説明

電線及びその製造方法

【課題】撚り線に損傷を与えず、かつ低コストな方法により省スペースな電線を提供する。
【解決手段】本発明の電線10は、複数本の撚り線12、撚り線12を覆う絶縁被覆13、および他の部品31との接続部15を備える。本発明は、絶縁被覆13の除去により露出した露出撚り線12に、ろう材25を含浸させることにより接続部15を設けたことを特徴とする。電線10は、複数本の撚り線12を互いに接触した状態で並列させてなるフラット導体11を、絶縁被覆13でフラット形状に覆ったフラットケーブル10であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両において配策されるワイヤーハーネスは、電線と、当該電線の端部に接続される部品(例えば端子)と、を備える。電線は、銅などの導電性金属からなる多数の撚り線と、当該撚り線を被覆する絶縁被覆と、を有している。
従来から、電線と端子とを電気的、機械的に接続する方法として、電線の端部の絶縁被覆を剥離して撚り線を露出させ、当該露出した撚り線に端子の一部(例えば一対のバレル片)をかしめつけたり圧着する等の方法が採られている。
【0003】
しかしながら、上記の方法により、電線と端子とを接続すると、端子の一部が電線の端部を覆うように配されるため、大電流用の電線のように太い電線を端子に接続する場合には、電線と端子との接続部が大型化するという問題があった。
【0004】
そこで、電線と端子との接続部を小型化する方法を検討した。電線と端子との接続部を小型化する方法としては、例えば、電線の露出した撚り線を端子の上に載置して超音波溶着や抵抗溶接法により両者を接続することが考えられる(例えば特許文献1および特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−239752号公報
【特許文献2】特開2008−137033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電線と端子とを、超音波溶着により接続すると、溶着時の摩擦熱や振動などにより、撚り線の表面が損傷を受けて、断線が生じるおそれがある。一方、抵抗溶接法により電線と端子とを接続すると、撚り線だけが加熱されて固まるため、予め撚り線を加熱して固めておいてから抵抗溶接する必要があり、手間がかかる。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、撚り線に損傷を与えず、かつ、低コストな方法により省スペースな電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するものとして、本発明は、複数本の撚り線、前記撚り線を覆う絶縁被覆、および他の部品との接続部を備える電線であって、前記接続部を、前記絶縁被覆の除去により露出した露出撚り線に、ろう材を含浸させることにより設けたところに特徴を有する。
【0008】
また上記課題を解決するものとして、本発明は、複数本の撚り線、前記撚り線を覆う絶縁被覆、および他の部品との接続部を備える電線の製造方法であって、前記絶縁被覆を除去することにより撚り線を露出させ、当該露出した露出撚り線にろう材を含浸させるところに特徴を有する。
【0009】
本発明においては、電線の露出撚り線にろう材を含浸させることにより他の部品(電線に接続される端子などの部品)との接続部が設けられる。これにより以下のような効果を得ることができる。
(1)電線の接続部を、他の部品に直接接続することができるので、他の部品に接続するための端子が不要となる。その結果、低コストとすることができ、かつ、電線の配されるスペースを省スペース化することができる。
(2)電線を端子にかしめつけたり圧着する方法や、上記特許文献1〜2に提案されている方法では、電線を搭載している車両等の振動等により電線と端子との接続部の断線の発生が懸念されるが、電線を他の部品に直接接続することにより、電気的な接続信頼性を高めることができる。
(3)露出撚り線にろう材を含浸させることにより接続部が設けられるので、撚り線の表面が損傷を受けることがないうえに、一工程で電線に接続部を設けることができ、強度にも優れる。
【0010】
本発明は、以下の構成であるのが好ましい。
複数本の撚り線を互いに接触した状態で並列させてなるフラット導体を、絶縁被覆でフラット形状に覆った構成、すなわち、電線がフラット形状であると、厚みを小さくすることができるので、さらなる省スペース化が可能となり好ましい。
【0011】
接続部に、孔開け加工が施されている構成とすると、孔開け加工により設けられた接続部の孔に、端子などの部品を挿通させるなどの簡易な方法により接続することができる。
【0012】
露出撚り線をシート状のろう材で覆い、シート状のろう材で覆われた露出撚り線を誘導加熱することにより、ろう材を含浸させる構成とすると、ペースト状のろう材などを用いるよりも、ろう材を含浸させる作業を簡素化できるので好ましい。
ろう材が、りん銅ろうであると、耐熱性、強度、親和性に優れるので好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、撚り線に損傷を与えず、かつ低コストな方法により省スペースな電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】他の部品に接続した実施形態1の電線の斜視図
【図2】実施形態1の電線の斜視図
【図3】接続部を形成する前の電線の斜視図
【図4】ろう材を巻きつけた電線を治具で固定する手順を示す斜視図
【図5】治具で固定した状態の電線の斜視図
【図6】電線を誘導加熱する様子を示す一部断面図
【図7】ろう材を撚り線に含浸させた後孔開け加工前の電線の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1ないし図7によって説明する。
本実施形態の電線10は、例えば電気自動車において走行用の動力源を構成するバッテリ、インバータ、モータなどの装置(図示せず)の間に配索されるものであり、例えば、図1に示すようにバッテリを構成する電池セル30の上部に設けた端子31(他の部品31に相当)に接続される。
【0016】
電線10は、図2に示すように、扁平な形状のフラット導体11が、フラット形状(ほぼ一定の厚みで平坦な形状)の樹脂製の絶縁被覆13に覆われて構成されたフラットケーブル10である。電線10の端末部10Aでは、絶縁被覆13が剥ぎ取られることによりフラット導体11が露出している。
【0017】
フラット導体11は、複数本の撚り線12を互いに接触した状態で並列させることにより全体としてほぼ一定の厚みのフラットな形状とされており、各撚り線12としては、多数の銅合金の金属素線を螺旋状に撚り合わせてなるものが用いられている。
【0018】
フラット導体11が露出している電線10の端末部10Aには、露出した撚り線12(「露出撚り線12」に相当)にろう材25を含浸させてなる接続部15(図2において網掛けで示されている部分)が設けられている。接続部15は電線10と電池セル30の端子31とを、機械的および電気的に接続する部分である。
接続部15には、孔開け加工を施すことにより形成された円形の接続孔16が設けられている。この接続孔16にボルト状の端子31を挿通させナット32を螺合させることにより、電線10と電池セル30の端子31とが接続される。
【0019】
電線10の露出撚り線12に含浸されるろう材25としては、耐熱性、耐食性を有する銅ろう、銀ろう、アルミニウムろう、りん銅ろう、ニッケルろう、金ろう、パラジウムろう、マグネシウムろうなどを使用することができる。これらのろう材25のうち、耐熱性、強度、親和性に優れるという点で、りん銅ろうが好ましく、りん銅ろうのなかでも特に銀入りのもの(「銀入りりん銅ろう」という)が好ましい。
【0020】
本実施形態の電線10は、例えば以下に説明する方法により製造することができる。
フラット形状の電線10の端末部10Aの絶縁被覆13を剥ぎ取って、撚り線12を露出させる(図3を参照)。次に、露出撚り線12に、シート状のろう材25(例えば、銀入りりん銅ろう、JIS Z3264、B−CuP5)を巻いて、露出撚り線12の端部12Aを含む領域を覆う(図4を参照)。
【0021】
ろう材25により覆われた撚り線12を図示上下方向から、治具40で固定する(図5を参照)。
ここで、治具40の端部を、絶縁被覆13の端部と一致するように配すると、誘電加熱により絶縁被覆13が高温となって溶融することが懸念されるため、図5および図6に示すように、治具40を、その端部と絶縁被覆13の端部との間から露出撚り線12の一部が目視できるような位置に配する。
【0022】
本実施形態で用いる治具40は、図5に示すように、電線10の上側に配されるコ字状の治具40Aと、電線10の下側に配される平板状の治具40Bとから構成される。治具40を構成する材料としては、ろう材25との親和性の低い材料であればよく、例えば、セラミック、アルミナ、石英等が挙げられる。
【0023】
次に、図5に示すように、電源46のスイッチを入れてコイル45に電流を流して、公知の手法により誘導加熱を行う。誘導加熱の条件は、ろう材25の種類や電線10の材質などにもよるが、例えば、850℃で5秒間の加熱を行う。
【0024】
誘導加熱を行うことにより加熱されたろう材25が溶融拡散して、撚り線12を構成する金属素線間の内部と表面に充填され、これにより接続部15が形成される(図7を参照)。次に、接続部15の所定の位置に孔開け加工を施して接続孔16を設けると、図2に示す本実施形態の電線10が得られる。
【0025】
次に、本実施形態の効果について説明する。
本実施形態によれば、電線10の露出撚り線12にろう材25を含浸させることにより、電池セル30の端子31との接続部15が設けられる。これにより以下のような効果を得ることができる。
電線10を、電池セル30の端子31に直接接続することができるので、電池セル30の端子31に接続するための端子が不要となる。その結果、低コストとすることができ、かつ、電線10の配されるスペースを省スペース化することができる。また、電線10が電池セル30の端子31に直接接続されるので、電気的な接続信頼性を高めることができる。
さらに、露出撚り線12にろう材25を含浸させることにより接続部15が設けられるので、撚り線12の表面が損傷を受けることがないうえに、一工程で電線10に接続部15を設けることができ、強度にも優れる。
従って、本実施形態によれば、撚り線12に損傷を与えず、かつ低コストな方法により省スペースな電線10を提供することができるのである。
【0026】
また、本実施形態では、複数本の撚り線12を互いに接触した状態で並列させてなるフラット導体11を、絶縁被覆13でフラット形状に覆った構成、すなわち、電線10がフラット形状をなしているので、電線10の厚みを小さくすることができ、さらなる省スペース化が可能となる。
【0027】
また、本実施形態によれば、電線10の接続部15に、孔開け加工が施されることにより接続孔16が設けられているので、当該接続孔16に、電池セル30の端子31を挿通させナット32止めするだけで電線10と電池セル30の端子31とを接続することができる。その結果、電線10と他の部品31とを簡易な方法により接続することができる。
【0028】
さらに、本実施形態によれば、露出撚り線12をシート状のろう材25で覆い、シート状のろう材25で覆われた露出撚り線12を誘導加熱することにより、ろう材25を含浸させるから、ろう材25を含浸させる作業を簡素化できる。
【0029】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では電線10としてフラットケーブルを用いたが、円形ケーブルなどを用いてもよい。
(2)上記実施形態では、電池セル30の端子31と接続される部分として孔状をなす接続孔16を設けたものを示したが、端子31などの他の部品31と接続される部分が溝状やフック状をなすものであってもよい。
(3)上記実施形態では、ろう材25として銀入りりん銅ろうを示したが、銀入りではないりん銅ろうや、銅ろう、銀ろう、アルミニウムろう、ニッケルろう、金ろう、パラジウムろう、マグネシウムろうなどを用いてもよい。
(4)上記実施形態では、シート状のろう材25を用いたが、ペースト状のものや、粉末状のものを用いてもよい。
(5)上記実施形態では、電線10が接続される他の部品としてバッテリを構成する電池セル30の端子31を例示したが、本発明の電線10が接続される他の部品はこれに限定されない。本発明はインバータやモータなどと接続する電線に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0030】
10…電線(フラットケーブル)
10A…端末部
11…フラット導体
12…撚り線(露出撚り線)
13…絶縁被覆
15…接続部
16…接続孔
25…ろう材
30…電池セル
31…端子(他の部品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の撚り線、前記撚り線を覆う絶縁被覆、および他の部品との接続部を備える電線であって、
前記接続部を、前記絶縁被覆の除去により露出した露出撚り線に、ろう材を含浸させることにより設けたことを特徴とする電線。
【請求項2】
前記複数本の撚り線を互いに接触した状態で並列させてなるフラット導体を、前記絶縁被覆でフラット形状に覆ったことを特徴とする請求項1に記載の電線。
【請求項3】
前記接続部には、孔開け加工が施されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電線。
【請求項4】
前記ろう材が、りん銅ろうであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の電線。
【請求項5】
複数本の撚り線、前記撚り線を覆う絶縁被覆、および他の部品との接続部を備える電線の製造方法であって、
前記絶縁被覆を除去することにより撚り線を露出させ、当該露出した露出撚り線にろう材を含浸させることを特徴とする電線の製造方法。
【請求項6】
前記露出撚り線をシート状のろう材で覆い、
前記シート状のろう材で覆われた露出撚り線を誘導加熱することにより前記ろう材を含浸させることを特徴とする請求項5に記載の電線の製造方法。
【請求項7】
前記複数本の撚り線を互いに接触した状態で並列させたフラット導体と、前記フラット導体をフラット形状に覆う前記絶縁被覆と、を備える請求項5または請求項6に記載の電線の製造方法。
【請求項8】
前記ろう材が、りん銅ろうであることを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれか一項に記載の電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−23229(P2011−23229A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167728(P2009−167728)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】