説明

電磁波シールドプラスチック成形品

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、電磁波シールドプラスチック成形品に関するものである。さらに詳しくは、電信機器、計算機、計測機器等の電磁波シールド効果に優れ、しかも簡便で、低コスト生産が可能な、高性能電磁波シールドプラスチック成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】従来より、各種の電気・電子機器、通信機器等には、様々な電磁波シールド構造が採用されてきており、このような構造の一つとして、プラスチック成形品の表面に銅、ニッケル、アルミニウム等の薄膜を真空成膜等により配設したものが知られている。
【0003】この従来のものは、たとえば「表面技術」Vol.42、No.1、1991年1月号、p.22〜43にも記載されているように、1)導電性塗料の塗布、2)真空蒸着、3)無電解メッキ、4)片面無電解メッキ、等による成膜構造体が知られている。
【0004】しかしながら、これら従来の電磁波シールドプラスチック成形品の場合には、いずれの方式や構造によるものであっても、依然として充分に満足できる状況になく、改善すべき多くの課題があった。たとえば、1)導電性塗料の塗布の場合には、コスト的に安価であるものの、シールド効果が低く、特に、周波数が500MHz以上ではその効果は急速に低下してしまう。3)無電解メッキによるものは、シールド効果は比較的良好であるものの、外面化粧塗装を省くことができず、コスト高になる。4)片面無電解メッキの場合には、工程が極めて複雑となり、コスト高は著しいという欠点がある。
【0005】一方、2)真空蒸着によるものは、気相成膜としての特徴を有しており、今後の発展が期待されているが、電気回路の小型化、高密度化が進む今日、無電解メッキによるものと同等のシールド特性を得るためには3〜4μmの膜厚のアルミニウム等の成膜が必要とされている。しかしながら、この真空蒸着によるシールド構造においては、3μm厚以上の膜厚にすると柱状構造が著しく成長し、実際には、鉛筆硬度2H以上の強度が必要とされるにもかかわらず、この水準の強度を実現することは極めて困難な状況にある。
【0006】しかもまた、環境信頼性試験、たとえば耐湿試験(65℃×95%RH、168時間)、耐湿水噴霧(JIS Z2371に準拠:5%NaCl溶液、35℃、8時間噴霧、16時間休止のサイクルを4サイクル実施)に耐えられない状況にあり、密着性試験(ASTM D3559−78)においてもクラス3以下になってしまう。
【0007】そして真空蒸着の場合には、導電性塗料の塗布あるいは無電解メッキの場合に比べてはるかに薬液の使用は少ないものの、それでも、蒸着に先立ってプラスチック成形品の表面をフロン等によって洗浄することや、さらにはその表面にプライマーコート層を設けることが欠かせないため、これらの化学品の廃液、廃ガス処理が考慮されねばならないという問題もあった。
【0008】この発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであって、従来の電磁波シールド構造体の欠点を解消し、気相成膜の特徴を生かしつつ、しかも、厚膜シールド構造においても、その付着強度や耐久性、耐水性等の特性に優れ、かつ、生産性も良好で、廃液、廃ガス等の処理負荷も小さい新規な電磁波シールドプラスチック成形品を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】この発明は、上記の課題を解決するものとして、あらかじめ洗浄することなく、フライマーコート層を配設せずにプラスチック成形品表面に高周波励起プラズマによる0.7 〜5.0 μmの膜厚の銅膜を配設し、次いで10〜30μm厚の銅電メッキ膜を配設してなる電磁波シールドプラスチック成形品を提供する。
【0010】また、この発明は、あらかじめ洗浄することなく、プライマーコート層を配設せずにプラスチック成形品表面に高周波励起プラズマによる0.7 〜5.0 μmの膜厚の銅膜を配設し、次いで10〜30μm厚の銅電解メッキ膜を、さらに保護膜を配設してなる電磁波シールドプラスチック成形品をも提供する。この発明の電磁波シールドプラスチック成形品は、各種のプラスチックの射出成形、押出成形、注型成形、あるいはそれらの表面成形したものを含み、その目的、用途に応じて、表面に配設する高周波励起プラズマによる銅の厚みを0.7 〜5.0 μmの適宜なものとする。
【0011】たとえば、16ビットノートパソコン用の成形品の場合には、0.7 μmでよく、32ビットパソコンの場合には3μm以上とすることなどがある。プラスチック成形品は、この発明の場合には、従来のようにフロン洗浄をあらかじめ行う必要は全くない。高周波励起プラズマによる表面ボンバード効果により、成形品に付着している金型油、たとえば摺動油等の洗浄も容易に行われるからである。オゾン層破壊の問題によって、その使用が禁止されるフロン、あるいはその代替品に依存する必要は全くない。
【0012】さらに、従来は真空蒸着に先立って必須とされていたプラスチック成形品表面へのプライマーコート層の配設も必要がない。このプライマーコート層は、プラスチック成形品表面と銅成膜との密着性の向上のために欠かせないものであったが、この発明の電磁波シールドプラスチック成形品の場合には、高周波励起プラズマによるボンバード粗面化効果、および励起イオン種による活性化堆積作用によって、銅の密着強度は充分となる。3μm以上の厚膜においても、プライマーコート層の配設は必要がない。
【0013】高周波励起プラズマによる成膜は、たとえば1×10-4〜1×10-5Torr水準の真空度とした真空室において、高周波電源からの電圧印加によって1×10-4〜1×10-3程度の分圧のアルゴン、ヘリウム等の不活性ガス導入にともなうプラズマ励起によって可能となる。低圧グロー放電プラズマである。成膜材料としての銅は、抵抗加熱、誘導加熱、電子ビーム照射、さらにはホロカソード放電等による適宜な手段で蒸発させることができる。これらの蒸発粒子を高周波励起し、イオン化してプラスチック成形品表面に付着成膜させることになる。
【0014】この高周波励起プラズマについては、これまで公知の技術知識を踏まえつつ、適宜に実施することができる。成膜はバッチ方式、あるいは連続方式のいずれでも可能である。また、この発明においては、このプラズマ蒸着による銅(Cu)成膜の上に、電解メッキにより10〜30μmのより厚膜の銅を配設する。この電解メッキによって、厚膜の銅が容易に形成されることになる。
【0015】この場合、プラスチック物品に、直接電解メッキしようとしても無理であって、化学メッキによる場合でも、密着性の向上は望めない。電解メッキについては、従来公知の手法を採用することができる。さらにまた、この発明では、電解メッキ膜の上に、銅の錆止めのためのNi(ニッケル)等の保護膜を配設することもできる。この保護膜は、耐久性の観点からは必須でもある。電解メッキ、気相蒸着、いずれの方法によって形成してもよい。
【0016】以下、実施例を示し、さらに詳しくこの発明について説明する。
【0017】
【実施例】
実施例1プラスチック射出成形品としての、ABS−PCアロイ材料から成形した自動車電話器の筐体に、フロン洗浄およびプライマーコート層の配設を行うことなく、直接高周波励起プラズマによる銅成膜を行った。
【0018】真空室の到達真空度を5×10-5Torrとし、アルゴンを、2×10-4Torrの分圧として導入し、コイル状高周波励起電極によって生成させたグロープラズマによって銅蒸発粒子の励起とプラスチック射出成形品表面への付着を行った。平面部の銅の膜厚が5μmとなるまで成膜した。次いで電解メッキにより約30μmの銅と、約2μmのニッケルを成膜した。
【0019】得られた電磁波シールドプラスチック成形品の特性は、次の表1の通りであり、非常に良好であった。
【0020】
【表1】


【0021】実施例2ABS樹脂による200×300mmの大きさで、厚み3mmの射出成形試料に対し、フロン洗浄、プライマーコート層の配設を行うことなく、直接、真空室において4μm厚の銅成膜を高周波励起プラズマによって行った。この場合の銅は、電子ビームによって蒸発させた。到達真空度は4×10-5Torrとし、アルゴン分圧は4×10-4Torrとした。
【0022】実施例1と同様にして、電解メッキし、優れた特性の電磁波シールドプラスチック成形品が得られた。
実施例3実施例1において、まず3μm厚の銅を成膜し、次いで20μm厚の電解銅メッキを施した。
【0023】得られた製品は優れた特性を示した。特性試験の結果は、表2の通りであった。
【0024】
【表2】


【0025】
【発明の効果】この発明によって、気相成膜の特徴を生かしつつ、(1)電磁気シールド効果に優れ、(2)厚膜銅の成膜が効率よく可能で、(3)フロン洗浄を行うことなく、プライマーコート層の配設を必要とすることなく、廃液、廃気による汚染を心配することのない電磁気シールドプラスチック成形品が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 あらかじめ洗浄することなく、しかもプライマーコート層を配設せずにプラスチック成形品表面に高周波励起プラズマによる0.7 〜5.0 μmの膜厚の銅膜を配設し、次いで10〜30μm厚の銅電解メッキ膜を配設してなる電磁波シールドプラスチック成形品。
【請求項2】 請求項1の銅電解メッキ膜の上に保護膜を配設してなる電磁波シールドプラスチック成形品。

【特許番号】第2561992号
【登録日】平成8年(1996)9月19日
【発行日】平成8年(1996)12月11日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−298940
【出願日】平成4年(1992)11月9日
【公開番号】特開平6−145396
【公開日】平成6年(1994)5月24日
【出願人】(592188070)中外イングス株式会社 (2)
【上記1名の代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】林 恒徳 (外1名)
【出願人】(000203106)
【参考文献】
【文献】 特開 昭51−130687(JP,A)
【文献】 特開 昭61−246361(JP,A)