説明

電線ヒューズ

【課題】電線ヒューズの短絡電流遮断で使用される消弧材の密閉性を向上させ絶縁性能を遮断や溶断動作時にも確保し、更にはヒューズ素子の変化にも追従する構成を提供する。
【解決手段】2分割された絶縁筒容器に溶断室11aと遮断室11bとに区分けする壁を設け、前記短絡電流を遮断するための消弧材21を絶縁容器へ封入し前記壁に嵌合する仕切板16にて溶断室11aと遮断室11bを区分けした電線ヒューズで、前記仕切板16には前記壁部に嵌合される円周部と前記ヒューズ素子12を密着状態で保持する保持部をシリコンゴムにて形成し、しかも前記円周部と前記保持部をステンレス板や鋼板により連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引き込み配電線路に使用される電線ヒューズに関するものである。詳しくは短絡電流を遮断するために使用される消弧材を保持するために電線ヒューズに使用される密閉蓋の改良に関するものである
【背景技術】
【0002】
従来より、需要家の保護のために引き込み線には電線ヒューズが接続されている。電線ヒューズには過電流を溶断するための溶断部と短絡電流を遮断するための遮断部とを備え、前記遮断部にはケイ砂等の無機粒状物からなる消弧材を密閉状態で封入した電線ヒューズが使用されている。
【0003】
これらの電線ヒューズの消弧材の封入方法については例えば、特許文献1記載の内容によれば、一端が開口し有底の円筒形状からなり絶縁材料で形成された絶縁筒にヒューズ素子を貫通保持させた状態で、絶縁筒に消弧材を充填した後、前記開口部には導電材料の仕切板により消弧材を密閉する構造がある。また、仕切板は電極の機能も兼用されているためヒューズ素子とは電気的に接続された状態にも保たれている。
さらに、特許文献2記載の内容にも上記と同様な構成が示されている。

【特許文献1】特開昭59−228336号公報
【特許文献2】実開昭61−30951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように消弧材を密閉するための仕切板を金属性の導電材料で、しかも電線ヒューズ用ヒューズ素子と仕切板が密着するような構成とすることで、以下のような問題が考えられる。
過電流溶断時や短絡電流遮断時において、ヒューズ素子の破断により電流は遮断するものの、遮断時に発生するアーク熱により絶縁筒内部が汚損され絶縁筒内部の絶縁性能が低下する。これにより絶縁筒に接触する仕切板及びヒューズ素子により絶縁筒の内部を介して接続端子を経て電路が再閉路されることがある。
【0005】
また、前記仕切板は電極機能を備えるため銅材等の金属性材料により形成されているためヒューズ素子や絶縁筒との密着性が悪く、そのため無機粒状物からなる消弧材を完全に密閉収納することができず消弧材が溶断部へこぼれることがある。この場合消弧材が必要量遮断部へ密閉収納されていなければ短絡電流の遮断動作が安定せず、公衆災害を招く原因となる。
【0006】
さらに通常の使用においては、需要家の電気使用量に応じて電線ヒューズ用ヒューズ素子に電流が流れ、合わせてヒューズ素子からジュール熱が発生する。発生するジュール熱に伴い熱膨張係数の異なるヒューズ素子や絶縁筒は伸縮量に差が生じ、仕切板にはヒューズ素子の変化に追従するような弾性機能を備えていないためヒューズ素子が仕切板により拘束される。それによりヒューズ素子の伸縮が一部に集中し、結果ヒューズ素子の異常な破断にもつながる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の様に消弧材の密閉性を向上させ絶縁性能を遮断や溶断動作時にも確保し、更にはヒューズ素子の変化にも追従するという課題を解決するために請求項1の発明においては、過電流を溶断する溶断室11aと短絡電流を遮断する遮断室11bとに区分けするために設けられた取付部11cを備えたケース11d内に、前記遮断室11bには短絡電流を遮断するための無機粒状物からなる消弧材21を充填するとともに、前記取付部11cへ仕切板16を取付けることで消弧材21を遮断室11bへ保持し溶断室11aと遮断室11bを区分けする電線ヒューズ1において、前記仕切板16には前記取付部11cに嵌合される円周部16eと前記ヒューズ素子12を密着状態で保持する保持部16cを難燃性で絶縁材料のシリコンゴムにて形成し、しかも前記円周部16eと前記保持部16cをステンレス板等の金属板の補強部材16aにより連結したことを特徴とする電線ヒューズ1を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
上記のように仕切板をヒューズ素子と絶縁筒に密着する箇所には弾性を有するシリコンゴムを備えていることで、絶縁筒に密閉収納された消弧材は漏れることがないため安定した短絡電流の遮断動作が行える。また、ヒューズ素子は弾性部材で保持されているため熱による膨張収縮動作にも追従できることでヒューズ素子の変形が一箇所へ集中することなく異常な破断が発生せず長期信頼性のある電線ヒューズが提供できる。
【0009】
さらに、仕切板にはステンレス板や鋼板等の剛性のある材料を使用していることで、短絡電流の遮断時の遮断部においてアークの放出があった場合でも消弧材は密閉状態を確保し消弧動作が安定することで安全な遮断動作が行える。
【0010】
さらに、仕切板でヒューズ素子と絶縁筒が接触している箇所には難燃性で絶縁性のシリコンゴムを使用していることで、ヒューズ素子が溶断し絶縁筒がアーク熱により炭化した場合であっても絶縁筒とヒューズ素子は絶縁の難燃性で絶縁材料のシリコンゴムにより絶縁性能が確保できるため確実に電流を遮断した状態を保持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施するための最良の形態を図1乃至図7に示す実施例に基づき説明する。
【0012】
図1には本発明の低圧配電線路の引込み線15の途中に接続して使用する電線ヒューズ1を示すもので、電線ヒューズ1は、概略電線ヒューズ素子12とその両端に圧着接続された接続端子13と電線ヒューズ素子12を内筒部11と外筒10によって二重に被覆して外気と隔絶した状態で密閉収納し、さらに外筒10はヒューズ素子1に接続された接続端子13の一部を覆うよう成形されている。
【0013】
外筒10は機械強度があり耐熱性の高いポリカーボネイト樹脂により内筒部11及び両側の接続端子13の一端を射出成形により一体で成形されており、外筒10の接続端子13との接合部10bには射出成形後シリコンゴムを充填するための気密部10aを備えている。この気密部10aは接続端子13と外筒10との密着性を高め電線ヒューズ1内部を気密状態に保つためのものである。
【0014】
図2には電線ヒューズ1の内筒部11の断面を示すもので、内筒部11は概略一体で成形された銅材の導電性の線材からなるヒューズ素子12と、ヒューズ素子12の両端に圧着接続された接続端子13と、前記一体化されたヒューズ素子12を密閉状態に収納するための2分割で構成された内筒A,内筒Bとケイ砂、石英砂、水酸化アルミナ等の粒状物の混合あるいはこれらの単独物からなる無機粒状物である消弧材21で構成されている。
【0015】
ヒューズ素子12は銅の線材からなりスエージング加工又はプレス加工等の製造方法より細径部や太径部からなる遮断部12bと溶断部12aが一体で形成している。また、溶断部12aには約1回転念回した細径部の端部は錫箔12dが溶着されており、更に遮断部には2箇所の太径部を備えて遮断部12bと溶断部12aの間には太径部の支持部12cが構成されている。
【0016】
接続端子13は導電体材料の銅材からなり、円柱形上で一端には電線15を接続するための電線接続穴13aと、他端にはヒューズ素子12の端部と接続するための接続穴13bが設けられている。接続端子13の接続穴13bへヒューズ素子12の端部を挿入し、接続端子13の外周部13cをかしめ等による圧着接続加工することでヒューズ素子12と接続端子13は一体化される。
【0017】
なお接続端子13に設けられた電線接続穴13aと接続穴13bは、電線接続穴13aにかしめ等により圧着接続された電線15から雨滴が電線ヒューズ1の内部に進入するのを防止するために貫通はしていない。
【0018】
図3乃至図5には内筒部11の組立途中を示しており、内筒ケース11dは筒形状を軸方向に2分割された内筒(A)19と内筒(B)20からなり機械強度が高く、耐熱性のある樹脂材料例えばポリカーボネイト樹脂で構成され、中央部には仕切壁19b、20bが一体で形成されており、過電流を遮断する溶断室19h、20hと短絡電流を遮断する遮断室19i、20iに分けられている。
【0019】
さらに前記仕切壁19b、20bには後述する仕切板16が嵌合され、遮断室19i、20iには短絡電流を遮断するための消弧材21が密閉されている。なお、内筒(A)19と内筒(B)20を組合わせることで図1に記載している溶断室11aと遮断室11bは構成される。
【0020】
さらに、内筒(A)19、内筒(B)20の両端部はヒューズ素子12と一体化された接続端子13を保持する端子保持部19f、20fを備え、また溶断室19h、20hの端子保持部側には接続端子13を保持し、かつ溶断時に発生するアーク熱を遮蔽し、内筒ケース11dに汚損させない箇所を確保するための絶縁壁19c、20cを一体で構成している。
【0021】
また、この分割された内筒(A)19、内筒(B)20は端子保持部近傍には突起部19d、20dと嵌合穴19e、20eを対で備えており、分割面を合わせて組付けることで、互いの突起部19d、20dと嵌合穴19e、20eが組合され、筒形状の内筒ケース11dが形成される。
【0022】
内筒(A)19、内筒(B)20の略中央部に設けられた仕切壁19b、20bは図4及び図5に示すように中心に切欠き部を設けた略三日月形状で後述する仕切板16を狭持するように2枚の壁が一体で構成されている。この仕切壁19b、20bの切欠き部の大きさが少ない場合には遮断動作により絶縁筒内部の絶縁性が低下し溶断したヒューズ素子12との接触で電路が再閉路することがある。
【0023】
一方、切欠き部が大きい場合には後述する仕切板16を保持するための強度が不足し短絡電流の遮断動作にて発生するアークにより発生する内圧の上昇を仕切板16が保持できず消弧材21が溶断室19h、20hへと流出し消弧せず遮断動作が行えない場合がある。この両方の機能を満足する程度の切欠き部を形成している。
【0024】
図6には本発明の電線ヒューズ1に使用される仕切壁19b、20bに嵌合される仕切板16を示したもので仕切板16は2部品から構成されており、中心に穴16fを設けた円盤状で適度な強度のある例えばステンレス板等の金属板からなる補強部材16aとその外周を覆うように構成された難燃性で絶縁性のあるシリコンゴムからなるカバー16bから構成されている。
【0025】
カバー16bにはヒューズ素子12の支持部12cを保持するための保持部16cを有し、保持部16cには支持部12cを密着状態で保持するための保持穴16dが構成されている。さらに、カバー16bの円周部16eの厚みは仕切壁19b、20bへ嵌合するための厚みに構成されている。
【0026】
なお、この仕切壁19b、20bは内筒(A)19、内筒(B)20の内壁より立設した構成に限らず円周部16eが嵌合する溝であっても良い。
【0027】
この構成により、短絡電流の遮断時に発生するアーク熱による遮断室19i、20iの内圧が上昇しても強度のある補強部材16aを構成しているため仕切板16が破壊することがなく、密閉状態で保持されている無機粒状物からなる消弧材21が溶断室側19h、20hへこぼれることがない。そのため消弧が確実にでき遮断動作が安全に行える。
【0028】
また、カバー16bは弾性材料があり難燃性で絶縁性のシリコンゴムを使用する上に、さらに無機材料からなる耐熱シート18により保護しているため遮断動作や溶断動作により仕切板16が焼損せず仕切板16の絶縁性能が確保できる。さらに通常の使用状態においてヒューズ素子12に流れる電流により発生するジュール熱の影響によるヒューズ素子12の膨張や収縮を拘束することなくヒューズ素子12に対して集中的に繰返し応力が加えられることがないためヒューズ素子12の局部的な破壊がない。
【0029】
しかもヒューズ素子12や内筒ケース11dに対して密着しているため遮断室19i、20iに密閉状態で保持されているケイ砂等の微細な無機粒状物からなる消弧材21も溶断室19h、20hへとこぼれることがないため確実な遮断動作が行える。
【0030】
なお、仕切板16は上記構成に限定されるものではなく遮断動作に耐え得る強度とヒューズ素子12の膨張や収縮動作並びに絶縁性能が確保できる構成であればよく、例えば図7(a)に示すように遮断室19i、20i側へ補強部材16aがカバー16bから露出したり、図7(b)に示すように補強部材16aの円周部16e及び補強部材16aの中心に設けられた穴部16fにシリコンゴムにて構成されたカバーを構成してもよい。
【0031】
この場合、円周部16eの半径方向の長さは内筒ケース11dに嵌合した状態において仕切壁19b、20bの終端(切欠き部)と補強部材16aとの間で絶縁性能を確保するために仕切壁19b、20bより長くする必要がある。またカバー16bについてはシリコンゴムに限定されるものではなく絶縁性で弾性材料があり難燃性があれば良く例えば、フッ素ゴム、テフロン(登録商標)ゴムを用いても良い。
【0032】
次に本実施例の電線ヒューズ1における組立方法について説明する。
まず電線ヒューズ1用ヒューズ素子12の溶断部12aで支持部12c近傍に錫合金12dを溶着させ支持部12cまで仕切板16を挿入後、ヒューズ素子12の溶断部12a側より耐熱シート18を装着する。その後ヒューズ素子12の両端へ接続端子13を挿入し圧着接続する。
【0033】
次に、内筒(A)19へ一体化されたヒューズ素子12を組付ける。この時仕切板16は内筒(A)19に設けられた仕切壁19b、20bへ勘合させ、さらに接続端子13のかしめ部13cを内筒(A)19のかしめ保持部19fにはめ合わせる。
【0034】
その後、内筒(A)19の分割面に内筒(B)20を組付ける。なお、内筒(A)19には嵌合ピン19dと嵌合穴19eが内筒(B)20にも嵌合穴20eと嵌合ピン20dが設けられており、互いの嵌合ピン19d、20dが嵌合穴19e、20eへ嵌合することで内筒ケース11dが組み付けられる。
この時、内筒(B)20の仕切壁20bへも仕切板16が嵌合するよう組付ける。
【0035】
次に図2に示すように内筒(A)19に設けられた穴17より消弧材21を充填し蓋17を圧入組付けすることで内筒部11の組付が完了する。
【0036】
組み付けられた内筒部11を射出成形機の型枠内にセットし、外筒10を射出成形する。
外筒成形後、接続端子13と外筒11により形成された気密部10aにシリコンゴムを注入し電線ヒューズ1の組立が完了する。
【0037】
次に電線ヒューズ1の溶断動作及び遮断動作について説明する。
ヒューズ素子1へ過電流が流れた場合には溶断部19h、20hでの銅線が溶融し電路が開放される。この時、仕切板16に被せている耐熱シート18はヒューズ素子12の溶断によるアークで仕切板16が煙硝するのを防止する働きがあり、これにより電線ヒューズ1の内部圧力の上昇を防ぎ、絶縁性能も確保できる。
【0038】
また、短絡電流がヒューズ素子12に流れた場合には遮断部12bの銅線が溶断しアークが発生するが、遮断室19i、20iに遮断部12bを取囲むように充填された消弧材21の表面や内部に浸透しながら吸着や冷却されて、更には消弧材21に含まれるケイ素等により絶縁物を形成することでアークエネルギーを吸収し消弧され、これにより電路が開放される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本実施例の電線ヒューズの断面を表す図
【図2】本実施例の内筒部を表す図
【図3】内筒部の組立途中を表す図
【図4】内筒部の内筒蓋Aを分解した状態で、内筒蓋Bからの斜視図
【図5】内筒部の内筒蓋Aを分解した状態で、内筒蓋Aからの斜視図
【図6】本実施例の電線ヒューズに使用される仕切板
【図7】仕切板の別実施例表した図
【符号の説明】
【0040】
1 電線ヒューズ
10 外筒
11 内筒部
11a 溶断室
11b 遮断室
11c 取付部
11d 内筒ケース
12 ヒューズ素子
16 仕切板
16a 補強部材
16c 保持部
16e 円周部
19 内筒A
20 内筒B
21 消弧材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
過電流を溶断する溶断室11aと短絡電流を遮断する遮断室11bとに区分けするために設けられた取付部11cを備えたケース11d内に、前記遮断室11bには短絡電流を遮断するための無機粒状物からなる消弧材21を充填するとともに、前記取付部11cへ仕切板16を取付けることで消弧材21を遮断室11bへ保持し溶断室11aと遮断室11bを区分けする電線ヒューズ1において、
前記仕切板16には前記取付部11cに嵌合される円周部16eと前記ヒューズ素子12を密着状態で保持する保持部16cを難燃性で絶縁材料のシリコンゴムにて形成し、しかも前記円周部16eと前記保持部16cをステンレス板等の金属板の補強部材16aにより連結したことを特徴とする電線ヒューズ1。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−87892(P2009−87892A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259756(P2007−259756)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000231154)日本高圧電気株式会社 (38)
【Fターム(参考)】