説明

電線被覆剥取具

【課題】 間接活線操作具を用いた間接活線工法による作業であっても作業者の作業負担を大きくすることなく、電線の絶縁被覆材を容易且つ確実に剥ぎ取ることのできる電線被覆剥取具を提供する。
【解決手段】 間接活線操作具の先端に設けられた一対の挟持体に対して取り付けられる一対の分割体を備え、各分割体は、挟持体に連結可能な連結部を有するとともに電線の径方向の半分を嵌め込み可能な溝部が形成された分割体本体と、曲率半径が電線の芯線の半径に対応した円弧状刃部の曲率中心を溝部の中心に一致させた状態で分割体本体に取り付けられた第一切込刃と、前記溝部と同方向に延びる直線状刃部を有し、溝部の内周面上に取り付けられた第二切込刃と、溝部を画定する前記内周面上に突設されて電線の絶縁被覆材に刺衝可能な被覆刺衝体とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の芯線を被覆した絶縁被覆材を取り除くための電線被覆剥取具に関し、特には、絶縁ヤットコ等の間接活線操作具を用いた間接活線工法で電線の絶縁被覆材を取り除いて芯線を露出させるための電線被覆剥取具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電線同士を電気的に接続するに当たり、電線の芯線(銅線やアルミ線等の導線)を被覆した絶縁被覆材を予め取り除いて電気的な接続の対象となる芯線を露出させるようにしているが、前記絶縁被覆材を取り除く作業が煩雑であるとして、電線の接続対象位置にある絶縁被覆材を取り除くための装置や器具(以下、これらを電線被覆剥取具という)が多数提供されている。
【0003】
そして、充電状態の電線に対して各種作業を行う作業者の安全を確保するために、一方向に長手をなす間接活線操作具を用いることで作業者が充電部分から離隔した位置で作業を行うようにした間接活線工法が普及しつつあり、かかる間接活線工法を対象とした電線被覆剥取具も提供されている。
【0004】
かかる電線被覆剥取具は、間接活線操作具の先端部に取り付け可能に構成されたもので、例えば、この種の電線被覆剥取具には、図10に示す如く、曲率半径が電線Cの芯線Caの半径に対応した円弧状の刃部(図示しない)を有する切込刃60,60が先端部に取り付けられて先端側が互いに接離可能な一対のアーム61,61と、各アーム61,61の先端に取り付けられた切込刃60,60間に電線Cを案内すべく、該一対のアーム61,61間に配置されて電線Cの先端部が挿入可能に構成された筒状のガイド部62とを備え、間接活線操作具である絶縁ヤットコ8aの先端部に設けられて互いに接離可能な一対の挟持体80a,80aに対して各アーム61,61が連結可能に構成されたもの(以下、ヤットコ用電線被覆剥取具6という)がある。
【0005】
かかるヤットコ用電線被覆剥取具6は、絶縁ヤットコ8aを操作して一対の挟持体80a,80aを接近させることで各アーム61,61の先端に取り付けられた切込刃60,60を互いに接近させ、ガイド部62に案内されて切込刃60,60(刃部)間にある電線Cの絶縁被覆材Cbの周囲に対して互いに接近する切込刃60,60によって切り込みを入れるようになっている。これにより、上記構成のヤットコ用電線被覆剥取具6は、アーム61,61の先端(切込刃60,60)同士を接近させた状態で電線Cの軸線方向(先端側)に引っ張ることで切込刃60,60によって入れられた切り込みよりも先端側にある絶縁被覆材Cbを芯線Caから除去できるとされている。
【0006】
また、別の電線被覆剥取具として、図11に示す如く、電線Cの周囲で切刃73を機械的に回転させることで電線Cの絶縁被覆材Cbを剥ぎ取るようにしたもの(以下、機械式電線被覆剥取具7という)もある。
【0007】
かかる機械式電線被覆剥取具7は、基端側に操作部(図示しない)が設けられるとともに該操作部に対する操作を回転動作にして出力する回転伝達機構80bを先端部に備えた間接活線操作具8bを対象としたもので、該間接活線操作具8bの先端部に連結される筒状の本体部70と、該本体部70に取り付けられて回転伝達機構80bの回転を受けて本体部70の軸線回りの回転動作に変換する機構部71と、機構部71に連結されて該機構部71の出力(回転動作)で本体部70の軸線回りで回転する筒状の回転部72と、該回転部72の内周側に凸設された切刃73とを備えている。
【0008】
前記機械式電線被覆剥取具7は、回転部72に電線Cの先端部を挿入した状態で間接活線操作具8bの操作部を操作することで、回転部72とともに切刃73が電線C回りで回転するようになっている。これにより、上記構成の機械式電線被覆剥取具7は、切刃73が絶縁被覆材Cbに接触しつつ電線C回りで回転して該絶縁被覆材Cbを剥ぎ取る(除去する)ことができるとされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−333632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、電線Cの絶縁被覆材Cbは、一般的に芯線Caに対して密着して芯線Caから剥がれ難い状態になっており、前記ヤットコ用電線被覆剥取具6では、絶縁被覆材Cbを剥ぎ取ることができなかったり、絶縁被覆材Cbを剥ぎ取るのに手間が掛かったりする場合がある。すなわち、ヤットコ用電線被覆剥取具6は、アーム61,61の先端(切込刃60,60)同士を接近させた状態で電線Cの軸線方向(先端側)に引っ張ることで先端側にある絶縁被覆材Cbを芯線Caから剥ぎ取ることができるとされているが、芯線Caに絶縁被覆材Cbが密着しているとその密着が抵抗になって絶縁被覆材Cbの移動が阻害されるため、切り込みよりも先端側の絶縁被覆材Cbを全く移動させることができなかったり、大きな引っ張り力を作用させなければ絶縁被覆材Cbを移動させることができなかったりする場合がある。
【0011】
そのため、上記構成のヤットコ用電線被覆剥取具6は、絶縁被覆材Cbを確実且つ円滑に剥ぎ取ることができないといった問題がある。特に、絶縁ヤットコ8aの先端に取り付けたヤットコ用電線被覆剥取具6は、作業者に対して遠方に位置するため、絶縁ヤットコ8aを操作して絶縁被覆材Cbを移動させることのできる大きな力を作用させにくく、絶縁被覆材Cbの剥ぎ取りを円滑にできないのが実情である。
【0012】
これに対し、機械式電線被覆剥取具7は、ヤットコ用電線被覆剥取具6のように絶縁被覆材Cbを移動させる必要がないが、電線Cの姿勢や配置によって絶縁被覆材Cbを確実に剥ぎ取ることができない場合がある。すなわち、機械式電線被覆剥取具7は、切刃73が回転部72と同心で回転するため、該切刃73が電線Cの外周全周に均等に接触するには該電線Cの軸線が回転部72の回転中心と同心になっていなければならないが、電線Cが湾曲した状態で回転部72に挿入されたり、電線Cが回転部72に対して偏心した状態で回転部72に挿入されたりすることがあり、回転部72に挿入した電線Cの軸線が切刃73の回転中心と同心にならないことがある。
【0013】
そのため、機械式電線被覆剥取具7は、切刃73が電線C(絶縁被覆材Cb)に対して全周に亘って接触せずに、芯線Caの外周上に絶縁被覆材Cbが残ることがある。また、機械式電線被覆剥取具7は、切刃73を回転させるための機構(機構部71や回転部72)等を具備するため、重量化する傾向にあり、間接活線操作具8bを操作する作業者の作業負担が大きくなるといった問題もある。
【0014】
そこで、本発明は、斯かる実情に鑑み、間接活線操作具を用いた間接活線工法による作業であっても作業者の作業負担を大きくすることなく、電線の絶縁被覆材を容易且つ確実に剥ぎ取ることのできる電線被覆剥取具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る電線被覆剥取具は、電線の芯線を被覆した絶縁被覆材を取り除くための電線被覆剥取具であって、間接活線操作具の先端に基端部側からの操作で接離可能に設けられた一対の挟持体のそれぞれに対して取り付けられる一対の分割体を備え、各分割体は、少なくとも何れか一方の挟持体に連結可能な連結部を有するとともに他方の挟持体に取り付けられた相手方の分割体側に向く面上に電線の径方向の半分を嵌め込み可能な溝部が形成された分割体本体と、曲率半径が電線の芯線の半径に対応した円弧状刃部を有し、該円弧状刃部の曲率中心を溝部の中心に一致させて該円弧状刃部を相手方の分割体側に向けた状態で分割体本体に取り付けられた第一切込刃と、第一切込刃に近接した位置から前記溝部と同方向に延びる直線状刃部を有し、直線状刃部を相手方の分割体側に向けて溝部を画定する内周面上に取り付けられた第二切込刃と、溝部を画定する前記内周面上に突設されて電線の絶縁被覆材に刺衝可能な被覆刺衝体とを備え、一対の分割体を互いに接近させることで、両分割体の第一切込刃が協働して該分割体間にある電線の絶縁被覆材を全周に亘って切り込むとともに第二切込刃が該電線の絶縁被覆材を軸線方向に切り込み、各分割体の前記被覆刺衝体が第二切込刃による切り込みによって周方向で二つ以上に分断された異なる部分の絶縁被覆材に刺衝するように構成されていることを特徴とする。
【0016】
上記構成の電線被覆剥取具によれば、間接活線操作具の先端にある一対の挟持体のそれぞれに対して分割体を取り付けた上で、間接活線操作具に対する基端側での操作を行うと、一対の挟持体の接離に伴って一対の分割体も互いに接離することになる。そして、処理の対象となる電線を溝部に沿わせるようにして一対の分割体間に配置した上で、該一対の分割体を接近させると、両分割体の第一切込刃によって分割体間に配置した電線の絶縁被覆材に周方向に延びる切り込みが入れられるとともに、各分割体の第二切込刃によって絶縁被覆材の異なる位置に軸線方向に延びる切り込みが入れられることになる。また、一対の分割体同士の接近に伴い、各分割体の被覆刺衝体が電線の絶縁被覆材に刺衝することになる。
【0017】
そして、各分割体を互いに接近させ続けると、一方の分割体の分割体本体に形成された溝部に対して電線の径方向の一方側半分が嵌り込むとともに他方の分割体の分割体本体に形成された溝部に対して該電線の径方向の他方側半分が嵌り込んで、電線が一対の分割体(分割体本体)に包囲された状態になる。この状態で、一対の分割体の溝部に嵌り込んだ電線は、芯線が切断されることなく、絶縁被覆材に対して両分割体の第一切込刃の協働によって周方向で連続する環状の切り込みが入れられるとともに両分割体の第二切込刃によって環状の切り込みと直交する方向に真っ直ぐに延びる少なくとも二本の切り込みが入れられることになる。これにより、電線は、芯線回りの絶縁被覆材が軸線方向で分割されるとともに周方向にも少なくとも二つに分割され、絶縁被覆材の分割された各領域(切り込みによって区画された複数の領域のそれぞれ)に異なる分割体の被覆刺衝体が刺衝された状態になる。
【0018】
この状態で、間接活線操作具を操作して電線を挟み込んだ一対の分割体に対して電線を中心にした回転力を作用させると、切り込みによって周方向に分割された絶縁被覆材のそれぞれに対して分割体に作用する回転力が伝わることになる。すなわち、一対の分割体を接近させると、被覆刺衝体が電線の絶縁被覆材に刺衝された状態になるため、両分割体に回転トルクを作用させると、その回転トルクが少なくとも被覆刺衝体を介して絶縁被覆材に伝達される。
【0019】
これにより、絶縁被覆材が芯線の外周に密着していても、絶縁被覆材に拗れが生じて該絶縁被覆材が芯線の外周から剥離した状態になる。そして、間接活線操作具の基端側での操作を解除すると一対の挟持体が互いに離間し、これに伴って各挟持体に取り付けられた一対の分割体も離間して電線に対する一対の分割体による包囲が解除されることになる。これにより、芯線から剥離された絶縁被覆材が取り除かれる或いは絶縁被覆材を取り除くことができる状態になる。なお、絶縁被覆材は一般的に変形自在な樹脂成形品で構成されるため、一対に分割体が離間するときに絶縁被覆材に対して被覆刺衝体が刺衝した状態で維持していれば、第二切込刃による切り込みによって周方向で二つ以上に分断された異なる部分の絶縁被覆材が分割体の離間に対応して変形しつつ被覆刺衝体に付いて芯線から離れることになる。
【0020】
従って、上記構成の電線被覆剥取具は、電線の絶縁被覆材を容易且つ確実に剥ぎ取ることができる。また、上記構成の電線被覆剥取具は、回転を伝達するための機構部等を必要としないため、軽量化でき、間接活線操作具を用いた間接活線工法による作業であっても作業者の作業負担を大きくすることもない。
【0021】
本発明の一態様として、各分割体は、溝部の延びる方向と交差する方向で直線状に延びる切断用刃部を有し、第一切込刃に対して前記溝部の延びる方向の一端側で所定間隔をあけて分割体本体に取り付けられた電線切断刃を更に備え、一対の分割体を互いに接近させることで、両分割体の電線切断刃が協働して該分割体間にある電線を切断するように構成されていることが好ましい。このようにすれば、電線の切断と絶縁被覆材の除去とを一連の作業で行うことができ、例えば、幹線から分岐して変圧器に繋がる高圧引下線に対する処理に適したものになる。
【0022】
具体的に説明すると、負荷側に対する作業(例えば、変圧器の交換作業等)を行う場合、幹線から分岐して変圧器に電気的に繋がる高圧引下線を切断してその切断位置より下流側を充電状態にならないようにした上で負荷側に対する各種作業を行うようにしており、作業完了後に切断した高圧引下線同士を再接続するようにしている。
【0023】
そのため、従来では、負荷側に対する作業を行う場合、高圧引下線の切断作業や、切断位置の上流側にある高圧引下線の先端部における絶縁被覆材の除去作業(絶縁被覆材の剥ぎ取り作業)、切断された充電側の高圧引下線と負荷側の高圧引下線の芯線同士の接続作業を個別に行っていたが、上記構成の電線被覆剥取具を用いれば、電線(高圧引下線)の切断と絶縁被覆材の除去を一連の作業で行うことができ、作業の効率化を図ることができる。
【0024】
この場合、一対の分割体は、電線切断刃が溝部の途中位置に配置され、一対の分割体を互いに接近させることで、両分割体の分割体本体が電線切断刃よりも溝部の延びる方向の一端側で電線を挟持可能に構成されていることが好ましい。このようにすれば、両分割体の電線切断刃が協働して該分割体間にある電線を完全に切断したときに、その切断位置を境にして分断された電線のそれぞれを保持することができる。これにより、上述の如く、高圧引下線のような高所にある電線に対する切断等を行っても切断された電線が不用意に垂れ下がることがなく、作業位置よりも下方側での安全性を確保することができる。
【0025】
本発明の他態様として、前記被覆刺衝体は、溝部と同方向に延びて第二切込刃の突出方向と異なる方向に突出していてもよい。このようにすれば、一対の分割体が電線を包囲した状態で該電線回りの回転トルクを作用させたときに、その被覆刺衝体の先端側が絶縁被覆材に突き刺さった状態(減り込んだ状態)になって回転トルクを絶縁被覆材に伝達することになる。これにより、周方向に分割された絶縁被覆材のそれぞれに対して拗れを生じさせることができ、各絶縁被覆材を芯線から確実に剥離させることができる。
【0026】
本発明の別の態様として、前記被覆刺衝体は、先端部が先細りした鈎状又は鏃状に形成されていてもよい。このようにすれば、被覆刺衝体の先端部が絶縁被覆材に突き刺さることになり、一対の分割体で電線を包囲した状態で該電線回りの回転トルクを作用させたときに、その被覆刺衝体が絶縁被覆材に突き刺さった状態(減り込んだ状態)で回転トルクを絶縁被覆材に伝達することになる。これにより、周方向に分割された絶縁被覆材のそれぞれに対して拗れを生じさせることができ、各絶縁被覆材を芯線から確実に剥離させることができる。また、上述の如く、被覆刺衝体の先端部を鈎状又は鏃状に形成することで刺衝した絶縁被覆材から抜けにくくなり、一対の挟持体を離間させて一対の分割体を互いに離間させたときに、絶縁被覆体が被覆刺衝体に付いて移動する(芯線から離される)ことになる。従って、電線の絶縁被覆の除去(剥ぎ取り)を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明の電線被覆剥取具によれば、間接活線操作具を用いた間接活線工法による作業であっても作業者の作業負担を大きくすることなく、電線の絶縁被覆材を容易且つ確実に剥ぎ取ることができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る電線被覆剥取具が取り付けられる絶縁ヤットコの全体図を示す。
【図2】同実施形態に係る電線被覆剥取具の全体斜視図であって、一対の分割体を密接させた状態を示す。
【図3】同実施形態に係る電線被覆剥取具の全体斜視図であって、一対の分割体を離間させた状態を示す。
【図4】同実施形態に係る電線被覆剥取具の断面図であって、一対の分割体を密接させた状態を示す。
【図5】同実施形態に係る電線被覆剥取具の断面図であって、(a)は、図4のI−I断面を示し、(b)は、図4のII−II断面を示し、(c)は、図4のIII−III断面を示す。
【図6】同実施形態に係る電線被覆剥取具の断面図であって、(a)は、一対の分割体を離間させた状態の図4のI−I断面を示し、(b)は、一対の分割体を離間させた状態の図4のII−II断面を示し、(c)は、一対の分割体を離間させた状態の図4のIII−III断面を示す。
【図7】本発明の他実施形態に係る電線被覆剥取具の断面図であって、一対の分割体を密接させた状態を示す。
【図8】同実施形態に係る電線被覆剥取具の断面図であって、(a)は、図7のIV−IV断面を示し、(b)は、図7のV−V断面を示し、(c)は、図7のVI−VI断面を示す。
【図9】本発明の別の実施形態に係る電線被覆剥取具の断面図であって、一対の分割体を密接させた状態を示す。
【図10】互いに接離可能な一対の挟持体を備えた間接活線操作具(絶縁ヤットコ)を対象にした従来のヤットコ用電線被覆剥取具の概略図を示す。
【図11】回転伝達機構を先端部に備えた間接活線操作具を対象にした従来の機械式電線被覆剥取具の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態に係る電線被覆剥取具について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0030】
本実施形態に係る電線被覆剥取具は、図1に示す間接活線操作具である絶縁ヤットコ5に取り付けて使用するものである。ここで電線被覆剥取具の取り付け対象となる絶縁ヤットコ5について概略説明すると、かかる絶縁ヤットコ5は、電気絶縁性を有する棒状の本体部50の先端部に一対の挟持体51a,51bが連設されている。
【0031】
前記一対の挟持体51a,51bは、それぞれ湾曲したアーム状に形成されており、一方の挟持体51aの基端側が本体部50の先端に枢着され、他方の挟持体51bの基端部が本体部50の先端に固定されている。そして、上記構成の絶縁ヤットコ5は、本体部50の基端側に設けられたレバー52と一方の挟持体51aの基端部とが作動的に連結されており、レバー52に対する操作を行っていない状態で一方の挟持体51aの先端部が他方の挟持体51bの先端部に対して離間し、レバー52を引き操作したときに一方の挟持体51aが枢軸を支点にして回転し、該一方の挟持体51aの先端部が他方の挟持体51bの先端部に対して接近するようになっている。
【0032】
そして、この種の絶縁ヤットコ5は、先端部(一対の挟持体51a,51bの先端部)に対して各種先端工具を取り付け可能に構成されている。すなわち、一対の挟持体51a,51bは、先端工具とピン結合できるように先端部にロックピンを嵌入するためのピン嵌入用孔53a,53bが貫設されている。
【0033】
本実施形態に係る電線被覆剥取具は、上記構成の絶縁ヤットコ5に取り付けて使用するもので、図2及び図3に示す如く、一対の挟持体51a,51bのそれぞれに取り付けられる一対の分割体2,2を備えている。
【0034】
各分割体2,2は、図4及び図5に示す如く、少なくとも何れか一方の挟持体51a,51bに連結可能な連結部205を有するとともに他方の挟持体51a,51bに取り付けられた相手方の分割体2側に向く面上に電線Cの径方向の半分を嵌め込み可能な溝部201が形成された分割体本体20と、曲率半径が電線Cの芯線Caの半径に対応した円弧状刃部210を有し、該円弧状刃部210の曲率中心を溝部201の中心に一致させて該円弧状刃部210を相手方の分割体2側に向けた状態で分割体本体20に取り付けられた第一切込刃21と、第一切込刃21に近接した位置から前記溝部201と同方向に延びる直線状刃部220を有し、直線状刃部220を相手方の分割体2側に向けて溝部201を画定する内周面上に取り付けられた第二切込刃22と、溝部201を画定する前記内周面上に突設されて電線Cの絶縁被覆材Cbに刺衝可能な被覆刺衝体23とを備えている。また、本実施形態に係る分割体2,2は、それぞれ第一切込刃21に対して前記溝部201の延びる方向の一端側で所定間隔をあけて分割体本体20に取り付けられた電線切断刃24を更に備えている。
【0035】
本実施形態に係る分割体本体20は、外観角柱状に形成されたベース200と、該ベース200の外周を構成する四面のうちの一面に対して連設された前記連結部205とを備えている。
【0036】
前記ベース200は、連結部205の連設される面と異なる面であって、相手方の分割体2側に向く面(本実施形態においては連結部205が連設された面に対して反対側にある面)上に当該ベース200の軸線方向(長手方向)に延びる溝部201が形成されている。より具体的に説明すると、本実施形態に係るベース200は、前記溝部201を形成するための溝形成部材202と、溝形成部材202を嵌合させる凹部203が形成されたベース本体204とを備えている。
【0037】
前記溝形成部材202は、樋状の溝形成部202aと、溝形成部202aの湾曲方向の両端部から外方に延出した一対の片部202b,202bとを備えている。該溝形成部材202は、板材を曲げ加工して形成したもので、前記溝形成部202aが処理の対象となる電線Cの半径と対応した曲率半径で湾曲している。すなわち、溝形成部202aは、内周面の曲率半径が電線Cの半径と同一又は略同一になるように断面半円弧状に形成されている。これにより、該溝形成部材202(溝形成部202a)は、内周面が円弧面をなして電線Cの径方向の半分を嵌合可能な溝部201を形成している。前記一対の片部202b,202bのそれぞれは、平面視長方形状に形成されており、長手方向と直交する方向(短手方向)の一端が溝形成部202aの湾曲方向の端部に接続されている。
【0038】
本実施形態に係るベース200(分割体2)は、溝形成部材202,202を二つ備えており、二つの溝形成部材202,202は、それぞれの溝形成部202aを一列にした状態でベース本体204の凹部203に嵌合されるようになっている。各溝形成部材202は、溝形成部202aの湾曲方向と直交する方向(溝部201の延びる方向)の長さが第一切込刃21と電線切断刃24との間隔と対応した長さになっている。すなわち、各溝形成部材202は、後述する第一切込刃装着溝204aと後述する電線切断刃装着溝204bとの間隔に対応した長さに設定されている。
【0039】
前記ベース本体204は、角柱状に形成されており、外周を構成する四つの面のうちの一面上に前記凹部203が当該ベース本体204の軸線方向(長手方向)に延びるように形成されている。具体的には、前記凹部203は、溝形成部材202の溝形成部202aが嵌合する第一凹条部203aと、一対の片部202b,202bが嵌合する一対の第二凹部203b,203bとで構成されている。前記第一凹条部203aは、内周面の曲率半径が溝形成部202aの外周の曲率半径と対応した断面半円形状をなす溝であり、ベース本体204の長手方向の全長に亘って形成されている。
【0040】
これにより、第一凹条部203aは、ベース本体204の前記一面上で開放するとともに長手方向の両端面上でも開放した状態になっている。前記一対の第二凹部203b,203bのそれぞれは、第一凹条部203aの両側に片部202b,202bの平面形状に即した形態で形成されており、片部202b,202bの厚みに対応する深さに設定されている。これにより、本実施形態に係るベース200は、凹部203に溝形成部材202を嵌合した状態(溝形成部202aが第一凹条部203aに嵌合されるとともに各片部202b,202bが一対の第二凹部203b,203bに嵌合された状態)で、溝形成部材202がベース本体204の前記一面から突出しないようになっている。すなわち、本実施形態に係るベース200は、凹部203に溝形成部材202を嵌合した状態、ベース本体204の前記一面と溝形成部材202の片部202b,202bとが面一になるようになっている。
【0041】
本実施形態に係るベース200は、上述の如く、溝形成部材202,202を二つ備えているため、前記ベース本体204の凹部203が二つの溝形成部材202,202を一列に整列させた状態で嵌合できるように形成されている。すなわち、本実施形態に係るベース本体204は、当該ベース本体204の軸線方向(長手方向)の長さが二つの溝形成部材202,202の溝形成部202a(溝部201)の延びる方向の合計長さ以上に設定されており、長手方向の中央を境にした一端側にある凹部203に一方の溝形成部材202を嵌合し、長手方向の中央を境にした他端側に凹部203に他方の溝形成部材202を嵌合するようになっている。
【0042】
そして、本実施形態に係るベース本体204は、軸線方向における端部に第一切込刃21を装着するための溝(以下、第一切込刃装着溝という)204aが前記凹部203を横切るように形成されている。本実施形態に係るベース本体204は、軸線方向における両端部に第一切込刃装着溝204aが形成されている。すなわち、本実施形態に係るベース本体204は、軸線方向の一端部に対して第一切込刃装着溝204aが凹部203を横切るように形成されるとともに、軸線方向の他端部に対して第一切込刃装着溝204aが凹部203を横切るように形成されている。なお、本実施形態に電線被覆剥取具1は、ベース本体204の両端部に第一切込刃装着溝204aが形成されているが、電線Cの被覆を取り除く(除去する)ときに、一方の第一切込刃装着溝204a(溝部201の延びる方向の他端部にある第一切込刃装着溝204a)のみに第一切込刃21が装着される。
【0043】
また、ベース本体204は、軸線方向の他端部にある第一切込刃装着溝204aに対して該軸線方向(溝部201の延びる方向)の一端側で所定間隔をあけた位置に電線切断刃24を装着するための溝(以下、電線切断刃装着溝という)204bが形成されている。本実施形態に係るベース本体204は、凹部203内に一列で配置される二つの溝形成部材202,202間に位置するように電線切断刃装着溝204bが形成されている。すなわち、本実施形態に係る電線切断刃装着溝204bは、ベース本体204の軸線方向の中央部に前記凹部203を横切るように形成されている。
【0044】
本実施形態に係る分割体本体20は、前記連結部205がベース200の溝部201の形成される面(ベース本体204の凹部203の形成される面)の反対面(以下、この面を外向面という)に連設されている。そして、該連結部205は、挟持体51a,51bに穿設されたピン嵌入用孔53a,53bに嵌入可能なロックピン206を備えている。
【0045】
より具体的に説明すると、該連結部205は、挟持体51a,51bをベース200の軸線方向と直交する方向から外向面に沿うように挿入可能な挟持体挿入部207を形成したフレーム208と、該フレーム208に挿通されて挟持体挿入部207に出退可能なロックピン206とを備えている。
【0046】
前記フレーム208は、ベース200(ベース本体204)の外向面上に設けられた平面視四角形状のフレームベース208aと、該フレームベース208aの外郭を構成する四つの辺部のうちの一つの辺部を除いた三つの辺部から外向面に対して直交する方向に延出した起立壁部208bと、該起立壁部208bの上端間を閉塞する天板部208cとで構成されており、これらで挟持体挿入部207が画定されている。従って、本実施形態に係る連結部205は、フレームベース208aの前記一つの辺(起立壁部208bの延出していない辺部)側から挟持体挿入部207に挟持体51a,51bを挿入できるようになっている。そして、天板部208cは、前記ロックピン206を挿通させる貫通穴(採番しない)が穿設され、外面上に前記貫通穴と略同心をなした外装筒208dが突設されている。
【0047】
本実施形態に係る連結部205は、ロックピン206に外嵌したコイルバネ209が外装筒208dに内装されおり、該コイルバネ209の付勢でロックピン206の一端側を挟持体挿入部207内に突出させるようになっている。すなわち、本実施形態に係る連結部205は、ロックピン206に外嵌されたコイルバネ209がロックピン206の軸芯方向の途中位置に形成された大径部206aと外装筒208dの上端部に取り付けられた環状プレート208eとの間に介装されており、該コイルバネ209の付勢力をロックピン206に対して挟持体挿入部207側に作用させるようになっている。
【0048】
これにより、本実施形態に係る連結部205は、コイルバネ209の付勢によって常態でロックピン206の一端側が挟持体挿入部207内に突出し、ロックピン206の他端側を引き操作すると該ロックピン206の一端側が挟持体挿入部207から待避するようになっている。すなわち、上記構成の連結部205は、常態でロックピン206が挟持体挿入部207に挿入された挟持体51a,51bのピン嵌入用孔53a,53bに嵌入可能な状態となり、ロックピン206の他端側を引き操作することで該ロックピン206が挟持体51a,51bのピン嵌入用孔53a,53bから離脱可能な状態になるように構成されている。
【0049】
前記第一切込刃21は、矩形プレートを加工して形成されたもので、矩形プレートの外郭を構成する四辺のうちの一辺を窪ませることで円弧状刃部210が形成されている。そして、該第一切込刃21は、第一切込刃装着溝204aに落とし込んだ状態で装着されるようになっている。すなわち、第一切込刃21は、円弧状刃部210の形成された辺以外の辺部(三辺)が第一切込刃装着溝204aに嵌入するようになっている。そして、該第一切込刃21は、第一切込刃装着溝204aに装着された状態(分割体本体20に取り付けられた状態)で、円弧状刃部210の曲率中心が溝部201の曲率中心と一致した状態になるように形成されている。また、該第一切込刃21は、第一切込刃装着溝204aに装着された状態(分割体本体20に取り付けられた状態)で、円弧状刃部210側がベース200の溝部201の形成された面(ベース本体204の凹部203の形成された前記一面)と面一になるように形成されている。
【0050】
第二切込刃22は、上述の如く、溝部201を画定する内周面上に設けられている。本実施形態においては、上述の如く、溝部201が溝形成部材202(溝形成部202a)によって形成されるため、第二切込刃22は、溝形成部材202(溝形成部202a)の内周面上に設けられる。
【0051】
そして、本実施形態においては、上述の如く、溝形成部材202,202が二つ設けられているが、第二切込刃22は他方の溝形成部材202(溝形成部202a)のみに設けられている。第二切込刃22は、直線状刃部220が溝形成部材202(溝形成部202a)の内周面(円弧面)の曲率中心に沿うよう溝形成部202aの全長に亘って設けられている。本実施形態に係る第二切込刃22は、溝形成部202aの周方向の中央に位置するように設けられている。そして、第二切込刃22は、直線状刃部220が溝部201の曲率中心に向かうよう設けられている。そして、該第二切込刃22は、処理の対象となる電線Cの絶縁被覆材Cbの厚みに対応した突出量に設定されている。すなわち、第二切込刃22は、絶縁被覆材Cbのみを切断できるように突出量が溝部201の内周面を基準にして設定されている。
【0052】
被覆刺衝体23は、第二切込刃22と同様に、溝部201を画定する内周面上に設けられている。本実施形態においては、上述の如く、溝部201が溝形成部材202の溝形成部202aによって形成されるため、被覆刺衝体23は、該溝形成部202aの内周面上に設けられる。そして、本実施形態においては、上述の如く、溝形成部材202が二つ設けられているが、被覆刺衝体23についても他方の溝形成部材202(溝形成部202a)のみに設けられている。
【0053】
本実施形態に係る被覆刺衝体23は、溝部201を画定する内周面側から先端に向かって板厚が薄くなったプレートで構成されており、溝形成部材202(溝形成部202a)の内周面(円弧面)の曲率中心に沿うよう溝形成部202aの全長に亘って設けられている。すなわち、本実施形態に係る被覆刺衝体23は、溝部201と同方向に延びるように設けられている。そして、該被覆刺衝体23は、溝形成部202aの周方向の中央よりも一端側に変位した位置から延出するように設けられており、第二切込刃22の突出方向と異なる方向に突出している。すなわち、被覆刺衝体23は、先端を溝部201の内周面の曲率中心からずれた位置に向けて突出している。そして、一方の分割体2の第二切込刃22及び被覆刺衝体23と、他方の分割体2の第二切込刃22及び被覆刺衝体23との配置は、溝部201の曲率中心(一対の分割体2,2が密接して溝部201同士が形成する孔の中心)を対称の中心にした点対称になっている。すなわち、本実施形態において、一対の分割体2、2は、第二切込刃22及び被覆刺衝体23が取り付けられた溝形成部材202に同一形態のものが採用され、一方の分割体2のベース本体204の凹部203に溝形成部材202を嵌合するに当たり、当該溝形成部材202は、他方の分割体2のベース本体204の凹部203に嵌合される溝形成部材202の配置に対して、上下反転させるとともに左右反転させた状態で一方の分割体2の凹部203に嵌合される。
【0054】
前記電線切断刃24は、矩形プレート状に形成されており、外郭を画定する一辺上に直線状の切断用刃部240が形成されている。そして、該電線切断刃24は、電線切断刃装着溝204bに落とし込んだ状態で装着されるようになっている。すなわち、電線切断刃24は、切断用刃部240の形成された辺以外の辺部(三辺)が電線切断刃装着溝204bに嵌入するようになっている。そして、本実施形態に係る電線切断刃24は、電線切断刃装着溝204bに装着された状態(分割体本体20に取り付けられた状態)で、切断用刃部240側がベース200の溝部201の形成された面(ベース本体204の凹部203の形成された前記一面)と面一になるように形成されている。そして、本実施形態に係る電線被覆剥取具1は、一対の分割体2,2同士が接近した状態で互いの電線切断刃24の切断用刃部240の刃先が全長に亘って当接する(突き合わせた状態になる)ようになっている。
【0055】
本実施形態に係る電線被覆剥取具1は、以上の通りであり、続いて、上記構成の電線被覆剥取具1の使用方法と使用時の作用について説明する。本実施形態に係る電線被覆剥取具1は、各分割体2,2に電線切断刃24を設けているため、ここでは、変圧器の交換等を行うに際して負荷側への電力供給を絶つために高圧線から分岐されて変圧器に電気的に接続される高圧引下線Cを切断し、充電側の高圧引下線C(電線C)の絶縁被覆を除去する場合を一例に説明する。
【0056】
まず、一対の分割体2,2のそれぞれを互いの溝部201同士が対向するように絶縁ヤットコ5の挟持体51a,51bのそれぞれに取り付ける。そして、図6に示す如く、絶縁ヤットコ5を操作して一対の分割体2,2の溝部201に処理の対象となる高圧引下線Cが沿うように、一対の分割体2,2間に高圧引下線Cを配置する。このとき、ベース200の他端側(第一切込刃21及び第二切込刃22が設けられた側)を高圧引下線Cにおける高圧線側に位置させ、ベース200の一端側を高圧引下線Cにおける変圧器側に位置させる。
【0057】
そして、絶縁ヤットコ5のレバー52を操作して一対の挟持体51a,51bの先端部同士を接近させる。そうすると、図5に示す如く、各挟持体51a,51bに取り付けられた分割体2,2同士が接近し、両分割体2,2の第一切込刃21,21が分割体2,2間に配置した高圧引下線Cの絶縁被覆材Cbに周方向に延びる切り込みを入れるとともに、各分割体2,2の第二切込刃22が絶縁被覆材Cbの異なる位置に軸線方向に延びる切り込みを入れ、また、各分割体2,2の被覆刺衝体23が高圧引下線Cの絶縁被覆材Cbに刺衝することになる。すなわち、本実施形態に係る電線被覆剥取具1は、各分割体2,2の被覆刺衝体23が一方の溝形成部材202の溝部201の長手方向の全長に亘って設けられているため、当該一方の溝形成部材202の存在する領域にある高圧引下線Cの絶縁被覆材Cbに対して被覆刺衝体23が突き刺さった状態になる。
【0058】
本実施形態に係る電線被覆剥取具1は、各分割体2,2に電線切断刃24が設けられているため、上述の如く、一対の分割体2,2が接近すると、高圧引下線Cは第一切込刃21による切り込み位置に対して所定間隔をあけて位置が電線切断刃24によって切断されることになる。
【0059】
そして、各分割体2,2を互いに接近させ続けると、一方の分割体2の分割体本体20に形成された溝部201に対して高圧引下線Cの径方向の一方側半分が嵌り込むとともに他方の分割体2の分割体本体20に形成された溝部201に対して該高圧引下線Cの径方向の他方側半分が嵌り込んで、高圧引下線Cが一対の分割体2,2(分割体本体20)に包囲された状態になる。
【0060】
この状態で、一対の分割体2,2の溝部201に嵌り込んだ高圧引下線Cは、芯線Caを切断することなく、絶縁被覆材Cbに対して両分割体2,2の第一切込刃21が協働して周方向で連続する環状の切り込みを入れるとともに両分割体2,2の第二切込刃22が環状の切り込みと直交する方向に真っ直ぐに延びる二本の切り込みを入れることになる。これにより、高圧引下線Cは、芯線Ca回りの絶縁被覆材Cbが軸線方向で分割されるとともに周方向にも少なく二つに分割され、絶縁被覆材Cbの分割された各領域(切り込みによって区画された複数の領域のそれぞれ)に異なる分割体2,2の被覆刺衝体23が刺衝された状態になる。
【0061】
また、上述の如く、電線切断刃24で高圧引下線Cが切断されることになるが、一方の溝形成部材202の溝形成部202aに第二切込刃22を設けることなく該溝形成部202aの内周面の曲率半径が高圧引下線Cの外径に対応しているため、切断された負荷側の高圧引下線Cは一対の分割体2,2(溝部201の内周面)に挟持された状態になる(図4参照)。これにより、高圧引下線Cが切断されてもその切断位置の上流側及び下流側の何れの高圧引下線Cも分割体2,2に挟持された状態(切断後の脱落が防止された状態)で維持することになる。
【0062】
そして、この状態で、絶縁ヤットコ5を操作して高圧引下線Cを挟み込んだ一対の分割体2,2に対して高圧引下線Cを中心にした回転力を作用させると、切り込みによって周方向に分割された絶縁被覆材Cbのそれぞれに対して分割体2,2に作用する回転力が伝わることになる。すなわち、一対の分割体2,2を接近させると、被覆刺衝体23が高圧引下線Cの絶縁被覆材Cbに刺衝された状態になるため、両分割体2,2に回転トルクを作用させると、その回転トルクが少なくとも被覆刺衝体23を介して絶縁被覆材Cbに伝達される。
【0063】
これにより、絶縁被覆材Cbが芯線Caの外周に密着していても、絶縁被覆材Cbに拗れが生じて該絶縁被覆材Cbが芯線Caの外周から剥離した状態になる。そして、別の絶縁ヤットコ5で負荷側の高圧引下線Cを保持した上で、電線被覆剥取具1を取り付けた絶縁ヤットコ5のレバー52の操作(間接活線操作具5の基端側での操作)を解除する。そうすると、別の絶縁ヤットコ5で負荷側の高圧引下線Cの脱落が防止された上で、一対の挟持体51a,51b(一対の分割体2,2)が離間して高圧引下線Cに対する一対の分割体2,2による包囲が解除されることになる。
【0064】
このように一対に分割体2,2が離間するとき、絶縁被覆材Cbに対して被覆刺衝体23が刺衝した状態で維持し、第二切込刃22による切り込みによって周方向で二つ以上に分断された異なる部分の樹脂製の絶縁被覆材Cbが分割体2,2の離間に対応して変形しつつ被覆刺衝体23に付いて芯線Caから離れることになる。
【0065】
そして、変圧器の交換等の負荷側の作業の完了後又は完了前に負荷側の高圧引下線Cの絶縁被覆材Cbを除去し、負荷側の作業の完了後に充電側の高圧引下線Cと負荷側の高圧引下線Cの芯線Ca同士を筒状の圧縮スリーブを介して接続するとともに該圧縮スリーブ及びその周辺の絶縁処理をすることで一連の作業が完了する。
【0066】
以上のように、本実施形態に係る電線被覆剥取具1によれば、間接活線操作具5の先端に基端部側からの操作で接離可能に設けられた一対の挟持体51a,51bのそれぞれに対して取り付けられる一対の分割体2,2を備え、各分割体2,2は、少なくとも何れか一方の挟持体51a,51bに連結可能な連結部205を有するとともに他方の挟持体51a,51bに取り付けられた相手方の分割体2,2側に向く面上に電線Cの径方向の半分を嵌め込み可能な溝部201が形成された分割体本体20と、曲率半径が電線Cの芯線Caの半径に対応した円弧状刃部210を有し、該円弧状刃部210の曲率中心を溝部201の中心に一致させて該円弧状刃部210を相手方の分割体2,2側に向けた状態で分割体本体20に取り付けられた第一切込刃21と、第一切込刃21に近接した位置から前記溝部201と同方向に延びる直線状刃部を有し、直線状刃部を相手方の分割体2,2側に向けて溝部201を画定する内周面上に取り付けられた第二切込刃22と、溝部201を画定する前記内周面上に突設されて電線Cの絶縁被覆材Cbに刺衝可能な被覆刺衝体23とを備え、一対の分割体2,2を互いに接近させることで、両分割体2,2の第一切込刃21が協働して該分割体2,2間にある電線Cの絶縁被覆材Cbを全周に亘って切り込むとともに第二切込刃22が該電線Cの絶縁被覆材Cbを軸線方向に切り込み、各分割体2,2の前記被覆刺衝体23が第二切込刃22による切り込みによって周方向で二つ以上に分断された異なる部分の絶縁被覆材Cbに刺衝するように構成されているため、間接活線操作具5を用いた間接活線工法による作業であっても作業者の作業負担を大きくすることなく、電線Cの絶縁被覆材Cbを容易且つ確実に剥ぎ取ることができるという優れた効果を奏し得る。
【0067】
また、本実施形態において、各分割体2,2は、溝部201の延びる方向と交差する方向で直線状に延びる切断用刃部240を有し、第一切込刃21に対して前記溝部201の延びる方向の一端側で所定間隔をあけて分割体本体20に取り付けられた電線切断刃24を更に備え、一対の分割体2,2を互いに接近させることで、両分割体2,2の電線切断刃24が協働して該分割体2,2間にある電線Cを切断するように構成されているため、電線Cの切断と絶縁被覆材Cbの除去とを一連の作業で行うことができ、幹線から分岐して変圧器に繋がる高圧引下線Cに対する処理に適したものにできる。
【0068】
また、一対の分割体2,2は、電線切断刃24が溝部201の途中位置に配置され、一対の分割体2,2を互いに接近させることで、両分割体2,2の本体が電線切断刃24よりも溝部201の延びる方向の一端側で電線Cを挟持するように構成されているため、両分割体2,2の電線切断刃24が協働して該分割体2,2間にある電線Cを切断したときに、その切断位置を境にして分断された電線Cを保持することができる。これにより、上述の如く、高圧引下線Cのような高所にある電線Cに対する切断等を行っても切断された電線Cが不用意に垂れ下がることがなく、作業位置よりも下方側での安全性を確保することができる。
【0069】
さらに、本実施形態において、前記被覆刺衝体23は、溝部201と同方向に延びて第二切込刃22の突出方向と異なる方向に突出しているため、一対の分割体2,2で電線Cを包囲した状態で該電線C回りの回転トルクを作用させたときに、その被覆刺衝体23の先端側が絶縁被覆材Cbに突き刺さった(減り込んだ)状態で回転トルクを絶縁被覆材Cbに伝達することができ、絶縁被覆材Cbに拗れを生じさせて該絶縁被覆材Cbを芯線Caから確実に剥離させることができる。
【0070】
また、本実施形態において、二つの溝形成部材202,202を一列にしてベース本体204の凹部203に嵌合し、また、第一切込刃装着溝204aをベース本体204の両端部に設けて何れか一方の第一切込刃装着溝204a(第二切込刃22の取り付けられた溝形成部材202が設けられる側の第一切込刃装着溝204a)に第一切込刃21を装着するようにしているため、二つの溝形成部材202,202を入れ替えるとともに、第一切込刃21を反対側の第一切込刃装着溝204aに装着することで、電線切断刃24を境にした軸線方向の一端側でも電線Cの絶縁被覆材Cbを除去できる状態にすることができる。すなわち、本実施形態に係る電線被覆剥取具1は、二つの溝形成部材202,202の配置と第一切込刃21の配置とを変更することで、右勝手と左勝手とに変更することができる。
【0071】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加え得ることは勿論のことである。
【0072】
例えば、上記実施形態において、被覆刺衝体23をプレートで構成し、該被覆刺衝体23を溝形成部材202(溝形成部202a)の内周面(円弧面)の曲率中心に沿うよう溝形成部202aの全長に亘って設けるようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば、図7及び図8に示す如く、第一切込刃21及び第二切込刃22を上記実施形態と同様に設け、前記被覆刺衝体23は、溝部201を画定する内周面から部分的に突出し、先端部が先細りした鈎状又は鏃状(図においては鏃状)に形成されたものであってもよい。すなわち、被覆刺衝体23は、先端部を先細りに形成するとともにかえりの付いた形状にしてもよい。
【0073】
この場合、ベース200の軸線方向(溝部201の延びる方向)に間隔をあけて複数の被覆刺衝体23を設けることが好ましい。このようにすれば、被覆刺衝体23の先端部が絶縁被覆材Cbに突き刺さることになり、一対の分割体2,2で電線Cを包囲した状態で該電線C回りの回転トルクを作用させたときに、その回転トルクを絶縁被覆材Cbに確実に伝達することができる。これにより、絶縁被覆材Cbに拗れを生じさせて該絶縁被覆材Cbを芯線Caから確実に剥離させることができる。また、上述の如く、被覆刺衝体23の先端部を鈎状又は鏃状にすることで刺衝した絶縁被覆材Cbから抜けにくくなり、一対の挟持体51a,51bを離間させて一対の分割体2,2を互いに離間させたときに、絶縁被覆材Cbが被覆刺衝体23に付いて移動する(芯線Caから離される)ことになる。従って、電線Cの絶縁被覆材Cbの除去(剥ぎ取り)を容易に行うことができる。
【0074】
上記実施形態において、電線切断刃24を各分割体2,2に設け、一対の分割体2,2が接近したとき(密接したとき)に互いの電線切断刃24の切断用刃部240が付き合わされた状態になるように構成したが、これに限定されるものではなく、例えば、図9に示す如く、各分割体2,2に電線切断刃24を設ける場合、両分割体2,2の電線切断刃24は、一対の分割体2,2が接近したとき(密接したとき)に、ハサミのように互いの切断用刃部240が分割体2,2の接離方向と直交する方向で接触しつつ重なり合うように形成しても勿論よい。
【0075】
上記実施形態において、電線Cの絶縁被覆材Cbの除去に合わせて電線Cの切断を行うべく、電線切断刃24を各分割体2,2に設けたが、これに限定されるものではなく、例えば、切断後の電線Cの端部にある絶縁被覆材Cbを除去する場合には、各分割体2,2に電線切断刃24を設けなくてもよい。
【0076】
上記実施形態において、一つのベース本体204の凹部203に対して二つの溝形成部材202,202を一列にした状態で嵌合することを前提に、二つの溝形成部材202,202間に電線切断刃24を配置し、一方の溝形成部材202の溝形成部202aの内周面上に第二切込刃22及び被覆刺衝体23を配置するとともに、ベース本体204の長手方向の他端部のみに第一切込刃21を配置するようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば、二つの溝形成部材202,202間に電線切断刃24を配置し、二つの溝形成部材202,202の溝形成部202aの内周面上に第二切込刃22を配置するとともに、ベース本体204の長手方向の両端部に第一切込刃21を配置するようにしてもよい。このようにすれば、一対の分割体2,2の電線切断刃24で切断された負荷側の電線Cと充電側の電線Cのそれぞれの端部にある絶縁被覆材Cbに対して第一切込刃21及び第二切込刃22による切り込みが入れられるため、電線Cを中心にして電線被覆剥取具1を回転させることで負荷側の電線Cと充電側の電線Cのそれぞれの端部にある絶縁被覆材Cbを拗らせて芯線Caから剥ぎ取ることができる。
【0077】
上記実施形態において、一つのベース本体204の凹部203に対して二つの溝形成部材202,202を一列にした状態で嵌合するようにしたが、これに限定されるものではなく、溝部201を溝形成部材202で形成する場合、例えば、一つのベース本体204の凹部203に対して第二切込刃22及び被覆刺衝体23が溝形成部202aの内周面に取り付けられた一つの溝形成部材202を嵌合させるようにし、ベース本体204の少なくとも何れか一方の端部に第一切込刃21を取り付けるようにしてもよい。また、各分割体2,2の電線切断刃24は、ベース200(ベース本体204)の長手方向の中央部に設けられたものに限定されるものではなく、例えば、ベース本体204の一端部(第一切込刃21の取り付けた端部とは反対側の端部)に取り付けるようにしてもよい。但し、切断された電線Cの落下を確実に防止するには、上記実施形態と同様に、電線切断刃24の両側で電線Cを挟持できるようにすること、すなわち、電線切断刃24をベース200の長手方向の途中位置に配置することが好ましいことは言うまでもない。
【0078】
上記実施形態において、各分割体2,2のベース200をベース本体204と該ベース本体204の凹部203に嵌合する溝形成部材202とで構成し、第二切込刃22及び被覆刺衝体23を溝形成部材202(溝形成部202a)の内周面に固定するようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば、角柱状に形成したベース200そのものに溝部201を形成し、該溝部201の内周面に第二切込刃22及び被覆刺衝体23を直接固定するようにしてもよい。
【0079】
上記実施形態において、一対の挟持体51a,51bの先端同士が接近した状態で両挟持体51a,51bの先端同士が圧接し合う絶縁ヤットコ5に対して電線被覆剥取具1(分割体2)を取り付けることを前提に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、一対の挟持体51a,51bの先端部が互いに接離可能に構成され、該一対の挟持体51a,51bの先端同士が接近した状態で両挟持体51a,51bの先端同士が圧接することなく重なり合うように構成された間接活線操作具(いわゆるクイック)であっても勿論よい。この場合、分割体2,2の連結部205を挟持体51a,51bの形態に合わせて該挟持体51a,51bに連結可能な構成することは言うまでもない。
【符号の説明】
【0080】
1…電線被覆剥取具、2…分割体、5…間接活線操作具(絶縁ヤットコ)、20…分割体本体、21…第一切込刃、22…第二切込刃、23…被覆刺衝体、24…電線切断刃、50…本体部、51a,51b…挟持体、52…レバー、53a,53b…ピン嵌入用孔、200…ベース、201…溝部、202…溝形成部材、202a…溝形成部、202b…片部、203…凹部、203a…第一凹条部、203b,203b…第二凹部、204…ベース本体、204a…第一切込刃装着溝、204b…電線切断刃装着溝、205…連結部、206…ロックピン、206a…大径部、207…挟持体挿入部、208…フレーム、208a…フレームベース、208b…起立壁部、208c…天板部、208d…外装筒、208e…環状プレート、209…コイルバネ、210…円弧状刃部、220…直線状刃部、240…切断用刃部、C…電線(高圧引下線)、Ca…芯線、Cb…絶縁被覆材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の芯線を被覆した絶縁被覆材を取り除くための電線被覆剥取具であって、間接活線操作具の先端に基端部側からの操作で接離可能に設けられた一対の挟持体のそれぞれに対して取り付けられる一対の分割体を備え、各分割体は、少なくとも何れか一方の挟持体に連結可能な連結部を有するとともに他方の挟持体に取り付けられた相手方の分割体側に向く面上に電線の径方向の半分を嵌め込み可能な溝部が形成された分割体本体と、曲率半径が電線の芯線の半径に対応した円弧状刃部を有し、該円弧状刃部の曲率中心を溝部の中心に一致させて該円弧状刃部を相手方の分割体側に向けた状態で分割体本体に取り付けられた第一切込刃と、第一切込刃に近接した位置から前記溝部と同方向に延びる直線状刃部を有し、直線状刃部を相手方の分割体側に向けて溝部を画定する内周面上に取り付けられた第二切込刃と、溝部を画定する前記内周面上に突設されて電線の絶縁被覆材に刺衝可能な被覆刺衝体とを備え、一対の分割体を互いに接近させることで、両分割体の第一切込刃が協働して該分割体間にある電線の絶縁被覆材を全周に亘って切り込むとともに第二切込刃が該電線の絶縁被覆材を軸線方向に切り込み、各分割体の前記被覆刺衝体が第二切込刃による切り込みによって周方向で二つ以上に分断された異なる部分の絶縁被覆材に刺衝するように構成されていることを特徴とする電線被覆剥取具。
【請求項2】
各分割体は、溝部の延びる方向と交差する方向で直線状に延びる切断用刃部を有し、第一切込刃に対して前記溝部の延びる方向の一端側で所定間隔をあけて分割体本体に取り付けられた電線切断刃を更に備え、一対の分割体を互いに接近させることで、両分割体の電線切断刃が協働して該分割体間にある電線を切断するように構成されている請求項1に記載の電線被覆剥取具。
【請求項3】
一対の分割体は、電線切断刃が溝部の途中位置に配置され、一対の分割体を互いに接近させることで、両分割体の分割体本体が電線切断刃よりも溝部の延びる方向の一端側で電線を挟持可能に構成されている請求項1又は2に記載の電線被覆剥取具。
【請求項4】
前記被覆刺衝体は、溝部と同方向に延びて第二切込刃の突出方向と異なる方向に突出している請求項1乃至3の何れか1項に記載の電線被覆剥取具。
【請求項5】
前記被覆刺衝体は、先端部が先細りした鈎状又は鏃状に形成されている請求項1乃至3の何れか1項に記載の電線被覆剥取具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−223025(P2012−223025A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88518(P2011−88518)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】