説明

電磁石駆動回転装置

【課題】電磁石の磁気力による可動鉄心の往復運動を、クランク機構を用いて回転運動に変換する回転装置において、その構造を簡易化するとともに振動の防止を図る。
【解決手段】可動鉄心と電磁石とからなる2組の電磁ソレノイド装置2A、2Bを、180°位相の異なる位置にクランクピンが形成されたクランクシャフト1の両側に配置し、2個の可動鉄心21A、21Bを、コンロッド3A、3Bを介して互いに異なる位置のクランクピンに連結して対称的に往復運動させて、可動鉄心の往復運動に伴う慣性力を相殺する。電磁ソレノイド装置2Aは、電磁石の吸引力でコンロッドが押出される方向に移動するPUSH型であり、電磁ソレノイド装置2Bは、コンロッドが牽引される方向に移動するPULL型となっているので、クランクシャフト1には、常時電磁石の吸引力による回転トルクが付与され、回転装置における振動の発生が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁石及び可動鉄心を備えた複数のソレノイド装置を使用し、可動鉄心をクランク機構に連結して、電磁石による可動鉄心の往復運動を回転運動に変換する電磁石駆動の回転装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の走行あるいは各種の作業機の駆動のためには回転動力が必要であり、例えば、通常の車両では、ガソリンエンジン等の内燃機関を使用し、石油等の燃料の燃焼により生じた熱エネルギを機械的エネルギに変換する形で回転動力を得ている。これに対し、近年では、電池等に蓄積した電気エネルギを回転動力に変換して走行する車両や、電池の電気エネルギと内燃機関とを組み合わせて回転動力を得る車両も出現している。
【0003】
電気エネルギを回転動力に変換するには、一般的にはモーターが用いられる。モーターには、交流電力で作動する交流モーター、直流電力で作動する直流モーター等の種々の形式があり、代表的な交流モーターには同期モーターや誘導モーターがある。モーターは、ステーターとローターとの間に電磁力を作用させてローターを回転させるものであり、磁界を発生するためのコイルや永久磁石を備えている。モーターでは、バランスのよいローターを回転させるので、内燃機関に比べれば振動が少ないが、モーターを効率よく作動するには供給する交流電力等を精密に制御する必要がある。
【0004】
ところで、最近では、環境対策あるいは省資源、省エネルギの観点から、多様なエネルギ資源を利用して発電を行う技術の開発が進んでおり、例えば、太陽電池等自然界に存在するエネルギから電力を取り出す技術、内燃機関の排気ガスや冷却水中に廃棄される排熱を利用して発電する技術などが開発されている。しかし、このようなエネルギ資源から得られた電力は、変動の大きい不安定な電力であって、モーターの効率よい駆動のため複雑な電力制御機器を必要とするなど、モーターを駆動するには適していないものである。また、塵芥の多い場所で作業を行う土木建築用車両やその作業機などをモーターで駆動するときには、精密な構造を備えたモーターが、内部に侵入した塵芥のために損傷を来たすことがあり、こうした環境ではモーターの使用が好ましくない場合がある。
【0005】
電気エネルギを回転動力に変換するため、モーターを用いることなく、電磁石の磁気力を利用して可動鉄心や永久磁石を往復運動させ、この往復運動をクランク機構によって回転運動に変換する回転装置が知られている。電磁石の磁気力により往復運動させる作動装置は、いわゆるソレノイド装置と同様なものであり、構造が簡易であって複雑な電力制御装置等を必要とせず、また、劣悪な作業環境の下でも順調に作動する等の利点がある。このような回転装置は、例えば特開平11−201025公報に開示されている。
【0006】
上記公報に記載された回転装置について、図4により説明する。図4(a)に示すとおり、この回転装置では、クランクシャフトCSの両側の対称的な位置に、それぞれピストン体PMが配置されたユニットを備えており、これらのピストン体PMは、往復動式の内燃機関と同様に、クランクシャフトCSのクランクピンCPにコンロッドCRを介して連結される。クランクシャフトCSを回転可能に軸受けする枠体FMには、内燃機関のシリンダに相当する支持体CMが固定され、ピストン体PMは、支持体CMに嵌め込まれこれに案内されながら往復動する。2個のピストン体PMは、クランクシャフトCSの同一のクランクピンCPに連結される。2個のピストン体PMを設けた図4(a)のユニットは、図4(b)に示されるように、クランクシャフトCSの軸方向に4個直列に配置され、その端部にはフライホイールFWが設置されている。
【0007】
ピストン体PMの頂部には永久磁石MMが装着され、かつ、枠体FMには、永久磁石MMと向き合う位置に電磁石EMが取り付けてある。電磁石EMに供給する電流は、ピストン体PMの往復運動と同期して制御され、例えば、ピストン体PMが上死点に達し永久磁石MMと電磁石EMとが最接近した位置において、電磁石EMには、永久磁石MMとの間に反発力を生じるような方向の電流が供給される。これにより、ピストン体PMには電磁石EMから離間する力が作用し、ピストン体PMと連結されたクランクシャフトCSが回転運動を行うこととなる。ピストン体PMが上死点に達するまでは、永久磁石MMと電磁石EMとの間に吸引力が発生するように、電磁石EMの電流を制御してもよい。
【特許文献1】特開平11−201025公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電磁石によって永久磁石や可動鉄心を往復運動させ、さらにクランク機構を用いて回転運動に変換する回転装置は、変動の大きい不安定な電力であっても作動させることが可能であり、モーターには不適な環境であっても使用することができる。しかし、特許文献1に示される回転装置のように永久磁石を往復運動させるものにおいては、永久磁石の磁気力が経年変化によって低下するため、長期間に亘り当初の性能を維持することが困難である。また、強力な永久磁石を使用する場合には、周囲の部品に磁気力が及ぶためその部品(例えば、特許文献1の支持体CM)として鉄等の磁性体を使用することができず、磁気の漏洩を防ぐ磁気シールド等を設けることも必要となる。
【0009】
永久磁石の代わりに可動鉄心を用い、電磁石により往復運動させるときには、長期間の使用でも磁気力の劣化がなく、安定した性能を得ることができる。可動鉄心には、永久磁石のようにネオジュウム合金等の特殊な材料を用いる必要がなく、着磁を行う必要がないので、回転装置を、構造が簡易で耐久性が優れ、製造コストの安価なものとすることも可能となる。一方、永久磁石の代わりに可動鉄心を使用すると、電磁石との間に大きな吸引力を作用させることはできるが、反発力を作用させることができない。
【0010】
そして、永久磁石や可動鉄心を往復運動させると往復運動に伴う慣性力の不平衡が生じるため、これを利用する回転装置では、モーターと比較すると振動が大きくなる問題がある。例えば、特許文献1に示される回転装置においては、ユニットとして対をなす2個のピストン体は、図4(a)のように同一のクランクピンに連結されており、2個のピストン体が同じ方向に移動しながら往復運動する。したがって、ピストン体の往復運動に伴う慣性力は、1個のピストン体が往復運動を行うときの倍の大きさとなり、その分、回転装置の振動が増大してしまう。図4(b)のように、複数のユニットを並列させ隣り合うユニットのピストン体を180°位相の異なるクランクピンに連結したときは、隣り合うユニット同士でピストン体の慣性力が相殺されるが、クランクシャフトと直交する軸線回りの不平衡モーメントが発生する。
【0011】
ユニットとなる2個のピストン体の慣性力を相殺するには、通常の対向式内燃機関と同様に、クランクシャフトに180°位相の異なる2個のクランクピンを設け、2個のピストン体をそれぞれのクランクシャフトに連結する方法がある。これにより、それぞれピストン体は反対方向に対称的に移動するので、両方のピストン体の慣性力が完全に打ち消されるが、この場合には、両方のピストン体は同時に上死点に達する、つまり、同時に電磁石と最接近することとなる(図3(b)参照)。そのため、ピストン体を可動鉄心として電磁石の吸引力のみで往復運動させるときは、電磁石(固定鉄心)と最接近した後には、ピストン体をクランクシャフトの方向に移動させる力を作用させることができない。クランクシャフトの回転運動を継続させるには、回転慣性の大きなフライホイールが必要となり、必然的に回転装置の重量の増加を招く。
本発明は、2個のピストン体を電磁石によって往復運動させ、さらにクランク機構を用いて回転運動に変換する回転装置において、その構造を簡易化するとともに振動の発生を防止して、上記の問題点を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題に鑑み、本発明は、往復運動を行うピストン体として可動鉄心を使用し、可動鉄心と電磁石とからなる2組の電磁ソレノイド装置を、180°異なる位置にクランクピンが形成されたクランクシャフトの両側に配置し、2個の可動鉄心を、コンロッドを介して互いに異なる位置のクランクピンに連結して対称的に往復運動させるとともに、一方の組の電磁ソレノイド装置を、電磁石の吸引力でコンロッドが押出される方向に移動するいわゆるPUSH型のもの、他方の組の電磁ソレノイド装置を、コンロッドが牽引される方向に移動するいわゆるPULL型のものとして、クランクシャフトの回転を円滑化し振動の少ない回転装置を実現したものである。すなわち、本発明は、
「電磁コイル及び固定鉄心を有する電磁石と、前記電磁石の固定鉄心に吸引される可動鉄心とを備えた2組の電磁ソレノイド装置を、クランクシャフトの両側に配置し、それぞれの前記電磁ソレノイド装置の可動鉄心を、コンロッドを介して前記クランクシャフトに連結した回転装置であって、
前記クランクシャフトには180°位相の異なる位置にクランクピンが形成され、前記2組の電磁ソレノイド装置における可動鉄心のそれぞれが、互いに異なる位置のクランクピンに連結されており、かつ、
2組の前記電磁ソレノイド装置は、一方の組における前記電磁石の固定鉄心が、前記クランクシャフトと可動鉄心の間に位置するとともに、他方の組における前記電磁石の固定鉄心が、可動鉄心に対し前記クランクシャフトと反対側に位置するよう配置されており、
それぞれの前記電磁ソレノイド装置の電磁コイルに交互に通電して、前記クランクシャフトを回転させる」
ことを特徴とする回転装置となっている。
【0013】
請求項2に記載のように、前記2組の電磁ソレノイド装置における可動鉄心には、前記コンロッドと連結されるロッドをそれぞれ形成し、前記一方の組の電磁ソレノイド装置においては、可動鉄心に形成されたロッドが固定鉄心を貫通するよう構成することが好ましい。
【0014】
請求項3に記載のように、2組の前記電磁ソレノイド装置に、可動鉄心の嵌め込まれる非磁性体からなるガイド管を、電磁コイルの内側にそれぞれ設置することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の回転装置は、可動鉄心を吸引する電磁石を備えた2組の電磁ソレノイド装置をクランクシャフトの両側に配置して、それぞれの可動鉄心を、コンロッドを介してクランクシャフトと連結し、可動鉄心の往復運動をクランクシャフトの回転運動に変換する装置である。電磁ソレノイドは、可動鉄心を吸引するように作用するだけであるから、供給する電力を制御する複雑な制御装置を要せず、不安定な電力であっても作動させることができる。また、往復運動を行う可動鉄心は単純な形状の部品であって、永久磁石のように特殊な材料の使用や着磁等の必要がなく、回転装置が簡易なものとなる。
【0016】
本発明の回転装置のクランクシャフトには、位相が180°異なる位置にクランクピンが形成されており、2組の電磁ソレノイド装置の可動鉄心は、それぞれコンロッドを介して互いに異なる位置のクランクピンに連結される。その結果、両方の可動鉄心は、クランクシャフトに対して互いに反対方向に対称的に移動する往復運動を行うようになり、運動方向における可動鉄心の慣性力が完全に相殺され、振動の原因となる不平衡慣性力が残存することはない。この慣性力のバランスは、2組の電磁ソレノイド装置を対向して配置したユニット単体で達成されるから、振動を抑制するため複数のユニットを並列に設ける必要がなく、本発明の回転装置は、小型でコンパクトに構成することができる。
【0017】
そして、クランクシャフトの両側に置かれた2組の電磁ソレノイド装置は、一方の組における電磁石の固定鉄心がクランクシャフトと可動鉄心の間に位置するとともに、他方の組における電磁石の固定鉄心が可動鉄心に対しクランクシャフトと反対側に位置するよう配置されている。つまり、一方の組の電磁ソレノイド装置は、電磁石の吸引力でコンロッドが押出される方向に移動するいわゆるPUSH型であり、他方の組の電磁ソレノイド装置は、コンロッドが牽引される方向に移動するいわゆるPULL型である。
2個の可動鉄心は、互いに反対方向に往復運動を行い、クランクシャフトに同時に接近し、また、同時に離れる方向に移動する。本発明における電磁ソレノイド装置は、一方がPUSH型、他方がPULL型であるので、2個の可動鉄心が、クランクシャフトに接近する方向に移動しているときは、PUSH型の一方の電磁ソレノイドに通電してその可動鉄心に吸引力を与え、クランクシャフトから離れる方向に移動しているときは、PULL型の他方の電磁ソレノイドに通電してその可動鉄心に吸引力を与えることにより、クランクシャフトに連続的に回転トルクを作用させることができる。したがって、クランクシャフトの時間的なトルク変動が抑制されて捩り振動が低減するので、この面からも回転装置作動時の振動が防止されるとともに、重量の大きなフライホイールを設置することが不要となる。
【0018】
請求項2の発明のように、2組の電磁ソレノイド装置における可動鉄心には、前記コンロッドと連結されるロッドをそれぞれ形成し、PUSH型である前記一方の組の電磁ソレノイド装置においては、可動鉄心に形成されたロッドが固定鉄心を貫通するよう構成したときは、電磁ソレノイド装置の構造を簡易なものとすることができる。
【0019】
請求項3の発明のように、2組の電磁ソレノイド装置に、可動鉄心の嵌め込まれる非磁性体からなるガイド管を電磁コイルの内側にそれぞれ設置したときは、可動鉄心が、ガイド管によって案内されるため、横方向の変位を起こすことなく正確な往復運動を行うこととなる。また、往復運動中に可動鉄心が電磁コイルに接触して、電磁コイルが損傷するのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の回転装置の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の回転装置を概略的に示す断面図であり、図1(a)は、往復運動を行う可動鉄心がストロークの中間位置にあるときのクランクシャフトと直交する面の断面図、図1(b)は、可動鉄心がストロークの外側終端位置、つまり上死点にあるときのクランクシャフトの軸心を含む面の断面図となっている。図2は、本発明に用いられるPULL型及びPUSH型の電磁ソレノイドの構造を示すもので、図3は、本発明の回転装置の作動について、参考例と比較して示すものである。
【0021】
本発明の回転装置では、図1(a)(b)のように、クランクシャフト1を挟んでその両側に、2組の電磁ソレノイド装置2A、2Bが対向した状態で配置されている。クランクシャフト1には、180°位相の異なる位置に、クランクピン11A及び11Bが形成されており、2組の電磁ソレノイド装置2A、2Bの可動鉄心21A、21Bは、同一形状のコンロッド3A、3Bを介して、互いに異なる位置のクランクピン11A、11Bにそれぞれ連結される。このため、クランクシャフト1が回転すると、2個の可動鉄心21A、21Bは、図1(a)の中心軸線に沿って互いに反対方向に対称的に移動するようになる。この実施形態では、クランクシャフト1の中央部に、クランクウエッブを構成する円板状のクランクディスク12が設けてあり、クランクピン11A、11Bは、それぞれクランクディスク12の両側の、180°位相の異なる位置に取り付けられる。
【0022】
本発明の回転装置において使用される、2組の電磁ソレノイド装置2A、2Bについて、図2も参照しながら説明する。両方の電磁ソレノイド装置2A、2Bには、磁性体からなるケーシング22A、22B内に電磁コイル23A、23Bが収納されるとともに、固定鉄心24A、24Bが形成されており、電磁コイル23A、23Bに通電すると可動鉄心21A、21Bが吸引される電磁石を備えていることは、両方の電磁ソレノイド装置に共通である。
しかるに、一方の組の電磁ソレノイド装置である図1の下方の電磁ソレノイド装置2Aは、ケーシング22Aに連なる固定鉄心24Aが、クランクシャフト1と可動鉄心21Aの間に位置するのに対し、他方の組である上方の電磁ソレノイド装置2Bは、その固定鉄心24Bが、可動鉄心21Bに関してクランクシャフト1と反対側に位置するよう配置されている。つまり、一方の組の電磁ソレノイド装置2Aは、電磁コイル23Aの通電により、可動鉄心21Aに連結されたコンロッド3Aが押出される方向に移動するPUSH型であり、他方の組の電磁ソレノイド装置2Bは、通電によりコンロッド3Bが引張られる方向に移動するPULL型のものである。
【0023】
可動鉄心21A、21Bには、ロッド25A、25Bが形成され、ロッドの先端にはそれぞれコンロッド3A、3Bのいわゆる小端部が連結される。図2にも示されるとおり、PUSH型の電磁ソレノイド装置2Aにおけるロッド25Aは、PULL型の電磁ソレノイド装置2Bのロッド25Bと比べると相当に長く、固定鉄心24Aの中心穴を貫通して外方に延びる。ロッド25A、25Bを含めた2個の可動鉄心21A、21Bの質量、すなわち、クランクシャフト1に対して対称的な往復運動を行う両方の部材の質量は、等しく設定されている。
【0024】
図1の電磁ソレノイド装置においては、可動鉄心と固定鉄心の対向面がそれぞれ平面となっている。しかし、図2のように、PUSH型であってもPULL型であっても、可動鉄心と固定鉄心の対向面をそれぞれ円錐面としたり、可動鉄心が固定鉄心と反対側のケーシング端面を貫通する構成を採用することができる。また、それぞれの電磁コイルの内側に非磁性体からなるガイド管26A、26B(図2)を設置し、ガイド管に可動鉄心を嵌め込むことが好ましい。これにより、可動鉄心がガイド管によって案内されるため、実質的に横方向の変位を起こすことなく正確な往復運動を行うことが可能となるとともに、往復運動中の可動鉄心が電磁コイルに接触して、電磁コイルが損傷するのを防止できる。ただし、可動鉄心とガイド管は、内燃機関のピストンとシリンダのように内部の作動流体を密封するものではなく、可動鉄心及び固定鉄心の間の空間と外部との間に、空気が十分に流通できる程度の隙間が確保されている。そのため、塵埃が多い環境で使用しても、可動鉄心とガイド管との隙間に塵埃を噛み込んで不具合を生じるような虞れはない。
【0025】
次いで、本発明の回転装置の作動について、主に図3を参照しながら説明する。
本発明の作動過程を示す図3(a)において、2個の可動鉄心21A、21Bがクランクシャフト1から遠ざかる方向に移動する(i)の状態では、PULL型の電磁ソレノイド装置2Bの電磁コイル23Bに通電されるとともに、PUSH型の電磁ソレノイド装置2Aへの通電は遮断されている。この状態では、可動鉄心21Bと固定鉄心24Bとの間に磁気力に基づく吸引力が作用する。電磁ソレノイド装置2Bへの通電は、両方の可動鉄心が(ii−1)に示す上死点位置に達するまで継続し、この間では、PULL型の電磁ソレノイド装置2Bがクランクシャフト1に対して回転トルクを与える。
【0026】
両方の可動鉄心が上死点位置に達したときは、PULL型の電磁ソレノイド装置2Bの通電を停止すると同時に、PUSH型の電磁ソレノイド装置2Aへの通電を開始する。これによって、(ii−2)に示すとおり、可動鉄心21Aと固定鉄心24Aとの間に吸引力が作用し、両方の可動鉄心がクランクシャフト1に近接する方向に移動する。PUSH型の電磁ソレノイド装置2Aへの通電は、(iii)に示す中間ストローク位置を経て、両方の可動鉄心がクランクシャフト1に最接近した位置、つまり下死点位置まで継続され、この間では、PUSH型の電磁ソレノイド装置2Aがクランクシャフト1に対して回転トルクを与えることとなる。下死点位置においては、電磁ソレノイド装置2Aへの通電が停止されて電磁ソレノイド装置2Bへの通電に切り換えられ、以降、この作動が繰り返される。このように、本発明の回転装置では、PULL型の電磁ソレノイド装置2BとPUSH型の電磁ソレノイド装置2Aとに交互に通電し、クランクシャフト1に常に回転トルクが付与される。
【0027】
2個の可動鉄心21A、21Bは、その質量が等しく設定されているとともに、180°位相の異なるクランクピンに連結されて互いに対称的な往復運動を行うので、2組の電磁ソレノイド装置を配置したユニット自体において、可動鉄心の往復運動に伴う慣性力を完全にバランスさせることができる。また、本発明の回転装置では、2組の電磁ソレノイド装置としてPUSH型とPULL型のものを使用し、クランクシャフトに常に回転トルクを付与するので、クランクシャフトのトルクの時間的変動が減少し、回転装置の振動を抑制することが可能となる。
【0028】
ちなみに、2組の電磁ソレノイド装置としてPULL型のものを2個使用し、それぞれの可動鉄心を180°位相の異なるクランクピンに連結した場合の回転装置を、参考例として図3(b)に示す。参考例の回転装置では、2個の可動鉄心がクランクシャフトから遠ざかる方向に移動する(bi)の状態では、両方のPULL型の電磁ソレノイド装置に通電することにより両方の可動鉄心を吸引し、クランクシャフトに回転トルクを付与することができる。しかし、可動鉄心を用いた電磁ソレノイド装置においては可動鉄心に対して反発力を与えることが不可能であるから、クランクシャフトに回転トルクを付与できるのは、両方の可動鉄心が上死点位置に達する(bii)の状態までであって、その後、両方の可動鉄心がクランクシャフトに近接する方向に移動するときは、クランクシャフトに回転トルクを付与できない。クランクシャフトを連続的に回転するには質量の大きなフライホイールが必要となり、必然的に回転装置の重量の増加を招くとともに、クランクシャフトに作用する回転トルクの時間的変動が増大して、その捩り振動が大きくなる。
【0029】
以上詳述したように、本発明の回転装置は、180°異なる位置にクランクピンが形成されたクランクシャフトの両側にそれぞれ電磁ソレノイド装置を配置し、その可動鉄心を互いに異なる位置のクランクピンに連結して対称的に往復運動させるとともに、一方の電磁ソレノイド装置をPUSH型、他方の電磁ソレノイド装置をPULL型のものとして、これらの電磁ソレノイド装置に交互に通電することにより、クランクシャフトの回転を円滑化し振動を抑制するものである。上述の実施態様では、両方の電磁ソレノイド装置をクランクシャフトの上下に配置しているが、クランクシャフトの左右に配置していわゆる水平対向式の回転装置とすることができるのは言うまでもない。また、2組の電磁ソレノイド装置を配置したユニットをクランクシャフトの軸方向に複数設ける等、上述の実施態様に対して種々の変形を加えることができるのは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の電磁石駆動回転装置の断面図である。
【図2】本発明に使用される電磁ソレノイドを示す図である。
【図3】本発明の電磁石駆動回転装置の作動を示す図である。
【図4】従来の電磁石駆動回転装置を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 クランクシャフト
11A、11B クランクピン
2A 電磁ソレノイド装置(一方のもの:PUSH型)
2B 電磁ソレノイド装置(他方のもの:PULL型)
21A、21B 可動鉄心
22A、22B ケーシング
23A、23B 電磁コイル
24A、24B 固定鉄心
25A、25B ロッド
26A、26B ガイド管
3A、3B コンロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁コイル及び固定鉄心を有する電磁石と、前記電磁石の固定鉄心に吸引される可動鉄心とを備えた2組の電磁ソレノイド装置を、クランクシャフトの両側に配置し、それぞれの前記電磁ソレノイド装置の可動鉄心を、コンロッドを介して前記クランクシャフトに連結した回転装置であって、
前記クランクシャフトには180°位相の異なる位置にクランクピンが形成され、前記2組の電磁ソレノイド装置における可動鉄心のそれぞれが、互いに異なる位置のクランクピンに連結されており、かつ、
2組の前記電磁ソレノイド装置は、一方の組における前記電磁石の固定鉄心が、前記クランクシャフトと可動鉄心の間に位置するとともに、他方の組における前記電磁石の固定鉄心が、可動鉄心に対し前記クランクシャフトと反対側に位置するよう配置されており、
それぞれの前記電磁ソレノイド装置の電磁コイルに交互に通電して、前記クランクシャフトを回転させることを特徴とする回転装置。
【請求項2】
前記2組の電磁ソレノイド装置における可動鉄心には、前記コンロッドと連結されるロッドがそれぞれ形成されており、前記一方の組の電磁ソレノイド装置においては、可動鉄心に形成されたロッドが固定鉄心を貫通している請求項1に記載の回転装置。
【請求項3】
2組の前記電磁ソレノイド装置には、可動鉄心の嵌め込まれる非磁性体からなるガイド管が、電磁コイルの内側にそれぞれ設置されている請求項1又は請求項2に記載の回転装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−51076(P2010−51076A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211698(P2008−211698)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】