説明

電荷輸送材料、電荷輸送膜用組成物、有機電界発光素子、有機ELディスプレイ及び有機EL照明

【課題】電気化学的に安定であり、溶剤に可溶な電荷輸送材料を提供すること
【解決手段】下記一般式(1)で表されるモノアミン化合物、及び該モノアミン化合物を含有することを特徴とする電荷輸送材料。


(一般式(1)中、R1〜R3は、各々独立して、o−位及び/又はm−位に置換基を有していてもよいフェニル基を示し、該置換基同士が結合して環構造を形成してもよい。
尚、R1〜R3は、各々互いに異なる基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱的及び電気化学的に安定で種々の溶剤に可溶なモノアミン化合物、該モノアミン化合物からなる電荷輸送材料、該電荷輸送材料を含む電荷輸送膜用組成物、該電荷輸送材料を含有する層を有し、且つ発光効率及び駆動安定性が高い有機電界発光素子、並びに該素子を備えた有機ELディスプレイ及び有機EL照明に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機薄膜を用いた電界発光素子(有機電界発光素子)の開発が行われている。有機薄膜の形成方法としては、真空蒸着法と湿式製膜法が挙げられる。このうち、湿式製膜法は真空プロセスが要らず、大面積化が容易で、1つの層(塗布液)に様々な機能をもった複数の材料を混合して入れることが容易である等の利点がある。
【0003】
湿式製膜法によって形成された発光層の材料としては、ポリ(p−フェニレンビニレン)誘導体やポリフルオレン誘導体等の高分子材料が主に用いられているが、高分子材料には以下の様な問題がある。
・高分子材料は重合度や分子量分布を制御することが困難である。
・連続駆動時に末端残基による劣化が起こる。
・材料自体の高純度化が困難で、不純物を含む。
【0004】
上記問題のために、湿式製膜法による有機電界発光素子は、真空蒸着法による有機電界発光素子に比べて駆動安定性に劣り、一部を除いて実用レベルに至っていないのが現状である。
【0005】
以上の様な問題を解決する試みとして、特許文献1には高分子化合物ではなく、複数の低分子材料(電荷輸送材料、発光材料)を混合して湿式製膜法により形成した有機薄膜を用いた有機電界発光素子が記載されており、正孔輸送性の電荷輸送材料としては、以下に示す、化合物H−1、H−2が用いられている。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
又、湿式製膜法により形成された複数の低分子材料からなる有機薄膜を用いた有機電界発光素子において、非特許文献1、特許文献2では、有機電界発光素子の発光効率を高めるために、燐光発光を利用した素子が記載され、電荷輸送材料には、以下に示す化合物H−3、H−4、H−5が用いられている。
【0009】
【化3】

【0010】
【化4】

【0011】
【化5】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−273859号公報
【特許文献2】特開2007−110093号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics Vol.44, No.1B, 2005, pp.626-629
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記化合物H−1、H−2、H−3、H−4及びH−5は溶剤に対する溶解性が必ずしも十分でない。このため、クロロホルム等のハロゲン系溶剤を塗布溶剤に用いる必要があるが、ハロゲン系溶剤は環境負荷が大きい。更に、ハロゲン系溶剤中に含まれる不純物により材料を劣化させる可能性があり、またハロゲン系溶剤を用いた湿式製膜法による有機電界発光素子は駆動安定性が十分でないと考えられる。
【0015】
又、上記化合物H−1、H−2、H−3及びH−4はガラス転移温度が低いため、特許文献1及び非特許文献1に開示されている有機電界発光素子は耐熱性につき改良の余地があると考えられる。さらに、上記化合物H−1、H−2、H−3、H−4及びH−5は非常に結晶化しやすく、湿式製膜法で均一な非晶質膜を得ることが容易ではない。
【0016】
さらにまた、発光材料として燐光発光材料を用いる場合、化合物H−1は三重項励起準位が低いため、化合物H−1と燐光発光材料を含む組成物を用いて形成された有機電界発光素子は発光効率が低いと考えられる。
【0017】
従って、本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであり、その課題は熱的及び電気化学的に安定であり、溶剤に可溶な電荷輸送材料及びそれを含有する電荷輸送膜用組成物を提供することにある。本発明はまた、高い発光効率、高い駆動安定性を有する有機電界発光素子、並びにそれを具備する有機ELディスプレイ及び有機EL照明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは鋭意検討した結果、下記一般式(1)で表されるモノアミン化合物が、溶剤に対する溶解性に優れ、高い非晶質性を有するため、湿式製膜法による薄膜形成が可能であり、しかも優れた電荷輸送性及び電気的酸化還元耐久性を有し、高い三重項励起準位を有するため、有機電界発光素子に用いると高い発光効率かつ高い駆動安定性を発現できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0019】
即ち、本発明の要旨は、下記(1)〜(11)に存する。
(1)下記一般式(1)で表されるモノアミン化合物。
【0020】
【化6】

【0021】
(一般式(1)中、R1〜R3は、各々独立して、o−位及び/又はm−位に置換基を有していてもよいフェニル基を示し、該置換基同士が結合して環構造を形成してもよい。
尚、R1〜R3は、各々互いに異なる基である。)
(2)前記モノアミン化合物が、更に下記構造式(2−1)で表される部分構造を有する前記(1)に記載のモノアミン化合物。
【0022】
【化7】

【0023】
(但し、構造式(2−1)中、フェニル基は更に置換基を有していてもよく、該置換基同士が結合して環構造を形成していてもよい。)
(3)前記一般式(1)において、R1〜R3は、各々独立して、m−位に置換基を有していてもよいフェニル基である前記(1)又は(2)に記載のモノアミン化合物。
(4)R1〜R3の少なくとも一つは、下記一般式(2−2)で表される部分構造を有する基である前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のモノアミン化合物。
【0024】
【化8】

【0025】
(一般式(2−2)中におけるXは、−NR4−(R4は、結合手又は置換基を有していてもよいアリール基を示す。)、−O−、及び−S−のいずれかを示す。又、一般式(2−2)中のXを含む縮合環は、更に置換基を有していてもよく、該置換基同士が結合して環構造を形成していてもよい。)
(5)前記一般式(2−2)で表される部分構造が下記構造式(3)で表される部分構造である前記(4)に記載のモノアミン化合物。
【0026】
【化9】

【0027】
(上記構造式(3)中において、N−カルバゾール環は、更に置換基を有していてもよく、該置換基同士が結合して環構造を形成していてもよい。)
(6)R1〜R3の少なくとも一つは、下記一般式(11)で表される基である前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のモノアミン化合物。
【0028】
【化10】

【0029】
(一般式(11)中、Qは、直接結合又は任意の連結基を表す。Yは、一般式(2−2)におけるXと同義である。又、一般式(11)中のYを含む縮合環は、置換基を有していてもよく、該置換基同士が結合して環構造を形成してもよい。)
(7)25℃、大気圧下におけるm−キシレンに対する溶解度が、5質量%以上である前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載のモノアミン化合物。
(8)前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載のモノアミン化合物からなる電荷輸送材料。
(9)前記(8)に記載の電荷輸送材料と溶剤とを含有することを特徴とする電荷輸送膜用組成物。
(10)基板上に、陽極、陰極、及びこれら両極間に設けられた発光層を有する有機電界発光素子において、前記(8)に記載の電荷輸送材料を含有する発光層を有することを特徴とする有機電界発光素子。
(11)前記(10)に記載の有機電界発光素子を具備することを特徴とする有機EL表示装置。
(12)前記(10)に記載の有機電界発光素子を具備することを特徴とする有機EL照明。
【発明の効果】
【0030】
本発明のモノアミン化合物、該モノアミン化合物からなる電荷輸送材料、及び該電荷輸送材料を含む電荷輸送膜用組成物によれば、熱的及び電気化学的に安定であり、高い三重項励起準位を有する材料を含む有機薄膜を湿式製膜法によって容易に形成することが可能であり、有機電界発光素子の大面積化が容易となる。又、本発明の電荷輸送材料及び該電荷輸送材料を含む電荷輸送膜用組成物を用いた有機電界発光素子によれば、高輝度・高効率で発光させることが可能となり、且つ素子の安定性、特に駆動安定性が向上する。
【0031】
尚、本発明の電荷輸送材料は、優れた成膜性、電荷輸送性、発光特性、耐熱性から、真空蒸着法による製膜にも、湿式製膜法による製膜にも適用可能である。
【0032】
又、本発明の電荷輸送材料及び該電荷輸送材料を含む電荷輸送膜用組成物は、優れた成膜性、電荷輸送性、発光特性、耐熱性から、素子の層構成に合わせて、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子注入層、電子輸送層などの有機層の形成にも適用可能である。
【0033】
従って、本発明の電荷輸送材料及び該電荷輸送材料を含む電荷輸送膜用組成物を用いた有機電界発光素子は、フラットパネル・ディスプレイ(例えば、OA コンピュータ用や壁掛けテレビ)、車載表示素子、携帯電話表示や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯への応用が考えられ、その技術的価値は大きいものである。
【0034】
又、本発明の電荷輸送材料及び該電荷輸送材料を含む電荷輸送膜用組成物は、本質的に優れた酸化還元安定性を有することから、有機電界発光素子に限らず、その他、電子写真感光体等にも有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定されない。
【0037】
<モノアミン化合物>
本発明のモノアミン化合物(以下、「化合物(1)」とも称する。)は、下記一般式(1)で表されるものである。
【0038】
【化11】

【0039】
(一般式(1)中、R1〜R3は、各々独立して、o−位及び/又はm−位に置換基を有していてもよいフェニル基を表し、該置換基同士が結合して環構造を形成してもよい。
尚、R1〜R3は、各々互いに異なる基である。)
【0040】
[1.構造上の特徴]
化合物(1)は、トリフェニルアミン構造を有するため、優れた電荷(正孔)輸送能を有し、三重項励起準位が高く、高い耐熱性を有する。
又、化合物(1)は、R1〜R3、即ちトリフェニルアミン構造が持つ3つの置換基がそれぞれ異なり、分子内に対称軸を有さないため、非晶質性が極めて高く、種々の有機溶剤に対する溶解性に優れ、容易には結晶化しない非晶質な有機薄膜を形成することが可能である。
更に、化合物(1)は、R1〜R3が各々独立して、o−位及び/又はm−位に置換基を有していてもよいフェニル基であること(以下、「非p−位置換の部分構造」と称することがある。)により、非晶質性が更に向上し、より優れた溶解性を有する。しかも、この非p−位置換の部分構造は、R1〜R3がp−位置換基を有するフェニル基に比べ、あまり電子を受け取らないという性質を持っているため、該部分構造を有する化合物(1)が壊れ難く(即ち電気化学的に安定であり)、有機電界発光素子の駆動寿命の低下を防止するのにも繋がると考えられる。尚、溶解性の更なる向上の点から、R1〜R3は、各々独立して、m−位に置換基を有していてもよいフェニル基であることが好ましい。
【0041】
[2.分子量の範囲]
化合物(1)の分子量は、通常5000以下、好ましくは4000以下、より好ましくは3000以下であり、また通常200以上、好ましくは300以上、より好ましくは400以上である。
上記範囲内であると、精製が容易で、ガラス転移温度及び、融点、気化温度などが高いため、耐熱性が良好である。
【0042】
[3.物性]
(1)ガラス転移温度
化合物(1)は、通常50℃以上のガラス転移温度を有するが、耐熱性の観点から、ガラス転移温度は80℃以上であることが好ましく、110℃以上であることが更に好ましい。
【0043】
(2)気化温度
化合物(1)は、通常300℃以上、800℃以下の気化温度を有する。なお、本発明の電荷輸送材料は、ガラス転移温度と気化温度の間に結晶化温度を有さないことが好ましい。
【0044】
(3)溶解度
化合物(1)としては、25℃、大気圧条件下で、m−キシレンに対して5質量%以上溶解するものであることが、溶剤溶解性を確保して、湿式製膜法による成膜性を得るために好ましい。この溶解度は好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。この溶解度の上限については特に定めないが通常50質量%以下である。
【0045】
[4]対称軸
下記一般式(I−1)〜(I−3)で表される化合物の如く、トリフェニルアミンの置換基のうち2以上が同一である場合、分子内に対称軸を有する。
【0046】
【化12】

【0047】
【化13】

【0048】
【化14】

【0049】
(一般式(I−1)〜(I−3)中、R11、R12、R21、R31、R32、R33は、各々独立して、置換基を有していてもよいフェニル基を示し、該置換基同士が結合して環を形成していてもよい。)
【0050】
これに対し、化合物(1)は、R1〜R3が全て異なるため、分子内に対称軸を有さない。このため、本発明の電荷輸送材料は、非晶質性が高く、溶剤に対する溶解性が高められる。
【0051】
[5.R1〜R3
式(1)中、R1〜R3は、各々独立して、o−位及び/又はm−位に置換基を有していてもよいフェニル基を示し、該置換基同士が結合して環構造を形成していてもよいが、R1、R2及びR3が互いに同一の基になることはない。
1〜R3のフェニル基が有する置換基として具体的には、次のようなものが挙げられる。
置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは、炭素数1〜8の直鎖又は分岐のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアルケニル基(好ましくは、炭素数2〜9のアルケニル基であり、例えばビニル基、アリル基、1−ブテニル基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアルキニル基(好ましくは、炭素数2〜9のアルキニル基であり、例えばエチニル基、プロパルギル基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアラルキル基(好ましくは、炭素数7〜15のアラルキル基であり、例えばベンジル基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアミノ基(好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基を1つ以上有するアルキルアミノ基であり、例えばメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよい炭素数6〜12の芳香族炭化水素基を有するアリールアミノ基(例えばフェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよい、5又は6員環の芳香族複素環を有するヘテロアリールアミノ基(例えばピリジルアミノ基、チエニルアミノ基、ジチエニルアミノ基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよい、炭素数2〜10のアシル基を有するアシルアミノ基(例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアルコキシ基(好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルコキシ基であり、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアリールオキシ基(好ましくは、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基を有するものであり、例えばフェニルオキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよいヘテロアリールオキシ基(好ましくは、5又は6員環の芳香族複素環基を有するものであり、例えばピリジルオキシ基、チエニルオキシ基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアシル基(好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアシル基であり、例えばホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基(好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基であり、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基(好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数7〜13のアリールオキシカルボニル基であり、例えばフェノキシカルボニル基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基(好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルキルカルボニルオキシ基であり、例えばアセトキシ基などが挙げられる。)、
ハロゲン原子(好ましくは、フッ素原子又は塩素原子が挙げられる。)、カルボキシ基、シアノ基、水酸基、メルカプト基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基(好ましくは、炭素数1〜8までのアルキルチオ基であり、例えばメチルチオ基、エチルチオ基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよいアリールチオ基(好ましくは、炭素数6〜12のアリールチオ基であり、例えばフェニルチオ基、1−ナフチルチオ基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよいスルホニル基(例えばメシル基、トシル基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよいシリル基(例えばトリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよいボリル基(例えばジメシチルボリル基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよいホスフィノ基(例えばジフェニルホスフィノ基などが挙げられる。)、
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基(例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環などの、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環由来の1価の基が挙げられる。)、
置換基を有していてもよい芳香族複素環基(例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環などの、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基が挙げられる。)。
【0052】
上記置換基が更に置換基を有する場合、その置換基としては、上記例示置換基が挙げられる。
【0053】
電気化学的耐久性を向上させる観点及び耐熱性を向上させる観点からは、R1〜R3のフェニル基の置換基としては、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、或いは置換基を有していてもよい芳香族複素環基等が好ましく、より好ましくは置換基を有していてもよいフェニル基、もしくは前記5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基等であり、更に好ましくは無置換又は1もしくは2置換のフェニル基、又は無置換のカルバゾール環もしくはベンゾフラン環等である。また、R1〜R3の置換基は、上記例示置換基を複数個有していても、互いに連結していてもよい。
【0054】
溶解性及び非晶質性を更に向上させる観点からは、R1〜R3のフェニル基の置換基としては、置換基を有していてもよいアルキル基等が好ましく、より好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等であり、さらに好ましくはメチル基、エチル基等である。
【0055】
1〜R3のフェニル基は、このフェニル基のベンゼン環に導入された置換基が異なることにより、或いは置換基の有無により、互いに異なるものとなっている。また、R1〜R3は、このように互いに異なる(置換)フェニル基であることにより、R1〜R3のうち置換基も含めた合計炭素数が最も多い基と、最も少ない基との炭素数の差(以下、「R1〜R3炭素数差」と称す。)が10以上であることが好ましい。
また、R1〜R3のうち置換基も含めた合計炭素数が最も多い基と、2番目に合計炭素数が多い基との炭素数の差が5以上であることが好ましく、R1〜R3のうち置換基も含めた合計炭素数が最も少ない基と、2番目に合計炭素数が多い基との炭素数の差が5以上であることが好ましい。さらに、最も合計炭素数の多い基と、2番目に合計炭素数が多い基と、最も合計炭素数の少ない基との炭素数の差が、それぞれ5以上であることが更に好ましい。
このようにR1〜R3炭素数差が10以上であること、また、R1〜R3のそれぞれの炭素数差が5以上であることにより、化合物(1)の非晶質性がより一層高いものとなり、種々の有機溶剤に対する溶解性により一層優れ、容易には結晶化しない非晶性の高い有機薄膜を形成することが可能となる。ただし、R1〜R3炭素数差が過度に大きい場合、電荷輸送能が低下するおそれがある。このため、R1〜R3炭素数差の上限は300であることが好ましく、より好ましくは150である。また、R1〜R3のそれぞれの炭素数の差が過度に大きい場合も、電荷輸送能の低下を生じるおそれがあるため、R1〜R3のそれぞれの炭素数の差の上限は200であることが好ましく、より好ましくは100である。
なお、R1〜R3の合計炭素数の上限は、それぞれ350が好ましく、150がより好ましい。
【0056】
[6]特に好ましい部分構造
本発明のモノアミン化合物を後述する電荷輸送材料として使用する場合は、溶剤への溶解性を更に向上させる観点から、化合物(1)の分子内に下記構造式(2−1)で表されるm−フェニレン基を有することが特に好ましい。尚、このm−フェニレン基はR1〜R3のいずれかの部分構造として含むことが好ましい。
【0057】
【化15】

【0058】
(但し、構造式(2−1)中、フェニル基は更に置換基を有していてもよく、該置換基同士が結合して環構造を形成していてもよい。)
本発明のモノアミン化合物を電荷輸送材料として使用する場合は、高い三重項励起準位を保ちつつ、耐熱性を向上させる観点から、化合物(1)の分子内に下記一般式(2−2)で表される部分構造を有する基を含むことが特に好ましい。
又、本発明の電荷輸送材料は、下記一般式(2−2)で表される部分構造を有する基を含む場合、化合物(1)におけるR1〜R3の少なくとも1つが、下記一般式(2−2)で表される部分構造を有する基であることが好ましい。
【0059】
【化16】

【0060】
(一般式(2−2)中におけるXは、−NR4−(R4は、結合手又は置換基を有していてもよいアリール基を示す。)、−O−、及び−S−のいずれかを示す。又、一般式(2−2)中のXを含む縮合環は、更に置換基を有していてもよく、該置換基同士が結合して環構造を形成していてもよい。)
一般式(2−2)中におけるXは、耐熱性及び溶解性の観点から、−NR4−(R4は、結合手又は置換基を有していてもよいアリール基を示す。)、もしくは−O−であることが好ましい。
又、一般式(2−2)中のXを含む縮合環は、更に置換基を有していてもよい。該置換基は、例えば、前述したR1〜R3のフェニル基が有する置換基と同様の基等が挙げられる。尚、本発明において、一般式(2−2)中のXを含む縮合環は、置換基を有さないことが好ましい。
本発明のモノアミン化合物は、優れた電子輸送能をより効果的に発揮するためには、前述の如く、一般式(2−2)で表される部分構造を有する基はR1〜R3のいずれかに含まれていることが好ましい。又、前記一般式(2−2)で表される部分構造は、電荷輸送性及び耐熱性の観点から、下記構造式(3)で表されるN−カルバゾリル基であることが好ましい。
【0061】
【化17】

【0062】
(上記構造式(3)中において、N−カルバゾール環は、更に置換基を有していてもよく、該置換基同士が結合して環構造を形成していてもよい。)
又、溶剤に対する溶解性をさらに向上させる観点から、化合物(1)において、R1〜R3の少なくとも一つが、下記一般式(11)で表される基であることが特に好ましい。
【0063】
【化18】

【0064】
(一般式(11)中、Qは、直接結合又は任意の連結基を表す。Yは、一般式(2−2)におけるXと同義である。又、一般式(11)中のYを含む縮合環は、置換基を有していてもよく、該置換基同士が結合して環構造を形成してもよい。)
【0065】
一般式(11)中のYを含む縮合環は、更に置換基を有していてもよく、該置換基は、例えば、前述したR1〜R3のフェニル基が有する置換基と同様の基等が挙げられる。尚、本発明において、一般式(11)中のYを含む縮合環は、置換基を有さないことが好ましい。
又、Qは直接結合又は任意の連結基である。
Qが任意の連結基である場合、2価の芳香族炭化水素基、具体的にはフェニレン基、又は2以上連結されたフェニレン基が好ましい。2以上連結されたフェニレン基である場合の具体例として、ビフェニレン基、ターフェニレン基などが挙げられる。
尚、Qは、上記一般式(11)で示した通り、一般式(1)で示されている化合物の主骨格と結合するベンゼン環のメタ位に直接結合することが最も好ましい。即ち、正孔輸送を主として担う部分(Yを含む縮合環)がベンゼン環を介してメタ位で結合することにより、溶剤への溶解性が向上するとともに、ベンゼン環の有する優れた耐熱性、優れた電気化学的安定性、高い三重項励起準位によって、優れた電気化学的安定性、優れた耐熱性、高い三重項励起準位が損なわれることがない。そのため、Qとしては、m−フェニレン基が1〜5個、好ましくは2〜3個連結した基であることが好ましい。
【0066】
本発明におけるモノアミン化合物(1)は、下記一般式(4)で表される対称軸を有さない化合物(以下、「化合物(4)」と称することがある。)であることが特に好ましい。
【0067】
【化19】

【0068】
(上記一般式(4)中、R1及びR2は、一般式(1)におけるR1及びR2と同義である。Q及びYは一般式(11)におけるQ及びYと同義である。ただし、R1、R2及び一般式(11)で示される基は、各々互いに異なる基である。)
上記一般式(4)中のR1及びR2は、前記一般式(1)におけるR1及びR2と同義であり、また好ましい態様は前記[5.R1〜R3]の項で説明した通りである。
尚、上記一般式(4)中の一般式(1)におけるR3に相当する部分構造(一般式(11)の部分構造)としては、溶剤への溶解性、及び耐熱性を向上させる観点から、下記一般式(6)又は(7)で表される基であることが特に好ましい。
【0069】
【化20】

【0070】
(上記一般式(6)中、Zは置換基を有していてもよいフェニレン基を示し、x個のフェニレン基のうち少なくとも前記一般式(1)で表される化合物の主骨格と結合する1個目のフェニレン基はm−フェニレン基であり、xは2〜6の整数を示し。)
尚、上記一般式(6)において、xは2〜6であるが、好ましくは2〜4であり、特に好ましくは2〜3である。
【0071】
【化21】

【0072】
(上記一般式(7)中、Zは置換基を有していてもよいフェニレン基を示し、x個のフェニレン基のうち少なくとも前記一般式(1)で表される化合物の主骨格と結合する1個目のフェニレン基はm−フェニレン基であり、xは2〜6の整数を示す。)
尚、上記一般式(7)において、xは2〜4であるが、好ましくは2〜3である。
【0073】
一方、前記一般式(4)におけるR1としては、下記一般式(8)又は(9)で表される基であることが特に好ましい。
【0074】
【化22】

【0075】
(一般式(8)及び(9)中、Zは置換基を有していてもよいフェニレン基を示し、x−1個のフェニレン基のうち少なくとも前記一般式(1)で表される化合物の主骨格と結合する1個目のフェニレン基はm−フェニレン基であり、xは2〜6の整数を示す。)
【0076】
更に、R2としては、下記一般式(10)で表される基であることが特に好ましい。
−(Z)y−Ph (10)
(上記一般式(10)中、Zは置換基を有していてもよいフェニレン基を示し、y個のフェニレン基のうち少なくとも前記一般式(1)で表される化合物の主骨格と結合する1個目のフェニレン基はm−フェニレン基であり、Phは置換基を有していてもよいフェニル基を示し、yは1〜5の整数を示す。)
ここで、yは1〜5であるが、好ましくは1〜3である。
【0077】
[8.例示]
以下に、本発明のモノアミン化合物としての好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0078】
【化23】

【0079】
【化24】

【0080】
【化25】

【0081】
[9.合成方法]
本発明のアミン化合物は、例えば、アリールアミン化合物を出発原料とし、順次芳香環を導入することにより合成できる。
【0082】
【化26】

【0083】
(C−Nカップリング反応)
反応基質と、芳香族炭化水素基を有するハロゲン化物又はトリフルオロメタンスルホン酸エステル試薬を、遷移金属元素触媒を用いて、塩基存在下で反応させることにより、芳香族炭化水素基にアミノ基を導入することができる。単離精製は、例えば、蒸留、濾過、抽出、再結晶、再沈殿、懸濁洗浄、クロマトグラフィーの操作を組み合わせることにより行うことができる。
遷移金属元素触媒の例としては、パラジウム触媒や銅触媒が挙げられ、反応の簡便さや反応収率の高さからパラジウム触媒が望ましい。
塩基は、特に限定しないが、例えば、炭酸カリウム、炭酸セシウム、tert−ブトキシナトリウム、トリエチルアミン等を使用することができる。
溶剤としては、パラジウム触媒を用いる場合には、トルエンが好ましく、銅触媒を用いる場合には、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが好ましい。
【0084】
また、本発明に係る化合物(1)は、トリアリールアミンのトリハロゲン化物を出発原料として、順次カップリング反応を行うことによっても合成できる。
【0085】
【化27】

【0086】
(C−Cカップリング反応)
反応基質と、芳香族炭化水素基を有する有機金属試薬を、遷移金属元素触媒を用いて、塩基存在下で無極性又は極性溶剤中で反応させることにより、基質に芳香族炭化水素基を導入することができる。単離精製は、例えば、蒸留、濾過、抽出、再結晶、再沈殿、懸濁洗浄、クロマトグラフィーの操作を組み合わせることにより行うことができる。
有機金属試薬の例としては、有機硼素試薬、有機マグネシウム試薬、有機亜鉛試薬などが挙げられる。中でも、取り扱いの簡便さから有機硼素試薬が望ましい。
遷移金属元素触媒の例としては、有機パラジウム触媒、有機ニッケル触媒、有機銅触媒、有機白金触媒、有機ロジウム触媒、有機ルテニウム触媒、有機イリジウム触媒などが挙げられる。中でも、反応の簡便さや反応収率の高さから有機パラジウム触媒が望ましい。
塩基は、特に限定しないが、金属水酸化物、金属塩、有機アルカリ金属試薬などが好ましい。
使用する溶剤としては、反応基質に対して活性である溶剤以外であれば特に限定しないが、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;エタノール、プロパノール等のアルコール;水等を単独で又は混合して使用する
ことができる。
また、必要であれば界面活性剤を1〜100mol%加えることもできる。
【0087】
[電荷輸送材料]
本発明の電荷輸送材料は、前記一般式(1)で表されるモノアミン化合物からなる。該モノアミン化合物は、溶剤に対する溶解性に優れ、高い非晶質性を有するため、湿式成膜法による薄膜形成が可能である。
又、本発明の電荷輸送材料として使用される該モノアミン化合物は、電荷輸送性及び電気的酸化還元耐性にも優れ、且つ高い三重項励起準位を有するため、有機電界発光素子に用いることにより、高い発光効率と高い駆動安定性を実現できる。
【0088】
[電荷輸送膜用組成物]
本発明の電荷輸送膜用組成物は、前述の本発明の電荷輸送材料を含むものであり、好ましくは、有機電界発光素子用に使用される。
【0089】
[1]溶剤
本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物として用いられる電荷輸送膜用組成物は溶剤を含むことが好ましい。
本発明の電荷輸送膜用組成物に含まれる溶剤としては、溶質である本発明の電荷輸送材料等が良好に溶解する溶剤であれば特に限定されない。
【0090】
本発明の電荷輸送材料は、溶剤に対する溶解性が非常に高いため、種々の溶剤が適用可能である。例えば、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル;シクロヘキサノン、シクロオクタノン等の脂環式ケトン;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環式アルコール;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル等が利用できる。
これらのうち、水の溶解度が低い点、容易には変質しない点で、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素が好ましい。
【0091】
有機電界発光素子には、陰極等の水分により著しく劣化する材料が多く使用されているため、組成物中の水分の存在は、乾燥後の膜中に水分が残留し、素子の特性を低下させる可能性が考えられる。その為、組成物中の水分量を低減させることが好ましい。
組成物中の水分量を低減する方法としては、例えば、窒素ガスシール、乾燥剤の使用、溶剤を予め脱水する方法、水の溶解度が低い溶剤を使用する方法等が挙げられる。中でも、水への溶解度が低い溶剤を使用する場合は、湿式製膜工程中に、溶液膜が大気中の水分を吸収して白化する現象を防ぐことができるため好ましい。この様な観点からは、本発明の電荷輸送膜用組成物としては、例えば、25℃における水の溶解度が1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下である溶剤を、組成物中に10質量%以上含有することが好ましい。
【0092】
また、湿式製膜時における組成物からの溶剤蒸発による、製膜安定性の低下を低減するためには、電荷輸送膜用組成物の溶剤として、沸点が100℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上の溶剤を用いることが効果的である。また、より均一な膜を得るためには、製膜直後の液膜から溶剤が適当な速度で蒸発することが必要であるが、このためには通常沸点の下限が80℃、好ましくは100℃、より好ましくは120℃で、かつ通常上限が270℃未満、好ましくは250℃未満、より好ましくは230℃未満の溶剤を用いることが効果的である。
【0093】
上述の条件、即ち溶質の溶解性、蒸発速度、水の溶解度の条件を満足する溶剤を単独で用いてもよいが、すべての条件を満たす溶剤が選定できない場合は、2種類以上の溶剤を混合して用いることもできる。
【0094】
[2]発光材料
本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物として用いられる電荷輸送膜用組成物は、発光材料を含有することが好ましい。
【0095】
発光材料とは、本発明の電荷輸送膜用組成物において、主として発光する成分を指し、有機電界発光デバイスにおけるドーパント成分に当たる。即ち、電荷輸送膜用組成物から発せられる光量(単位:cd/m2)の内、通常10〜100%、好ましくは20〜100%、より好ましくは50〜100%、最も好ましくは80〜100%が、ある成分材料からの発光と同定される場合、それを発光材料と定義する。
【0096】
発光材料としては、任意の公知材料を使用可能であり、例えば、蛍光発光材料、燐光発光材料を単独で又は複数種を混合して使用できるが、内部量子効率の観点から、好ましくは、燐光発光材料である。
この発光材料の最大発光ピーク波長は390〜490nmの範囲にあることが好ましい。
【0097】
なお、溶剤への溶解性を向上させる目的で、発光材料分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることも可能である。
【0098】
青色発光を与える蛍光色素としては、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体等が挙げられる。緑色蛍光色素としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体等が挙げられる。黄色蛍光色素としては、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。赤色蛍光色素としては、DCM系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0099】
燐光発光材料としては、例えば周期表7ないし11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられる。
周期表7ないし11族から選ばれる金属を含む燐光性有機金属錯体における金属の好ましい例としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。これらの有機金属錯体として、好ましくは下記一般式(V)又は式(VI)で表される化合物が挙げられる。
【0100】
ML(q-j)L'j (V)
【0101】
(上記一般式(V)中、Mは金属を示し、qは上記金属の価数を示す。また、L及びL'は二座配位子を示す。jは0〜2の整数を示す。)
【0102】
【化28】

【0103】
(上記一般式(VI)中、Mdは金属を示し、Tは炭素原子又は窒素原子を示す。R92〜R95は、それぞれ独立に置換基を示す。ただし、Tが窒素の場合は、R94及びR95は無い。)
【0104】
以下、まず、一般式(V)で表される化合物について説明する。
一般式(V)中、Mは任意の金属を示し、好ましいものの具体例としては、周期表7ないし11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。
また、一般式(V)中の二座配位子L及びL'は、それぞれ、以下の部分構造を有する配位子を示す。
【0105】
【化29】

【0106】
【化30】

【0107】
L'として、錯体の安定性の観点から、特に好ましくは、下記のものが挙げられる。
【0108】
【化31】

【0109】
上記L,L'の部分構造において、環A1は芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を示し、環A2は含窒素芳香族複素環基を示し、これらは置換基を有していてもよい。
【0110】
環A1、A2が置換基を有する場合、好ましい置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基;フェニル基、ナフチル基、フェナンチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0111】
一般式(V)で表される化合物として、更に好ましくは、下記式(Va)、(Vb)、(Vc)で表される化合物が挙げられる。
【0112】
【化32】

【0113】
(一般式(Va)中、Maは金属を示し、wは前記金属の価数を示す。また、環A1は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、環A2は置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を示す。)
【0114】
【化33】

【0115】
(一般式(Vb)中、Mbは金属を示し、wは前記金属の価数を示す。また、環A1は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、環A2は置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を示す。)
【0116】
【化34】

【0117】
(一般式(Vc)中、Mcは金属を示し、wは前記金属の価数を示す。また、jは0〜2の整数を示す。さらに、環A1及び環A1'は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。また、環A2及び環A2'は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を示す。)
【0118】
上記一般式(Va)、(Vb)、(Vc)において、環A1及び環A1'を構成する基としては、好ましくは、例えばフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
【0119】
また、環A2、環A2'を構成する基としては、好ましくは、例えばピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フェナントリジル基等が挙げられる。
【0120】
更に、環A1、環A1'環A2及び環A2'が有していてもよい置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
【0121】
上記置換基がアルキル基である場合は、その炭素数は通常1〜6である。更に、置換基がアルケニル基である場合は、その炭素数は通常2〜6である。また、置換基がアルコキシカルボニル基である場合は、その炭素数は通常2〜6である。さらに、置換基がアルコキシ基である場合は、その炭素数は通常1〜6である。また、置換基がアリールオキシ基である場合は、その炭素数は通常6〜14である。さらに、置換基がジアルキルアミノ基である場合は、その炭素数は通常2〜24である。また、置換基がジアリールアミノ基である場合は、その炭素数は通常12〜28である。さらに、置換基がアシル基である場合は、その炭素数は通常1〜14である。また、置換基がハロアルキル基である場合は、その炭素数は通常1〜12である。
尚、これら置換基は互いに連結して環を形成してもよい。具体例としては、環A1が有する置換基と環A2が有する置換基とが結合するか、又は、環A1'が有する置換基と環A2'が有する置換基とが結合して、一つの縮合環を形成してもよい。このような縮合環基としては、7,8−ベンゾキノリン基等が挙げられる。
中でも、環A1、環A1'、環A2及び環A2'の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ジアリールアミノ基、カルバゾリル基が好ましい。
又、Ma、Mb、Mcとしては上記Mと同様の金属が挙げられ、中でもルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が好ましい。
【0122】
上記一般式(V)、(Va)、(Vb)又は(Vc)で示される有機金属錯体の具体例を以下に示すが、下記の化合物に限定されるものではない(以下において、Ph'はフェニル基を示す。)。
【0123】
【化35】

【0124】
【化36】

【0125】
上記一般式(V)、(Va)、(Vb)、(Vc)で表される有機金属錯体の中でも、特に、配位子L及び/又はL'として2−アリールピリジン系配位子、即ち、2−アリールピリジンを有する錯体、これに置換基が結合した錯体、及び、置換基が互いに結合して縮合環を形成している錯体が好ましい。
また、国際公開第2005/019373号パンフレットに記載の化合物も使用することができる。
【0126】
次に、前記一般式(VI)で表される化合物について説明する。
一般式(VI)中、Mdは金属を示し、具体例としては、周期表7ないし11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。中でも、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が挙げられ、特に好ましくは、白金、パラジウム等の2価の金属が好ましい。
【0127】
また、一般式(VI)において、R92及びR93は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を示す。
【0128】
さらに、Tが炭素原子の場合、R94及びR95は、それぞれ独立に、R92及びR93と同様の例示物で表される置換基を示す。また、前述の如く、Tが窒素原子の場合はR94及びR95は無い。
【0129】
また、R92〜R95は更に置換基を有していてもよい。この場合の置換基として特に制限はなく、任意の基を置換基とすることができる。
さらに、R92〜R95は互いに連結して環を形成してもよく、この環が更に任意の置換基を有していてもよい。
【0130】
一般式(VI)で表される有機金属錯体の具体例(T−1、T−10〜T−15)を以下に示すが、下記の例示化合物に限定されるものではない。なお、以下において、Meはメチル基を示し、Etはエチル基を示す。
【0131】
【化37】

【0132】
[3]その他の成分
本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物として用いられる電荷輸送膜用組成物中には、前述した溶剤及び発光材料以外にも、必要に応じて、各種の他の溶剤を含んでいてもよい。このような他の溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系の溶剤、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。また、レベリング剤や消泡剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0133】
また、2層以上の層を湿式製膜法により積層する際に、これらの層が相溶することを防ぐため、製膜後に硬化させて不溶化させる目的で光硬化性樹脂や、熱硬化性樹脂を含有させておくこともできる。
【0134】
[4]電荷輸送膜用組成物中の材料濃度と配合比
電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物中の電荷輸送材料、発光材料及び必要に応じて添加可能な成分(レベリング剤など)などの固形分濃度は、下限が通常0.01質量%、好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.1質量%、更に好ましくは0.5質量%、最も好ましくは1質量%であり、他方上限が通常80質量%、好ましくは50質量%、より好ましくは40質量%、更に好ましくは30重量%、最も好ましくは20質量%である。この濃度が下限を下回ると、薄膜を形成する場合、厚膜を形成するのが困難となり、上限を超えると、薄膜を形成するのが困難となる。
【0135】
また、本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物において、発光材料/電荷輸送材料の含有質量比は、下限が通常0.1/99.9、より好ましくは0.5/99.5、更に好ましくは1/99、最も好ましくは2/98以上であり、他方上限が通常50/50、より好ましくは40/60、更に好ましくは30/70、最も好ましくは20/80である。この質量比が下限を下回ったり、上限を超えたりすると、著しく発光効率が低下するおそれがある。
【0136】
[5]電荷輸送膜用組成物の調製方法
本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物は、電荷輸送材料、発光材料、及び必要に応じて添加可能なレベリング剤や消泡剤等の各種添加剤よりなる溶質を、適当な溶剤に溶解させることにより調製される。溶解工程に要する時間を短縮するため、及び組成物中の溶質濃度を均一に保つため、通常、溶液を撹拌しながら溶質を溶解させる。溶解工程は常温で行ってもよいが、溶解速度が遅い場合は加熱して溶解させることもできる。溶解工程終了後、必要に応じて、フィルタリング等の濾過工程を付してもよい。
【0137】
[6]電荷輸送膜用組成物の性状、物性等
(水分濃度)
有機電界発光素子を、本発明の電荷輸送膜用組成物(有機電界発光素子用組成物)を用いた湿式製膜法により層形成して製造する場合、用いる有機電界発光素子用組成物に水分が存在すると、形成された膜に水分が混入して膜の均一性が損なわれるため、本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物中の水分含有量はできるだけ少ない方が好ましい。また一般に、有機電界発光素子は、陰極等の水分により著しく劣化する材料が多く使用されているため、電荷輸送膜用組成物中に水分が存在した場合、乾燥後の膜中に水分が残留し、素子の特性を低下させる可能性が考えられ好ましくない。
【0138】
具体的には、本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物中に含まれる水分量は、通常1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
【0139】
電荷輸送膜用組成物中の水分濃度の測定方法としては、日本工業規格「化学製品の水分測定法」(JIS K0068:2001)に記載の方法が好ましく、例えば、カールフィッシャー試薬法(JIS K0211−1348)等により分析することができる。
【0140】
(均一性)
本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物は、湿式製膜プロセスでの安定性、例えば、インクジェット製膜法におけるノズルからの吐出安定性を高めるためには、常温で均一な液状であることが好ましい。常温で均一な液状とは、組成物が均一相からなる液体であり、かつ組成物中に粒径0.1μm以上の粒子成分を含有しないことをいう。
【0141】
(物性)
本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物の粘度については、極端に低粘度の場合は、例えば製膜工程における過度の液膜流動による塗面不均一、インクジェット製膜におけるノズル吐出不良等が起こりやすくなり、極端に高粘度の場合は、インクジェット製膜におけるノズル目詰まり等が起こりやすくなる。このため、本発明の組成物の25℃における粘度は、下限が通常2mPa・s、好ましくは3mPa・s、より好ましくは5mPa・sであり、他方上限が通常1000mPa・s、好ましくは100mPa・s、より好ましくは50mPa・sである。
【0142】
また、本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物の表面張力が高い場合は、基板に対する製膜用液の濡れ性の低下、すなわち液膜のレベリング性が悪化し、乾燥時の製膜面の乱れが起こりやすくなる等の問題が発生するため、本発明の組成物の20℃における表面張力は、通常50mN/m未満、好ましくは40mN/m未満である。
【0143】
更に、本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物の蒸気圧が高い場合は、溶剤の蒸発による溶質濃度の変化等の問題が起こりやすくなる。このため、本発明の組成物の25℃における蒸気圧は、通常50mmHg以下、好ましくは10mmHg以下、より好ましくは1mmHg以下である。
【0144】
<有機電界発光素子の構成>
本発明の有機電界発光素子は、基板上に形成された一対の電極に一層以上の有機層を備え、有機層のうちの少なくとも一層が本発明の電荷輸送材料を含有するものであれば、特に限定されるものではない。ここで、有機層としては、有機電界発光素子の層構成により一様ではないが、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層が挙げられる。
本発明の有機電界発光素子が1つの有機層を有する場合、この有機層は発光層を意味し、この発光層は電荷輸送能を有し、かつ本発明の電荷輸送材料を含有する。
一方、複数の有機層を有する有機電界発光素子の場合、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層及び電子注入層のうちの少なくとも一層が本発明の電荷輸送材料を含有すればよい。なお、複数の有機層を有する有機電界発光素子の有機層の層構成としては、発光可能であれば特に限定されないが、例えば、次のものが挙げられる。
1)少なくとも発光層及び電子輸送層から構成されるもの
2)少なくとも正孔輸送層及び発光層から構成されるもの
3)少なくとも正孔輸送層、発光層及び電子輸送層から構成されるもの
【0145】
以下、図1を参照しながら本発明の有機電界発光素子の層構成及びその一般的形成方法等について説明する。なお、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0146】
図1は、本発明にかかる有機電界発光素子の一例を示す模式断面図である。図1に示す有機電界発光素子は、基板1上に、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、正孔阻止層6、電子輸送層7、電子注入層8及び陰極9が順次積層された構造を有するものである。
なお、本発明において湿式成膜法とは、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等湿式で成膜される方法をいう。これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法が好ましい。これは、有機電界発光素子に用いられる塗布用組成物特有の液性に合うためである。
【0147】
(基板)
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがある。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0148】
(陽極)
陽極2は発光層側の層への正孔注入の役割を果たすものである。
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0149】
陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
なお、陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
【0150】
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陽極2の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0151】
陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極2表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることが好ましい。
【0152】
(正孔注入層)
正孔注入層3は、陽極2から発光層5へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極2上に形成される。
本発明に係る正孔注入層3の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔注入層3を湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0153】
正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0154】
<湿式成膜法による正孔注入層の形成>
湿式成膜により正孔注入層3を形成する場合、通常は、正孔注入層3を構成する材料を適切な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製する。次いで、この正孔注入層形成用組成物を適切な手法により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
【0155】
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は通常、正孔注入層の構成材料として正孔輸送性化合物及び溶剤を含有する。
正孔輸送性化合物は、通常、有機電界発光素子の正孔注入層に使用される、正孔輸送性を有する化合物であれば、重合体などの高分子化合物であっても、単量体などの低分子化合物であってもよいが、高分子化合物であることが好ましい。
【0156】
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から、4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル誘導体、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリキノリン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、カーボン等が挙げられる。
なお、本発明において誘導体とは、例えば、芳香族アミン誘導体を例に挙げると、芳香族アミンそのもの及び芳香族アミンを主骨格とする化合物を含むものであり、重合体であっても、単量体であってもよい。
【0157】
正孔注入層3の形成に用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種又は2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種又は2種以上とを併用することが好ましい。
【0158】
上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)が更に好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(VII)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【0159】
【化38】

【0160】
(一般式(VII)中、Ar1及びAr2は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。Ar3〜Ar5は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。Yは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を示す。また、Ar1〜Ar5のうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。)
【0161】
【化39】

【0162】
(上記各一般式中、Ar6〜Ar16は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。R101及びR102は、各々独立して、水素原子又は任意の置換基を示す。)
【0163】
Ar1〜Ar16の芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環由来の基が更に好ましい。
【0164】
Ar1〜Ar16の芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基は、更に置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが好ましい。
【0165】
101及びR102が任意の置換基である場合、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0166】
式(VII)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のものが挙げられる。
【0167】
また、正孔輸送性化合物としては、ポリチオフェンの誘導体である3,4-ethylenedioxythiophene(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を高分子量ポリスチレンスルホン酸中で重合してなる導電性ポリマー(PEDOT/PSS)も好ましく、このポリマーの末端をメタクリレート等でキャップしたものであってもよい。
さらに、正孔輸送性化合物は、下記[正孔輸送層]の項に記載の架橋性重合体であってもよい。該架橋性重合体を用いた場合の成膜方法についても同様である。
【0168】
正孔注入層形成用組成物中の、正孔輸送性化合物の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で、下限は通常0.01質量%、好ましくは0.1質量%、更に好ましくは0.5質量%であり、また上限は通常70質量%、好ましくは60質量%、更に好ましくは50質量%である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると成膜された正孔注入層に欠陥が生じる可能性がある。
【0169】
(電子受容性化合物)
正孔注入層形成用組成物は正孔注入層の構成材料として、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
【0170】
電子受容性化合物としては、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましい。具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上である化合物が更に好ましい。
【0171】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、4−イソプロピル−4'−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開2005/089024号パンフレット);塩化鉄(III)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素;ポリスチレンスルホン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン、ショウノウスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン等が挙げられる。
これらの電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。
【0172】
正孔注入層或いは正孔注入層形成用組成物中の電子受容性化合物の含有量は、正孔輸送性化合物に対して、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上であり、かつ通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0173】
(その他の構成材料)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、更にその他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0174】
(溶剤)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物に含まれる溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層の構成材料を溶解しうるものであることが好ましい。また、この溶剤の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上であることが好ましい。中でも、沸点が200℃以上であり、かつ400℃以下、特に300℃以下である溶剤が好ましい。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。他方、溶剤の沸点が高すぎると、乾燥工程の温度を高くする必要があり、また他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0175】
溶剤としては、例えば、エーテル、エステル、芳香族炭化水素、アミドなどが挙げられ、ジメチルスルホキシド等も用いることができる。なお、各溶剤の具体例は、上記において説明したとおりである。
これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0176】
(成膜方法)
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜により、基体の外表面に位置する層(通常は、陽極2)上に塗布成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
【0177】
塗布工程における温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましい。
塗布工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
【0178】
塗布後、通常加熱等により正孔注入層形成用組成物の膜を乾燥させる。この加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブン及びホットプレートが好ましい。
【0179】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。また、正孔注入層に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、混合溶剤中の少なくとも1種類の溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程における温度は、好ましくは120℃以上410℃以下であることが好ましい。
加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上であり、かつ塗布膜の十分な不溶化が起こらなければ、加熱時間は限定されないが、好ましくは10秒以上180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。加熱は2回に分けて行ってもよい。
【0180】
<真空蒸着法による正孔注入層の形成>
真空蒸着により正孔注入層3を形成する場合には、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種又は2種以上を真空容器内に設置された、るつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合は各々独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極2上に正孔注入層3を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
【0181】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10-6Torr(0.13×10-4Pa)以上、通常9.0×10-6Torr(12.0×10-4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、通常5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上で、好ましくは50℃以下で行われる。
【0182】
[正孔輸送層]
本発明に係る正孔輸送層4の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔輸送層4を湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0183】
正孔輸送層4は、正孔注入層がある場合には正孔注入層3の上に、正孔注入層3が無い場合には陽極2の上に形成することができる。また、本発明の有機電界発光素子は、正孔輸送層を省いた構成であってもよい。
【0184】
正孔輸送層4を形成する材料としては、正孔輸送性が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのためには、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層5に接するため、発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0185】
このような正孔輸送層4の材料としては、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層3に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、アリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、スピロ誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、シロール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。
また、例えば、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリアリールアミン誘導体、ポリビニルトリフェニルアミン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアリーレン誘導体、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体、ポリシロキサン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)誘導体等が挙げられる。これらは、交互共重合体、ランダム重合体、ブロック重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある高分子や、所謂デンドリマーであってもよい。
中でも、ポリアリールアミン誘導体やポリアリーレン誘導体が好ましい。
ポリアリールアミン誘導体としては、下記一般式(VIII)で表される繰り返し単位を含む重合体であることが好ましい。特に、下記一般式(VIII)で表される繰り返し単位からなる重合体であることが好ましく、この場合、繰り返し単位それぞれにおいて、Ara又はArbが異なっているものであってもよい。
【0186】
【化40】

【0187】
(一般式(VIII)中、Ara及びArbは、各々独立して、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を示す。)
【0188】
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環又は2〜5縮合環由来の基及びこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0189】
置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えば、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の基及びこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0190】
溶解性、耐熱性の点から、Ara及びArbは、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基やベンゼン環が2環以上連結してなる基(例えば、ビフェニル基(ビフェニレン基)やターフェニル基(ターフェニレン基))が好ましい。
中でも、ベンゼン環由来の基(フェニル基)、ベンゼン環が2環連結してなる基(ビフェニル基)及びフルオレン環由来の基(フルオレニル基)が好ましい。
【0191】
Ara及びArbにおける芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0192】
ポリアリーレン誘導体としては、前記AraやArbとして例示した置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基などのアリーレン基をその繰り返し単位に有する重合体が挙げられる。
【0193】
ポリアリーレン誘導体としては、下記一般式(IX-1)及び/又は下記式(IX-2)からなる繰り返し単位を有する重合体が好ましい。
【0194】
【化41】

【0195】
(一般式(IX-1)中、Ra、Rb、Rc及びRdは、各々独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、フェニルアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、又はカルボキシ基を示す。t及びsは、各々独立に、0〜3の整数を表す。t又はsが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRa又はRbは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRa又はRb同士で環を形成していてもよい。)
【0196】
【化42】

【0197】
(一般式(IX-2)中、Re及びRfは、各々独立に、上記一般式(IX-1)におけるRa、Rb、Rc又はRdと同義である。r及びuは、各々独立に、0〜3の整数を示す。r又はuが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRe及びRfは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRe又はRf同士で環を形成していてもよい。Xは、5員環又は6員環を構成する原子又は原子群を示す。)
【0198】
Xの具体例としては、−O−、−BR103−、−NR103−、−SiR1032−、−PR103−、−SR103−、−CR1032−又はこれらが結合してなる基である。なお、R103は、水素原子又は任意の有機基を表す。本発明における有機基とは、少なくとも一つの炭素原子を含む基である。
【0199】
また、ポリアリーレン誘導体としては、前記一般式(IX-1)及び/又は前記一般式(IX-2)からなる繰り返し単位に加えて、さらに下記一般式(IX-3)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【0200】
【化43】

【0201】
(一般式(IX-3)中、Arc〜Arjは、各々独立に、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を示す。v及びwは、各々独立に0又は1を示す。)
【0202】
Arc〜Arjの具体例としては、前記一般式(VIII)における、Ara及びArbと同様である。
【0203】
上記一般式(IX-1)〜(IX-3)の具体例及びポリアリーレン誘導体の具体例等は、特開2008−98619号公報等に記載のものなどが挙げられる。
【0204】
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、上記正孔注入層3の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、湿式成膜後、加熱乾燥させる。
【0205】
正孔輸送層形成用組成物には、上述の正孔輸送性化合物の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、成膜条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0206】
真空蒸着法により正孔輸送層を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0207】
正孔輸送層4は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
正孔輸送層4はまた、架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。架橋性化合物は、架橋性基を有する化合物であって、架橋することにより網目状高分子化合物を形成する。
【0208】
この架橋性基の例を挙げると、オキセタン、エポキシなどの環状エーテル由来の基;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル基、シンナモイル基等の不飽和二重結合由来の基;ベンゾシクロブテン由来の基などが挙げられる。
架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。 架橋性化合物は1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で有していてもよい。
【0209】
架橋性化合物としては、架橋性基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。
正孔輸送性化合物としては、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の含窒素芳香族化合物誘導体;トリフェニルアミン誘導体;シロール誘導体;オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。中でも、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体等の含窒素芳香族誘導体;トリフェニルアミン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが好ましく、特にトリフェニルアミン誘導体が好ましい。
架橋性化合物としては、これら正孔輸送性化合物に対して、架橋性基が主鎖又は側鎖に結合しているものが挙げられる。特に架橋性基は、アルキレン基等の連結基を介して、主鎖に結合していることが好ましい。
また、特に正孔輸送性化合物としては、架橋性基を有する繰り返し単位を含む重合体であることが好ましく、前記一般式(VIII)や一般式(IX-1)〜(IX-3)に架橋性基が直接又は連結基を介して結合した繰り返し単位を有する重合体であることが好ましい。
【0210】
架橋性化合物を架橋して正孔輸送層4を形成するには、通常、架橋性化合物を溶剤に溶解又は分散した正孔輸送層形成用組成物を調製して、湿式成膜により成膜して架橋させる。
【0211】
正孔輸送層形成用組成物には、架橋性化合物の他、架橋反応を促進する添加物を含んでいてもよい。架橋反応を促進する添加物の例を挙げると、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤;重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤などが挙げられる。また、更に、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤;電子受容性化合物;バインダー樹脂;などを含有していてもよい。
【0212】
正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物を通常0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上含有し、かつ通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、更に好ましくは10重量%以下含有する。
【0213】
このような濃度で架橋性化合物を含む正孔輸送層形成用組成物を下層(通常は正孔注入層3)上に成膜後、加熱及び/又は光などの活性エネルギー照射により、架橋性化合物を架橋させて網目状高分子化合物を形成する。
【0214】
成膜時の温度、湿度などの条件は、前記正孔注入層3の湿式成膜時と同様である。
成膜後の加熱の手法は特に限定されない。加熱温度条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下である。
加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、成膜された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上で、かつ1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0215】
光などの活性エネルギー照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。光以外の活性エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
【0216】
加熱及び光などの活性エネルギー照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
このようにして形成される正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0217】
[発光層]
正孔注入層3の上には通常発光層4が設けられる。発光層4は、例えば前述の発光材料を含む層であり、電界を与えられた電極間において、陽極2から正孔注入層3を通じて注入された正孔と、陰極6から電子輸送層5を通じて注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。発光層4は、発光材料(ドーパント)と1種又は2種以上のホスト材料を含むことが好ましい。発光層4は、本発明の電荷輸送材料をホスト材料として含むことが更に好ましい。発光層4は、真空蒸着法で形成してもよいが、本発明の有機電界発光素子用組成物を用い、湿式製膜法によって作製された層であることが特に好ましい。ここで、湿式製膜法とは、前述の如く、溶剤を含む組成物を、スピンコート、スプレーコート、ディップコート、ダイコート、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット法等により製膜するものである。
【0218】
なお、発光層4は、本発明の性能を損なわない範囲で、他の材料、成分を含んでいてもよい。
【0219】
一般に有機電界発光素子において、同じ材料を用いた場合、電極間の膜厚が薄い方が、実効電界が大きくなる。その結果、注入される電流が多くなり、駆動電圧は低下する。その為、電極間の総膜厚は薄い方が、有機電界発光素子の駆動電圧は低下するが、あまりに薄いと、ITO等の電極に起因する突起により短絡が発生する為、ある程度の膜厚が必要となる。
【0220】
本発明においては、発光層4以外に、正孔注入層3及び後述の電子輸送層5等の有機層を有する場合、発光層4と正孔注入層3や電子輸送層5等の他の有機層とを合わせた総膜厚は通常30nm以上、好ましくは50nm以上であり、更に好ましくは100nm以上である。総膜厚の上限は、通常1000nm、好ましくは500nm、更に好ましくは300nmである。また、発光層4以外の正孔注入層3や後述の電子注入層5の導電性が高い場合、発光層4に注入される電荷量が増加する。その為、例えば正孔注入層3の膜厚を厚くして発光層4の膜厚を薄くし、総膜厚をある程度の膜厚を維持したまま駆動電圧を下げることも可能である。
【0221】
よって、発光層4の膜厚は、通常10nm以上、好ましくは20nm以上で、通常300nm以下、好ましくは200nm以下である。なお、本発明の素子が、陽極及び陰極の両極間に、発光層4のみを有する場合の発光層4の膜厚は、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、通常500nm以下、好ましくは300nm以下である。
【0222】
[正孔阻止層]
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。
【0223】
この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔を陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
【0224】
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号パンフレットに記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
【0225】
なお、正孔阻止層6の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0226】
正孔阻止層6の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成できる。
【0227】
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0228】
[電子輸送層]
発光層5と後述の電子注入層8の間に、電子輸送層7を設けてもよい。
電子輸送層7は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0229】
電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極9又は電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N'−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
なお、電子輸送層7の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0230】
電子輸送層7の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
【0231】
電子輸送層7の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0232】
[電子注入層]
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率良く発光層5へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。その具体例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が挙げられる。また、その膜厚は、通常0.1nm以上、好ましくは5nm以下である。
【0233】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0234】
なお、電子注入層8の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0235】
電子注入層8の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
【0236】
[陰極]
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8又は発光層5など)に電子を注入する役割を果たすものである。
【0237】
陰極9の材料としては、陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率良く電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
なお、陰極9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
陰極9の膜厚は、通常、陽極2と同様である。
【0238】
さらに、低仕事関数金属から成る陰極9を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0239】
[その他の層]
本発明に係る有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、上記層以外の任意の層を有していてもよく、また任意の層が省略されていてもよい。
【0240】
[電子阻止層]
任意の層としては、例えば、電子阻止層が挙げられる。
電子阻止層は、正孔注入層3又は正孔輸送層4と発光層5との間に設けられ、発光層5から移動してくる電子が正孔注入層3に到達するのを阻止することで、発光層5内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔注入層3から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は電子阻止層を設けることが効果的である。
【0241】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明においては、発光層5を湿式成膜法で作製する場合には、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号パンフレット)等が挙げられる。
【0242】
なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0243】
電子阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
【0244】
さらに、陰極9と発光層5又は電子輸送層7との界面に、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化リチウム(Li2O)、炭酸セシウム(II)(CsCO3)等で形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters, 1997年, Vol.70, pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices, 1 997年,Vol.44, pp.1245;SID 04 Digest, pp.154等参照)。
【0245】
また、本発明の有機電界発光素子の構成は上記に限定されるものではなく、積層順序を変更することが可能である。具体的には、基板1上に、陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3及び陽極2が順次積層された構造としてもよい。
【0246】
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明に係る有機電界発光素子を構成することも可能である。
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V25)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0247】
更には、本発明に係る有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、上記以外の成分が含まれていてもよい。
【0248】
<有機ELディスプレイ及び有機EL照明>
本発明の有機ELディスプレイ及び有機EL照明は、上述の本発明の有機電界発光素子を具備するものである。本発明の有機ELディスプレイ及び有機EL照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【0249】
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機ELディスプレイ及び有機EL照明を形成することができる。
【実施例】
【0250】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明はその要旨を逸脱しない限り任意に変更して実施できる。
【0251】
[化合物Iの合成]
(化合物1の合成)
【0252】
【化44】

【0253】
500 mL四つ口フラスコに原料化合物(15.0g, 37mmol)を加え、30分窒素置換した。反応器に無水THF200mLを加えたのち、溶液を-80℃まで冷却した。液温が上がらないように注意しながらn-BuLiヘキサン溶液(1.65M, 24.0 mL)を30分かけて滴下し、4時間反応した。トリメトキシボラン(11.8 g, 112 mmol)を10分かけて滴下した後、2時間反応した。反応溶液を室温まで昇温し、30分攪拌した。反応溶液に1N HCl水溶液を200 mL加え、さらに30分攪拌した。反応溶液に酢酸エチル500 mLを加え、目的物を有機層に抽出したのち、有機相を食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、エバポレーターにて濃縮した。得られた黄色固体をヘキサンにて懸洗し、化合物1(15.2g)を得た。
【0254】
(化合物2の合成)
【0255】
【化45】

【0256】
窒素雰囲気下、m−カルバゾリルフェニルボロン酸(13.1 g, 45.9 mmol)、ビス(4−ブロモフェニル)アミン(15.0 g, 45.9 mmol)に、トルエン(204 mL)、2M-炭酸ナトリウム水溶液(102 mL)及びエタノール(102 mL)を加え、10分間窒素を通して脱気を行った。混合物にテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(297 mg, 257 mol)を添加し、還流させながら3時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を水に注ぎ、トルエンで抽出した。有機層を精製水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶剤を減圧下に留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物2(13.4 g)を得た。この化合物の質量分析値は488 (M+)であった。
【0257】
(化合物3の合成)
【0258】
【化46】

【0259】
500 mL四つ口フラスコに、化合物2(3.5g, 7.1mmol)、化合物1(5.2g, 14.3 mol, 2MR)、トルエン122 mL、エタノール88 mL、及び炭酸ナトリウム水溶液62 mLを加え、60℃で1時間窒素バブリングした。反応溶液にテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0) (580 mg, 7 mol%)を加え、3時間還流した。反応終了後、反応溶液を水に注ぎ、トルエンで抽出した。有機層を精製水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶剤を減圧下に留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物3(5.11g)を得た。
【0260】
(化合物4の合成)
【0261】
【化47】

【0262】
窒素雰囲気下、3−ビフェニルボロン酸(18.3 g, 92.5 mmol)、4-ヨードブロモベンゼン(24.9 g, 87.9 mmol)に、トルエン(176 mL)、2M-炭酸ナトリウム水溶液(88 mL)、及びエタノール(88 mL)を加え、10分間窒素を通して脱気を行った。混合物にテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(1.5 g, 1.29 mmol)を添加し、還流させながら3時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を水に注ぎ、トルエンで抽出した。
有機層を精製水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶剤を減圧下に留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物4(22.6 g)を得た。このものの質量分析値は308 (M+)であった。
【0263】
(化合物Iの合成)
【0264】
【化48】

【0265】
300 ml四つ口フラスコに、化合物3(5.11g, 7.0mmol)、化合物4(2.82g, 2.5 mmol)、NaOtBu (1.35g, 8.8 mmol, 2MR)、及びトルエン100mLを加え、30分窒素バブリングした(溶液A)。一方、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(181mg)のトルエン溶液(5mL)に、トリ−t−ブチルホスフィン(284mg)を加え、65℃まで加温した(溶液B)。窒素気流中、溶液Aに溶液Bを添加し、4時間加熱還流反応した。有機層を精製水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶剤を減圧下に留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー、昇華精製にて精製し、化合物I(2.1g)を得た。
【0266】
<m−キシレンに対する溶解度測定>
上記[化合物Iの合成]で合成された化合物Iと、下記構造式で示す比較化合物X−A、及びX−Bのm−キシレンへの溶解度を調べ、その結果を表1に表した。
【0267】
【化49】

【0268】
【表1】

【0269】
表1に示すが如く、本発明の電荷輸送材料は、有機溶剤に対する溶解性が高いことが確認された。
[有機電界発光素子の作製]
(実施例1)
図1に示す有機電界発光素子を、以下の方法により作製した。
17.5mm×35mm(厚さ0.7mm)サイズのガラス基板1を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
このガラス基板1の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nm成膜したもの(スパッタ成膜品、シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術により2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。
陽極2を形成した基板1を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0270】
正孔注入層を形成するポリマー材料として、下記式に示す構造の高分子化合物P−1(重量平均分子量(MwA):93000、分散度:1.69)、電子受容性化合物兼重合反応開始剤として、下記式に示す構造の化合物A−1、及び溶剤として安息香酸エチルを含有する正孔注入層形成用組成物を調製した。該組成物中、高分子化合物P−1は2.0質量%、化合物A−1は0.8質量%の濃度とした。
この組成物を、スピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒、大気中にてスピンコート法により、陽極2上に成膜し、230℃で3時間加熱することにより、高分子化合物P−1を架橋させ、乾燥させることにより、膜厚45nmの均一な薄膜(正孔注入層3)を形成した。
【0271】
【化50】

【0272】
【化51】

【0273】
引き続き、正孔輸送層を形成するポリマー材料として、下記式に示す構造の高分子化合物P−2(重量平均分子量(MwB):66000、分散度:1.56)、及び溶剤としてシクロヘキシルベンゼンを含有する正孔輸送層形成用組成物を調製した。該組成物中、高分子化合物P−2は、1.4質量%の濃度とした。
この組成物を、スピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒、窒素中にてスピンコート法により、正孔注入層3上に成膜し、230℃で1時間、窒素中にて加熱することにより、高分子化合物P−2を架橋させ、乾燥させることにより、膜厚20nmの均一な薄膜(正孔輸送層4)を形成した。
【0274】
【化52】

【0275】
次に、電荷輸送性化合物として、下記式に示す化合物C1及び合成例で得た化合物I、燐光発光性金属錯体D1、並びに溶剤としてシクロヘキシルベンゼンを含有する発光層形成用組成物を調製した。該組成物中、化合物C1は1.1質量%、化合物Iは3.4質量%、燐光発光性金属錯体D1は0.3質量%の濃度とした。
この組成物を、スピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒、窒素中にてスピンコート法により、正孔輸送層4上に成膜し、減圧下(0.1MPa)、130℃で1時間加熱することにより、乾燥させ、膜厚50nmの均一な薄膜(発光層5)を形成した。
【0276】
【化53】

【0277】
【化54】

【0278】
【化55】

【0279】
ここで、発光層5までを成膜した基板を、真空蒸着装置内に移し、装置内の真空度が1.3×10-4Pa以下になるまで排気した後、下記に示す化合物C2を真空蒸着法によって発光層5の上に積層し、正孔阻止層6を得た。蒸着速度は1.4〜1.5Å/秒の範囲で制御し、膜厚は10nmとした。また、蒸着時の真空度は1.3×10-4Paであった。
【0280】
【化56】

【0281】
続いて、下記に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(ET−1)を加熱して正孔阻止層6上に蒸着を行い、電子輸送層7を成膜した。蒸着時の真空度は1.3×10-4Pa、蒸着速度は1.6〜1.8Å/秒の範囲で制御し、膜厚は30nmとした。
【0282】
【化57】

【0283】
ここで、電子輸送層7までの蒸着を行った素子を一度取り出し、別の蒸着装置に設置し、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、装置内の真空度が2.3×10-4Pa以下になるまで排気を行った。
【0284】
電子注入層8として、先ずフッ化リチウム(LiF)を、蒸着速度0.1Å/秒、0.5nmの膜厚で電子輸送層7の上にモリブデンボートを用いて成膜した。蒸着時の真空度は2.6×10-4Paであった。
【0285】
次に、陰極9としてアルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度1.0〜4.9Å/秒の範囲で制御し、膜厚80nmのアルミニウム層を形成した。蒸着時の真空度は2.6×10-4Paであった。以上の2層の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0286】
引き続き、素子が保管中に大気中の水分等で劣化することを防ぐため、以下に記載の方法で封止処理を行った。
【0287】
窒素グローブボックス中で、23mm×23mmサイズのガラス板の外周部に、約1mmの幅で光硬化性樹脂(スリーボンド製30Y−437)を塗布し、中央部に水分ゲッターシート(ダイニック社製)を設置した。この上に、陰極形成を終了した基板を、蒸着された面が乾燥剤シートと対向するように貼り合わせた。その後、光硬化性樹脂が塗布された領域のみに紫外光を照射し、樹脂を硬化させた。
【0288】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性は、1000cd/m2時の駆動電圧が7.9V、1000cd/m2時の発光効率が40.0cd/A、10mA時の駆動電圧(V):9.4Vであった。
この結果から、本発明の有機電界発光素子は、高発光効率であることが分かった。
【0289】
[化合物IIの合成]
(化合物5の合成)
【0290】
【化58】

【0291】
窒素雰囲気下、1−ナフチルボロン酸(20.0 g, 116.3mmol)、3-ヨードブロモベンゼン(36.2 g, 128 mmol)に、トルエン(174 mL)、2M-炭酸ナトリウム水溶液(181 mL)、及びエタノール(88 mL)を加え、10分間窒素を通して脱気を行った。混合物にテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(1.34 g)を添加し、還流させながら6時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を水に注ぎ、トルエンで抽出した。有機層を精製水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶剤を減圧下に留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物5(26.7 g)を得た。
【0292】
(化合物6の合成)
【0293】
【化59】

【0294】
窒素雰囲気下、化合物5(27.2 g, 96mmol)に脱水THF 353.7 mLを加え、10分間窒素を通して脱気を行った。溶液を-75℃まで冷却したのち、1.6M n-ブチルリチウムヘキサン溶液72.0 mlを滴下した。-75℃で1時間した後、トリメトキシボラン(31.9g, 307mmol)を滴下した。-75℃で2時間攪拌したのち、室温まで昇温した。溶液に1N 塩酸溶液177mLを加え、30分攪拌した。溶液に酢酸エチル101 mLを加え、有機層を精製水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶剤を減圧下に留去した。化合物6(29.8g)を得た。
【0295】
(化合物7の合成)
【0296】
【化60】

【0297】
窒素雰囲気下、化合物6(29.8g, 120mmol)、4-ヨードブロモベンゼン(40.78g,144 mmol)に、トルエン(631.7 mL)、2M-炭酸ナトリウム水溶液(327.8 mL)、及びエタノール(315.7 mL)を加え、10分間窒素を通して脱気を行った。混合物にテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(2.01g)を添加し、還流させながら6時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を水に注ぎ、トルエンで抽出した。
有機層を精製水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶剤を減圧下に留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物7(27.32 g)を得た。
【0298】
(化合物8の合成)
【0299】
【化61】

【0300】
窒素雰囲気下、m−カルバゾリルフェニルボロン酸(28.04 g, 98 mmol)、4-ブロモアニリン (16.00g,93 mmol)に、トルエン(558.4 mL)、2M-炭酸ナトリウム水溶液(278.7 mL)、及びエタノール(279.5 mL)を加え、10分間窒素を通して脱気を行った。混合物にテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(2.15g)を添加し、還流させながら6時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を水に注ぎ、トルエンで抽出した。
有機層を精製水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶剤を減圧下に留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物8(27.37 g)を得た。
【0301】
【化62】

【0302】
200 ml四つ口フラスコに、化合物8 (5.0g、615.0mmol)、化合物 7 (4.8g,13.5mmol)、NaOtBu (4.88g, 50mmol)、及びトルエン100mLを加え、30分窒素バブリングした(溶液A)。一方、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(77mg)のトルエン溶液(6mL)に、トリ−t−ブチルホスフィン(121mg)を加え、65℃まで加温した(溶液B)。窒素気流中、溶液Aに溶液Bを添加し、4時間加熱還流反応した。有機層を精製水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶剤を減圧下に留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物9 (6.4g)を得た。
【0303】
【化63】

【0304】
200 ml四つ口フラスコに、化合物9 (3.8g、6.2mmol)、化合物4 (2.3g7.4mmol)、NaOtBu (2.0g, 21mmol)、及びトルエン76mLを加え、30分窒素バブリングした(溶液A)。一方、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(32mg)のトルエン溶液(6mL)に、トリ−t−ブチルホスフィン(50mg)を加え、65℃まで加温した(溶液B)。窒素気流中、溶液Aに溶液Bを添加し、4時間加熱還流反応した。有機層を精製水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶剤を減圧下に留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物II (4.4g)を得た。
【0305】
[化合物IIIの合成]
【0306】
【化64】

【0307】
100 ml四つ口フラスコに、化合物9 (0.65g, 1.1mmol)、4−ブロモビフェニル (0.36g, 1.3mmol)、NaOtBu (0.35g, 3.6mmol)、及びトルエン30mLを加え、30分窒素バブリングした(溶液A)。一方、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(5.5mg)のトルエン溶液(5mL)に、トリ−t−ブチルホスフィン(8.6mg)を加え、65℃まで加温した(溶液B)。窒素気流中、溶液Aに溶液Bを添加し、4時間加熱還流反応した。有機層を精製水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶剤を減圧下に留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー、昇華精製装置にて精製し、化合物III (0.44g)を得た。
【0308】
[化合物X−Cの合成]
【0309】
【化65】

【0310】
300 ml四つ口フラスコに、化合物9 (0.43g 0.70mmol)、4−ブロモターフェニル (0.26g, 0.84mmol)、NaOtBu (0.23g, 2.4mmol)、及びトルエン10mLを加え、30分窒素バブリングした(溶液A)。一方、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(3.6 mg)のトルエン溶液(5mL)に、トリ−t−ブチルホスフィン(5.7 mg)を加え、65℃まで加温した(溶液B)。窒素気流中、溶液Aに溶液Bを添加し、4時間加熱還流反応した。有機層を精製水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶剤を減圧下に留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー、昇華精製装置にて精製し、化合物X−C (0.13g)を得た。
【0311】
(実施例2)
図1に示す有機電界発光素子を、以下の方法により作製した。
25mm×37.5mm(厚さ0.7mm)サイズのガラス基板1を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
このガラス基板1の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を70nm成膜したもの(スパッタ成膜品、シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術により2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。
陽極2を形成した基板1を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
正孔注入層を形成するポリマー材料は、実施例1に用いた組成物を使用した。
この組成物を、スピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒、大気中にてスピンコート法により、陽極2上に成膜し、230℃で1時間加熱することにより、高分子化合物P−1を架橋させ、乾燥させることにより、膜厚30nmの均一な薄膜(正孔注入層3)を形成した。
【0312】
【化66】

【0313】
引き続き、正孔輸送層を形成するポリマー材料として、下記式に示す構造の高分子化合物P−2(重量平均分子量(MwB):66000、分散度:1.56)、及び溶剤としてシクロヘキシルベンゼンを含有する正孔輸送層形成用組成物を調製した。該組成物中、高分子化合物P−2は、1.1質量%の濃度とした。
この組成物を、スピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間120秒、窒素中にてスピンコート法により、正孔注入層3上に成膜し、230℃で1時間、窒素中にて加熱することにより、高分子化合物P−2を架橋させ、乾燥させることにより、膜厚14nmの均一な薄膜(正孔輸送層4)を形成した。
【0314】
【化67】

【0315】
次に、電荷輸送性化合物として、下記式に示す化合物C3及び合成例で得た化合物II、燐光発光性金属錯体D2、並びに溶剤としてシクロヘキシルベンゼンを含有する発光層形成用組成物を調製した。該組成物中、化合物C1は1.25質量%、化合物IIは3.75質量%、燐光発光性金属錯体D2は0.7質量%の濃度とした。
この組成物を、スピナ回転数1700rpm、スピナ回転時間120秒、窒素中にてスピンコート法により、正孔輸送層4上に成膜し、130℃で10分間窒素中にて加熱することにより、乾燥させ、膜厚63nmの均一な薄膜(発光層5)を形成した。
【0316】
【化68】

【0317】
ここで、発光層5までを成膜した基板を、真空蒸着装置内に移し、装置内の真空度が0.9×10-6Torr以下になるまで排気した後、実施例1に使用した化合物C2を真空蒸着法によって発光層5の上に積層し、正孔阻止層6を得た。蒸着速度は0.8〜1.0Å/秒の範囲で制御し、膜厚は10nmとした。また、蒸着時の真空度は0.9×10-6Paであった。
続いて、実施例1に使用した(ET−1)を加熱して正孔阻止層6上に蒸着を行い、電子輸送層7を成膜した。蒸着時の真空度は0.8×10-6Torr、蒸着速度は0.8〜1.0Å/秒の範囲で制御し、膜厚は20nmとした。
ここで、電子輸送層7までの蒸着を行った素子を一度取り出し、別の蒸着装置に設置し、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、装置内の真空度が2.1×10-4Pa以下になるまで排気を行った。
電子注入層8として、先ずフッ化リチウム(LiF)を、蒸着速度0.08〜0.14Å/秒、0.5nmの膜厚で電子輸送層7の上にモリブデンボートを用いて成膜した。蒸着時の真空度は2.7×10-4Paであった。
次に、陰極9としてアルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度1.0〜5.1Å/秒の範囲で制御し、膜厚80nmのアルミニウム層を形成した。蒸着時の真空度は5.1×10-4Paであった。以上の2層の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
引き続き、素子が保管中に大気中の水分等で劣化することを防ぐため、実施例1と同様の封止処理を行った。
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性は、10 mA/cm2 時の駆動電圧が7.18V、輝度が初期輝度に対して95%まで減少するまでの時間が40h、輝度が初期輝度に対して95%まで減少した際の駆動電圧上昇が0.05Vであった。
【0318】
(実施例3)
化合物IIの代わりに化合物IIIを用いる以外は、実施例2と同様に操作した。
【0319】
【化69】

【0320】
この素子の発光特性は、10 mA/cm2 時の駆動電圧が7.12V、輝度が初期輝度に対して95%まで減少するまでの時間40h、輝度が初期輝度に対して95%まで減少した際の駆動電圧上昇が0.06Vであった。
【0321】
(比較例3)
化合物IIの代わりに前記化合物X−Aを用いる以外は、実施例2と同様に操作した。
この素子の発光特性は、10 mA/cm2 時の駆動電圧が8.63V、輝度が初期輝度に対して95%まで減少するまでの時間20h、輝度が初期輝度に対して95%まで減少した際の駆動電圧上昇が0.19Vであった。
【0322】
(比較例4)
化合物IIの代わりに前記化合物X−Cを用いる以外は、実施例2と同様に操作した。
化合物X−Cは、溶解した後、結晶化し、素子化することすらできなかった。
【0323】
上記得られた結果をまとめて表2に示す。
【0324】
【表2】

【0325】
上記の結果から、本発明の電荷輸送材料を用いた有機電界発光素子は、駆動電圧が低く、駆動寿命が長く、駆動時の電圧上昇も小さいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0326】
本発明の電荷輸送材料は、有機EL光素子が使用される各種の分野、例えば、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯等の分野において、好適に使用することが出来る。
また、本発明の電荷輸送材料は、本質的に優れた耐酸化還元安定性を有することから、有機電界発光素子に限らず、電子写真感光体や有機太陽電池など有機デバイス全般に有用である。
【符号の説明】
【0327】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるモノアミン化合物。
【化1】

(一般式(1)中、R1〜R3は、各々独立して、o−位及び/又はm−位に置換基を有していてもよいフェニル基を示し、該置換基同士が結合して環構造を形成してもよい。
尚、R1〜R3は、各々互いに異なる基である。)
【請求項2】
前記モノアミン化合物が、更に下記構造式(2−1)で表される部分構造を有する請求項1に記載のモノアミン化合物。
【化2】

(但し、構造式(2−1)中、フェニル基は更に置換基を有していてもよく、該置換基同士が結合して環構造を形成していてもよい。)
【請求項3】
前記一般式(1)において、R1〜R3は、各々独立して、m−位に置換基を有していてもよいフェニル基である請求項1又は2に記載のモノアミン化合物。
【請求項4】
1〜R3の少なくとも一つは、下記一般式(2−2)で表される部分構造を有する基である請求項1〜3のいずれか1項に記載のモノアミン化合物。
【化3】

(一般式(2−2)中におけるXは、−NR4−(R4は、結合手又は置換基を有していてもよいアリール基を示す。)、−O−、及び−S−のいずれかを示す。又、一般式(2−2)中のXを含む縮合環は、更に置換基を有していてもよく、該置換基同士が結合して環構造を形成していてもよい。)
【請求項5】
前記一般式(2−2)で表される部分構造が下記構造式(3)で表される部分構造である請求項4に記載のモノアミン化合物。
【化4】

(上記構造式(3)中において、N−カルバゾール環は、更に置換基を有していてもよく、該置換基同士が結合して環構造を形成していてもよい。)
【請求項6】
1〜R3の少なくとも一つは、下記一般式(11)で表される基である請求項1〜4のいずれか1項に記載のモノアミン化合物。
【化5】

(一般式(11)中、Qは、直接結合又は任意の連結基を示す。Yは、一般式(2−2)におけるXと同義である。又、一般式(11)中のYを含む縮合環は、置換基を有していてもよく、該置換基同士が結合して環構造を形成してもよい。)
【請求項7】
25℃、大気圧下におけるm−キシレンに対する溶解度が、5質量%以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載のモノアミン化合物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のモノアミン化合物からなる電荷輸送材料。
【請求項9】
請求項8に記載の電荷輸送材料と溶剤とを含有することを特徴とする電荷輸送膜用組成物。
【請求項10】
基板上に、陽極、陰極、及びこれら両極間に設けられた発光層を有する有機電界発光素子において、請求項8に記載の電荷輸送材料を含有する発光層を有することを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項11】
請求項10に記載の有機電界発光素子を具備することを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項12】
請求項10に記載の有機電界発光素子を具備することを特徴とする有機EL照明。

【図1】
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【公開番号】特開2011−68639(P2011−68639A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189102(P2010−189102)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】