説明

電磁波ノイズ抑制体、電磁波ノイズ抑制機能付構造体、およびそれらの製造方法

本発明の電磁波ノイズ抑制体は、磁気共鳴周波数が8GHz以上であり、8GHzの周波数における複素透磁率の虚数部μ”が5GHzの周波数における複素透磁率の虚数部μ”より大きいものである。このような電磁波ノイズ抑制体は、準マイクロ波帯域全体にわたって十分な電磁波ノイズ抑制効果を発揮できる。このような電磁波ノイズ抑制体は、結合剤2に磁性体を物理的に蒸着させて、結合剤2表面に複合層3を形成することにより製造できる。また、本発明の電磁波ノイズ抑制機能付構造体は、印刷配線板、半導体集積回路等の構造体表面の少なくとも一部が、本発明の電磁波ノイズ抑制体によって被覆されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、電磁波ノイズを抑制する電磁波ノイズ抑制体、電磁波ノイズ抑制機能付構造体、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
近年、インターネット利用の普及に伴い、パソコン、情報家電、無線LAN、ブルートゥース、光モジュール、携帯電話、携帯情報端末、高度道路情報システムなど、準マイクロ波帯域(0.3〜10GHz)の高いクロック周波数を持つCPUや高周波バスを利用した電子機器、電波を利用した情報通信機器が普及してきており、高速デジタル化と低電圧駆動化によるデバイスの高性能化を必要とするユビキタス社会が訪れてきている。しかしながら、これら機器の普及に伴って、これら機器から放射される電磁波がもたらす、自身あるいは他の電子機器への誤作動、人体への影響などといった電磁波障害が問題とされてきている。そのため、これら機器には、自身あるいは他の電子機器や、人体に影響を与えないように、不要な電磁波をできるだけ放出しないこと、および外部から電磁波を受けても誤作動しないことが求められている。このような電磁波障害を防止する方法としては、電磁波遮蔽材、すなわち電磁波を反射する電磁波シールド材あるいは電磁波を吸収する電磁波吸収材を利用する方法がある。
電磁波障害を防止するために、電子機器間においては、電子機器の筐体表面や電子機器間に電磁波遮蔽材を設けて電磁波を遮蔽する対策(inter−system EMC)が行われており、また、電子機器内においては、電子部品や回路が互いに影響を及ぼして誤作動を起こすのを抑制したり、処理スピードの遅れや信号波形の乱れを抑制したりするため、電子部品や回路を電磁波遮蔽材で覆う対策(intra−system EMC)が行われている。特に、電子機器内のような近傍界での環境においては、電磁波ノイズ発生源である電子部品そのものに電磁波遮蔽材による対策を施し、ノイズの発生を抑制することあるいは信号間の干渉を抑制し伝送特性を向上させること(マイクロEMC)が、求められて来ている。
最近特に、電子機器、電子部品には、高性能化、小型化、軽量化が求められており、これらに用いられる電磁波遮蔽材にも同様に、準マイクロ波帯域のように高い周波数帯域における電磁波ノイズ抑制効率がよく、小スペースで軽量であって、対策の作業が簡便で行いやすいものが求められている。
電磁波遮蔽材としては、例えば、平均粒径の異なる2種の軟磁性体粉末の混合体、すなわち形状磁気異方性を有する軟磁性体粉末を有機結合剤中に分散した電磁干渉抑制体が、特開平9−35927号公報に開示されている。
該文献においては、この電磁干渉抑制体は、互いに異なる大きさの異方性磁界を有しているため、それに伴い複数の磁気共鳴が出現し、異なる周波数領域に現れる虚数部透磁率(μ”)が重畳され、その結果広帯域な虚数部透磁率(μ”)の分布を持つとされている。ここで、虚数部透磁率(μ”)は、電磁波の吸収に必要な磁気損失項であり、虚数部透磁率(μ”)が広帯域にわたっていることにより、優れた電磁干渉抑制効果があるとされている。
また、別の電波遮蔽材としては、窒化鉄(Fe16)の扁平粉を樹脂と複合化した電波吸収体が、特開2001−53487号公報に開示されている。
該文献においては、磁性体の飽和磁化Isが高いと、透磁率の限界を示すfr(μ’−1)の項が大きくなり、限界ラインが高周波側に移行する、すなわち、より高い周波数で高い透磁率を示すことになるとされている。よって、磁性体中最も高い飽和磁化を有する窒化鉄を用いることにより、高周波領域で、高い透磁率が得られ、共鳴周波数frが約5GHzになるとされている。また、この共鳴周波数は、樹脂の組成や熱処理条件あるいは窒化鉄粒子の形状やアスペクト比等を変えることにより、数百MHzから10GHz近傍まで自由に調整可能であるとされている。また、使用例として、ペースト状の電波吸収体により、基板上に実装したIC部品をそのリード端子を含めて覆ったものが例示されている。
また、別の電波遮蔽材としては、準マイクロ波帯域で動作する電磁干渉EMI(Electromagnetic Interference)抑制に用いられるNiZnフェライト薄膜が知られている(阿部正紀ら,「水溶液中で作製したフェライト薄膜・超微粒子のマイクロ波/ナノバイオ応用」,日本応用磁気学会誌,2003年,Vol.27,No.6,p.721−729)。
この文献には、共鳴周波数が1.2GHzまで高められたNiZnフェライト薄膜が示されている。また、この文献においては、スピンスプレー法により、回路の導線や半導体素子の表面にメッキを施すことによってNiZnフェライト薄膜を作製し、このNiZnフェライト薄膜によって、ノイズ電流からノイズ電磁波が放射される前にノイズ電流自体を吸収するとされている。
しかしながら、広帯域な虚数部透磁率(μ”)の分布を持つとされている電磁干渉抑制体(特開平9−35927号公報)は、該文献の図2や図3のμ−f特性図に示されているように、虚数部透磁率(μ”)を部分的に大きくしただけであり、しかも、その磁気共鳴周波数は、2GHzより低いものであった。また、μ−f特性図における虚数部透磁率(μ”)の値も2GHz程度までしか示されていないため、準マイクロ波帯域全体にわたって十分な電磁干渉抑制効果があるとは言えなかった。
窒化鉄の扁平粉を樹脂と複合化した電波吸収体(特開2001−53487号公報)は、実施例が無いため詳細は不明であるが、準安定構造の窒化鉄(Fe16)の扁平粉を真空蒸着、スパッタ、CVD、MBE等の薄膜プロセスにより作製するとされている。しかしながら、窒化鉄(Fe16)の結晶構造を安定化することは難しく、その他安定構造の窒化鉄が含まれ、十分大きな飽和磁化を持つ窒化鉄(Fe16)の扁平粉を作製することは困難である。また、マスクを用いて窒化鉄(Fe16)の扁平あるいは円盤状の微粒子を得ることは、非常に困難であり、現実性が乏しいものである。また、共鳴周波数を、樹脂の組成や熱処理条件あるいはFe16粒子の形状やアスペクト比等を変えることによって、10GHz近傍まで調整可能とされているが、共鳴周波数が約5GHzまでのものの具体例しかなく(特開2001−53487号公報の図5)、実用的には問題が残っている。
NiZnフェライト薄膜(阿部ら)は、共鳴周波数が高められたとはいえ、2GHzよりも低いものであって、準マイクロ波帯域で用いられる電磁ノイズ抑制体としては不満足である。また、この文献の複素透磁率スペクトル(Fig.4)においては、複素透磁率の虚数部(μ”)は3GHzまでしか記載されておらず、3GHzではすでに減少を開始しているため、共嗚周波数はこれ以上の高い周波数とはなり得ないものである。また、応用例として、回路の銅線や半導体素子などの表面に直接メッキしてNiZnフェライト薄膜作製する例が示されているが、メッキ液には、Naなどの陽イオン、塩素、亜硝酸などの陰イオンが含まれているため、特に半導体素子に用いる場合には、十分な洗浄が必要となり、作業工程数が増えるという不利があった。
また、軟磁性体粉末や窒化鉄の扁平粉を用いる場合、十分な電磁波干渉抑制や電磁波吸収性を発揮させるために多量に用いる必要があり、その量は、通常、電磁干渉抑制体や電磁波吸収体中90質量%前後である。また、軟磁性体粉末や窒化鉄の扁平粉を用いる場合、十分な電磁波干渉抑制や電磁波吸収性を発揮させるために電磁干渉抑制体や電磁波吸収体を厚くしなければならない。したがって、電磁干渉抑制体や電磁波吸収体は比重が高くしかも厚いため、重くなるという問題があった。
さらに、電磁干渉抑制体や電磁波吸収体が厚いため、省スペース化が図りにくいという問題もあった。
そして、軟磁性体粉末や窒化鉄の扁平粉がほとんどで、結合剤がわずかであるので、可撓性がなく、脆いという問題があった。
よって本発明の目的は、準マイクロ波帯域全体にわたって十分な電磁波ノイズ抑制効果を発揮できる電磁波ノイズ抑制体;電磁波ノイズが抑制された印刷配線板、半導体集積回路等の構造体;および、これらを容易に製造できる製造方法を提供することにある。
また、本発明の目的は、さらに、省スペースで軽量であって、可撓性があり、強度が高い電磁波ノイズ抑制体を提供することにある。
【発明の開示】
上記状況に鑑み、本発明者らは、準マイクロ波帯域において優れた電磁波ノイズ抑制効果を持つためには、磁性体の磁気損失特性によりノイズ電流を熱エネルギーに変換してしまうことであり、すなわち該帯域で、十分大きな複素透磁率の虚数部(すなわち損失項)を有することが必要であると考え、形状異方性等の磁気異方性効果を期待して、磁性体の原子状態での結合剤との分散一体化を検討した結果、準マイクロ波帯域で用いることができる、高い磁気共鳴周波数を有する電磁波ノイズ抑制体を開発した。
すなわち、本発明の電磁波ノイズ抑制体は、磁気共鳴周波数が8GHz以上であり、8GHzの周波数における複素透磁率の虚数部μ”が、5GHzの周波数における複素透磁率の虚数部μ”より大きいことを特徴とするものである。このような電磁波ノイズ抑制体は、準マイクロ波帯域全体にわたって十分な電磁波ノイズ抑制効果を発揮できる。
なお、本発明の電磁波ノイズ抑制体は、結合剤と磁性体が一体化してなる複合層を有するものであることが望ましい。このような電磁波ノイズ抑制体は、磁気共鳴周波数を8GHz以上とし、8GHzの周波数における複素透磁率の虚数部μ”を、5GHzの周波数における複素透磁率の虚数部μ”より大きくすることが可能となり、しかも、省スペースで軽量である。
ここで、前記複合層が、結合剤に磁性体を物理的に蒸着させてなる層であれば、磁性体が結合剤中に分散し、結合剤と磁性体が一体化した、電磁波ノイズ抑制効果の高い複合層とすることができる。また、不純物イオンが存在せず、これら不純物イオンによる電子回路の損傷の恐れがなくなる。
また、前記結合剤が、樹脂またはゴムであれば、可撓性があり、強度が高い電磁波ノイズ抑制体とすることができる。
さらに、前記結合剤が、硬化性樹脂であれば、磁性体が未硬化の結合剤中により均一に分散し、かつ結合剤が硬化した後には、磁性体が結晶化し微粒子に成長することはなく、結合剤と磁性体が原子状態で一体化した複合層とすることができる。
本発明の電磁波ノイズ抑制体の製造方法は、結合剤に磁性体を物理的に蒸着させて、結合剤表面に複合層を形成する蒸着工程を有する方法である。このような製造方法によれば、結合剤と磁性体が一体化してなる複合層を有する本発明の電磁波ノイズ抑制体を、容易に製造することができる。
本発明の電磁波ノイズ抑制機能付構造体は、構造体表面の少なくとも一部が、本発明の電磁波ノイズ抑制体によって被覆されているものである。このような電磁波ノイズ抑制機能付構造体にあっては、ノイズ発生源の近傍に電磁波ノイズ抑制体をコンパクトに配置し、準マイクロ波帯域の電磁波ノイズを効率よく抑制することができる。
本発明の電磁波ノイズ抑制機能付構造体の製造方法は、構造体の表面の少なくとも一部を結合剤で被覆する被覆工程と、結合剤に磁性体を物理的に蒸着させて、結合剤表面に複合層を形成する蒸着工程とを有する方法である。このような製造方法によれば、準マイクロ波帯域の電磁波ノイズを効率よく抑制することができる電磁波ノイズ抑制機能付構造体を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の電磁波ノイズ抑制体における複合層の高分解能透過型電子顕微鏡像である。
図2は、複合層の近傍の一例を示す模式図である。
図3は、本発明の電磁波ノイズ抑制機能付構造体の一例であるカメラモジュールの鳥瞰図である。
図4は、本発明の電磁波ノイズ抑制機能付構造体の一例であるカメラモジュールの断面図である。
図5は、本発明の電磁波ノイズ抑制機能付構造体の一例である電子部品を搭載した印刷配線板の断面図である。
図6は、実施例1の電磁波ノイズ抑制体における複素透磁率と周波数との関係を示すグラフである。
図7は、実施例2の電磁波ノイズ抑制体における複素透磁率と周波数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。
<電磁波ノイズ抑制体>
本発明の電磁波ノイズ抑制体は、磁気共鳴周波数が8GHz以上であり、8GHzの周波数における複素透磁率の虚数部μ”が、5GHzの周波数における複素透磁率の虚数部μ”より大きいものである。
ここで、複素透磁率は、μ=μ’−jμ”で表される。μ’は複素透磁率の実部である。μ”は複素透磁率の虚数部であり、電磁波の吸収に関係する磁気損失項である。
また、磁気共鳴周波数は、複素透磁率の実部μ’のピーク値の半分の値になる周波数で、かつピーク値の周波数より大きい周波数で与えられる。磁気共鳴周波数は、磁性体が磁気損失特性によりノイズ電流を熱エネルギーに変換できる最大の限界周波数とされている。
本発明の電磁波ノイズ抑制体に、準マイクロ波帯域にわたって電磁波ノイズ抑制効果を十分に発揮させるためには、この磁気共鳴周波数が、8GHz以上であり、かつ、8GHzの周波数における複素透磁率の虚数部μ”が、5GHzの周波数における複素透磁率の虚数部μ”より大きい、すなわち複素透磁率の虚数部μ”が高周波数側に向かって右肩上がりの傾向を示している必要がある。本発明の電磁波ノイズ抑制体の磁気共鳴周波数は、好ましくは10GHz以上である。
このように、磁気共鳴周波数が8GHz以上であり、8GHzの周波数における複素透磁率の虚数部μ”が、5GHzの周波数における複素透磁率の虚数部μ”より大きい本発明の電磁波ノイズ抑制体は、具体的には、磁性体がナノオーダーで結合剤の一部と一体化して複合層を形成してなるものである。
複合層は、結合剤に磁性体を物理的に蒸着させてなる層であり、物理的に蒸着された磁性体が均質膜を形成することなく、原子状態で結合剤中に分散一体化してなるものである。
より具体的には、図1の高分解能透過型電子顕微鏡像や、電子顕微鏡像の模式図である図2に示すように、電磁波ノイズ抑制体1は、磁性体が原子状となって、結合剤2の分子と混ぜ合わせられた状態になっている複合層3と、結合剤2のみの層とから構成される。
複合層3は、非常に小さな結晶として数Å間隔の磁性体原子が配列された結晶格子4が観察される部分と、非常に小さい範囲で磁性体が存在しない結合剤2のみが観察される部分と、磁性体原子5が結晶化せず結合剤中に分散して観察される部分からなっている。すなわち、磁性体が明瞭な結晶構造を有する微粒子として存在を示す粒界は観察されず、ナノオーダーで磁性体と結合剤が一体化した複雑なヘテロ構造(不均質・不斉構造)を有しているものと考えられる。
複合層の厚さは、結合剤の表層に磁性体原子が浸入した深さであり、磁性体の蒸着質量、結合剤材質、物理的蒸着の条件などに依存し、おおよそ磁性体の蒸着厚さの1.5〜3倍程となる。複合層の厚さを0.005μm以上とすることにより、磁性体原子の結合剤との分散一体化ができ、形状異方性に由来する高周波領域での大きな損失特性を有するものと思われ、充分な電磁波ノイズ抑制効果を発揮させることができる。一方、複合層の厚さが3μmを超えると、明暸な結晶構造を経て均質な磁性体膜が形成され、バルクの磁性体に戻ってしまい形状異方性が減少し、電磁波ノイズ抑制効果も小さくなり、実効的ではない。それ故、複合層の厚さは1μm以下が望ましく、さらには0.3μm以下が望ましい。
結合剤は、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリシロキサン系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアクリレート樹脂などの樹脂や、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムなどのジエン系ゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなどの非ジエン系ゴム等の有機物が挙げられる。これらは熱可塑性であってもよく、熱硬化性であってもよく、その未硬化物であってもよい。また、上述の樹脂、ゴムなどの変性物、混合物、共重合物であってもよい。
また、結合剤は、後述する低い剪断弾性率を有する無機物であってもよく、アエロゲル、発泡シリカなどの空隙部が大きく、超微粒子の捕獲が行える硬度を有するものであればこれも用いることができる。また前記有機物との複合物であっても構わない。
中でも、結合剤としては、結合剤への磁性体原子の入り込みやすさの点で、後述する磁性体の物理的蒸着に際してその剪断弾性率が低いものが好ましく、具体的には、剪断弾性率が5×10Pa以下のものが好ましい。所望の剪断弾性率にするために、必要に応じて、例えば100〜300℃に結合剤を加熱することもできるが、分解や蒸発が起きない温度に加熱することが必要である。常温で物理的蒸着を行う場合には、結合剤としては、ゴム硬度が約80°(JIS−A)以下の弾性体が好ましい。
また、結合剤としては、前記したヘテロ構造を維持する点から、磁性体の物理的蒸着の後には、剪断弾性率が高いものが好ましい。磁性体の物理的蒸着の後に結合剤の剪断弾性率を高くすることにより、ナノオーダーの磁性体原子あるいはクラスターが凝集して結晶化し、微粒子に成長することを確実に防止できる。具体的には、電磁波ノイズ抑制体が使用される温度範囲で、1×10Pa以上のものが好ましい。所望の剪断弾性率にするために、磁性体の物理的蒸着の後に結合剤を架橋することが好ましい。
この点においては、結合剤としては、蒸着時には低弾性率であり、蒸着後に架橋して弾性率を上げることができることから、熱硬化性樹脂、エネルギー線(紫外線、電子線)硬化性樹脂が好適である。
さらに、プラズマ化あるいはイオン化された磁性体原子が、結合剤と一部反応し、安定化するように、結合剤中にシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ノニオン系界面活性剤、極性樹脂オリゴマーなどを配合してもよい。このような添加剤を配合することにより、酸化防止のほか、原子の凝集によるところの均質膜の形成を防止して、均質膜による電磁波の反射を防止し、吸収特性を改善することができる。
このほか、結合剤に、補強性フィラーや難燃剤、老化防止剤、酸化防止剤、着色剤、チクソトロピー性向上剤、可塑剤、滑剤、耐熱向上剤などを適宜添加して構わないが、硬質なものを配合すると、磁性体原子がこれに衝突し、十分な分散が行われないことがあるので、注意が必要である。このほか、磁性体を蒸着後、さらに酸化ケイ素や窒化ケイ素の蒸着を施して、耐環境特性を改善することも可能である。
本発明の電磁波ノイズ抑制体の形状は、シート状のような平面状であってもよく、三次元構造であってもよい。また、後述のように、構造体の表面を被覆するものとして用いる場合は、構造体の形状に追随した形状としてもよい。
<電磁波ノイズ抑制体の製造方法>
以下、電磁波ノイズ抑制体の製造方法について説明する。
本発明の電磁波ノイズ抑制体は、例えば、結合剤に磁性体を物理的に蒸着させて、結合剤表面に複合層を形成することによって得ることができる。
物理蒸着法(PVD)は、一般に、真空にした容器の中で蒸発材料を何らかの方法で気化させ、気化した蒸発材料を近傍に置いた基板上に堆積させて薄膜を形成する方法であり、蒸発物質の気化方法の違いで、蒸発系とスパッタ系に分けられる。蒸発系としては、EB蒸着、イオンプレーティングなどが挙げられ、スパッタ系としては、高周波スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングなどが挙げられる。
EB蒸着は、蒸発粒子のエネルギーが1eVと小さいので、基板のダメージが少なく、膜がポーラスになりやすく、膜強度が不足する傾向があるが、膜の固有抵抗は高くなるという特徴がある。
イオンプレーティングによれば、アルゴンガスや蒸発粒子のイオンは加速されて基板に衝突するため、EBよりエネルギーは大きく、粒子エネルギーは1KeVほどになり、付着力の強い膜を得ることができるものの、ドロップレットと呼んでいるミクロンサイズの粒子の付着を避けることができず、放電が停止してしまうおそれがある。また、酸素などの反応性ガスを導入することにより酸化物を成膜することができる。
マグネトロンスパッタリングは、ターゲット(蒸発材料)の利用効率が低いものの、磁界の影響で強いプラズマが発生するため成長速度が速く、粒子エネルギーは数十eVと高い特徴がある。高周波スパッタリングでは、絶縁性のターゲットを使用することができる。
マグネトロンスパッタリングのうち対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングは、対向するターゲット間でプラズマを発生させ、磁界によりプラズマを封じ込め、対向するターゲットの外に基板を置き、プラズマダメージを受けることなく所望の薄膜を生成する方法である。そのため、基板上の薄膜を再スパッタすることなく、成長速度がさらに速く、スパッタされた原子が衝突緩和することがなく、緻密なターゲット組成物と同じ組成のものを生成することができる。
結合剤が樹脂(またはゴム)からなる場合は、樹脂の共有結合エネルギーは約4eVであり、具体的には例えばC−C、C−H、Si−O、Si−Cの結合エネルギーはそれぞれ3.6eV、4.3eV、4.6eV、3.3eVである。これに対して、イオンプレーティング、マグネトロンスパッタや対向ターゲット型マグネトロンスパッタでは、蒸発粒子は高いエネルギーを持っているので、樹脂の一部の化学結合を切断し、衝突することが考えられる。
したがって、本発明においては、樹脂(またはゴム)からなる結合剤の弾性率が十分小さいと、磁性体を蒸着させた際、樹脂の分子が振動、運動し、ある場合は樹脂の分子が切断され、磁性体原子と樹脂との局部的なミキシング作用が生じて、磁性体原子は樹脂の表面から最大で3μm程度まで進入し、樹脂などとインターラクションを生じ、均質な磁性体膜ではなく、ナノオーダースケールのヘテロ構造を有した複合層が形成されると考えられる。
粒子エネルギーが5eV以上である磁性体原子を結合剤上に物理的に蒸着させると、一度に大量の磁性体を結合剤中に分散させることができるので好ましい。すなわち、一度の蒸着で、磁性体の質量を稼ぐことができることから、電磁波ノイズ抑制効率の大きな電磁波ノイズ抑制体を容易に得ることができる。蒸着速度は結合剤の振動や運動の速度が粒子速度と比較して遅いことから、結合剤の緩和のタイミングにあわせるように小さいほうが好ましく、磁性体により異なるがおよそ60nm/min以下が好ましい。
蒸着工程において蒸発材料として用いられる磁性体としては、金属系軟磁性体および/または、酸化物系軟磁性体および/または、窒化物系軟磁性体が主に用いられる。これらは、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
金属系軟磁性体としては、鉄および鉄合金が一般的に用いられる。鉄合金としては、具体的にはFe−Ni、Fe−Co、Fe−Cr、Fe−Si、Fe−Al、Fe−Cr−Si、Fe−Cr−Al、Fe−Al−Si、Fe−Pt合金を用いることができる。これら金属系軟磁性体は、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。鉄および鉄合金のほかに、コバルトやニッケルの金属あるいはそれらの合金を用いてもよい。ニッケルは、単独で用いた場合、酸化に対して抵抗力があるので好ましい。
酸化物系軟磁性体としては、フェライトが好ましい。具体的には、MnFe、CoFe、NiFe、CuFe、ZnFe、MgFe、Fe、Cu−Zn−フェライト、Ni−Zn−フェライト、Mn−Zn−フェライト、BaCoFe1222、BaNiFe1222、BaZnFe1222、BaMnFe1222、BaMgFe1222、BaCuFe1222、BaCoFe2441を用いることができる。これらのフェライトは、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
窒化物系軟磁性体としては、FeN、FeN、FeN、Fe16などが知られている。これらの窒化物系軟磁性体は、透磁率が高く、耐食性が高いので好ましい。
なお、結合剤に磁性体を物理的に蒸着させる際には、磁性体はプラズマ化あるいはイオン化された磁性体原子として結合剤に入り込むので、結合剤中に微分散された磁性体の組成は、蒸発材料として用いた磁性体の組成と必ずしも同一であるとは限らない。また、結合剤の一部と反応し、磁性体が常磁性体や反強磁性体になるなどの変化が生じる場合もある。
1回の物理的蒸着操作における磁性体の蒸着質量は、磁性体単品の膜厚換算値で200nm以下が好ましい。これより厚いと、結合剤の剪断弾性率にもよるが、結合剤が磁性体を包含する能力に達し、磁性体が結合剤に分散できずに表面に堆積し、均質な導通性を有する連続したバルクの膜が生成してしまう。それゆえ、磁性体の蒸着質量は、100nm以下が好ましく、50nm以下がさらに好ましい。一方、電磁波ノイズ抑制効果の点からは、磁性体の蒸着質量は、0.5nm以上であることが好ましい。
蒸着質量が小さくなると、電磁波ノイズ抑制効果が低減するものであるから、複合層を複数層積層することにより、磁性体の総質量を増やすことができる。この総質量は要求される電磁波ノイズの抑制レベルにもよるが、おおよそ総合の磁性体の膜厚換算値で10〜500nmが好ましい。また、積層される層の一部を導通性を有するバルクの金属層とし、電磁波の反射特性を持たせることも可能である。さらに誘電体層との複合化を行い、電磁波ノイズ抑制効果を調整することも可能である。
蒸着工程において用いられる結合剤の厚さは、特に限定はないが、コンパクトな電磁波ノイズ抑制体とするには薄いことが好ましい。具体的には、その厚さは、好ましくは50μm以下、より好ましくは10μm以下である。
<電磁波ノイズ抑制機能付構造体>
本発明の電磁波ノイズ抑制機能付構造体は、構造体表面の少なくとも一部が、本発明の電磁波ノイズ抑制体によって被覆されているものである。
構造体としては、例えば、電子部品を搭載した印刷配線板、半導体集積回路等が挙げられる。
以下、本発明の電磁波ノイズ抑制機能付構造体の具体例を示す。
(カメラモジュール)
図3および図4は、電磁波ノイズ抑制機能付構造体の一例であるカメラモジュールを示す図である。このカメラモジュールは、表面にイメージセンサ11が設けられた印刷配線板12と、イメージセンサ11に対応したレンズ13と、レンズ13を保持し、印刷配線板12上イメージセンサ11を囲むカメラホルダ14と、カメラホルダ14の外側に嵌合する外ケース15と、外ケース15表面を覆う電磁波ノイズ抑制体1とを具備して概略構成されるものである。
外ケース15への電磁波ノイズ抑制体1の被覆は、例えば、以下のように行う。
射出成型で成形された樹脂構造体である外ケース15を、結合剤であるエポキシ樹脂溶液に浸漬して、表面に15μm厚のBステージ状エポキシ樹脂を設ける。次いで、エポキシ樹脂上に、物理的蒸着法で磁性体を、膜厚換算で45nm蒸着させ、複合層を形成する。この電磁波ノイズ抑制機能の付いた外ケース15を、カメラホルダ14に嵌め合わせることにより、カメラモジュールのノイズ対策は実施される。
(印刷配線板)
図5は、電磁波ノイズ抑制機能付構造体の一例である印刷配線板を示す図である。この印刷配線板は、基板21上に形成された配線回路22と、配線回路22に接続された半導体パッケージ23およびチップ部品24と、配線回路22、半導体パッケージ23およびチップ部品24ごと印刷配線板表面を覆う電磁波ノイズ抑制体1とを具備して概略構成されるものである。
印刷配線板への電磁波ノイズ抑制体1の被覆は、例えば、以下のように行う。
配線回路22、半導体パッケージ23およびチップ部品24を覆うように、印刷配線板上に絶縁性の結合剤を50μmほど塗布する。この上に、物理的蒸着法で磁性体を蒸着させ、複合層を形成する。ウェットプロセスではないため、イオン除去の洗浄工程は不要で、簡便に電磁波ノイズ抑制機能を付与させることができる。
(半導体集積回路)
半導体集積回路に電磁波ノイズ抑制機能を付与する場合は、半導体ウェハ上に、スピンコートあるいはCVD(Chemical Vapor Deposition、化学気相成長)により設けられた、ポリイミド、ポリパラキシリレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアリルエーテル、ポリキシリレン、ポリアダマンタンエーテル、ポリベンゾオキサゾール、ベンゾシクロブテン樹脂などからなる厚み200nm〜100μmの有機絶縁膜上に、物理的蒸着により、磁性体を10〜50nmほど蒸着させて、複合層を形成する。必要に応じ、マスクを用いて部分的に複合層を形成することも可能である。ドライプロセスによるものであるから、イオン性不純物の影響はなく、洗浄の必要もないので、半導体ウェハへの応用は好適である。微細な集積回路近傍に、ナノオーダーレベルのヘテロ構造を有した電磁波ノイズ抑制体を設けることにより、非常に少ない磁性体質量であっても、デジタル回路のパルス伝送時の共振の抑制や、インピーダンスの不整合からくる不要輻射ノイズの抑制等が図られ、伝送速度の向上など伝送特性品質を改善することができる。
以上説明した本発明の電磁波ノイズ抑制体にあっては、理論的には明らかではないが、結合剤と磁性体とが物理的蒸着により一体化された複合層が形成されているので、少ない磁性体であっても、そのナノオーダーのヘテロ構造に由来する量子効果や、材料固有の磁気異方性、形状磁気異方性、あるいは外部磁界による異方性などの影響で、高い共鳴周波数、具体的には8GHz以上を持つ。これにより、優れた磁気特性を発揮し、少ない磁性体であっても、準マイクロ波帯域全体にわたって電磁波ノイズ抑制効果を発揮できているものと考えられる。
また、本発明の電磁波ノイズ抑制体にあっては、少ない磁性体であっても、電磁波ノイズ抑制効果を発揮できるので、磁性体の量を大幅に減らすことができ、軽量化を図ることができる。
さらに、本発明の電磁波ノイズ抑制体にあっては、複合層の厚さが0.3μm以下で十分な電磁波ノイズ抑制効果を発揮できるので、電磁波ノイズ抑制体を薄肉にすることができ、省スペース化を図ることができる。
ここで、前記複合層が、結合剤に磁性体を物理的に蒸着させてなる層であれば、磁性体が結合剤中に原子状態で分散し、結合剤と磁性体が一体化することにより、少ない磁性体の量で電磁波ノイズ抑制効果の高い複合層とすることができる。また、高真空下における物理的蒸着によるものであり、湿式メッキと異なり、不純物イオンの除去を行う必要がなく、またこれらの不純物イオンによる電子回路の損傷の恐れはない。
また、磁性体の量を大幅に減らすことができるので、前記結合剤が樹脂またはゴムの場合、磁性体による樹脂またはゴムの可撓性や強度の低下を最小限に抑えることができる。
さらに、前記結合剤が、硬化性樹脂であれば、硬化前においては、磁性体が結合剤中により均一に分散し、硬化後においては、高温条件下で電磁波ノイズ抑制体を使用した場合でも、磁性体が結晶化し、微粒子に成長することを抑えることができ、耐環境特性が向上する。
そして、本発明の電磁波ノイズ抑制機能付構造体(例えば、印刷配線板、半導体集積回路)は、ノイズ発生源の近傍に電磁波ノイズ抑制体をコンパクトに配置し、準マイクロ波帯域の電磁波ノイズを効率よく抑制えることができる。
【実施例】
以下、実施例を示す。
(評価)
透磁率測定:
凌和電子製 超高周波透磁率測定装置PMM−9G1を用いた。
断面観察:
日立製作所製 透過型電子顕微鏡H9000NARを用いた。
電磁波吸収特性:
伝導ノイズ抑制効果の評価は、Sパラメータ法によるキーコム製の50Ωのインピーダンスを持つマイクロストリップラインのテストフィクスチャーTF−3A、TF−18Aを用いて行った。
また、近傍空間における減結合率評価は、キーコム製のマイクロループアンテナ式フィクスチャーを用いて行った。ネットワークアナライザーには、アンリツ製ベクトルネットワークアナライザー37247Cを用いた。
[実施例1]
支持体である12μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(常温の剪断弾性率3.8×10(Pa))上に、結合剤である15μm厚の加硫したシリコーンゴム(常温の剪断弾性率1×10(Pa)、湿式シリカ含有)を設け、この上に、膜厚換算で20nmのFe−Ni系軟磁性金属を、対向ターゲット型マグネトロンスパッタ法により物理的に蒸着させ、複合層を形成し、電磁波ノイズ抑制体を得た。この際、基板温度を常温に保ち、蒸発粒子が8eVの粒子エネルギーを持つようわずかに負の電圧を印加し、スパッタを行った。
得られた抑制体の一部をミクロトームで薄片にし、断面にイオンビームポリシャーを施し、高分解能透過型電子顕微鏡により複合層の断面を観察したところ、複合層の厚みは約45nmであった。断面観察結果を図1に示す。透磁率測定装置を用い透磁率を測定した。図6に示すとおり、μ”の相対強度値は250で、μ”の相対強度値は前記値の約7倍と大きかった。また、磁気共鳴周波数(μ’のピーク値の半分の値になる周波数で、かつピーク値の周波数より大きい周波数)は、装置の測定限界の9GHzを超えていた。また、その電磁波吸収特性は、1GHzでの反射減衰量は−9.5dBで、透過減衰量は−5.5dBであり、10GHzでの反射減衰量は−14dBで、透過減衰量は−20dBであった。
[実施例2]
支持体である12μm厚の離型処理の施されたポリエチレンテレフタレートフィルム上に、結合剤である25μm厚のBステージ状のエポキシ樹脂(硬化前の剪断弾性率8×10(Pa)、硬化後の剪断弾性率2×10(Pa))を設け、この上に、膜厚換算で10nmのFe−Ni系軟磁性金属を、対向ターゲット型マグネトロンスパッタ法により物理的に蒸着させ、複合層を形成した。この際、基板温度を常温に保ち、蒸発粒子が8eVの粒子エネルギーを持つようわずかに負の電圧を印加し、スパッタを行った。次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルムより剥離し、該エポキシシートを半分に裁断して、複合層が交互になるようそれぞれを重ねた。これを40℃で6時間加熱し、さらに120℃で2時間加熱し、エポキシ樹脂を硬化させ電磁波ノイズ抑制体を得た。図7に示すとおり複素透磁率の虚数部は、μ”の相対強度値は200で、μ”の相対強度値は前記値の約5倍と大きかった。また、磁気共嗚周波数(μ’のピーク値の半分の値になる周波数で、かつピーク値の周波数より大きい周波数)は、装置の測定限界の9GHzを超えていた。電磁波吸収特性としての減結合率は、3GHzでの内部減結合率は−8dBで、相互減結合率は−7dBであった。
[実施例3]
支持体である12μm厚のポリイミドフィルムの片面にNi金属を30nm蒸着し、この面と他方の面上に、結合剤である7μm厚の加硫した導電性シリコーンゴム(常温の剪断弾性率2×10(Pa)、顔料用カーボンブラック15質量%含有)を設け、この上に、膜厚換算で20nmのFe−Ni系軟磁性金属を、対向ターゲット型マグネトロンスパッタ法により物理的に蒸着させ、表裏面に複合層を形成し、電磁波ノイズ抑制体を得た。この際、基板温度を常温に保ち、蒸発粒子が8eVの粒子エネルギーを持つようわずかに負の電圧を印加し、スパッタを行った。複素透磁率の虚数部は、μ”の相対強度値は180で、μ”の相対強度値は前記値の約6倍と大きかった。また、磁気共鳴周波数(μ’のピーク値の半分の値になる周波数で、かつピーク値の周波数より大きい周波数)は、装置の測定限界の9GHzを超えていた。電磁波吸収特性としての減結合率は、1GHzでの内部減結合率は−3dBで、相互減結合率は−4dBであった。
[実施例4]
ポリイミドフィルム上に設けられた配線ピッチが0.3mmの束線状の金属導体上に、NBRを含むBステージ状のエポキシ樹脂(硬化前の剪断弾性率8×10(Pa)、硬化後の剪断弾性率8×10(Pa))を設け、この上に、膜厚換算で15nmのFe−Ni系軟磁性金属を、対向ターゲット型マグネトロンスパッタ法により物理的に蒸着させ、複合層を形成した。この際、基板温度を常温に保ち、蒸発粒子が8eVの粒子エネルギーを持つようわずかに負の電圧を印加し、スパッタを行った。次いで、40℃で6時間加熱し、さらに120℃で2時間加熱し、エポキシ樹脂を硬化させ、電磁波ノイズ抑制体の設けられた印刷配線板を得た。
該配線板と、携帯電話用のLCD(コントローラLSIはガラス上に設けられている。)およびCPUとの間を接続した。動画を描写し、電磁波ノイズ抑制体の無いものと比較観察したところ、無いものに比べ、クロストークの影響が無く、信号欠陥の無い像が得られた。
【産業上の利用可能性】
本発明の電磁波ノイズ抑制体は、電子機器、電子部品等の構造体の被覆に用いることができ、準マイクロ波帯域全体にわたって十分な電磁波ノイズ抑制効果を発揮しつつ、電子機器、電子部品の小型化、軽量化を図ることができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴周波数が8GHz以上であり、
8GHzの周波数における複素透磁率の虚数部μ”が、5GHzの周波数における複素透磁率の虚数部μ”より大きいことを特徴とする電磁波ノイズ抑制体。
【請求項2】
結合剤と磁性体が一体化してなる複合層を有することを特徴とする請求項1記載の電磁波ノイズ抑制体。
【請求項3】
前記複合層が、結合剤に磁性体を物理的に蒸着させてなる層であることを特徴とする請求項2記載の電磁波ノイズ抑制体。
【請求項4】
前記結合剤が、樹脂またはゴムであることを特徴とする請求項2記載の電磁波ノイズ抑制体。
【請求項5】
前記結合剤が、樹脂またはゴムであることを特徴とする請求項3記載の電磁波ノイズ抑制体。
【請求項6】
前記結合剤が、硬化性樹脂であることを特徴とする請求項2記載の電磁波ノイズ抑制体。
【請求項7】
前記結合剤が、硬化性樹脂であることを特徴とする請求項3記載の電磁波ノイズ抑制体。
【請求項8】
結合剤に磁性体を物理的に蒸着させて、結合剤表面に複合層を形成し、磁気共鳴周波数が8GHz以上であり、8GHzの周波数における複素透磁率の虚数部μ”が、5GHzの周波数における複素透磁率の虚数部μ”より大きい電磁波ノイズ抑制体を得ることを特徴とする電磁波ノイズ抑制体の製造方法。
【請求項9】
構造体表面の少なくとも一部が、請求項1ないし7いずれか一項に記載の電磁波ノイズ抑制体によって被覆されていることを特徴とする電磁波ノイズ抑制機能付構造体。
【請求項10】
前記構造体が、電子部品を搭載した印刷配線板であることを特徴とする請求項9記載の電磁波ノイズ抑制機能付構造体。
【請求項11】
前記構造体が、半導体集積回路であることを特徴とする請求項9記載の電磁波ノイズ抑制機能付構造体。
【請求項12】
構造体の表面の少なくとも一部を結合剤で被覆する被覆工程と、
結合剤に磁性体を物理的に蒸着させて、結合剤表面に複合層を形成する蒸着工程と
を有することを特徴とする電磁波ノイズ抑制機能付構造体の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/081609
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519062(P2006−519062)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002104
【国際出願日】平成16年2月24日(2004.2.24)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】