説明

電線導体の製造方法および電線導体

【課題】細径であっても十分な機械的強度および導電性を有し、かつ整直性にも優れる電線導体を得る。
【解決手段】直径0.01mm以上0.6mm以下の銅合金細線12を複数本、繊維束または紐11の周りに撚り合わせた後、円形圧縮加工を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用電線などに用いられる電線導体の製造方法および電線導体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用電線においては、細径化および軽量化の要求が高まっている。
【0003】
従来、自動車用電線の導体には、軟銅線または軟銅線に錫メッキなどを施した線を撚り合わせたものが用いられてきた。しかし、これらの軟銅線や錫メッキ軟銅線は加工性に優れるものの、機械的強度に乏しいために、外径が大きくなり、また、その結果、重量も重くなるという問題がある。
【0004】
この点に関し、例えば、特許文献1には、銅素線をアラミド繊維束または紐の周りに配置し、円形圧縮加工を施した後、所定の熱処理を施したものを、自動車用電線の導体として用いることが記載されている。しかし、この導体は繊維の使用によって軽量化は図られるものの、素線は依然として銅素線であることから、細径化を図ることはできない。
【0005】
また、特許文献2には、Mgなどの金属元素を含む銅合金からなる素線を用いた自動車用電線導体が記載されている。しかし、この導体は、添加するMgなどの金属元素の含有率が1.0質量%未満もしくはそれ以下と低いため、細径化には限度がある。すなわち、例えば、導体の断面積が0.03mm未満になると、素線を撚り合わせる際や電線を製造する際などに素線が破断しやすくなる。また、電線の端末に端子を接続してコネクタに挿入する際に電線が折れるという問題もある。
【0006】
そこで、本発明者らは、軽量でかつ高強度の電線導体を供給すべく、銅と合金化する金属元素を特定の割合で含有させた銅合金細線を繊維束または紐の周りに配置し撚り合せた電線導体を検討した。しかしながら、この電線導体は、軽量かつ高強度ではあったものの、電線導体の末端にバラケが生じたり、撚線に捻りグセが発生するという問題があった。このような撚線の整直性の低下は、電線加工を円滑に行ううえでの妨げとなる。
【0007】
そこでさらに、上記整直性の問題を解決すべく、単に円形圧縮加工を試みたところ、加工割れが生じるだけでなく、次のような、銅合金細線を繊維束または紐の周りに配置したことによる新たな課題を生じた。
(1)銅合金細線を繊維束または紐の周りに配置し撚り合せた後、単に円形圧縮加工を施すと、中心に配置された繊維束または紐が細線の間から撚線の外に飛び出してしまう。
(2)繊維束または紐が撚線の外に飛び出すことにより、繊維束または紐の周りに配置した銅合金細線の整列が崩れ、その結果、導電性が低下するだけでなく、電線導体を屈曲させた際に一部の細線にのみ負荷がかかり、場合により細線が破断に至るおそれがある。
(3)繊維束または紐が撚線の外に飛び出すことにより、外観が不良となるうえ、外側に均一な厚さの被覆を施すことが困難になる。
【特許文献1】特許第2683446号明細書
【特許文献2】特開2008−16284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、細径化および軽量化が可能で、整直性にも優れ、かつ外観不良などのない電線導体の製造方法および電線導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載された発明は、直径0.01mm以上0.6mm以下の銅合金細線を複数本、繊維束または紐の周りに撚り合わせた後、円形圧縮加工を施すことを特徴とする電線導体の製造方法である。
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載の電線導体の製造方法において、前記円形圧縮加工の円形圧縮加工率が85%以上99%以下であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に記載された発明は、請求項1または2記載の電線導体の製造方法において、前記円形圧縮加工は、複数回の圧縮加工を含むことを特徴とするものである。
【0012】
請求項4に記載された発明は、請求項1乃至3のいずれか1項記載の電線導体の製造方法において、前記電線導体は、0.1mm以下の断面積を有することを特徴とするものである。
【0013】
請求項5に記載された発明は、請求項1乃至4のいずれか1項記載の電線導体の製造方法において、前記電線導体は、自動車用電線導体であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項6に記載された発明は、請求項1乃至5のいずれか1項記載の電線導体の製造方法において、前記銅合金は、2質量%以上14質量%未満のAgを含有することを特徴とするものである。
【0015】
請求項7に記載された発明は、請求項1乃至6のいずれか1項記載の電線導体の製造方法において、前記電線導体は、100N以上の破断荷重を有することを特徴とするものである。
【0016】
請求項8に記載された発明は、直径0.01mm以上0.6mm以下の銅合金細線を複数本、繊維束または紐の周りに撚り合わせ、円形圧縮加工を施してなることを特徴とする電線導体である。
【0017】
請求項9に記載された発明は、請求項8記載の電線導体において、前記繊維束または紐は、隣り合う前記細線の間の窪み内に入り込んでいることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、細径化および軽量化が可能で、かつ整直性にも優れる電線導体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、説明は図面に基づいて行うが、それらの図面は単に図解のために提供されるものであって、本発明はそれらの図面により何ら限定されるものではない。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態の電線導体を用いた自動車用電線を示す断面図である。
図1に示すように、この自動車用電線は、電線導体1と、その外周に設けられた絶縁被覆2とから構成されている。
【0021】
電線導体1は、繊維束または紐11を中心とし、その周りに銅合金細線12を複数本、例えば6本撚り合わせ、全体がほぼ円形状となるように圧縮加工を施した構造を有する。円形圧縮加工を施すことによって、全体がほぼ円形状に加工されるとともに、銅合金細線12が繊維束または紐11内に若干食い込んだ状態、換言すると、隣り合う銅合金細線12の間に形成された窪み13に繊維束または紐11が入り込んだ状態となっている。なお、繊維束または紐11は、図2に示すように、隣り合う銅合金細線12間の窪み13全体を埋めるような状態になっていることが好ましい。
【0022】
繊維束または紐11を構成する繊維としては、炭素繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、高強度ポリビニルアルコール(PVA)繊維、高強度ポリプロピレン(PP)繊維などが挙げられる。これらのなかでも引張弾性率が200GPa以上1000GPa以下の繊維の使用が好ましい。繊維束または紐11の直径は、周りの上記銅合金細線12の直径と略同一もしくはやや大きいことが好ましい。
【0023】
繊維束または紐11の周りに撚り合わされる銅合金細線12としては、Mg、Ag、Sn、Znなどの金属元素を1種以上含有し、残部がCuおよび不可避的不純物よりなる合金で形成される直径0.01mm以上0.6mm以下、好ましくは直径0.03mm以上0.3mm以下のものである。銅合金細線12の直径が上記範囲に満たないと、破断荷重が低下し、上記範囲を超えると、電線の細径化を図ることができない。銅合金細線12の材料としては、特にAgを1質量%以上24質量%未満含有し、残部がCuおよび不可避的不純物よりなる合金が高い強度が得られ、かつ加工性にも優れることから好ましい。Agの含有量は、2質量%以上14質量%未満であることがより好ましい。
【0024】
さらに、本発明の目的のためには、銅合金細線12として、以下のような方法で製造されたものを使用することが好ましい。
【0025】
Agを上記範囲、すなわち、好ましくは1質量%以上24質量%未満、より好ましくは2質量%以上14質量%未満の範囲で含有し、残部が実質的にCuおよび不可避的不純物よりなる合金の鋳造ロッドに縮径のための冷間加工を行い、この冷間加工の途中で1回以上の熱処理を施す。最後に熱処理を施した後に99%以上の減面率で最終線径にまで冷間加工を行う。熱処理は、400〜600℃の温度で1〜100時間行うことが好ましい。
【0026】
あるいは、Agを上記範囲、すなわち、好ましくは1質量%以上24質量%未満、好ましくは2質量%以上14質量%未満の範囲で含有し、残部が実質的にCuおよび不可避的不純物よりなる合金の鋳造ロッドに析出熱処理を施し、中間冷間加工を行った後、焼鈍・回復のための回復熱処理を施し、さらに99%以上の減面率で最終線径にまで冷間加工を行う。析出熱処理は、400〜600℃の温度で1〜100時間、また、回復熱処理は、200〜450℃の温度で5〜100時間施すことが好ましい。
【0027】
なお、上記減面率は、以下の式で定義される。
減面率R(%)=[(S−S)/S]×100
(S:加工前の断面積、S:加工後の断面積)
【0028】
このようにして製造された銅合金細線は、高い強度と高い導電率を有している。
【0029】
電線導体1は、前述したように円形圧縮加工が施されている。円形圧縮加工は、圧縮を複数回繰り返すことにより行うことが好ましい。これにより円形圧縮加工時の銅合金細線12の加工割れを抑制乃至防止することができる。
【0030】
また、円形圧縮加工率(圧縮を複数回繰り返す場合には、そのトータルの加工率)は85%以上99%以下の範囲が好ましい。円形圧縮加工率が85%未満であると可撓性が低下する。逆に、円形圧縮加工率が99%を超えると整直性を十分に改善することができず、末端のバラケや捻りグセが生じるおそれがある。ここで、円形圧縮加工率(%)は、加工前の撚線の外径をL1、加工後の撚線の外径(つまり、電線導体1の外径)をL2としたとき、次式で求められる。
円形圧縮加工率(%)=(L2/L1)×100
【0031】
上記工程などを施すことにより、図3に示すような中心に配置された繊維束または紐11が銅合金細線12の間から撚線の外に飛び出し、銅合金細線12の整列崩れが生ずることによる導電性の低下、銅合金細線12の破断、外観不良などの問題の発生を抑制乃至防止することができる。
【0032】
また、電線導体1の断面積は0.1mm以下とすることが好ましい。電線導体1の断面積が0.1mmを超えると、電線の細径化、軽量化を十分に図ることができなくなる。
【0033】
さらに、電線導体1は、破断荷重が100N以上であることが好ましい。なお、電線導体1の破断荷重は、汎用の引張試験機により測定することができる。
【0034】
絶縁被覆2は、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン、架橋ポリオレフィンなどにより形成される。ポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体、エチレン・ブテン共重合体などが挙げられる。絶縁被覆2を形成する絶縁材料には、酸化防止剤などの添加剤が添加されていてもよい。本発明においては、電線導体1に円形圧縮加工が施されているため、円形圧縮加工が施されていない場合に比べ、絶縁被覆2の厚さを薄くすることができる。
【0035】
このように構成される自動車用電線においては、電線導体1の撚り合わせ素線として、直径0.01mm以上0.6mm以下の銅合金細線12が使用されているため、細径であっても高い機械的強度および導電性を有することができる。しかも、そのような銅合金細線12は、繊維束または紐11を中心として撚り合わされるとともに、全体がほぼ円形状となるように圧縮加工が施されているため、整直性にも優れており、末端のバラケや捻りグセの発生も抑制される。また、繊維束または紐11の電線導体1外周面からの飛び出しもない。したがって、電線の細径化、軽量化を図ることができる。
【0036】
以上、本発明の電線導体を自動車用電線の導体に適用した例について説明したが、本発明はこのような例に限定されるものではなく、各種電線・ケーブルに広く適用可能であり、それらの電線・ケーブルの細径化、軽量化を図ることができる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0038】
[銅合金細線の製造]
(製造例1)
0.6質量%のSnと残部がCuからなるCu−Sn合金を、外周に水冷ジャケットを設けた黒鉛鋳型を有する水平連続鋳造機によって連続鋳造して、8mmφの鋳造ロッドを作製し、これに冷間心線加工を施して、線径0.02mmの細線(1)を得た。
【0039】
(製造例2)
0.6質量%のMgと残部がCuからなるCu−Mg合金を、外周に水冷ジャケットを設けた黒鉛鋳型を有する水平連続鋳造機によって連続鋳造して、8mmφの鋳造ロッドを作製し、これに冷間心線加工を施して、線径0.02mmの細線(2)を得た。
【0040】
(製造例3)
0.9質量%のZnと残部がCuからなるCu−Mg合金を、外周に水冷ジャケットを設けた黒鉛鋳型を有する水平連続鋳造機によって連続鋳造して、8mmφの鋳造ロッドを作製し、これに冷間心線加工を施して、線径0.02mmの細線(3)を得た。
【0041】
(製造例4)
10質量%のAgと残部がCuからなるCu−Ag合金を、外周に水冷ジャケットを設けた黒鉛鋳型を有する水平連続鋳造機によって連続鋳造して、8mmφの鋳造ロッドを作製し、冷間加工を施して線径0.02mmの細線(4)を得た。
【0042】
(製造例5)
10質量%のAgと残部がCuからなるCu−Ag合金を、外周に水冷ジャケットを設けた黒鉛鋳型を有する水平連続鋳造機によって連続鋳造して、8mmφの鋳造ロッドを作製し、これに冷間加工を施して5mmφ(減面率61%)とし、次いで450℃で10時間の熱処理を行った後、冷間加工を施して2mmφ(減面率84%)とし、次いで370で15時間の熱処理を行って、線径0.05mm(減面率99.93%)、導電率(IACS)65%、引張強さ1420MPaの細線(5)を得た。
【0043】
(製造例6)
10質量%のAgと残部がCuからなるCu−Ag合金を、外周に水冷ジャケットを設けた黒鉛鋳型を有する水平連続鋳造機によって連続鋳造して、8mmφの鋳造ロッドを作製し、これに冷間加工を施して5mmφ(減面率61%)とし、次いで450℃で10時間の熱処理を行った後、冷間加工を施して、線径0.05mm(減面率99.0%)、導電率(IACS)63%、引張強さ1530MPaの細線(6)を得た。
【0044】
[電線導体の製造]
実施例1
繊維束として外径0.04mmの炭素繊維束を用い、この周りに細線(1)を6本撚り合わせた後、この撚線をダイスの穴に通すことにより円形圧縮加工を施し、電線導体を得た。円形圧縮加工は、穴径の異なる2個のダイスに撚線を通過させ、円形圧縮加工率がトータルで95%となるように行った。
【0045】
実施例2〜6
細線(1)に代えて細線(2)〜(6)をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして電線導体を得た。
【0046】
実施例7、比較例
円形圧縮回数を1回とするか、または、円形圧縮加工を全く行わなかった以外は実施例1と同様にして電線導体を得た。
【0047】
上記実施例1〜7および比較例で得られた電線導体について、下記に示す方法で、整直性および繊維束の飛び出しを評価した。これらの結果を電線導体の断面積などとともに表2に示す。
[整直性]
電線導体を切断し、その切断端における細線のバラケの有無を目視により確認した。
[繊維束の飛び出し]
電線導体の外観を目視により観察し、繊維束の飛び出しの有無を確認した。
【0048】
【表1】

【0049】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態の電線導体を用いた自動車用電線の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の電線導体を用いた自動車用電線の他の例を示す断面図である。
【図3】繊維束または紐の飛び出しにより銅合金細線に整列崩れを生じた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1…電線導体、2…絶縁被覆、11…繊維束または紐、12…銅合金細線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径0.01mm以上0.6mm以下の銅合金細線を複数本、繊維束または紐の周りに撚り合わせた後、円形圧縮加工を施すことを特徴とする電線導体の製造方法。
【請求項2】
前記円形圧縮加工の円形圧縮加工率が85%以上99%以下であることを特徴とする請求項1記載の電線導体の製造方法。
【請求項3】
前記円形圧縮加工は、複数回の圧縮加工を含むことを特徴とする請求項1または2記載の電線導体の製造方法。
【請求項4】
前記電線導体は、0.1mm以下の断面積を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電線導体の製造方法。
【請求項5】
前記電線導体は、自動車用電線導体であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の電線導体の製造方法。
【請求項6】
前記銅合金は、2質量%以上14質量%未満のAgを含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の電線導体の製造方法。
【請求項7】
前記電線導体は、100N以上の破断荷重を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の電線導体の製造方法。
【請求項8】
直径0.01mm以上0.6mm以下の銅合金細線を複数本、繊維束または紐の周りに撚り合わせ、円形圧縮加工を施してなることを特徴とする電線導体。
【請求項9】
前記繊維束または紐は、隣り合う前記細線の間の窪み内に入り込んでいることを特徴とする請求項8記載の電線導体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−129410(P2010−129410A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303672(P2008−303672)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】