説明

電解コンデンサおよび電解コンデンサの製造方法

【課題】電気特性の優れた電解コンデンサを提供する。
【解決手段】本発明は、帯状の金属箔と前記金属箔の表面に設けられた誘電体被膜とからなる陽極体が、長手方向に巻回された電解コンデンサであって、陽極体の表面に設けられた第1導電性高分子層を備え、第1導電性高分子層は、陽極体の表面のうち、陽極体の幅方向における中心部よりも、陽極体の幅方向における端部に厚く存在するように設けられている、電解コンデンサである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサおよび電解コンデンサの製造方法、特に巻回型の電解コンデンサおよび電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化の流れに加え、CPUなどの信号処理の高速化、高電圧化の求めに伴い、電解コンデンサにおいて、等価直列抵抗(以下、「ESR」という。)の低減、等価直列インダクタンス(以下、「ESL」という。)の低減、耐電圧性能の向上など、種々の電気特性の向上が図られている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、導電性高分子層の導電性を向上させるべく、高導電化剤を含む導電性高分子層を形成する技術が記載されている。特許文献1によれば、導電性高分子層の導電性を向上させることにより、電解コンデンサのESRの低減を図ることができ、これにより、電解コンデンサの電気特性が向上するとされている。
【0004】
上記のような導電性高分子層を備える電解コンデンサとして、帯状の金属箔からなる陽極体が長手方向に巻回された構成のコンデンサ素子を有する、巻回型の電解コンデンサがある。巻回型の電解コンデンサは、大量生産の観点から、現在、以下のように作製されている。
【0005】
すなわち、まず、大面積の金属箔に化成処理を行い、該金属箔の表面に誘電体被膜を形成する。次に、大面積の金属箔を、コンデンサ素子に必要な陽極体の大きさに裁断して陽極体を形成する。このとき、裁断されることによって新たに露出した陽極体の端面には、誘電体被膜は形成されておらず、また、端面近傍の側面においても、裁断によって生じた誘電体被膜の欠損部が存在している。
【0006】
次に、作製した陽極体の表面に、リード線と陽極体とを電気的に接続するためのリードタブを配置し、該リードタブを巻き込みながら陽極体を長手方向に巻回することにより、巻回素子を作製する。そして、作製された巻回素子に対して再化成処理を行って、陽極体の端面や側面の誘電体被膜の欠損部に誘電体被膜を形成した後に、化学酸化重合などを行なって導電性高分子層を形成する。
【0007】
以上の製造工程により、巻回型の電解コンデンサに用いられるコンデンサ素子が作製される。そして、該コンデンサ素子をケースに収容して、封止することにより、巻回型の電解コンデンサが作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−184318号公報
【特許文献2】特開2007−53292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の製造方法では、陽極体における誘電体被膜の欠損部、特に、陽極体の端面に多く存在する誘電体被膜の欠損部を十分に修復することが難しい傾向にあった。電解コンデンサにおいて、陽極体に欠損部が残存していると、静電容量の低下、ショートの発生、漏れ電流の発生など、種々の電気特性の低下を引き起こすという問題がある。
【0010】
上記問題に対応し、たとえば、特許文献2には、巻回素子をトリエタノールアミン溶液に浸漬してから再化成処理を行うことにより、陽極体の切り口部(端面)での誘電体被膜の成長を促進する技術が記載されている。
【0011】
しかしながら、特許文献2の技術では、トリエタノールアミン溶液の残渣がコンデンサ素子中に存在するために、静電容量の低下、ESRの増大といった電気特性の低下が引き起こされるという問題があった。
【0012】
上記事情に鑑みて、本発明は、電気特性の優れた電解コンデンサおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様は、帯状の金属箔と該金属箔の表面に設けられた誘電体被膜とからなる陽極体と、帯状の金属箔からなる陰極体とが、長手方向に巻回された巻回素子を備えた電解コンデンサであって、陽極体の表面に設けられた第1導電性高分子層を備え、第1導電性高分子層は、陽極体の表面のうち、陽極体の幅方向における中心部よりも、陽極体の幅方向における端部に厚く存在するように設けられている、電解コンデンサである。
【0014】
上記電解コンデンサにおいて、第1導電性高分子層は、導電性固体の粒子を含む分散液および導電性固体が溶解された溶液の少なくとも一方からなる液状組成物を用いて形成されることが好ましい。
【0015】
本発明の第2の態様は、帯状の金属箔と該金属箔の表面に設けられた誘電体被膜とからなる陽極体が、長手方向に巻回された巻回素子を備える電解コンデンサの製造方法であって、陽極体の表面のうち、陽極体の幅方向における中心部よりも陽極体の幅方向における端部に厚く存在するように、第1導電性高分子層を形成する工程とを含み、第1導電性高分子層を形成する工程において、導電性固体の粒子を含む分散液および導電性固体が溶解された溶液の少なくとも一方からなる液状組成物を用いて、導電性固体を含む前記第1導電性高分子層を形成する、電解コンデンサの製造方法である。
【0016】
本発明の第3の態様は、帯状の金属箔と該金属箔の表面に設けられた誘電体被膜とからなる陽極体が、長手方向に巻回された巻回素子を備える電解コンデンサの製造方法であって、巻回素子に導電性固体の粒子を含む分散液および導電性固体が溶解された溶液の少なくとも一方からなる液状組成物を含浸させる工程と、液状組成物を含浸させた巻回素子を、大気圧以下の減圧環境下で液状組成物の溶媒の沸点以上の温度で加熱して、導電性固体を含む第1導電性高分子層を形成する工程とを含む、電解コンデンサの製造方法である。
【0017】
本発明の第4の態様は、帯状の金属箔と該金属箔の表面に設けられた誘電体被膜とからなる陽極体が、長手方向に巻回された巻回素子を備える電解コンデンサの製造方法であって、巻回素子の上面側および底面側に位置する陽極体の端部に、導電性固体の粒子を含む分散液および導電性固体が溶解された溶液の少なくとも一方からなる液状組成物を塗布する工程と、液状組成物が塗布された巻回素子を加熱して、導電性固体を含む第1導電性高分子層を形成する工程とを含む、電解コンデンサの製造方法。
【0018】
本発明の第5の態様は、帯状の金属箔と該金属箔の表面に設けられた誘電体被膜とからなる陽極体が、長手方向に巻回された巻回素子を備える電解コンデンサの製造方法であって、陽極体の表面のうち、陽極体の幅方向における中心部よりも陽極体の幅方向における端部に厚く存在するように、陽極体の表面に導電性固体の粒子を含む分散液および導電性固体が溶解された溶液の少なくとも一方からなる液状組成物を塗布する工程と、液状組成
物が塗布された陽極体を加熱して、導電性固体を含む第1導電性高分子層を形成する工程と、第1導電性高分子層が形成された陽極体を長手方向に巻回して巻回素子を形成する工程とを含む、電解コンデンサの製造方法である。
【0019】
本発明によれば、電気特性の優れた電解コンデンサおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明における電解コンデンサの一実施形態を示す模式的な断面図である。
【図2】コンデンサ素子の構成を説明するための概略図である。
【図3】コンデンサ素子の内部構造の一部を示す概略的な断面図である。
【図4】陽極体上の導電性高分子層の構成の一例を示す模式的な断面図である。
【図5】陽極体上の導電性高分子層の構成の別の一例を示す模式的な断面図である。
【図6】実施の形態2の電解コンデンサの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図7】製造工程中に作製される巻回素子の構成を示す概略図である。
【図8】実施の形態3の電解コンデンサの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図9】実施の形態4の電解コンデンサの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図10】陽極体上の導電性高分子層の構成のまた別の一例を示す模式的な断面図である。
【図11】陽極体上の導電性高分子層の構成のさらに別の一例を示す模式的な断面図である。
【図12】実施の形態5の電解コンデンサの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図13】実施例1で形成された第1導電性高分子層のSEM写真である。
【図14】比較例1で形成された第1導電性高分子層のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る電解コンデンサの実施の形態を説明する。以下の実施の形態は一例であり、本発明の範囲内で種々の実施の形態での実施が可能である。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0022】
(実施の形態1)
図1〜図4を用いて、本発明の実施の形態1の電解コンデンサについて説明する。図1は、本発明における電解コンデンサの一実施形態を示す模式的な断面図であり、図2は、コンデンサ素子の構成を説明するための概略図である。また、図3はコンデンサ素子の内部構造の一部を示す概略的な断面図であり、図4は、陽極体上の導電性高分子層の構成の一例を示す模式的な断面図である。
【0023】
図1を参照し、電解コンデンサは、コンデンサ素子10と、有底ケース11と、封止部材12と、座板13と、リード線14A,14Bと、リードタブ15A,15Bとを備える。
【0024】
上記コンデンサ素子10は、図2に示すように、帯状の陽極体21と、帯状の陰極体22とが、セパレータ23を介して陽極体21の長手方向に巻回された構成を有しており、その最外周は、巻止めテープ24により止められている。コンデンサ素子10の断面は、図3に示すように、陽極体21と陰極体22とが交互に配列された間にセパレータ23が
介在している積層構造が連続している状態となっている。なお、図3において、図中上下方向が帯状の陽極体21の幅方向であり、紙面上方から紙面裏面方向が陽極体21の長手方向である。
【0025】
図2に戻り、コンデンサ素子10において、リードタブ15Aは陽極体21の表面に接するように、陽極体21とセパレータ23との間に配置されている。また、リードタブ15Bは陰極体22の表面に接するように、陰極体22とセパレータ23との間に配置されている。すなわち、各リードタブ15A,15Bは、陽極体21および陰極体22にそれぞれ接続された状態で、コンデンサ素子10内に巻き込まれている。また、リードタブ15Aおよび15Bには、それぞれリード線14Aおよび14Bが接続されている。なお、図2では、コンデンサ素子10の最外周を一部展開した状態を示している。
【0026】
陽極体21は、帯状の金属箔と、該金属箔の表面に設けられた誘電体被膜とからなる。帯状の金属箔の表面は、エッチングなどによって粗面化されており、陽極体21は大きな表面積を有している。金属箔は、特に限定されず、たとえば、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁作用金属からなる金属箔を用いることができる。誘電体被膜は、たとえば、金属箔の表面を化成処理することによって形成することができ、この場合の誘電体被膜は、金属箔の金属の酸化物となる。また、誘電体被膜を金属箔上に積層させて形成することもできる。
【0027】
陰極体22は、特に限定されず、たとえば、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁作用金属からなる金属箔を用いることができる。陽極体21と陰極体22を構成する金属は同じでもよく、異なっていてもよい。
【0028】
セパレータ23は、特に限定されず、たとえば、合成セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ビニロン、アラミド繊維などを主成分とする不織布などを用いることができる。また、リード線14A,14Bおよびリードタブ15A,15Bの材料も特に限定されず、公知の材料を用いることができる。
【0029】
さらに、コンデンサ素子10において、陽極体21と陰極体22との間には、不図示の導電性高分子層が存在しており、この導電性高分子層の存在によって、コンデンサとしての機能を発揮することができる。本実施の形態の電解コンデンサは、なかでも、陽極体21上の導電性高分子層に特徴がある。以下、陽極体21上の導電性高分子層について、図4を用いて説明する。
【0030】
図4は、陽極体上の導電性高分子層の構成の一例を示す模式的な断面図であり、陽極体の長手方向に垂直な断面を示している。すなわち、図4において、紙面上方から紙面裏面方向が陽極体21の長手方向であり、図中上下方向(L方向)が陽極体21の幅方向であり、図中左右方向が陽極体21の厚み方向である。また、以下、図4において、陽極体21の表面のうち、陽極体の幅方向における中心部分(図中L0の範囲)に位置する部分を中心部21aとし、陽極体の幅方向における端部分(図中L1およびL2の範囲)に位置する各部分を端部21bとする。なお、理解を容易にするために、図4において、端部21bに相当する陽極体21の表面を太線で示す。
【0031】
図4を参照し、陽極体21の表面には、第1導電性高分子層32aと第2導電性高分子層32bとを含む導電性高分子層32が設けられており、さらに第1導電性高分子層32aは、陽極体21の表面のうち、中心部21aよりも端部21bに厚く存在するように設けられている。ここでの「厚さ」は、第1導電性高分子層32aにおける陽極体21に接する表面側から反対の表面側までの距離をいう。
【0032】
また、第2導電性高分子層32bは、第1導電性高分子層32a上に設けられている。第2導電性高分子層32bは、第1導電性高分子層32a上の少なくとも一部に設けられていてもよく、図4に示すように、第1導電性高分子層32aの表面全体を覆うように、設けられても良い。少なくとも、陽極体21の表面全体が、導電性高分子層32によって被覆されていればよい。
【0033】
本実施の形態によれば、陽極体21の表面のうち、誘電体被膜の欠損部が多く存在する端部21bに、第1導電性高分子層32aを厚く設けることによって、誘電体被膜の欠損部の局所的な修復が可能となる。この理由は以下の通りである。
【0034】
すなわち、誘電体被膜の欠損部を有する電解コンデンサに電圧をかけた場合、欠損部に電流が集中する。これに伴い、欠損部が多く存在する陽極体21の端部21bの温度が上昇する。端部21bの温度上昇によって、端部21b上の第1導電性高分子層32aが熱分解されて絶縁性の絶縁層へと変化するが、第1導電性高分子層32aは端部21b上に厚く存在しているため、絶縁層を十分な厚さで形成することができる。これにより、欠損部は絶縁層によって十分に覆われることができ、もって、欠損部に由来する静電容量の低下、ESRの増加、漏れ電流の増加などの電気特性の低下を抑制することができる。
【0035】
特に、第1導電性高分子層32aは、導電性固体の粒子を含む分散液および導電性固体が溶解された溶液の少なくとも一方からなる液状組成物を用いて形成されることが好ましい。ここで、導電性固体とは、溶媒中に粒子の状態で分散され得る導電性高分子、または溶媒中に溶解され得る導電性高分子であり、上記液状組成物とは、具体的には、導電性固体が溶媒中に分散された分散液、および導電性固体が溶媒中に溶解された溶液のいずれかからなる液状組成物、又は、上記分散液と上記溶液とからなる液状組成物である。なお、分散液において、粒子は凝集した状態で溶媒中に分散されていてもよい。
【0036】
このような液状組成物を用いて形成された第1導電性高分子層32aは、陽極体21の表面上に各導電性高分子が絡まりあうことによって、または接着しあうことによって構成される層であり、換言すれば、導電性固体を含む層である。導電性固体は、化学重合や電解重合によって形成される導電性高分子層よりも分子量が小さい傾向にあり、その重量平均分子量は、たとえば、103以上106以下である。
【0037】
第1導電性高分子層32aが導電性固体を含む層であることにより、化学重合、電解重合などによって形成される導電性高分子層と比較して、陽極体との高い密着性を有することができる。したがって、結果的に、第1導電性高分子層32aが熱分解されることによって形成される絶縁層と陽極体21との密着性も向上するため、さらに、誘電体被膜の欠損部の被覆性を高めることができる。
【0038】
導電性固体としては、たとえば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン若しくはポリフラン、またはこれらの誘導体などの高分子に、ドーパントが付与されたものを用いることができる。なかでも、ポリチオフェンまたはその誘導体は導電性が高いために好ましく、特に、ポリエチレンジオキシチオフェンからなる導電性固体が好ましい。また、ドーパントとしては、ポリスチレンスルホン酸、ポリスルホン酸、ポリビニルスルホン酸などがある。なかでも、ポリスチレンスルホン酸は、上記高分子に高い導電性を付与することができる点で好ましい。市販の導電性固体としては、BaytronP(スタルクヴィテック株式会社製)、Denatron#5002LA(長瀬産業株式会社製)、ポリアニリン(出光興産株式会社製)などを用いることができる。
【0039】
なお、導電性固体を分散させる溶媒および/または溶解させる溶媒としては、導電性固体を分散可能な溶媒、または溶解可能な溶媒であればよい。たとえば、水、メタノール、
エタノール、エチレングリコール、ブタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−メチルカプロラクタム、N−メチルホルムアミドなどを用いることができ、これらを混合して用いてもよい。
【0040】
第2導電性高分子層32bは、第1導電性高分子層32aと同様であってもよく、化学酸化重合または電解重合によって形成される導電性高分子層であってもよい。化学酸化重合または電解重合によって形成される導電性高分子層としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン若しくはポリフラン、またはこれらの誘導体などの基本骨格に、アルキルスルホン酸、芳香族スルホン酸、多環芳香族スルホン酸などのスルホン酸化合物、あるいは硝酸、硫酸などのドーパントが付与されたものが挙げられる。なかでも、p−トルエンスルホン酸は、高い導電性を付与できる点で好ましい。
【0041】
図1に戻り、上述のコンデンサ素子10は、リードタブ15A,15Bが導出される上面が露出するように、有底ケース11に収納されている。有底ケース11内のコンデンサ素子10の上面には、リード線14A,14Bが貫通するように形成された封止部材12が配置されており、この構成によって、コンデンサ素子10は、有底ケース11内に封止さる。また、有底ケース11の開口端近傍は、横絞りされてカール加工されており、加工されたカール部分には座板13が配置されている。
【0042】
有底ケース11の材料は特に限定されず、たとえば、アルミニウム、ステンレス、銅、鉄、真鍮などの金属、あるいはこれらの合金からなるケースを用いることができる。また、封止部材12は、絶縁性の物質であれば特に限定されない。たとえば、絶縁性の弾性体、なかでも耐熱性や密封性の比較的高い材料である、シリコンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、ハイパイロンゴム、ブチルゴム、イソプレンゴムなどの絶縁ゴムを用いることができる。
【0043】
本実施の形態1の電解コンデンサによれば、陽極体21の表面に導電性高分子層32が設けられており、陽極体21の表面のうち、中心部21aよりも端部21bに厚く存在するように、第1導電性高分子層32aが設けられている。この構成により、上述のように、陽極体21の端部21bに多く存在する誘電体被膜の欠損部を、第1導電性高分子層が変性することによって形成される絶縁層によって覆うことができるため、欠損部に由来する静電容量の低下、ESRの増加などの電気特性の低下を抑制することができる。したがって、本発明の電解コンデンサは、電気特性が優れている。
【0044】
従来、陽極体の表面の誘電体被膜の欠損部に対して、再化成処理による修復が試みられていたが、従来の技術では、陽極体の端面に集中しがちな欠損部を十分に修復することが難しく、電解コンデンサにおいて、欠損部が残存する場合があった。これに対し、本発明では、再化成処理による誘電体被膜の修復の代わりに、あるいは、再化成処理による誘電体被膜の修復に加えて、第1導電性高分子層32aが熱分解によって変性されて成る絶縁層によって欠損部を被覆することができる。
【0045】
特に、端部21b上の第1導電性高分子層32aの厚みが厚いことにより、第1導電性高分子層32aに由来する絶縁層による欠損部の十分な被覆が可能となる。また、第1導電性高分子層32aの陽極体21近傍の部分が絶縁層に変性しても、その絶縁層上に第1導電性高分子層32aが残存することができ、また、第1導電性高分子層32a上には、第2導電性高分子層32bも存在しているため、電解コンデンサの機能が低下することはない。
【0046】
また、第1導電性高分子層32aが導電性固体を含む層であることにより、第1導電性高分子層32aと陽極体との密着性、接着性が高められる。このため、第1導電性高分子層32aが導電性固体を含む層であることにより、欠損部の被覆性がより高められる。
【0047】
また、第1導電性高分子層32aの分解温度が、200℃以上280℃以下であることが好ましい。第1導電性高分子層32aの分解温度が280℃以下、より好ましくは250℃以下であることにより、欠損部の温度が過剰に上昇する前に、欠損部の修復が可能となるため、温度の上昇による欠損部の拡大化を抑制することができる。また、第1導電性高分子層32aの分解温度が200℃以上であることにより、第1導電性高分子層32aが過剰に変性されるのを抑制することができる。なお、分解温度とは、第1導電性高分子層32aを構成する導電性固体の重量が室温(25℃程度)環境下での重量の95%以下となる温度である。
【0048】
また、図4を参照し、実施の形態1の電解コンデンサにおいて、陽極体21の端部21bの幅L1およびL2は、それぞれ、陽極体の幅(L)の5%以上であることが好ましい。これにより、欠損部の保護や修復などを効率的に行なうことができる。より好ましくは、陽極体21の端部21bの幅L1またはL2が、陽極体の幅(L)の20%以上である。
【0049】
以上、図1〜図4を用いて、実施の形態1の電解コンデンサについて説明したが、本発明の電解コンデンサは上記に限られない。たとえば、図5を参照し、導電性高分子層32のうち、第1導電性高分子層32aが、陽極体21の表面のうちの端部21bにのみ厚く存在するように設けられており、第2導電性高分子層32bが第1導電性高分子層32a上と、露出する陽極体21の中心部21aの表面上に設けられていてもよい。この場合にも、実施の形態1と同様に、電解コンデンサの電気特性を向上させることができる。
【0050】
また、第1導電性高分子層32aが、陽極体21の表面のうち、中心部21aに点在するように、あるいは中心部21aを一部露出するように不均一に設けられており、端部21bには厚く存在するように設けられている場合であっても、上記と同様に、電解コンデンサの電気特性を向上させることができる。
【0051】
(実施の形態2)
本発明の電解コンデンサの製造方法は、帯状の金属箔と該金属箔の表面に設けられた誘電体被膜とからなる陽極体が、長手方向に巻回された巻回素子を備える電解コンデンサの製造方法であって、陽極体の表面のうち、陽極体の幅方向における中心部よりも陽極体の幅方向における端部に厚く存在するように、第1導電性高分子層を形成する工程と、第1導電性高分子層上に第2導電性高分子層を形成する工程と、を含み、第1導電性高分子層を形成する工程において、導電性固体の粒子を含む分散液および導電性固体が溶解された溶液の少なくとも一方からなる液状組成物を用いて、導電性固体を含む第1導電性高分子層を形成する。これにより、上述の本発明に係る電解コンデンサを製造することができる。
【0052】
以下、図1、2、4、6および図7を用いて、上記製造方法の一実施形態について具体的に説明する。図6は、実施の形態2の電解コンデンサの製造方法の一例を示すフローチャートであり、図7は、製造工程中に作製される巻回素子の構成を示す概略図である。
【0053】
まず、図6に示すように、陽極体21を形成する(ステップS11)。具体的には、まず、大判の金属箔の表面を粗面化する。金属の種類は特に限定されないが、誘電体被膜の形成が容易である点からは、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁作用金属を用いることが好ましい。また、粗面化とは、金属箔の表面に複数の凹部を設けて金属箔の表面積を大きくすることをいい、たとえば、金属箔をエッチング処理することによって、金属箔
の表面に複数の凹部を形成することができる。
【0054】
次に、粗面化された金属箔の表面に誘電体被膜を形成する。誘電体被膜の形成方法は特に限定されないが、たとえば、金属箔が弁作用金属からなる場合には、金属箔を化成処理することによって、金属箔の表面を誘電体被膜にすることができる。化成処理とは、金属箔をアジピン酸アンモニウム溶液、リン酸水溶液などの化成液に浸漬して熱処理する方法であり、あるいは、金属箔を上記化成液に浸漬して電圧を印加する方法である。
【0055】
次に、誘電体被膜が形成された大判の金属箔を所定の大きさに裁断して、陽極体21を形成する。本工程(ステップS11)により、金属箔上に誘電体被膜が設けられた陽極体21が形成される。
【0056】
次に、陽極体21の表面のうち、陽極体21の幅方向における中心部21aよりも、陽極体21の幅方向における端部21bに厚く存在するように、第1導電性高分子層32aを形成するために、以下のステップS12〜S14を行なう。
【0057】
すなわち、まず、図6および図7に示すように、巻回素子20を作製する(ステップS12)。図7に示す巻回素子20は、コンデンサ素子10のうち、導電性高分子層32が形成されていない状態の構造体に相当し、上面20aと、底面20bと、側面20cとを備える。上面20aおよび底面20bには、巻回された陽極体21、陰極体22およびセパレータ23の端面(エッジ)が露出している状態となっている。
【0058】
巻回素子20の作製は、まず、陽極体21と陰極体22とを、セパレータ23を介して巻回する。このとき、リード線14A,14Bがそれぞれ接続されたリードタブ15A,15Bをそれぞれ、陽極体21とセパレータ23との間および陰極体22とセパレータ23との間に巻き込みながら巻回することにより、図7に示すように、リードタブ15A,15Bを巻回素子20中に立設させることができる。そして、巻回された陽極体21、陰極体22およびセパレータ23のうち、最外層に位置する陰極体22の外側表面に、巻止めテープ24を配置し、陰極体22の端部を巻止めテープ24で止めることによって、巻回素子20を作製する。そして、巻回素子20を化成液に浸漬して、陽極体21の再化成処理を行う。なお、再化成処理は行なわなくても良い。
【0059】
次に、図6に示すように、第1液状組成物を巻回素子20へ含浸させる(ステップS13)。具体的には、作製された巻回素子20を第1液状組成物に浸漬させて巻回素子20内に第1液状組成物を含浸させる。これにより、巻回素子20内の陽極体21の表面に第1液状組成物が付着する。
【0060】
第1液状組成物は、実施の形態1でも述べたように、導電性固体の粒子を含む分散液および導電性固体が溶解された溶液の少なくとも一方からなる液状組成物である。導電性固体とは、上述のように、溶媒中に粒子の状態で、若しくは凝集体の状態で分散され得る導電性高分子、または溶媒中に溶解され得る導電性高分子である。具体的には、溶媒中に分散され得る導電性固体としては、たとえば、ポリピロール、ポリチオフェン、若しくはポリフラン、またはこれらの誘導体などの高分子に、ドーパントが付与されたものが挙げられる。溶媒中に溶解され得る導電性固体としては、たとえば、ポリアニリン、またはその誘導体などの高分子にドーパントが付与されたものが挙げられる。市販の導電性固体としては、上記のように、BaytronP(スタルクヴィテック株式会社製)、Denatron#5002LA(長瀬産業株式会社製)、ポリアニリン(出光興産株式会社製)などを用いることができる。
【0061】
また、溶媒としては、導電性固体を分散可能な溶媒、または溶解可能な溶媒であればよ
い。たとえば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ブタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−メチルカプロラクタム、N−メチルホルムアミドなどを用いることができ、これらを混合して用いてもよい。
【0062】
ただし、第1液状組成物の溶媒は、後述する減圧下での加熱処理において、素早く移動する(流れる)ことができ、また、素早く蒸発除去されることが好ましいため、沸点の低い溶媒が好ましく、本発明者は、中でも、100℃以下の沸点を有するメタノール、エタノール、イソプロパノールなどを好適に用いることができることを知見している。
【0063】
第1液状組成物中での導電性固体の含有量は、0.5重量%以上20重量%以下であることが好ましい。第1液状組成物中での導電性固体の含有量が0.5重量%以上であることにより、後述するステップS14において、端部21b上に十分な量の導電性固体を付着させることができ、20重量%以下であることにより、溶媒中における導電性固体の均一な分散または溶解が可能となる。
【0064】
次に、図6に示すように、第1液状組成物が含浸された巻回素子20を、大気圧以下の減圧環境下で第1液状組成物の溶媒の沸点以上の温度で加熱処理する(ステップS14)。なお、本明細書において、大気圧とは、標準大気圧、すなわち101.3kPa(誤差±5kPa未満)を示し、減圧環境下とは、101.3kPaより5kPa以上減圧された環境下、すなわち、96.3kPa以下をいう。
【0065】
第1液状組成物を含浸させた巻回素子20を、減圧環境下で、第1液状組成物の溶媒の沸点以上の温度で加熱することにより、巻回素子20内に比較的均一に存在していた第1液状組成物が、巻回素子20の上面20a側と底面20b側に移動(流動)する。この移動により、陽極体21の表面全体に均一に付着していた第1液状組成物が端部21bの表面に集まるとともに、溶媒が蒸発除去される。これにより、導電性固体を含む第1導電性高分子層32aを、陽極体21の表面のうちの中心部21aよりも端部21bに厚く形成することができる(図4参照)。このように、上記ステップS12〜S14により、第1導電性高分子層32aが形成される。
【0066】
次に、図6に示すように、第1導電性高分子層32a上に第2導電性高分子層32bを形成する(ステップS15)。第2導電性高分子層32bは、第1液状組成物のように、導電性固体の粒子を含む分散液および導電性固体が溶解された溶液の少なくとも一方からなる第2液状組成物を用いて形成してもよく、化学重合または電解重合を行なって形成してもよい。
【0067】
第2液状組成物を用いて第2導電性高分子層32bを形成する方法としては、たとえば、まず、第1導電性高分子層32aが形成された巻回素子20を第2液状組成物に浸漬して、巻回素子20に第2液状組成物を含浸させる。これにより、陽極体21上の第1導電性高分子層32a上に第2液状組成物が付着する。次に、この巻回素子20を加熱して、第2液状組成物から溶媒を除去して、導電性固体を含む第2導電性高分子層32bを形成する。このときの加熱温度は特に制限されず、たとえば、溶媒の沸点未満の温度で加熱してもよい。また、環境圧力も特に制限されず、たとえば、大気圧下で行なうことができる。
【0068】
第2液状組成物の組成は、第1液状組成物と同じであってもよく、異なっていてもよい。第2液状組成物を用いて第2導電性高分子層32bを形成する場合、ステップS13の
ように、第2液状組成物の溶媒を減圧下、高温で素早く除去する必要がないため、溶媒の沸点が低い必要はない。ただし、沸点の溶媒が低い場合には、第2導電性高分子層32bの形成の工程に要する時間が短くなる点で好ましい。
【0069】
また、化学重合を行なって第2導電性高分子層32bを形成する方法は特に制限されない。たとえば、酸化剤、第2導電性高分子層32bを構成する高分子層の前駆体モノマー、ドーパントを混合させた混合液に巻回素子20を浸漬し、これを引上げて所定時間静置することにより、第2導電性高分子層32bを形成することができる。
【0070】
また、電解重合を行なって第2導電性高分子層32bを形成する方法も特に制限されない。たとえば、上記前駆体モノマー、ドーパントを混合させた電解液に巻回素子20を浸漬し、第1導電性高分子層32aに電流を流すことによって、第1導電性高分子層32a上に第2導電性高分子層32bを形成することができる。
【0071】
なお、上記前駆体モノマーは、重合することによって、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン若しくはポリフラン、またはこれらの誘導体となる化合物である。たとえば、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3−アルキルチオフェン、N−メチルピロール、N,N−ジメチルアニリン、N−アルキルアニリンなどを用いることができる。特に、ポリチオフェンの前駆体モノマーの1つである3,4−エチレンジオキシチオフェンを用いることにより、導電性の高い第2導電性高分子層32bを形成することができる。
【0072】
本工程(ステップS15)により、第1導電性高分子層32a上に第2導電性高分子層32bが設けられた導電性高分子層32が陽極体21上に形成され、以上の各工程(ステップS11〜15)によって、陽極体21上に導電性高分子層32が形成されたコンデンサ素子10が作製される(図2参照)。
【0073】
次に、図6に示すように、コンデンサ素子10を封止する(ステップS16)。具体的には、まず、リード線14A,14Bが有底ケース11の開口する上面に位置するように、コンデンサ素子10を有底ケース11に収納する。次に、リード線14A,14Bが貫通するように形成された封止部材12を、コンデンサ素子10の上方に配置して、コンデンサ素子10を有底ケース11内に封止する。次に、コンデンサ素子10を封止する有底ケース11の開口端近傍を、横絞り加工およびカール加工する。そして、加工されたカール部分に座板13を配置することによって、図1に示す電解コンデンサが製造される。
【0074】
本実施の形態2の電解コンデンサの製造方法によれば、容易に、かつ歩留まりよく、第1導電性高分子層32aを、陽極体21の中心部21aよりも端部21bに厚く形成することができる。このため、誘電体被膜31の欠損部は、端部21b上に偏在する第1導電性高分子層32aが変性することによって形成される絶縁層によって十分に被覆され得る。したがって、本実施の形態2の電解コンデンサの製造方法によれば、欠損部に由来する静電容量の低下、ESRの増加、漏れ電流の増加などの電気特性の低下が抑制された、電気特性の優れた電解コンデンサを製造することができる。
【0075】
また、図4を参照し、本実施の形態2の電解コンデンサの製造方法において、第1導電性高分子層32aが形成される部分、すなわち、陽極体21の端部21bの幅L1およびL2は、それぞれ、陽極体の幅(L)の5%以上となるように、ステップS13およびS14を行うことが好ましい。陽極体21の幅方向における第1導電性高分子層32aの幅を5%以上確保することにより、上述のような誘電体被膜31の欠損部の保護や修復などを効率的に行なうことができる。より好ましくは、中心部21aの幅L0:端部21bの幅L1またはL2が、80:20以上であることが好ましい。
【0076】
また、本実施の形態2の電解コンデンサの製造方法によれば、第1導電性高分子層32aを偏在させることによって誘電体被膜31の欠損部を修復するため、簡素な製造工程によって電気特性の優れた電解コンデンサを製造することができる。
【0077】
(実施の形態3)
以下、図5および図8を用いて、上記製造方法の別の一実施形態について具体的に説明する。図8は、実施の形態3の電解コンデンサの製造方法の一例を示すフローチャートである。実施の形態3において、陽極体を形成する工程(ステップS11)、巻回素子を作製する工程(ステップS12)、第2導電性高分子層を形成する工程(ステップS15)およびコンデンサ素子を封止する工程(ステップS16)は、実施の形態2と同様であるため、その説明は繰り返さず、以下、ステップS23およびステップS24について説明する。
【0078】
図8に示すように、ステップS12によって巻回素子20を作製後、第1液状組成物を陽極体21の端部21bへ塗布する(ステップS23)。具体的には、巻回素子20の上面20a側および底面20b側に位置する陽極体21の端部21bに第1液状組成物を塗布する。塗布方法は特に制限されず、たとえば、上面20a側および底面20b側に向けて第1液状組成物をスプレー塗布してもよく、またブラシなどによって陽極体21の端部に第1液状組成物を塗りつけてもよい。これにより、巻回素子20内で巻回されている陽極体21の端部21bに第1液状組成物が付着する。
【0079】
次に、図8に示すように、第1液状組成物が陽極体21の端部21bに付着した巻回素子20を加熱処理する(ステップS24)。これにより、第1液状組成物中の溶媒が除去されて、導電性固体を含む第1導電性高分子層32aが形成される(図5参照)。このときの加熱温度は特に制限されず、溶媒の沸点未満の温度で加熱してもよい。また、環境圧力も特に制限されず、大気圧環境下で行なうことができる。
【0080】
以上の工程(ステップS23およびS24)により、陽極体21の表面のうち、中心部21aよりも端部21bに厚く、導電性固体を含む第1導電性高分子層32aを形成することができる。
【0081】
本実施の形態3の電解コンデンサの製造方法によれば、容易に、かつ歩留まりよく、第1導電性高分子層32aを、陽極体21の中心部21aよりも端部21bに厚く形成することができる。このため、端部21bにおける誘電体被膜31の欠損部は、該端部21b上に偏在する第1導電性高分子層32aが変性することによって形成される絶縁層によって十分に被覆され得る。したがって、本実施の形態2の電解コンデンサの製造方法によれば、欠損部に由来する静電容量の低下、ESRの増加、漏れ電流の増大などの電気特性の低下が抑制された、電気特性の優れた電解コンデンサを製造することができる。
【0082】
本実施の形態3における上記以外の説明は、実施の形態2と同様であるため、その説明は繰り返さない。
【0083】
(実施の形態4)
図5および図9を用いて、上記製造方法の別の一実施形態について具体的に説明する。図9は、実施の形態4の電解コンデンサの製造方法の一例を示すフローチャートである。実施の形態4において、陽極体を形成する工程(ステップS11)、第2導電性高分子層を形成する工程(ステップS15)およびコンデンサ素子を封止する工程(ステップS16)は、実施の形態2と同様であるため、その説明は繰り返さず、以下、ステップS32〜S34について説明する。
【0084】
図9に示すように、ステップS11によって陽極体21を形成後、第1液状組成物を陽極体21の端部21bへ塗布する(ステップS32)。具体的には、巻回される前の陽極体21の表面のうち、中心部21aよりも端部21bに第1液状組成物が厚く存在するように、陽極体21に第1液状組成物を塗布する。なお、中心部21aには第1液状組成物を塗布しなくてもよい。また、本工程に用いられる陽極体21は、化成処理および裁断処理後であって、第1液状組成物を塗布する前に、再化成処理されてリードタブ15Aがその表面に配置された陽極体21である。なお、再化成処理は行わなくてもよい。
【0085】
次に、図9に示すように、第1液状組成物が付着した陽極体21を加熱処理する(ステップS33)。これにより、第1液状組成物中の溶媒が除去されて、導電性固体を含む第1導電性高分子層32aが形成される(図5参照)。このときの加熱温度は特に制限されず、溶媒の沸点未満の温度で加熱してもよい。また、環境圧力も特に制限されず、大気圧程度の環境下で行なうことができる。以上の工程により、陽極体21の表面のうち、中心部21aよりも端部21bに厚く第1導電性高分子層32aを形成することができる。
【0086】
次に、図9に示すように、第1導電性高分子層32aが形成された陽極体21を用いて、図7に示す巻回素子20を作製する(ステップS34)。巻回素子20の作製方法は、実施の形態2のステップS12と同様である。ただし、本実施の形態における巻回素子20について、陽極体21の表面に第1導電性高分子層32aが既に形成されている点で、ステップS12と異なる。
【0087】
以上の工程により、陽極体21の表面のうち、中心部21aよりも端部21bに厚く、導電性固体を含む第1導電性高分子層32aを形成することができる。
【0088】
本実施の形態4の電解コンデンサの製造方法によれば、容易に、かつ歩留まりよく、第1導電性高分子層32aを、陽極体21の中心部21aよりも端部21bに厚く形成することができる。このため、端部21bにおける誘電体被膜31の欠損部は、該端部21b上に偏在する第1導電性高分子層32aが変性することによって形成される絶縁層によって十分に被覆され得る。したがって、本実施の形態2の電解コンデンサの製造方法によれば、欠損部に由来する静電容量の低下、ESRの増加などの電気特性の低下が抑制された、電気特性の優れた電解コンデンサを製造することができる。
【0089】
本実施の形態4における上記以外の説明は、実施の形態2と同様であるため、その説明は繰り返さない。
【0090】
(実施の形態5)
図10を用いて、本発明の実施の形態5の電解コンデンサについて説明する。図10は、本発明における電解コンデンサの一実施形態を示す模式的な断面図である。本実施の形態の電解コンデンサでは、陽極体に第2導電性高分子層を設ける代わりに、陽極体21と陰極体22との間に電解液が充填されている。以下では、上記実施の形態1とは異なる点を主に示す。
【0091】
電解液としては、コンデンサの電解液として利用可能な溶液を特に限定されることなく用いることができる。具体的には、コンデンサの溶媒として利用可能な溶媒を特に限定されることなく用いることができ、たとえばγブチロラクトン、エチレングリコール、スルホランまたは炭酸プロピレンなどを用いることができ、これらを混合して用いても良い。
【0092】
上記支持電解質としては、コンデンサの電解液の支持電解質として利用可能な支持電解質を特に限定されることなく用いることができ、たとえばフタル酸アミジン塩、フタル酸テトラメチルアンモニウム、アジピン酸アンモニウム、又はフタル酸トリメチルアミンな
どを用いることができ、これらを混合して用いても良い。また、上記電解液には、支持電解質が実質的に含まれていなくても良い。
【0093】
電解液における支持電解質の濃度は、溶媒および支持電解質の各材料に依存するため一概に言えないが、たとえば5mol/L以下であることが好ましい。
【0094】
上記電解液には、支持電解質および溶媒以外に以下に示す添加材が含まれていても良い。添加材としては、コンデンサの電解液に対する添加剤として利用可能な添加材を特に限定されることなく用いることができ、例えばリン酸エステル等のリン酸系化合物、ホウ酸等のホウ酸系化合物、p−ニトロフェノール等のニトロ化合物、またはマンニトール等の多糖類を用いることができ、これらの二種類以上を用いても良い。また、上記電解液には、添加材が実質的に含まれていなくても良い。
【0095】
本実施の形態の電解コンデンサでは、陽極体21の端部21bに多く存在する誘電体被膜の欠損部分を、第1導電性高分子層32aに由来する絶縁層だけでなく電解液によっても覆うことができる。このように本実施の形態の電解コンデンサでは、電解液によっても誘電体被膜の欠損部分が修復されるので、電気容量の低下、ESRの増加、および漏れ電流の増加などを上記実施の形態1の電解コンデンサよりも抑制できる。
【0096】
なお、本実施の形態の電解コンデンサは、図10に示す構成に限定されない。たとえば、図11に示すように、第1導電性高分子層32aが陽極体21の表面のうち端部21bのみに設けられ、陽極体21と陰極体22との間に電解液が充填されていても良い。また、上記実施の形態1において、陽極体21と陰極体22との間に、電解液が充填されていても良い。どちらの場合であっても、本発明の電解コンデンサと同様の効果を得ることができる。
【0097】
図12を用いて、本発明の実施の形態5の電解コンデンサの製造方法について説明する。図12は、実施の形態5の電解コンデンサの製造方法の一例を示すフローチャートである。本実施の形態において、陽極体を形成する工程(ステップS11)、巻回素子を作成する工程(ステップS12)、第1液状組成物を巻回素子に含浸する工程(ステップS13)、陽極体を減圧下で加熱処理する工程(ステップS14)、およびコンデンサ素子の封止工程(ステップS16)は実施の形態2と同様であるため、その説明は繰り返さず、以下、ステップS45について説明する。
【0098】
図12に示すように、ステップS14によって陽極体21を減圧下で加熱処理した後、第1導電性高分子層32aが形成された陽極体21と陰極体22との間に電解液を充填させる(ステップS45)。具体的には、まず、第1導電性高分子層32aが形成された巻回素子20を電解液に含浸させる。この時、環境圧力は特に制限されず、例えば大気圧であっても良い。なお、電解液については上述の通りである。
【0099】
本実施の形態に係る電解コンデンサの製造方法によれば、陽極体21と陰極体22との間に電解液が充填されるので、陽極体21の端部21bに多く存在する誘電体被膜の欠損部を電解液によっても覆うことができる。よって、欠損部に由来する静電容量の低下、ESRの増加、漏れ電流の増加などの電気特性の低下がさらに抑制されるので、電気特性にさらに優れた電解コンデンサを製造することができる。
【0100】
なお、本実施の形態の電解コンデンサの製造方法は、図12に示す方法に限定されない。たとえば、上記実施の形態3または上記実施の形態4において、第2導電性高分子層の形成工程(ステップS15)の代わりに本実施の形態における電解液の充填工程(ステップS45)を行っても良い。また、上記実施の形態2、上記実施の形態3または上記実施
の形態4において、第2導電性高分子層の形成工程(ステップS15)の後であってコンデンサ素子の封止工程(ステップS16)の前に本実施の形態における電解液の充填工程を行っても良い。
また、本実施の形態における電解液の充填工程(ステップS45)は、上記記載に限定されない。たとえば、リード線14A,14Bが有底ケース11の開口端に位置するように第1導電性高分子層32aが形成されたコンデンサ素子10を有底ケースに収納してから、電解液を有底ケースに注入しても良い。このとき、次工程のコンデンサ封止工程では、コンデンサ素子10を封止する有底ケース11の開口端近傍に対して横絞り加工およびカール加工を行った後、カール加工された部分に座板13を配置すればよい。
【実施例】
【0101】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0102】
(実施例1)
本実施例1においては、実施の形態2の電解コンデンサの製造方法を用いて、巻回型の電解コンデンサを作製した。以下に、電解コンデンサの具体的な製造方法について説明する。
【0103】
まず、アルミニウム箔にエッチング処理を行ってアルミニウム箔の表面を粗面化した後、該アルミニウム箔の表面に、化成処理によって誘電体被膜を形成した。化成処理は、アジピン酸アンモニウム溶液にアルミニウム箔を浸漬し、これに電圧を印加することによって行なった。そして、このアルミニウム箔を、縦×横が3mm×120mmとなるように裁断して、陽極体を形成した。
【0104】
次に、上記陽極体と同程度の面積のセパレータおよび陰極体を準備し、陽極体の表面および陰極体の表面に、それぞれ陽極リードタブおよび陰極リードタブを配置して、これを巻き込みながら、陽極体、陰極体およびセパレータを巻回し、この外側表面を巻止めテープで貼着して巻回素子を作製した。なお、陰極体としてアルミニウム箔を用いた。そして、作製された巻回素子に対して、再度、化成処理を行った。
【0105】
次に、作製された巻回素子を、導電性固体と溶媒とを含む第1液状組成物に1分間浸漬して、巻回素子に第1液状組成物を含浸させた。導電性固体としては、ポリエチレンジオキシチオフェンにポリスチレンスルホン酸がドープされた導電性固体を用い、溶媒としては、エタノール(沸点;78.4度)を用い、溶媒中の導電性固体の濃度は3質量%とした。なお、ポリエチレンジオキシチオフェンの分解温度は240℃である。
【0106】
そして、第1液状組成物から引上げた巻回素子を−80kPa環境下で150℃で20分間加熱処理して、第1導電性高分子層を形成した。
【0107】
次に、第1液状組成物と同様の組成の第2液状組成物を準備し、第1導電性高分子層が形成された巻回素子を第2液状組成物に1分間浸漬して、巻回素子に第2液状組成物を含浸させた。次に、第2液状組成物から引上げた巻回素子を大気圧環境下で75℃で20分間加熱処理して、第2導電性高分子層を形成した。以上の工程により、コンデンサ素子が作製された。
【0108】
次に、リード線が有底ケースの開口する上面に位置するように、作製されたコンデンサ素子を有底ケースに収納し、リード線が貫通するように形成された封止部材であるゴムパッキングをコンデンサ素子の上方に配置して、コンデンサ素子を有底ケース内に封止した。そして、有底ケースの開口端近傍を、横絞り後にカール加工し、加工されたカール部分
に座板を配置することによって、巻回型の電解コンデンサを製造した。
【0109】
(実施例2)
第1導電性高分子層を形成する工程において、−80kPa環境下で100℃で20分間加熱処理した以外は、実施例1と同様の方法により、電解コンデンサを製造した。
【0110】
(実施例3)
第1導電性高分子層を形成する工程において、第1液状組成物の溶媒を水(沸点;100℃)にした以外は、実施例1と同様の方法により、電解コンデンサを製造した。
【0111】
(実施例4)
第1導電性高分子層を形成する工程において、第1液状組成物の溶媒をブタノール(沸点;117℃)にした以外は、実施例1と同様の方法により、電解コンデンサを製造した。
【0112】
(実施例5)
第1導電性高分子層を形成する工程において、導電性固体として、ジイソオクチルスルホコハク酸ナトリウムがドープされたポリアニリンを用いた以外は、実施例1と同様の方法により、電解コンデンサを製造した。なお、ポリアニリンの分解温度は275℃である。
【0113】
(実施例6)
第2導電性高分子層を形成する工程において、化学重合を行なって第2導電性高分子層を形成した以外は、実施例1と同様の方法により、電解コンデンサを製造した。第2導電性高分子層の形成方法は以下の通りである。
【0114】
すなわち、3,4−エチレンジオキシチオフェンおよびp−トルエンスルホン酸第二鉄をそれぞれ3mol/Lおよび1mol/L含有する混合液に巻回素子を10秒間浸漬した後、該巻回素子を混合液から引上げて室温で3時間静置することにより、第2導電性高分子層を形成した。そして、第2導電性高分子層が形成された巻回素子を180℃で加熱して、残存する溶媒を除去した。
【0115】
(実施例7)
本実施例7においては、実施の形態3の電解コンデンサの製造方法を用いて、巻回型の電解コンデンサを作製した。以下に、電解コンデンサの具体的な製造方法について説明する。
【0116】
まず、実施例1と同様の方法によって巻回素子を作製し、作製された巻回素子に対して、再度化成処理を行った。次に、作製された巻回素子の上面側および底面側に位置する陽極体の端部に第1液状組成物を、スプレー噴霧により塗布した。第1液状組成物は、実施例1の第1液状組成物と同様の組成とした。なお、巻回素子の上面側および底面側に対して、第1液状組成物を0.05mlずつ塗布した。次に、第1液状組成物を塗布した巻回素子を大気圧環境下で75℃で20分間加熱処理して、第1導電性高分子層を形成した。そして、実施例1と同様の方法により、第2導電性高分子層を形成し、さらに作製されたコンデンサ素子を封止して、巻回型の電解コンデンサを製造した。
【0117】
(実施例8)
本実施例8においては、実施の形態4の電解コンデンサの製造方法を用いて、巻回型の電解コンデンサを作製した。以下に、電解コンデンサの具体的な製造方法について説明する。
【0118】
まず、実施例1と同様の方法によって陽極体を形成し、これに対し、化成処理と同様の方法によって再化成処理を行った。次に、この陽極体の表面にリードタブを配置し、陽極体の表面のうちの端部に第1液状組成物を塗布した。第1液状組成物は、実施例1の第1液状組成物と同様の組成とした。なお、第1液状組成物の塗布領域は、陽極体の幅100%に対して5%ずつ、すなわち、陽極体の幅3mmのうち、両端から0.15mmの幅のそれぞれの領域に第1液状組成物を0.05mlずつ塗布した。次に、この陽極体を大気圧環境下で75℃で20分間加熱処理して、第1導電性高分子層を形成した。そして、この陽極体を用いて、実施例1と同様の方法により、巻回素子の作製、第2導電性高分子層の形成、コンデンサ素子の封止を行なって、巻回型の電解コンデンサを製造した。なお、本実施例においては、巻回素子作製後の化成処理は行なわなかった。
【0119】
(実施例9)
第2導電性高分子層を形成する工程の代わりに、第1導電性高分子層が形成された巻回素子に電解液を含浸させたこと以外は、実施例1と同様の方法により電解コンデンサを製造した。ここで、電解液は、溶媒にγブチロラクトンを用い、支持電解質にフタル酸テトラメチルアンモニウムを用いて、支持電解質の濃度が0.5mol/Lとなるように調整された。
【0120】
(実施例10)
第2導電性高分子層を形成した後であってコンデンサ素子を封止する前に、コンデンサ素子に電解液を含浸させたこと以外は実施例1と同世の方法により、電解コンデンサを製造した。ここで、電解液は、実施例9で使用した電解液と同様であった。
【0121】
(比較例1)
第1導電性高分子層を形成する工程において、大気圧環境下で75℃で20分間加熱処理した以外は、実施例1と同様の方法により、電解コンデンサを製造した。
【0122】
(比較例2)
第1導電性高分子層を形成する工程において、−80kPa環境下で75℃で20分間加熱処理した以外は、実施例1と同様の方法により、電解コンデンサを製造した。
【0123】
(比較例3)
第1導電性高分子層を形成する工程において、大気圧環境下で75℃で10分加熱処理し、引き続き150℃で10分間加熱処理した以外は、実施例1と同様の方法により、電解コンデンサを製造した。
【0124】
(比較例4)
第2導電性高分子層を形成する工程の代わりに、第1導電性高分子層が形成された巻回素子に電解液を含浸させたこと以外は、実施例1と同様の方法により電解コンデンサを製造した。ここで、電解液は、溶媒にγブチロラクトンを用い、支持電解質にフタル酸テトラメチルアンモニウムを用いて、支持電解質の濃度が0.5mol/Lとなるように調整された。
【0125】
上記各実施例および比較例の各種製造条件の違いを表1に示す。各実施例および各比較例の電解コンデンサの外形は、直径が10mm、高さが8mmであり、定格電圧は35RV、定格容量は18μFであった。
【0126】
【表1】

【0127】
(静電容量)
各実施例および各比較例の電解コンデンサ100個ずつからそれぞれランダムに20個を選択した。選択した各実施例および各比較例における20個ずつの電解コンデンサを、4端子測定用のLCRメータを用いて、それぞれの電解コンデンサの周波数120Hzにおける初期静電容量(μF)を測定した。測定された結果のそれぞれの平均値を表2に示した。
【0128】
(ESR)
選択した各実施例および各比較例における20個ずつの電解コンデンサについて、4端子測定用のLCRメータを用いて、それぞれの電解コンデンサの周波数100kHzにおけるESR(mΩ)を測定した。測定された結果のそれぞれの平均値を表2に示した。
【0129】
(漏れ電流)
各実施例および各比較例の電解コンデンサからそれぞれランダムに20個を選択し、選択した電解コンデンサに定格電圧を2分間印加した。印加後、各電解コンデンサの漏れ電流量(μA)を測定した。測定された結果のそれぞれの平均値を表2に示した。
【0130】
(耐電圧)
各実施例および各比較例の電解コンデンサからそれぞれランダムに20個を選択した。選択した電解コンデンサに印加する直流電圧を1V/秒の速度で上昇させて、耐電圧試験を行った。過電流が0.5A以上となったときの電圧を耐電圧(V)とした。測定された結果のそれぞれの平均値を表2に示した。
【0131】
【表2】

【0132】
表1および表2を参照し、実施例1〜10と比較例1〜4を比較すると、実施例1〜10において、漏れ電流特性と耐電圧特性が特に優れていることがわかった。また、実施例1および比較例1において、第1導電性高分子層が形成された巻回素子を作成した後、巻回素子を分解して、第1導電性高分子層の形成位置について走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて確認した。実施例1で形成された第1導電性高分子層のSEM写真を図13に、比較例1で形成された第1導電性高分子層のSEM写真を図14に示す。
【0133】
図13および図14において、多孔質状に観察されているのが誘電体被膜が形成された陽極体の表面であり、なめらかな層状および白い菌糸状に観察されているのが第1導電性高分子層である。図13および図14を比較すると、実施例1で形成された第1導電性高分子層は、陽極体の端部(写真中上方側)に多く(厚く)存在して、陽極体の端面を十分に被覆していることが観察された。これに対し、比較例1で形成された第1導電性高分子層は、たとえば、図中右側に位置する陽極体の端部に存在するものの、端面を十分に被覆できていないことがわかった。
【0134】
実施例1〜5を比較し、第1液状組成物の溶媒について、水よりもエタノールを用いたほうが、電気特性の優れた電解コンデンサを製造することができた。すなわち、第1液状組成物の溶媒には、沸点の低いアルコールが好適であることがわかった。また、実施例1〜4より、第1導電性高分子層を形成する工程での加熱温度は、溶媒の沸点の20℃以上であればよく、50℃以上がより好ましく、さらに70℃以上が好ましいことがわかった。
【0135】
実施例9より、第2導電性高分子層を設ける代わりに、陽極体21と陰極体22との間に電解液を充填した場合であっても、電気特性の優れた電解コンデンサを製造できることが分かった。
【0136】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、各実施の形態および実施例の特徴を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなくて特許請求
の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は、電解コンデンサに利用することができ、特に巻回型の電解コンデンサに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0138】
10 コンデンサ素子、11 有底ケース、12 封止部材、13 座板、14A,14B リード線、15A,15B リードタブ、20 巻回素子、20a 上面、20b
底面、20c 側面、21 陽極体、22 陰極体、23 セパレータ、24 巻止めテープ、31 誘電体被膜、32 導電性高分子層、32a 第1導電性高分子層、32b 第2導電性高分子層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の金属箔と該金属箔の表面に設けられた誘電体被膜とからなる陽極体と、帯状の金属箔からなる陰極体とが、長手方向に巻回された巻回素子を備えた電解コンデンサであって、
前記陽極体の表面に設けられた第1導電性高分子層を備え、
前記第1導電性高分子層は、前記陽極体の表面のうち、前記陽極体の幅方向における中心部よりも、前記陽極体の幅方向における端部に厚く存在するように設けられている、電解コンデンサ。
【請求項2】
前記第1導電性高分子層は、導電性固体の粒子を含む分散液および導電性固体が溶解された溶液の少なくとも一方からなる液状組成物を用いて形成される、前記導電性固体を含む層である、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記第1導電性高分子層の表面に、第2導電性高分子層が設けられている、請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記第1導電性高分子層を形成した前記陽極体と前記陰極体との間には、電解液が充填されている、請求項1〜3のいずれかに記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
帯状の金属箔と該金属箔の表面に設けられた誘電体被膜とからなる陽極体が、長手方向に巻回された巻回素子を備える電解コンデンサの製造方法であって、
前記陽極体の表面のうち、前記陽極体の幅方向における中心部よりも前記陽極体の幅方向における端部に厚く存在するように、第1導電性高分子層を形成する工程と、
を含み、
前記第1導電性高分子層を形成する工程において、導電性固体の粒子を含む分散液および導電性固体が溶解された溶液の少なくとも一方からなる液状組成物を用いて、前記導電性固体を含む前記第1導電性高分子層を形成する、電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
帯状の金属箔と該金属箔の表面に設けられた誘電体被膜とからなる陽極体が、長手方向に巻回された巻回素子を備える電解コンデンサの製造方法であって、
前記巻回素子に導電性固体の粒子を含む分散液および導電性固体が溶解された溶液の少なくとも一方からなる液状組成物を含浸させる工程と、
前記液状組成物を含浸させた前記巻回素子を、大気圧以下の減圧環境下で前記液状組成物の溶媒の沸点以上の温度で加熱して、前記導電性固体を含む第1導電性高分子層を形成する工程と
を含む、電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
帯状の金属箔と該金属箔の表面に設けられた誘電体被膜とからなる陽極体が、長手方向に巻回された巻回素子を備える電解コンデンサの製造方法であって、
前記巻回素子の上面側および底面側に位置する前記陽極体の端部に、導電性固体の粒子を含む分散液および導電性固体が溶解された溶液の少なくとも一方からなる液状組成物を塗布する工程と、
前記液状組成物が塗布された前記巻回素子を加熱して、前記導電性固体を含む第1導電性高分子層を形成する工程と
を含む、電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
帯状の金属箔と該金属箔の表面に設けられた誘電体被膜とからなる陽極体が、長手方向に巻回された巻回素子を備える電解コンデンサの製造方法であって、
前記陽極体の表面のうち、前記陽極体の幅方向における中心部よりも前記陽極体の幅方
向における端部に厚く存在するように、前記陽極体の表面に導電性固体の粒子を含む分散液および導電性固体が溶解された溶液の少なくとも一方からなる液状組成物を塗布する工程と、
前記液状組成物が塗布された前記陽極体を加熱して、前記導電性固体を含む第1導電性高分子層を形成する工程と、
前記第1導電性高分子層が形成された前記陽極体を長手方向に巻回して前記巻回素子を形成する工程と
を含む、電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記第1導電性高分子層を形成する工程の後で、前記第1導電性高分子層上に第2導電性高分子層を形成する工程を含む、請求項5〜8に記載の電解コンデンサ。
【請求項10】
前記第1導電性高分子層を形成する工程の後で、前記第1導電性高分子層を形成した前記陽極体と前記陰極体との間に、電解液が充填されている、請求項5〜9に記載の電解コンデンサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2012−191178(P2012−191178A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−29032(P2012−29032)
【出願日】平成24年2月14日(2012.2.14)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000171768)佐賀三洋工業株式会社 (116)