説明

電解コンデンサの製造方法及び電解コンデンサ

【課題】過電圧が印加されても短絡の発生を抑制できる安全性の高い電解コンデンサを提供する。
【解決手段】陽極箔と陰極箔とを有する電極箔を備えたコンデンサ素子を作製し、前記コンデンサ素子に、導電性固体の粒子またはその凝集体が分散溶媒に分散された分散液を含浸させることにより、前記コンデンサ素子内に導電性固体の粒子またはその凝集体を有する導電性固体層を形成し、前記導電性固体層が形成されたコンデンサ素子に支持塩を含有しない溶媒を含浸させる電解コンデンサの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサに関し、より詳しくは陽極箔と陰極箔とを備えたコンデンサ素子内に導電性固体層が形成された電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器のデジタル化に伴い、それに使用されるコンデンサにも小型、大容量で高周波領域における等価直列抵抗(以下、ESRという)の小さいものが求められるようになってきている。
【0003】
高周波領域におけるESRを低減するために、電解質として従来の駆動用電解液よりも高い電気電導度を有するポリピロール、ポリチオフェンあるいはこれらの誘導体からなる導電性高分子等の電気伝導性材料を陰極材として用いた固体電解コンデンサが知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、大容量化に対応するために、陽極箔と陰極箔との間にセパレータを介在させて巻回した巻回形のコンデンサ素子や、陽極箔と陰極箔とを複数枚積層した積層形のコンデンサ素子内に上記のような導電性高分子からなる導電性固体層を充填した構成を有する固体電解コンデンサが製品化されてきている。
【0005】
しかしながら、上記従来の固体電解コンデンサにおいては、電解質として陽極箔上に形成されている誘電体皮膜の修復性に乏しい導電性高分子が用いられているため、漏れ電流が高くなりやすい。すなわち、電解液を充填した電解コンデンサでは電解液が誘電体皮膜の損傷部と接触するため、定格電圧が印加された際に電解液中のイオン性化合物である支持塩から生じた酸素による酸化反応で損傷部が修復されるが、導電性固体層を充填した固体電解コンデンサではイオンの移動が実質的に殆どないため、上記のような修復作用を期待することができない。
このため、導電性高分子からなる導電性固体層と電解液の両方をコンデンサ素子内に充填した固体電解コンデンサが提案されている(例えば、特許文献2)。
【0006】
上記のような導電性高分子からなる導電性固体層と電解液の両方をコンデンサ素子内に充填した固体電解コンデンサは、例えば、誘電体皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔とを、セパレータを介して巻回してなるコンデンサ素子に、ピロール、チオフェンあるいはこれらの誘導体からなる重合性モノマー、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の酸化剤、及びナフタレンスルホン酸等のドーパント剤を含有する重合液を含浸させ、前記重合性モノマーをコンデンサ素子内で酸化重合させることにより導電性高分子層を形成させた後、有機アミン塩などの支持塩が溶解された電解液をコンデンサ素子内に含浸させることにより作製されている。
【特許文献1】特許第3040113号公報
【特許文献2】特開2006−100774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電解コンデンサは、定格電圧を超えた過電圧が印加されても短絡あるいは短絡に基づく発火を生じないことが求められている。従来の電解コンデンサにおいては、封口体などにより外装ケースを封口して内部で発生したガスが放出されないようにする構造が採用されているが、過電圧印加時においてコンデンサ素子本体の短絡を防止できれば、更に高い安全性を確保することができる。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、過電圧が印加された場合でも、短絡が生じにくく、安全性に優れた電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、陽極箔と陰極箔とを備えたコンデンサ素子を作製し、
前記コンデンサ素子に、導電性固体の粒子またはその凝集体が分散溶媒に分散された分散液を含浸させることにより、前記コンデンサ素子内に導電性固体の粒子またはその凝集体を有する導電性固体層を形成し、
前記導電性固体層が形成されたコンデンサ素子に支持塩を含有しない溶媒を含浸させる電解コンデンサの製造方法である。
上記製造方法によれば、予め形成した導電性固体の粒子等を分散させた分散液がコンデンサ素子に含浸されるため、コンデンサ素子内に薄膜の導電性固体の粒子等を有する導電性固体層を均一に形成することができ、高い導電性を確保することができる。また、コンデンサ素子内で導電性固体層が形成されないため、誘電体皮膜に酸化剤や酸化重合による損傷部が生ずることがない。さらに、誘電体皮膜全体が均一に導電性固体層で被覆されるため、導電性固体層で誘電体皮膜を保護することができ、熱等による誘電体皮膜の損傷の程度を抑えることができる。このため、損傷部に起因する短絡を防止することができる。そして、導電性固体層を形成した後、コンデンサ素子内に溶媒が添加されるが、前記溶媒は支持塩を含有する電解液に比べて、過電圧印加時の導電性固体層の熱劣化を抑えることができる。よって、過電圧が印加されても短絡の発生が抑えられ、安全性に優れた電解コンデンサを作製することができる。
【0009】
また、本発明は、陽極箔と陰極箔とを備えたコンデンサ素子を有し、前記コンデンサ素子内に、前記コンデンサ素子に導電性固体の粒子またはその凝集体を有する分散液を含浸させることにより形成される導電性固体層と、支持塩を含有しない溶媒とが充填された電解コンデンサである。
上記電解コンデンサによれば、予め形成した導電性固体の粒子等が分散溶媒に分散された分散液をコンデンサ素子に含浸させることによって導電性固体層が形成されるため、酸化剤や重合反応による誘電体皮膜の損傷部を生ずることなく、導電性固体の粒子等を有する導電性固体層をコンデンサ素子内に均一に形成することができる。そして、上記導電性固体層が形成されたコンデンサ素子内に、支持塩を含有しない溶媒が充填されているため、過電圧印加時の導電性固体層の熱劣化を抑えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、過電圧が印加されても短絡の発生が抑えられる安全性に優れた電解コンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係るコンデンサ素子の一例を示す概略構成図である。巻回形のコンデンサ素子7は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン等の弁作用金属からなる箔に粗面化のためのエッチング処理及び誘電体皮膜形成のための化成処理を施した陽極箔1と、対向陰極箔2とからなる一対の電極箔をセパレータ3を介して巻き取ることにより作製される。これらは、巻き取られた後、巻き止めテープ4により固定される。前記陽極箔1及び対向陰極箔2にはそれぞれ、リードタブ61,62を介してリード線51,52が取り付けられている。
【0012】
本実施の形態の電解コンデンサの製造にあたっては、上記のコンデンサ素子に導電性固体の粒子等が分散された分散液を含浸させることにより、コンデンサ素子内に導電性固体の粒子等を有する薄層の導電性固体層を平面状に形成し、該導電性固体層が形成されたコンデンサ素子に支持塩を含有しない溶媒が含浸される。
【0013】
既述したように、導電性高分子等からなる導電性固体層は電解液に比べて導電性に優れるが、重合性モノマー、酸化剤、及びドーパント剤を含有する重合液をコンデンサ素子内に含浸させ、コンデンサ素子内で導電性固体層が形成される従来の電解コンデンサでは、酸化剤及び重合反応により誘電体皮膜に損傷部が発生しやすくなるとともに、電極箔等の表面上で形成される導電性固体層が不均一となりやすい。図5は、従来法によるコンデンサ素子内で酸化重合を1回行うことにより導電性固体層が形成された陽極箔表面を走査型電子顕微鏡により観察した写真である。なお、図は、導電性固体層は剥離しやすいことから、陰極箔やセパレータとの接触が少ない陽極箔の自由表面(陰極箔やセパレータと直接接触していない部分の表面)を観察したものである。この図に示すように、導電性固体層は、導電性高分子が陽極箔上で海綿状の不均一な膜として形成されていることが分かる。ESRの低減には陽極箔表面の導電性固体層を多くする必要がある。このため、実際の製造工程においては、酸化重合を繰り返す必要があり、さらに損傷部が増加するとともに、導電性固体層の厚膜化が進行する。このような酸化重合による損傷部の発生と、厚い導電性固体層の不均一な被覆とにより、過電圧印加時に短絡が発生しやすくなっていると考えられる。
【0014】
これに対して、本実施の形態の製造方法により形成される導電性固体層は、予め形成した導電性固体の粒子等が分散された分散液がコンデンサ素子に含浸されるため、酸化剤及び重合反応による誘電体皮膜の損傷部が発生せず、また導電性固体層は均一な平面状に形成される。図4は、本実施の形態の製造方法を用いて導電性固体層を形成した陽極箔の表面を図5と同様に走査型電子顕微鏡により観察した写真である。図に示すように、導電性固体層は、陽極箔の表面全体に均一に形成されているとともに、平面状の膜であることが分かる。従って、導電性固体層の導電性が十分に確保されるだけでなく、誘電体皮膜を保護する機能も有している。このため、支持塩を用いず、溶媒のみを含浸させた電解コンデンサとしても、ESRが低く、漏れ電流が小さいだけでなく、耐熱性にも優れた電解コンデンサを得ることができる。そして、上記方法によれば、酸化剤及び重合反応によって誘電体皮膜に損傷部が発生しないため、該損傷部に起因する短絡の発生も抑えられる。また、コンデンサ素子内で導電性固体層が形成されないため、酸化重合後の洗浄、乾燥工程も不要となり、簡易な方法により電解コンデンサを製造することができる。
【0015】
本実施の形態において、コンデンサ素子内に充填する導電性固体の粒子等の充填量は、薄層の導電性固体層を電極箔等の表面全体に均一に形成するためにも、コンデンサ素子内の空隙量に対して、5〜55体積%が好ましい。充填量が5体積%以上であれば、電極箔等の表面全体に導電性固体層を緻密に形成することができ、十分な導電性を確保することができる。また、充填量が55体積%以下であれば、導電性固体層の厚みを抑えることができるとともに、溶媒を充填するためのコンデンサ素子内の空隙量を十分確保することができるため、低い漏れ電流を達成することができる。
【0016】
本実施の形態において、導電性固体層の厚さは、10μm以下が好ましく、2〜10μmがより好ましい。導電性固体層の厚さが10μm以下であれば、導電性固体層のひび割れを抑えることができ、実装時及び長期使用時の漏れ電流を改善することができる。なお、導電性固体の粒子等の充填量及び導電性固体層の厚みは、分散液の濃度と含浸回数により調整することができる。
【0017】
本実施の形態において、導電性固体としては、具体的には、例えば、二酸化マンガン、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、導電性高分子等が挙げられる。これらの中でも、導電性に優れる導電性高分子が好ましい。このような導電性高分子としては、その電気伝導度の高さから、ポリピロール、ポリチオフェン及びこれらの誘導体が好ましく、ポリチオフェン及びこれらの誘導体がより好ましい。これらは単独または複数混合して用いてもよい。特に、ポリエチレンジオキシチオフェンは、非常に高い電気伝導度を有するため好ましい。導電性高分子からなる導電性固体の粒子等を形成する方法としては、特に限定されず、従来公知の気相重合法、電解酸化重合法、化学酸化重合法等を用いることができる。導電性固体は、粒子であってもよいし、粒子が凝集した凝集体であってもよい。特に、導電性高分子の粒子は、製造時や分散液の調製時に、一部の粒子が凝集した状態となる場合がある。
【0018】
導電性固体の粒子等を分散させる分散溶媒は、導電性固体の粒子等の溶解度が低いか、または導電性固体の粒子等を溶解しないものが好ましい。これにより導電性固体の粒子等の大部分、好ましくは全てが溶解していない分散液を調製することができる。ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子からなる導電性固体は殆どの溶媒に不溶であるため、有機溶媒、無機溶媒の制限なく使用することができるが、取り扱い性や導電性固体の粒子等の分散性を考慮すると、水または水を主として含有する分散溶媒が好ましい。
【0019】
分散液中の導電性固体の粒子等の濃度は、特に限定されるものではないが、1〜30質量%が好ましい。濃度が1質量%以上であれば、少ない含浸回数で十分な量の導電性固体層を形成することができ、生産性を向上することができる。濃度が30質量%以下であれば、薄層の導電性固体層で均一に電極箔等の表面を被覆することができる。より均一な導電性固体層を形成するためには、濃度は3〜20質量%が好ましい。導電性固体が導電性高分子からなる場合の分散液は、導電性高分子の粒子等を分散溶媒に分散させてもよいし、分散溶媒中で重合性モノマーを重合させることにより導電性高分子の粒子等を調製してもよい。後者の場合、重合反応後に、未反応の重合性モノマーや不純物、不要物を除去することが好ましい。
【0020】
コンデンサ素子に導電性固体の粒子等を分散させた分散液を含浸させる方法としては、特に限定されるものではないが、含浸の操作が比較的容易であることから、コンデンサ素子を分散液に浸漬させる方法が好ましい。浸漬時間は、コンデンサ素子のサイズにもよるが、数秒〜数時間が好ましく、1〜30分がより好ましい。また、浸漬温度は、0〜80℃が好ましく、10〜40℃がより好ましい。なお、含浸を促進するため、含浸は30〜100kPaの減圧下で行うことが好ましく、80〜100kPaの減圧下で行うことがより好ましい。さらに、含浸を促進させるため及び分散液中の導電性固体の粒子等の分散状態を均一に保つため、超音波処理を行いながら分散液をコンデンサ素子に含浸させてもよい。
【0021】
上記のようにして導電性固体の粒子等をコンデンサ素子に充填させたコンデンサ素子は、コンデンサ素子内部の分散溶媒を除去するため、乾燥することが好ましい。乾燥は、従来公知の乾燥炉を用いて行うことができる。乾燥温度は、80〜300℃が好ましく、水系の分散溶媒が用いられる場合には、100〜200℃がより好ましい。
【0022】
上記の分散液の含浸及び乾燥は、厚さの均一な導電性固体層を形成するために複数回繰り返されてもよい。分散液の含浸及び乾燥を複数回繰り返すことにより、導電性固体の粒子等を有する導電性固体層が電極箔等の表面を緻密に被覆し、さらに過電圧印加時の短絡を抑えることができる。
【0023】
次に、上記のようにして導電性固体層が形成されたコンデンサ素子に支持塩を含有しない溶媒を含浸させる。これにより、コンデンサ素子内に充填された導電性固体の粒子等を有する導電性固体層の間に溶媒が充填される。本実施の形態によれば、薄層の導電性固体層が均一に電極箔等の表面上に形成されているため、誘電体皮膜が導電性固体層によって保護されるとともに、該導電性固体層が含浸された溶媒により均一に被覆される。上記支持塩を含有しない溶媒を導電性固体の粒子等からなる導電性固体層を形成したコンデンサ素子に含浸させることにより、支持塩を含有する電解液をコンデンサ素子に含浸させた場合と比べて過電圧印加時の短絡が抑制できる理由は現在のところ必ずしも明らかではないが、溶媒を含浸させた場合の導電性固体層の熱劣化が、電解液を含浸させた場合のそれに比べて抑えられているためと考えられる。すなわち、従来の電解コンデンサでは、誘電体皮膜の損傷部を修復するために支持塩を含有する電解液を含浸させているが、支持塩を含有させていない溶媒はこのような電解液よりも大きな熱容量を有すると推測される。このため、支持塩を含有しない溶媒を含浸させた場合、電解液を含浸させた場合よりも、過電圧印加時に導電性固体層の温度上昇を緩和することができ、それによって導電性固体層の熱劣化が抑制され、短絡の発生を抑制できると考えられる。しかも、上記のようにして作製される電解コンデンサは、薄層の導電性固体層が均一に形成されているため、支持塩がなくても実用上問題ない程度の初期特性及び耐熱性を確保できる。
【0024】
溶媒は、従来公知の電解コンデンサ用の溶媒を特に制限なく使用することができる。好適な溶媒としては、具体的には、例えば、γ−ブチロラクトン、スルホラン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジメチルホルムアルデヒド、ジエチルホルムアルデヒド、水、シリコーンオイル、またはこれらの混合溶媒が挙げられる。これらの中でも、γ−ブチロラクトン、スルホラン、またはこれらの混合溶媒が好ましい。
【0025】
溶媒を導電性固体層が形成されたコンデンサ素子に含浸させる方法としては、特に限定されるものではないが、含浸の操作が比較的容易であることから、導電性固体層が形成されたコンデンサ素子を溶媒に浸漬させる方法が好ましい。浸漬時間は、コンデンサ素子のサイズにもよるが、1秒〜数時間が好ましく、1〜5分がより好ましい。また、浸漬温度は、0〜80℃が好ましく、10〜40℃がより好ましい。なお、含浸を促進するため、含浸は減圧下で行うことが好ましい。
【0026】
以上のようにしてコンデンサ素子に導電性固体の粒子等を有する導電性固体層と溶媒とを充填した後、図2に示すように、コンデンサ素子7を有底筒状のアルミニウム製ケース8に収納する。そして、アルミニウム製ケース8の開口部にゴムパッキング9を装着するとともに、アルミニウム製ケース8に絞り加工及びカーリング加工を施した後、定格電圧を印加しながら、例えば約125℃で約1時間のエージング処理を行うことにより、電解コンデンサを製造することができる。
なお、上記実施の形態では、陽極箔と陰極箔とがセパレータを介して巻回された構造を有する巻回形のコンデンサ素子を用いた例について説明されたが、陽極箔と陰極箔とを複数枚積層させた構造を有する積層形のコンデンサ素子にも本発明を適用することができる。
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
誘電体皮膜を有する陽極箔と、陰極箔とからなる一対の電極箔をセパレータを介して巻回して、完成寸法(アルミニウム製ケースに収納した状態での電解コンデンサの外形寸法)がφ10mm×H10.5mmとなる、定格4V−1200μFのコンデンサ素子を作製した。上記のようにして作製したコンデンサ素子を、ドーパント剤を含有するポリエチレンジオキシチオフェン粒子が水に分散された分散液(濃度:10質量%)に、25℃で1分間、89kPaの減圧下で浸漬し、分散液をコンデンサ素子に含浸させた。含浸後、コンデンサ素子を分散液から取り出し、125℃の乾燥炉に入れ、コンデンサ素子を乾燥させた。次に、導電性固体層を形成したコンデンサ素子を、γ−ブチロラクトンの溶媒に、25℃で10秒間、減圧下で浸漬し、γ−ブチロラクトンをコンデンサ素子に含浸させた。
ついで、導電性固体層及び溶媒を充填したコンデンサ素子をアルミニウム製ケースに収納した。そして、アルミニウム製ケースの開口部にゴムパッキングを装着し、アルミニウム製ケースに絞り加工及びカーリング加工を施した後、定格電圧の1.15倍の電圧を印加しながら、約125℃で約1時間エージングすることにより、電解コンデンサを作製した。
【0029】
(実施例2)
溶媒として、スルホランを用いた以外は、実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製した。
【0030】
(比較例1)
溶媒の代わりに、ボロジサリチル酸トリメチルアミンをγ−ブチロラクトンに溶解させた電解液(濃度:12質量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製した。
【0031】
(比較例2)
溶媒の代わりに、ボロジサリチル酸トリメチルアミンをγ−ブチロラクトンに溶解させた電解液(濃度:15質量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製した。
【0032】
上記のようにして作製した実施例及び比較例の各電解コンデンサについて、過電圧試験を行った。過電圧試験は、電解コンデンサに電圧を印加し、この印加電圧を上昇させていった際のESR(測定周波数:100kHz)を測定することにより行った。図3はこの結果を示す。
【0033】
図3に示すように、コンデンサ素子に、導電性固体の粒子等を分散溶媒に分散させた分散液を含浸することにより形成された導電性固体層と、支持塩を含有しない溶媒とが充填された実施例の電解コンデンサは、過電圧試験において印加電圧の増加に伴いESRが増加するが、短絡は生じなかった。これは、本実施例の電解コンデンサが従来のコンデンサ素子内で導電性固体層が形成された電解コンデンサと比べ、酸化剤や重合反応による誘電体皮膜の損傷がなく、また支持塩を含有しない溶媒が充填されることにより過電圧印加時の導電性固体層の熱劣化が抑制されたためと考えられる。
【0034】
これに対して、実施例と同様に導電性固体の粒子等を分散溶媒に分散させた分散液を含浸することにより形成された導電性固体層を有する電解コンデンサでも、支持塩を含有する電解液を用いた比較例1及び2の電解コンデンサは、17V程度で短絡が発生した。これは、コンデンサ素子内に電解液が含浸された場合、過電圧印加時の導電性固体層の熱劣化を十分に抑制できないためと考えられる。
【0035】
次に、支持塩の有無によるコンデンサ特性の相違を比較するため、実施例1,2及び比較例1の電解コンデンサと同様にして、完成寸法がφ10mm×H10.5mmとなる定格63V−33μFの電解コンデンサを作製した(実施例3,4及び比較例3)。この各電解コンデンサの静電容量(測定周波数:120Hz)、ESR(測定周波数:100kHz)、及び漏れ電流を測定した。また、半田耐熱性試験(ピーク温度が265℃で、200℃以上に曝される時間が70秒の条件)を行い、試験後の静電容量、ESR、及び漏れ電流を上記と同様の条件で測定した。表1はこの結果を示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示すように、実施例の電解コンデンサは、支持塩を含有しない溶媒が充填されているが、電解液が充填された電解コンデンサに比べて初期特性で同程度の静電容量及び漏れ電流であることが分かる。また、実施例の電解コンデンサは比較例の電解コンデンサに比べて若干ESRが高いが、実用上問題のない程度のESRを達成できることが分かる。さらに、半田耐熱性試験後においても実施例の電解コンデンサは比較例の電解コンデンサに比べて各特性の変化量が同程度であることが分かる。これは、実施例の電解コンデンサは導電性固体の粒子等をコンデンサ素子に充填することにより導電性に優れた導電性固体層が形成されているとともに、コンデンサ素子内に支持塩を含有しない溶媒が充填されているため、耐熱性が改善されたためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態に係るコンデンサ素子の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電解コンデンサの一例を示す断面図である。
【図3】本発明の実施例及び比較例に係る電解コンデンサの過電圧試験の結果を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る導電性固体層を形成した陽極箔の表面状態を示す写真である。
【図5】従来法により導電性固体層を形成した陽極箔の表面状態を示す写真である。
【符号の説明】
【0039】
1 陽極箔
2 陰極箔
3 セパレータ
4 巻き止めテープ
7 コンデンサ素子
8 アルミニウム製ケース
9 ゴムパッキング
51,52 リード線
61,62 リードタブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極箔と陰極箔とを備えたコンデンサ素子を作製し、
前記コンデンサ素子に、導電性固体の粒子またはその凝集体が分散溶媒に分散された分散液を含浸させることにより、前記コンデンサ素子内に導電性固体の粒子またはその凝集体を有する導電性固体層を形成し、
前記導電性固体層が形成されたコンデンサ素子に支持塩を含有しない溶媒を含浸させる電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記導電性固体は、ポリチオフェン及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記溶媒は、γ−ブチロラクトン及びスルホランからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1または2に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
陽極箔と陰極箔とを備えたコンデンサ素子を有し、前記コンデンサ素子内に、前記コンデンサ素子に導電性固体の粒子またはその凝集体を有する分散液を含浸させることにより形成される導電性固体層と、支持塩を含有しない溶媒とが充填された電解コンデンサ。
【請求項5】
前記導電性固体は、ポリチオフェン及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項4に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記溶媒は、γ−ブチロラクトン及びスルホランからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項4または5に記載の電解コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−111174(P2009−111174A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282195(P2007−282195)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(595122132)サン電子工業株式会社 (17)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)