説明

電線・ケーブルの耐候性向上方法

【課題】屋外で使用される電線・ケーブルの耐候性を向上させるに際し、良好な作業性で屈曲部の耐候性を向上できる方法を提供する。
【解決手段】屋外11で使用される電線・ケーブル10の耐候性向上方法において、屋外11に配線された電線・ケーブル10の屈曲部14に、液状樹脂を塗布、硬化させて被覆樹脂15を形成する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外で使用される電線・ケーブルの耐候性を向上させる方法に係り、特に応力によって劣化が促進されやすい屈曲部の耐候性を向上させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋外で使用される電線・ケーブルは風雨や直射日光等の劣化要因にさらされており、これらの要因に対する耐性(耐候性)が求められる。
【0003】
耐候性に乏しい電線・ケーブルの場合、直射日光や風雨により樹脂層が急激に劣化し、割れや剥離を生じる。その結果、中心の導体や光ケーブルに雨水がかかり、伝送不良や最悪の場合短絡による発火の可能性もある。
【0004】
近年では街頭の美観の問題もあり、電線・ケーブル類を地中の共同溝内に設置する動きもあるが、全体に対しては一部であり、屋外の直射日光下に敷設される電線類は未だに多い。
【0005】
このように、屋外に敷設される電線・ケーブルには耐候性が必要であり、その方法として外層の樹脂層(シース層)にカーボンブラックの微粒子を添加する方法が多用される。
【0006】
カーボンブラックは、安価かつ紫外線の吸収や遮蔽能力に優れるため、これをシース層に添加することで内部の樹脂を太陽光の紫外線から効率的に保護できる。現在、屋外で使用される電線・ケーブルのほとんどが黒色であるのはこのためである。
【0007】
また、黒色以外の色相としては、二酸化チタンを使用した白色ケーブルも存在する。二酸化チタンはカーボンブラックよりも高価であるが、黒色との識別性が必要な場合に使用される。
【0008】
この他にも耐候性を付与または向上させる手段として、紫外線吸収剤や光安定剤を添加する方法もあるが、これらは比較的高価であるため、カーボンブラックや二酸化チタンの補助的に使用される場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−58335号公報
【特許文献2】特開平7−14437号公報
【特許文献3】特開2010−165517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、被覆層を形成する樹脂は応力等のストレス環境下では劣化が促進されることが知られており、屈曲部における紫外線劣化も例外ではない。配線時の必要により電線・ケーブルの直径と比べて数倍程度の曲げ直径(ケーブル直径をDとした倍数で示す:例3Dなど)で固定された部分(屈曲部)は、他の直線状に配線された部分よりも紫外線劣化が進みやすく、カーボンブラックなどの添加のみでは耐候性を充分に向上させることができない。
【0011】
これに対抗するため、屈曲部を黒色のビニルテープ等で覆い、紫外線を遮蔽する方法もとられているが、特に細径線の屈曲部は曲げ径が小さくなるためビニルテープを巻きにくく作業性が悪いこと、全体を覆うと内部の電線・ケーブルの識別性を損なうことから万全な方法ではなく、結果として設計寿命よりも短い期間で電線・ケーブルの寿命を迎えることが多かった。
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、屋外で使用される電線・ケーブルの耐候性を向上させるに際し、良好な作業性で屈曲部の耐候性を向上させる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために創案された本発明は、屋外で使用される電線・ケーブルの耐候性向上方法において、屋外に配線された電線・ケーブルの屈曲部に、液状樹脂を塗布、硬化させて被覆樹脂を形成する電線・ケーブルの耐候性向上方法である。
【0014】
前記液状樹脂は、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、水分硬化樹脂、乾燥固化型樹脂のいずれかであると良い。
【0015】
前記液状樹脂に、紫外線吸収剤を添加すると良い。
【0016】
前記液状樹脂に、光安定剤を添加すると良い。
【0017】
前記液状樹脂に、カーボンブラックを添加しても良い。
【0018】
前記被覆樹脂は、内部の前記電線・ケーブルの色相を識別できる透明性を有すると良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、屋外で使用される電線・ケーブルの耐候性を向上させるに際し、良好な作業性で屈曲部の耐候性を向上させる方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の耐候性向上方法を適用した電線・ケーブルの模式図である。
【図2】本発明の耐候性向上方法を適用した電線の構造を示す断面図である。
【図3】曲げ直径5D(D:電線の直径)または10Dの屈曲部を有する試料の耐候性を評価するに際し、試料を固定する方法について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、電線・ケーブル類の屈曲部や可動部など、遮光カバーの取付や電線管内への設置などの恒久的な紫外線対策が採りにくい一方、応力等によって紫外線劣化が進行しやすい箇所に適用する方法である。
【0022】
以下に、本発明の好適な一実施の形態について図面を用いて説明する。
【0023】
図1は、本実施の形態に係る電線・ケーブルの耐候性向上方法を説明する模式図である。
【0024】
図1において、電線・ケーブル10は屋外11に配線され、接続部12を介して構造体13に接続されるに際し、配線上の必要により直径の3倍程度の曲げ直径で屈曲された屈曲部14を有する。この屈曲部14に直射日光が当たると、屈曲部14は他の部分に比べて紫外線他による劣化が早く進む。そこで屈曲部14、特に太陽光が当たる部分に液状樹脂を塗布、硬化させることで保護層としての被覆樹脂15を形成する。
【0025】
すなわち図2に示すように、本実施の形態に係る耐候性向上方法を適用した電線・ケーブル10の屈曲部14では、導体(あるいは信号線)1を被覆する絶縁層2上のシース層3に、液状樹脂を塗布、硬化させた被覆樹脂15が形成される。
【0026】
次に、各部について説明する。
【0027】
電線・ケーブル10は、電気や情報信号を伝送するものであり、例えば、家庭用100V、200V電源、電話線、CATVケーブルや光ファイバーケーブル、あるいは太陽電池ケーブルやEVの充電ケーブル等が該当する。
【0028】
接続部12は、上記の電線・ケーブル10の接続に使用するものであり、接続部12を有する構造体13は、家屋の壁面のように不動体であっても良いし、ある程度の移動範囲を持つ可動体であっても良い。
【0029】
屈曲部14は、配線上の必要により、電線・ケーブル10を円形または角状に曲げて設置している箇所である。曲げ直径がケーブルの直径と同じ〜3倍(1D〜3D)程度では、曲げによるストレスが強くかかり、紫外線による劣化が促進される。本発明では屈曲部14を後述する被覆樹脂15によって保護するため、電線・ケーブル10の物理的な曲げ限界までであれば、曲げ直径は任意に選択できる。
【0030】
被覆樹脂15は、液状樹脂を屈曲部14のシース層3上に塗布、硬化させて形成されるものであり、本来紫外線によって劣化するシース層3の代わりに、自身が徐々に紫外線劣化を受けることで、シース層3を紫外線劣化から保護し、屈曲部14の耐候性を向上して寿命を延長するものである。被覆樹脂15は液状樹脂を単に塗布、硬化させることで形成されるので、ビニルテープを巻付ける従来方法に比して、良好な作業性で屈曲部14の耐候性を向上することができる。
【0031】
また、被覆樹脂15は、屈曲部14上に形成された後に、内部の電線・ケーブル10の色相を識別できる透明性を有するようにされることが好ましい。これにより、電線・ケーブル10のシース層3の色相を被覆樹脂15を介して確認することができるようになる。
【0032】
被覆樹脂15を形成するための液状樹脂としては、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、水分硬化樹脂、乾燥固化型樹脂を使用可能である。紫外線硬化樹脂、水分硬化樹脂、乾燥固化型樹脂は、樹脂の硬化のための装置、設備を特に必要としないため、より簡便に屈曲部14の耐候性を向上させることができる。一方、熱硬化樹脂は、樹脂の硬化に工業用ドライヤーなどの加熱装置が必要となるが、例えば太陽光が遮られて紫外線硬化樹脂が硬化できないような場合などにおいても、作業環境によらず樹脂を硬化させることができる。
【0033】
本発明では、必要に応じて液状樹脂に紫外線吸収剤や光安定剤を添加することができる。これにより、被覆樹脂15を透過する太陽光をさらに低減させ、屈曲部14の耐候性をさらに向上させることができる。
【0034】
なお、本発明では液状樹脂にカーボンブラックを添加することもできる。この場合、被覆樹脂15の透明性が失われ、内部の電線・ケーブル10が識別できなくなるが、屈曲部14の耐候性を著しく向上させることが可能となる。
【0035】
以上説明したように、本発明に係る耐候性向上方法では、屋外で使用される電線・ケーブルの耐候性を向上させる際に、屋外に配線された電線・ケーブルの屈曲部に、液状樹脂を塗布、硬化させて被覆樹脂を形成し、電線・ケーブルのシース層を紫外線劣化から保護するようにしている。
【0036】
これにより、ビニルテープを巻付けるなどの従来方法に比して、良好な作業性で屈曲部の耐候性を向上させることができる。
【0037】
次に、被覆樹脂15を形成するための液状樹脂の詳細について以下に記述する。
【0038】
(塗布方法)
本発明は、簡易な方法で電線・ケーブルの寿命を延長するものであるため、電線・ケーブルの屈曲部にビニルテープを巻くよりも容易な方法であることが望ましい。したがって、液状樹脂を電線・ケーブルの屈曲部表面に塗布、硬化させる際の塗布方法も種々の方法が選択できる。すなわち、刷毛やブラシ、コテ状のもので塗布する方法、スプレーにて塗布する方法、更には小さな屈曲部であればディップコートすることも可能であり、特に規定するものではない。
【0039】
(硬化方法(樹脂の種類))
塗布した液状樹脂は、少なくとも液ダレしない程度には硬化させる必要がある。硬化方法も特に規定するものではなく、紫外線硬化、熱硬化、水分硬化、乾燥固化などより自由に選択できる。
【0040】
(紫外線硬化樹脂)
紫外線硬化は、樹脂中に紫外線によってラジカルを発生させる光反応開始剤を添加することで、アクリル基、メタクリル基を有するオリゴマ、モノマからなる樹脂を架橋硬化させる方法である。
【0041】
本発明に使用する紫外線硬化樹脂は基本的に重合性オリゴマ、重合性モノマ、光反応開始剤などからなる。重合性オリゴマ(プレポリマ)とは、例えばエポキシアクリレート系、エポキシ化油アクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリエステルウレタンアクリレート系、ポリエーテルウレタンアクリレート系、ポリエステルアクリレート系、ポリエーテルアクリレート系、ビニルアクリレート系、シリコーンアクリレート系、ポリブタジエンアクリレート系、ポリスチレンエチルメタクリレート系、ポリカーボネートジカルボネート系、不飽和ポリエステル系、ポリエン/チオール系など各種オリゴマであって、不飽和二重結合を有する官能基、例えばアクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、ビニル基を2個以上有するものである。オリゴマはフッ素置換されたものでもよく、2種以上のオリゴマを組合わせてもよい。重合性モノマとは、分子中にアクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、ビニル基などの官能基を1個または2個以上有する公知の化合物を用いることができる。
【0042】
光反応開始剤とは、光重合性オリゴマやモノマの重合反応を開始させる働きを持つもので、紫外線を受け、フリーラジカルを生成する役割を持つ。紫外線硬化のためにはこのフリーラジカルが必要で、光重合開始剤は紫外線により特定波長を吸収して電子的励起状態となりラジカルを発生しやすい物質である。例えば、ベンゾインエーテル系、ケタール系、アセトフェノン系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系などがあり目的に応じて種々の光重合開始剤を用いることができる。
【0043】
(熱硬化樹脂)
熱硬化樹脂は、熱によってフリーラジカルを発生する化合物を開始剤として使用するものであり、その他には紫外線硬化樹脂と同様に重合性オリゴマ、重合性モノマ、あるいはその他の添加剤を加えることができる。
【0044】
熱開始剤には、アゾ化合物、ジアゾ化合物の他、有機過酸化物類すなわちジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどのジアルキルパーオキサイド類、ジメチルベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどのパーオキシケタール類が使用でき、特に規定するものではない。
【0045】
(水分硬化樹脂)
水分硬化樹脂は、空気中の水分によって硬化するもので、オルガノシロキサン類が使用できる。また、変性シアノアクリレート類も使用でき、特に規定するものではない。
【0046】
(乾燥固化型樹脂)
乾燥固化型樹脂は、溶剤に樹脂を溶解させる、またはエマルジョン化させた樹脂を乾燥させて固化するもので、溶剤にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールその他のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、その他脂肪族や芳香族の炭化水素類などの有機溶剤のほか水も使用可能である。溶質あるいはエマルジョンの成分としては、ゴム類、エチレンビニルアルコール、酢酸ビニルあるいはこれらの共重合体を使用でき、特に規定するものではない。
【0047】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤は、使用目的に適合するものであれば、特に規定するものではない。
【0048】
サリチル酸誘導体であれば、フェニル・サリシレート、p−第三−ブチルフェニル・サリシレートなどが挙げられる。
【0049】
ベンゾフェノン系であれば、2,4−ジヒドロキシ・ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ・ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ・ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ・ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシ・ベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシ・ベンゾフェノン、4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシ・ベンゾフェノン、3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾイル酸、n−ヘキサデシルエステル、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、1,4−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)ブタン、1,6−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)ヘキサンなどが挙げられる。
【0050】
ベンゾトリアゾール系であれば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−第三ブチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−ジ−第三ブチル−5’−メチル−フェニル)−5−クロロ・ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−第三ブチル−フェニル)−5−クロロ・ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−第三オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−第三アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,αジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、その他ベンゾトリアゾール誘導体などが挙げられる。
【0051】
その他蓚酸アニリド誘導体、2−エチル・ヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニル・アクリレートなどが挙げられる。これらの紫外線吸収剤を単独または複数組合わせて使用できる。
【0052】
(光安定剤)
本発明に使用される光安定剤は、ヒンダードアミン系光安定剤であり、特に規定するものではない。一例を挙げると、ポリ[[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]]、ポリ[(6−モルホリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)[2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル]イミノ]−ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]]、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン・2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミン・N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物である。これら光安定剤を単独又は複数組合わせて使用できる。
【0053】
また、その他にも本発明の実施に際しては、樹脂組成物(液状樹脂)に所望により以下のものを1または2種以上組合わせて含有させることができる。
【0054】
すなわち、光開始助剤、接着防止剤、チクソ付与剤、充填剤、可塑剤、非反応性ポリマー、着色剤、難燃剤、難燃助剤、軟化防止剤、離型剤、乾燥剤、分散剤、湿潤剤、沈殿防止剤、増粘剤、耐電防止剤、静電防止剤、防かび剤、防鼠剤、防蟻剤、艶消し剤、ブロッキング防止剤、皮張り防止剤、界面活性剤等を組合わせて用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明の実施例および比較例について説明する。
【0056】
(1)評価用サンプル
まず、実験用の試料として、断面積3.5mm2の導体上に、無着色のポリエチレンを0.8mm厚で被覆して絶縁層とし、その絶縁層上に黒色または白色のシース層を1.5mm厚に形成し、黒、白それぞれ外径7mmの電線を得た。それぞれのシース層の配合比(質量部)を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
この黒白2種類の電線に、屈曲部に見立てた曲げを加えた。曲げ直径1Dと3D(D:電線の直径)の試料は、それぞれに相当する直径を持つ中心棒に5回以上巻きつけ、緩まないように固定した。
【0059】
曲げ直径5Dと10Dの試料は、図3に示すように、対応する直径に1回巻きで纏め、冶具を使用して緩まないように固定した。この際、紫外線の照射方向が、図3に示したように丸めた電線の伸び応力がかかった部分になるよう、試料の設置位置を調節した。
【0060】
(2)評価用液状樹脂
次に、実施例に用いる液状樹脂を以下のようにして得た。
【0061】
(紫外線硬化樹脂)
オリゴマとしてウレタンアクリレート系オリゴマ(プレポリマ)、モノマとしてエチレングリコール系モノマ、光重合開始剤としてベンジルジメチルケタールを選び、これらを架橋後に最適特性を発揮できるように適宜配合することにより紫外線硬化樹脂を得た。
【0062】
この紫外線硬化樹脂に、ヒンダードアミン系光安定剤を1mass%、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を1mass%添加したものを用意した。この液状樹脂は、硬化しても微黄色透明であった。
【0063】
(熱硬化樹脂)
オリゴマとしてウレタンアクリレート系オリゴマ(プレポリマ)、モノマとしてエチレングリコール系モノマ、熱重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4ジメチルバレロニトリル)を選び、これらを架橋後に最適特性を発揮できるように適宜配合することにより熱硬化樹脂を得た。この樹脂の硬化温度は、開始剤の分解する約55℃である。
【0064】
この熱硬化樹脂に、ヒンダードアミン系光安定剤を1mass%、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を1mass%添加したものを用意した。この液状樹脂は、硬化しても微黄色透明であった。
【0065】
(水分硬化樹脂)
末端にイソシアネート基を有する変性ポリウレタン樹脂を主成分とする一液硬化型の樹脂塗料を用いた。この樹脂塗料にヒンダードアミン系光安定剤を1mass%、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を1mass%添加したものを用意した。この液状樹脂は、硬化しても微黄色透明であった。
【0066】
(乾燥固化樹脂)
乾燥固化型樹脂としては、水を使用してアクリルエマルジョンを分散させた水性アクリル塗料を用いた。この樹脂塗料にヒンダードアミン系光安定剤を1mass%、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を1mass%添加したものを用意した。この液状樹脂は、硬化しても微黄色透明であった。
【0067】
また、比較例として試料に巻付けるビニルテープは、黒または白色で幅18mm、厚さ約0.15mmのものを使用した。
【0068】
(3)比較例と実施例の詳細
(比較例1)
上記黒色電線を、1〜10Dに曲げた試料をそれぞれ使用した。
【0069】
(比較例2)
上記白色電線を、1〜10Dに曲げた試料をそれぞれ使用した。
【0070】
(比較例3)
上記黒色電線を使用し、1〜10Dに曲げた屈曲部に黒色ビニルテープを巻きつけた。
【0071】
(比較例4)
上記白色電線を使用し、1〜10Dに曲げた屈曲部に白色ビニルテープを巻きつけた。
【0072】
(比較例5)
上記黒色電線を使用し、1〜10Dに曲げた屈曲部に白色ビニルテープを巻きつけた。
【0073】
(比較例6)
上記白色電線を使用し、1〜10Dに曲げた屈曲部に黒色ビニルテープを巻きつけた。
【0074】
(実施例1)
上記黒色電線を、1〜10Dに曲げ、それぞれに紫外線硬化樹脂を刷毛を用いて満遍なく塗布した後、太陽光にあてて架橋硬化させた試料を使用した。このときの樹脂の厚さは0.05〜0.2mm、平均0.12mmであった。また、シース層の色も容易に確認でき、識別性も良好であった。
【0075】
(実施例2)
上記白色電線を、1〜10Dに曲げ、それぞれに紫外線硬化樹脂を刷毛を用いて満遍なく塗布した後、太陽光にあてて架橋硬化させた試料を使用した。このときの樹脂の厚さは0.05〜0.2mm、平均0.12mmであった。また、シース層の色も容易に確認でき、識別性も良好であった。
【0076】
(実施例3)
上記黒色電線を、1〜10Dに曲げ、それぞれに熱硬化樹脂を刷毛を用いて満遍なく塗布した後、工業用ドライヤーで温風を当て、表面温度を約60℃に加熱し硬化した。このときの樹脂の厚さは0.05〜0.2mm、平均0.12mmであった。また、シース層の色も容易に確認でき、識別性も良好であった。
【0077】
(実施例4)
上記白色電線を、1〜10Dに曲げ、それぞれに熱硬化樹脂を刷毛を用いて満遍なく塗布した後、工業用ドライヤーで温風を当て、表面温度を約60℃に加熱し硬化した。このときの樹脂の厚さは0.05〜0.2mm、平均0.12mmであった。また、シース層の色も容易に確認でき、識別性も良好であった。
【0078】
(実施例5)
上記白色電線を、1〜10Dに曲げ、それぞれに一次粒径20nmのカーボンブラック0.5mass%を添加した熱硬化樹脂を、刷毛を用いて満遍なく塗布した後、工業用ドライヤーで温風を当て、表面温度を約60℃に加熱し硬化した。このときの樹脂の厚さは0.05〜0.2mm、平均0.12mmであった。
【0079】
(実施例6)
上記黒色電線を、1〜10Dに曲げ、それぞれに水分硬化樹脂を刷毛を用いて満遍なく塗布した後、室内に放置して充分に硬化させた。このときの樹脂の厚さは0.05〜0.2mm、平均0.12mmであった。また、シース層の色も容易に確認でき、識別性も良好であった。
【0080】
(実施例7)
上記白色電線を、1〜10Dに曲げ、それぞれに水分硬化樹脂を刷毛を用いて満遍なく塗布した後、室内に放置して充分に硬化させた。このときの樹脂の厚さは0.05〜0.2mm、平均0.12mmであった。また、シース層の色も容易に確認でき、識別性も良好であった。
【0081】
(実施例8)
上記白色電線を、1〜10Dに曲げ、それぞれに一次粒径20nmのカーボンブラック0.5mass%を添加した水分硬化樹脂を、刷毛を用いて満遍なく塗布した後、室内に放置して充分に硬化させた。このときの樹脂の厚さは0.05〜0.2mm、平均0.12mmであった。
【0082】
(実施例9)
上記黒色電線を、1〜10Dに曲げ、それぞれに乾燥固化型樹脂を刷毛を用いて満遍なく塗布した後、室内に放置して充分に硬化させた。このときの樹脂の厚さは0.05〜0.2mm、平均0.12mmであった。また、シース層の色も容易に確認でき、識別性も良好であった。
【0083】
(実施例10)
上記白色電線を、1〜10Dに曲げ、それぞれに乾燥固化型樹脂を刷毛を用いて満遍なく塗布した後、室内に放置して充分に硬化させた。このときの樹脂の厚さは0.05〜0.2mm、平均0.12mmであった。また、シース層の色も容易に確認でき、識別性も良好であった。
【0084】
(実施例11)
上記白色電線を、1〜10Dに曲げ、それぞれに一次粒径20nmのカーボンブラック0.5mass%を添加した乾燥固化型樹脂を、刷毛を用いて満遍なく塗布した後、室内に放置して充分に硬化させた。このときの樹脂の厚さは0.05〜0.2mm、平均0.12mmであった。
【0085】
(4)評価方法、評価基準
評価は耐候性、作業性、識別性で行った。
【0086】
(耐候性)
実環境での試験を行うと膨大な時間を要するため、サンシャインウェザーメーター(SUGA試験機、S80,以下SWM)を用いて促進試験にて行った。上記した比較例および実施例の試料をSWMに投入し、紫外線照射を行った。照射条件を表2に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
紫外線照射168h(7日)毎に試料を肉眼で観察し、紫外線を照射した面のシース層にクラックが確認できるまでの時間を求めた。このとき、実施例で被覆した樹脂(被覆樹脂)の状態は考慮せず、シース層の状態のみで判定を行った。
【0089】
また、カーボンブラックを配合した液状樹脂を使用した実施例5,8,11については、そのままではシース層の状態は確認不能であるため、複数の試料を用意し、3000、4000、5000h経過後にそれぞれ被覆樹脂を剥離してシース層の状態を判定した。
【0090】
シース層にクラックが確認できるまでの時間を記録すると共に、曲げ直径1Dでの時間を基に耐候性を次のように判定した。2000時間未満:×、2000時間以上3000時間未満:△、3000時間以上4000時間未満:○、4000時間以上:◎。
【0091】
(作業性)
液状樹脂の調整を除く、比較例、実施例の試料調整(液状樹脂の塗布、固化、およびビニルテープの巻付け)に要した時間と難易度を感覚的に判定した。判定基準は、『ビニルテープを巻きつける』水準を×とし、ドライヤーなど液状樹脂を硬化させる装置を必要とするものを△、特に装置は必要としないが、1段階ふんで液状樹脂を硬化させるものを『容易』○、液状樹脂を塗布後、放置するのみで被覆樹脂が形成されるものを『非常に容易』◎とし、×、△、○、◎の4段階で示す。
【0092】
(識別性)
液状樹脂を塗布、あるいはビニルテープを巻きつけた後のシース層の色を、肉眼で識別できるかを感覚的に判定した。判定基準は『識別不能』の×から、シース色が濃いためかろうじて『識別可能』なものを△、『容易に識別』の◎まで、×、△、◎の3段階で示す。
【0093】
(5)評価結果
比較例および実施例の試料の構成、シース層にクラックが発生するまでの時間、および評価結果をそれぞれ表3および表4に示す。
【0094】
【表3】

【0095】
【表4】

【0096】
まず、比較例について表3により述べる。
【0097】
何の対策も施しておらず、従来のようにシース層の外周に何も被覆せずそのまま屈曲敷設した比較例1,2は、1Dの屈曲状態において1500〜1700時間と全比較例、実施例の中で最も早くにクラックが発生した。
【0098】
黒色ビニルテープを巻いた比較例3,6は耐候性に優れているが、作業性や識別性に問題があった。
【0099】
白色ビニルテープを巻いた比較例4,5は、ビニルテープそのものが500〜600時間程度で劣化し、1Dの屈曲状態において、3000時間未満でシース層にクラックが発生し、耐候性向上の効果は小さかった。また、作業性にも問題があった。
【0100】
次に、実施例について表4により述べる。
【0101】
紫外線硬化樹脂を塗布した実施例1,2は、耐候性が向上し作業性にも問題なく、識別性に優れていることを確認した。
【0102】
熱硬化樹脂を塗布した実施例3,4は、耐候性や識別性に問題はなかったが、工業用ドライヤー等で樹脂を加温し、硬化させる必要があるため作業性に若干の問題があった。また、この熱硬化性樹脂にカーボンブラックを配合した実施例5は、識別性に乏しいものの、特に優れた耐候性を示した。
【0103】
水分硬化樹脂や乾燥固化型樹脂を使用した実施例6〜11は、樹脂を塗布後に放置するだけで硬化または固化するため作業性に非常に優れることを確認した。また、実施例6,7,9,10は充分な耐候性と識別性があること、実施例8,11は識別性に問題はあるものの特に優れた耐候性を持つことを確認した。
【0104】
以上のように、本発明の液状樹脂を電線・ケーブルの屈曲部に塗布、硬化させる方法は、良好な作業性でありながら、耐候性を向上させることができる。
【0105】
また、液状樹脂が透明、または半透明のタイプはシース層の色相を確認できることから識別性を付与することができ、逆に液状樹脂にカーボンブラックなどの遮蔽剤を配合したものは、識別性は損なわれるが非常に優れた耐候性を付与できる。
【0106】
本発明は、元来電線・ケーブルの直線部に対して屈曲部の寿命が短くなることを防止するものであるが、直線部の寿命延長用としても使用可能である。特に機器内で使用される電線は、識別性のため種々の色が使われることが多い。そのような用途で耐紫外線が要求される場合には、本発明が有効である。
【0107】
また、本発明はシース層の外周を覆うため、耐オゾン性の向上にも有効である。
【符号の説明】
【0108】
10 電線・ケーブル
11 屋外
14 屈曲部
15 被覆樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外で使用される電線・ケーブルの耐候性向上方法において、屋外に配線された電線・ケーブルの屈曲部に、液状樹脂を塗布、硬化させて被覆樹脂を形成することを特徴とする電線・ケーブルの耐候性向上方法。
【請求項2】
前記液状樹脂は、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、水分硬化樹脂、乾燥固化型樹脂のいずれかである請求項1記載の電線・ケーブルの耐候性向上方法。
【請求項3】
前記液状樹脂に、紫外線吸収剤を添加する請求項1又は2記載の電線・ケーブルの耐候性向上方法。
【請求項4】
前記液状樹脂に、光安定剤を添加する請求項1〜3いずれか記載の電線・ケーブルの耐候性向上方法。
【請求項5】
前記液状樹脂に、カーボンブラックを添加する請求項1〜4いずれか記載の電線・ケーブルの耐候性向上方法。
【請求項6】
前記被覆樹脂は、内部の前記電線・ケーブルの色相を識別できる透明性を有する請求項1〜4いずれか記載の電線・ケーブルの耐候性向上方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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