説明

電磁石、磁場印加装置および磁場印加システム

【課題】簡便に、被測定物等へ任意の方向(被測定物等の座標系に対して全方向)に磁場を印加する電磁石を提供する。
【解決手段】先端付近の断面が円形状である中心ヨーク(第1のヨーク)と、第1のヨーク周囲に巻き回された巻線導体と、円形状の開口部を有するヨーク(第2のヨーク)とを有し、第1のヨークの先端の中心軸と第2のヨークの開口部の中心軸とが一致しており、第1のヨークの先端を含み前記中心軸を法線とする面(区画面)で分割される空間領域のうち第1のヨークが存在する領域とは反対側の領域を磁場発生領域とし、第2のヨークの開口部が形成される一面が前記区画面とほぼ同一面にある電磁石であって、磁場発生領域内に設置する試料位置と巻線導体に流す電流方向とを変化させることにより、試料に任意方向の磁場を印加可能な電磁石。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意方向に磁場を印加可能な電磁石、磁場印加装置、磁場印加システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗測定装置、振動試料磁力計、MRAM・評価装置を始めとする各種磁気物性測定装置用電磁石、磁場中熱処理装置、着磁脱磁処理装置、飽和磁歪測定装置等の電磁石を用いた処理装置など、磁気応用産業から半導体産業、さらには医療やバイオ分野と、磁場を使用する技術が多方面にわたって実用化されている。
【0003】
上記の分野においては、所望の方向に磁場を印加して被測定物の磁場中の特性を計測することや所望の磁場中に被処理物を配置して熱処理等を施すことによって被処理物の磁気特性を変化させること等のために、電磁石を使い電流制御や電磁石の回転等により所望の方向に磁場を印加することも行われている。例えば、下記の特許文献等に示されるように、一方向の磁場を印加しつつ被測定物を回転させることにより被測定物に印加される磁場を変化させる技術や、多極の電磁石を形成して電流の位相をずらしてコイルに印加することにより極間隙に任意の角度の磁場を発生させることができる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−65676号公報
【特許文献2】特開2001−102211号公報
【特許文献3】特開昭61−5507号公報
【特許文献4】特開昭62−128045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなこれまでの電磁石あるいはこれを応用した装置では、任意の方向に磁場を印加することに大きな課題がある。例えば、特許文献1の第1図に示される装置では、被測定物に面内の回転磁界は印加することができるとしても、例えば垂直方向に磁場を印加する際には被測定物をモーターごと90度回転させて被測定物を配置する必要があるが、このようにするとモーターや回転軸が電磁石の鉄芯と干渉することとなるため、かかる構成の電磁石あるいは装置では任意方向の磁場を印加することは困難である。
【0006】
また、特許文献2に記載の電磁石を利用した装置は、電磁石上部から挿入された試料を回転機構によって回転させることにより、回転軸に対して垂直な任意の方向への磁場印加は可能であるが、回転軸方向など回転軸に対して垂直方向以外の方向に磁場を印加することが難しく、一旦、被測定物あるいは被処理物を試料ホルダーへ取り付け直す作業が必要である。
【0007】
また、特許文献3には、中心軸方向の磁場を印加するための磁界発生装置が開示されているが、一方向のみの磁場を印加することを目的とする装置である。試料位置での発生可能な磁場は弱く、また、図1に示されるように試料に印加可能な磁場は中心軸方向の磁場のみであり、任意方向への磁場印加に使用されうることは記載されていない。
【0008】
また、特許文献4には、光記録媒体に垂直磁界を印加する装置が開示されているが、目的は垂直磁場を印加することである。また、比較例として示されている図3に記載の構成では、印加される磁界のほとんどが水平磁界になる旨が記載されており、どちらにしても一方向の磁場は印加可能であるものの、任意方向への磁場印加に使用されうることは記載されていない。
【0009】
すなわち、従来の技術では、被測定物等へ任意の方向(被測定物等の座標系に対して全方向)に磁場を印加することは難しく、可能であったとしても移動機構が複雑となり装置が大掛かりになる場合が多く、特に、被測定物にプローブを接触させて測定する場合など、機械的に動かすことに制約が多い場合は前記のような装置では任意方向の磁場を印加するには不向きである。
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、簡便に、被測定物等へ任意の方向(被測定物等の座標系に対して全方向)に磁場を印加する電磁石を提供することである。また、かかる電磁石を用いた磁場印加装置および磁場印加システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、軟強磁性体からなり先端付近の断面が円形状である中心ヨーク(第1のヨーク)と、
第1のヨーク周囲に巻き回された巻線導体と、
軟強磁性体からなり円形状の開口部を有するヨーク(第2のヨーク)とを有し、
第1のヨークの先端の中心軸と第2のヨークの開口部の中心軸とが一致しており、
第1のヨークの先端を含み前記中心軸を法線とする面(区画面)で分割される空間領域のうち第1のヨークが存在する領域とは反対側の空間領域を磁場発生領域とし、
第2のヨークの前記開口部が形成される一面が前記区画面とほぼ同一面にある電磁石であって、
磁場発生領域内に設置する試料位置と巻線導体に流す電流方向とを変化させることにより、試料に任意方向の磁場を印加可能な電磁石、を用いることにより解決可能である。
【0012】
この電磁石によれば、磁場発生領域に位置により様々な方向の磁場が発生することとなるため、被測定物等の平行移動だけで被測定物等に任意方向の磁場が印加可能となる。さらに、磁場発生領域には機械的干渉のない空間が存在するため、被測定物や被測定物を配置するステージ、移動機構、測定プローブ等の比較的自由な配置が可能となる。この電磁石は、中心ヨーク(第1のヨーク)と円形状の開口部を有するヨーク(第2のヨーク)とが配置されているので、垂直方向、水平方向ともに強い磁場を発生することが可能である。
【0013】
さらに、先端付近の断面が円形状である中心ヨーク(第1のヨーク)と円形状の開口部を有するヨーク(第2のヨーク)とが中心軸が一致するように配置されているので、磁場発生領域の磁場ベクトルを中心軸に対してほぼ回転対称にすることができ、中心ヨーク先端あるいは上面からの高さと中心軸からの距離とにより発生する磁場ベクトルが決定できるため、扱いが容易になるとともに、位置ごとの磁場ベクトルデータを取得することが容易になる。なお、先端付近の断面が円形状であればよいので、先端は面であることに限定されるものではなく、尖っていてもよいし、丸みを帯びていてもよい。
【0014】
また、小さいアンペアターンで、より強い磁場を発生するために、第2のヨークは巻線導体の外周部を囲う形状で、第1のヨークの先端とは逆の他端へ第2のヨークを通って磁束を導く形状であることが好ましい。第1のヨークとあわせて磁路を形成するため、磁場発生領域に大きな磁場を発生することが可能となるためである。
【0015】
また、前記第1のヨークは、円柱部と、先端に向かうほど小径となるような傾斜部を備えていることが好ましい。これにより、垂直方向により強い磁場を発生させることができ、さらに、様々な方向の磁場をバランスよく発生させることができる。
【0016】
また、前記第2のヨークの前記開口部の内径が前記第1のヨークの前記円柱部の外径よりも小さく設定され、かつ、前記開口部が前記傾斜部に対向するように配置されていることが好ましい。この構成によると、第2のヨークの開口部と第1のヨークの傾斜部を近接させることができ、より大きな磁場を発生させることができる。
【0017】
さらに、前記第1のヨークの先端と、前記第2のヨークの前記一面が同一平面上に位置することが好ましい。同一平面上にすることで、試料が載置される位置での垂直及び水平磁場を大きくすることができる。
【0018】
さらに、前記第1のヨークは円柱部を有するとともに、前記第2のヨークの前記開口部の内径が前記円柱部の外径よりも大きく設定され、かつ、前記開口部が前記巻線導体の上部に位置していることが好ましい。第2のヨークの大きさをかかる大きさに設定することで、磁場の大きさをある程度確保できると共に試料に任意方向の磁場を印加することができる。また、位置による磁場ベクトルの変化が緩やかになるため、試料の配置場所の精度を緩くすることができ、位置決めが容易になる。
【0019】
また、第1のヨーク、第2のヨーク、巻線導体のすべてが中心軸を中心とする軸対称形状であり、これらの中心軸を一致させて配置することにより、磁場発生領域にさらに対称性の良い磁場分布を得ることができ好ましい。中心ヨーク先端あるいは上面からの高さと中心軸からの距離とにより発生する磁場ベクトルが決定できるため、扱いが容易になるとともに、位置ごとの磁場ベクトルデータを取得することが容易になるためである。
【0020】
本発明に係る磁場印加装置は、上記構成を有する電磁石を備えていると共に、前記電磁石の磁場発生領域に配置され、前記電磁石に対して相対的に移動可能な試料ステージとを有する、試料ステージ上の試料に任意方向の磁場を印加可能であることを特徴とする。
【0021】
この磁場印加装置を用いれば、被測定物等を水平移動(中心軸を法線とする面内で移動)させるだけで様々な方向の磁場を被測定物等に印加することが可能となる。すなわち、本発明に係る電磁石は、磁場発生領域に位置により様々な方向の磁場が発生しているため、所定の位置に被測定物等を水平移動して配置することにより被測定物等に様々な方向の磁場を印加可能となる。
【0022】
すなわち、中心軸上では中心軸方向の磁場、中心軸から離れた位置では中心軸から傾いた方向の磁場、中心軸から所定の距離離れた位置では中心軸に対して垂直方向の磁場を被測定物等に印加することが可能となり、例えば、中心軸から一定の距離を保って被測定物等を水平移動すれば、被測定物等の自転を行うことなく、被測定物等に回転磁場を印加することが可能となる。特に、中心軸から所定の距離では中心軸方向の磁場がゼロで中心軸と垂直方向(面内方向)の磁場のみが存在するため、この所定の距離を保って被測定物等を水平移動すれば、被測定物等の自転を行うことなく、面内の回転磁場を印加することが可能となる。
【0023】
本発明に係る磁場印加システムは、上記構成を有する磁場印加装置を備えていると共に、前記電磁石と試料ステージとを相対的に移動させるための移動機構と、
巻線導体の印加電流と電磁石に対する相対位置と発生磁場のベクトルあるいは向きと強度との関係を示す、電流と位置と発生磁場の関係テーブルが記憶されている記憶装置と、巻線導体に印加電流を与えるための電源と、試料ステージ上の試料に印加しようとする磁場ベクトルに応じて、前記テーブルを参照して、電磁石と試料ステージとの相対移動位置と巻線導体の印加電流値を算出し、移動機構へ試料ステージを算出した位置へ移動させる命令を発するとともに、電源へ算出した印加電流値を印加する命令を発する情報処理装置と、を有することを特徴とする。
【0024】
この磁場印加システムを用いれば、被測定物等を水平移動させるだけで様々な方向の磁場を被測定物等に印加することが簡単に可能となる。発生磁界のベクトルあるいは向きと強度とが印加電流と電磁石に対する位置ごとに記録されたテーブルは、実際に電磁石を作製し電流を印加して位置ごとの磁場ベクトルを実測し作成することができる。電流値と発生磁場がリニアの関係にある場合には発生磁場は電流値に比例することとなるため、前記テーブルは1つの電流値の測定データのみから作成したものであっても良いが、電磁石に使用している磁性体(第1および第2のヨーク)に磁気飽和する領域が発生する電流で使用することが想定される場合には、前記テーブルには、少なくとも、電流が弱い場合のもの(リニア領域のデータ)と電流が強い場合のもの(ノンリニア領域のデータ)を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、被測定物や被処理物等へ任意の方向(被測定物等の座標系に対して全方向)に磁場を印加することが可能な磁場印加装置、磁場印加システム、これらに好適な電磁石を提供でき、所望の方向に磁場を印加して被測定物の磁場中の特性を計測することや所望の磁場中に被処理物を配置して熱処理等を施すことによって被処理物の磁気特性を変化させること等に好適な装置およびシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る電磁石の一形態
【図2】図1の電磁石の断面図
【図3】図2の断面形状の電磁石における、電流と磁場との関係図
【図4】図2の断面形状の電磁石における、半径方向位置と磁場との関係図
【図5】図1の電磁石の磁場ベクトル分布
【図6】図2の断面形状の電磁石における、半径方向位置と磁場との関係図
【図7】本発明に係る電磁石の一形態の断面図
【図8】図7の断面形状の電磁石における、電流と磁場との関係図
【図9】図7の断面形状の電磁石における、半径方向位置と磁場との関係図
【図10】本発明に係る電磁石の一形態の断面図
【図11】図10の断面形状の電磁石における、電流と磁場との関係図
【図12】図10の断面形状の電磁石における、半径方向位置と磁場との関係図
【図13】本発明に係る電磁石の一形態の断面図
【図14】図13の断面形状の電磁石における、電流と磁場との関係図
【図15】図13の断面形状の電磁石ににおける、半径方向位置と磁場との関係図
【図16】本発明に係る電磁石の一形態の断面図
【図17】図16の断面形状の電磁石における、電流と磁場との関係図
【図18】図16の断面形状の電磁石における、半径方向位置と磁場との関係図
【図19】本発明に係る電磁石の一形態の断面図
【図20】図19の断面形状の電磁石における、電流と磁場との関係図
【図21】図19の断面形状の電磁石における、半径方向位置と磁場との関係図
【図22】本発明に係る電磁石の一形態の断面図
【図23】図22の断面形状の電磁石における、電流と磁場との関係図
【図24】従来の電磁石の一形態の断面図
【図25】図24の断面形状の電磁石における、電流と磁場との関係図
【図26】図24の断面形状の電磁石における、半径方向位置と磁場との関係図
【図27】従来の電磁石の一形態の断面図
【図28】図27の断面形状の電磁石における、電流と磁場との関係図
【図29】図27の断面形状の電磁石における、半径方向位置と磁場との関係図
【図30】本発明に係る電磁石の一形態
【図31】図30の形状の電磁石における、半径方向位置と磁場との関係図
【図32】図30の電磁石の磁場ベクトル分布
【図33】本発明に係る磁場印加装置の一形態
【図34】本発明に係る磁場印加システム構成図の一形態
【図35】本発明に係る磁場印加システムの記憶装置に記憶されている、電流と位置と発生磁場の関係テーブルの例
【図36】本発明に係る磁場印加システムの記憶装置に記憶されている、電流と位置と発生磁場の関係テーブルの例
【図37】本発明に係る磁場印加システムの記憶装置に記憶されている、電流と位置と発生磁場の関係テーブルの例
【図38】本発明に係る磁場印加システムの記憶装置に記憶されている、電流と位置と発生磁場の関係テーブルの例
【発明を実施するための形態】
【0027】
実施例を基に本発明を実施するための形態について説明する。なお、本明細書において、磁場とは、磁束密度や磁界を含む概念として使用している。ヨークとは、軟強磁性体から構成され磁路機能を有する構造体を意味する。また、軟強磁性体とは、電磁軟鉄、純鉄、パーマロイ、センダスト合金、パーメンジュール、電磁鋼、アモルファス磁性体、フェライト等、外部磁界により磁化する物質のことである。
【実施例】
【0028】
(第1の実施の形態)
本発明に係る電磁石の一形態を図1に示す。この電磁石は中心軸を有する回転対称の形状である。図1の左上は断面図、左下は断面の中心ヨーク先端部分付近の拡大図、右上は斜視図、右下は中心ヨーク先端部分付近の拡大図である。すなわち、軟強磁性体からなり先端が円形状である中心ヨーク(第1のヨーク1)と、第1のヨーク周囲に巻き回された巻線導体4と、軟強磁性体からなり円形状の開口部3を有するヨーク(第2のヨーク2)とを有し、さらに、小さいアンペアターンでより強い磁場を発生するために第2のヨーク2は巻線導体4の外周部を囲う形状で、第1のヨーク1の先端とは逆の他端へ第2のヨーク2を通って磁束を導く形状であり、第1のヨーク1とあわせて磁路を形成している。中心軸5を含む面の断面形状を図2に示す。寸法は図に示す通りであり、単位はmmである。
【0029】
形状の具体的な寸法のうち、特に重要なファクターがC1,C2,C3で示されている。C1は、第1のヨーク1の先端面1aの半径を示す。C2は、前記先端面1aの端部と第2のヨーク2の開口部3の端面との距離を示す。C3は、第2のヨーク2の上面部の厚みを示す。この点は、他の実施の形態に関しても同様である。
【0030】
第1のヨーク1は円柱形である円柱部と、傾斜部1bを備えている。傾斜部1bは、上部に行くほど小径の円錐面となっている。このような傾斜部1bを設けることで、垂直方向により強い磁場を発生することができると共に、様々な方向の磁場をバランスよく発生することができる。開口部3の内径は、第1のヨーク1の円柱部分の直径よりも小さくなっており、傾斜部1bに対向する位置にある。これにより、より大きな磁場を発生させることができる。
【0031】
図2において、先端面1aと第2のヨーク2の上面2a(一面に相当)は、同一面に設定される。これらの面は同一面もしくはほぼ同一面とすることが好ましい。これにより、試料位置での垂直磁場と水平磁場を大きくとることができる。この点は、他の実施の形態も同様である。
【0032】
第1のヨーク1の先端面1aを含み中心軸5を法線とする区画面Sで分割される空間領域のうち、第1のヨーク1が存在する領域とは反対側の領域(図2でSよりも上部領域)を磁場発生領域として機能させる。この点は、他の実施の形態も同様である。
【0033】
図2の形状を対象として有限要素法の電磁場解析を実施し、各位置の磁場分布を算出した結果を以下に示す。図3は、巻線導体4に流れる電流(アンペアターン)と中心軸上で中心ヨーク先端から2mm上位置(hで示す。)の磁束密度(磁場)との関係である。図4は、電流が5000アンペアターンの場合の、中心ヨーク先端から2mm上の位置であって回転中心軸から垂直方向にr(mm)離れた位置(以下、位置(r,2)と表す)の磁束密度の中心軸方向の成分(以下、Bzと表す)と中心軸に対し垂直方向の成分(以下、Brと表す)をプロットした図である。中心ヨーク先端から2mm上の位置であって中心軸上の位置(位置(0,2))でのBzは0.46T、Brは0Tである。すなわち、この位置では中心軸に対し垂直方向成分のない中心軸方向の磁場を得ることができる。また、位置(23,2)ではBzは0T、Brは0.20Tである。すなわち、この位置では中心軸方向成分のない中心軸に対し垂直方向の磁場を得ることができる。また、位置(0〜23,2)では、r位置により中心軸方向から中心軸に対し垂直方向の磁場を得ることができる。特に、BzとBrのプロットラインとが交差する位置(12,2)では、Bz、Brともに0.23Tの中心軸から45度傾いた磁場を得ることができる。
【0034】
すなわち、本実施例の電磁石6による磁場ベクトルの分布は図5のように分布している。図5の上の図は第1のヨーク先端から2mm上の平面上の磁場をベクトル表示したものである。また、図5の下の図は中心軸5を含む面上の磁場をベクトル表示したものである。本発明に係る電磁石を用いると水平移動だけで様々な方向の磁場を得ることが可能であり、磁場の強度は電流を制御することにより任意に設定可能である。また、電流の極性を反転させれば上記と逆方向の磁場を得ることも可能であるし、中心軸5を中心に回転した位置ではその分回転した磁場を得ることも可能である。したがって、本発明に係る電磁石を用いて、磁場中に配置する対象となる被測定物や被処理物等を所定の位置に配置することによって、任意の方向(被測定物等の座標系に対して全方向)に磁場を印加することが可能な電磁石を得ることができる。なお、電流が弱い場合(磁気飽和する領域が発生しておらず、電流値と発生磁場が比例関係にある場合で、本実施の形態では図3から判断すると約6000アンペアターン以下の場合)には、電流を変化させた場合に、各位置の磁場ベクトルの方向は同じで強度のみが電流値に応じて比例変化することとなるため扱いが容易である。
【0035】
図6は、電流が15000アンペアターンの場合の、位置(r,2)のBz,Brをプロットした図である。前記と同様に、位置(0,2)でのBzは0.98T、Brは0Tである。すなわち、この位置では中心軸に対し垂直方向成分のない中心軸方向の磁場を得ることができる。また、位置(24,2)ではBzは0T、Brは0.37Tである。すなわち、この位置では中心軸方向成分のない中心軸に対し垂直方向の磁場を得ることができる。また、位置(0〜24,2)では、r位置により中心軸方向から中心軸に対し垂直方向の磁場を得ることができる。また、BzとBrのプロットラインとが交差する位置(13,2)では、Bz、Brともに0.46Tの中心軸から45度傾いた磁場を得ることができる。
【0036】
留意点としては、図6の場合の電流は15000アンペアターンと図4の場合の3倍であるが、発生磁場は3倍になっていないし、中心軸方向成分のない中心軸に対し垂直方向の磁場を得ることができる位置や中心軸から45度傾いた磁場を得ることができる位置が若干異なっている点である。これは、電磁石に使用している軟強磁性体(第1および第2のヨーク)に磁気飽和する領域が発生しているためと考えられ、特に高い磁場を必要とする電磁石として利用する場合など、磁気飽和が想定される領域で電磁石を使用する場合には、留意をすることが必要である。かかる場合は、電流と位置と発生磁場の関係テーブルであって、電流が弱い場合(リニア領域のデータ)と電流が強い場合(ノンリニア領域のデータ)とを含むデータテーブルを作成しておき、磁場を印加しようとする都度、このデータテーブルを参照し試料と電磁石の相対位置と電流値とを決定することが好ましい。
【0037】
また、中心ヨーク(第1のヨーク)の先端が円形状であり、開口部を有するヨーク(第2のヨーク)の開口部が円形状であり、第1のヨークの先端の中心軸と第2のヨークの開口部の中心軸とが一致しているので、発生する磁場ベクトルも中心軸に対して対称に分布することになるため、電流と位置と発生磁場の関係テーブルは、中心軸を含む一面でのみ作成しておけばよく、テーブル作成の労力を大きく低減可能であるし、データテーブルがシンプルになるので、テーブルを参照して試料と電磁石の相対位置と電流値とを決定することも容易になるため好ましい。
【0038】
(第2の実施の形態)
本発明に係る電磁石の一形態について、中心軸(中心軸)を含む面の断面形状を図7に示す。電磁石全体の形状は図7の断面形状を中心軸に対して360度回転させた形状である。寸法は図に示す通りであり、単位はmmである。第1の実施の形態とは異なり、開口部3の内径が第1のヨーク1の外径よりも大きく設定されている。
【0039】
図7の形状を対象として有限要素法の電磁場解析を実施し、各位置の磁場分布を算出した結果を以下に示す。図8は、巻線導体に流れる電流(アンペアターン)と位置(0,2)における磁場との関係である。本実施の形態の電磁石は約10000アンペアターン以下がリニア領域である。図9は、電流が20000アンペアターンの場合の、位置(r,2)におけるBz、Brをプロットした図である。位置(0,2)でのBzは1.00T、Brは0Tである。すなわち、この位置では中心軸に対し垂直方向成分のない中心軸方向の磁場を得ることができる。また、位置(52,2)ではBzは0T、Brは0.29Tである。すなわち、この位置では中心軸方向成分のない中心軸に対し垂直方向の磁場を得ることができる。また、位置(0〜52,2)では、r位置により中心軸方向から中心軸に対し垂直方向の磁場を得ることができる。特に、BzとBrのプロットラインとが交差する位置(27,2)では、Bz、Brともに0.26Tの中心軸から45度傾いた磁場を得ることができる。
【0040】
本実施の形態に比較して、第1の実施の形態は第2のヨーク2の開口部3が小さく、第1のヨーク1と第2のヨーク2との間のギャップC2が狭いため、同じアンペアターンでも発生する磁場を大きくすることができる。したがって、大きな磁場が必要な場合は、第2のヨーク2の開口部3が小さく、第1のヨーク先端と第2のヨーク2との間のギャップC2(第1のヨークの先端と第2のヨークの開口部を構成する面との間隔)が狭いほうが好ましい。また、ギャップ部分があまりに狭いと磁場が磁場発生領域に発生しにくくなるし、様々な方向の磁場をバランスよく発生させる観点からも、ある程度のギャップC2が必要である。ギャップ部分は、概ね4〜50mm、あるいは、磁場を得ようとする高さ(中心ヨーク上面からの高さ)をh(mm)とした場合に2h〜25h(mm)が好ましい。
【0041】
(第3の実施の形態)
本発明に係る電磁石の一形態について、中心軸(中心軸)を含む面の断面形状を図10に示す。電磁石全体の形状は図10の断面形状を中心軸に対して360度回転させた形状である。寸法は図に示す通りであり、単位はmmである。
【0042】
第3の実施の形態では、開口部3の大きさがかなり大きくなっており、巻線導体4の上部には、第2のヨーク2の上面部が存在しない。第1のヨーク1の先端面1aと、第2のヨーク2の上面2aとは同一面である。
【0043】
図10の形状を対象として有限要素法の電磁場解析を実施し、各位置の磁場分布を算出した結果を以下に示す。図11は、巻線導体に流れる電流(アンペアターン)と位置(0,2)における磁場との関係である。本実施の形態の電磁石は約12000アンペアターン以下がリニア領域である。図12は、電流が30000アンペアターンの場合の、位置(r,2)におけるBz、Brをプロットした図である。位置(0,2)でのBzは1.03T、Brは0Tである。すなわち、この位置では中心軸に対し垂直方向成分のない中心軸方向の磁場を得ることができる。また、位置(113,2)ではBzは0T、Brは0.12Tである。すなわち、この位置では中心軸方向成分のない中心軸に対し垂直方向の磁場を得ることができる。また、位置(0〜113,2)では、r位置により中心軸方向から中心軸に対し垂直方向の磁場を得ることができる。特に、BzとBrのプロットラインとが交差する位置(46,2)では、Bz、Brともに0.18Tの中心軸から45度傾いた磁場を得ることができる。
【0044】
(第4の実施の形態)
本発明に係る電磁石の一形態について、中心軸(中心軸)を含む面の断面形状を図13に示す。電磁石全体の形状は図13の断面形状を中心軸に対して360度回転させた形状である。寸法は図に示す通りであり、単位はmmである。
【0045】
第4の実施の形態では、第2のヨーク2は巻線導体4の上部にのみ設けられる平板形状である。開口部3の大きさおよび先端面1aとの距離は、第1の実施の形態と同じである。
【0046】
図13の形状を対象として有限要素法の電磁場解析を実施し、各位置の磁場分布を算出した結果を以下に示す。図14は、巻線導体に流れる電流(アンペアターン)と位置(0,2)における磁場との関係である。本実施の形態の電磁石は約25000アンペアターン以下がリニア領域である。図15は、電流が30000アンペアターンの場合の、位置(r,2)におけるBz、Brをプロットした図である。位置(0,2)でのBzは0.98T、Brは0Tである。すなわち、この位置では中心軸に対し垂直方向成分のない中心軸方向の磁場を得ることができる。また、位置(24,2)ではBzは0T、Brは0.35Tである。すなわち、この位置では中心軸方向成分のない中心軸に対し垂直方向の磁場を得ることができる。また、位置(0〜24,2)では、r位置により中心軸方向から中心軸に対し垂直方向の磁場を得ることができる。特に、BzとBrのプロットラインとが交差する位置(13,2)では、Bz、Brともに0.45Tの中心軸から45度傾いた磁場を得ることができる。
【0047】
(第5の実施の形態)
本発明に係る電磁石の一形態について、中心軸(中心軸)を含む面の断面形状を図16に示す。電磁石全体の形状は図16の断面形状を中心軸に対して360度回転させた形状である。寸法は図に示す通りであり、単位はmmである。
【0048】
第5の実施の形態では、第4の実施の形態(図13)と同様に、第2のヨーク2は巻線導体4の上部にのみ設けられる平板形状である。ただし、開口部3の大きさおよび先端面1aとの距離は、第4の実施の形態よりも大きくなっている。
【0049】
図16の形状を対象として有限要素法の電磁場解析を実施し、各位置の磁場分布を算出した結果を以下に示す。図17は、巻線導体に流れる電流(アンペアターン)と位置(0,2)における磁場との関係である。本実施の形態の電磁石は約35000アンペアターン以下がリニア領域である。図18は、電流が35000アンペアターンの場合の、位置(r,2)におけるBz、Brをプロットした図である。位置(0,2)でのBzは1.00T、Brは0Tである。すなわち、この位置では中心軸に対し垂直方向成分のない中心軸方向の磁場を得ることができる。また、位置(52,2)ではBzは0T、Brは0.26Tである。すなわち、この位置では中心軸方向成分のない中心軸に対し垂直方向の磁場を得ることができる。また、位置(0〜52,2)では、r位置により中心軸方向から中心軸に対し垂直方向の磁場を得ることができる。特に、BzとBrのプロットラインとが交差する位置(30,2)では、Bz、Brともに0.24Tの中心軸から45度傾いた磁場を得ることができる。
【0050】
(第6の実施の形態)
本発明に係る電磁石の一形態について、中心軸(中心軸)を含む面の断面形状を図19に示す。電磁石全体の形状は図19の断面形状を中心軸に対して360度回転させた形状である。寸法は図に示す通りであり、単位はmmである。第6の実施の形態では、第1のヨーク1は円柱形状であり傾斜部は設けられていない。
【0051】
図19の形状を対象として有限要素法の電磁場解析を実施し、各位置の磁場分布を算出した結果を以下に示す。図20は、巻線導体に流れる電流(アンペアターン)と位置(0,2)における磁場との関係である。本実施の形態の電磁石は約5000アンペアターン以下がリニア領域である。図21は、電流が5000アンペアターンの場合の、位置(r,2)におけるBz、Brをプロットした図である。位置(0,2)でのBzは0.1T、Brは0Tである。すなわち、この位置では中心軸に対し垂直方向成分のない中心軸方向の磁場を得ることができる。また、位置(64,2)ではBzは0T、Brは0.22Tである。すなわち、この位置では中心軸方向成分のない中心軸に対し垂直方向の磁場を得ることができる。また、位置(0〜64,2)では、r位置により中心軸方向から中心軸に対し垂直方向の磁場を得ることができる。位置(0,2)でのBzを大きくするためには、第1の実施の形態に示した形状のように、中心ヨークは先端に向かうにしたがい細くなる形状であることが好ましい。
【0052】
(第7の実施の形態)
本発明に係る電磁石の一形態について、中心軸(中心軸)を含む面の断面形状を図22に示す。電磁石全体の形状は図22の断面形状を中心軸5に対して360度回転させた形状である。寸法は図に示す通りである。第1のヨーク1の先端形状と特性との関係を把握するために、第1のヨーク先端半径(C1)を変化させた形状について、図22の形状を対象として有限要素法の電磁場解析を実施し、各位置の磁場分布を算出した。なお、第1のヨーク1の先端と第2のヨーク2の開口部3とのギャップC2は20mmで一定とした。なお、C1が6mmの場合は図2に示す形状、50mmの場合は図19に示す形状と同じである。
【0053】
図23は、電流が5000アンペアターンの場合の、位置(0,2)におけるBzを、第1のヨーク1の先端半径C1を横軸としてプロットした図である。位置(0,2)でのBzを大きくするためには、第1の実施の形態(図2)に示した形状のように、中心ヨークは先端に向かうにしたがい細くなる形状であることが好ましいことがわかる。具体的には、Bzを大きくする観点から、第1のヨーク1の先端の半径は0mmから20mmが好ましく、さらに好ましくは0mmから6mm、さらに好ましくは1mmから3mmである。第1のヨーク1の先端部半径と最太部半径との関係がBzの大きさが影響することに着目すれば、第1のヨーク1の先端の半径は、第1のヨーク1の最太部の0から0.4倍が好ましく、さらに好ましくは0から0.12倍、さらに好ましくは0.02から0.06倍である。
【0054】
(第1の比較例)
本発明に係る電磁石の比較例について、中心軸(中心軸)を含む断面形状を図24に示す。電磁石全体の形状は図24の断面形状を中心軸に対して360度回転させた形状である。寸法は図に示す通りであり、単位はmmである。この比較例では、第2のヨークが設けられていない。傾斜部の形状は、第1の実施の形態と同じである。
【0055】
図24の形状を対象として有限要素法の電磁場解析を実施し、各位置の磁場分布を算出した結果を以下に示す。図25は、巻線導体に流れる電流(アンペアターン)と位置(0,2)における磁場との関係である。この形態の電磁石で1Tの磁場を得るためには約46000アンペアターンが必要であり、本願発明に比して大きな電流を必要とし好ましくない。図26は、電流が50000アンペアターンの場合の、位置(r,2)におけるBz、Brをプロットした図である。位置(0,2)でのBzは1.05T、Brは0Tであり、位置(187,2)ではBzは0T、Brは0.04Tである。すなわち、本願発明に比して、この比較例の形状では、水平方向の磁場を得ることのできる位置が遠く、その位置の水平方向磁場もきわめて小さく、本願発明の目的を奏することは不可能である。
【0056】
(第2の比較例)
本発明に係る電磁石の比較例について、中心軸(中心軸)を含む断面形状を図27に示す。電磁石全体の形状は図27の断面形状を中心軸に対して360度回転させた形状である。寸法は図に示す通りであり、単位はmmである。この比較例では、第1のヨークが設けられていない。第2のヨークの形状は、図10と同じである。
【0057】
図27の形状を対象として有限要素法の電磁場解析を実施し、各位置の磁場分布を算出した結果を以下に示す。図28は、巻線導体に流れる電流(アンペアターン)と位置(0,2)における磁場との関係である。この形態の電磁石で1Tの磁場を得るためには、推定で500000アンペアターンが必要であり、本願発明に比してかなり大きな電流を必要とし好ましくない。図29は、電流が50000アンペアターンの場合の、位置(r,2)におけるBz、Brをプロットした図である。本願発明に比して、この比較例の形状では、発生磁場がきわめて小さく、本願発明の目的を奏することは不可能である。
【0058】
(第8の実施の形態)
本発明に係る電磁石の一形態を図30に示す。図30の左上は上面図、左下はA−A’断面図、右上は斜視図、右下はB−B’断面図である。すなわち、先端が円形状である中心ヨーク1(第1のヨーク)と円形状の開口部3を有するヨーク2(第2のヨーク)とが中心軸が一致するように配置されているが、第2のヨーク2の外形が円形状ではない形状の電磁石である。図30に示すように、上面部2aは矩形形状であり、円筒形の本体部2bの円周の一端から中心方向に張り出すように設けられている。
【0059】
図30の形状を対象として有限要素法の電磁場解析を実施し、各位置の磁場分布を算出した結果を以下に示す。図31は、電流が5000アンペアターンの場合の、第1のヨーク1の先端面の上2mm位置での磁束密度のB−B’方向成分(Bx)、A−A’方向成分(By)、中心軸方向成分(Bz)をプロットした図である。図31の上図は中心軸を0mmとした場合のA方向半径位置での磁束密度、中図はA’方向半径位置での磁束密度、B方向半径位置での磁束密度である。また、図32に、第1のヨークの端面から2mm上の面およびA−A’断面の磁場ベクトルの分布を示す(それぞれ、図32の上図および下図)。これらのプロット図(図31)や磁場ベクトル分布図(図32)から把握できるように、発生磁場ベクトルはほぼ回転軸対象の分布となり、本発明の効果を奏することができる。
【0060】
(第9の実施の形態)
本発明に係る磁場印加装置の構成例を図33に示す。図33の上図は磁場印加装置の全体図、下図は試料付近の拡大図である。本発明に係る電磁石の磁場発生領域に試料ステージ7が配置され、試料ステージ7は電磁石6に対して水平移動(図33において横方向の移動)が可能となっている。試料8を試料ステージ7とともに移動させることによって試料8に任意方向の磁場を印加可能な構成となっている。
【0061】
(第10の実施の形態)
本発明に係る磁場印加システムの構成図を図34に示す。すなわち、本発明に磁場印加装置と、前記電磁石と試料ステージとを相対的に移動させるための移動機構と、巻線導体の印加電流と電磁石に対する相対位置と発生磁場のベクトルあるいは向きと強度との関係を示す、電流と位置と発生磁場の関係テーブルが記憶されている記憶装置と、巻線導体に印加電流を与えるための電源と、試料ステージ上の試料に印加しようとする磁場ベクトルに応じて、前記テーブルを参照して、電磁石と試料ステージとの相対移動位置と巻線導体の印加電流値を算出し、移動機構へ試料ステージを算出した位置へ移動させる命令を発するとともに、電源へ算出した印加電流値を印加する命令を発する情報処理装置と、を有する、試料に任意方向の磁場を印加可能な磁場印加システムである。
【0062】
以下に、第1の実施の形態に示した電磁石を使用し磁場印加システムを構成した場合を例にして、どのように試料に所望の磁場を印加するかを例を示す。
【0063】
電流と位置と発生磁場の関係テーブルの一例を図35、図36に示す。これら図の左側が数値テーブル、右側はこの数値テーブルを等高線表示したものである。図35に示すテーブルには、電磁石上面の2mm上面内で中心軸からの距離(半径位置)と電流値の組み合わせごとに、磁場強度(磁場絶対値)が記載されている。図36に示すテーブルには、磁場仰角が記載されている。磁場仰角とは、図5に示すように、中心軸を法線とする面と磁場ベクトルとのなす角度である。記憶装置には、図35と図36に示される数値テーブルが記憶されている。これらのテーブルは作製した電磁石を用いて実測することにより作成可能である。
【0064】
情報処理装置は、試料に印加する磁場に応じて、電流と位置と発生磁場の関係テーブルを参照して、電磁石と試料ステージとの相対移動位置と巻線導体に流す電流値とを算出し、移動機構に命令を発し試料ステージを移動させるとともに、電源へ命令を発し巻線導体へ電流を印加させる。
【0065】
具体例として、面内角度がΦ、仰角が70°、磁場強度が1Tの磁場を試料に印加しようとする場合を例として以下に説明する。なお、面内角度とは、図5に示すように、印加しようとする磁場ベクトルの面内成分(中心軸を法線ベクトルとする面内成分)ベクトルと試料が有する座標系の面内成分の所定の方向とがなす角度である。仰角が70°、磁場強度が1Tの条件を満たす半径位置および電流値を図35と図36のテーブルを参照することにより、半径位置は5.7mm付近、電流値は12000アンペアターン付近であると算出できる。図35と図36の2つの数値テーブルを参照して数値的に追い込んで算出することも可能であるし、等高線を数式化しておき2種類の等高線の交点を求めることにより算出することも可能である。面内角度については、発生磁場が中心軸に対して対称になっているため、試料を角度Φだけ自転を伴わず平行移動すればよい。したがって、試料を半径位置5.7mmの位置に移動し、角度・自転を伴わず平行移動し、12000アンペアターンの電流を印加すれば、面内角度がΦ、仰角が70°、磁場強度が1Tの磁場を試料に印加することができる。また、この状態で、中心軸を中心にして試料を自転を伴わない回転移動を行えば、試料に仰角が70°、磁場強度が1Tで面内角度が0〜360°の回転磁場を試料に印加することができる。
【0066】
電流と位置と発生磁場の関係テーブルの別の例を、図37、図38に示す。これら図の左側が数値テーブル、右側はこの数値テーブルを等高線表示したものである。図37、図38に示すテーブルには、電磁石上面の2mm上面内で中心軸からの距離(半径位置)と電流値の組み合わせごとに、半径方向磁場と中心軸方向の磁場が記載されている。記憶装置には、図37と図38に示される数値テーブルが記憶されている。これらのテーブルは作製した電磁石を用いて実測することにより作成可能である。
【0067】
このようなテーブルの組み合わせでも、上記と同様な方法により所望の磁場を試料に印加することが可能である。具体例として、面内角度がΦ、半径方向の磁場が0.1T、中心軸方向の磁場が1Tの磁場を印加する際には、図37と図38のテーブルを参照することにより、半径位置は2.8mm付近、電流値は14000アンペアターン付近であると算出できる。面内角度については、発生磁場が中心軸に対して対称になっているため、試料を角度Φだけ自転を伴わず平行移動すればよい。したがって、試料を半径位置2.8mmの位置に移動し、角度・自転を伴わず平行移動し、14000アンペアターンの電流を印加すれば、面内角度がΦ、半径方向の磁場が0.1T、中心軸方向の磁場が1Tの磁場を試料に印加することができる。また、この状態で、中心軸を中心にして試料を自転を伴わない回転移動を行えば、試料に半径方向の磁場が0.1T、中心軸方向の磁場が1Tで面内角度が0〜360°の回転磁場を試料に印加することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
各所望の方向に磁場を印加して被測定物の磁場中の特性を計測することや所望の磁場中に被処理物を配置して熱処理等を施すことによって被処理物の磁気特性を変化させること等のために、電磁石を使い所望の方向に磁場を印加することが行われており、本発明は、これらの目的に好適に活用できる。
【符号の説明】
【0069】
1 第1のヨーク
2 第2のヨーク
3 第2のヨークの開口部
4 巻線導体
5 中心軸
6 電磁石
7 試料ステージ
8 試料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟強磁性体からなり先端付近の断面が円形状である中心ヨーク(第1のヨーク)と、
第1のヨーク周囲に巻き回された巻線導体と、
軟強磁性体からなり円形状の開口部を有するヨーク(第2のヨーク)とを有し、
第1のヨークの先端の中心軸と第2のヨークの開口部の中心軸とが一致しており、
第1のヨークの先端を含み前記中心軸を法線とする面(区画面)で分割される空間領域のうち第1のヨークが存在する領域とは反対側の領域を磁場発生領域とし、
第2のヨークの前記開口部が形成される一面が前記区画面とほぼ同一面にある電磁石であって、
磁場発生領域内に設置する試料位置と巻線導体に流す電流方向とを変化させることにより、試料に任意方向の磁場を印加可能な電磁石。
【請求項2】
前記第1のヨークは、円柱部と、先端に向かうほど小径となるような傾斜部を備えている、請求項1に記載の電磁石。
【請求項3】
前記第2のヨークの前記開口部の内径が前記第1のヨークの前記円柱部の外径よりも小さく設定され、かつ、前記開口部が前記傾斜部に対向するように配置されている、請求項2に記載の電磁石。
【請求項4】
前記第1のヨークの先端と、前記第2のヨークの前記一面が同一平面上に位置する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電磁石。
【請求項5】
前記第1のヨークは円柱部を有するとともに、前記第2のヨークの前記開口部の内径が前記円柱部の外径よりも大きく設定され、かつ、前記開口部が前記巻線導体の上部に位置している、請求項1,2,4のいずれか1項に記載の電磁石。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電磁石と、前記電磁石の磁場発生領域に配置され、前記電磁石に対して相対的に移動可能な試料ステージとを有する、試料ステージ上の試料に任意方向の磁場を印加可能な磁場印加装置。
【請求項7】
請求項6に記載の磁場印加装置と、
前記電磁石と試料ステージとを相対的に移動させるための移動機構と、
巻線導体の印加電流と電磁石に対する相対位置と発生磁場のベクトルあるいは向きと強度との関係を示す、電流と位置と発生磁場の関係テーブルが記憶されている記憶装置と、
巻線導体に印加電流を与えるための電源と、
試料ステージ上の試料に印加しようとする磁場ベクトルに応じて、前記テーブルを参照して、電磁石と試料ステージとの相対移動位置と巻線導体の印加電流値を算出し、移動機構へ試料ステージを算出した位置へ移動させる命令を発するとともに、電源へ算出した印加電流値を印加する命令を発する情報処理装置と、
を有する、試料に任意方向の磁場を印加可能な磁場印加システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公開番号】特開2010−212453(P2010−212453A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56869(P2009−56869)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(302042379)株式会社東栄科学産業 (2)
【出願人】(591074736)宮城県 (60)
【Fターム(参考)】