説明

電磁波シールド材及びこれを用いた同軸ケーブル並びにその製造方法

【課題】軽量化、細径化、薄型化が可能で、量産性に優れ、繰り返し曲げ耐久性に優れるケーブルなどのシールド材に用いるチューブ状電磁波シールド材を提供する。
【解決手段】ビニル系導電性高分子の前駆体の繊維からなるチューブ状成形体を成形し、そのチューブ状成形体を熱処理し、前記前駆体の繊維を脱離して一般式(2)で示されるビニル系導電性高分子繊維からなるチューブ状電磁波シールド材を形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸ケーブルなどのケーブル状のものに適用可能な電磁波シールド材及びこれを用いた同軸ケーブル並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療機器や電子情報機器などの、軽量化、小型化、および薄型化の要求が高まっており、それらに用いるケーブルにもさらなる細径化が求められている。
【0003】
従来は金属素線を横巻きしたものや、編組したものがケーブルの電磁波シールド材として使用されてきたが、金属素線を細径化することは限界があり、したがってケーブルの軽量化、小型化、および薄型化にも限界があった。
【0004】
そこで、シールド材を金属薄膜で構成したケーブルなどが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0005】
【特許文献1】特許第2929161号公報
【特許文献2】特開2002−203437号公報
【特許文献3】特開2005−330624号公報
【特許文献4】特開平8−96625号公報
【特許文献5】特開昭64−38909号公報
【特許文献6】特開平4−355008号公報
【特許文献7】特開平5−325660号公報
【特許文献8】特開2005−93368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の同軸ケーブルは、ケーブルの細径化の効果は高いものの、製造工程が非常に複雑であるため、製造コストが高くなってしまい、量産性に問題がある。
【0007】
特許文献2に記載のケーブルは、ケーブル外径の細径化の効果は高いものの、絶縁層の表面に直接シールド材(シールド層)として金属めっきを施すものであり、ケーブル端末を接続する際に、シールド材を絶縁層から剥離させることが困難である。また、ケーブルを繰り返し曲げたときに金属めっきが割れるなど、繰り返し曲げ耐久性にも問題があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、軽量化、細径化、薄型化が可能で、量産性に優れ、繰り返し曲げ耐久性に優れるケーブルなどのシールド材に用いるチューブ状電磁波シールド材及びこれを用いた同軸ケーブル並びにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、一般式(1)で示されるビニル系導電性高分子の前駆体の繊維からなるチューブ状成形体を成形し、そのチューブ状成形体を熱処理し、前記前駆体の繊維を脱離して一般式(2)で示されるビニル系導電性高分子繊維からなるチューブ状電磁波シールド材を形成した電磁波シールド材である。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
請求項2の発明は、前記ビニル系導電性高分子繊維にさらにドーパントを添加してチューブ状電磁波シールド材を形成した請求項1記載の電磁波シールド材である。
【0013】
請求項3の発明は、前記ドーパントは硫酸である請求項2記載の電磁波シールド材である。
【0014】
請求項4の発明は、前記ビニル系導電性高分子繊維の直径が数十nm〜数μmである請求項1〜3いずれかに記載の電磁波シールド材である。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1〜4いずれかに記載した電磁波シールド材を外部導体として用いた同軸ケーブルである。
【0016】
請求項6の発明は、一般式(1)で示されるビニル系導電性高分子の前駆体を揮発性溶媒を含む溶液に溶解する工程と、
金属芯線からなるターゲット電極を回転させながら、エレクトロスピニングにより前記ターゲット電極に前記前駆体の繊維を吹き付けてチューブ状成形体を成形する工程と、
そのチューブ状成形体を熱処理することにより、前記前駆体の繊維を脱離して一般式(2)で示されるビニル系導電性高分子繊維からなるチューブ状電磁波シールド材を形成する工程と
を備える電磁波シールド材の製造方法である。
【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
請求項7の発明は、一般式(1)で示されるビニル系導電性高分子の前駆体を揮発性溶媒を含む溶液に溶解する工程と、
溶液側電極とターゲット電極の間に配置した絶縁物被覆線を回転させながら、エレクトロスピニングにより前記絶縁物被覆線に前記前駆体の繊維を吹き付けてチューブ状成形体を成形する工程と、
そのチューブ状成形体を熱処理することにより、前記前駆体の繊維を脱離して一般式(2)で示されるビニル系導電性高分子繊維からなるチューブ状電磁波シールド材を形成する工程と
を備える電磁波シールド材の製造方法である。
【0020】
【化5】

【0021】
【化6】

【0022】
請求項8の発明は、前記熱処理は、真空中あるいは不活性ガス雰囲気中で行う請求項6または7記載の電磁波シールド材の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、軽量化、細径化、薄型化が可能で、容易に製造できるため量産性に優れ、繰り返し曲げ耐久性に優れるケーブルなどのシールド材に用いるチューブ状電磁波シールド材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。
【0025】
図1は、本発明の好適な実施形態を示す電磁波シールド材の斜視図である。
【0026】
図1に示すように、本実施形態に係る電磁波シールド材1は、下記一般式(1)で示されるビニル系導電性高分子の前駆体の繊維からなるチューブ状成形体を成形し、そのチューブ状成形体を熱処理し、前記前駆体の繊維を脱離して下記一般式(2)で示されるビニル系導電性高分子繊維からなるチューブ状電磁波シールド材を形成したものである。
【0027】
【化7】

【0028】
【化8】

【0029】
ここで、ビニル系導電性高分子の前駆体とは、芳香系炭化水素または複素系炭化水素を主鎖に含む高分子化合物のうち、側鎖の脱離によりビニル基を形成するビニル系導電性高分子の前駆体をいう。
【0030】
ビニル系導電性高分子繊維とは、ビニル系導電性高分子の前駆体の側鎖が脱離してビニル基を形成した導電性高分子であって、繊維状のものをいう。
【0031】
より詳細には、R1、R2、X- として、化学式9で示されるものを用いるとよい。
【0032】
【化9】

【0033】
すなわち、R1としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、アズレン、フルオレン、イソチアナフテン、エチレンジオキシチオフエン、ピロール、チオフェン、フラン、セレノフェン、テルロフエン、およびこれらの誘導体から選択された少なくとも1つが挙げられる。中でも、安定性や信頼性が高く、合成も容易なベンゼンが好適である。R1がベンゼンの場合、化学式(2)はポリパラフェニレンビニレン(Poly(p−Phenylenevinylene)、以下PPV)である。
【0034】
R2としては、例えば、ジメチルスルホニウム塩、ジエチルスルホニウム塩、ジプロピルスルホニウム塩、テトラヒドロチオフェニウム塩などのアルキルスルホニウム塩、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基およびこれらの誘導体から選択された少なくとも1つが挙げられる。X- は塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化合物や水酸化物イオンのうち少なくとも1つが挙げられる。中でも合成が容易で信頼性が高いテトラヒドロチオフェニウムクロリドがより好ましい。
【0035】
ビニル系導電性高分子繊維にさらにドーパントを添加してチューブ状電磁波シールド材を形成してもよい。
【0036】
ビニル系導電性高分子繊維にドーパントを添加する操作(ドーピング操作)を行うと、ドーピングを行う前に比較してビニル系導電性高分子繊維の導電率が著しく向上する。このドーピング操作に用いるドーパントは、例えば硫酸、塩酸、リン酸、ヨウ素、臭素、フッ化ヒ素、過塩素酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、パーフルオロスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、およびこれらの誘導体から選択された少なくとも1つが挙げられる。中でも、高い導電性を容易に調整できることから、硫酸が好ましい。
【0037】
ビニル系導電性高分子繊維の直径は、数十nm〜数μmであるとよい。この範囲であれば、電磁波シールド材1を従来よりも薄型化できるからである。
【0038】
ここで、エレクトロスピニングを実施するエレクトロスピニング装置を図2で説明する。
【0039】
エレクトロスピニング(電気紡糸)とは、高い電圧を用いて紡糸を行う方法である。その原理は、高電圧によって原料の溶液表面に電荷が誘発、蓄積する。この電荷は互いに反発し、その反発力は溶液の表面張力に対抗する。電場力が臨界値を超えると、電荷の反発力が表面張力を超え、荷電した溶液のジェットが噴射される。噴射されるジェットは体積に対して表面積が大きいため、溶媒が効率よく蒸発し、また体積の減少により電荷密度が高くなるため、さらに細いジェットへと分裂していく。この過程により、原料の溶液から繊維を製造する方法である。
【0040】
図2に示すように、エレクトロスピニング装置21は、一般式(1)で示されるビニル系導電性高分子の前駆体を含む溶液sを収納するシリンジ22と、シリンジ22の下部に取り付けられ、溶液sを下方に噴射するためのノズル状の溶液側電極23と、溶液側電極23の鉛直下方に対向して設けられ、溶液側電極23から噴射した帯電液滴が吹き付けられる棒状のターゲット電極24と、これら両電極23,24間に高電圧を印加する電圧源25とを備える。
【0041】
この装置21の例では、上方にシリンジ22、その下部に溶液側電極23、その下方にターゲット電極24を配置するため、両電極23,24間に電圧を印加しない場合には、溶液sが重力によって所定量ずつ滴下する。
【0042】
溶液側電極23は、昇降自在かつ水平(図2では左右)方向にスライド自在に設けられる。同様に、ターゲット電極24も、昇降自在かつ水平方向にスライド自在に設けられる。さらにターゲット電極24は、軸回りに回転自在に設けられる。ここでは、電圧源25により、溶液側電極23が正、ターゲット電極24が負となるように電圧を印加する。
【0043】
ターゲット電極24としては、金属芯線からなるものを用いた。ターゲット電極24と電圧源25間の配線は、例えばスリップリングを介して行う。装置21では、電圧源25を用いて両電極23,24間に電圧を印加するが、これに代えて溶液側電極24に溶液sを帯電させる帯電手段を設けると共に、溶液側電極24の下部近傍に帯電液滴を下方に加速する加速電極を設けてもよい。
【0044】
両電極23,24に印加する電圧が低い場合、溶液側電極23から滴下する溶液sの表面張力に打ち勝つことができず溶液sのジェットjを形成しない、あるいはジェットjを形成したとしても液滴の帯電が十分でないため、ターゲット電極24に到達するまでに溶媒が完全に蒸発しないことから、良好なナノないしマイクロ繊維は得られない。これに対し、両電極23,24に印加する電圧が高すぎる場合、帯電した液滴がターゲット電極24に強く速く引かれ、やはり溶媒が十分に揮発する前にターゲット電極24上に到達するため、良好な繊維を形成しない。
【0045】
したがって、ジェットjの安定性や溶媒の揮発性を考慮して、印加電圧を10〜30kVにするのが好ましい。
【0046】
ビニル系導電性高分子繊維の直径サイズは、印加電圧、溶液s中の前駆体と溶媒の濃度、溶液側電極23のノズルの形状、そして両電極23,24間距離を適宜調整することで、任意の径に制御できる。
【0047】
次に、電磁波シールド材1の製造方法を説明する。
【0048】
本実施形態に係る電磁波シールド材1の製造方法は、図2で説明した装置21を用いて行う。より詳細には、
上記一般式(1)で示されるビニル系導電性高分子の前駆体を揮発性溶媒を含む溶液に溶解する工程と、
ターゲット電極24を回転させながら、エレクトロスピニングによりターゲット電極24の外周に前駆体の繊維を吹き付けてチューブ状成形体を成形する工程と、
そのチューブ状成形体を熱処理することにより、前駆体の繊維の脱離基を脱離して上記一般式(2)で示されるビニル系導電性高分子繊維からなるチューブ状電磁波シールド材を形成する工程と
を備える。
【0049】
ビニル系導電性高分子繊維を作製するには、まずビニル系導電性高分子の前駆体を、水、純水、揮発性溶媒、あるいはこれらの混合溶液からなる溶媒に溶融させる。揮発性溶媒としては、例えば、アルコール類、ケトン類、アルデヒド類、ニトリル類、エーテル類、ジメチルホルムアミド類、モノハロゲン化アルキル類からなる群から選ばれる少なくとも1種を混合したものが挙げられる。
【0050】
溶媒として水/メタノール混合溶媒を用いた溶液sにエレクトロスピニングを適用したとき、溶液s中のメタノール含有量が0〜99重量%でナノないしマイクロ繊維を形成できるが、メタノール含有量が低いと前駆体が水を強く保持するため、ターゲット電極24に付着した際に溶媒が残ってしまう。一方、メタノール含有量が多すぎると前駆体の濃度が低すぎるため、繊維を形成しない。
【0051】
したがって、得られる繊維の乾燥状態や生成速度を考慮して、溶液s中のメタノール含有量を40〜90重量%にするのが好ましい。
【0052】
チューブ状成形体を成形する工程は、溶液側電極23あるいはターゲット電極24をスライドしながら行う。
【0053】
熱処理は、真空中あるいは不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。前駆体の繊維を真空中または不活性ガス雰囲気中で熱処理を行うと、側鎖の脱離により、ビニル基を形成するビニル系導電性高分子の繊維となる。しかし前駆体の繊維を大気中において熱処理すると、繊維の熱分解、酸化による劣化等が起こり、その結果、繊維の強度や導電率が低下する。
【0054】
チューブ状成形体を熱処理した後、ターゲット電極24を引き抜くと、図1に示した電磁波シールド材1が得られる。
【0055】
本実施形態の作用を説明する。
【0056】
電磁波シールド材1は、棒状(あるいは角柱状)のターゲット電極24を用いて、ビニル系導電性高分子の前駆体からなるチューブ状成形体を成形し、そのチューブ状成形体を熱処理し、前駆体の繊維を脱離してビニル系導電性高分子繊維からなるチューブ状電磁波シールド材を形成している。
【0057】
従来はターゲット電極が板状であり、ターゲット電極上にはシート状の繊維しか形成できなかったが、棒状のターゲット電極24を用いることで、ターゲット電極24の外周にチューブ状(円筒状あるいは角筒状)の電磁波シールド材が簡単に得られ、従来のシールド材に比べてシールド材の細径化、薄型化が可能である。
【0058】
また、電磁波シールド材1は、ビニル系導電性高分子繊維の集合体で構成されているため、繰り返し曲げ耐久性に優れる。
【0059】
さらに、従来のシールド材が金属からなるのに対し、電磁波シールド材1は金属に代わって導電性高分子繊維を用いているため、シールド材の軽量化も可能となる。
【0060】
本実施形態に係る製造方法によれば、金属芯線からなるターゲット電極24を回転させながらエレクトロスピニングを行うことで、ターゲット電極24の外周にチューブ状の電磁波シールド材1を容易に作製することが可能である。また、ターゲット電極24への変更、交換を行えば、最小限の部品変更、交換で既存のエレクトロスピニング装置を使用できる。
【0061】
図1の電磁波シールド材1を外部導体(シールド層)として用いると、例えば図5に示すような同軸ケーブル51が得られる。この同軸ケーブル51は、素線52を複数本撚り合わせて中心導体53とし、中心導体53の外周に絶縁層54を設け、この絶縁層54の外周に電磁波シールド材1を設け、電磁波シールド材1の外周に外皮55を設けたものである。
【0062】
絶縁層54としては、耐熱性が高いフッ素樹脂(例えばPFA)やシリコーンゴムを用いるとよい。これは、電磁波シールド材1を形成する際に熱処理を行うことから、絶縁層54に加わるダメージをなくすためである。
【0063】
電磁波シールド材1を用いた同軸ケーブル51は、外部導体として金属素線や金属めっきを用いた従来の同軸ケーブルに比べ、軽量化、細径化、薄型化が可能で、容易に製造できるため量産性に優れ、繰り返し曲げ耐久性に優れる。
【0064】
また、電磁波シールド材1は導電性を有する点以外は、高分子材料と同じ特性を有するので、同軸ケーブル51の端末加工性も向上できる。
【0065】
電磁波シールド材1は、同軸ケーブルの外部導体として使用できる。このため、絶縁物被覆線などの円柱状の被噴射対象物を用いてチューブ状に形成してもよい。
【0066】
絶縁物被覆線としては、例えば、図5の同軸ケーブル51を得たい場合、図4に示すような絶縁物被覆線41を用いる。この絶縁物被覆線41は、素線52を複数本撚り合わせて中心導体53とし、中心導体53の外周に絶縁層54を設けてなる。
【0067】
次に、絶縁物被覆線を用いた電磁波シールド材1の製造方法を説明する。
【0068】
この製造方法では図3に示すエレクトロスピニング装置31を用いる。装置31は、金属板からなるターゲット電極34を備え、そのターゲット電極34と溶液側電極23間に、チューブ状の電磁波シールド材1を形成したい絶縁物被覆線41を回転自在かつ長さ方向にスライド自在に配置したものである。装置31のその他の構成は、図2の装置21と同じである。
【0069】
装置31は、詳細は図示していないが、絶縁物被覆線41の両端を把持する把持部と、その把持部を回転させて絶縁物被覆線41を軸回りに回転させる回転手段と、把持部をスライド移動させる移動手段とを備える。
【0070】
絶縁物被覆線を用いた電磁波シールド材1の製造方法は、上記一般式(1)で示されるビニル系導電性高分子の前駆体を揮発性溶媒を含む溶液に溶解する工程と、
溶液側電極23とターゲット電極34の間に配置した絶縁物被覆線41を回転させながら、エレクトロスピニングにより絶縁物被覆線41に前駆体の繊維を吹き付けてチューブ状成形体を成形する工程と、
そのチューブ状成形体を熱処理することにより、前駆体の繊維を脱離して上記一般式(2)で示されるビニル系導電性高分子繊維からなるチューブ状電磁波シールド材を形成する工程と
を備える。
【0071】
チューブ状成形体を成形する工程は、溶液側電極23あるいは絶縁物被覆線41をスライドしながら行う。
【0072】
ビニル系導電性高分子繊維の直径サイズは、印加電圧、溶液s中の前駆体と溶媒の濃度、溶液側電極23のノズルの形状、両電極23,34間距離、そして溶液側電極23と絶縁物被覆線41間距離を適宜調整することで、任意の径に制御できる。
【0073】
装置31を用いる製造方法は、基本的には図2の装置21を用いる製造方法と同様である。
【0074】
絶縁物被覆線41を用いた電磁波シールド材の製造方法によっても、チューブ状の電磁波シールド材が容易に得られる。この方法は、絶縁物被覆線41の外周にチューブ状の電磁波シールド材1が直接形成されるため、特に、同軸ケーブルの外部導体として電磁波シールド材1を用いる場合に有効であり、図5に示したような同軸ケーブル51の簡易な製造が可能となる。
【0075】
ここで、図1の電磁波シールド材1の製造方法で使用するエレクトロスピニング装置の別の一例を説明する。
【0076】
図6に示すエレクトロスピニング装置61は、長尺の電磁波シールド材1の製造に用いられる。この装置61は、図2の装置21の構成に加え、棒状かつ長尺のターゲット電極24の上方に、その長さ方向に沿って、溶液側電極23を下部に取り付けたシリンジ22を複数個(図6では2個)設けたものである。
【0077】
装置61を使用すれば、複数個の溶液側電極23付きシリンジ22により、ターゲット電極24の外周に前駆体の繊維を吹き付けてチューブ状成形体を成形し、その後チューブ状成形体を熱処理することで、長尺の電磁波シールド材1を効率よく、簡単に製造できる。
【0078】
長尺の電磁波シールド材1の製造するには、図7に示すエレクトロスピニング装置71を用いてもよい。この装置71は、図2の装置21の構成に加え、棒状かつ長尺のターゲット電極24を縦(上下)あるいは横(水平)(図7では縦)走行させる走行手段と、ターゲット電極24の両側にその長さ方向に沿って設けられる複数個(図7では2個)の溶液側電極23付きシリンジ22とを備えたものである。
【0079】
この装置71よっても、ターゲット電極24を回転させながら走行させ、複数個の溶液側電極23付きシリンジ22により、ターゲット電極24の外周に前駆体の繊維を吹き付けてチューブ状成形体を成形し、その後チューブ状成形体を熱処理することで、長尺の電磁波シールド材1を効率よく、簡単に製造できる。
【0080】
また、図3の装置31の構成に加え、図6の装置61や図7の装置71と同様のエレクトロスピニング装置を使用することで、絶縁物被覆線41を用いた長尺の電磁波シールド材1を効率よく、簡単に製造できる。
【実施例】
【0081】
(実施例1)
実施例1では、図2の装置21を用いて電磁波シールド材1を作製した。ビニル系導電性高分子の前駆体として、PPVの前駆体である、ポリ(パラキシレンテトラヒドロチオフェニウムクロリド)の2.5%水溶液(アルドリッチ,54076−5)を用いた。このビニル系導電性高分子前駆体の水溶液に揮発性溶媒としてメタノールを60%加えたものを溶液として用いた。
【0082】
金属芯線のターゲット電極24としては直径0.110mmの銅線を用いた。そして、ターゲット電極24を回転速度10rpmで回転させながら、20kVの直流電圧を印加し、電極23,24間距離200mmでエレクトロスピニングを30秒間実施した。結果としてターゲット電極24の外周にチューブ状に厚さ0.010mmのPPV前駆体繊維が積層した。
【0083】
その後、チューブ状PPV前駆体繊維を250℃で8時間、真空状態で熱処理を施し、チューブ状PPV繊維を得た。ターゲット電極24を引き抜き、内径0.110mm、肉厚0.010mmのPPV繊維からなるチューブ状電磁波シールド材1を得た。これを硫酸でドーピングすることで高導電性のチューブ状電磁波シールド材1を得た。
【0084】
得られたチューブ状電磁波シールド材1を、中心導体53として素線径0.020mmの銅線を7本撚り合わせたものを用い、その外周に絶縁層54として厚さ0.025mmのフッ素樹脂(PFA樹脂)を押出し成形してなる絶縁物被覆線41に被せ、その後、厚さ0.025mmのPFA樹脂を外皮55として被せ、外径が0.180mmの同軸ケーブル51を得た。
【0085】
この同軸ケーブル51について端末加工を施した結果、電磁波シールド材1は絶縁物被覆線41から容易に剥離して、簡単に接続ができた。また、同軸ケーブル51に直径1mmの曲げを1000回繰り返したが、電磁波シールド材1の破損は見られなかった。
【0086】
(実施例2)
実施例2では、図3の装置31を用いて電磁波シールド材1を作製した。実施例1と同じビニル系導電性高分子前駆体の水溶液にメタノールを70%加えたものを溶液として用いた。
【0087】
ターゲット電極34としては縦300mm、横300mm、厚さ2mmの銅板を用いた。また、電極23,34の間に配置する絶縁物被覆線41としては、中心導体53として、素線径0.018mmの銅線を7本撚り合わせたものを用い、その外周に厚さ0.028mmのPFA樹脂を押出し成形した外径0.110mmのものを用いた。そして、電極23,34間距離は300mm、溶液側電極23から絶縁物被覆線41までの距離が250mmの状態で、絶縁物被覆線41を回転速度5rpmで回転させながら、20kVの直流電圧を印加しエレクトロスピニングを20秒間実施した。結果として絶縁物被覆線41の外周に0.010mmのPPV前駆体繊維が積層した。
【0088】
その後、220℃で12時間、真空状態で熱処理を施すことで、絶縁物被覆線41の外周にPPV繊維が電磁波シールド材1として施されたものを得た。これを硫酸でドーピングすることで高導電性の電磁波シールド材1とした。その後、厚さ0.025mmのPFA樹脂を外皮55として被せ、外径が0.180mmの同軸ケーブル51を得た。
【0089】
(比較例)
実施例1と同じ絶縁物被覆線41に厚さ0.010mmの銅めっきを施し、その上から、実施例1と同様に厚さ0.02mmのPFA樹脂を外皮として被せることで、外径が0.180mmの同軸ケーブルを得た。
【0090】
この同軸ケーブルについて端末加工を施した結果、シールド材は絶縁物被覆線から剥離することが困難であった。また、直径1mmの曲げを1000回繰り返した結果シールド材に破損が見られた。
【0091】
(従来例)
図5に示すように、実施例2と同じ絶縁物被覆線41に素線径0.020mmの銅線62を横巻きして外部導体とし、その上から、実施例2と同様に0.025mmのPFA樹脂を外皮63として被せることで、外径が0.200mmの図8に示す同軸ケーブル81を得た。
【0092】
この結果、実施例2の同軸ケーブル51の場合、比較例2の同軸ケーブル61と比べて外径を10%小さくでき、また重量も7%軽量化することができた。特に、同軸ケーブル51を数百本束ねた医療用のプローブケーブルに使用した場合には、従来のプローブケーブルに比べて大幅な軽量化、細径化、薄型化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の好適な実施形態を示す電磁波シールド材の斜視図である。
【図2】本発明の好適な実施形態を示す電磁波シールド材の製造方法に用いるエレクトロスピニング装置の概略図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示す電磁波シールド材の製造方法に用いるエレクトロスピニング装置の概略図である。
【図4】絶縁物被覆線の一例を示す横断面図である。
【図5】図1に示した電磁波シールド材を用いた同軸ケーブルの一例を示す横断面図である。
【図6】本発明の好適な実施形態を示す電磁波シールド材の製造方法に用いるエレクトロスピニング装置の一例を示す概略図である。
【図7】本発明の好適な実施形態を示す電磁波シールド材の製造方法に用いるエレクトロスピニング装置の一例を示す概略図である。
【図8】従来の同軸ケーブルの一例を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0094】
1 電磁波シールド材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるビニル系導電性高分子の前駆体の繊維からなるチューブ状成形体を成形し、そのチューブ状成形体を熱処理し、前記前駆体の繊維を脱離して一般式(2)で示されるビニル系導電性高分子繊維からなるチューブ状電磁波シールド材を形成したことを特徴とする電磁波シールド材。
【化1】

【化2】

【請求項2】
前記ビニル系導電性高分子繊維にさらにドーパントを添加してチューブ状電磁波シールド材を形成した請求項1記載の電磁波シールド材。
【請求項3】
前記ドーパントは硫酸である請求項2記載の電磁波シールド材。
【請求項4】
前記ビニル系導電性高分子繊維の直径が数十nm〜数μmである請求項1〜3いずれかに記載の電磁波シールド材。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載した電磁波シールド材を外部導体として用いたことを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項6】
一般式(1)で示されるビニル系導電性高分子の前駆体を揮発性溶媒を含む溶液に溶解する工程と、
金属芯線からなるターゲット電極を回転させながら、エレクトロスピニングにより前記ターゲット電極に前記前駆体の繊維を吹き付けてチューブ状成形体を成形する工程と、
そのチューブ状成形体を熱処理することにより、前記前駆体の繊維を脱離して一般式(2)で示されるビニル系導電性高分子繊維からなるチューブ状電磁波シールド材を形成する工程と
を備えることを特徴とする電磁波シールド材の製造方法。
【化3】

【化4】

【請求項7】
一般式(1)で示されるビニル系導電性高分子の前駆体を揮発性溶媒を含む溶液に溶解する工程と、
溶液側電極とターゲット電極の間に配置した絶縁物被覆線を回転させながら、エレクトロスピニングにより前記絶縁物被覆線に前記前駆体の繊維を吹き付けてチューブ状成形体を成形する工程と、
そのチューブ状成形体を熱処理することにより、前記前駆体の繊維を脱離して一般式(2)で示されるビニル系導電性高分子繊維からなるチューブ状電磁波シールド材を形成する工程と
を備えることを特徴とする電磁波シールド材の製造方法。
【化5】

【化6】

【請求項8】
前記熱処理は、真空中あるいは不活性ガス雰囲気中で行う請求項6または7記載の電磁波シールド材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−78476(P2008−78476A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257425(P2006−257425)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】