説明

電線保持構造、および電線保持方法

【課題】クランプなどの固定具を必要とせずに、また、各種の太さのワイヤハーネスをフレキシブルフラット体に併設保持させることができるフレキシブルフラット回路体の電線保持構造を提供する。
【解決手段】フレキシブルフラット回路体1には、その延長方向と交差する交差方向に延長する複数のスリット11が、前記延長方向に沿って並ぶように形成されており、そして電線2が、前記延長方向に沿ってフレキシブルフラット回路体1に縫い込まれるように複数のスリット11に挿通されることでフレキシブルフラット回路体1に保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、FPC(Flexible Printed Circuit)、FFC(Flexible Flat Cable;フレキシブルフラットケーブル)、リボン電線、などといった可撓性を有するフレキシブルフラット回路体に係り、特に、フレキシブルフラット回路体に電線等を一体に組付けて併設保持させるためのフレキシブルフラット回路体による電線保持構造、およびフレキシブルフラット回路体による電線保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フラットケーブルや丸電線束を自動車の車体等に固定する方法としては、樹脂製のクランプや可撓性のバンドがフラットケーブルや丸電線束の長手方向に所定のピッチを有して複数設けられ車体等に固定されているものが知られている。
【0003】
また、フレキシブルフラット回路体の固定や、フレキシブルフラット回路体と丸型電線束(以下「ワイヤハーネス」という。)を簡単にかつ確実に固定させるクランプとして、例えば特許文献1に記載のものが知られている。図8は、従来のフレキシブルフラット回路体や丸電線束を自動車の車体等に固定するために用いるクランプを示す構成図である。図9は、そのクランプを用いたフレキシブルフラット回路体とワイヤハーネスとの固定方法を示す説明図である。
【0004】
即ち、このクランプ100には、図8に示すように、樹脂成形された基板部101と、その下面に設けた自動車の車体等に固定するための固定爪102と、基板部101の上面に設けたフレキシブルフラット回路体200(図9参照)を位置決めするためのロケートピン103と、係止爪104Aと突条104Bを形成した突状部104Cとを有する蓋部104と、突条104Bに対応して基板部101に設けた台座105とを有している。
【0005】
このクランプ100を用いることによって、図9に示すように、フレキシブルフラット回路体200を底面に設置するとともに、その上に、突状部104Cで加圧した状態でワイヤハーネス300を固定することができる構造となっている。
【特許文献1】特開2003−274540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような構成のものにあっては、クランプ100がワイヤハーネス300及びフレキシブルフラットケーブル200を上下方向から挟み込む構造となっているので、クランプ形状が複雑であって、コスト高をもたらす。また、ケーブルの太さに対応して複数種類のクランプも必要となる。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、クランプなどの固定具を必要とせずに、各種太さの電線または電線束をフレキシブルフラット回路体に一体に組み付けて併設保持できるフレキシブルフラット回路体の電線保持構造、およびフレキシブルフラット回路体の電線保持方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明に係る電線保持構造は、下記(1)〜(5)を特徴としている。
(1) 絶縁部と該絶縁部に形成された導体部とを有したフレキシブルフラット回路体と、該フレキシブルフラット回路体により保持された電線と、を有する電線保持構造であって、
前記フレキシブルフラット回路体には、その延長方向と交差する交差方向に延長する複数のスリットが、前記延長方向に沿って並ぶように形成されており、そして
前記電線が、前記延長方向に沿って前記フレキシブルフラット回路体に縫い込まれるように前記複数のスリットに挿通されることで前記フレキシブルフラット回路体に保持されている、
こと。
(2) 上記(1)の構成の電線保持構造であって、
前記複数のスリットは、
前記フレキシブルフラット回路体の前記延長方向に延びる両側縁のうちの一方から前記両側縁のうちの他方に向けて当該両側縁のうちの他方に達しない所まで前記フレキシブルフラット回路体に切り込まれるように形成された第1スリットと、
前記両側縁のうちの他方から前記両側縁のうちの一方に向けて当該両側縁のうちの一方に達しない所まで前記フレキシブルフラット回路体に切り込まれるように形成された第2スリットと、
を含み、そして
前記電線が、前記第1スリットおよび前記第2スリットに挿通されている、
こと。
(3) 上記(1)の構成の電線保持構造であって、
前記複数のスリットは、
前記フレキシブルフラット回路体の前記延長方向に延びる両側縁のいずれにも達しないように、前記フレキシブルフラット回路体の中央部に切り込まれるように形成された複数の第1スリットを含み、
前記フレキシブルフラット回路体には、前記複数の第1スリットのうちの隣り合う一対の第1スリットそれぞれの前記交差方向の両端部のうちの、前記両側縁のうちの一方の側に位置する端部同士を連通するように第1連結スリットが形成されており、そして
前記電線が、前記複数の第1スリットに挿通されている、
こと。
(4) 上記(3)の構成の電線保持構造であって、
前記複数のスリットは、さらに、
前記両側縁のいずれにも達しないように、前記フレキシブルフラット回路体の中央部に切り込まれるように形成された複数の第2スリットを含み、
前記フレキシブルフラット回路体には、前記複数の第2スリットのうちの隣り合う一対の第2スリットそれぞれの前記交差方向の両端部のうちの、前記両側縁のうちの他方の側に位置する端部同士を連通するように第2連結スリットが形成されており、そして
前記電線が、前記複数の第1スリットおよび前記複数の第2スリットに挿通されている、
こと。
(5) 上記(3)または(4)の構成の電線保持構造であって、
前記複数のスリットは、さらに、
前記両側縁のうちの一方から前記両側縁のうちの他方に向けて当該両側縁のうちの他方に達しない所まで前記フレキシブルフラット回路体に切り込まれるように形成された第3スリットを含み、
前記第3スリットが、前記隣り合う一対の第1スリットと前記隣り合う一対の第2スリットとの間に配置されており、そして
前記電線が、前記複数の第1スリットおよび前記複数の第2スリットおよび前記第3スリットに挿通されている、
こと。
【0009】
上記(1)の構成の電線保持構造によれば、クランプなどの固定具を必要とせずに、各種太さの電線または電線束をフレキシブルフラット回路体に一体に組み付けて併設保持できる。
上記(2)の構成の電線保持構造によれば、スリットが簡単な形状を有するので、低コストでフレキシブルフラット回路体を製造できる。また、フレキシブルフラット回路体に電線を簡易に取り付けることができるとともに、電線がフレキシブルフラット回路体から脱落することを防止することができる。
上記(3)の構成の電線保持構造によれば、第1スリットが、いずれか一方の側縁に形成されているため、フレキシブルフラット回路体の所望の部位で電線を容易に装着・取り外しすることができる。
上記(4)の構成の電線保持構造によれば、第1スリットおよび第2スリットによって囲まれるフレキシブルフラット回路体の一部(スリット片)が、その先端がフレキシブルフラット回路体の両側縁に互い違いに形成されているため、電線をフレキシブルフラット回路体の第1スリットおよび第2スリットに狭持させた状態に容易に組付けることができるとともに、フレキシブルフラット回路体から電線が脱落するのを回避できる。
上記(5)の構成の電線保持構造によれば、第1スリットおよび第2スリットによって囲まれるフレキシブルフラット回路体の一部(スリット片)、および第3スリットによって、電線を容易に狭持させることができるとともに、強固にフレキシブルフラット回路体が電線を強固に保持することができる。このため、フレキシブルフラット回路体から電線が脱落するのを回避できる。
【0010】
前述した目的を達成するために、本発明に係る電線保持方法は、下記(6)を特徴としている。
(6) 絶縁部と該絶縁部に形成された導体部とを有したフレキシブルフラット回路体と、電線と、を準備し、
前記フレキシブルフラット回路体には、その延長方向と交差する交差方向に延長する複数のスリットが、前記延長方向に沿って並ぶように形成されており、そして
前記電線が前記延長方向に沿って前記フレキシブルフラット回路体に縫い込まれるように、前記電線を前記複数のスリットに挿通することで前記フレキシブルフラット回路体に保持させる、
こと。
上記(6)の構成の電線保持方法によれば、クランプなどの固定具を必要とせずに、各種太さの電線または電線束をフレキシブルフラット回路体に一体に組み付けて併設保持できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフレキシブルフラット回路体の電線保持構造、およびフレキシブルフラット回路体の電線保持方法によれば、それぞれ長さ方向に並設させたフレキシブルフラット回路体及び電線を備え、フレキシブルフラット回路体は複数のスリットを有し、電線はフレキシブルフラット回路体の各スリットを介してフレキシブルフラット回路体の両面間に互い違いに挟持させてあるので、クランプなどの固定具を必要とせずに、また、各種太さの電線をフレキシブルフラット回路体に自由に組み付けて併設保持させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、(A)は本発明の第1の実施形態に係るフレキシブルフラット回路体の電線保持構造を示す説明図、(B)は図1(A)のIB−IB線断面図である。図2は、第1の実施形態に係るフレキシブルフラット回路体の電線保持構造に用いるフレキシブルフラット回路体でのスリット形成間隔を示す斜視図である。図3の(A)、(B)は、発明の第1の実施形態に係るフレキシブルフラット回路体の電線保持構造の他例を示す説明図である。
【0013】
実施形態のフレキシブルフラット回路体の電線保持構造10は、長手方向に延長されるフレキシブルフラット回路体1と、被覆電線であって断面が円形の所謂丸電線である電線2と、を備える。フレキシブルフラット回路体1には、その延長方向と交差する交差方向に延長するスリット11が、前記延長方向に沿って並ぶように複数個形成されている。そして、各スリット11に対して、フレキシブルフラット回路体1のいずれか一方面から他方面へ、フレキシブルフラット回路体1の延長方向に沿って該フレキシブルフラット回路体1に縫い込むように電線2を縫い込ませて挿通させることによって、フレキシブルフラット回路体1の複数のスリット11に電線2を挟み込ませて一体に固定させた構造となっている。
【0014】
本実施形態のフレキシブルフラット回路体の電線保持構造10では、フレキシブルフラット回路体1に形成されたスリット11は、該フレキシブルフラット回路体11の延設方向に直交する細幅の略直線形状で形成されており、フレキシブルフラット回路体1の両側縁1Aから中央部に向けて交互に切り込みをいれることによって、互い違いの向きにスリット11が形成されている。このため、複数のスリット11は、フレキシブルフラット回路体1の両側縁1Aのうちの一方から他方に向けて当該両側縁のうちの他方に達しない所までフレキシブルフラット回路体1に切り込まれるように形成された第1スリットと、フレキシブルフラット回路体1の両側縁1Aのうちの他方から一方に向けて当該両側縁のうちの一方に達しない所までフレキシブルフラット回路体1に切り込まれるように形成された第2スリットと、に分けることができる。なお、スリット11は、フレキシブルフラット回路体1の側縁1Aから中央部に向けて切り込まれるものに限られるるものではなく、図3(a)に示すように、フレキシブルフラット回路体1の中央部に形成されるもの(つまり、スリット11が側縁1Aに形成されていない)であってもよい。また、スリット11は、図3(b)に示すように、フレキシブルフラット回路体1のいずれか一方の側縁1Aにのみ切り込みを入れることによって形成されてもよい。
【0015】
フレキシブルフラット回路体1は、可撓性(或いは復元力)を有する適宜の樹脂材料などで平板形状に形成された基部と、この基部の上面または内層に設けた、所定の回路パターン若しくは配線と、を備えた構成となっている。但し、図1に示す本実施形態の場合には、直線状の回路パターン若しくは配線をフレキシブルフラット回路体1の延長方向に平行に配設すると、スリット11において該回路パターン若しくは配線が露出してしまうため、直線を避けた、例えば正弦波状、方形波状、三角波状、のこぎり波状、などの回路パターンまたは配線を用いることが好ましい。直線を避けた上述の形状の回路パターンまたは配線は、回路パターンまたは配線の長さを長く確保したい場合(例えば、フレキシブルフラット回路体1に設けられた回路パターンまたは配線がアンテナ装置に接続され、該アンテナ装置のアンテナ線を構成する場合であって、所望の周波数の電波を送受信するためにアンテナ線を長くする必要があるときに)に特に有用である。このような構成のフレキシブルフラット回路体1によって、スリット11を介して電線2を挟みつけることにより、該フレキシブルフラット回路体1が電線2を一体に保持できる。
【0016】
また、このフレキシブルフラット回路体1は、図2に示すように、曲線配索部分αでのスリット間隔dαが狭く形成されているとともに、平面配索部分βでのスリット間隔dβが広く形成されている。なお、この図2では、電線2を省略してある。
【0017】
従って、本実施形態によれば、フレキシブルフラット回路体1の両側縁1Aの一方に両側縁1Aの他方に到達しないように切り込みを入れることによって、該フレキシブルフラット回路体1にスリット11を簡易に形成し、且つ該スリット11によってフレキシブルフラット回路体1に電線2を一体的に保持併設することができる。このため、フレキシブルフラット回路体1に電線2を固定するためのクランプなどの固定部材を必要とすることなく、低コストでフレキシブルフラット回路体1に電線2を一体的に保持併設することができるフレキシブルフラット回路体の電線保持構造10を提供することができる。
【0018】
さらに、本実施形態では、フレキシブルフラット回路体1に電線2を簡易に取り付けることができる。例えば、図3(a)に示すフレキシブルフラット回路体1の中央部にスリット11が形成されたフレキシブルフラット回路体1では、電線2をスリット11それぞれに挿通させる必要があるため、フレキシブルフラット回路体1の延設方向の長さに比例して電線2をスリット11に挿通させるために要する手間がかかることになる。一方、図1に示すフレキシブルフラット回路体1では、スリット11が該フレキシブルフラット回路体1の側縁まで到達している分、電線2をスリット11に挿通させるために要する手間を軽減することができるため、フレキシブルフラット回路体1に電線2をより簡易に取り付けることができる。
【0019】
さらに、本実施形態では、電線2をフレキシブルフラット回路体1に該フレキシブルフラット回路体1から脱落しないよう強固に組付けることができる。例えば、図3(b)に示すフレキシブルフラット回路体1のいずれか一方の側縁1Aにのみ切り込みを入れることによって形成されるフレキシブルフラット回路体1では、その一方の側縁1Aから電線2が脱落してしまう恐れがある。一方、図1に示すフレキシブルフラット回路体1では、フレキシブルフラット回路体1のスリット11を構成する第1スリットおよび第2スリットによって、電線2がフレキシブルフラット回路体1の延長方向とは直交する前後方向から交互に絡み付くように組付けられている構成でもあるため、電線2をフレキシブルフラット回路体1へ一旦取り付けてしまえば、その後はフレキシブルフラット回路体1からの電線2の脱落を確実に防止できる。このため、本実施形態の電線保持構造は、フレキシブルフラット回路体1から電線2を取り外す予定がない場所での設置などに好適である。
【0020】
また、本実施形態では、上述したように、フレキシブルフラット回路体1のうち、曲率半径の小さな(曲率の大きな)領域である曲線配索部分αではスリット間隔dαが狭く形成されている。従って、平面配索部分βに比べて、この曲線配索部分αでは、フレキシブルフラット回路体1による電線2の保持作用を増大させることができるので、フレキシブルフラット回路体1と電線2との一体保持動作をより一層確実に行うことができる。
【0021】
なお、本実施形態では、スリット11がフレキシブルフラット回路体1の延長方向と交差する交差方向、特に該延長方向と直交する直交方向に延長するについて詳細に説明したが、本発明は、スリット11が上記直交方向に延長される場合に限定されるものではない。上記延長方向に並ぶ各スリット11同士が交差することがないよう、該スリット11がフレキシブルフラット回路体1に形成されることが肝要である。
【0022】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、本実施形態において、第1の実施形態と同一部分には、同一符号を付して重複説明を避ける。図4は、第2の実施形態に係るフレキシブルフラット回路体の電線保持構造を示す説明図である。図5は、(A)から(C)は、フレキシブルフラット回路体へのワイヤハーネスの組付け方法を示す説明図である。
【0023】
本実施形態のフレキシブルフラット回路体の電線保持構造20では、図4に示すように、フレキシブルフラット回路体1のスリット12が略コ字形状を呈する点が第1の実施形態とは異なる。また、スリット12は、該スリット12の切り込みによって形成される、後述するスリット片13が、両側縁1Aに対して互い違いの位置関係で形成されている点でも、第1の実施形態とは異なる。
【0024】
スリット12は、間隔W離間して設けられた一対の基端部12Aと、これらの基端部12Aからフレキシブルフラット回路体1の延長方向とは直交する直交方向に切り込まれたスリット部12Cと、スリット部12Cの先端でつながるように切り込まれた連結スリット12Bと、を有している。スリット部12Cは、フレキシブルフラット回路体1の延長方向に延びる両側縁1Aのいずれにも達しないように、フレキシブルフラット回路体の中央部に切り込まれるように形成されている。また、連結スリット12Bは、隣り合う一対のスリット部12Cそれぞれの前記直交方向の両端部のうちの、両側縁1Aのうちの一方の側に位置する端部同士を連通するように形成されている。このスリット12は、連結スリット12Bが形成されるスリット部12Cの前記直交方向の端部が異なることによって、隣り合うスリット12それぞれの連結スリット12Bが両側縁1Aの一方および他方にそれぞれ形成される。このため、スリット12は、連結スリット12Bの位置が異なる2パターンがフレキシブルフラット回路体1に形成されることになる(両側縁1Aのうちの一方側に連結スリット12Bが形成されたスリット12を第1スリット、両側縁1Aのうちの他方側に連結スリット12Bが形成されたスリット12を第2スリット、と称することがある)。また、これら基端部12A、スリット部12C、連結スリット12Bで囲まれた内側の部分は、フレキシブルフラット回路体1(の基部)と一体につながった、略矩形状を呈するスリット片13を形成している。
【0025】
次に、このフレキシブルフラット回路体の電線保持構造20の組み立て方法について、図5を参照しながら説明する。
(1)初めに、フレキシブルフラット回路体1を用意しておき(図5(A))、両側縁1Aを手などで把持して同時に下方へ押し曲げる(同図(B))。
(2)すると、下方へ押し曲げた両側縁に連設するスリット片13が上側に反り上がる(同図(B))。そこで、このスリット片13が左右に反り上がってフレキシブルフラット回路体1中央部が開放されている間に、電線2をフレキシブルフラット回路体1中央部に挿入する。
(3)その後、フレキシブルフラット回路体1の両側縁1A付近の下方への押し曲げ動作を停止すると、フレキシブルフラット回路体1の弾性力で元の水平状態まで起き上がるのとほぼ同時に、起立していたスリット片13も元の水平状態まで戻ろうとする。その結果、この復元力が閉止力となって電線2をフレキシブルフラット回路体1に一体に挟持して保持させることができる(同図(C))。
【0026】
なお、本実施形態のフレキシブルフラット回路体の電線保持構造20では、フレキシブルフラット回路体1への電線2の組付けが上述したように行われるが、ここで、スリット片13と、この隣り合うスリット片13とスリット片13との間の領域(これを「スリット片間」14とよぶ)と、電線2と、の関係について、以下に具体的に説明する。
【0027】
本実施形態では、スリット片13とスリット片間14とに対して、電線2が、フスリット片13に対しては常に該スリット片13の下面に、スリット片間14に対しては常に該スリット片間14の上面に、それぞれ位置するよう互い違いに構成してある。このため、電線2は、スリット片13およびスリット片間14によって、スリット12のスリット部12Cにおいてフレキシブルフラット回路体の上下方向(上面−下面にかけての方向)に狭持されることになる。
【0028】
このように、本実施形態によれば、電線2は、スリット片13とスリット片間14との挟持力でフレキシブルフラット回路体1へ組み付けられており、第1の実施形態のように電線2がフレキシブルフラット回路体1へ絡み付くようには組付けてない。従って、本実施形態のような態様でフレキシブルフラット回路体1に電線2を組み付けておいても、必要に応じて、電線2をフレキシブルフラット回路体1から簡単に取り出すことができる。
【0029】
しかも、本実施形態によれば、スリット片13が形成されるのは、フレキシブルフラット回路体1の中央部側の領域δだけであるから、フレキシブルフラット回路体1の両側縁1A寄りの領域γでは、フレキシブルフラット回路体1全長にわたり、電線などの導体部材を直線状に埋設したり積層させたりできる。直線状の導体部材をフレキシブルフラット回路体1に配設することによって、該導体部材がその両端に接続される二つの装置を延長方向に沿った最短経路で結ぶことができるため、これら二つの装置間での信号の減衰を最小限に抑えることができる。
【0030】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。なお、本実施形態において、第1,2の実施形態と同一部分には、同一符号を付して重複説明を避ける。図6は、第3の実施形態に係るフレキシブルフラット回路体の電線保持構造を示す説明図である。図7は、(A)から(C)は、フレキシブルフラット回路体へのワイヤハーネスの組付け方法を示す説明図である。
【0031】
本実施形態のフレキシブルフラット回路体の電線保持構造30では、図6に示すように、略コ字形状を呈するスリット12と、細幅の略直線形状もので構成したスリット11と、からなるスリットが、フレキシブルフラット回路体1の一方側の側縁1A寄りに形成されている点が、第1、第2の実施形態と異なる。
【0032】
スリット12は、第2実施形態にて説明したスリット12と同様に形成される。すなわち、間隔W離間して設けられた一対の基端部12Aと、これらの基端部12Aからフレキシブルフラット回路体1の延長方向とは直交する直交方向に切り込まれたスリット部12Cと、スリット部12Cの先端でつながるように切り込まれた連結スリット12Bと、を有している(図6では、基端部12A、スリット部12Cは図示せず。)。
【0033】
また、スリット11は、該フレキシブルフラット回路体11の延設方向に直交する細幅の略直線形状で形成されており、フレキシブルフラット回路体1の両側縁1Aのいずれか一方から中央部に向けて、当該両側縁1Aのうちの他方に達しない所までフレキシブルフラット回路体1に切り込みをいれることによって形成されている。また、スリット11は、隣り合う一対のスリット12との間に配置されている。
【0034】
本実施形態では、スリット12およびスリット11が、フレキシブルフラット回路体1の一方の側縁1A(図6では右側)に偏在するように形成されている。このため、特にフレキシブルフラット回路体1の一方の側縁1A(図6では左側)寄りの領域δにおいて、隣り合うスリット11で挟まれた領域(単位領域S:図6参照)には、スリット12で囲まれたスリット片13の他に、このスリット片13の外側の領域(以下、スリット片間14とよぶ)が形成されている。
【0035】
次に、このフレキシブルフラット回路体の電線保持構造30の組み立て方法について、図7を参照しながら説明する。
(1)初めに、フレキシブルフラット回路体1を用意しておく(図7(A))。
(2)次に、例えば一方側の端部1Eから、順次、単位領域Sごとに押下動作(D)と押上動作(U)とを交互に行いつつ、この動作と同時に、各単位領域Sではその押下動作(D)又は押上動作(U)とは逆の動作を、スリット片間14とスリット片13のいずれか一方に対して行い、スリット片間14とスリット片13との間に上下互い違いの挟持空間を形成し、そこに電線2を挟み込んでいく。
【0036】
例えば、図7(A)において、一端部1Eに臨む第1単位領域S1では、この領域S1全体の押下動作(D)を行いつつ、同時にスリット片13−1のみを押上動作(U)を行う(図7(B)参照)ことにより、スリット片間14−1より上でスリット片13−1より下に、電線2を挟み込む。
一方、次の第2単位領域S2では、逆に、この第2単位領域S2全体での押上動作(U)を行って電線2をその下方に挿入させておいてから、スリット片13−2のみを部分的に電線2よりも下方へ押下げる(図7(B)参照)。これにより、スリット片間14−2より下でスリット片13−2より上に電線2を挟み込む。
以下、同様の作業を繰り返す。
【0037】
(3)このようにして、図7(C)に示すように、単位領域Sごとスリット片間14とスリット片13との間での電線2の挟持状態を上下互い違いに切換えながら行い、フレキシブルフラット回路体1のスリット片間14とスリット片13との間に電線2を一体に挟み込んで組み付けいく。
【0038】
従って、本実施形態によれば、電線2の浮き上がりを防止した状態で、フレキシブルフラット回路体1に電線2をしっかりと組付けることができる。従って、狭くて扁平な隙間のある空間などでの配索に好適である。さらに、第1の実施形態と同様、フレキシブルフラット回路体1に電線2を一旦取り付けてしまえば、電線2の脱落が確実に防止できるので、フレキシブルフラット回路体1から電線2を取り外す予定がない場所での設置などに好適である。
【0039】
しかも、本実施形態によれば、図6に示すように、細幅の略直線形状もので構成したスリット11と略コ字形状を呈するスリット12とからなるスリットが、フレキシブルフラット回路体1の領域δにのみ形成される。つまり、反対側の側縁1A寄りの領域γには、フレキシブルフラット回路体1全長にわたって電線などの導体部材を直線状に埋設したり積層できるわけである。
【0040】
なお、本実施形態では、図6に示すように、フレキシブルフラット回路体1が、両側縁1Aのうちの一方側にのみ連結スリット12Bが形成されたスリット12を有する場合について説明したが、第2実施形態で説明したように、隣り合うスリット12の連結スリット12Bがそれぞれ、両側縁1Aの一方および他方にそれぞれ形成されるようにしてもよい。これにより、本実施形態のような態様でフレキシブルフラット回路体1に電線2を組み付けておいても、必要に応じて、電線2をフレキシブルフラット回路体1から簡単に取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】(A)は本発明の第1の実施形態に係るフレキシブルフラット回路体の電線保持構造を示す説明図、(B)は図1(A)のIB−IB線断面図である。
【図2】第1の実施形態に係るフレキシブルフラット回路体の電線保持構造に用いるフレキシブルフラット回路体でのスリット形成間隔を示す斜視図である。
【図3】(A)、(B)は本発明の第1の実施形態に係るフレキシブルフラット回路体の電線保持構造の他例を示す説明図である。
【図4】第2の実施形態に係るフレキシブルフラット回路体の電線保持構造を示す説明図である。
【図5】(A)から(C)は、フレキシブルフラット回路体へのワイヤハーネスの組付け方法を示す説明図である。
【図6】第3の実施形態に係るフレキシブルフラット回路体の電線保持構造を示す説明図である。
【図7】(A)から(C)は、フレキシブルフラット回路体へのワイヤハーネスの組付け方法を示す説明図である。
【図8】従来のフラット触れ桐ぶる回路体や丸電線束を自動車の車体等に固定するために用いるクランプを示す構成図である。
【図9】そのクランプを用いたフレキシブルフラット回路体とワイヤハーネスとの固定方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 フレキシブルフラット回路体
2 電線
10、20、30 フレキシブルフラット回路体の電線保持構造
11、12、 スリット
12A 基端部
12B 連結スリット
12C スリット部
13 スリット片
14 スリット片間
D 押下動作(領域)
S 単位領域
U 押上動作(領域)
α、dβ スリット間隔
α 曲線配索部分
β 平面配索部分
δ (フレキシブルフラット回路体の)中央部側の領域
γ (フレキシブルフラット回路体の)両側縁寄りの領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁部と該絶縁部に形成された導体部とを有したフレキシブルフラット回路体と、該フレキシブルフラット回路体により保持された電線と、を有する電線保持構造であって、
前記フレキシブルフラット回路体には、その延長方向と交差する交差方向に延長する複数のスリットが、前記延長方向に沿って並ぶように形成されており、そして
前記電線が、前記延長方向に沿って前記フレキシブルフラット回路体に縫い込まれるように前記複数のスリットに挿通されることで前記フレキシブルフラット回路体に保持されている、
ことを特徴とする電線保持構造。
【請求項2】
前記複数のスリットは、
前記フレキシブルフラット回路体の前記延長方向に延びる両側縁のうちの一方から前記両側縁のうちの他方に向けて当該両側縁のうちの他方に達しない所まで前記フレキシブルフラット回路体に切り込まれるように形成された第1スリットと、
前記両側縁のうちの他方から前記両側縁のうちの一方に向けて当該両側縁のうちの一方に達しない所まで前記フレキシブルフラット回路体に切り込まれるように形成された第2スリットと、
を含み、そして
前記電線が、前記第1スリットおよび前記第2スリットに挿通されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の電線保持構造。
【請求項3】
前記複数のスリットは、
前記フレキシブルフラット回路体の前記延長方向に延びる両側縁のいずれにも達しないように、前記フレキシブルフラット回路体の中央部に切り込まれるように形成された複数の第1スリットを含み、
前記フレキシブルフラット回路体には、前記複数の第1スリットのうちの隣り合う一対の第1スリットそれぞれの前記交差方向の両端部のうちの、前記両側縁のうちの一方の側に位置する端部同士を連通するように第1連結スリットが形成されており、そして
前記電線が、前記複数の第1スリットに挿通されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の電線保持構造。
【請求項4】
前記複数のスリットは、さらに、
前記両側縁のいずれにも達しないように、前記フレキシブルフラット回路体の中央部に切り込まれるように形成された複数の第2スリットを含み、
前記フレキシブルフラット回路体には、前記複数の第2スリットのうちの隣り合う一対の第2スリットそれぞれの前記交差方向の両端部のうちの、前記両側縁のうちの他方の側に位置する端部同士を連通するように第2連結スリットが形成されており、そして
前記電線が、前記複数の第1スリットおよび前記複数の第2スリットに挿通されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の電線保持構造。
【請求項5】
前記複数のスリットは、さらに、
前記両側縁のうちの一方から前記両側縁のうちの他方に向けて当該両側縁のうちの他方に達しない所まで前記フレキシブルフラット回路体に切り込まれるように形成された第3スリットを含み、
前記第3スリットが、前記隣り合う一対の第1スリットと前記隣り合う一対の第2スリットとの間に配置されており、そして
前記電線が、前記複数の第1スリットおよび前記複数の第2スリットおよび前記第3スリットに挿通されている、
ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の電線保持構造。
【請求項6】
絶縁部と該絶縁部に形成された導体部とを有したフレキシブルフラット回路体と、電線と、を準備し、
前記フレキシブルフラット回路体には、その延長方向と交差する交差方向に延長する複数のスリットが、前記延長方向に沿って並ぶように形成されており、そして
前記電線が前記延長方向に沿って前記フレキシブルフラット回路体に縫い込まれるように、前記電線を前記複数のスリットに挿通することで前記フレキシブルフラット回路体に保持させる、
ことを特徴とする電線保持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−18107(P2010−18107A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179213(P2008−179213)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】