される電流を停止して無通電状態にして、次の開操作が行われるまでの間、電磁石層10の電磁石11に内蔵された永久磁石の作用により、扉枠3aと電磁シールド扉4aの電磁石層10同士の吸着状態を保持する(ステップST17)。
また、インタロック制御盤6は、電磁シールド扉4aが完全に閉まった後、電磁シールド扉4bへの操作不可信号の出力を停止して、電磁シールド扉4bを操作可能な状態にする。
【0039】
他方、操作可能な状態になった電磁シールド扉4bについて、電磁シールド扉4bの開操作がされると、ステップST11と同様に中央管理端末7が電磁シールド扉4bから開操作を示す扉操作中信号をインタロック制御盤6を経由して受け付けて(ステップST18)、扉枠3bと電磁シールド扉4b双方に設置された各電磁石層10のコイルに印加される電流を同方向に流す(ステップST19)。すると、扉枠3bの電磁石層10と電磁シールド扉4bの電磁石層10のコイル励磁の極性が同じになり、吸着面12同士に反発力が作用して電磁シールド扉4bを開く。
また、インタロック制御盤6は、電磁シールド扉4bから扉操作中信号を受け付けると(ステップST18)、電磁シールド扉4aへ操作不可信号を出力して、電磁シールド扉4aが開かないようにロックする(ステップST20)。
以下の動作も、上述の扉枠3a及び電磁シールド扉4aからなる電磁シールド扉構造と同様のため、説明を省略する。
【0040】
以上より、実施の形態1によれば、電磁シールド扉システムを、電磁シールド面で囲まれた電磁シールドルーム1及び前室2へ入退出するために設けられた各開口部に電気的に接合された扉枠3a,3bと、各開口部を物理的及び電磁波的に閉鎖するために導電体で構成された電磁シールド扉4a,4bと、扉枠3a,3bの内周面に設置された複数の電磁石11からなる電磁石層10と、電磁シールド扉4a,4bの外周面に設置され、各開口部の閉鎖時に扉枠3a,3bの電磁石層10に当接する、複数の電磁石11からなる電磁石層10と、扉枠3a,3bの電磁石層10に並べて設置された導電性素材からなる導電性素材層30と、電磁シールド扉4a,4bの電磁石層10に並べて設置され、各開口部の閉鎖時に扉枠3a,3bの導電性素材層30に当接する、導電性素材からなる導電性素材層30と、扉枠3a,3bの電磁石層10及び電磁シールド扉4a,4bの電磁石層10のコイル励磁の極性を電磁シールド扉4a,4bの開閉操作に従って変化させる中央管理端末7とを備えるように構成した。このため、開操作時は電磁石層10の間に反発力を生じさせ、閉操作時は吸着力を生じさせて電磁シールド扉4a,4bの開閉制御を行うことができ、この結果、従来の力学的な押圧機構の場合と比較して開閉操作の負担を大幅に軽減することができる。また、従来の力学的な押圧機構では、構成部品の損耗により当接面に緩みが生じて遮蔽性能が低下してしまうが、本実施の形態1の構成によれば力学的な押圧機構が不要となるので、長期に渡る導電性確保が可能となる。
【0041】
また、実施の形態1によれば、電磁シールド扉4a,4bの各表面及び各裏面にそれぞれ設置された一対の送受信機5a−1,5a−2及び送受信機5b−1,5b−2を備え、中央管理端末7は、一対の送受信機5a−1,5a−2及び送受信機5b−1,5b−2の信号受信レベルが予め設定された閾値を越えた場合に、扉枠3a,3b及び電磁シールド扉4a,4bの各電磁石層10の吸着力を高めるように構成した。このとき、中央管理端末7が、電磁石11のコイル巻き数、印加電流値、及び稼動数のうちの少なくとも1つを変更することにより、扉枠3a,3bの電磁石層10と電磁シールド扉4a,4bの電磁石層10の間の吸着力を調整して導電性素材層30同士を所定の圧力で密着させるように構成にした。このため、導電性素材層30に所要の遮蔽性能を有する電磁シールドラインを保持させることができ、長期に渡る導電性確保が可能となる。
【0042】
また、実施の形態1によれば、電磁石層10の各電磁石11には、永久磁石を内蔵するラッチングソレノイドを用い、中央管理端末7は電磁シールド扉4a,4bが閉じると各電磁石層10の電磁力励起を停止し、導電性素材層30同士の密着状態を永久磁石の吸着力により保持させるように構成した。このため、電磁シールド扉4a,4bと扉枠3a,3bの吸着状態を無通電で保持できるようになり、この結果、消費電流(コスト)の抑制、及びコイル温度上昇に伴う破損の抑制が可能となる。
【0043】
また、実施の形態1によれば、扉枠3a,3bの導電性素材層30に並べて設置され、内部に有する電磁石が導電性素材層30の付着物を誘引するダストポケット層20と、電磁シールド扉4a,4bの導電性素材層30に並べて設置され、内部に有する電磁石が導電性素材層30の付着物を誘引する、開口部の閉鎖時に扉枠3a,3bのダストポケット層20に当接するダストポケット層20とを備え、中央管理端末7は、電磁シールド扉4a,4bが開くと各電磁石層10の電磁力励起を停止すると共に、各ダストポケット層20の電磁石の電磁力を励起するように構成した。このため、従来は保守時にしか行われなかった当接面の清掃を自動化して、当接面に誘引された鉄粉、帯電した埃等、電磁気的密閉性を損なう恐れのある付着物を誘引して除去することができる。この結果、長期に渡る導電性確保が可能となる。
ダストポケット層20内部の電磁石を永久磁石に代えても、又は真空掃除装置を接続するようにしても、同様の効果を奏する。
【0044】
なお、上記実施の形態1では、電磁シールド扉構造を2箇所に設置する例を用いて説明したが、これに限定されるものではなく、設置箇所は1箇所でも3箇所以上であってもよい。なお、3箇所以上設置する場合であっても、インタロック制御盤6は1つの電磁シールド扉が開閉操作に他の電磁シールド扉をロックして、電磁シールドルーム1のシールド状態を常時保持する。
【0045】
また、上記実施の形態1では、扉枠3a,3bと電磁シールド扉4a,4bの電磁力励起を制御する制御部である中央管理端末7を電磁シールドルーム1内に設置したが、これに限定されるものではなく、前室2又は外部に設置してもよい。
【0046】
また、電磁石層10の電磁力解除後のラッチングソレノイドの内蔵永久磁石による吸着力は一定であるが、予備使用電磁石11による電磁石層10の増し締め実行時に発生する高い磁束密度を活用して内蔵永久磁石を励起し、吸着力を高めることで、電磁力解除後の内蔵永久磁石に関しても増し締め効果を図ることができる。
【0047】
また、この増し締めは、電磁シールド扉4a,4bに設置した送受信機5a−1,5a−2,5b−1,5b−2の信号受信レベルが閾値を越えておらず、正常な場合であっても、中央管理端末7により定期的に実行するようにしてもよい。同様に、中央管理端末7が定期的に、予備使用電磁石11のコイルを励起したり、コイル巻き数(接点電極の位置)を増加したり、印加電流を増加したりして、電磁石層10の磁束密度を高めてもよい。このようにして電磁石層10の磁束密度を高めることにより、ラッチングソレノイドの内蔵永久磁石を定期的に励起して、内蔵永久磁石の磁力のメインテナンスを行うことができる。
【0048】
さらに、増し締めパターン、又はメインテナンスパターン(必要な頻度、コイル巻き数、印加電流)は、中央管理端末7が送受信機5a−1,5a−2,5b−1,5b−2の信号受信レベルのモニタリング結果から学習して、判断するようにしてもよい。
【0049】
また、上記実施の形態1,2では導電性素材層30として導電性素材を1層設ける構成にしたが、これに限定されるものではなく、導電性素材層30に加えて、電波吸収素材からなる電波吸収素材層40を追加して、導電性素材層30と電波吸収素材層40からなる複合素材層にしてもよい。この変形例を示す断面図を図9に示す。電波遮断層としての導電性素材層30に、電波吸収層としての電波吸収素材層40を組み合わせることによって、相乗効果により、電磁シールドラインをより確実に生成できる。この電波吸収素材層40の特性は、電磁シールドルーム1の内部に設置された情報機器の設定周波数を参考に設定する。
【0050】
また、上記実施の形態1,2では図4に示すように導電性素材層30を1層設け、また、図9に示す変形例では導電性素材層30を1層と電波吸収素材層40を1層設けたが、これに限定されるものではなく、所望のシールドライン性能に応じて導電性素材層30及び電波吸収素材層40を重層構造にしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 電磁シールドルーム、2 前室、3a,3b 扉枠、4a,4b 電磁シールド扉、5a−1,5a−2,5b−1,5b−2 送受信機、6 インタロック制御盤、7 中央管理端末(制御部)、8a,8b ドアクローザ、9a,9b 開閉ハンドル、10 電磁石層、11 電磁石、12 吸着面、13a マグネットセンサ、14a 電気錠、15a 表示盤、20 ダストポケット層、21 C形断面鋼、22 開口部、30 導電性素材層、40 電波吸収素材層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁シールド面で囲まれた電磁シールドルームへ入退出するために設けられた開口部に電気的に接合された扉枠と、前記開口部を物理的及び電磁波的に閉鎖するために導電体で構成された電磁シールド扉とを備える電磁力開閉式の電磁シールド扉システムにおいて、
前記扉枠の内周面に設置された複数の電磁石からなる電磁石層と、
前記電磁シールド扉の外周面に設置され、前記開口部の閉鎖時に前記扉枠の前記電磁石層に当接する、複数の電磁石からなる電磁石層と、
前記扉枠の前記電磁石層及び前記電磁シールド扉の前記電磁石層のコイル励磁の極性を当該電磁シールド扉の開閉操作に従って変化させる制御部とを備えることを特徴とする電磁力開閉式の電磁シールド扉システム。
【請求項2】
制御部は、電磁シールド扉の開操作時に、扉枠の電磁石層と当該電磁シールド扉の電磁石層の間に反発力を生じさせ、当該電磁シールド扉の閉操作時には吸着力を生じさせることを特徴とする請求項1記載の電磁力開閉式の電磁シールド扉システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−80964(P2013−80964A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−9222(P2013−9222)
【出願日】平成25年1月22日(2013.1.22)
【分割の表示】特願2010−33586(P2010−33586)の分割
【原出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】