電磁波シールド用金属板及び電子機器用筐体
【課題】電子機器の内部で発生した電磁波を外部に漏らさないようにすることを従来よりも確実に実現できる。
【解決手段】電磁波シールド用金属板の接合部分の先端13a及び基端13bから、当該先端から基端までの長さの25[%]以下、好ましくは12.5[%]以下の位置に、対向する電磁波シールド用金属板の導電性の突起物と接触することが可能な複数の有効突起物を並べて配置する。また、電磁波シールド用金属板の接合部分の先端面の方向に、当該接合部分の先端13a又は基端13bから対象となる有効突起物までの距離の4倍以下の間隔となるように略等間隔で有効突起物を配置する。
【解決手段】電磁波シールド用金属板の接合部分の先端13a及び基端13bから、当該先端から基端までの長さの25[%]以下、好ましくは12.5[%]以下の位置に、対向する電磁波シールド用金属板の導電性の突起物と接触することが可能な複数の有効突起物を並べて配置する。また、電磁波シールド用金属板の接合部分の先端面の方向に、当該接合部分の先端13a又は基端13bから対象となる有効突起物までの距離の4倍以下の間隔となるように略等間隔で有効突起物を配置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド用金属板及び電子機器用筐体に関し、特に、電磁波をシールド(遮蔽)するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子機器には、CPU等の電磁波を発生する部品が、その内部に組み込まれている。したがって、電子機器の内部で発生した電磁波を外部に漏らさないようにすることが求められている。このための技術として、特許文献1には、内部の回路から発生する電磁波をシールドする筐体(シールドケース)に、鋼板を用いるようにすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−112147号公報
【特許文献2】特許第3389060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電子機器の筐体は、1枚又は複数枚の金属板を加工して形成される。このため、電子機器の筐体には、金属板の接合部分が生じる。従来の電子機器の筐体では、このような金属板の接合部分があることによって、内部で発生した電磁波を外部に漏らさないようにすることを確実に実現することが困難であるという問題点があった。
また、電磁波のシールド性を良好にする材料については、特許文献2において、良好なアース性が必要との認識のもと、金属表面における被覆面積率で議論されている。しかしながら、特許文献2では、電磁波現象の原理原則に従った議論ではないために、十分な電磁波シールド性能が得られていないのが現状であった。
【0005】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、電子機器の内部で発生した電磁波を外部に漏らさないようにすることを従来よりも確実に実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電磁波シールド用金属板は、電磁波をシールドするための電磁波シールド用金属板であって、前記電磁波シールド用金属板の表面に、導電性の突起物が形成されており、前記金属板の一部は、当該金属板の他の部分、又は当該金属板とは異なる他の金属板の一部と機械的に接合するものであり、前記機械的に接合する前記金属板の一部にある前記突起物は、当該突起物と対向する前記金属板の導電性の部分と、電気的に導電するように接触することが可能である有効突起物を有し、複数の前記有効突起物は、前記金属板の一部が接合する接合領域における先端部及び基端部の少なくとも何れか一方に、当該接合領域の先端面及び基端面の方向に並べられて配置されていることを特徴とする。
本発明の電子機器用筐体は、電磁波シールド用金属板を用いて形成された電子機器用筐体であって、前記電子機器用筐体における前記電磁波シールド用金属板の接合部分に前記有効突起物があることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電磁波シールド用金属板の接合領域における先端部及び基端部の少なくとも何れか一方に複数の有効突起物を並べて配置するようにしたので、当該複数の有効突起物によって、電磁波シールド用金属板に流れる渦電流を捕捉することができる。したがって、電磁波シールド用金属板の接続部分の存在によって、電磁波のシールド効果が低下することを従来よりも防止することができる。よって、電子機器の内部で発生した電磁波を外部に漏らさないようにすることを従来よりも確実に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態を示し、電子機器用筐体の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態を示し、電磁波シールド用金属板の接合部分における電磁場の解析モデルの一例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態を示し、電磁波シールド用金属板の接合部分における電磁場の解析モデルの第1〜第3の具体例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態を示し、電磁波シールド用金属板の接合部分における電磁場の解析モデルの第4〜第6の具体例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態を示し、電磁波シールド用金属板の接合部分における電磁場の解析モデルの第7〜第9の具体例を示す図である。
【図6】本発明の実施形態を示し、電磁波シールド用金属板の接合部分における電磁場の解析モデルの第10の具体例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態を示し、図3(a)に示す解析モデルの全体の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施形態を示し、図3〜図6に示した10個の解析モデルにおける電力減衰率の一例を示す図である。
【図9】本発明の実施形態を示し、図3(a)、図3(b)、図3(c)、図4(a)に示した解析モデルにおける渦電流密度の分布の一例を示す図である。
【図10】本発明の実施形態を示し、第1の調査の結果を踏まえて製造された電磁波シールド用金属板の接合部分の様子の一例を示す図である。
【図11】本発明の実施形態を示し、電磁波シールド用金属板の導電性の突出部を形成する鋼板自体の突起部の一例を示す図である。
【図12】本発明の実施形態を示し、電磁波シールド用金属板の接合部分における電磁場の解析モデルの第11〜第13の具体例を示す図である。
【図13】本発明の実施形態を示し、図12に示した3つの解析モデルにおける電力減衰率と周波数との関係を示す図である。
【図14】本発明の実施形態を示し、有効突起物の密度である接触点密度と漏れ指数との関係の一例を示す図である。
【図15】本発明の実施形態を示し、電磁波シールド用金属板の接合部分における有効突起物の密度と、突起物の密度との関係の一例を示す図である。
【図16】本発明の実施形態を示し、第1の調査の結果と第2の調査の結果とを踏まえて製造された電磁波シールド用金属板の接合部分の様子の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
図1は、電子機器用筐体の一例を示す図である。具体的に図1(a)は、電子機器用筐体の縦断面の一例を示す図である。また、図1(b)は、従来の電子機器用筐体における電磁波シールド用金属板の接合部分(接続部分)の様子を概念的に示す図である。また、図1(c)は、本実施形態の電子機器用筐体における電磁波シールド用金属板の接合部分の様子の一例を示す図である。
【0010】
図1(a)に示すように、電子機器用筐体10は、その内部にあるCPU等の電磁波発生源12の周囲を覆うように、電磁波シールド用金属板11を加工することにより形成される。
また、図1(b)に示すように、従来の電磁波シールド用金属板11は、表面に亜鉛(Zn)等のめっき処理が施された鋼板14と、鋼板14のめっき処理が施された面上に形成された絶縁性の樹脂15とを有しており、電磁波シールド用金属板11の機械的な接合部分13では、上下の電磁波シールド用金属板11の樹脂15が相互に対向している。
【0011】
電子機器用筐体10の内壁面が全て金属板で覆われていれば、電子機器用筐体10の内部にある電磁波発生源12から発生する電磁波が、電子機器用筐体10の外部に漏れることはない。しかしながら、図1(a)に示すように、電子機器用筐体10は、電磁波シールド用金属板11を加工して形成するので、電子機器用筐体10には、電磁波シールド用金属板11の接合部分13(図1(a)の破線で囲われた部分)が生じる。そして、図1(b)に示すように、電磁波シールド用金属板11の接合部分13では、絶縁性の樹脂15が存在する。本願発明者らは、鋭意検討の結果、この接合部分13における絶縁性の樹脂15の存在によって、電子機器用筐体10の内部にある電磁波発生源12から発生する電磁波が、電子機器用筐体10の外部に漏れる現象を解明した。以下に、この現象について説明する。
【0012】
まず、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の上側の樹脂15と下側の樹脂15の厚みの合計が例えば2[μm]であるとする。また、電磁波発生源12の一例であるCPUの動作周波数が1[GHz]であるとする。この場合、電磁波発生源12から発生する電磁波の波長は300[mm]であり、樹脂15の厚みに比べて十分に長い。このため、当該電磁波が接合部分13を通って外部に直接的に漏れることはないと考えられる。
【0013】
しかしながら、図1(b)に示すように、電磁波発生源12から発生する電磁波によって、電界が鋼板14の表面に渦電流16が流れるが、電気絶縁物である樹脂15があるために、鋼板14の接合部分13間には渦電流は流れないで、鋼板14の接合部分13に平行に電流が流れて電子機器用筐体10の外部に渦電流が流れてしまう。電子機器用筐体10の外部に流れた渦電流は、アンペールの法則で電磁波発生源12と同じ周波数を持つ交流の磁界17を電子機器用筐体10の外部に発生させる。交流の磁界17が電子機器用筐体10の外部に発生すると、交流の磁束密度が電子機器用筐体10の外部に発生することになり、レンツの法則により電界が電子機器用筐体10の外部に発生することになる。このようにして、従来の電磁波シールド用金属板11を用いた場合には、電磁波発生源12から発生する電磁波が電子機器用筐体10の外部に間接的に漏れてしまう。
【0014】
本願発明者らは、このようにして今回初めて見出した知見に基づいて鋭意検討をした結果、電磁波シールド用金属板11の接合部分13において、相互に対向する電磁波シールド用金属板11を一定の条件で電気的に相互に接続させることにより、前述したような渦電流16の発生を抑制できることを見出した。
具体的に本実施形態の電磁波シールド用金属板11は、図1(c)に示すように、表面に亜鉛(Zn)等のめっき処理が施された鋼板18と、鋼板18のめっき処理が施された面上に形成された絶縁性の樹脂19とに加え、樹脂19の中に少なくとも一部が含まれる導電体20a〜20lを有している。そして、導電体20a〜20lの一部の領域が樹脂19の表面よりも上方に突出するようにしている。尚、導電体20は、例えば、粒状や角柱状等、種々の形状を有し、更に樹脂19の厚みよりも大きいものやそうでないもの等、種々の大きさを有している。
【0015】
そして、図1(c)に示すように、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の上側にある導電体20と、下側にある導電体20とを物理的に接触させ、接合部分13で相互に対向している電磁波シールド用金属板11を電気的に接続させるようにする。
【0016】
更に、本願発明者らは、導電体20をどのように樹脂19の中に含めるようにすればよいのかを検証するために、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における電磁場を解析した。
図2は、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における電磁場の解析モデルの一例を示す図である。具体的に図2(a)は、解析モデルを俯瞰した図であり、図2(b)は、図2(a)のA−A´部を横から見た断面図である。
図2に示す解析モデル21では、鋼板18に対応する板状の鉄(Fe)22a、22bの間に、樹脂19に対応する樹脂23が配置されており、この樹脂23の中に、導電体20に対応する角柱状の鉄(Fe)26が含まれる。これらの鉄26、樹脂23の特性は、以下の表1に示す通りである。
【0017】
【表1】
【0018】
[第1の検討]
まず、本願発明者らは、図2(a)に示す電界設定面24に、入力電力Winが1.0[W]、周波数が100[MHz]である電磁波を入力したときの、電界放射面25における電力Woutを電磁場解析により求め、求めた結果から、以下の(1)式で表される電力減衰率aを得た。
a=10×log(Wout/Win) ・・・(1)
尚、図2(a)に示す電界設定面24が、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の内側の部分13aの端(電磁波シールド用金属板11の先端)に対応し、電界放射面25が、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の外側の部分13bの端(電磁波シールド用金属板11の基端)13bに対応する。
【0019】
ここでは、図3〜図6に示す10個の解析モデルについて電力減衰率aを得るようにした。図3〜図6は、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における電磁場の解析モデルの第1〜第3、第4〜第6、第7〜第9、第10の具体例を示す図である。
尚、図3〜図6は、図2(a)のB方向(真上)から解析モデルを見た図である。また、図3〜図6では、実際の解析領域の一部を抜き出して示している。図7は、図3(a)に示す解析モデルの全体の一例を示す図である。図7において太線で示す領域700が図3(a)に示されている。このように、図3〜図6に示す各解析モデル21a〜21jは、実際には、紙面の上下方向に、図3〜図6に示すのと同じピッチで、角柱状の鉄(Fe)26が繰り返し存在している。また、本実施形態では、角柱状の鉄26の中心の位置を基点とした最短距離を、長さ(距離や間隔)として表記するようにしている。
【0020】
図3〜図6に示す解析モデル21a〜21jは、2[μm]×2[μm]の上面及び底面を有する4個の角柱状の鉄26q〜26tを配置している。
具体的に図3(a)に示す解析モデル21aでは、電界設定面24から10[μm]の位置に、20[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26rを配置している。また、電界放射面25から10[μm]の位置に、20[μm]の間隔で角柱状の鉄26s、26tを配置している。
【0021】
図3(b)に示す解析モデル21bでは、電界設定面24から5[μm]の位置に、28[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26rを配置している。また、電界放射面25から5[μm]の位置に、30[μm]の間隔で角柱状の鉄26s、26tを配置している。
図3(c)に示す解析モデル21cでは、電界設定面24から15[μm]の位置に、10[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26rを配置している。また、電界放射面25から15[μm]の位置に、10[μm]の間隔で角柱状の鉄26s、26tを配置している。
【0022】
図4(a)に示す解析モデル21dでは、電界設定面24から5[μm]の位置に、110[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26rを配置している。また、電界放射面25から5[μm]の位置に、20[μm]の間隔で角柱状の鉄26s、26tを配置している。
図4(b)に示す解析モデル21eでは、電界設定面24から5[μm]の位置に、30[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26rを配置している。また、電界放射面25から5[μm]の位置に、10[μm]の間隔で角柱状の鉄26s、26tを配置している。
図4(c)に示す解析モデル21fでは、電界設定面24から5[μm]の位置に、20[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26rを配置している。また、電界放射面25から15[μm]の位置に、20[μm]の間隔で角柱状の鉄26s、26tを配置している。
【0023】
図5(a)に示す解析モデル21gでは、電界設定面24から5[μm]の位置に、20[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26rを配置している。また、電界放射面25から25[μm]の位置に、20[μm]の間隔で角柱状の鉄26s、26tを配置している。
図5(b)に示す解析モデル21hでは、電界設定面24から5[μm]の位置に、10[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26r、26s、26tを配置している。
図5(c)に示す解析モデル21iでは、電界放射面25から5[μm]の位置に、20[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26r、26s、26tを配置している。
図6に示す解析モデル21jでは、電界設定面24から5[μm]、15[μm]、25[μm]、35[μm]の位置に角柱状の鉄26q、26r、26s、26tを一列に並べて配置している。
【0024】
図8は、図3〜図6に示した10個の解析モデル21a〜21jにおける電力減衰率aの一例を示す図である。また、図9は、図3(a)、図3(b)、図3(c)、図4(a)に示した解析モデル21a〜21dにおける渦電流密度の分布の一例を示す図である。
図8に示すように、図3(c)に示した解析モデル21cでの電力減衰率aの絶対値が最も小さいことが分かる。また、図9に示すように、図3(c)に示した解析モデル21cにおいて、大きな渦電流が広範囲に亘って発生していることが分かる。
【0025】
このことから、本願発明者らは、図3(c)に示した解析モデル21cのように、角柱状の鉄26q、26r、26s、26tが、電界設定面24、電界放射面25から離れた位置に存在すると、電力減衰率aの絶対値が小さくなるので、角柱状の鉄26q、26r、26s、26tを、電界設定面24及び電界放射面25の少なくとも何れか一方に近づけて配置すれば、電子機器用筐体10の内部で発生した電磁波が電子機器用筐体10の外部に漏洩することを効果的に防止することができるという知見を得た。
具体的に、電界設定面24又は電界放射面25から、電界設定面24と電界放射面25との間の長さ(図3〜図6に示した例では40[μm])の25[%]以下、好ましくは12.5[%]以下の距離に角柱状の鉄26q、26r、26s、26t(すなわち導電体20)を配置すればよいという知見(第1の条件)を得た。
【0026】
また、図8に示すように、図3(a)、図3(b)、図4(a)、図4(b)に示した解析モデル21a、21b、21d、21eでの電力減衰率aの方が、図5(a)、図5(b)、図5(c)に示した解析モデル21g、21h、21iでの電力減衰率aよりも絶対値が大きいことが分かる。
このことから、本願発明者らは、角柱状の鉄26q、26rを電界設定面24に、角柱状の鉄26s、26tを電界放射面25に近づけて配置すれば、電子機器用筐体10の内部で発生した電磁波が電子機器用筐体10の外部に漏洩することをより効果的に防止することができるという知見を得た。
具体的に、電界設定面24及び電界放射面25から、電界設定面24と電界放射面25との間の長さ(図3〜図6に示した例では40[μm])の25[%]以下、好ましくは12.5[%]以下の距離に角柱状の鉄26q、26r、26s、26t(すなわち導電体20)を配置すればよいという知見(第1の条件)を得た。
【0027】
更に、図8に示すように、図4(a)に示した解析モデル21dでの電力減衰率aの方が、図3(b)に示した解析モデル21bでの電力減衰率aよりも絶対値が大きいことが分かる。
このことから、電界設定面24及び電界放射面25の面方向における、角柱状の鉄26q、26r、26s、26tの間隔を等間隔にすれば、電子機器用筐体10の内部で発生した電磁波が電子機器用筐体10の外部に漏洩することをより一層効果的に防止することができるという知見を得た。
具体的に、電界設定面24又は電界放射面25からの距離の8倍以下、好ましくは4倍以下、より好ましくは2倍以下の間隔で、角柱状の鉄26q、26r、26s、26t(すなわち導電体20)を、電界設定面24及び電界放射面25の面方向に等間隔で配置すればよいという知見(第2の条件)を得た。
以上のように、図3〜図6に示した解析モデルでは、前記第1の条件と第2の条件との双方を満足する"図4(a)に示した解析モデル21d"が好ましい解析モデルとなる。
【0028】
図10は、以上のような第1の調査の結果を踏まえて製造された(第1の条件と第2の条件を満たす)電磁波シールド用金属板11の接合部分13の様子の一例を示す図である。具体的に図10(a)は、電磁波シールド用金属板11の接合部分13を真上から見た図である。また、図10(b)は、夫々、図10(a)のA−A´方向から見た断面図である。
前述したように、本実施形態では、絶縁性の樹脂19の中に複数の導電体20を含めるようにし、それら導電体20の中に、一部の領域が樹脂19の表面よりも突出している導電体20が存在するようにしている。
図10に示す例では、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の内側の部分13aに、3個の導電体20m、20n、20oが、当該接合部分13の先端面の方向に略等間隔で配置されている。同様に、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の外側の部分13bにも、3個の導電体20p、20q、20rが、当該接合部分13の先端面の方向に略等間隔で配置されている。ここで、接合部分13にある上下の電磁波シールド用金属板11のうち、下側の電磁波シールド用金属板11については、電磁波シールド用金属板11の接合部分の先端部(基端部)が電磁波シールド用金属板11の接合部分13の内側の部分13a(外側の部分13b)に対応する。一方、上側の電磁波シールド用金属板11については、電磁波シールド用金属板11の接合部分の基端部(先端部)が電磁波シールド用金属板11の接合部分13の内側の部分13a(外側の部分13b)に対応する。
このように、図10に示す例では、これら6個の導電体20m〜20rによって、前述した第1の条件と第2の条件との双方を満足させる導電性の突起物を鋼板18の表面に形成するようにしている。
【0029】
ただし、電磁波シールド用金属板11の接合部分13において、相互に対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突出部を電気的に導電するように物理的に相互に接触させるようにしていれば、必ずしも導電体20同士が物理的に接触していなくてもよい。
図11は、電磁波シールド用金属板11の導電性の突出部を形成する鋼板18自体の突起部の一例を示す図である。
例えば、図11に示すように、電磁波シールド用金属板11の鋼板18の凹凸により鋼板18自体に生じている突起部18a、18bのうち、樹脂19の表面よりも突出している突起部18aが、当該電磁波シールド用金属板11と対向する電磁波シールド用金属板11の導電体20や鋼板18自体に生じている突起部と電気的に導電するように物理的に接触するようにしてもよい。
このように、電磁波シールド用金属板11の接合部分13において、上下の電磁波シールド用金属板11の表面に形成されている導電性の突起物が物理的に相互に接触し、それら上下の電磁波シールド用金属板11が電気的に相互に接続していれば、どのようにして電磁波シールド用金属板11の表面に導電性の突起物を形成してもよい。例えば、鋼板18自体に生じている突起部18aと導電体20との双方が電磁波シールド用金属板11の表面に形成され、それらが導電性の突起物となっていてもよい。
【0030】
本実施形態では、電磁波シールド用金属板11の導電体20や鋼板18自体の突起部18aが、当該電磁波シールド用金属板11と対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物と接触するためには、電磁波シールド用金属板11の導電体20や鋼板18自体の突起部18aが、樹脂19の表面よりも上方に突出していることが最低限の条件となる。この他の条件は、鋼板18・導電体20を構成する材料や、鋼板18自体の突起部18a・導電体20の樹脂19の表面より上方に突出している部分の形状や突出量等により決定される。
つまり、鋼板18の突起物としては、鋼板18自体の凹凸による突起部18aや、導電体20が考えられる。このうち、鋼板の凹凸による突起部18aのように、高さが、樹脂19の厚みより大きい場合には、鋼板18の板面が相互に対向して接触する場合、当該突起部18aは、他の鋼板の突起物(鋼板18自体の凹凸による突起部や導電体20)と物理的に接触することになるので、当該他の鋼板の突起物と物理的に接触可能な突起物といえる。一方、突起部18bは、他の鋼板の突起物(鋼板18自体の凹凸による突起部や導電体20)と物理的に接触することできないので、当該他の鋼板の突起物と物理的に接触不可能な突起物といえる。
また、導電体20の直径が樹脂19の厚みより大きい場合も、鋼板18の板面が相互に対向して接触する場合、導電体20は、他の鋼板の突起物と物理的に接触することになるので、当該他の鋼板の突起物と物理的に接触可能な突起物といえる。
【0031】
このように、突起物が接触することが可能であるか否かは、二枚の鋼板を実際に接触させてみて物理的に接触しているかどうかで判断すべきであるが、目安としては、鋼板18の凹凸による突起部18a、18bの高さ、又は導電体20の直径と樹脂19の厚みとの関係で考えることができる。
実際の樹脂19の厚みは、図11のごとく、空間的に厚くなっているところや薄くなっているところが存在しているために、例えば、断面のSEM(走査型電子顕微鏡)または、表面のSEMにて評価すべきである。SEM観察の結果、鋼板18の凹凸による突起部18a、18b又は導電体20が樹脂19よりも出ているかどうかを見て、接触可能な突起物を判断すべきである。
【0032】
また、2枚の鋼板を実際に接触させてみて、その断面をSEMなどで観察し、接触可能な突起物を判断しても構わない。また、2枚の鋼板を実際に接触させてみて、その電気接触抵抗から、接触可能な突起物を判断しても構わない。
また、鋼板18自体の突起部18a、18bや導電体20により形成される"電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物"の有無は、例えばSEM(走査型電子顕微鏡)等で識別されるものである。例えば、表面粗度が0.05[μm]以上のものを突起物とすることができる。また、導電体20の存在そのものを突起物とすることもできる。また、導電体20の直径が樹脂19の平均厚みの10分の1以上のものを突起物とすることができる。
【0033】
尚、以下の説明では、電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物のうち、当該電磁波シールド用金属板11と対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物と接触することが可能な突起物を、必要に応じて有効突起物と称する。一方、当該電磁波シールド用金属板11と対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物と接触することが不可能な突起物を、必要に応じて無効突起物と称する。
【0034】
[第2の検討]
また、本願発明者らは、図2(a)に示す電界設定面24に、入力電力Winが1.0[W]、周波数が1[MHz]、3[MHz]、10[MHz]、100[MHz]、300[MHz]である電磁波を入力したときの、電界放射面25における電力Woutを電磁場解析により求め、求めた結果から、前記(1)式で表される電力減衰率aと周波数との関係を得た。
【0035】
ここでは、図12に示す3個の解析モデルについて電力減衰率aと周波数との関係をえるようにした。図12は、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における電磁場の解析モデルの第11〜第13の具体例を示す図である。
尚、図12は、図2(a)のB方向(真上)から解析モデルを見た図である。具体的に図12(a)に示す解析モデル21kでは、4[μm]×4[μm]の上面及び底面を有する角柱状の鉄を、樹脂23の中央に1個配置したものである。また、図12(b)に示す解析モデル21bは、2[μm]×2[μm]の上面及び底面を有する4個の角柱状の鉄を、18[μm]間隔で均等に配置したものである。また、図12(c)に示す解析モデル21cは、1[μm]×1[μm]の上面及び底面を有する16個の角柱状の鉄を、9[μm]間隔で均等に配置したものである。
【0036】
図13は、図12に示した3個の解析モデル21k〜21mにおける電力減衰率aと周波数との関係を示す図である。
図13において、グラフ401〜403は、夫々、図12(a)〜図12(c)に示した解析モデル21k〜21mから得られたグラフである。図13に示すように、解析モデル21mにおける電力減衰率aが最も小さい(グラフ403を参照)。したがって、3個の解析モデル21k〜21mの中では、解析モデル21mのように導電体20を配置すれば、電子機器用筐体10の内部で発生した電磁波が電子機器用筐体10の外部に漏洩することを効果的に防止することができるということが分かる。
ここで、図12に示すように、角柱状の鉄の上面及び底面の総面積は3つの解析モデルで同じである。したがって、図12及び図13の結果から、角柱状の鉄を接合部分13全体で出来るだけ分散させて配置することが望ましいということが分かる。また、上面及び底面の総面積が同じである場合には、角柱状の鉄の上面及び底面の面積を出来るだけ小さくして、配置する角柱状の鉄の数を出来るだけ多くすることが望ましいということも分かる。
このように、渦電流を介して電磁波が電子機器用筐体10の外部に漏洩する現象を今回始めて解明したことにより、接合部分13の上面及び底面の接触面積(特許文献2ではこの接触面積を規定している)というよりもむしろ、接合部分13において相互に接触する導電性の接触点の個数が重要であることが判明した。つまり、本願発明者らは、接合部分13の上面及び底面の接触部を、接触点の個数で評価することを今回始めて見出したのである。
【0037】
以上のように本願発明者らは、図12及び図13の結果から、有効突起物を出来るだけ微細にして接合部分13に配置する有効突起物の数を出来るだけ多くすると共に、それら有効突起物を接合部分13全体で出来るだけ分散させて配置することが望ましいという知見を得た。
そこで、本願発明者らは、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における有効突起物の密度と、電磁波発生源12から発生する電磁波が電子機器用筐体10の外部にどれ位漏れるのかを示す漏れ指数との関係を、電磁波解析を行って調査した。漏れ指数としては、例えば、前述した電力減衰率aが挙げられる。
【0038】
図14は、有効突起物の密度(有効突起物の単位面積当たりの個数)である接触点密度と漏れ指数との関係の一例を示す図である。本願発明者らは、図14に示す調査の結果、接触点密度が10[個/mm2]以上1000[個/mm2]未満であれば、漏れ指数の値が実用的な値になり、電磁波の漏れを抑制できるという知見(第3の条件)を得た。また、本願発明者らは、接触点密度が1000[個/mm2]以上であれば、漏れ指数の値が良好になり、電磁波の漏れを十分に抑制できるという知見(第3の条件)を得た。更に、本願発明者らは、接触点密度を1000[個/mm2]よりも大幅に大きくすると、大気中に存在している電磁波と同程度の電磁波しか漏れなくなるという知見も得た。
ここで、図12(a)に示した解析モデルでは、接触点密度nは2500[個/mm2]となり、図12(b)に示した解析モデルでは、接触点密度nは10000[個/mm2]となり、図12(c)に示した解析モデルでは、接触点密度nは40000[個/mm2]となる。
【0039】
また、本願発明者らは、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における有効突起物の密度(接触点密度)と、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における突起物の密度(有効突起物と無効突起物との和の密度)との関係を、電磁波解析を行って調査した。
図15は、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における有効突起物の密度(接触点密度)と、突起物の密度(突起密度)との関係の一例を示す図である。
図15に示すように、接触点密度と突起密度とは概ね正比例の関係にあることが分かる。
そこで、以下の(2)式のように有効突起物の割合αを定義する。
α=接触点密度/突起密度=n/m ・・・(2)
【0040】
前述したように、接触点密度は、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における有効突起物の単位面積当たりの数である。一方、突起密度は、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における有効突起物の単位面積当たりの数と、無効突起物の単位面積当たりの数との和である。したがって、有効突起物の割合αは1よりも小さな値となる。
【0041】
ここで、図10(a)に示すa[mm]×b[mm]の面積を有する接合部分13に存在する有効突起物の数をp[個]とし、当該有効突起物の露出している部分の、樹脂19の表面における断面積をSi[mm2]とする(iは有効突起物を識別する番号)。また、a[mm]×b[mm]の面積を有する接合部分13に存在する無効突起物部の数をq[個]とし、当該無効突起物の露出している部分の、樹脂19の表面における断面積をSj[mm2]とする(jは無効突起物を識別する番号)。そうすると、突起物全体に対する有効突起物の割合αは、以下の(3)式のように表せる。
【0042】
α=p/(p+q) ・・・(3)
尚、以下の説明では、樹脂19の表面における断面積を、必要に応じて単に面積と称する。
そして、本願発明者らは、電磁波解析の結果、有効突起物の割合αが、以下の(4)式の範囲にあれば、電磁波の漏洩を従来よりも低減することができる電磁波シールド用金属板11を製造することができるという知見(第4の条件)を得た。
1/120<α<1/10 ・・・(4)
【0043】
ここで、有効突起物の平均的な大きさと無効突起物の平均的な大きさとが同じであると仮定すると、有効突起物の割合α[−]を以下の(5)式のように近似できる。
α≒ΣSi/(ΣSi+ΣSj) ・・・(5)
(5)式において、ΣSiは有効突起物の面積の総和であり、ΣSjは無効突起物の面積の総和である。しかしながら、多くの場合、有効突起物の平均的な大きさと無効突起物の平均的な大きさは同じではない。したがって、突起物の数と面積とを対応付けるのは困難である。
また、図12(a)、図12(b)、図12(c)に示した解析モデルでは、以下の(6)式のように表される被覆面積率β[−]は、全て0.96になる。
β=1−[(ΣSi+ΣSj)/(a×b)] ・・・(6)
このように、被覆面積率βが同じとなるような解析モデルであっても、図13に示したように、電力減衰率aは大きく異なる。すなわち、被覆面積率β等の面積のパラメータを規定しても、電磁波の漏洩を従来よりも低減する電磁波シールド用金属板11を製造することは困難である。
【0044】
以上のことから、本実施形態では、接触点密度が10[個/mm2]以上、好ましくは1000[個/mm2]以上になるように電磁波シールド用金属板11の表面に突起物を形成して有効突起物を配置することにより、上下の電磁波シールド用金属板11の表面に形成されている導電性の突起物を物理的に相互に接触させ、それら上下の電磁波シールド用金属板11を電気的に相互に接続させることができるようにしている。
【0045】
ここで、接触点密度n(電磁波シールド用金属板11の接合部分13における有効突起物の単位面積当たりの数)ではなく、突起密度m(電磁波シールド用金属板11の接合部分13における突起物(有効突起物+無効突起物)の単位面積当たりの数)を規定して電磁波シールド用金属板11を製造する方が、電磁波シールド用金属板11の製造が容易になる。
前述したように、接触点密度nには、例えば、10[個/mm2]以上、1000[個/mm2]以上であるという条件がある。したがって、前述した(2)式、(4)式より、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における突起密度mが、101[個/mm2]、好ましくは1201[個/mm2]以上、より好ましくは10001[個/mm2]以上、最も好ましくは120001[個/mm2]以上になるように、電磁波シールド用金属板11を形成すればよいことになる。
【0046】
また、電磁波シールド用金属板11の接合部分13だけでなく、電磁波シールド用金属板11の全体を同一の条件で製造した方が、電磁波シールド用金属板11を容易に且つ低価格で製造することができるので好ましい。このようにする場合には、接合部分13以外の領域での外観、耐食性等を考慮し、被覆面積率βが0.7以上、0.99以下になるようにするのが好ましい。そして、このようにした場合、前述した接触点密度nと、被覆面積率βとによって、個々の有効突起物の面積(平均値)を定めることができる。
【0047】
以上のように、第1の調査の結果(第1の条件、第2の条件)だけでなく、第2の調査の結果(第3の条件、第4の条件等)も踏まえて電磁波シールド用金属板11を製造することがより一層好ましいと言える。図16は、以上のような第1の調査の結果と第2の調査の結果とを踏まえて製造された(第1〜第4の条件を満たす)電磁波シールド用金属板11の接合部分13の様子の一例を示す図である。
図16において、実線で示している突起物(鋼板18自体の突起部18dと、導電体20m〜20w、20y)は、有効突起物であり、破線で示している突起物(鋼板18自体の突起部18eと、導電体20x)は、無効突起物である。
【0048】
[電磁波シールド用金属板11の製造方法]
以上のような本実施形態の電磁波シールド用金属板11は、例えば、以下のようにして形成することができる。
まず、溶融亜鉛めっき鋼板を脱脂した後、亜鉛めっきの上にフォトレジスト膜を塗布し、導電体20として残したい部分に合わせたパターンを有するマスクを通してレーザ光を照射する。これにより、導電体20として残したい部分を除いてフォトレジスト膜が除去される。このようにしてフォトレジスト膜が除去されることにより露出した亜鉛めっきをドライエッチング等により除去した後、残りのフォトレジスト膜を除去する。このようにすることによって、導電体20として残したい部分に亜鉛めっきが残る。そして、この亜鉛めっきの間に、ロールコーティングやスプレー塗装等により、エポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂等の樹脂を塗布する。このようにして電磁波シールド用金属板11を形成した場合には、ポリエステル樹脂が樹脂19に対応し、亜鉛めっきの部分が導電体20に対応することになる。
【0049】
また、鋼板18自体に突起部を形成する場合には、例えば、凹部を有するロールで鋼板を圧延して鋼板の表面に突起部を設けた後にめっき処理を行う。また、微細パターンを有するレジストを用いて、鋼板の表面に対して局所的にめっきを行ったり、析出条件の調整により粒状にめっきを析出させる電気めっきを行ったりすることによっても、鋼板18自体に突起部を形成することができる。
このようにした場合には、鋼板18に有効突起物が得られるので、必ずしも樹脂19や導電体20を形成しなくてもよい。ただし、外観や耐食性等を考慮して、樹脂19及び導電体20を形成する場合には、例えば、Niが添加されたポリエステル系樹脂を塗布することで、樹脂19及び導電体20を形成することができる。
尚、前述した電磁波シールド用金属板11の製造方法は一例であり、これら以外の方法で電磁波シールド用金属板11を製造してもよい。
【0050】
以上のように本実施形態では、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の先端及び基端から、当該先端から基端までの長さの25[%]以下、好ましくは12.5[%]以下の位置に、対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物と接触することが可能な複数の有効突起物を並べて配置するようにした。したがって、電磁波シールド用金属板11に発生する渦電流を有効突起物で適切に捕捉することができる。よって、電子機器用筐体10の内部の電磁波発生源12から発生した電磁波が、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の存在によって、電子機器用筐体10の外部に漏れてしまうことを従来よりも確実に防止することができる。
【0051】
また、本実施形態では、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の先端面の方向に、当該接合部分13の先端又は基端から対象となる有効突起物までの距離の8倍以下、好ましくは4倍以下、より好ましくは2倍以下の間隔となるように略等間隔で有効突起物を配置するようにした。したがって、電磁波シールド用金属板11に発生する渦電流を有効突起物でより適切に捕捉することができる。よって、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の存在によって、電子機器用筐体10の外部に漏れてしまうことをより確実に防止することができる。
【0052】
また、本実施形態では、接合部分13において対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物と接触することが可能な有効突起物の単位面積当たりの個数(接触点密度n)を10[個/mm2]以上、好ましくは1000[個/mm2]以上にする。したがって、電磁波シールド用金属板11の接合部分13に存在する有効突起物を分散して配置することができ、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の存在によって、電子機器用筐体10の外部に漏れてしまうことをより一層確実に防止することができる。
【0053】
また、有効突起物の割合αを、1/120<α<1/10の範囲にしたので、電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物の全てを有効突起物にする必要がない。したがって、厳しい製造条件を課すことなく、電磁波の漏洩を従来よりも低減することができる電磁波シールド用金属板11を製造することができる。
【0054】
尚、有効突起物の割合αは、製造条件に寄与するパラメータであるので、有効突起物の割合αを規定せずに、接触点密度nを規定して電磁波シールド用金属板11を製造するようにしてもよい。
また、前述したように、接触点密度nや、有効突起物の割合αを規定する領域は、電磁波シールド用金属板11の接合部分13だけでなく、その他の特定の領域(例えば電磁波シールド用金属板11全体)であってもよい。
また、図1では、1枚の電磁波シールド用金属板11を接続した場合を例に挙げて説明したが、複数枚の電磁波シールド用金属板11を接続するようにしてもよい(すなわち、異なる電磁波シールド用金属板11を接続するようにしてもよい)。このようにした場合、複数枚の電磁波シールド用金属板11の夫々を、前述した条件で製造することになる。
また、鋼板18の代わりに、他の金属板を用いることもできる。また、素地の金属板又は鋼板とは異なる金属で被覆又は鍍金した構造のものを電磁波シールド用金属板11としても構わない。この被覆又は鍍金する素地の金属板又は鋼板とは異なる金属としては、導電性を有する有機物または無機物であっても構わない。
【0055】
また、前述したように、樹脂19、導電体20を形成せずに、電磁波シールド用金属板11の接合部分13において、上下の鋼板18自体の突起部同士を物理的に接触させるようにしてもよい。このように樹脂19、導電体20が形成されていない場合、電磁波シールド用金属板11の鋼板18自体の突起部が、対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突起部と接触することが可能か否かは、例えば、鋼板18を構成する材料や、鋼板18自体の突起部の形状・突出量等により決定される。例えば、表面粗度が1.0[μm]を超える突起部であれば、電磁波シールド用金属板11の鋼板18自体の突起部が、対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突起部と接触することができるとみなすことができる。
【0056】
また、本実施形態では、接合部分13において対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物と接触することが可能な突起物を有効突起物とした場合を例に挙げて説明したが、有効突起物はこのようなものに限定されない。すなわち、接合部分13において対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の部分と接触可能な導電性の突起物であれば、どのような突起物を有効突起物としてもよい。例えば、電磁波シールド用金属板11に形成されている導電性の突起物のうち、当該電磁波シールド用金属板11と対向する"突起物が形成されていない略平らな電磁波シールド用金属板"の表面に形成されている亜鉛めっきと物理的に接触し、当該略平らな電磁波シールド用金属板と電気的に接続する突起物を有効突起物とすることができる。ここで、略平らな電磁波シールド用金属板としては、例えば、JIS B 0601に規定される中心線平均粗さRa75が0.5[μm]以下であり、且つ、JIS B 0610に規定される表面うねりWcaが0.3[μm]以下である電磁波シールド用金属板が挙げられる。
【0057】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0058】
10 電子機器用筐体
11 電磁波シールド用金属板
12 電磁波発生源
19 樹脂
20 導電体
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド用金属板及び電子機器用筐体に関し、特に、電磁波をシールド(遮蔽)するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子機器には、CPU等の電磁波を発生する部品が、その内部に組み込まれている。したがって、電子機器の内部で発生した電磁波を外部に漏らさないようにすることが求められている。このための技術として、特許文献1には、内部の回路から発生する電磁波をシールドする筐体(シールドケース)に、鋼板を用いるようにすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−112147号公報
【特許文献2】特許第3389060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電子機器の筐体は、1枚又は複数枚の金属板を加工して形成される。このため、電子機器の筐体には、金属板の接合部分が生じる。従来の電子機器の筐体では、このような金属板の接合部分があることによって、内部で発生した電磁波を外部に漏らさないようにすることを確実に実現することが困難であるという問題点があった。
また、電磁波のシールド性を良好にする材料については、特許文献2において、良好なアース性が必要との認識のもと、金属表面における被覆面積率で議論されている。しかしながら、特許文献2では、電磁波現象の原理原則に従った議論ではないために、十分な電磁波シールド性能が得られていないのが現状であった。
【0005】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、電子機器の内部で発生した電磁波を外部に漏らさないようにすることを従来よりも確実に実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電磁波シールド用金属板は、電磁波をシールドするための電磁波シールド用金属板であって、前記電磁波シールド用金属板の表面に、導電性の突起物が形成されており、前記金属板の一部は、当該金属板の他の部分、又は当該金属板とは異なる他の金属板の一部と機械的に接合するものであり、前記機械的に接合する前記金属板の一部にある前記突起物は、当該突起物と対向する前記金属板の導電性の部分と、電気的に導電するように接触することが可能である有効突起物を有し、複数の前記有効突起物は、前記金属板の一部が接合する接合領域における先端部及び基端部の少なくとも何れか一方に、当該接合領域の先端面及び基端面の方向に並べられて配置されていることを特徴とする。
本発明の電子機器用筐体は、電磁波シールド用金属板を用いて形成された電子機器用筐体であって、前記電子機器用筐体における前記電磁波シールド用金属板の接合部分に前記有効突起物があることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電磁波シールド用金属板の接合領域における先端部及び基端部の少なくとも何れか一方に複数の有効突起物を並べて配置するようにしたので、当該複数の有効突起物によって、電磁波シールド用金属板に流れる渦電流を捕捉することができる。したがって、電磁波シールド用金属板の接続部分の存在によって、電磁波のシールド効果が低下することを従来よりも防止することができる。よって、電子機器の内部で発生した電磁波を外部に漏らさないようにすることを従来よりも確実に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態を示し、電子機器用筐体の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態を示し、電磁波シールド用金属板の接合部分における電磁場の解析モデルの一例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態を示し、電磁波シールド用金属板の接合部分における電磁場の解析モデルの第1〜第3の具体例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態を示し、電磁波シールド用金属板の接合部分における電磁場の解析モデルの第4〜第6の具体例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態を示し、電磁波シールド用金属板の接合部分における電磁場の解析モデルの第7〜第9の具体例を示す図である。
【図6】本発明の実施形態を示し、電磁波シールド用金属板の接合部分における電磁場の解析モデルの第10の具体例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態を示し、図3(a)に示す解析モデルの全体の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施形態を示し、図3〜図6に示した10個の解析モデルにおける電力減衰率の一例を示す図である。
【図9】本発明の実施形態を示し、図3(a)、図3(b)、図3(c)、図4(a)に示した解析モデルにおける渦電流密度の分布の一例を示す図である。
【図10】本発明の実施形態を示し、第1の調査の結果を踏まえて製造された電磁波シールド用金属板の接合部分の様子の一例を示す図である。
【図11】本発明の実施形態を示し、電磁波シールド用金属板の導電性の突出部を形成する鋼板自体の突起部の一例を示す図である。
【図12】本発明の実施形態を示し、電磁波シールド用金属板の接合部分における電磁場の解析モデルの第11〜第13の具体例を示す図である。
【図13】本発明の実施形態を示し、図12に示した3つの解析モデルにおける電力減衰率と周波数との関係を示す図である。
【図14】本発明の実施形態を示し、有効突起物の密度である接触点密度と漏れ指数との関係の一例を示す図である。
【図15】本発明の実施形態を示し、電磁波シールド用金属板の接合部分における有効突起物の密度と、突起物の密度との関係の一例を示す図である。
【図16】本発明の実施形態を示し、第1の調査の結果と第2の調査の結果とを踏まえて製造された電磁波シールド用金属板の接合部分の様子の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
図1は、電子機器用筐体の一例を示す図である。具体的に図1(a)は、電子機器用筐体の縦断面の一例を示す図である。また、図1(b)は、従来の電子機器用筐体における電磁波シールド用金属板の接合部分(接続部分)の様子を概念的に示す図である。また、図1(c)は、本実施形態の電子機器用筐体における電磁波シールド用金属板の接合部分の様子の一例を示す図である。
【0010】
図1(a)に示すように、電子機器用筐体10は、その内部にあるCPU等の電磁波発生源12の周囲を覆うように、電磁波シールド用金属板11を加工することにより形成される。
また、図1(b)に示すように、従来の電磁波シールド用金属板11は、表面に亜鉛(Zn)等のめっき処理が施された鋼板14と、鋼板14のめっき処理が施された面上に形成された絶縁性の樹脂15とを有しており、電磁波シールド用金属板11の機械的な接合部分13では、上下の電磁波シールド用金属板11の樹脂15が相互に対向している。
【0011】
電子機器用筐体10の内壁面が全て金属板で覆われていれば、電子機器用筐体10の内部にある電磁波発生源12から発生する電磁波が、電子機器用筐体10の外部に漏れることはない。しかしながら、図1(a)に示すように、電子機器用筐体10は、電磁波シールド用金属板11を加工して形成するので、電子機器用筐体10には、電磁波シールド用金属板11の接合部分13(図1(a)の破線で囲われた部分)が生じる。そして、図1(b)に示すように、電磁波シールド用金属板11の接合部分13では、絶縁性の樹脂15が存在する。本願発明者らは、鋭意検討の結果、この接合部分13における絶縁性の樹脂15の存在によって、電子機器用筐体10の内部にある電磁波発生源12から発生する電磁波が、電子機器用筐体10の外部に漏れる現象を解明した。以下に、この現象について説明する。
【0012】
まず、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の上側の樹脂15と下側の樹脂15の厚みの合計が例えば2[μm]であるとする。また、電磁波発生源12の一例であるCPUの動作周波数が1[GHz]であるとする。この場合、電磁波発生源12から発生する電磁波の波長は300[mm]であり、樹脂15の厚みに比べて十分に長い。このため、当該電磁波が接合部分13を通って外部に直接的に漏れることはないと考えられる。
【0013】
しかしながら、図1(b)に示すように、電磁波発生源12から発生する電磁波によって、電界が鋼板14の表面に渦電流16が流れるが、電気絶縁物である樹脂15があるために、鋼板14の接合部分13間には渦電流は流れないで、鋼板14の接合部分13に平行に電流が流れて電子機器用筐体10の外部に渦電流が流れてしまう。電子機器用筐体10の外部に流れた渦電流は、アンペールの法則で電磁波発生源12と同じ周波数を持つ交流の磁界17を電子機器用筐体10の外部に発生させる。交流の磁界17が電子機器用筐体10の外部に発生すると、交流の磁束密度が電子機器用筐体10の外部に発生することになり、レンツの法則により電界が電子機器用筐体10の外部に発生することになる。このようにして、従来の電磁波シールド用金属板11を用いた場合には、電磁波発生源12から発生する電磁波が電子機器用筐体10の外部に間接的に漏れてしまう。
【0014】
本願発明者らは、このようにして今回初めて見出した知見に基づいて鋭意検討をした結果、電磁波シールド用金属板11の接合部分13において、相互に対向する電磁波シールド用金属板11を一定の条件で電気的に相互に接続させることにより、前述したような渦電流16の発生を抑制できることを見出した。
具体的に本実施形態の電磁波シールド用金属板11は、図1(c)に示すように、表面に亜鉛(Zn)等のめっき処理が施された鋼板18と、鋼板18のめっき処理が施された面上に形成された絶縁性の樹脂19とに加え、樹脂19の中に少なくとも一部が含まれる導電体20a〜20lを有している。そして、導電体20a〜20lの一部の領域が樹脂19の表面よりも上方に突出するようにしている。尚、導電体20は、例えば、粒状や角柱状等、種々の形状を有し、更に樹脂19の厚みよりも大きいものやそうでないもの等、種々の大きさを有している。
【0015】
そして、図1(c)に示すように、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の上側にある導電体20と、下側にある導電体20とを物理的に接触させ、接合部分13で相互に対向している電磁波シールド用金属板11を電気的に接続させるようにする。
【0016】
更に、本願発明者らは、導電体20をどのように樹脂19の中に含めるようにすればよいのかを検証するために、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における電磁場を解析した。
図2は、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における電磁場の解析モデルの一例を示す図である。具体的に図2(a)は、解析モデルを俯瞰した図であり、図2(b)は、図2(a)のA−A´部を横から見た断面図である。
図2に示す解析モデル21では、鋼板18に対応する板状の鉄(Fe)22a、22bの間に、樹脂19に対応する樹脂23が配置されており、この樹脂23の中に、導電体20に対応する角柱状の鉄(Fe)26が含まれる。これらの鉄26、樹脂23の特性は、以下の表1に示す通りである。
【0017】
【表1】
【0018】
[第1の検討]
まず、本願発明者らは、図2(a)に示す電界設定面24に、入力電力Winが1.0[W]、周波数が100[MHz]である電磁波を入力したときの、電界放射面25における電力Woutを電磁場解析により求め、求めた結果から、以下の(1)式で表される電力減衰率aを得た。
a=10×log(Wout/Win) ・・・(1)
尚、図2(a)に示す電界設定面24が、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の内側の部分13aの端(電磁波シールド用金属板11の先端)に対応し、電界放射面25が、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の外側の部分13bの端(電磁波シールド用金属板11の基端)13bに対応する。
【0019】
ここでは、図3〜図6に示す10個の解析モデルについて電力減衰率aを得るようにした。図3〜図6は、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における電磁場の解析モデルの第1〜第3、第4〜第6、第7〜第9、第10の具体例を示す図である。
尚、図3〜図6は、図2(a)のB方向(真上)から解析モデルを見た図である。また、図3〜図6では、実際の解析領域の一部を抜き出して示している。図7は、図3(a)に示す解析モデルの全体の一例を示す図である。図7において太線で示す領域700が図3(a)に示されている。このように、図3〜図6に示す各解析モデル21a〜21jは、実際には、紙面の上下方向に、図3〜図6に示すのと同じピッチで、角柱状の鉄(Fe)26が繰り返し存在している。また、本実施形態では、角柱状の鉄26の中心の位置を基点とした最短距離を、長さ(距離や間隔)として表記するようにしている。
【0020】
図3〜図6に示す解析モデル21a〜21jは、2[μm]×2[μm]の上面及び底面を有する4個の角柱状の鉄26q〜26tを配置している。
具体的に図3(a)に示す解析モデル21aでは、電界設定面24から10[μm]の位置に、20[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26rを配置している。また、電界放射面25から10[μm]の位置に、20[μm]の間隔で角柱状の鉄26s、26tを配置している。
【0021】
図3(b)に示す解析モデル21bでは、電界設定面24から5[μm]の位置に、28[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26rを配置している。また、電界放射面25から5[μm]の位置に、30[μm]の間隔で角柱状の鉄26s、26tを配置している。
図3(c)に示す解析モデル21cでは、電界設定面24から15[μm]の位置に、10[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26rを配置している。また、電界放射面25から15[μm]の位置に、10[μm]の間隔で角柱状の鉄26s、26tを配置している。
【0022】
図4(a)に示す解析モデル21dでは、電界設定面24から5[μm]の位置に、110[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26rを配置している。また、電界放射面25から5[μm]の位置に、20[μm]の間隔で角柱状の鉄26s、26tを配置している。
図4(b)に示す解析モデル21eでは、電界設定面24から5[μm]の位置に、30[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26rを配置している。また、電界放射面25から5[μm]の位置に、10[μm]の間隔で角柱状の鉄26s、26tを配置している。
図4(c)に示す解析モデル21fでは、電界設定面24から5[μm]の位置に、20[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26rを配置している。また、電界放射面25から15[μm]の位置に、20[μm]の間隔で角柱状の鉄26s、26tを配置している。
【0023】
図5(a)に示す解析モデル21gでは、電界設定面24から5[μm]の位置に、20[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26rを配置している。また、電界放射面25から25[μm]の位置に、20[μm]の間隔で角柱状の鉄26s、26tを配置している。
図5(b)に示す解析モデル21hでは、電界設定面24から5[μm]の位置に、10[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26r、26s、26tを配置している。
図5(c)に示す解析モデル21iでは、電界放射面25から5[μm]の位置に、20[μm]の間隔で角柱状の鉄26q、26r、26s、26tを配置している。
図6に示す解析モデル21jでは、電界設定面24から5[μm]、15[μm]、25[μm]、35[μm]の位置に角柱状の鉄26q、26r、26s、26tを一列に並べて配置している。
【0024】
図8は、図3〜図6に示した10個の解析モデル21a〜21jにおける電力減衰率aの一例を示す図である。また、図9は、図3(a)、図3(b)、図3(c)、図4(a)に示した解析モデル21a〜21dにおける渦電流密度の分布の一例を示す図である。
図8に示すように、図3(c)に示した解析モデル21cでの電力減衰率aの絶対値が最も小さいことが分かる。また、図9に示すように、図3(c)に示した解析モデル21cにおいて、大きな渦電流が広範囲に亘って発生していることが分かる。
【0025】
このことから、本願発明者らは、図3(c)に示した解析モデル21cのように、角柱状の鉄26q、26r、26s、26tが、電界設定面24、電界放射面25から離れた位置に存在すると、電力減衰率aの絶対値が小さくなるので、角柱状の鉄26q、26r、26s、26tを、電界設定面24及び電界放射面25の少なくとも何れか一方に近づけて配置すれば、電子機器用筐体10の内部で発生した電磁波が電子機器用筐体10の外部に漏洩することを効果的に防止することができるという知見を得た。
具体的に、電界設定面24又は電界放射面25から、電界設定面24と電界放射面25との間の長さ(図3〜図6に示した例では40[μm])の25[%]以下、好ましくは12.5[%]以下の距離に角柱状の鉄26q、26r、26s、26t(すなわち導電体20)を配置すればよいという知見(第1の条件)を得た。
【0026】
また、図8に示すように、図3(a)、図3(b)、図4(a)、図4(b)に示した解析モデル21a、21b、21d、21eでの電力減衰率aの方が、図5(a)、図5(b)、図5(c)に示した解析モデル21g、21h、21iでの電力減衰率aよりも絶対値が大きいことが分かる。
このことから、本願発明者らは、角柱状の鉄26q、26rを電界設定面24に、角柱状の鉄26s、26tを電界放射面25に近づけて配置すれば、電子機器用筐体10の内部で発生した電磁波が電子機器用筐体10の外部に漏洩することをより効果的に防止することができるという知見を得た。
具体的に、電界設定面24及び電界放射面25から、電界設定面24と電界放射面25との間の長さ(図3〜図6に示した例では40[μm])の25[%]以下、好ましくは12.5[%]以下の距離に角柱状の鉄26q、26r、26s、26t(すなわち導電体20)を配置すればよいという知見(第1の条件)を得た。
【0027】
更に、図8に示すように、図4(a)に示した解析モデル21dでの電力減衰率aの方が、図3(b)に示した解析モデル21bでの電力減衰率aよりも絶対値が大きいことが分かる。
このことから、電界設定面24及び電界放射面25の面方向における、角柱状の鉄26q、26r、26s、26tの間隔を等間隔にすれば、電子機器用筐体10の内部で発生した電磁波が電子機器用筐体10の外部に漏洩することをより一層効果的に防止することができるという知見を得た。
具体的に、電界設定面24又は電界放射面25からの距離の8倍以下、好ましくは4倍以下、より好ましくは2倍以下の間隔で、角柱状の鉄26q、26r、26s、26t(すなわち導電体20)を、電界設定面24及び電界放射面25の面方向に等間隔で配置すればよいという知見(第2の条件)を得た。
以上のように、図3〜図6に示した解析モデルでは、前記第1の条件と第2の条件との双方を満足する"図4(a)に示した解析モデル21d"が好ましい解析モデルとなる。
【0028】
図10は、以上のような第1の調査の結果を踏まえて製造された(第1の条件と第2の条件を満たす)電磁波シールド用金属板11の接合部分13の様子の一例を示す図である。具体的に図10(a)は、電磁波シールド用金属板11の接合部分13を真上から見た図である。また、図10(b)は、夫々、図10(a)のA−A´方向から見た断面図である。
前述したように、本実施形態では、絶縁性の樹脂19の中に複数の導電体20を含めるようにし、それら導電体20の中に、一部の領域が樹脂19の表面よりも突出している導電体20が存在するようにしている。
図10に示す例では、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の内側の部分13aに、3個の導電体20m、20n、20oが、当該接合部分13の先端面の方向に略等間隔で配置されている。同様に、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の外側の部分13bにも、3個の導電体20p、20q、20rが、当該接合部分13の先端面の方向に略等間隔で配置されている。ここで、接合部分13にある上下の電磁波シールド用金属板11のうち、下側の電磁波シールド用金属板11については、電磁波シールド用金属板11の接合部分の先端部(基端部)が電磁波シールド用金属板11の接合部分13の内側の部分13a(外側の部分13b)に対応する。一方、上側の電磁波シールド用金属板11については、電磁波シールド用金属板11の接合部分の基端部(先端部)が電磁波シールド用金属板11の接合部分13の内側の部分13a(外側の部分13b)に対応する。
このように、図10に示す例では、これら6個の導電体20m〜20rによって、前述した第1の条件と第2の条件との双方を満足させる導電性の突起物を鋼板18の表面に形成するようにしている。
【0029】
ただし、電磁波シールド用金属板11の接合部分13において、相互に対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突出部を電気的に導電するように物理的に相互に接触させるようにしていれば、必ずしも導電体20同士が物理的に接触していなくてもよい。
図11は、電磁波シールド用金属板11の導電性の突出部を形成する鋼板18自体の突起部の一例を示す図である。
例えば、図11に示すように、電磁波シールド用金属板11の鋼板18の凹凸により鋼板18自体に生じている突起部18a、18bのうち、樹脂19の表面よりも突出している突起部18aが、当該電磁波シールド用金属板11と対向する電磁波シールド用金属板11の導電体20や鋼板18自体に生じている突起部と電気的に導電するように物理的に接触するようにしてもよい。
このように、電磁波シールド用金属板11の接合部分13において、上下の電磁波シールド用金属板11の表面に形成されている導電性の突起物が物理的に相互に接触し、それら上下の電磁波シールド用金属板11が電気的に相互に接続していれば、どのようにして電磁波シールド用金属板11の表面に導電性の突起物を形成してもよい。例えば、鋼板18自体に生じている突起部18aと導電体20との双方が電磁波シールド用金属板11の表面に形成され、それらが導電性の突起物となっていてもよい。
【0030】
本実施形態では、電磁波シールド用金属板11の導電体20や鋼板18自体の突起部18aが、当該電磁波シールド用金属板11と対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物と接触するためには、電磁波シールド用金属板11の導電体20や鋼板18自体の突起部18aが、樹脂19の表面よりも上方に突出していることが最低限の条件となる。この他の条件は、鋼板18・導電体20を構成する材料や、鋼板18自体の突起部18a・導電体20の樹脂19の表面より上方に突出している部分の形状や突出量等により決定される。
つまり、鋼板18の突起物としては、鋼板18自体の凹凸による突起部18aや、導電体20が考えられる。このうち、鋼板の凹凸による突起部18aのように、高さが、樹脂19の厚みより大きい場合には、鋼板18の板面が相互に対向して接触する場合、当該突起部18aは、他の鋼板の突起物(鋼板18自体の凹凸による突起部や導電体20)と物理的に接触することになるので、当該他の鋼板の突起物と物理的に接触可能な突起物といえる。一方、突起部18bは、他の鋼板の突起物(鋼板18自体の凹凸による突起部や導電体20)と物理的に接触することできないので、当該他の鋼板の突起物と物理的に接触不可能な突起物といえる。
また、導電体20の直径が樹脂19の厚みより大きい場合も、鋼板18の板面が相互に対向して接触する場合、導電体20は、他の鋼板の突起物と物理的に接触することになるので、当該他の鋼板の突起物と物理的に接触可能な突起物といえる。
【0031】
このように、突起物が接触することが可能であるか否かは、二枚の鋼板を実際に接触させてみて物理的に接触しているかどうかで判断すべきであるが、目安としては、鋼板18の凹凸による突起部18a、18bの高さ、又は導電体20の直径と樹脂19の厚みとの関係で考えることができる。
実際の樹脂19の厚みは、図11のごとく、空間的に厚くなっているところや薄くなっているところが存在しているために、例えば、断面のSEM(走査型電子顕微鏡)または、表面のSEMにて評価すべきである。SEM観察の結果、鋼板18の凹凸による突起部18a、18b又は導電体20が樹脂19よりも出ているかどうかを見て、接触可能な突起物を判断すべきである。
【0032】
また、2枚の鋼板を実際に接触させてみて、その断面をSEMなどで観察し、接触可能な突起物を判断しても構わない。また、2枚の鋼板を実際に接触させてみて、その電気接触抵抗から、接触可能な突起物を判断しても構わない。
また、鋼板18自体の突起部18a、18bや導電体20により形成される"電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物"の有無は、例えばSEM(走査型電子顕微鏡)等で識別されるものである。例えば、表面粗度が0.05[μm]以上のものを突起物とすることができる。また、導電体20の存在そのものを突起物とすることもできる。また、導電体20の直径が樹脂19の平均厚みの10分の1以上のものを突起物とすることができる。
【0033】
尚、以下の説明では、電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物のうち、当該電磁波シールド用金属板11と対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物と接触することが可能な突起物を、必要に応じて有効突起物と称する。一方、当該電磁波シールド用金属板11と対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物と接触することが不可能な突起物を、必要に応じて無効突起物と称する。
【0034】
[第2の検討]
また、本願発明者らは、図2(a)に示す電界設定面24に、入力電力Winが1.0[W]、周波数が1[MHz]、3[MHz]、10[MHz]、100[MHz]、300[MHz]である電磁波を入力したときの、電界放射面25における電力Woutを電磁場解析により求め、求めた結果から、前記(1)式で表される電力減衰率aと周波数との関係を得た。
【0035】
ここでは、図12に示す3個の解析モデルについて電力減衰率aと周波数との関係をえるようにした。図12は、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における電磁場の解析モデルの第11〜第13の具体例を示す図である。
尚、図12は、図2(a)のB方向(真上)から解析モデルを見た図である。具体的に図12(a)に示す解析モデル21kでは、4[μm]×4[μm]の上面及び底面を有する角柱状の鉄を、樹脂23の中央に1個配置したものである。また、図12(b)に示す解析モデル21bは、2[μm]×2[μm]の上面及び底面を有する4個の角柱状の鉄を、18[μm]間隔で均等に配置したものである。また、図12(c)に示す解析モデル21cは、1[μm]×1[μm]の上面及び底面を有する16個の角柱状の鉄を、9[μm]間隔で均等に配置したものである。
【0036】
図13は、図12に示した3個の解析モデル21k〜21mにおける電力減衰率aと周波数との関係を示す図である。
図13において、グラフ401〜403は、夫々、図12(a)〜図12(c)に示した解析モデル21k〜21mから得られたグラフである。図13に示すように、解析モデル21mにおける電力減衰率aが最も小さい(グラフ403を参照)。したがって、3個の解析モデル21k〜21mの中では、解析モデル21mのように導電体20を配置すれば、電子機器用筐体10の内部で発生した電磁波が電子機器用筐体10の外部に漏洩することを効果的に防止することができるということが分かる。
ここで、図12に示すように、角柱状の鉄の上面及び底面の総面積は3つの解析モデルで同じである。したがって、図12及び図13の結果から、角柱状の鉄を接合部分13全体で出来るだけ分散させて配置することが望ましいということが分かる。また、上面及び底面の総面積が同じである場合には、角柱状の鉄の上面及び底面の面積を出来るだけ小さくして、配置する角柱状の鉄の数を出来るだけ多くすることが望ましいということも分かる。
このように、渦電流を介して電磁波が電子機器用筐体10の外部に漏洩する現象を今回始めて解明したことにより、接合部分13の上面及び底面の接触面積(特許文献2ではこの接触面積を規定している)というよりもむしろ、接合部分13において相互に接触する導電性の接触点の個数が重要であることが判明した。つまり、本願発明者らは、接合部分13の上面及び底面の接触部を、接触点の個数で評価することを今回始めて見出したのである。
【0037】
以上のように本願発明者らは、図12及び図13の結果から、有効突起物を出来るだけ微細にして接合部分13に配置する有効突起物の数を出来るだけ多くすると共に、それら有効突起物を接合部分13全体で出来るだけ分散させて配置することが望ましいという知見を得た。
そこで、本願発明者らは、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における有効突起物の密度と、電磁波発生源12から発生する電磁波が電子機器用筐体10の外部にどれ位漏れるのかを示す漏れ指数との関係を、電磁波解析を行って調査した。漏れ指数としては、例えば、前述した電力減衰率aが挙げられる。
【0038】
図14は、有効突起物の密度(有効突起物の単位面積当たりの個数)である接触点密度と漏れ指数との関係の一例を示す図である。本願発明者らは、図14に示す調査の結果、接触点密度が10[個/mm2]以上1000[個/mm2]未満であれば、漏れ指数の値が実用的な値になり、電磁波の漏れを抑制できるという知見(第3の条件)を得た。また、本願発明者らは、接触点密度が1000[個/mm2]以上であれば、漏れ指数の値が良好になり、電磁波の漏れを十分に抑制できるという知見(第3の条件)を得た。更に、本願発明者らは、接触点密度を1000[個/mm2]よりも大幅に大きくすると、大気中に存在している電磁波と同程度の電磁波しか漏れなくなるという知見も得た。
ここで、図12(a)に示した解析モデルでは、接触点密度nは2500[個/mm2]となり、図12(b)に示した解析モデルでは、接触点密度nは10000[個/mm2]となり、図12(c)に示した解析モデルでは、接触点密度nは40000[個/mm2]となる。
【0039】
また、本願発明者らは、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における有効突起物の密度(接触点密度)と、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における突起物の密度(有効突起物と無効突起物との和の密度)との関係を、電磁波解析を行って調査した。
図15は、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における有効突起物の密度(接触点密度)と、突起物の密度(突起密度)との関係の一例を示す図である。
図15に示すように、接触点密度と突起密度とは概ね正比例の関係にあることが分かる。
そこで、以下の(2)式のように有効突起物の割合αを定義する。
α=接触点密度/突起密度=n/m ・・・(2)
【0040】
前述したように、接触点密度は、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における有効突起物の単位面積当たりの数である。一方、突起密度は、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における有効突起物の単位面積当たりの数と、無効突起物の単位面積当たりの数との和である。したがって、有効突起物の割合αは1よりも小さな値となる。
【0041】
ここで、図10(a)に示すa[mm]×b[mm]の面積を有する接合部分13に存在する有効突起物の数をp[個]とし、当該有効突起物の露出している部分の、樹脂19の表面における断面積をSi[mm2]とする(iは有効突起物を識別する番号)。また、a[mm]×b[mm]の面積を有する接合部分13に存在する無効突起物部の数をq[個]とし、当該無効突起物の露出している部分の、樹脂19の表面における断面積をSj[mm2]とする(jは無効突起物を識別する番号)。そうすると、突起物全体に対する有効突起物の割合αは、以下の(3)式のように表せる。
【0042】
α=p/(p+q) ・・・(3)
尚、以下の説明では、樹脂19の表面における断面積を、必要に応じて単に面積と称する。
そして、本願発明者らは、電磁波解析の結果、有効突起物の割合αが、以下の(4)式の範囲にあれば、電磁波の漏洩を従来よりも低減することができる電磁波シールド用金属板11を製造することができるという知見(第4の条件)を得た。
1/120<α<1/10 ・・・(4)
【0043】
ここで、有効突起物の平均的な大きさと無効突起物の平均的な大きさとが同じであると仮定すると、有効突起物の割合α[−]を以下の(5)式のように近似できる。
α≒ΣSi/(ΣSi+ΣSj) ・・・(5)
(5)式において、ΣSiは有効突起物の面積の総和であり、ΣSjは無効突起物の面積の総和である。しかしながら、多くの場合、有効突起物の平均的な大きさと無効突起物の平均的な大きさは同じではない。したがって、突起物の数と面積とを対応付けるのは困難である。
また、図12(a)、図12(b)、図12(c)に示した解析モデルでは、以下の(6)式のように表される被覆面積率β[−]は、全て0.96になる。
β=1−[(ΣSi+ΣSj)/(a×b)] ・・・(6)
このように、被覆面積率βが同じとなるような解析モデルであっても、図13に示したように、電力減衰率aは大きく異なる。すなわち、被覆面積率β等の面積のパラメータを規定しても、電磁波の漏洩を従来よりも低減する電磁波シールド用金属板11を製造することは困難である。
【0044】
以上のことから、本実施形態では、接触点密度が10[個/mm2]以上、好ましくは1000[個/mm2]以上になるように電磁波シールド用金属板11の表面に突起物を形成して有効突起物を配置することにより、上下の電磁波シールド用金属板11の表面に形成されている導電性の突起物を物理的に相互に接触させ、それら上下の電磁波シールド用金属板11を電気的に相互に接続させることができるようにしている。
【0045】
ここで、接触点密度n(電磁波シールド用金属板11の接合部分13における有効突起物の単位面積当たりの数)ではなく、突起密度m(電磁波シールド用金属板11の接合部分13における突起物(有効突起物+無効突起物)の単位面積当たりの数)を規定して電磁波シールド用金属板11を製造する方が、電磁波シールド用金属板11の製造が容易になる。
前述したように、接触点密度nには、例えば、10[個/mm2]以上、1000[個/mm2]以上であるという条件がある。したがって、前述した(2)式、(4)式より、電磁波シールド用金属板11の接合部分13における突起密度mが、101[個/mm2]、好ましくは1201[個/mm2]以上、より好ましくは10001[個/mm2]以上、最も好ましくは120001[個/mm2]以上になるように、電磁波シールド用金属板11を形成すればよいことになる。
【0046】
また、電磁波シールド用金属板11の接合部分13だけでなく、電磁波シールド用金属板11の全体を同一の条件で製造した方が、電磁波シールド用金属板11を容易に且つ低価格で製造することができるので好ましい。このようにする場合には、接合部分13以外の領域での外観、耐食性等を考慮し、被覆面積率βが0.7以上、0.99以下になるようにするのが好ましい。そして、このようにした場合、前述した接触点密度nと、被覆面積率βとによって、個々の有効突起物の面積(平均値)を定めることができる。
【0047】
以上のように、第1の調査の結果(第1の条件、第2の条件)だけでなく、第2の調査の結果(第3の条件、第4の条件等)も踏まえて電磁波シールド用金属板11を製造することがより一層好ましいと言える。図16は、以上のような第1の調査の結果と第2の調査の結果とを踏まえて製造された(第1〜第4の条件を満たす)電磁波シールド用金属板11の接合部分13の様子の一例を示す図である。
図16において、実線で示している突起物(鋼板18自体の突起部18dと、導電体20m〜20w、20y)は、有効突起物であり、破線で示している突起物(鋼板18自体の突起部18eと、導電体20x)は、無効突起物である。
【0048】
[電磁波シールド用金属板11の製造方法]
以上のような本実施形態の電磁波シールド用金属板11は、例えば、以下のようにして形成することができる。
まず、溶融亜鉛めっき鋼板を脱脂した後、亜鉛めっきの上にフォトレジスト膜を塗布し、導電体20として残したい部分に合わせたパターンを有するマスクを通してレーザ光を照射する。これにより、導電体20として残したい部分を除いてフォトレジスト膜が除去される。このようにしてフォトレジスト膜が除去されることにより露出した亜鉛めっきをドライエッチング等により除去した後、残りのフォトレジスト膜を除去する。このようにすることによって、導電体20として残したい部分に亜鉛めっきが残る。そして、この亜鉛めっきの間に、ロールコーティングやスプレー塗装等により、エポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂等の樹脂を塗布する。このようにして電磁波シールド用金属板11を形成した場合には、ポリエステル樹脂が樹脂19に対応し、亜鉛めっきの部分が導電体20に対応することになる。
【0049】
また、鋼板18自体に突起部を形成する場合には、例えば、凹部を有するロールで鋼板を圧延して鋼板の表面に突起部を設けた後にめっき処理を行う。また、微細パターンを有するレジストを用いて、鋼板の表面に対して局所的にめっきを行ったり、析出条件の調整により粒状にめっきを析出させる電気めっきを行ったりすることによっても、鋼板18自体に突起部を形成することができる。
このようにした場合には、鋼板18に有効突起物が得られるので、必ずしも樹脂19や導電体20を形成しなくてもよい。ただし、外観や耐食性等を考慮して、樹脂19及び導電体20を形成する場合には、例えば、Niが添加されたポリエステル系樹脂を塗布することで、樹脂19及び導電体20を形成することができる。
尚、前述した電磁波シールド用金属板11の製造方法は一例であり、これら以外の方法で電磁波シールド用金属板11を製造してもよい。
【0050】
以上のように本実施形態では、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の先端及び基端から、当該先端から基端までの長さの25[%]以下、好ましくは12.5[%]以下の位置に、対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物と接触することが可能な複数の有効突起物を並べて配置するようにした。したがって、電磁波シールド用金属板11に発生する渦電流を有効突起物で適切に捕捉することができる。よって、電子機器用筐体10の内部の電磁波発生源12から発生した電磁波が、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の存在によって、電子機器用筐体10の外部に漏れてしまうことを従来よりも確実に防止することができる。
【0051】
また、本実施形態では、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の先端面の方向に、当該接合部分13の先端又は基端から対象となる有効突起物までの距離の8倍以下、好ましくは4倍以下、より好ましくは2倍以下の間隔となるように略等間隔で有効突起物を配置するようにした。したがって、電磁波シールド用金属板11に発生する渦電流を有効突起物でより適切に捕捉することができる。よって、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の存在によって、電子機器用筐体10の外部に漏れてしまうことをより確実に防止することができる。
【0052】
また、本実施形態では、接合部分13において対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物と接触することが可能な有効突起物の単位面積当たりの個数(接触点密度n)を10[個/mm2]以上、好ましくは1000[個/mm2]以上にする。したがって、電磁波シールド用金属板11の接合部分13に存在する有効突起物を分散して配置することができ、電磁波シールド用金属板11の接合部分13の存在によって、電子機器用筐体10の外部に漏れてしまうことをより一層確実に防止することができる。
【0053】
また、有効突起物の割合αを、1/120<α<1/10の範囲にしたので、電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物の全てを有効突起物にする必要がない。したがって、厳しい製造条件を課すことなく、電磁波の漏洩を従来よりも低減することができる電磁波シールド用金属板11を製造することができる。
【0054】
尚、有効突起物の割合αは、製造条件に寄与するパラメータであるので、有効突起物の割合αを規定せずに、接触点密度nを規定して電磁波シールド用金属板11を製造するようにしてもよい。
また、前述したように、接触点密度nや、有効突起物の割合αを規定する領域は、電磁波シールド用金属板11の接合部分13だけでなく、その他の特定の領域(例えば電磁波シールド用金属板11全体)であってもよい。
また、図1では、1枚の電磁波シールド用金属板11を接続した場合を例に挙げて説明したが、複数枚の電磁波シールド用金属板11を接続するようにしてもよい(すなわち、異なる電磁波シールド用金属板11を接続するようにしてもよい)。このようにした場合、複数枚の電磁波シールド用金属板11の夫々を、前述した条件で製造することになる。
また、鋼板18の代わりに、他の金属板を用いることもできる。また、素地の金属板又は鋼板とは異なる金属で被覆又は鍍金した構造のものを電磁波シールド用金属板11としても構わない。この被覆又は鍍金する素地の金属板又は鋼板とは異なる金属としては、導電性を有する有機物または無機物であっても構わない。
【0055】
また、前述したように、樹脂19、導電体20を形成せずに、電磁波シールド用金属板11の接合部分13において、上下の鋼板18自体の突起部同士を物理的に接触させるようにしてもよい。このように樹脂19、導電体20が形成されていない場合、電磁波シールド用金属板11の鋼板18自体の突起部が、対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突起部と接触することが可能か否かは、例えば、鋼板18を構成する材料や、鋼板18自体の突起部の形状・突出量等により決定される。例えば、表面粗度が1.0[μm]を超える突起部であれば、電磁波シールド用金属板11の鋼板18自体の突起部が、対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突起部と接触することができるとみなすことができる。
【0056】
また、本実施形態では、接合部分13において対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の突起物と接触することが可能な突起物を有効突起物とした場合を例に挙げて説明したが、有効突起物はこのようなものに限定されない。すなわち、接合部分13において対向する電磁波シールド用金属板11の導電性の部分と接触可能な導電性の突起物であれば、どのような突起物を有効突起物としてもよい。例えば、電磁波シールド用金属板11に形成されている導電性の突起物のうち、当該電磁波シールド用金属板11と対向する"突起物が形成されていない略平らな電磁波シールド用金属板"の表面に形成されている亜鉛めっきと物理的に接触し、当該略平らな電磁波シールド用金属板と電気的に接続する突起物を有効突起物とすることができる。ここで、略平らな電磁波シールド用金属板としては、例えば、JIS B 0601に規定される中心線平均粗さRa75が0.5[μm]以下であり、且つ、JIS B 0610に規定される表面うねりWcaが0.3[μm]以下である電磁波シールド用金属板が挙げられる。
【0057】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0058】
10 電子機器用筐体
11 電磁波シールド用金属板
12 電磁波発生源
19 樹脂
20 導電体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波をシールドするための電磁波シールド用金属板であって、
前記電磁波シールド用金属板の表面に、導電性の突起物が形成されており、
前記金属板の一部は、当該金属板の他の部分、又は当該金属板とは異なる他の金属板の一部と機械的に接合するものであり、
前記機械的に接合する前記金属板の一部にある前記突起物は、当該突起物と対向する前記金属板の導電性の部分と、電気的に導電するように接触することが可能である有効突起物を有し、
複数の前記有効突起物は、前記金属板の一部が接合する接合領域における先端部及び基端部の少なくとも何れか一方に、当該接合領域の先端面及び基端面の方向に並べられて配置されていることを特徴とする電磁波シールド用金属板。
【請求項2】
前記接合領域における先端及び基端の少なくとも何れか一方から、当該先端から当該基端までの長さの25[%]以下の位置に、前記複数の有効突起物を、当該接合領域の先端面の方向に並べて配置するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド用金属板。
【請求項3】
前記複数の有効突起物を前記接合領域の先端面及び基端面の方向に略等間隔で並べて配置するようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁波シールド用金属板。
【請求項4】
前記複数の有効突起物を、前記接合領域の先端面及び基端面の方向に、前記接合領域における先端又は基端から当該有効突起物までの長さの4倍以下の間隔で並べて配置するようにしたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の電磁波シールド用金属板。
【請求項5】
前記接合領域における先端及び基端の少なくとも何れか一方から、当該先端から当該基端までの長さの12.5[%]以下の位置に、前記複数の有効突起物を前記接合領域の先端面及び基端面の方向に並べて配置するようにしたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の電磁波シールド用金属板。
【請求項6】
金属板と、
前記金属板の上に形成された樹脂と、
少なくとも一部が前記樹脂の中にある導電体とを有し、
前記樹脂よりも上方に一部の領域が突出している導電体が、前記有効突起物であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の電磁波シールド用金属板。
【請求項7】
前記樹脂よりも上方に一部の領域が突出している前記金属板の突起部が、前記有効突起物であることを特徴とする請求項6に記載の電磁波シールド用金属板。
【請求項8】
前記導電性の突起物は、当該導電性の突起物と対向する位置にある電磁波シールド用金属板の導電性の突起物と物理的に接触することが可能な有効突起物を有することを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の電磁波シールド用金属板。
【請求項9】
前記導電性の突起物は、当該導電性の突起物と対向する位置にある前記電磁波シールド用金属板又は前記電磁波シールド用金属板と異なる他の電磁波シールド用金属板の突起していない導電性の部分と物理的に接触することが可能な有効突起物を有することを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の電磁波シールド用金属板。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載の電磁波シールド用金属板を用いて形成された電子機器用筐体であって、
前記電子機器用筐体における前記電磁波シールド用金属板の接合部分に前記有効突起物があることを特徴とする電子機器用筐体。
【請求項1】
電磁波をシールドするための電磁波シールド用金属板であって、
前記電磁波シールド用金属板の表面に、導電性の突起物が形成されており、
前記金属板の一部は、当該金属板の他の部分、又は当該金属板とは異なる他の金属板の一部と機械的に接合するものであり、
前記機械的に接合する前記金属板の一部にある前記突起物は、当該突起物と対向する前記金属板の導電性の部分と、電気的に導電するように接触することが可能である有効突起物を有し、
複数の前記有効突起物は、前記金属板の一部が接合する接合領域における先端部及び基端部の少なくとも何れか一方に、当該接合領域の先端面及び基端面の方向に並べられて配置されていることを特徴とする電磁波シールド用金属板。
【請求項2】
前記接合領域における先端及び基端の少なくとも何れか一方から、当該先端から当該基端までの長さの25[%]以下の位置に、前記複数の有効突起物を、当該接合領域の先端面の方向に並べて配置するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド用金属板。
【請求項3】
前記複数の有効突起物を前記接合領域の先端面及び基端面の方向に略等間隔で並べて配置するようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁波シールド用金属板。
【請求項4】
前記複数の有効突起物を、前記接合領域の先端面及び基端面の方向に、前記接合領域における先端又は基端から当該有効突起物までの長さの4倍以下の間隔で並べて配置するようにしたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の電磁波シールド用金属板。
【請求項5】
前記接合領域における先端及び基端の少なくとも何れか一方から、当該先端から当該基端までの長さの12.5[%]以下の位置に、前記複数の有効突起物を前記接合領域の先端面及び基端面の方向に並べて配置するようにしたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の電磁波シールド用金属板。
【請求項6】
金属板と、
前記金属板の上に形成された樹脂と、
少なくとも一部が前記樹脂の中にある導電体とを有し、
前記樹脂よりも上方に一部の領域が突出している導電体が、前記有効突起物であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の電磁波シールド用金属板。
【請求項7】
前記樹脂よりも上方に一部の領域が突出している前記金属板の突起部が、前記有効突起物であることを特徴とする請求項6に記載の電磁波シールド用金属板。
【請求項8】
前記導電性の突起物は、当該導電性の突起物と対向する位置にある電磁波シールド用金属板の導電性の突起物と物理的に接触することが可能な有効突起物を有することを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の電磁波シールド用金属板。
【請求項9】
前記導電性の突起物は、当該導電性の突起物と対向する位置にある前記電磁波シールド用金属板又は前記電磁波シールド用金属板と異なる他の電磁波シールド用金属板の突起していない導電性の部分と物理的に接触することが可能な有効突起物を有することを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の電磁波シールド用金属板。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載の電磁波シールド用金属板を用いて形成された電子機器用筐体であって、
前記電子機器用筐体における前記電磁波シールド用金属板の接合部分に前記有効突起物があることを特徴とする電子機器用筐体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−183029(P2010−183029A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27664(P2009−27664)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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