説明

電磁波吸収シート

【課題】本発明は、数GHz〜数十GHzの電磁波の吸収に対応可能な電磁波吸収体の提供を課題とする。
【解決手段】本発明の電磁波吸収シートは、カーボンナノコイル及び樹脂を含有する電磁波吸収シートであって、(1)前記カーボンナノコイルが、平均コイル長1μm以上100μm未満、平均コイル径1nm以上1μm未満及び平均コイルピッチ1nm以上1μm未満であり、(2)前記カーボンナノコイルが、樹脂100重量部に対し、1〜10重量部の割合で含有されている、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノコイルを用いた新規な電磁波吸収シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の通信機器の増大、多様化により、それぞれに対応した電磁波を吸収するさまざまな電磁波吸収シートが提供されている(特許文献1等)。例えば、電磁波吸収は、フェライト等を用いた電磁波吸収体、カーボンブラック等を用いた電磁波吸収体などが提案されている。
【0003】
しかしながら、これら電磁波吸収体は特定の吸収波長域のみで吸収するに過ぎず、幅広い波長域に対応することができない。例えば、フェライト等を用いた電磁波吸収体は数GHzの帯域を吸収するが、数十GHzの帯域では吸収できない。一方、カーボンブラック等を用いた電磁波吸収体は、数十GHzでの吸収は可能であるが、数GHzの帯域における吸収には不向きである。
【特許文献1】特開2004−140335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、数GHz〜数十GHzの電磁波の吸収に対応可能な電磁波吸収体の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記従来技術に鑑み鋭意研究を重ねた結果、電磁波吸収体に、特定構造のカーボンナノコイルを特定量含有させることにより、上記問題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は下記の電磁波吸収シート及び電磁波吸収シートの製造方法に係る。
【0006】
項1.カーボンナノコイル及び樹脂を含有する電磁波吸収シートであって、
(1)前記カーボンナノコイルが、平均コイル長1μm以上100μm未満、平均コイル径1nm以上1μm未満及び平均コイルピッチ1nm以上1μm未満であり、
(2)前記カーボンナノコイルが、樹脂100重量部に対し、1〜10重量部の割合で含有されている、
ことを特徴とする電磁波吸収シート。
【0007】
項2.前記カーボンナノコイルが、平均コイル長10μm〜40μm、平均コイル径が1nm〜1μm未満及び平均コイルピッチ1nm以上1μm未満である、項1に記載の電磁波吸収シート。
【0008】
項3.前記カーボンナノコイルが、平均コイル長20μm〜40μm、平均コイル径が400nm〜800nm未満及び平均コイルピッチ400nm〜800nmである、項1に記載の電磁波吸収シート。
【0009】
項4.電磁波吸収シートの厚みが1μm〜10mm以下である、項1〜3のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【0010】
項5.前記カーボンナノコイルが、電磁波吸収シートの面方向に配向している、項1〜4のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【0011】
項6.1GHz〜100GHzの周波数帯域において、反射損失が10dB以上である吸収帯域を有する、項1〜5のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【0012】
項7.一方の面に金属板が積層されてなる、項1〜6のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【0013】
項8.カーボンナノコイル及び樹脂を含有する電磁波吸収シートの製造方法であって、
平均コイル長1μm以上100μm未満、平均コイル径1nm以上1μm未満及び平均コイルピッチ1nm以上1μm未満であるカーボンナノコイルを、樹脂が溶解した有機溶媒に混合し、次いで、当該有機溶媒を蒸発させる工程、
を備えた、電磁波吸収シートの製造方法。
【0014】
電磁波吸収シート
本発明の電磁波吸収シートは、(1)前記カーボンナノコイルが、平均コイル長1μm以上100μm未満、平均コイル径1nm以上1μm未満及び平均コイルピッチ1nm以上1μm未満であり、(2)前記カーボンナノコイルが、樹脂100重量部に対し、1〜10重量部の割合で含有されている、ことを特徴とする。
【0015】
本発明の電磁波吸収シートに含まれるカーボンナノコイルは、平均コイル長1μm以上100μm未満、平均コイル径1nm以上1μm未満及び平均コイルピッチ1nm以上1μm未満であることを特徴とする。好ましくは、平均コイル長10μm〜40μm、平均コイル径が1nm〜1μm未満及び平均コイルピッチ1nm以上1μm未満である。最も好ましくは、平均コイル長20μm〜40μm、平均コイル径が400nm〜800nm未満及び平均コイルピッチ400nm〜800nmである。この範囲とすることにより、電磁波をより多く吸収することができ、1GHz〜100GHzという幅広い波長域の電磁波に対して優れた電磁波吸収特性を得ることができる。なお、本発明における電磁波吸収特性は反射減衰量を元に評価している。
【0016】
カーボンナノコイルの繊維径は限定的でないが、通常、1nm〜500nm程度、好ましくは50nm〜300nm程度である。
【0017】
本発明のカーボンナノコイルの平均コイル長は、カーボンナノコイルを任意で100本選択し、当該カーボンナノコイル100本を走査型電子顕微鏡(SEM)で2000倍の倍率で画像を撮影し、当該画像のコイル長を目視で計測した場合の100本の平均値をいう。平均コイル径、平均コイルピッチ及び平均繊維径も上記平均コイル長と同様に任意で選択したカーボンナノコイル100本のSEM画像(2000倍)で観察した場合の平均値をいう。
【0018】
本発明の電磁波吸収シート中における上記カーボンナノコイルの配合量は、樹脂100重量部に対して、1〜10重量程度であり、好ましくは3〜5重量部程度である。1重量部未満であると、電磁波の吸収が不十分であり、一方、10重量部を超えると、電磁波が吸収せずに反射することとなる。
【0019】
本発明では、電磁波吸収シート中において、上記カーボンナノコイルが電磁吸収シートの面方向に配向(面配向)していることが好ましい。例えば、図1の左図に示すように、上記カーボンナノコイルの軸方向(の直線)が電磁波吸収シートの平面(XY平面)上に存在するに配向していることが好ましい。より具体的には、カーボンナノコイルの軸方向と電磁波吸収シートの平面とがなす角度が10°以下であるカーボンナノコイルの個数が、電磁波吸収シートに含まれるカーボンナノコイルの全個数中50%以上(特に80%以上)であることが好ましい。なお、図1の左図のように平面方向(XY平面)に配向していればよく、必ずしも一の方向に配向(一軸配向)していなくてもよい。
【0020】
上記電磁波吸収シートに使用する樹脂は限定されず、例えば、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれでもよく、また、弾性材料であるエラストマーであってもよい。これらの中でも、特に有機溶媒に溶解する熱可塑性樹脂が好ましい。具体的には、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂のほか、ポリビニールアルコール(PVA)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。これらの中でも、特にスチレン系樹脂、ウレタン系樹脂等が好ましい。
【0021】
本発明の電磁波吸収シートには、そのほか、必要に応じて、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、VGCF等の炭素系材料、フェライト等の磁性材料等の添加材を含んでいてもよい。
【0022】
電磁波吸収シートの厚みは、通常25mm以下、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下程度である。これにより、軽量化、コンパクト化等が可能となる。下限は限定的でないが、例えば、1μm程度とすればよい。
【0023】
なお、本発明の電磁吸収シートは、必要に応じて、そのシート表面の一方の面に金属板が積層されていてもよい。金属の種類は限定的でなく、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、およびこれらの合金、金属化合物等が挙げられる。金属板の厚みも限定的でなく、電磁波及シートの使用用途に応じて幅広く設定できるが、通常1μm〜10mm程度とすればよい。
【0024】
本発明の電磁波吸収シートは、1GHz〜100GHzという吸収波長域において、反射損失が10dB以上(特に20dB以上)という高い吸収帯域を少なくとも一部に有している。特に、当該高い吸収帯域が1Hz〜10GHz程度(特に1GHz〜10GHz)という幅をもって有することが可能となる。
【0025】
また、本発明の電磁波吸収シートは、その厚みを例えば後述する調整方法等により適宜変化させることにより、上述した所望の吸収帯域を容易に変化させ、所望の吸収帯域を有することが可能となる。
【0026】
製造方法
本発明の電磁波吸収シートは、例えば、樹脂が溶解した有機溶媒に、カーボンナノコイルを混合し、次いで、有機溶媒を蒸発させることにより、製造することができる。
【0027】
本発明のカーボンナノコイルは、公知又は市販のものを使用してもよいが、例えば、カーボンナノコイル用触媒を担持させたアルミナ基板(以下「触媒付きアルミナ基板」という)を100〜1000℃(好ましくは500〜800℃)程度に加熱し、その加熱した触媒付きアルミナ基板に、アセチレン等の炭化水素と不活性ガスとの混合気体を吹き付けて成長させる熱CVD(Chemical Vapor Deposition)法によって好適に製造することができる。
【0028】
上記カーボンナノコイル用触媒には、例えばインジウム・スズ・鉄系触媒が好適に用いられる。このようなインジウム・スズ・鉄系触媒としては、例えば金属塩酸塩、具体例としては、三塩化鉄(FeCl)等の塩化鉄と、三塩化インジウム(InCl)等の塩化インジウムと、二塩化スズ(SnCl)等の塩化スズとの混合溶液から共沈法で作製した沈殿物を300〜1000℃(好ましくは500〜900℃)で焼成した混合酸化物が好適に用いられる。また、インジウム・スズ・鉄系触媒としては、前述した金属塩酸塩以外に、金属硝酸塩、金属硫酸塩または金属有機酸塩を用いてもよい。なお、このような触媒には、例えば、酸化鉄、酸化インジウム、酸化スズ等の金属酸化物等の粉末が混合されていてもよい。また、カーボンナノコイル用触媒として、前述のインジウム・スズ・鉄系の三元系触媒の他にも、酸化インジウムを含まない触媒、例えば、スズ・鉄系の二元系触媒、具体的には酸化鉄と酸化スズとの二元系触媒等を使用してもよい。
【0029】
混合溶液の溶媒には、例えば、水、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノールなどのアルコール類が挙げられる。
【0030】
不活性ガスとしては、例えばヘリウム、アルゴン等が挙げられる。
【0031】
熱CVD法によって製造する際のカーボンナノコイル用触媒の組成、成長時間、触媒付きアルミナ基板の加熱温度、炭化水素の種類、炭化水素の濃度および流量などを制御することによって、カーボンナノコイルのコイル長、コイル径、コイルピッチ等を適宜制御することができる。
【0032】
また、例えば、カーボンナノコイルに超音波等を照射することにより、コイル長等を短くして、カーボンナノコイルの性状を変化させることも可能である。
【0033】
上記カーボンナノコイル及び樹脂は、上述したものが挙げられる。有機溶媒は、上記樹脂を溶解させるものであれば制限されず、樹脂の種類等に応じて適宜決定されるが、例えば、クロロホルム、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。これらの中でも、クロロホルム等が樹脂の溶解の容易さ及び蒸発時の気泡発生の抑制の観点から好ましい。
【0034】
有機溶媒中の樹脂の含有量(樹脂固形分)は限定的でなく、例えば、有機溶媒及び樹脂の合計量100重量部に対して、1〜25重量部、好ましくは1〜10重量部程度とすればよい。
【0035】
カーボンナノコイルの含有量は、上述した電磁波吸収シートの配合量となるように行えばよい。
【0036】
有機溶媒の蒸発は、自然蒸発、すなわち、大気雰囲気中(例えば、10〜30℃程度)で静置することにより行うことが好ましい。これにより、有機溶媒の蒸発が徐々に行われるため、蒸発により樹脂が固化して得られる電磁波吸収シート中のカーボンナノコイルが水平面に横たわりやすくなり、ひいては面方向に配向しやすくできる。
【0037】
静置時間は有機溶媒の種類、濃度等に応じて適宜決定されるが、通常、1〜24時間程度という幅広い範囲から決定すればよい。
【0038】
なお、本発明の電磁波吸収シートは、そのほか、溶液混合法、加熱混練法、プリプレグを形成後硬化させる法、樹脂のエマルション液又はサスペンション液に上記コイルを分散後乾燥させる法等の公知の各種手段を用いて、上記カーボンナノコイルを樹脂に分散して製造することもできる。
【0039】
厚みの調整方法
本発明の電磁波吸収シート厚みの調整方法は、下記式(1)
【0040】
【数1】

【0041】
(ただし、λは入射電磁波の波長を示し、εγは複素比誘電率を示し、dは電磁波及シートの厚さを示し、jは虚数単位を示す。)
又は当該式(1)から導出される式を用いることにより、2つの曲線(複素比誘電率の実部(εγ’)を示す曲線及び複素比誘電率の虚部(εγ’’)を示す曲線)を同一のグラフに表出し、次いで、当該2つの曲線の交点における厚さdを求め、当該求めた厚さdとなるように電磁波吸収シートを調整する。これにより、電磁波吸収シートの厚みと当該シートが最も効率よく吸収する電磁波の周波数(吸収ピーク)との関係がグラフから簡易に判断することができ、ひいては優れた電磁波吸収特性を持つ電磁波吸収シートを容易に作製することができる。以下、厚みの調整方法について下記に詳細する。
【0042】
図2に、厚さがd、複素比誘電率が
【0043】
【数2】

【0044】
(但し、εγ’は複素比誘電率の実部を示し、εγ’’は複素比誘電率の虚部を示し、jは虚数単位を示す。)で表される電磁波吸収シート及び当該電磁吸収シートに裏張りされた金属板を示す。なお、本発明の厚み調整方法及びそれに関連する測定において、金属板は積層(裏張り)されていてもよいし、積層されていなくてもよい。
【0045】
この電波吸収シートに電磁波が図2に示されるように垂直入射する場合、この電磁波吸収シートが無反射となる条件は、下記式(2)
【0046】
【数3】

【0047】
(ただし、λは入射電磁波の波長を示し、εγは複素比誘電率を示し、dは電磁波及シート(金属板は含まない)の厚さを示し、jは虚数単位を示す)で表される。
上式(2)を満足する複素比誘電率εγは無数に存在するが、このうち最も小さい厚さdを与えるεγは、次式(1)で近似的に与えることができる。
【0048】
【数4】

【0049】
(ただし、λは入射電磁波の波長を示し、εγは複素比誘電率を示し、dは電磁波及シート(金属板は含まない)の厚さを示し、jは虚数単位を示す。)
なお、この近似式による解(これを「近似解」という。)と、厳密解(一般的に電磁波吸収シートの厚みと吸収周波数域との関係を示す式を用いた解)との関係を図3に示す。図3から両者の解は良好な一致を示す。
【0050】
ここで、式(1)を変形すると、電磁波吸収シートの厚みdを与える下記の2つの式を導出することができる。
【0051】
【数5】

【0052】
(ただし、Coは真空中の光速(=2.99792458×10m/s)を示し、fは周波数(Hz)を示す。)
【0053】
厚みの調整方法として具体的には、目的の電磁波吸収シートの複素比誘電率の実部εγ’及び複素比誘電率の虚部εγ’’を例えば同軸間法、自由空間法等の公知の測定方法で測定した後、上記式(3a)及び式(3b)にεγ’及びεγ’’を代入し、次いで、横軸に周波数f、縦軸に電磁波吸収シートの厚さdとして、代入された式(3a)及び式(3b)を同一のグラフにプロットすればよい。このプロットされたグラフは、例えば、図4のようなグラフとして得られる。なお、図4において、曲線aは式(3a)、曲線bは式(3b)のプロットである。
【0054】
この図4において、式(3a)で与えられるdと式(3b)で与えられるdが一致、すなわち図4の曲線aと曲線bが交差する(又は実質的に接する)場合に、式(1)で与えられる近似的な無反射条件が満足され、良好な吸収ピークを有する。
【0055】
具体的には、例えば、図4では5〜6GHz付近、厚さ約5mmの点で曲線aと曲線bが交差している。このことは、この点付近で無反射条件が満たされること、すなわちこの材料を厚さ5mmの平板状に加工し、必要に応じて金属板で裏張りすると、5〜6GHz付近で吸収のピークをもつ電磁波吸収シートが得られることを意味する。
【0056】
なお、電磁波吸収シートを所望の厚みに調節する方法は、所望の厚みになるように製造時点で予め樹脂量を調節して成形してもよく、また、一度成形された電磁波吸収シートを熱プレスで圧縮すること等によって調節してもよい。
【発明の効果】
【0057】
本発明によれば、厚みを変えるだけで、例えば、1GHz〜100GHzの周波数域において特定の周波数の電磁波を高効率で吸収することができる。また、シート厚みが10mm以下という薄さで電磁波を吸収することができるため、軽量化の点で優れる。さらにカーボンナノコイルの配合割合が、母材である樹脂に対し10重量部以下という少ない含有量であるため、従来のカーボンブラックを用いた電磁波吸収シートよりも少量の含有量であり、コスト面でも優れている。
【0058】
具体的には、本発明の請求項1に係る電磁波吸収シートは、平均コイル長1μm以上100μm未満、平均コイル径1nm以上1μm未満及び平均コイルピッチ1nm以上1μm未満のカーボンナノコイルを樹脂100重量部に対し1〜10重量部含有しているため、1GHz〜100GHzの周波数帯において、所望の厚みの範囲(好ましくは厚み1μm〜10mm)において、厚みを変化させれば10dB以上の反射損失を持つ電磁波吸収体の作製が可能であり、市場の要望している周波数帯に合わせた電磁波吸収シートの提供が可能である。また、作製した吸収シートの吸収体域においては、10dBを超える吸収域の幅が広く、広帯域用の電磁波吸収シートとしても優れている。
【0059】
本発明の請求項2に係る電磁波吸収シートは、平均コイル長10μm〜40μm未満、平均コイル径400nm〜800nm未満及び平均コイルピッチ400nm〜800nmのカーボンナノコイルを樹脂100重量部に対し1〜10重量部含有しているため、1GHz〜100GHzの周波数帯において、より優れた電磁波吸収体の作製が可能であり、市場の要望している周波数帯に合わせた電磁波吸収シートの提供が可能である。また、作製した吸収シートの吸収体域においては、10dBを超える吸収域の幅が広く、広帯域用の電磁波吸収シートとしても優れている。
【0060】
本発明の請求項3に係る電磁波吸収シートは、平均コイル長さ20μm〜40μm、平均コイル径400nm〜800nm、平均コイルピッチ400nm〜800nmのカーボンナノコイルを樹脂100重量部に対し1〜10重量部含有しているため、1GHz〜100GHz(特に1GHz〜20GHz)の周波数に対して特に優れた電磁波吸収特性を示す。
【0061】
より具体的には、平均コイル長さ20μm〜40μm、平均コイル径400nm〜800nm、平均コイルピッチ400nm〜800nmのカーボンナノコイルを用いた請求項3に係る電磁波吸収シートにおいて、カーボンナノコイルの混入量を樹脂100重量部に対し1〜10重量部、電磁波吸収シートの厚みを1mm〜10mmとしたものは、1〜20GHzの周波数に対して電磁波吸収量が20dB以上という優れた電磁波吸収特性を示す。また、カーボンナノコイルの添加量が少量でも優れた反射損失を示すため、カーボンナノコイルによる高コスト化を抑制できると同時に、シートの厚みが特に薄いためコンパクト化が大幅に図れる。このことは実施例9における電磁波吸収特性を示した図13より、厚みが1.6mmの場合吸収ピークを示す周波数が20GHzであることから分かる。
【0062】
また、平均コイル長さ20μm〜40μm、平均コイル径400nm〜800nm、平均コイルピッチ400nm〜800nmのカーボンナノコイルを用いた請求項3に係る電磁波吸収シートにおいて、カーボンナノコイルの混入量を樹脂100重量部に対し1〜10重量部、電磁波吸収シートの厚みを500μm〜3mmとしたものは、20〜60GHzの周波数に対して電磁波吸収量が20dB以上という優れた電磁波吸収特性を示す。また、カーボンナノコイルの添加量が少量でも優れた反射損失を示すため、カーボンナノコイルによる高コスト化を抑制できると同時に、シートの厚みが特に薄いためコンパクト化が大幅に図れる。このことは実施例8における電磁波吸収量を示した図13より、厚みが500μmの場合吸収ピークを示す周波数が60GHzであることから分かる。
【0063】
さらに、平均コイル長さ20μm〜40μm、平均コイル径400nm〜800nm、平均コイルピッチ400nm〜800nmのカーボンナノコイルを用いた請求項3に係る電磁波吸収シートにおいて、カーボンナノコイルの混入量を樹脂100重量部に対し1〜10重量部、電磁波吸収シートの厚みを1μm〜2mmとしたものは、60〜100GHzの周波数に対して電磁波吸収量が20dB以上という優れた電磁波吸収特性を示す。また、カーボンナノコイルの添加量が少量でも優れた反射損失を示すため、カーボンナノコイルによる高コスト化を抑制できると同時に、シートの厚みが特に薄いためコンパクト化が大幅に図れる。このことは実施例9における電磁波吸収量を示した図13より、厚みが1.6mmの場合吸収ピークを示す周波数が100GHzであることから分かる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0065】
実施例1
スチレン系樹脂(スチレン系エラストマー;シェル化学社製、「クレイトン」)を、クロロホルムに樹脂固形分が25重量%程度となるように添加及び攪拌することにより、樹脂が溶解したクロロホルム溶液を調製した。
【0066】
次いで、調製した溶液に、カーボンナノコイル(平均コイル長20μm、平均コイル径440nm、平均コイルピッチ560nm、平均繊維径150nm)を、溶解した樹脂100重量部に対して、5重量部となるように添加及び攪拌した後、半日程度静置することにより、クロロホルムを徐々に蒸発させて、実施例1の電磁波吸収シート(厚さ200μm)を製造した。
【0067】
実施例2
カーボンナノコイル(平均コイル長20μm、平均コイル径440nm、平均コイルピッチ560nm、平均繊維径150nm)の代わりに、当該カーボンナノコイルを超音波ホモジナイザー(エスエムテー社製、50W、20kHz)で超音波を10分間照射することによりコイル長を短く切断したカーボンナノコイル(平均コイル長10μm、平均コイル径440nm、平均コイルピッチ560nm、平均繊維径150nm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2の電磁波吸収シート(厚さ200μm)を製造した。
【0068】
電磁波吸収特性の測定(同軸管法)
下記の測定器具を用いて、同軸管法により、実施例1及び2の電磁波吸収シートの複素比誘電率を測定した。測定結果を図5(左図が実施例1、右図が実施例2)に示す。
・誘電率測定用治具:同軸管(外径7mm、内径3.04m;(株)関東電子応用開発社製、「CSH2−APC7」)、
・ネットワークアナライザ: Agilent Technologies E8361A (10MHz−67GHz)
・ソフトウェア: Agilent Technologies 85071 Version E1.01
(計算モデルとして “precision model”を使用)
図5から、電磁波吸収シートの厚みを2mm、2.5mm及び3mmとした場合の電磁波吸収量(反射減衰量)を計算した。この計算結果を図6(左図が実施例1、右図が実施例2)に示す。
【0069】
面配向の測定試験
実施例1の電磁波吸収シートの表面を酸素プラズマでアッシングし、走査型電子顕微鏡(JEOL、JSM7401F)にて、5000倍の倍率で画像を撮影した。画像に撮影されたカーボンナノコイルの中から任意に100本選択し、当該カーボンナノコイルの軸方向と、電磁波吸収シートとのなす角度を測定したところ、90本以上のカーボンナノコイルの角度が10°以下であった。
【0070】
実施例3
カーボンナノコイル(平均コイル長20μm、平均コイル径440nm、平均コイルピッチ560nm、平均繊維径150nm)を、樹脂100重量部に対して、5重量部の代わりに4重量部となるように添加した以外は実施例1と同様にして、実施例3の電磁波吸収シート(厚さ500μm)を製造した。
【0071】
実施例4
カーボンナノコイル(平均コイル長20μm、平均コイル径440nm、平均コイルピッチ560nm、平均繊維径150nm)の代わりに、カーボンナノコイル(平均コイル長26μm、平均コイル径920nm、平均コイルピッチ670nm、平均繊維径200nm)を用いた以外は、実施例3と同様にして、本願実施例4の電磁波吸収シート(厚さ500μm)を製造した。
【0072】
<電磁波吸収特性の測定(同軸管法)>
実施例3及び4の電磁波吸収シートの電磁波吸収特性について、実施例1と同様にして求めた。図7に、実施例3及び4の電磁波吸収シートの複素比誘電率の測定結果(左図が実施例3、右図が実施例4)を示す。図8に、電磁波吸収シートの厚みを実施例3では2mm、2.5mm及び3mmとした場合の、実施例4では5mm、10mm及び20mmとした場合の、電磁波吸収量の計算結果(左図が実施例3、右図が実施例4)に示す。
【0073】
実施例5
カーボンナノコイル(平均コイル長20μm、平均コイルピッチ560nm、平均繊維径150nm、平均コイル径440nm)の代わりに、カーボンナノコイル(平均コイル長28μm、平均コイル径440nm、平均コイルピッチ960nm、平均繊維径220nm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例5の電磁波吸収シート(厚さ500μm)を製造した。
【0074】
<電磁波吸収特性の測定(同軸管法)>
実施例5の電磁波吸収シートの電磁波吸収特性について、実施例1と同様にして求めた。図9に、実施例5の電磁波吸収シートの複素比誘電率の測定結果を示す。図10に、電磁波吸収シートの厚みを3mm、6mm、12mm及び24mmとした場合の電磁波吸収量の計算結果に示す。
【0075】
実施例6
スチレン系樹脂の代わりに、ウレタン系樹脂(ディーアイシー・バイエル・ポリマー社製、「パンデックス」)を用い、かつ、カーボンナノコイル(平均コイル長20μm、平均コイル径440nm、平均コイルピッチ560nm、平均繊維径150nm)を、当該樹脂100重量部に対して、5重量部の代わりに4重量部となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、実施例6の電磁波吸収シート(厚さ500μm)を製造した。
【0076】
実施例7
カーボンナノコイル(平均コイル長20μm、平均コイル径440nm、平均コイルピッチ560nm、平均繊維径150nm)を、樹脂100重量部に対して、4重量部の代わりに3重量部となるように添加した以外は実施例6と同様にして、実施例7の電磁波吸収シート(厚さ500μm)を製造した。
【0077】
<電磁波吸収特性の測定(同軸管法)>
実施例6及び7の電磁波吸収シートの電磁波吸収特性について、実施例1と同様にして求めた。図11に、実施例6及び7の電磁波吸収シートの複素比誘電率の測定結果(左図が実施例6、右図が実施例7)を示す。図12に、電磁波吸収シートの厚みを2mm、2.5mm及び3mmとした場合の電磁波吸収量の計算結果(左図が実施例6、右図が実施例7)に示す。
【0078】
実施例8及び9
得られる電磁波吸収シートの厚さを、それぞれ500μm、1.6mmとした以外は実施例1と同様にして、実施例8(厚さ500μm、10cm×10cm)及び実施例9(厚さ1.6mm、10cm×10cm)の電磁波吸収シートを製造した。
【0079】
<実施例1および実施例2(コイル長さの影響)の考察>
実施例1および実施例2から得られる図6の電磁波吸収量を比較すると、実施例1の方はいずれの厚みにおいても30dB以上の電磁波吸収量をもつのに対して、実施例2では20dB前後であり、実施例1のコイル長さが20μmの方が、コイル長さが10μmの実施例2よりも電磁波吸収特性が非常に優れていることが分かる。本実施例の結果より、電磁波吸収シートに添加するカーボンナノコイルの平均コイル長は20μm〜40μmが最も好ましい。
【0080】
<実施例3および実施例4(コイル径の影響)の考察>
実施例3および実施例4から得られる図8の電磁波吸収量を比較すると、実施例3の方はいずれの厚みにおいても30dB以上の電磁波吸収量をもつのに対して、実施例4では10dB前後であり、実施例3の平均コイル径が440nmの方が、平均コイル径が920nmの実施例4よりも電磁波吸収特性が非常に優れていることが分かる。本実施例の結果より、電磁波吸収シートに添加するカーボンナノコイルの平均コイル径は400nm〜800nmが最も好ましい。
【0081】
<実施例1および実施例5(コイルピッチの影響)の考察>
実施例1および実施例5から得られる図6(左)と図10の電磁波吸収量を比較すると、実施例1の方はいずれの厚みにおいても30dB以上の電磁波吸収量をもつのに対して、実施例5では10dB前後であり、実施例3の平均コイルピッチが560nmの方が、平均コイル径が960nmの実施例5よりも電磁波吸収特性が非常に優れていることが分かる。本実施例の結果より、電磁波吸収シートに添加するカーボンナノコイルの平均コイルピッチは400nm〜800nmが最も好ましい。
【0082】
<電磁波吸収特性の測定(自由空間法)>
実施例8及び9の電磁波吸収シートを用いて、ミリ波帯域の電磁波吸収量を自由空間法により測定した。この測定結果を図13に示す。
【0083】
なお、測定器具としてファインセラミックスセンター設置の電磁波吸収測定装置(ネットワークアナライザ;アジレントテクノロジー社製;型番8510XF、ホーンアンテナ;HVS Technologies,lnc.製;型番FSS−07)を使用した。
【0084】
図13から、本願発明の電磁波吸収シートは、18GHz以上という高い周波数帯域においても、電磁波を吸収することが可能であることが分かった。
【0085】
<実施例8および実施例9の考察>
図13より、厚みが1.6mmの場合は、周波数が20GHz近辺に電磁波吸収量が20dB以上の吸収ピークを持つことがわかり、また厚みが500μmの場合は、周波数が60GHz近辺に電磁波吸収量が20dB以上の吸収ピークを持つことが分かる。
【0086】
<近似解による吸収特性の測定>
実施例6の電磁波吸収シートについて、上記(1)式を用いて導出された上記(3a)及び(3b)に基づいて、2つの曲線(複素比誘電率の実部(εγ’)を示す曲線及び複素比誘電率の虚部(εγ’’)を示す曲線)を同一のグラフに表出した。これを図14に示す。この図14から明らかなように実部(εγ’)の曲線と虚部(εγ’’)の曲線が周波数700MHz〜18GHz付近で実質的に一致していることから、本発明の電磁波吸収シートは700MHz〜18GHzの幅広い帯域に対して吸収可能な電磁波吸収シートを調節できることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は本発明の電磁波吸収シート中におけるカーボンナノコイルが面配向している場合と面配向していない場合の概念図を示す。
【図2】図2は、金属板が積層された電磁波吸収シートを示す。
【図3】図3は、厳密解と近似解との整合性を示したグラフである。
【図4】図4は、本発明の厚み調整方法に使用するグラフの一例である。
【図5】図5は、本願実施例1及び2の電磁波吸収シートの複素比誘電率の測定結果を示す。
【図6】図6は、本願実施例1及び2の電磁波吸収シートの電磁波吸収量の測定結果を示す。
【図7】図7は、本願実施例3及び4の電磁波吸収シートの複素比誘電率の測定結果を示す。
【図8】図8は、本願実施例3及び4の電磁波吸収シートの電磁波吸収量の測定結果を示す。
【図9】図9は、本願実施例5の電磁波吸収シートの複素比誘電率の測定結果を示す。
【図10】図10は、本願実施例5の電磁波吸収シートの電磁波吸収量の測定結果を示す。
【図11】図11は、本願実施例6及び7の電磁波吸収シートの複素比誘電率の測定結果を示す。
【図12】図12は、本願実施例6及び7の電磁波吸収シートの電磁波吸収量の測定結果を示す。
【図13】図13は、本願実施例8及び9の電磁波吸収シートの電磁波吸収量の測定結果を示す。
【図14】図14は、実施例6の電磁波吸収シートについて、厚みと吸収周波数との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノコイル及び樹脂を含有する電磁波吸収シートであって、
(1)前記カーボンナノコイルが、平均コイル長1μm以上100μm未満、平均コイル径1nm以上1μm未満及び平均コイルピッチ1nm以上1μm未満であり、
(2)前記カーボンナノコイルが、樹脂100重量部に対し、1〜10重量部の割合で含有されている、
ことを特徴とする電磁波吸収シート。
【請求項2】
前記カーボンナノコイルが、平均コイル長10μm〜40μm、平均コイル径が1nm〜1μm未満及び平均コイルピッチ1nm以上1μm未満である、請求項1に記載の電磁波吸収シート。
【請求項3】
前記カーボンナノコイルが、平均コイル長20μm〜40μm、平均コイル径が400nm〜800nm未満及び平均コイルピッチ400nm〜800nmである、請求項1に記載の電磁波吸収シート。
【請求項4】
電磁波吸収シートの厚みが1μm〜10mm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【請求項5】
前記カーボンナノコイルが、電磁波吸収シートの面方向に配向している、請求項1〜4のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【請求項6】
1GHz〜100GHzの周波数帯域において、反射損失が10dB以上である吸収帯域を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【請求項7】
一方の面に金属板が積層されてなる、請求項1〜6のいずれかに記載の電磁波吸収シート。
【請求項8】
カーボンナノコイル及び樹脂を含有する電磁波吸収シートの製造方法であって、
平均コイル長1μm以上100μm未満、平均コイル径1nm以上1μm未満及び平均コイルピッチ1nm以上1μm未満であるカーボンナノコイルを、樹脂が溶解した有機溶媒に混合し、次いで、当該有機溶媒を蒸発させる工程、
を備えた、電磁波吸収シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−60060(P2009−60060A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228403(P2007−228403)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】