説明

電磁波遮蔽材料

【課題】自動車のボデイや電子機器の筐体等に用いて好適な電磁波遮蔽材料を提供する。
【解決手段】本発明に係る電磁波遮蔽材料10は、絹素材が1000℃以上の温度で焼成された炭素材料1が高分子材料2で被覆されていることを特徴とする。炭素材料1に、布状をなす絹素材を焼成したものを用いれば、炭素繊維間の接触性が良好で高い電磁波遮蔽効果を示す。また布状の絹素材を焼成した炭素材料はきわめて薄くでき、この炭素材料の片面側もしくは両面側を高分子材料で被覆した構成を採用することにより、軽量化ができ、また、高分子材料の厚さを選択することで必要な強度も確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のボデイや電子機器の筐体等に用いて好適な電磁波遮蔽材料に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃費規制強化が2010年までに日本や欧米でなされようとしている。そのために、自動車の軽量化が求められている。そこで、金属でできている自動車のボデイなどを樹脂に変更することが考えられる。しかし、自動車のボデイを樹脂にした場合には、外界からの電磁波による自動車の電子部品の誤作動が心配される。
樹脂に電磁波遮蔽効果をもたせる方法としては、樹脂表面に金属箔を貼り付けたり、金属膜をめっきやスパッタリングで形成したり、金属粉を樹脂中に混合する方法などがあるが、金属の腐食や重量増が問題となる。
また、絹(織物、編物、不織布、粉末等)を1000℃以上の高温で焼成することによって、焼成品自体に電磁波遮蔽効果があることが知られている(特開2002-76686号公報、特開2002-220745号公報、特開2002-363572号公報)。しかし、絹の焼成物のみでは、強度がなく、自動車のボデイや電子機器の筐体には使用できない。
【特許文献1】特開2002-76686号公報
【特許文献2】特開2002-220745号公報
【特許文献3】特開2002-363572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、
電磁波遮蔽効果が高く、また、必要な強度ももち、自在な形状に賦形できる電磁波遮蔽材料を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る電磁波遮蔽材料は、絹素材が1000℃以上の温度で焼成された炭素材料が高分子材料で被覆されていることを特徴とする。
また、絹素材が2000℃以上の温度で焼成された炭素材料であることを特徴とする。
前記炭素材料が繊維状、粉体状もしくは粒状をなすことを特徴とする。
あるいは、前記炭素材料が、布状をなす絹素材が焼成されてシート状をなすことを特徴とする。
【0005】
前記高分子材料には樹脂材料またはゴム材料を用いることができる。
また、前記炭素材料の片面側が高分子材料で被覆されていることを特徴とする。
あるいは、前記炭素材料の両面側が高分子材料で被覆されていることを特徴とする。
上記電磁波遮蔽材料で自動車ボデイや電子機器の筐体などの成形体を作製することで、成形体内の電子部品の誤作動を防止できる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、炭素材料に、絹素材を焼成したものを用いたので、導電性に優れ、高い電磁波遮蔽効果を示す。特に布状をなす絹素材を焼成したものを用いれば、炭素繊維間の接触性が良好でより高い電磁波遮蔽効果を示す。また布状の絹素材を焼成した炭素材料はきわめて薄くでき、この炭素材料の片面側もしくは両面側を高分子材料で被覆した構成を採用すると、軽量化ができ、また、高分子材料の厚さを選択することで必要な強度も確保できるという作用効果を奏するものであり、自動車のボデイ材料、電子機器の筐体の材料などに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、電磁波遮蔽材料10の一例を示す説明図であり、1は、後記するように、布状(織物状、編物状、不織布状など)をなす絹素材を焼成して形成された炭素材料であり、この炭素材料1の片面側をシート状をなす高分子材料2で被覆したものである。
炭素材料1の厚さは、用いる絹素材の厚さにより調整でき、50μm程度の薄いものも形成できる。絹素材を焼成することで、炭素材料1の厚さは、概ね絹素材の厚さのほぼ半分に減じる。
【0008】
図2は、炭素材料1の両面側を高分子材料2で被覆した電磁波遮蔽材料10を示す。図3は、炭素材料1の両面側だけでなく、側面部もすべて高分子材料2で覆った例を示す。
【0009】
高分子材料2には、ABS樹脂、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ナイロン/ポリアミド、ポリカーボネイト、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、フッ素樹脂、エラストマーなどの熱可塑性樹脂や、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ケイ素樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリ乳酸等の生分解性樹脂等の樹脂材料が使用できる。これらの樹脂は組み合わせて使用してもよい。
【0010】
あるいは高分子材料2には、天然ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エチレン・プロピレンゴム等のゴム材料も用いることができる。
【0011】
高分子材料2は、強度をもたせるため厚みのあるものやフィルム状のものを用途によって使い分けることができる。また、用途に合わせて難燃性をもたせた樹脂を使用することができる。
電磁波遮蔽材料10を製造するには、各材料を図1、図2あるいは図3に示すような順に積層、配置し、成形型(図示せず)内に入れて熱プレスすることによって、所要形状の電磁遮蔽材料10に形成することができる。したがって、自動車のボデイや、電子部品の筐体などに容易に賦形できる。
【0012】
また、各材料を上記のように配列して熱プレスすることによって、溶融樹脂やゴム材料が炭素材料1の隙間に入り込むので、材料間の密着性がよく、また強度も向上する。
なお、電磁波遮蔽材料10の製造方法は熱プレスに限られず、真空成形法やスプレーアップ法など種々の方法を採用しうることはもちろんである。
【0013】
次に、炭素材料1の製造法について説明する。
炭素材料1は、織物状、編物状、不織布状等の布(シート)状をなす絹素材を焼成して作製する。
絹素材は、家蚕あるいは野蚕からなる絹材料を単独もしくは併用して用いる。
絹素材の焼成温度は1000〜3000℃の高温で行うようにする。
また焼成雰囲気は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中、あるいは真空中で行い、絹素材が燃焼して灰化してしまうのを防止する。
【0014】
焼成条件は、急激な焼成を避け、複数段に分けて焼成を行うようにする。
例えば、不活性ガス雰囲気中で、第1次焼成温度(例えば500℃)までは、毎時100℃以下、好ましくは毎時50℃以下の緩やかな昇温速度で昇温し、この第1次焼成温度で数時間保持して1次焼成する。次いで、一旦常温にまで冷却した後、第2次焼成温度(例えば700℃)まで、やはり毎時100℃以下、好ましくは50℃以下の緩やかな昇温速度で昇温し、この第2次焼成温度で数時間保持して2次焼成するのである。次いで冷却する。同様にして、第3次焼成(例えば最終焼成の2000℃)を行って絹焼成体(炭素材料)を得る。なお、焼成条件は上記に限定されるものではなく、絹素材の種類、求める絹焼成体の機能等により適宜変更することができる。
【0015】
上記のように、焼成を複数段に分けて行うこと、また緩やかな昇温速度で昇温して焼成することによって、十数種類のアミノ酸が、非晶性構造と結晶性構造とが入り組んだタンパク高次構造の急激な分解が避けられ、黒色の艶のある柔軟な(フレキシブル性のある)絹焼成体が得られる。
【0016】
上記では、炭素材料に、布状の絹素材を焼成したシート状のもので説明したが、炭素材料として、、繊維状、粉体状あるいは粒状のものを用いてもよい。
粉体状あるいは粒状の炭素材料とするには、上記の絹焼成体を粉砕して粉体状あるいは粒状のものとすることができる。
また、絹素材として布状のものでなく、当初から繊維状、粉体状あるいは粒状をなす絹素材を上記と同様にして焼成し、この焼成物をそのまま、あるいは適宜大きさに粉砕して、繊維状、粉体状、粒状のものとすることができる。
これら繊維状、粉体状、粒状の炭素材料を用いるときは、これら炭素材料を高分子材料表面に貼着して用いるか、高分子材料中に配合して用いるようにする。
【0017】
図4は粗粒シルクを2000℃(最終段の焼成温度)の高温で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。2681cm-1、1570cm-1、1335cm-1のところにピークが見られることからグラファイト化していることが理解される。
【0018】
図5、図6、図7は、粗粒シルクをそれぞれ700℃、1000℃、1400℃で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。1400℃の焼成温度になると、ピーク値は低いものの、上記3箇所でのピークが見られる。
1000℃未満の焼成温度の場合には、上記のピークが見られないことから、グラファイト化はほとんど起こっておらず、良好な導電性は期待できない。
したがって、電磁波遮蔽材料として用いる本発明では、絹素材を1000〜3000℃(最終段の焼成温度)の高温で焼成するようにする。
【0019】
上記のようにして、1400℃、2000℃で絹素材(織布)を焼成して得た絹焼成体の比抵抗を測定(単糸をほぐしたフィラメントで測定)したところ、いずれも、約1×10-5(Ω・m)であり、グラファイト(4〜7×10-7Ω・m)には及ばないものの、炭素(4×10-5)より良好な比抵抗となり、良好な電気伝導性を有していることがわかる。
【0020】
布状の絹素材は、その糸(単糸)の太さ、撚り方、編み方、織り方、不織布の密度を調整して、布の厚さや密度等を自由自在に変更できるので、これら布の厚さや密度を調整することによって、得られる絹焼成体(炭素材料)の厚さや密度を自在に調整できる。
また、得られた絹焼成体(炭素材料)は、柔軟でフレキシブル性に富み、どのような形状にでも変形できるので、熱プレス等によって高分子材料と共に所要形状の電磁波遮蔽材料10を形成するのに好都合である。
【0021】
上記のように、絹素材を高温で焼成した絹焼成体(炭素材料)は高い電気伝導性を有するので、良好な電磁波遮蔽効果を有する。
図8は、上記のようにして2000℃で焼成した絹焼成体の電磁波遮蔽効果を計測したグラフである。測定はKEC法で行った。電磁波のほとんどの周波数領域で、30〜50dBの電磁波の吸収度が示され、良好な電磁波遮蔽効果を有していることが示されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】電磁波遮蔽材料の断面説明図である。
【図2】他の例の電磁波遮蔽材料の断面説明図である。
【図3】さらに他の例の電磁波遮蔽材料の断面説明図である。
【図4】粗粒シルクを2000℃の高温で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。
【図5】粗粒シルクを700℃の高温で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。
【図6】粗粒シルクを1000℃の高温で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。
【図7】粗粒シルクを1400℃の高温で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。
【図8】KEC法で計測した、絹焼成体の電磁波遮蔽効果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0023】
1 炭素材料
2 樹脂材料
10 電磁波遮蔽材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絹素材が1000℃以上の温度で焼成された炭素材料が高分子材料で被覆されていることを特徴とする電磁波遮蔽材料。
【請求項2】
絹素材が2000℃以上の温度で焼成された炭素材料であることを特徴とする請求項1記載の電磁波遮蔽材料。
【請求項3】
前記炭素材料が繊維状、粉体状もしくは粒状をなすことを特徴とする請求項1または2記載の電磁遮蔽材料。
【請求項4】
前記炭素材料が、布状をなす絹素材が焼成されてシート状をなすことを特徴とする請求項1または2記載の電磁遮蔽材料。
【請求項5】
前記高分子材料が樹脂材料またはゴム材料であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の電磁遮蔽材料。
【請求項6】
前記炭素材料の片面側が高分子材料で被覆されていることを特徴とする請求項4記載の電磁波遮蔽材料。
【請求項7】
前記炭素材料の両面側が高分子材料で被覆されていることを特徴とする請求項4記載の電磁波遮蔽材料。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項記載の電磁波遮蔽材料からなる成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−80174(P2006−80174A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260425(P2004−260425)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】