説明

電磁波抑制体及びその製造方法

【課題】高い不凍性と高い難燃性を有する電磁波抑制体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】防湿フィルム11a,11bとx質量%のアルコール類を含有するアクリレート系高分子ゲルとからなる電磁波抑制シート1の厚さ(t2)ymmを、xy座標(x,y)において、a点(10,1.0)、b点(10,3.0)、及びc点(20,1.0)の3点を結んで形成される領域内に成型する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器等から発生する電磁波の不要輻射を抑制する電磁波抑制体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器等から発生する電磁波の不要輻射が問題となっている。特に、高周波数の電磁波の利用の増加に伴って、電磁波ノイズ(干渉)による機器の誤作動や、脳、人体への悪影響といった被害、障害等が新たな環境問題として提起されている。
【0003】
このような電磁干渉(EMI:Electromagnetic Interference)の問題に対処するために、個々の電子機器において、他の機器の正常な作動を妨害するような不要な電磁波の放射を抑制することや、外部から進入する電磁波に対して影響を受けることがない程度まで耐力を向上させることによって、相互の影響を十分に低減ないし回避できる構成とすることが要求されている。
【0004】
電磁波抑制体(電磁波吸収体)における電磁波吸収の原理は、入射した電磁波エネルギーのほとんどを電磁波抑制体の内部で熱エネルギーに変換するというものである。よって、電磁波抑制体では、その前方に反射するエネルギーと後方へ透過するエネルギーの双方を低減することができる。
【0005】
電磁波の熱エネルギーへの変換メカニズムは、主に、導電損失、誘電損失、磁性損失に分類され、これら3種類の損失により、電磁波の熱エネルギーへの変換量(電波吸収量)が想定される。このとき、単位体積あたりの電磁波吸収エネルギーP[W/m]は、電界E、磁界H及び周波数fを用いて、数式(1)のように表される。
【0006】
【数1】

【0007】
この数式(1)において、第1項が導電損失、第2項が誘電損失、第3項が磁性損失を表している。
【0008】
このような電磁波抑制体の一つとして、現在、磁性シートが主に電子機器に利用され、特に、プリント回路基板上、フレキシブルプリント回路(FPC:Flexible Printed Circuits)上、パッケージ上面等に貼り付けて利用されている。磁性シートは、フェライトや金属磁性粉末を樹脂と混合した材料をはじめとして、カーボン系の材料を含有させたもの等、様々な種類のものが開発されている。
【0009】
この磁性シートの使い方には、主に2通りの使い方がある。一つは、アンテナ源から輻射された電磁波を吸収する使い方であり、もうひとつは、アンテナ源に高調波ノイズ成分が乗ることを未然に抑制する高調波フィルタとしての使い方である。
【0010】
しかし、磁性シートは、光透過性(透明性)が低いことから、例えば建造物の窓等に用いて、透明部材による構造を通じて室内に飛来する電磁波の低減に寄与させることが難しいのが現状である。
【0011】
そこで、最近ではNaClを含有するゲル組成物が透明性を有しつつ、且つ電磁波抑制体として機能することから、注目を集めている(例えば特許文献1参照。)。NaClのゲル電解質は、高い誘電損失を有することから、MHz帯域、GHz帯域において高い電磁波吸収率が期待されている。
【0012】
【特許文献1】特開2006−73991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、電子機器は、寒冷地、冷凍室等の低温環境においても使用されている。このため、電磁波抑制体としてゲル組成物を電子機器に用いた場合、氷点下でゲルの水分が凍結してゲル組成物の誘電率が低下し、電磁波抑制機能が発揮されないことがあった。
【0014】
また、電磁波抑制体は、内部で電磁波を熱エネルギーに変換することから、高い難燃性が望まれていた。
【0015】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、高い不凍性と高い難燃性を有する電磁波抑制体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本件発明者は、上述の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アクリレート系高分子ゲルを有する電磁波抑制シートにおいて、アクリレート系高分子ゲルのアルコール類の濃度及び電磁波抑制シートの厚さを規定することにより、高い不凍性と高い難燃性が得られることを見出した。
【0017】
すなわち、本発明に係る電磁波抑制体は、第1の防湿フィルムと、第2の防湿フィルムと、前記第1の防湿フィルムと前記第2の防湿フィルムとの間に封止されるアクリレート系高分子ゲルとからなる電磁波抑制シートを有し、前記アクリレート系高分子ゲルが、x質量%のアルコール類を含有し、前記電磁波抑制シートの厚さymmが、xy座標(x,y)において、a点(10,1.0)、b点(10,3.0)、及びc点(20,1.0)の3点を結んで形成される領域内にあることを特徴としている。
【0018】
また、本発明に係る電磁波抑制体の製造方法は、第1の防湿フィルムと第2の防湿フィルムとの間に、x質量%のアルコール類と、アクリレート系モノマーと、重合開始剤とを含有する組成物を注入して密閉し、前記第1の防湿フィルムと、前記第2の防湿フィルムと、前記組成物がゲル化したアクリレート系高分子ゲルとからなる電磁波抑制シートの厚さymmを、xy座標(x,y)において、a点(10,1.0)、b点(10,3.0)、及びc点(20,1.0)の3点を結んで形成される領域内に成型することを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、アクリレート系高分子ゲルのアルコール類の濃度、及びこのアクリレート系高分子ゲルを有する電磁波抑制シートの厚さを所定範囲に規定することより、高い不凍性と高い難燃性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は、本実施の形態における電磁波抑制体の断面図である。この電磁波抑制体は、防湿フィルム11a,11bの間に電磁波抑制材料12が封止されて構成される電磁波抑制シート1を有する。すなわち、電磁波抑制シート1は、防湿フィルム11a,11bの厚さt1と電磁波抑制材料12の厚さとが加算される厚さt2を有する。なお、防湿フィルム11a,11bの厚さt1は、0.05〜0.2mm程度である。
【0022】
防湿フィルム11a,11bは、優れた防湿性を有し、電磁波抑制材料の水分が蒸発するのを防止する。防湿フィルム11a,11bは、例えば、金属酸化物等の透湿防止用バリア層が形成されたPET(polyethylene terephthalate)フィルムを熱可塑性樹脂にて複数枚ラミネートし、最表面である封止面に封止用熱可塑性樹脂を形成したものである。このような防湿フィルム11a,11bの一例として、株式会社クレハ製セレール(商標)が挙げられる。
【0023】
電磁波抑制材料12は、アルコール類と、電解質とを含有するアクリレート高分子ゲルからなる。このゲル化合物は、アルコール類と電解質とを含有するため、ゲルの凍結点が降下し、低温環境においても電磁波抑制機能が安定的に維持される。
【0024】
アルコール類は、不凍液として作用するものが用いられる。例えば、1級アルコール、2級アルコール、3級以上のアルコール類が挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、ペンタエリスリトール等が挙げられ、その中でも、機能発現及び他の化合物との相互作用の観点から、グリコール類、特にはエチレングリコールが最も好ましい。
【0025】
電解質は、溶液の凝固点降下を引き起こすものが用いられる。例えば、高誘電率の極性溶媒に高い溶解度を有するものが挙げられる。上述の数式(1)中の誘電損失である第2項の誘電率ε’’が高い材料は、MHz帯域、GHz帯域の高周波数帯域において電磁波を効率的に吸収、抑制するため、電解質溶液をゲルに含有させることにより、高周波数帯域における電磁波吸収効率を高めることができる。
【0026】
図2は、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムの水への溶解度を示すグラフである。このグラフは、溶媒100gに溶ける溶質の質量をグラム単位で表した数値で示したものである。この4種類の物質のうち、塩化カリウム及び塩化ナトリウムは、溶解度曲線の勾配が小さく、多少の温度変化でも結晶が析出する可能性が少ないため、イオンが安定的に維持される。
【0027】
このような電解質としては、溶液中で完全にイオンに解離する強電解質であることが好ましく、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム等が挙げられる。なお、酢酸カルシウムは保水性、拡散性を有するグリセリンとともに用いることにより電磁波抑制機能を持続的に維持することが可能となる。
【0028】
アクリレート系高分子ゲルは、アクリレート系モノマーに重合開始剤及び架橋剤が添加されて得られる三次元の網目構造を有している。この三次元の網目構造は、重合開始剤がアクリレート系モノマー同士の連鎖反応を開始させ、架橋剤がアクリレート系高分子の側鎖の一部と連結する架橋の役割を果たすことにより形成されたものである。
【0029】
このような電磁波抑制シート1において、アクリレート系高分子ゲルが、x質量%のアルコール類を含有し、電磁波抑制シート1の厚さ(t2)ymmが、xy座標(x,y)において、a点(10,1.0)、b点(10,3.0)、及びc点(20,1.0)の3点を結んで形成される領域内にあることが望ましい。これにより電磁波抑制シート1は、高い不凍性と高い難燃性を有することとなる。
【0030】
また、本実施の形態における電磁波抑制体は、電磁波抑制シート1の少なくとも一方の面上に接着剤層2を有する。すなわち、接着剤層2は、防湿フィルム11a,11bの少なくとも一方に配される。
【0031】
接着剤層2は、基材である不織布21と、接着剤22とを有する。また、電磁波抑制シート1と反対側の接着剤層2上には、剥離用PET(polyethylene terephthalate)が貼着される。そして、使用時にこれを剥離し、電磁波が発生する部位に接着剤層2を貼り付けることにより、電子機器に電磁波抑制体が搭載される。なお、接着剤層2の厚さは、100μm〜200μm程度である。
【0032】
不織布21は、複数の原料を組み合わせたり、繊維長や太さなどの形状を調整したりすることで目的・用途に応じた機能を持たせることができる。これらの原料としては、例えば、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維等を挙げることができる。
【0033】
接着剤22は、不織布21からなるテープ状基材に塗布又は浸漬可能な粘着剤である。接着剤22は、圧力が加えられることで被着材に対する流動性を持ち、また、剥離に対する凝集性を持つ。このような接着剤22として、アクリル樹脂系樹脂が挙げられる。例えば、アクリル酸エステルモノマーを極性の高いモノマーと共重合させて接着剤を合成し、これをティッシュペーパー(不織布)に塗布すれば、両面テープを得ることができる。
【0034】
また、接着剤22は、難燃剤としてヘキサブロモベンゼン、三酸化アンチモン等を含有することが好ましい。これにより電磁波抑制体は、さらに高い難燃性を有することとなる。
【0035】
このような電磁波抑制体は、電磁波抑制シート1が防湿フィルム11a,11bにより電磁波抑制材料12を封止した構造であるため、その形状を十分に保持することができる。また、電磁波抑制体は、電磁波抑制機能を安定的に維持できる上、高い柔軟性を有するため、フレキシブルプリント基板等の複雑な形状の構造体に貼り付けることができる。
【0036】
次に、本実施の形態における電磁波抑制体の製造方法について説明する。先ず、電解質、アルコール類、アクリレート系モノマー、架橋剤を溶媒に溶解させ、重合開始剤を入れて十分に攪拌する。
【0037】
ここで、アクリレート系モノマーとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、芳香族アクリレート、アクリルアミド等、1官能アクリレートであれば何れのものでもよく、特に、アルコール類や電解質との相互作用の観点から、アクリルアミドが最も好ましい。
【0038】
また、架橋剤としては、例えば、2官能アクリレート、3官能以上のアクリレートが挙げられる。その中でも、アルコール類や電解質との相互作用の観点から、N,N’−アルキレンビスアクリルアミドが好ましく、N,N’−メチレンビスアクリルアミドが最も好ましい。また、架橋方法としては、熱架橋と光架橋とを併用した架橋方法を用いることが可能である。
【0039】
また、重合開始剤としては、例えばラジカル開始剤が挙げられ、特に、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤が好ましい。その中でも、アルコール類や電解質との相互作用の観点から、ペルオキソ二硫酸アンモニウムが最も好ましい。
【0040】
次に、常温で減圧した真空オーブン内に攪拌後の混合溶液を入れ、混合溶液内の酸素を抜く脱泡処理を行う。
【0041】
次に、上述した防湿フィルム11a,11bを所定のサイズにカットし、熱可塑性樹脂形成面である封止面を向かい合わせにして、インパクトシーラーにて、所定の温度を加えて、混合溶液の注入口以外の3方向をラミネートし、防湿フィルム11a,11bの袋を作成する。
【0042】
次に、厚み出し治具に防湿フィルム11a,11bの袋を差し込み、この袋の中に混合溶液を注入して充填する。インパクトシーラーにより、溢れ出た混合溶液を押し出しながら防湿フィルム11a,11bの袋の注入口を閉じて所定厚さのシート形状にする。
【0043】
次に、厚み出し治具に挟まれた所定厚さのシートをオーブンに入れ、シート内でアクリレート系モノマーの重合反応及び架橋反応を行わせてアクリルアミド系高分子ゲルからなる電磁波抑制材料12を生成し、電磁波抑制シート1を成型する。
【0044】
具体的なアクリルアミド系高分子ゲルの一例として、アクリレート系モノマーとしてアクリルアミド、架橋剤としてN,N’−メチレンビスアクリルアミド、重合開始剤としてペルオキソ二硫酸アンモニウム、さらには、電解質として塩化ナトリウム、アルコール類としてエチレングリコールを用いることができる。この場合、ペルオキソ二硫酸アンモニウムによりアクリルアミドが重合され、これとともに、架橋剤のN,N’−メチレンビスアクリルアミドがアクリルアミドの一部の側鎖に結合して架橋を形成し、三次元の網目構造を有するポリアクリルアミドが生成される。そして、このポリアクリルアミドが塩化ナトリウム溶液及びエチレングリコールを吸収して膨潤することによりポリアクリルアミドゲルが生成される。
【0045】
次に、オーブンから電磁波抑制シート1を取り出し、テープ状基材である不織布21を少なくともどちらか一方の面に配し、接着剤22を不織布21に塗布又は浸漬させ、接着剤層2を形成する。そして、接着剤層2上に剥離用PETを貼着し、電磁波抑制体を得る。
【0046】
本実施の形態では、防湿フィルム11a,11bとx質量%のアルコール類を含有するアクリレート系高分子ゲルとからなる電磁波抑制シート1の厚さ(t2)ymmを、xy座標(x,y)において、a点(10,1.0)、b点(10,3.0)、及びc点(20,1.0)の3点を結んで形成される領域内に成型することにより、高い不凍性と高い難燃性を得ることができる。
【0047】
また、電解質及びアルコール類の添加量を調整することにより、低温環境においてもゲルを凍結させずに安定的に電磁波抑制機能を発揮させることができる。特に、アルコール類を10質量%以上20質量%以下の範囲で添加する場合において、電解質を3.0mol/L以上添加することにより、ゲルの凍結点が−20℃以下の電磁波抑制材料12を得ることができる。これにより、電磁波抑制材料12は、低温環境においてもゲルが凍結せずに安定的に電磁波抑制機能を発揮でき、例えば日本国内では、一年を通じて屋内、屋外問わず殆どの場所でも使用可能となる。
【実施例1】
【0048】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0049】
<電磁波抑制シートの製造>
以下、電磁波抑制材料を防湿フィルムにより封止した電磁波抑制シートの製造方法について説明する。
【0050】
純水(68.62g)に塩化ナトリウム(8.01g、関東化学(株)社製)、エチレングリコール(17.16g、関東化学(株)社製)、アクリルアミド(6.10g、和光純薬工業(株)社製)、N−N’−メチレンビスアクリルアミド(0.07g、和光純薬工業(株)社製))を配合し、完全に溶解するまでスターラーで攪拌した。次に重合開始剤のペルオキソ二硫酸アンモニウム(0.04g、和光純薬工業(株)社製)を加え、ペルオキソ二硫酸アンモニウムが完全に溶解するまでスターラーで十分攪拌した。
【0051】
その結果、混合溶液の濃度は、塩化ナトリウム 2mol/L、エチレングリコール 20wt%、アクリルアミド 1.0mol/L、N,N’−メチレンビスアクリルアミド 0.5mol/L、ペルオキソ二硫酸アンモニウム 0.2mol/Lとなった。
【0052】
次に、常温で減圧した真空オーブン内に攪拌後の混合溶液を入れ、混合溶液内の酸素を抜く脱泡処理を行った。
【0053】
次に、上述した防湿フィルムとして株式会社クレハ製セレール(厚さ約0.125mm)を所定のサイズにカットし、熱可塑性樹脂形成面である封止面を向かい合わせにして、インパクトシーラーにて、所定の温度を加えて、混合溶液の注入口以外の3方向をラミネートし、防湿フィルムの袋を作成した。
【0054】
次に、ガラス基板と電磁波抑制シートに必要な厚さを有するアルミ板のスペーサーとから組み立てられた厚み出し治具に防湿フィルムの袋を差し込み、この超防湿フィルムの袋の中に混合溶液を注入して充填する。インパクトシーラーにより、溢れ出た混合溶液を押し出しながら防湿フィルムの袋の注入口を閉じて電磁波抑制シートの形状にした。
【0055】
続いて、厚み出し治具に混合溶液が充填されたシートを挟み、これを60℃に設定されたオーブンに入れ、シート中でアクリルアミドの重合反応及び架橋反応を行わせてポリアクリルアミドゲルを生成させる。これにより電磁波抑制シートが製造される。オーブンから電磁波抑制材料を封止した電磁波抑制シートを取り出した。
【0056】
<電磁波抑制材料の凍結点降下測定>
上述の製造方法において、塩化ナトリウム濃度〔mol/L〕及びエチレングリコール濃度〔%〕を変えて製造した場合の16種類の電磁波抑制シート(サンプル1〜16)の凍結点を測定した。サンプル1〜16における塩化ナトリウム濃度〔mol/L〕、エチレングリコール濃度〔wt%〕及び凍結点〔℃〕の値を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
この表1に示された値に基づく塩化ナトリウム濃度1.0mol/L,2.0mol/L,3.0mol/L,4.0mol/Lにおけるエチレングリコール濃度〔wt%〕と凍結点〔℃〕との関係を図3に示す。
【0059】
図3において、ポリアクリルアミドゲルの凍結点は、塩化ナトリウム濃度〔mol/L〕の増加に伴って降下した。また、ポリアクリルアミドゲルの凍結点は、エチレングリコール濃度〔wt%〕の増加に伴って降下した。
【0060】
この図3からもわかるように、塩化ナトリウム濃度が1.0mol/Lである場合、エチレングリコール濃度が10〜25wt%の何れであってもポリアクリルアミドゲルの凍結点は−20℃以下にはならなかった。
【0061】
<電磁波抑制体の難燃性測定>
電磁波抑制体の燃焼試験は、UL(Underwriter Laboratories Inc.)耐炎性試験規格UL94に準じて行った。垂直に支持した短冊状の試験片(125±5mm×13±0.5mm×厚さmm)の下端にバーナー炎をあてて10秒間保ち、その後バーナー炎を試験片から離し、炎が消えれば直ちにバーナー炎を更に10秒間あてたのちバーナー炎を離して判定を行った。判定は、1回目と2回目の接炎終了後の有炎燃焼持続時間、2回目の接炎終了後の有炎燃焼持続時間及び無炎燃焼持続時間の合計、5本の試験片の有炎燃焼時間の合計、並びに燃焼滴下物(ドリップ)の有無で判定した。V0判定は、1回目、2回目ともに10秒以内、V1,V2判定は、20秒以内に有炎燃焼を終えた場合とした。更に2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼時間の合計が、V0判定は30秒以内、V1,V2判定は60秒以内で消えた場合とした。更に5本の試験片の有炎燃焼時間の合計が、V0判定は50秒以内、V1,V2判定は250秒以内の場合とした。なお、燃焼落下物はV2のみに許容され、すべての試験片は燃え尽きてはいけない。
【0062】
上述した製造方法により得られた電磁波抑制シートのみからなる試験片は、燃え尽きてしまった。そこで、試験片の片面に難燃性の接着剤層を設けて燃焼試験を行った。
【0063】
難燃性の接着剤層としては、厚さ約150μmの感圧両面接着テープUT1515(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス(株)製)を用いた。この感圧両面接着テープは、不織布として新富士製紙(株)製コンロンI(厚さ約40μm)を含有し、難燃剤としてヘキサブロモベンゼン(HBB:CBr)を30〜40質量%、三酸化アンチモン(Sb)を5〜10質量%含有している。
【0064】
[試験片1]
上述の製造方法において塩化ナトリウム濃度を3mol/Lとし、エチレングリコール濃度を10質量%として、短冊状の電磁波抑制シート(125±5mm×13±0.5mm×厚さ0.5mm)を得た。そして、この電磁波抑制シートの片面に全面に亘って感圧両面接着テープUT1515を貼り付け、試験片1を作製した。
【0065】
[試験片2]
短冊状の電磁波抑制シートの厚さを1.0mmとした以外は、試験片1と同様にして試験片2を作製した。
【0066】
[試験片3]
短冊状の電磁波抑制シートの厚さを2.0mmとした以外は、試験片1と同様にして試験片3を作製した。
【0067】
[試験片4]
短冊状の電磁波抑制シートの厚さを3.0mmとした以外は、試験片1と同様にして試験片4を作製した。
【0068】
[試験片5]
エチレングリコール濃度を20質量%とした以外は、試験片1と同様にして試験片5を作製した。
【0069】
[試験片5]
エチレングリコール濃度を20質量%とし、短冊状の電磁波抑制シートの厚さを1.0mmとした以外は、試験片1と同様にして試験片6を作製した。
【0070】
[試験片7]
エチレングリコール濃度を20質量%とし、短冊状の電磁波抑制シートの厚さを2.0mmとした以外は、試験片1と同様にして試験片7を作製した。
【0071】
[試験片8]
エチレングリコール濃度を20質量%とし、短冊状の電磁波抑制シートの厚さを3.0mmとした以外は、試験片1と同様にして試験片8を作製した。
【0072】
[試験片9]
エチレングリコール濃度を20質量%とし、短冊状の電磁波抑制シートの厚さを1.0mmとし、UT1515と同じ樹脂で構成され、基材の不織布を含有しない接着剤層を設けた以外は、試験片1と同様にして試験片9を作製した。
【0073】
[試験片10]
エチレングリコール濃度を20質量%とし、短冊状の電磁波抑制シートの厚さを2.0mmとし、UT1515と同じ樹脂で構成され、基材の不織布を含有しない接着剤層を設けた以外は、試験片1と同様にして試験片10を作製した。
【0074】
[試験片11]
エチレングリコール濃度を10質量%とし、短冊状の電磁波抑制シートの厚さを3.0mmとし、UT1515と同じ樹脂で構成され、基材の不織布を含有しない接着剤層を設けた以外は、試験片1と同様にして試験片11を作製した。
【0075】
なお、エチレングリコール濃度を30質量%とした場合、ポリアクリルアミドゲルの硬化不良が発生し、所定厚さの電磁波抑制シートが製造できなかった。また、厚さが3.5mm以上の試験片は、実機の規定上製造できなかった。
【0076】
表2に、試験片1〜8の燃焼試験の結果を示し、表3に試験片9〜11の燃焼試験の結果を示す。
【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
この表2から分かるように、試験片2〜4,6については難燃性の判定を行うことができた。エチレングリコール濃度が10質量%の試験片1〜4において、厚さが0.5mmの試験片1は、ゲル量が少ないため水分も少なく、難燃性が発現しなかったと考えられる。また、試験片2〜4は、それぞれ、V1、V2、V0の難燃性を発現した。これは、厚さが1.0mm以上であるため、ゲル組成物に含まれる水分が多いためだと考えられる。
【0080】
また、エチレングリコール濃度が20質量%の試験片5〜8において、厚さが0.5mmの試験片5は、ゲル量が少ないため水分も少なく、難燃性が発現しなかったものと考えられる。また、厚さが1.0mmの試験片6は、V1の難燃性を発現したが、厚さが2.0mm以上試験片7,8は、燃え尽きてしまい、難燃性を発現しなかった。これは、厚さの増加に伴いゲル組成物に含まれるエチレングリコール量が多くなったためだと考えられる。
【0081】
すなわち、防湿フィルムとx質量%のエチレングリコールを含有するポリアクリレートゲルとからなる電磁波抑制シートの厚さymmを、xy座標(x,y)において、a点(10,1.0)、b点(10,3.0)、及びc点(20,1.0)の3点を結んで形成される領域内に成型することにより、高い不凍性と高い難燃性が得られることが分かった。
【0082】
また、表3に示すように、UT1515と同じ樹脂で構成され、基材の不織布を含有しない接着剤層を設けた試験片9〜11は、すべて燃え尽きてしまい、難燃性を発現しなかった。ここで、試験片6と試験片9、又は試験片4と試験片11を比較すると分かるように、不織布と難燃性接着剤とを含有する接着剤層を設けることにより、高い難燃性が得られることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本実施の形態における電磁波抑制シートの断面図である。
【図2】硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムの溶解度曲線図である。
【図3】塩化ナトリウム濃度1.0mol/L,2.0mol/L,3.0mol/L,4.0mol/Lにおけるエチレングリコール濃度(wt%)と凍結点(℃)との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
1 電磁波抑制シート、2 接着剤層、11a,11b 防湿フィルム、12 電磁波抑制材料、21 不織布、22 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の防湿フィルムと、第2の防湿フィルムと、前記第1の防湿フィルムと前記第2の防湿フィルムとの間に封止されるアクリレート系高分子ゲルとからなる電磁波抑制シートを有し、
前記アクリレート系高分子ゲルが、x質量%のアルコール類を含有し、
前記電磁波抑制シートの厚さymmが、xy座標(x,y)において、a点(10,1.0)、b点(10,3.0)、及びc点(20,1.0)の3点を結んで形成される領域内にある電磁波抑制体。
【請求項2】
前記アルコール類が、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタエリスリトールのうち少なくとも1種である請求項1記載の電磁波抑制体。
【請求項3】
前記アクリレート系高分子ゲルが、電解質を含有し、
前記電解質が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウムのうち少なくとも1種である請求項1記載の電磁波抑制体。
【請求項4】
前記電解質が、前記アクリレート系高分子ゲルの硬化前の組成物に3.0mol/L以上添加されている請求項3記載の電磁波抑制体。
【請求項5】
前記第1の防湿フィルム、前記第2の防湿フィルムの少なくともどちらか一方の面に不織布を基材とする接着剤層を有する請求項1乃至4のいずれか1項記載の電磁波抑制体。
【請求項6】
前記接着剤層が、ヘキサブロモベンゼン及び三酸化アンチモンを含有する請求項5記載の電磁波抑制体。
【請求項7】
第1の防湿フィルムと第2の防湿フィルムとの間に、x質量%のアルコール類と、アクリレート系モノマーと、重合開始剤とを含有する組成物を注入して密閉し、
前記第1の防湿フィルムと、前記第2の防湿フィルムと、前記組成物がゲル化したアクリレート系高分子ゲルとからなる電磁波抑制シートの厚さymmを、xy座標(x,y)において、a点(10,1.0)、b点(10,3.0)、及びc点(20,1.0)の3点を結んで形成される領域内に成型する電磁波抑制体の製造方法。
【請求項8】
前記アルコール類が、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタエリスリトールのうち少なくとも1種である請求項7記載の電磁波抑制体の製造方法。
【請求項9】
前記組成物が、電解質を含有し、
前記電解質が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウムのうち少なくとも1種である請求項7記載の電磁波抑制体の製造方法。
【請求項10】
前記電解質が、前記組成物に3.0mol/L以上添加されている請求項9記載の電磁波抑制体の製造方法。
【請求項11】
前記電磁波抑制シートを成型した後、前記第1の防湿フィルム、前記第2の防湿フィルムの少なくともどちらか一方の平面に不織布を基材とする接着剤層を形成する請求項7乃至10のいずれか1項記載の電磁波抑制体の製造方法。
【請求項12】
前記接着剤層が、ヘキサブロモベンゼン及び三酸化アンチモンを含有する請求項11記載の電磁波抑制体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−259905(P2009−259905A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104752(P2008−104752)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】