説明

電線保護具及びワイヤハーネス

【課題】電線保護具及びそれを備えたワイヤハーネスに関し、多品種生産及び設計変更に対する迅速な対応と、軽量化とを実現すること。
【解決手段】電線保護具10は、電線9の一部が挿入される溝を形成し、電線9に取り付けられることにより電線9の一部を覆う。電線保護具10は、複数の要素保護部20と1つ以上の連結部30とを有する。複数の要素保護部20は、複数の不織布各々における端部の第一領域を除く残りの第二領域が加熱成形されることにより硬化した部分であり、それぞれ電線9の一部が挿入される溝を形成する。連結部30は、複数の不織布各々における第一領域が重ねられて加熱成形されることにより第一領域が接着及び硬化した部分である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の一部を覆う電線保護具及びそれを備えたワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に代表される車両に搭載されるワイヤハーネスは、不規則な曲げ跡(クセ)の付きやすい電線を予め定められた配線経路に沿って正しく配線することが容易なこと、及び、電線が振動などにより周囲の部材に接触することが原因で破損しないことが要求される。そこで、車載用のワイヤハーネスは、電線の周囲をその長手方向に沿って覆う電線保護具が設けられる。この場合、電線保護具は、電線を自動車のボディなどの支持体における予め定められた配線経路に沿って配線しやすい形状に保持する役割と、電線が周囲の部材に接触して破損することを防止する役割とを果たす。
【0003】
ワイヤハーネスの電線は、その用途に応じた様々な経路に沿って敷設されるため、ワイヤハーネスの種類に応じて、様々な形状の電線保護具を作製することが要求される。さらに、ワイヤハーネスの設計変更に応じて、新たな形状の電線保護具を迅速に作製することも要求される。
【0004】
例えば、特許文献1には、樹脂製の電線保護具の設計変更に応じて、分割された複数の金型の組合せが変更され、電線保護具が、組み合わされた金型を用いて成形されることについて示されている。
【0005】
一方、特許文献2には、不織布の熱可塑性材料からなる2枚の被覆体の間にフラット回路体を挟み込み、これをプレス成形することにより、フラット回路体を薄い厚みのまま保護する構造について示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−305728号公報
【特許文献2】特開2003−197038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
昨今、ワイヤハーネスの多品種生産及び設計変更への対応の迅速化の要求がさらに厳しくなっている。そのため、特許文献1に示されるように、電線保護具の仕様に応じて、分割された複数の金型の組合せを変更した上で電線保護具を成形する手法によっては、迅速化の要求が十分に満たされない場合がある。
【0008】
さらに、自動車などの車両に搭載されるワイヤハーネスは、従来よりもさらなる軽量化が要求される。なお、特許文献2には、電線保護具の多品種生産及び設計変更に対して迅速に対応できる技術について何ら記載されていない。
【0009】
本発明は、電線保護具及びそれを備えたワイヤハーネスに関し、多品種生産及び設計変更に対する迅速な対応と、軽量化とを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電線保護具は、電線の一部が挿入される溝を形成し、電線に取り付けられることにより電線の一部を覆う電線保護具であり、以下に示される各構成要素を備える。
(1)第1の構成要素は、複数の不織布各々における端部の第一領域を除く残りの第二領域が加熱成形されることにより硬化した部分であり、それぞれ電線の一部が挿入される溝を形成する複数の要素保護部である。
(2)第2の構成要素は、複数の不織布各々における第一領域が重ねられて加熱成形されることにより第一領域が接着及び硬化した部分である1つ以上の連結部である。
【0011】
さらに、本発明に係る電線保護具において、少なくとも1つの要素保護部は、曲線に沿う溝を形成することが考えられる。
【0012】
また、本発明は、電線と、その電線に対してその電線の一部を覆う状態で取り付けられた本発明に係る電線保護具と、を備えるワイヤハーネスの発明として捉えられてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電線保護具は、複数の要素保護部が、それらの端部に連なる連結部において連結された構造を有している。このような電線保護具は、基本形状の複数種類の要素保護部と、その端部に連なる連結前の不織布の部分とを有する要素部材が予め作製された後、複数の要素部材が不織布の部分で連結されることにより製造される。
【0014】
従って、複数種類の要素部材を予め作製しておくことにより、複数種類の要素部材の組合せを変更するだけで、様々な形状の電線保護具を速やかに作製することが可能である。即ち、本発明によれば、多品種生産及び設計変更に対する迅速な対応が可能となる。例えば、少なくとも1つの要素保護部が、曲線に沿う溝を形成する部分であれば、様々な曲線に沿う形状の電線保護具を速やかに作製することが可能である。
【0015】
また、本発明に係る電線保護具は、不織布が加熱成形された部材であるため、外形が型枠に応じた形状で硬く成形されている。また、当該電線保護具は、電線の端部にコネクタなどの部品が予め接続されている場合でも、長手方向に沿う溝の中へ電線が挿入されることにより、電線に対して後付け可能である。そして、運搬及び保管の際に電線に不規則な曲げ跡(クセ)が形成された場合でも、当該電線保護具が電線に取り付けられることにより、電線の長手方向の形状が電線保護具の長手方向の形状に保持される。従って、当該電線保護具の長手方向の形状が、電線の配線経路に沿う形状に形成されていれば、ワイヤハーネスの電線を所望の配線経路に沿って正しく配線することが容易となる。さらに、電線が、周囲の部材に接触して破損することを防止できる。
【0016】
また、本発明に係る電線保護具は、不織布を型枠内で加熱するというごく単純な成形加工により、簡易にかつ安価に製造できる。さらに、本発明に係る電線保護具は、不織布が加熱成形された部材であるため、非常に軽く、緩衝性に優れている。そのため、本発明に係る電線保護具が取り付けられたワイヤハーネスは、軽量であり、電線保護具と電線及び周囲の部材との接触による異音を発しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電線保護具10の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るワイヤハーネス1の斜視図である。
【図3】電線保護具10の元となる要素部材200の製造に用いられる第一の成形装置40A及び成形対象物の第一の状態における斜視図である。
【図4】第一の成形装置40A及び成形対象物の第二の状態における斜視図である。
【図5】第一の成形装置40A及び成形対象物の第二の状態における断面図である。
【図6】第一の成形装置40A及び成形対象物の第三の状態における断面図である。
【図7】要素部材200の連結に用いられる第二の成形装置40B及び成形対象物の第一の状態における斜視図である。
【図8】第二の成形装置40B及び成形対象物の第二の状態における断面図である。
【図9】第二の成形装置40B及び成形対象物の第三の状態における断面図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る電線保護具10Aの平面図である。
【図11】本発明の第3実施形態に係る電線保護具10Bの平面図である。
【図12】本発明の第4実施形態に係る電線保護具10Cの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。以下に示される本発明の実施形態に係る電線保護具10,10A,10B,10C及びそれを備えたワイヤハーネス1は、自動車などの車両に搭載される。
【0019】
<第1実施形態>
まず、図1及び図2を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係る電線保護具10及びそれを備えたワイヤハーネス1の構成について説明する。
【0020】
図1及び図2に示されるように、電線保護具10は、電線9の一部が挿入される溝を形成し、その溝に挿入された電線9に取り付けられることによって電線9の一部を覆う部材である。例えば、図2に示されるように、電線保護具10は、粘着テープなどの結束材8によって、その溝に挿入された電線9に対して固定される。これにより、電線9と、その電線9に取り付けられた電線保護具10とを備えたワイヤハーネス1が作製される。
【0021】
電線保護具10は、不織布が加熱成形されることにより硬化した部材であり、図1及び図2に示されるように、複数の要素保護部20と、それらを連結する連結部30とを有している。
【0022】
各要素保護部20は、電線9の一部が挿入される溝を形成する部分である。図1及び図2に示される例では、電線保護具20は、直線に沿う溝を形成する直線状要素保護部21と、90°に曲がった曲線に沿う溝を形成する曲線状要素保護部22と、それらを連結する1つの連結部30とを有している。
【0023】
各要素保護部20は、一枚の不織布又は重ねられた複数枚の不織布における端部の一部の領域を除く残りの領域が加熱成形されることにより硬化した部分である。一方、連結部30は、複数の不織布各々における要素保護部20となる部分を除く領域が重ねられて加熱成形されることにより、その端部の領域が接着及び硬化した部分である。2以上の整数をNとした場合、電線保護具10は、N箇所の要素保護部20と、(N−1)箇所の連結部30とを有する。
【0024】
<不織布の説明>
以下、電線保護具10の材料となる不織布について説明する。電線保護具10の元となる不織布は、例えば、絡み合う基本繊維とバインダと称される接着樹脂とを含む不織布が採用される。接着樹脂は、基本繊維の融点よりも低い融点(例えば、110[℃]〜150[℃]程度)を有する樹脂である。このような不織布は、基本繊維の融点よりも低く、かつ、接着樹脂の融点よりも高い温度に加熱されることにより、接着樹脂が溶融して基本繊維の隙間に溶け込む。その後、不織布の温度が、接着樹脂の融点よりも低い温度まで下がると、接着樹脂は、周囲に存在する基本繊維を結合した状態で硬化する。これにより、不織布の形状は、加熱前の状態よりも硬くなり、加熱時に型枠によって成形された形状で維持される。
【0025】
接着樹脂は、例えば、粒状の樹脂又は繊維状の樹脂などである。また、接着樹脂は、芯繊維の周囲を覆うように形成されることも考えられる。このように、芯繊維が接着樹脂で被覆された構造を有する繊維は、バインダ繊維などと称される。芯繊維の材料は、例えば、基本繊維と同じ材料が採用される。
【0026】
また、基本繊維は、接着樹脂の融点において繊維状態が維持されればよく、樹脂繊維の他、各種の繊維が採用され得る。また、接着樹脂は、例えば、基本繊維の融点よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂繊維が採用される。不織布を構成する基本繊維と接着樹脂との組合せとしては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)を主成分とする樹脂繊維が基本繊維として採用され、PET及びPEI(ポリエチレンイソフタレート)の共重合樹脂が接着樹脂として採用されることが考えられる。そのような不織布において、基本繊維の融点は概ね250[℃]であり、接着樹脂の融点は110[℃]〜150[℃]程度である。そのような不織布は、型枠内で110[℃]〜250[℃]程度の温度に加熱された後に冷却されると、接着樹脂が溶融して周囲の基本繊維を結合するため、型枠の内面に沿う形状に成形され、型枠に接触した面が硬化する。
【0027】
不織布が加熱成形によって硬化した部材は、その部材自体ある程度の可撓性を有しているが、筒状に形成されることにより、長手方向における形状を保持する硬さが強化される。電線保護具10は、そのような不織布が、型枠内で加熱されて筒状に成形された部材である。以下、加工対象である不織布を金型の間に挟み込んで加圧しつつ、その不織布を加熱することにより、不織布を金型の内面形状に成形することをホットプレス成形と称する。
【0028】
ホットプレス成形工程では、不織布は、ヒータにより、不織布に含まれる基本繊維の融点よりも低く、かつ、不織布に含まれる接着樹脂の融点よりも高い温度に加熱される。加熱の温度及び時間は、成形後の保護部材に要求される堅さ及び可撓性に応じて適宜設定される。
【0029】
一般に、ホットプレス成形工程において、加熱の温度が高いほど、加熱の時間が長いほど、また、加える圧力が高いほど、不織布は、より堅く、形状保持の性能の高い部材に成形される。一方、ホットプレス成形工程において、加熱の温度が低いほど、加熱の時間が短いほど、また、加える圧力が低いほど、不織布は、より柔らかく、可撓性及び緩衝性に優れた部材に成形される。
【0030】
電線保護具10は、複数の要素保護部20が、それらの端部に連なる連結部30において連結された構造を有している。この電線保護具10は、基本形状の複数種類の要素保護部20と、その端部に連なる連結前の不織布の部分とを有する要素部材200が予め作製された後、複数の要素部材200が不織布の部分で連結されることにより製造される。
【0031】
<電線保護具の詳細な説明>
以下、図3から図9を参照しつつ、電線保護具10の製造方法の一例を示しつつ、その構造について説明する。
【0032】
まず、図3から図6を参照しつつ、連結されることによって電線保護具10となる前の要素部材200の製造方法及び構造について説明する。本実施形態における要素部材200は、不織布100の一部の領域がホットプレス成形されることにより硬化した部材である。要素部材200の元となる不織布100は、例えば、一枚のシート状の不織布もしくは重ねられた複数枚のシート状の不織布である。
【0033】
電線保護具10として連結される前の要素部材200は、不織布100における端部の一部の領域を除く残りの領域を加熱成形するホットプレス成形工程により製造される。以下、不織布100における端部の一部の領域を後成形領域101、残りの領域を先成形領域102と称する。なお、後成形領域101が、不織布100における一方の端部の1箇所の領域のみである場合の他、後成形領域101が、不織布100における両端部の2箇所の領域である場合も考えられる。
【0034】
要素部材200の製造工程におけるホットプレス成形工程は、図3から図6に例示される第一の成形装置40Aを用いて行われる。図3及び図4は、それぞれ異なる状態における第一の成形装置40A及び成形対象物の斜視図である。また、図5及び図6は、それぞれ異なる状態における第一の成形装置40A及び成形対象物の断面図である。ここでの成形対象物は、不織布100の先成形領域102である。
【0035】
図3は、ホットプレス成形が実行される前の第一の成形装置40Aと、第一の成形装置40Aにセットされる前の不織布100とを示す。また、図4及び図5は、ホットプレス成形が実行される前の第一の成形装置40Aと、第一の成形装置40Aにセットされた不織布100とを示す。
【0036】
図3に示されるように、第一の成形装置40Aは、下型部材41と上型部材42とを備える。また、下型部材41及び上型部材42の各々には、ヒータ45が設けられている。
【0037】
下型部材41は、熱伝導性に優れた金属などの材料からなる部材であり、その一方の面(上面)に不織布100の先成形領域102が嵌め入れられる溝状の下型枠部411が形成されている。図3に示される例では、下型枠部411は、主として要素保護部20の外側の面を成形する。
【0038】
また、上型部材42は、導電性に優れた金属などの材料からなる部材であり、その一方の面(下面)に突起した上型枠部421が形成されている。図3に示される例では、上型枠部421は、主として要素保護部20の内側の面を成形する。
【0039】
下型部材41及び上型部材42は、下型枠部411及び上型枠部421が対向する状態で、不図示の支持機構によって接近及び離隔が可能に支持されている。下型部材41及び上型部材42が最も接近した状態において、下型枠部411と上型枠部421とが組み合わされて形成される型枠形状は、要素保護部20の外形である。
【0040】
なお、図3及び図4に示される例では、下型枠部411及び上型枠部421は、直線状要素保護部21を成形するために直線状に延びて形成されている。しかしながら、下型枠部411及び上型枠部421の形状は、要素保護部20の形状に応じた形状で形成される。
【0041】
下型部材41及び上型部材42の各々に設けられたヒータ45は、下型枠部411及び上型枠部421を介して、要素保護部20の元となる不織布100の先成形領域102を、基本繊維の融点よりも低く、かつ、接着樹脂の融点よりも高い温度に加熱する加熱装置である。ヒータ45は、図3に示されるように、下型部材41及び上型部材42の各々に埋設されることが考えられる。また、ヒータ45は、下型部材41及び上型部材42の各々の外面に熱伝達可能な態様で取り付けられることも考えられる。
【0042】
図4及び図5に示されるように、不織布100の先成形領域102は、下型部材41の下型枠部411に挿入される。その後、上型部材42が、下型部材41に近接する位置へ移動され、上型枠部421が下型枠部411の内側に入り込む。
【0043】
要素保護部20を成形するためのホットプレス成形工程は、不織布100の先成形領域102を、下型部材41の下型枠部411と上型部材42の上型枠部421とによって形成される型枠内で加熱することにより、不織布100の先成形領域102を電線9が挿入される溝を形成する固形部へ成形する工程である。
【0044】
図6は、ホットプレス成形工程において、不織布100の先成形領域102が、下型枠部411及び上型枠部421によって形成される型枠内で圧縮されつつ加熱されている様子を表す。このホットプレス成形工程により、要素保護部20とその端部に連なる後成形領域101とを有する要素部材200が作製される。
【0045】
ホットプレス成形工程において、加熱成形により得られた部材は、型枠内から取り出されることによって冷却される。その冷却は、強制空冷及び常温の室内で所定時間放置する自然冷却のいずれであってもよい。強制冷却としては、ファンによって常温の空気を送風する空冷、又は、スポットクーラーなどの冷却器から出力される冷気を送風する空冷などが考えられる。
【0046】
複数の要素部材200の後成形領域101は、第二の成形装置40Bを用いたホットプレス成形工程により連結される。図7は、ホットプレス成形が実行される前の第二の成形装置40Bと、第二の成形装置40Bにセットされる前の2つの要素部材20との斜視図である。また、図8は、ホットプレス成形が実行される前の第二の成形装置40Bと、第二の成形装置40Bにセットされた2つの要素部材20の後成形領域101との断面図である。
【0047】
図7に示されるように、第二の成形装置40Bは、下型部材51と上型部材52とを備える。また、下型部材51及び上型部材52の各々には、ヒータ55が設けられている。
【0048】
下型部材51は、熱伝導性に優れた金属などの材料からなる部材であり、その一方の面(上面)に成形対象物が嵌め入れられる溝状の下型枠部511が形成されている。図7に示される例では、下型枠部511は、主として連結部30の外側の面を成形する。
【0049】
また、上型部材52は、導電性に優れた金属などの材料からなる部材であり、その一方の面(下面)に溝状の上型枠部521が形成されている。図7に示される例では、上型枠部521は、主として連結部30の内側の面を成形する。
【0050】
下型部材51及び上型部材52は、不図示の支持機構によって接近及び離隔が可能に支持されている。下型部材51及び上型部材52が最も接近した状態において、下型枠部511と上型枠部521とが組み合わされて形成される型枠形状は、連結部30の外形である。
【0051】
下型部材51及び上型部材52の各々に設けられたヒータ55は、下型枠部511及び上型枠部521を介して、要素部材20の後形成領域101を、基本繊維の融点よりも低く、かつ、接着樹脂の融点よりも高い温度に加熱する加熱装置である。ヒータ55は、図8に示されるように、下型部材51及び上型部材52の各々に埋設されることが考えられる。また、ヒータ55は、下型部材51及び上型部材52の各々の外面に熱伝達可能な態様で取り付けられることも考えられる。
【0052】
図8に示されるように、複数の要素部材200各々の後成形領域101は、重ねられた状態で下型部材51の下型枠部511に挿入される。その後、上型部材52が、下型部材51に近接する位置へ移動され、上型枠部521が下型枠部511の内側に入り込む。
【0053】
電線保護具10の連結部30を成形するためのホットプレス成形工程は、重ねられた要素部材200の後成形領域101を、下型部材51の下型枠部511と上型部材52の上型枠部521とによって形成される型枠内で加熱することにより、重ねられた要素部材200の後成形領域101を接着しつつ硬化させる工程である。
【0054】
図9は、ホットプレス成形工程において、重ねられた要素部材200の後成形領域101が、下型枠部511及び上型枠部521によって形成される型枠内で圧縮されつつ加熱されている様子を表す。このホットプレス成形工程により、重ねられた要素部材200の後成形領域101は、相互に接着するとともに、その前後に連なる要素保護部20を連結する連結部30に成形され、電線保護具10が作製される。
【0055】
<第2実施形態〜第4実施形態>
図10から図12は、それぞれ第2実施形態に係る電線保護具10A、第3実施形態に係る電線保護具10B及び第4実施形態に係る電線保護具10Cの平面図である。
【0056】
前述したように、図1に示される電線保護具10は、直線状要素保護部21と曲線状要素保護部22とそれらを連結する連結部30とを有する。一方、電線保護具10Aは、2箇所の直線状要素保護部21と、それらを連結する1箇所の連結部30とを有する。また、電線保護具10Bは、2箇所の曲線状要素保護部22とそれらを連結する1箇所の連結部30とを有する。
【0057】
また、電線保護具10,10A,10Bは、2つの要素保護部20とそれらを連結する1箇所の連結部30とを有するが、電線保護具10Cは、3つの要素保護部20とそれらを連結する2箇所の連結部30とを有する。
【0058】
以上に示されるように、電線保護具10,10A,10B,10Cは、基本形状の複数種類の要素保護部20と、その端部に連なる連結前の不織布の部分である後成形領域101とを有する要素部材200が予め作製された後、複数の要素部材200が後成形領域101の部分で連結されることにより製造される。
【0059】
なお、要素保護部20の形状としては、直線に沿う溝を形成する形状、及び90°に曲がる曲線に沿う溝を形成する形状の他、90°以外の角度に曲がる曲線に沿う溝を形成する形状も考えられる。
【0060】
また、電線保護具10,10A,10B,10Cにおいて、要素保護部20が形成する溝は、一の平面に沿う底面とその底面に対して起立する両側面とにより形成される溝である。しかしながら、本発明に係る電線保護具の要素保護部20が形成する溝が、曲げ部が形成された底面と、その底面に対して起立する両側面とにより形成される溝であることも考えられる。これにより、立体的な電線保護具10を構成することも可能となる。
【0061】
<効果>
本発明によれば、予め作製された複数種類の要素部材200の組合せを変更するだけで、様々な形状の電線保護具を速やかに作製することが可能である。即ち、本発明によれば、多品種生産及び設計変更に対する迅速な対応が可能となる。例えば、少なくとも1つの要素保護部20が、曲線に沿う溝を形成する曲線状要素保護部22であれば、様々な曲線に沿う形状の電線保護具を速やかに作製することが可能である。
【0062】
また、電線保護具10,10A,10B,10Cは、不織布100が加熱成形された部材であるため、外形が型枠に応じた形状で硬く成形されている。また、電線保護具10,10A,10B,10Cは、電線9の端部にコネクタなどの部品が予め接続されている場合でも、長手方向に沿う溝の中へ電線9が挿入されることにより、電線9に対して後付け可能である。そして、運搬及び保管の際に電線に不規則な曲げ跡(クセ)が形成された場合でも、電線保護具10,10A,10B,10Cが電線9に取り付けられることにより、電線9の長手方向の形状が電線保護具10,10A,10B,10Cの長手方向の形状に保持される。
【0063】
従って、電線保護具10,10A,10B,10Cの長手方向の形状が、電線9の配線経路に沿う形状に形成されていれば、ワイヤハーネス1の電線9を所望の配線経路に沿って正しく配線することが容易となる。さらに、電線9が、周囲の部材に接触して破損することを防止できる。
【0064】
また、電線保護具10,10A,10B,10Cは、不織布100を型枠内で加熱するというごく単純な成形加工により、簡易にかつ安価に製造できる。さらに、電線保護具10,10A,10B,10Cは、不織布100が加熱成形された部材であるため、非常に軽く、緩衝性に優れている。そのため、電線保護具10,10A,10B,10Cが取り付けられたワイヤハーネス1は、軽量であり、電線保護具10,10A,10B,10Cと電線9及び周囲の部材との接触による異音を発しにくい。
【符号の説明】
【0065】
1 ワイヤハーネス
8 結束材
9 電線
10,10A,10B,10C 電線保護具
20 要素保護部
21 直線状要素保護部
22 曲線状要素保護部
30 連結部
40A 第一の成形装置
40B 第二の成形装置
41,43 下型部材
42,44 上型部材
45 ヒータ
100 不織布
101 後成形領域
102 先成形領域
200 要素部材
411,431 下型枠部
421,441 上型枠部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の一部が挿入される溝を形成し、前記電線に取り付けられることにより前記電線の一部を覆う電線保護具であって、
複数の不織布各々における端部の第一領域を除く残りの第二領域が加熱成形されることにより硬化した部分であり、それぞれ前記電線の一部が挿入される溝を形成する複数の要素保護部と、
複数の前記不織布各々における前記第一領域が重ねられて加熱成形されることにより前記第一領域が接着及び硬化した部分である1つ以上の連結部と、を有することを特徴とする電線保護具。
【請求項2】
少なくとも1つの前記要素保護部は、曲線に沿う前記溝を形成する、請求項1に記載の電線保護具。
【請求項3】
電線と、該電線に対して該電線の一部を覆う状態で取り付けられた電線保護具と、を備えるワイヤハーネスであって、
前記電線保護具は、
複数の不織布各々における端部の第一領域を除く残りの第二領域が加熱成形されることにより硬化した部分であり、それぞれ前記電線の一部が挿入された溝を形成する複数の要素保護部と、
複数の前記不織布各々における前記第一領域が重ねられて加熱成形されることにより前記第一領域が接着及び硬化した部分である1つ以上の連結部と、を有することを特徴とするワイヤハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−183927(P2012−183927A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48823(P2011−48823)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】