電線
【課題】表皮効果および近接効果を低減し、モーター等のコイル線としても使用できる電線を提供。
【解決手段】中空導体管15bと、表面の全部または一部が絶縁膜により被覆された帯状の導電性線条体12aを幅方向に折り重ねた折り重ね導電性線条体12bとを備え、前記折り重ね導電性線条体12bが、前記中空導体管15bの内部にあり、前記中空導体管15bと一体化された電線10a。
【解決手段】中空導体管15bと、表面の全部または一部が絶縁膜により被覆された帯状の導電性線条体12aを幅方向に折り重ねた折り重ね導電性線条体12bとを備え、前記折り重ね導電性線条体12bが、前記中空導体管15bの内部にあり、前記中空導体管15bと一体化された電線10a。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーター(電動機)や発電機のコイル、あるいは、送電線に好適な電線に関する。
【背景技術】
【0002】
モーターのステーターは、ステーターコアの周囲にステーターコイルを巻回したものである。このコイル線に所定の周波数帯域の電流を流してモーターを駆動する。ここで、コイル線に高周波電流が流れると、電流密度がコイル線の表面で高くなり、コイル線の内部で低くなる表皮効果が生じる。周波数が高くなるほど電流が表面へ集中し、その結果、電線の電流抵抗値が増してコイル線内の電流密度が低下することとなる。また、複数の導体線を撚って1本のコイル線を形成している場合には、コイル線内において近接効果が生じ、導体線内を均一に電流が流れない。
【0003】
文献1には、表皮効果および近接効果を低減、抑制するための技術が記載されている。図11に示すように、文献1の電線100は、中心に配置された一の中空銅電線112aと、その周囲に等角度、等間隔に配置された複数の他の中空銅電線112bを備えている。この電線100は、各銅電線112を中空にすることで、表皮効果による影響を軽減している。また、一の中空銅電線112aの肉厚を他の中空銅電線112bの肉厚よりも薄くすること、および各銅電線112が等角度、等間隔に配置されることによって、近接効果を抑制している。
【0004】
しかし、各銅電線112は中空であるため、低周波電流を高い電流密度で流すことができない。よって、表皮効果及び近接効果を抑制することと、低周波電流を高い電流密度で流すことの両立は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−53143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に着目して為された発明であり、表皮効果および近接効果を抑制し、高周波数又は低周波数のいずれにおいても高い電流密度の電流を流すことのできる電線を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するための手段として、本発明の電線は、中空導体管と、表面の全部または一部が絶縁膜により被覆された帯状の導電性線条体を幅方向に折り重ねた折り重ね導電性線条体とを備え、前記折り重ね導電性線条体が、前記中空導体管の内部にあり、前記中空導体管と一体化されたことを特徴とする。
(2)また、本発明の電線は、中空導体管と、表面の全部または一部が絶縁膜により個別に被覆された複数の導電性線条体とを備え、前記複数の導電性線条体が、前記中空導体管の内部にあり、積層され、前記中空導体管と一体化されたことを特徴とする。
(3)また、本発明の電線は、中空導体管と、複数の導電性線条体が束ねられ、外表面の全部または一部が絶縁膜により被覆された導電性線条体束とを備え、前記導電性線条体束が、前記中空導体管の内部にあり、中空導体管と一体化されたことを特徴とする。
(4)また、本発明の電線は、前記導電性線条体の短径が表皮深さの2倍より小さいことを特徴とする。ここで、導電性線条体の断面が多角形の場合、短径は最小辺の長さとする。
(5)また、本発明の電線は、前記絶縁膜の表面の少なくとも一部に電磁遮蔽層が形成されたことを特徴とする。
(6)また、本発明の電線は、前記中空導体管の内周面に面した導電性線条体の一部が絶縁膜により被覆されていないことを特徴とする。
(7)また、本発明の電線は、前記中空導体管の肉厚は、表皮深さより小さいことを特徴とする。ここで、中空導体管の肉厚が一定でない場合、肉厚は最小肉厚とする。
(8)また、本発明の電線の製造方法は、テープ状導体を準備する工程、表面の全部または一部が絶縁膜により被覆された帯状の導電性線条体を準備する工程、前記帯状の導電性線条体を幅方向に折り重ねる工程、前記折り重ねられた導電性線条体を前記テープ状導体に載せる工程、前記テープ状導体を丸め、長手端面を接合して中空導体管を作製し、前記中空導体管内に前記折り重ねられた導電性線条体を収納する工程、前記中空導体管および前記折り重ねられた導電性線条体を一体化する工程を含むことを特徴とする。
(9)また、本発明の電線の製造方法は、テープ状導体を準備する工程、表面の全部または一部が絶縁膜により個別に被覆された複数の導電性線条体を準備する工程、前記複数の導電性線条体を積層する工程、前記積層された導電性線条体をテープ状導体に載せる工程、前記テープ状導体を丸め、長手端面を接合して中空導体管を作製し、前記中空導体管内に前記積層された導電性線条体を収納する工程、前記中空導体管および前記積層された導電性線条体を一体化する工程を含むことを特徴とする。
(10)また、本発明の電線の製造方法は、テープ状導体を準備する工程、複数の導電性線条体を束ねて導電性線条体束を形成する工程、前記導電性線条体束の外表面の全部または一部に絶縁膜を形成する工程、前記絶縁膜に被覆された導電性線条体束をテープ状導体に載せる工程、前記テープ状導体を丸め、長手端面を接合して中空導体管を作製し、前記中空導体管内に前記絶縁膜に被覆された導電性線条体束を収納する工程、前記中空導体管および前記絶縁膜に被覆された導電性線条体束を一体化する工程を含むことを特徴とする。
(11)また、本発明の電線の製造方法は、前記中空導体管の内周面と接する絶縁膜の一部を剥離する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記(1)の電線によれば、折り重ね導電性線条体が一の導体であるため、電線内において近接効果が生じない。よって、折り重ね導電性線条体内の電流密度を均一にして、高周波数又は低周波数のいずれにおいても高い電流密度で電流を流すことができる。また、導電性線条体を絶縁膜とともに折り重ねることで、折り重なった導電性線条体間には絶縁膜が介在する。よって、折り重ね導電性線条体の表面積を広く確保できるので表皮効果による電流密度の低下を軽減することができる。また、低周波数において電流密度の高い電流を流すこともできる。
【0009】
上記(2)の電線によれば、複数の導電性線条体を積層することにより、導電性線条体の総表面積を広く確保できるので表皮効果による電流密度の低下を軽減することができる。
【0010】
上記(3)の電線によれば、複数の導電性線条体を束ねることにより、電気的に一体の導電性線条体束を構成するため、電線内において近接効果が生じない。よって、導電性線条体内の電流密度を均一にして、高周波数又は低周波数のいずれにおいても高い電流密度で電流を流すことができる。
【0011】
上記(4)の電線によれば、導電性線条体の短径が表皮深さの2倍より薄いため、表皮効果による影響を受けない。よって、導電性線条体内の電流密度を均一にして、電線の電流抵抗値を低減させることができる。
【0012】
上記(5)の電線によれば、絶縁膜の表面に電磁遮蔽層を形成することによって、隣接する電線間に生じる近接効果を抑制することができる。また、電線内に、絶縁膜に被覆された導電性線条体が複数存在する場合には、電線内の導電性線条体間に生じる近接効果を抑制することができる。
【0013】
上記(6)の電線によれば、中空導体管の内周面に面する導電性線条体の表面が絶縁膜により被覆されていないため、導電性線条体の表面が中空導体管の内周面に対して露出し、一体化することで、導電性線条体と中空導体管とが接して導通する。よって、導電性線条体と中空導体管とが電気的に一体の導体となり、電線内において近接効果が生じない。
【0014】
上記(7)の電線によれば、中空導体管の肉厚が表皮深さよりも薄いため、所定の周波数帯域で電流を流す場合において、表皮効果による影響を受けない。よって、中空導体管内の電流密度を均一にして、電線の電流抵抗値を低減させることができる。
【0015】
上記(8)〜(11)の電線の製造方法によれば、中空導体管および導電性線条体の長さに制限がないため、長尺の中空導体管に挿入された導電性線条体を連続的に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)本発明に用いられる導電性線条体の断面図、(b)本発明に用いられる折り重ね導電性線条体の断面図、(c)本発明に用いられる折り重ね導電性線条体と中空導体管の断面図、(d)本発明の電線の断面図、(e)本発明の電線の断面図
【図2】折り重ね導電性線条体を中空導体管に連続的に挿入する製法の説明図
【図3】(a)電磁遮蔽層が形成された電線の断面図、(b)露出部が形成された電線の断面図
【図4】(a)本発明の他の電線の断面図、(b)露出部が形成された電線の断面図
【図5】本発明の電線の表皮効果および近接効果軽減状況を示すグラフ
【図6】(a)本発明の他の電線の断面図、(b)露出部が形成された電線の断面図、(c)電磁遮蔽層が形成された電線の断面図
【図7】(a)本発明に用いられる導電性線条体束と中空導体管の断面図、(b)本発明の他の電線の断面図、(c)電磁遮蔽層が形成された電線の断面図
【図8】(a)本発明に用いられる導体線と中空導体管の断面図、(b)露出部が形成された電線の断面図
【図9】(a)本発明の電線の他の形態の断面図、(b)本発明の電線の他の形態の断面図、(c)本発明の電線の他の形態の断面図、(d)本発明の電線の他の形態の断面図、(e)本発明の電線の他の形態の断面図
【図10】(a)本発明の電線の他の形態の断面図、(b)本発明の電線の他の形態の断面図、(c)本発明の電線の他の形態の断面図、(d)本発明の電線の他の形態の断面図、(e)本発明の電線の他の形態の断面図
【図11】従来の電線の断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に従って、本発明の電線を説明する。ここで、本発明において、短径とは導電性線条体の断面が多角形の場合、最小辺の長さとする。
【0018】
図1(d)に示すように、本発明の電線10aは、中空導体管15b、折り重ね導電性線条体12b、及び絶縁膜13から構成される。
【0019】
中空導体管15bは、折り重ね導電性線条体12bおよび絶縁膜13を収納するものである。また、中空導体管15bは、引抜加工により、正円形状の中空導体管15aを矩形に変形させたものである。図1(c)に示すように、中空導体管15aは、導電性を有する管である。その形状は正円形状に限られず、楕円形状または四角形状であってもよい。その肉厚は例えば0.4mmである。しかし、肉厚はこれに限られず、使用周波数での表皮深さよりも薄ければよい。また、肉厚は場所により異なってもよい。中空導体管15aの材質は代表的には銅である。しかし、材質はこれに限られず、電気伝導度、加工性、コスト、耐久性等を考慮して、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等から適宜選択できる。また、これらを組み合わせて製造されたものであってもよい。
【0020】
折り重ね導電性線条体12bは、帯状の導電性線条体12aを幅方向に折り重ねて形成されたものである。導電性線条体12aは、図1(a)に示すように、導電性を有し、帯状に形成されている。導電性線条体12aの短径(厚み)は、0.6mmである。しかし、短径はこれに限られず、使用周波数での表皮深さの2倍より薄ければよい。導電性線条体12aの材質も、代表的には銅である。しかし、材質は上記中空導体管15aと同様に電気伝導度等を考慮して他の材質を適宜選択できる。図1(b)に示すように、折り重ね導電性線条体12bの断面は略S字状である。
【0021】
絶縁膜13は、図1(a)に示すように、導電性線条体12aを被覆している。膜厚は、例えば30μmである。膜厚は、絶縁が確保されれば、均一でなくても良い。その材質としては、例えばポリエステル、ポリアミドイミドからなる単層又は多層のものが使用できる。また、場所により材質が異なっていても良い。図1(b)に示すように、絶縁膜13は、折り重ね導電性線条体12bとともに折り重ねられている。
【0022】
本発明の電線10aの製法を、図1に従って説明する。先ず図1(a)に示すように、絶縁膜13に被覆された帯状の導電性線条体12aを準備する。次に、帯状の導電性線条体12aを絶縁膜13とともにその幅方向に折り重ねて、図1(b)に示された断面が略S字状の折り重ね導電性線条体12bを形成する。次に、図1(c)に示すように、折り重ね導電性線条体12bを中空導体管15aに挿入する。次に、引抜加工により、中空導体管15aを折り重ね導電性線条体12bの外形に密着するように絞り、中空導体管15a、折り重ね導電性線条体12b、および絶縁膜13を一体化して、図1(d)に示す電線10aを形成する。図1(e)に示すように、中空導体管15bの外周面を絶縁膜13で被覆してもよい。
【0023】
図2は、折り重ね導電性線条体12bを中空導体管15aに連続的に挿入し、折り重ね導電性線条体12bと中空導体管15aを一体化する製造方法の例を示す。工程は図2の右上から左下へ向かって進む。図の右上の方は、折り重ね導電性線条体12bを、予め準備されたテープ状導体21(例えば薄い銅板)に載せる工程を示す。図2の中央は、テープ状導体21を丸めて長手端面を溶接し、中空導体管15aを作成する工程を示す。この工程で中空導体管15aに折り重ね導電性線条体12bを収納する。図2の左下の方は、密着性を高めるため、引抜加工により、折り重ね導電性線条体12bおよび中空導体管15aを一体化する工程を示す。この図の製法によれば、中空導体管15b及び折り重ね導電性線条体12bの長さに制限がないため、長尺の中空導体管15bに挿入された折り重ね導電性線条体12bを連続的に作成することができる。この図において、中空導体管15aは、断面S字状の折り重ね導電性線条体12bの側面側で溶接されているが、この溶接位置は側面側に限定されず、折り重ね導電性線条体12bの上面側または下面側で溶接されてもよい。
【0024】
図1(d)に示すように、一体化された中空導体管15bの断面外形は矩形である。その断面寸法は、例えば高さ2mm×幅3mmである。折り重ね導電性線条体12bは絶縁膜13を介して中空導体管15bと一体化されている。折り重ね導電性線条体12bの折り重ね部17には絶縁膜13が介在している。
【0025】
本発明の電線10aは、例えば、モーターのコイル線として使用される。この際、電線10aには約8kHzの周波数で電流が流される。ここで、周波数が8kHzにおける銅の表皮深さは約0.8mmである。
【0026】
(1)本発明の電線10aは、折り重ね導電性線条体12bが一の導体であるため、電線10a内において近接効果が生じない。よって、折り重ね導電性線条体12b内の電流密度は均一であり、高周波数又は低周波数のいずれにおいても高い電流密度で電流を流すことができる。
(2)また、折り重ね導電性線条体12bの短径(厚み)が0.6mmであり、銅の表皮深さ0.8mmの2倍より薄いため、8kHzの周波数で電流を流す場合において、表皮効果による影響を受けない。よって、折り重ね導電性線条体12b内の電流密度を均一にして、電線10aの電流抵抗値を低減させることができる。
(3)また、帯状の導電性線条体12aを絶縁膜13とともに折り重ねることで、折り重ね部17には絶縁膜13が介在する。よって、折り重ね導電性線条体12bの表面積を広く確保できるので表皮効果による電流密度の低下を軽減することができる。また、電流密度の高い低周波電流を流すこともできる。
(4)また、中空導体管15bの肉厚が0.4mmであり、表皮深さ0.8mmよりも薄いため、8kHzの周波数で電流を流す場合において、表皮効果による影響を受けない。よって、中空導体管15b内の電流密度を均一にして、電線10aの電流抵抗値を低減させることができる。
(5)また、中空導体管15bの断面外形が矩形であるため、コイルにする際、隙間無く巻くことができる。よって、コイルの小型化を図ることができる。
【0027】
図3(a)に示すように、折り重ね導電性線条体12bを被覆する絶縁膜13と中空導体管15bの間に電磁遮蔽層14と他の絶縁膜13が形成された電線10bであってもよい。電磁遮蔽層14は、隣接する電線10b間で生じる電気的な相互干渉を抑制するものである。その材料としては、例えば金属箔テープを用いることができる。電磁遮蔽層14は、折り重ね導電性線条体12bを金属箔テープで被覆することにより形成される。しかし、電磁遮蔽層14の形成方法はこれに限られない。例えば、絶縁膜13に被覆された帯状の導電性線条体12aを金属箔テープで被覆して、導電性線条体12aとともに金属箔テープを折り重ねて電磁遮蔽層14を形成してもよい。他の絶縁膜13は、電磁遮蔽層14と中空導体管15bとの間に介在している。電磁遮蔽層14により、隣接する電線10a間に生じる近接効果を抑制することができる。
【0028】
図3(b)に示すように、中空導体管15bの内周面に面した折り重ね導電性線条体12bの一部が絶縁膜13により被覆されていない電線10cであってもよい。折り重ね導電性線条体12bの一方の面の一端部を被覆する絶縁膜13が、折り重ね導電性線条体12bの長手に沿って剥離されている。絶縁膜13が剥離された部分を露出部18という。露出部18の形成方法は剥離に限られず、露出部18は、絶縁膜13形成前の帯状の導電性線条体12aの一部をテープ等で覆い、絶縁膜13被覆後にテープを剥がして形成されたものであってもよい。折り重ね導電性線条体12bは、露出部18が中空導体管15bの内周面に面するように、略S字状に折り重ねられている。露出部18では、折り重ね導電性線条体12bの上面が中空導体管15bの内周面に対して露出している。そして一体化されると、折り重ね導電性線条体12bと中空導体管15bとが露出部18で接して導通する。これにより、折り重ね導電性線条体12bと中空導体管15bとが電気的に一体の導体となり、折り重ね導電性線条体12bと中空導体管15b間の近接効果を防止することができる。露出部18の形成位置は、断面S字状の折り重ね導電性線条体12bの上面に限られず、側面若しくは下面、または複数個所に点在して形成されてもよい。
【0029】
図4(a)に示すように、折り重ね導電性線条体12cの断面が略W字状の電線20aであってもよい。また、さらに複数回折り重ねられた折り重ね導電性線条体や、略コ字状の折り重ね導電性線条体であってもよい。また、図4(b)に示すように、折り重ね導電性線条体12cの一部に露出部18を形成し、折り重ね導電性線条体12cと中空導体管15bが電気的に一体の導体となる電線20bであってもよい。
【0030】
本発明による表皮効果及び近接効果の軽減状況を図5に示す。横軸は電流の周波数、縦軸は相対的電流密度である。相対的電流密度は直流の場合を100%として表示される。グラフAは、断面寸法が高さ2mm×幅3mmの長方形である従来の銅性コイル線をモデルとした計算値である。グラフBは電線20aをモデルとした計算値である。
【0031】
従来の銅性コイル線の場合、周波数が4kHzより高くなると、相対的電流密度は低下し始める。周波数が6kHzでは相対的電流密度は90%、周波数が80kHzでは相対的電流密度は35%、周波数が1MHzでは相対的電流密度は10%まで減少する。
【0032】
本発明の電線20aの場合、周波数が80kHzまでの相対的電流密度は90%であり、これより周波数が高くなると、相対的電流密度が低下し始める。周波数が1MHzでは相対的電流密度は30%になる。
【0033】
この結果から、本発明の電線20aは、約6kHz以上の周波数において、従来の銅性コイルに比べて表皮効果および近接効果を軽減している。よって電線20aは、高周波電流であっても、高い電流密度で流すことができ有利である。さらに、電線20aは、周波数が80kHzまでは、一定の電流密度を維持することができる。よって、広い周波数帯域で使用可能である。
【0034】
本発明の電線の他の態様としては、図6(a)に示すように、複数枚の帯状の導電性線条体12aが積層された電線30aであってもよい。この電線30aは次のように形成される。先ず、絶縁膜13に被覆された帯状の導電性線条体12aが複数枚準備される。次に、複数枚の導電性線条体12aが積層される。次に、積層された導電性線条体12aが中空導体管15aに挿入される。次に、引抜加工により、積層された導電性線条体12aと中空導体管15aが絶縁膜13を介して一体化される。
【0035】
ここで、電線30aの製造において、積層された導電性線条体束12aを中空導体管15aに連続的に挿入し、導電性線条体束12aと中空導体管15aを一体化する製造方法として、図2に示された上記テープ状導体21を用いた製造方法を用いることができる。
【0036】
一体化された中空導体管15bの外形は矩形となり、その断面寸法は、例えば高さ2mm×幅3mmである。導電性線条体12aの短径(厚み)は0.6mmである。また、導電性線条体12aの積層枚数は3枚に限られず、適宜変更可能である。各導電性線条体12a間には絶縁膜13が介在しており、導電性線条体12aは互いに導通していない。
【0037】
(1)本発明の電線30aを用いれば、導電性線条体12aの短径(厚み)が0.6mmであり、銅の表皮深さ0.8mmの2倍より薄いため、8kHzの周波数で電流を流す場合において、表皮効果による影響を受けない。よって、導電性線条体12a内の電流密度を均一にして、電線30aの電流抵抗値を低減させることができる。
(2)また、複数の導電性線条体12aを積層することにより、導電性線条体12aの総表面積を広く確保できるので表皮効果による電流密度の低下を軽減することができる。
【0038】
図6(b)に示すように、積層された導電性線条体12aの長手の側面に露出部18が形成された電線30bであってもよい。露出部18により、各導電性線条体12aが中空導体管15bを介して互いに導通することで、各導電性線条体12aと中空導体管15bは電気的に一体の導体となる。よって、電線30bは、各導電性線条体12aと中空導体管15b間における近接効果の発生を防止することができる。
【0039】
また、図6(c)に示すように、積層された各導電性線条体12a間に電磁遮蔽層14が形成された電線30cであってもよい。電磁遮蔽層14は、金属箔テープを介して導電性線条体12aを積層することにより形成される。電磁遮蔽層14により、電線30c内の各導電性線条体12a間で生じる近接効果を抑制することができる。
【0040】
本発明の電線のさらに他の態様としては、図7(a)および(b)に示すように、複数の導電性線条体12dを束ねて形成した導電性線条体束19aが、中空導体管15aと一体化された電線40aであってもよい。導電性線条体12dは、代表的には銅からなる導体線(銅線)であり、その直径は0.5mmである。しかし、直径はこれに限られず、使用周波数での表皮深さの2倍より小さければよい。また、銅線に限られず、電気伝導度、加工性、コスト、耐久性等を考慮して、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等から適宜選択できる。また、これらを組み合わせて製造されてもよい。また、導電性線条体12dの断面形状、断面積、材質が全て同一である必要もない。さらに、導電性線条体12dの線数は特に限定されず、適宜選択可能である。導電性線条体束19aの外表面は絶縁膜13に被覆されている。
【0041】
この電線40aは、次のように形成される。先ず、導電性線条体12dが複数本準備される。次に、これら複数の導電性線条体12dを撚って束ねて導電性線条体束19aが形成される。導電性線条体束19aは、複数の導電性線条体12aを撚ることなく、平行に並べて束ねられてもよい。次に、導電性線条体束19aの外表面が絶縁膜13に被覆される。次に、図7(a)に示すように、導電性線条体束19aが中空導体管15aに挿入される。そして、図7(b)に示すように、引抜加工により、導電性線条束19bが絶縁膜13を介して中空導体管15bと一体化した電線40aが形成される。
【0042】
ここで、電線40aの製造方法において、導電性線条体束19aを中空導体管15aに連続的に挿入し、導電性線条体束19aと中空導体管15aを一体化する製造方法として、図2に示された上記テープ状導体21を用いた製造方法を用いることができる。
【0043】
図7(b)に示すように、一体化された中空導体管15bの断面形状は矩形であり、その断面寸法は例えば高さ2mm×幅3mmである。また、図7(b)中の破線は、引抜加工により、多角形に変形された各導電性線条体12eの断面外形を示すものであり、その短径は0.5mm以下となる。導電性線条体12eは互いに導通しているため、導電性線条体束19bは電気的に一体の導体となる。また、導電性線条体束19bと中空導体管15bの間には絶縁膜13が介在している。さらに、各導電性線条体12eの間に入り込んだ絶縁膜13が、導電性線条体束19bの内部に向かって延出している。
【0044】
(1)本発明の電線40aは、導電性線条体束19bが互いに導通する複数の導電性線条体12eから構成されており、電気的に一体の導体であるため、電線40a内での近接効果を防止することができる。よって、導電性線条体束19b内の電流密度を均一にして、電線40aの電流抵抗値を低減させることができる。さらに、低周波電流であっても高い電流密度で流すことができる。
(2)また、導電性線条体12eの短径が0.5mm以下であり、表皮深さ0.8mmの2倍より小さいため、8kHzの周波数で電流を流す場合において、表皮効果による影響を受けない。よって、導電性線条体束19b内の電流密度を均一にして、電線40aの電流抵抗値を低減させることができる。
【0045】
また、本発明の電線は、図7(c)に示すように、導電性線条体束19bを被覆する絶縁膜13と中空導体管15bの間に電磁遮蔽層14と他の絶縁膜13が形成された電線40bであっても良い。電磁遮蔽層14は、導電性線条体束19aの外表面を覆う絶縁膜13を金属箔テープで被覆することで形成される。また、他の絶縁膜13は、電磁遮蔽層14を被覆するものである。電磁遮蔽層14により、隣接する電線40b間に生じる近接効果を抑制することができる。
【0046】
また、図8(a)および(b)に示すように、本発明の電線は、個別に絶縁膜13に被覆された複数の導電性線条体12dが束ねられ、中空導体管15aの内周面に面した絶縁膜13の一部が導電性線条体12dの長手方向に剥離された導電性線条体束19cを備え、導電性線条体束19cと中空導体管15aが、引抜加工により、一体化した電線50であってもよい。一体化された導電性線条体12dは、露出部18により、中空導体管15bを介して互いに導通するため、各導電性線条体12dと中空導体管15bは電気的に一体の導体となる。よって電線50内において近接効果の発生を防止することができる。
【0047】
以上、本発明の電線について説明したが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変形を加えた態様で実施し得るものであり、これらの態様はいずれも本発明の範囲に属するものである。
【0048】
図9および図10は、本発明の電線の他の変形例である。
【0049】
図9(a)および図10(a)に示す電線は、上記電線10aの変形例である。この電線は、絶縁膜13に被覆され、断面が略S字状の折り重ね導電性線条体12bが中空導体管15aに挿入され、引抜加工により、折り重ね導電性線条体12bと中空導体管15aが一体化されたものである。
【0050】
図9(b)および図10(b)に示す電線は、上記電線20aの変形例である。この電線は、絶縁膜13に被覆され、断面が略W字状の折り重ね導電性線条体12cが中空導体管15aに挿入され、引抜加工により、折り重ね導電性線条体12cと中空導体管15aが一体化されたものである。
【0051】
図9(c)および図10(c)に示す電線は、上記電線30aの変形例である。この電線は、絶縁膜13に被覆され、積層された複数の導電性線条体12aが中空導体管15aに挿入され、引抜加工により、積層された導電性線条体12aと中空導体管15aが一体化されたものである。
【0052】
図9(d)および図10(d)に示す電線は、上記電線40aの変形例である。この電線は、複数の導電性線条体12dが束ねられ、その外表面を絶縁膜13に被覆された導電性線条体束19aが中空導体管15aに挿入され、引抜加工により、導電性線条体束19aと中空導体管15aが一体化されたものである。
【0053】
図9(e)および図10(e)に示す電線は、上記電線50の変形例である。この電線は、個別に絶縁膜に被覆された複数の導電性線条体12dが束ねられ、中空導体管15aの内周面に面した各絶縁膜13の一部が導電性線条体12dの長手方向に剥離された導電性線条体束19aが中空導体管15aに挿入され、引抜加工により、導電性線条体束19aと中空導体管15aが一体化されたものである。
【0054】
図9に示す電線は、一体化された中空導体管15cの断面外形が正六角形である。これにより、コイルを形成する際に、隙間無く巻き付けることができる。よって、モーターの小型化を図ることができる。図10に示す電線は、一体化された中空導体管15dの断面外形が円形である。この電線は、送電線のように、巻き付けないで使用する場合に用いることができる。
【0055】
ここで「正六角形」には、角が面取りされた正六角形、角が丸みを帯びた正六角形が含まれる。「円形」には、実質的に差し支えない範囲の歪みをもった円も含まれる。また「矩形」には、角が面取りされた矩形、角が丸みを帯びた矩形が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の電線10は、モーター(電動機)あるいは発電機のコイル、または送電線に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0057】
10a・20a・30a・40a・50...電線、12a・12d...導電性線条体、12b・12c...折り重ね導電性線条体、13...絶縁膜、14...電磁遮蔽層、15a・15b...中空導体管、19a・19b...導電性線条体束
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーター(電動機)や発電機のコイル、あるいは、送電線に好適な電線に関する。
【背景技術】
【0002】
モーターのステーターは、ステーターコアの周囲にステーターコイルを巻回したものである。このコイル線に所定の周波数帯域の電流を流してモーターを駆動する。ここで、コイル線に高周波電流が流れると、電流密度がコイル線の表面で高くなり、コイル線の内部で低くなる表皮効果が生じる。周波数が高くなるほど電流が表面へ集中し、その結果、電線の電流抵抗値が増してコイル線内の電流密度が低下することとなる。また、複数の導体線を撚って1本のコイル線を形成している場合には、コイル線内において近接効果が生じ、導体線内を均一に電流が流れない。
【0003】
文献1には、表皮効果および近接効果を低減、抑制するための技術が記載されている。図11に示すように、文献1の電線100は、中心に配置された一の中空銅電線112aと、その周囲に等角度、等間隔に配置された複数の他の中空銅電線112bを備えている。この電線100は、各銅電線112を中空にすることで、表皮効果による影響を軽減している。また、一の中空銅電線112aの肉厚を他の中空銅電線112bの肉厚よりも薄くすること、および各銅電線112が等角度、等間隔に配置されることによって、近接効果を抑制している。
【0004】
しかし、各銅電線112は中空であるため、低周波電流を高い電流密度で流すことができない。よって、表皮効果及び近接効果を抑制することと、低周波電流を高い電流密度で流すことの両立は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−53143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に着目して為された発明であり、表皮効果および近接効果を抑制し、高周波数又は低周波数のいずれにおいても高い電流密度の電流を流すことのできる電線を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するための手段として、本発明の電線は、中空導体管と、表面の全部または一部が絶縁膜により被覆された帯状の導電性線条体を幅方向に折り重ねた折り重ね導電性線条体とを備え、前記折り重ね導電性線条体が、前記中空導体管の内部にあり、前記中空導体管と一体化されたことを特徴とする。
(2)また、本発明の電線は、中空導体管と、表面の全部または一部が絶縁膜により個別に被覆された複数の導電性線条体とを備え、前記複数の導電性線条体が、前記中空導体管の内部にあり、積層され、前記中空導体管と一体化されたことを特徴とする。
(3)また、本発明の電線は、中空導体管と、複数の導電性線条体が束ねられ、外表面の全部または一部が絶縁膜により被覆された導電性線条体束とを備え、前記導電性線条体束が、前記中空導体管の内部にあり、中空導体管と一体化されたことを特徴とする。
(4)また、本発明の電線は、前記導電性線条体の短径が表皮深さの2倍より小さいことを特徴とする。ここで、導電性線条体の断面が多角形の場合、短径は最小辺の長さとする。
(5)また、本発明の電線は、前記絶縁膜の表面の少なくとも一部に電磁遮蔽層が形成されたことを特徴とする。
(6)また、本発明の電線は、前記中空導体管の内周面に面した導電性線条体の一部が絶縁膜により被覆されていないことを特徴とする。
(7)また、本発明の電線は、前記中空導体管の肉厚は、表皮深さより小さいことを特徴とする。ここで、中空導体管の肉厚が一定でない場合、肉厚は最小肉厚とする。
(8)また、本発明の電線の製造方法は、テープ状導体を準備する工程、表面の全部または一部が絶縁膜により被覆された帯状の導電性線条体を準備する工程、前記帯状の導電性線条体を幅方向に折り重ねる工程、前記折り重ねられた導電性線条体を前記テープ状導体に載せる工程、前記テープ状導体を丸め、長手端面を接合して中空導体管を作製し、前記中空導体管内に前記折り重ねられた導電性線条体を収納する工程、前記中空導体管および前記折り重ねられた導電性線条体を一体化する工程を含むことを特徴とする。
(9)また、本発明の電線の製造方法は、テープ状導体を準備する工程、表面の全部または一部が絶縁膜により個別に被覆された複数の導電性線条体を準備する工程、前記複数の導電性線条体を積層する工程、前記積層された導電性線条体をテープ状導体に載せる工程、前記テープ状導体を丸め、長手端面を接合して中空導体管を作製し、前記中空導体管内に前記積層された導電性線条体を収納する工程、前記中空導体管および前記積層された導電性線条体を一体化する工程を含むことを特徴とする。
(10)また、本発明の電線の製造方法は、テープ状導体を準備する工程、複数の導電性線条体を束ねて導電性線条体束を形成する工程、前記導電性線条体束の外表面の全部または一部に絶縁膜を形成する工程、前記絶縁膜に被覆された導電性線条体束をテープ状導体に載せる工程、前記テープ状導体を丸め、長手端面を接合して中空導体管を作製し、前記中空導体管内に前記絶縁膜に被覆された導電性線条体束を収納する工程、前記中空導体管および前記絶縁膜に被覆された導電性線条体束を一体化する工程を含むことを特徴とする。
(11)また、本発明の電線の製造方法は、前記中空導体管の内周面と接する絶縁膜の一部を剥離する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記(1)の電線によれば、折り重ね導電性線条体が一の導体であるため、電線内において近接効果が生じない。よって、折り重ね導電性線条体内の電流密度を均一にして、高周波数又は低周波数のいずれにおいても高い電流密度で電流を流すことができる。また、導電性線条体を絶縁膜とともに折り重ねることで、折り重なった導電性線条体間には絶縁膜が介在する。よって、折り重ね導電性線条体の表面積を広く確保できるので表皮効果による電流密度の低下を軽減することができる。また、低周波数において電流密度の高い電流を流すこともできる。
【0009】
上記(2)の電線によれば、複数の導電性線条体を積層することにより、導電性線条体の総表面積を広く確保できるので表皮効果による電流密度の低下を軽減することができる。
【0010】
上記(3)の電線によれば、複数の導電性線条体を束ねることにより、電気的に一体の導電性線条体束を構成するため、電線内において近接効果が生じない。よって、導電性線条体内の電流密度を均一にして、高周波数又は低周波数のいずれにおいても高い電流密度で電流を流すことができる。
【0011】
上記(4)の電線によれば、導電性線条体の短径が表皮深さの2倍より薄いため、表皮効果による影響を受けない。よって、導電性線条体内の電流密度を均一にして、電線の電流抵抗値を低減させることができる。
【0012】
上記(5)の電線によれば、絶縁膜の表面に電磁遮蔽層を形成することによって、隣接する電線間に生じる近接効果を抑制することができる。また、電線内に、絶縁膜に被覆された導電性線条体が複数存在する場合には、電線内の導電性線条体間に生じる近接効果を抑制することができる。
【0013】
上記(6)の電線によれば、中空導体管の内周面に面する導電性線条体の表面が絶縁膜により被覆されていないため、導電性線条体の表面が中空導体管の内周面に対して露出し、一体化することで、導電性線条体と中空導体管とが接して導通する。よって、導電性線条体と中空導体管とが電気的に一体の導体となり、電線内において近接効果が生じない。
【0014】
上記(7)の電線によれば、中空導体管の肉厚が表皮深さよりも薄いため、所定の周波数帯域で電流を流す場合において、表皮効果による影響を受けない。よって、中空導体管内の電流密度を均一にして、電線の電流抵抗値を低減させることができる。
【0015】
上記(8)〜(11)の電線の製造方法によれば、中空導体管および導電性線条体の長さに制限がないため、長尺の中空導体管に挿入された導電性線条体を連続的に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)本発明に用いられる導電性線条体の断面図、(b)本発明に用いられる折り重ね導電性線条体の断面図、(c)本発明に用いられる折り重ね導電性線条体と中空導体管の断面図、(d)本発明の電線の断面図、(e)本発明の電線の断面図
【図2】折り重ね導電性線条体を中空導体管に連続的に挿入する製法の説明図
【図3】(a)電磁遮蔽層が形成された電線の断面図、(b)露出部が形成された電線の断面図
【図4】(a)本発明の他の電線の断面図、(b)露出部が形成された電線の断面図
【図5】本発明の電線の表皮効果および近接効果軽減状況を示すグラフ
【図6】(a)本発明の他の電線の断面図、(b)露出部が形成された電線の断面図、(c)電磁遮蔽層が形成された電線の断面図
【図7】(a)本発明に用いられる導電性線条体束と中空導体管の断面図、(b)本発明の他の電線の断面図、(c)電磁遮蔽層が形成された電線の断面図
【図8】(a)本発明に用いられる導体線と中空導体管の断面図、(b)露出部が形成された電線の断面図
【図9】(a)本発明の電線の他の形態の断面図、(b)本発明の電線の他の形態の断面図、(c)本発明の電線の他の形態の断面図、(d)本発明の電線の他の形態の断面図、(e)本発明の電線の他の形態の断面図
【図10】(a)本発明の電線の他の形態の断面図、(b)本発明の電線の他の形態の断面図、(c)本発明の電線の他の形態の断面図、(d)本発明の電線の他の形態の断面図、(e)本発明の電線の他の形態の断面図
【図11】従来の電線の断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に従って、本発明の電線を説明する。ここで、本発明において、短径とは導電性線条体の断面が多角形の場合、最小辺の長さとする。
【0018】
図1(d)に示すように、本発明の電線10aは、中空導体管15b、折り重ね導電性線条体12b、及び絶縁膜13から構成される。
【0019】
中空導体管15bは、折り重ね導電性線条体12bおよび絶縁膜13を収納するものである。また、中空導体管15bは、引抜加工により、正円形状の中空導体管15aを矩形に変形させたものである。図1(c)に示すように、中空導体管15aは、導電性を有する管である。その形状は正円形状に限られず、楕円形状または四角形状であってもよい。その肉厚は例えば0.4mmである。しかし、肉厚はこれに限られず、使用周波数での表皮深さよりも薄ければよい。また、肉厚は場所により異なってもよい。中空導体管15aの材質は代表的には銅である。しかし、材質はこれに限られず、電気伝導度、加工性、コスト、耐久性等を考慮して、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等から適宜選択できる。また、これらを組み合わせて製造されたものであってもよい。
【0020】
折り重ね導電性線条体12bは、帯状の導電性線条体12aを幅方向に折り重ねて形成されたものである。導電性線条体12aは、図1(a)に示すように、導電性を有し、帯状に形成されている。導電性線条体12aの短径(厚み)は、0.6mmである。しかし、短径はこれに限られず、使用周波数での表皮深さの2倍より薄ければよい。導電性線条体12aの材質も、代表的には銅である。しかし、材質は上記中空導体管15aと同様に電気伝導度等を考慮して他の材質を適宜選択できる。図1(b)に示すように、折り重ね導電性線条体12bの断面は略S字状である。
【0021】
絶縁膜13は、図1(a)に示すように、導電性線条体12aを被覆している。膜厚は、例えば30μmである。膜厚は、絶縁が確保されれば、均一でなくても良い。その材質としては、例えばポリエステル、ポリアミドイミドからなる単層又は多層のものが使用できる。また、場所により材質が異なっていても良い。図1(b)に示すように、絶縁膜13は、折り重ね導電性線条体12bとともに折り重ねられている。
【0022】
本発明の電線10aの製法を、図1に従って説明する。先ず図1(a)に示すように、絶縁膜13に被覆された帯状の導電性線条体12aを準備する。次に、帯状の導電性線条体12aを絶縁膜13とともにその幅方向に折り重ねて、図1(b)に示された断面が略S字状の折り重ね導電性線条体12bを形成する。次に、図1(c)に示すように、折り重ね導電性線条体12bを中空導体管15aに挿入する。次に、引抜加工により、中空導体管15aを折り重ね導電性線条体12bの外形に密着するように絞り、中空導体管15a、折り重ね導電性線条体12b、および絶縁膜13を一体化して、図1(d)に示す電線10aを形成する。図1(e)に示すように、中空導体管15bの外周面を絶縁膜13で被覆してもよい。
【0023】
図2は、折り重ね導電性線条体12bを中空導体管15aに連続的に挿入し、折り重ね導電性線条体12bと中空導体管15aを一体化する製造方法の例を示す。工程は図2の右上から左下へ向かって進む。図の右上の方は、折り重ね導電性線条体12bを、予め準備されたテープ状導体21(例えば薄い銅板)に載せる工程を示す。図2の中央は、テープ状導体21を丸めて長手端面を溶接し、中空導体管15aを作成する工程を示す。この工程で中空導体管15aに折り重ね導電性線条体12bを収納する。図2の左下の方は、密着性を高めるため、引抜加工により、折り重ね導電性線条体12bおよび中空導体管15aを一体化する工程を示す。この図の製法によれば、中空導体管15b及び折り重ね導電性線条体12bの長さに制限がないため、長尺の中空導体管15bに挿入された折り重ね導電性線条体12bを連続的に作成することができる。この図において、中空導体管15aは、断面S字状の折り重ね導電性線条体12bの側面側で溶接されているが、この溶接位置は側面側に限定されず、折り重ね導電性線条体12bの上面側または下面側で溶接されてもよい。
【0024】
図1(d)に示すように、一体化された中空導体管15bの断面外形は矩形である。その断面寸法は、例えば高さ2mm×幅3mmである。折り重ね導電性線条体12bは絶縁膜13を介して中空導体管15bと一体化されている。折り重ね導電性線条体12bの折り重ね部17には絶縁膜13が介在している。
【0025】
本発明の電線10aは、例えば、モーターのコイル線として使用される。この際、電線10aには約8kHzの周波数で電流が流される。ここで、周波数が8kHzにおける銅の表皮深さは約0.8mmである。
【0026】
(1)本発明の電線10aは、折り重ね導電性線条体12bが一の導体であるため、電線10a内において近接効果が生じない。よって、折り重ね導電性線条体12b内の電流密度は均一であり、高周波数又は低周波数のいずれにおいても高い電流密度で電流を流すことができる。
(2)また、折り重ね導電性線条体12bの短径(厚み)が0.6mmであり、銅の表皮深さ0.8mmの2倍より薄いため、8kHzの周波数で電流を流す場合において、表皮効果による影響を受けない。よって、折り重ね導電性線条体12b内の電流密度を均一にして、電線10aの電流抵抗値を低減させることができる。
(3)また、帯状の導電性線条体12aを絶縁膜13とともに折り重ねることで、折り重ね部17には絶縁膜13が介在する。よって、折り重ね導電性線条体12bの表面積を広く確保できるので表皮効果による電流密度の低下を軽減することができる。また、電流密度の高い低周波電流を流すこともできる。
(4)また、中空導体管15bの肉厚が0.4mmであり、表皮深さ0.8mmよりも薄いため、8kHzの周波数で電流を流す場合において、表皮効果による影響を受けない。よって、中空導体管15b内の電流密度を均一にして、電線10aの電流抵抗値を低減させることができる。
(5)また、中空導体管15bの断面外形が矩形であるため、コイルにする際、隙間無く巻くことができる。よって、コイルの小型化を図ることができる。
【0027】
図3(a)に示すように、折り重ね導電性線条体12bを被覆する絶縁膜13と中空導体管15bの間に電磁遮蔽層14と他の絶縁膜13が形成された電線10bであってもよい。電磁遮蔽層14は、隣接する電線10b間で生じる電気的な相互干渉を抑制するものである。その材料としては、例えば金属箔テープを用いることができる。電磁遮蔽層14は、折り重ね導電性線条体12bを金属箔テープで被覆することにより形成される。しかし、電磁遮蔽層14の形成方法はこれに限られない。例えば、絶縁膜13に被覆された帯状の導電性線条体12aを金属箔テープで被覆して、導電性線条体12aとともに金属箔テープを折り重ねて電磁遮蔽層14を形成してもよい。他の絶縁膜13は、電磁遮蔽層14と中空導体管15bとの間に介在している。電磁遮蔽層14により、隣接する電線10a間に生じる近接効果を抑制することができる。
【0028】
図3(b)に示すように、中空導体管15bの内周面に面した折り重ね導電性線条体12bの一部が絶縁膜13により被覆されていない電線10cであってもよい。折り重ね導電性線条体12bの一方の面の一端部を被覆する絶縁膜13が、折り重ね導電性線条体12bの長手に沿って剥離されている。絶縁膜13が剥離された部分を露出部18という。露出部18の形成方法は剥離に限られず、露出部18は、絶縁膜13形成前の帯状の導電性線条体12aの一部をテープ等で覆い、絶縁膜13被覆後にテープを剥がして形成されたものであってもよい。折り重ね導電性線条体12bは、露出部18が中空導体管15bの内周面に面するように、略S字状に折り重ねられている。露出部18では、折り重ね導電性線条体12bの上面が中空導体管15bの内周面に対して露出している。そして一体化されると、折り重ね導電性線条体12bと中空導体管15bとが露出部18で接して導通する。これにより、折り重ね導電性線条体12bと中空導体管15bとが電気的に一体の導体となり、折り重ね導電性線条体12bと中空導体管15b間の近接効果を防止することができる。露出部18の形成位置は、断面S字状の折り重ね導電性線条体12bの上面に限られず、側面若しくは下面、または複数個所に点在して形成されてもよい。
【0029】
図4(a)に示すように、折り重ね導電性線条体12cの断面が略W字状の電線20aであってもよい。また、さらに複数回折り重ねられた折り重ね導電性線条体や、略コ字状の折り重ね導電性線条体であってもよい。また、図4(b)に示すように、折り重ね導電性線条体12cの一部に露出部18を形成し、折り重ね導電性線条体12cと中空導体管15bが電気的に一体の導体となる電線20bであってもよい。
【0030】
本発明による表皮効果及び近接効果の軽減状況を図5に示す。横軸は電流の周波数、縦軸は相対的電流密度である。相対的電流密度は直流の場合を100%として表示される。グラフAは、断面寸法が高さ2mm×幅3mmの長方形である従来の銅性コイル線をモデルとした計算値である。グラフBは電線20aをモデルとした計算値である。
【0031】
従来の銅性コイル線の場合、周波数が4kHzより高くなると、相対的電流密度は低下し始める。周波数が6kHzでは相対的電流密度は90%、周波数が80kHzでは相対的電流密度は35%、周波数が1MHzでは相対的電流密度は10%まで減少する。
【0032】
本発明の電線20aの場合、周波数が80kHzまでの相対的電流密度は90%であり、これより周波数が高くなると、相対的電流密度が低下し始める。周波数が1MHzでは相対的電流密度は30%になる。
【0033】
この結果から、本発明の電線20aは、約6kHz以上の周波数において、従来の銅性コイルに比べて表皮効果および近接効果を軽減している。よって電線20aは、高周波電流であっても、高い電流密度で流すことができ有利である。さらに、電線20aは、周波数が80kHzまでは、一定の電流密度を維持することができる。よって、広い周波数帯域で使用可能である。
【0034】
本発明の電線の他の態様としては、図6(a)に示すように、複数枚の帯状の導電性線条体12aが積層された電線30aであってもよい。この電線30aは次のように形成される。先ず、絶縁膜13に被覆された帯状の導電性線条体12aが複数枚準備される。次に、複数枚の導電性線条体12aが積層される。次に、積層された導電性線条体12aが中空導体管15aに挿入される。次に、引抜加工により、積層された導電性線条体12aと中空導体管15aが絶縁膜13を介して一体化される。
【0035】
ここで、電線30aの製造において、積層された導電性線条体束12aを中空導体管15aに連続的に挿入し、導電性線条体束12aと中空導体管15aを一体化する製造方法として、図2に示された上記テープ状導体21を用いた製造方法を用いることができる。
【0036】
一体化された中空導体管15bの外形は矩形となり、その断面寸法は、例えば高さ2mm×幅3mmである。導電性線条体12aの短径(厚み)は0.6mmである。また、導電性線条体12aの積層枚数は3枚に限られず、適宜変更可能である。各導電性線条体12a間には絶縁膜13が介在しており、導電性線条体12aは互いに導通していない。
【0037】
(1)本発明の電線30aを用いれば、導電性線条体12aの短径(厚み)が0.6mmであり、銅の表皮深さ0.8mmの2倍より薄いため、8kHzの周波数で電流を流す場合において、表皮効果による影響を受けない。よって、導電性線条体12a内の電流密度を均一にして、電線30aの電流抵抗値を低減させることができる。
(2)また、複数の導電性線条体12aを積層することにより、導電性線条体12aの総表面積を広く確保できるので表皮効果による電流密度の低下を軽減することができる。
【0038】
図6(b)に示すように、積層された導電性線条体12aの長手の側面に露出部18が形成された電線30bであってもよい。露出部18により、各導電性線条体12aが中空導体管15bを介して互いに導通することで、各導電性線条体12aと中空導体管15bは電気的に一体の導体となる。よって、電線30bは、各導電性線条体12aと中空導体管15b間における近接効果の発生を防止することができる。
【0039】
また、図6(c)に示すように、積層された各導電性線条体12a間に電磁遮蔽層14が形成された電線30cであってもよい。電磁遮蔽層14は、金属箔テープを介して導電性線条体12aを積層することにより形成される。電磁遮蔽層14により、電線30c内の各導電性線条体12a間で生じる近接効果を抑制することができる。
【0040】
本発明の電線のさらに他の態様としては、図7(a)および(b)に示すように、複数の導電性線条体12dを束ねて形成した導電性線条体束19aが、中空導体管15aと一体化された電線40aであってもよい。導電性線条体12dは、代表的には銅からなる導体線(銅線)であり、その直径は0.5mmである。しかし、直径はこれに限られず、使用周波数での表皮深さの2倍より小さければよい。また、銅線に限られず、電気伝導度、加工性、コスト、耐久性等を考慮して、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等から適宜選択できる。また、これらを組み合わせて製造されてもよい。また、導電性線条体12dの断面形状、断面積、材質が全て同一である必要もない。さらに、導電性線条体12dの線数は特に限定されず、適宜選択可能である。導電性線条体束19aの外表面は絶縁膜13に被覆されている。
【0041】
この電線40aは、次のように形成される。先ず、導電性線条体12dが複数本準備される。次に、これら複数の導電性線条体12dを撚って束ねて導電性線条体束19aが形成される。導電性線条体束19aは、複数の導電性線条体12aを撚ることなく、平行に並べて束ねられてもよい。次に、導電性線条体束19aの外表面が絶縁膜13に被覆される。次に、図7(a)に示すように、導電性線条体束19aが中空導体管15aに挿入される。そして、図7(b)に示すように、引抜加工により、導電性線条束19bが絶縁膜13を介して中空導体管15bと一体化した電線40aが形成される。
【0042】
ここで、電線40aの製造方法において、導電性線条体束19aを中空導体管15aに連続的に挿入し、導電性線条体束19aと中空導体管15aを一体化する製造方法として、図2に示された上記テープ状導体21を用いた製造方法を用いることができる。
【0043】
図7(b)に示すように、一体化された中空導体管15bの断面形状は矩形であり、その断面寸法は例えば高さ2mm×幅3mmである。また、図7(b)中の破線は、引抜加工により、多角形に変形された各導電性線条体12eの断面外形を示すものであり、その短径は0.5mm以下となる。導電性線条体12eは互いに導通しているため、導電性線条体束19bは電気的に一体の導体となる。また、導電性線条体束19bと中空導体管15bの間には絶縁膜13が介在している。さらに、各導電性線条体12eの間に入り込んだ絶縁膜13が、導電性線条体束19bの内部に向かって延出している。
【0044】
(1)本発明の電線40aは、導電性線条体束19bが互いに導通する複数の導電性線条体12eから構成されており、電気的に一体の導体であるため、電線40a内での近接効果を防止することができる。よって、導電性線条体束19b内の電流密度を均一にして、電線40aの電流抵抗値を低減させることができる。さらに、低周波電流であっても高い電流密度で流すことができる。
(2)また、導電性線条体12eの短径が0.5mm以下であり、表皮深さ0.8mmの2倍より小さいため、8kHzの周波数で電流を流す場合において、表皮効果による影響を受けない。よって、導電性線条体束19b内の電流密度を均一にして、電線40aの電流抵抗値を低減させることができる。
【0045】
また、本発明の電線は、図7(c)に示すように、導電性線条体束19bを被覆する絶縁膜13と中空導体管15bの間に電磁遮蔽層14と他の絶縁膜13が形成された電線40bであっても良い。電磁遮蔽層14は、導電性線条体束19aの外表面を覆う絶縁膜13を金属箔テープで被覆することで形成される。また、他の絶縁膜13は、電磁遮蔽層14を被覆するものである。電磁遮蔽層14により、隣接する電線40b間に生じる近接効果を抑制することができる。
【0046】
また、図8(a)および(b)に示すように、本発明の電線は、個別に絶縁膜13に被覆された複数の導電性線条体12dが束ねられ、中空導体管15aの内周面に面した絶縁膜13の一部が導電性線条体12dの長手方向に剥離された導電性線条体束19cを備え、導電性線条体束19cと中空導体管15aが、引抜加工により、一体化した電線50であってもよい。一体化された導電性線条体12dは、露出部18により、中空導体管15bを介して互いに導通するため、各導電性線条体12dと中空導体管15bは電気的に一体の導体となる。よって電線50内において近接効果の発生を防止することができる。
【0047】
以上、本発明の電線について説明したが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変形を加えた態様で実施し得るものであり、これらの態様はいずれも本発明の範囲に属するものである。
【0048】
図9および図10は、本発明の電線の他の変形例である。
【0049】
図9(a)および図10(a)に示す電線は、上記電線10aの変形例である。この電線は、絶縁膜13に被覆され、断面が略S字状の折り重ね導電性線条体12bが中空導体管15aに挿入され、引抜加工により、折り重ね導電性線条体12bと中空導体管15aが一体化されたものである。
【0050】
図9(b)および図10(b)に示す電線は、上記電線20aの変形例である。この電線は、絶縁膜13に被覆され、断面が略W字状の折り重ね導電性線条体12cが中空導体管15aに挿入され、引抜加工により、折り重ね導電性線条体12cと中空導体管15aが一体化されたものである。
【0051】
図9(c)および図10(c)に示す電線は、上記電線30aの変形例である。この電線は、絶縁膜13に被覆され、積層された複数の導電性線条体12aが中空導体管15aに挿入され、引抜加工により、積層された導電性線条体12aと中空導体管15aが一体化されたものである。
【0052】
図9(d)および図10(d)に示す電線は、上記電線40aの変形例である。この電線は、複数の導電性線条体12dが束ねられ、その外表面を絶縁膜13に被覆された導電性線条体束19aが中空導体管15aに挿入され、引抜加工により、導電性線条体束19aと中空導体管15aが一体化されたものである。
【0053】
図9(e)および図10(e)に示す電線は、上記電線50の変形例である。この電線は、個別に絶縁膜に被覆された複数の導電性線条体12dが束ねられ、中空導体管15aの内周面に面した各絶縁膜13の一部が導電性線条体12dの長手方向に剥離された導電性線条体束19aが中空導体管15aに挿入され、引抜加工により、導電性線条体束19aと中空導体管15aが一体化されたものである。
【0054】
図9に示す電線は、一体化された中空導体管15cの断面外形が正六角形である。これにより、コイルを形成する際に、隙間無く巻き付けることができる。よって、モーターの小型化を図ることができる。図10に示す電線は、一体化された中空導体管15dの断面外形が円形である。この電線は、送電線のように、巻き付けないで使用する場合に用いることができる。
【0055】
ここで「正六角形」には、角が面取りされた正六角形、角が丸みを帯びた正六角形が含まれる。「円形」には、実質的に差し支えない範囲の歪みをもった円も含まれる。また「矩形」には、角が面取りされた矩形、角が丸みを帯びた矩形が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の電線10は、モーター(電動機)あるいは発電機のコイル、または送電線に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0057】
10a・20a・30a・40a・50...電線、12a・12d...導電性線条体、12b・12c...折り重ね導電性線条体、13...絶縁膜、14...電磁遮蔽層、15a・15b...中空導体管、19a・19b...導電性線条体束
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空導体管と、
表面の全部または一部が絶縁膜により被覆された帯状の導電性線条体を幅方向に折り重ねた折り重ね導電性線条体と、
を備え、
前記折り重ね導電性線条体が、前記中空導体管の内部にあり、前記中空導体管と一体化された電線。
【請求項2】
中空導体管と、
表面の全部または一部が絶縁膜により個別に被覆された複数の導電性線条体と、
を備え、
前記複数の導電性線条体が、前記中空導体管の内部にあり、積層され、前記中空導体管と一体化された電線。
【請求項3】
中空導体管と、
複数の導電性線条体が束ねられ、外表面の全部または一部が絶縁膜により被覆された導電性線条体束と、
を備え、
前記導電性線条体束が、前記中空導体管の内部にあり、中空導体管と一体化された電線。
【請求項4】
前記導電性線条体の短径が表皮深さの2倍より小さいことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載された電線。
【請求項5】
前記絶縁膜の表面の少なくとも一部に電磁遮蔽層が形成されたことを特徴とする請求項1〜請求項4に記載の電線。
【請求項6】
前記中空導体管の内周面に面した導電性線条体の一部が絶縁膜により被覆されていないことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電線。
【請求項7】
前記中空導体管の肉厚は、表皮深さより小さいことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載された電線。
【請求項8】
テープ状導体を準備する工程、
表面の全部または一部が絶縁膜により被覆された帯状の導電性線条体を準備する工程、
前記帯状の導電性線条体を幅方向に折り重ねる工程、
前記折り重ねられた導電性線条体を前記テープ状導体に載せる工程、
前記テープ状導体を丸め、長手端面を接合して中空導体管を作製し、前記中空導体管内に前記導電性線条体を収納する工程、
前記中空導体管および前記導電性線条体を一体化する工程を含む、電線の製造方法。
【請求項9】
テープ状導体を準備する工程、
表面の全部または一部が絶縁膜により個別に被覆された複数の導電性線条体を準備する工程、
前記複数の導電性線条体を積層する工程、
前記積層された導電性線条体をテープ状導体に載せる工程、
前記テープ状導体を丸め、長手端面を接合して中空導体管を作製し、前記中空導体管内に前記積層された導電性線条体を収納する工程、
前記中空導体管および前記積層された導電性線条体を一体化する工程を含む、電線の製造方法。
【請求項10】
テープ状導体を準備する工程、
複数の導電性線条体を束ねて導電性線条体束を形成する工程、
前記導電性線条体束の外表面の全部または一部に絶縁膜を形成する工程、
前記絶縁膜に被覆された導電性線条体束をテープ状導体に載せる工程、
前記テープ状導体を丸め、長手端面を接合して中空導体管を作製し、前記中空導体管内に前記絶縁膜に被覆された導電性線条体束を収納する工程、
前記中空導体管および前記絶縁膜に被覆された導電性線条体束を一体化する工程を含む、電線の製造方法。
【請求項11】
前記中空導体管の内周面と接する絶縁膜の一部を剥離する工程を含む、請求項8〜請求項10のいずれかに記載された電線の製造方法。
【請求項1】
中空導体管と、
表面の全部または一部が絶縁膜により被覆された帯状の導電性線条体を幅方向に折り重ねた折り重ね導電性線条体と、
を備え、
前記折り重ね導電性線条体が、前記中空導体管の内部にあり、前記中空導体管と一体化された電線。
【請求項2】
中空導体管と、
表面の全部または一部が絶縁膜により個別に被覆された複数の導電性線条体と、
を備え、
前記複数の導電性線条体が、前記中空導体管の内部にあり、積層され、前記中空導体管と一体化された電線。
【請求項3】
中空導体管と、
複数の導電性線条体が束ねられ、外表面の全部または一部が絶縁膜により被覆された導電性線条体束と、
を備え、
前記導電性線条体束が、前記中空導体管の内部にあり、中空導体管と一体化された電線。
【請求項4】
前記導電性線条体の短径が表皮深さの2倍より小さいことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載された電線。
【請求項5】
前記絶縁膜の表面の少なくとも一部に電磁遮蔽層が形成されたことを特徴とする請求項1〜請求項4に記載の電線。
【請求項6】
前記中空導体管の内周面に面した導電性線条体の一部が絶縁膜により被覆されていないことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電線。
【請求項7】
前記中空導体管の肉厚は、表皮深さより小さいことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載された電線。
【請求項8】
テープ状導体を準備する工程、
表面の全部または一部が絶縁膜により被覆された帯状の導電性線条体を準備する工程、
前記帯状の導電性線条体を幅方向に折り重ねる工程、
前記折り重ねられた導電性線条体を前記テープ状導体に載せる工程、
前記テープ状導体を丸め、長手端面を接合して中空導体管を作製し、前記中空導体管内に前記導電性線条体を収納する工程、
前記中空導体管および前記導電性線条体を一体化する工程を含む、電線の製造方法。
【請求項9】
テープ状導体を準備する工程、
表面の全部または一部が絶縁膜により個別に被覆された複数の導電性線条体を準備する工程、
前記複数の導電性線条体を積層する工程、
前記積層された導電性線条体をテープ状導体に載せる工程、
前記テープ状導体を丸め、長手端面を接合して中空導体管を作製し、前記中空導体管内に前記積層された導電性線条体を収納する工程、
前記中空導体管および前記積層された導電性線条体を一体化する工程を含む、電線の製造方法。
【請求項10】
テープ状導体を準備する工程、
複数の導電性線条体を束ねて導電性線条体束を形成する工程、
前記導電性線条体束の外表面の全部または一部に絶縁膜を形成する工程、
前記絶縁膜に被覆された導電性線条体束をテープ状導体に載せる工程、
前記テープ状導体を丸め、長手端面を接合して中空導体管を作製し、前記中空導体管内に前記絶縁膜に被覆された導電性線条体束を収納する工程、
前記中空導体管および前記絶縁膜に被覆された導電性線条体束を一体化する工程を含む、電線の製造方法。
【請求項11】
前記中空導体管の内周面と接する絶縁膜の一部を剥離する工程を含む、請求項8〜請求項10のいずれかに記載された電線の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−252798(P2012−252798A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122428(P2011−122428)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(390024464)協和電線株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(390024464)協和電線株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
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