説明

電線過電流印加実験装置

【課題】電線にその許容電流を越える電流を流して、被覆の発煙等の劣化現象を生じさせて、その挙動を観察できるようにした電線過電流印加実験装置を提供する。
【解決手段】本電線過電流印加実験装置1は、実験用電線2の両端に設けられる1組の接続端子11、12と、各接続端子を介して実験用電線に過電流を供給する電源である蓄電池13と、少なくとも一方の接続端子と蓄電池との間に設けられる開閉器14と、少なくとも一方の接続端子と蓄電池との間に設けられ且つ実験用電線に流れる電流を制限する電流制限抵抗器18と、少なくとも一方の接続端子と蓄電池との間に設けられる保護回路15と、蓄電池に接続される充電回路16と、蓄電池と充電回路との間に設けられ、各接続端子に実験用電線が設けられ且つ開閉器が閉じているときに充電回路が過負荷にならないように電流を制限する保護抵抗器17と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線にその許容電流を越える電流を流して、その絶縁被覆の発煙等の劣化現象を生じさせて、その挙動を観察できるようにした電線過電流印加実験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電線に、その許容電流を越える過電流を流したとき、電線の絶縁被膜が劣化して発煙、熔解及び発火等を起こしたり、電線の導電性線材が赤熱したりする劣化現象が生じる。このため電線に過電流が流れないように回路を設計する必要がある。
また、上記劣化現象を体験するとこれらの問題の理解を早めることができる。しかし、このような劣化現象は、発煙等を起こすために事故を起こさないように十分に保護等をする必要があるが、そのような検討がされていて且つ体験させるための装置は、従来には知られていなかった。また、電線に様々な電流を流して被膜の絶縁性等を試験するための試験装置が知られているが(例えば、特許文献1及び2を参照)、上記のような劣化現象を生じさせた場合の装置及び観察者の保護等の対策は検討されていなかった。
【0003】
【特許文献1】特開2005−25604号公報
【特許文献2】特開平02−186277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、電線にその許容電流を越える電流を流して、被覆の発煙等の劣化現象を生じさせて、その挙動を観察できるようにした電線過電流印加実験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の通りである。
1.実験用電線に過電流を流すことにより該実験用電線の劣化現象を生じさせる電線過電流印加実験装置であって、上記実験用電線の両端に設けられる1組の接続端子と、各該接続端子を介して該実験用電線に過電流を供給する電源である蓄電池と、少なくとも一方の該接続端子と該蓄電池との間に設けられる開閉器と、少なくとも一方の該接続端子と該蓄電池との間に設けられ且つ該実験用電線に流れる電流を制限する電流制限抵抗器と、少なくとも一方の該接続端子と該蓄電池との間に設けられる保護回路と、該蓄電池に接続される充電回路と、該蓄電池と該充電回路との間に設けられ、各該接続端子に該実験用電線が設けられ且つ該開閉器が閉じているときに該充電回路が過負荷にならないように電流を制限する保護抵抗器と、を備えることを特徴とする電線過電流印加実験装置。
2.上記電流制限抵抗器は2以上の抵抗値を選択することができる上記1.記載の電線過電流印加実験装置。
3.上記各接続端子に上記実験用電線を設けた状態で、該各接続端子及び該実験用電線を囲い保護部材を更に備え、該保護部材は、少なくとも一箇所から該実験用電線を目視できる透明材からなる上記1.又は上記2.記載の電線過電流印加実験装置。
4.上記蓄電池は、車両用の鉛蓄電池である上記1.乃至上記3.のいずれかに記載の電線過電流印加実験装置。
【発明の効果】
【0006】
本電線過電流印加実験装置によれば、実験用電線にその許容電流を越える電流を流して各種劣化現象を生じさせる実験を行いやすいように、電源に蓄電池を用いることによって持ち運びができる程度の質量とした。電線に過電流を流した場合、流れる電流が数10A程度となる。このような電流を供給する場合に、商用電源から得るには装置の質量が一人で持ち運びができなくなる程の大型のものとなり、様々な講義の一例として実施し、その後速やかに他の講義を行えることが好ましい教材として用いるには嵩張って、取扱いが不便である。
また、電源として蓄電池を用いると、車両用のバッテリー程度の規模でも数10A程度の電流を容易に供給することができるため取扱いが容易である。しかし、充電が必要となる。更に、充電を行うときに実験用電線が接続されたままであると、充電回路の出力側が実験用電線により略短絡状態となり、故障等の原因になる。また、スイッチで切り替える場合は、充電を行うときに非充電の状態にして充電が行われず、実験時に蓄電池の残量がないため実験が行えない、等の切替えミスが起きる。特に教材として用いる場合は、頻繁に操作しないため装置の操作の習熟が難しく、ミスが特に起きやすい。
本電線過電流印加実験装置は、保護抵抗器により実験用電線が接続されており略短絡状態であっても充電回路に過負荷が掛からないようにすることで、充電及び放電時のスイッチ操作を不要にして誤操作をなくし、本実験装置を扱いやすいものとした。
【0007】
また、電流制限抵抗器を変更可能とする場合は、実験用電線に劣化現象が生じる時間を変えることができ、より観察を行いやすくすることができる。更に、使用する実験用電線の種類に応じて抵抗値を選択することで回路全体に大電流が流れて回路が過負荷になることを防止することができる。
また、保護部材を更に備える場合は、実験用電線の劣化現象を目視で観察可能にしつつ、電線過電流印加実験装置の周囲に被膜等が飛散することを抑制することができる。
更に、蓄電池として車両用の鉛蓄電池を用いる場合は、大電流に強く、且つ取り扱いが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図1〜3を参照しながら本発明の電線過電流印加実験装置を詳しく説明する。
本発明の電線過電流印加実験装置は、実験用電線を接続する1組の接続端子と、蓄電池と、開閉器と、保護回路と、充電回路と、保護抵抗器と、を備えることを特徴とする。また、電流制限抵抗器及び保護部材を更に備えることができる。
【0009】
上記「実験用電線」は、少なくとも導電性線材からなる電線であって、後述する劣化現象を生じさせるために用いられる。このような電線は、実施する電線過電流印加実験に応じて任意に選択することができ、通常使用されることが多い電線を用いることができる。このような例として導電性線材の周面に絶縁被膜が形成されている電源用電線及び信号用電線等を例示することができる。尚、電線過電流印加実験を行った実験用電線は、実験後実験するときに新しいものに交換して使用される。
上記「劣化現象」は、実験用電線に上記「過電流」、つまりその実験用電線の許容電流を越える電流を流した結果起きる現象をいう。この劣化現象の例として、絶縁被膜の軟化、溶解、蒸発、飛散及び発火等、並びに導電性線材の発熱及び赤熱等を挙げることができる。
【0010】
上記「接続端子」は、本電線過電流印加実験装置の回路に実験用電線を接続するために用いられる端子であり、実験用電線の端部の導電性線材をねじ止め等の任意の手段により接続し、且つ実験中の電流に耐えられるものであれば任意に選択することができる。
上記「蓄電池」は、実験用電線に過電流を流すための電源である。このような蓄電池は、上記過電流を流して劣化現象を起こすことができる電流の供給能力を備えていればよく、任意の種類の蓄電池を選択することができる。このような蓄電池の例として、鉛蓄電池を挙げることができる。このうち、12V及び24V等の自動車(乗用車及びトラック等を例示することができる。)に用いられる車両用のバッテリーを好例とすることができる。入手が容易であり、且つ廃棄についても容易であるからである。尚、同等の電流の供給能力を備えているコンデンサがあれば、そのコンデンサを蓄電池として用いてもよい。
上記「開閉器」は、少なくとも一方の接続端子と蓄電池との間に設けられ、過電流を流す本電線過電流印加実験装置の回路の開閉を行うことができるものであればよく、任意に選択することができる。また、後述する保護回路としても機能するブレーカ等を開閉器として用いてもよい。
【0011】
上記「保護回路」は、少なくとも一方の接続端子と蓄電池との間に設けられ、蓄電池と実験用電線とを含む回路に更なる大電流が流れて当該実験装置の実験用電線以外の配線回路が破損することを保護するための回路である。このような保護回路としてヒューズ及びブレーカ等を用いたものを挙げることができる。また、PTC(Positive Temperature Coefficient)素子を用いて電流制限素子を用いることもできる。このPTC素子は後述する電流制限抵抗器としても用いることができる。
上記「充電回路」は、蓄電池に接続され、商用電源等の任意の外部電源を用いて蓄電池を充電するための充電電流を供給する回路であり、任意に選択することができる。この例として、少なくとも変圧器と、整流器とを備えた回路として、交流の外部電源から充電電流を得ることを挙げることができる。また、電圧及び/又は電流を安定化させる安定化回路を備えていてもよいし、過剰の充電電流が流れないように保護回路を設けてもよい。
上記「保護抵抗器」は、蓄電池と充電回路との間に設けられ、電線過電流印加実験状態、つまり接続端子に実験用電線が設けられ且つ開閉器が閉じているときに、充電回路が故障しないように電流を制限するための抵抗である。保護抵抗器の抵抗値は、接続端子間に実験用電線が接続されている状態でも充電回路が故障しない電流値となる値、且つ実験時において過電流値の誤差電流値として許容できる値が好ましい。即ち、充電回路が過負荷にならないように電流を制限する値が好ましい。
【0012】
上記「電流制限抵抗器」は、少なくとも一方の接続端子と蓄電池との間に更に設けられ、且つ実験用電線への実験電流値に制限する抵抗器である。このような抵抗器の種類及び抵抗値は任意に選択することができる。また、電線過電流印加実験装置を回路を構成する開閉器等の素子の抵抗及び配線の抵抗等により実験中の電流を制限することができる場合は、これらを電流制限抵抗器として扱い、電流制限抵抗器として抵抗器等の素子を他に設けなくてもよい。
更に、電流制限抵抗器は2以上の抵抗値を選択することができる。2以上の抵抗値を選択する方法は任意に選択することができ、図3に例示するように複数の電流制限抵抗器182、183をスイッチ181で選択可能にしてもよいし、可変抵抗器を用いてもよい。
上記「保護部材」は、実験用電線の劣化により生じた煙や破片等の飛散物により、観察する人に危害が及ばないようにするものである。このような部材は、必要な強度を備えていればよく、任意に選択することができ、例えば金属、樹脂及びガラス等を挙げることができる。また、上記「透明材」は、該実験用電線を目視できる保護部材であり、透明(半透明も含む)な部分を備えていればよく、任意に選択することができる。この例として、透光性を備える樹脂及びガラス等を挙げることができる。尚、保護部材は、不燃性及び難燃性の材質が好ましいが、これに限られない。
【0013】
尚、蓄電池と実験用電線との間を接続する配線は、実験時に流れる電流を許容できるものが好ましい。
また、蓄電池と実験用電線との間に時限式の切断スイッチを設け、開閉器により通電状態になってから一定時間経過した後に通電を遮断することができる。このような時限式切断スイッチを設ける場合は、電線過電流印加実験後に開閉器を非通電状態にすることを忘れた場合であっても、通電を遮断することができ、蓄電池の過放電をさせること等を防止することができる。
【実施例】
【0014】
以下、図面を用いて実施例により本発明の電線過電流印加実験装置を具体的に説明する。
本実施例の電線過電流印加実験装置1は、図1に示すように実験用電線2を接続するための接続端子11、12、電圧が12Vの車両用鉛蓄電池である蓄電池13、ブレーカである開閉器14、ヒューズを用いた保護回路15、定電圧回路を用いた充電回路16、保護抵抗器17及び電流制限抵抗器18を備える。また、蓄電池13の一方の端子、ブレーカ14の一方の接点、保護回路15、接続端子11、実験用電線2、接続端子12、100mΩの電流制限抵抗器18、ブレーカ14の他方の接点、蓄電池13の他方の端子の順に約100A以上の電流を許容する電線により結線されている。尚、この回路全体の抵抗値は約200mΩである。
また、図2に示すように接続端子11、12は難燃性であるフェノール樹脂板で作製された基台101上に約700mmの間隔を空けて設けられており、端子11、12間に実験用電線2を設けることができる。更に、接続端子11、12は、下方が開放した箱状の難燃性の透光性の板材で作製された保護部材により覆われている。
図2に示すように、接続端子及び実験用電線は、透光性の板材で囲まれており、実験後発煙及び発火等が起きても煙等が飛散しないようになっている。
【0015】
(1)実験時
接続端子11、12に断面積が0.5mmの銅線でポリオレフィン系樹脂被覆の実験用電線2の両端を接続した後、図2に示すように基台101上に保護部材19を被せ、開閉器14を導通状態に切り替えることにより電線過電流印加実験を開始することができる。
開閉器14が導通状態になることで、蓄電池13によって実験用電線2に60A程度の大電流が流れ、ジュール熱により実験用電線2の絶縁被膜の軟化及び溶解等並びに導電性線材の発熱等の劣化現象が、保護部材102越しで観察することができる。また、電流制限抵抗器18により回路に想定以上の大電流が流れて過負荷になることを防止することができる。
尚、想定以上の電流が実験用電線2に流れる場合、保護回路15により遮断して、本電線過電流印加実験装置1の破損を防止することができる。
【0016】
(2)充電時
開閉器14を非導通状態に切り替えた後、充電回路16の電源プラグ161を商用電源のコンセントに接続する。これによって充電回路16により保護抵抗器17を介して蓄電池13に充電電流が流れ、蓄電池13を充電することができる。
また、開閉器14が導通状態のまま、充電回路16の電源プラグ161を商用電源のコンセントに接続した場合であっても、蓄電池13及び実験用電線2を経由して流れる電流は10Ωの保護抵抗器17によって制限されているため、充電回路16が破損するような大電流が流れる恐れがない。
【0017】
尚、保護抵抗器17により充電電流が減少する。充電回路16の出力電圧を13.5V、蓄電池13の電圧を12Vとした場合、保護抵抗器17の端子間電圧は13.5V−12.0V=1.5Vとなり1.5V÷10Ω=0.15Aの充電電流が流れることになる。このため、2秒放電、10分充電のサイクルで考えると、前記放電時に保護抵抗器17により損失する容量は60A×2S÷3600≒0.03AH、前記充電時に保護抵抗器17により損失する容量は0.15A×10M÷60≒0.025AHであり、40AH程度の蓄電池13の充電時間には大きな影響を及ぼすことがない。
【0018】
尚、本発明においては、上記実施例に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。即ち、図3に示すように、本実施例に、複数の電流制限抵抗器182、183を設け、スイッチ181で切り替えるようにすることができる。このような電流制限抵抗器182、183を設けることにより、実験用電線2に劣化現象が生じる時間を変えることができ、電流制限の抵抗値を増やしてより長時間にわたる観察を行いやすくしたり、電流制限の抵抗値を減らして即座に観察できるようにしたりすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本電線過電流印加実験装置は、電線を構成部品として用いる製品の設計者及び製造作業者等に不適切な設計及び製造等を行った場合の電線の劣化現象を実演して体験させる教材として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本電線過電流印加実験装置の基台の部分を説明するための斜視図である。
【図2】本電線過電流印加実験装置の回路図例である。
【図3】他の電線過電流印加実験装置の回路図例である。
【符号の説明】
【0021】
1;電線過電流印加実験装置、101;基台、102;保護部材、11、12;接続端子、13;蓄電池、14;開閉器、15;保護回路、16;充電回路、17;保護抵抗器、18、182、183;電流制限抵抗器、2;実験用電線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実験用電線に過電流を流すことにより該実験用電線の劣化現象を生じさせる電線過電流印加実験装置であって、
上記実験用電線の両端に設けられる1組の接続端子と、各該接続端子を介して該実験用電線に過電流を供給する電源である蓄電池と、少なくとも一方の該接続端子と該蓄電池との間に設けられる開閉器と、少なくとも一方の該接続端子と該蓄電池との間に設けられ且つ該実験用電線に流れる電流を制限する電流制限抵抗器と、少なくとも一方の該接続端子と該蓄電池との間に設けられる保護回路と、該蓄電池に接続される充電回路と、該蓄電池と該充電回路との間に設けられ、各該接続端子に該実験用電線が設けられ且つ該開閉器が閉じているときに該充電回路が過負荷にならないように電流を制限する保護抵抗器と、を備えることを特徴とする電線過電流印加実験装置。
【請求項2】
上記電流制限抵抗器は2以上の抵抗値を選択することができる請求項1記載の電線過電流印加実験装置。
【請求項3】
上記各接続端子に上記実験用電線を設けた状態で、該各接続端子及び該実験用電線を囲い保護部材を更に備え、該保護部材は、少なくとも一箇所から該実験用電線を目視できる透明材からなる請求項1又は2記載の電線過電流印加実験装置。
【請求項4】
上記蓄電池は、車両用の鉛蓄電池である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電線過電流印加実験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−112764(P2010−112764A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283636(P2008−283636)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】